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2019年2月3日日曜日

2度目の米朝首脳会談と南北融和を優先する韓国―【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!



岡崎研究所

 北朝鮮をめぐっては2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるという大きな動きがあった。他方、南北関係は、韓国の文在寅政権は開城工業団地と金剛山観光の再開のために国連決議迂回の道を探るなど、韓国の対北宥和ぶりが目立つ。ここでは、最近の北朝鮮情勢について、これらの点を中心に紹介する。

 まず、今年の金正恩の新年の辞では、以下の諸点が注目される。

(1)「外部勢力との合同軍事演習をこれ以上許容してはならず、外部からの戦略資産をはじめとする戦争装備搬入も完全に中止」すべき。

(2)停戦協定当事者(注:中国のことか)との緊密な連携の下に朝鮮半島の現停戦体制を平和体制に転換するための多国間協商も積極的に推進していく。

(3)全同胞は「朝鮮半島平和の主は我が民族」という自覚を持って一致団結していくべき(注:文在寅の考えと同じ)。

(4)開城に進出した南側企業人の困難な事情と民族の名山を訪れたいとする南側同胞の願いを察し何の前提条件や対価なしに開城工業地区と金剛山観光を再開する用意がある。

(5)北と南が協力するなら「あらゆる制裁と圧迫」も我々の行く手を妨げることはできない。

(6)我々は「すでにこれ以上、 核兵器を作りも試験もしないし、使用も伝播もしない」(注:現水準は維持すると取れる)。

(7)米国が約束を守らず、一方的に強要し、制裁と圧力に進むのであれば、「新たな道」を模索せざるを得なくなる。

 文在寅政権は、今度は開城団地と金剛山観光の再開(昨年9月の南北首脳会談で合意)を実現しようとしている。康京和外相は1月11日、議員との会合で、多額の現金支払いによらない方法でこの問題を解決することが可能かどうか研究する必要がある、と述べている。これは政府がバルクの現金支払いを禁止している国連制裁回避の方法を探していることを示す。既に企業関係者から近々現地を訪問する申請も出されているようだ。開城団地は北による4回目の核実験を受けて2016年2月に閉鎖されたが、それまでは北にとり重要な外貨獲得の場所となっていた。韓国企業による投資、生産物の輸出の他、北の労働者には毎年総額約1億ドル以上の賃金が支払われていた。

 南北融和を優先する文在寅政権は、国際社会の努力からも外れている。非核化の進展がないにも拘らずここまで前のめりに南北融和を優先する韓国の動きには、引き続き注意が必要だ。対米関係が一層軋む可能性もある。今までの対韓不信に加え、米軍経費負担交渉の難航もあり米韓間の緊張は高まっているようである。

 国際制裁は北朝鮮に効いているものと思われる。金正恩は新年の辞でも「過酷な経済封鎖と制裁」として、それに言及している。昨年訪欧した際、文在寅は独仏英などに制裁解除を働きかけたが、当然ながら欧州首脳は賛同しなかった。

 米朝の非核化交渉は昨年7月以来膠着していた。しかし、これまで延ばされてきた2回目の米朝首脳会談開催の動きは、急速に進んだ。金正恩は1月8、9日に北京で習近平と会談した。この訪中は、今年が中朝国交樹立70周年に当たることもあろうが、核問題や米朝交渉の今後につき協議するために行われたものと思われる。朝鮮中央通信によると習近平は「北朝鮮の主張は当然の要求であり、懸念が解決されなければならない」と理解を示したという(ただし中味の説明はない)。さらに、金英哲副委員長が1月17-19日に訪米した。首脳会談の調整をしたものと見られる。それに先立ち、金正恩宛てのトランプの書簡も届けられたという。そして、2月末に2度目の米朝首脳会談が開催されることが発表されるに至った。

 何らかの進展があったため2度目の首脳会談が開催されることになったのは間違いないだろうが、それが何であるかはまだ分からない。懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである。

【私の論評】第二回米朝会談では、ICBMの廃棄を優先させ中短距離の弾道ミサイルが後回しにされる可能性が高い(゚д゚)!

