2020年5月21日木曜日

コロナ後の世界、「スペインかぜ」後に酷似する予感―【私の論評】社会は緩慢に変わるが、今こそ真の意味でのリーダーシップが必要とされる時代に(゚д゚)!

コロナ後の世界、「スペインかぜ」後に酷似する予感
恐慌によるブロック経済、国内では二・二六事件、そして大戦

(作家・ジャーナリスト:青沼 陽一郎)

「われわれには多くの措置を講じることが可能だ。関係を完全に断ち切ることもできる」

 中国との関係について、米国のトランプ大統領がそう断言したのは、今月14日のことだった。米国メディアのインタビューに答えたものだ。

「中国には非常に失望した。中国は新型コロナウイルスの流行をなすがままに任せるべきではなかった」

トランプ大統領は中国のコロナ対応に失望

 感染者が150万人超、死者も9万人超の世界最大となった米国。経済活動の再開を急ぐトランプ大統領に、反発の声も大きい。このままではこの秋の大統領選挙にも影響する。思うようにいかない苛立ちは、発生源の中国に向かう。国内の批判も、共通の敵を意識させることで目先を変えようという意図も見え隠れする。

1世紀前の出来事と恐ろしいほど符合

 「習近平と非常に良い関係にあるが、今は話したいとは思わない」

 インタビューでそう語った翌日の15日、トランプ政権は、中国の通信機器最大手「華為技術」(ファーウェイ)に対する禁輸措置を強化すると発表した。携帯電話の中の半導体でもアメリカが関わったものは、外国製品であれ、輸出を禁止する、したければアメリカ政府の許可をとれ、というものだ。

 これを受けて、すぐさま半導体受託生産の世界最大手、世界シェアの5割を占める台湾積体電路製造(TSMC)が、ファーウェイからの新規受注を停止した。世界のサプライチェーン(供給網)の分断がはじまっている。

 一方の中国も、新型コロナウイルスの発生源でありながら、世界に先駆けて克服した国として、諸外国への支援を積極的に打ち出している。ところが、その一方で海洋進出を強化。4月中旬には、かねてから埋め立て、軍事拠点化を進めてきた南シナ海に新たな行政区「西沙区」と「南沙区」を設置すると発表。5月8日には、4隻の中国公船が尖閣諸島周辺の領海に侵入し、このうち2隻が日本の漁船を追いかけ回した“事件”も発生している。

 12日には、新型コロナウイルスの発生源について独自の調査が必要と表明した豪州に対して、食肉の輸入禁止措置をとった。さらに19日からは、豪州産の大麦に80%超の関税を上乗せしている。FTAを結ぶ中国は豪州にとって最大の輸出相手先である。

 もはや、ここへきての米中両国の強硬姿勢と囲い込みは、“ポスト・コロナ”を見据えた動きとも見てとれる。

 だとすると、もっと深刻に考えなければならないことは、およそ1世紀前に起きた出来事と、現在とが恐ろしいほどにリンクしていることだ。

自国優先でブロック経済化

 100年前にも「スペインかぜ」と呼ばれた新型インフルエンザのパンデミックが起きた。最初は米国からはじまり、第1次世界大戦に派兵された米軍のテントから世界中に拡散されていった。当時、中立国だったスペインだけが実態を公表したことから「スペインかぜ」という名が付けられた。この新型感染症が、第1次世界大戦を終わらせたとも言われる。1919年にはパリで講和条約が結ばれている。

 このパリ講和会議では、米国のウィルソン大統領が国際協調と、国際連盟の設立を説いた。ところが、いざ設立となったところで、言いだしたはずの米国が参加していない。もともと他国には干渉しないモンロー主義(孤立主義)を外交の柱としていた米国では、議会が参加を否決した。

 現在の米国でも、自国第一主義を唱えるトランプ大統領が、新型コロナウイルスの世界保健機関(WHO)の対応は中国寄りだとして、拠出金を停止してしまった。脱退すら示唆している。国際協調の足並みからはずれかけている。

 大戦終結から10年後の1929年には、世界恐慌が襲った。いまの世界の状況は、その10年の間の出来事がひと塊になってやって来ているようなものだ。

 当時の世界恐慌に主要国はブロック経済で立ち向かった。自国優先主義、保護主義に走って、植民地との貿易関係を強化。列強が独自の貿易圏を作り、それ以外の国や地域とは、高額の関税をかけて貿易を著しく阻害する。

 習近平国家主席が打ち出した広域経済圏構想「一帯一路」は、「債務のわな」にはまった支援先の国々を実質的に植民地にしているようなものだ。

 いまでは、経済ブロックが米中対立の二極化となりつつある。当時のブロック経済による世界の囲い込みと分断が、やがて第2次世界大戦を招いたことは言を俟たない。

寒村の窮状を憂う声が二・二六事件へと

 米国の株価の大暴落からはじまった世界恐慌は、日本にも影響した。それも農村部の困窮は著しく、農家の娘が女郎として売られていくという惨状もあった。

 そういえば、お笑いコンビ・ナインティナインの岡村隆史が、ラジオ番組でこう発言したことが、女性蔑視として厳しい批判に曝されている。

「コロナが終息したら絶対面白いことあるんですよ。美人さんがお嬢(風俗嬢)やります。短時間でお金を稼がないと苦しいですから」

 これも当時を彷彿とさせ、ポスト・コロナを予言するものとも言える。ある意味で経済を理解している。だが、それは当時からして、そうした窮状に追い込まれる悲劇であって、それを「面白いこと」と言ってしまうところに、大きな間違いがある。

 そんな悲惨な当時の農村から陸軍に入った部下の話を聞いた青年将校たちが「昭和維新」を掲げて決起する。それが二・二六事件だった。

【1936年】陸軍(昭和11年)▷反乱軍の拠点「山王ホテル」前(二・二六事件)

 いまの時代にクーデターということは考え難いが、日本政府はコロナ対策に「新しい生活様式」を打ち出している。他者との距離を保ち、食事も対面を避ける。感染拡大には第二波、第三波も予測される。そんな事態がいつまで続くのか。それで延期された東京オリンピックが迎えられるのか。二・二六事件の4年後に予定されていた1940年の東京オリンピックも幻に終わっていることを付け加えておく。

【私の論評】社会は緩慢に変わるが、今こそ真の意味でのリーダーシップが必要とされる時代に(゚д゚)!

1918年、ワシントンD.C.のウォルター・リード病院でインフルエンザ患者の脈を取る看護婦

上の記事では、スペイン風邪との対比で現在の世界がどう変わっていくかを推論しています。しかし、COVID-19とスペインかぜを比較してみると、そこには数々の相違点があります。

まず、この2つは全く異なる病気であり、その病気の原因となっているウイルスも異なります。COVID-19の原因はコロナウイルスであり、スペインかぜやこれまで登場した他のインフルエンザパンデミックを引き起こしたインフルエンザウイルスではありません。

致死率の年齢別の分布も全く違います。1918年のスペインかぜは特に新生児や若い世代の人々にとって脅威的でした。COVID-19の原因となっているコロナウイルスは、特に高齢者にとって致命的なものだと見られています。

また、スペインかぜの大流行に関してはたくさんの国がその情報を非公開にしようとしていたのに対し、現在はデータや研究、ニュースなどが完全ではないにしろシェアされていることから、過去とは状況がとても異なります。

同時に、現在ではかつてとは比較にならないないほど世界がつながっているのも事実です。1918年当時は線路や蒸気船が世界をつないでいる程度でしたが、飛行機が発達した現在では、人もウイルスもごく短時間で世界中を移動することが可能となっています。

保険医療のシステムやインフラも当時とは大きく異なっています。スペインかぜが世界を襲ったのは、抗生物質が発明される前だったことから、おそらくほとんどの死亡はインフルエンザウイルスそのものによるものではなく、細菌による二次感染だったことが考えられます。

2008年の発表で、Morensらは「スペイン風邪の死者のほとんどは上気道の細菌によって引き起こされた二次感染による細菌性肺炎が原因だった可能性がある」と述べています。

また、ヘルスシステムだけではなく、当時の世界は健康状態や生活環境が全く異なっていました。1918年に被害を受けた人たちの大部分はとても貧しい層の人たちであり、その多くの人は栄養失調状態にありました。

世界人口のほとんどが当時は劣悪な健康状態にあり、高い人口密度に加え、衛生状態も悪く、衛生基準自体が低いことが当たり前の時代でした。それに加え、世界のほとんどの地域は戦争で弱っていた時代です。公的な物資は少なく、多くの国々がその資源の多くを戦争に使い切った後だったわけです。

世界の大部分が今では豊かになり、健康状態も良好に保たれています。しかし、そんな今の世界において、やはり一番懸念されているのは、COVID-19の大流行によって一番打撃を受けるのは、貧しい層にいる人々だろうということです。

これらの相違点が示すことは、1世紀前の大流行から学びを得ようとする場合、我々は慎重にならなくてはならない、ということです。

しかし、人々の健康状態が良好に保たれている国でさえ、パンデミックが与える影響ははかり知れない、ということスペインかぜは我々に教えてくれます。新しい病原体は恐ろしい破壊をもたらし、それが何百万という命を奪うことになるかもしれません。

このように、スペインかぜという歴史上の大流行は、我々に警鐘を鳴らしてくれるだけではなく、大きなパンデミックの発生に対して十分備えておこうという動機を与えてくれるものであり、長年多くの研究者たちによって常に注目されてきた事例なのです。

スペイン風邪後の世界には、核兵器も存在しておらず、現在でいうと通常兵器といわれるもので軍備がなされていました。そのため、世界大戦が起こる可能性は十分にありましたし、実際二度にわたって起こってしまいました。

しかし、核兵器のある現在では、様相が違います。核兵器を使ってしまえば、自国だけではなく、世界が崩潰する可能性があります。そのため、先進国や大国で武器を用いた戦争は現実的ではなくなりました。

そのため、現在の戦争は、兵器ではなく情報戦や経済制裁を用いる戦争に変わっています。コロナ禍直前から、米中対立は激しくなっていましたが、コロナ禍移行も激化しつつあります。

米中対立はコロナ禍後ますます顕になってきた

コロナ禍で甚大な被害を被った米国以外の先進国なども、中国に対する反発が高まっており、中国対米国をはじめとする先進国の戦いの様相を呈しつつあります。

それに対して、中国はコロナ禍を奇貨として、EU等には従来からの微笑外交の延長線上のマスク外交を展開し、台湾、日本に対しては、東シナ海で攻勢にでており、南シナ海でも活動を活発化させています。

これを米国などの先進国は、許容することはないでしょう。米国等は、これからも中国に対して、中国自らが体制を変えるか、変えなければ、世界に影響を及ぼすことができない程度まで経済を弱体化させることになるでしょう。

これに関しては、第二次世界大戦後の米ソ冷戦が、ソ連崩潰で終了したように、時間がかかるでしょうが、いずれソ連が崩潰したように、現在の中国共産党の崩潰と、中国の体制変換という形でいずれ終焉することでしょう。ただし、やはり短くても10年、長ければ、20年以上かかるかもしれません。

その間に、世界は米国を中心とする多数の国々による貿易圏と、中国を中心とする、少数の国々による貿易圏に分かれるかもしれません。いずれにせよ、決着するまでには、時間がかかり、これによる変化は比較的緩慢なものになることが予想されます。

次に、日本をはじめとする先進国の国内の変化としては、どのようなことが考られるでしょうか。様々なところで、大変化が起こり、コロナ禍以前とは全く異なる社会になるとしている識者も大勢います。

コロナの後に世界は変わるのでしょうか。結論から言うと、劇的に社会が変わっていく、いわゆるパラダイムシフトは私は、起こらないと思います。

それどころか、人々が思ったいいる以上に元の社会に戻ろうとすると私は考えています。

それはなぜかというと、それが多くの人々のとって一番ラクだからです。社会は変化を求めているようですが、実際に、自分自身を変えていこうと思っている人がどれくらいいるでしょうか。

何か新しい取り組みを始めようと思っている人はそんなに多くはないのではないかと思います。変化を強要されているところは、致し方なく取り組んでいるのが現状だと思います。

コロナの終息後でも私自身も含めて多くの一般的な人たちの考え方は変わらないでしょう。

これを変えようと思う人はかなり意識が高いと思います。意識が高いという言い方は褒めているわけではなく、流行りにのっている部分もかなりあると思うのです。そういう意味です。これは、いわゆる意識高い系の方々には耳が痛いのではないかと思います。ただし、意識高い系とは、本当に意識が高い人という意味ではありません。そうではなく、意識が高いふりをしている人と言ってもよいかもしれません。

