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2019年6月12日水曜日

米国政府、日本人拉致の解決支援を初めて公式明記―【私の論評】今後日米は拉致問題に限らず様々な局面で互いに助け合うことになる(゚д゚)!

日本支援の継続を確約、北朝鮮に対する大きな圧力に


(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 米国政府が最新の公式政策文書で、北朝鮮による日本人拉致事件の解決への支援を明記した。トランプ政権の日本人拉致事件解決への支援はすでに広く知られてきたが、政府の公式の文書で明記されたことはこれが初めてだという。

 また同文書は同時に北朝鮮を「無法国家」と断じ、米朝間で非核化交渉を進めているにもかかわらず、同国が相変わらず日米両国にとって軍事脅威であることを強調していた。

公式文書で初めて日本への支援を明記

 米国国防総省は6月1日に「2019年インド太平洋戦略報告書」という公式政策文書を発表した。米国政府としてのインド太平洋地域の安全保障や脅威への認識と、政策、戦略を記した文書である。56ページから成るこの報告書は、インド太平洋地域で米国にとって脅威となる勢力を「挑戦(チャレンジ)」という表現でまとめ、中国、ロシア、北朝鮮の3カ国を挙げていた。

 同報告書でとくに注目されるのは、北朝鮮の扱いだ。まず冒頭で北朝鮮を "Rogue State" (無法国家)と表現している。 "Rogue" は法律や規則を守らない無法者、悪漢という意味で、国家としては国際規範を順守せず国家テロに走るような国を指す。 "Rogue State" とは、いわば「ならず者国家」である。



 同報告書は北朝鮮に関する記述のなかで、日本の拉致問題に関する米国政府の立場を以下のように明記していた。

「米国政府は、北朝鮮が日本人拉致問題を完全に解決しなければならないとする日本の立場への支援を継続する。実際に日本人拉致問題を北朝鮮当局者に対して提起してきた」

 簡潔な記述ではあるが、北朝鮮当局による日本人拉致事件を「完全に解決せよ」とする日本側の主張を米国政府は支援し続ける、という明確な政策表明だった。

 日本人拉致事件に関して、これまで米国のトランプ政権は事件の解決に向けて日本を支援する意図を表明してきた。大統領自身が国連演説でその事件の悲劇と早期の解決を求めたほか、金正恩委員長との2回の米朝首脳会談でも、合計3回にわたり日本人拉致事件に言及し、その早期の一括解決を要求したという経緯がある。

 これまで米国の歴代政権が政策表明の公式文書に日本人拉致事件解決への支援を明記することはなかった。しかし、トランプ政権は初めて明記することとなった。

 米国政府の日本人拉致問題への対応に精通している日本側の「救う会」の副会長の島田洋一氏は、「米側の支援が政府の政策文書にきちんと書かれた例は、私の知る限り初めてだ。とくに米国政権全体のアジア太平洋地域への安全保障政策の表明という重要な文書に明記されたことは、トランプ政権の東アジア政策の一部に日本人拉致事件解決を位置づけたことの熱意と真剣さを表わす指針として重視したい」と述べた。

 トランプ政権は北朝鮮に完全な非核化を求めている。そうした基本政策の一部に、日本人拉致問題の完全解決を盛り込んでいるという姿勢が明示された。北朝鮮側にとっては、日本人拉致の解決を対米交渉での議題として受け止めざるをえない状況が生まれたともいえる。

「日本支援」明記が北朝鮮へのさらなる圧力に

 なお、国防総省は今回の「インド太平洋戦略報告書」で、トランプ政権があくまで北朝鮮の完全な非核化を求める政策を継続する一方、その要求に応じない北朝鮮は米国とその同盟諸国にとって安全保障上の挑戦であり、脅威であり、さらには無法国家である、という認識を強調していた。その記述は以下のとおりである。

 「朝鮮民主主義人民共和国は、金正恩委員長が誓約した最終的かつ完全で検証可能な非核化を達成するまでは、米国、そしてグローバルな秩序、米側の同盟諸国、友好諸国にとっての安全保障上の挑戦者、かつ競合相手であり続ける」

