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2018年11月21日水曜日

米国で報告された尖閣周辺の「危ない現状」―【私の論評】尖閣有事には、各省庁が独自に迅速に行動しないと手遅れになる(゚д゚)!

米国で報告された尖閣周辺の「危ない現状」

中国の攻勢がエスカレート、高まってきた軍事衝突の危険性

古森 義久

訓練中に空母「遼寧」に着艦するJ15戦闘機

中国は尖閣諸島を奪取するために軍事力を土台とする攻勢を強め、日本領海に艦艇を侵入させるほか、新たに人民解放軍直属の潜水艦や軍用機の投入による日本領土侵食を開始した──。 

 11月中旬、米国議会の諮問機関がこんな報告を公表した。中国のこの動きは、尖閣諸島での日本の施政権を否定し日中両国間の軍事衝突の危険を高めるとともに、米国の尖閣防衛誓約へのチャレンジだともいう。 

 こうした中国の動向は、最近の日本への融和的な接近とは対照的である。中国当局は米国からの圧力を弱めるために日本への微笑外交を始めている。だが、米国議会の諮問機関による報告は、実際の対日政策の攻勢的な特徴は変えていないことを明示するといえそうである。

2016年11月に尖閣諸島沖の領海に侵入した中国公船の「海警2502」。中国側の尖閣への
攻勢はこのときよりさらにエスカレートしている。海上保安庁提供(2016年11月6日撮影)

日本に対する軍事力攻勢を拡大

 米国議会上下両院の超党派の政策諮問機関「米中経済安保調査委員会」は11月14日、2018年度の年次報告書を議会に提出した。米中経済安保調査委員会は、米中両国の経済関係が米国の国家安全保障に及ぼす影響の調査と研究を主目的とする委員会である。

 同委員会の2018年度の年次報告書は、日本に関連して「中国は、米国と日本など同盟諸国との絆を弱め、その離反を図る一方、尖閣諸島への軍事的攻勢を強め、米国の日本防衛、尖閣防衛の誓約にチャレンジしている」と述べていた。

 また、米中安全保障関係に関するこの1年間の新たな主要な動きの1つとして中国側の尖閣攻勢の拡大を挙げ、この動きが米中安保関係での米国への挑戦になると総括していた。

 さらに同報告書は、尖閣をめぐる新たな動向として中国人民解放軍の原子力潜水艦や軍用機が出動してきたことを指摘し、日本に対する軍事力攻勢の増加を強調していた。中国軍は東シナ海での軍事的存在を拡大し強化してきた、ともいう。
中国潜水艦が尖閣近海に初めて侵入

 尖閣諸島に関して同報告書の記述で最も注目されるのは、“中国と日本との軍事衝突の危険性”が高まってきたとする警告だった。その点について同報告書は次のように述べていた。

・東シナ海での中国と日本との間の緊張が高まり、事故や読み違い、対立拡大の恐れが強まった。

 同報告書は、中国側の軍事的エスカレーションによって尖閣諸島をめぐる情勢が緊迫してきていると述べる。その主な内容は以下のとおりである。

・中国側の潜水艦など海軍艦艇が、尖閣諸島の日本側の領海や接続水域へ顕著に侵入するようになった。中国は、日本の尖閣諸島の施政権を否定する方法として軍事的な要素を強めてきた。

・2018年1月、中国海軍の原子力潜水艦とフリゲート艦が、尖閣諸島の日本側の接続水域に侵入した。日本側からの再三の抗議を受けて接続水域を出た後、潜水艦は中国国旗を掲げた。中国潜水艦の尖閣近海への侵入は初めてである。国旗の掲揚は日本の施政権への挑戦が目的だとみられる。

・2018年全体を通じて、中国軍は尖閣付近での軍用機の訓練飛行をそれまでになく頻繁に実施するようになった。中国軍機は日本の沖縄と宮古島の間の宮古海峡を通り抜け、対馬付近も飛行した。中国空軍のこの長距離飛行訓練は日本領空にきわめて近く、軍事衝突の危険が高い。

・2018年全体を通じて中国の公艇は平均して毎月9隻の割で尖閣諸島の日本領海に侵入してきた。この隻数は2017年よりわずかに少ないが、潜水艦やフリゲート艦など海軍艦艇の侵入は今年が初めてとなる。全体として中国側の日本側に対する攻勢は激しくなった。

