2023年5月4日木曜日

中国で2つの異なる景気回復ペース、見通し巡り懸念強まる―【私の論評】中共はアベノミクスのような異次元の包括的金融緩和ができない!中国経済は、今後しばらく低迷し続ける(゚д゚)!

中国で2つの異なる景気回復ペース、見通し巡り懸念強まる


 中国の景気回復の不均衡を示す新たな兆しが浮き彫りとなった。中国の4月の製造業活動が数カ月ぶりの縮小となる一方、連休中の旅行は急増し、個人消費を後押ししている。

 財新とS&Pグローバルの4日の発表によると、4月の財新中国製造業購買担当者指数(PMI)は49.5と、前月の50から低下し、1月以来初めて製造業活動の縮小を示唆した。

 これは労働節の5日間の大型連休中に記録した観光関連の堅調なデータと対照的だ。国内旅行新型コロナウイルス禍前に当たる2019年の水準を19%上回った。ただ、観光関連の支出回復はさほど力強くなく、消費者が倹約志向を強めたことがうかがわれる。

 最新のデータは景気回復がますますまだら模様になっていることを示唆しており、1-3月(第1四半期)の中国経済が予想を上回る伸びを示した後、成長の見通しに陰りが出ている。

原題:China’s Two-Speed Economic Recovery Fuels Concerns About Outlook(抜粋)

【私の論評】中共はアベノミクスのような異次元の包括的金融緩和ができない!中国経済は、今後しばらく低迷し続ける(゚д゚)!

上の記事では、中国経済の現象面は語っていますが、その根本原因を語っていません。

このブログでも何度か述べてきたように、国際金融のトリレンマ(三すくみ)の理論によれば、独立した国内金融政策、安定した為替相場(固定相場制)、自由な資本移動の三つは、同時に実現できません。2つ選択できないのです。これは、経験則によっても知られていますし、数学的にも確かめられています。


実際、日米を含め殆どの国は上記三つのいずれかを放棄しています。これに対して中国は、金利・為替・資本移動の自由化を極めて漸進的に進める過程において、国内金融政策の自由度を優先しつつ、状況に応じて為替と資本移動に関る規制の強弱を調整することで、海外の資本・技術を取り入れて成長し、グローバルな通貨危機等の波及を阻止できました。

しかし、資本移動を段階的に自由化した結果、近時は人民元相場と内外金利差の相互影響が強まっています。これにより、国内金融政策が制約を受けたり、資本移動の自由化が一部後退するなど、三兎を追う政策運営は難しくなりつつあります。

中国は、グローバル経済に組み込まれた今や国単位では世界第2位(一人あたりのGDPでは、100円を少し上回る程度)の経済大国であり、こうした国は最終的に日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することが避けられないと、多くの先進国のエコノミストは思っていることでしょう。

移行が後手に回れば国際競争力が阻害されたり、国内バブルが膨らむ恐れがあります。一方で、拙速に過ぎれば、大規模資本逃避や急激な人民元安が懸念されます。中国は今後一層難
しい舵取りを迫られることになります。 

従来のように、全体景気回復するには人民元を大量に刷り増すなどの、大規模な金融緩和をしそれを資金として、大規模な公共工事等すれば良いのですが、これを実施してしまうと、国際金融のトリレンマにより、大規模な資本の海外への逃避(ドルの逃避)や、大規模な人民元安になってしまうため、それができない状態にあります。

先にあげたように、日米など主要国と同様の変動相場制に移行することで、国内金融政策の高い自由度を保持しつつ、自由な資本移動を許容することは避けられないのです。

結局、中国は日米などの主要先進国と同様に、変動相場制に移行しなければ、金融緩和策を実施すれば、資本の海外逃避や急激な人民元安に見舞われるのは確実です。

習近平政権は、このことを理解しているかいないか判然としませんが、変動相場制に移行する気はないようです。人民元のデジタル化をすれば、流動性は多少は増すでしょう。現状ではデジタル元はあまり流通していませから大規模な緩和はできませんが、デジタル元を大規模に流通させたにしても、これによって大規模な金融緩和を行えば、やはり資本の海外逃避や、急激な人民元安は免れません。

