ラベル ロシア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ロシア の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019年8月22日木曜日

中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!


岡崎研究所

 ロシアがクリミア半島を併合して欧米諸国の経済制裁を受けるようになり、また、シリア問題で人権を蹂躙しているアサド政権を支援していることから西側諸国と離反するようになり、プーチン大統領は、東の中国を向くようになった。

 中国の習近平主席も、米国との貿易戦争やファーウェイの5Gをめぐる対立等で、ロシアと接近を図っている。


 ロシアは、最近、5Gで中国のファーウェイを採用することを決めた。また、中露は、海軍の合同軍事演習を活発化させている。仮想敵国は日米両国とも言われている。

 中露関係については、今やロシアは中国のジュニア・パートナーである。いま、中国のGDPはロシアの6倍であるが、その差はどんどん広がっている。IMF統計では、ロシアはGDPで韓国にさえ抜かれかねない状況である。

 プーチン大統領は、自分の取り巻きに利権を配分し、権力を維持しているが、国家としてのロシアを大きく衰退させてきた政治家である。石油資源に依存するロシア経済を改革するのが急務であるとわかっているのに、ほとんどそれができていない。

 ロシア史を見ると、ロシアの指導者は、スラブ主義を標榜してロシア独自の道を追求する人と、欧米との関係を重視する欧化主義者が交代してきている。ロシア独自の道に固執したスターリンの後の本格政権は、西側との平和共存を唱えたフルシチョフ(日本に歯舞と色丹の2島を返還する決断をしたが実現しなかった)であった。その後、スラブ主義者とも言うべきブレジネフが登場した。その後は、欧米との関係改善を目指したゴルバチョフ、エリツィンが指導者として登場した(その時には歯舞、色丹、国後、択捉の北方領土4島が日露間の交渉の対象であるとする東京宣言ができた)。 

 エリツィンは、プーチンを改革者であると考えて後継者に選び、自分の家族を訴追などから守ってくれることを期待した。

 プーチンは、後者の役割は義理堅く果たしたが、ユーラシア主義者として欧米に対抗する路線をとった。そういう経緯で、プーチンは必然的に中国に近づいた。それが今の中露の蜜月関係につながっている。

 しかし、プーチン後は、この蜜月関係が続く可能性よりも、ロシアの指導者が欧米重視主義者になり、この蜜月は続かない可能性の方が高いと思われる。

 プーチン政権の上記のような傾向にもかかわらず、中露間にくさびを打つという人がいるが、プーチンがいる限り、そういうことを試みてもうまくいかないだろう。北方領土で日本が妥協して、中露間にくさびを打つことを語る人もいたが、ピント外れである。

 7月27日付の英エコノミスト誌は、ロシアが中国の属国になってきていると指摘している。その指摘は正しい。ロシアがそれから脱したいと思う日は来るだろう。そうなったときには、ロシアとの関係を考える時であろう。

 中国が中露国境沿いで安定の源になるとの見方が一部にあるが、そういうことにはならないだろう。極東ロシアは約650万の人口であり、千葉県とだいたい同じである。他方、中国の東北には1億以上の人口がある。1860 年の北京条約で沿海州などはロシア領となったが、ロシアは2004年の中露国境協定の締結後、国境が決まったのだから、中国に北京条約は不平等条約であったとの教育をやめてほしいと要望しているが、中国はそれを聞かず、そういう教育を続けている。中露国境の安定を望んでいるのはロシアであって、必ずしも中国ではない。

【私の論評】中露対立が再び激化した場合、日本は北方領土交渉を有利にすすめられる(゚д゚)!

