2020年10月20日火曜日

【日本の解き方】菅政権のマクロ経済政策は「第3次補正予算」が当面のポイント 内閣官房参与の仕事と決意―【私の論評】人事の魔術師、菅総理の素顔が見えてきた(゚д゚)!

 【日本の解き方】菅政権のマクロ経済政策は「第3次補正予算」が当面のポイント 内閣官房参与の仕事と決意


菅総理

 菅義偉政権の発足から約1カ月、これまで個別の政策が注目されてきた。コロナ禍からの経済再生で求められるマクロ経済政策はどのようなものになるだろうか。

 マクロ経済政策は、金融政策と財政政策に分けられる。金融政策の実行主体は日銀であるので、政府としては日銀と共通の目標を確認し、実行状況の報告を受け、必要であれば適宜、意見を述べればいい。

 菅政権はアベノミクスを継承しているので、金融政策のスタンスも同じはずだ。実際、菅首相は9月23日、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁を官邸に呼んで会談した。その場で、政府と日銀が十分に意思疎通し、連携していくことを確認した。

 アベノミクスではインフレ目標を設けているので、日銀はその達成に向けて尽力することが全てだが、金融政策のスタンスが菅・黒田会談で改めて確認されたとみていい。

 もう一つの柱が財政政策だ。来年度通常国会前に提出される今年度第3次補正予算がポイントになるだろう。

 安倍政権でのコロナ対応はどうだったのか。経済協力開発機構(OECD)および20カ国・地域(G20)の主要31カ国において、コロナショックでの財政支出の国内総生産(GDP)比をみると、日本はニュージーランド、米国に次いで第3位の高率だ。財政出動のGDP比は、当然それぞれの国のコロナショックに対する経済の落ち込みとも関係するはずなので、経済落ち込みに対する財政出動の割合で、各国のコロナ対応を見ると、日本は31カ国中、ニュージーランドに次いで第2位だ。

 こうした財政出動の結果、日本経済の落ち込みは欧米と比較して軽微になっている。この良い傾向を第3次補正でも維持できるかどうかがポイントだ。

 コロナショックへの対応で財政出動は正しい政策だが、最近、債務増大を危険視する論調が出始めている。例えば、国際通貨基金(IMF)が半年ごとに出している財務モニターでは、各国の債務残高が上昇したので、警戒が必要としている。ただし、その数字はグロス(総額)の債務残高対GDP比であり、ミスリーディングだ。例えば、日本では、日銀が保有している債務残高が半分近くあり、その利払い・償還は実質的にないので、相殺したネット(純)債務残高で見るべきだ。

 なお、私事になるが、筆者は13日付で内閣官房参与に就任した。この身分は一般職(非常勤・諮問的官職)の国家公務員で、役割は内閣総理大臣の諮問に答え意見を述べることだ。

 割り当てられた担当は、経済・財政政策となっている。国家公務員なので、国家公務員法は適用されるが、営利企業の役員等との兼業禁止などは適用除外になっている。その意味で、筆者の仕事は従来通りに行える。内閣官房参与を一般企業で言えば、顧問のような存在だ。

 かつて筆者はキャリア国家公務員だった。その中で数%しか経験しない官邸官僚として退職し、12年ぶりに官邸に戻った感じだ。公務員は公僕であり、国民のためにしっかりやりたいと思う。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】人事の魔術師、菅総理の素顔が見えてきた(゚д゚)!

加藤勝信官房長官は13日の記者会見で、宮家邦彦・立命館大客員教授、高橋洋一・嘉悦大教授ら6人を内閣官房参与に任命したと発表した。宮家氏は「外交」、高橋氏は「経済・財政政策」を担当する。このほかに任命されたのは、「感染症対策」で岡部信彦・川崎市健康安全研究所長。「経済・金融」で熊谷亮丸・大和総研チーフエコノミスト。「産業政策」で中村芳夫・経団連顧問。「デジタル政策」で村井純・慶応大教授。いずれも13日付(13日付朝日新聞)。

この発表を受けて、市場ではやや動揺というかさざ波が立ちました。それはいわゆるリフレ派を代表すると思われるひとり、高橋洋一氏の名前が挙がったためです。ところが、それと同時に、緊縮派で増税推進派である熊谷亮丸も参与に任命されたからです。

熊谷亮丸氏

熊谷亮丸氏といえば、大和総研の専務取締役調査本部長チーフエコノミストです。日本の財政について「政治家を選んできたのは誰なのか。日本は『独裁国家』ではなく、『民主主義国家』である。政治家の質が低下しているのだとすれば、それは日本人の『民度』の低下を映す鏡に過ぎない。象徴的な事例は、国民の間に蔓延する『消費税引き上げ』に対する過剰な拒絶反応である。『民度』を高めること、つまり国民一人一人が『見識』を持たなければ、日本の財政破綻は回避できない」と述べています。また、「日本の『民度』を向上させるために最も重要なのは、個人の能力を高める『教育改革』である」と主張しています。

