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2018年12月25日火曜日

北朝鮮に強いシグナルを送った米国―【私の論評】ダメ押し米国!着実に奏功しつつある北制裁、中国への見せしめにも(゚д゚)!

北朝鮮に強いシグナルを送った米国

岡崎研究所

 米国財務省は、12月10日、北朝鮮の高官3名に対する制裁を発表した。そのプレス・リリースの主要点を紹介する。



・米国財務省の外国資産管理室(OFAC)は、北朝鮮で行われている深刻な人権侵害・弾圧に対して、3名の個人を指定した。この財務省の措置は、2016年の北朝鮮に対する制裁及び政策強化法(NKSPEA)に従って、本日、国務省が議会に提出した「北朝鮮の深刻な人権侵害・弾圧に関する報告書」に基づくものである。

・ムニューチン財務長官は述べた。「財務省が制裁対象とする北朝鮮高官は、北朝鮮による人権侵害を指揮した人達である。この制裁措置は、米国が行っている表現の自由の擁護や人権侵害への反対等の立場を示した行動である。米国は、一貫して、北朝鮮の人権侵害や表現の自由への弾圧に対して非難してきた。米政権は、引き続き、世界における人権侵害に対して行動を取って行く。」

・今回の措置は、北朝鮮が自国民に対して行っている扱いとともに、18か月前に亡くなった米国民、オットー・ワームビアさんに対する酷い扱いも想起したい。彼は、この12月12日で、24歳になるはずだった。彼の両親及び遺族たちは、いまも彼を追悼している。トランプ大統領は、2018年の一般教書演説で、米国は決意をもって、オットー・ワームビアさんに哀悼の意を捧げると、約束した。今回の措置は、この米国の決意の表れでもある。

・今回の指定は、大統領命令13687に基づくもので、北朝鮮政府と朝鮮労働党(WPK)等の幹部を対象にし、NKSPEAと適合する。今日指定された個人は、既に制裁対象となっていた組織、国家保衛省(MSS)、公安省(MPS)、WPKの組織・指導部(OGD)及び宣伝扇動部(PAD)に属す。

・国務省によると、今回指定された鄭敬沢(チョン・ギョンテク)は、MSSが行った人権侵害・弾圧を指導したと言われている。崔竜海(チェ・リョンヘ)は、OGDの部長であり、党、政府、軍を統括する「ナンバー2」と言われる。OGDは、党の強力な部署で、イデオロギーの監視を行ったり、党の政治的政策を実施したりする機関である。例えば、WPKの幹部が党の方針と異なることを述べてしまった際は、すぐに自己批判をさせる。崔竜海は、党中央員会の執行部の副委員長でもある。朴光浩(パク・グァンホ)は、WPK宣伝扇動部長で、表現の自由の弾圧を行なったり、イデオロギーの統制をしたりする責任者である、と国務省の報告書では述べられている。

左から 鄭敬沢,崔竜海、朴光浩

・米国は、深刻な人権侵害をした者に制裁を課し、その者たちが濫用をしないよう米国の金融システムを守る。2017年1月以来、米財務省は、500人以上の個人・団体を制裁対象として指定した。北朝鮮以外にも、シリア、南スーダン、コンゴ、ベネズエラ、イラン、ロシア等を対象にした。

・今回の制裁により、OFACによって指定された者の米国内の資産は凍結され、米国人と指定された者たちとの取引は禁止される。

参考:U.S. Department of the Treasury ‘Treasury Sanctions North Korean Officials and Entities in Response to the Regime’s Serious Human Rights Abuses and Censorship’ December 10, 2018

 12月10日、米国財務省は、北朝鮮の3人の高官に対しての金融制裁を発表した。

 今回の指定により、3人の在米資産は凍結され、米国人がこれらの者と取引を行うことが禁止される。実質よりも象徴的な意味合いの濃い措置であるが、北朝鮮に一層の圧力を掛けるものであり、北朝鮮に強いシグナルを送ったものと言える。

