2019年9月18日水曜日

放置は禁物、韓国政府代表が米国の新聞で日本を攻撃―【私の論評】歴史修正をしているのは韓国である(゚д゚)!

放置は禁物、韓国政府代表が米国の新聞で日本を攻撃
事実を無視して捻じ曲げる韓国外務省報道官

米国ニューヨークの高層ビル群。米国で韓国の広報活動が活発化している

(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

 日韓対立が激化するのに伴い、韓国の米国に向けた広報活動が活発となってきた。

 9月上旬、韓国外務省の報道官が米国の大手新聞への寄稿で、今回の日韓の衝突は結局は日本が「朝鮮半島の違法な植民地化への責任を認めていないために」起きたと主張した。また、日韓両国対立の真の原因は「日本の歴史修正主義であり、過去を反省しないこと」だとも非難した。

 外務省報道官によるこの投稿は、米国をなんとか味方につけようとする韓国の年来の告げ口外交の典型と言えそうである。日本側としても、こうした「告げ口」を封じるための米国向けの広報活動が必要だろう。

「問題の核心は日本の歴史的な修正主義」

 韓国外務省の金仁澈(キム・インチョル)報道官は米国大手紙ウォール・ストリート・ジャーナル(9月8日付)に日本政府を非難する記事を投稿した。記事のタイトルは「日本は韓国との合意を守っていない」である。金報道官は同記事でこのところの日本と韓国の戦時労働者や慰安婦問題をめぐる対立について、以下のように主張していた。

韓国外務省の金仁澈(キム・インチョル)報道官

・韓国は1965年の日韓請求権協定を忠実に守ってきたし、それを破る意図もまったくない。韓国大法院は同協定を守りつつ、日本による違法な植民地統治と侵略戦争に直接関連づけられる強制労働の犠牲者たちが受けた損害は、同協定の対象には含まれないことを指摘した。

・日本はこの協定締結への長い交渉の過程で、朝鮮半島の植民地化への法的責任を認めることを拒否してきた。韓国側は日韓請求権協定を保持しながら大法院の判決を履行する方法を探ろうと努力してきた。だが、日本側は対話を拒み、貿易面での報復措置をとった。

・この問題の核心は日本の歴史的な修正主義であり、過去を完全に反省しない態度である。

事実を無視し、捻じ曲げる報道官

 日本の朝鮮半島統治の期間中に起きた韓国側の「被害」や「犠牲」への賠償請求は、1965年の日韓請求権協定で「完全かつ最終的に解決された」と規定されている。だが金報道官の主張はそれを無視する形となっていた。

 しかも、日本側が韓国大法院の判決を違法であるとして、今年(2019年)1月に日韓請求権協定に基づく韓国政府との協議を要請したにもかかわらず、韓国政府は協議の要請に応じなかった。金報道官はそのことも無視し、むしろ事実を曲げていた。

 さらに、大法院判決を受けて原告が日本企業の財産差押手続を進める中、韓国政府は何の行動もとらなかった。そのため日本政府は今年5月に日韓請求権協定第3条2に基づく仲裁付託を韓国政府に通告し、仲裁の手続を進めた。しかし韓国政府は応じなかった。そのことにも金報道官の投稿は触れていなかった。

 要するに金報道官がウォール・ストリート・ジャーナルに投稿した記事は、今回の日韓対立は日本側が朝鮮半島の植民地支配の過去を反省せず、その歴史を歪めていることから起きたのだ、とする一方的な主張だった。

「反論」になっていない牽強付会の主張

 こうした韓国側の勝手な主張が、米国で最大部数を有する主要新聞になぜ掲載されたのか。

 実は金報道官の寄稿は、同じウォール・ストリート・ジャーナルの8月23日付に載った日本外務省の大菅岳史報道官による投稿への反論の形をとっていた。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは8月3日付社説で日韓対立問題を取り上げ、日本政府の韓国に対する貿易面での優遇措置撤回を「保護貿易主義的な外交がグローバルに広がる」として批判していた。その社説に対して大菅報道官は日本の立場を説明し、日本の対韓措置が決して「保護貿易主義的な外交」ではないことや、元戦時労働者問題での韓国側の動きに対する「報復」でもないことを主張していた。

 金外務省報道官の投稿は、その大菅報道官の投稿への反論だった。だが、問題はまったく論理的な「反論」になっていないことである。韓国側は、日本の対応が「保護貿易主義」「報復措置」かどうかという論点をあえて飛び越し、今回の日韓対立はそもそもが「日本側の違法な植民地支配」や「歴史修正主義」「過去を反省していないこと」に原因があるのだという牽強付会の主張を、米国で広げる動きに出たというわけだ。

日本に足りない広報活動

 すでにこの連載コラムで伝えたように、韓国政府は米国の首都ワシントンにある「韓国経済研究所(KEI)」などを使い、シンポジウム開催や論文発表、あるいは同研究所所属の専門家の発言などを通じて韓国側の主張を米国で広める広報活動を展開している。

 一方、日本政府はワシントンの「日本広報文化センター」やロサンゼルスの「ジャパン・ハウス」という立派な対米広報施設を持ちながら、今回の日韓対立に関してはなんの広報・宣伝活動も行っていない。

 この違いのせいか、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど米国の大手紙では、現在の日韓対立について「そもそも日本側の苛酷な韓国統治から生じた事態」とするような記述が多い。韓国外務省の金報道官のウォール・ストリート・ジャーナルへの投稿とまったく同じ趣旨である。

 日本側としては、そうした記述を否定し、韓国側の一方的な主張の広がりを防ぐ広報活動がぜひとも必要とされるだろう。

【私の論評】歴史修正をしているのは韓国である(゚д゚)!

韓国は、日本が歴史修正主義であるかのような主張をしていますすが、これは全く出鱈目です。韓国のほうが、歴史修正主義です。

韓国はことあるごとに自国を「第2次大戦の戦勝国である」と主張し、学校の教科書でも「韓国人は連合軍の一員として日本と戦った」と教えています。しかし、そのような事実はありません。それどころか、事実は全くその逆です。

日米開戦に至るまで、朝鮮の人々は日米交渉を固唾をのんで見守り、米国の一方的要求に切歯扼腕(せっしやくわん)しました。「米英撃つべし」の声が日増しに高まり、1941年12月8日、真珠湾奇襲が報じられると、彼らは内地の日本人に勝るとも劣らぬほど熱狂し「聖戦完遂」に立ち上がりました。

同月14日には、朝鮮の人々による朝鮮臨戦報国団全鮮大会が開催され、戦後商工大臣になった詩人の朱耀翰(チュ・ヨハン)は次のように訴えました。

朱耀翰(チュ・ヨハン)氏

「正義人道の仮面を被り、搾取と陰謀をほしいままにしている世界の放火魔、世界第一の偽善君子、アメリカ合衆国大統領ルーズベルト君」「しかし、君らの悪運は最早尽きた」「一億同胞…なかんずく半島の二千四百万は渾然一体となって大東亜聖戦の勇士とならんことを誓っている」

こうして大東亜戦争が始まると、特別志願兵募集に朝鮮の若者が殺到した。42年には、採用数4077人に対し、25万4273人が応募している。適齢期の健康な男子の大半が志願したことになります。朝鮮は儒教国家であり、応募するには父母、親族の許しが必要でした。大東亜戦争へ対する朝鮮民族全体の圧倒的な支持があったことがうかがわれる数字です。

このような高倍率を突破して合格した青年たちは、当然ながら優秀であり勇敢でした。38年に志願兵第一期生として入隊した崔慶禄(チェ・ギョンロク)はニューギニア戦線で一個小隊を率いて米軍に切り込みをかけ、全身に被弾しました。


部下の出田上等兵に担がれて後退し、新兵当時から彼に目をかけていた参謀長の小野武雄大佐がこれを発見しました。「彼を死なせては陛下と朝鮮人民に申し訳がたたん」と叫んで手厚く後送し、ようやく一命を取りとめた。(=出田上等兵はその場で絶命、小野大佐も戦死しました)

崔慶禄は戦後、外交官となり駐英、駐日大使などを歴任しています。駐日大使着任時には、天皇陛下に信任状を奉呈する際、通常10分のところ、かつての大元帥陛下と切り込み隊長は40分にわたって話し込んだといいます。万感の思いがこみ上げたのではないでしょうか。

大東亜戦争で、朝鮮の人々はよく戦いました。軍人と軍属合わせて合計24万人あまりが前線に赴き、アジアの植民地を解放するために日本人と生死をともにしました。

このような詳細までは、知らなくても、前後しばらくの間は、日本人も韓国人もこのような事実の概要は知っていました。知っていたというか、自ら体験していました。それは、子供の代にも受け継がれました。

そのため、少なくとも、現在70歳以上の人たちは、このような歴史を日本人も韓個人も共有していました。だから、これらの人たちが多数行きていた戦後まもなくからしばらくまでは、韓国が歴史修正主義的なことを主張しても、それを日本でも韓国でも社会が受け入れませんでした。

ところが、1990年代から様子が変わってきました。このように歴史を正しく継承してきた人たちが大勢亡くなっため社会の中では少数派になってしまいました。

韓国の歴史修正主義が始まったのは、このあたりからです。さらに、体系的、組織的な反日教育もはじまりました。現在のものごころついた世代以上〜30歳台くらいまでの若い世代が、反日教育を受け、現在に至っています。

私は、このブロクでは、韓国は日本にとって無視すべき国としていますが、無視と放置は違います。無視とは、存在価値を認めないこと、あるいは、あるものをないがごとくみなすことをいいます。放置とは、そのままにしてほうっておくこと。所かまわず置きっぱなしにしておくことです。

韓国が日本に対して歴史修正をし続けるのであれば、このことについては、放置するわけにはいきません。韓国を無視するためにこそ、放置は禁物なのです。

【関連記事】

2019年9月17日火曜日

【社説】サウジ石油施設攻撃はイランの答え―【私の論評】原油輸入依存する日本、石油危機も!本当は、増税している場合ではない(゚д゚)!

