2018年7月6日金曜日

中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!

中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明
いよいよ米国と真正面から激突へ



ドナルド・トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席

 中国の習近平国家主席が、グローバルな統治体制を主導して、中国中心の新たな国際秩序を構築していくことを宣言した。この宣言は、米国のトランプ政権の「中国の野望阻止」の政策と正面衝突することになる。米中両国の理念の対立がついにグローバルな規模にまで高まり、明確な衝突の形をとってきたといえる。

 習近平氏のこの宣言は、中国共産党機関紙の人民日報(6月24日付)で報道された。同報道によると、習近平氏は6月22日、23日の両日、北京で開かれた外交政策に関する重要会議「中央外事工作会議」で演説して、この構想を発表したという。

 この会議の目的は、中国の新たな対外戦略や外交政策の目標を打ち出すことにあり、これまで2006年と2014年の2回しか開かれていない。

 今回の会議には、中国共産党政治局常務委員7人の全員のほか、王岐山国家副主席や人民解放軍、党中央宣伝部、商務省の最高幹部らも出席した。出席者には中国の米国駐在大使も含まれており、超大国の米国を強く意識した会議であることをうかがわせる。

これまでよりも指導的な立場に立つと表明

 習主席はこの会議で「中国は今後グローバルな統治の刷新を主導する」と宣言し、「国際的な影響力をさらに増していく」とも明言した。中国独自の価値観やシステムに基づいて新たな国際秩序を築くと宣言している点が、これまでの発言よりもさらに積極的だった。

 習氏の演説の骨子は、以下のとおりである。

・中国はグローバルな統治を刷新するための道を指導していかねばならない。同時に、中国は全世界における影響力を増大する。

・中国は自国の主権、安全保障、発展利益を守り、現在よりもグローバルなパートナーシップ関係の良い輪を作っていく。

・中国は多くの開発途上国を同盟勢力とみなし、新時代の中国の特色ある社会主義外交思想を作り上げてきた。新たな国際秩序の構築のために、中国主導の巨大な経済圏構想「一帯一路」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」をさらに発展させる。

・中国主導の新しいスタイルの国際関係は、誰にとっても「ウィン・ウィン」であり、互恵でなければならない。

 習近平主席のこの新たな対外政策演説は、今後、中国がこれまでよりも指導的な立場に立って、新しい国際秩序を築いていくことの方針表明だといえる。具体的には「社会主義」という言葉を明確に打ち出しており、米国が主導して構築してきた現在の国際秩序とは異なる「グローバルな統治」を目指すことが明言されている。

 だが、中国が構築しようとしている新たな国際秩序には、従来の米国主導の国際秩序にみられるような人権、自由、法の統治という普遍的な価値は明記されていない。中国は「社会主義」という標語の導入で、独自の国際秩序システムを推進しようとしているのだ。

米国の指摘に「その通り」と応じた中国

 米国のトランプ政権の中国認識を改めて確認すると、明白な対決の構図が浮かび上がる。トランプ大統領自身が2017年12月18日に発表した「国家安全保障戦略」での中国に関する記述には、以下の内容があった。この国家安保戦略は、中国を米国主導の国際秩序への最大の挑戦者として特徴づけていた。

・中国はインド・太平洋地域で米国に取って代わることを意図して、自国の国家主導型経済モデルを国際的に拡大し、地域全体の秩序を中国の好む形に変革しようとしている。中国は自国の野望は他の諸国にも利益をもたらすと宣伝しているが、現実には、その動きはインド・太平洋地域の多くの国の主権を圧迫し、中国の覇権を広めることになる。

・ここ数十年にわたり、米国の対中政策は、中国が既成の国際秩序に参加することを支援すれば、中国を自由化できるという考え方に基礎をおいてきた。だが、この米国の期待とは正反対に、中国は他の諸国の主権を侵害する方法で自国のパワーを拡大してきた。中国は、標的とする他の諸国の情報をかつてない規模で取得し、悪用し、自国内の汚職や国民監視をも含む独裁支配システムの要素を国際的に拡散してきた。

