2026年10月13日火曜日

高市政権が見直す基金7兆円、本当に全部必要なのか


まとめ
  • 基金7兆円は、全部が無駄でも、全部が必要と確認されたものでもない。 大企業の資金管理と同様、必要額を継続的に検証しなければならない。基金を管理する側だけでなく、造成や積み増しを認めた政府の判断も検証する必要がある。
  • 高市政権の7月と10月の改革は、必ずしも矛盾しない。 7月には基金の3年ルールを見直し、長期投資を支援した。10月には滞留資金の見直しを強化した。必要な事業の継続性と厳格な資金管理を両立させることが重要である。
  • 日本版DOGEは、削減額だけでなく政策の成果で検証すべきである。 ドラッカーの「体系的廃棄」を手掛かりに、基金や特別会計の必要性を問い直し、不要な資金を見直しながら、必要な投資を確保することが求められる。

2026年10月9日、高市政権は「日本版DOGE」による政府基金の見直しを強化した。片山さつき財務相によれば、対象となる約200基金の2027年度末残高は、約7兆円に達する見込みである。

DOGEとは、2025年1月にトランプ米大統領が設置した政府効率化の取り組みである。イーロン・マスク氏が活動を主導したことで知られる。日本版DOGEは米国の制度をそのまま導入したものではなく、租税特別措置、補助金、基金などの必要性を見直す取り組みである。米国の制度については設置に関する大統領令で確認できる。

問題は、基金7兆円のすべてが本当に必要なのかということである。

この問題を理解するには、個人の家計よりも、何万人もの従業員を抱える大企業の経営が参考になる。個人には寿命があるが、大企業は経営者や従業員が交代しても事業を継続する。国家もまた、政権や世代が交代しても存続することを前提とする。もちろん、国家には課税権など企業とは異なる仕組みがあるが、将来の事業に備えて資金を確保し、その必要性を検証する点では共通している。

経営学者ピーター・ドラッカーは、1963年の論文「Managing for Business Effectiveness」で、経営者の責任は利用できる資源から成果を生み出すことだと論じた。

資金を持っていること自体が成果ではない。その資金で何を実現するかが問われるのである。

1️⃣大企業ならどうするか――資金を確保する責任と見直す責任

従業員3万人を抱える大企業が、5年後の新工場建設に備えて500億円を確保したとしよう。

工場建設には長期間にわたる支出が必要になるため、将来に備えて資金を確保することは合理的な経営判断である。

しかし、建設計画が中止されたにもかかわらず、経営陣が「いつか必要になるかもしれない」と説明するだけで、何年も500億円を保持していたらどうだろうか。

大企業の設備投資と資金管理 AI生成画像
取締役会や株主は、その必要性を問い直すだろう。別の設備投資や研究開発に使えないのか。借入金の返済に振り向ける方が合理的ではないか。経営者には、資金を確保した理由だけでなく、保有し続ける理由を説明する責任がある。

もちろん、余裕資金の保有自体は違法ではない。しかし、会社法は取締役に忠実義務を課し、任務を怠って会社に損害を与えた場合には賠償責任を定めている。違法行為がなくても、必要な投資機会を逃せば、経営判断の妥当性が問われる。

ここで重要になるのが、ドラッカーの「体系的廃棄」という原則である。

ドラッカーは1992年の論文「The New Society of Organizations」などで、従来の活動を必要に応じて廃止し、新しい活動を創出する重要性を説いた。これは単なる経費削減ではない。成果を生まなくなった事業から、より重要な事業へ資源を振り向けるという考え方である。

先ほどの500億円に当てはめれば、問いは明快だ。

「もし今、新工場建設の計画が存在しなかったとして、それでも500億円を新たに確保するだろうか」

必要なら維持すればよい。説明できなければ、使い道を見直すべきである。

さらに、投資計画を承認した経営陣にも責任がある。計画が実現しなかった場合、担当部門だけでなく、承認した側も当初の判断を検証しなければならない。

資金を管理する側だけでなく、資金の確保を認めた側にも責任がある。

この原則は国の基金にも当てはまる。

2️⃣基金では何が起きたのか――会計検査院の指摘と政府の責任

国の基金は、複数年度にわたる政策のために資金を確保する仕組みである。半導体、研究開発、経済安全保障など、長期的な事業では合理性がある。しかし、計画が変更された場合、必要額は適切に見直されているのだろうか。

2025年12月に公表された会計検査院の基金に関する報告書には、具体的な事例がある。

会計検査院が指摘した基金管理の3事例 AI生成画像。クリックすれば拡大します
総務省は2022年3月、デジタルインフラ整備基金に500億円を交付した。しかし、国内海底ケーブル関連の一部事業では、2023年度末に約267億円が使われず、2024年度末になっても公募が行われていなかった。総務省は事業実施体制の構築や資材価格の高騰への対応などに時間を要したと説明しているが、計画と必要額を再検討する必要性は明らかである。

会計検査院は、農林水産省と経済産業省の基金事業で、同じ事業者の同じ燃油購入に対し、異なる制度から支援が行われていた事例も指摘した。直ちに違法とはいえないが、政府全体での調整が問われる。

管理費の監督にも問題があった。調査対象131基金のうち66基金では、2019年度から2023年度までの間、所管省庁などが管理費の証拠書類を一度も確認していなかった。

一方、必要額を見直した結果、資金が返納された例もある。全国信用保証協会連合会が管理する経営安定補助金関係の基金では、将来の事業見込額を精査し、使用見込みのない7,452億円が2025年2月に国庫へ返納された。

