2023年5月21日日曜日

「総理、逃げるのですか?」 首相、終了後も追加質問応じる―【私の論評】ウクライナの現実も反映し核廃絶に向けて動いた「広島ビジョン」は日本外交の大成果(゚д゚)!

G7議長国会見

G7終了後記者会見する岸田首相 バックは原爆ドーム

 岸田文雄首相が21日の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)閉幕後の記者会見をいったん終えて立ち去ろうとした際、会見に出席した男性から「1問だけでよいので。総理、逃げるのですか」と追加の質問を投げかけられ、演壇に戻り、答える一幕があった。

 質問は、首相が昨年8月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議で発表した核軍縮に向けた行動計画「ヒロシマ・アクション・プラン」についてだった。

 首相は「核兵器国が現在どれだけの核兵器を持っているのか明らかにすることこそが、核兵器国と非核兵器国の信頼の基盤になる」と指摘した。その上で、「透明性を追求することもアクション・プランに明記した」などと説明した。

 会場ではこの質疑が終わってもなお、首相に対し「総理、逃げるのですか」「海外メディアからもお願いします」などと声が飛んだ。

【私の論評】ウクライナの現実も反映し核廃絶に向けて動いた「広島ビジョン」は日本外交の大成果(゚д゚)!

G7閉幕の首相記者会見で最初に指名されたのは、時事通信の記者でしたが、質問の一つが内閣不信任案への対応云々等、国内問題に偏重しすぎており愕然としました。このような質問は、せめて質疑の中盤以降にし欲しいと思います。 これは、内閣記者会の幹事社質問なのでしょうが、横にいる外国人記者たちに聞かれているのが気恥ずかしく感じました。

そうして、最後に「総理、逃げるのですか」と発言し、さら「海外メディアからもお願いします」との発言です。本当にこのやり取りにはうんざりしました。

安倍元総理や菅前総理らが総理だったときの記者会見などでも、事前に決められた時間を過ぎても質問を続けようとしたり、首相が回答後も「逃げないでください」などと投げかけたりする一部の取材方法に、有識者や新聞記者OBから批判が上がっていました

「国民の知る権利」に応えるための追及は必要ですが、手法を誤れば逆にメディアは国民の信を失いかねないです。

元朝日新聞記者で作家の長谷川煕氏は「首相をたたくのが正義と思い込み、政治活動をしている。首相を矮小(わいしょう)なものに見せかけることを目的としている」と批判的に語っていました。

元東京新聞論説副主幹でジャーナリストの長谷川幸洋氏も、会見終了時に質問を投げかける姿勢について「そういうタイミングで声をかけることで、国民に首相が逃げているような印象を与える狙いがあるような気さえする」と指摘しました。

私もそう思います。上の記事を書いた記者はどういうつもりでこのような記事を書いたのかはわかりませんが、首相を矮小化するなどのつもりで書いているなら、非常に問題です。

今回の「核軍縮のための広島ビジョン」に対しては、様々な批判もあります。その批判の中心は「広島ビジョン」が核兵器の即時廃絶求めず、核抑止を認めた上でのビジョンになっていることに批判が集中しているようです。以下にその例をあげます。

「広島ビジョンは機会を逸した。核兵器の即時廃絶を求めず、むしろ核抑止力を認めている。これは危険で無責任な立場である。」- 核軍縮の活動で2017年のノーベル平和賞を受賞した「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」の事務局長、ベアトリス・ファイン氏。

「"広島ビジョン "は、広島と長崎の犠牲者への裏切りです。核の脅威の緊急性を認めず、核兵器廃絶のために必要な措置を講じない」 - 広島市長の松井一實氏。

「広島ビジョンは、核軍縮に逆行するものである。核兵器の保有を正当化し、その廃絶をより困難にするものです。」- 核兵器廃絶に取り組む医師や医療関係者の世界的組織「国境なき医師団(PSR)」。

2023年5月に広島で開催されたG7首脳会議の最後に、「広島ビジョン」が発表されました。このビジョンは、核兵器のない世界を目指すものですが、核兵器廃絶の期限は定めていません。また、戦争を防ぐための核抑止力の役割も認めている。

広島ビジョン」に対する批判は、核軍縮活動家や広島・長崎の被爆者、医療関係者など、さまざまなところから寄せられている。核兵器の廃絶を求めるには不十分であり、核兵器の保有を正当化するものであるとしています。

ここで、「広島アクションプラン」と、「核軍縮のための広島ビジョン」について掲載します。


広島アクションプランは、2022年のNPT再検討会議で岸田文雄首相が発表した核軍縮のための5つの柱からなる計画である。この計画は、核兵器のない世界は可能であり、その目標に向かって努力することはすべての国の責任であるという信念に根ざしています。

広島アクションプランの5つの柱は以下の通りです。
  • NPTの重要性を再確認する。NPTは、世界の核軍縮・不拡散体制の礎である。すべての国がNPTを強化し、維持するために努力することが不可欠である。
  • 核軍縮に向けた具体的なステップを推進する。世界の核兵器の数を減らすために、取ることのできる具体的なステップが数多くある。これらのステップには、核分裂性物質カットオフ条約の交渉、包括的核実験禁止条約の発効、核兵器の能力や政策に関する透明性の向上が含まれる。
  • 核兵器に対する国際規範を強化する。核兵器の使用を防止するためには、核兵器に対する国際規範が不可欠である。核兵器の危険性に対する認識を高め、核軍縮に関する教育や研究を促進することにより、この規範を強化することが重要である。
  • 平和と対話の文化を築く 核兵器のない世界には、平和と対話の文化が必要である。紛争を平和的に解決し、理解と寛容を促進し、核軍縮のために活動する市民団体の活動を支援することによって、この文化を築くことが重要である。
  • 若者のエンパワーメント 青少年は世界の未来であり、核兵器のない世界を実現するために重要な役割を果たす。核兵器の危険性について教育し、核軍縮の活動に参加する機会を提供することで、青少年に力を与えることが重要である。
広島アクションプランは、核軍縮のための包括的かつ野心的な計画です。核兵器のない世界を実現するためのロードマップであり、この目標を実現するためにすべての国が協力して行動することを求めるものです。