イランを警戒していたボルトン氏は正しかった
ウォール・ストリート・ジャーナル

赤の囲みは、今回ドローン攻撃を受けた箇所

 ドナルド・トランプ米大統領が2015年のイラン核合意からの離脱を表明して以来、イランは中東各地で軍事的緊張を高め、米国の決意を試してきた。サウジアラビア石油施設への攻撃にイランが関与した疑いがあることは、この不安定化の動きが新たな段階に入ったことを意味する。トランプ氏がイラン政策の軟化を検討しているときに攻撃が起きたことは偶然ではない。

 14日の攻撃を受けて、サウジの原油生産量は日量約570万バレル減少した。イランの支援を受けるイエメンの反政府武装勢力「フーシ派」が犯行声明を出したが、マイク・ポンペオ米国務長官はツイッター上でイランの関与を主張し、「攻撃がイエメンから行われた証拠」はなかったと述べた。イランは攻撃への関与を否定しているが、直接的な衝突を避けるために代理組織を使うのがイランの常とう手段であり、他に思い当たる犯人もいない。

 今回の攻撃は2つの地域大国間の局地的紛争以上の意味を持つ。攻撃によって世界の1日当たりの原油生産量は約5%減少した。サウジは減少分を相殺するための備蓄放出を約束しているが、生産を早急に回復させることができなければ、原油価格が上昇し、既に不安定な世界経済が痛手を受ける恐れがある。

 米国のシェールオイル生産が不足分の一部を補うことは可能だが、それも時間がかかる。原油供給へのダメージが長期化すれば、米国は、トランプ氏が検討していたイラン産原油輸出制裁の緩和をさらに強く求められるだろう。

 今回の攻撃は、米国の重要な同盟国であるサウジとイランの激しい代理戦争の一環だ。被害の大きさを考えると、サウジが今後、ドローン攻撃から十分に自国を防衛できるかは疑問だ。サウジの情報体制と防空システムはその任に堪えられそうもない。原油生産の減少はサウジの歳入に響く。先行きが不透明になれば、国営石油会社サウジアラムコの新規株式公開(IPO)に悪影響が及ぶだろう。

 攻撃を行ったのがフーシ派ではなかったとしても、イランはイエメンでアラブ有志連合と戦うフーシ派を支援している。フーシ派はサウジ国内や紅海を航行する石油タンカーへの攻撃を激化させている。もしサウジがイエメンをフーシに奪われれば、イランはアラビア半島をめぐる代理戦争にも勝利したことになる。サウジは理想的な同盟国とは言い難いが、サウジへの支援打ち切りを求める米上院議員は、イランに中東地域の覇権を握らせないための代替案を考えるべきだ。

 ホワイトハウスによると、トランプ氏はサウジのムハンマド皇太子と電話会談し、米国による支持を約束した。しかしホワイトハウスは言葉だけで終わらせるべきではない。

ムハンマド皇太子

 イランはサウジに対してだけではなく、トランプ氏にも探りを入れている。「最大限の圧力」をかけるというトランプ氏の決意を試し、弱みをかぎつけている。イランが夏に米国の無人機を撃墜したが、トランプ氏は軍事的報復の提案を拒否した。イランの対外工作を担うコッズ部隊のカセム・ソレイマニ司令官はこれまで、こうした抑制的な動きがあると、イラン側に分があり事態をエスカレートさせても問題ないと解釈してきた。

 トランプ氏はイランのハッサン・ロウハニ大統領との直接会談についても前向きで、ポンペオ氏は国連総会の場での首脳会談を提案した。トランプ氏はエマニュエル・マクロン仏大統領が提案したイランへの150億ドル(約1兆6200億円)の支援への支持も検討している。週末の攻撃はそうした米国の動きに対するイランの答えだ。

 米国による制裁でイランの原油輸出はダメージを受けたが、イランはまだ他の石油製品から1カ月当たり数億ドルの収入を得ている。米国のリンゼー・グラム上院議員はイランの原油生産に対する直接攻撃を検討すべきだと主張しており、イランはその選択肢がないわけではないことを知っておくべきだ。

 サウジ主導の有志連合も、フーシ派に対するイランの武器供給を遮断するには多くの支援が必要だ。米国がイエメンへの関与を深めることに慎重になるのも理解できるが、イランが勝利し、イエメンでヒズボラのような体制が台頭すれば、米国の安全保障上の利益が損なわれる。そうなればシリアとレバノンの二の舞だ。

 トランプ氏がジョン・ボルトン氏に謝罪することになるかもしれない。ボルトン氏は、イランがホワイトハウスの弱点を見つけてはそこを突いてくると繰り返し警告してきた。そのボルトン氏は先週、イラン政策などをめぐる意見の相違から大統領補佐官を辞任した。週末の攻撃はボルトン氏が正しかったことをはっきりと証明した。トランプ政権の圧力キャンペーンは効果を上げている。今それを断念すれば、イランはこれまで以上に軍事的リスクを取るだろう。

【私の論評】原油輸入依存する日本、石油危機も!本当は、増税している場合ではない(゚д゚)!

イラン製ドローン

今回のドローン攻撃でサウジアラビアが失ったものは、原油生産ばかりではありません。米CNBCによれば、サウジアラムコが被った被害額は310億ドルに上ります。

重要なのはフーシ派がドローン攻撃を行った地域が「サウジアラビアの石油産業の中心地」(アブドラアジズ新エネルギー相)だったことです。ブルームバーグは「今回の攻撃はサウジアラビアの心臓発作を誘った」と報じていますが、サウジアラビアへの心臓部への攻撃が続けば、サウジアラビアは突然死しかねないです。

さらに「ビジョン2030」を掲げ脱石油依存型経済に邁進するムハンマド皇太子の夢が水泡に帰する可能性すらあります。

原油価格の下支えに向けたOPECプラスの協調減産のため、日量1200万バレルの生産能力を有しているサウジアラビアの実際の原油生産量は、日量1000万バレル弱に減少していますが、原油価格は一向に上がる気配を示さないことから、原油収入が大幅に落ち込み、サウジアラビアは今年再びマイナス成長となるリスクが高まっています(9月5日付ロイター)。

国家財政の「穴埋め」を行い、なんとしてでも経済成長への道筋に戻さなければならないムハンマド皇太子が当てにしていたのが、サウジアラムコの新規株式公開(IPO)の早期実施でした。ムハンマド皇太子は8日、IPOに消極的だったとされるファリハ氏の首をすげ替える荒療治を行ったばかりでしたが、今回のドローン攻撃でIPOは振り出しに戻ってしまうでしょう。

サウジアラビアの安全保障環境が改善されない限り、サウジアラムコのIPOばかりか、サウジアラビアへの外国投資も一層低調になるのは火を見るより明らかです。

ムハンマド皇太子に対する王族の非難が高まり、「宮廷クーデター」が勃発するなど地政学リスクが一気に高まるというシナリオも現実味を帯びてきました。市場関係者の間では「サウジリスクが長期化すれば、原油価格は1バレル=100ドルに高騰する」との声が出ています(9月14日付OILPRICE)。

世界経済を支える米国ですが、過去5回の景気後退のうち4回(1973年、1980年、1990年、2008年)で直前に原油価格が急騰していました。このことを鑑みれば、サウジリスクにより原油価格が高騰すれば、先行き不安が強まり世界経済への大きな打撃になることは間違いないです。

では、米国はどのような手を打つのでしょうか。あるいは、何ができるのでしょうか。それが問題です。答えはもしかすると、「あまりなにも」かもしれないです。

米政府は断固として、サウジ政府を支持しています。しかし、サウジアラビアが主導するイエメン内戦への軍事介入は、米連邦議会ではすでに評判が悪いです。サウジによる空爆は無意味ですし、ただでさえ貧困にあえぐイエメンを人道危機に陥れているだけだという認識が、日に日に高まっているのです。

ところが、今回のようなインフラ施設への攻撃によって、奇妙な側面もあらわになりました。トランプ政権はしきりにサウジ政府を応援するし、イランへの「最大限の圧力」をしきりに強調します。しかし実際には、米政府がイラン政府に発するシグナルの内容は、とても玉虫色なのです。