デジタル化しようが、しまいが現状の中国の実体経済にほとんど影響はありません。これと、国際金融のトリレンマは全く別次元の問題です。

中国の国家統計局によると、今年1月から3月にかけてのGDP=国内総生産の実質成長率は前の年の同時期と比べプラス4.5%となりました。中国政府が掲げる通年での成長率の目標「プラス5%前後」には届かず、景気の回復が緩やかであることが明らかになった形です。

飲食などのサービス業中心の消費は回復していますが、自動車や家電の販売、不動産市場の低迷が続いています。

しかし、昨年の1月から3月にかけては、中国ではゼロコロナ政策が実施されていたことを考えると、今年はプラス4.5%になったとしても、このくらい伸びるのは普通のことだと考えられます。

会見で国家統計局の報道官は「国内需要の不足は明らかで、構造的問題があり、回復基盤の強化には努力が必要だ」との認識を示しています。

この構造的問題の中には、独立した金融緩和ができないこともふまれていのではと推測できます。

中国の街角

また3月の都市部での16歳から24歳までの失業率は19.6%と、去年3月の16.0%に比べ大きく悪化。「ゼロコロナ政策」で業績の悪化した企業が新卒の採用を減らしていることが原因とみられとしています。

ただ、この見方は正しくはないと思います。根本原因は、金融緩和ができないことでしょう。

以上のような問題、特に若年失業率を低減させるには、大規模な金融緩和をするのが必須ともいえます。日本ではアベノミックスにより、2013年4月から異次元の包括的金融緩和により、若年層の失業率が減り、とくに高卒・大(院)卒の就職率が劇的に良くなりました。

2023年、中国では1158万人が大学を卒業し、史上最も厳しいと言われる就職難に直面しています。大学卒業生は昨年と比べると7.6%も増加しており、就職を求める学生が市場に溢れるのは必至です。

中国の統計を見れば、2022年の時点ですでに大学卒業生の就職率は極めて低いことがわかります。文系学生の就職率はなんと12.4%と極めて低水準ですし、理系でも理学系が29.5%、エンジニア系が17.3%となっています。2023年にはこの数がさらに低くなるとみられているのです。

このような状況では、日本のアベノミクスのように異次元の包括的な金融緩和を実施すべきです。そうすれば、若者の失業率を低減できます。

それを中国政府は重々承知なのでしょうが、中国政府はそれができないのです。

若年失業率が高いことは、次代を担う若年層が就労というかたちで社会に参加できていないことを意味します。若年層は貯蓄が少ないうえ、失業保険などのセーフティーネットから漏れている人が多いため、失業は貧困や格差拡大につながりやすいです。

マクロ経済的な損失も大きいです。もっとも生産性の上昇が期待できる労働力を活用できなければ、必然的に企業はもちろん経済全体の活力も低下します。また、少子化の進行や人材の海外流出など、人的資本の縮小も誘発します。

若年失業率の上昇は、いずれの国においても社会の安定や国力を左右する深刻な問題であり、優先的な取り組みが期待される政策課題です。しかし、中国では失業率の高止まりが続くと見込まれます。

中国では大学新卒者の就職難や若者の失業率の高さが大きな社会問題に イメージです

理由の一つとして、大卒が今後も増え続けることがあり。高等教育の大衆化により大学の入学者は増え続けており、大卒がこれからも、1,100万人を超える水準で推移するのは間違いないです。それに加えて、大規模な金融緩和かできないという事情もあります。

長期的にみても、供給過剰が緩和される見込みは薄いです。国連の「世界人口推計2022年版」によれば、16~24歳の人口は2007年から減少し、2022年に1億4,439万人となる減少局面にあったものの、それを底に2033年まで増え続ける局面に入ります。

中国は、すでに2022年に人口減少社会に転じているとはみられますが、若年失業率は低下に向かうどころか、今後10年にわたり高止まりの状態が続くとみておくべきでしょう。

以上のようなことを考えると、中国が今後固定相場制から変動相場制に移行するなどの大胆な構造改革を行わない限り、中国経済は今の状態より一時的に少し良くなることはあったにしても、大きな趨勢では下降し続けることになるでしょう。

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