両方とも、【『消費税が日本を救う』 日本経済新聞出版社〈日経プレミアムシリーズ〉、2012年)】からの引用ですが、これからもわかるように筋金入れの緊縮派、増税推進派です。この方は、とにかくどんな時でも自信たっぷりに「増税すべき」と主張しています。

熊谷氏の増税への熱意は、凄まじいものがあり、彼が増税の必要性について語るときには、一点の曇りもなく、心の底から増税が正しいと信じているような語りぶりです。このような語りをされると、経済に疎い人は、単純に増税は正しいと信じてしまうでしょう。ただし、彼の経済予測はほとんど当たっていません。8%増税のときには、「増税しても日本経済への悪影響は軽微と」語っていました。

ところが、一方はご存知いわゆるリフレ派の高橋洋一氏も参与として任命されています。高橋氏は具体的に数値を元にして、マクロ経済学的に、何がただしいかを力説します。リフレ派といえば、安倍政権時代にも内閣官房参与に浜田宏一氏や本田悦朗氏がやはり任命されていた。いわば高橋洋一氏はこの両者の後任のような格好となるのかもしれません。

2012年末の衆院選での自公圧勝による安倍政権の誕生とともに生まれたアベノミクスと呼ばれた政策には、当然ながら高橋洋一氏らのリフレ派の考え方が採られていました。ただし、リフレ派の考え方とはいいつつも、安倍政権では結局2回も増税され、緊縮財政が実行がされてしまいました。

その安倍政権の官房長官となったのが、現在の菅総理ですが、すでに当時から菅官房長官と高橋洋一氏は頻繁に会っていたとみられています。この意味でもアベノミクスには菅官房長官を通じて高橋洋一氏が絡んでいた可能性は十分に考えられます。

私自身は、この参与の人事に関して、当初危惧を念をいだきました。安倍政権の時は、浜田宏一氏がリフレ政策推進、藤井聡氏は反リフレ(財政中心主義のため増税には反対)でした。菅政権は熊谷亮丸氏は反リフレで、高橋洋一氏は財政担当でリフレ政策推進派です。このアンバランスか後々の安倍政権の時と同じように政策についての間違ったメッセージを市場や国民に与えかねないと感じました。

菅氏が自民党総裁になった際にも将来の消費増税に言及はしていましたが、少なくとも消費減税に言及することはありませんでした。

そうはいっても菅政権は安倍政権を引き継ぐと主張し、それは金融財政政策も同様ということになり、さらにリフレ色を強める可能性も十分にあります。

なぜそのようなことをいうかといえば、今回参与に任命された、菅政権は熊谷亮丸氏は金融担当、高橋洋一氏は財政担当だからです。

さらに、上の記事にもあるように、菅首相は9月23日、黒田東彦(はるひこ)日銀総裁を官邸に呼んで会談しました。その場で、政府と日銀が十分に意思疎通し、連携していくことを確認しました。

この意味するところは、第2次補正でもそうだったように、今後もコロナ対策からコロナ復興に向けて、政府が資金を調達するときに、国債を発行して日銀がそれをすべて購入するという形で、政府が潤沢な資金を得ることができるようにするということです。これは、このブログにも掲載した政府と日銀連合軍が今後も機能することを意味していると思います。

熊谷氏は筋金入の緊縮派の増税主義者ですが、金融に関してはあまり主張することはなく、比較的中立的な立ち位置とみても良さそうです。おそらく、金融に関して提言をするにしても、具体的な根拠をもって提言をして、大きな影響力を発揮するようなことはできないのではないかと思います。

ただし、菅総理としては、筋金入りの緊縮派の増税主義者の熊谷氏に関しては、別の意味で利用価値があります。その一つとしては、筋金入り緊縮派がどのような考えを持っているのか、それを確認できるということです。しかも、熊谷氏の人脈を含めれば、財務省はもとより、日本の財界や、政治学者などの考えを確認できます。

これに関しては、首相補佐官に姉崎氏を起用したこととも相通じるところがあると思います。

内閣官房参与の任命に先立ち、政府は10月1日、首相補佐官に共同通信元論説副委員長の柿崎明二氏を充てる人事を発令しました。柿崎氏は菅義偉総理と同じ秋田県出身で、共同通信政治部記者や、編集委員を歴任し、政策評価、検証を担当します。

