2018年7月19日木曜日

なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い―【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!

なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのか
F-35を買わないドイツと、気前よく買う日本の違い

NATO首脳会議開始前の編隊飛行を見上げるNATO加盟国首脳

 トランプ大統領はNATO(北大西洋条約機構)加盟諸国(とりわけドイツやフランスなどEUを牽引する西ヨーロッパ諸国)に対して国防費増額を執拗に要求している。先週のNATO総会でも「NATO諸国が国防費の目標最低値として設定しているGDP比2%はアメリカの半分であり、アメリカ並みに4%に引き上げるべきである」と主張した。

 特にドイツへの姿勢は厳しい。ドイツはNATO加盟国の中でも経済力も技術力もともに高く、実際にアメリカの一般の人々も「メルセデスやBMWのような各種高級機械をアメリカに輸出している先進国」と認識している。そんなドイツの国防費がGDP比1%にすぎないことに対して、トランプ大統領は極めて強い不満を露骨に表明した。

 一方、日本に対する姿勢は異なる。日本はNATO加盟国ではないものの、ドイツ同様に経済力も技術力も高く、アメリカの一般の人々も「自動車や電子機器などをアメリカに輸出している先進国」と認識しており、やはりドイツ同様に第2次世界大戦敗戦国である。このようにドイツと日本は共通点が多いが、これまでのところ(トランプ政権が発足してから1年半経過した段階では)、日本に対しては、「日本の国防費はGDPのたった1%と異常に低い。少なくとも2%、そして日本周辺の軍事的脅威に目を向けるならば常識的にはアメリカ並みの4%程度に引き上げなければ、日米同盟の継続を見直さねばなるまい」といった脅しは避けてきている。

 なぜドイツに対しては強硬に国防費の倍増どころか4倍増を迫り、日本に対しては(これまでのところ)そのような強硬姿勢を示さないのであろうか?

 その原因の1つ(あくまで、多くの要因のうちの1つにすぎないが)として考えられるのが、大統領選挙期間中以来トランプ大統領が関心を持ち続けてきているステルス戦闘機「F-35」の調達問題である。

F-35への関心が高いトランプ大統領

 トランプ大統領は2016年の大統領選挙期間中から、将来アメリカ各軍(空軍、海軍、海兵隊)の主力戦闘機となるF-35の調達価格が高すぎるとロッキード・マーチン社を非難していた。2017年に政権が発足した後は、さらに強い圧力をかけ始めたため、結局、F-35の価格は大幅に値引きされることとなった。

 F-35最大のユーザーとなるアメリカ軍は、合わせて2500機近く(空軍1763機、海兵隊420機、海軍260機)を調達する予定である。トランプ大統領がその調達価格を値下げさせたことにより、国防費を実質的に増額させたことになったわけである。

 このほかにも、トランプ大統領はこれまで数度行われた安倍首相との首脳会談後の記者会見などで、必ずといってよいほど「日本がF-35を購入する」ということを述べている。

 米朝首脳会談直前のワシントンDCでの日米首脳会談後の共同記者会見においても、「日本は(アメリカから)莫大な金額にのぼる、軍用ジェット(すなわちF-35のこと)やボーイングの旅客機、それに様々な農産物など、あらゆる種類のさらなる製品を購入する、と先ほど(首脳会談の席上で)安倍首相が述べた」とトランプ大統領は強調していた。

 要するに、F-35という戦闘機はトランプ大統領にとって大きな関心事の1つなのだ。

F-35の共同開発参加国が機体を調達

 F-35統合打撃戦闘機は、アメリカのロッキード・マーチン社が開発し、アメリカのノースロップ・グラマン社とイギリスのBAE社が主たる製造パートナーとしてロッキード・マーチン社とともに製造している。

 F-35のシステム開発実証段階では、アメリカ政府が幅広く国際パートナーの参画を呼びかけたため、イギリス、イタリア、オランダ、オーストラリア、カナダ、デンマーク、ノルウェイ、トルコが参加した。後に、イスラエルとシンガポールもシステム開発実証に参画したため、F-35は11カ国共同開発の体裁をとって、生み出されたことになる。

 パートナーとして開発に参加した国々は、それぞれ巨額の開発費を分担することになるため、当然のことながらF-35を調達することが大前提となる。要するに、共同開発として多数の同盟国を巻き込むことにより、アメリカ軍以外の販売先も確保する狙いがあったわけである。

