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2018年11月21日水曜日

米国で報告された尖閣周辺の「危ない現状」―【私の論評】尖閣有事には、各省庁が独自に迅速に行動しないと手遅れになる(゚д゚)!

米国で報告された尖閣周辺の「危ない現状」

中国の攻勢がエスカレート、高まってきた軍事衝突の危険性

古森 義久

訓練中に空母「遼寧」に着艦するJ15戦闘機

中国は尖閣諸島を奪取するために軍事力を土台とする攻勢を強め、日本領海に艦艇を侵入させるほか、新たに人民解放軍直属の潜水艦や軍用機の投入による日本領土侵食を開始した──。 

 11月中旬、米国議会の諮問機関がこんな報告を公表した。中国のこの動きは、尖閣諸島での日本の施政権を否定し日中両国間の軍事衝突の危険を高めるとともに、米国の尖閣防衛誓約へのチャレンジだともいう。 

 こうした中国の動向は、最近の日本への融和的な接近とは対照的である。中国当局は米国からの圧力を弱めるために日本への微笑外交を始めている。だが、米国議会の諮問機関による報告は、実際の対日政策の攻勢的な特徴は変えていないことを明示するといえそうである。

2016年11月に尖閣諸島沖の領海に侵入した中国公船の「海警2502」。中国側の尖閣への
攻勢はこのときよりさらにエスカレートしている。海上保安庁提供(2016年11月6日撮影)

日本に対する軍事力攻勢を拡大

 米国議会上下両院の超党派の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は11月14日、2018年度の年次報告書を議会に提出した。米中経済安保調査委員会は、米中両国の経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響の調査と研究を主目的とする委員会である。

 同委員会の2018年度の年次報告書は、日本に関連して「中国は、米国と日本など同盟諸国との絆を弱め、その離反を図る一方、尖閣諸島への軍事的攻勢を強め、米国の日本防衛、尖閣防衛の誓約にチャレンジしている」と述べていた。

 また、米中安全保障関係に関するこの1年間の新たな主要な動きの1つとして中国側の尖閣攻勢の拡大を挙げ、この動きが米中安保関係での米国への挑戦になると総括していた。

 さらに同報告書は、尖閣をめぐる新たな動向として中国人民解放軍の原子力潜水艦や軍用機が出動してきたことを指摘し、日本に対する軍事力攻勢の増加を強調していた。中国軍は東シナ海での軍事的存在を拡大し強化してきた、ともいう。
中国潜水艦が尖閣近海に初めて侵入

 尖閣諸島に関して同報告書の記述で最も注目されるのは、“中国と日本との軍事衝突の危険性”が高まってきたとする警告だった。その点について同報告書は次のように述べていた。

・東シナ海での中国と日本との間の緊張が高まり、事故や読み違い、対立拡大の恐れが強まった。

 同報告書は、中国側の軍事的エスカレーションによって尖閣諸島をめぐる情勢が緊迫してきていると述べる。その主な内容は以下のとおりである。

・中国側の潜水艦など海軍艦艇が、尖閣諸島の日本側の領海や接続水域へ顕著に侵入するようになった。中国は、日本の尖閣諸島の施政権を否定する方法として軍事的な要素を強めてきた。

・2018年1月、中国海軍の原子力潜水艦とフリゲート艦が、尖閣諸島の日本側の接続水域に侵入した。日本側からの再三の抗議を受けて接続水域を出た後、潜水艦は中国国旗を掲げた。中国潜水艦の尖閣近海への侵入は初めてである。国旗の掲揚は日本の施政権への挑戦が目的だとみられる。

・2018年全体を通じて、中国軍は尖閣付近での軍用機の訓練飛行をそれまでになく頻繁に実施するようになった。中国軍機は日本の沖縄と宮古島の間の宮古海峡を通り抜け、対馬付近も飛行した。中国空軍のこの長距離飛行訓練は日本領空にきわめて近く、軍事衝突の危険が高い。