つまり、ほとんどの人にとってソーシャルディスタンスを継続させていったり、テレワークなどのデジタルな暮らし方にシフトしていくことは大変なことだと思います。何しろ、今でも家庭でのWIFI普及率は、思いの他低いことをある調査で知り、驚いたばかりです。あるいは、携帯電話は使用しているものの、パソコンの使用率も思いの他低いです。そのため、急激に社会が変化していくパラダイムシフトはおこらないと思います。

では、社会は元どおりになっていくのでしょうか。私自身は、変わらないところがあるように、変わるところがあるとも思っています。それはどこかと言うと、苦しんでも変えざると得ないという人たち。つまり主に経営者達の考え方です。私は、どちらかというとこちらに属しているのでよく分かります。

よく考えてみると、米中対立を基本とする現在の世界の変化も同じです。この動きはコロナ禍以前からはっきりしていました。変わるべきものが、コロナによってはっきり目に見えるようになってきたということです。従来では、中国批判をすると、反発する人も結構いましたが、最近はそういう人も少なくなって来たように思います。

コロナによってそれなりに自粛をしたり、仕事も変化をしなけばならない人もたくさんいたと思います。

ただ、今現在も一番苦しんでいるのは経営に携わっている人たちだと思います。あるいは、社会事業を営んでいる人たちです。なぜなら、先を読むこと。そしてチャレンジすることがとても難しい社会になってしまったからです。

例えば今皆さんが、これから新しいイベントをやってくださいと言われたらどうしますか?ほとんどの人がとりあえずは今はやめておきましょうと答えるはずです。そういった中で次の答えを出さなければいけないリーダー達はとても難しい選択を強いられています。

現在のリーダーといわれる人は、小さな組織レベルでも、企業レベルでも、地方自治体レベルでも国家レベルでも、いやがおうでも、リーダー的行動が求められているのです。

変わると思って挑戦する人もいれば、元に戻ると思って投資する人もいるかも知れません。ただ、どちらにしても難しい選択であることに変わりありません。だから、一番変わっていくのはリーダー達の行動だと思います。社会は変わらないように思えて、実はゆっくりと舵を切り始めています。

コロナで変わるのではなく、変えなければならないタイミングが今ということです。それをコロナが顕にさせたということです。社会はいつもゆっくりと変化をしていきます。緩慢に変化していくので、よほどの目利きでないと気づきません。

人間の生活もやっぱり変えなければいけないことがでてきます。格差の激しい社会だったり、地球にとって良くないような発展だったりは、いずれにせよ変化しなければならないと思います。また、発展途上国の防疫体制、衛生管理なとも変化させなくてはならないです。

急激なパラダイムシフトは起こらないものの、コロナがあろうがなかろうが、変わらなければいけないものは変わっていくのです。コロナはそれを顕にしただけなのです。

今はそれを一部のリーダー達がかなりの負担を強いられながら、変化していくように求められているのです。


そうして、今こそ経営学の大家ドラッカー氏の語るチェンジ・リーダーの条件を見つめ治す時が来たようです。

ドラッカーしは、チェンジ・リーダーについて次のように述べています。
昨日を捨てることなくして、明日をつくることはできない。しかも昨日を守ることは、難しく、手間がかかる。組織の中でも貴重な資源、特に優れた人材を縛りつけられる。(『明日を支配するもの』)
ドラッカーは、1980年代半ば以降、少なくとも企業の世界では、変化への抵抗という問題はなくなったといいます。内部に変化への抵抗があったのでは、組織そのものが立ち枯れとなります。こうしてて、変化できなければつぶれるしかないことは、ようやく納得されたのです。
しかし、変化が不可避といっても、それだけでは死や税のように避けることができないというにすぎません。できるだけ延ばすべきものであり、なければないに越したことはないというにとどまります。
変化が不可避であるのならば、自ら変化しなければならないのです。変化の先頭に立たなければならないのです。変化をコントロールできるのは、自らがその変化の先頭に立ったときだけなのです。特に、急激な変化の時代に生き残れるのは、変化の担い手、すなわちチェンジ・リーダーとなる者だけなのです。
当然、チェンジ・リーダーたるための条件が廃棄である。成果が上がらなくなったものや貢献できなくなったものに投下している資源を引き揚げなければならないのです。
チェンジ・リーダーであるためには、あらゆる製品、サービス、プロセス、市場、流通チャネル、顧客、最終用途を点検する必要があります。しかも、常時点検し、次々に廃棄していかなければならないのです。
第一に、製品、サービス、プロセス、市場、流通チャネル、顧客、最終用途の寿命が、「まだ数年はある」といわれるようになった状況では、廃棄が正しい行動なのです。
第二に、製品、サービス、プロセス、市場が、「償却ずみ」を理由として維持される状況に至ったならば、廃棄が正しい行動なのです。
第三に、製品、サービス、プロセス、市場が、これからの製品、サービス、プロセス、市場を「邪魔する」ようになったならば、廃棄が正しい行動なのです。
ドラッカーは、次のようにも語っています。
イノベーションはもちろん、新しいものはすべて、予期せぬ困難にぶつかる。そのとき、能力ある人材のリーダーシップを必要とする。すぐれた人材を昨日に縛りつけていたのでは、彼らに活躍させることはできない。(『明日を支配するもの』)
リーダーシップについてドラッカーは次のように述べています。
リーダーシップとは人を引きつけることではない。そのようなものは煽動的資質にすぎない。仲間をつくり、人に影響を与えることでもない。そのようなものはセールスマンシップにすぎない。(『現代の経営』)
リーダーシップとは仕事であるとドラッカーは断言します。リーダーシップの素地として、責任の原則、成果の基準、人と仕事への敬意に優るものはありません。(このあたりは、是非ドラッカー著の『マネジメント』を参照していただきたいです)

リーダーシップとは、資質でもカリスマ性でもありません。意味あるリーダーシップとは、組織の使命を考え抜き、それを目に見えるかたちで確立することです。リーダーとは、目標を定め、優先順位を決め、基準を定め、それを維持する者なのです。

リーダーは、妥協を受け入れる前に、何が正しく望ましいかを考え抜きます。リーダーの仕事は明快な音を出すトランペットになることだとドラッカーは言います。

リーダーと似非リーダーとの違いは目標にあります。リーダーといえども、妥協が必要になることがあります。しかし、政治、経済、財政、人事など、現実の制約によって妥協せざるをえなくなったとき、その妥協が使命と目標に沿っているか離れているかによって、リーダーであるか否かが決まるのです。

ドラッカーは多くの一流のリーダーたちを目にしてきました。外交的な人も内省的な人もいました。多弁な人も寡黙な人もいました。

そうして、ドラッカーは次のように断言しています。
リーダーたることの第一の要件は、リーダーシップを仕事と見ることである。(『プロフェッショナルの条件』)
上でも指摘したように、コロナ後の社会は緩慢に変わっていくので、見極めが難しいです。 油断していると茹でガエルになりかねません。しかし、あらゆる組織において、今こそ真のリーダーシップが求められているのは確かなようです。

コロナによる変化自体はあらゆる組織にとって公平なものであり、マイナスであったりプラスであったりするのは、変化に対する私たちの反応によるものなのです。

コロナ後の世界において、あらゆる組織が、個人をも受益者としてくれるであろうものは、変化に直面したときの柔軟性なのです。

私自身、最終的には世界経済は素早く回復し、これまでの他の大きな変化を吸収してきたように、この大規模な変化を取り込む可能性が大だと思います。

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2020年5月20日水曜日

コロナの裏で進められる中国の香港支配―【私の論評】米国や台湾のように日本と香港の関係を強化すべき(゚д゚)!


 国際社会は目下、新型コロナウイルス(COVID-19)への対応で精一杯であるが、この機会に乗じたような形で、中国政府は香港への締め付け強化に乗り出した。香港警察は、4月18日、民主派主要メンバー15人を一斉摘発した。この中には、現職の立法会議員である梁耀忠氏や「民主の父」と呼ばれる李柱銘(マーティン・リー)元議員、民主化運動支持のメディア、蘋果日報(アップル・デーリー)の創設者である黎智英(ジミー・ライ)氏も含まれる。


 また、香港政府は、4月19日、「香港基本法」(ミニ憲法と呼ばれるもの)の解釈を変更し、中国による香港への事実上の介入を合法化した。

 4月18日付の台湾の英字紙タイペイ・タイムズ紙は、社説で、中国政府がCOVID-19 に関するプロパガンダを世界に拡散させている陰で、香港の司法の独立を破壊する企てを進めていることを警告している。このような香港での動きの背後にある中国の介入意図に対して、警戒を怠るべきではないと呼び掛けている。もっともな内容である。

 香港では、昨年6月に、民主派諸勢力による反政府デモが本格化して以降、今回の摘発は最大の規模に当たる。民主派諸勢力は新型コロナウイルスへの対策もあり、デモの際には、5人以上が1か所に集まることがないように、香港政府や中国共産党に対するデモを自粛してきた。その間隙に乗じるような形で、今回の民主派主要メンバー15人の摘発行為が行われた。

 さらに、中国及び香港政府側は、この摘発行為の直後に唐突な形で、「香港基本法」の解釈を変更した。「香港基本法」第22条には、「中国政府所属の各部門は香港特別行政区が管理する事務に干渉できない」と規定されている。ところが4月17日、突如として、中央政府駐香港連絡弁公室等は、従来の解釈を変更し、「自分たちは中国政府所属の各部門ではない」と主張しはじめた。

 そして、4月19日には、香港政府もこの主張を追認し、事実上、中国政府が合法的に香港の問題に介入することができる道が開かれた。そして、香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、香港の民主化運動を「国家安全保障への脅威」と位置付けた。

香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官

 中国共産党は、昨年11月の香港区議会議員選挙における民主派勢力の圧倒的勝利に危機意識を募らせていたが、本年9月に予定されている立法院(議会)選挙を控え、香港基本法の解釈を変えてでも、民主化運動を阻止することを決めたのであろう。

 このようにして、事実上、香港における「一国二制度」の法的運用は挫折し、中国共産党の言う「法の支配」は空念仏に終わることとなった。

 昨年までの香港の大規模デモなどの動きを考えれば、香港での民主化運動がこれで直ちに終止符を打つとは考え難い。香港民主派諸勢力は、本年7月には大規模デモを行うことを準備しているとも伝えられるが、中国・香港をめぐる緊張関係は今後一層強まるものと見るべきだろう。

 4月18日の香港の民主派逮捕等に関しては、ポンペオ国務長官が声明を出し、中国共産党政府は、香港返還後も高度な自治を保障し、法の支配と透明性を確保するとの中英共同宣言のコミットメントに反する行為であると非難した。マッコネル上院院内総務も、中国共産党が新型コロナウィルスを利用して平和裡に抗議する民主派を逮捕することは許されない、我々は香港と共にある(We stand with Hong Kong)とツイートした。

 香港問題は、今後も、香港内の対立を生むばかりでなく、米中対立の1つの火種にもなるだろう。

【私の論評】米国や台湾のように日本と香港の関係を強化すべき(゚д゚)!

