2020年10月23日金曜日

EUが対中政策を再考、台湾との関係は深化するのか―【私の論評】台湾は、中国の全体主義への砦として、日米欧その他価値観を共有する国々にとって最重要拠点になった(゚д゚)!

EUが対中政策を再考、台湾との関係は深化するのか

岡崎研究所

 9月19日付の台湾の英字紙Taiwan Newsは、中国が世界中、とりわけ最近は欧州で厳しい目を向けられている状況は、台湾と西側民主主義諸国との関係を強化する千載一遇の好機である、とするDavid Spencer(在台湾コンサルタント)の論説を掲載している。


 たしかに、最近のEU諸国と中国との関係の悪化とは裏腹に、EU諸国と台湾との関係はより良好かつ緊密になりつつある。ただし、このような EU諸国と台湾との関係改善の傾向がさらに強化されるかどうかについては、今後、関係各国が台湾との具体的関係をどのように展開させるかにもかかっているので、過度の楽観は禁物であるといえよう。

 9月14日付の仏ル・モンド紙に寄稿した9人の専門家(学者、元政治家を含む)たちが、最近、ますます攻撃的になり、かつ独裁色を強める中国に直面して、欧州は台湾の民主主義を擁護するため行動をとるようにと呼び掛けた。この寄稿文は、これまで欧州は台湾についての中国の主張を追認してきたが、最近、とくに香港をめぐり、国際ルールを平然と無視する中国の動きを見て衝撃を受け、EU諸国にとって対中国、対台湾政策を再考すべき時期に来た、と述べている。

 それだけ香港への「国家安全法」の適用は、香港に2047年まで保証されるはずだった「一国二制度」を抹殺するものとして、大きな影響を欧州諸国に及ぼしていることを意味する。

 さらに、チェコ上院議長一行の台湾訪問団について、中国の王毅外相がチェコは「重い代価」を払うことになる、と恫喝したことは、EUの人々にその傲慢さを強く印象付けたことになる。その他、新型コロナウイルスへの中国の対応やWHOの対応の過ち、ウイグル、チベット等における人権無視、東シナ海・南シナ海を含む周辺海域における独善的拡張主義などはEU諸国に対し、台湾との関係見直しの材料になってきた。

 欧州諸国と中国の関係を見るとき、欧州から見て、中国は経済面で重要性をもっていたが、外交、安全保障面での関係は二の次と見られることが多かった。2008年のリーマンショク等の金融危機直後の欧州は中国からの投資を必要とした時期があった。しかし、その後の過去10年の間にEU諸国と中国の経済関係には大きな変化があったといえる。

 なお、欧州諸国の中では、中国との緊密な経済関係から、ドイツの対中態度は他のEU諸国とは温度差があるのではないかと見られていたこともあり、今後の独中関係には特別の注視を必要としよう。

 今後の欧州諸国と台湾との関係は、日本にとっても他人事ではない。とりわけ、今後の課題としては(1)自由、民主の価値観を共有する台湾との間で、人的交流を拡大し、接触のレベルを上げること(これは、最近米上下両院が可決した「台湾旅行法」の趣旨に合致する)、(2)対話・交流の内容を経済活動だけではなく、安全保障面にまで拡大すること、(3)WHO への台湾の加入促進だけではなく、TPP(環太平洋連携協定)への台湾の加盟を促進することなどは、日本が欧州、米国とともに、あるいはこれら諸国に先駆け率先して、行うべき課題であろう。

 今日、台湾が有する経済・技術のレベル、民主化のレベルはすでに「自由で開かれた」インド・太平洋地域における大きな資産となっているといっても言い過ぎではないと思われる。

【私の論評】台湾は、中国の全体主義への砦として、日米欧その他価値観を共有する国々にとって最重要拠点になった(゚д゚)!

上では、主に欧州と中国にの関係について述べていて、我が国に関する記述は少ないです。では、我が国についてはどうすべきなのかを以下に述べます。

我が国が中国との戦いに勝利するには、第一として長期戦を戦い抜く覚悟が必要です。米国との貿易戦争で苦戦している中国は、短期的には米国に対し恭順の姿勢を示し、部分的な譲歩妥協を重ねて早期の合意に導き、経済や国家制度の根幹見直しが強いられる事態の回避に全力を挙げようとするかもしれません。

しかし、中国は“面服従一面抵抗”の戦術に長けています。上辺だけの妥協、戦術的譲歩で時間を稼ぎ、その間にハイテクやAI技術を高め、やがて米国を抜き去る時期が来れば、一転攻勢に転ずることは間違いないです。短期の合意で問題が解決することはないということを肝に銘じるべきであす。中国の脅威を完全に取り除くには、長期の戦いになることへの覚悟と、それを勝ち抜くための強い決意が求められます。