・2018年全体を通じて中国の公艇は平均して毎月9隻の割で尖閣諸島の日本領海に侵入してきた。この隻数は2017年よりわずかに少ないが、潜水艦やフリゲート艦など海軍艦艇の侵入は今年が初めてとなる。全体として中国側の日本側に対する攻勢は激しくなった。

・中国の尖閣諸島に対するこうした攻勢は、明らかに日本が持つ尖閣の主権と施政権への挑戦であり、とくに施政権を否定する意図が明白である。同時に日米安保条約によって尖閣の防衛を誓っている米国に対しても挑戦を強めてきたといえる。

 以上のような中国の具体的な動向は、習近平政権が最近、日本に対してみせている融和的な姿勢とは明らかに異なっている。

 中国側の尖閣に対する動向をみるかぎり、日本領土を奪取し日米同盟を敵視するという年来の対日政策はなにも変わっていないことになる。とすると、いまの習近平政権が安倍晋三首相らにみせる友好的な態度はみせかけだけだという結論になりそうだ。

【私の論評】尖閣有事には、各省庁が独自迅速に行動しないと手遅れになる(゚д゚)!

さて、上の記事には掲載されていない中国側の変化があります。それは、中国海警局の所属が変わったことです。

従来の中国海警局は13年7月、中国の行政府である国務院の傘下にあった複数の海上法執行機関が統合されて発足したものです。

その目的は、分散していた海上法執行機関を一元的な指揮命令系統の下に置くことで効率的な運用を可能にすることや、予算や装備、人員などを統一的に管理・整備することで法執行力を大幅に強化することなどにあったと考えられます。

この時期の中国海警局はあくまで国務院の管理の下に置かれた非軍事の行政組織であり、所属船舶は公船と位置付けられまし。

中国の武警は純然たる軍事組織

他方、中国海警局が新たに編入された武警は、人民解放軍および民兵と並んで中国の「武装力量」(軍事力)に位置付けられた明確な軍事組織です。今年に入って武警の大幅な改革が実行され、従来の国務院と共産党中央軍事委員会による二重指導が解消されました。

これによって武警は人民解放軍と同様、中央軍事委員会による統一的かつ集中的な指導の下に置かれることになりました。7月の組織改編では、国境管理や要人警護、消防任務、金鉱探査、水利建設などを担っている非軍事部門が国務院などへ所属替えとなり、国防任務に資源を集中するためのスリム化が図られました。

同時に、国務院に所属していた中国海警局が、「武警海警総隊」として武警に編入され、「海上の権益擁護と法執行」を任務として遂行することになったのです。また、この「武警海警総隊」は、対外的な呼称として「中国海警局」の名称を引き続き使用し、関連する法規については機が熟したときに整備するとの方針が示されました。

武警は「国防法」において明確に軍事力の構成要素とされており、中央軍事委員会の一元的な指揮の下に置かれていることや、隊員が現役軍人の身分を有して階級制度も実行されていることなどから、国際的な基準に照らしても明らかに軍隊です。

中国海警局は、これまでの国務院による指揮から離れ、武警に編入されたことにより、武警海警総隊として軍事組織の一部となりました。その当然の帰結として、武警海警総隊に所属する船舶は軍艦となり、尖閣諸島周辺海域で日本の公船と対峙することになったのです。

これまでのところ、武警海警総隊が尖閣諸島周辺海域で活動させている船舶に、外見上の大きな変化は見られません。船体は白い塗装のままであり、対外的な呼称である「中国海警局」との表示も継続して使用されています。日本の領海に侵入する頻度や隻数にも目立った変化はないです。

しかしながら、これらの船舶はもはや中国の公船ではなく軍艦であることから、尖閣諸島周辺海域における中国の軍事的プレゼンスが大幅に強化されたと言わざるを得ないです。中国が「中国海警局」を対外的な呼称として使い続けたり、武警海警総隊の位置づけや任務などに関する法規の制定を先送りにしたりしていることなどから、武警海警総隊の設立がもたらす影響は外部から見えにくいです。