 12月10日の崔竜海等の制裁発表に続き、翌11日には、国務省が、北朝鮮では信教の自由が侵害されているとして、北朝鮮を今年も「宗教自由特別懸念国」に指定した。これは1998年に制定された「国際信教の自由法」に基づく指定であり、北朝鮮等10か国がそれに指定され、北朝鮮の指定は17年連続だという。

 北朝鮮の非核化を巡る米朝交渉が膠着し、南北関係も文在寅大統領が望むようには進展していない。文在寅が熱望する金正恩労働党書記長の年内ソウル訪問もほぼ不可能になったと青瓦台も今や観念したようだ。

 そんな最中に、米国は12月10日、11日と連続で人権侵害などを理由に対北朝鮮措置を出したことになる。

 また、米国政府は、11月末には北朝鮮に人道支援以外の支援をしないこと、国際金融機関による北朝鮮への融資に米国から出ている理事が反対するよう訓令する大統領決定を行った。これは、6月発表の今年の「人身売買報告書」で北朝鮮等を引き続き最悪国に指定したことを受けたものである。なお、昨年11月には、北朝鮮は、「テロ支援国家」に再指定された。

 北朝鮮はゆくゆく IMF、世銀、アジア銀行など国際金融機関に加盟し、融資を受けることを望んでいると言われ、韓国の文在寅政権はそれに好意的な姿勢を示している。しかし一連の米国の措置は、国際機関からの融資を難しくするものである。早速12月11日、北朝鮮労働新聞は米国による北朝鮮人権問題措置に対して、「米朝首脳会談の精神に反する極悪な敵対行為」だと反発している。

 トランプ大統領は基本的に人権には関心がないと言われている。シンガポールの米朝首脳会談でも人権問題は話されておらず、その点が批判されもした。なお、米国が今月開催しようとした北朝鮮の人権侵害を議論する国連安保理会合は、今年は断念せざるを得なくなったと報道されている。中国の他、中国の圧力でアフリカの理事国が反対したので、安保理で9か国の支持が確保できなかったと見られている。

【私の論評】ダメ押し米国!着実に奏功しつつある北制裁、中国への見せしめにも(゚д゚)!

米国の北朝鮮制裁は、実はかなり効いています。昨年から北朝鮮制裁は厳しさを増していました。米国による北制裁の徹底ぶりは、昨年から続いていました。

昨年10月1日、北朝鮮製武器の不正取引事件の奇妙な顚末が、米紙ワシントン・ポスト電子版の報道で明らかになりました。

事件が起きたのは一昨年8月でした。米当局からの情報に基づいて、エジプトの税関当局が同国沖でカンボジア船籍の貨物船を拿捕。北朝鮮を出発地とするこの船からは、携行式ロケット弾約3万発(推定価格2300万ドル相当)が見つかりました。

その買い手は、実はエジプト軍の代理人であるエジプト企業でした。同国が米国から巨額の支援を受けていることを考えると、驚きの事実でした。

トランプ米政権は昨年8月、エジプトへの経済・軍事支援を3億ドル削減・留保すると決めました。エジプト国内での人権侵害を懸念してのことだとされましたが、複数の米当局者によれば、決断の契機はこの武器輸入事件でした。

支援削減は、アメリカが北朝鮮問題を最重要視する現状を浮き彫りにしました。トランプ政権の目的はエジプトを罰すると同時に、同盟国であっても北朝鮮と武器取引をすればどうなるか、見せしめにすることでした。

この出来事からは対北朝鮮制裁の実態も浮かび上がりました。すなわち、国連による制裁と米国による制裁の在り方です。

北朝鮮が初めて核実験を行った06年、国連安保理は最初の制裁決議を採択。北朝鮮からミサイルや関連物資を調達することが禁じられました。北朝鮮が2回目の核実験を実施した09年には、北朝鮮による武器の輸出入が全面的に禁止されました。