中露関係の歴史は17世紀、ロシアがシベリアを東進し、やはり東アジアに勢力を拡張していた清朝と接触したときにはじまります。その結果、両者が結んだ1689年のネルチンスク条約は、高校の世界史の授業でも習う重要事件で、名前くらいご存じでしょう。


この条約がおもしろいです。条約とよばれる取り決めなのだから、互いに対等の立場でとりむ結んだものです。しかし東西はるかに隔たった当時のロシアと清朝が、まさか全く同一のルール・規範・認識を共有していたわけはありません。にもかかわらず、両者は対等で、以後も平和友好を保ちえました。

なぜこのようなことが可能だったのでしょうか。わかりやすい事例をあげると、条約上でも使われた自称・他称があります。ロシアの君主はローマ帝国をついだ「皇帝(ツァー・インペラトル)」ですが、そのようなことが清朝側にわかるはずもなく、清朝はロシア皇帝を「チャガン・ハン」と称しました。

ロシアも中華王朝の正称「皇帝」を理解できず、清朝皇帝を「ボグド・ハン」と称しました。「ハン」というから、ともにモンゴル遊牧国家の君主であって、「チャガン」は白い、「ボグド」は聖なる、という意味です。つまり客観的に見ると、両者はモンゴル的要素を共有し、そこを共通の規範とし、関係を保っていたことになります。

それは単なる偶然ではありません。ロシア帝国も清朝も、もともとモンゴル帝国を基盤にできあがった国です。もちろん重心は、一方は東欧正教世界、他方は中華漢語世界にあったものの、ベースにはモンゴルが厳然と存在しました。両者はそうした点で、共通した複合構造を有しており、この構造によって、東西多様な民族を包含する広大な帝国を維持したのです。


そのため両者がとり結んだ条約や関係は、いまの西欧、ウェストファリア・システムを起源とする国際関係・国際法秩序と必ずしも同じではありません。露清はその後になって、もちろん国際法秩序をそれぞれに受け入れ、欧米列強と交渉、国交をもちました。しかし依然、独自の規範と論理で行動しつづけ、あえて列強との衝突も辞していません。これも近現代の歴史が、つぶさに教えるところです。

いまのロシア・中国は、このロシア帝国・清朝を相続し、その複合的な構造にもとづいてできた国家にほかならないのです。いわば同じDNAをひきついでいます。両国が共通して国際関係になじめないのは、どうやら歴史的に有してきた体質によるものらしいです。

中露が19世紀以来、対立しながらも衝突にいたらず、西欧ではついに受け入れられなかったマルクス・レーニン主義の国家体制を採用しえたのも、根本的には同じ理由によるのかもしれないです。中ソ論争はその意味では、近親憎悪というべきかもしれません。

西欧世界には、モンゴル征服の手は及びませんでした。その主権国家体制・国際法秩序、もっといえば「法の支配」は、モンゴル帝国的な秩序とは無関係に成立したものです。だからロシアも中国も、歴史的に異質な世界なのであって、現行の国際法秩序を頭で理解はできても、行動がついてこないのです。制度はそなわっても、往々にして逸脱するのです。

しかも中露の側からすれば、国際法秩序にしたがっても、碌なことがあったためしがありませんでした。中国は「帝国主義」に苦しみ、「中華民族」統合の「夢」はなお果たせていません。

ソ連は解体して、ロシアは縮小の極にあります。くりかえし裏切られてきた、というのが正直な感慨なのでしょう。中露の昨今の行動は、そうした現行の世界秩序に対するささやかな自己主張なのかもしれないです。現代の紛争もそんなところに原因があるのでしょうか。

そこで省みるべきは、わが日本の存在であり、立場です。日本はもとより欧米と同じ世界には属していません。しかしモンゴル征服が及ばなかった点で共通します。以後も国家の規模や作り方でいえば、日本は中露よりもむしろ欧米に近いです。

国際法・法の支配が明治以来の日本の一環した国是であり、安倍首相がそのフレーズを連呼するのも、目先の戦術にとどまらない歴史的背景があります。

クリミアはかつてロシア帝国の南下に不可欠の橋頭堡(きょうとうほ)であり、西欧からすればそれを阻む要衝でした。尖閣は清朝中国にとっては、なんの意味もありませんでしたが、現在の中国も過去には何の興味も持っていなかったにも関わらず、近海が地下資源の豊富でことが明らかになると、無理やり「琉球処分」にさかのぼる日中の懸案とされてしまい、中華世界と国際法秩序を切り結ぶ最前線とされてしまいました。