それというのも、トランプ氏は実は近く開かれる国連総会にあわせて、イラン政府幹部と対面して会談する用意がありそうな様子ですし、ジョン・ボルトン氏を国家安全保障担当補佐官の職から更迭したばかりです。そしてトランプ政権で特にイランの政権変更を強硬に主張していたとされるのは、ボルトン氏でした。

ジョン・ボルトン氏

イランとフーシ派は、強大な敵に立ち向かう弱者として、典型的な戦法をとっています。軍事戦略の教科書が「ハイブリッド紛争」と呼ぶものです。否認性、代理の使用、サイバー作戦、情報戦など、ロシアが得意とする作戦の中から、様々な戦術を借りて使っています。

トランプ氏がどれほど大げさに騒いで予想もつかない振る舞いをしようと、実のところは厄介な軍事対立から撤退したいし、新しい武力紛争にアメリカを巻き込みたくないのが本音だと、イラン政府は承知しています。そのためイランはイランで、「最大限の圧力」を米国にかけることができるのです。

しかし、計算を間違えれば全面紛争につながる危険はあります。そのようなことは実際、誰も望んではいません。

原油価格高騰を防止するため、米国政府は「戦略石油備蓄(SPR)」の放出準備に入りましたが、原油輸入の4割をサウジアラビアに依存する日本も「国家石油備蓄」の放出の準備をただちに開始すべきです。

そうして日本では今回の出来事は、単なる石油価格の高騰だけではすまない可能性があることを認識すべきです。

日本経済に悪影響を与える可能性がある世界情勢としては、①米中貿易戦争、②ブレグジット、③日韓関係悪化、④ホルムズ海峡での偶発などが以前からこのブログでも強調していました。

これらが10月の消費増税の後の日本経済にかなり悪影響を与える可能性があると強調してきましたが、④ホルムズ海峡はできればなければ良いと望んでいました。まったくやっかいなことになってきました。臨時国会では、これらに対する対策を本気で議論し、何らかの対応をしておくべきです。

【関連記事】


2019年9月16日月曜日

小泉進次郎氏「原発処理水」言動に批判集中! 有本香氏「悪しきポピュリズムの典型」―【私の論評】勉強不足の原因は、主なる情報源がテレビ・新聞だからか?

小泉進次郎氏「原発処理水」言動に批判集中! 有本香氏「悪しきポピュリズムの典型」

        内堀雅雄福島県知事らとの面会後、会見する小泉進次郎環境相=2019年9月12日
        午後4時31分、福島市杉妻町の福島県庁

第4次安倍再改造内閣の目玉である小泉進次郎環境相が、早くも試練に立たされた。東京電力福島第1原発の汚染水浄化後の処理水をめぐり、原田義昭前環境相が「海洋放出しかない」と発言したことを、「(環境相の)所管外」といいながら、関係者にすぐ謝罪をしたからだ。ネット上では、容認派と反対派の双方から批判を浴びる事態となっている。

「福島の漁師の皆さんが、どんな日々を過ごしてきたかに思いをはせなければ、(処理水に関する)発言はできない。今度、福島で採れる(高級魚の)ノドグロを一緒に環境省で食べてみたい」

進次郎氏は13日の記者会見で、こう述べた。

原田氏は退任直前、「私の所管外だが、処理水は思い切って放出し、希釈するほか選択肢はない」と発言した。

すると、進次郎氏は就任当日の11日、「所管外で、(原田氏の)個人的な見解」と強調し、「福島の皆さんの気持ちを、これ以上傷つけないような議論の進め方をしないといけない」と述べた。

翌12日には、福島県の内堀雅雄知事や漁業関係者を訪ね、原田氏の発言は国の方針ではないと釈明し、「率直に申し訳ない」と頭を下げた。

確かに、処理水の海洋放出の可能性については現在、経産省内で慎重に検討が続いており、結論は出ていない。

進次郎氏の対応について、反対派とみられる人々は「所管外で片付ける姿勢に不信感」「無責任」「日本の漁業を潰す気か」「メディアは持ち上げるのをヤメロ」などと批判。容認派とみられる人々は「処理水の海洋放出は問題ないと説明すべきだ」「風評被害を広めて、どうするのか」「処理水の問題解決次第で、進次郎氏の将来が決まる」などと批判や注文を付けた。

夕刊フジで人気コラム「以読制毒」(毎週木曜)を連載するジャーナリストの有本香氏は「悪しきポピュリズムの典型だ」といい、続けた。

「前任の原田氏が、あえて批判の的になることを覚悟して『海洋放出』というボールを投げた。ところが、進次郎氏はじっくり考えずに動いた。世界の事例から考えても、処理水は希釈し、海洋投棄しても何ら問題はない。進次郎氏はその可能性をつぶしたのではないか。進次郎氏は、自らの発信力を『風評被害払拭』に向けるべきだ。寄り添っているフリだけ巧みにしているようでは、今後が心許ない」

【私の論評】勉強不足の原因は、主なる情報源がテレビ・新聞だからか?

原田前環境相の言い分は、9月10日の記者会見での発言です。内容は11日の自身のブログに書かれています。


結論から言えば、詳しくは後から述べますが、科学的見地などから見ても適切な発言です。

一方、後任の小泉環境相は11日の就任記者会見で、原田発言に異論を唱えました

記者からの2つ目の質問への答えだったのですが、いわき市小名浜の漁連組合長を「素晴らしい人」とし、「そうした人たちに寄り添っていくことが大切」という趣旨で、いわば情緒によって科学的な知見に基づく意見を否定してしまった形になりました。

小泉環境相は、先日の結婚会見の際に「理屈じゃない」と述べたと記憶していますが、もしかすると処理水のことについても、そうした直感で判断したのかもしれないです。

今回の小泉環境相の対応のまずさは、第一に、個人名を挙げて政治判断の根拠としている点です。行政は特定個人の意見や利益のために行われるものではありません。憲法第15条にも、「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定されています。

以下に汚染水「処理」の具体的手順を掲載します。

まず、福島事故での処理水問題は、過去の世界の原発事故では見られなかったものです。東電福島第一原子力発電所では、デブリ(溶融燃料)を冷やし続けるための水や雨水、地下水が放射性物質に汚染され、汚染水が発生しています。

東電は、建屋内に入り込む雨水や地下水をできるだけ少なくしてきました。しかし、汚染水は2014年度平均の1日470トンから減ってきてはいるものの、まだ1日170トン(18年度)あります。

東電は、専用の装置である多核種除去設備 (ALPS)を使って、汚染水からセシウム、ストロンチウムなど62種の放射性物質をおおむね取り除いています。ただ現在の技術では、トリチウムをきちんと除去することは困難です。

こうした現状については、東電の処理水ポータルサイトを見ればわかります。



昨年夏、処理水にはトリチウム以外にも、基準値以上の放射性物質が含まれていることが報じられました。反原発派は、東電の「ALPSによりトリチウム以外は除去している」という言い分は間違っており、東電はウソをついていた、と批判しましたた。
一方の東電は、タンクに貯蔵している処理水の中には基準を満たしていないものがあるのですか、環境に放出する際にはもう一度浄化処理(二次処理)を行い、基準を満たすとしています。なお、このようなデータはきちんと情報公開しており、ウソではないと反論しています。

処理水中のトリチウム以外の放射性物質が基準値以下であれば、水で希釈して、海水に放出しても問題ないです。実際、トリチウムの海洋放出は世界中で行われており、原子力規制委員会も認めています。

もし処理水に、基準値を超える量のトリチウム以外の放射性物質が含まれていれば、基準値以下になるまで再除去を繰り返すだけです。それまで、処理水は保管継続するしかありません。

先のポータルサイトでもわかる通り、汚染水に関する国の「規制基準」には、(1)タンクに貯蔵する場合の基準、(2)環境へ放出する場合の基準(国の告示濃度)の2つがあります。現在、ALPS等の処理水はそのすべてで(1)の基準を満たしていますが、(2)の基準を満たしていないものが8割以上あります。環境へ放出する場合は、その前の段階でもう一度浄化処理(二次処理)を行うことによって、トリチウム以外の放射性物質の量を可能な限り低減し、(2)の基準値を満たすとしています。

国際法的には、原発事故のような陸起因海洋汚染に関する詳しい規制は存在しないようだ(https://pari.ifi.u-tokyo.ac.jp/publications/PI11_01_nishimoto.html)。日本は国連海洋法条約の締約国として、海洋環境を保護し保全する一般的な義務があり(同条約、第192条)、海洋環境の汚染を防止するために「利用することができる実行可能な最善の手段を用い、かつ自国の能力に応じ」て、必要な措置をとることが求められています(同、第194条1項)。国の告示濃度は、そのための措置のひとつとみなされるでしょう。

なお、韓国でもトリチウムは海洋放出されています(http://agora-web.jp/archives/2041419.html)。

世界中でこのような対応になっていることには、トリチウムに関する科学的な知見が大きく影響しています。

トリチウムとは、中性子を2つ持つ水素の同位体であり、半減期は12・3年で、β崩壊してヘリウムになります。トリチウムの放出するβ線のエネルギーは小さく、被ばくのリスクも極めて小さいです。トリチウムの人体への影響は他の核種に比べて非常に小さいため、海洋放出しても問題ないとされているのです。トリチウムを除去することが技術的・コスト的に難しいという理由もあります。