台湾のコロナ対策については、このブログでも何度か掲載しました。昨年夏に中国政府が発表した台湾への個人旅行禁止令。台湾の香港デモ支持や蔡英文(ツァイ・インウェン)総統の訪米などに対する仕返しと考えられ、台湾経済に大きな打撃を与えていたが、結局はそれで台湾人の命が救われました。「人間万事塞翁馬」という言葉そのものでした。

ただし、台湾政府の反応も素早いものでした。今年1月23日に武漢が封鎖されると、台湾は2月6日に中国人の入境を全面禁止しました。台湾は中国の隠蔽体質をよく知っていて、公表されたデータを決して信じないので、迷わず決断しました。ちなみにもう1つ、どこよりも早く中国人の入国を禁止した国がある。中国の最も親しい兄弟と称する北朝鮮です。

香港の対応も素早いものでした。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。中国官僚のごまかしをよく知っている香港人が、2003 年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓をしっかりと心に刻み、徹底的な対策をしたことも効果的でした。

そうして、その背後には日本人の活躍もあります。それは、香港大学公共衛生学院の福田敬二院長です。福田氏は、東京生まれです。幼少期の頃に医師だった父の仕事の関係でアメリカで育ちました。

香港大学公共衛生学院の福田敬二院長
バーモント大学で医師の資格を取得し、カリフォルニア大学バークレー校で公衆衛生の修士号を取得。その後、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)で疫学の専門家としてインフルエンザ局疫学部長を務めたほか、世界保健機関(WHO)の事務局長補などの要職を歴任し、2016年12月から現職です。

1997年に鳥インフルエンザA(N5N1)が広がった際、CDCのメンバーとして来港したほか、重症急性呼吸器症候群(SARS)の時にも香港を訪れてアドバイスしています。エボラ出血熱などでも手腕を発揮するなど疫学の世界的権威の1人です。

香港では、福田敬二氏の指導により、欧米のようにロックダウンをせず、外出も認めています。一方、レストランは総座席数の50%しか利用させないなどの制限付きの営業活動を認め、経済にも配慮しつつ感染爆発を防ぎました。市民一人ひとりにソーシャルディスタンスを呼び掛けるだけではなく、意図的に作り出したのです。

その香港では、大学入試で出された歴史の問題をめぐり、中国側が「日本の侵略を美化するものだ」と取り消しを要求、民主派や教師が中国の介入に反発を強めています。

批判されているのは、14日に行われた統一試験の歴史の設問。(1)1905年に清国側の要望で日本の法政大に1年の速成課程が設置されることが記された文書(2)12年に中華民国臨時政府が日本側に支援を求めた書簡-を資料として挙げた上で、「1900~45年の間に日本は弊害よりも多くの利益を中国にもたらした」とする説について、どう考えるかを問うものでした。

大学入試問題に日中の歴史が出題されたことを伝える香港の新聞

試験後、中国系香港紙や中国外務省の香港出先機関が「日本の弊害を示す資料が提示されていない」「中国国民の感情を著しく害する設問だ」などと非難。香港政府の楊潤雄教育局長は「(日本の侵略が)有害無益だったことは議論の余地がない」として、入試を担当する独立機関に対し、設問を無効とするよう求める異例の事態に発展しました。

中国国営の新華社通信も15日、「設問を取り消さなければ、中国人の憤怒は収まらない」と強く反発し、「香港の教育は学生に毒をばらまいている。根治させよ」と香港政府に要求する論評を配信した。

これに対し、教育界選出の香港立法会(議会)議員(民主派)である葉建源氏は、「設問は学生に同意を求めているのではなく、分析能力を問うものだ」として、香港・中国当局の過剰な反応を批判しています。

香港は41年から45年まで日本の支配を受けた歴史があり、香港政府や中国の見解を支持する声もあります。一方で当局の激しい批判をめぐり、「青少年の自由な思考を抑圧するものだ。文化大革命を想起させる」(高校教師)との懸念も出ています。

民主派寄りの香港紙、蘋果日報は、毛沢東が生前、日本軍が中国の大半を占領しなければ中国共産党は強大になれなかったとして、「日本軍閥に感謝しなければならない」と述べていたことを紹介、設問を問題視する当局を揶揄(やゆ)しています。

さて、香港は日本人にとって人気の渡航先の1つで、2018年に香港を訪問した日本人の数は128万7800人に上りました。距離も近く、美食も豊富で、アジアと欧米の文化の交差点ともいえる香港は独特の魅力であふれています。

日本が好きな香港人も少なくなく、英語が通じる利点もあります。中国メディアの百度家は15日、香港は日本人旅行者を歓迎するのに、中国人はさほど歓迎されていないと不満を示す記事を掲載しました。

どんなところに、日本人と中国からの旅行者に対する対応の違いを感じるのでしょうか。記事は、「滞在できる期間が全然違う」と伝えています。中国からの旅行者は、「わずか7日」しか滞在できないのに、日本人は90日も滞在できることを強調しました。

記事は、この理由について「中国から人が流入しすぎた」ことにあると分析。香港は世界でもまれにみる超過密地域で、極めて小さなエリアに700万人以上がひしめき合って暮らしています。そのため、住宅と交通に深刻なひずみが出ているが、記事はそうなってしまったのはひとえに香港の進んだ経済・生活・教育に引き寄せられて移住してきた中国からの流入者のためだとしています。

記事では指摘していないですが、中国から越境して香港で出産しようとする女性もいるため、妊婦の入境にも厳しいです。香港政府はこれ以上の流入を抑えようとしているようです。

それに引き換え、日本からの旅行客は移住が目的ではなく短期旅行者です。そのため、香港にとっては「経済を回してくれる」貴重な存在で、むしろ「長期滞在して欲しい」くらいだ、と差別的に感じる香港政府の対応には理由があると伝えています。

香港は訪日旅行者の多い地域でもあります。2018年には人口が700万の香港から220万人もの香港人が日本を訪問しており、その多くがリピート客だったと言われています。今は日本も香港も、双方が旅行客を受け入れられない状態が続いていますが、早く以前のように旅行者が行き来できるようになってほしいものです。


日本人が、香港のコロナ禍の封じ込めに寄与したこと、コロナ以前には、互いの交流が盛んだったことを考えると、日本と香港は良好な関係にあると言って良いでしょう。

ただ、残念なのは、米国のように香港を支援する動きが日本ではあまりないことです。米国では法的措置をとってまで、香港を支持する姿勢を明確にしています。

世界が香港情勢を注視するなかにあって、香港人の苦悩にとりわけ心を寄せ、支援を行ってきたのが、台湾の人びとです。蔡英文総統は国際社会に対して香港の自由と法治のための行動を呼びかけました。

桃園市のような地方レベルでも香港からの移民支援に関する議論が始まっています。大学でも、香港からの学生の短期受け入れが積極的に行われています。

市民レベルでの支援も活発です。昨年6月以来、台湾各地では、香港に連帯する集会やデモが頻繁に行われていました。大学の構内には、学生たちが香港への連帯の言葉を綴った紙をびっしり貼り付けた「レノンウォール」が出現し、教会は、カンパを集めて防毒マスクやヘルメットをデモ隊に送り届ける地下チャネルの窓口となりました。

最近では、逮捕のリスクにさらされる香港の若者たちを台湾へ逃亡させる地下ネットワークが立ち上がり、牧師、漁民、富裕な資金援助者といった支援者たちが協力して、200人以上の香港の若者を台湾に逃したことが報じられています。

昨年の、香港の抗議活動の特徴は、破壊行動も辞さない過激派と、平和な集会やデモを行う穏健派のあいだの連帯が一貫して保たれていることにありました。両者の団結が、デモ発生前の香港社会の状況と抗議活動の展開のなかから創り出された「連帯の倫理(ethic of solidarity)」――仲間割れを避け、団結を維持しようとする精神――に支えられているこようです。

台湾の香港に対する精神的支援も、この「連帯の倫理」に貫かれています。台湾の学生や知識人たちの多くは、香港の穏健派がそうであるように、過激派の破壊活動を非難するのではなく、彼らをそのような行動に追い詰める香港の政府・警察の対応、そして中国政府の姿勢を強く問題視しています。

台湾の人びとは、2019年の香港人の苦難に、自らの歴史を重ねて深い同情を寄せています。台湾は、1947年の「二二八事件」とそれに続く白色テロの時代に、多くの有為の若者を失いました。これによって国民党政権と台湾の本省人社会の間に生まれた不信感と社会の亀裂は、何十年にもわたって続き、今なお完全に癒えてはいません。

香港の一部の若者たちの破壊行動に対して、年配者を含む台湾の人びとが「連帯の倫理」を発揮するのは、若者たちが払いつつある犠牲の大きさと社会の傷の深さを、台湾の人びとが我がこととして深く理解しているからであるように思われます。

日本でも、市民ベースで、「連帯の倫理」で台湾・香港の人々との絆を深めるとともに、日本政府としても、香港支援の具体的な動きをしてほしいものです。

コロナ禍に乗じて世界への覇権を強め、あわよくば、世界秩序を中国にとって都合の良いものに作り変えようとする、中国の野心はあからさまになりました。

これに対して、米国をはじめとして、世界中の国々が中国に対抗しようとしている現状で日本だけがこの動きに乗り遅れているようです。

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2020年5月19日火曜日

中国ファーウェイを潰す米国の緻密な計算…半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能に―【私の論評】米国は逆サラミ戦術で、中国の体制を変換させるか、弱体化しつつあり(゚д゚)!

中国ファーウェイを潰す米国の緻密な計算…半導体の供給停止で5Gスマホ開発が不可能に

文=渡邉哲也/経済評論家



アメリカが、中国の通信機器大手である華為技術(ファーウェイ)への規制を強化した。米商務省は、すでにファーウェイを禁輸措置対象に指定しているが、今後はファーウェイや関連会社が設計に関与する半導体は外国製であっても、アメリカの製造装置を使用している場合は規制の対象となる。従来の抜け穴を完全にふさいだ形だ。

 また、現在の「アメリカ由来の技術やソフトウエアが25%以下」の部分も「10%以下」に変更される予定になっており、そうなれば、ファーウェイはほとんどの海外技術が使えない事態に陥る。さらに、ファーウェイが使用しているSoC(複合CPU)は半導体受託生産の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)の製品であるが、TSMCはファーウェイからの新規受注を停止したことが報じられた。TSMCからの供給が絶たれることで、ファーウェイは5Gに対応する各種通信機器を生産することができなくなる。

 以前から、アメリカはTSMCに生産拠点を自国に移転することを求めており、TSMCはアメリカのアリゾナ州に最先端の半導体工場を建設することを発表していた。これは5nmの最新プロセスに対応したもので、総投資額は120億ドル(約1兆3000億円)になる見通しだという。また、日本もTSMCとの連携を含む半導体の国内生産回帰を後押しし始めており、今後は日米政府の支援下で、日米台が連携する形で先端技術開発が進むことになるのかもしれない。

 いずれにしろ、アメリカの規制強化とTSMCの新規受注停止により、ファーウェイは新規の半導体の設計すらできない状態に追い込まれることになるだろう。

半導体市場で“窒息”するファーウェイ

 現在、半導体生産はファブレスの設計会社とファウンドリ(受託生産会社)による分業が進んでいる。また、設計に関しても、アームなどのCPUの基本回路、半導体版CADに該当するシノプシス、ケイデンス・デザイン・システムズ、メンター・グラフィックスのアメリカ3社の協力なしでは、新規の開発はできない。

 また、設計だけでなく、TSMCなどからの販売を禁止することで製造の部分も押さえているため、ファーウェイは最先端プロセスでの半導体が手に入らなくなるわけだ。これに対応するために、中国は中芯国際集成電路製造(SMIC)にオランダのASMLの半導体製造装置の輸入を画策していたが、これもアメリカに止められている。そのため、現行の14nmプロセスが最新ということになるわけだが、これでは低消費電力と小型化が求められる5G対応の最新スマートフォンなどに使用することはできない。

 その上で、アメリカの規制を破った企業にはドル決済禁止や巨額の罰金などの厳しい制裁が課されることになっており、それは企業の倒産を招くことになる。中国は巨額の報酬で人を集めているが、これは製品販売だけでなく技術移転の禁止でもあるため、人も制裁対象になる。

 そして、制裁の対象になった人は、得た利益と個人資産を没収され、長期の懲役刑が待っている。外国であっても、犯罪人引き渡し条約があればアメリカに身柄が引き渡されることになり、同時にアメリカは世界中の銀行口座を監視しているため、外国資産であっても凍結や没収の対象になるのである。

 すでに、アメリカの大学内では“スパイ狩り”が始まっている。中国は「千人計画」の名のもとに世界中の研究者に資金援助を行い、技術移転を求めてきたが、これは本来、米当局への許可や報告が伴わなくてはならない。現状では、最先端分野の研究に関して許可が下りる可能性はないに等しく、多くは無許可無報告で行われていたわけだ。これに対して、順次調査が進んでおり、摘発が相次いでいる。

 また、アメリカは新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、中国に滞在する約7万人の自国民に帰国命令を出しているが、そのほとんどがホワイトカラーであり、技術者や研究者である。

 通信業界では、NTTが主導する形で2025年に5.5G、30年に6Gの採用が始まる予定になっており、日本の通信および半導体メーカー復活に向けての希望となっている。そして、これはインテルやマイクロソフトなど米企業との協力と連携によるものであり、日米両政府が支援するプロジェクトだ。必然的に、この枠組みからファーウェイをはじめとする中国企業が外されることは必至である。

 アメリカの一連の対応は、まるで詰将棋を見ているかのようではないだろうか。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】米国は逆サラミ戦術で、中国の体制を変換させるか、弱体化しつつあり(゚д゚)!



