シリアでイラン高官が殺害されたことを受け、その高官の墓でイスラエル国旗を燃やす 準備をするイラン人抗議者。2015年撮影 |
イスラエルがシリア国内のイラン関係施設を爆撃し、2つの強力な敵対国が衝突する恐れが高まっている。その背景を解説する。
イスラエルとイランはなぜ敵対しているのか
1979年にイラン革命が起こり、イスラム教強硬派が権力を掌握して以来、イランの指導者はイスラエルの排除を訴えてきた。イランはイスラエルのことを、イスラム教支配地域を違法に占拠する者と位置づけ、同国の存在権を否定している。
これに対してイスラエルはイランを、イスラエルの存在に対する脅威とみなし、イランは核兵器を得てはならないと力説してきた。イスラエルの指導者はイランの中東における影響力拡大を恐れている。
なぜシリアは巻き込まれたのか
隣国シリアが2011年以来の内戦で荒廃していく様子を、イスラエルは不安を持って見守ってきた。
シリア政府と反体制派の戦闘から、イスラエルは距離を置いてきた。
ゴラン高原のイスラエル入植地を守るイスラエル軍人。シリアとの境界付近で |
その一方で、数千人の民兵や軍事顧問を派遣してシリア政府を支援するイランの役割は、日増しに大きくなっている。
イスラエルは、自分たちの隣国で、かつ自分たちを脅かすレバノンの武装勢力と、イランの関係も気にしている。イランが密かに、レバノン武装勢力に兵器を送ろうとしているのではないかと懸念しているのだ。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イランがシリア領内に基地を建設することは認めないと繰り返し述べてきた。イスラエル攻撃の拠点に使われる可能性があるためだ。
それゆえ、イランがシリア国内で存在感を増すにつれ、イスラエルはシリア内イラン施設への攻撃を激化させているのだ。
イランとイスラエルは実際に戦争状態となったことがあるのか
いいえ。イランは、レバノンの武装勢力ヒズボラやパレスチナの軍事組織ハマスなど、イスラエルを標的にする組織を長い間支援している。しかし、直接的な戦争はイランとイスラエル両陣営に大規模な破壊をもたらすだろう。
イランは長距離ミサイルを備蓄しており、シリアとイスラエルの境界線付近には重武装の協力組織もいる。
イスラエル軍は強力で、核兵器も保有していると言われている。米国の強力な支援も受けている。
(英語記事 Why are Israel and Iran fighting in Syria, in 300 words)
【私の論評】イランの核武装で中東に新たな秩序が形成される?
イランの核問題に関する最終合意として知られる包括的共同作業計画(JCPOA)は、歴史上もっとも大きな問題を内包する軍備管理合意の一つです。この合意ではイランがウラン濃縮をする権利だけでなく、ウラン濃縮を産業化する権利さえも認められています。
研究・開発施設の建設も許容され、検証・査察制度も実質的に骨抜きにされています。つまり、イランは経済制裁の解除を手にするだけでなく、核開発を正統化することに成功したのです。
ワシントンでは「イランの影響力を押し返せば中東に秩序を取り戻せる」と考えられているようですが、これは間違っています。むしろ、今後の持続可能な中東秩序にとって、イランが必要不可欠の存在であることを認識しなければならないでしょう。
中東の同盟諸国にはイランをアラブ世界から締め出す力はなく、仮にそうできたとしても、イランが残した空白を埋めることはできません。結局、中東で大きな問題が起きれば、アメリカは介入せざるを得なくなります。対イラン強硬策を続けても、イランの影響力を低下させることはなく、むしろ中東におけるロシアの影響力を拡大させるだけになることが予想されます。
イランの核兵器開発をめぐる問題の多くは、テヘランが核開発を試みているからではなく、イスラエルが核を保有していることに派生しています。イランが核武装すれば、他の核武装国がそうするように、相互抑止環境が形作られます。
これまでのところ、核武装国同士の全面戦争は起きていません。イランが核武装に成功すれば中東で抑止状況が生まれ、中東により安定した秩序が生まれることになるでしょう。イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオかもしれないのです。
このようなことを言うと、日本の特に頭がお花畑の人々は、何を語っているのか全く理解されないかもしれません。