しかし、どうも反原発派は、「東電がウソをついて、放射性物質入りの処理水を海に流そうとしている」と煽り立てます。これに、風評被害をおそれる人々が反応しています。さらに、「処理水タンクに限界がくる」という話に、「デブリ取り出しや廃炉の作業がさらに遅れる」という話まで付け加わっています。

たしかに、原田前環境相が言った「海洋放出しかない」というのは、政府の見解ではなく、原田氏の個人的な見解にすぎないです。この是非については、今のところ経産省小委員会で議論がなされている段階です。

とはいえ、以上のような科学的知見と、各国で海洋放出が行われているという事実をみれば、いずれ日本政府もそうした見解と対応をとらざるを得ないというのは、多少の行政経験があれば容易に推測できることです。原発推進派であろうと、反原発派であろうと、論理的に考えれば同じ結論になるはずです。

そこへ小泉環境相は、就任記者会見でいきなり持論を述べたのです。会見の際の質疑応答については、秘書官が事前に大臣にレクしているはずです。前日に原田氏が述べた「個人的な見解」について聞かれることも当然に想定内であり、応答要領も伝わっていたでしょう。

原田氏の発言に対して小泉環境相が提示すべきだった「模範解答」は、「それは原田氏個人の意見であり、政府としては早急に結論を出すように努力しているので、私もしっかり意見を述べたい」という程度です。さらに付け加えるとすれば、「原田前環境相もいろいろと苦悩されて、最後に意見を述べたのだと思う。私もよく勉強したい」くらいでしょう。

しかし、就任後いきなり福島訪問を決めた手前、原田氏との違いを強調したいがために、海洋放出に否定的になったのでしょう。はっきり言えば、まったく勉強不足だったのでしょう。

もし小泉氏が処理水についてきちんと勉強し、自らの知見に自信があるのならば、「トリチウムの海洋放出は、世界のどこでも行われている」という客観的事実を述べて、政府内の議論をリードしていくこともできるはずです。

政治家の仕事の一つは、説得です。トリチウム以外は国の告示濃度以下になるまで放射性物質を散り除き、トリチウムは希釈して海洋放棄というのは、世界標準の方法であり、日本でも議論の末、そう決まる公算が高いです。それならば、勇気をもって国民を説得し、先導してゆくのも政治家の役割です。小泉氏の環境相就任は、初入閣にしては厚遇といえます。通例、初入閣の場合は内閣府特命担当相が多いですが、このポストには官僚の人事権がありません。内閣府官僚の人事権は官房長官が持っているからです。

それに比べて、環境相は環境省官僚の人事権を持っているので、そのぶん政策を進めやすいはずです。ここでも、小泉環境相に対する期待が大きいことがわかります。ただし、今のところは勉強不足です。今後、どのように政治家として成長していくかを見守りたいところです。

小泉進次郎氏というと、以前も増税等で不穏当な発言をしていました。増税など、小泉進次郎氏だけではなく、ほとんどの政治家が財務省の増税キャンペーンを信じていたり、マスコミも右にならえの状況でしたので、政治家やマスコミにはあまり叩かれることはなかったようですが、さすがに今回はそうはいかなったものと思います。

おそらく小泉氏は情報源のほとんどを新聞とテレビに頼っていて、そこで自分がどう報じられるかエゴサーチしているのではないかと思います。国民は新聞やテレビから離れつつあります、今後大臣としてまともにやっていけるのか心もとないです。政治家なら、まともな情報源を確保すべきでしょう。そうすれば、自分は何を勉強すればよいのかみえてくるはずです。

2019年9月15日日曜日

「国にカネがない」報道は真っ赤なウソ~「国債費」を見ればわかる―【私の論評】財務官僚は、必要以上に国債発行額を膨らませて、財政危機を煽っている(゚д゚)!


きな臭い理由を解説しよう

同じ財布でカネを借りて返す

8月末といえば、霞が関の各省庁にとって次年度の概算要求を行う時期だ。全体では6年連続の100兆円超えとなる、過去最大の105兆円規模とみられている。

本コラムで注目してみたいのは、国債の利払いや償還に充てられる「国債費」についてだ。財務省は8月26日、この国債費を前年度要求額より3872億円(1・6%)多い24兆9746億円とする方針を固めた。要求段階での増額は2年連続となる。


国債費は一般会計歳出の実に23.2%を占める 詳細はこちらから

そもそも国債費は、財務省の理財局が財務省の主計局に対して概算要求を行うものだ。来年度の国債費要求額24兆9746億円は、本年度予算額23兆5082億円より1兆4664億円多い。その内訳は、債務償還費が16兆1112億円、利子及割引料8兆8259億円、国債事務取扱費375億円となっている。

あまり聞きなれない用語かもしれないが、債務償還費とは文字どおり、償還する国債に対して充てられるものだ。また、これについて「減債基金」という概念も理解しておこう。国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金のことだ。

減債基金は、非常に簡単に言ってしまえば、「国債を返すために要求される借金」ということになる。ここで考えてみてほしい。民間で社債を発行する企業はあるが、償還をする場合は借り換えをして余裕が出た時に償還する、というのが一般的だ。借金をしながら同じ財布で借金を返すというのが、おかしい状況ということはわかるだろう。

だから、海外の先進国では現在、減債基金は予算に組み込まれていない。大学の財政学のテキストにも、国債の減債基金の制度やその重要性が説明されている。ただ、諸外国では存在していないこと、減債基金がなぜ必要なのかはあまり言及されない。もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は説明に困ってしまうはずだ。減債基金を廃止すれば、それに繰り入れる債務償還費もなくなり、国債発行額を減らせる。

次に利子及割引料だが、これがきな臭い。「債務残高1000兆円」が騒がれて久しいが、単純計算で利子は0・8%ということになる。果たして国債金利はそんなに高かっただろうか。過去に発行した国債の利払いも必要と考えて、過去10年間の10年国債金利を見てみても、平均で0・5%。これから考えるとせいぜい利子及割引料は5兆円程度あれば十分だ。

財務省は国債発行額の嵩を増やして財政危機を煽りたい?

それなのに、なぜ多額の概算要求になるかといえば、やはり国債発行額の嵩を増やし財政危機を煽りたいという財務省の意向が組み込まれているのだろう。

利子及割引料の水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となる。このため、査定すべき財務省主計局は要求する財務省理財局に対し、概算要求を水増ししてするように言っているようだ。省内の力関係上、理財局は従うほかないが、側から見れば馴れ合いだ。

そうして、こうした国際標準からずれた国債費が予算に盛り込まれる。報道では「歳出が過去最高になった」「国債費が予算の4分の1を占め、財政が硬直化している」などと並ぶが、これでは財務省の走狗となって財政危機を煽っているばかりだ。日本の国債の本質的な問題は別のところにある。

【私の論評】財務官僚は、必要以上に国債発行額を膨らませて、財政危機を煽っている(゚д゚)!

さて、日本の国債の本質的な問題とは何でしょうか。以下に日本の統合政府のバランスシートを掲載します。

政府の連結(政府と日銀)バランスシート(単位:兆)
経済学では、政府と中央銀行を会計的に合算した「統合政府」という考え方があります。もちろん、行動として中央銀行は、政策手段の独立性があるのですが、あくまで法的には政府の「子会社」なので、会計的には「連結」するのです。
この場合、財政の健全化を考える着目点は、統合政府BS(バランスシート)のネット債務ということになります。上のバランスシートは、昨年財務省ホームページにある連結政府BSに日銀BSを合算し、「統合政府BS」として、高橋洋一氏が作成したものです。

統合政府BSの資産は1350兆円。統合政府BSの負債は、国債1350兆円、日銀発行の銀行券450兆円になる。

ここで、銀行券は、統合政府にとって利子を支払う必要もないし、償還負担なしなので、実質的に債務でないと考えて良いです。

また国債1350兆円に見合う形で、資産には、政府の資産と日銀保有国債があります。

これらが意味しているのは、統合政府BSのネット債務はほぼゼロという状況です。

このBSを見て、財政危機だと言う人はいないでしょう。実際は統合政府ベースでは日本政府の借金は昨年の時点でゼロと言って良い状況だったのです。統合政府ベースでみて、日本は欧米の国々と比較して、財務状況がとりたて悪いとはいえないです。

ただし、財務省は、負債の国債1350兆のみをいい、資産の方はふせて、日本国は借金漬だと言い募っているわけです。

債券関係の用語で「減債基金」というものがあります。地方行政関係者ならご存じでしょう。辞書には「国債を漸次償還し、その残高を減らすために積み立てる基金」とありますが、国債に限らず地方債にもあります。国債の減債基金は「国債整理基金」といいます。

財務官僚は、日本では減債基金があるので国債が信用されている等と言いたいのでしょうが、海外の先進国にはそのようなものはありません。その海外からすれば、借金しながら減債基金への繰入のためにさらに借金するのはいかがなものかと反論されるだけではないでしょうか。