国連加盟国は対北朝鮮武器禁輸措置を遵守すべきであり、北朝鮮から武器を輸入したエジプトは違反を犯したことになります。ただし、強制的に制裁を執行する権限を持たない国連が、北朝鮮の不法な武器取引に歯止めをかけるのは不可能です。

国連の専門家の推定によると、北朝鮮の武器取引額は年間1億ドル近く。韓国の朝鮮日報はその3倍の数字を挙げていました。

国際的制裁を補完するため、アメリカは強制力がある独自の制裁を行ったのです。手段の1つが、自国民を対象に敵国やテロ組織との取引などを禁じる1次制裁と、経済制裁を主とする非米国人対象の2次制裁です。

米国は、北朝鮮に関して幅広い1次制裁を実施。北朝鮮とのあらゆる「物資、サービス、技術」の取引を禁じ、財務長官は米国法の下で制裁遵守を求める権限を有します。

エジプトによる北朝鮮製武器の輸入は、アメリカで昨年成立した北朝鮮制裁強化法に抵
触。国益を理由に国務長官が見合わせを要請しない限り、大統領は同法に従い当該国への支援を留保しなければならないのです。

北朝鮮制裁強化法は大統領に、武器取引を手助けした人物を特定する権限も付与しています。財務長官は広範囲の2次制裁と併せ、武器取引の当事者(この場合はエジプト政府関係者)に対して、米金融システムへのアクセスを遮断することができます。

北朝鮮の武器密輸を阻止し、取引を手助けする国を規制すべく、国連と米政府は複数の措置を講じています。エジプトについて米国は可能な手段を全て行使していないですが、その必要はないでしょう。問題の貨物船が拿捕されて以来、エジプトは協力姿勢に転じています。

一連の出来事は、アメリカの支援対象国に米政府の法施行の徹底ぶりを印象付け、北朝鮮と取引する国に再考を迫ることになりました。そう、制裁はきちんと機能していたし、今でも機能しているのです。

昨年決議された北朝鮮への国連制裁決議

さて、この制裁が継続している現在、当の北朝鮮経済はどうなっているのでしょう。

2018年の北朝鮮の経済は、その構造的脆弱性が国連安保理及び米国の制裁と重なり、一層深刻な状況を余儀なくされました。最近北朝鮮を訪問した在日朝鮮人は、「北朝鮮はいま第2の苦難の行軍」に入ったと異口同音に語っています。

アジアプレスも7月、北朝鮮内部協力者からの報告をもとに、「ついに一部農村で飢餓発生、“絶糧世帯”増加で慌てる当局」との報道を行いました。“絶糧世帯”とはお金も食べ物もまったくなくなった家庭のことです。

中国の統計によると、北朝鮮からの1~10月の輸入額は前年同期と比べて89%も激減しました。米朝首脳会談直後は「もうすぐ制裁は解除され貿易や合弁事業が活性化する」との期待を膨らましていた北朝鮮の経済関係幹部たちはいま意気消沈しています。

「金正恩経済」をけん引してきた「市場」は、輸出入の減少で活気を失っています。需要の低迷でガソリン価格は一時下落しましたが、このところの供給不足で再び上昇に転じ始めています。内部からの情報によると、平壌市内のガソリン価格は、一時ℓ当1.5ドル(約185円)まで下落していましたが、11月上旬にはℓ当1.9ドル(約234円)まで上昇しました。

食糧危機も深刻化しています。北朝鮮では7月に入って一部地域では気温が40度を超すなど記録的猛暑が続き、コメやトウモロコシといった農作物に大きな被害が出ました。特に一般大衆の主食であるトウモロコシは、発育が悪く収穫量が前年比10%も減少しました。

韓国の農村振興庁は12月18日、北朝鮮の今年の穀物生産量が455万トンと昨年よりも3.4%減少したと発表ましたが、これで2年連続の減少となりました。国連食糧農業機関(FAO)は、食糧不足量が約64万トンに達すると推算しており、ほとんどの北朝鮮の家庭が食糧不足に陥ると診断しました。