・中国の尖閣諸島に対するこうした攻勢は、明らかに日本が持つ尖閣の主権と施政権への挑戦であり、とくに施政権を否定する意図が明白である。同時に日米安保条約によって尖閣の防衛を誓っている米国に対しても挑戦を強めてきたといえる。

 以上のような中国の具体的な動向は、習近平政権が最近、日本に対してみせている融和的な姿勢とは明らかに異なっている。

 中国側の尖閣に対する動向をみるかぎり、日本領土を奪取し日米同盟を敵視するという年来の対日政策はなにも変わっていないことになる。とすると、いまの習近平政権が安倍晋三首相らにみせる友好的な態度はみせかけだけだという結論になりそうだ。

【私の論評】尖閣有事には、各省庁が独自迅速に行動しないと手遅れになる(゚д゚)!

さて、上の記事には掲載されていない中国側の変化があります。それは、中国海警局の所属が変わったことです。

従来の中国海警局は13年7月、中国の行政府である国務院の傘下にあった複数の海上法執行機関が統合されて発足したものです。

その目的は、分散していた海上法執行機関を一元的な指揮命令系統の下に置くことで効率的な運用を可能にすることや、予算や装備、人員などを統一的に管理・整備することで法執行力を大幅に強化することなどにあったと考えられます。

この時期の中国海警局はあくまで国務院の管理の下に置かれた非軍事の行政組織であり、所属船舶は公船と位置付けられまし。

中国の武警は純然たる軍事組織

他方、中国海警局が新たに編入された武警は、人民解放軍および民兵と並んで中国の「武装力量」(軍事力)に位置付けられた明確な軍事組織です。今年に入って武警の大幅な改革が実行され、従来の国務院と共産党中央軍事委員会による二重指導が解消されました。

これによって武警は人民解放軍と同様、中央軍事委員会による統一的かつ集中的な指導の下に置かれることになりました。7月の組織改編では、国境管理や要人警護、消防任務、金鉱探査、水利建設などを担っている非軍事部門が国務院などへ所属替えとなり、国防任務に資源を集中するためのスリム化が図られました。

同時に、国務院に所属していた中国海警局が、「武警海警総隊」として武警に編入され、「海上の権益擁護と法執行」を任務として遂行することになったのです。また、この「武警海警総隊」は、対外的な呼称として「中国海警局」の名称を引き続き使用し、関連する法規については機が熟したときに整備するとの方針が示されました。

武警は「国防法」において明確に軍事力の構成要素とされており、中央軍事委員会の一元的な指揮の下に置かれていることや、隊員が現役軍人の身分を有して階級制度も実行されていることなどから、国際的な基準に照らしても明らかに軍隊です。

中国海警局は、これまでの国務院による指揮から離れ、武警に編入されたことにより、武警海警総隊として軍事組織の一部となりました。その当然の帰結として、武警海警総隊に所属する船舶は軍艦となり、尖閣諸島周辺海域で日本の公船と対峙することになったのです。

これまでのところ、武警海警総隊が尖閣諸島周辺海域で活動させている船舶に、外見上の大きな変化は見られません。船体は白い塗装のままであり、対外的な呼称である「中国海警局」との表示も継続して使用されています。日本の領海に侵入する頻度や隻数にも目立った変化はないです。

しかしながら、これらの船舶はもはや中国の公船ではなく軍艦であることから、尖閣諸島周辺海域における中国の軍事的プレゼンスが大幅に強化されたと言わざるを得ないです。中国が「中国海警局」を対外的な呼称として使い続けたり、武警海警総隊の位置づけや任務などに関する法規の制定を先送りにしたりしていることなどから、武警海警総隊の設立がもたらす影響は外部から見えにくいです。

しかし中国は、少なくとも国内向けには、尖閣諸島周辺海域における自国の軍事的プレゼンスの確立という成果をアピールすることが可能となりました。

今後は、武警海警総隊が着実に能力を強化していくことが予想されます。法執行機関であった中国海警局は、一定程度の軽火器を装備していましたが、その使用は法執行に必要な範囲に限定されていました。

