2023年5月23日火曜日

中国でコロナ感染再拡大 6月末にピークか「1週間に6500万人」―【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国では、経済が再び成長軌道に戻ることはない(゚д゚)!

中国でコロナ感染再拡大 6月末にピークか「1週間に6500万人」

中国コロナ再拡大

 中国で感染症研究の権威とされる鍾南山氏は22日、中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、昨年12月前後に続く「第2波」が今年6月末にピークに達して1週間に6500万人が感染するとの予測を明らかにした。感染再拡大は経済活動の再開や中国と海外の往来に影響する恐れがある。

 中国政府は昨年末の感染爆発を経て流行が沈静化したとして対策を徐々に緩和してきたが、最近になって北京など都市部を中心に再感染する人が増加している。

 中国メディアによると、鍾氏は広東省で開かれたフォーラムで予測を発表。第2波は4月中旬に始まり、5月末には1週間に4千万人が感染するとの見通しを示した。オミクロン株派生型XBBが主流だという。

【私の論評】独立した金融政策が実施できない中国では、経済が再び成長軌道に戻ることはない(゚д゚)!

JR東日本 <日足> 「株探」多機能チャートより

上のニュースがあったため、日本でも若干影響がでてきました。JR東日本<9020>やANAホールディングス<9202>が逆行安。高島屋<8233>や三越伊勢丹ホールディングス<3099>などインバウンド関連株が安いです。中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大し、6月末にかけて週間で約6500万人が感染するとの試算が呼吸器疾患の専門家から示されたと、国内外のメディアが伝えたため、これが利益確定目的の売りを促す要因となったようです。

東証の業種別指数では陸運業が下落率トップとなっています。

ただ、こういう報道の裏には、中国でコロナ禍が完璧に終われば、また中国経済は元の軌道に戻り力強く成長を始めるのではという期待があるのではないかと思います。

しかし、その期待は間違いです。以前にもこのブログに掲載したことがありますが、中国は、数年前から国際金融のトリレンマにより独立した機金融政策ができない状況になっています。

国際金融のトリレンマとは、ある国は次の3つのうち2つしか持てないというものです。
  • 固定為替レート
  • 自由な資本移動
  • 独立した金融政策


中国は米ドルとの固定為替レートを選択しており、自由な資本移動も独立した金融政策もできないことになります。このことは、中国経済にさまざまな形で悪影響を及ぼす可能性があります。

まずは、インフレをコントロールする能力の低下です。中国がインフレを低く抑えたい場合、外資を呼び込むために金利を上げることはできません。さらに、量的緩和も難しいです。なぜなら、そうすると人民元の価値が高くなり、輸出品が割高になるためです。これはインフレ率の上昇につながります。

さらに、金融ショックに対する脆弱性が高まります。他国で金融危機が発生した場合、資本フローをコントロールできない中国は影響を受けやすくなります。投資家が中国の資産を売却するなどし、他の国に資金を移動させる可能性があるからです。これが中国の金融危機を招く可能性があります。

経済的ショックへの対応力の低下も懸念されます。中国経済が輸出の減少などのショックに見舞われた場合、金融政策で景気を刺激することはできません。外国からの投資を呼び込むために金利を上げると、人民元の価値が高くなり、輸出が割高になるため、金利を上げることができないからです。そのため、景気回復のスピードが遅くなる可能性があります。

独立した金融政策ができないことは、中国の経済政策にとって大きな制約となります。これは、長期的には中国経済に悪影響を及ぼすことになります。

国際金融のトリレンマに加え、中国経済に悪影響を及ぼす可能性のある他の要因もあります。それらは以下の通りです。

まずは、急速な高齢化です。中国の人口は急速に高齢化しています。このため、定年退職者を支える労働者が少なくなり、経済に負担がかかっています。

中国の債務水準は非常に高いです。これは経済成長率が急激に低下した場合、金融危機を引き起こす可能性があるため、経済にとってのリスクとなります。

輸出への過度の依存という問題もあります。中国経済は、輸出に大きく依存しています。そのため、世界経済の変化に対して脆弱な経済となっています。

これらは、中国経済に悪影響を及ぼす要因の一部に過ぎないです。国際金融のトリレンマは、中国が直面する課題のひとつに過ぎないですが、独立した金融政策ができないということは、今後中国経済に何が起こっても、それに対して満足な対策ができないことを意味しており、これは中国経済に甚大な悪影響を与え続けるのは間違いないです。

