2020年10月2日金曜日

10万の兵がにらみ合う中印国境、一触即発の恐れも―【私の論評】総力戦になれば長期化し、両国だけの問題では済まず、周辺国を巻き込むのは必至(゚д゚)!

10万の兵がにらみ合う中印国境、一触即発の恐れも

岡崎研究所

 中印の国境紛争は単なる小競り合いなのか、それとも、軍事衝突のリスクが現実のものとなっているのか。今や、軍事衝突のリスクが無視できなくなってきているように見える。


 構図としては中国が攻勢を強めており、インドがこれに強く反発している。中国が攻勢を強めている動機は明らかでないが、ジョンスホプキンス大学SAISのアジア計画責任者Devesh Kapurは、9月13日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘India and China are edging towards a more serious conflict’で、一つの仮説として、中国はチベット情勢を憂慮しているのではないかと言っている。なるほど、6月15日に発生し、インド兵士が20名死亡したと報じられている衝突は、中国チベット自治区に接するインド、ラダック地方にあるガルワン渓谷で起きている。渓谷ではインドが実効支配線のインド側で道路を建設中で、中国はそれを一方的な現状変更とみなし、約8000名の部隊を展開させていたという。インドはダライラマとチベットの亡命政府を受け入れており、中国が圧力を加えようとしたのかもしれない。

 中国が攻勢を強めている第二の理由として考えられるのは、中国が新型コロナをめぐる情勢に乗じて強めている対外攻勢の一環ではないかということである。中国はいち早くコロナ情勢を終息させ、各国がコロナ対策に追われているすきに対外攻勢を強めている。南シナ海における実効支配の強化がその一つとして挙げられている。香港に対する強硬策もそうではないかと見られている。ただこれは推測の域を出ない。

 第三の理由は、インド側による刺激である。インドは実効支配線のインド側で滑走路や道路建設などを進め、軍備増強の布石としている。6月15日のガルワン渓谷での衝突も、中国側が、インド側が道路建設で現状を一方的に変更したとみなし、大規模な軍を動員したことが背景にある。中印いずれも相手が国境の現状を変更しようとしていると考えている。

 ただ、両国政府とも事態の悪化は避けたいと考えており、6月15日の事件以前にも6月6日の中将級会談を初め、高位級実務者会談を数回開いている。6月15日の事件を受けて、9月に入りモスクワで開催された上海協力機構の場を利用して、4日には中印の国防相会談、10日には外相会談が行われ、係争地域の軍事的緊張を緩めるため対話を続け、現地部隊の接触を避けるべきであるとの認識で一致した。しかし、効果は望まれない。それは中印両国が、係争地のラダック地方に両国を合わせ10万人と言われる大規模な軍を集結させていると見られるためである。

 インドでは6月15日の衝突でインド兵20名が死亡したことに対し、対中世論が硬化し、モディ首相に中国に対ししっぺ返しをするよう圧力を加えているという。国境地帯からの撤兵は考えられない。他方、中国も、緊張の原因はインドにあると主張し続けているので進んで撤兵することは考えられない。モディ首相のしっぺ返しがどのような形をとるか分からないが、もししっぺ返しが行われたら中国側は黙ってはいないだろう。

 中印の軍事衝突を避けるために介入するとしたら米国であろうが、いま米国では大統領選挙の最中で、介入どころではない。仮に大統領選挙中でなかったとしても、米国が火中の栗を拾うような介入をするか疑問である。それに現在米中は激しく対立しており、他方でインドとの関係を強化している。米国は米印の間で中立的な立場はとれず、中国が米国の介入を受け入れないのではないか。

 中印併せて10万の兵が係争地帯で目と鼻の先でにらみ合っているのはまさに一色触発の状況であり、誤算が起こりうる。中印の軍事対決は危機的状況にあると言わざるを得ない。

【私の論評】総力戦になれば長期化し、両国だけの問題では済まず、周辺国を巻き込むのは必至(゚д゚)!

今回の紛争の端緒は、中国側によるものであることを示唆する衛星写真が公開されています。

衛星写真は地球の画像を手掛ける企業Planet Labsが衝突翌日の6月16日に撮影。ロイターが入手した写真によると、1週間前と比べ衝突の起きたガルワン渓谷で活動が活発化した様子が見て取れます。樹木のない山沿いとガルワン川の中に機械類設置されているのが見られます。

米カリフォルニアのミドルベリー国際大学院で東アジア不拡散プログラム担当ディレクターを務めるジェフリー・ルイス氏は「写真は中国が渓谷で道路を建設しているほか、川をせき止めている可能性もあるように見える」と指摘。「多くの車両が実効支配線(LAC)の両側にあるが、中国側がはるかに多いようだ。インド側が30─40台で中国側が100台を優に超えている」と述べました。

中国外務省の趙立堅報道官は、現地の状況を詳細に把握していないとしつつ、インド軍が最近の数日間に複数の場所で中国領に侵入したと強調。インド軍は撤退すべきだと述べました。

インド軍は、中国との紛争地域で6月15日夜に起きた同国軍との衝突により、兵士ら少なくとも20人が死亡したと発表しました。死者数は数十年ぶりの規模。中国側は死傷者の詳細を明らかにしていません。

中印の軍事力を比較した表を以下にけいさいしておきます。多少古い資料です。人口は現在は中国がほぼ14億に近く、インドが13.5億です。


グローバル・ファイヤーパワー(Global Firepower)の「2020年軍事力ランキング(2019 Military Strength Ranking)」によると、中国の軍事力は世界3位、そしてインドは4位と肉薄していますが、実際の両国の軍事力の差は大きいです。

