2018年2月21日水曜日

【国防最前線】政府は部隊・装備の必要性示せ 100%安全な乗り物なし、事故があればひたすら謝罪では…―【私の論評】政府は、装備品の調達システムを変更せよ(゚д゚)!

【国防最前線】政府は部隊・装備の必要性示せ 100%安全な乗り物なし、事故があればひたすら謝罪では…

沖縄県うるま市・伊計島の砂浜に不事着した米軍UH1ヘリコプター=今年1月
 佐賀県での陸上自衛隊ヘリコプターの墜落事故後、政府関係者は平身低頭で、ひたすら謝罪をしている。腫れ物に触るようにわびている姿に、口には出さないまでも憤りを感じている自衛官が全国に少なからずいる。

 「なぜ、殉職した隊員に対する弔意を表さないんだ」と。

 これには、「民間人に多大な被害と迷惑をかけたのだから、当たり前だ」「関係議員や防衛省の苦労を分かっていない」と反論したい関係者もいるだろう。

佐賀県神埼市の民家に陸上自衛隊の戦闘ヘリコプターが墜落した事故で、陸自は7日、墜落現場付近で、
現場検証を続けるとともに、落下した部品などの回収を始めた。写真後方はヘリが墜落し炎上した民家
 事実、基地や駐屯地を置いてもらうということは長年にわたる交渉努力と、防衛予算の中から多大な金額を割いて折衝してきた成果である。だが、悔しい、やりきれない気持ちは隊員たちの偽らざる本音である。政治的な事情など知らない隊員には、政府の姿勢は非情にしか映らない。

 私が事故がある度に感じるのは、国が装備などの安全性を約束しようとするのは無理があるということだ。安全性を追求することは大事だが、その部隊や装備がなぜ必要なのかという「必要性」は、ほとんど語られない。あたかも自衛隊や米軍は迷惑なもので、地元に我慢して置いてもらっているかのようだ。

 防衛予算における基地対策費は多額で、米軍だけでなく地方自治体の要望に応じているものも多い。いずれにしても、訓練の必要性が語られないまま、事故が起これば飛行停止ということを繰り返せば、操縦士や整備員の練度をどう保てばいいのか。100%安全な乗り物などなく、高い安全性を証明できたとしても不安を持つ人がいる限り、理解は得られない。

 一方、米軍機による事故も多発している。米政府監査院などは「訓練時間の不足」「部品が間に合わず整備不良になっている」といった調査結果を公表している。第7艦隊や海兵隊、空軍も、同様の結果となっている。原因は、オバマ政権時代の大幅な予算削減であることは明確なようだ。

 朝鮮半島危機や南シナ海で中国の活動が活発化していることで、警戒・監視の実任務が増えているのに、人や部品が足りないという。

 同じことが自衛隊にも起きている。今回の事故原因と結びつけることは避けたいが現実である。

 佐賀の墜落現場では、自衛隊による機体の回収が続けられている。いつものような災害派遣ではなく、「加害者」となった自衛隊にお礼を言う人もいない。田畑も私有地であれば所有者を探し、お願いすることから始めなくてはならず、途方に暮れる作業だ。

 だが、もし予算不足と任務増加が、日米ともに事故多発につながっているとしたら、彼らは「被害者」である。無意識の加害は他にもあり、航空機が予防着陸すると騒ぎ立てられるが、それに躊躇(ちゅうちょ)して事故になったら、誰が責任を取るのか?

 そうならぬよう、政府には「謝罪よりも必要性の説明」を求めたい。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家。1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。テレビ番組制作などを経て著述業に。防衛・安全保障問題を研究・執筆。著書に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛官の心意気-そのとき、彼らは何を思い、どう動いたか』(PHP研究所)など。

【私の論評】政府は、装備品の調達システムを変更せよ(゚д゚)!

上の記事では、装備品の説明責任を果たしていない政府の責任を追求していましたが、自衛隊の装備品に関しては、その調達方法そのものにも問題があります。

8月31日、防衛省は来年度予算の概算要求で、過去最大となる5兆2551億円の計上を決定しました。昨今は概算要求から漏れた装備を当年度の補正予算で購入することが慣例化しており、昨年度の補正予算は約2000億円でした。本年度補正予算を含めると来年度の実質的な防衛予算は5兆5000億円近くなる可能性があります。

では、膨らみ続ける防衛予算は適正に使われているのでしょうか。  

課題は多いです。たとえば自衛隊では米軍と同じ機関銃(ベルギーのFN社のMINIMIをライセンス生産したもの)を採用しています。これは型式が古いうえに、品質的にもオリジナルより劣っているのですが、米軍の10倍の単価約400万円を支払って調達しています。防衛予算を増やす前に不要な支出を抑える努力をすべきでしょう。

諸外国ではどのような装備をいつまでに、いくつ調達を完了し戦力化し、その予算はいくらになるという計画を立てます。議会の承認も必要です。ところが防衛省・自衛隊の調達ではほとんどそれがないのです。

装備にしてもどれだけの数をいつまでに調達・戦力化し、総予算はいくらになるかを明記した計画がなく、国会議員もそれを知らないのです。各幕僚監部内部では見積もりを出してはいるのですが内輪での話であり、議会が承認しているわけではありません。

国会はその装備がいつまでに、いくつ必要で、総額がいくらかかるかも知らずに、開発や生産に許可を与えているのです。このため調達自体が目的化して、いたずらに長期化することになります。

最近の事例では、陸上自衛隊が3月から導入する新しい制服が、全隊員への配布を終えるまで約10年かかることが今月19日、分かりました。15万人分を一括でそろえられるだけの予算確保や生地の調達ができないためですが、陸自隊員には時間がかかりすぎることへの不満や士気の低下への懸念が広がっています。自民党国防族も問題視しており、防衛省に調達計画を前倒しして配布期間を短縮するよう求めています。


これは、たまたま制服の事例ですが、日本で小銃の調達ですら、このような曖昧なことが行われています。

具体例として89式小銃を見てみましょう。1989年に調達が開始された89式小銃は28年経った2017年現在まで調達が完了していません。それでも調達計画がたとえば30年と決まっているならまだしも、それすらも決まっていないのです。諸外国では小銃の更新は6~8年程度、長くても10年ほどです。この少量調達をダラダラ続けているために89式小銃の調達単価は40万円と、同時代の他国の小銃の7~8倍にもっています。

89式小銃
ドイツの状況をみると、日本との差が明確に浮かび上がります。ドイツ連邦軍は現用のG36小銃の更新を計画していますが、12万丁の新型小銃を2019年4月から2026年3月までの7年間で調達する予定で、予算は2億4500万ユーロ(約300億円)と見積もっています。

ただし、2015年にはこのG36が、連射による過熱によって命中精度が著しく低下するという問題について、製造元H&K社・国防総省・軍の3者間で緊張が高まっていました。軍・国防総省は2015年4月の再監査において欠陥は自動小銃の設計上の問題であるとし、これにH&K社は強く反論していますが、2015年7月7日、軍の調達本部(Bundeswehr-Beschaffungsamt)は、H&K社に対し納入分全17万丁の引取りないしは改修を命令するよう裁判所に申し立てていました。これに対しH&K社は同日、国を相手取り「欠陥は認められない」と反訴していました。

ドイツ連邦軍の現用のG36小銃
業者からすれば、一つの小銃の採用が決まればドイツのように短期のうちに、納入するというのであれば、莫大な利益になることは間違いありません。そのため、このような問題も生じるという問題もあります。

ドイツでは新しい小銃の候補はこれから絞られますが、光学照準器や各種装備を装着するためのレールマウントを装備し、同じモデルで5.56ミリおよび7.62ミリNATO弾を使用する2種類の小銃を調達すことになっています。

フレームの寿命は最低3万発、銃身寿命は1万5000発(徹甲弾は7500発)以上が求められています。調達予算には光学サイト&ナイトサイト、メカニカルサイト、銃剣、クリーニングキット、サプレッサー、通常型弾倉とドラム型弾倉、二脚、フォアグリップ、ダンプポーチ、輸送用バッグが含まれており、オプションとして射撃弾数カウンターと2連装弾倉ポーチが挙げられています。こういう情報が、入札が行われるはるか前に公開されているのです。

それに対して日本はどうなのでしょうか。防衛省・自衛隊は国会にこの程度の情報すら公開していないのです。89式に関して国会議員は何丁が、いつまでに、総額いくらで調達されるかも知らないのです。このような過剰な秘密主義は民主主義国家の「軍隊」ではありえないです。防衛省や自衛隊の情報に対する考え方はむしろ中国や北朝鮮に近いかもしれません。

ドイツ連邦軍は、日本の89式調達単価の6割の予算、4分の1以下の期間で、最新式の小銃と豊富なアクセサリーをそろえることができるのです。かつてドイツ連邦軍が旧式のG3小銃がG36に更新したときもおおむね7年程度で終了しています。これが「普通の国」の調達なのです。残念ながら防衛省・自衛隊にはこのような「計画」が存在しません。

なぜ「計画」が存在しないのでしょうか。原因は防衛省・自衛隊の装備調達人員が諸外国に比べて圧倒的に少なく、業務の質も高くないことにあります。このために当事者能力が欠如し、調達のあり方が「無計画」にならざるをえないのです。

たとえば主要装備などの仕様書をメーカーに丸投げしているのは公然の秘密です。競争入札で特定の企業が仕様書を書けば、当然自社に有利な仕様書になります。これでは競争入札の意味がありません。また調達されている装備が適正かどうかをチェックする人員もいないのです。

防衛装備庁の人員は総兵力24万7000人に対して約2000人だ。他国の国防省や軍隊と単純比較はできないが、予算規模や人員の規模が近い英独仏などの主要国の国防省と比べると、人員が1ケタ少ない状況です。

総兵力15万5000人の英軍を擁する英国防省の国防装備支援庁の人員は約2万1000人(対外輸出関連部門はUKTI、通商投資庁に分離統合されたので、実態はさらに大きい)です。兵力がわずか2万2000人のスウェーデン軍の国防装備庁ですら3266人を擁しています。自衛隊の調達人員がいかに少ないかがわかるというものです。

スウェーデン国防軍最高司令官の日本訪問 平成27年3月2日(月)
人数が少ないだけではありません。そのうえ効率も悪いです。これは先述のように自衛隊の装備調達が長期にわたって少量ずつ行われるためです。諸外国が5年ほどで完了する調達を20年かけて行っていたりするのです。

仮に調達ペースが諸外国の1万人に対して1000人、調達期間が4倍だとしましょう。装備調達というものは1個調達しようが1000個調達しようが、同じ人員が拘束されるのです。そのため防衛省の調達人員の生産性は諸外国の4分の1程度になります。つまり1000人の人員は250人しかいないのと同じです。これは10倍の人員の差が実に40倍になってしまう計算です。

効率が悪いために、東京・市ヶ谷の防衛省、防衛装備庁、内局、自衛隊の各幕僚監部の調達担当者は極めて忙しく仕事をしています。帰宅は恒常的に遅く、防衛省に寝泊まりすることも少なくないです。各部隊など地方調達の担当者も同様です。長時間の過重労働が恒常化しています。調達システムに問題があり、生産効率が低いためです。システムの構造的な欠陥を現場のガンバリズムで支えているのが現状であり、調達システムを見直すような余裕はありません。

効率的な調達システムを採用し、調達期間を短縮するだけで、人員を増やすことなく、現在の調達人員を数倍に増やすのと同じ効果を得ることが可能なのである。調達改革を早急に行うべきでしょう。

自衛隊というと、最新式の装備の導入が話題になったり、憲法改正のことばかりが話題になりますが、装備品の必要性に関する説明責任がじゅうぶんなされず、さらに調達方法がこれだけ歪なのですから、まずはこのあたりを大改革を行うべきです。

まずは、政府としては防衛大綱に直接結びつく、自衛隊の装備品に関してそれがなぜ必要なのか、説明責任を果たすとともに、装備品の調達システムも変更して、効率をあげるべきです。

仮に、最新鋭の装備品が導入され、憲法が変わったにしても、このあたりが変わらなければ、何も変わらないのです。私は、自衛隊に関しては憲法改正の前にやるべきことは、山積していると思います。

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2018年2月20日火曜日

中国と延々と渡り合ってきたベトナムに日本は学べ もしも尖閣で紛争が起きたら日本はどうすべきか―【私の論評】緒戦での大勝利と、国際政治のパラドックスを迅速に最大限に活用せよ(゚д゚)!

