2022年12月20日火曜日

日米蘭3国で「対中包囲網」強化 WTO提訴も単なるパフォーマンスに 中国の野心に大打撃与える先端半導体装置の輸出規制―【私の論評】中国が「半導体技術の対禁輸」措置を日米蘭から喰らうのは致し方ないことであり、自業自得(゚д゚)!

 日本の解き方

日米蘭3国で「対中包囲網」強化 WTO提訴も単なるパフォーマンスに 中国の野心に大打撃与える先端半導体装置の輸出規制


半導体工場を視察する習近平

 米国による先端半導体製造装置の対中輸出規制に、日本とオランダも参加すると報じられている。

 背景にあるのが、米中における半導体紛争だ。米国には先端半導体の対中輸出規制がある。これについて中国は世界貿易機構(WTO)に提訴した。

 国際社会から見て中国に分がありそうだが、米国はそっけない。米国の輸出規制は安全保障に関連するもので、WTOは議論するのに適切な場ではないとしている。バイデン政権は対中輸出規制措置について、中国軍が先端半導体を入手できないようにすることが目的だと説明している。

 そもそも、WTOは現在、機能不全になっている。その象徴はWTOが担う最も重要な機能の一つである、裁判に似た「紛争解決制度」だ。その「最高裁」に相当する上級委員会の裁定に不満を募らせた米国が、裁判官に当たる委員の選任を拒否し、2019年末から機能していないのだ。

 これでは、中国のWTO提訴も単なるパフォーマンスといわれても仕方ないだろう。WTOは、中国からの提訴を処理する前に、自身の組織改革が求められているのだ。そうなると、米国の輸出規制は有効のまま推移する公算が大きい。

 ここにきて、日本とオランダは、先端半導体製造装置を対象とした米国の対中輸出規制への参加に基本合意したという。これで対中国包囲網がより強固になり、中国の野心に大きな打撃を与えるだろう。

 日本、米国とオランダの3カ国が協調すれば、先端半導体製造装置を中国が入手することはほぼ完全にできなくなる。先端半導体製造装置では、米系のアプライド・マテリアルズ(21年世界シェア22・5%)、ラムリサーチ(14・2%)とKLA(6・7%)、日系の東京エレクトロン(17・0%)とオランダ系のASMLホールディング(20・5%)の5社が、それぞれ持ち味は異なるものの、事実上ビッグ5で、世界シェアの80%を超える寡占業者だ。

 かつて、米系のアプライド・マテリアルズと日系の東京エレクトロンは持ち株会社をオランダに設立して経営統合する話もあったが、あまりに強大になりすぎることを米司法省が嫌ったためにご破算になったこともあった。

 いずれにしても、日本、米国とオランダの3カ国が協調すれば、中国が先端産業を独自に構築できる方法はほとんど見込めなくなる。

 もっとも、米国がやろうとしている輸出規制はあくまで先端技術に関するものだ。成熟技術は規制対象ではない。このため、ビッグ5でも成熟技術での半導体製造装置は中国への販売はできる。

 それにしても、中国があわててWTO提訴に駆け込んだのは、日米蘭から先端技術がもらえなくなると、中国が技術大国を装ってもすぐに化けの皮が剥がれるからだろう。これからの社会では、先端半導体製造装置が必要になるが、中国ではできないだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】中国が「半導体技術の対禁輸」措置を日米蘭から喰らうのは致し方ないことであり、自業自得(゚д゚)!

半導体製造装置市場では、技術進化によるシェア争いが厳しさを増しています。日本メーカーの装置販売額は市場の活況を受けて2024年まで拡大を続ける見通しですが、一方で世界シェアは低下傾向にあり、2020年に3割を下回ったとの調査もあります。世界シェアの巻き返しには、半導体の性能を高める「微細化」や「3次元実装」といった次世代技術の開発で海外競合との差別化を図る必要があります。


とはいいながら、上のグラフを御覧いただいても、ご理解いただけるように、世界の半導体製造装置のメーカー別シェアでは、日米蘭がほとんどを占めています。その他の部分にもしかすると、中国や韓国も含まれているのかもしれませんが、これにはいくつかの他の国々も含まれているのでしょう。いずれにせよ、中国や韓国などは、半導体製造装置においては、特筆することはないといえます。

そうしたなか、米国は「半導体技術の対中国禁輸」をはじめました。それについては、このブログにも掲載したとがあります。その記事の、リンクを以下に掲載します。
米が半導体で衝撃の〝対中禁輸〟バイデン大統領、技術仕様した第三国製も規制対象に 「中国の覇権拡大人権弾圧許さない意思表示」識者―【私の論評】最新型半導体を入手できない中国のスマホは、かつての日本のショルダーホンのようになるか(゚д゚)!

この記事の元記事より以下に一部を引用します。

ジョー・バイデン米政権が打ち出した、「半導体技術の対中国禁輸」が波紋を広げている。米国で製造された半導体や製造装置だけでなく、米国の技術で第三国で製造された半導体も規制の対象で、「中国の半導体製造業の壊滅」につながりかねない厳格さだという。民生用から軍事用まで幅広く使われている半導体は、今や国家の命運を左右する「戦略物資」となっている。米国は「安全保障」や「人権弾圧」を理由としているが、日本を含む同盟・友好国も対策が急務となりそうだ。 

とにかく、米国の最新の技術を含む、半導体や製造装置の輸出を禁じるというものであり、半導体関連で、米国の技術を含まないものなどないので、これはかなり厳しい措置です。

この措置に関して、多くの人はあまり理解していなかったかもしれませんが、【私の論評】のところで、その厳しさを以下のように説明しました。
多くの人は米商務省が10月 7日、半導体や製造装置の新たな対中輸出規制強化策を発表した際にに何が起きたか本当には、理解していかったかもかもしれません。
簡単にいえばバイデンは中国で働く全ての米国人(半導体産業)に即刻ビジネスを止めるか、米国籍を失うかという選択を迫ったのです。

すると中国にある全ての半導体製造企業の米国人幹部やエンジニアはほぼ全員辞職し、中国の半導体製造は一夜にして麻痺状態になったのです。

バイデンの今回の制裁は、トランプ4年間の12回の制裁を合わせたよりも致命的です。

トランプ時代の制裁では半導体供給にはライセンス申請が必要だったものの申請すれば1か月以内に通過していました。

一方バイデンは米国の全てのIPプロバイダー、部品サプライヤー、サービスプロバイダーをほぼ一晩で全て撤退させ、あらゆるサービスを断ち切りました。

大惨事とはまさにこのことです。中国の半導体産業の半分が価値ゼロになって完全に崩壊します。

実は、中国は近年最新の半導体製造装置を大量に買い込んでいました。ただし、中国の半導体製造はあまり伸びてはいませんでした。なぜかといえば、せっかく買い込んだ半導体製造装置が、これを運用できるノウハウを持つ人材が育っておらず、中国にとってはこうした人材を育てることが喫緊の課題でした。

ところが、バイデンの 「半導体技術の対中国禁輸」により、半導体製造装置を運用できるノウハウを持つ人材を育てる米国人は、中国を離れざるをえなくなったのです。

ただ、中国にとっては、こうした措置の抜け道はありました。たとえば、日蘭の半導体製造装置の中で米国性の半導体を用いていなくてかつ、米国の技術を用いていないものに関しては、米国の規制の対象とならない可能性がありました。

しかし、先端半導体製造装置の対中輸出規制に、日蘭も参加するというのですから、これは中国にとっては絶対絶命です。日蘭の技術者も、中国を離れることになります。

中国は自ら最先端の半導体を製造できなくても、それを外国から輸入すれば良かったのですが、それができなくなったのです。

台湾のtsmcの半導体工場

中国は5G技術で様々な特許をとっているということが言われてきましたが、それは海外製の最先端の半導体を前提としています。多くの特許を取得していたにしても、入手できることを前提とした半導体が手に入らなければ、それを実現することはできません。

ただ、通信でいえば、5G以上を実現するための半導体は手にできませんが、4Gなら入手できます。であれば、一般のスマホなどは、それを用いたものが使われていくことになるしょう。しかし、軍で用いる最新のものは、4G向けの半導体を用いざるを得ず、それこそ、一昔前のショルダーフォンのように大きくなる可能性はあります。

AIでも同じようなことが起こりえるでしょう。理論的には可能であっても、そのAIを製造するためには、古い技術では、原子力発電所をつくるように大掛かりで、時間も要するものになり、事実上不可能ということになるかもしれません。

データーセンターも、スーパーコンピュータも同じようなことになるかもしれません。新たなな技術であれば、大きな電力もスペースも必要ないのに、何倍もの電力、面積体積が必要となり事実上不可能となるかもしれません。

現在稼働しているコンピュータ、スマホなどの理論的な背景はすべて英国のエリザベス朝時代にすべて存在したといわれています。

にもかかわらず、なぜ今日のコンピュータやスマホのようなものが製造できなかったといえば、それを実現するための、素材や技術、今日にみられるような安定した電源が存在しなかったからです。

これからの中国はこれに近い状態になります。仮に新たな技術開発の理論ができたにしても、それを実現するための半導体がなければ、それを実現することはできないのです。

「半導体は産業のコメ」といわれます。しかし今やコメよりも重要度は高いです。中国が、半導体で外国から「兵糧攻め」に遭えば死活問題です。これから、中国の産業の冬の時代が続きそうです。

このようなことは、中国に対してかなりきついのではないかと思う人もいるかもしれません。しかし、過去を振り返れば、先進国の「経済的に豊かになれば共産主義中国も『普通の国』として仲間入りができる」という誤った妄想が、中国の肥大化を招き傲慢な「人類の敵」にしてしまったという現実があります。

その代表例が、2001年の中国のWTO加盟です。1978年の改革・解放以来、鄧小平の活躍によって、1997年の香港再譲渡・返還にこぎつけた共産主義中国が、「繁栄への切符」を手に入れたのです。 

この時にも、共産主義中国は「WTOの公正なルール」に合致するような状態ではありませんでした。 ところがが、米国を始めとする先進国は「今は基準を満たしていないが、貿易によって豊かになれば『公正なルール』を守るようになるだろう」と考え、共産主義中国も「将来はルールを守る」という「約束」をしたことで加盟が認められたのです。 

ところが、加盟後20年以上経っても、共産主義中国は自国の(国営)企業を優遇し、外資系いじめを連発するだけではなく、貿易の基本的ルールさえまともに守る気があるのかどうか不明です。しかも、先進国の技術を平気で剽窃してきました。

中国がWTO提訴に駆け込むなど、片腹痛いとはこのことです。

これを考えれば、現在中国が「半導体技術の対中国禁輸」措置を日米蘭から喰らうのは、致し方ないことであり、自業自得ということができます。

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2022年12月19日月曜日

財務省が完勝した防衛増税、こうすれば「大逆転」でひっくり返る―【私の論評】英国の大政変のように、日本でも安倍派が地獄の釜を岸田政権に向けて開けるときがくるか(゚д゚)!