しかし中国は、少なくとも国内向けには、尖閣諸島周辺海域における自国の軍事的プレゼンスの確立という成果をアピールすることが可能となりました。

今後は、武警海警総隊が着実に能力を強化していくことが予想されます。法執行機関であった中国海警局は、一定程度の軽火器を装備していましたが、その使用は法執行に必要な範囲に限定されていました。

他方で軍事組織である武警は、有事における防衛作戦などに対応できる重火器を含む多様な武器を装備し、それを使用する訓練も行ってきており、中国海警局とは比較にならない強力な戦闘力を有しています。

武警の装備や戦闘ノウハウが、武警海警総隊によって次第に共有されることになるでしょう。また、人民解放軍と共に中央軍事委員会による統一的な指揮の下に置かれることで、今後は海軍と武警海警総隊の連携も強化されていくとみられます。

近年、中国海軍の艦船が尖閣諸島への接近を強めていますが、今後は武警海警総隊と海軍の艦船が密接に連携した行動をとることで、日本側に難しい対応を迫る場面も想定されます。

このように尖閣諸島周辺海域で軍事的プレゼンスを高めている中国に対して、日本は海上自衛隊の艦船を前面に立てて対抗すべきです。日本が海上自衛隊の艦船を現場海域へ進出させることは、中国に対して日本側の覚悟を示すことになり、国際社会にも日本の意図をはっきりと示すことになります。

現在、米国が中国に対して冷戦Ⅱを挑んでいることから、この日本の対応は米国からも歓迎されることでしょう。日本が日本の領土を自前で守る姿勢を見せれば、トランプ政権は高く評価することでしょう。そうして、このことで、中国が日本を世界に向けて非難することでもあれば、米国は真っ先にこれを排除する動きに出るでしょう。

北朝鮮や韓国を除いた、多くの国々がこの動きに賛同し、日本の行動を賞賛することになるでしょう。

日本としては、中国が尖閣諸島周辺海域で軍事的プレゼンスを強化している実態を国際社会に広く訴えると同時に、仮に事態がエスカレートしても、その事態にすぐに対応できるようにし、日本に対する国際的な支持を得られるようにすべきです。

これについては、ルトワック氏の戦略が役に立つと思います。それについては以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!


ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」

この記事には、米国の戦略家ルトワック氏が、尖閣有事の際の、対処法を掲載しています。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この中でルトワック氏は、対処法で一番重要なのは、迅速性であるとしています。それに関する部分のみ以下に掲載します。
"
人民解放軍がある日、尖閣に上陸した。それを知った安倍総理は、自衛隊トップに電話をし、「尖閣を今すぐ奪回してきてください!」という。自衛隊トップは、「わかりました。行ってきます」といい、尖閣を奪回してきた。

こういう迅速さが必要だというのです。なぜ? ぐずぐずしていたら、「手遅れ」になるからです。ここで肝に銘じておくべきなのは、
「ああ、危機が発生してしまった。まずアメリカや国連に相談しよう」
などと言っていたら、島はもう戻ってこないということだ。ウクライナがそのようにしてクリミア半島を失ったことは記憶に新しい。(p152)
安倍総理は、「人民解放軍が尖閣に上陸した」と報告を受けたとします。「どうしよう…」と悩んだ総理は、いつもの癖で、アメリカに相談することにしました。そして、「国連安保理で話し合ってもらおう」と決めました。そうこうしているうちに3日過ぎてしまいました。尖閣周辺は中国の軍艦で埋め尽くされ、誰も手出しできません。

米軍は、「ソーリー、トゥーレイト」といって、動きません。国連は、常任理事国中国が拒否権を使うので、制裁もできません。かくして日本は、尖閣を失いました。習近平の人気は頂点に達し、「次は日本が不法占拠している沖縄を取り戻す!」と宣言するなどという悪夢のようなことにもなりかねません。こんなことにならないよう、政府はしっかり準備しておくべきです。
"