しかし、以下の事実を知ればお花畑の人は無理でも、まともな人ならば考えが変わるかもしれません。
以下にイスラエルがいかに世界有数の保有国になったかを掲載します。
米国はイランの核開発を激しく批判し、軍事侵攻も否定していません。自らが世界最大の核兵器保有国だということを忘れ、中東にはイスラエルという世界有数の核兵器保有国があることを無視した説得力のない主張です。
イスラエルはNPT(核不拡散条約)に加盟していません。イランはNPTのルールの中で曲がりなりにも査察を受けてきたにもかかわらず、激しく批判され、制裁されてきたのですが、イスラエルはお咎めなしです。
米国がイスラエルの核開発に気づいたのは1958年のことです。CIAが飛ばした偵察機U2がネゲブ砂漠のディモナ近くで建設中の施設を発見したのですが、担当者は原子炉の疑いがあると判断しました。
偵察機U2 |
そこで、画像情報本部の責任者だったアーサー・ランダールはドワイト・アイゼンハワー大統領に対し、ディモナ周辺の詳細な調査を行うように求めるたのですが、それ以上の調査が実行されることはありませんでした。後に、施設はフランスとの秘密協定に基づいて建設された2万4000キロワットの原子炉だということが判明しています。
また、イスラエルの科学者は1960年2月にサハラ砂漠で行われたフランスの核実験に参加していますが、この直後にイスラエルは原爆を手にしています。1963年になると、イスラエルとフランスは共同で核実験を南西太平洋、ニュー・カレドニア島の沖で実施したのですが、両国の関係は1967年の第3次中東戦争で悪化、核開発の協力関係も崩れました。
フランスと入れ替わりで登場してきたのが南アフリカです。1968年に両国は核開発に関して協力することで合意し、イスラエルはウランを入手するかわりに核技術や兵器を提供することになりました。
米国の研究者、サーシャ・ポラコフ・スランスキーは書籍の中で、1975年に南アフリカの国防大臣だったP・W・ボタとイスラエルの国防大臣だったシモン・ペレスが会談、イスラエルが南アフリカに核弾頭を提供することで合意したことを明らかにしています。
その後、両国の関係は深まったようで、1976年1月に南アフリカはイスラエルのテルアビブに大使館を開設、同年4月には南アフリカのジョン・フォルスター首相がイスラエルを訪問しています。
勿論、こうした動きを米国が知らなかったとは思えないですが、ソ連も気づきました。1977年8月、ソ連のレオニド・ブレジネフ書記長がカーター米大統領に対し、カラハリ砂漠で南アフリカが核実験を準備している証拠をコスモス衛星がつかんだと警告、この話はイギリス、フランス、そして西ドイツにも伝えられました。その直後、アメリカの衛星もカラハリ砂漠で地下核実験の準備が進んでいることを確認しました。
カーター大統領(前列左)とブレジネフ書記長(前列右) |
この実験は米ソなどの圧力で中止になりましたが、1979年9月にはアメリカのベラ衛星が南インド洋、南アフリカの近くで強い閃光を観測、CIA(中央情報局)やDIA(国防情報局は「90%以上の確率で核爆発だ」と判断しました。
ところが、ベラの情報だけでなく、無線通信の傍受内容、イスラエル国防相だったエツェル・ワイツマンの南アフリカ訪問などの事実をカーター政権は公表していません。ベンメナシェによると、南インド洋での実験で使用された核兵器の運搬手段は175ミリ砲でした。また、1981年にイスラエルはインド洋で水爆の実験を行っています。
そして1986年10月、イギリスのサンデー・タイムズ紙がイスラエルの核施設で働いていた技術者の証言を写真付きで報じました。その技術者がモルデハイ・バヌヌです。
バヌヌはイスラエルが保有する核弾頭の数を200発以上だとしていましたが、イスラエルの軍情報部の幹部だったアリ・ベンメナシェは1981年で300発以上の原爆を保有、この年には水爆の実験にも成功しているとと主張、また1977年から81年までアメリカの大統領を務めたジミー・カーターは150発という数字を示しています。
イスラエルの核兵器の実情を世界に伝えたモルデハイ・ヴァヌヌ |
バヌヌの告発があるまで、アメリカのCIAやDIA)はイスラエルが保有する核弾頭の数を24から30発と推測していたといいます。現在でもこの数字に若干上乗せした数を主張している人もいるようですが、堅めにみて百数十、おそらく数百発は持っていると考えるべきだでしょう。ともかく、世界有数の核兵器保有国です。