中国と延々と渡り合ってきたベトナムに日本は学べ もしも尖閣で紛争が起きたら日本はどうすべきか


 ベトナムは中国と国境を接し、有史以来、何度も戦火を交えてきた。昨今の日中関係を考える時、その歴史から学ぶところは多い。

 ベトナムは長い間中国の支配下にあった。その支配は漢の武帝(前141~前87年)の頃に始まり、約1000年間続いた、しかし、唐が滅びて五代十国と言われる混乱の時代を迎えると、その隙をついてベトナムは独立した。938年のことである。

 ただ、その後も、宋が中国大陸を統一するとベトナムに攻め入った。その際は、今でもベトナムの英雄である李常傑(1019~1105年:リ・トゥオーン・キエット、ベトナムでは漢字が用いられてきた)の活躍により、なんとか独立を保つことができた。ただ、独立を保ったと言っても冊封体制の中での独立。ベトナムは中国の朝貢国であった。

李常傑
 中国大陸に新たな政権が生れるたびに、新政権はベトナムに攻め込んだ。朝貢していても安全ではない。相手の都合で攻めて来る。

 日本を攻めた元は、ベトナムにも船を使って攻め込んだ。たが、元は船を使った戦いは得意ではなかったようだ。日本に勝つことができなかったように、ベトナムにも勝つことができなかった。

 そんなベトナムが大きな危機を迎えたのは、明の永楽帝(1360~1424年)の時代。靖難の変によって甥から政権を簒奪(さんだつ)した永楽帝はなかなか勇猛な皇帝であり、武力による対外膨張政策を実行した。コロンブスよりも早く大洋に乗り出したとされる鄭和(ていわ)の南海遠征も永楽帝の時代に行われている。

永楽帝
 永楽帝の時代にベトナムは再び明の統治下に置かれる。しかし、永楽帝の死後、これもベトナムの英雄である黎利(レ・ロイ、1385~1433年)の活躍によって独立を回復している。

 その後、乾隆帝(1711~1799年)の時代に清がベトナムに攻め込むが、ベトナムは現在のハノイ・ドンダー区で行われたドンダーの戦い(1788~89年)において、大勝することができた。これは中国との戦いにおいて、ベトナム史上最大の勝利とされる。しかしながら、戦いに勝利したベトナムは直ちに使者を送って、清の冊封体制の下で生きることを約束している。

 中国とベトナムは1989年にもベトナムのカンボジア侵攻を巡って戦火を交えている。この戦争は、社会主義国同士の戦争として日本の進歩的文化人を困惑させたが、社会主義国の間では戦争が起こらないなどという話は神話だろう。歴史を振り返ってみると、ベトナムと中国は基本的に仲が悪い。

「中国は平和主義の国」は全くのウソ

 ベトナムの歴史から、以下のような教訓を引き出すことができるだろう。

(1)中国は新たな政権ができるたびに、冊封下にあるベトナムに攻め込んでいる。冊封体制の下にあるといっても安心ではない。「中国は平和主義の国であり、外国に攻め入ったことがない」などという話は全くのウソである。

(2)強い皇帝が現れた時に対外侵略が行われる。漢の武帝、明の永楽帝、そして清の乾隆帝の時に、大規模な侵略が行われた。そして、明の永楽帝が亡くなるとベトナムが独立を回復したことからも分かるように、中国との関係を考える際には「強い皇帝」がキーワードになる。

(3)実は中国軍は弱い。小国ベトナムを相手にして、ここ1000年ほど負けっぱなしである。特に船を用いた戦いに弱い。大陸国であるために、船を乗りこなすのが苦手だ。現在のハロン湾周辺の河口域で行われた戦において、ベトナム側の同じような戦法に引っかかって何度も負けている。

(4)小国ベトナムは、勝利した後に素早く使者を送って、へり下る形で和睦している。冊封体制の下で生きることを選んだと言える。冊封体制下で生きることはメンツを失うことになるが、中国から派遣された代官の暴政にさらされることはなくなる。朝貢しなければいけないが、お土産を持って行けばそれに倍するお返しをもらえたことから、名を捨てて実を取る選択と言ってよい。

尖閣諸島をめぐる争いは緒戦が重要

 幸いにして、中国と日本の間には海があったために、中国大陸に新たな王朝ができるたびに攻め込まれるなどということはなかった。だが、近年は尖閣諸島を巡って対立が続いている。

 そんな日本にとって、ベトナムの歴史から学べる最も重要な教訓は、中国の攻勢は長期間続かないということである。強い皇帝が出現して対外強硬政策を採用しても、代が変われば政策は変更される。せいぜい30年ほど時間を稼げばよい。

 中国は大国、ベトナムは小国。だから、一度や二度、中国が部分的な戦いに負けたとしても、再度大軍を派遣すればベトナムを打ち破ることができたはずだ。しかし、中国は負けた際に再度大軍を派遣することはなかった。対外戦争に一度でも敗れると内政が不安定化して、大軍を派遣することが難しくなるためと考えられる。

 ベトナムはそこをよく見ていた。だから、ここ一番の戦いに全力を挙げて部分的な勝利を納めると、それ以上中国を追い込むことはしなかった。戦いに勝利するとすぐに和平の使者を派遣して、朝貢体制の下で生きることを選択した。

 面白いのは清の乾隆帝である。清がベトナムと戦ったドンダーの戦いは、ベトナムではベトナム史上最大の戦勝と言われている。しかし、先にも書いたようにベトナムが戦勝の直後に和平の使者を派遣して冊封下で生きることを約束したために、清はその戦いを乾隆帝の十大武功の1つとしている。清は、国内にはベトナムに勝ったと宣伝したのだ。ベトナムは乾隆帝のメンツを立てることによって、それ以降の戦いを避けた。

ドンターの戦いの錦絵
 尖閣諸島をめぐる争いでも、緒戦が重要になる。日本は緒戦に勝てるように十分に準備しておく必要がある。中国は緒戦に負けると、戦争を続けることが難しくなる。その機運を素早く読み取り、中国のメンツが立つようにして、和平に持ち込み実利を取るのが有効な対処法であろう。

 中国は秦の始皇帝以来、約2300年にわたり東アジアに君臨してきた大国であるが、大き過ぎるために、内政の取りまとめが難しい。そのため、国を挙げて他国と戦いを続けることができない。緒戦でちょっと負けると不満分子が政権を揺さぶるからだ。一方で、東アジアの歴史において常に大国であったために、メンツをとても重視する。そんな中国とは対峙するには、軍事的に隙を見せることなく、なおかつ中国のメンツが立つような外交を心がけるべきであろう。

 過去約1000年間にわたり、小国ベトナムは中国と陸続きで対峙しながら、その間、実際に中国に占領されたのは20年間という短い時間であった。その歴史から、学ぶところは多い。

【私の論評】緒戦での大勝利と、国際政治のパラドックスを迅速に最大限に活用せよ(゚д゚)!

米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも昔から大国は、小国に勝てないということを主張しています。確かに、そういわれてみればそうです。米国もベトナムには勝てませんでした。

ルトワック氏は、そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していないと主張しています。

ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。

周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからであす。

米国はベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。

しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けています。たとえば英国は朝鮮戦争で米国側を支援したのですが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。

米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまいました。

『戦争の恐怖』1972年6月8日、AP通信ベトナム人カメラマンだった、ニック・ウット氏撮影。
南ベトナム軍のナパーム弾で、火傷を負った子供らが逃げてくる場面を捉えたもの
つまり国というものは、強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。

近年、中国は香港で民主化運動に弾圧を加え続け、さらには激しい言論統制を行っています。北京側が今回、香港で誘拐したり投獄したりと極めて乱暴に振舞ったことで台湾国内の親北京派の力を削いでしまいました。

中国指導層にとって、香港は攻撃可能な「弱い」相手でもありました。それが台湾という「周辺国」の反発を生んだのです。

このあたりの詳しいことはルトワック氏の『戦争にチャンスを与えよ』をご覧になってください。

日本とベトナムとを比較すると、当然のことながら、経済でも軍事でも日本が大国であることは間違いありません。であれば、日本はベトナムから学べるところと、学べないところがあるということになると思います。

以下にルトワックの提唱する中国の戦略を振り返ってみます。

中国は、2000年代に入ってすぐに『平和的台頭』という戦略を採用しました。これは、他国と余計な摩擦や衝突を起こさずに国力を上げるという戦略です。これは、大成功を収めました。これをルトワックは「チャイナ1.0」と呼称しています。

しかし世界を震撼させた2008年のリーマン・ショックを機に「チャイナ2.0」へと大きくシフトした。これは、中国はもはや小国でなく、大国として積極的に攻勢に出るべきだという圧力が国内に充満したのを受けて、それを国家戦略にしたものです。

これは、明らかに大きな誤りでした。その後2014年になり、習近平政権が再び中国の戦略を変更しました。それが「中国 3.0」です。この戦略は選択的攻撃というものです。

戦略を変更するきっかけとなったのは、南シナ海で中国に対して強い抵抗を示したベトナムと、東シナ海で断固とした姿勢を貫いた日本だったとルトワックは指摘しています。

中国は、ベトナム、フィリピン、韓国などに対し、宥和政策を積極的に展開するとともに、日本には尖閣諸島付近で挑発を繰り返すなどの行動に出て、対中包囲網そのものに手を突っ込み、包囲網の分断を図ってきました。

中国は大国戦略をとって強く外にでたのですが、抵抗にあうことで立場が弱くなってしまったのです。このような国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムを、ルトワックは「パラドックス」と名づけています。

プレイヤーが競合関係にある場では、このようなメカニズムが常に発生しているのですが、中国はいまだそれを理解できておらず、不安定な国です。

そうして、ルトワックが提唱する「中国4.0」に関しては、習近平はそのような戦略はとれないとしていますので、ここでは解説しません。

いずれにせよ、当面日本は「中国3.0」の戦略をとり続ける中国と対峙しなければならなのです。

そこで、参考になるのがベトナムです。特に、「中国は大国、ベトナムは小国。だから、一度や二度、中国が部分的な戦いに負けたとしても、再度大軍を派遣すればベトナムを打ち破ることができたはずだ。しかし、中国は負けた際に再度大軍を派遣することはなかった。対外戦争に一度でも敗れると内政が不安定化して、大軍を派遣することが難しくなるためと考えられる」というところは参考になります。