同時に、様々な事態を想定した自衛隊と海上保安庁との連携行動についての準備を強化することで、中国側の冒険主義的な行動に対する抑止力を向上させるべきです。人民解放軍と武警海警総隊の連携が深化することにより、尖閣諸島をめぐる中国の行動は、選択肢が広がり、迅速性も高まることになります。

海上保安庁と自衛隊のみならず、関連省庁が一体となることなく、それぞれの省庁独自に、尖閣諸島をめぐって想定される様々な事態を具体的に検討し、それぞれのケースに応じた迅速な対応策を事前に策定しておく必要があります。

このような場合、内閣府や関連各省庁が緊密に連絡をとりあいながら、一致団結して、事に対処するなどという呑気な事を言っていては、迅速な行動はできないでしょう。それこそ、各省庁の縦割り行政が悪い方向に出て、迅速な行動ができず、手遅れになることは必定です。

尖閣有事となったときには、予め防衛省や、各省庁の動きを定めておき、各省庁や内閣への報告などは、最低限にし、そのマニュアルに下がつて各省庁が迅速動くのです。

無論、これは防衛省や海上保安庁だけではなく、外務省であれば、すぐに予め用意しておいた、コンテンツをもとに、国連やその他国際社会で、中国を徹底的に糾弾するのです。他の省庁も、たとえば、中国に対する各種の制裁をすぐに発動するとか、とにかく、他省庁と連絡協議したり、上に判断を仰ぐことなく、すぐに行動できるようにしておくのです。

そうすれば、中国側は、日本の迅速な対応に拒まれ、結局何もできないうちに、なし崩しになって終わってしまうということになると思います。

こうした、迅速な初期対応が終わった後に、その後の対応に関して、各機関が綿密に共同して行動すれば、良いということです。とにかく迅速さが一番ということだと思います。多少拙速であったにしても、中国側に既成事実を作られるよりは、遥かに良いということです。

このように、各省庁が自己完結的に動き、迅速に事態に対応できるようにしておくのです。この体制を築いておかなけば、中国は南シナ海のようにサラミ戦術で尖閣に最初は少人数で上陸して、少しずつ人員を増やし、構築物も最初は控えめに構築し、それでも日本が非難するだけで実行動をしなければ、増長して、だんだん規模を拡大し、終いには尖閣を軍事基地化し、沖縄侵攻のための橋頭堡にするでしょう。

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2018年2月20日火曜日

中国と延々と渡り合ってきたベトナムに日本は学べ もしも尖閣で紛争が起きたら日本はどうすべきか―【私の論評】緒戦での大勝利と、国際政治のパラドックスを迅速に最大限に活用せよ(゚д゚)!

中国と延々と渡り合ってきたベトナムに日本は学べ もしも尖閣で紛争が起きたら日本はどうすべきか


 ベトナムは中国と国境を接し、有史以来、何度も戦火を交えてきた。昨今の日中関係を考える時、その歴史から学ぶところは多い。

 ベトナムは長い間中国の支配下にあった。その支配は漢の武帝(前141~前87年)の頃に始まり、約1000年間続いた、しかし、唐が滅びて五代十国と言われる混乱の時代を迎えると、その隙をついてベトナムは独立した。938年のことである。

 ただ、その後も、宋が中国大陸を統一するとベトナムに攻め入った。その際は、今でもベトナムの英雄である李常傑(1019~1105年:リ・トゥオーン・キエット、ベトナムでは漢字が用いられてきた)の活躍により、なんとか独立を保つことができた。ただ、独立を保ったと言っても冊封体制の中での独立。ベトナムは中国の朝貢国であった。

李常傑
 中国大陸に新たな政権が生れるたびに、新政権はベトナムに攻め込んだ。朝貢していても安全ではない。相手の都合で攻めて来る。

 日本を攻めた元は、ベトナムにも船を使って攻め込んだ。たが、元は船を使った戦いは得意ではなかったようだ。日本に勝つことができなかったように、ベトナムにも勝つことができなかった。

