2015年7月17日金曜日

新国立、計画見直しへ 民主政権下密室での“スルー”が高コストに ―【私の論評】「公共工事=悪」の単純な思考では、ままならない新国立競技場問題(゚д゚)!



 新国立競技場の建設費用が2520億円に膨らんでいることが話題になっている。

 建設案が浮上した発端は、2011年2月、超党派による19年ラグビーW杯の際、新国立競技場を8万人収容に改築するという議員連盟の決議だ。11年4月に石原慎太郎氏が東京都知事に再選され、20年東京五輪への再立候補を表明すると、新国立の建設案が具体化した。

 時の民主党政権はこの動きを後押しした。文部科学省は新国立競技場建て替えの調査費を予算要求し、12年度予算に盛り込んだ。12年3月、文科省の天下り団体の日本スポーツ振興センター(JSC)で、森喜朗氏(自民)、鈴木寛氏(民主)、遠藤利明氏(自民)らの国会議員、石原都知事、建築家の安藤忠雄氏らをメンバーとし、元文科事務次官の佐藤禎一氏を委員長とする有識者会議を慌ただしくスタートさせた。

 これには、文科省も奥村展三文科副大臣を出席させるなど、相当な力を入れていた。その会議と並行して、12年7月にコンペ実施、11月にデザイン決定となっている。

 この間の文科大臣は、予算要求が中川正春氏、予算化は平野博文氏、デザイン採用は田中真紀子氏といずれも民主党政権下だ。特にデザイン採用では、予算が1300億円となっていたが、競技場の屋根の特殊なキールアーチ構造がコスト高になるという点について、専門的な知見のある人は皆無だったのが痛かった。しかも、民主党政権下での有識者会議は非公開になっており、この密室作業によって、外部からの専門的な指摘もなく、大きな判断ミスを犯してしまった。
 要するに、民主党政権下の初期段階で、コスト計算の専門家がいなかったこと、情報公開をせずに密室で決定したことが致命的なミスだ。その時点で都市計画や五輪招致立候補ファイルなどは既に決定済みであった。当時のスケジュールでは、デザイン決定後に、基本設計・実施設計で約2年、実施設計と同時に解体工事、その後、建設工事で3年半。19年ラグビーW杯にはギリギリというタイトなスケジュールだった。

 その後、政権交代があり、安倍晋三政権では、民主党時代に決まったデザインで五輪招致を行った。それと同時並行していた基本設計で、コスト問題がようやく発覚したのだろう。13年9月、20年の東京五輪が正式決定した後、コスト増の問題が表面化した。

 それからのゴタゴタはご存じのとおりだ。今の段階でのデザインの大幅な変更などは、もともとタイトなスケジュールなので、物理的にも厳しい。プロジェクト・マネジメントの観点からも、事故のリスクを考慮する必要がある。

 政府はここにきて、建設計画を見直す方向で調整していると報じられたが、膨らんだ費用は文科省の予算の枠内で対応するしかない。といってもキールアーチの基本構造がコスト高になるという話では、すべての建設費高騰を説明できない。これから、地道にコストアップ要因を取り除く作業が必要だ。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】「公共工事=悪」の単純な思考では、ままならない新国立競技場問題(゚д゚)!

最初この新国立の経費がかかりすぎというニュースを聴いたときには、ほとんどの人が絶対反対という立場だったので、なぜかと思いました。

確かに、高い建築費というのは問題ですが、マスコミから一般人まで多くの人が大反対していて、何やら嫌な感じがしました。なぜかというと、やはりまだまだ「公共工事=悪」というイメージが多くの人に根付いていることが懸念されたからです。

確かに過去のバブル期などの公共工事は、「箱モノ行政」などとも言われ、必要性のないような建物などがどんどん建てられていったというのも事実です。しかし、確かに箱モノ行政は良くないことですが、だからといって、「公共工事=悪」という考えは全くの間違いです。

世の中には、不思議な人たちが大勢いて、国という単位では、お金は「天下の周りもの」であるということを理解せず、国においても公共工事などでお金を使えば、一般家庭と同じように、お金が消えてなくなると信じている人が多いようです。