緒戦で圧倒的な勝利を収めることが重要なのです。だから、尖閣諸島をめぐる争いでも、緒戦が重要になるのです。日本は緒戦に勝てるように十分に準備しておく必要があるのです。中国は緒戦に負けると、戦争を続けることが難しくなるのです。

これは、今でも同じでしょう。尖閣でも、緒戦の段階で日本が圧倒的な勝利を収めれば、未だ国内で権力闘争を継続している中国はその後戦争を続けることが難しくなるのです。

そうして、この緒戦の勝ち方については、ここでは詳細は述べませんが、これについてはルトワック氏も詳細を述べていて、このブログでも何度か紹介したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!
尖閣は自分で守れと主張するルトワック氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ルトワック氏も緒戦で勝利を収めるべきことを主張しています。以下にこの記事から一部引用します。

"
人民解放軍がある日、尖閣に上陸した。それを知った安倍総理は、自衛隊トップに電話をし、「尖閣を今すぐ奪回してきてください!」という。自衛隊トップは、「わかりました。行ってきます」といい、尖閣を奪回してきた。

こういう迅速さが必要だというのです。なぜ? ぐずぐずしていたら、「手遅れ」になるからです。ここで肝に銘じておくべきなのは、
「ああ、危機が発生してしまった。まずアメリカや国連に相談しよう」
などと言っていたら、島はもう戻ってこないということだ。ウクライナがそのようにしてクリミア半島を失ったことは記憶に新しい。(p152)
安倍総理は、「人民解放軍が尖閣に上陸した」と報告を受けたとします。「どうしよう…」と悩んだ総理は、いつもの癖で、アメリカに相談することにしました。そして、「国連安保理で話し合ってもらおう」と決めました。そうこうしているうちに3日過ぎてしまいました。尖閣周辺は中国の軍艦で埋め尽くされ、誰も手出しできません。
"
このような状況になってしまっては、もうどうしようもありません。中国はさらに後続部隊を送ってくることでしょう。そのうち、工科部隊を送り込み、基礎工事をして、その後には本格的に業者を送り込み、尖閣諸島を軍事基地化することになり、南シナ海と同じような状況になることでしょう。

だからこそ、緒戦が大事なのです。緒戦で明らかに日本が大勝利という形をつくってしまえば、習近平も国内で面子を失い、反対派が勢いづきその後、尖閣に兵を出し続けることは困難になります。

そうして、その後ですが、その後はベトナムの中国対応は参考になりません。特に「戦いに勝利するとすぐに和平の使者を派遣して、朝貢体制の下で生きることを選択した」というようなことは日本はできませんし、決してやってはいけないことです。

これは、小国であるベトナムだから通用してきた手であって、小国ではない日本などの国がとる手ではありません。このような手を打てば、中国は錯誤するだけです。

なぜなら、中国は巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っているからです。

そうして、中国が尖閣を攻めた途端に、国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムである「パラドックス」が生じているからです。

中国が大きくなり、日本の領土を攻撃したということにでもなれば、それに対抗しようとする同盟も大きくなります。中国が日本に対して本格的に圧力をかけようとすると、アメリカが助けに来るし、べトナム、フィリピン、それにインドネシアなども次々と日本の支持にまわり、この流れの帰結として、中国は最初の時点よりも弱い立場追い込まれことになります。これが中国の錯誤の核心です。

日本は、このパラドックスを最大限に利用すべきだし、利用すべくすぐに行動すべきなのです。これを実行するためには、過去のベトナムのようにすぐに和平に走ってはならないのです。

さらに、同盟を強化して、日本だけではなく同盟により中国に圧力をかけ、さらに中国を追い込み強力に包囲するのです。これによって、習近平の面子が潰れても全く気にする必要はありません。これにより、中国国内では、習近平反対派が勢いづき、再び権力闘争が激化します。


中国では、昨年の党大会までは、権力闘争が激化していましたが、現在は沈静化の方向にあります。しかし、習近平が尖閣奪取の挙にでて、それが大失敗したとなれば、習近平の面子は丸つぶれとなり、中国内では反習近平派(江沢民派など)が勢いづくことになります。

これは、主席が誰であろうと、尖閣を奪取しようとして、緒戦で大失敗すれば、同じことになります。

そうなれば、習近平は尖閣どころではなく、国内政治にエネルギーを割くことになります。中国の権力闘争は、日本などとは異なり、熾烈を極めます。下手をすれば、命を失います。そうなれば、尖閣の危機は遠のきます。

ここで、過去のベトナムのようにすぐに和平に走れば、習近平が国内政治を御しやすくするだけであり、再び尖閣どころか、今度は沖縄まで危機にされされることになりかねません。

日本は中国が尖閣を奪取しにきた場合は、当然緒戦で大勝利を収めるべきですし、それは日本にとっては十分可能なことです。ただし、そのために法整備などをしておく必要があります。私は、これは憲法を改正しなくてもできると思っています。

そうして、それだけに甘んずることなく、中国が尖閣を攻めた途端に、国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムである「パラドックス」を迅速にそうして、最大限に利用すべく普段から準備しておくべきなのです。

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2018年2月19日月曜日

無理筋だった韓国の五輪外交、北の時間稼ぎに利用される ぶれていない米国の強硬姿勢―【私の論評】長期では朝鮮半島から北も韓国も消える可能性も(゚д゚)!


平昌冬季五輪の開会式で韓国の文在寅大統領(左)と握手する北朝鮮の金与正氏=9日
 平昌五輪の開会式に北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の妹、与正(ヨジョン)氏らが出席し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が融和姿勢を示した。これによって核・ミサイル開発をめぐる米朝関係に何らかの影響が出てくるのだろうか。

 米国は、ペンス副大統領を平昌五輪に派遣し、「北朝鮮が核・弾道ミサイル開発を放棄するまで同国を経済的、外交的に孤立させ続ける必要があるとの認識」を強調した。ペンス氏は「問題は言葉でなく行動だ」と、北朝鮮の非核化に向けた具体的な行動を文氏に求めた。

 ペンス氏の行動ははっきりしていた。9日、文氏が主催した事前歓迎レセプションを事実上、欠席した。

 実は、ペンス氏と安倍晋三首相は、レセプション開始時刻を10分も過ぎて到着した。その後、ペンス氏はレセプション会場に入っても主賓の席に座らず、北朝鮮高官代表団団長の金永南(キム・ヨンナム)氏を除く要人と握手して、立ち去ってしまった。

レセプション場を着席することもなくわずか5分で出ていったペンス副大統領 
 韓国としては、レセプションの座席配置も米朝の了解を得ていたつもりで、同じテーブルでペンス氏と金永南氏が同席するだけでも絵になるともくろんでいた。しかし、米国がそれを認めるはずもなく、ペンス氏は、北との接触を回避するというより、平然と無視していた。

 一連のおぜん立ては文氏の平和演出であろうが、これは無理筋だ。北朝鮮側の事実上トップだった金与正氏は、米国の制裁対象者でもあり、米国としては無視するのは当然だ。

ペンス氏は、文氏に「米国は、北朝鮮が永久的に不可逆的な方法で核兵器だけでなく弾道ミサイル計画を放棄するその日まで、米国にできる最大限の圧迫を続ける」と伝えた。訪韓前に日本で安倍首相と行った首脳会談でも、「近日中に北朝鮮に最も強力かつ攻撃的な制裁を加える」と明らかにしたという。

ペンス米副大統領が、訪韓前に日本で安倍首相と行った首脳会談
 マティス米国防長官は、平昌パラリンピック(3月9~18日)の後に、軍事演習を再開することを明言している。

 一方、金永南氏は、文氏との会談において、米韓軍事演習などを中止し、訪朝を最優先とすることを要請したようだ。金正恩氏は、9月9日の北朝鮮建国50周年までに南北首脳会談を実現したい意向と伝えられている。

会談する韓国の文在寅大統領(右から3人目)と北朝鮮の金与正氏
(左から2人目)、金永南氏(同3人目)=10日午前、韓国大統領府
 はっきりいえば、これは北朝鮮の時間稼ぎである。北朝鮮の核・ミサイル技術はロシア製なので、進展度合いを技術的に読むことが可能だ。米国に到達する弾道弾について、実戦配備可能な技術的な時期はあと3カ月から6カ月以内というのが通説である。

 米国は、やられる可能性があれば、その前にやる国だ。平昌五輪前日、北朝鮮では軍事パレードを行い、「火星15」とみられる大陸間弾道ミサイル(ICBM)も披露したという。これは、米国人にとって「不穏な動き」と見られなくはない。北朝鮮に対し、「核を放棄せよ、さもないと叩く」という米国の姿勢は全くぶれていない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】長期では朝鮮半島から北も韓国も消える可能性も(゚д゚)!

平昌五輪という一大イベントを契機に南北関係が改善すること自体は、一見して評価して良いかのようにもみえます。しかし、露骨な政治利用が続くことに「もはや“平壌五輪”なのでは」といった声も聞こえてくるのが実情でした。そうして、この背後には、北朝鮮の並々ならぬ危機感がみてとれます。

そもそも、韓国と北朝鮮が融和したところで朝鮮半島危機は終息しません。重要なのは北朝鮮の非核化です。また、今回のアプローチは北朝鮮主導で行われており、仮に南北統一が実現するとしても、このままいけば北朝鮮が主導権を握ることになります。核を持つ北朝鮮と、アメリカに見限られかねない韓国を比較すれば明らかです。北朝鮮のほうが立場は上です。

これまで、日米は韓国を「反共の壁」として利用してきました。中国やロシアとの間の緩衝地帯であると同時に、日本海の安全を守るための橋頭堡という位置付けです。その代わりに、日本は韓国に膨大な資本投下や技術移転を行うことで発展を支え、いわば「自由社会のショーケース」として共存してきました。

しかし、韓国が北朝鮮に懐柔されるかたちで統一すれば、これらはすべて無駄になります。
地政学的に見れば、韓国は日本にとって非常に重要な位置にあり、日本海を軍事的対立線にしないための役割も担っています。しかし、韓国の国民が北朝鮮主導による南北統一を選ぶのであれば、日本にそれを阻止する手段はないに等しいです。ただし、米国は黙ってはいないでしょう。

かつて、日本の保守勢力と韓国の政界は深い関係を持っており、韓国の内政に日本の影響力を行使することもできました。しかし、現在はそうした人脈が失われつつあります。

すでに、世界は「平昌五輪後」の情勢を見据えています。欧米メディアからは「五輪が終わるまでは……」というフレーズが多く聞かれ始めています。振り返ってみれば、2014年のロシアによるクリミア侵攻もソチ五輪の閉幕直後でした。前述したアメリカの独自制裁も含め、五輪後に北朝鮮情勢に新たな動きがあったとしてもおかしくありません。

ロシアによるクリミア侵攻
平昌五輪終了後の半島情勢は以下のようなシナリオが考えられます。ただし、このシナリオ内でも大きなバリエーションのあるものになりそうです。

①北朝鮮の崩壊と新体制の確立 ②現状維持 ③朝鮮半島の合意一体化の3つです。②と③は北朝鮮の実質勝利です。日本や中国を含む多くの国は目先②を望むのでしょうが、それは案外、可能性が低い選択肢かもしれません。なぜなら、②は単なる北朝鮮の時間稼ぎに利用されるだけだからです。