他方で軍事組織である武警は、有事における防衛作戦などに対応できる重火器を含む多様な武器を装備し、それを使用する訓練も行ってきており、中国海警局とは比較にならない強力な戦闘力を有しています。

武警の装備や戦闘ノウハウが、武警海警総隊によって次第に共有されることになるでしょう。また、人民解放軍と共に中央軍事委員会による統一的な指揮の下に置かれることで、今後は海軍と武警海警総隊の連携も強化されていくとみられます。

近年、中国海軍の艦船が尖閣諸島への接近を強めていますが、今後は武警海警総隊と海軍の艦船が密接に連携した行動をとることで、日本側に難しい対応を迫る場面も想定されます。

このように尖閣諸島周辺海域で軍事的プレゼンスを高めている中国に対して、日本は海上自衛隊の艦船を前面に立てて対抗すべきです。日本が海上自衛隊の艦船を現場海域へ進出させることは、中国に対して日本側の覚悟を示すことになり、国際社会にも日本の意図をはっきりと示すことになります。

現在、米国が中国に対して冷戦Ⅱを挑んでいることから、この日本の対応は米国からも歓迎されることでしょう。日本が日本の領土を自前で守る姿勢を見せれば、トランプ政権は高く評価することでしょう。そうして、このことで、中国が日本を世界に向けて非難することでもあれば、米国は真っ先にこれを排除する動きに出るでしょう。

北朝鮮や韓国を除いた、多くの国々がこの動きに賛同し、日本の行動を賞賛することになるでしょう。

日本としては、中国が尖閣諸島周辺海域で軍事的プレゼンスを強化している実態を国際社会に広く訴えると同時に、仮に事態がエスカレートしても、その事態にすぐに対応できるようにし、日本に対する国際的な支持を得られるようにすべきです。

これについては、ルトワック氏の戦略が役に立つと思います。それについては以前このブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。

日本の“海軍力”はアジア最強 海外メディアが評価する海自の実力とは―【私の論評】日本は独力で尖閣の中国を撃退できる(゚д゚)!


ヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」

この記事には、米国の戦略家ルトワック氏が、尖閣有事の際の、対処法を掲載しています。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この中でルトワック氏は、対処法で一番重要なのは、迅速性であるとしています。それに関する部分のみ以下に掲載します。
"
人民解放軍がある日、尖閣に上陸した。それを知った安倍総理は、自衛隊トップに電話をし、「尖閣を今すぐ奪回してきてください!」という。自衛隊トップは、「わかりました。行ってきます」といい、尖閣を奪回してきた。

こういう迅速さが必要だというのです。なぜ? ぐずぐずしていたら、「手遅れ」になるからです。ここで肝に銘じておくべきなのは、
「ああ、危機が発生してしまった。まずアメリカや国連に相談しよう」
などと言っていたら、島はもう戻ってこないということだ。ウクライナがそのようにしてクリミア半島を失ったことは記憶に新しい。(p152)
安倍総理は、「人民解放軍が尖閣に上陸した」と報告を受けたとします。「どうしよう…」と悩んだ総理は、いつもの癖で、アメリカに相談することにしました。そして、「国連安保理で話し合ってもらおう」と決めました。そうこうしているうちに3日過ぎてしまいました。尖閣周辺は中国の軍艦で埋め尽くされ、誰も手出しできません。

米軍は、「ソーリー、トゥーレイト」といって、動きません。国連は、常任理事国中国が拒否権を使うので、制裁もできません。かくして日本は、尖閣を失いました。習近平の人気は頂点に達し、「次は日本が不法占拠している沖縄を取り戻す!」と宣言するなどという悪夢のようなことにもなりかねません。こんなことにならないよう、政府はしっかり準備しておくべきです。
"

同時に、様々な事態を想定した自衛隊と海上保安庁との連携行動についての準備を強化することで、中国側の冒険主義的な行動に対する抑止力を向上させるべきです。人民解放軍と武警海警総隊の連携が深化することにより、尖閣諸島をめぐる中国の行動は、選択肢が広がり、迅速性も高まることになります。