対中戦略の第二のポイント、それは自由主義諸国が引き続き科学技術、なかでもハイテクノロジーなどの知的財産における優越を保ち続けることです。精強な軍事力の維持や経済の繁栄も無論大切な要件ですが、世界をリードし社会を発展させる礎となるのは科学技術です。世界で最初に第1次産業革命を成し遂げた英国は18~19世紀の覇権国に、それに続く米国は第2・3次産業革命を主導して20世紀の覇権国となりました。

他方、近代科学の吸収に遅れた中国はそれまでの大国の座から一挙に転がり落ちていきました。その中国が200年後の現在、第4次産業革命(The Fourth Industrial Revolution:4IR)をリードし、21世紀における覇権国家の座を射止めんとしています。

これを阻止し、日本や欧米が第4次産業革命の主導権を維持するためには、科学技術教育の充実や研究体制の整備、労働力の質的向上等ソフト・ハード両面における大規模な改革が不可欠です。そして人工知能(AI)やビッグデータの精通度、インテリジェントシステムを駆使した巨大プラットフォームの運営能力の高さが、中国との戦いの帰趨を決する鍵になるでしょう。

特に日米としては、これはなぜかあまり注目されないのですが、対潜哨戒能力の圧倒的優位性や、原潜、通常型潜水艦の攻撃能力の優位性については何が何でも守り抜くべきです。


韓国海軍のレーザー照射事件で有名になった海自のP1哨戒機

この優位性があるため、中国が日米の潜水艦の行動をつかめないのに対して、日米は中国の潜水艦の行動を逐一把握できるのです。実際に戦闘になった場合は、中国は日米の潜水艦を発見できないため、中国の潜水艦や空母を含む中国の艦艇は、すぐに撃沈されしまいます。

現在、この能力に関しては米中が中国を圧倒しているため、台湾を軍事的に守ることは実はさほど難しいことではありません。しかし、この優位性が崩れれば、中国はすぐにも台湾や尖閣を占拠し、大々的に世界の海に乗り出すことになるでしょう。

実際米海軍太平洋艦隊の潜水艦が多数、東シナ海、南シナ海など西太平洋海域で活動中であることが5月下旬、明らかにされました。その任務はアメリカ国防総省の「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿って中国への抑止を誇示することにあるのだといわれました。

米軍全体としては当時新型コロナウイルスの感染が海軍艦艇の一部乗組員にも及び、艦隊の機能低下が懸念されることに対応しての潜水艦隊出動の公表のようでした。

この潜水艦群の動きは太平洋艦隊司令部のあるハワイ州ホノルルの新聞が同司令部からの非公式な通告を受けて5月下旬に報道しました。米海軍は通常は潜水艦の動向を具体的には明らかにしていません。だが今回は太平洋艦隊所属の潜水艦の少なくとも7隻が西太平洋に出動中であることが同司令部から明らかにされました。

その任務は「自由で開かれたインド太平洋」構想に沿っての「有事対応作戦」とされています。この構想の主眼は中国のインド太平洋での軍事膨張を抑えることだとされるため、今回の潜水艦出動も中国が覇権を目指す南シナ海や東シナ海での展開が主目的とみられます。

私自身は、米国はコロナに関係なく、原潜を南シナ海や東シナ海に常時派遣しているのでしょうが、今回はコロナ感染により、米軍の力が弱っていると中国にみられ、この地域で中国の行動を活発化することが予想され、それを抑止すためあえて公表したものとみています。米軍は潜水艦のみでも、抑止ができるとみているということです。

中国は、自らの経済的利得拡大のためにグローバリズムを最大限活用し、他国の市場や技術力を貪欲なまでに取り込んでいます。他方、自国に対する外部からの働きかけには徹底した閉鎖鎖国主義で対抗するという非対称のアプローチを採っています。その中国と戦うには、第三の戦略として“真逆の非対称戦略”が効果的です。

これには、自由と公平、そして開かれた国際貿易を守るための多国間ルールの整備・厳格化やWTOの強化・改革などの取り組むことが重要です。


での共同声明では、日米両国が「第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良くするための協力を強化する」ことが合意され、「WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公平な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極」が緊密に協力することがうたわれました。