ただ、中国共産党(CCP)は、多くの理由から、固定為替レートや自由な資本移動を終わらせたくありません。

固定為替レートは、過去においては、中国共産党に経済に対する絶対的な支配力を与えてきました。人民元の価値を固定することで、中国共産党はインフレを抑制し、中国企業が商品を輸出しやすくすることができました。これは中国共産党にとって重要なことで、高い経済成長を維持できたからです。しかし、これはもう成り立たなくなりつつあります。実際、独立した金融政策ができないのですから、インフレ抑制もできません。

資本移動が自由であれば、外国からの投資を期待できます。外国からの投資は、中国経済にとって重要です。なぜなら、外国からの投資は、中国企業の成長に役立つ資本や技術を提供してくれるからです。中国共産党は、できるだけ多くの外国からの投資を呼び込みたいと考えており、自由な資本移動はそのための一つの方法です。

固定為替レートや自由な資本移動を終了させることは、現状の中国経済にとって破壊的なことです。どちらも長年にわたって実施されてきた政策であり、現在までの中国経済の形成に貢献してきました。これらを終了することは大きな変化であり、経済的な不安定さをもたらす可能性があります。

無論中国共産党は、固定為替レートと自由な資本移動のリスクを認識しています。しかし、そのリスクよりもメリットの方が大きいと考えているようです。中国共産党は、経済のコントロールを維持し、外資を誘致するために、こうしたリスクを取ることを厭わないようです。

上記の理由に加えて、中国共産党は政治的な理由で固定為替レートや自由な資本移動の廃止を望まないこともあります。中国共産党は中国の権力を強く握っており、これらの政策を終わらせることが経済の不安定や社会不安につながることを懸念している可能性があります。中国共産党は、経済的な柔軟性を放棄してでも、現状を維持した方が良いと考えているのかもしれません。

中国共産党が固定為替レートと自由な資本移動を維持し続けるという考えは、長期的に中国経済にとって有益かどうかは、時間が経ってみなければわからないところがありますが、それにしても今後も独立した金融政策ができないことは、長期にわたって、中国経済を蝕み続けることは間違いありません。

独立した金融政策は、国が効果的に経済を管理するために不可欠です。中央銀行が金利を設定し、マネタリーベースを設定し、その国の経済状況に最も適した方法で通貨供給量をコントロールすることができるからです。独立した金融政策がなければ、政府は市場の気まぐれに翻弄され、経済管理や望ましい目標の達成を困難にする可能性があります。

中国の場合、政府が独立した金融政策を行えないことが、すでに経済に悪影響を及ぼしています。例えば、政府は景気を冷やすために金利を上げることができず、インフレ率の上昇を招きました。また、マネタリーベースをコントロールすることができず、不動産や株式市場のバブルを引き起こしています。


これらの問題は、中国経済がより複雑化し、世界経済と統合されるにつれて、今後さらに深刻化する可能性が高いです。独立した金融政策がなければ、政府は経済を管理し、ショックに対応することができなくなります。その結果、経済の不安定性やボラティリティ(価格変動のおおきさ)が高まり、国の長期的な成長見通しに悪影響を及ぼす可能性があります。

したがって、中国にとって重要なのは、固定相場制から変動相場制に移行するとともに、金融政策の枠組みを改革し、中央銀行にさらなる独立性を与えることです。そうすれば、中央銀行はより効果的に経済を管理することができ、経済不安のリスクから国を守ることができるでしょう。

今後の中国経済の行方は、上記のような根本的な構造改革をしない限り、長期的には衰退していく方向にあるのは間違いないようです。コロナ禍がどうのという次元を超えて、これが中国経済の実体です。

こうした中国の現状を過去の日本になぞらえる人もいますが、それは違います。中国は、独立した金融政策を実行しようにも、できない状態にあるのてすが、従来の日本は、金融緩和政策など独立した金融緩和政策を実行できたのですが、日銀官僚等の誤謬でしなかっただけです。

しなかったのと、できないこととの間には雲泥の差があります。日本は今後正しい金融政策(当面金融緩和策)と、財政政策(積極財政)を実行すれば、経済の伸びしろは十分ありますが、現在の中国は変動相場制に移行するなどの思い切った構造改革をしない限り、伸びる可能性はありません。

安倍政権成立後の2013年4月から、黒田日銀総裁になってから、日銀は金融緩和に転じました。岸田政権になって今年4月からは、植田和男日銀総裁に変わりましたが、金融緩和は継続されています。植田総裁になれば、植田総裁は金融システムを重視する傾向があるので、金融緩和政策から金融引き締め策に転換するのではないかと、危惧されていましたが、そうはなりませんでした。

さすがに、現状では金融システムを最優先に考えたにしても、金融緩和策を続けた方が良いです。さすがに、金融引き締めすべきと考える人は、金融機関の中でも債権ムラの住人などごく一部でしょう。

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