TSMCはアリゾナ州と米国政府からの詳細不明の「支援」を受け、120億ドルを投じてアリゾナ州に次世代製造工場を建設する計画を5月15日(米国時間)に明らかにしました。この工場は、新しい5ナノメートルプロセス技術を使用したチップを生産可能で、最初の商用ロットは2024年に生産予定だといいます。

ナノメートルとは10億分の1メートルのことであり、ナノスケールでの製造には原子レヴェルの操作が必要になります。TSMCによると、アリゾナ州の工場は月20,000枚の半導体ウェハーを生産し、ハイテク分野における1,600人以上の雇用を創出するといいます。

TSMCは、アップルやNVIDIA、クアルコムを含む米国の大手企業にとってマイクロチップの重要な調達先です。TSMC製のチップは最新のiPhoneにも搭載されており、最近の人工知能(AI)の進歩を支えています。ところがTSMCは、ファーウェイの半導体子会社であるハイシリコン(海思半導体)が設計した重要なチップも製造しています。

今回の工場誘致は、トランプ政権とアリゾナ州にとっては大きな勝利です。なぜなら、TSMCは、まさに半導体技術の最先端を走っているからです。

トランプ大統領は大統領選において、17年にフォックスコン(鴻海科技集団)が発表したウィスコンシン州の工場の場合と同様に、アリゾナ州の工場を自分の交渉力と雇用創出能力の高さを示す証拠だと言い張るかもしれなです。ところが、ウィスコンシン州のプロジェクトはその後、大幅に縮小されています。

TSMCの新工場は比較的小規模であり、24年までには最も先進的な工場とは言えなくなっているでしょう。TSMCは自社の最高技術の米国への移転を警戒しているかもしれないです。TSMCはまだ3ナノメートル技術を開発している段階ですし、それに産業スパイが暗躍している舞台は中国だけではありません。

上の記事にもあるように、米商務省産業安全保障局は、ファーウェイが米国の技術で製造された半導体を使用することを制限する目的で、外国で製造された直接製品に関する規則を改定すると15日に明らかにしています。これはTSMCに合わせた協調的な動きの一環である可能性があります。

実際にTSMCを含むほとんどの半導体メーカーが、米国の技術を製造に利用しています。ということは、この規則の改定は、TMSCを含む国際的企業が製造する先進的な半導体から、ファーウェイを実質的に締め出すことになります。それは世界第2位のスマートフォンメーカーにとって大きな痛手となり、米中関係を破壊する“爆弾”となる可能性もあるのです。

最高クラスのチップへのファーウェイのアクセスを遮断することは、逆の見方をすると、中国がグーグルとアップルを同時に“殺そうとしている”ようなものです。おそらく、中国は中国で製造している米国企業または中国に販売している米国企業を標的に、中国が報復措置に出てくるでしょう。

中国政府は以前、ファーウェイへのさらなる規制が実施されれば、アップル、シスコ、クアルコムなどの米国企業を「信頼できない事業体リスト」に追加し、規制を課すことになると主張していました。中国政府はこの措置の実行を進めると同時にボーイングの航空機の購入も見合わせると、中国の政府筋は中国政府系メディア『環球時報』に伝えています。

知的財産権の窃盗や中国政府とのつながりが疑われることから、トランプ政権は先進テクノロジーへのファーウェイのアクセスを制限することに意欲的です。米国の諜報機関関係者のなかには、先進的な5G技術の世界各国への提供におけるファーウェイの主導的地位を特に懸念する向きがあります。

ファーウェイの5G技術が、中国の諜報機関に多くのグローバル通信への“侵入口”を実質的に与える可能性があると考えているからです。

ウィルバー・ロス商務長官は声明のなかで、新たな制限措置は「米国の技術が米国の国家安全保障や外交政策の利益に反する悪意ある活動を可能にすることを防ぐだろう」と述べています。商務省は米国の技術を中国で利用する動きに対して、幅広い規制を設けることを提案しています。

ウィルバー・ロス商務長官

これらのふたつの出来事は、半導体製造の進歩が大国間の競争と防衛戦略にとっていかに重要であるかを浮き彫りにしています。これらの出来事は、新型コロナウイルスの影響を受けて深刻化した米中関係の急速な悪化も反映しています。

米国政府は、中国への依存度が低いサプライチェーンの構築を目指しながら、米国企業への最先端部品の供給を保証することにも意欲的です。TSMCは中国の上海と南京で2つの工場を運営しています。

TSMCは、7ナノメートル規模の高度な生産技術によって半導体を製造できる数少ない企業のひとつです。生産プロセスが微細化するほど、チップの性能を高めることができます。

そうして製造された半導体は、スマートフォンなどの一般消費者向け機器や、オンラインサーヴィスを支えるクラウドコンピューティングプラットフォームの基盤に使われることになります。インテルも同様の高度なプロセスを利用して米国でマイクロプロセッサーを製造していますが、他社向けのチップは扱っていません。

中国が競争力のある半導体製造産業を構築しようと数十年にわたって躍起になってきた事実は、この種の技術の習得に莫大な投資と時間が必要であることを浮き彫りにしています。中国最大の半導体ファウンドリーである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、最近14ナノメートルプロセス技術を使用してファーウェイ向けチップの製造を開始しました。

一部の業界関係者は以前から、ファーウェイを含む中国のテック企業に対する規制の強化が裏目に出て、中国が米国の技術に代わる代替技術の開発を加速させる結果に終わる可能性を示唆していました。そうは言っても、必要とされる半導体製造能力を中国が開発するには、まだ何年もかかるでしょう。

旧ソ連による人類初の人工衛星の打ち上げ成功が西側諸国に衝撃を与えたスプートニク・ショックのときのように、今回の動きは中国のハイテク部門を新たな軌道に乗せてしまう可能性があるかもしれません。ただし、それには相当時間がかかるものと考えられます。


また、それには、旧ソ連の経済を停滞させた、軍事開発や、宇宙開発のように膨大な資金を要することは間違いありません。

中国がこれに耐えられるだけの経済力を維持するのは、かなり困難が伴います。さらには、米国にはまだまだ、中国に対する報復手段があります。

他にも様々な手段がありますが、最終的に米国などにある中国共産党幹部らの資産を凍結することもできます。さらには、中国が保有する米国債無効化の措置もあります。

これに対して、中国が米国に報復するのは困難です。そもそも、米国の富裕層は中国の銀行に金を預けるような習慣はありません。

中国が米国債を米国債を売却すれば米国債価格の暴落などのシナリオもありますが、「中国による米国債売却」は「切れないカード」と評価すべきでしょう。

1977年に施行された国際緊急経済権限法では、大統領が非常事態宣言を行えば、当該対象の米国との貿易が禁止、米企業が当該地域で活動できなくなる他、金融取引なども禁止されることが定められています。

トランプ大統領はメキシコ産品への関税賦課や米企業の中国撤退などの可能性に言及してきましたが、これらは同法を念頭に置いたものです。同法の前提は「異例かつ重大な脅威」ですが、非常事態宣言一つで柔軟な運用も可能です。

中国側は米国債を売却しようとするかもしれないですが、無効化され、ペナルティを課されるかもしれない中国との取引というリスクは簡単にはとれないでしょう。中国による米国債売却を封じ込めるためには、実現にはリスクをともなう「保有の無効化」まで踏み込まずとも、「取引無効化の可能性」で十分です。

米国側は、最終的にはこのことも視野にいれて、これから着実に中国を追い詰めていくことでしょう。

中国はかつてサラミ戦術という手法で、自己に有利なるように振る舞ってきました。サラミ戦術とは、敵対する勢力を殲滅または懐柔によって少しずつ滅ぼしていく分割統治の手法です。 別名サラミ・スライス戦略、サラミ・スライシング戦略ともいわれます。

最近の米国の中国に対する戦略は、中国のお株を奪うような逆サラミ戦術とでもいえるような様相を呈しています。

いきなり、中国要人の個人資産を凍結したり、中国保有の米国債を無効化するなどということをやってしまえば、中国は無論のこと様々な国々から批判されるのは目に見えています。

しかし、これは、最終段階として、今回のようなフェーウェイへの措置や、TSMCの工場之誘致や、最近の台湾に対する支援や、WTOにむけての措置など、とにかく中国を追い詰めるために、徐々に規制や制裁を強めていくことにより、それでも中国が態度を改めない、体制を変えないという現実を顕にしつつ、締め上げていけば、いずれ最終手段をとることも可能です。

ブログ冒頭の記事で、渡辺哲也氏の「米国の一連の対応は、まるで詰将棋を見ているかのようではないだろうか」という指摘は正しいです。

米国は逆サラミ戦術により、中国が体制を変えるか、変えないというのなら、経済的に疲弊して、ロシアのように経済が疲弊して、世界に大きな影響を及ぼすことができいくらい、弱体化していくことでしょう。

中国は無論手を拱いていることはなく、米国に対する制裁を実施するでしょう。それにしても、中国による制裁は確かに米国にとっては痛手かもしれませんが、米国による中国に対する制裁から比べれば、はるかに小さなものでしょう。

いずれにせよ、米国は中国の最大得意先であったにもかかわらず、得意先を怒らせてしまったのですから、仕方ないです。得意先を怒らせるということは、商売上ではあり得ないことであり、そのあり得ないことをした中国の末路は身から出た錆ということで決着がつくことになるでしょう。

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WHOが台湾をどこまでも排除し続ける根本理由 ―【私の論評】結果として、台湾に塩を贈り続ける中国(゚д゚)!

2020年5月18日月曜日

WHOが台湾をどこまでも排除し続ける根本理由 ―【私の論評】結果として、台湾に塩を贈り続ける中国(゚д゚)!

WHOが台湾をどこまでも排除し続ける根本理由
「コロナ対策の優等生」参加を阻む中台関係

劉 彦甫 : 東洋経済 記者 

台湾の蔡英文総統(左)とWHOのテドロス・アダノム事務局長

 「武漢肺炎」――。台湾では新型コロナウイルスをこう呼び続けている。

 世界保健機関(WHO)は差別につながる恐れから、地名や国名を病名に付けることを避けるよう指針を出している。世界各国の報道機関はWHOが定めた正式名称の「COVID-19」や「コロナウイルス」を呼称として用い、差別的言動を助長しないように配慮する方針も示している。

 ただ、台湾がWHOの方針に従っていないことを責められない面もある。台湾はWHOに加盟していない。WHO自身が台湾を排除しているからだ。

WHO総会に参加できない台湾

 5月18日からWHO年次総会の開催が予定されている。新型コロナウイルスが流行している影響で今年の総会はテレビ電話形式で開かれる。新型コロナ対策も重要な議題にのぼるが、開催が迫る5月16日現在でも台湾が総会へオブザーバー参加できる見通しは立っていない。

 台湾は早期に新型コロナウイルスの感染を封じ込めたことで知られる。5月16日時点で累計感染者数は440人、死者数も7人にとどまる。帰国者などを除く国内の感染例は1カ月以上確認されておらず、世界各国から注目が集まる。防疫において国際的な協力が必要とされるなか、台湾を排除することで「地理的な空白が生まれるのはいいことではない」と日本の茂木敏充外相は指摘したうえで、「国際社会やWHOが学ぶべきことは非常に大きい」と訴える。

 アメリカのポンペオ国務長官やニュージーランドの複数の閣僚も台湾の総会への参加を支持。15日にはドイツ外務省が「(総会)参加に国としての地位は必要ない」として、WHOに台湾を招待するよう求める書簡を他の賛同国と送ったと明らかにした。

 しかし、WHOは台湾の参加問題に消極的だ。5月11日の記者会見でWHOのテドロス・アダノム事務局長は台湾の総会参加について「判断する権限はない」と回答を避け、法務責任者のスティーブン・ソロモン氏が「総会に参加する国は参加国のみが決定できる」と述べた。

 台湾は対中関係が良好だった2009~16年にWHOの総会にオブザーバーとして参加していたが、中国が台湾独立派とみなす蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が就任してからは参加が認められていない。WHOは新型コロナ発生後も今年1月に行われた緊急委員会に台湾を招待しなかったほか、4月にはテドロス氏が人種差別的な攻撃を台湾から受けていると名指しで批判するなどぎくしゃくした関係が続く。