これらは過去の検査結果であり、2027年度末に見込まれる約7兆円の内訳を直接示すものではない。しかし、基金の必要性を継続的に検証する重要性を示している。

ここで忘れてならないのが、基金を造成した当時の予算判断である。

基金は各省庁が勝手に確保するものではない。一般に、各省庁の予算要求、財務省の査定、内閣による予算案の決定、国会の議決を経て資金が措置される。

大企業でいえば、事業部が提案した投資計画を経営陣が承認するのに似ている。後になって必要額が過大だったと分かったなら、資金を管理する部門だけでなく、当初の投資判断も検証されなければならない。

国の基金についても同様である。所管省庁や基金管理法人の責任だけでなく、財務省を含めた予算編成過程も検証する必要がある。

日本版DOGEが基金の返納を求めるだけでなく、過去の予算判断を将来の制度改善に生かせるかどうかが重要なのである。

3️⃣7月には長期投資を促進、10月には滞留資金を見直し――改革は矛盾するのか

2026年7月30日、高市政権は行政改革推進会議で、基金への新たな予算措置を原則3年程度とする「3年ルール」を見直した。

先端技術の研究開発や企業の長期投資では、機械的な期間制限が政策の実効性を損なう場合があるためだ。小野田紀美大臣も翌31日の記者会見で、柔軟な資金管理と複数年度の予算措置の重要性を説明している。

その一方で、10月9日には日本版DOGEによって基金の滞留資金の見直しを強化した。

7月には長期投資を促進し、10月には資金の返納を進める。一見すると矛盾するようだが、目的は異なる。

例えば、半導体工場の建設に5年間かかるなら、3年で資金措置を区切ることが合理的とは限らない。一方、建設計画が中止されたなら、確保した資金を保持する必要があるのかを検証すべきである。

7月の改革は必要な事業の継続性を確保するもの、10月の改革は必要性を失った資金を見直すものである。

この二つは両立する。

今回の見直しでは、基金の管理方法を変更することも検討されている。その一つが「国庫債務負担行為」の活用である。国会の議決を受けて将来年度にわたる支払い義務を伴う契約を結ぶ制度であり、事業によっては長期的な支払いを確保しながら、基金にあらかじめ交付する資金を減らせる。ただし、すべての基金を代替できるわけではない。

ここで、特別会計にも触れておきたい。

日本には2026年度時点で14の特別会計があり、財務省の資料によれば、年間の歳出予算総額は441.7兆円、重複計上などを除いた純計額は216.2兆円である。これは保有資金の残高ではなく、諸外国とも会計処理が異なるため、金額だけで過大とは判断できない。

しかし、各特別会計が保有する資産や剰余金の必要性は別問題である。

例えば、外国為替資金特別会計では、2024年度決算で約5.36兆円の剰余金が生じ、約3.20兆円が一般会計に繰り入れられた一方、約1.37兆円が外国為替資金に組み入れられた。

2024年度末の組入累計額は約30.19兆円である。ただし、自由に使える現預金ではなく、外貨資産と負債に伴う為替・金利変動への備えという性質がある。財務省は保有外貨資産の30%を中長期的な組入れの目安としているが、その基準の合理性は継続的に検証されるべきである。

実際、特別会計に関する法律は、必要以上の資産を保有しないよう、剰余金を適切に処理することなどを基本理念としている。

基金と特別会計に共通する資金管理の原則 AI生成画像。クリックすれば拡大します
片山財務相も9月4日の記者会見で、特別会計や基金などからの税外収入確保について、ゼロベースで取り組む方針を説明した。

基金と特別会計は別制度であり、資金の返納や剰余金の処理方法も異なる。しかし、政府全体として資金の必要性を問い直すという原則は共通している。

そして、見直しで国庫に戻された資金をどう扱うかも重要である。

資金を返納させることと、必要な財政支出を削減することは同じではない。政府は予算上の手続きを経て、必要な研究開発、インフラ整備、経済安全保障などに資金を振り向けることができる。ただし、一度限りの返納額を継続的な財源と同一視してはならない。

ドラッカーの「体系的廃棄」も、単なる経費削減ではない。成果を生まなくなった活動を見直し、より重要な活動に資源を集中させるための原則である。

必要な事業を継続し、必要性を失った資金を見直す。この二つを両立させることが、基金改革の核心なのである。

結語 基金7兆円に本当に問うべきこと

大企業では、将来の事業に備えて資金を確保する。しかし、事業計画が変われば、その必要額も変わる。経営者には、資金を確保する責任だけでなく、必要性を問い直す責任がある。

国の基金も同様である。

2027年度末に約7兆円の残高が見込まれるからといって、全部が無駄なわけではない。しかし、全部が必要だと証明されたわけでもない。

会計検査院の報告は、事業の停滞や管理上の問題を明らかにしている。一方、必要額を精査した結果、多額の資金が返納された例もある。見直すべきなのは資金の管理方法だけでなく、当初の予算を認めた政府の判断でもある。

さらに、高市政権は7月に基金の3年ルールを見直し、長期投資を継続しやすくした。その一方で、10月には滞留資金の返納を強化している。

この二つは、本来両立すべき政策である。

ドラッカーの経営思想を応用すれば、政府が問うべきことは明快だ。

「もし今、その基金が存在しなかったとして、それでも同じ目的で、同じ金額を新たに確保するだろうか」

必要なら根拠を示して維持すればよい。必要性がなくなったなら、資金の返納や再配分を検討すべきである。

そして、どの事業を続け、どの事業を終え、どこに新たな資金を配分するかという判断には、政治が責任を負わなければならない。

日本版DOGEの成果は、いくら削減したかという数字だけでは測れない。

必要な資金は確保する。不要になった資金は見直す。そして、その資金を国民のためにどう生かすかを政治が決め、成果に責任を負う。

国の資金は、保有すること自体に意味があるのではない。国民のために成果を生み出してこそ意味があるのである。

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