海上保安庁と自衛隊のみならず、関連省庁が一体となることなく、それぞれの省庁独自に、尖閣諸島をめぐって想定される様々な事態を具体的に検討し、それぞれのケースに応じた迅速な対応策を事前に策定しておく必要があります。

このような場合、内閣府や関連各省庁が緊密に連絡をとりあいながら、一致団結して、事に対処するなどという呑気な事を言っていては、迅速な行動はできないでしょう。それこそ、各省庁の縦割り行政が悪い方向に出て、迅速な行動ができず、手遅れになることは必定です。

尖閣有事となったときには、予め防衛省や、各省庁の動きを定めておき、各省庁や内閣への報告などは、最低限にし、そのマニュアルに下がつて各省庁が迅速動くのです。

無論、これは防衛省や海上保安庁だけではなく、外務省であれば、すぐに予め用意しておいた、コンテンツをもとに、国連やその他国際社会で、中国を徹底的に糾弾するのです。他の省庁も、たとえば、中国に対する各種の制裁をすぐに発動するとか、とにかく、他省庁と連絡協議したり、上に判断を仰ぐことなく、すぐに行動できるようにしておくのです。

そうすれば、中国側は、日本の迅速な対応に拒まれ、結局何もできないうちに、なし崩しになって終わってしまうということになると思います。

こうした、迅速な初期対応が終わった後に、その後の対応に関して、各機関が綿密に共同して行動すれば、良いということです。とにかく迅速さが一番ということだと思います。多少拙速であったにしても、中国側に既成事実を作られるよりは、遥かに良いということです。

このように、各省庁が自己完結的に動き、迅速に事態に対応できるようにしておくのです。この体制を築いておかなけば、中国は南シナ海のようにサラミ戦術で尖閣に最初は少人数で上陸して、少しずつ人員を増やし、構築物も最初は控えめに構築し、それでも日本が非難するだけで実行動をしなければ、増長して、だんだん規模を拡大し、終いには尖閣を軍事基地化し、沖縄侵攻のための橋頭堡にするでしょう。

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2016年3月21日月曜日

中国不法漁船を爆破 インドネシアが拿捕して海上で 「弱腰」から「見せしめ」に対応―【私の論評】ルトワックが示す尖閣有事の迅速対応の重要性(゚д゚)!


インドネシア海軍によって爆破される不法操業の漁船
インドネシアは20日、領海内で不法操業をしていたとして拿捕(だほ)した中国漁船を海上で爆破した。地元メディアが21日、一斉に報じた。「海洋国家」を目指すジョコ政権はその一環として、不法操業船の取り締まりを強化、「見せしめ」として外国籍の違法漁船を爆破してきたが、中国漁船への対応には慎重だった。

インドネシア大統領ジョコ・ウィドド氏 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 スシ海洋・水産相は20日、植民地時代のインドネシアで最初の民族団体が結成された日にちなんだ「民族覚醒(かくせい)の日」の演説で、「大統領の命令で、法に基づく措置を執行する」と述べ、違反が確定した外国漁船41隻の爆破を発表した。

爆破は船から乗組員を下ろした後で海軍などが行った。報道によると、うち1隻は中国漁船(300トン)で、カリマンタン島西沖で少量の爆発物で沈めた。

スシ海洋・水産相
 インドネシア近海は豊富な漁業資源に恵まれ、外国漁船の違法操業が野放し状態になっていた。ジョコ大統領は取り締まりを指示、今年3月までに外国漁船計18隻を爆破した。だが、20隻以上摘発した中国籍の船は爆破せず、議会などから「弱腰」との批判が出ていた。中国漁船の爆破は今回が初めてとみられる。

今回、他に爆破した漁船は、ベトナム5隻、タイ2隻、フィリピン11隻など。

ジョコ氏は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が中国と領有権を争う南シナ海問題で「法に基づく解決」を主張。インドネシア自身は中国と領有権問題はないとしているが、中国が領海域と主張する「九段線」がナトゥナ諸島を含めている可能性が強く、警戒を強めている。

中国外務省の洪磊報道官は21日の定例記者会見で、中国漁船爆破について、「建設的に漁業協力を推進し、中国企業の合法で正当な権益を保証するよう望んできた」と不満を示し、インドネシア側に説明を求めたことを明かした。

【私の論評】ルトワックが示す尖閣有事の迅速対応の重要性(゚д゚)!