両国の人口は他の国を大きく引き離しています。その分、両国とも兵力も多いですが、インド軍の方が兵員は多いです。

航空戦力は3位と4位になりますが、その差は1000機以上もあり、戦闘機の数は中国が倍と航空戦力は中国が勝っています。さらに中国は第5世代のステルス戦闘機(実際は第4世代であると軍事評論家も多い)を保有しており、インドは旧式のMig戦闘機が多く性能的にも分が悪いです。

戦車に関してはインドが多いです。中国の最新は99式、インドはT-90になり、どちらも第3世代戦車です。現在先進国の戦車は3.5世代です。次世代の第4世代戦車は、未だいずれの国も開発に成功していません。

しかし、世界一地形が険しいヒマラヤの山岳地帯では戦車の運用率は下がります。山岳地帯ではヘリが効果を発揮するのですが、中国の方が数は多いです。

艦艇の数は中国が圧倒的に多いです。しかし、両国は国境こそ接していますが、洋上の距離は非常に遠いです。海上戦闘は起こらなそうですが、中国はミャンマー、カンボジア、パキスタンの港の建設支援をしており、これは軍港としての利用を目的としている考えられ、インド洋まで作戦展開できる能力があります。

さらに、先日もこのブログに掲載したように、中国はタイに運河を建設しようと目論んていますが、これができあがれば、中国の艦艇は、マラッカ海峡を通らずに、インド洋に進出できます。こうなれば、中印の海上戦闘も十分起こりうる可能性があります。

軍事予算に関しては中国が圧倒的に上回っています。人件費の違いこそありますが、中国はここ最近、最新の兵器を揃えており、軍事費は年々増加している。その点、インドの兵器は旧式化するなど性能差は大きいです。


インドは中国と合わせパキスタンともカシミールで領有権問題を抱えています。Googleマップでもこの地点の国境線は点線などでぼやかされています。パキスタンとは中国以上に火種を抱えており、過去に4度の大規模な武力衝突を起こしています。

紛争の際、中国はパキスタンを支援しており、もし中印間で衝突が起こった場合はパキスタンが中国に加勢すること明らかです。パキスタンの軍事力は世界15位になり、力は小さくはなく、インドからしてみれば挟撃される形になります。周辺国ではネパール、ブータンはインド寄りですが、両国とも軍事力は貧弱でお世辞にも力にはなりません。

中印で紛争が起こった場合に一番懸念すべきは両国ともに核兵器を持っている点です。そもそも、インドが核兵器を持った理由は1962年の中印国境紛争にあります。この紛争でインドは中国に敗れ、核武装に至ったのです。

そうして、インドに対抗する形でパキスタンも続いて核武装に至っています。このような戦略兵器の点では、中国は米国、ロシアに次ぐ3番目の戦力を誇り、短距離、中距離、潜水艦発射、大陸間弾道ミサイル(ICBM)などのさまざまな弾道ミサイルを生産および配備しています。 

20,000 kmの射程超える東風41は地球上のあらゆる場所を射程に収めています。インドに関しては最も射程が長いBlaze 5ミサイルで範囲は5000〜8000 kmです。こちらもインド北端からであれば中国全土を射程に収めています。戦局によっては戦略核兵器の行使も辞さない可能性は絶対ないとはいえないです。

インド政府は今のところ静観の構えですが、インド国内で中国への反発が急速に高まっているのは確かです。 インド政府が今後米国の動きに応じるようなことになれば、腹を立てた中国がインドに対して懲罰のための軍事行動に出る可能性は十分にあります。

1979年のベトナムへの軍事介入の再来です。 鄧小平は「ベトナムを懲らしめる」と息巻いていたようですが、ベトナムの抵抗に遭い苦い敗北を喫しました。ところが国内では、大規模な戦争を主導したことで確固たる権力基盤を固めたと言われています。

この経緯を習近平が知らないはずはありません。 新型コロナウイルスの蔓延により、米軍の活動が停滞している隙を突くかのように、中国は南シナ海の実効支配の既成事実を図るなど「火事場泥棒」的な動きを強めています。

「新型コロナウイルスと今年夏のスーパーサイクロンのダメージでインド軍は弱体化している」と判断し、兵員を投入すれば、1962年以来の大規模紛争になってしまうかもしれないです。 一方、物理的な衝突によって、インドのモディ首相は中国の影響力抑止に向け国民のさらなる支持を得ることになるでしょう。

インド モディ首相(左)と習近平

人口で世界第1位、アジアでの経済規模第1位の中国と、人口で世界第2位、アジアでの経済規模第3位のインド。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が4月27日に明らかにした報告によれば、昨年の軍事費世界第2位は中国(2610億ドル)、第3位はインド(711億ドル)です。 

日本では台湾や香港、朝鮮半島などに対する中国の動向に関心が高いですが、核兵器を共に有する中パキスタンとインド間の大規模な軍事紛争の勃発リスクについても警戒が必要ではないでしょうか。

結論としては軍事力に関しては中国の方が上で地政学的にも有利です。しかし、両国とも大国なだけに膨大な戦力を擁しており、総力戦になれば長期化し、両国だけの問題では済まず、周辺国を巻き込むのは必至です。このまま、何もないことを願うばかりです。

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