「北朝鮮の核兵器問題を外交的に解決する平和への道が開かれてはいるが、核兵器以外の大量破壊兵器、ミサイルの脅威、そして北朝鮮がなお突きつける安全保障上の挑戦は現実であり、継続した監視体制を必要とする」

「北朝鮮はこれまでイランやシリアのような諸国に、通常兵器、核兵器技術、弾道ミサイル、化学兵器材料などを継続して拡散してきた。その歴史は、米国側の懸念をさらに深めている」

「さらに、国民に対する個人の表現の自由の禁止など、北朝鮮政府の苛酷な人権弾圧と虐待は国際社会にとって深い懸念の対象となっている」

 以上の記述は、トランプ政権が対北朝鮮政策として、なお北朝鮮にCVID(完全で検証可能、非可逆的な非核化)を求め、核兵器以外の通常兵器の開発や大量破壊兵器の国外拡散、さらには自国民に対する人権弾圧も中止させるという厳しい姿勢で対決していることを示したといえる。そのなかでの日本人拉致事件の解決支援の宣言は、北朝鮮へのさらなる圧力とも受け取れる。

【私の論評】今後日米は拉致問題に限らず様々な局面で互いに助け合うことになる(゚д゚)!

拉致被害者家族と面会し、挨拶する安倍首相=5月19日午後、東京都千代田区

「拉致問題で総理大臣になった」と言われても過言ではないほど、安倍総理は拉致問題に力を入れ、また積極的に発言をしてきました。その中から象徴的発言を8つ挙げ、今回の無条件対話提唱が決して「苦肉の策」等ではなく、北朝鮮に対する明確なメッセージであったのかを明らかにしていこうと思います。

▲「北朝鮮は重油も止められ、食糧も不足し、核問題で外交的にも孤立しているので必ず折れてくる、時は日本に味方している」

これは17年前の2002年10月、官房副長官時代の発言です。結局のところ、北朝鮮は折れず、日本が先に折れることになりましたが、今後制裁はますます強まり、17年も継続したあげく、いよいよ時は日本の味方になりつつあります。

▲「北朝鮮の善意を期待しても動かない。彼らを動かすのは圧力のみで、経済制裁法案を通したら拉致被害者5人の家族が帰ってきた」

これは15年前、安倍総理が幹事長代理(2004年)の座にあった時の発言(12月2日)です。今後の北朝鮮への日本の圧力は、過去のオバマ政権の頃とは異なり、トランプ政権の後ろ盾もあり、今後ますます北朝鮮への圧力が高まることを金正恩は覚悟しなければならなくなりました。

▲「拉致に対して北朝鮮が誠意ある対応を取らなければ日本が何か出すことは基本的にはない」

第一次安倍政権時代の2007年2月5日、総理官邸での発言です。北朝鮮は今でも拉致問題で誠意ある態度を取っていませんが、結果として日本が北朝鮮にボールを投げ、彼らが先に動かなければならなくなりました。さらに、トランプ大統領は北朝鮮が核を放棄した後の支援は直接米国が行うことはないと公表しています。それは、日本に任せようとしているようです。そうなると、北朝鮮にとっては、将来は経済支援は日本が頼みということになります。

▲「今、国会を解散して選挙がスタートしようとしている時にこういうこと(日朝交渉)を持ち掛けるのは、明らかに北朝鮮に足元を見られる以外のなにものでもない」

民主党政権下の2012年11月、野党・自民党の総裁として安倍総理は、北朝鮮に交渉を呼び掛けた野田政権を痛烈に批判していました。今回も2か月後には参議院選挙が控えています。今度は、安倍総理のほうから、金正恩にすでにボールを投げています。金正恩は、このはじめての事態にどのように対応すべきか、考えあぐねていることでしょう。下手に対応すれば、今度は米国の軍事制裁もあり得ることになってしまったのです。

▲「北朝鮮がこれまで約束を守ったことがなかったことに注目しなければならない。だから、強い圧力が交渉のために必要だ」

第二次安倍政権下の2012年12月28日、拉致被害者家族会との面談の席で、圧力の姿勢でもって、解決にあたりたいと強調していましたが、今回、金委員長との首脳会談実現に向けて「圧力」という言葉をあえて使いませんでした。これは、わざわざ「圧力」という言葉をつかわなくても、日本の拉致交渉の背後には米国が控えているということで十分すぎるほどの圧力なるからであると推察できまます。