財務省が完勝した防衛増税、こうすれば「大逆転」でひっくり返る

安倍晋三元首相の葬儀に参列した儀仗隊

自民党政調を飛び越えて

 毎日のようにめまぐるしく状況が変化しているので、今回は防衛増税の経緯をまとめておこう。

 政府内では、9月30日、国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議が設置され、11月22日に報告書が出された。

 同報告書では《防衛力の抜本的強化のための財源は、今を生きる世代全体で分かち合っていくべきである。》とされ、《国債発行が前提となることがあってはならない。》とされている。

 先週の本コラムでは、防衛費増額の財源として、12月8日、岸田首相は与党に対し所得税を除く形で税制措置を検討するよう指示し、10日の記者会見で「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ない」と述べたことまで書いた。

 8日の岸田首相の指示は、正確には以下のものだった。

 《来年度からの国民の負担増は行わず、令和9年度に向けて複数年かけて段階的な実施を検討。》

 《税制部分については与党税制調査会において税目、方式など、施行時期を含めて検討するようお願いする。》

 しかしこの手順はおかしい。自民党政調を飛び越えて、税調に検討させているからだ。それに危機感をもった萩生田政調会長が政調全体会議を開催した。そこではかなりの反対意見がでている。こうした議論は政府に伝えられ、それを踏まえて税調での議論となったはずだ。

まだ書かれていない「増税措置」

 13日からは税制小委員会が開催された。ここで防衛力強化基金の創設が政府から説明された。これについては、先週の本コラムで《こうした資金は、防衛費を区分経理するための常套手段であり、財源確保のために増税の一歩手前だ。》と書いた。

 この税制小委員会での政府資料では、《歳出改革、決算剰余金の活用、税外収入を活用した防衛力強化資金(仮称)の創設に必要な法制上の措置については、次期通常国会に提出予定の財源確保に係る法案に規定。》と書かれている。14日の政府資料でも同じ表現だ。

 16日には、自民・公明両党が2023年度税制改正大綱をまとめた。

 その中で、

 《6.防衛力強化に係る財源確保のための税制措置

 わが国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保する。税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保する。具体的には、法人税、所得税及びたばこ税について、以下の措置を講ずる。

 (1) 法人税
法人税額に対し、税率4~4.5%の新たな付加税を課す。中小法人に配慮する観点から、課税標準となる法人税額から500万円を控除することとする。

 (2) 所得税
所得税額に対し、当分の間、税率1%の新たな付加税を課す。現下の家計を取り巻く状況に配慮し、復興特別所得税の税率を1%引き下げるとともに、課税期間を延長する。延長期間は、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする。

 廃炉、特定復興再生拠点区域の整備、特定復興再生拠点区域外への帰還・居住に向けた具体的な取組みや福島国際研究教育機構の構築など息の長い取組みをしっかりと支援できるよう、東日本大震災からの復旧・復興に要する財源については、引き続き、責任を持って確実に確保することとする。

 (3) たばこ税
3円/1本相当の引上げを、国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保した上で、段階的に実施する。

以上の措置の施行時期は、令和6年以降の適切な時期とする。》

 とされている。

 さすがに、2023年度税制改正の具体的な内容に、これらの増税措置は書かれていない。また、小委員会で政府から説明された財源確保にかかわる法案についても書かれていない。

一縷の望み

 さて、防衛増税は決まったかといえば、筆者の感覚では「ほぼ決まり」だ。筆者は、17日大阪朝日放送「正義のミカタ」にリモート出演したが、次のようなフリップを出した。

 これまでは財務省の完勝であり、このままで増税が決まりだ。下段に書いた「大逆転? !」は、はっきりいえば単なる願望にすぎない。

 一縷の望みは、財源確保にかかわる法案の扱いだ。その法案について、政府(岸田政権)は次期通常国会に提出予定としている。実施時期は確定しないが、この法案に増税措置が盛り込まれるはずで、次期通常国会の提出が決まれば、防衛増税は確定する。

 問題は、同法案がどのような政治プロセスで扱われるのか、だ。

 つまり、年末の予算などともに閣議決定されるが、その前に与党プロセスがどうなるか。政調・総務会の了承を得るのが通例であるが、今回のやり方は通常でないほど強引だった。

 政調でどこまで審議できるか。かつての自民党であれば、全議員参加の「平場」でしっかり議論されるはずだが、どうなるだろうか。

 防衛費増について、岸田政権でも一部認めた建設国債対象経費をさらに拡大できるかどうか、先週の本コラムでも指摘した一般会計に計上されている債務償還費(2022年度15.6兆円)を含め特別会計の埋蔵金をさらに出せるか──それで増税は必要なくなるはずだが──そうした議論が自民党内でまともにできるかどうか、岸田政権が問われている。

髙橋 洋一(経済学者)

【私の論評】英国の大政変のように、日本でも安倍派が地獄の釜を岸田政権に向けて開けるときがくるか(゚д゚)!

高橋洋一氏は、政調でどこまで審議できるか、が重要であるとの認識を示しています。かつての自民党であれば全員参加の「平場」でしっかり議論させるはずだが、どうなるだろうかとしています。

これについては、ただ積極財政派の議員らが、大きな声をあげれば、成就するようなものではないです。ましてや、増税に反対する議員らが、離党して新党をつくるようなことをしたとしても、さざ波程度の動きにしかならないでしょう。

よほどインパクトのあることをしなければ、成就しないでしょう。インパクトがあるといえば、今年は英国内の大政変がありました。ジョンソン首相が、辞任を余儀なくされた後、トラス氏が首相となりましたが、就任からわずか49日で、辞任しました。新首相は、スナク氏に決まりました。


ジョンソン首相の時には、首相の相次ぐ不祥事が明るみに出て、スナク財務相とジャビド保健相が相次いで辞任しました。これは、更迭などで辞めたのではなく、ジョンソン氏に対する抗議をするために自ら辞任したのです。これがジョンソン氏辞任の決定打になったところは否めないです。

トラス政権においては、クワーテング財務相の更迭に続き、重要閣僚ブレーバーマン内相が首相に抗議して辞任ました。もともと、トラス首相の経済政策特にインフレであるにも関わらず、減税するという政策は人気がなく、それで財務相を更迭せざるをえなくなり、そこにき内相が辞任しました。これが、トラス辞任の決定打となりました。

特に大型減税案は、後任であるハント財務大臣により全否定され、これがトラス政権をかなり追い詰めました。重要閣僚がやめることはいずれの国においても、時の政権に大打撃となるのです。日本とて例外ではありません。これについては、このブログでも解説したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
トラス英首相が辞任を表明―【私の論評】今回の首相辞任は実は経済政策はあまり関係なし、純粋に政治的な動き、日本でもあるかも(゚д゚)! 


この記事では、英国の政変が、政治的な動きであることを強調するために、トラス氏の大型減税策についてはあまり批判的なことを書きませんでしたが、トラス氏の経済対策は間違いであることは、はっきりしすぎていました。

インフレが亢進しているときに、採用すべき政策は減税ではなく増税です。ただ、減税するにしても、英国内の経済とはあまり関係ない、エネルギーや資源に限った減税であれば、さほど問題にはならなかったでしょう。

このように明らかに経済対策を間違い、さらに重要閣僚を罷免さざるをえなくなり、さらに重要閣僚が自らやめしまったということは、政権に大打撃を与えるのです。

さて、英国の経済は、供給不足で減税ではなくて、増税などの緊縮財政などの措置をする必要がある一方、日本は需要不足であり、減税などの措置が必要であるにもかかわらず、岸田首相は増税という明らかに間違えた政策を実行しようとしているという違いはあります。

ただ、どちらも国内の経済対策を間違えいるという点では共通点があります。

そうなると、日本でも閣僚が自らやめるというようなことがあれば、岸田政権に大打撃ということになります。

岸田政権においては、すでに山際経済再生担当大臣、寺田総務大臣、葉梨務大臣の三人の閣僚が辞任しています。これだけでも、大変なのに、さらに数人閣僚が自ら辞任ということになれば、岸田政権は崩壊の危機に見舞われることになります。

このようなことができる派閥が自民党にはあります。それは、最大派閥である旧安倍派です。以下の表でもわかるように、安倍派は四人の閣僚を出しています。自民党三役の政調会長は萩生田光一氏です。

安倍派は、安倍元総理の遺志をひきつぎ、防衛増税には大反対です。そうして、安倍氏により、理論武装もかなりしています。そうして、その理論はあらゆゆる面から、考えてみても正しいです。安倍派は、亡くなった安倍元首相の遺訓でもある「防衛費増は国債で賄う」という考えを実現したいと考えていることでしょう。

ただ、現状では上の高橋洋一氏の記事にもあるように、政調でどこまで審議できるかという状況です。まともに、議論もさせないかもしれないというのですから、最大派閥の安倍派の不満は鬱積していることでしょう。

この状況であれば、安倍派閣僚は、岸田首相を翻意させるために、辞任するという手もあります。いきなり四人が辞任するまでは必要ないですが、まず防衛増税に反対という意見表明をした上で、まずは一人辞める。

それでも岸田首相か翻意しな場合は、もう一人、また一人と辞任するのです。これを実施すれば、岸田内閣はかなりの窮地に追い込まれます。これに同調して、高市氏のような無派閥や他派閥の閣僚の中にも辞任するものがでてくるかもしれまん。

それでもどうしても、岸田首相が翻意しないというのなら、最後に萩生田政調会長が辞めても良いと思います。そうなると、岸田政権は、国会で野党から追求され、党内も蜂の巣をつついたような状況になるでしょう。マスコミも連日報道するでしょう。

国民の信を問うために、解散総選挙をせざるをえなくなるでしょう。しかし、増税の意思を翻意しないままで、選挙をすれば、大敗する可能性も濃厚になります。

やはり、岸田首相ははやいうちに翻意すべきです。そうでないと、まもなく安倍派が岸田政権に向けて、地獄の釜を開くことになります。

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「岸田増税」を斬る! アベノミクス10年の成果に矛盾 「賃上げできない世の中になる」第2次安倍政権で経済ブレーン・本田悦朗氏が指摘

本田悦朗氏

 自民、公明両党は16日、2023年度の与党税制改正大綱を決定し、防衛費増額の財源として法人、所得、たばこの3税の増税を盛り込んだ。岸田文雄首相は閣内や党内からの反発を押し切って増税方針を決めたが、第2次安倍晋三政権で経済ブレーンを務めた本田悦朗・元内閣官房参与は「安倍元首相の思いやアベノミクス10年の成果に矛盾している」と批判する。このまま経済が安定する前に、増税が実施されれば、給料の伸び悩みなどによってデフレや長期停滞に陥り、日本経済に暗雲が垂れ込めると語る。

 岸田首相は同日の記者会見で「安定財源は将来世代に先送りすることなく、いまを生きるわれわれが将来世代への責任として対応すべきものと考えた。戦闘機やミサイルの購入を借金で賄うということが本当によいのか」と述べ、増税の意義を強調した。

 法人税は税額に4~4・5%を上乗せし、たばこ税は1本当たり3円引き上げる。所得税は1%を新たな付加税として課すと同時に、東日本大震災の復興特別所得税の税率を1%引き下げる。だが、2037年までの課税期間を延長するため、結局は増税だ。

 増税実施について「24年以降の適切な時期」とするが、財務省出身の本田氏は「決着の単なる先送りは、財務省側が妥協したように見せかける常套(じょうとう)手段だ」と指摘したうえで、財務省が増税に固執する内幕をこう明かす。

 「財務省の官僚にとっては、景気回復で税収が増えても誰の業績にもならないが、増税や歳出カットで財政再建すれば、業績として出世に有利になる。真の解決策は、財政出動によって需要を拡大することなのに、短期的な財政収支に気をとられるばかりで、日本経済や政権の動向は考慮しない」

 アベノミクスの指南役としてデフレ脱却に取り組んできた本田氏は、防衛力強化についての安倍元首相の思いも耳にしていたという。

 「安倍元首相の防衛力強化と防衛費増額への熱意は相当なものだった。財源については『防衛国債』を考えていたが、公共事業に充てられる建設国債を想定していたと思われる。また、経済成長による税の自然増収についても理解していた」と振り返る。

 バブル崩壊後の日本経済は、「失われた30年」と呼ばれる低迷を続けてきた。本田氏は「いつも経済が上向いたときに逆行する政策になる」と述べ、増税を強行した場合の日本経済の行く末を懸念する。

 「2000年のゼロ金利政策解除、06年の量的金融緩和解除、14年と19年の消費税増税に続く、『5度目の失敗』をするつもりなのか。防衛増税が実施されれば、企業経営者の将来の収益見直しに冷や水を浴びせ、デフレからも脱却できず、一向に賃上げができない世の中になる恐れがある」

 自民党の萩生田光一政調会長は同日の党政調審議会で、防衛費増額の財源確保に向け、税以外の財源捻出の在り方を協議する場を来年設置する意向を明らかにした。

 本田氏もこれまでの財源論議の中で、国債発行や、毎年度の一般会計に計上されている債務償還費の活用を含む歳出改革を訴えてきたが、今後の策は残されているのか。

 「『24年以降』とした増税の実施時期を物価・雇用・成長などの観点から、日本経済が正常化するまで先延ばしすることだ。それまでの間は、成長による税の自然増収を最大限活用し、なお足らざる分は国債で補うしかない。マクロ経済指標を毎年慎重に検証して、増税時期を判断すべきだ」

 人脈も財務省に近いとされる岸田首相は、同省の思惑通りに動いたように見える。本田氏はこうも語った。

 「財務省は言うことを聞いてくれそうな政権で『国民に不人気なこと』をやってしまおうとする。岸田首相もある意味では被害者かもしれない」

【私の論評】岸田総理は、経済に関して江戸時代の頭から脱却し、少なくとも昭和レトロ頭になるべき(゚д゚)!