記事が掲載される前、バヌヌはイタリアでイスラエルの情報機関によって拉致されました。大きな箱に押し込められ、船でイスラエルへ運ばれ、裁判にかけられています。拉致したイスラエル政府が制裁されることはないです。1988年3月に懲役18年の判決を受けています。
2004年にバヌヌは出所したのですが、外国人と接触したという理由で2007年7月に懲役6カ月を言い渡され、再び収監されています。そして2010年5月、また収監されています。理由は同じです。どうしてもイスラエル政府はバヌヌの口を封じておきたいようです。
イスラエルが世界有数の核弾頭保有国であり、アメリカが核兵器の開発や核物質の入手などを容認してきた事実を語られれば、イランを批判しにくくなります。あるいは、公表されていない秘密がまだあるのかもしれません。
これだけの核を有する、世界有数の核保有国イスラエルですから、中東では他国より強いのは当たり前といえば当たり前なのかもしれません。
まさに、先にも述べたように、イランが核武装に成功すれば中東で抑止状況が生まれ、中東により安定した秩序が生まれることになるでしょう。イランの核武装化は最悪ではなく、最善のシナリオかもしれないのです。
無論、米国としては、イスラエルやイランが、中距離核弾頭をはるかえにこえて、それこそ北朝鮮のようにICBMを所有し、米国も標的にしうるようになることは絶対に許さないことでしょう。
トランプ大統領は、これは許さないまでも、意外とイランの核保有を認めるかもしれません。
以前イラクに関しては、米国はアサド政権を完璧倒すことはしないであろうこと掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
アメリカの2度目のシリア攻撃は大規模になる―【私の論評】今後の攻撃はアサド政権を弱体化させ、反政府勢力と拮抗させる程度のものに(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ここではルトワックによる米国のシリア対応について掲載しました。
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ルトワックはイラクのアサド政権を米軍が攻撃して崩壊させたとしても、結局反政府勢力が反米政権を樹立するだけで米国の勝利はないといいます。
であれば、アサド政権と反政府勢力を拮抗させておき、アサド政権側が強くなれば、反政府勢力に武器を供与するなどして、これを強化し、逆に反政府勢力が強くなれば、武器供与を中止して、両勢力を拮抗させておくのが、米国としては最上の策であるとしています。
無論、現在ではシリアにロシアが関与したり、イランの軍事基地が設置されているなど、かなり複雑化していますが、それでもロシアやイランが恒久的にイラク内に踏みとどまり、アサド政権をすぐに勝利に導き傀儡政権することができるかといえば、それほど力があるわけでもありません。
現在でも、米国がアサド政権と反政府勢力を拮抗させておくという考え方は、良い選択であると考えられます。
この拮抗策を中東全域で行うということも十分考えられます。イスラエルだけが、世界有数の核保有国になっていることも、中東の状況を悪化させる大きな要因となっています。
これで、イランが核保有国になれば、イスラエルと拮抗し、新たな秩序が形成され中東で大規模な戦争が起こることもなくなる可能性が高いです。
米国が核合意から抜けたことを機にイランも抜ければ、イランは核開発を進めることができます。そうして、イスラエルと拮抗すれば、米国が介入しなけばならいほどの大きな問題が中東に起こらなくなるようになる可能性が高いです。
現状の状態をそのまま継続し、イスラエルがイランを本格的に攻撃し、本格的な戦争になったとしたら、場合によっては米国も介入しなければならないことも考えられます。
上記で述べたイランの核開発による、イスラエルとの拮抗は、大いにあり得るシナリオです。トランプ大統領は意外とこれを狙っているかもしれません。トランプ氏が、大統領選のときに日本の核武装について言及したことを思い出します。
いずれにしても、北朝鮮の問題が解決しないうちに、イランの核武装許容などということはないでしょう。そんなことをすれば、金正恩に核武装の段階的放棄などに格好の口実を与えてしまうことになります。
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