台湾の参加を阻む最大の障壁は中国

 台湾の総会参加を阻んでいるのが、中国との関係だ。台湾の大手紙「自由時報」によれば台湾の呉釗燮外交部長(外相)は、5月11日に立法院(国会相当)で中国政府とWHO事務局との間に「秘密のメモ」が存在しており、それが台湾の参加可否に影響していると言及した。

 台湾外交部によれば備忘録には台湾がWHOの活動に参加する場合は5週間前に申請する必要があり、中国の同意も必要と定められているという。中国外務省はメモの存在自体は認めているが、その内容については説明していない。アメリカが「WHOは中国寄りだ」として、資金拠出を停止する意向を示したのに対し、中国が追加で資金拠出をするなどWHOへの中国の影響力は高まっているとみられる。

 5月15日には中国外務省が、「規則の中に主権国家の1地区(台湾のこと)がオブザーバーとして参加する根拠はない」として、台湾の総会への参加に反対すると改めて強調した。

 中国政府が台湾のWHO参加を認めないのは台湾が自国の一部とする「一つの中国」原則を堅持しており、台湾については中国が代表して責任を持つとの立場にあるからだ。だが、直近は新型コロナ対策で脚光を浴び、国際的な存在感を高める台湾との確執が深まってきている。

 台湾は新型コロナウイルス発生直後から検疫体制の強化や感染症対策の緊急指令センターを設置して対策をとったほか、マスクの生産増強や流通管理も徹底した。先手の対応で蔡英文政権は高い評価を獲得し、2年前には2割台に落ち込んでいだ政権支持率が6割以上に回復。対外的にも各国の保健当局に助言しているほか、日米欧にマスクの寄付や輸出を行っており、日本を含む台湾と外交関係がない国から感謝の意が表明された。

 中国は蔡英文政権の一連の動きを「以疫謀独」(防疫対策を利用して、独立を謀っている)と批判する。また民主社会の台湾が積極的な情報公開を行って感染症対策に成功していることも、ロックダウンなどで感染封じ込めを行った中国とは対照的だ。対外的に自国の制度の優越性をアピールするうえで、中国にとって台湾の存在が矛盾を抱える。
波乱含みの中台関係

 5月20日には1月に行われた総統選で再選した蔡英文総統が2期目の任期をスタートさせる。中国はWHOからの台湾排除だけでなく、4月以降は台湾周辺で海上軍事演習や偵察機を台湾の防空識別圏内に侵入させるなど威嚇を続ける。5月14日にはアメリカ太平洋艦隊のミサイル駆逐艦が台湾海峡を通過。米中台の緊張が高まるなか、蔡政権の2期目は中台関係が改善する見込みが少ない状態で始まることになる。
中国軍が東沙諸島の奪取演習計画 南シナ海で、台湾実効支配の要衝

 そもそも蔡英文総統再選の背景にも中台関係がある。2019年初に中国の習近平国家主席が台湾について一国二制度による統一を強調する演説を行ったほか、一国二制度のもとにある香港で2019年半ばから顕著になった抗議デモに対して、香港や中国当局が弾圧を加えた。中国による高圧的な態度は台湾社会での対中警戒心を高めた。

 新型コロナウイルスへの対策に台湾がいち早く動けた背景には高まっていた対中警戒感や情報を隠匿する中国への不信もあった。新型コロナウイルスを「武漢肺炎」と呼び続けているように、圧力を強める中国に対して台湾の対中観はますます悪化するとみられる。逆に中国も台湾に対して強硬的な態度を続けるだろう。台湾をめぐる国際的な緊張が高まり続けるのか、WHO総会後も見通しは明るくない。

【私の論評】結果として、台湾に塩を贈り続ける中国(゚д゚)!

中国は、台湾を叩きつつ逆に結果として敵に塩を送るようなことを繰り返してきました。その最たるものは、中国から台湾への個人旅行を禁止したことでした。それについては、このブログにも掲載したことがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
大陸客の個人旅行禁止から2週間強、それでもあわてぬ台湾―【私の論評】反日の韓国より、台湾に行く日本人が増えている(゚д゚)!
台湾の有名ビーチ「墾丁・白沙灣 (White Sand Bay)」
 
この記事は、2019年8月25日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものといて、以下に一部を引用します。
中国政府が8月1日に中国大陸から台湾への個人旅行を停止してから半月あまりが経過した。台湾メディアによれば、足元では、中国個人客が1日単位で貸し切ることの多い観光タクシーの利用に落ち込みが目立っているとのことだが、ホテルや飲食店などへの影響はなお未知数のようだ。 
今回の中国政府の動きには2020年1月に実施予定の台湾総統選が背景にあると考えられている。「一つの中国」原則を認めない蔡英文政権に圧力をかけることで、彼女の再選を阻止しようとする狙いがあると言われている。また7月に蔡総統がカリブ海諸国への外遊の途中、米ニューヨークに長期滞在したり、米国から武器を購入したりと、米トランプ政権と親密な関係をアピールする動きも、中国の強硬姿勢につながった。 
加えて、多くの台湾メディアが、香港の民主派市民のデモとの関係を報じている。中国大陸から台湾に渡航すると、本土では流れていない香港デモの情報に接する機会が多くなる。情報統制の観点から自由な渡航を制限しようとする意図があるとの見方だ。
昨年の8月時点で、中国は中国人の台湾への個人渡航を禁止していたわけですが、今年の1月24からの春節の時期にも、中国人は台湾を訪れていないでしょう。

もし、中国が中国人の台湾訪問を禁じていなかったとすれば、武漢などからも大勢が台湾を訪ね、台湾でも中国ウイルス禍はもつと深刻になっていた可能性があります。

台湾で中国ウイルスによる被害が少なかったのは、中国からの個人旅行客がいなかったことも大きく寄与していると思います。無論、これに加えて、台湾政府の中国ウイルス対策が優れていたからこそ、5月16日時点で累計感染者数は440人、死者数も7人にとどまっているものと考えられます。

これは、中国側からいえば、台湾に対して塩を送ったような結果になってしまいました。なぜかといえば、今回の中国ウイルス禍で、台湾がウイルスの封じ込めに成功したことは、台湾国内のみではなく、世界に対して大きな貢献になったからです。

もし、台湾が封じ込めに失敗し、中国に助けられるような事態になっていれば、そうして日本も大失敗していれば、何しろ、現状では米国が深刻な感染に悩まされている状況ですから、中国はアジアで大攻勢にでて、中国ウイルス後の新たな世界秩序は大きく中国側に有利なものに傾く可能性がありました。

中国としては、台湾が中国ウイルス封じ込めに失敗していれば、中国がイタリアなどのEU諸国に対して実施している、マスクや医療機器の提供や、医療チームの派遣などで微笑外交を台湾に対しても実行したことでしょう。

これにより、中国は今年1月の台湾総統選での蔡英文氏の再選により、失った台湾での失地回復を行うことができたかもしれません。

そうして、中国ウイルスが終息した後には、甚大な被害を受けた台湾に対して、莫大な経済的援助をすることになったと思います。

そうなると、台湾独立派が台頭した台湾を馬英九政権時代のように、親中派を増やすことができたかもしれません。

考えてみると、中国は昨年11月には、香港区議会議員選挙で親中派が敗北しています。今年1月には、台湾選挙で蔡英文総統が再選されています。いわば連敗続きでした。

中国ウイルスに関しては、韓国は当初は対策に失敗しましたが、最近では収束に向かっています。日本も、感染者が増えつつはありますが、それでも死者は相対的に少なく、米国、EU諸国に比較すれば、中国ウイルス封じ込めには成功しています。

香港の対応も素早いものでこれも封じ込めに成功しています。中国国内で武漢における感染発生がまだ隠され、警鐘を鳴らした医者が警察に処分されていた1月1日前後、一国二制度のおかげで報道の自由がある香港メディアは問題を大きく報道し、市民に注意を呼び掛けました。

もし、台湾、韓国、香港そうして日本が、中国ウイルス封じ込めに失敗していたとしたら、中国は東アジアでマスク外交や、その後の経済支援などで、東アジアで経済的にも軍事的にも、大攻勢に出て、中国ウイルス後のアジアの中国にとって都合の良い新たな秩序を打ち立てることができたかもしれません。

これは、完璧に頓挫しました。今後、上の記事にもあるように、圧力を強める中国に対して台湾の対中観はますます悪化するとみられます。逆に中国も台湾に対して強硬的な態度を続けるでしょう。

しかし、中国の台湾政策は、また今回の中国ウイルスのように、結果として台湾に塩を送ることになるかもしれません。


台湾をWHOに参加させないということで、逆に日米英印欧豪と台湾の絆は深まることになるでしょう。それでもさらに中国がゴリ押しを続けると、日米英欧印豪、台湾等を中心とした国々は、WHOに変わる新たな組織をつくることになるかもしれません。そのような動きはすでにあります。

WHOと中国の結びつきが強い現状では、多くの国が、再度中国ウイルス惨禍に見舞われる可能性は否定できません。そのため、新WHOは実際にあり得るシナリオだと思います。

中国が台湾に対して武力で圧力をかけ続ければ、日米英印欧豪などの国々は、台湾海峡等の台湾の周辺に艦艇を派遣することになるかもしれません。そうなると、中国はうかつに台湾に手をだすことはできなくなります。

このように、中国の台湾政策は結果として、台湾に塩を贈り続けることになるかもしれません。

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2020年5月17日日曜日

衝撃!30万円給付案、実は「安倍政権倒閣」を狙った官僚の罠だった―【私の論評】今後自民党の中の人が、政府の財務方針を作成できる範圍をどんどん広げるべき(゚д゚)!

衝撃!30万円給付案、実は「安倍政権倒閣」を狙った官僚の罠だった

蓋を開けてみれば…

誰が「30万円案」を言い出したのか

4月30日に「一律10万円給付」を盛り込んだ補正予算が成立し、一部の自治体では先駆けて10万円の特別定額給付金を受け取る姿が報道された。

緊急事態宣言の延長にともない、この金額で適切なのかという議論は尽きないが、考えてみれば、当初の「特定の世帯に30万円案」とはいったいなんだったのか。

30万円案は、「世帯主の月間収入(本年2月~6月の任意の月)が新型コロナウイルス感染症発生前に比べて減少し、かつ年間ベースに引き直すと住民税非課税水準となる低所得世帯を対象とする」など、一度読んでも自分が対象なのかさっぱりわからない複雑怪奇な制度だった。政府に批判が集中したが、誰がこんな制度を考えたのか。

はっきり言おう。これは財務省の役人が仕組んだ安倍政権の「倒閣運動」だったのだ。もともと安倍首相は、一律10万円案を支持していたようだ。

しかし、経産省出身の今井尚哉補佐官ら官邸官僚が30万円案を吹き込んだとされている。経済的に困窮している人への支援が大義名分のため、所得制限をかけようとした。



所得制限つき30万円案は、対象を絞るので、予算額は4兆円程度になる。一方、一律10万円案では13兆円程度まで予算が拡大する。官邸官僚は財務省に忖度し、所得制限つき30万円案に傾くのは容易に想像ができる。予算をつけて欲しい官邸官僚は、財務省にからっきし弱い。

官邸を支配しているのは経産省出身者だと言われているが、内実は「経産省に予算をつけるから」と財務省に言われ、その対価として、所得制限つき30万円案を持ち上げたというのが真相だろう。実際、今回の予算配分は、経産省に大盤振る舞いのように見えなくもない。

土壇場でのちゃぶ台返し

財務省は、その一方で、自民党の岸田文雄政調会長も巻き込んだ。岸田氏の姻戚関係は財務省官僚が多く、もともと財務省の言いなりの人だ。

安倍首相は、財務省が官邸官僚、自民党岸田政調会長、麻生財務相も巻き込んで起こした「倒閣運動」に気がついたのだろう。連立パートナーの公明党が一律10万円案を言っていたのを利用して、所得制限つき30万円案を一度は閣議決定しておきながら、土壇場でちゃぶ台返ししたのだ。

30万円案が実施されていたら、今ごろ大変なことになっていた。そもそも事前に所得制限をするのは難しい。所得が行政当局にわかるのは1年先だ。自己申告による減収を当局が客観的に判断するのは難しい。

先に述べたとおり、実施要綱は一度読んでも理解不能なものだった。世帯主ベースの給付でいいのか、任意の月とは2月~6月の5つのうち、好きなものを選ぶという意味でいいのか、年間ベースに引き直すとはどのような作業なのか、など疑問は尽きない。こうなると「不正申請」も多くなるだろうが、誰にもチェックできなかったはずだ。

30万円案を実行していたら、給付が遅れて国民の不満は爆発、政府はその処理でパニックになるのが見えていた。

新聞では、異例とか、安倍首相の面子丸つぶれとか書かれているが、結果として欠陥のある制度をやらなかったのはよかった。簡素でスピーディな「一律10万円」のほうが、非常事態においてはまともだ。

『週刊現代』2020年5月16日号より


【私の論評】今後自民党の中の人が、政府の財務方針を作成できる範圍をどんどん広げるべき(゚д゚)!