増税は、国民に不人気なことであることは間違いないようです。

毎日新聞は17、18の両日、全国世論調査を実施しました。岸田内閣の支持率は25%で、11月19、20日の前回調査の31%から6ポイント減少し、政権発足以降最低となりました。

不支持率は69%で前回(62%)より7ポイント増加し、発足以降最高となりました。 

防衛費を大幅に増やす政府の方針については、「賛成」が48%で、「反対」の41%を上回りました。防衛費を増やす財源として、増税することについては「賛成」が23%で、「反対」の69%を大きく下回りました。 

財源として社会保障費などほかの政策経費を削ることについては「賛成」が20%で、「反対」の73%を大幅に下回りました。財源として国債を発行することには「賛成」が33%、「反対」が52%だった。 

政府が相手国のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を決めたことについては、「賛成」が59%で、「反対」が27%でした。

現在から、20年前までから比較すると、多くの国民の認識は随分変わったと思います。20年前までだと、増税で防衛費を賄うのは国民の義務のような雰囲気が醸し出され、増税に賛成という国民も多く、政府としても増税しやすかったでしょう。

しかし、20年の時を経て、多くのまともなエコノミストなどが、不況やデフレ期における増税は間違いであることを指摘し続けたことと、増税するたびに経済が落ち込み続けてきたことから、これが間違いであることを多くの国民が理解したとみえます。

さらに、日本ではシルバー民主主義といわれるように、高齢者にとって優遇ともいわれるような政策が取られがちであり、高齢者は政府の経済政策にも両手をあげて賛成しがちでした。

ただ、それにはデフレ傾向であっても年金生活で年金額が変わらないというのなら、実質的にあまり生活に支障がでないということが前提でした。しかし、今回は物価高の折に増税されるのは、高齢者にとっても直接的に生活が脅かされるため、さすがにこれに賛成はできなかったのでしょう。

今回の増税に関しては、さすがにほぼ全世代がこれに反対したため、岸田政権の支持率は発足以来最低になったのでしょう。

ただ、残念なことに、財務省の長年の間違えた、あるいは意図的に間違えた、説得により、多くの国会議員や多くの国民も騙されたためか、防衛費増の財源として国債を発行することには「賛成」が33%、「反対」が52%という結果でした。

この点に関しては、これからもまともなエコノミストなどが啓蒙活動を続けていく必要があります。

いつまでも、国債は将来世代へのつけであるかのような認識を多くの人が持っているようでは、いずれ国は活力を失い、最悪滅びます。

以前のこのブログで述べたように、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。ドイツはEUの中でも、特に財政規律を重んじる傾向があります。その意味では、日本の財務省と似たところがあります。

そのドイツですら、コロナ禍の時は一時的に減税しましたし、連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を今年創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達、同盟国との新兵器の共同開発などに充て、基金の財源は、長期国債を発行して賄うのです。

にもかかわらず、日本では政治家はもとより、多くの国民が、防衛費増の財源として国債を発行することには反対しているのです。

このブログでは、マクロ経済に関しては平易に解説することを心がけてきましたが、国債の本質に関しては関しても難しい経済理論など必要ありません。

我が国では新規に発行された国債は、60年で全額現金償還するのがルールです。その財源を調達するため毎年、国債発行残高の約1/60を債務償還費として巨額の赤字国債を発行しています。

これは日本だけのルールであり、国債償還のために全額借換債を発行するのが世界の常識です。借換債を発行するなどというと、すぐに中小企業などの自転車操業のように考える人がいますが、その考えが根本的な間違いです。

中小企業、その中でも規模の小さな企業であれは、その信用力は創業社長が源です。創業者社長は人であり、その生命には限りがあります。その創業者社長が自転車操業を繰り返すのは大変危険なことです。

しかし、この創業者社長が仮に不死身だったとします。そうすれば、自転車操業してもほとんど問題はないでしょう。なぜらないくら自転車操業をしてもいつか必ず借金を返すことができます。もし、創業者社長が不死身なら、金を貸す金融機関は、それを前提として金を貸し付けるでしょう。

不死身ならいつかは必ず返してもらえるので、かなり多額の金を長期間にわたって貸し付けても安心です。不死身というなら、こんな確かなことはなく、金融機関としては、どんどん金を貸し付けたがることでしょう。

そのようなことが現実に行われています。金融機関は、政府が発行する長期国債を買っています。政府は、個人と比較すれば、不死身です。その政府が、借換債を発行することを自転車操業のように考えるのは根本的な間違いです。

日本には亜人(死なない生物)が存在する。それは「日本国政府」。

それどころか、長期国債が若干のマイナス金利になっても、多くの金融機関はこれを喜んで買います。なぜでしょう。なぜなら、まずは日本政府の財政破綻確立はかなり低いですし、ドルや米国債などを買えば、為替リスクがありますが、日本国債にはそれがないからです。たとえマイナス金利分損したとしても、大きな為替リスクはありません。

政府発行の国債があたかも個人の借金であるかのようなことを気にして、現実の脅威である中国に対応するため、NATO基準である防衛費GDP2%(+6兆円)を満たしておかないというなら、本末転倒です。

防衛増税なと嫌だといえば、財務省等は「どこかの経費を削れ」と言うかもしれません。ならば真っ先に、「債務償還費(16兆円)を削れ」と言い返すべきです。長期国債の元本は、借換債の発行で賄うのが世界の常識です。過去債務の返済に熱心の余り、日本を中国の支配下において良いはずがありません。

岸田総理に対して、「財務省は言うことを聞いてくれそうな政権で『国民に不人気なこと』をやってしまおうとする。岸田首相もある意味では被害者かもしれない」と語っています。しかし、岸田氏は安倍政権において閣僚をしていた経験もあり、安倍氏の考え方を学ぶ機会はいくらでもあったはずです。

そうして、岸田総理は以下のようなツイートをしています。


総理は「国民の意思が大切なので、防衛増税を飲め」語っています。しかし、政府は国民負担を最小限にしつつ、国防の有効性を最大にするのが使命です。時期尚早の増税による国民の真の負担は、経済成長の腰を折り、長期停滞が続くことです。総理は道徳を説くのではなく、まともなマクロ経済理論に基づいて発言し政策を決めるべきです。


道徳論では、まともな経済対策などできません。道徳論から米国では禁酒法が成立しましたが、その結果多くのギャングの資金源を提供することになりました。江戸幕府の経済対策というと、多くは結局、道徳論から贅沢禁止などの緊縮財政に走り、その多くは大失敗しています。成功事例は少ないです。財務省や岸田総理は、江戸頭から脱却すべきです。

昭和時代をレトロとして懐かしむ人もいます。そのように懐かしむことができるのは、戦争など悪いこともあったのですが、良いところもあったからに違いありません。

考えてみると、昭和時代は戦前に高橋是清が昭和恐慌からいまでいうところの、積極財政と金融緩和策で素早く抜け出したり、戦後は高度成長したとともに池田勇人は、所得倍増計画を実現しました。

戦中は巨大な戦費をまかない、その後の経済対策においても、たとえ失敗しても長くは続かず、平成年間ほど酷くはありませんでした。財務省の前身の大蔵省も、終戦直後は進駐軍の無茶な要求をのらりくらりとかわすなど、少なくとも日本経済を省益のために悪化させるようなことはしていませんでした。戦費を増税で賄うことなど、昭和の政治家には思いもよらなかったことでしょう。

高山昭和館|岐阜県高山市

明治年間も、大正年間も平成年間に比較すれば、大きな間違いはなかったと思います。少なくとも、数十年にわたりマクロ経済政策を間違えるということはありませんでした。誰かが大失敗しても、遅くてもその後数年以内に他の誰か是正しました。平成年間だけが例外でした。

そのにようなことを考えると、岸田首相も財務省も、経済に関しては、江戸時代の頭から脱却できていないようです。まずは、高橋是清の経済対策を学ぶなどして、江戸頭から脱却すべきです。ただ、財務省の高級官僚の頭は、省益を最優先するあまり、江戸時代に完璧にはまりそこから抜け出すのは不可能のようです。

そうして、増税に関しては、実施の時期の議論は、来年ということで、増税そのものもまだ決定されるには余裕があると思っている方も多いようですが、もし今年度中に防衛力強化法案が提出されて、決まれば増税は避けられないことになります。それについては、下の動画で高橋洋一氏が語っています。


そうなれば、消費税増税の三党合意の悪夢が再現されることになります。これについては、自民党の積極財政派の議員など、是非ともこの法律が成立することを阻止していただきたいものです。

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2022年12月17日土曜日

日本「反撃能力保有」に〝中国震撼〟 空母「遼寧」など艦艇6隻で威嚇 安保3文書を閣議決定、岸田首相「防衛力を抜本強化」 米国は高く評価―【私の論評】中共最大の脅威は、海自潜水艦が長距離ミサイルを発射できるようになること(゚д゚)!