よく考えてみれば、日本でも民間会社が社債を発行していますが、減債基金という話は聞聞いたことがありません。減債基金の積立のために、さらに借金をするのはおかしいというのは誰でも理解できることだと思います。

民間の社債では、借り換えをして、余裕が出たときに償還するというのが一般的です。これは、海外の国債でも同じなので、海外の先進国でも、かつては国債の減債基金は存在していたのですが、今ではなくなっています。

しかし、日本では、国債・地方債の減債基金はまだ存在しています。そうして、大学の財政学のテキストにも、国債・地方債の減債基金の制度やその重要性が説明されています。

ただ、海外では存在していないことや、減債基金がなぜ必要なのかについてはあまり言及されません。上の記事にもあるとおり、もし学生がそうした質問をしたら、大学教員は困惑するでしょう。

それではなぜ、日本では減債基金が存在しているのでしょうか。地方は「国の国債整理基金があるから」というでしょう。では国の国債整理基金はなぜあるのでしょうか。

大阪府の減債基金の復元額

建前としては、「国債の償還を円滑に行うため」と言うでしょうが、本音でいえば、国の予算作りのために便利な道具だからでしょう。

まず、国債整理基金への繰入といって、毎年10兆円程度の予算の水増しが可能になります。本来であれば、繰入は不要なので、その分、国債発行額を減らすことができます。

少なくとも先進国ではそうです。また、国債金利はせいぜい0・5%と低水準であるにもかかわらず、予算上の積算金利は1・8%等として、予算の利払費を水増ししています。

こうした水増しは、年度途中で補正予算を作るときに財源となります。補正予算の財源になるのであれば、水増しは国民に実害がなく、そう目くじらをたてることもないのですが、上の記事にもあるとおり、必要以上に国債発行額を膨らませて、財政危機を煽(あお)るという悪い面が目立っています。

総務省は、減債基金を金科玉条にして、諸規制によって地方自治体に起債などを統制しようとします。2007年頃、公募地方債金利を自由化されましたが、総務省官僚は猛烈に抵抗しました。その理由は市場によるコントロールではなく自分たちが統制したいというものです。そうした主張に減債基金がしばしば使われるのですが、それは筋が違うでしょう。

とにかく、財務省の刷り込みにより、負債1350兆円だけが、多くの人頭に残っており、世界有数の政府資産については、全く考えていない人が多いです。

また、資産が多いことを知っている人でも、「すぐに売れることのない資産も多数あるはずだ」などとしていますが、日本政府の資産は現金もしくはそれにすぐに変えられるものが、7割を占めています、その他の資産も、たとえば都内の一等地の土地や建物等であり、
そのほとんどが即売却可能です。

【関連記事】

コラム:日本の純資産はプラマイゼロ、IMFの新国富論―【私の論評】財務省は解体し複数の他官庁の下部組織として組み入れ、そのDNAを絶つべき(゚д゚)!

2019年9月14日土曜日

【日本の解き方】安倍首相「最後の戦い」へ動く改造人事! 「お友達人事」と揶揄する勢力の“支離滅裂”ぶり…“ポスト安倍”と「次の次」が浮上?―【私の論評】総理は、経済で思いきった手を打たないと憲法改正は不可能に(゚д゚)!

【日本の解き方】安倍首相「最後の戦い」へ動く改造人事! 「お友達人事」と揶揄する勢力の“支離滅裂”ぶり…“ポスト安倍”と「次の次」が浮上?

安倍改造内閣

安倍晋三首相(自民党総裁)は11日、内閣改造・党役員人事を行った。その顔ぶれから安倍首相の狙いを読み解いてみたい。

 首相は内閣改造について「安定と挑戦」と述べたが、「安定」とは、全19閣僚のうち麻生太郎副総理兼財務相と菅義偉官房長官を留任させたことで、「挑戦」とは残り17閣僚を入れ替えたことだ。初入閣は安倍内閣で最多の13人にのぼる。

 目玉は、小泉進次郎衆院議員の環境相就任だ。38歳での入閣は戦後3番目の若さとなる。妻の滝川クリステル氏も環境に関心があり、夫妻での政策発信力は十分だ。

 ただし、小泉氏の育休発言には賛否両論がある。一般企業では、とても育休をとれる状況でなく、国会議員は「上級国民」だと批判もされるなか、どのように対応するかは、小泉氏の最初の試練になるだろう。

 いずれにしても閣僚のほとんどは安倍首相と近い人で、首相がやりたい人事をやったという印象だ。これを「お友達人事」と揶揄(やゆ)する向きもあるが、考え方が同じ人が組んで仕事をするのは当たり前だ。そうした批判をする人ほど、いざ閣内で意見が割れると「問題だ」と支離滅裂なことを言いがちだ。

 今回の人事で、安倍首相がやりたい憲法改正に弾みをつける狙いだろう。

 党役員は、二階派会長の二階俊博幹事長と岸田派会長の岸田文雄政調会長を留任させ、総務会長に麻生派の鈴木俊一氏、選対委員長に細田派の下村博文氏と、派閥均衡の安定だ。

 ここで見えてきたのが、次期首相と総裁候補だ。先の参院選では、菅官房長官が選挙での強さをみせ、岸田政調会長は後塵(こうじん)を拝した。しかし、安倍首相はあくまで2人を互角で競わせている。憲法改正がポイントとなるだろう。

次期自民党総裁候補とみられる、菅氏(左)と岸田氏(右)

 安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い。

 憲法改正で第1のハードルは参院だ。現状では、発議に必要な3分の2はないので、参院幹事長に回った世耕弘成氏がカギを握っている。

 憲法改正に向けて、より重要な貢献をした人が次期首相・総裁の最有力候補になるだろう。安倍首相が「自民党総裁4選はない」としている中、菅官房長官と岸田政調会長のレースが続くだろう。

 そして、「次の次」の首相・総裁候補もうっすらながら浮かび上がってきた。

次次総裁候補 加藤氏(左)、河野氏(中央)、茂木氏(右)

 厚生労働相で再び起用された加藤勝信氏、防衛相に転じた河野太郎氏、その後任の外相に横滑りした茂木敏充氏が横一線で並んでいる。これらの中から誰が飛び出るのか、それとも他のダークホースが出てくるのか。

 解散を行うほど首相の権力は高まり、改造を行うほど首相の権力は低くなるともいわれる。安倍政権は、憲法改正の国民投票と衆院解散・総選挙という「最後の戦い」に向けて動き出した。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】総理は、経済で思いきった手を打たないと憲法改正は不可能に(゚д゚)!

麻生氏が、変わらず財務大臣であることなどから、経済政策運営はほとんど変わらず、今回の内閣改造が経済や金融市場に及ぼすインパクトはほぼ皆無でしょう。今後、次期首相ポストを意識しながら、閣僚や重要ポストの政治家が競い合いながら成果を出そうとするでしょう。そうした中で、安倍政権のレガシーとして、東京オリンピックの成功、そして憲法改正の実現に重点が置かれそうです。



2013年からの金融・財政政策の転換によって日本経済の安定成長と脱デフレが始まり、それがこれまでの長期政権を支える土台になってきました。ただ私自身は、この土台が揺らぎかねないと危惧しています。

現状、安倍政権は経済成長を最優先させることに力点を置いていないようです。これにより、経済情勢の変化が政権の地盤を揺るがしかねないです。このリスクは、すでに金融市場の価格形成に反映されています。

日本株の日々の値動きは、米国株市場にほぼ連動して動いています。ただ、2018年から米国と比べて日本株は運用成果が下がり、2018年初をピークに日本株(TOPIX、東証株価指数)が緩やかな下落基調にあります。日本の経済政策がうまく作用せず、経済が冴えない状況が続いていることが最大の背景です。

経済最優先を掲げていた安倍政権の政策が2018年からはっきり転換したことの象徴は、今年10月の消費増税を決断し、財政政策が明確に緊縮方向に転じたことです。2%インフレという経済正常化を実現する前に財政政策を逆噴射させるのは、2014年の消費増税と同様で、成長率を押し下げてデフレ圧力を高める政策対応といえます。

無論、消費増税への対応政策として補正予算策定などが検討されています。3兆~5兆円規模の補正予算などの手当てが想定されますが、可処分所得の伸びが極めて低い中で、2兆円を上回る家計に対する正味の増税負担への手当てとして十分な対応はほとんど見当たりません。

このため、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速するでしょう。

増税する前から、個人消費が落ち込んでいるが、実際に増税するとどうなるのか?