 開発参加国は、分担金の額や、調達する予定のF-35の機数などによって、4段階に分類された。最高レベルの「レベル1」パートナーはイギリスであり、F-35Bを138機調達することになっている。

(F-35には3つのバリエーションがあるため、正式にはF-35統合打撃戦闘機と呼称されている。3つのバリエーションとは、主としてアメリカ空軍の要求に基づいて開発された地上航空基地発着用のF-35A、アメリカ海兵隊の要求に基づいて短距離垂直離発着能力を持ち強襲揚陸艦での運用が可能なF-35B、アメリカ海軍の要求に基づき設計された航空母艦での発着が前提となるF-35Cである。このほかにもカナダ軍用にはCF-35、イスラエル軍用にはF-35Iが製造される予定となっているが、基本的にはA型、B型、C型ということになる。)

「レベル2」パートナーはイタリアとオランダであり、それぞれ90機(F-35Aを60機、F35Bを30機)85機調達することになっていた。その後、オランダは調達数を37機へと大きく削減した。

「レベル3」パートナーは、オーストラリア(F-35Aを72機)、カナダ(F-35AベースのCF-35を65機、F-35の大量調達に疑義を呈していたトルドー政権が発足したため、選挙公約どおりにF-35の調達はキャンセルされ、現在再検討中である。)、デンマーク(F-35Aを27機)、ノルウェイ(F-35Aを52機)、トルコ(F-35Aを100機)である。遅れてシステム開発に参加したイスラエル(F-35AベースのF-35Iを50機)とシンガポール(調達内容検討中)は「SCPパートナー」と呼ばれている。

F-35を買わないドイツ、気前よく買う日本

 以上のように、現時点でパートナーである同盟諸国は合わせて600機前後のF-35ステルス戦闘機を購入する予定になっている。

 しかしながらNATOとEUのリーダー的存在であるドイツもフランスも、ともにF-35を購入する予定はない。ドイツ空軍ではF-35に関心を示したことがあったが、F-35推進派の空軍首脳は更迭されてしまった。

 このようにF-35ステルス戦闘機を購入する予定がないドイツに対して、トランプ政権は強烈に国防費増額を迫っている(65機が予定されているF-35の購入をキャンセルしたカナダのトルドー首相とも、トランプ大統領は対立を深めている。)

 一方、NATO加盟国ではないもののやはりアメリカの同盟国である日本は、ドイツ同様にF-35の開発には協力しなかった。しかし、ドイツのメルケル政権と異なり、安倍政権はF-35の購入に積極的であり、すでに42機のF-35Aの調達が決定し、すでに引き渡しも開始されている。F-35開発パートナー諸国以外でF-35の購入、すなわち純然たる輸入を決定した国は日本と韓国(F-35Aを40機調達予定)だけである。

 そして、日本は調達する42機のうち最初の4機を除く38機は日本国内で組み立てる方式を採用した(ただ組み立てるだけであるが)。その組み立て工場(三菱重工業小牧南工場)は、今後世界各国で運用が開始されるF-35戦闘機の国際整備拠点となることが、アメリカ国防総省によって決定されている。

 上記のように「安倍総理が日米首脳会談の席上でF-35の追加購入を口にした」とトランプ大統領が述べているということは、すでに調達が開始されている42機のF-35Aに加えて、かなりの数に上るF-35を調達する約束をしたものとトランプ大統領は理解しているに違いない。首脳会談で一国の首相が述べた事柄は、一般的に公約とみなされる。さらに米軍内では、日本国内で流布している海兵隊使用のF-35Bを調達する可能性も噂として広まっており、アメリカ側では期待している。

 日本はドイツと違って、トランプ大統領が関心を持っているアメリカにとっての主力輸出商品の1つであるF-35を気前よく購入している。したがって、安倍政権がトランプ大統領に対してF-35を積極的に調達する姿勢をアピールしている限りは、トランプ政権も「日本に対して国防費を4倍増しなければ日本防衛から手を退く」といった脅しはかけてこないだろうとも考えられるのだ。

【私の論評】国防を蔑ろにする「ぶったるみドイツ」に活を入れているトランプ大統領(゚д゚)!