日本「反撃能力保有」に〝中国震撼〟 空母「遼寧」など艦艇6隻で威嚇 安保3文書を閣議決定、岸田首相「防衛力を抜本強化」 米国は高く評価

たな国家安全保障戦略など「安保3文書」を決定し会見する岸田文雄首相=16日午後、首相官邸

 岸田文雄首相は16日夜、国家安全保障戦略など「安保3文書」を閣議決定したことを受け、首相官邸で記者会見した。3文書は、敵ミサイル拠点などへの打撃力を持つことで攻撃を躊躇(ちゅうちょ)させる「反撃能力(敵基地攻撃能力)」の保有を明記するなど、戦後の安保政策を大きく転換する内容となった。「増税ありきの財源論」や「首相の説明不足」などへの批判もあるが、日本を取り巻く安全保障環境の悪化を受けた「防衛力強化」は避けられない。同盟国・米国などが高く評価する一方、中国は反発したのか空母「遼寧」など艦艇6隻を沖縄周辺に送り込んできた。


 「わが国の周辺国、地域において、核・ミサイル能力の強化、あるいは急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みなどの動きが一層、顕著になっている」「現在の自衛隊の能力で、わが国に対する脅威を抑止できるか」「率直に申し上げて、現状は十分ではない」「私は首相として国民の命、暮らし、事業を守るために、防衛力を抜本強化していく」

 岸田首相は注目の記者会見で、こう決意を語った。

 「安保3文書」は、日本が「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している」との認識を示したうえで、中国や北朝鮮を念頭に「力による一方的な現状変更の圧力が高まっている」と指摘した。

 共産党一党独裁のもと、軍事的覇権拡大を進める中国の動向を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記した。

 「反撃能力」保有をはじめとする「防衛力強化の重要性」を訴え、一連の施策が「安全保障政策を実践面から大きく転換する」とも強調した。

 具体的には、米国製巡航ミサイル「トマホーク」など、複数の長射程ミサイルを順次配備する。宇宙・サイバー・電磁波などの新たな領域と陸海空を有機的に融合する「多次元統合防衛力」を構築する。

 自衛隊では長く予算不足を強いられてきたため、弾薬・誘導弾が必要数量に足りていないうえ、戦闘機などが、他の機体から部品を外して転用する「共食い修理」が続けられてきた。今回、こうした状況も解消する。

 来年度から5年間の防衛力整備経費を約43兆円と定め、インフラ整備など防衛力を補完する予算を含め、2027年度に「対GDP(国内総生産)比2%」に達することを目指すとした。

 防衛費の財源については、安倍晋三元首相が日本経済への打撃を考慮して提示していた「防衛国債」を排除し、財務省の筋書きなのか「増税」方針を強行する構えだ。防衛力には力強い経済が不可欠であり、自民党安倍派を中心に反発は続いている。それを意識したのか、次のようにも語った。

 「安倍政権において成立した安全保障関連法によって、いかなる事態においても切れ目なく対応できる態勢がすでに法律的、あるいは理論的に整っているが、今回、新たな3文書を取りまとめることで、実践面からも安全保障体制を強化することとなる」

 日本の決意と覚悟が込められた「安保3文書」を、米国は歓迎した。

 ジョー・バイデン米大統領は16日、ツイッターに「(日米同盟は)自由で開かれたインド太平洋の礎石であり、日本の貢献を歓迎する」と投稿した。ジェイク・サリバン大統領補佐官も同日、「日本は歴史的な一歩を踏み出した」とする声明を発表した。

 渡部悦和氏が懸念「いまだに非核三原則」

 一方、中国外務省の汪文斌報道官は16日の記者会見で、「中国への中傷に断固として反対する」「アジア近隣国の安保上の懸念を尊重し、軍事、安保分野で言動を慎むよう改めて促す」などと語った。自国の異常な軍備増強を棚に上げた暴言というしかない。

 さらに、中国海軍の空母「遼寧」と、ミサイル駆逐艦3隻、フリゲート艦1隻、高速戦闘支援艦1隻の計6隻の艦艇が16日、沖縄本島と宮古島の間を南下して東シナ海から太平洋に航行した。防衛省統合幕僚監部が同日発表した。「安保3文書」への軍事的威嚇のようだ。

 今回の「安保3文書」をどう見るか。

 元陸上自衛隊東部方面総監の渡部悦和氏は「画期的な内容だ。NATO(北大西洋条約機構)並みの『防衛費のGDP比2%』の目標を明記したことで、実質的に防衛戦略の大転換となった。『反撃能力』も明記し、長射程ミサイルの順次配備など具体的整備と予算を確保したことも大きな前進だ」と評価する。

 ただ、懸念される点もあるという。

 渡部氏は「ロシアのウクライナ侵攻では『核抑止』が重要なポイントと認識されたが、いまだに『非核三原則を維持』という。『専守防衛の堅持』も(日本の国土が戦場になることを意味するが)、長年の抑制的な安全保障政策の根本を変えられなかった。防衛費増額の財源も『国債発行』が通常の考え方だと思う。増税では日本経済の成長を抑制する。経済と安全保障は一体不可分であるはずだ」と語った。

 大きな決断をした岸田首相だが、問題は山積している。

【私の論評】中共最大の脅威は、海自潜水艦が長距離ミサイルを発射できるようになること(゚д゚)!

中国は、日本の安全保障関連3文書の改定について「中国の脅威を軍拡の言い訳にしている」と強く反発しています。こうした強い反発があるということは、中国がこれを脅威に感じているということであり、日本にとっては、そもそもの狙い通りといえます。

日本の防衛力増強に警戒心を強めており、日本周辺での軍事活動をこれまで以上に積極的に行っていく可能性があります。 

隣国の日本が「反撃能力」(敵基地攻撃能力)を保有し、中国軍の射程圏外から攻撃できるスタンド・オフ・ミサイルの配備を進めれば、中国は間違いなく、有事の際に不都合が生じます。台湾統一をにらんだ動きにも、一定の影響が出ます。 

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(電子版)は社説で、日本の反撃能力に関して「自衛隊の対外攻撃能力を高める」と警戒をあらわにしました。「中国を脅威と見なせば(そうでないのに)本当に脅威となってしまう」と警告。その上で「中国の総合的な実力は今や日本を超えている」と自信も示してみせました。

中国外務省の汪文斌副報道局長は「訳もなく中国の顔に泥を塗ることに断固反対する」と表明。「中国の脅威を誇張して自らの軍拡の言い訳とするたくらみは思い通りにならない」と反発しました。 


中国にとっての最大の脅威は、自衛隊が運用する12式地対艦誘導弾の射程を伸ばすほか、新たに開発する高速滑空弾を量産、米製巡航ミサイルのトマホークなどを取得します。いずれも2027年度までに配備することでしょう。

その中でも、ミサイルを地上や護衛艦にだけでなく、自衛隊機や特に潜水艦への搭載することが最大の脅威でしょう。

このブログの読者であればもうおわかりでしょう。

海自の潜水艦にはSLBMが装備されておらず、無論これを発射する発射装置も搭載されていません。そのため、海自の潜水艦から発射できるのは、ハープーンなどの対艦ミサイル等に限られていました。

現在大半の海自の護衛艦や潜水艦に搭載されているハープーン対艦ミサイルは、米国製です。このミサイルは、本来は航空機搭載用でしたが、ブースターロケットを追加することで水上艦艇や潜水艦からも発射可能になりました。

潜水艦から発射する際には、魚雷発射管からカプセルに入れられたものを発射、水面に到達してからロケットに点火する方式になっています。

発射されたミサイルは慣性誘導方式(加速計による飛行経路算定とジャイロによる姿勢制御)で目標まで飛行しますが、目標命中直前にはアクティブレーダーホーミング式に切り替わり確実に敵艦めがけて突入するようになっています。

ただ、魚雷発射管から発射するミサイルであり、重量は  690kg、射程距離 約124kmに過ぎません。

米製巡航ミサイルのトマホーク等を潜水艦から発射するためには、SLBMが発射できる発射装置が必要です。あるいは、米国大型原潜に匹敵するほどの魚雷発射管が必要です。

ということは、日本は従来型の潜水艦に加えて、トマホーク発射可能な潜水艦を新しく建造するということを意味します。

読売新聞は、10月29日に、政府は、自衛目的でミサイル発射拠点などを破壊する反撃能力の保有を目指していると報道しています。その手段となる地上目標を攻撃可能な長射程ミサイルは、陸上自衛隊の「12式地対艦誘導弾」の改良型やトマホークを主力に据える方向としています。

発射機材は、車両や水上艦、航空機を念頭に置いてきたそうですが、配備地などを探知されかねません。相手に反撃を警戒させ、抑止力を高めるには、より秘匿性の高い潜水艦を選択肢に加える必要があると判断したそうです。


実験艦は2024年度にも設計に着手し、数年かけて建造する計画です。ミサイル発射方式は、胴体からの垂直発射と、魚雷と同様の水平方向への発射の両案を検討するそうです。実験艦の試験を踏まえ、10年以内に実用艦の導入を最終判断します。

このブログも以前から掲載しているように、現在艦艇には二種類しかありません。水上に浮く海上艦艇と、海面下を航行する、潜水艦です。

海上艦艇は、空母であろうが、何であろうが、今やミサイルの標的に過ぎません。しかし、潜水艦はミサイルで攻撃することはできません。そのため、現在の海戦における主役は潜水艦です。

よって、潜水艦の能力がより高く、対潜哨戒能力がより高いほうが、海戦能力が高いということになります。潜水艦、航空機、海上艦艇等の能力も含めて総合的に対潜水艦戦闘力(ASW:Anti Submarine Warfare)が強いほうが、海戦能力が高いことになります。

ASWに関しては、米国も日本も中国よりはるかに能力が高いです。日本の場合は、対潜哨戒能力、潜水艦のステルス性に優れています。中国海軍はこれを発見するのは難しいです。米国の場合は、対潜哨戒能力、攻撃型原潜の攻撃能力が優れています。

優れているどころか、米国の攻撃型原潜は海中に潜むあらゆる武器を装備した巨大な格納庫のある海中基地といっても良いほどです。かつて、トランプ氏は大統領だったときに、これを「水中の空母」と評していました。

日本も米国も海戦能力では中国をはるかに上回っています。日本は、ステルス性においては、中国海軍が探知するのが難しい潜水艦をすでに22隻配備しています。中国が尖閣諸島に侵攻しようとしても、日本が尖閣諸島を数隻の潜水艦で包囲すれば、そもそもこれに近づくことすらできません。

近づけは撃沈されるだけです。まかり間違って人民解放軍を尖閣諸島に上陸させたにしても、潜水艦で包囲されれば、補給ができず、上陸した人民解放軍はお手上げになってしまいます

台湾有事などでは、米軍が大型攻撃型原潜を台湾近海に3隻も派遣すれば、これに十分対処できます。最初に、米攻撃型原潜は、中国の監視衛星の地上施設とレーダー基地を破壊し、中国軍の目を見えなくして、その後、中国の台湾に近づく艦艇のほぼすべて撃沈することになるでしょう。

このように潜水艦を用いれば、尖閣有事も、台湾有事もさほど難しいこともなく十分に日米とも対処できます。

ただ、日米ともに尖閣有事や、台湾有事のシミレーションにおいては、なぜか潜水艦が登場することはありません。これに疑問を感じる方は、是非ご自分で調べてください。ほとんどの場合、潜水艦は登場しません。登場するのは例外中の例外です。

なぜかというと、潜水艦が登場しなければ、中国海軍はかなりの攻撃ができ、米軍ですら危うくなるのですが、潜水艦が登場した途端に、戦況は明らかに変わり、圧倒的に日米に有利になるからとみられます。

そうなると、台湾有事なども何の心配もないということになり、世間の目を惹き付けることができなくなるどころか、予算の配分も難しくなります。それと、日本では、いわゆる中国配慮というものがあると思われます。

海戦では圧倒的に日本が有利であると発表しようものなら、中国様がお怒りなるので、それはなかなかできないのでしょう。

ただ、仮に海戦能力が低いにしても、中国はミサイルなど台湾や日本を簡単に大破壊する能力はあります。だから、これに対する警戒は怠ってはならないです。ただ、中国がいとも簡単に、台湾や尖閣諸島に侵攻できると思い込むのは明らかな間違いです。侵攻と破壊は違います。侵攻はかなり難しいですが、破壊は簡単です。

これは、ロシアがウクライナ侵攻が簡単であると過信して、ウクライナに侵攻して大苦戦しているのと同じように、戦争を誘発する恐れがあります。侵攻は難しいですが、ロシアはウクライナのあらゆる都市を破壊しています。

少し話がずれてしまいましたので、話を元に戻します。

今でも本当は、海戦能力に圧倒的に中国より優れた日本が、今度は潜水艦にトマホークなども装備できるようにするというのですから、これは中国にとっては大きな脅威です。

今までは、中国は日本に侵攻しようとすれば、海戦能力に劣るため、日本の潜水艦に阻まれて、これは不可能でした。しかし、中国はミサイルで日本を破壊することはできます。無論、ミサイルには核も搭載できます。これで、日本を脅すことはできました。

しかし、日本が反撃能力を持つことになれば、中国は日本の航空機や艦艇などは発見できこれに対応するのは可能ですが、日本は中国が発見しにくい潜水艦搭載のミサイルで中国の監視衛星の地上施設や、レーダー基地、ミサイル基地等を叩くことができますし、場合によっては、三峡ダムなどの中国のウィークポイントを叩くこともできます。ちなみに、三峡ダムが破壊されると、中国の国土の40%が洪水に見舞われるといわれています。