冒頭の記事の結論である、「懸念されることは、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることである」は実際に大いにあり得ることです。

私は、トランプ大統領はこのような合意を目指していると思います。なぜなら、このブログでも最近指摘しているように、結果として北朝鮮の核が結果として、中国の朝鮮半島への浸透を防いでいるからです。

これは、北朝鮮が核開発をしていかなった場合どうなったかを考えてみれば、容易に理解できます。北の核は、米国を標的にしているのは無論ですが、これは当然のことながら中国も標的にし得るのです。もし、北が核開発をしていなかった場合、今頃金一族は中国に滅ぼされ、北には中国の傀儡政権が樹立され、韓国も完璧に中国に従属し、半島全体が中国の覇権の及ぶ範囲内になっていたかもしれません。そうして、将来は朝鮮半島は中国の一省が、自治区になったかもしれません。

2015年5月に、北朝鮮は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験を行い、2016年1月6日には、「水爆実験」とうたった地下核実験が強行されましたた。また、同1月28日にはミサイル実験の準備が複数箇所で同時に進行中であることが報道されました。そうして、その後実際に長・中・短距離の弾道ミサイルを乱れ打ちされました。

これらの示威行動の目的は何だったのでしょうか、そもそも誰に向けた威嚇だったのでしょうか。さまざまな解説がなされていますが、そのほとんどが、アメリカを対象にしたものだということになっていました。私は、その意味合いは確かにあったと思います。

しかし、これら一連の北朝鮮の行動全体を見た場合、どう解釈すべきなのでしょうか。私は、SLBM実験以降、従来とは質的にまったく別なものになったと考えています。これらは主に中国を対象とした示威行動と見て間違いないのです。

その上で、国際社会、特に米国に対し、「中国離れ」をアピールするという持って回った構図になっています。「中国の覇権主義に反対である。場合によってはこの核は対中国の威嚇にもなる」という意味合いだったのでしょう。

2011年金正日氏がの遺体を載せた車につきそう金正恩氏(一番手前)

2011年に父。金正日総書記の死によって、北朝鮮の最高指導者の地位を継承した金正恩・国防委員会第一委員長、朝鮮労働党第一書記は、当初、父から後見としてつけられていた実力者、高官、側近らの粛清を続け、2016年以降、ほぼ国内に対抗勢力がいない状況になりました。私は、ここで彼は、ようやく中長期的な国自体のテーマに取り組むようになったと見ています。

その課題は、言うまでもなく絶望的な状況にある経済の立て直しです。それまでも、現在も北朝鮮をあらゆる意味で支えているのは中国ですが、その中国にいろいろ求めても、これまではかばかしい結果が返ってきませんでした。

金正恩第一書記は、中国の対北援助の基本方針が「生かさず殺さず」であると見切ったようです。そのため、他から援助を引き出そうとしているのでしょう。

金正恩・第一書記はこの間、側近に対し「中国は100年の敵」と言ってはばかりませんでした。2016年あたりにも、「中国相手でも臆することなく強気に出なければならない。中国がアメリカに同調し、制裁を加えるというなら、北京に核ミサイルを撃ち込むことも辞さない」という内容の話を側近にしたという情報もあります。もちろん、オフレコの内輪話ということだが、当然、中国の耳に入ることは計算の上だったのでしょう。

さらに、金正恩は当時北朝鮮ナンバー2といわれた、叔父の張成沢を処刑しています。これは、張成沢氏が中国と親しい関係があったことが関係しているといわれています。

処刑される直前の張成沢、顔と手に殴られたようにあざがある

北朝鮮がもっている唯一の対外交渉カードは、いうまでもなく核・ミサイル開発です。国際社会は、経済制裁を解き援助を行う条件として、必ずイランのように核開発を放棄することを求めています。

しかし、核を手放せば少なくとも現体制は外からの圧力、特に中国からの圧力で潰されることになります。北朝鮮、もしくは金正恩・第一書記がとりうる手段は、これまで通りの対外恐喝路線しかないのです。

しかし、2016年以降はそれまで通り、米国、そして韓国、日本にだけ向かっているわけではないのです。先の側近へのコメントだけではなく、「水爆」、SLBMを振りかざしたのも、同じ意味があります。