なぜ日本は米国から国防費増額を強要されないのかその原因の1つ(あくまで、多くの要因のうちの1つにすぎないが)として考えられるのが、大統領選挙期間中以来トランプ大統領が関心を持ち続けてきているステルス戦闘機「F-35」の調達問題であり、日本は気前よく購入するがドイツは購入しないからだとしています。

では他には、どのような原因があるのでしょうか。本日はそれについて掲載したいと思います。

まず第一にあげられるのが、ドイツと中国との蜜月関係でしょう。メルケル・ドイツは中国との蜜月関係を持ち、それがお互いに大きな利益をもたらしてきました。10年余りの就任期間でメルケル首相が中国を訪問したのは実に9回です。

ドイツと中国との距離を考えると異常な回数です。ちなみにメルケル首相の日本訪問はわずかに3回です。しかもそのうち2回は洞爺湖サミットと伊勢志摩サミットのサミット参加で、残りの1回はエルマウ・サミットに向けた事前調整のためというから、サミット絡みだけといって良いです。メルケル首相の親中のスタンスは明らかです。

ドイツと中国の貿易は拡大し、ドイツ経済の成長の柱となりました。中国は生産拠点としても、大市場としても魅力のある国でした。経済の発展が素晴らしい時には様々な不平等的な問題も隠されてきました。

ドイツと中国は密接なパートナーとして活動し、中国はEU、つまりヨーロッパへの参入権を得た形になりました。しかし、中国経済の成長が鈍ると、問題が噴出してきました。

中国との貿易が停滞しながらも、ドイツ企業は撤退しようにも撤退できにくい状況に置かれています。しかし、中国の企業はドイツの優良企業を買収していきました。中国家電大手の美的集団は、ドイツの産業用ロボット大手クーカを買収しました。

中国との貿易は好調な時には問題が隠されますが、不調になると問題が噴出してきました。中国との貿易拡大で成長してきたメルケル・ドイツは方向転換を迫られています。


そうして、メルケル首相が出した結論は、結局中国寄りのものでした。ドイツのメルケル首相と同国を訪問した中国の李克強首相が9日、会談を開き、200億ユーロ(235億1000万ドル)規模の取引で合意しました。両首脳は米国との貿易戦争が本格化する中、多国間の貿易秩序に関与していく姿勢を強調しました。

これは、11日のブリュッセルでのNATO首脳会談の直前のことです。米国が、対中国貿易戦争をはじめたばかりのこの時期に、ドイツがこのようなことをしたわけですから、トランプ大統領としては、ドイツに対して恨み節の一つも言いたくなるのは、当然といえば当然です。

今回中国側との契約に合意したドイツ企業は、総合エンジニアリングのシーメンス(SIEGn.DE)、自動車のフォルクスワーゲン(VOWG_p.DE)、化学のBASF(BASFn.DE)などです。

メルケル氏は李克強氏との共同会見で、両国が世界貿易機関(WTO)の規則に基づくシステム維持を求めているとし、「すべての国がそのルールに従えば、さまざまな国がウィン・ウィンの状況となるのが多国間の相互に依存するシステムだ」と述べました。 

李氏は、保護主義に立ち向かう必要性を強調し、自国が一段と発展するために安定的で平和的な枠組みが必要で、自由貿易でのみ実現可能と説明。「一国主義に反対する」と述べました。 

ドイツのショルツ財務相は、中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁と、ドイツの銀行に中国金融部門への市場アクセスを速やかに認めることで一致しました。経済紙ハンデルスブラットが、関係筋の話として伝えました。
 
同紙によると、中国政府は、同国内でドイツ企業・団体が近く人民元建て債券を発行できるようになるとも表明したといいます。
 
欧州連合(EU)と中国は今月16、17日に北京で首脳会議を開催しました。メルケル氏は首脳会議について、投資の保護のほか、世界的な貿易紛争の拡大防止につながるよう求めると述べました。

メルケル氏は、中国について「実にタフで非常に野心を持った競争相手」と指摘しました。
李氏は、中国が海外からの投資にさらなる門戸を開くと表明。保険や債券市場を海外投資家に開放する用意があるとし、ドイツ企業が中国で事業を行うに当たり自社技術を失うと懸念する必要がないよう、知的財産権の保護を保証するとしました。 メルケル氏は、中国金融市場の開放を歓迎しましたが、一段の取り組みも求めました。

