高橋洋一 日本の解き方
日経新聞では食品の値上がりと働く女性の増加が エンゲル係数をおしあげているとしている……… 日経新聞のエンゲル係数に関する記事に掲載されていたグラフ |
エンゲル係数はドイツの社会統計学者、エルンスト・エンゲルが19世紀中頃に提唱したもので、一般的にその値が高いほど生活水準は低く、成長して生活水準が高まるとエンゲル係数は低下するとされていた。これは「エンゲル法則」と呼ばれることもある。
実際の数字を、総務省の家計調査からみてみよう。1960代初頭のエンゲル係数は39%程度だったが、その後は高度成長とともに、「法則」どおりに低下傾向となった。
90年代になり、25%を割り込むと低下傾向が鈍化するようになった。2005年の22・7%が底で、その後は若干、上昇傾向になっている。直近3年の15~17年はそれぞれ25・0%、25・7%、25・5%だ。
ここで注意すべきなのは、「エンゲル法則」には、人々のライフスタイルが変わらないという大前提がある。
例えば、若年世代と老齢世代でも違う。一般的には若年世代は所得も多く、支出も多様であるのでエンゲル係数は小さいが、老齢世代では所得も低く支出も限定的なのでエンゲル係数は大きい。
高齢化が進展している日本では、人口構成の変化によってエンゲル係数が高くなる傾向がある。20代のエンゲル係数は23%程度であるが、60代以上では28%程度だ。
さらに食費についても、「家庭食」か「外食」かは食文化や習慣や家庭生活の外部化によって左右されるものなので、生活水準とはあまりリンクしていない。最近でこそ日本は外食が多くなったといわれるが、かつては国際比較すると日本は家庭食が多い国だった。一般に外食比率が高くなると、エンゲル係数も高くなる傾向がある。
日本のエンゲル係数の動きをみると、1990代までは高齢化の影響なしで「エンゲル法則」そのものであり、先進国とほぼ同じ最低水準の25%程度まで低下した。その後、高齢化の影響で若干上昇したとみることができる。外食比率が高くなったことも上昇に拍車をかけているとも考えられる。
しかし、エンゲル係数が上昇したといっても、30%に戻ることはあり得ず、下限水準に達しつつあるなかでの3%程度の限定的な動きにすぎない。
これを「アベノミクスのツケ」というのはあまりに無理がある。アベノミクス批判は荒唐無稽なものが多いが、これもその一例だ。そもそも上昇傾向は2005年からであり、アベノミクス以前からみられている現象だ。
エンゲル係数のような経済指標については、各国の国際比較も時系列でも長期のデータを取ることができる。それをみれば荒唐無稽な結論は避けられるはずなのだが、嘆かわしいかぎりだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一
エンゲル係数がなぜ上がるのかという、ブログ冒頭の高橋洋一氏の主張は正しいです。これについては、以前このブログで解説したことがあり、基本的に高橋洋一のこの見解と変わるところはありません。以下にその記事のリンクを掲載します。
エンゲル係数「上昇」の深層 「生活苦」と「食のプチ贅沢化」の関係―【私の論評】フェイクを見抜け!上昇の主要因は高齢化(゚д゚)!
この記事の元記事は、JCASTニユースの記事です。この元記事はさすがに最近のエンゲル係数の上昇は、アベノミクスのせいなどという荒唐無稽な結論ではないものの、「プチ筮竹」「食のプチ贅沢化」などわけのわからない分析をしています。それが気になったので、当時いろいろ調べてこの記事を作成しました。
この記事は、2017年5月14日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からグラフとその説明などを以下に引用します。
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実は、07年以降のエンゲル係数上昇は、日本に限らず他の先進国でも起こっています。例えば、欧州連合(EU)の28カ国でみても、07年に23・2%まで低下した後で上昇し、14年は23・8%となりました。特にフランスやイタリアでは07年以降の上昇が大きいです。
さらに、高齢化の影響もあってエンゲル係数が伸びた面もあります。以下の図をご覧になって下さい。
データ出典 総務省統計局「家計調査報告」 以下同じ |
高齢世代のエンゲル係数が高くなる理由は、多くの場合、主な収入源が、年金と貯蓄の取り崩しに限られる中、消費支出を切り詰めざるを得ない一方で、生きていくのに必要な食費は、消費支出全体の減少よりは減らない(経済学的には、食料などの必需品は需要の所得弾力性が小さい)ため、エンゲル係数が大きくなって見えるためです。
次に、下図をご覧ください。
これは各年のエンゲル係数を、世代別に分解したものです。この図から分かりますように、近年、日本のエンゲル係数に占める60歳世代以上(緑色の棒+青色の棒)のウェイトが上昇していることが確認できます。つまり、最近のエンゲル係数の上昇には高齢化が影響しているということです。これは、他の先進国でも似たような状況にあるものと考えられます。
さらに、下図をご覧ください。
もし、高齢化がエンゲル係数に与える影響が2005年水準のままであれば、他の条件が一定のもとでは、エンゲル係数は順調に低下し、例えば2016年では21.2%とまで低下していたものと、簡単な計算により確かめることができます。
結局、エンゲル係数の趨勢的な上昇をもたらしているのは、高齢化と先に述べたものも加わったことが主要因であり、アベノミクスの影響ではないということです。
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結局、日本でのエンゲル係数上昇の主要因は高齢化によるものです。
冒頭の記事の一番最初に掲載したのは、日経新聞に掲載されていたグラフです。日経新聞は、さすがに上昇の原因はアベノミクスなどという荒唐無稽なことは言っていませんが、それにしても、主要因は高齢化とはいわず、食品の値上がりと働く女性の増加のためとしています。これらの要因も完全否定はできないかもしれませんが、主要因ではないでしょう。
あまりに分析が甘すぎます。ところで、上の高橋洋一の記事のでは、"「エンゲル係数」が急上昇しているとして、「アベノミクスのツケ」「庶民の生活は苦しくなっている」などと一部で報じられた"としていますが、これは一体どのメデイアなのでしょうか。
気になったので調べてみました。まずは、日刊ゲンダイの記事です。
アベノミクスのツケ…エンゲル係数が“最悪”視野に急上昇中
2018年9月4日ちなみに、日刊ゲンダイは第一生命研究所の熊野氏の発言を引用していました。その熊野市のレポートのリンクを以下に掲載します。
次は第一生命経済研究所のレポートです
ECONOMIC TREND〜エンゲル係数と高齢化~直近 12 か月で再び最高に~
第一生命経済研究所 熊野 英生 2018 年 8 月 30 日(木)
熊野 英生氏 |
以下は、東洋経済の記事です。
エンゲル係数の上昇はアベノミクスの結果だ
国会論戦を受けて、分析してみた
末廣 徹 : みずほ証券 シニアマーケットエコノミスト
2018年3月20日
末広徹氏 |
東洋経済がよく、このようなフェイクを掲載したものだと呆れ果ててしまいます。
それにしても、素人の私がインターネットで調べれば、エンゲル係数上昇の主要因は高齢化であるということなどすぐに調べられるのに、名のある保険会社や証券会社などの研究員やそれなりに名のある雑誌がこのようなフェイクを平気で流すというのは一体どういうことなのでしょうか。