首相補佐官とは、政策提言などをするための直属のスタッフで、そのトップは内閣官房長官なのですが、内閣官房には属しません。安倍政権のときに「官邸官僚」という言葉が出て来ましたが、官邸官僚は内閣官房に属さずに官邸にいて、官僚、あるいは官僚的な仕事をします。

総理直属なので、総理の威を借りてということになりがちです。首相補佐官はその官邸官僚の1人で、そのなかでもトップ級になります。まだ明らかにはなっていませんが、柿崎氏は官邸の4階に専用の部屋をもらったと、されています。しかも、給料が良いです。年間約2357万円ということです。共同通信社よりは良いでしょう。かなり力を持ったポジションだと考えても良いと思います。

柿崎明二氏

姉崎氏は毎日新聞から共同通信に転じて、今度は共同通信を退社して首相補佐官になります。つまり、退路を絶っているのです。ということは、将来が約束されている可能性もあります。単純に高給、専用の部屋、秘書、黒塗りの専用車に釣られたのではなくて、将来的にもある種約束され、場合によっては政治家になるという可能性もあるのではないでしょうか。

マスコミ出身者が、政治家、あるいは政治家という経験を経ずに首相補佐官になったというのは初めてです。

姉崎氏の仕事は、「政策全般について評価や検証、さらには改善すべき点について、必要に応じて意見を言う。総理に対して進言や意見具申を行う」ということです。職務内容については、「この範囲のなかでやってください」とペーパーで総理から示されます。

そのなかには、マスコミや世の中、特に左派から批判を受ける、今回の日本学術会議のような、または、森友、加計、桜を見る会等のようなケースもでてくるでしょう。

そのような時に、「柿崎さん、これについて検証、評価をお願いします」と言われると、自分の将来もかかっていますし、あくまで政府側にたって、左派系の人間の考えそうなことは、すぐに思いつくし、それに対する対応法を編みだすこともでき、左派の弱点などを突くこともできます。

菅総理としては、「もりかけさくら」は、もう懲り懲りなのでしょう。そもそも、現在に至るまで、倒閣に結びつくような物証はまだだれもあげられていません。野党やマスコミは「疑惑は深まった」というだけで、結局何もできませんでした。本来「疑惑」や「忖度」だけの曖昧な事柄だけで、人や組織を攻撃することはあってはならないことです。これは、一般社会では許容されないことです。にもかかわらず、実際に国会は振り回され、無駄に時間が費やされ、安倍政権は結局憲法改正等の重要な案件に関する時間をとることができませんでした。

菅総理は、あのようなことが起きた場合には、姉崎氏に対して早めに事態を収拾する方策を考えさせると思います。それ以外の思いも寄らない事態がおきたときも、姉崎氏をあてにできるかもしれません。

就任前後から柿崎氏の酒癖の悪さや怪しい人間関係の話題が週刊誌を賑わせていました。それに関して、「週刊文春」(文藝春秋)に記事にされたとき、柿崎氏は「文藝春秋の記者たちの飲み方を、俺は知ってるぞ」と言ったとの話もあります。

姉崎氏が最初に勤めた毎日新聞社は、転職者が多いことで有名です。しかも、転職して出世する人が多いのです。そのため、姉崎氏がこれまで一緒にいろいろやってきた同業他社の記者たちが、今や各紙の政治部長のポジションにいるのです。

以下は単なる深読みですが、たとえば、違法ではなくても、世間に知られると恥ずかしいことや現代のモラルでは許されないこと等がありますが、柿崎氏の「真の役割」は、メディアに対して「(もりかけ桜のように)政権を批判するなら、お前のあのことやこのことを暴露するぞ」と牽制することもあるのではないかと思います。

まさに、何とかとハサミは使いようという格言通り、姉崎氏は大化けするかもしれません。それに、姉崎氏は59歳です。共同通信に勤務していても、今後は出世する見込みはなかったかもしれません。そこに、菅総理は首相補佐官の人参をぶら下げたのです。

今後姉崎氏が菅総理の期待に応えれば、さらに大きな道がひらけるかもしれません。

菅総理は、これくらいの人事をやってのけるるのですから、筋金入りの緊縮派の増税主義者の熊谷氏を参与に任命し、増税派、緊縮派の動静をうかがったり、これに対応する方策を聞いてい見るということもするかもしれません。

熊谷氏がこれに快く応じて、様々なアイディアを出し、実際それを実行して、増税派や増税派を封じることができれば、熊谷氏には次の人事が待っているかもしれません。そうでなければ、参与止まりでしょう。