・中国は米国に次ぐ強力で大規模な軍隊を築いている。その核戦力は拡張し、多様化している。中国の軍事近代化と経済拡張は、大きな部分が米国の軍事や経済からの収奪の結果である。中国の急速な軍事増強の主要な目的の1つは、米国のアジア地域へのアクセスを制限し、自国が行動の自由を獲得することである。

・中国は他の諸国を中国の政治や安保の政策に従わせるために、経済面での報酬や懲罰を使いわけ、秘密の影響力行使工作や軍事力の威嚇も行っている。インフラ投資や貿易戦略は地政学的な野望の手段となっている。南シナ海での拠点の建造とその軍事化は、他国の貿易のための自由航行に危険を及ぼし、主権を脅かし、地域の安定を侵害する。

 米国政府は中国に対してここまでの警戒や懸念を表明してきたのである。これまで習近平政権はその米国の態度に対して、正面から答えることがなかったが、今回の対外戦略の総括は、その初めての回答とも呼べそうだ。つまり、米国による「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」という指摘に対し、まさにその通りだと応じたのである。米国と中国はますます対立を険しくしてきた。

【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!

上の記事を簡単にまとめると、中国は、米国の作った戦後秩序に対する挑戦をすると指摘しています。大筋で正しい見方であると思います。

安全保障関係については、中国の軍備増強、海洋進出に対抗し、抑止力等を強めることが重要で、習近平の演説などを特に気にすることはありません。

アジア・インフラ投資銀行については、中国は、IMF、世銀、アジア開発銀行の活動と競合しようとしていて、IMFの融資条件を無意味にしています。

アジア・インフラ投資銀行は、中国主導で、他の加盟国の投票権は決定的ではなくなるでしょうから、出資のみして、影響力を行使できません。だからこそ、日米は加入しません。本来、他の先進国も加入すべきでないです。

中国は、世界を階層的に捉え、そのトップにいたいと考えていることは上の習近平の演説に垣間見えますが、これは米国主導秩序の改革などよりはるかに大きな話です。

中国共産党、習近平が何をしようとしているのかは、よくわかりません。中国は、かつてのソ連のように共産主義を広めようとしているわけでもありませんし、民族主義で中国を豊かにかつ強くするという単純な目標を追求しているように思われます。ただ、中国は多民族国家で、漢民族主義だけでは諸問題が出てくるでしょう。

中華思想の概念図

中国が世界を支配するという中華思想は古代から存在していました。現代中国も、『民族の偉大なる復興』というスローガンを掲げて、現代中国の政治と外交はいまだ『中華思想』によって突き動かされているようです。

その証左として、習近平国家主席は2013年の就任以来真っ先に周辺国外交を重要視し、その理念として習主席自身の考えとして「親・誠・恵・容」の四文字を掲げています。

ここで「親」とは、周辺諸国に親しみ親切にしてあげるということ。「誠」とは周辺諸国に対して誠意を持って接するということです。

「恵」とは主に経済分野の話であり、周辺諸国に経済的な「恵」を与えることによってその発展と繁栄に貢献するということです。最後の「容」は、周辺諸国に対して寛容な態度で臨み、各国の立場を「包容」するということです。

しかしこれらは、時代錯誤の、上から目線の外交的マスターベーションに過ぎません。そしてその外交理念は中国の伝統思想としての『中華思想」から来ていると考えられます。

上から目線の習近平

先の「中華思想の概念図」からもわかるように、中華思想では、世界の中心に文化的・道徳的優位性において世界の頂点に立つのが中華があり、これは「天子」と呼ばれる中国高弟の支配下の世界のことです。

そして中華の周囲にはいわゆる「東夷・西戎・南蛮・北狄」と呼ばれる未開の民が生息していて、彼らは中華文化からの影響を十分に受けていないがゆえにいまだに文明化されていない「化外の民」とされています。