板門店から開城に行く途中の農村

自由アジア放送によると、北朝鮮は9月に人民保安省(日本の警察庁に相当)名義の布告を出し、協同農場はもちろん一般の道路に設置された検問所などでも食料の持ち出しに対する取り締まりを強化しているといいます。布告では「農場の田畑に侵入し窃盗を行った者には法律で厳正に対処するのはもちろん、悪質な場合は死刑に処する」と警告しているといいます。

自由アジア放送の咸鏡北道消息筋は12月10日、「国営農場が一年間農作業を総括(決算)したが、農場員個人への分配があまりにも少なかった」とし「今年も軍用米をはじめとする国家計画分をあまりにも多く徴収したために農民に分けて与える食料が足りなくて農場ごとに頭を悩ませている」と伝えました。国連食糧農業機関(FAO)が公表した報告書によると、コメの価格は8月から月にかけて17%ほど上昇したとのことです。

そうしたことから、9月初めに黄海南道載寧の合同農場では、現場の責任者が自殺したといいます。当局は食料生産の40%を軍に供給するよう命じましたが、この責任者は命令に不満を抱いて自殺したようです(朝鮮日報日本語版 2018/10/01)。

こうした農村での悲惨な状況が伝えられる一方で、都市では一時暴騰したアパート価格(所有権ではなく使用権)が暴落し始めています。そればかりか、金正恩委員長が自慢した黎明通りなどの新しいアパート群もいま雨漏りに悩まされ防水作業に必死だといいます。そのために中国にブルーシートの注文が殺到しています。金正恩委員長の「制裁は効いていない」とする「見せるための政策」はボロを出し始めたようです。

黎明通り

韓国銀行(中央銀行)が7月20日に発表した推定統計によると、北朝鮮の2017年実質国内総生産(GDP)は、干ばつや経済制裁の影響で前年比3.5%も減少したとされ、20年ぶりの低水準となったとしていますが、2018年度の落ち込みはそれ以上になると予想されています。

北朝鮮はいま対外宣伝サイトで「自力更生が徹底している北朝鮮への制裁は無駄だ」と強調し、「時間は米国の愚かさを悟らせるだろう」と主張していますが、実態を覆い隠し経済危機を住民の犠牲で乗り切ろうとする思惑の表れと見られます。

金正恩委員長は今年4月の朝鮮労働党中央委員会で、核兵器が完成したので経済に集中すると宣言し、昨年に比べ経済部門の視察を59.2%も増やしたしましたが、その結果は見るも無残な状態です。このまま「非核化」に乗り出さず米国とのこう着状態が続けば、2019年の北朝鮮経済は一層深刻な事態となるに違いないです。




米国務省のスティーブン・ビーガン(Stephen Biegun)北朝鮮担当特別代表は19日、韓国・仁川(じんせん)国際空港で記者団に対し、北朝鮮に対する人道支援に関する米国の政策を緩和する方針を述べました。

具体的には、北朝鮮に対する人道目的の支援を確実に北朝鮮民衆に行き届けるための取り組みを現地で実施できるようにするために、米国人の北朝鮮渡航禁止措置を見直すこととし、さらには来月初頭に複数の米民間支援団体とニューヨークで協議すると表明しました。

北朝鮮の核放棄が遅々として進まず、それどころか、むしろ今年6月12日の米朝首脳会談の成果が後退、あるいは実質無効になりつつあることなどから、この米国による北朝鮮に対する人道支援方針を見直しに関して、深読みする人もいるようです。