しかし、国単位ではそのようなことはありません。特に景気の悪い時、ましてやデフレのときなどは、国が公共工事をすることにより、国にお金の流れが生まれ、雇用が生まれ、大勢の人がそれで潤い、経済活動が活発になります。

そうして、経済活動が活発になると、経済が成長して、お金が循環して、税金という形で、政府にまたお金が戻ってきます。過去の中国などは、国内のインフラ投資をして、あれだけの成長をしてきました。

実際、道路や、港湾、建物、電気、上下水道などのインフラがあまり整備されていないときに、これらを実行すると、従来は住むことができなかったところまで住めるようになったり、物流が活発になったりして、経済が発展します。ただし、インフラ整備だけやっていても、いずれは限界が来て、今日の中国のようになってしまいます。

中国の典型的な箱モノ行政によって各地に林立する鬼城と呼ばれる無人の高層住宅
しかし、公共工事は不況のときには、それを克服するためにカンフル剤として用いられ、数々の成功事例があることも事実です。

そうして、「インフラ投資=公共工事=悪」この考えが、いかに過去の日本の多大な悪影響を及ぼしてきたか、枚挙に暇がありません。デフレだというのに、過去の政府は緊縮財政をして、日銀は金融引き締めをひたすら続けるという愚行を繰り返し、過去20年にわたり日本はデフレから脱却することなく、とんでも無い状況に陥ってしまいました。

昨年は、8%増税を実施して、せっかく金融緩和によって、経済が浮揚しつつある日本の経済に甚大な悪影響をもたらしてしまいました。

この傾向は、政権交代前の自民党の頃からそうだったのですが、民主党が政権与党となった、政権交代のときの選挙では、民主党は「コンクリートから人」へというキャッチフレーズをぶち上げ、緊縮財政を宣言し、ただでさえ疲弊している土木・建築業界に追い打ちをかけました。

そのためもあってか、バブル期までは星の数ほどあったこの業界は、半分ほどにまで数が減ってしまいました。だから、今の日本では、公共工事を増やすとすぐに景気が回復するという状況ではなくなってしまいしまた。公共工事を多く実施しようにも、請け負う会社が半減したので、できない状況、すなわち、今の日本には公共工事の供給制約があってできない状況になっているのです。


上の高橋洋一氏の記事には、この公共工事の供給制約があるという状況そのものが、新国立競技場の建築費の高騰の原因の一つにもなっていることは掲載されていませんでした。しかし、私はこの供給制約が高騰の一つの原因にもなっていることは間違いないと思います。無論、それがどの程度であるかまでは、専門家ではないのでわかりませんが、間違いないと思います。

新国立競技場のデザインが決定された当時からみると、円安傾向ですから、輸入建築資材は当然のことながら値上がりしたでしょうし、供給制約により人件費も当時からみれば当然跳ね上がっていることでしょうし、これに、上記で高橋洋一氏が主張しているように、「民主政権下密室での“スルー”」が、さらに高コストに拍車をかけとんでもない高騰につながっているのだと思います。



それにしても、民主党は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げつつ、実際政権与党のときには、緊縮財政を続け、金融緩和のための舵とりをすることもなく、その一方で、新国立競技場のデザインでは「民主政権下密室での“スルー”」で後に禍根を残すなどとんでもないことをしたと思います。

新国立競技場の建築をめぐっては、上記のような複雑な事情がからんでいます。家庭の主婦感覚で、ただ単純に変更することが正しいと考えるのは間違いだと思います。

この問題の解決には、積極財政推進の側面からのアプローチ、公共工事の供給制約の観点からのアプローチという二方向から検討は欠かせません。

公共工事を単純に悪とみなすとか、デフレのときに金融緩和をすると、ハイパーインフレになるとか、経済成長の前に財政均衡を果たすために増税すべきとか、そういう考えしか浮かばない単純な思考では、この問題は解決できません。

上で述べたことを総合的に勘案して、実際にどうするのか、安倍政権の冷静な判断に期待したいです。とはいいながら、時間も限られていることですから、解決方法には限りがあると思います。しかし、持てる時間の中で次世代の日本を予感させる素晴らしいものになるものにしていただきたいものです。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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