先進7カ国(G7)の首脳は19日、「核軍縮のための広島ビジョン」を発表しました。これは、広島アクションブランの強化版ともいえる内容です。安全保障を損なわない現実的な方法で、核兵器のない世界という「究極の目標」を目指すというG7の姿勢を確認しました。

「核軍縮のための広島ビジョン」は、核兵器のない世界を目指すというG7首脳の意思表明である。このビジョンは、核兵器が世界の平和と安全に対する脅威であり、その存続は容認できないことを認識している。しかし、核兵器が抑止力として重要な役割を果たし、安全保障を損なわない形で軍縮を進めなければならないことも認めています。

ビジョンは、G7諸国が核軍縮を推進するために取るべき具体的なステップを数多く示している。これらのステップには以下が含まれます。
  • 核兵器用の核分裂性物質の生産を禁止する条約に関する交渉の即時開始を呼びかける。
  • 包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear-Test-Ban Treaty)の発効に向けた取り組み。
  • 核兵器の能力および政策に関する透明性を高める。
  • 原子力の平和利用を促進する。
G7首脳はまた、核兵器のない世界を実現するために、他の国々と協力することを約束しています。ビジョンでは、G7諸国は "核兵器のない世界を促進するために、核兵器を保有する国を含むすべての国と関わりを持ち続ける "と述べています。

核軍縮のための広島ビジョンは、核兵器廃絶に向けた世界的な取り組みにおいて、重要な一歩を踏み出すものです。このビジョンは、軍縮のための明確な道筋を示し、核兵器に対する見解の異なる国々が協力するための枠組みを提供するものです。このビジョンは、核兵器のない世界が可能であることを示す希望の兆しともいえます。

重要なのは、「広島ビジョン」が核兵器の即時廃絶を求めていないことです。その代わり、すべての国の安全保障上の懸念を考慮した「現実的」な軍縮アプローチを求めています。つまり、核抑止力は当分の間、国際安全保障の中で役割を果たし続けることになります。しかし、ビジョンでは、核兵器廃絶という明確な目標を掲げ、その達成に向けたロードマップを提示しています。

核による抑止は認めた上で、核軍縮を求めるというて現実的なアプローチをしたからこそ、G7で合意がなされ「ビジョン」として公表されたのです。

核抑止など考えずに、一方的にG7が核軍縮を進めた、中露北などが核開発を進めた場合、日本を含むG7の国々は、かえって大きな危険にさらされることになります。

旧ソ連邦が崩壊したときに、ウクライナには旧ソ連の核兵器が残されていました。そのため、1991年のソ連崩壊後、ウクライナは世界で3番目に大きな核兵器を保有することになりました。1994年、ウクライナはブダペスト覚書に署名し、米国、ロシア、英国の安全保障の保証と引き換えに、ウクライナの非核化を約束をしました。


ウクライナの核兵器廃棄のために取られた主要なステップは以下のようなものでした。
  • ウクライナ領内にあるすべての核兵器の目録の作成。
  • 核兵器を解体するためにロシアに輸送する。
  • 核兵器の解体
  • 核廃棄物の安全な処理。
ロシアは近隣諸国への侵略の歴史が長く、他国からの介入に対する抑止力として核兵器を使用してきまし。ウクライナの場合も、ウクライナに核兵器による報復能力があれば、ロシアは侵攻しにくくなったかもしれないです。

平和記念公園に立つ、ゼレンスキー大統領と岸田首相

もちろん、ウクライナの政治状況、ロシアにおけるナショナリズムの台頭、NATOの拡張による脅威の認識など、ロシアがウクライナ侵攻に踏み切った要因は他にもあるでしょう。しかし、ウクライナの核軍縮がロシアの侵攻の決断に一役買ったことは明らかです。

ロシアのウクライナへの侵攻は悲劇であり、核兵器の危険性を再認識させるものです。世界は核軍縮の実現に努め、ウクライナが再び侵略されることのないようにしなければならないです。

核抑止については、朝鮮半島の現状をみても理解できます。北朝鮮が核兵器を保有していなければ、中国は朝鮮半島浸透し、今頃中国の属国になっていた可能性もあります。北朝鮮に核兵器がなければ、中国は北朝鮮に圧力をかけて要求を呑ませることができ、より強い立場にあったはずです。

しかし、違った展開になった可能性もあります。米国と韓国はこの地域に強力な軍事的プレゼンスを有しており、中国が北朝鮮を武力で支配しようとした場合、介入する可能性があったでしょう。

結局のところ、北朝鮮が核兵器を持たなければどうなっていたかを断言することはできなです。しかし、核兵器が現在の朝鮮半島情勢を形成する上で大きな役割を果たしたことは間違いないです。無論これは何が良いとか、何が悪いなどの価値判断を示しているわけではありません。あくまで現状分析をしているだけです。

朝鮮半島の現状、ウクライナの運命を知れば、核による抑止を認めた上で、核軍縮を求めるというのはより現実的なアプローチであることが理解できると思います。

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