ただ、現状維持とはいっても様々な事態が予想されるかもしれません。たとえば、米は経本格的に海上封鎖することになるかもしれません。それも中途半端なことはせずに、海上に機雷を敷設して完璧に封鎖ということも十分考えられます。場合によっては、北と中国の間の鉄橋などを破壊するかもしれません。こうなると、もう戦争状態です。

中国が描くシナリオは③である可能性が高いです。その場合、いったん韓国を左派色に染めて北朝鮮との色の差を薄くし、アメリカと韓国との色の差を強調するかもしれません。

一方、中国にとって日本は戦略的に重要な立場になるため、南京事変といった歴史問題は当面横に置いておき、日本とのコミュニケーションをスムーズにしておくことを推し進めるかもしれません。

日本の報道では日中関係改善と報じられていますが、外貨不足の中国による日本からの外貨誘導のための改善かもしれません。実質的には巧みに計算された政策です。日本政府ももちろん、それは理解していることでしょう。

仮に③のシナリオとなった場合、韓国の中で右寄りの思想の人たちが日本に渡ってくる可能性は大いにあります。

ただし、同じ③でも、米国主導により、北朝鮮・韓国の現体制抜きで、半島全体に新たな秩序をつくりだすということも考えられます。これについては、このブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
【日韓合意検証発表】交渉過程の一方的公表を韓国メディアも批判「国際社会の信頼低下」―【私の論評】北だけでなく朝鮮半島全体に新レジームが樹立されるかもしれない(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
現在の文在寅政権は、かなり親北的です。これは、日米からみると、北が米国の圧力に屈したり、武力攻撃で崩壊したしたにしても、韓国にその勢力が残存することになり、実質半島全体が北朝鮮になってしまうかもしれません。これはかなりやっかいなことになります 
中露からすれば、北朝鮮が一方的になくなれば、いずれ韓国が北の領域も併合することになるかもしれないという危機感があります。そうなると、今までは日米との間に北という緩衝地帯があったにもかかわず、それがなくなることを意味します。 
これは、日米中露にとっては良いことではありません。であれば、朝鮮半島全域を日米中露と他国をも含めた国連軍などで統治した後に、ここに日米寄りでも、中露寄りでもない中立的な新国家を設立するというのが最も望ましいかもしれません。 
しかし、北の後には、韓国を何とかしなければならないという機運は、日米中露の間で高まるのは間違いないものと思います。ただし、これはすぐにということではなく、北朝鮮崩壊後数年から10年後ということになるでしょう。
このように、長期では、半島全体に北朝鮮や韓国とは全く異なる、中立的な新国家を樹立ということになる可能性も十分あると考えられます。

また①のシナリオ、つまり斬首作戦はアメリカがどういう分析をしているかによるでしょう。仮に金一族を否定することが北朝鮮国民のマインドを喪失させるのか、かつての日本のように180度転換できるのか、その場合、誰かリーダーになれる人はいるのか、疑問だらけではあります。

つまり首を取るのは簡単でもその後の2500万の残された国民の対応は、結局のところ未だわかりません。ただし、今の国民は体制のことを考えることすら許されていません。であれば、それを考えることが許される体制への変化は受け入れやすいかもしれません。それに、リーダー足り得る人も存在すると思います。

平昌五輪・パラリンピック終了後の4月頃には米韓合同軍事演習や文大統領の来日も予定されていますが、今は春に向けて政治的駆け引きが活発化しています。

かつて、太平洋戦争前の1941年11月に「ハル・ノート」と呼ばれる交渉文書がアメリカから日本に提示されました。これは日本に中国およびインドシナからの撤退などを求める内容で、事実上の最後通牒とみなされています。

そして、要求をのめなかった日本は開戦へと突き進むことになったわけですが、今回の日米首脳の訪韓は、ある意味で韓国に向けた「現代版ハル・ノート」といえるのかもしれません。

かつて、アメリカの国務副長官リチャード・アーミテージが9/11直後、パキスタンが、アフガニスタンの盟友、タリバンを即座に裏切り、アメリカにアフガニスタン侵略の為のパキスタン内軍事基地の使用を認めなければ、「アメリカがパキスタンを爆撃して石器時代に戻してやる」とパキスタンの諜報機関ISI長官マフムード・アフメド中将を恫喝したとムシャラフは主張していました。

アーミテージ
今回もペンス副大統領がこれに近いことを文在寅に吹き込んだ可能性すらあるのではないかと私は睨んでいます。

そこまでいかなくとも、日米と中国との狭間で、どっちつかずのバランス外交をしていると、半島から北はもとより、韓国も消える可能性もほのめかしたしたかもしれません。そうして、それは日米だけではなく、中露も望んでいる可能性があります。

何しろ、ここ70年朝鮮半島は、各国にとって少しも良いことはありませんでした。今の状況は、北朝鮮は中露の同盟国とは言い切れない状況にあります。また、韓国が日米の同盟国ということも言い切れません。かといって、無論北朝鮮は日米の同盟国にはなり得ません。同じく、韓国が中露の同盟国となることも不可能です。

こんなことを考えると、日米中露が朝鮮半島全体に新たな秩序をつくりだすことには、それなりの意義と合理性があります。

いずれにしても、朝鮮半島には今までの常識では計り知れない何かがおこる可能性が大です。すべての可能性を除去することなく考えておくことによってのみ適切な対応が可能になるでしよう。これをきっかけに、日本も大きく変わる可能性もあります。

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2018年2月18日日曜日

FBI、孔子学院をスパイ容疑で捜査―【私の論評】今後の捜査でスパイ活動にかかわっていることがはっきりすれば日本も排除を検討すべき(゚д゚)!

FBI、孔子学院をスパイ容疑で捜査

アメリカの連邦捜査局(FBI)がアメリカ国内で活動する中国政府対外機関の「孔子学院」をスパイ活動やプロパガンダ活動など違法行為にかかわっている疑いで捜査の対象としていることが議会の公式の場で明らかにされた。孔子学院は日本の主要大学でも中国の言語や文化、歴史を広めるという活動を展開している。

クリストファー・ライFBI長官
この捜査の報告は2月13日、アメリカ連邦議会上院の情報委員会の公聴会でクリストファー・ライFBI長官自身によって言明された。ライ長官は同委員会の主要メンバーのマルコ・ルビオ議員らの質問に答えた。ルビオ議員は地元選挙区のフロリダ州での孔子学院は中国政府の命令により、アメリカの大学に影響を行使し、中国の共産主義思想などを広めるとともに、その関係者を使ってのスパイ活動までを働く疑いがある、と主張した。

マーク・ルビオ議員
ライ長官は次のような骨子の証言をした。

・中国政府はアメリカ国内の大学などに設けた孔子学院を利用して、中国共産党思想のプロパガンダ的な拡大だけでなく、米側の政府関連の情報までも違法に入手するスパイ活動にかかわっている容疑があり、FBIとしてすでに捜査を開始した。

・孔子学院は中国の言語や文化の指導を建前としているが、現実には中国共産党政権の指揮下にある機関としてアメリカなど開設相手国の中国留学生を監視し、とくに中国の民主化や人権擁護の運動にかかわる在米中国人の動向を探る手段とされている。

・中国側はアメリカでの学問の自由や大学の開放性を利用する形で主要大学などに食い込み、アメリカ人学生への思想的な影響行使のほか、中国人留学生をひそかに組織して民主化運動に走る中国人学生を取り締まっている。
孔子学院 出典:The Confucius Institute at The University of Manchester
アメリカでは孔子学院が全米的に広がりをみせた後、ここ数年はいくつかの大学で政治的な問題を起こし、閉鎖を命じられるケースも増えていた。シカゴ大学では大学当局が一度は学内に開設を認めた孔子学院を2014年に閉鎖した。だがFBI長官が公式の場で孔子学院自体を捜査の対象としていると言明したことの意味は大きい。

日本でも孔子学院は早稲田大学、立命館大学、桜美林大学など10校以上の主要大学に開設されているという。

古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

【私の論評】今後の捜査でスパイ活動にかかわっていることがはっきりすれば日本も排除を検討すべき(゚д゚)!

札幌においては、札幌大学内に「孔子学院」が設置されています。札幌大学では、2016年に、[札幌大学孔子学院設立10周年記念と銘打ち、中国・広東外語外貿大学学生芸術団の日本公演を開催しました。そのポスターが以下の写真です。
[札幌大学孔子学院設立10周年記念]中国・広東外語外貿大学学生芸術団の日本公演を開催します
クリックすると拡大します
札幌孔子学院では、ブログも解説しており、以下のような内容の記事も掲載されていました。

札幌大学孔子学院 / Confucius Institute At Sapporo University
「第12回日中経営フォーラム」が広東外大で開催され、「一帯一路」と企業の国際化を討議しました
2017年10月28日に「第12回日中経営フォーラム」が中国・広州市にある広東外語外貿大学北キャンパスの国際会議ホールで開催されました。今回のテーマは「一帯一路」と企業の国際化です。 
開幕式には、広東外語外貿大学副学長焦方太教授,華東理工大学商学院副院長李玉剛教授、札幌大学総合研究所所長・孔子学院院長輔佐汪志平教授などが出席しました。

当然のことながら、このフォーラムでは「一帯一路」の良い面ばかり協調した極悪な内容が喧伝されたのでしょう。

孔子学院については、以前からその存在のいかがわしさが指摘されていました。このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「孔子学院」にノー 米シカゴ大、契約打ち切り―【私の論評】中国の思想侵略にノーをつきつけたシカゴ大!学問の独立を守るということはこういうことだ。日本の大学も見習え(゚д゚)!
シカゴ大学キャンパス
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
米シカゴ大学は27日までに、学内の中国語教育機関「孔子学院」との契約更改交渉を打ち切ったと発表した。中国政府の方針に基づく運営が「学問や言論の自由を脅かす」として、多数の教授が連帯し、学院の閉鎖を求める運動が起きていた。名門シカゴ大の決定は、孔子学院を抱える他の大学にも影響を与えそうだ。 
大学の担当者によると、孔子学院との契約は9月末で切れるため、既に予算が拠出された講座や研究計画の終了後、閉鎖される公算が大きい。 
孔子学院は中国の「ソフトパワー」拡大の拠点として中国政府が全面的に出資し、世界各国の大学に開講されている。一方で運営をめぐるトラブルも相次ぎ、米大学教授協会は「中国政府の一機関」と批判、各大学に契約の打ち切りを促す声明を出している。
さて孔子学院がなぜ問題になるのか、そのヒントになる内容として、南開大学周恩来政府学院国際関係学部の韓召頴教授が2011年の季刊「公共外交(パブリック・ディプロマシー)」誌(秋季号)に、孔子学院設立目的を分かりやすくまとめているので以下に抄訳します。
 孔子学院は中国公共外交における重要な役割を担っており、中国外交の選択肢を大きく広げるものである。 
 20世紀の1990年代にはいると、中国の総合国力と国際影響力の増強スピードに比較して、各国の対中理解は乏しく、むしろ中国脅威論やその変種のチャイナリスク、中国崩壊論、中国分裂論などが広がっている。これらの対中観が一部の人間に意図的に扇動されているのでなければ、中国に対する理解不足、認識不足が原因である。この多くの国々が中国に対して持つ不安や心配を緩和・解消し、中国が平和と発展と協力の外交を行っているのだとアピールすることが、中国外交の新たな課題である。このため、公共外交が国家の外交政策における手段の一つとなる。 
 大衆の世論は国家の外交政策に影響する。いかなる国家・政府とも対外政策を決定するとき、国内の大衆世論を顧みるだけでなく、自国の国家利益に有利なように外国の大衆の世論を作ろう、あるいは誘導しようと試みるものだ。語学教育などの教育文化交流を通じた公共外交は、外国の大衆に自国国家の政治、経済、社会および文化を理解させ、支持を取り付けやすくする。このため、公共外交という外交政策の効果はますます明らかに重要度を増している。
表現は取り繕っていますが、孔子学院の設立の趣旨は、要するに漢語授業を通じて、中国当局に都合の良い中国の歴史や政治や経済・社会制度を理解してもらうことで、中国支持者を増やしていき、中国脅威論を解消していこう、という明確な政治目的を備えた外交政策だと、中国自身が認めているわけです。