 そんなベトナムが大きな危機を迎えたのは、明の永楽帝(1360~1424年)の時代。靖難の変によって甥から政権を簒奪(さんだつ)した永楽帝はなかなか勇猛な皇帝であり、武力による対外膨張政策を実行した。コロンブスよりも早く大洋に乗り出したとされる鄭和(ていわ)の南海遠征も永楽帝の時代に行われている。

永楽帝
 永楽帝の時代にベトナムは再び明の統治下に置かれる。しかし、永楽帝の死後、これもベトナムの英雄である黎利(レ・ロイ、1385~1433年)の活躍によって独立を回復している。

 その後、乾隆帝(1711~1799年)の時代に清がベトナムに攻め込むが、ベトナムは現在のハノイ・ドンダー区で行われたドンダーの戦い(1788~89年)において、大勝することができた。これは中国との戦いにおいて、ベトナム史上最大の勝利とされる。しかしながら、戦いに勝利したベトナムは直ちに使者を送って、清の冊封体制の下で生きることを約束している。

 中国とベトナムは1989年にもベトナムのカンボジア侵攻を巡って戦火を交えている。この戦争は、社会主義国同士の戦争として日本の進歩的文化人を困惑させたが、社会主義国の間では戦争が起こらないなどという話は神話だろう。歴史を振り返ってみると、ベトナムと中国は基本的に仲が悪い。

「中国は平和主義の国」は全くのウソ

 ベトナムの歴史から、以下のような教訓を引き出すことができるだろう。

(1)中国は新たな政権ができるたびに、冊封下にあるベトナムに攻め込んでいる。冊封体制の下にあるといっても安心ではない。「中国は平和主義の国であり、外国に攻め入ったことがない」などという話は全くのウソである。

(2)強い皇帝が現れた時に対外侵略が行われる。漢の武帝、明の永楽帝、そして清の乾隆帝の時に、大規模な侵略が行われた。そして、明の永楽帝が亡くなるとベトナムが独立を回復したことからも分かるように、中国との関係を考える際には「強い皇帝」がキーワードになる。

(3)実は中国軍は弱い。小国ベトナムを相手にして、ここ1000年ほど負けっぱなしである。特に船を用いた戦いに弱い。大陸国であるために、船を乗りこなすのが苦手だ。現在のハロン湾周辺の河口域で行われた戦において、ベトナム側の同じような戦法に引っかかって何度も負けている。

(4)小国ベトナムは、勝利した後に素早く使者を送って、へり下る形で和睦している。冊封体制の下で生きることを選んだと言える。冊封体制下で生きることはメンツを失うことになるが、中国から派遣された代官の暴政にさらされることはなくなる。朝貢しなければいけないが、お土産を持って行けばそれに倍するお返しをもらえたことから、名を捨てて実を取る選択と言ってよい。

尖閣諸島をめぐる争いは緒戦が重要

 幸いにして、中国と日本の間には海があったために、中国大陸に新たな王朝ができるたびに攻め込まれるなどということはなかった。だが、近年は尖閣諸島を巡って対立が続いている。

 そんな日本にとって、ベトナムの歴史から学べる最も重要な教訓は、中国の攻勢は長期間続かないということである。強い皇帝が出現して対外強硬政策を採用しても、代が変われば政策は変更される。せいぜい30年ほど時間を稼げばよい。

 中国は大国、ベトナムは小国。だから、一度や二度、中国が部分的な戦いに負けたとしても、再度大軍を派遣すればベトナムを打ち破ることができたはずだ。しかし、中国は負けた際に再度大軍を派遣することはなかった。対外戦争に一度でも敗れると内政が不安定化して、大軍を派遣することが難しくなるためと考えられる。