貧困世帯を対象に絞った30万円の給付から、一律10万円給付に決まった経緯についてはこのブログでも以前掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
政策スピード不足 官僚の壁 一律給付に財務省反対―【私の論評】中国ウイルスで死者が出る今、政治がまともに機能していれば、起こらないはずの悲劇が起こることだけは真っ平御免(゚д゚)!
麻生財務大臣
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。
自民党内で一律給付と消費税減税を求めた100人以上の議員が党内で議論を開いた時に政調会長らは「一律給付の場合は3ヶ月以上かかってかえって時間がかかるから所得制限」という話で押し切っています。 
この件は小野田紀美議員がぶち切れしてツイッターで愚痴っていたのでご存じの方もいらっしゃると思います。 
要するに麻生も岸田も一律給付反対、緊縮財政派なので一律給付に対して財務省サイドは「できない理由」を作ってそれしか方法がないかのように説明をしてきたわけです。 
なので麻生大臣に至っては「一律にしたら金がくばられるのは8月以降になる」とまで言っていました。麻生は良くも悪くも自分の部下の説明は疑わないようにしているので財務官僚にまんまと嘘をすり込まれていたのかもしれません。 
財務官僚はその説明で総理まで騙していた形になります。 
30万円の給付条件は最終的には、次の通りになっていました。
このように、この記事でも、30万円給付は財務省の差し金であることをはっきりと主張しました。というより、様々な動きを総合的に判断すれば、財務省抜きには考えられないのです。

上の記事では、30万円給付案、実は「安倍政権倒閣」を狙った官僚の罠だったとしています。結局財務省が倒閣を狙い、仕掛けてきたものを、安倍総理がちゃぶ台返しをして、10万円給付案をすすめたということです。

これは、首相としては当然といえば、当然です。コロナ禍で大変なことになっているのに、複雑怪奇な30万円給付金など実行することにしては、国民は黙っていないことを誰よりも理解しているのは安倍総理自身だったと思います。

そもそも、有権者がそのようなことは許さないことは、あまりにはっきりしすぎています。なせそうなるかは、明らかですが、30万円給付金の最終的な給付の条件などをふりかえっておきます。

まずは、給付の条件は、世帯主の収入が、新型コロナ感染拡大の影響で、2月~6月の任意の月において

(1)減少し、住民税非課税水準になる場合

(2)半分以上減少し、住民税非課税水準の2倍以下となる場合

 です。

 住民税非課税の基準は住んでいる自治体や世帯人数によって異なる。そのため、総務省は10日、給付条件を全国一律にするため、単身世帯の場合は減収後の月収が10万円以下であれば非課税世帯とみなすとした。扶養家族が1人増えるごとに月収の基準額が5万円ずつ上がります。


この給付条件に該当する世帯は、全国で20%程度と言われ、非常に対象が狭いものでした。その上、住民税非課税水準を確認し、自分の収入と比較するなど、特に経済的に余裕のない人たちにとっては煩雑な作業が求められてしまうものでした。

さらに、次の2点についても問題を指摘できます。

(1)「世帯主の収入」が対象であること

夫婦共働きが当たり前になっている今日では、世帯主の収入だけでは生活できないです。夫婦共働きであれば、夫婦2人の収入を合わせて生活を営んでいるだろう。

そうすると、世帯主の収入が減っていなくても、もう一人の稼ぎ手の収入が大幅に減少した場合、生活に困窮することがありえます。「世帯主」を対象としているのは、「男性が稼ぎ主」と想定しているからでしょう。これでは現実の生計の構造に適していません。

(2)世帯が給付対象であること

また、世帯が給付対象であることに注意が必要です。単純に計算すると、単身世帯であれば1人で30万円を受け取ることができますが、4人世帯であれば1人当たり7.5万円にしかならです。これだけでも不公平感が出てくるでしょう。

それだけでなく、世帯単位で支給すると、世帯構成員全員にきちんと行き渡らない可能性があります。なぜなら、世帯構成員それぞれが対等ではないからです。

特に、コロナの影響で在宅勤務や自宅待機が広がる中、DVや虐待が深刻化している状況においては、DVや虐待の被害者にお金が行き渡るはずもないでしょう。

これに対して、コロナ対策で同じく現金給付を行なっている米国では、年収7万5千ドル(約825万円)以下の大人1人につき現金1200ドル(約13万円)、子ども1人につき500ドル(約5万5千円)と、個人単位で支給します。こうすれば、上述の問題は起こりにくいです。

こうした給付の方法にも、「現実の家族の状況」に対する理解の不足がみられました。

さらに、今回の現金給付においては、感染リスクを高めるという問題も指摘できます。上述の通り、給付条件がわかりにくく、自分が対象なのかわからないということもあり、窓口に人が殺到することが予想されます。

収入要件がある分、証明する書類などを窓口に持参する必要もあります。そうすれば、人が密集することで感染リスクが高まってしまうでしょう。

感染リスクを抑えるため、会社を休業し自宅待機してもらう上で必要な補償であるはずが、むしろ逆効果となってしまいます。これでは本末転倒です。

この世帯を絞った給付金制度を実行しようとしたら、対象要件を満たしているかどうかを確認するだけでも大変です。そもそも、上の記事にもあるように、所得が行政当局にわかるのは1年先です。このような給付金制度は、最初から不可能だったと言わざるを得ません。

自己申告による減収を当局が客観的に判断するのは難しいです。給付までには、かなり時間がかかったでしょうし、それに上でも示したような不公平感から、国民の不満は一挙高まったことは必定です。

そうして、国民から安倍内閣に対する不信の声が上がり、それこそ、野党はもとより、与党内からも倒閣運動につながり、安倍内閣は実際に崩潰したことでしょう。

安倍総理はギリギリのところで踏みとどまったのです。そうして、昨日もこのブログで示したように、今回の2次補正予算は、これを機として、官邸官僚や財務省の手を離れて、自民党の中の人が主導権をとったのです。

財務省岡本次官

今回、財務省は第2次補正予算の主導権を奪われたということは、当然といえば、当然です。日本に限らず民主国家においては、選挙で選ばれた与党政治家が実質的に政府の財政方針を決め、財務官僚などは本来専門的家的な立場から、それを実行する手段を選ぶことができるだけです。ただし、専門家的な立場から、財政方針を提案することはできますが、決めるのは、あくまでも政府です。

財務の方針を財務省が定めるべきではないのです。財務省がすべきは、政府の定めた財務の目標をなるべく迅速に実行することです。しかし、過去においては、実際には、財務省が決めてきたようなものです。

今回、財務省でもなく、官邸官僚でもなく、自民党の中の人が、10万円給付の方針定め、2次補正の主導権も握ったようです。

であれば、今後も政府の財務方針を作成できる範圍の幅をどんどん広げるようにすべきです。

補正予算なとは、比較的簡単ですが、本予算まで踏み込むのはなかなか難しいです。そうなれば、欧米のように日本でも、政策提言のできる本格的なシンクタンクを複数設立して、政策提言をさせ、その政策提言を比較検討して、政府が国の方針を定めるようにすべきです。

ただし、政治家、その中でも特に政権与党の政治家は、きちんと勉強して、政策提言を選択できる、センスや知恵を身につけるべきです。このような素養を身に着けられない政治家を有権者は選挙で落とせば良いのです。

そうなれば、財務省の弊害など徐々に薄れていくはずです。薄れなければ、昨日も示したような強硬手段をとるべきです。

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2020年5月16日土曜日

【日本の解き方】コロナ諮問委員会に緊縮経済学者…政権内の力学が変わったのか? 再自粛時の休業補償に反対も―【私の論評】自民党の中の人たちは、小人閑居して不善をなす財務省に徹底的に負荷をかけよ(゚д゚)!

【日本の解き方】コロナ諮問委員会に緊縮経済学者…政権内の力学が変わったのか? 再自粛時の休業補償に反対も

コロナ対策諮問委員会

政府は新型コロナウイルス対策を具申する諮問委員会に経済学者4人を加えると発表した。 委員会は発足当初は医療関係者だけで構成されていたが、自粛の経済への悪影響が懸念されるので、経済学者を入れたというのが、公式の説明だろう。

 自粛による経済への悪影響を分析するなら、経済学者よりシンクタンクのエコノミストのほうが適任だ。新たに加入する経済学者は、そうした試算を行うというより「ストーリーテラー」のようだ。そもそも試算なら、官庁エコノミストでもできるのに、何のために経済学者を加えたのだろうか。

 いずれにせよ、自粛の経済への悪影響を試算した後の政策対応が重要な課題だ。そこには2つの対応パターンがある。

 1つは、自粛は経済に悪影響があるので、自粛を解除し経済活動を再開するというものだ。その場合、再び感染者が増えて公衆衛生上はまずいので、感染症対策を優先するか経済を優先するかという二者択一になる。

 ここでの政府は、公衆衛生政策は行うが景気悪化に対応する政策は行わないという前提だ。景気悪化に対応する政策を行わないのは、財政負担を避けるためには当然という立場だ。これを「財政緊縮派」と呼ぼう。

 もう1つは、休業補償などで政府が所得補填(ほてん)をして悪影響を最小限にとどめることで自粛を継続するというものだ。

 この場合、政府は公衆衛生政策のみならず、経済への悪影響のコストも負担する。そこでは当然、財政負担が生じるが、感染症は戦時状態と同じなのでやむを得ないと考える。

 もっとも、経済の悪化は需要の蒸発による需要ショックなので、デフレ圧力がある。そうしたなかでカネを刷る政策は実質的に財政負担は生じないともいえる。これを「財政積極派」と呼ぶ。

 今回、諮問委員会に加わった経済学者は、ほぼ緊縮派であるので、前記の2つのパターンのうち、財政緊縮派のパターンが提言されると予想できる。

 この時期にこうした人選が行われることについて、筆者は政権内の政策決定力学の変更が背景にあると感じている。

 今国会での2次補正予算編成は必至である。経済苦境はリーマン・ショックを上回り、戦前の大恐慌並みなので、1次補正の真水約25兆円では足りないのは明らかだ。

 ということで、自民党を中心として補正予算の議論がなされている。一方、官邸側は、当初は官邸官僚が主導権を握っていたが、「30万円給付」でミソをつけ、党主導になった。そこで、諮問委員会に、緊縮派の経済学者を送り込んだと筆者は見ている。

 今本当に求められているのは財政積極派の経済学者であるが、その期待に沿うことはなく、官僚側の緊縮財政を代弁するだけに終わりそうだ。

 自粛解除後に流行第2波が来て「再自粛」となった際には休業補償が必要となるが、今回の学者たちは、それに反対するのではないか。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】自民党の中の人たちは、小人閑居して不善をなす財務省に徹底的に負荷をかけよ(゚д゚)!

自民・公明の与党両党が12日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた追加対策を盛り込む第2次補正予算案について、野党側とも協議を進め、今国会での成立を図る方針を確認しました。会期末は6月17日です。

緊急経済対策の第2弾については、いろいろな観測報道が飛び交っていて、総理が数兆円規模での編成を指示したとか、国会は6月17日で閉じて延長はしないと委員長が言ったというような報道などがあります。

ただ、総理が数兆円規模と言ったという報道は、誰かがその思惑からリークしたものをそのまま報じたというというか、元々世論等を操ろうとする観測気球とはそのようなものです。

その思惑とは、誰が補正予算を仕切るかということです。普通であれば、予算なので財務省が仕切るのが通例なのですが、現在は自民党のなかの人の方が世間の状況をより反映できます。

自民党の中の人?