また、安倍首相は新設する検討会議において、「全世代社会保障改革」に全力で取り組む、としています。新たな検討会議での議論は、社会保障制度や税制の将来の姿につながるという意味では重要でしょうが、長期的な政策枠組みの話がメインとなり、予想される景気減速への対応には直結しません。

他国に目を転じると、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っています。

米国では、ドナルド・トランプ大統領が議会と財政合意にこぎ着け、2020年までの歳出の上限を引き上げました。フランスは4月に減税などを行い、EU離脱を控えた英国ではボリス・ジョンソン首相が政府債務を拡大させる大規模な財政政策を表明しています。そしてドイツでも、景気低迷を受けて、減税などの財政政策についての議論が活発になっています。

マクロ安定化政策が各国の経済成長率を左右し、それが株式市場のパフォーマンスにも影響します。デフレ脱却の途上にあり、各国と比べても成長率を押し上げる経済政策が必要である日本だけが緊縮的な経済政策を行っていることへの、投資家の不信感はかなり大きいと思われます。今後景気が減速する中で、この不信感は強まるでしょう。

緊縮的な経済政策は、財政政策だけではなく、日本銀行の金融政策についても同様です。

現状、米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、新興国を含めたほとんどの中央銀行が金融緩和を強めています。こうした状況下、インフレ目標の実現が先送りされる中で日銀が金融政策の現状維持を続けていることは、円高を引き起こし、金融引き締め的に作用しています。

2%インフレ目標の達成可能性が低下する中で日銀が同じ政策を続けているのは、安倍政権と足並みをそろえ、経済軽視の政策を行っているからかもしれません。いわゆる「金融緩和の副作用」というのが具体的に何であるのか、全く理解不能ですが、最近はこの副作用という声が小さくなってきたように、みえます。

これからも、マイナス金利政策を続けることで政府による国債発行を増やして、財政政策を拡張することをサポートしているともいえますが、その必要性を政府に強く訴えることはできるでしょう。そして金融政策についても、円高リスクを低下させるために、マイナス金利の深掘りが有力な金融緩和のオプションが必要になるでしょう。さらなる量的緩和もすべきです。

いずれにしても、このまま緊縮財政、引き締め傾向の金融政策を続けることになると、先程述べたように、2020年にかけて個人消費を中心に成長率は大きく減速することは確実です。

冒頭の記事の高橋洋一氏の記事には、「安倍政権にとって最善のスケジュールは、来年の通常国会で衆参ともに3分の2以上で憲法改正を発議し、東京五輪後、年内に国民投票実施というものだ。そのときには、衆院解散・総選挙とのダブル選となる可能性が高い」としています。

現状のままだと、まさに、衆院解散・総選挙とのダブル選挙のときに、経済が悪化しているということになる可能性が非常に高いです。そうなると、衆院でも参院でも、改憲勢力が2/3を割る可能性も十分にあります。

そうなれば、国民投票の実施も困難になる可能性があります。安倍新内閣は、どうすれば、このような事態を防ぐことができるでしょうか。

それは、選挙の公約として、米国や欧州などほとんどの国で、経済成長の下振れリスクが高まりインフレが停滞する中、経済成長率を押し上げる拡張的な経済政策を行っているように、日本もそれを実行することです。

具体的には、減税や給付金による積極財政を行い、日銀は再び、大規模な量的緩和に転じることです。

そうなると、経済が回復するという期待感から、市場は好感し株価も上昇します。国民も、減税や、量的緩和には好感を抱くことでしょう。

それを、選挙の公約として、ダブル選挙を行えば、衆参両院の改憲勢力が2/3以上になる可能性はかなり高くなります。

そうして、その後の内閣改造では、当然のことながら、麻生氏は財務大臣ではなく、他の閣僚になっていなければなりません。

なぜなら、財務省は麻生大臣を要として、各方面に働きかけ、財務省悲願の10%増税を実行を確実なものにしましたが、財務省は減税どころか、さらなる増税と緊縮財政を目指しているからです。

これに失敗すれば、選挙で大勝利したとしても、安倍総理は、減税をすることはできず、憲法改正も難しくなるでしょう。

【関連記事】

残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

消費増税のために財務省が繰り出す「屁理屈」をすべて論破しよう―【私の論評】財務省の既存の手口、新たな手口に惑わされるな(゚д゚)!

財務省がいまひっそり仕掛ける「10月の消費増税」へのヤバい裏工作―【私の論評】下卑た財務官僚はすでに10%超増税、年金減額、その他大緊縮路線に向けて動いている(゚д゚)!

来年1月4日の国会召集は妙手 消費増税の最終判断は4月に 7月衆参ダブル選の可能性も―【私の論評】増税すれば、安倍政権はレイムダック化し憲法改正もできず、何も良いことはない(゚д゚)!


2019年9月13日金曜日

韓国のタリバン、文大統領を一刀両断―【私の論評】経済的に無意味になり、安全保障上では空き地になる韓国、対処法は簡単!無視(゚д゚)!

韓国のタリバン、文大統領を一刀両断

イェン・ア・ジョ氏


曺国氏を法務長官にしたいわけ

「韓国のタリバン」とまで言われている反日原理主義者、文在寅大統領が不正疑惑だらけの腹心曺国(チョ・グク)前民情首席補佐官*1を予定通り、法務長官に任命した。

*1=民情首席補佐官とは、大統領の側近中の側近が就くポスト。国内の情報・世論対策、国政全般の情報活動総括、政府高官の監督・司法警察組織の統括で大統領を直接補佐する。文在寅氏もかって廬武鉉大統領の民情首席補佐官だった。

 米国で言えば、不正疑惑の大統領首席補佐官だった人物を「司法の番人」にしたようなものだ。

 不正疑惑だらけのドナルド・トランプ大統領には慣れっこになっている米国民にとっても「文在寅とかいう容共大統領は何を考えているのか」という反応だ。

 ワシントンの「コリア・ハンド」(韓国通)はこう見ている。

 「この人事は文在寅氏にとっては最大の賭けだ。失敗すれば政権は崩壊する。政権の終わりの始まりになるかもしれない」

 なぜ、文在寅大統領が曺国氏の任命に固執したか。この韓国通は続ける。
曺国(チョゴク)氏

 「歴代大統領は、絶対的権限を持った検察を使って反対政党の前任者を刑務所に送り込んできた。汚職や収賄は韓国社会ではつきもの。誰でも叩けば埃は出る」

  「現職大統領が検察に目配りすれば、大統領経験者でも刑務所送りにできる」

 「文在寅政権の後に保守政権が出てくれば、文在寅氏も同じような目に遭うのは必至。それを防ぐには法律で絶対的権限を持つ検察当局の権限を弱める司法改革が必要になってくる」

 「司法改革を実現するキーパーソンが腹心の曺国氏。不正疑惑に遭おうが遭うまいがどうしても法務長官につかせたかったのだろう」

 「文在寅大統領は、この賭けに勝っても負けてもそう長くはなくなった」

文氏と共に一掃される「386世代」

 かってハーバード大学客員研究員だったこともある朝鮮情勢に詳しい研究者は筆者にこう指摘している。
 「文在寅政権は、左翼・反日・反米の『386世代』*2が牛耳る政権だということを忘れてはならない。彼らは青瓦台で文大統領、李洛淵・国務総理、蘆英敏・大統領秘書室長の周囲を固めている」

 「南北に分かれた民族同胞が一つになる、つまり南北朝鮮統一こそが最優先課題だと考えている」
 「北朝鮮の核廃絶には熱心ではない。文大統領が北朝鮮の非核化よりも南北の関係改善に重きを置いているのはそのためだ」

 「南北朝鮮統一が実現できるのであれば、北の核の存続も厭わない。それどころか『核つき南北統一朝鮮』をも目論んでいるかもしれない」

*2=全斗煥政権を倒す原動力となった民主化運動若年層。1960年代生まれで当時30代、80年代には大学生だった世代のこと。90年代にできた造語。当時売れていたインテルの32ビットマイクロプロセッサー「Intel 386」をもじっている。

https://www.straitstimes.com/asia/east-asia/moon-jae-in-should-listen-to-the-2030-generation-the-korea-herald-columnist

http://www.koreatimes.co.kr/www/opinion/2019/07/164_272924.html

 裏を返せば、この「386世代」が去らない限り、ここまで拗れた日韓関係の改善はあり得ないということだ。反日のみならず反米志向は今後ますます強まっていくだろう。

次期政権で美人学者が中枢を担う?