先日は、アルゼンチン海軍が、中国漁船を撃沈しました。それについては、このブログでも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【動画付き】アルゼンチン沿岸警備隊が中国漁船を撃沈 違法操業で「警告無視」―【私の論評】トランプ米大統領が誕生すれば、日本は安保でアルゼンチンなみの国になれる(゚д゚)!
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事ではアルゼンチン沿岸警備隊が中国漁船を撃沈したことを掲載しました。

そうして、この記事では日本がかつて、北朝鮮籍とおぼしき不審船を銃撃したことや、ロシアで中国籍の船をロシアの沿岸警備艇が撃沈、乗組員が死亡したことなども掲載しました。

このような措置をすることは、国際的には常識です。このようなことをしなければ、それこそ、中国や、北朝鮮などからも、「弱腰」とみられ、領海などなきがごときの行動をする漁船がでてくることになります。

そうして、最近の日本はそのような状況になっています。これは、どこかで変えなければならないでしょう。かつて、北朝鮮の不審船を追跡して、銃撃し、その不審船は、どうあがいても拿捕されることは免れないと断念し、自爆しました。その船は回収され、一般公開されていました。

にもかかわらず、民主党政権のときには、尖閣で海上保安庁の船が中国の船に体当たりされ、日本側の反応は腰砕けで本当にお粗末でした。

中国の海洋進出の暴走が明らかになった現在、このような対応では、ますます中国が増長するばかりです。

さて、日本においては、こうした中国漁船の行動だけではなく、中国公船が領海を侵犯したり、航空機が領空を侵犯するのは、日常茶飯事になっています。

このような状況にどのように対応したら良いのか、なかなか結論は出ません。しかし、軍事戦略の大家であるルトワック氏は、最近日本に対する提言も入った、新しい書籍を出しています。それが以下の書籍です。

中国4.0 暴発する中華帝国 (文春新書 1063)
新書版で、分量も少ないながら、かなり読み応えのある書籍です。私は、本日キンドル版を購入して、もう読了しました。

以下に簡単にこの書籍を紹介します。

2000年以降、「平和的台頭」(中国1.0)路線を採ってきた中国は、2009年頃、「対外強硬」(中国2.0)にシフトし、2014年秋以降、「選択的攻撃」(中国3.0)に転換した。来たる「中国4.0」は? 危険な隣国の未来を世界最強の戦略家が予言する!
戦略家ルトワックのセオリー
・大国は小国に勝てない
・中国は戦略が下手である
・中国は外国を理解できない
・「米中G2論」は中国の妄想
・習近平は正しい情報を手にしていない
・習近平暗殺の可能性
・日本は中国軍の尖閣占拠に備えるべし
以下に、この書籍にも取り上げられている、中国の主張する領海である九段線を図示します。


ルトワックは、そもそも、この九段線の元となった地図は、中国が実効的な支配力をほとんど持たなかった時期に国民党(現台湾)の軍の高官が酔っ払いながら描いたものであり、こんな馬鹿げたでっち上げの地図に拘る必要など初めから無いとしています。さらに、空母の建造も中国にとって、カネの無駄遣いでしかないとしています。

以下には、ルトワックのこの著書には出ていかなった九段線を前提とした、第一列島線、第二列島線を図示します。


九段線は、もとは破線で書かれていて、線の数が九つあるので九段線と称されていますが、牛の舌のような形をしている事から牛舌線とも呼ばれ、日本では赤い舌と表現されているものです。

この線は、上記でも掲載したように、もとは国民党の中華民国が1947年に設定したものです。国民党を追い出した中国共産党はこの境界線を踏襲して、1953年から国内の地図に九段線を明記するようになりました。

中国が九段線で南沙諸島の領有権を主張してから60年以上が経過しています。そして、その時間的な経過をもって、さらなる領有権の根拠としているのです。

上の図には中国が軍事上の制海権確保の目標とする第一列島線と第二列島線も示しています。これも今はまだ夢物語として放置していると、何十年か後には、中国側の主張が長く反論されなかった事を根拠に太平洋の島々の領有権を主張するようになるかもしれません。