語学の基本は丸暗記と暗誦です。丸暗記というのは、洗脳の定番の手法です。毛沢東語録も丸暗記させることで、学生たちを熱狂させました。大人ならまだしも、子供なら中国当局の思惑通りの中国イメージを植え付けることはできるでしょう。

そういう面もあるので、2010年2月に、南カリフォルニア州アシエンダでは、中学校の孔子教室開講を共産主義の洗脳だとして住民の抗議活動が起こったこともあります。地元教育委員会は9月、中学校に対する中国側の資金援助も教師派遣も拒否する決定をしました。

2011年7月、オーストラリアのシドニーでは7カ所の学校に開設された孔子教室の閉鎖をもとめる4000人の署名が地元議会に提出されました。テキストに天安門事件や中国の人権問題に触れていないことへの反発からだといわれています。

またカナダのナショナル・ポスト紙(2010年7月9日付)によれば、カナダ情報局が国民に対し、外国の諜報活動に気を付けるよう警告し、そのリストの中に孔子学院が含まれていました。

前アジア太平洋局責任者の作家、マイケル・ジュノー・カツヤが「孔子学院は慈善的理念で設立したものではなく、中国共産党の戦略の一部であり、諜報機関と関連のある組織から資金提供も受けている」とコメントしています。日本の大阪産業大学の事務局長も孔子学院を「文化スパイ機関みたいなもの」と発言し留学生から猛反発をくらい、平謝りしたことがあります。

ちなみに、孔子学院に否定的な動きのある地域が、中国からの移民が多い地域であることは偶然ではないでしょう。米国やカナダやオーストラリアなどの中国移民の中には文化大革命や天安門事件を契機に祖国を捨てた人も多く、普通の外国人以上に中国共産党アレルギーが強いです。

そういう人がわが子に「我是中国人、不是美国人」という例文を暗誦させられれば、洗脳か!と敏感に反応するのは当然のことと思います。

孔子学院が単なる語学学校でないことは、その資金の潤沢さからわかります。

孔子学院が海外に作られ始めたのは2004年。最初は韓国のソウルにできました。以来、世界各国に急速に増え続け、目下、世界106カ国に350カ所以上の孔子学院が設立され、500カ所以上の小中学校に孔子教室が開講されています。

孔子学院を管轄しているのは中国教育部傘下の俗に「漢弁」と呼ばれる国家漢語国際推進指導弁グループ弁公室ですが、世界のどこかに一つ孔子学院が開設するとなると、漢弁から準備金として10万ドルの資金が降りるといわれています。

しかも中国側はボランティア教師を派遣し、奨学金を出して留学プログラムも組んでくれるそうです。提携先の外国の教育機関としては、さほど予算がなくても、ほとんど全部中国側がやってくれるのでありがたいです。

漢弁は2010年までに孔子学院開設費用として5億ドルを投じたとしていますが、それ以外に毎年1校につき年間10万~15万ドルの運営費が投じられ、年間2000~3000人の派遣のボランティア教師には1人当たり1万ドル以上の手当てを出しているほか、数万人単位の外国人漢語教師の育成、教材の寄贈、各国における宣伝広告費も中国側が請け負っているといいます。年間平均予算は、ドルにして億単位と見られています。
1989年から始まった希望工程(中国国内の学校のない貧困地域に国内外の寄付によって学校を建てるプロジェクト)で集まった寄付金が2009年までの20年間で計約50億元(7.5億ドル)ということを考えれば、孔子学院に投入されているお金の多さが半端ではないことがわかります。

しかし、中国側にしてみれば、対象国の世論を自国に有利になるように誘導することは国家として当然の戦略であり、中国共産党がさんざん孔子を否定してきた歴史もさらりと忘れたふうに、孔子を持ち上げることにも矛盾も感じないのでしょう。

「毛沢東学院」じゃ外国人は誰も寄ってきません。中国が対外的にプラスイメージ発信に利用できるのはパンダが孔子ぐらいしかないのだからしかたないのかもしれません。

それを洗脳などと批判されることは彼らからすれば心外なのかもしれません。中国からみれば、それなら米国のフルブライト・プログラムだって洗脳だ、ということになります。

フルブライト・プログラムにも、親米派を育成し、米国の影響力を拡大する戦略性はあります。結局のところ、留学生の招聘や自国語学習者の拡大に、相手国の世論を自国に有利なものに導く公共外交としての政策性や戦略性を持たせることは「どこの国もやっている」当たり前のことでもあります。それを露骨に出すか出さないかだけの差かもしれません。

そもそも公共外交とは民間に直接しかけられた外交でもあります。カウンターパートは政府ではなく民間、つまり孔子学院を受け入れる教育機関であり、授業を受ける大衆なのです。政府が政策的にこれを退けることは、お角違いなのかもしれません。

だからこそ、こういう公共外交による“洗脳合戦”時代に大切なのは、民間の普通の人々の外交意識なのだと思います。自らが外交の担い手であり、孔子学院が公共外交の一種であるという意識を持って向き合えば、少なくとも一方的な「洗脳」ではなく、むしろ相手国の文化や思考を知った上で、いかに対処すれば自国に有利な外交ができるかを考えるようになることでしょう。

日本にも孔子学院は相当増えてきました。安価で中国語を勉強できる機会が得られるという点では良いともいえます。洗脳されるのか、外交的ライバルを研究する機会とするか、それはあなた次第ということかもしれません。

ただし、自我がまだまともに形成されていない、現代の若者は、洗脳ばかりされてしまい、外交的ライバルを研究する機会にすることはできないかもしれません。これには、学生自身というよりは、その親も関与すべきですし、その判断に委ねられるべきなのかもしれません。

何しろ、これは実際に有名大学に通われている息子や息子さんの複数の親御さん直に聴いた話ですが、最近の大学生の精神の発達度合いは遅れていて一昔前の高校生なみだということです。彼らを決して、昔の大学生並に扱ってはならないといいます。

確かに、私自身も、新入社員と話をするとそのように感じることも多いです。孔子学院で学ぶかどうかは、親御さんも参加して意思決定したほうが良いように私自身は思います。

とはいいながら、最近の若者はマスコミには印象操作されなくなりつつあります。彼らの多くは、情報の入手先がマスコミではなく、インターネットであり、自分で判断しながら情報を取捨選択しています。

そのような若者は、精神的に一昔前よりは脆弱なところもありますが、容易に印象操作は受けないという面が確かにあります。であれば、さほど心配する必要はないのかもしれません。かえって心配なのは、団塊の世代あたりかもしれません。孔子学院で中国語を学んでいる学生は、孔子学院で話される理想の中国と、現実の中国は違うということ前提としているのかもしれません。

そもそも、いくら精神的に多少脆弱であったにしても、大学生にもなってすぐに洗脳されるような人は、将来役に立つような人材にはなりえないです。いつまでも、人に指示されないと何もできない人になる可能性が高いです。

しかし、ブログ冒頭のように、孔子学院がスパイ活動にかかわっている容疑があることや、中国の民主化や人権擁護の運動にかかわる在米中国人の動向を探る手段にされている可能性、アメリカ人学生への思想的な影響行使のほか、中国人留学生をひそかに組織して民主化運動に走る中国人学生を取り締まっている可能性などが、指摘されており、今後FBIの捜査の進展により明らかにスパイ行為などかあることが立証された場合話は違ってくることになります。

明らかにスパイ活動をしているというのなら、米国でもはっきりと廃止の方向に向かうでしょう。その時は、日本も排除を検討すべきでしょう。

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2018年2月17日土曜日

【社説】本国Uターン企業、韓国2社・日本724社という現実―【私の論評】韓国は金融緩和しなければ、かつての日本のように八方塞がりになるだけ(゚д゚)!


ロボット導入でも、人手不足変わらず? 日本の製造業の実状
昨年、日本の製造業による雇用が7年ぶりに1000万人を突破した。海外に移転した工場が続々と日本国内にUターンしたことが主な理由だという。日本政府の調査によると、1年間で海外に生産設備を持つ日本企業の11.8%が生産を何らかの形で日本に移転した。トヨタや日産は年産10万台規模の北米の生産ラインを日本に移転した。資生堂も35年ぶりに日本国内に工場を建設することを決めた。大企業から中小企業まで、規模や業種を問わずに企業の「本国復帰」がブームとなっている。

 日本企業のUターンは日本がそれだけ企業が経営しやすい環境に変わったことを示している。企業の海外脱出に苦しんだ日本は2000年代以降、首都圏の規制をはじめ、さまざまな規制を減らし、雇用市場の柔軟化を図るなど企業誘致に総力を挙げた。安倍政権は法人税率を引き下げ、露骨な円安誘導も行い、企業のコスト負担を軽減した。その結果、高コスト・規制だらけの日本が魅力的な生産拠点に生まれ変わった。海外法人を撤収し、日本に回帰した企業は2015年だけで724社に達した。これが青年が職場を選ぶ「売り手市場」の原動力となった。

 米国はUターン企業の税金を軽減するなど積極的な政策で、7年間で1200カ所余りの海外工場を呼び戻した。そのおかげで米国で雇用が34万人分増えた。ドイツのスポーツ用品メーカー、アディダスが中国の生産ラインをドイツに移転したことも話題になった。本国復帰は先進各国の最優先政策になった。企業のUターンはトランプ政権の「米国優先主義」や日本の「アベノミクス」の重要目標でもある。

 韓国企業が海外で雇用する勤労者は286万人に達する。その10%を国内に回帰させるだけでも、政府による今年の雇用増加目標(30万人分)を軽くクリアできるはずだ。しかし、韓国企業のUターン実績は毎年1桁台で、昨年1-8月は2社にすぎなかった。韓国は規制王国、労組王国だからだ。企業が馬鹿ではない以上、韓国に戻ってくる理由はない。追い打ちをかけるように、新政権は企業の負担を増やす反企業政策を相次いで打ち出している。

 企業が世界地図を広げ、投資先を選ぶ時代だ。企業はあっという間に海外に逃げてしまい、一度逃げた企業が帰ってこない国の経済は成長できないし、雇用も生まれない。政治に溺れ、明らかな事実を直視していないだけだ。

朝鮮日報/朝鮮日報日本語版

【私の論評】韓国は金融緩和しなければ、かつての日本のように八方塞がりになるだけ(゚д゚)!