 そうした中で今米国のアジア問題専門家の間で注目されている論文がある。

 この論文を読んだ元米外交官の一人は、「彼女は文在寅が政権を去った後には韓国政府の中枢で働く存在になる」とまで褒めちぎっている。

 論文のタイトルは『Moon's Failed Balancing Act』(失敗した文在寅のバランス政策)

http://www.theasanforum.org/moons-failed-balancing-act/

 執筆者は在米のイエン・ア・ジョ氏。現在コーネル大学博士号課程にいる若手女性国際政治学者だ。

 写真をご覧になればお分かりの通り、なかなかチャーミングな女性だ。

 オランダの名門ユトレッチ大学を経て、オックスフォード大学院で国際政治学で修士号を取得、コーネル大学大学院に進んでいる。

 これまで韓国国連代表部軍縮担当顧問などを歴任。現在は峨山政策研究所*3発行の英文『峨山フォーラム』副編集長を兼務している。英語が堪能なイエン氏は編集責任を任される一方、随時健筆を振るっている。

*3=2008年に韓国の現代財閥を築いた鄭周英氏の6男で現代重工業の大株主、鄭夢準氏が設立した韓国有数の超党派シンクタンク。鄭夢準氏は元国会議員。ジョンズ・ホプキンズ大学で国際政治学博士号を取得。

 イエン氏は韓国生まれだが、韓国では高等教育を受けていないようだ。略歴には英語と朝鮮語のバイリンガル、フランス語は日常会話ができると記されている。

 この論文は6600字。公表されたのは8月28日だ。

 韓国情報と米国情報を読み解き、しかもソウルではなく、ニューヨーク・イサカ(コーネル大学所在地)で米研究者たちの助言を得て書き上げた論文は「岡目八目的」視点に満ちあふれている。

 文在寅大統領の二国間、多国間外交の現状を記述する中で、韓国が外交的チャレンジにどう対処するか――進歩派(与党)と保守派(野党)との分裂が拡大している点を強調している。

 与党と野党は、米朝関係、日韓関係、米中貿易戦争でことごとく対立している。イエン氏は、日韓関係を巡る韓国内分裂についてこう分析している。

 「今韓国内で起こっている論争は、なぜ日韓関係はここまでこじれてしまったのか、誰の責任なのか、そしていかに対処するかを巡っての論争だ。保守派の主張はこうだ」

 「日韓関係の亀裂を生じさせた責任は、状況に効果的に対処できず、日本に貿易面で攻勢を仕かける引き金を引かせた文政権にある」

 「その理由ははっきりした計略も計画もないままに、警戒すべき兆候を無視し、戦略的には何らの対処策も講じなかった」

 「一方、進歩派の主張はこうだ」

 「文政権が非論理的で非生産的だったからこうした現状を招いたという批判は全く当たらない。悪いのは日本だ」

 「韓国の最高裁判決をタテに貿易面で報復措置に出た。日本の報復措置は分別ある外交においては非民主的戦術以外の何物でもない」

 現状打開に向けて韓国はどう行動すべきか。イエン氏はここでも韓国内は分裂していると指摘している。

 「保守派は『目には目を的な報復行為は避け、米国が仲介する外交的決着を進めるべきだ』と主張している。一方、進歩派は米国の仲介には難色を示している」

 「米国の仲介は韓国にとっては好ましい結果を生みそうにないという理由からだ」

 「進歩派はこう見ている」

 「日米は今や戦略的諸問題では米韓とは比較にならないほど近い関係にある。米国が打ち出しているインド太平洋戦略構想、対北朝鮮制裁、中国大企業ファーウェイ問題でも日米は完全に一致している」

「それに比べて韓国はこの3点では米国の主張を受け入れるのには消極的だ」

脱線した「ツートラック戦略」

 イエン氏は文在寅大統領がなぜ反日スタンスをとり続けているかについてこう指摘している。

 「文在寅大統領は当初、対日政策では『ツートラック戦略』の実施を考えていた。つまり、歴史認識問題と通商・安全保障問題とを分けて行おうとした」

 「だが前政権が日本政府との間に交わした慰安婦合意を精査するよう命じたところからおかしくなってきた」

 「合意には瑕疵があると結論づけた。同合意の修正や日本との再交渉には言及しなかったが、結局同合意で設置された半官半民の『和解・いやし財団』は解散させてしまった」

 「それに加えて文在寅大統領は徴用工問題の再検討を言い出した。安倍晋三政権はすべて解決済みの問題だと反発。その結果、歴史認識問題は貿易問題と絡み合ってしまった」

 「文在寅大統領の刺々しいトリックは、植民地時代の行動を悔い改めようとしない日本の強情さに対する韓国民の反発に火をつけてしまった」

 「世論調査では韓国民の50%が日本は友好国ではないと答え、80%が安倍首相を嫌いだと言い、75%が日本人は信用できないと答えた。82%が日韓関係は悪いと答えた」

 イエン氏はこうした韓国内の状況を詳細に記述。これを受けて韓国政府がどう対応したかに触れている。

 「文在寅政権は日本の動きに対抗するため国力を総動員した。だが世界貿易機関(WTO)や東南アジア諸国連合(ASEAN)拡大首脳会議などの場で対日批判をしたが他の国々は韓国の主張を支持しなかった」

 「米国に仲介役を要請したが米国は日韓のいざこざには関心を示そうとしなかった」

米中を天秤にかけた外交

 イエン氏によれば、文在寅大統領の外交方針は、「Balanced Diplomacy」(均衡の取れた外交)だ。米国との同盟関係を堅持しつつ、中国に接近する外交である。

 「文在寅大統領は2017年にこう発言している」

 「韓国にとって中国との関係は、ただ単に経済協力面だけではなく、戦略的協力面でもより重要になってきた。北朝鮮の核を平和裏に廃棄するうえで中国との関係は重要だからだ。そのため我が政権は米中との均衡のとれた外交関係を追求するのだ」

 「ところが2019年の6月から8月にかけての2か月間は、韓国にとっては全身麻痺の混乱状態に陥った」

 「中国の習近平国家主席は北朝鮮の平壌を訪問し、金正日朝鮮労働党委員長が喉から手が出るほど欲しがっていた外交的お墨付きを与えた。文在寅大統領の再度の訪韓要請は断っているにもかかわらずだ」

 「トランプ大統領は板門店で第3回目の会談を行ったが、両首脳はそこにいた文在寅大統領を無視、その後、金正恩委員長は文大統領を公然と非難している」

 「安倍首相は大阪で開かれたG20(金融・世界経済に関する首脳会合)出席のため訪日した文大統領との首脳会談を拒否。日本は韓国の半導体製造に不可欠な3品目の対韓輸出管理体制を強化した」

 「折からの米中貿易戦争のあおりを受けて米中からの対韓プレッシャーは強まり、米中は韓国にどちらにつくかと迫ってきている」

 「まさに文在寅大統領を取り巻く国際環境は、日韓関係のみならず、米中との関係でも厳しさを増している」

 「文在寅大統領の「均衡のとれた外交」が言うは易く、行うは難しであることを実証してしまった」

 「警戒警報を見落としていた」

 だが、文在寅大統領が辞めるとすれば、この「均衡のとれた外交」が失敗したからではない。曺国人事への国民世論に火がつき、反文在寅機運が燎原の火のように韓国全土に広がった時だろう。

 それを受けて来年4月の議会選挙で与党が惨敗した時かもしれない。弾劾の動きも出てくるかもしれない。

 その時、政権の座に返り咲いた保守党は「均衡のとれた外交」に代わるどのような外交を展開するのか。

 イエン氏は新政権の出方に直接、言及してはいない。しかし、現状を保守派の政治家や識者がどう見ているかを指摘することで文在寅大統領政権に取って代わる保守党がどのような外交を展開するかを示唆している。

 「保守派もまた日本政府の対応が均衡を欠く(Disproportionate)であるとは見ている。だが保守派は、文政権は日本に貿易面で引き金を引くのを止めさせるだけの効果的措置を採るのを怠った、と指摘している」

 「対日関係の悪化状況を示す警戒警報を無視、状況が悪化し、取り返しのつかない事態になるのを放置していたわけだ」

 日韓関係を正常に戻すために保守派はどうするか。

 「保守派はいかなる形式による日韓同士の『売り言葉に買い言葉』(Tit-for-tat)には反対だ。やはり米国に仲介役を演じてもらう外交的解決しかないと見ている」

 「保守派は米国の仲介が韓国にとって都合の良いものではないかもしれない。今や日本と米国との距離は韓国とは比べ物にならないほど親密だからだ」

 「米国に(公正な)仲介役を頼むうえで韓国に必要なことは、例えば今注目を集めているホルムズ海峡を航行する船舶を守る有志連合に参加し、米国の同盟国であることを強調することだ」

 日韓関係を正常化させるにはやはり米国の仲介役、つまり助けが必要。そのためには米国との同盟国をここで明確に示せ――が保守党の外交方針というわけだ。

 つまり「均衡のとれた外交」から「米韓同盟強化」への転換ということになる。

 だが、米中を天秤にかける文在寅大統領の「均衡の取れた外交」「朝鮮民族第一主義」の熱に酔いしれてきた韓国の「衆愚」がおいそれと米韓同盟強化についていけるかどうか。米韓日三角同盟に回帰できるかどうか。

 このあたりは予見しがたい。いずれにせよ、イエン氏の論文が米国のアジア通に注目されている理由が分かるような気がする。


筆者:高濱 賛
特に、戦略的な分析という点からは、物足りない感じがしました。なぜそのように私が感じるのかといえば、世界屈指の戦略家であるルトワック氏の著書『自滅する中国』(2012年出版)を読んでいたからだと思います。