仮に、日本が中国に核攻撃を受けたにしても、日本の潜水艦隊は海中に逃げ、トマホークなどにより、中国の軍事重要拠点やウイークポイントを攻撃することになるでしょう。これは、日本が限りなく戦略的な攻撃手段を持つことになります。

日本が核で攻撃されたということになれば、日本も中国に対して遠慮はせずに、攻撃することになります。しかも、日本の潜水艦が米国の攻撃型原潜のような原潜であれば、燃料を補給せずとも、水や食料がつきるまで潜航できますが、日本の潜水艦には動力にも限りがあり、それが尽きる前に全面攻撃することになるでしょう。攻撃できる目標すべてに対して、短期間に集中して全面攻撃ということになるでしょう。

もちろん、これは仮定の話ですが、今までは日本は中国から核攻撃されても、反撃は生き残った潜水艦が、比較的近くの艦艇などを撃沈できるだけでしたが、今後は中国奥地の目標物まで攻撃できるようになるということです。

これは、大変革であり、中露北には大きな脅威になります。

ただ潜水艦というキーワードをもっと日本国民にわかりやすく伝えるべきだと思います。そのためには、尖閣付近の中国の艦艇の鼻先で、潜水艦や対潜哨戒機、艦艇により数隻の模擬艦艇を撃沈してみせて、その意味あいを国民に平易に説明するとか、トマホークが発射可能の潜水艦ができれば、それの発射実験で、たとえば、日本海に潜んだ潜水艦から、北海道の無人島にトマホークを着弾して見せるなどのことを実施すべきと思います。

今後も、潜水艦を一切シミレーションに出さないとか、潜水艦で大規模な訓練をしないなど、いつまでも潜水艦を日陰者扱いしているようでは、せっかく海自の潜水艦からトマホークを発射できるようになっても多くの国民は萎縮し、中国は今後も尊大に振る舞い、日本などいとも簡単にひねりつぶせるかのように行動し続けることになりかねません。

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2022年12月16日金曜日

防衛費増強に国債は「禁じ手」ではない 海外と違う「60年償還ルール」 繰り入れを特例法で停止、増税なしで特別基金ができる―【私の論評】情けなさすぎる岸田・山口両氏と、知恵がなさすぎる財務省(゚д゚)!



 岸田文雄首相は10日の記者会見で、防衛費増強の財源について国債の発行を否定した。「国債でというのは、未来の世代に対する責任として採り得ない」と述べた。

 その後、政府は自衛隊施設の整備費の一部に建設国債を活用する方針を固めたとされるが、「禁じ手」「借金容認につながる」など批判的な報道もある。

 安倍晋三元首相は生前、防衛国債を主張し、「道路や橋は次の世代にインフラを届けるための建設国債が認められている。防衛予算は消耗費といわれるが間違っている。防衛予算は次の世代に祖国を残していく予算だ」と語った。

 国債論として正しいのは安倍元首相だ。防衛はインフラと同じで将来世代まで便益があるのだから、国債にふさわしい。

 岸田首相の発言は、民主党政権下での東日本大震災後の復興増税と同じくらいひどい。大震災はまれに起こるので、課税平準化理論から、復興費用は復興増税ではなく長期国債で賄うのが、財政学からの結論だ。

 同様に、有事はまれに起こるので、防衛費用は増税ではなく長期国債で賄うのが筋だ。

 国債に関しては財政学などで真っ当な理論が数多くあるが、その援用を妨げているのが財務省だ。日本の経済学者や財政学者、メディアも加担している。

 東日本大震災の復興増税も、古今東西あり得ない愚策だったが、学者らが復興増税に賛同するリストをつくり、財務省を全面的にバックアップした。

 これは財政学が教える課税平準化理論に反していたので、それ以降、同理論を日本の大学では教えられなくなったとしたら嘆かわしいことだ。

 安全保障でも、有事の費用は国債で賄われるという歴史事実さえ押さえておけば、事前の有事対応にも国債がふさわしいのは自明だ。だが、学者からはまともな声はなく、財務省の暴走を止める報道もほとんどない。

 ドイツの防衛費は国内総生産(GDP)比2%のために1000億ユーロ(14・5兆円程度)の特別基金を創設したが、国債発行で賄った。これは、安倍元首相の防衛国債そのものだ。

 筆者は、財務省の役人当時、国債課課長補佐を務めたことがあるが、日本の国債制度が海外と違ったのには参った。日本では、国債に「60年償還ルール」があり、毎年国債残高の60分の1について、一般会計から国債整理基金特別会計(減債基金)への繰り入れが債務償還費(2022年度は15・6兆円)として規定されている。

 先進国では減債基金自体、今では存在していないので、債務償還費の繰り入れもない。日本の予算では、歳出が債務償還費分、歳入はその同額の国債が、先進国から見れば余分に計上されている。これは当年度に限れば「埋蔵金」である。この見直しを含め、もう少し国債をうまく使ってはどうか。

 来年度予算でいえば、債務償還費の一般会計繰り入れを特例法で停止し、それで基金を作れば、少なくともドイツと同じ特別基金ができる。しかも増税なしで可能だ。このような「簡単なこと」すらできないのか。 (元内閣参事官・嘉悦大教授 高橋洋一)

【私の論評】情けなさすぎる岸田・山口両氏と、知恵がなさすぎる財務省(゚д゚)!

上の記事で、高橋洋一氏は、岸田首相の発言は、民主党政権下での東日本大震災後の復興増税と同じくらいひどいとしていますが、公明党の山口代表の発言もこれと劣らず酷いものです。

公明党の山口那津男代表は14日のラジオ日本の「岩瀬恵子のスマートニュース」に出演し、防衛費増額の財源確保策として自民党内で上がっている国債発行論に否定的な考えを示しました。

「国債で全部やれという意見は実際にはないと思いますが、ただ、国債は先送り。将来の世代にツケを回すことになる。しかも限度がはっきりしない。税は国民が負担する部分で本当にこれでいいのかと関心を持ち、自分たちのこととして水準を決めることにつながる」などと述べました。自民では岸田文雄首相が掲げた1兆円強の増税方針に反発し、国債発行を含めて検討するよう求める声が出ています。

上の記事にもあるとおり、政府はこれとは別に、自衛隊施設の整備費の一部約1兆6千億円に建設国債を活用する方針です。

岸田、山口両氏は、安倍晋三、菅義偉歴代内閣と比較すると全く、財務省の言いなりということができます。 

岸田首相も将来世代へのつけと述べており、ということは、防衛費増額は現世代だけではなく、将来世代にも便益であると語っているに等しいです。将来世代に便益があるので全世代で負担平準化するべきであり、そのために長期国債を発行するのです。

だからこそ、上の記事にもあるように課税標準化理論というものがあり、現世代と将来世代の負担を平準化するために課税平準化理論があるのです。

これは、現実の経済で資源配分に歪みを与える 租税が存在するとき、異時点間の税率を決める際に、課税に伴う超過負担(資源配分の効 率性からのコスト)を最小にするべく財政運営を行うのが望ましい、とするものである。

まさに、震災や防衛費の増強を税だけで賄うということになれば、将来世代も便益を受けるにもかかわらず、その負担は現代だけということになり、これは全く不公平と言わざるを得ません。

これを理解したのは安倍氏であり、理解せずに財務省のいいなりなのが、が岸田、山口両氏です。


安倍・菅両政権のときには、両政権であわせて100兆円の補正予算を組み、コロナ対策を実施しました。財源は当時の安倍総理の言葉でいうと、政府日銀連合軍をつくり、政府が長期国債を発行し、日銀がそれを買い取るという形で行ったので、増税はありませんでした。

そうして、この対策、なぜかほとんど理解されていませんが、一番の成果は、何といっても雇用潮位助成金という制度も用いながら、雇用対策を行い、コロナ禍の最終に他国では失業率がかなりはねあがったにも関わらず、日本で終始2%台の失業率で推移しました。


経済対策においては、他の指標が悪くても、まずは雇用が安定していれば、合格といわれます。この点からいうと、安倍・菅政権の経済対策は合格だったといえます。

菅政権においては、凄まじい医療村の抵抗にあって、コロナ病床の増床には失敗したものの、それでも凄まじいスピードでコロナワクチンの接種を成功させ、結局医療崩壊も起こすこともなく、相対的には大成功したといえます。

ただ、このことの本質を理解しないか、理解しないふりをしていたのか、マスコミも野党も、そうして多くのマクロ経済等に疎い自民党議員も、この成果を評価できなかったとみえます。マスコミも菅政権がコロナ対策に大失敗したような印象操作をしました。そのため、菅政権は一年で終わってしまいました。

このブログでは、菅政権は継続すべきであると主張しましたが、もしそれが実現していれば、防衛費増税でこのように揉めることはなかったと思います。理屈のわからない岸田・山口氏は、安倍・菅の大成果を「運が良かっただけ」と思っているのかもしれません。

増税なしを政治決断した安倍・菅さんは素晴らしいです。もし、コロナ復興税などとして、増税していれば、今頃経済はかなり落ち込んでいたことでしょう。今回防衛費40兆円に過ぎないのに、これで増税とは、安倍元総理が生きておられれば、財務省は知恵なし。その言いなりの岸田氏も、山口氏「情けなし」と慨嘆されたに違いありません。

財務省で働く魅力は「知恵」がなくても勤まり、退官後はスーパーリッチな天下り先が待っていることか?

そうして、この「情けなし」の意味は2つあります。一つは、「期待外れで残念だ」という意味で、もう一つは、「思いやりがない、無情である」という意味です。まさに、現状で増税するなどと考えるのは、国民に対して「思いやりがない、無情である」と謗られてもしかたないと思います。

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2022年12月15日木曜日

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経済成長続けるインドネシア 日本のGDPを抜く可能性も

岡崎研究所


 11月17日付Economist誌は「なぜインドネシアは重要なのか」との社説を掲げ、G20で存在感を示したインドネシアの将来性の高さを、その理由とリスクと共に論じている。要旨は以下の通り。

 G20が行われたインドネシアはスハルト政権崩壊から四半世紀後に再び注目された。同国は、米中の戦略的競争に巻き込まれているが、新世界秩序に適応しつつあり、次の四半世紀で影響力が大きく伸びる可能性がある。

 その理由の第一は経済である。GDPは新興国中第6位。1兆ドル超GDP国では、中印以外で過去10年最速で成長。その源泉はデジタルサービスである。電気自動車(EV)サプライチェーンに必須なバッテリー用ニッケルの世界埋蔵量1/5を占めるという特有の事情もある。

 第二の理由は民主化と経済改革両立の成功だ。完璧ではないが妥協と社会調和を強調する多元的政治システムを創設。ジョコ大統領は政敵を含む大連立を形成しているが、財政は健全。国営企業改革、労働法規等で漸進的改善を実施。汚職は問題だが経済は10年前よりオープンだ。

 次に、権力承継がリスクだとの主張は、過度に深刻視する必要は無いだろう。3選を禁じる憲法の改正でジョコ大統領が続投するという可能性は、とうの昔になくなっている。伸び盛りの国に相応しく、後継者の能力があると評価される人物は相当多い。一方、立候補には国会の20%以上の議席を持つ政党の支持が必要なので、現実的な候補は既に片手以内に絞られている。

 更に重要なのは、大統領候補の出身母体の多様化だ。軍が唯一のエリート養成機関であったのは、遠い過去の話である。今や、州知事を含む地方の首長(いくつかの州は数千万の人口で、中小国より大きい)が登竜門の一つになっている。ジョコ自身もジャカルタ特別州知事出身だし、今の候補者中、軍出身は70歳代の一人に限られる。これは、「ビジネスと政治閥が権力を得て寡頭政治に回帰する可能性」は最早それほど高くないことを意味している。