しかし、現状はG7は中国の横暴に対して、結束すべき状況にあります。それについては、以前のこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の横暴に甘い対応しかとらなかった日米欧 G7は保護主義中国に対して結束せよ―【私の論評】最大の顧客を怒らせてしまった中国は、その報いを受けることに!虚勢を張れるのもいまのうちだけ?
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事の元記事から一部を引用します。
 今月8日から2日間、カナダで先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)が開かれる。鉄鋼・アルミなどの輸入制限を発動した米国に対して欧州が強く反発し、トランプ米大統領が孤立する情勢だが、仲間割れする場合ではない。 
 正論は麻生太郎財務相の発言だ。麻生氏は先に開かれたG7財務相会議後の会見で、中国を名指しに「ルールを無視していろいろやっている」と批判、G7は協調して中国に対し国際ルールを守るよう促す必要があると指摘した上で、世界貿易機関(WTO)に違反するような米輸入制限はG7の団結を損ない、ルールを軽視する中国に有利に働くと説明した。
G7財務相・中央銀行総裁会議の閉幕後、記者会見する
麻生財務相(左)と日銀黒田総裁=2日

 WTOについて自由貿易ルールの総本山と期待するのはかなり無理がある。麻生氏に限らず、経済産業省も外務省もWTO重視で、世耕弘成経済産業相も、米鉄鋼輸入制限をめぐるWTOへの提訴について「あらゆる可能性に備えて事務的作業を進めている」と述べているが、WTOに訴えると自由貿易体制が守られるとは甘すぎる。 
 グラフは、WTOの貿易紛争処理パネルに提訴された国・地域別件数である。圧倒的に多いのは米国で、中国は米国の3分の1以下に過ぎない。提訴がルール違反容疑の目安とすれば、米国が「保護貿易国」であり、中国は「自由貿易国」だという、とんでもないレッテルが貼られかねない。事実、習近平国家主席はスイスの国際経済フォーラム(ダボス会議)や20カ国・地域(G20)首脳会議などの国際会議で臆面もなく自由貿易の旗手のごとく振る舞っている。


 実際には中国は「自由貿易ルール違反のデパート」である。知的財産権侵害は商品や商標の海賊版、不法コピーからハイテクの盗用まで数えればきりがない。おまけに、中国に進出する外国企業には技術移転を強要し、ハイテク製品の機密をこじ開ける。共産党が支配する政府組織、金融機関総ぐるみでWTOで禁じている補助金を国有企業などに配分し、半導体、情報技術(IT)などを開発する。 
 習政権が2049年までに「世界の製造大国」としての地位を築くことを目標に掲げている「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」は半導体などへの巨額の補助金プログラムだらけだ。 
 一連の中国の横暴に対し、日米欧はとにかく甘い対応しかとらなかった。理由は、中国市場でのシェア欲しさによる。「中国製造2025」にしても、中国による半導体の国産化プロジェクトは巨大な半導体製造設備需要が生じると期待し、商機をつかもうと対中協力する西側企業が多い。 
 ハイテク覇権をめざす習政権の野望を強く警戒するトランプ政権の強硬策は中国の脅威にさらされる日本にとっても大いに意味がある。G7サミットでは、日米が足並みをそろえて、欧州を説得し対中国で結束を図るべきだ。米国と対立して、保護主義中国に漁夫の利を提供するのはばかげている。(産経新聞特別記者・田村秀男)
中国の現在の体制では、そもそも民主化、政治と経済の分離、法治国家が十分なされておらず、これらがある程度整備されている日米やドイツをはじめとする先進国との間で、貿易をすると仮に中国にはそのつもりがなかったにしても、構造的に自由貿易にはなりません。

中国は、必ず「自由貿易ルール違反のデパート」にならざるをえないです。であれは、中国も、民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進すればよいのですが、それを推進すれば、中国の一党独裁もとより、最近の習近平の独裁政権は成り立たなくなってしまいます。

それは、ドイツとても同じです。いくら、李克強が口約束をしても、中国はドイツに対しても「自由貿易ルール違反のデパート」にならざるを得ません。中国との関係を維持すれば、ドイツも国益を失います。

こうした中国に対して、米国としては、対中国戦略として、貿易戦争を発動したのです。そうして、この貿易戦争は、中国が現体制をある程度変更してまで、度民主化、政治と経済の分離、法治国家化を推進するか、現体制のままかなり弱体化するかのいずれかが達成できるまで継続されることでしょう。

7月6日、米中貿易戦争が開戦しました。中国内外の多くのメディアが「開戦」の文字を使いました。つまり、これはもはや貿易摩擦とか不均衡是正といったレベルのものではなく、どちらかが勝って、どちらかが負けるまでの決着をつける「戦争」という認識です。