これまで開発した通常核ですらミサイル搭載が不確かであるのに、それよりも重い弾頭を用意しようとしていました。さらに、北朝鮮の通常動力型潜水艦では行動範囲が限られているにもかかわらずSLBMを保持しようとしています。

これらがもし開発に成功したとして、その標的はどこなのでしょうか。米国などはとても無理で、近国しかありえないです。これらの一連の開発は、米国にとってはほとんど影響のないものですが、中国にとっては直接的な脅威になるのです。

中国を標的にする背景には、南シナ海問題で、国際社会、特に米国の中国に対する風当たりが強くなっていることがあり、これに同調する姿勢をとることで少しでも自らの立場に正当性を付加しようとしていること、さらに、経済問題などの内部環境から見て、中国が今、北朝鮮を潰しかねないような厳しい制裁を行うことができない、と見切っていることがあるようです。

中国の対北朝鮮政策は、2016年以降岐路に立つことになったのです。このような「狂犬」に出会って、棍棒で叩きのめすべきか、避けて通るべきか、中国側が思い悩んでいるのは確かです。

中国は、このまま北朝鮮を放置すれば、韓国、台湾、日本と核開発ドミノが起きる可能性を懸念しています。さらに、2016年以降、米国、日本が、対北朝鮮封鎖のために軍事力を朝鮮半島周辺に集中し始めており、このことも、中国の安全保障に悪影響を与えるという理由で、中国国内では北朝鮮に対し強硬に出るべきだという意見が強くなっていました。

しかし、現実には今、北朝鮮は、隣国が大混乱に陥るような強硬手段をとる余地がないほど、足下の経済問題が深刻だとみて良いです。中国は当面、慎重な態度をとり続けなければならないようです。

中国はこれまで北朝鮮の核・ミサイル問題を「対米交渉カード」に利用してきました。ところが今や「飼い犬に手を噛まれる」の格好になっています。中国への核・ミサイル威嚇は北朝鮮の「対米交渉カード」となったのです。

2016年6月、ムスダンとみられる弾道ミサイル発射実験の様子

そうして、昨年米国は本格的に対中国経済冷戦に踏み切りました。この動きは、超党派の米国議会も同調した動きであり、次の大統領トランプであろうが、なかろうが、米国は中国が体制を変えるか、経済的にかなり弱体化するまで、制裁を続ける腹です。

そうして、その後米朝会談が開催され、今年の2月下旬には第二回米帳会談が開催される予定です。

この会談では金正恩は核の即時完全放棄ではなく、「核実験の無期限凍結」という、核カードを決して手放さない形の妥協と引き換えに、中・長期的な経済援助を引き出そうとするでしょう。

しかし、中国まで核恐喝の標的にしたことで、北朝鮮の現体制を取り巻く環境がさらに厳しいものになったことは確かです。

私としては、トランプ政権としては、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しにされることは十分にあり得ることと思います。

米国にとっては、北朝鮮の核によって、中国に従属しようとする韓国を含む朝鮮半島に中国が浸透することを防ぎつつ、対中国冷戦をさらに継続するというのは、危険ではありますが、魅力的なシナリオでもあります。

私は、次回の米朝会談において、トランプ大統領は、金正恩がどれほど本気で中国と対峙するかを見極めた上で、今後の対中国冷戦の戦略を考える腹であるとみます。

日本としては、北の核は確かに日本にとって危機であることには違いないですが、それは中国の核とて危険であり、中国の核は北朝鮮の核よりはるかに日本にとって脅威であるという事実を思い起こすべきだと思います。

日本が周辺国の核に対処すべきことがらについては、昨日のこのブログにも掲載したので、ここでは詳細を記すことはしません。そちらを参照していただきたいと思います。

第二回米朝会談にて、北の非核化について、米本土に到達し得るようなICBMの廃棄を優先させ、中国や日本を射程とするような中短距離の弾道ミサイルが後回しされるようなことがあれば、日本としてはそれに対応しなければなりません。

日本としては、日朝首脳会談により、金正恩の腹を探ることがより一層重要になってくるものと思います。

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