エドワード・ルトワック氏
●国家は普通は独立を尊ぶものだが、従属したがる国もある。それが韓国だ。 
●彼らは中国と中国人にたいして、文化面で深い敬意を持っている。中国の「マーケットの将来性」にもその原因がある。 
●韓国における中国と中国人への尊敬の念は明の時代にまでさかのぼることができる。その一番の担い手は、知的エリートとしての官僚である両班だ。 
●面白いことに、中国文化の影響が非難されるのは北朝鮮。北では漢字は事実上禁止され、ハングルの使用だけが許されているほど。 
●韓国では教育水準が高ければ高いほど反米の傾向が強まる。しかも最近はアメリカが衰退していると考えられているために、中国の重要性のほうが相対的に高まっている。個人で中国でビジネスを行っている人が多いという事情もある。 
●極めて奇妙なことに、韓国は大規模な北朝鮮の攻撃を抑止するのは、グローバル規模の軍事力を持つアメリカの役目だと考えられており、実際に天安沈没事件や延坪島の砲撃事件にたいしても(死者が出たにもかかわらず)ほとんど報復は行っていない。 
●つまり実際のところ、韓国政府は米国と中国に依存する従属者となってしまっている。米国には全面戦争への抑止力、そして中国には一時的な攻撃にたいする抑止力を依存しているのだ。 
●ところがこれは、米国にとって満足できる状況ではない。韓国を北朝鮮から庇護するコストとリスクを、米国は独力で背負わなければならないからだ。 
●その上、韓国への影響力は中国と折半しなければならない。中国は北朝鮮への統制を中止すると脅かすことで、常に韓国政府を締め上げることができるからだ。今のところ韓国が中国に声を上げることはない。 
●米韓同盟を形成しているものが何であれ、そこには共通の「価値観」は含まれていない。なぜなら韓国はダライラマの入国を中国に気兼ねして堂々とビザ発給を拒否しているからだ。 
●現在のような政策を保ったままの韓国は、いわゆる「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しているのかもしれない。韓国が自国の安全保障のコストとリスクを受け入れず、かわりに従属者になろうとしているのは明らかだ。 
●このような韓国の安全保障の責任を逃れようとする姿勢は、「日本との争いを欲する熱意」という歪んだ形であらわれている。ところが日本との争いには戦略的に何の意味もないし、日本へ無理矢理懲罰を加えても、韓国側はリスクを背負わなくてすむのだ。
いかがでしょう。このルトワックの分析の要点をさらに簡潔にまとめれば、 
1.米国に従属している韓国は、同時に中国にもすり寄っていこうとしている。 
2.その大きな理由は二つ:歴史的・文化的な面での尊敬と、ビジネスのチャンスだ。 
3.安全保障面では、北のコントロールを中国に、そして全面戦争の抑止は米国に依存。 
4.その責任逃れの憂さ晴らしとして、日本にたいする情熱的な敵対心を展開。

まず、非核化した北朝鮮がアメリカの戦略的な保護の下で、経済的に発展するというシナリオ、いわゆる「ベトナム・モデル」です。この「北朝鮮のベトナム化」は、日本にとっても最善の選択肢といえます。

次の選択肢は、意外にも「現状維持」だといいます。金正恩の独裁体制が続き、もし米国による先制攻撃などによって強制的な非核化が実現しても、ダメージを受けた北朝鮮の政権が生き残る可能性はあります。それでも、第三の道、北朝鮮が非核化し、朝鮮半島が中国の支配下に入るよりは遥かにマシなのです。

北朝鮮の核兵器は、日本の安全保障にとって最大の脅威です。ところが、戦略面では日本にとってポジティブな要素なのです。なぜなら、それが北朝鮮の中国からの戦略的な独立を保障し、中国による朝鮮半島の支配を防いでいるからです。北京が平壌を制御できる状態になれば、韓国も支配下にされる可能性があります。

なぜなら韓国内には中国の冊封体制を受け入れたい勢力があるからです。換言すれば、平壌は中国から朝鮮半島の独立を実際に保障しているのですが、韓国政府、文在寅はその独立にまったく貢献していません。日本にとって核武装した北朝鮮は最悪ですが、中国に支配された朝鮮半島は、さらに最悪の安全保障上の脅威となります。

ソウルは一度敵の手に落ちたのだか、米国再三の要求にもかかわらす、未だに移転していない

ここで問題となるのは、韓国という国の戦略的な脆弱さです。ソウルは北との国境線である非武装地帯から近く、対空防衛システムや防空シェルターなども十分ではないという脆弱性を晒しており、韓国の軍隊は自国をまったく守れない状態にありました。というのが40年前の状況でしたが、実は今も全く同じなのです。

政府機能や民間企業の本社などを、ソウルから遠くに分散するなどの対策を一切実行していません。空襲に対応するシェルターも不十分です。40年前と違うのは、北朝鮮が核兵器や長距離ミサイルを開発したことだけです。もし戦争が起きれば、北朝鮮は最初の一撃で韓国の指揮所や対戦車兵器などを潰せます。

40年前にアメリカが提案した、首都機能を南に移すことや、企業の光州への移動や、軍事面での72項目にものぼる細かい変更など、ほとんどなされていません。半島有事の際に作戦を指揮する権限は、いまだに韓国軍ではなく在韓米軍司令官にあります。米国側が長年、返還を示唆しても逃げ口上を駆使して延期し続けています。さらに韓国は、北朝鮮の核開発を阻止する動きは全く見せていません。

ルトワック氏は韓国を強く批判し、次のように述べています。
韓国は北朝鮮の非核化には殆ど興味がなく、金正恩体制の崩壊は望んでいない。日米が直面しているのは「朝鮮半島問題」で、二つの国で構成されている。一つは北朝鮮であり、どんな手段でも核武装解除を進めるべき国である。そしてもう一つは、韓国という無視すべき国である。
もう、韓国の未来などはっきりしすぎています。韓国は元々の基本方針である、「小中華」の属国として、しかも米韓同盟を続けたまま、中国による「天下」体制の一員となることを模索しつづけるのでしょうが、それは大失敗に終わります。これは、文在寅の失敗というよりは、韓国の失敗とみるべきでしょう。

そうして、韓国のこの基本的なスタンスは、文在寅が大統領を辞任したとしても、ほとんど変わらないでしょう。無論、実際韓国という国は、朝鮮戦争終了時の時から何も変わっていません。その国が政権が変わったからといって突然変わるということはありません。

最悪のシナリオとしては、このブログにも過去に何度か掲載したように在韓米軍が撤退する間際に、米国とその同盟国による韓国の経済焦土化が実施され、韓国は経済的にも安全保障的にも無意味な存在となりでしょう。

そうなると、いきなり軍事バランスが崩れると考える人もいるでしょう。ただ、そうはならないでしょう。韓国は日米の信頼を失っているわけですが、それでは中国や北朝鮮の信頼を得られかといえば、そんなことはないからです。

将来の韓国は、経済的には取るに足らない国となり、安全保障的には空き地のような存在になるでしょう。北朝鮮は38度線の防備を固め、韓国人難民などが越境させないようにするでしょう。

金王朝を継続させることを最大の任務と考える、金正恩はチュチェ思想とは無縁の韓国人が北朝鮮領内に入ることは到底許容できません。彼の頭の中には、当面南北統一などの考えはないのです。

それでは、一時でも、文在寅の南北統一呼びかけに関心を示したかのように振る舞ったかといえば、まずは、米国との間をとりもってほしかったのと、継続する制裁をなんとか終わりにするか、韓国による制裁破りを期待したからです。

しかし、金正恩は自ら、米国と直接交渉できるようになったので、米国交渉して、金王朝の継続をトランプに認めさせ、そのひきかえとして、制裁をやめてもらうなどのことは自分で直接交渉できるわけで、韓国に頼る必要など全くなくなったのです。

こうなると、中国に有利で、中国はすぐに朝鮮半島一帯を傘下におさめてしまうという人もいるかもしれません。

しかし、そうはならないでしょう。なぜなら金正恩は、中国の干渉を極度に嫌っているからです。結果として、北朝鮮ならびにその核は、中国が朝鮮半島全体に浸透することを防いできましたし、韓国から在韓米軍が撤退したとしても、すぐ近くの日本で、在日米軍が目を光らせています。

さらに、金正恩は金王朝に何の敬意ももたない韓国人が北朝鮮領内に入るのを拒み続けるでしょう。この状況は変わらず、結局韓国は周辺国にとって、安全保障上の空き地のような存在になるでしょう。

最悪のシナリオになったにしても、現在の状況は変わらず、結局韓国だけが、経済的に取るに足りない国になり、安全保障的には空き地のような存在になってしまうでしょう。

だかこそ、日本にとって韓国はルトワック氏のいうように、無視すべき国なのです。

【関連記事】

トランプ政権が韓国“恫喝” ファーウェイ5G使用なら「敏感な情報露出しない」 米韓同盟解消も視野か―【私の論評】米国は韓国を安全保障上の空き地にしてしまうつもりか(゚д゚)!


韓国で「恐怖のスタグフレーション」進行中か 消費者物価上昇率が8カ月連続0%台、新「漢江の奇跡」に疑問―【私の論評】韓国経済の悪化の根本原因は、誤った金融政策にあり(゚д゚)!

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚”―【私の論評】第二次世界大戦中の経済成長でも示された、 大規模な戦争でGDPが伸びるからくり

ロシア1~3月GDP 去年同期比+5.4% “巨額軍事費で経済浮揚” まとめ ロシアの今年1月から3月までのGDP伸び率が去年の同期比で5.4%と発表された。 これは4期連続のプラス成長で、経済好調の兆しとされる。 専門家は、軍事費の増加が経済を一時的に押し上げていると分析。 I...