歴史も絡む中国との難しい関係

 第三に「中国の影響下に入る可能性」だが、これも高くない。そもそも中国の対インドネシア投資は入れるのも早いが出すのも早く、過去10年間のストックは未だ日本の1/5以下であり、ジャカルタ・バンドン高速鉄道に象徴されるように失敗例も多い。ここ数年間連続でナツナ諸島に現れる海警に守られた中国漁船の存在は、安全保障面でもインドネシアの対中姿勢を硬化させている。

 更に留意すべきは、対中関係は国内問題という歴史的事情だ。オランダ統治時代に中間管理職として厳しく当たりオランダ撤退後にその富を寡占した中華系インドネシア人は、いまだにデモ・騒乱の際の主な攻撃対象だ。これらを考えると、平時には日、米、中、欧ほかと全方位で付き合うインドネシアだが、危機に当たり中国を頼る可能性はあまり高くないと考えるべきだと思う。

 最後は、台湾危機のインドネシアへの影響である。上記社説は重要な論点を挙げているが、実際の危機に際しては、インドネシアはマラッカ海峡の唯一の代替航路を提供する立場にあることも忘れてはならない。日米は引き続きインドネシア沿岸警備隊の能力強化に努めていく必要がある。
 第三の理由は地政学である。インドネシアは超大国競争の重要な舞台だ。非同盟の歴史を反映し中立を希望する同国は、米中デジタル企業と投資家が直接競争する舞台となっている。

 もしインドネシアが今後10年今の道を歩めば、世界トップ10の経済になり得る。

 他方、主なリスクは次の3つである。

 一つは権力承継である。ジョコの任期は2024年だが明確な後継者は不在だ。支持者の中には(3選を禁じる)憲法改正で留任を求める向きもある。権力承継は有権者へのイスラム的政策アピール競争になる可能性がある。ジョコ連合の一部のビジネスと政治閥が権力を得て寡頭政治に回帰する可能性もある。

 二つ目は保護主義だ。ダウンストリーム化(精製部門など天然資源の下流産業の振興)は市場支配力を持つニッケルでは成功しても、他の産業では逆効果かもしれない。

 最大のリスクは地政学で躓くことである。同国が中国の影響圏に入る可能性もある。2020年以降中国企業投資は米国企業の4倍だ。台湾危機の際は、依存するシーレーンが閉鎖され、西側制裁は同国が頼る中国企業に打撃を与え得る。

 インドネシアは資源と保護主義、大連立政治、中立主義に依拠して、自国民を満足させ、かつ、成長する道を見つけようとしている。成功すれば、自国民の生活を改善し、成長を望む世界を励ますことになる。これは世界の力のバランスを変えさえするかもしれない。

*   *   *

 G20で首脳宣言をまとめたインドネシアが注目を集めている。Economistのようなメディアがこのような記事を載せる影響力は大きい。上記社説の大きな論旨には賛成だが、細かい点で若干の異論がある。

 まず、「今後10年今の道を歩めば世界トップ10の経済になり得る」ことに異存はないが、既に世界の第17位である同国がトップ10に「なり得る」との記述は、インドネシアのインパクトを十分捉えていない。コロナ禍の下、中進国の中で最も早く年5%台の成長に回復した国の一つであるインドネシアは、2040年代に世界第5位のGDPになる勢いを持っており、更に、インドと共に日本のGDPを抜く可能性のある数少ない国の一つなのだ。

【私の論評】防衛増税し、来年4月から日銀総裁が金融引締派になれば、いずれ日本の賃金は、韓国・台湾・インドネシア以下に(゚д゚)!

日本のGDPを抜く可能性があるのは、インドネシアだけではなく、韓国、台湾にもその可能性ば十分にあります。その中でも、インドネシアは、人口が2.764億人であり、日本の2倍以上もありますから、一人あたりのGDPが人口が1億2千万人日本の半分にもなれば、日本のGDPを追い越すことになります。

韓国も、台湾も人口が数千万人で1億人には、達していませんから、実際には日本のGDPを越すのは難しいでしょう。

日本経済研究センターは昨年、個人の豊かさを示す日本の1人あたり名目国内総生産(GDP)が2027年に韓国、28年に台湾を下回るとの試算をまとめました。この推計自体は、ありそうですが、ただしその原因を行政などのデジタル化が遅れ、労働生産性が伸び悩むことが主因としたのは明らかに間違いです。


それよりも、最大の要因は、平成年間にマクロ経済政策を間違えたことが大きな要因です。仮にこの期間に、デジタル化を推進し、労働生産性を高めることが実施されたとしても、マクロ経済政策を間違えていれば、ほぼ同じようなことになっていたでしょう。

マクロ経済政策の間違いとは、金融緩和すべきときに、金融引締を行い、積極財政をすべきときに緊縮財政をしてしまったということにつきます。

平成年間といえば、日本は深刻なデフレにみまわれていましたが、こういうときには、どのようなマクロ経済政策をとるべきかは、高校の政治経済など標準的で初歩的なテキストに書いてあるとおり、積極財政策、金融緩和策をすることです。

にもかかわらず、平成年間のほとんどの期間を日本は、緊縮財政、金融引き締めをして、デフレを深化させてしまったのです。

この期間に、デジタル化を推進して、労働生産性を高めた場合どうなったでしょうか。その結果は明らかです。デフレを深化させるだけです。

それは、当然のことです。デフレで需要が足りないときに、生産性を上げればどうなるかといえば、供給能力が上がっても需要は増えないわけですから、さらに物価はさがり、デフレが深化するだけです。

このようなことは、少し考えれば、誰でも理解できます。難しい経済理論など必要ありません。多くの民間企業が数々のイノベーションを成し遂げ、生産性が飛躍的に上がったとします。そのときに、日銀が金融緩和をしてこの生産性の向上に見合うように市場での貨幣量を増やさなければ、デフレになってしまいます。

そうして、デフレであっても、金融緩和、緊縮財政を続ければ、需要不足がさらに続くだけであり、生産性を上げる必要性などなく、寧ろデフレが深化した最中に、生産性を高めれば、失業率が増えるだけです。なぜなら、生産性が高まった分の労働力は必要がないからです。

それでも、輸出企業や海外に拠点を持つ企業であれば、デジタル化を推進して、生産性を高めれば、海外で有利な事業展開ができたでしょう。

しかし、輸入企業や、国内の顧客を相手に事業を展開する企業などは、需要不足なのですから、こうしたインセンティブは働きません。そうして、日本は内需大国であり、輸出がGDPに占める割合は12%に過ぎません。多くの企業に生産性向上のインセンティブはなかったのです。さらに、役所などもそうです。ただ、役所の場合は、コロナ禍等により、デジタル化が推進されていないことが目立ってしまったということです。

このような特殊な環境下にあったので、日本では、デジタル化を推進し、労働生産性を高める機運が高まらなかったのです。当たり前といえば、当たり前すぎます。

平成年間に日本がまとなマクロ経済政策を継続していれば、需要は増え、その需要を満たすために、生産性の向上も当たり前に行われたでしょう。

原因と結果の取り違えはよくあることだが・・・・・

よって上の記事は、原因と結果をはき違えているといえます。それにしても、このような簡単な理屈がわからない人があまりに多すぎます。

このような理屈、20年前、10年前までは、理解してない政治家も多かったのですが、多くのまともなエコノミストらが啓蒙活動を継続し続けたおかげで、最近では最初に安倍元総理が理解し、他の議員たちも理解する人が増えました。

日本で最初にマクロ経済政策を理解した安倍元首相

最近の、防衛増税反対運動は、マクロ経済政策を理解した議員たちと、そうではない議員たちの戦いです。理解した議員たちに是非とも勝利していただきたいですが、理解していない議員たちにもこれを理解してほしいものです。

そうでないと、日本はデフレから抜けきっていないにも関わらず防衛増税し、さらに日銀が金融引締に転じることがあれば、またデフレスパイラルのどん底に沈むことになり、そうなれば、また失われた30年、いや50年、100年を繰り返すことになりかねません。マクロ経済政策を理解しない議員たちが多ければ、日本はいつまでもこのリスクに晒されることになります。

実際に、そうなれば、いずれ一人あたりの名目賃金は、台湾、韓国、インドネシアに追い抜かれることにもなりかねません。そうなれば、無論賃金もそうなります。

防衛増税は、それを進める強力な第一歩となります。来年の4月には、日銀の黒田総裁の任期が終わり、日銀新総裁が選出されます。このときに、金融引締派が日銀総裁になり、日銀の金融政策が変わり、金融引締に転ずれば、日本は失われた100年に突入することになりそうです。

そのようなことは、絶対に避けるべきです。

私自身は、今回の増税騒ぎは、結局先延ばしにされるのではないかと思っています。今一番危険なのは、日銀の黒田総裁の後任が誰になるかです。

もし、岸田首相が日銀の後任を明らかに金融引締派の人物を就けるようであれば、本格的な政局になるでしょう。ポスト岸田といわれているのは、今は茂木氏、河野氏、林氏といわれています。この三人はマクロ経済政策の理解度は相当低いです。

そのため、自民党の安倍派などは他の人物をかつぐことになるかもしれません。ただ、誰が総裁になったとしても、安倍派は、総裁や周りの派閥に対しても、増税・金融引締は絶対にするなと因果を含めた上で、それを認めるでしょう。

ただ、安倍派にも様々な考えの議員がいますから、安倍元首相の政策を引き継ぎ、まともなマクロ経済政策を実行し、中国と対峙しようとする議員がそうではない議員から分裂し、他の保守派議員を取り込むという動きもみられるかもしれません。そのようにして、まともな議員で大派閥が作られれば良いと思います。

自民党内では、復興増税の一部を恒久的な所得増税に付け替えようするという、あまりにも国民や被災地の人たちをを馬鹿にしきったぶったるみ増税案を審議しています。岸田首相には、歴代政権で公約せずに増税しようとした政権の末路を思い出して欲しいものです。財務真理教の教義を信じ込んでいる盲目的な信者の岸田首相には無理な話かもしれません。

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2022年12月14日水曜日

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岸田増税〟に財界からも批判続出 賃上げや設備投資に水を差す…首相「国民が自らの責任として対応すべき」発言で炎上 高市早苗氏も厳しく指摘


記者会見する高市早苗経済安全保障担当相=13日午前、東京・永田町
岸田文雄首相が「防衛力強化」「防衛費増額」の財源に、国債発行などを排除して「増税」を打ち出したことへの批判が止まらない。景気に冷や水を浴びせる増税論への異論は、閣内や自民党内、財界にも広がっている。岸田首相が「国民が自らの責任として対応すべき」などと発言したことにも、ネット上で「責任転嫁」「国民に責任を擦り付ける、最低の宰相」などと炎上している。このまま「岸田増税」を強行すれば、内閣支持率はさらに下落しそうだ。

 「間違ったことを申し上げている考えはない。罷免されるなら、それはそれで仕方ない」「再来年度以降の財源の問題なら、賃上げや景況を見極めてからの指示でも良かったのでないか」

 高市早苗経済安全保障相は13日の記者会見で、岸田首相を重ねて批判した。高市氏は増税方針が発表された直後にも、「閣僚も国家安全保障戦略の全文は見せてもらえず。内容不明のまま総理の財源論を聞いたので、唐突に感じた」などと厳しく指摘していた。

 自民党の世耕弘成参院幹事長も13日の党役員会で、「国民が納得、理解の上に、協力してくれるものにしなければならない」と、岸田首相を前にクギを刺した。さらに、自民党が今年7月の参院選公約に増税方針を示さなかったことを念頭に、「公約と整合的なものにしないといけない」とも指摘した。