そこで中華皇帝はまず「徳」をもって彼らに接し、中華の道徳倫理と礼儀規範を持って彼らを感化させ、やがて彼らが文明開化して中華世界の一員となっていくのです。

その際に徳を持って化外の民を感化し彼らを中華世界へと導くことは中華高弟の偉さの照明であり、感化される化外の民が多いほど中華皇帝は「真の天命」を受けた偉大なる皇帝として評価されることになります。

ところがこの中華秩序におけるその「支配」とは実は形式上のものでよく、諸国は中華王朝とその皇帝に対して「臣下」としての礼儀さえきちんと守っていれば良いという程度のものでした。

だから「臣下の礼」の最たるものとして諸国に求められたのは皇帝に対して定期的に貢物をもってご機嫌伺いに来ることで、いわゆるこれを「冊封体制」といいます。



そしてその形式さえとってくれれば皇帝は持ってきた貢物の何倍もの価値のあるものを与えるのであって、つまりは経済的合理性ではなく形式を整えることが大事だったのです。

その数が多ければ多いほど、皇帝の徳が証明され本物の天子として認められ、その権威が不動のものになるということで、そしてそれに逆らう国があれば、当然ほうっておくわけには行かず頑迷で野蛮な国は征伐をしなくてはなりません。
 
しかし力関係が逆転しているような国があれば、実際には無視したり逆に経済的に援助をして懐柔するといった行動をとるときもあります。つまりこのような「中華秩序」というのは、実態と虚構がないまぜになった、本音と建前が混合している奇妙な国際関係とも言えるのです。

中国の歴代王朝にはそうやって国力がまだ満ちてもいないのに周辺国を征伐に向かい国力を落として内乱で滅びたものがいくつもありました。結果として王朝を滅ぼしても守らなくてはならないしそうしなければ認められないのが中華秩序であり、今日の中国でもこの覇権主義的思想は忠実に受け継がれていると見るべきです。

アメリカはオバマ政権までは、中国の野望を聞き流してきましたが、そのためアジアの軍事バランスは大きく中国に傾いてきました。いわばアジアに局地的な冷戦秩序ができつつあるともいえます。

だから戦争のリスクがすぐ切迫しているとはいえないですが、北朝鮮の崩壊などでバランスが大きく崩れたときは危険です。日本の安全保障で重要なのは、このような軍事バランスを維持することです。

無論そのために、安倍総理は「安全保障のダイヤモンド」という構想を立案し、それに向けて外交努力を続けてきました。

今や中国は、「中国は年来の国際秩序に挑戦し、米国側とは異なる価値観に基づく、新たな国際秩序を築こうとしている」と臆面もなく主張し、これに応えるように、米国は中国に対して貿易戦争を仕掛け、それに対して中国も応酬しようとしています。

日本をはじめとした先進国は、様々な利害の衝突もありますが、それにしても中国による世界秩序に対して譲れない部分があるはずです。特に、民主化、経済と政治の分離、法治国家化という概念は、絶対に譲れないところでもあります。

そうして、この部分が何が何でも譲るべきではありません。中国が、チベット、ウイグル、内蒙古、満州などの本来の外国の領土であるところを除く自国の本土のみで、中国の価値観を実現するのはある程度許容できるところもあるかもしれません。

しかし、現在は19世紀ではなく、すでに21世紀です。現在に至るまで、古代の妄想を引き継いでいるのは、不合理だし、異様でもあります。

そうして一帯一路やAIIBにより、他国にまで中華思想を押し付けるようなことが絶対あってはなりません。さらに、中国人民も中国の体制に虐げられることは本来防がなければならないはずです。

やはり、先進国は、米国と協調して、中国の現体制を崩壊に向かわせるべく努力すべきです。特に、妄想ともいえる、中華思想は必ず打ち砕かなければなりません。

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