高橋洋一氏に対しても、今後もまともな経済政策を提案させて、実際それを実行してみて、経済が上向けば、次の人事で参与より上のポジションを提供するかもしれません。

高橋氏については、ご存知のようにかなり優秀な人ですが、財務省では反緊縮派であったこともあり、高級官僚らには不興を買っていました、そのためもあって、官僚をやめて東洋大学の教授に転じていました。

高橋洋一氏

ところが、2009年3月24日に練馬区の「としまえん」内の温泉施設の脱衣所で、他人のロッカーから現金約5万円入りの財布や、数十万円相当の「ブルガリ」の高級腕時計を盗んだ疑いで、3月30日、警視庁に書類送検されました。結局は起訴はされませんでした。

退職金を受け取ったばかりの元財務省官僚の高橋氏が金に困っていて、わずかな金品を盗むとは考えにくい。しかも、大学教授、著名な言論人であるという社会的地位・名誉をあわせ考えると、そんな軽はずみな行動を取るとは信じがたいです。そのため、陰謀説なども囁かれています。

高橋氏はこの事件で東洋大学を懲戒解雇され、東京地検は起訴猶予処分という判断を下しました。それ以来、高橋洋一氏は嘉悦大学の教授となり、様々な言論活動をしてきました。ただ、政府などの機関で表立った立場では仕事ができない状況となっていました。

高橋氏としては、やはり能力を活かして、具体的にマクロ経済的な施策を実行したいとの希望はあると思います。高橋氏の年齢は65歳です。まだまだ、政治の世界では様々なことができると思います。

私は、菅総理は、この二人を競わせるかもしれないと思っています。うまくいけば、いずれ他の人事が待っているかもしれません。それは姉崎氏の例をみれば明らかです。姉崎氏に関しては、菅総理はこの二人よりは、はやく上にあげて、すぐにでも使いたいと考えたのでしょう。

高橋氏にはさらに上を目指し、できれば現在ではなくなってしまった日本の高度成長を主導した経済企画庁のような組織を新たな創設して、日本で再びまともなマクロ経済政策できるようにしていただきたいです。

もうその時々で、財務省や日銀の意向を気にせざるを得ないような政府ではあるべきではありません。そのようなことよりも、国民に顔を向けた経済政策を日本でも実行できるようにすべきです。

それにしても、菅総理の人事は「内閣人事局がらみの発言」、「日本学術会議人事」、「内閣補佐官人事」、「内閣参与人事」において、真骨頂を発揮しつつあるようです。

大企業においても、まともな企業では考え抜かれた人事が実行されています。その中には、当然一般の社員にはなかなか理解できない人事もあります。しかし、まともな企業であれば、人事発令の裏にはそのような深謀遠慮があるのが普通です。

というより、ある企業のことを深く知りたいと思えば、長期にわたって公表される人事を詳細に調べれば、その企業が何をしようとしているか、他のいかなる情報よりもはるかに知ることができます。

過去に日本経済がかなり落ち込んだ平成年間の中期あたりには、いくつかの企業が総務本部長にかなり有能な人物が選ばれたりして話題になったことがありました。これは、その企業が不況に本格的に立ち向かおうとしていることを雄弁に物語る人事といえます。

経営学の大家ドラッカーは、組織において真に力のあるコントロール手段は、人事の意思決定、特に昇進の決定だといいます。
貢献させたいのならば、貢献する人たちに報いなければならない。つまるところ、企業の精神は、どのような人たちを昇進させるかによって決まる。(『創造する経営者』)

まさに、真に力のあるコントロール手段は、人事なのです。他にも様々なコントロール手段もありますが、しかし人事にまさるものはありません。単純な人事なら、AIにもできますが、政府の仕事に関わる重要な人事はやはり、総合的な観点から人間が行わなければなりません。

このようなことを知ってか知らずか、野党やマスコミなど、人事に関する無責任な発言が多すぎです。人事が最大のコントロール手段であることを考えると、野党やマスコミは今後ますます自らの組織のコントロールが効かなくなり衰退するでしょう。

政府の機関である「日本学術会議」が左翼のゴミ溜めのようになっているのは、どう考えても政府にとって良いことではありません。このような人事を長年にわたって歴代の政権が許してきたこともあり、前川喜平のような非常識な人間が文部次官になってしまうようなことがまかりとおってきたのです。

ちなみに、前川氏は文部省が作成した「天下りに関する調査報告書」に50回も名前が登場しています。無論、天下りに関与した人物としてです。前川氏は退職金も満額(8000万円)もらっています。これは、政府による温情的な措置であることが非常識な前川氏には理解できていないようです。私は、このような人物は懲戒免職したほうが良かったと思います。

そういった意味では、菅総理は人事が真のコントロールであることを熟知しており、人事の魔術師と呼ぶにふさわしいかもしれません。今後どのような人事をしていくのか、注目です。

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