城内実衆院議員ら自民保守系議員らは同日、国会内で会合を開き、出席者からは「内閣不信任案に値する」「財務省の陰謀」との声があがった。

 増税への批判は財界にも広がった。

 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は13日の記者会見で、「何に使うのかという議論がないまま財源の議論が先走るのはバランスが取れていない」「(政府が検討している法人税増税となれば)企業の賃上げや設備投資に水を差すことはほぼ間違いない」「消費税的なもので国民全体があまねく負担すべきだ」などと述べた。

 こうしたなか、岸田首相は13日の自民党役員会で、「防衛力の抜本強化は安全保障政策の大転換で時代を画するもの。責任ある財源を考えるべきで、今を生きる国民が自らの責任としてその重みを背負って対応すべきものだ」と述べ、冒頭のような炎上をまねいている。

 夕刊フジは先週9、10日、防衛費増額の財源を「増税」で賄うことの是非について緊急アンケートを行った。「絶対反対」と「まず税収増や防衛国債の発行などを検討すべきだ」を合わせて93・4%が反発する結果だった。「聞く力」を信条とする岸田首相の判断が注目される。

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今回の防衛増税、なせやってはいけないのかに関しては、もうあまりにも分かりきっていることなので、高橋洋一氏や田中秀臣氏などの記事が掲載されている、他のメディアに当たってください。特に以下の記事は参考になると思います。
私自身も、防衛増税に関して過去に何度か書いていますので、その記事のリンクを【関連記事】に経済しますので、興味のある方は是非ご覧ください。

さて、とはいいながら、防衛費の増税に関しては、他の国ではどうしているのかは非常に参考になると思います。そのため、ドイツの例をあげておきます。

2022年2月27日。この日、ドイツのオラフ・ショルツ首相が連邦議会で行った演説は「同国を変えた」演説として歴史に残るでしょう。同首相は1990年代の東西冷戦終結以来ドイツが続けてきた「防衛軽視」の姿勢を180度変えて、ロシアの脅威に対抗するため軍備増強の方針を打ち出したのです。同首相は「ドイツ連邦軍を、確実に祖国を守ることができる近代的な軍隊に作り替える」と宣言しました。

具体的には、連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を今年創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達、同盟国との新兵器の共同開発などに充てます。基金の財源は、長期国債を発行して賄います。

ロシア軍のウクライナ侵攻前に決められていた今年の防衛予算は、503億ユーロ(約6兆5390億円)でした。この503億ユーロに特別基金の一部を加えて約1000億ユーロとします。つまり独政府は、2022年に連邦軍に投じる予算をほぼ2倍に増やすことになります。

ショルツ首相はさらに「防衛予算が国内総生産(GDP)に占める比率を2%超に引き上げ、これを維持する」と明言しました。2%は、NATO(北大西洋条約機構)が加盟国に順守を求めてきた最低比率です。ところがドイツの2022年の防衛予算(当初額)のGDP比率は1.4%にとどまっていました。

前任のメルケル政権は、NATOに対して「2024年に2%目標を達成する」と伝えていました。米国のトランプ政権は「ドイツは2%目標をなかなか達成せず、防衛努力が不十分だ。防衛に金をかけず、国防について米国に依存する裏で、ロシアからガスを買って金を払っている」と厳しく批判していました。そのドイツが、2%目標を一挙に達成するどころか、それを上回る水準を維持すると宣言したのです。

防衛予算を今年、約2倍に増やした後、毎年の防衛予算はどの程度になるのでしょうか。ドイツの直近(2021年)のGDP(3兆5710億ユーロ)の2%は714億2000万ユーロです。つまり2023年以降、ドイツの毎年の防衛予算は、2022年の当初予算額(503億ユーロ)に比べて少なくとも約42%増えることになります。

第2次世界大戦の後、ドイツが防衛予算をこれほど急激に引き上げたことは一度もありません。ドイツは東西冷戦の終結後「外国軍による侵略の可能性は低くなった」と認識して防衛を軽視してきたため、装備の近代化が遅れていました。

ドイツ空軍の主力戦闘機「トルナード」は1979年に生産されたもの。それから約45年がたつのですが、後継機種すらが決まっていませんでした。2017年末の時点で連邦軍は93機のトルナードを持っていました。このうち実際に飛べるのは26機にすぎませんでした。

陸軍の弾薬や銃器、装甲兵員輸送車も不足しており、連邦軍がNATOの要請でバルト3国(ラトビア、エストニア、リトアニア)に部隊を派遣する際には、他の同盟国から装備の一部を借りることもあります。

すでに50年近く使われている装甲兵員戦闘車「マルダー」に代えて2019年に配備を始めた「プーマ」280両は、交換部品が不足しており、実戦に投入できるのは全体の30%にすぎない。しかも開発費用は、当初予定の約3倍、7億2350万ユーロに膨れ上がってしまいました。

軍関係者からは、政府の「防衛軽視」に対する不満の声が、ウクライナ危機がエスカレートする前から高まっていました。連邦軍のうち、陸軍を率いるアルフォンス・マイス総監はロシアによるウクライナ侵攻が始まった日、ツイッターに「連邦軍、特に陸軍の装備はほぼ白紙状態。NATOを支援するための能力は極めて限られている」と暴露しました。

連邦軍を退役したエゴン・ラムス元将軍は同日、ドイツ第2テレビ(ZDF)が放映したインタビューの中で「連邦軍は、外国軍による侵略の危険が迫った場合、ドイツを守れるでしょうか」という記者の問いに「守れない」と断言しました。

このドイツの体たらくや、従来の中国に接近する姿勢の両方に対してこのブログでは、「ぶったるみドイツ」と何度か揶揄したことがあります。その記事の代表的なものを以下に掲載します。これは、2018年の記事です。

"
ドイツのメルケル首相(当時)

 詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にこの記事から一部を引用します。ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっています。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したのですが、その有効性は疑問視されるばかりです。

ドイツは“緊縮予算”を続けており、その煽りを受けてドイツの防衛費不足は切迫しています。空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった実態も報告されています。

こうした状況に追い込まれた原因の一つとして、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。



ドイツの主力戦車「レオパルド2」

昨年10月15日、ドイツ潜水艦U-35がノルウェー沖で潜航しようとしたところ、x字形の潜航舵が岩礁とぶつかり、損傷が甚大で単独帰港できなくなったのです。

ドイツ国防軍広報官ヨハネス・ドゥムレセ大佐 Capt. Johannes Dumrese はドイツ国内誌でU-35事故で異例の結果が生まれたと語っています。

ドイツ海軍の通常動力型潜水艦212型。ドイツが設計 建造しドイツの優れた造艦技術と
最先端科学の集大成であり、世界で初めて燃料電池を採用したAIP搭載潜水艦である。

 紙の上ではドイツ海軍に高性能大気非依存型推進式212A型潜水艦6隻が在籍し、各艦は二週間以上超静粛潜航を継続できることになっています。ところがドイツ海軍には、この事故で作戦投入可能な潜水艦が一隻もなくなってしまったというのです。 

Uボートの大量投入による潜水艦作戦を初めて実用化したのがドイツ海軍で、連合国を二回の大戦で苦しめました。今日のUボート部隊はバルト海の防衛任務が主で規模的にもに小さいです。 

212A型は水素燃料電池で二週間潜航でき、ディーゼル艦の数日間から飛躍的に伸びました。理論上はドイツ潜水艦はステルス短距離制海任務や情報収集に最適な装備で、コストは米原子力潜水艦の四分の一程度です。 

ただし、同型初号艦U-31は2014年から稼働不能のままで修理は2017年12月に完了予定ですかが再配備に公試が数か月が必要だとされています。

"

当時のドイツの「ぶったるみ」ぶりが良く理解できると思います。 

さて、ドイツではメルケル氏が所属するキリスト教民主同盟から政権交替があったわけですが、ショルツ現首相が属する社会民主党(SPD)は伝統的に軍備拡張に慎重でした。

ところがショルツ首相は「ロシア軍のウクライナ侵攻によってドイツを取り巻く状況が大きく変わった」として、2月27日に軍備増強の方針を宣言しました。主要閣僚など限られた人々に自分の決意を伝えただけで、連邦議会の各党の院内総務に対する十分な根回しもしない独自の判断だったといいます。ところが演説後、大半の議員は席から立ち上がって、首相の決断に賛意を表したのです。

ドイツは、第2次世界大戦中にナチスが欧州諸国に与えた被害への反省から平和主義が強く、軍や国防について否定的な見解を持つ人が多かったのです。ドイツ人がこれほど急激に防衛政策を変えるのは、戦後始めてのことです。この劇的な変化は、プーチン大統領のウクライナ侵攻が多くの市民に強い不安を抱かせ、プーチン政権の危険性について政府を覚醒させる強い警告となったみえます。

上の記事にもあるように、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。

そのドイツですら、コロナ禍の時は一時的に減税しましたし、上の記事にもあるように、連邦軍のために1000億ユーロ(約13兆円)の特別基金を今年創設して、兵員数の増加、兵器の近代化、装備の調達、同盟国との新兵器の共同開発などに充て、基金の財源は、長期国債を発行して賄うのです。

日本は、安倍・両政権においては、両政権であわせて、100兆円の国債を発行して、補正予算を組み、雇用調整助成金の制度も用いて、経済対策を行ったため、他国がコロナ禍のときには、失業率がかなりあがったにもかかわらず、日本では2%台で推移し、特に失業率が上がるといこともありませんでした。

菅政権は、コロナ病床の確保に関しては、医療村の執拗な抵抗にあい、失敗しましたが、安倍・菅両政権により、驚異的なスピードでコロナワクチンの接種をすすめ、結果として、医療崩壊を起こすことなく、相対的にみれば、大成功だったといえます。このような快挙ですら、マクロ経済オンチの岸田首相や少数派自民党議員には理解できないようです。

そうして、このような実績を持つ安倍元総理は、防衛費増には、長期国債を財源にすべきと主張していたにもかかわらず、岸田首相は増税で賄うと発言したのです。

緊縮が命ともみられる、かつての「ぶったるみ」ドイツですら、覚醒し、長期国債で基金を創設し、それをもとに防衛力の強化を図ろうとしているにも関わらず、日本では増税ですと?

これでは、岸田総理は「ぶったるみ総理」と謗られてもしかたないと思います。はやくこの状態から覚醒していただきたいものです。

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2022年12月13日火曜日

中印の係争地で両軍が衝突、双方に負傷者 同地域では昨年9月にも…依然として緊張が続く―【私の論評】中国の台湾侵攻ファンタジーより中印国境紛争のほうが、はるかに深刻な現実的脅威(゚д゚)!

中印の係争地で両軍が衝突、双方に負傷者 同地域では昨年9月にも…依然として緊張が続く

インド・アルナチャルプラデシュ州の中国国境付近で巡回するインド軍兵士(2012年)

 インド陸軍は12日、北東部アルナチャルプラデシュ州の中国との係争地で9日に印中両軍が衝突し、双方に負傷者が出たと明らかにした。銃器は使われず、いずれも軽傷とみられる。既に両軍とも現場から離れた。インドメディアによると、負傷者はインド側が少なくとも6人、中国側は十数人という。

 現場は標高約5000メートルの高山地域。インド側は、中国人民解放軍の兵士300人超が侵入しようとしていたのを阻止し、小競り合いになったと主張している。この地域では昨年9月下旬ごろにも衝突が起きた。

 中印は複数の係争地を抱える。2020年6月に中国チベット自治区とインド北部ラダック地方の係争地で両軍が衝突した際には、約45年ぶりに死者が出た。一部地域では両軍の撤退が実現したが、依然として緊張が続いている。

【私の論評】中国の台湾武力侵攻ファンタジーより中印国境紛争のほうが、はるかに深刻な現実的脅威(゚д゚)!