しかし、現在の北朝鮮の実情を知れば、これは今後本当に人道支援が必要になるほど、北朝鮮が疲弊することが予め予想できるため、それに対する備えであると考えられます。

特に、「北朝鮮民衆に行き届けるための取り組みを現地で実施できるようにするために、米国人の北朝鮮渡航禁止措置を見直す」という具体的なメッセージもあります。

米国としては、まずは「北朝鮮の高官3名に対する制裁」という明確な強いシグナルを北朝鮮に対して発信して、その後人道支援に関する声明を発表したということです。

この強いシグナルとは無論、核廃棄などをしなければ、ますます制裁は強くなるだけであるとの最後通牒に近いものだと思います。

実際米国は、北への制裁をさらに強化し、北朝鮮の経済を破壊するでしょう。それに対して、北が米国の人道支援を受け入れざるをえなくなったとき、本格的な米国の北への交渉がはじまることでしょう。

そうして、トランプ大統領としては、経済冷戦継続中の中国への見せしめとする腹でしょう。米国が軍事的手段によらずに北を屈服させてみれば、中国に対してもかなりの脅威になることでしょう。

ただし、金王朝がたとえ国民の多くが飢えたとしても、なお人道支援を受け入れない場合には、最後の手段として米国軍事力行使ということもあり得る ます。その意味で、北朝鮮の高官3名に対する今回の制裁は、米国による最後通牒でもあると受け止めるべきと思います。

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2016年3月21日月曜日

中国不法漁船を爆破 インドネシアが拿捕して海上で 「弱腰」から「見せしめ」に対応―【私の論評】ルトワックが示す尖閣有事の迅速対応の重要性(゚д゚)!


インドネシア海軍によって爆破される不法操業の漁船
インドネシアは20日、領海内で不法操業をしていたとして拿捕(だほ)した中国漁船を海上で爆破した。地元メディアが21日、一斉に報じた。「海洋国家」を目指すジョコ政権はその一環として、不法操業船の取り締まりを強化、「見せしめ」として外国籍の違法漁船を爆破してきたが、中国漁船への対応には慎重だった。

インドネシア大統領ジョコ・ウィドド氏 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 スシ海洋・水産相は20日、植民地時代のインドネシアで最初の民族団体が結成された日にちなんだ「民族覚醒(かくせい)の日」の演説で、「大統領の命令で、法に基づく措置を執行する」と述べ、違反が確定した外国漁船41隻の爆破を発表した。

爆破は船から乗組員を下ろした後で海軍などが行った。報道によると、うち1隻は中国漁船(300トン)で、カリマンタン島西沖で少量の爆発物で沈めた。

スシ海洋・水産相
 インドネシア近海は豊富な漁業資源に恵まれ、外国漁船の違法操業が野放し状態になっていた。ジョコ大統領は取り締まりを指示、今年3月までに外国漁船計18隻を爆破した。だが、20隻以上摘発した中国籍の船は爆破せず、議会などから「弱腰」との批判が出ていた。中国漁船の爆破は今回が初めてとみられる。

今回、他に爆破した漁船は、ベトナム5隻、タイ2隻、フィリピン11隻など。

ジョコ氏は、東南アジア諸国連合(ASEAN)の一部加盟国が中国と領有権を争う南シナ海問題で「法に基づく解決」を主張。インドネシア自身は中国と領有権問題はないとしているが、中国が領海域と主張する「九段線」がナトゥナ諸島を含めている可能性が強く、警戒を強めている。

中国外務省の洪磊報道官は21日の定例記者会見で、中国漁船爆破について、「建設的に漁業協力を推進し、中国企業の合法で正当な権益を保証するよう望んできた」と不満を示し、インドネシア側に説明を求めたことを明かした。

【私の論評】ルトワックが示す尖閣有事の迅速対応の重要性(゚д゚)!