 ベトナムはそこをよく見ていた。だから、ここ一番の戦いに全力を挙げて部分的な勝利を納めると、それ以上中国を追い込むことはしなかった。戦いに勝利するとすぐに和平の使者を派遣して、朝貢体制の下で生きることを選択した。

 面白いのは清の乾隆帝である。清がベトナムと戦ったドンダーの戦いは、ベトナムではベトナム史上最大の戦勝と言われている。しかし、先にも書いたようにベトナムが戦勝の直後に和平の使者を派遣して冊封下で生きることを約束したために、清はその戦いを乾隆帝の十大武功の1つとしている。清は、国内にはベトナムに勝ったと宣伝したのだ。ベトナムは乾隆帝のメンツを立てることによって、それ以降の戦いを避けた。

ドンターの戦いの錦絵
 尖閣諸島をめぐる争いでも、緒戦が重要になる。日本は緒戦に勝てるように十分に準備しておく必要がある。中国は緒戦に負けると、戦争を続けることが難しくなる。その機運を素早く読み取り、中国のメンツが立つようにして、和平に持ち込み実利を取るのが有効な対処法であろう。

 中国は秦の始皇帝以来、約2300年にわたり東アジアに君臨してきた大国であるが、大き過ぎるために、内政の取りまとめが難しい。そのため、国を挙げて他国と戦いを続けることができない。緒戦でちょっと負けると不満分子が政権を揺さぶるからだ。一方で、東アジアの歴史において常に大国であったために、メンツをとても重視する。そんな中国とは対峙するには、軍事的に隙を見せることなく、なおかつ中国のメンツが立つような外交を心がけるべきであろう。

 過去約1000年間にわたり、小国ベトナムは中国と陸続きで対峙しながら、その間、実際に中国に占領されたのは20年間という短い時間であった。その歴史から、学ぶところは多い。

【私の論評】緒戦での大勝利と、国際政治のパラドックスを迅速に最大限に活用せよ(゚д゚)!

米国の戦略家ルトワック氏は、そもそも昔から大国は、小国に勝てないということを主張しています。確かに、そういわれてみればそうです。米国もベトナムには勝てませんでした。

ルトワック氏は、そもそも中国は「大国は小国に勝てない」という「戦略の論理」を十分に理解していないと主張しています。

ある大国がはるかに国力に乏しい小国に対して攻撃的な態度に出たとします。その次に起こることは何でしょうか。

周辺の国々が、大国の「次の標的」となることを恐れ、また地域のパワーバランスが崩れるのを警戒して、その小国を助けに回るという現象があらわれるのです。その理由は、小国は他の国にとっては脅威とはならないのですが、大国はつねに潜在的な脅威だからであす。

米国はベトナム戦争に負けましたが、ベトナムは小国だったがために中国とソ連の支援を受けることができたのです。

しかも共産国だけではなく資本主義国からも間接的に支援を受けています。たとえば英国は朝鮮戦争で米国側を支援したのですが、ベトナム戦争での参戦を拒否しています。

米国が小さな村をナパーム弾で空爆する状況を見て、小国をいじめているというイメージが生まれ、最終的には米国民でさえ、戦争を拒絶するようになってしまいました。

『戦争の恐怖』1972年6月8日、AP通信ベトナム人カメラマンだった、ニック・ウット氏撮影。
南ベトナム軍のナパーム弾で、火傷を負った子供らが逃げてくる場面を捉えたもの
つまり国というものは、強くなったら弱くなるのです。戦略の世界は、普通の生活とは違ったメカニズムが働いているのです。

近年、中国は香港で民主化運動に弾圧を加え続け、さらには激しい言論統制を行っています。北京側が今回、香港で誘拐したり投獄したりと極めて乱暴に振舞ったことで台湾国内の親北京派の力を削いでしまいました。

中国指導層にとって、香港は攻撃可能な「弱い」相手でもありました。それが台湾という「周辺国」の反発を生んだのです。

このあたりの詳しいことはルトワック氏の『戦争にチャンスを与えよ』をご覧になってください。

日本とベトナムとを比較すると、当然のことながら、経済でも軍事でも日本が大国であることは間違いありません。であれば、日本はベトナムから学べるところと、学べないところがあるということになると思います。