この戦いは、たとえば中国が貿易黒字をこれだけ減らせば終わり、だとか、米大統領選中間選挙までといった期限付きのものではなく、中国が貿易戦争に屈しなければ、米国は次の段階に進み、厳しい金融制裁を課すことになり、どちらかが音を上げるまで長引くでしょう。

この貿易戦争がどういう決着にいたるかによっては、独裁者習近平が率いる中国の特色ある現代社会主義強国なる戦後世界秩序とは全く異なる世界が世界の半分を支配する世の中になるかもしれないですし、世界最大の社会主義国家の終焉の引き金になるかもしれないです。

まさに、米国を頂点とする、日本やEUも含めた戦後の秩序を維持できるか、それとも半分を中国に乗っ取られるかを決める争いであり、軍事力は伴わないものの、世界大戦に匹敵する大戦なのです。だからこそ、トランプ大統領は米国の国防予算を拡大したのです。


オバマ政権で削られた国防予算をトランプ大統領は拡大した

それをドイツが理解しておらず、NATOの首脳もあまり理解していないようです。だかこそ、トランプ大統領は、NATO(北大西洋条約機構)加盟諸国(とりわけドイツやフランスなどEUを牽引する西ヨーロッパ諸国)に対して国防費増額を執拗に要求しているのです。

彼らに対して、現状は彼らが考えているような甘い状況ではなく、世界の半分が中国という闇に覆われるかどうかの天下分け目の大戦に突入したことを理解されるために、あのような発言をしたのです。

その中でもドイツに対して、F-35への関心が高いトランプ大統領がさらに苛立つ実態があります。

何と、ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に“深刻な問題”が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっています。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したのですが、その有効性は疑問視されるばかりです。

ドイツは“緊縮予算”を続けており、その煽りを受けてドイツの防衛費不足は切迫しています。空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などといった実態も報告されています。

こうした状況に追い込まれた原因の一つとして、ドイツを含む欧州連合(EU)には、財政赤字が対GDP比で3%、債務残高が対GDPで60%を超えないこととする「マーストリヒト基準」があり、財政健全化を重視しすぎるとの声が経済専門家の間にはあります。

ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」

一方、ショルツ財務相は、昨年の総選挙で第2党となった中道左派のドイツ社会民主党(SPD)の臨時党首を務めるなど、選挙後の大連立において存在感を示してきたましたが、そもそもSPDは総選挙で戦後最低の得票率となり、野党に転じる予定でした。財務相という重要ポストをSPDが得たのも、大連立をなんとしてもまとめたいメルケル氏率いるCDU・CSUの譲歩と見られています。

自国どころかユーロ圏全域に緊縮財政を突きつけてきたメルケル首相と、じり貧の中道左派の財務相による予算編成に国防予算「2%」はハードルが高すぎたのかもしれません。19年度予算を本格的に議論するのは7月で、国防省はそれまでに防衛費の“改善”を求めていくとしています。

一方日本は、いくら自衛隊の予算が低いといわれつつも、これほど酷い状態にはありません。もともと、日本の経済の規模はドイツより大きいですから、GDP1%であっても、ドイツよりはまともな国防予算なのでしょう。

それに、若干ながら、最近は防衛費を上げています。自衛隊の航空機の稼働率は、米軍よりも高い状態にあります。日本としては、低予算ながら、何とか工夫して、最新鋭の潜水艦を配備したり、準空母ともいえる護衛艦を配備したりしています。

日本の防衛関係費の推移

さらに、日本の安倍政権は、中国に対抗するため「インド太平洋戦略」と称して東南アジア諸国連合(ASEAN)や台湾などと経済、安全保障、外交の3つの分野で関係を強化しています。そもそも、安倍総理は安倍政権成立直前にはやくも、「安全保障のダイヤモンド」という対中国封じ込め戦略を発表しています。これは、米国のドラゴンスレイヤー達も高く評価しています。

いくら中国から地理的に離れているとはいえ、ドイツも含まれる戦後秩序を崩し世界の半分を支配しようとする中国に経済的に接近するとともに、緊縮財政で戦闘機の運用もままならないという、独立国家の根幹の安全保障を蔑ろにするドイツは、まさにぶったるみ状態にあります。ドイツの長い歴史の中でも、これほど国防が蔑ろにされた時期はなかったでしょう。

このような状況のドイツにトランプ大統領は活をいれているのです。ドイツにはこのぶったるみ状態からはやく目覚めてほしいものです。そうでないと、中国に良いように利用されるだけです。

そうして、ドイツを含めたEUも、保護主義中国に対して結束すべき時であることを強く認識すべきです。

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