さて、確かに昨年日本では、生産拠点を海外から国内に移す企業が増え、雇用を一段と押し上げています。製造業の雇用者数は1~8月平均で1003万人と7年ぶりに大台を回復すしました。アジアの人件費上昇や円安基調が定着してきたことが背景です。正社員の採用も増えており消費へのプラス効果も見込まれています。

この主な要因は、2013年4月から始めた、量的金融緩和の成果です。そうして、これはNAIRUを理解していないと、なかなか理解できないのかもしれません。NAIRU(Non-Acceelerating Inflation Rate of Unemployment、インフレ非加速的失業率)とは、労働人口における失業者の割合のことで、自然失業率のことをいいます。 

長期的に見たときに、一定の水準で出てくる失業者の割合です。日本では2%台半ばです、アメリカでは4%程度。これは、本当に単純な原理です。このくらいのことが理解できない人が日本の経済学者・エコノミストには多過ぎます。ここがわからないと、今の雇用状況も評価できず、賃金の上がり方も予測できません。インフレ目標に対応する失業率がNAIRU。これはマクロ経済の基本です。


日本でも、安倍総理やそのブレーンの一部のみがこれを理解しているようですが、その他大勢の政治家は理解していないようです。

日本では、2013年春から金融緩和をはじめましたが、2014年春からは増税ということで、緊縮財政をはじめてしまいました。そのため、せっかくの金融緩和の腰を折ってしまいましたが、それでも金融緩和は続けていたので、今日その効果が現れてインフレ率2%は達成していないものの、失業率が低下しているのです。

ブログ冒頭の朝鮮日報の記事でも、金融緩和と雇用が関係あるなどとはつゆほども気づいていない人が記事を書いているようです。米国の雇用が良いのも、今ではそうはしていないものの、一定期間大規模な金融緩和を続けていたからです。

雇用と金融政策には、上のグラフをみてもわかる通り大きな相関関係があるのです。過去の日本では、緊縮財政と金融引締めばかりしていたので、失業率があがり、超円高になっていたのです。

過去の日本では、このようなマクロ政策である、金融政策や財政政策は全く無視されて、構造改革などのミクロ的な問題ばかりが論議になっていました。韓国でも、同様です。ブログ冒頭の記事のように、金融政策に関しては全く無視されています。

以下の韓国のNAVARの記事をみていても、それは如実に現れています。
ソウル経済 韓国は、雇用最悪なのに···米国・欧州・中国は失業率最低記録を更新中 
米国・欧州・中国・日本など、主要国が昨年の経済回復に支えられ、失業率も大幅に改善されています。 3%台の成長率の回復にもかかわらず、歴代最悪の雇用難を経験している韓国はいったいどうなっているのでしょう。 
29日、韓国企画財政部が発表した世界経済の動向によると、世界経済は昨年3.7%成長して2016年3.1%より大幅に改善されました。 景気回復は雇用への追い風につながっています。 米国は昨年10~12月、相次いで失業率4.1%を記録しましたが、これは2000年以降最も低い水準です。 
19の欧州諸国の集まりであるユーロ圏と中国の失業率も昨年3・4四半期、それぞれ8年、10年ぶりに最低値を記録しました。 日本は経済回復に生産可能人口減少があいまって、事実上完全雇用状態を実現しています。 日本は昨年に入って毎四半期2%台の失業率を見せていますが、1994年以来、最も良い姿です。

一方、韓国の失業率は昨年3.7%で、前年と同じ水準を見せました。 韓国の失業率は、グローバル金融危機が進行中だった2010年3.7%を記録した後、2013年3.1%にまで下がり、以降、再び悪化して現在の水準にとどまっています。 特に昨年、青年失業率は9.9%で、関連統計が集計された2000年以降最悪です。 
一方、米国経済は雇用や主要経済指標の好調とともに、トランプ政府の税制改編案の可決に成長傾向を持続する見通しです。 法人税と個人所得税の引き下げなどを含んでいるいる税制改編案は今年の成長率の0.25~1%ポイント上昇と貿易赤字1,500億~2,700億ドル縮小を率いると予想されました。 ただ、税収は少なくとも1兆ドル以上減少が避けられず、財政収支の悪化懸念も出ています。

中国の場合、習近平主席の政治的権力が強固化したことによる安定的な政治基盤等を踏まえ、国際的影響力が拡大されるものとみられます。 企財部はただ、過度な企業の負債などによる危険要因が共存していると評価しました。

企画財政部は今年、ユーロ圏と日本経済については「回復の勢いが維持されるが、量的緩和の縮小などと、成長の勢いが小幅に減速するもの」と見通しました。

新興国も同様に、景気回復の勢いを保っていくが、米国の金利引き上げ、先進国の中央銀行の緊縮の導入などによる資本流出の危険要素として名指しされました。
この記事では、韓国以外の国は、どの国でも現在はそうでないにしても、大規模な金融緩和政策をとっていたことは完璧に無視されています。本来は、韓国の企画財政部が積極財政をするように政府に促して、韓国中央銀行が大規模な金融緩和をして、まずは雇用を改善しなければならなのです。

韓国の就活は日本の金融緩和前の状況のように厳しい状況が続いている
まずは、雇用を改善して、構造改革などの論議はその後にすべきなのです。 それと韓国の場合は、消費税も10%になっています。これもどうにかすべきです。日本の場合は、8%で据え置かれています。韓国の場合は、減税して8%かできれば、5%にすべきです。

ブログ冒頭の記事では、「企業の海外脱出に苦しんだ日本は2000年代以降、首都圏の規制をはじめ、さまざまな規制を減らし、雇用市場の柔軟化を図るなど企業誘致に総力を挙げた。安倍政権は法人税率を引き下げ、露骨な円安誘導も行い、企業のコスト負担を軽減した。その結果、高コスト・規制だらけの日本が魅力的な生産拠点に生まれ変わった」などとしていますが、確かにそういう側面はあったかもしれません。

しかし、もしこれだけをして、金融緩和をしていなければ、雇用が改善されたり、海外に移転していた、企業が日本にもどるということもなかったでしょう。これは韓国も同様です、金融緩和をしないで日本や他の国の真似をしても、絶対に雇用が改善されることはありません。

そもそも、金融引締めと、緊縮財政ばかりしていたころの日本は異常でした。特に製造業では、日本で製造して国内で販売するよりも、日本で製造した部品を韓国や中国に輸出して、そこで組み立てて製品を日本にもってきて販売したほうが、利益がでるというような異常状態でした。

だからこそ、日本企業は海外に移転したのです。それだけ、日本の金融・財政政策は異常というか、異様だったのです。韓国からすれば、日本が極端な金融引締めをしていたので、相対的に韓国銀行は何もしなくても、金融緩和をしているようなもので、ウォン安・円高傾向が長期間維持され、経済的にみてまるでぬるま湯に浸かったような状態でした。

かつて日本が超デフレ・円高だった頃の韓国はぬるま湯に浸かっような状態
しかし、13年からは日本も異次元の金融緩和をやりだしたわけですから、そのままであれば、今度は韓国銀行が何もしなくては、金融引締めをしたような状態になり、今度はウォン高・円安傾向になるのは当たり前です。

こんなことを掲載すると、ブログ冒頭の記事のように「露骨な円安誘導」と「通貨戦争」などと言う人もでてくるかもしれませんが、それはうがった見方です。「通貨戦争」など妄想にすぎません。もし、「通貨安」を維持するために、金融緩和を続けていれば、今度はインフレになります。過度なインフレを防ぐためには、金融緩和も一定水準を超えるまでやり続けることはできません。

このような状況ですから、韓国は金融緩和しなければ、雇用はますます悪化し、ウォン高傾向になるのが当たり前ということです。まずは金融緩和しない限り、他のことを色々実行してみても、モグラたたきのような状況になります。

韓国の経済の現状は真打ちである「金融緩和」をしないで、モグラたたきをしているようなもの
何か対策をしても、今度は何か側悪くなる。そうして、悪くなったことに対して、何か対策を打てば今度はまた何かが悪くなるというような一昔前の日本のような八方塞がりの状況にあります。

それにしても、現在の日本は金融緩和を続けていますが、一歩間違えば、また金融引締めに走り、韓国のようになってしまう可能性もあります。まざに、人の振り見て我が振り直せというところだと思います。

韓国が金融緩和をすべきというと、韓国は経済構造が遅れていから無理とか、キャピタルフライトするからできないなどと言う人もいますが、遅れた経済の中で、金融緩和をしないでいれば、ますます経済は悪くなります。

また、実際にキャピタルフライトしたかつてのアイスランドと比較すれば、韓国の家計など借金は多いですが、それにしても海外からの借金の比率は低いですから、まだキャピタルフライトを心配するような水準ではないです。

韓国は、金融緩和をして積極財政をして、まずは内需を拡大して、雇用を改善すべきなのです。

韓国は、2013年からの日本のように異次元の金融緩和をすれば、劇的に雇用や経済が改善されることでしょう。はやく実行すべきです。

そうして金融緩和をして雇用を改善した政権は、文政権であれ、他の政権であれ、日本の安倍政権のように国民から支持されることになります。そうなれば、韓国もかなり安定して、極端な反日キャンペーンをしなくてもすむようになり、赤化の危機から脱却することになります。とにかく、国民にとっては経済の安定がまずは第一です。経済、特に雇用が不安定であれば、北からつけこまれやすくなります。

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2018年2月16日金曜日

苦難経て日本との友情深める台湾、先進国間の交流も可能な水準に アジアで際立つ中韓の「反日」―【私の論評】日米は姑息な中国の作り話を無視して、台湾との結びつきを強化すべき(゚д゚)!


中国の人民解放軍の上陸を想定した訓練に参加
した台湾の蔡英文総統=台湾・屏東県、2016年8月
台湾で6日深夜(日本時間7日未明)に発生した地震を受けて、安倍晋三首相が台湾にお見舞いのメッセージを送るとともに、日本政府は警察庁や消防庁などの専門家チームを派遣した。東日本大震災の際には台湾から200億円といわれる義援金が日本に送られた。日本と中国が緊張関係にあるなかで、台湾の位置付けを考えてみよう。

 台湾は、いろいろな調査で親日国の上位にランクされる。台湾の交流協会が定期的に行っている対日世論調査(2015年度)でも、「台湾を除き、あなたの最も好きな国(地域)はどこですか(1つ選択)」という質問に対して、「日本」との回答は56%と、2位の「中国」の6%などを大きく引き離してダントツだ。

 世代別にみると、20歳代が62%、30歳代が65%、40歳代が52%、50~64歳までが53%、65~80歳までで50%となっており、若い世代ほど親日という傾向がある。

 東南アジアでも日本は好まれている。外務省によるASEAN(東南アジア諸国連合)10カ国における対日世論調査で、「あなたの国にとって、現在信頼すべき友邦はどの国ですか」という質問に対して「日本」を挙げた割合は、ブルネイが24%、カンボジアが33%、インドネシアが67%、ラオス36%、マレーシアが43%、ミャンマーが58%、フィリピンが74%、シンガポールが41%、タイが69%、ベトナムが71%と、いずれの国でもトップまたは上位ランクだった。

 調査方法が異なるので、単純な比較はできないが、台湾が有数の親日国であることは間違いない。戦前の日本統治時代における教育やインフラ整備を評価する高齢世代、それらを継承し、現代日本の文化を肯定的に捉える若者世代まで、高い親日感情につながっている。

 アジアの他の国でも似たような傾向がある。こうしたアジアの親日度を考えると、中国と韓国の反日感情だけが異様である。その特異性は、両国政府によって意図的に形成されたものであることを示唆している。

 日本と台湾の間に正式な国交はない。日本の基本的な立場は、(1)日中共同声明遵守(2)台湾独立不支持(3)台湾国連加盟不支持-というものだ。

 一方で民間交流は年々盛んになっている。昨年の訪日台湾人数は456万人、訪台日本人数は190万人。台湾の人口が2355万人であることを考えると、台湾人の5人に1人が昨年訪日したことになる。

 日台の蜜月ぶりに中国は相当な警戒感を示している。中国外務省は、安倍首相がお見舞いメッセージで、蔡英文氏に「総統」という肩書を使ったことに抗議した。日本政府はその後、削除したが、蔡氏から日本語で「まさかの時の友は真の友」という返事があったことに中国側が焦ったのだろう。

 1人当たり国内総生産(GDP)は、日本が約4万ドル、台湾が約2万5000ドルだ。この水準なら先進国間の経済・資本・技術交流が可能であり、それも中国に不安を与えたようだ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日米は姑息な中国の作り話を無視して、台湾との結びつきを強化すべき(゚д゚)!