以下にルトワックの提唱する中国の戦略を振り返ってみます。

中国は、2000年代に入ってすぐに『平和的台頭』という戦略を採用しました。これは、他国と余計な摩擦や衝突を起こさずに国力を上げるという戦略です。これは、大成功を収めました。これをルトワックは「チャイナ1.0」と呼称しています。

しかし世界を震撼させた2008年のリーマン・ショックを機に「チャイナ2.0」へと大きくシフトした。これは、中国はもはや小国でなく、大国として積極的に攻勢に出るべきだという圧力が国内に充満したのを受けて、それを国家戦略にしたものです。

これは、明らかに大きな誤りでした。その後2014年になり、習近平政権が再び中国の戦略を変更しました。それが「中国 3.0」です。この戦略は選択的攻撃というものです。

戦略を変更するきっかけとなったのは、南シナ海で中国に対して強い抵抗を示したベトナムと、東シナ海で断固とした姿勢を貫いた日本だったとルトワックは指摘しています。

中国は、ベトナム、フィリピン、韓国などに対し、宥和政策を積極的に展開するとともに、日本には尖閣諸島付近で挑発を繰り返すなどの行動に出て、対中包囲網そのものに手を突っ込み、包囲網の分断を図ってきました。

中国は大国戦略をとって強く外にでたのですが、抵抗にあうことで立場が弱くなってしまったのです。このような国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムを、ルトワックは「パラドックス」と名づけています。

プレイヤーが競合関係にある場では、このようなメカニズムが常に発生しているのですが、中国はいまだそれを理解できておらず、不安定な国です。

そうして、ルトワックが提唱する「中国4.0」に関しては、習近平はそのような戦略はとれないとしていますので、ここでは解説しません。

いずれにせよ、当面日本は「中国3.0」の戦略をとり続ける中国と対峙しなければならなのです。

そこで、参考になるのがベトナムです。特に、「中国は大国、ベトナムは小国。だから、一度や二度、中国が部分的な戦いに負けたとしても、再度大軍を派遣すればベトナムを打ち破ることができたはずだ。しかし、中国は負けた際に再度大軍を派遣することはなかった。対外戦争に一度でも敗れると内政が不安定化して、大軍を派遣することが難しくなるためと考えられる」というところは参考になります。

緒戦で圧倒的な勝利を収めることが重要なのです。だから、尖閣諸島をめぐる争いでも、緒戦が重要になるのです。日本は緒戦に勝てるように十分に準備しておく必要があるのです。中国は緒戦に負けると、戦争を続けることが難しくなるのです。

これは、今でも同じでしょう。尖閣でも、緒戦の段階で日本が圧倒的な勝利を収めれば、未だ国内で権力闘争を継続している中国はその後戦争を続けることが難しくなるのです。

そうして、この緒戦の勝ち方については、ここでは詳細は述べませんが、これについてはルトワック氏も詳細を述べていて、このブログでも何度か紹介したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!
尖閣は自分で守れと主張するルトワック氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、ルトワック氏も緒戦で勝利を収めるべきことを主張しています。以下にこの記事から一部引用します。

"
人民解放軍がある日、尖閣に上陸した。それを知った安倍総理は、自衛隊トップに電話をし、「尖閣を今すぐ奪回してきてください!」という。自衛隊トップは、「わかりました。行ってきます」といい、尖閣を奪回してきた。