先日は、アルゼンチン海軍が、中国漁船を撃沈しました。それについては、このブログでも掲載しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
【動画付き】アルゼンチン沿岸警備隊が中国漁船を撃沈 違法操業で「警告無視」―【私の論評】トランプ米大統領が誕生すれば、日本は安保でアルゼンチンなみの国になれる(゚д゚)!
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事ではアルゼンチン沿岸警備隊が中国漁船を撃沈したことを掲載しました。

そうして、この記事では日本がかつて、北朝鮮籍とおぼしき不審船を銃撃したことや、ロシアで中国籍の船をロシアの沿岸警備艇が撃沈、乗組員が死亡したことなども掲載しました。

このような措置をすることは、国際的には常識です。このようなことをしなければ、それこそ、中国や、北朝鮮などからも、「弱腰」とみられ、領海などなきがごときの行動をする漁船がでてくることになります。

そうして、最近の日本はそのような状況になっています。これは、どこかで変えなければならないでしょう。かつて、北朝鮮の不審船を追跡して、銃撃し、その不審船は、どうあがいても拿捕されることは免れないと断念し、自爆しました。その船は回収され、一般公開されていました。

にもかかわらず、民主党政権のときには、尖閣で海上保安庁の船が中国の船に体当たりされ、日本側の反応は腰砕けで本当にお粗末でした。

中国の海洋進出の暴走が明らかになった現在、このような対応では、ますます中国が増長するばかりです。

さて、日本においては、こうした中国漁船の行動だけではなく、中国公船が領海を侵犯したり、航空機が領空を侵犯するのは、日常茶飯事になっています。

このような状況にどのように対応したら良いのか、なかなか結論は出ません。しかし、軍事戦略の大家であるルトワック氏は、最近日本に対する提言も入った、新しい書籍を出しています。それが以下の書籍です。

中国4.0 暴発する中華帝国 (文春新書 1063)
新書版で、分量も少ないながら、かなり読み応えのある書籍です。私は、本日キンドル版を購入して、もう読了しました。

以下に簡単にこの書籍を紹介します。

2000年以降、「平和的台頭」(中国1.0)路線を採ってきた中国は、2009年頃、「対外強硬」(中国2.0)にシフトし、2014年秋以降、「選択的攻撃」(中国3.0)に転換した。来たる「中国4.0」は? 危険な隣国の未来を世界最強の戦略家が予言する!
戦略家ルトワックのセオリー
・大国は小国に勝てない
・中国は戦略が下手である
・中国は外国を理解できない
・「米中G2論」は中国の妄想
・習近平は正しい情報を手にしていない
・習近平暗殺の可能性
・日本は中国軍の尖閣占拠に備えるべし
以下に、この書籍にも取り上げられている、中国の主張する領海である九段線を図示します。


ルトワックは、そもそも、この九段線の元となった地図は、中国が実効的な支配力をほとんど持たなかった時期に国民党(現台湾)の軍の高官が酔っ払いながら描いたものであり、こんな馬鹿げたでっち上げの地図に拘る必要など初めから無いとしています。さらに、空母の建造も中国にとって、カネの無駄遣いでしかないとしています。

以下には、ルトワックのこの著書には出ていかなった九段線を前提とした、第一列島線、第二列島線を図示します。


九段線は、もとは破線で書かれていて、線の数が九つあるので九段線と称されていますが、牛の舌のような形をしている事から牛舌線とも呼ばれ、日本では赤い舌と表現されているものです。

この線は、上記でも掲載したように、もとは国民党の中華民国が1947年に設定したものです。国民党を追い出した中国共産党はこの境界線を踏襲して、1953年から国内の地図に九段線を明記するようになりました。

中国が九段線で南沙諸島の領有権を主張してから60年以上が経過しています。そして、その時間的な経過をもって、さらなる領有権の根拠としているのです。

上の図には中国が軍事上の制海権確保の目標とする第一列島線と第二列島線も示しています。これも今はまだ夢物語として放置していると、何十年か後には、中国側の主張が長く反論されなかった事を根拠に太平洋の島々の領有権を主張するようになるかもしれません。

しかし、九段線ですら、妄想にすぎないのですから、第一列島線や第二列島線は虚妄に過ぎません。しかし、中国はこれを虚妄とは思っていないのです。

中国の九段線内への進出

ルトワック氏は『中国4.0』で、中国の平和的台頭すなわち国際秩序を尊重しつつ発展する政策をChina1.0とするなら、2009年以降突如として攻撃的な態度に変貌した政策をChina2.0としています。