▲「対話のための対話は意味がない。金正恩と握手するショーを見せるための会談であってはならない。結果を伴わない会談は相手を利するだけだ」

これは2年前の2017年3月夕刊紙「フジ」(13日付)とのインタビューでの発言だい。対話のための対話はやらないと繰り返し言っていましたが、今回はすっかり金正恩にボールを投げ、どう投げ返してくるかを見ることになりました。まさに、立場が逆転しました。

▲「対話による問題解決の試みは、一再ならず、無に帰した。なんの成算あって、我々は三度、同じ過ちを繰り返そうというのでしょう。北朝鮮にすべての核・弾道ミサイル計画を完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法で、放棄させなくてはなりません。そのため必要なのは対話ではない。圧力なのです」

一昨年(2017年)の国連総会での演説(9月21日)で世界各国に対して対話による問題解決ではなく、圧力による解決を呼び掛けていました。金正恩は、今後の会談は対話ではなく、重大な取引になるであろうことを覚悟したことでしょう。

▲「日朝首脳会談は拉致問題の解決につながらなければならない。ただ会って1回話をすればいいということではない」

昨年5月のフジテレビの番組での発言です。日朝首脳会談は拉致問題の解決を前提にしていましたが、今回は、そうした前提を付けずに無条件対話を呼び掛けました。ここでも、金正恩はポールを投げかけられた形となり、自らが何らかの対応しなければならなくなりました。これまでとは明らかに立場が変わったのです。

持久戦と長期戦という名の「日朝の綱引き」の果に結局のところ、毅然たる外交を標榜していた安倍政権がとうとう金正恩にボールを投げ、どのように投げ返してくるのかをみて、米国と協議しながら、対応を決めることになったのです。

こうなることは、金正恩もわかっていたでしょう。それについては以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
ついに「在韓米軍」撤収の号砲が鳴る 米国が北朝鮮を先行攻撃できる体制は整った―【私の論評】日本はこれからは、米韓同盟が存在しないことを前提にしなければならない(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部をこの記事から引用します。
 トランプ大統領とその夫人は、皇居で天皇陛下やご家族と親しく交わった。横須賀では、安倍晋三首相夫妻と海上自衛隊の空母型護衛艦「かが」に乗艦。その後、大統領夫妻は米海軍の強襲揚陸艦「ワスプ(Wasp)」にヘリコプターで移動した。
天皇陛下とトランプ大統領

 太平洋戦争で空母「加賀」は真珠湾攻撃に参加し、ミッドウェー海戦で米海軍の急降下爆撃機によって沈められた。先々代の米正規空母「ワスプ」は第2次ソロモン海戦で伊19潜水艦の雷撃を受けて大火災を起こし、総員退艦後に自沈した。 
 太平洋の覇権をかけ死に物狂いで戦った2つの海洋国家が、固く結束し共通の敵に立ち向かう意思を表明したのだ。もちろん「共通の敵」の第1候補は北朝鮮である。 
 在韓米軍撤収の号砲が、日米の運命的な結束誇示の直後に始まったことも、金正恩委員長の目には、さぞ不気味に映っていることだろう。
このトランプ大統領の行動は、戦後はじめて米国の大統領により、大東亜戦争(米側では太平洋戦争)の米大統領による精算ということができると思います。そうして、それは何のためかといえば、全世界、特に北朝鮮・中国・ロシアに対する日米の結束ぶりをアピールするものです。

そうして、日米首脳会談で安倍総理とトランプ大統領は拉致問題についても話あったでしょう。そうして、トランプ大統領は、拉致問題に関して協力する旨を約束したことでしょう。その結果として最初に現れたのが、公式の文書で明記ということだったのでしょう。

今後、さらにこの協力は様々な方面でなされていくことでしょう。金正恩が感じたであろう不気味さはまさに的をいたものとなりました。

今後日米は拉致問題に限らず様々な局面で互いに助け合うことになるでしょう。

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