こういう迅速さが必要だというのです。なぜ? ぐずぐずしていたら、「手遅れ」になるからです。ここで肝に銘じておくべきなのは、
「ああ、危機が発生してしまった。まずアメリカや国連に相談しよう」
などと言っていたら、島はもう戻ってこないということだ。ウクライナがそのようにしてクリミア半島を失ったことは記憶に新しい。(p152)
安倍総理は、「人民解放軍が尖閣に上陸した」と報告を受けたとします。「どうしよう…」と悩んだ総理は、いつもの癖で、アメリカに相談することにしました。そして、「国連安保理で話し合ってもらおう」と決めました。そうこうしているうちに3日過ぎてしまいました。尖閣周辺は中国の軍艦で埋め尽くされ、誰も手出しできません。
"
このような状況になってしまっては、もうどうしようもありません。中国はさらに後続部隊を送ってくることでしょう。そのうち、工科部隊を送り込み、基礎工事をして、その後には本格的に業者を送り込み、尖閣諸島を軍事基地化することになり、南シナ海と同じような状況になることでしょう。

だからこそ、緒戦が大事なのです。緒戦で明らかに日本が大勝利という形をつくってしまえば、習近平も国内で面子を失い、反対派が勢いづきその後、尖閣に兵を出し続けることは困難になります。

そうして、その後ですが、その後はベトナムの中国対応は参考になりません。特に「戦いに勝利するとすぐに和平の使者を派遣して、朝貢体制の下で生きることを選択した」というようなことは日本はできませんし、決してやってはいけないことです。

これは、小国であるベトナムだから通用してきた手であって、小国ではない日本などの国がとる手ではありません。このような手を打てば、中国は錯誤するだけです。

なぜなら、中国は巨大国家であるがゆえの「内向き」な思考を持っており、しかも古代からの漢民族の「戦略の知恵」を優れたものであると勘違いしており、それを漢民族の「同一文化内」ではなく、「他文化」に過剰に使用することによって信頼を失っているからです。

そうして、中国が尖閣を攻めた途端に、国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムである「パラドックス」が生じているからです。

中国が大きくなり、日本の領土を攻撃したということにでもなれば、それに対抗しようとする同盟も大きくなります。中国が日本に対して本格的に圧力をかけようとすると、アメリカが助けに来るし、べトナム、フィリピン、それにインドネシアなども次々と日本の支持にまわり、この流れの帰結として、中国は最初の時点よりも弱い立場追い込まれことになります。これが中国の錯誤の核心です。

日本は、このパラドックスを最大限に利用すべきだし、利用すべくすぐに行動すべきなのです。これを実行するためには、過去のベトナムのようにすぐに和平に走ってはならないのです。

さらに、同盟を強化して、日本だけではなく同盟により中国に圧力をかけ、さらに中国を追い込み強力に包囲するのです。これによって、習近平の面子が潰れても全く気にする必要はありません。これにより、中国国内では、習近平反対派が勢いづき、再び権力闘争が激化します。


中国では、昨年の党大会までは、権力闘争が激化していましたが、現在は沈静化の方向にあります。しかし、習近平が尖閣奪取の挙にでて、それが大失敗したとなれば、習近平の面子は丸つぶれとなり、中国内では反習近平派(江沢民派など)が勢いづくことになります。

これは、主席が誰であろうと、尖閣を奪取しようとして、緒戦で大失敗すれば、同じことになります。

そうなれば、習近平は尖閣どころではなく、国内政治にエネルギーを割くことになります。中国の権力闘争は、日本などとは異なり、熾烈を極めます。下手をすれば、命を失います。そうなれば、尖閣の危機は遠のきます。

ここで、過去のベトナムのようにすぐに和平に走れば、習近平が国内政治を御しやすくするだけであり、再び尖閣どころか、今度は沖縄まで危機にされされることになりかねません。

日本は中国が尖閣を奪取しにきた場合は、当然緒戦で大勝利を収めるべきですし、それは日本にとっては十分可能なことです。ただし、そのために法整備などをしておく必要があります。私は、これは憲法を改正しなくてもできると思っています。

そうして、それだけに甘んずることなく、中国が尖閣を攻めた途端に、国際政治において発生する「逆説的」なメカニズムである「パラドックス」を迅速にそうして、最大限に利用すべく普段から準備しておくべきなのです。

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