自民党の人は政治家として、現在の状況を肌感覚として、中小の経営者をはじめとする国民の声や、支持者らの大変だという世間の実態を把握しています。そういう人から見て、従来の財務省のパターンでは予算が、足りないのです。

一方で財務省の人は、今回の話だと補正予算にはあまり関わらないので、観測気球をあげ、それをマスコミがそのまま流したというのが真相なのでしょう。

いままでであれば、どちらかというと官邸の方が政策の主導権を握って、党は追認ではないかと一部で批判されているところもありました。しかし、今回のコロナウイルス対策では、そこがひっくり返っているところがあるようです。

官邸主導でコロナ対策をで考えていた時、30万円の給付金話がありました。30万円のときは所得制限をするので、予算規模は4兆円くらいにしかなりません。それがあまりに少ないということで、ひっくり返されてしまいました。

このブログにも以前掲載したように、あれをひっくり返したのは公明党となっていますが、安倍総理個人が「これではまずい」と思ってやったと私は見ています。逆に言うと、官邸でうまく仕切れていないのです。いまは自民党と公明党が中心となって補正予算を考えている状況のようです。

もともと30万円を発案したのは岸田政調会長で、安倍総理が岸田氏に一任すしたところ、全然まとめられないので、下駄を二階さんに預けたと言われています。

実際、あのまま貧困層に絞った30万円の給付金ということになれば、真水も少ない状況で、安倍政権はかなりの批判を浴びることになったでしょう。あそこでひっくり返すことによって、真水をかろうじて増やしました。今回の2次補正は1次補正と同じくらいやらないと経済が持ちません。

1次補正は10万円一律給付を含めたところで、国債の発行額が23兆円くらいになり、だいたいGDPの5%くらいの規模になりました。今回のコロナ禍による経済への打撃は、大恐慌並みなので、本来はGDPの10%以上真水を出さないと話になりません。

まともな経済政策ができないと、1年後くらいに失業者は300万人以上増えるレベルです。失業者が300万人以上増えると、自殺者は1万人ぐらいに増えるので、コロナウイルスの死よりもはるかに多い死者が出ることになります。

昨年は自殺者数は2万人を切ったが、今年はコロナ禍で増える懸念が・・・・

このようなことをどのように防ぐかが、マクロ経済政策のいちばんの基本です。そのようなときは従来型のケインズ型と言われる、真水を投入して有効需要を増やす方法しかありません。それをやるかどうかにポイントが絞られています。大恐慌並みに落ちるとなると、数兆円の補正では間に合うはずはありません。

コロナ感染の防止と経済との兼ね合いを考えると、緊急事態宣言の延ばす期間、自粛を呼びかける際の対象をどうするかという事が重要になってきます。

そこでコロナの諮問委員会のなかに、経済の専門家とされる人が入ることになりました。そのメンバーが12日に報道されました。大阪大学大学院の大竹文雄教授、慶応大学の井深洋子教授、東京財団政策研究所研究主幹の小林慶一郎氏、慶応大学の竹森俊平教授の4人です。

ところが、この4人の経済の専門家は、マクロ経済立場からすると緊縮派ばかりです。補正予算の拡大を抑制しようという側に立つ人が選んだ人事といえます。

この人事の思惑は、予算が膨らむのを防ぎたいということでしょう。しかし、はっきり言うと、諮問委員会も最近休業続きですし、あまり関係ないともいえるでしょう。

もう補正予算は出てしまうでしょう。補正予算が出てしまった場合、経済のことを諮問委員会で議論してもほとんど意味がありません。

今回の第2次補正予算案は、緊縮という省是に拘る財務省などは、抜きにして自民党内ですすめて、財源が足りなければ、マイナス金利の国債を発行させるように財務省にせまり、さらに消費増税もせまり、なんでコロナ禍の時にそんなことまでやるの、というようなことまで実行して、様々な難題を財務省に押し付け、事務・法律事務手続きなどに忙殺させ、財務省の余力を奪う戦術に出るべきと思います。

財務省の岡本薫明事務次官

そもそも、財務省は本質から外れた省益など拘泥するために、忙しがっているだけであり、国民生活の安寧などは無視し、まさにに小人閑居して不善をなすの格言を地で行っているような組織ですから、余計なことを考えられないくらいに徹底的に負荷をかけるくらいが相応しいのです。

そうすれば、自民党の中の人は、今回のコロナ禍による苦しんでいる国民のために、大鉈を振るえるようになります。はっきりいいます。国民の側からすれば、緊縮頭の財務省など、コロナ対策にはいらないのです。

そうして、あわよくば、財務省が負荷に耐えきれなくなって弱音をはけば、財務省を解体して、各省庁の下部組織として編入して、財務省が省益と盲目的に信じている緊縮というDNAを粉砕すれば良いのです。

このようなことが実行できれば、政治主導も夢ではないです。そのときには、日本も本格的に政策提言ができる、シンクタンクを複数設置すると良いと思います。

そうなれば、日本でも官僚が政治に介入するという思い上がりを断ち切り、まともになれるかもしれません。元々官僚とは、マックス・ウェーバーも言うように、決まったことを迅速に実行できるようにするのが本質であり、政治に関与するものではないのです。今回のコロナ禍をきっかけに、官僚は官僚の本分に戻るようにすべきです。

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2020年5月15日金曜日

トランプ大統領、中国との“断交示唆”か!? 軍事的緊張も高まるなか習主席との対話を拒否… 識者「中国を外して大経済圏を作るのでは」 ―【私の論評】トランプ大統領の行動は、民意を反映したもの(゚д゚)!


中国発のコロナ禍に業を煮やしたトランプ米大統領は、習主席に鉄槌を下すのか

 中国発の新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)をめぐり、ドナルド・トランプ米大統領の怒りが、日に日に高まっている。中国の初動対応に不満を示し、習近平国家主席との対話を拒否したのだ。「中国との断交示唆」と報じたメディアもある。「死のウイルス」による世界全体での死者は30万人を超え、米国では最悪の約8万5000人もの犠牲者が出た(=米ジョンズ・ホプキンズ大学、14日集計)。米中の軍事的緊張も高まっているなか、トランプ氏は「対中貿易停止」といった過激策までチラつかせた。


 「今は(習氏と)話したいとは思わない」「中国には非常に失望している。そう断言できる」

 トランプ氏は14日放送の米FOXビジネステレビのインタビューで、こう言い切った。中国の初期対応の遅れが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大につながったとする「対中批判」を一段と強めた。

 これまでも、トランプ氏は「中国に不満だ」「発生源で止めることができた」「これは世界が受けた損害だ」「(損害金請求も)検討している」などと記者会見で語ってきたが、この日はさらに踏み込んだ。

 「感染拡大の報復」として、トランプ氏は「多くの措置を講じることができる」と胸を張ったうえで、「中国との関係を完全に途絶えさせることもできる」と強調した。関係を遮断すれば「5000億ドル(約53兆6000億円)を節約できる」とまで指摘したのだ。

 米中両国は今年1月、「第1段階」の貿易協定に署名した。中国が数値目標をもとに米国から農産物などの輸入を大幅に拡大。米国は通商対立が激化した昨年夏以降、初めて対中制裁関税を一部軽減するものだ。


 だが、中国発の新型コロナウイルスで、米中関係は一変した。

 米政権は現在、「対中制裁関税の強化」などを検討しているとみられるが、トランプ氏は「貿易停止」までチラつかせた。

 これを受け、海外メディアは「トランプ氏、中国のコロナ対応に『心底失望』 断交の可能性も示唆」(ロイター)、「トランプ氏、中国との断交示唆」(AFP)などと報じた。

 11月の大統領選を控え、トランプ氏としては、中国の責任を追及し続けることで、「対応の遅れ」や「景気失速」への批判をかわそうとする思惑もありそうだ。

 ただ、米国民の「対中意識」も悪化している。

 米大手世論調査機関「ハリス・ポール」が4月に行った世論調査で、「新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)について、中国政府に責任があると思いますか」と聞いたところ、「ある」は77%で、「ない」(23%)を大きく上回った。

 中国の軍事的挑発も、トランプ政権をイラつかせているようだ。

 中国海軍の空母「遼寧」を中心とする艦隊は4月11日と28日に初めて、沖縄本島と宮古島間を通過した。中国軍のミサイル駆逐艦や早期警戒機なども3月以降、沖縄や台湾周辺で挑発的行動を見せている。

遼寧

 さらに、中国軍が8月、同国南部・海南島沖の南シナ海で、台湾が実効支配する東沙諸島の奪取を想定した大規模な上陸演習を計画していると、共同通信がスクープした。台湾の蔡英文総統の2期目の就任式を来週20日に控え、中国がさらに挑発行動に出る危険性もある。

 米第7艦隊は13日、米海軍のミサイル駆逐艦「マッキャンベル」が同日、台湾と中国を隔てる台湾海峡を通過したと発表した。米海軍の駆逐艦は先月も2回にわたり台湾海峡を通過している。

 米海軍主催で2年に1回、米ハワイで行われる世界最大規模の多国間海上演習「リムパック(環太平洋合同演習)」は、新型コロナ禍で中止も検討されたが、日本政府の強い働きかけで、8月に実施される。

 貿易停止までチラつかせた、トランプ氏の怒りをどう見るか。

 国際政治学者の藤井厳喜氏は「中国が昨年12月時点で、医師から新型コロナウイルスの報告を受けながら、初動対応を誤り、情報を隠蔽し、国外への移動を制限しなかったことは事実だ。今年1月までに中国から40万人以上が米国に移動したという。明らかにウイルスを移された形で、怒らないほうがおかしい」と語った。

 緊張する米中関係は今後、どうなりそうか。

 藤井氏は「中国では『台湾への武力侵攻』を唱える声もあり、米国も抑止行動を求められるなど軍事的な緊張もある。米中は今年1月、第1段階の貿易協定に署名したが、中国はこれを守らないかもしれない。そうなると、米国も貿易上の相互依存を解き、中国をサプライチェーンから外して、先進国を集めた大きな経済グループをつくるのではないか。一方の中国は、一帯一路構想を中心とした比較的小さな経済グループづくりを迫られる」と分析した。

 新型コロナで、世界の枠組みが、大きく変わることになるのか。

【私の論評】トランプ大統領の行動は、民意を反映したもの(゚д゚)!

中国共産党は、世界に謝罪しない限り、米国等の怒りを買い、石器時代に戻ることになるかもしれないと、このブログに掲載したことがあります。

これについては、「そんなことはあり得ない」などと考えた人もいるかもしれませんが、以上の記事をご覧いただければ、あながち誇張ともいえないことがおわかりいただけたと思います。

ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、米国内の死者は11日に8万人を超えました。10年以上にわたった戦闘で、約6万人の米兵が亡くなったベトナム戦争の死者を大きく超え、世界的にも突出しています。もうすでに米中は順戦争状態に入ったと認識しても良いと思います。

米国民の中国に対する反発はかなり強まっています。ある米調査会社の調査結果では、新型コロナの感染拡大に対し中国に責任があると考える米国人が約8割に達したというものもあります。新型コロナの流行拡大には中国の隠蔽体質があるとする見方は米国では強いのです。

現状の米国は新型コロナの感染拡大に歯止めをかけるのに注力している段階ですが、仮に収束に向かえば中国に対して強硬姿勢を求める世論は一段と高まるでしょう。

コロナ禍以前から、米中両国は新時代の覇権を争う「新冷戦」の最中にありました。制裁関税をかけるなどトランプ政権の対中強硬姿勢については国内でも批判がありましたが、新型コロナ感染拡大に伴う反中世論の高まりは、こうした政策を正当化することになります。

中国に対して何らかの「償い」をさせようとする世論の高まりに応じて、収束が見えてくるであろう6月ごろからトランプ大統領も本格的な反中キャンペーンを張るようになるでしょう。現状のトランプ氏の上記の記事でみられる、言動などは、まさにそれを予感させるものです。

それは「新型コロナを『武漢ウイルス』と呼ぶな」と発言し、「中国寄り」というイメージを国民に与えた民主党の大統領候補バイデン氏にとっては打撃となることは目に見えています。

バイデン氏

YouGovの最新世論調査によると、米国人の3分の2以上が、中国政府に少なくとも部分的にパンデミックの責任があるとしています。

世論調査は、共産主義の犠牲者記念財団(The Victims of Communism Memorial Foundation:VOC)が委託したもので、米国人の69パーセントが、中国政府はコロナウイルス拡大に「ある程度」または「とても」責任があるという意見に賛成だということがわかりました。さらに回答者の51パーセントが、中国はウイルスの影響を受けた国に賠償すべきだと回答しており、そのような賠償に反対したのはわずか17パーセントでした。