日本、台湾、韓国、中国の一人あたりの最新の名目GDPを比較すると、以下のようになります。

一人あたりの名目GDP(USドル)比較
 日本 38,882.64
 台湾 22,497.00
 韓国 27,534.84
 中国   8,123.26
           (USドル)

韓国のほうが台湾よりも高いですが、とはいいなが台湾は2万ドル台であり、日本とかけ離れている数字ではありません。人口は、2400万人です。これは韓国の5100万人よりは少ないですが、それでも多い方です。北朝鮮の2537万にとほぼ同じです。

GDPや、人口などがあまりかけ離れている国だと、国民同士が交流するのは難しいですが、台湾と日本ではさほど差はありませんし、そうして、台湾は他国に比較して、圧倒的に親日国です。

日本は韓国、中国などとの付き合いはやめて、台湾との付き合いを深めていくべきです。

台湾への米海兵隊派遣の問題で中国政府は

昨年2月17日に行われた中国外務省の定例記者会見では以下のような質問がありました。

「米国在台協会(AIT)の元台北事務所長は十六日、AIT(※正しくはAIT台北事務所)の新たな場所への移転後、米国は海兵隊を派遣して警備に当たらせると表明した。これは米国の台湾に表明する保証の象徴。中国側はこれにどう反応するのか」

実はこの「中国側はどう反応するのか」こそ、すでに台湾や米国の注視するところにもなっていたのです。

何しろ米国は海兵隊に在外公館の警備を担当させているのですが、国交のない台湾での大使館代行を務めるAIT台北事務所にまで海兵隊を送るとなれば、台湾を国と遇するに等しいとも言え、台湾侵略の野心から、あの島を自国領土と主張し、そして台米関係の強化を恐れる中国には、断じて許し難い動きと映ったことでしよう。

だから中国の「反応」はさぞや激越なものとなるだろうと、台湾メディアは予測していたし、そして中国の御用学者たちもそう言って、台米に警告のメッセージを発していたのだ。

ところが、会見で質問を受けた外務省報道官の答えは、意外と淡々とした内容だった。

嘘を吐くので精いっぱいだった中国外務省のコメント

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「我々は関連報道を注視しているが、具体的な状況については更に詳しく知る必要がある」と前置きしながら、次のように述べました。

「私が指摘したいのは、中国はこれまで一貫して、米国が台湾との間で、たとえいかなる形式のものであれ、政府間交流や軍事的連絡を進めることには断固として反対しており、米国が『一つの中国』政策と中米間の三つのコミュニケでの原則を遵守し、慎重、妥当に台湾に関わる問題を処理するよう望んでいるということだ」

以上の如く、予想されたほどの激しい批判ではなかったのです。

それにはきっと対米非難には時期が悪いとか尚早だとかいう判断が働いたか何かしたのでしょうが、ここで注目したいのはそのことではありません。

それは報道官が、これほど矛盾に満ちた誤魔化しのコメントしか発することができなかった、という事実なのです。

報道官のコメントをわかりやすく整理すると次のようになります。
1.米国には台湾を中国の領土の一部と認める「一つの中国」政策があり、また中米間の三つのコミュニケにおいて台湾を中国の領土の一部とする「一つの中国」原則の遵守を誓ったのだから、それらを忘れてはならない。
2.そして米国は「一つの中国」原則遵守の誓約を守り、中国政府の反対を無視した台湾との政府間交流や軍事的連絡という内政干渉をただちに停止しなければならない。
おおよそこんなところだ。それではなぜこうした主張が誤魔化しかと言うと、そもそも米国の「一つの中国」政策は、台湾を中国領土と認めるものではないからです。

三つのコミュニケにしても、米国はそれらにおいて、そのような承認などしていないのである。

米国には堂々と台湾と政府間交流をする権利がある

米国の「一つの中国」政策とは、三つの米中共同コミュニケ(72年、79年、82年の米中コミュニケ)を柱と位置付けるものですが、この三つのコミュニケで米国が台湾の問題に関して表明したのはせいぜい、「米国政府は中華人民共和国を中国唯一の合法政府であると承認する」(七九年)と「米国政府は、一つの中国しか存在せず、台湾は中国の一部であるとするのが中国政府の立場であると認識する」(同)に尽きるのである。

つまり米国は、台湾の中華民国ではなく中華人民共和国を「中国唯一の合法政府」だとは承認したのですが、しかし「台湾は中国の一部」であるとは承認せず、ただ中国政府がそう主張しているということだけは「認識」しておくと表明したにすぎないのです。

また米国の「一つの中国」政策のもう一つの柱が台湾関係法です。

こちらも台湾は中国領土ではないことを前提に、台湾防衛や台湾の国家と同様の扱いなどを義務付けるものであり、こうした法律が存在する結果として、AIT台北事務所への海兵隊派遣が計画されたともいえそうです。

AIT台北事務所に派遣された米海兵隊
このように中国の主張とは全く逆に、米国は米中コミュニケ、「一つの中国」政策に基づいて、台湾との政府間交流や軍事的連絡を行うことができるわけなのです。

だがそのことを中国は隠蔽したいのです。それで先の報道官のように、米国の立場を捏造した宣伝を展開したわけなのです。

虚偽宣伝に基づく中国の日台接近妨害の要求

そのような中国との友好関係維持の必要性から米国は従来、台湾を中国の領土の一部とする中国の「一つの中国」原則にできるだけ配慮して来ました。

しかし今や中国は「台湾は中国の領土の一部」なるフィクションを盾に台湾、そして西太平洋を勢力下に納めようと脅威を増大させる一方です。そこで米国は台湾への海兵隊員の派遣を通じ、台湾との関係強化を中国に見せつけようとしているようです。

言わば、殻を一つ破ってみせたということでしょう。

それであるなら日本もそれと同様に、これまで中国への配慮で遠慮して来た台湾との政府間交流、軍事的連絡を進めるべきです。

もし日本が実際にそれに踏み出せば、中国側は間違いなく「日本が四つの政治文書を遵守し、慎重、妥当に台湾に関わる問題を処理せよ」と要求してくるでしょう。すでにあの国は事あるごとに、こうした要求を日本に突き付け、日台接近を牽制して来ました。

この所謂「四つの政治文書」(72年の日中共同声明、79年の日中平和友好条約、98年の日中共同宣言、08年の日中共同声明)において日本は、すでに台湾を中国領土の一部と認めていると言わんばかりです。

しかしこれもまた歪曲宣伝です。日本政府がこれらを通じて表明したのは、「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」とする中国政府の「立場を十分理解し、尊重」するというものに過ぎないのである。

要するに日本も米国と同様、台湾を中国領土は認めていないのです。ただたんに「尊重する」(特に中国の主張に対して意見は言わない)と表明したのみなのです。

そのため、日本も台湾を中国とは異なる独立国と認め、交流することは可能であり、実施すべきなのです。

1年たってどうなったか

さて、米国がAIT台北事務所に米海兵隊派遣を決めてから、ほぼ1年たちました。その後台米関係はどうなっでしょうか。

それに関しては、以前もこのブログに掲載しました。以下にその記事のリンクを掲載します。
米国が見直す台湾の重み、東アジアの次なる火種に―【私の論評】日本は対中国で台湾と運命共同体(゚д゚)!
ランドール・シュライバー氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では米国は、ランドール・シュライバーの国防次官補にするという人事を発表しましたが、このランドール氏は台湾を戦略的に重視する人物です。これは、今後米国が台湾を重視することを示すものです。

シュライバー氏は、歴史問題を持ち出して日本を非難する中国に対して手厳しい批判を表明してきたことでも知られています。たとえば2015年10月に「プロジェクト2049研究所」がワシントンで開いた、中国の対外戦略についての討論会では、次のような諸点を指摘していました。
・中国の習近平政権は歴史を利用して日本を叩いて悪者とし、日米同盟を骨抜きにしようとしている。だが歴史に関しては中国こそが世界で最大の悪用者なのだ。中国ほど歴史を踏みにじる国はない。
・中国が歴史を利用する際は、1931年から45年までの出来事だけをきわめて選別的に提示し、その後の70年間の日本が関わる歴史はすべて抹殺する。日本の国際貢献、平和主義、対中友好などは見事に消し去るのだ。 
・中国の歴史悪用は、戦争の悪のイメージを現在の日本にリンクさせ、国際社会や米国に向けて、日本は今も軍国主義志向がありパートナーとして頼りにならないと印象づけることを意図している。 
・中国はそうした宣伝を、中国と親しく頻繁に訪中する一部の政治家らを巻き込んで日本の一般国民にも訴える。だがこの10年間、防衛費をほとんど増やしていない日本が軍国主義のはずはない。中国の訴えは虚偽なのだ。 
・中国は日本に「歴史の直視」を求めるが、大躍進、文化大革命、天安門事件での自国政府の残虐行為の歴史は、教科書や博物館ですべて改竄し隠蔽している。朝鮮戦争など対外軍事行動の歴史も同様だ。
こうした見解を堂々と表明してきた人物が、トランプ政権の国防総省のアジア政策面での実務最高責任者のポストに就く。日本にとって大きな意義があることは明白といえます。

そうして、この記事では中国としては、尖閣を奪取するよりも、台湾を奪取するほうがより簡単であると見ていた背景についても解説しました。

それについても、詳細はこの記事をご覧いただくものとして、簡単にまとめると以下のような内容です。

まずは、日本の尖閣諸島は無人島であるとともに、日本の国有地にもなっています。また、日本の海上自衛隊は、海外の評価ではアジア第一であり、中国海軍を凌駕しており、独力で尖閣周辺の中国海軍等を撃退することができます。さらには、日本には同盟国の米軍が駐留しています。

これでは、大陸中国はいくら威勢の良いことを言ったり、尖閣諸島付近に公船や潜水艦を航行させてみても、実際に尖閣諸島を奪取することはなかなかできません。

一方、台湾には、大陸中国出身の人々やその子孫の人々も多く、その中には大陸中国に親和的な人々も多いです。大陸中国はそのような人々を利用して、台湾そのものを大陸中国になびくように台湾内部から誘導することも可能です。実際に勢力的にそれを行っています。

軍事的にみても、中国からみれば劣勢です。さらに、台湾には米軍は駐留していません。

これでは、中国からみてどちらが奪取しやすいと考えられるかといえば、無論台湾です。

ところが、上にも掲載したように、最近米国が台湾を重視する姿勢に転じています。米国が台湾を重視しはじめて、米国の艦船や空母などが、台湾にしばしば寄港することになれば、台湾奪取の試みはうまくいかなくなる可能性が大きくなります。

ここで、日本も米国同様に台湾重視する姿勢をみせて、実際に台湾の交流を強化したり、自衛隊の艦船などが寄港したりするようにすれば、台湾の独立はなお一層確かなものになることでしょう。

日米は、中国の身勝手海洋進出を阻止するためにも、台湾との交流を密にすべきなのです。そうして、現在の台湾自身もそれを望んでいます。

日米は姑息な中国の作り話を無視して、台湾との結びつきを強化すべきなのです。

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2018年2月15日木曜日

「工作員妄想」こそ妄想だったスリーパーセル問題―【私の論評】日本の安保でもあらゆる可能性を検討すべき(゚д゚)!