インド北東部のアルナチャル・プラデシュ州で9日、棍棒やスタンガンで武装した200人以上の中国軍兵士と「それ以上の何か」で武装したインド軍兵士が衝突したと報じられていました。

インドと中国は2020年に国境が未確定のジャンムー・カシミール州ラダック地域で何度も衝突、中印国境紛争(1962年)以来の大規模衝突に発展する可能性を秘めていたものの、両国の粘り強い交渉で緊張緩和に成功(対立の根本的な原因は解消されていない)していましたが、現地メディアは「インド北東部のアルナチャル・プラデシュ州で9日、棍棒やスタンガンで武装した200人以上の中国軍兵士と『それ以上の何か』で武装したインド軍兵士が衝突して双方に負傷者が出た」と報じていました。


両軍がにらみ合いを始めた当初、200人の中国軍兵士に対してインド軍兵士は僅か50人だったのですが、直ぐに敵を上回る「何か」もった増援が到着して中国軍兵士を圧倒、インド当局は「味方に骨折を含む15人の負傷者が出たが中国軍側の負傷者はそれ以上だ」と述べたとされています。

因みに両軍の衝突原因についてインド当局は「前線に沿って配置された一部部隊の変更に伴い、中国軍側が自軍の優位性を見せつけようとしたため」と述べていますが、棍棒やスタンガンを「上回る何か」が何なのか気になるところです。

中印両国は昨年2月、ヒマラヤ西部の国境紛争地の一部からの軍の引き揚げで合意しましたが、その後の撤退交渉は停滞し、むしろ軍拡の動きが強まっていました。同年6月28日付ブルームバーグによれば、インドは同年6月までの数カ月間に部隊と戦闘機中隊を中国との国境沿いの3地域に移動させたといいます。

注目すべきはインドの対中軍事戦略の大転換です。インド軍の係争地駐留はこれまで中国側の動きを阻止することを目的としていましたが、この兵力再配備により「攻撃防御」と呼ばれる戦略の運用が可能となり、必要に応じて中国領への攻撃や占拠を行うことができるようになりました。

インド側の軍事力増強は中国側の動きに触発された可能性があります。インドによれば、中国人民解放軍は当時、係争地の監視を担当する軍管区にチベットから追加兵力の配備を行うとともに、新滑走路や戦闘機を収容するための防爆バンカーを整備し、長距離砲や戦車、ロケット部隊、戦闘機などを追加投入しているとされていました。

中国はなぜ急速に軍拡を進めたのでしょうか。一昨年の両国の衝突で中国側の犠牲者は、インド軍の20人を上回る45人だったとの情報があります(中国政府の公式発表4人)。一連の戦闘でも軍事力に劣るインド軍が終始優勢だったとの観測もあります。中国側に「捲土重来」を果たさなくてはならない事情があったのかもしれません。 

国境に配備された両軍の兵士は昨年時点で約20万人で、一昨年に比べて40%あまり増加したといわれています。このような両軍の軍拡の状況について、インドの軍事専門家は「国境管理の手順が壊れた現在の状態で両国が多くの兵士を配備するのはリスクが大きい。現地での小さな出来事が不測の事態を招く可能性がある」と危惧の念を隠していませんでした。

軍拡の動きはヒマラヤ西部ばかりではありません。チベットに隣接するヒマラヤ東部で中印両国は、軍隊の迅速かつ大量輸送が可能となる鉄道の建設に躍起になっています。中国は昨年7月1日、四川省とラサをつなぐ鉄道(川蔵鉄道)の一部区間を開通させました。これにより軍隊の移動が容易になりますが、この鉄道はインドのアルナチャルプラデシュ州との国境沿いを走っているため、インド側の警戒は尋常ではないといいます。

インドも対抗上、アルナチャルプラデシュ州と西ベンガル地区とを結ぶ鉄道を建設中です。難工事であることから完成時期は何度も延期されていますが、2023年はじめまでになんとしてでも完成したいとしています。緊張の高まりを受けて、インドが主導する形で両国間の外交交渉が始まっていました。

インドのジャイシャンカル外相は昨年7月14日、中国の王毅外相と会談し、「両国が昨年の合意にもかかわらず、ヒマラヤ山脈西部の国境紛争地帯での対立が解決できていないのはどちらにとっても利益にならない」との見解を示しました。インド国防省は7月末に「チベット地域における自国軍と中国軍との間にホットラインを設置した」と発表しました。

しかしインドの専門家は「中国はインドとの軍事衝突を利用して国民の不満をかわす可能性がある。ワンマン支配となった中国との平和的共存はない」と悲観的です。このように中印間でかつてない規模の軍事衝突が起きるリスクが高まっている最中で、今回の両軍が衝突したのです。

地政学車のブラーマ・チェラニー氏は、昨年中印国境から目を離すなと警告していました。

中国軍とインド軍は、国境地帯での衝突から2年を経てにらみ合いを続けています。この紛争の存在はウクライナ戦争によってかすんでいるかもしれないですが、両軍は軍備増強を進めています。

オースティン米国防長官は昨年6月にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議で、「中国が国境沿いの陣地を強化し続けている」と警告しました。両軍とも数万人の部隊が対峙していることから、戦争まではいかなくとも、小競り合いが再び発生するリスクはかなりあります。

2020年6月15日の両国軍の衝突は、一連の小競り合いの中で最も血なまぐさいものでした。当時、インドは世界で最も厳しい新型コロナウイルス対策の都市封鎖に気をとられていました。中国はそのすきを突くようにインド北部、ラダック地方の国境地域に侵入し、強固な要塞を建設しました。

この予想外の侵入は中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席による巧妙な計画ではなかったようです。中国は楽勝するどころか、中印関係をどん底に突き落としました。国境危機によりインドの大規模な軍備増強を不可避にしました。

20年6月の衝突は残忍さでも際立っていました。96年の2国間協定により両国の兵士が国境地帯で銃を使うことが禁止されたことから、中国人兵士は有刺鉄線を巻いた棒などを使い、インド軍のパトロールに攻撃しました。インド兵の一部は殴り殺され、崖から川に突き落とされた兵士もいました。その後インド側の援軍が到着し、中国部隊と激しい戦いを繰り広げました。

数時間の戦闘の後、インドは死亡した兵士20人を殉職者としてたたえましたが、中国はいまだに死者数を公表していません。米情報機関は35人、ロシアの政府系タス通信は45人と推定しています。

国境危機はインドのイメージ失墜にもつながりました。インドは中国軍に不意を突かれ、一部の中国人兵士が領土の奥深くまで侵入することを許したのに何の調査も行いませんでした。インドの国防支出は米国、中国に次いで世界第3位で、陸軍がかなりの部分を占めています。しかしインド陸軍は長年、中国とパキスタンの国境を越えた行動に何度も不覚をとってきました。

中国軍は、氷が溶けて進入路が再開される直前に危険地帯に侵入しました。ところがインド軍は、中国が国境付近で軍事活動を活発化させている兆候を無視しました。この大失態にもかかわらず、インド軍の司令官は誰ひとり解任されませんでした。さらに悪いことに、モディ首相はここ2年間、軍事危機について沈黙しています。

中国は占領したいくつかの陣地から撤退する一方、他の占領地を恒久的な軍事拠点に変えています。習氏が狙っているのは東シナ海や南シナ海と同様、軍事力で威圧をすることにより、戦わずしてインドに勝利することです。世界最大の民主国家であるインドは、民主主義と専制主義の戦いの最前線にいます。中国がインドを威圧して服従させることができれば、世界最大の専制国家がアジアで覇権を握ることになりかねません。

膠着の陰で事態は進展しています。中国は引き続きヒマラヤ地方の勢力図を塗り替えようと、国境地域に624の村落を建設したのです。南シナ海で要塞のような人工島を造る戦略に似ています。

インドとの国境付近では交戦に備えて、新たなインフラも構築しています。最近では、戦略上の要衝であるパンゴン湖を渡る橋を完成させました。さらにブータン国境の係争地にも道路や警備施設を建設。インド最北東部と内陸部を結ぶ回廊地域を俯瞰する、インドの「チキン・ネック(鶏の首)」と呼ばれる弱点を押さえようという狙いです。



その上で中国は、インドに決断を迫ろうとしています。新しい現実、すなわち中国が一部地域を奪った状態での現状を受け入れるか、それとも中国が有利に展開できる全面戦争に突入するリスクを冒すのかという決断です。

中国は1979年にベトナムを侵略した際の戦略的な過ちから学びました。現在はあからさまな武力紛争に突入することは避け、領土獲得も含めて戦略的な目標の達成を段階的に進めています。

既に中国の習近平国家主席は、こうしたサラミ戦略(小さな行動を積み重ね、いつの間にか相手国が領土を失わざるを得ないような戦略)によって南シナ海の地政学的地図を塗り替えてきました。その手法を陸上でも、すなわちインド、ブータン、ネパールに対しても効果的に展開しています。

インドがロシアのウクライナ侵攻を非難しない理由の一つが中国との国境紛争です。両軍がにらみ合っており、いつ本格的な戦闘が起きてもおかしくないです。そんなときにロシアまで敵に回すわけにはいかないのです。

チェラニー氏は中国が繰り返す領土拡張の試みについて、世界に向けて警鐘を鳴らし続けています。中国の暴挙が国際社会から不当に黙認されているという思いがあるとみられます。

確かに中国は、チベットの併合・弾圧でも、南シナ海の人工島基地建設でも、大した代償を科されていません。これではインド国境でも台湾海峡でも軍事力行使は「やり得」だと中国が考えてしまう恐れがあります。最前線に立つインドからの叫びは、世界が抱える最大の安全保障リスクは中国の野心だと思い出させてくれます。

多くの世界中のメデイアでは、台湾有事を頻繁にしかも大々的に扱いますが、このブログでも以前から主張しているように、中国による台湾侵攻は、地政学的に言ってかなり難しいです。ただ、中国が武力で台湾を威嚇したり、場合によっては台湾を破壊することは簡単にできます。しかし、台湾を併合するのはかなり難しいです。

それに比較して、インド国境での中国のサラミ戦術はかなり実施しやすいといえます。中国は、ウクライナでのロシア軍の失敗にも学んでいると考えられます。

大々的に攻めれば、国際的な非難を受けるとともに、敵方の軍隊はもとより国民を含めてこれに本格的に備えることになり、侵略するのはかなり難しくなります。ましてや海で囲まれた台湾はかなり難しいです。

しかし、陸続きのインド領内ならば、サラミ戦術でなし崩し的に侵略できる可能性があります。台湾侵攻はすぐにはできそうにもありませんが、インド攻略なら時間をかけて少しずつでもできます。

これに習近平が目をつけないはずはありません。建国の父毛沢東や、中国経済を伸ばした鄧小平と比較すれば、ほとんど手柄がない習近平が彼らと並び立ち、まだ確実とはいえない、独裁体制を確立するためには、中印国境は、比較的手軽に中国領を広げられて、手柄になると考える可能性は十分にあります。


ましてや、最近はセロコロナ政策で完全に失敗し、権威が落ちつつある習近平は、国民の注意を他に惹きつけ、自らに降り注ぐ火の粉を払い、さらに大きな手柄を得たいと考えるのは、自然な流れです。

習近平は、最初はサラミ戦術で少しずつ領土を増やし、ある時点で、台湾の面積を超えるだけの領土に侵攻し、さらに拡張できる期待も含めてこれを手柄として、独裁体制を確立して、近代中国史において、毛沢東と並び立つ存在になろうと目論むことは、十分あり得ることです。

日本を含めた、国際社会は中印国境紛争に、もっと目を向けるべきです。中印国境紛争を軽く考えていると、多くの国々が不意打ちを喰らうことになりかねません。南シナ海と同じく、安々と中国が領土を広げ、その後結局何もできないということになりかねません。

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