また米国人は、コロナウイルスのパンデミックを踏まえると、中国に関して歴史的に否定的な意見も示しており、67パーセントは中国を競争相手か敵のどちらかとみなしています。

VOCのマリオン・スミス事務局長は、米国人が、冷戦時代にソビエト連邦に対して抱いていたのと全く同様に中国に対して好ましくない印象を持っていることを示す数字だと述べました。

「米国人は(中国に関する)この新しい現実に気づきつつある。我々は冷戦から教訓を得たはずだ。特に共産党の性質について」とスミス氏はワシントン・フリービーコン紙とのインタビューで語りました。

調査結果は、中国がパンデミックに対する対応に責任を取るべきだという意見に、米国人がますます賛成していることを示しています。ギャラップでは、1978年から中国に関する米国の態度を評価していますが、現在米国人は中国にこれまでで最も否定的な見方をしていることがわかりました。3月にピュー研究所が実施した別の世論調査でも、民主党・共和党両方の大多数で現在、中国に対する評価が最低となっていることがわかっています。

反中国政府で意見が一致する新たな状況から、政策立案者はさらに勢いを増して権威主義国家に対する攻撃的な姿勢を取っています。連邦議員は中国政府に対抗するため、ここ数カ月のうちに一連の法案を発表しており、その中でもトム・コットン上院議員(共和党、アーカンソー州)は、太平洋での米国と同盟国の軍事能力を強化する430億ドルの計画を推進しています。

YouGovの最新世論調査世論調査は5月6日から7日の間に1,382人の成人米国人に対して実施されました。調査はインターネットで行われました。

また調査によると、10人のうち7人の米国人は中国が「罰を受ける」べきだという考えに同意しています。米国人は厳しい罰に賛成ではないですが、およそ10人に4人は「国際的な制裁」を支持しており、33パーセントは中国製品に対する追加関税を支持しています。

また調査では、コロナウイルスが中国政権の否定的評価に大きく貢献したことも判明しており、44パーセントの米国人が、中国政府に対する自分たちの意見はパンデミックの結果としてさらに否定的になったとしています。

スミス氏は、コロナウイルスは永久に効果を持つ―米国の中国に対する意見はパンデミック終了後も回復しないと述べました。

スミス氏は、「米国人は、世界で起きていることが全てわかっていない場合もある。だが、これほど明白なことが我々の生活に全面的な影響を与えたことが判明した時、米国人は実際決然とした態度を取り得る。ある種の(中国との)分断が起こることになり、それは多くの人が起こり得ると考えるよりもっと全面的なものとなるだろう」としています。

世論調査からすると、トランプ氏の行動は、選挙対策もあるでしょうが、そんなことより、民意を重視した行動ということができると思います。

民意を重視しない大統領候補者は、当選が難しくなるのは当然です。トランプ大統領も、バイデン氏もこの民意をくみとり、どのような政策を打ち出すかが、最大のポイントとなってきたのは間違いないようです。

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2020年5月14日木曜日

「コロナ増税」へ不穏な動き… 復興増税の“愚策”繰り返せば日本経済の致命傷に ―【私の論評】消費税減税とともに、復興所得税も廃止して日本の「シバキ倒し文化」を終わらせよ(゚д゚)!

「コロナ増税」へ不穏な動き… 復興増税の“愚策”繰り返せば日本経済の致命傷に 

高橋洋一 日本の解き方


2011年の東日本大震災の際に、復興増税が導入された。そして今回の新型コロナウイルス感染問題でも、財政規律を強調したり、緊急経済対策での国債増発に伴う将来の増税が必要との声があちこちで上がり始めているのが気がかりだ。

 復興増税は復興特別所得税、復興特別法人税、復興特別住民税と3種類ある。所得税は税率2・1%で13年1月から37年12月まで25年間課されている。法人税は税率10%で、12年4月から15年3月まで3年間の予定だったが、1年前倒しで14年3月に廃止された。住民税は府県民税・市町村民税合わせて1000円を14年4月から24年3月までの10年間課されている。

 所得税の税率2・1%は、仮に消費性向90%で消費税に換算すれば2・3%程度なので、消費に与える影響は大きい。具体的にいえば、実質所得が4・6兆円程度減少し、その結果、消費も4兆円程度減少する。

 本コラムで何度も指摘しているが、大災害時の増税はありえない。大災害が100年に一度なら、復興費用は「100年国債」で調達するのが原則である。大災害時の増税は経済学の課税平準化理論にも反するもので、古今東西行われたことがない愚策だ。

 「供給ショック」より、需要の喪失による「需要ショック」が大きい場合、デフレ圧力が高まるので、インフレ目標に達するまで、中央銀行による国債買い入れが可能になる。この状況では、長期国債発行による総需要創出と日銀の買い入れが最善手だ。この場合、政府の実質的な子会社である日銀が国債を保有するので、利払い費や償還負担は事実上発生しない。その結果、財政状況を悪化させることもないので、将来の増税を心配することはない。

 日本大震災の時には、こうしたセオリーが無視され、需要ショックであったにも関わらず、日銀による国債買い入れもなく、本来は不必要であったはずの復興増税が行われた。100年国債も発行されず、事実上25年償還となり、前述のように毎年の負担は大きい。

 財務省は、当時の民主党政権が政権運営に不慣れだったことに乗じて復興増税を盛り込んだ。これをホップとして、ステップで消費税を5%から8%に増税、ジャンプとして10%への税率引き上げを画策し、実際に安倍晋三政権で実行された。

 財務省としては、二匹目のドジョウを狙っているのだろう。コロナ対策で多額の財政支出を強いられるので、財政悪化を理由としてコロナ増税を主張する。その勢いで、消費税率も12%、さらには15%へと、再びホップ・ステップ・ジャンプをもくろんでいるのではないか。

 世界の先進国では、中央銀行による国債の無制限買い入れや、減税、給付金など積極財政政策で一致している。そして、大災害での増税は行われない。

 コロナ・ショックでは需要が蒸発しデフレ圧力が高まっている。そうした時に増税が行われたら、落ち込んだ経済への致命的なダブルパンチとなるだろう。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】消費税減税とともに、復興所得税も廃止して日本の「シバキ倒し文化」を終わらせよ(゚д゚)!

皆さんが今でも復興所得税は徴収されています。ただし、所得税と復興所得税は、まとめて所得税とされいるのでわかりにくいところがあります。

以下に、代表取締役Aの所得税を例示します。事例では、所得税だけ引かれていない事前確定届出給与を示しています。

(事前確定届出給与)
1,000,000円
(所得税及び復興特別所得税)
1,000,000円×20.42%=204,200円
(代表取締役Aの口座へ振り込む額)
1,000,000円-204,200円=795,800円

この事例でみるとおわかりになるように、日本の所得税はかなりのものです。

復興財源にはこのように、復興法人税以外にも「復興所得税」などが存在します。所得税については、サラリーマンであれば2013年1月1日から25年間、税額の2.1%分が源泉徴収により天引きされています。

消費税が上がってしまい、コロナ禍に見舞われている現在、消費税減税は叫ばれているものの、何故か家計の負担となる復興所得税に関しては、廃止の声が聞こえて来ません。ところが、復興特別法人税に関しては、1年前倒し廃止 平成25年12月12日に公表された平成26年度税制改正大綱にて、この復興特別法人税は1年前倒しで廃止されました。

法人税は廃止されたのに、所得税はなせ廃止されないのでしょうか。それは、経団連を消費増税の味方につけるために、法人税減税をちらつかせてきたからです。

海外では、法人税減税と消費増税は、関係ありません。各国で法人税減税が行われていますが、そのロジックは、個人の段階で税を捕捉することをきちっとやるため、法人税は二重課税になるため取らないというものです。そのために必要なのが歳入庁や、番号制です。消費税と法人税の引き下げをセットで考える国はありません。

なお、米倉弘昌氏が経団連の会長のとき「消費税を上げて法人税を下げるのは企業優遇との批判にも「企業業績が高まれば雇用も上がり賃金水準も上がってくる」と話していました。

私自身は、コロナ禍に対応するために、消費税を減税すべきという声は、聞こえてくるものの、復興所得税を廃止せよという声が聞こえてこないのは本当に奇異だと思います。

本来ならば、復興所得税は廃止した上で、消費税も0%にすべきです。これは、実務的には税率変更時の手続きと同様であり、すでに事業者、税理士、税務署職員共に全て経験済みで大きな負担は発生せず、かつ、その効果は全ての国民が享受することができるものです。

何より逆進性の強い消費税は、経済的に弱い立場にある人には大きなインパクトがあります。復興所得税廃止もさらにインパクトがあります。

現在のコロナウイルスでのさらなる景気の落ち込みを踏みとどめるためには、復興所得税は0に、消費税率もゼロにする以外に道はないです。財源は、国債で賄えば良いです。

国債が将来世代のつけになるというのは、このブログでも述べてきたように、ラーナーの法則でも明らかなように、ここ日本では全くのフェイクです。

アバ・ラーナー

やはり、昨日このブログにも掲載したように、日本は財務省を頂点に、政府も企業も「シバキ倒し文化」が根付いてしまい、国民はどこまでも「シバキ倒す」のが正しいと信じて疑わなくなってしまったのでしょうか。

高橋洋一氏は、上の記事で、「大災害時の増税は経済学の課税平準化理論にも反するもの」としていますが、それはどういうことかといえば、大災害時の復興などを増税で賄うなどということは、大災害を被った世代だけが、大災害時の復興などのへの負担を被るということであり、それはあまりに不公平だということです。

これを100年債などで賄えば、大災害字の復興などの負担を大災害を被った世代だけではなく、将来世代も応分に被るということで平等になるのです。これを、財務省等は将来世代へのつけなどとしていますが、そんなことはありません。なぜなら、復興などで新たに設置するインフラなどは、当然のことながら、現在世代だけではなく将来世代も恩恵にあずかることができるからです。

そうして、何よりも、大災害などで大損害を受けた世代が、さらにその損害を全部被るということになれば、それこそ、経済が破綻してしまいかねません。そうなれば、将来世代もその破綻の悪影響を被るわけで、とんでもないことになってしまいます。


復興税を廃止するのは、造作もないことです。消費税を0%にすることも実務的には税率変更時の手続きと同様であり、すでに事業者、税理士、税務署職員共に全て経験済みで大きな負担は発生せず、かつ、その効果は全ての国民が享受することができるものです。

政府特に財務省にとっては、大変かもしれませんが、そのようなことは財務省が努力すれば良いだけの話です。財務省などシバキまくって、法的事務的手続きを無理ややらせて、根をあげたら、そこで財務省を廃止して、複数に分割して他の省の下部組織に組み入れてしまえば良いです。


長年国民を「シバキ倒してきた」のですから、今度は自分たちが「シバキ倒される」のは当然のことです。政治家、国民などで寄ってたかって「シバいてシバいてシバキ倒す」べきです。そうしないと、本当は頭が悪いのにエリート意識だけ高い彼らは「シバキ倒し」の本当の苦しさを理解することはできないです。

なぜそんなに減税に拘るかといえば、何より逆進性の強い消費税は、経済的に弱い立場にある人には大きなインパクトがあるからです。

私は、現在のコロナウイルスでのさらなる景気の落ち込みを回避するためには、消費税率をゼロにするか、大幅減税する以外に道はないと考えています。財源は、このブログでも掲載してきたように、国債で十分まかなえるどころか、ゼロやマイナス金利の現状では、その分政府が儲けることができます。復興所得税を廃止しても、復興は国債で十分まかなえます。

というか、財務官僚がもっと頭が良ければ、国債のマイナス金利を利用して、金を儲けて、儲けたことをわからないようにして、特別会計に組み込むなどの芸当など簡単にできるはずですが、そんなこともできないほどに、省益というか、いずれ省益を損ねることになるのは明々白々な増税に凝り固まり、本当に頭が悪くなつてしまったようです。

現在、財務省は鉄壁のようにみえます。しかし、かつての中国がそうみえましたが、現在では長年の綻びが露呈しているように、財務省も鉄壁ではないはずです。まともな政治家や、国民が結集して、財務省の綻びをえぐり出し、徹底的に「シバキ倒して」できれば、崩潰させるべきです。そうでないと、日本の「シバキ倒し文化」はいつまでも続くことになります。

当面世界的には、中国との対峙、国内的には財務省との対峙が日本にとって最重要課題になると思います。

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