2018年9月にニューヨークで行われた日米首脳会談

これは名指しこそしていないですが、国際規範やルールの壁で中国の横暴を阻むための戦略の一環とです。

さらに、中国社会の自由化や民主化を促し共産党独裁の体制に穴をあけるため、グローバリズムを活用することです。

すなわち、①世界および中国国内の大衆に向けて、人権や民主主義といった普遍的価値の重要性を繰り返しアピールするとともに、中国国内の人権抑圧や少数民族弾圧の惨状を発信します。②共産党による抑圧や自由の否定は、国際社会だけでなく中国国民も最大の犠牲者であることを訴えます。③世界にとっての主敵は共産党であり中国人民ではありません。自由と解放の社会に向けて、中国国民と自由民主主義諸国が連携を深めるのです。

対中戦略における第四のポイントは、主敵を中国一国に絞り込むということです。ソ連のアフガニスタン侵攻で開始された新冷戦が僅か10年足らずで幕を閉じ、ソ連を崩壊へと追い込んで西側世界が冷戦に勝利できたのは、当時の米国のレーガン政権が主敵をソ連一国に絞った世界戦略を展開したからです。現在のトランプ政権はその方向に進みつつあるようですが、我が国を含む自由主義諸国も戦略の焦点を中国にあわせ、その孤立化を最優先目標とすべきです。

武力による現状変更を躊躇しないロシアも国際秩序の攪乱者であり自由世界の脅威ですが、戦略目的達成のためには時にロシアとの戦術的な妥協も厭うべきではないです。そもそも、現在のロシアのGDPは東京都なみであり、ロシアができることは限られており世界の脅威になることはありません。

しかし、旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承するロシアは、軍事的には侮ることはできません。しかも、中国と長大な国境を接しており、ロシア自身が中国を驚異とみなしています。ロシアを自らの陣営に引き込み、中露の密接な関係に楔を打ち込み両国を引き裂くとともに、北朝鮮問題の早期にロシアも巻き込み、中国のライバルであるインドとの関係も強化する必要があります。

同盟国を持たず、一帯一路、南シナ海どころか地球の至るところで、中国は行動を起こし、集中することがないという中国の弱点を突き、その孤立化を図ることは極めて効果的な戦略になります。

膨張を続ける中国から自由世界を守るには、中国の海洋進出は絶対に阻止しなければならないです。一帯一路構想を挫き、南シナ海やインド洋における影響力の拡大を阻むことも重要だですが、最優先すべきは台湾の防衛です。

中台統一を目論む中国の活発な動きを看過すべきではありません。もし台湾が大陸中国に吸収されれば、中国海軍の外洋進出を食い止めることが困難になるでしょう。中国が民間船舶の妨害を仄めかすだけで、東アジア諸国は中国の威圧に屈せざるを得なくなるでしょう。

日本を含むアジア太平洋諸国のシーレーン防衛は、台湾を確保できるか否かにかかっており、台湾の喪失は自由世界への重大な脅威となることを認識すべきです。

自由と民主主義の理念を台湾と共有する日米欧は、台湾を守るための取り組みを強めていかねばならないです。18年8月にアメリカで成立した「国防権限法」では、台湾との防衛協力を強化する方針が打ち出され、軍事演習の促進も盛り込まれました。

18年3月には米台政府高官の往来を可能にする「台湾旅行法」が成立し、台湾の防衛当局との相互訪問も明記されました。中台紛争の火の粉が南西諸島に波及し、台湾有事が即日本有事となる危険性を考慮すれば、自らの生存と台湾の防衛が一体不可分であることを日本は忘れてはならないです。

台湾は、中国の全体主義への砦

最後に、唯一の超大国米国が、海洋諸国家と緊密な連携と協力を深めていくことが対中戦略において何よりも重要な課題です。海洋への進出を企てる中国からリムランドを防衛し、自由主義諸国のシーレーンを守る重要な役割を担うのは日米豪英印ASEANなどで構成される海洋同盟です。その機能発揮がなければ対中防護壁の構築やグローバル戦略の発動に穴が開いてしまいます。

政治・経済・軍事・文化等を駆使し総合戦略を発揮する中国に対抗するには政経分離のアプローチでは不十分です。「自由で開かれたインド太平洋構想」の枠組みを活用し、海洋諸国家共通の包括的総合的な戦略の構築が求められます。

中国が足並みの乱れを突いて切り崩しに動き、海洋同盟が分断される事態を防ぐことも必要です。米国の影響力が相対的に低下しつつある現在、覇権と抑圧の政治に対抗し、公正で自由な国際経済秩序を維持するため、海洋同盟の主たるプレーヤーとしての日本の責任や果たすべき役割は極めて大きいです。

そうして、台湾の喪失は日本にとって大きな脅威となることは言うまでもありません。

最早台湾は、中国の全体主義への砦として、日米欧その他価値観を共有する国々にとっては、最重要拠点といっても過言ではありません。何が何でも守り抜くべきです。

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