「工作員妄想」こそ妄想だったスリーパーセル問題



三浦瑠麗さんの「ワイドナショー」での発言に端を発する「工作員問題」。これに対する古谷経衡氏の反論が、放送から2日後にアップされ、一時はyahooトップにまで掲載されていました。

この記事に対してツイッター上ではすでに多くの方からの批判的指摘が飛んでおり、またアゴラでも新田編集長が指摘されていますが、古谷氏の記事には明白な事実誤認があるので、きちんと指摘する必要があるのではないかと思います。

というのも、yahooトップに掲載されたとなれば、そのビュー数は数百万に達したものと思われます。明らかな事実誤認のある記事に乗っかったまま「『スリーパーセル』は三浦瑠麗の頭の中にだけある存在」などと三浦批判をしている人も散見され、これはさすがにきちんと指摘すべきだろうと思うわけです。

①「スリーパーセル=潜伏する工作員」は実在する―『警察白書』より

古谷氏は当該記事の中で公安調査庁の「内外情勢の回顧と展望(平29年)」を引用し、ここに「スリーパーセルなる文字がない」ことを理由に、その存在を〈三浦氏の発言は、根拠の無い「工作員妄想」の一種と言わざるを得ないのでは無いか〉〈三浦氏にだけその存在が知られている「スリーパーセル」〉などとしていますが、『警察白書』(平成29年)にはこうあります。

〈北朝鮮は、我が国においても、潜伏する工作員等を通じて活発に各種情報収集活動を行っているとみられるほか(以下略)〉


この「潜伏する工作員」こそ「スリーパー(セル)」であり、普段は通常の人々と同じような仕事をしながら(=潜伏)、一方で総連などに情報提供をしている人がいることを指摘しています。スリーパー(セル)などと検索すれば「潜伏工作員」との訳が出てきますので、仮に初耳だとしても記事を書こうと思えば検索してみるくらいはするでしょう。

もちろん彼らが、一旦緩急あればテロリストに変貌するのかどうかまでは分かりません。しかもそれが、金正恩が斃れた後に……という話はあくまで三浦氏が考えた可能性の範疇ですので批判されても仕方はないと思います。が、古谷氏の記事の中の、少なくとも〈三浦氏にだけその存在が知られている「スリーパーセル」〉なる一文は明確な誤りと指摘できるでしょう。

②公安調査庁と警察の公安部は別物

もう一つ、古谷氏の文章で問題があるのは、公安調査庁と警察の公安部門の混同です。

当該記事で公安調査庁が発表した「内外情勢の回顧と展望」を引き、そこに「スリーパー(あるいは工作員)の文字がない」として三浦氏の言及を「妄想」としていますが、記事中で公安調査庁は「公安当局」と変化し、さらに「我が公安警察」となり、最後は「我が公安や警察」となっています。

古谷氏の認識は定かではありませんが、公安調査庁の文書を引き、『警察白書』を引かずにいることから、公安調査庁と警察の公安部門が別の組織であることを知らないか混同しているのではないかと思います。

公安調査庁は法務省の外局であり、警察の公安部門は都道府県警察本部の警備局に「公安課」として設置されているほか、警視庁は「公安部」を持っています。同じ「公安」でも別組織です。

当該記事の「公安当局」が何を指しているのか不明ですが、少なくとも公安部(公安課)を持つ警察の資料である『警察白書』には「潜入する工作員」の文字があるので、〈公安当局による報告書の中には「スリーパーセル」なる特殊工作員や活動家の記述は一切存在していない〉との記述は誤りでしょう。

以上の通り、二点の単純な事実誤認について、ご本人は早急に本文を訂正するべきと思います。

これを機会に、学びましょう

それにしても、第三者のチェックが入らないままアップされ拡散されてしまうのがネット記事の怖いところ。私も他人事ではありません。この記事だって、誤りがあればすぐに修正しなければなりません。

公安調査庁と警察の区別がついていないなどの事実誤認を含んだ記事がそのままウェブ上に掲示され、一部からは好評を得てさえいる一方、確かにざっくりとした指摘の中で具体的な地名を出したり、引用元の一つに不用意なネタ元をつかってしまったとはいえ、三浦氏の発言は批判されるだけでなく「大学に通報しろ」だとか、「同僚としてある行動をとった」などと仄めかすような文言まで飛び交っているというのはどうもおかしな感じがします。この記事のように、とすると幾分手前味噌感が臭いますが、ただただ普通に、論拠を示して淡々と「ここがおかしいと思う」と指摘するだけではいけないのでしょうか? 

三浦氏が大阪という地名を出したことについても、私は差別とは思いません。皇居や国会、官庁街がある東京に比べて警戒度は低いながら地下鉄や商業施設、イベント施設などがある大都市を狙うのはテロリストからすれば十分あり得る発想ですし、例えば東京五輪の時であれば「開催地以外の大都市」が狙われるのも、危機管理の専門家が指摘するところです。テロの発動条件は議論されてしかるべきであっても、テロの危険性がある都市の一つの例として大阪を挙げることに不自然はありません。

地名を挙げたのがダメだ、差別だという文脈で言うならば、三浦氏が挙げてもいない「あいりん地区」「鶴橋」「生野区」などさらに具体的な地名を挙げて「今は大丈夫だけど過去はやばかった」的な記述をしてしまった古谷氏の方が非難されるべきなのではないかと思わなくもありません。それに工作員は必ずしも在日外国人や外国出身者に限らないのです。

とはいえ、私を含め、工作員や公安の在り方、あるいはテロの可能性についてほとんどの人はそうそう普段から考えてもいないと思いますので、これを機にみんな勉強したらいいのではないでしょうか! いや、本当にいい機会だと思います。

【私の論評】日本の安保でもあらゆる可能性を検討すべき(゚д゚)!

スリーパーセルかどうかは別にして、日本は元々スパイ天国で、各国のスパイが日本国内に多数存在しているのは、間違いないものと思います。そうして、そのスパイはときどきその存在が発覚し、テレビなどで報道して私達も目にすることになるのですが、それ以外は滅多に表には出てきません。

そもそも、スパイがすぐにそれとわかるようではスパイとはいえません。隠密裏に行動すして誰にも知られないよう行動するからスパイなのです。

しかし、それが時々表に出て来ることもあります。その典型的なものが以下の新聞記事です。

北朝鮮が日本国内から韓国内の工作員を操っていた!「225局」活動の一端とは
産経新聞 2月11日(木)17時0分配信 2016.2.11 17:30
ニュース番組やワイドショーが元プロ野球選手、清原和博容疑者(48)の報道一色になった今月2日、警視庁公安部がある重大事件を摘発していた。北朝鮮が日本国内で展開していた工作活動の一端があぶり出されたのだ。 
工作を主導したのは北の対外情報機関「225局」。容疑者は日本で教育者を装いつつ、韓国内で活動する工作員に指示を伝える役割を果たしていたとされる。 
日本国内から韓国内の工作員を動かしていたとみられるこの事件。「スパイ天国」とも揶揄(やゆ)される日本で、外国の諜報機関が跋扈(ばっこ)する実態が浮かび上がった。
これらのスパイの中に、スリーパセルも存在するかもしれないと考えるのは、突飛な考えではないし、むしろ妥当な考え方だと思います。

そうしてアゴラの新田編集長が指摘していた、10年前に毎日新聞で阪神大震災のときに、ある被災地の瓦礫から工作員のものとみられる迫撃砲などの武器が発見されたという報道がなされていますが、その記事が下の写真です。

阪神淡路大震災の時といえば、瓦礫にはさまっている人達を助ける為に海自の護衛艦に陸自の救出部隊を載せ向かったのですが、結局神戸港に接岸出来なかったということがありました。一部の神戸市民から『戦争の船は来るな!』と抗議されたためであるとされています。

今なら考えられないですが、そのような風潮がこの時代にあったのは確かで、だからこそ阪神淡路大震災のときには、このニュースが報道されなかったのでしょう。

さて、北朝鮮の工作員による工作活動の可能性については昨年このブログに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
北朝鮮有事が日本に突きつける8つのリスク【評論家・江崎道朗】―【私の論評】 森友学園問題で時間を浪費するな!いまそこにある危機に備えよ(゚д゚)!
江崎道朗氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、江崎道朗氏は北朝鮮の工作員の破壊活動に関して以下のように言及しています。
  第3に、北朝鮮はすでに日本国内に多数のテロリストを送り込んでいて、いざとなれば発電所や交通機関などを攻撃する可能性が高い。 
 天然痘ウイルスをまき散らすといった生物・化学兵器を使用する恐れもある。天然痘ウイルスの感染力は非常に強いことで知られていて、感染者からの飛沫や体液が口、鼻、咽頭粘膜に入ることで感染する。北朝鮮は、天然痘感染者を山手線に乗せて一気に関東全体に広める生物兵器テロを計画しているという話もあり、こうした危機を前提に、ワクチンの準備も含め地方自治体、医療機関が予め対処方針を立てておく必要があるだろう。
このような危機の可能性は、全くあり得ないこととして、否定することはできないです。三浦氏は12日、自身のブログで「正直、このレベルの発言が難しいとなれば、この国でまともな安保議論をすることは不可能」と反論しています。

スリーパー・セルの問題をデマや差別問題としてしまえば、それこそ北朝鮮のかく乱作戦の術中にハマることになりかねないです。

スリーパーセルの存在の可能性に関して、蓋をしてしまい全く論議をしなければ、その脅威が消えるというわけではありません。むしろ、スリーパーセルの存在もあり得るものとして、それを確かめたり、あるいはその危機が現実のものになった場合を想定してどのように行動するのか、予め定めておけけば、混乱を防ぐことができるはずです。

もし、スーパーセルなるものが存在しなけば、それはそれで良いことですが、もしも存在した場合どのようなことになるか、何も考えていなけば、とんでもないことになるだけです。

平和憲法があれば、これを防げるなどということは絶対にないです。安保では、あらゆる可能性を含めて検討すべきであり、タブーなどをもうけてある問題からは、目をそらすということは許されません。

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