これは、中国の対外認識の誤り(周辺国は金で言う事を聞くだろう)と中国自身の経済成長がアメリカを追い抜くと言う誤った認識と、近代100年にわたる中国人民の国を侵略された恥の意識を拭いたいと言う感情的暴発が拍車をかけて実行されることになりました。

しかし、それは玉突きのように、フィリピン、ベトナム、日本の反発を招きアメリカとともに対中包囲網の形成を促してしまいました。そこで、選択的に攻撃を控えるところと引き続き強い態度をとる対象をわけると言うのがChina3.0です。

ここ最近の日本への融和的態度もその一環です。では、China4.0とは何か。それは、ルトワックが提唱する中国が今後とるべき戦略的態度の事ですが、現在の中国には採用することが無理な政策です。すなわち、南シナ海からの撤退、尖閣からの撤退です。しか、著者によれば、外交や外国を知らず、内向きの中国にはそれができずに、自滅的な方向へのめり込んでいくだろう予言しています。

このような中国の戦略的誤りは、過去のアメリカによるイラク侵攻、日本の真珠湾攻撃と対比されています。これらの誤りはみな、感情的暴発により誤った方向へ国を導いたのです。

また、著者は、習近平は、ソ連共産党と国そのものを崩壊させたゴルバチョフと同じ道を歩んでいるとみています。彼の進める反腐敗闘争は、金銭を代価に活発に活動した共産党員の活力を奪い、また彼への反発を強めていると判断しているのです。

ルトワック氏は、習近平の反腐敗運動は、ゴリバチョフ氏のペレストロイカと同じようなものであるとみなしているのでしょう。

ソ連共産党と国そのものを崩壊させたゴルバチョフ

この書籍の最後には、日本への尖閣防衛のための助言が掲載されています。どうなるか分からない不安定さを持つ中国に対応するために、無理に大局をみるより現実的な個々の事象に対応するべく準備せよというものです。

日本側が、独自かつ迅速な対応を予め用意しおくように進言しています。しかも、各機関相互間の調整を重視するよりも、各機関が独自のマニュアル通りに自律的に行えるようにしておくべきとしています。

たちば、海上保安庁は即座に中国側の上陸者を退去させ警戒活動にあたり、外務省は諸外国に働き掛けて、中国の原油タンカーやコンテナ船などの税関手続きを遅らせるという具合です。とにかく、「対応の迅速さを優先させる」ことを強調しています。

自衛隊による対馬での島嶼防衛対応訓練
各機関が、このようなマニュアルを用意しておき、即座に動くことが肝要であることをルトワックは主張しているのだと思います。各機関が綿密に共同して行動していては、迅速さに欠けて、あれよあれよという間に、南シナ海で中国が実施したように、いずれ軍事基地化され、既成事実をつくられてしまってからは、これを取り消すことは至難の業になるからでしょう。

各機関が独自に動けば、初期の対応はかなり迅速にできるはずです。無論、海上自衛隊も、マニュアルに従い、独自に動き、尖閣有事の際には、別行動をしている海上保安庁の巡視船の行動を見守り、それではとても歯がたたないまでに、事態が悪化した場合、迅速対応するという形になるでしょう。

そうして、中国側は、日本の迅速な対応に拒まれ、結局何もできないうちに、なし崩しになって終わってしまうということになると思います。

こうした、迅速な初期対応が終わった後に、その後の対応に関して、各機関が綿密に共同して行動すれば、良いということです。とにかく迅速さが一番ということだと思います。多少拙速であったにしても、中国側に既成事実を作られるよりは、遥かに良いということです。

ルトワック氏の提言があるなしにかかわらず、日本としては、尖閣有事の際のシナリオと、そのシナリオに対応したマニュアルは作成しておき、迅速に行動して、中国に全く付け入る隙を与えないという姿勢を貫くべきです。

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