しかし、九段線ですら、妄想にすぎないのですから、第一列島線や第二列島線は虚妄に過ぎません。しかし、中国はこれを虚妄とは思っていないのです。

中国の九段線内への進出

ルトワック氏は『中国4.0』で、中国の平和的台頭すなわち国際秩序を尊重しつつ発展する政策をChina1.0とするなら、2009年以降突如として攻撃的な態度に変貌した政策をChina2.0としています。

これは、中国の対外認識の誤り(周辺国は金で言う事を聞くだろう)と中国自身の経済成長がアメリカを追い抜くと言う誤った認識と、近代100年にわたる中国人民の国を侵略された恥の意識を拭いたいと言う感情的暴発が拍車をかけて実行されることになりました。

しかし、それは玉突きのように、フィリピン、ベトナム、日本の反発を招きアメリカとともに対中包囲網の形成を促してしまいました。そこで、選択的に攻撃を控えるところと引き続き強い態度をとる対象をわけると言うのがChina3.0です。

ここ最近の日本への融和的態度もその一環です。では、China4.0とは何か。それは、ルトワックが提唱する中国が今後とるべき戦略的態度の事ですが、現在の中国には採用することが無理な政策です。すなわち、南シナ海からの撤退、尖閣からの撤退です。しか、著者によれば、外交や外国を知らず、内向きの中国にはそれができずに、自滅的な方向へのめり込んでいくだろう予言しています。

このような中国の戦略的誤りは、過去のアメリカによるイラク侵攻、日本の真珠湾攻撃と対比されています。これらの誤りはみな、感情的暴発により誤った方向へ国を導いたのです。

また、著者は、習近平は、ソ連共産党と国そのものを崩壊させたゴルバチョフと同じ道を歩んでいるとみています。彼の進める反腐敗闘争は、金銭を代価に活発に活動した共産党員の活力を奪い、また彼への反発を強めていると判断しているのです。

ルトワック氏は、習近平の反腐敗運動は、ゴリバチョフ氏のペレストロイカと同じようなものであるとみなしているのでしょう。

ソ連共産党と国そのものを崩壊させたゴルバチョフ

この書籍の最後には、日本への尖閣防衛のための助言が掲載されています。どうなるか分からない不安定さを持つ中国に対応するために、無理に大局をみるより現実的な個々の事象に対応するべく準備せよというものです。

日本側が、独自かつ迅速な対応を予め用意しおくように進言しています。しかも、各機関相互間の調整を重視するよりも、各機関が独自のマニュアル通りに自律的に行えるようにしておくべきとしています。

たちば、海上保安庁は即座に中国側の上陸者を退去させ警戒活動にあたり、外務省は諸外国に働き掛けて、中国の原油タンカーやコンテナ船などの税関手続きを遅らせるという具合です。とにかく、「対応の迅速さを優先させる」ことを強調しています。

自衛隊による対馬での島嶼防衛対応訓練
各機関が、このようなマニュアルを用意しておき、即座に動くことが肝要であることをルトワックは主張しているのだと思います。各機関が綿密に共同して行動していては、迅速さに欠けて、あれよあれよという間に、南シナ海で中国が実施したように、いずれ軍事基地化され、既成事実をつくられてしまってからは、これを取り消すことは至難の業になるからでしょう。

各機関が独自に動けば、初期の対応はかなり迅速にできるはずです。無論、海上自衛隊も、マニュアルに従い、独自に動き、尖閣有事の際には、別行動をしている海上保安庁の巡視船の行動を見守り、それではとても歯がたたないまでに、事態が悪化した場合、迅速対応するという形になるでしょう。

そうして、中国側は、日本の迅速な対応に拒まれ、結局何もできないうちに、なし崩しになって終わってしまうということになると思います。

こうした、迅速な初期対応が終わった後に、その後の対応に関して、各機関が綿密に共同して行動すれば、良いということです。とにかく迅速さが一番ということだと思います。多少拙速であったにしても、中国側に既成事実を作られるよりは、遥かに良いということです。

ルトワック氏の提言があるなしにかかわらず、日本としては、尖閣有事の際のシナリオと、そのシナリオに対応したマニュアルは作成しておき、迅速に行動して、中国に全く付け入る隙を与えないという姿勢を貫くべきです。

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