互いに無関係なはずの東西眼前の紛争は、ともに共通の国家構造と規範をもつ中露の、西欧国際法秩序に対する歴史的な挑戦ということで、暗合するともいえるでしょう。

たしかにいまの中露は、欧米に対抗するための「同床異夢」の関係にあるといってよいです。ただし、考えていることもちがうし、「一枚岩」になれないことはまちがいないです。

Russian Flag Bikini

プーチン露大統領と中国の習近平国家主席は昨年6月の中国・北京での首脳会談で、両国の「全面的・戦略的パートナーシップ関係」を確認。軍事・経済協力を強化していくことで合意した。

同年9月の露極東ウラジオストクでの「東方経済フォーラム」に合わせた中露首脳会談でも、両国は米国の保護主義的な貿易政策を批判したほか、北朝鮮の核廃棄プロセスへの支持を表明しました。

さらに同フォーラムと同時期に露極東やシベリア地域で行われた軍事演習「ボストーク(東方)2018」には中国軍が初参加。ロシアのショイグ国防相と中国の魏鳳和(ぎ・ほうわ)国務委員兼国防相が、今後も両国が定期的に共同軍事演習を行っていくことで合意しています。

しかし、同年10月24日付の露経済紙「コメルサント」によると、ここ最近、中国系銀行がロシア側との取引を中止したり、口座開設を認めなかったりする事例が相次いでいるといいます。

国際的な対露制裁の対象外の企業や個人も例外ではないといい、同紙は「中国側はどの企業が制裁対象なのか精査していない。その結果、全てをブロックしている」と指摘しまし。「この問題は今年6月の首脳会談以降、両国間で議論されてきたにもかかわらず、中国側は『是正する』というだけで、実際は何もしていない」と不満をあらわにしました。

同年同月26日付の露リベラル紙ノーバヤ・ガゼータも「中国はロシアの友人のように振る舞っているが、実際は自分の利益しか眼中にない」と批判。「中国の経済成長の鈍化が進めば、中国政府は国民の不満をそらし、自らの正当性を確保するため、攻撃的な外交政策に乗り出す可能性がある。例えばシベリアや極東地域の“占領”などだ」と警戒感を示しました。

実際、露極東地域には、隣接する中国東北部からの中国企業の進出や労働者の出稼ぎが相次いでいます。極東に住むロシア人の人口は今後、減少していくと予想されており、同紙の懸念は「いずれ極東地域は中国の支配下に置かれるのではないか」というロシア側の根強い不安があらわれたものといえます。

同年同月29日付の露有力紙「独立新聞」もこうした中国脅威論を取り上げました。同紙は「ユーラシア経済連合と一帯一路との連携に基づく計画は、実際には何一つ実現していない」と指摘し、「中国によるロシアへの直接投資は、カザフスタンへの投資よりさえも少ない」と指摘しました。

経済発展が著しいウズベキスタンやカザフスタンなどの中央アジア諸国について、ロシアは旧ソ連の元構成国として「裏庭」だとみなしています。しかし、一帯一路も中央アジアを不可欠な要素と位置付けています。

地政学的に重要な中央アジアでの影響力を確保するため、ロシアと中国は、この地域への投資や技術供与、軍事協力の表明合戦を繰り広げており、表向きの双方の友好姿勢とは裏腹に、現実は協調とはほど遠いのが実情です。

このように、中露の友好関係は一時的なみせかけに過ぎないものであり、米国による対中国冷戦が長く続き、中国の力が削がれた場合、中露対立が激化することは必至です。そうして、その状況はしばらくは変わらないでしょう。

現状は、国力特に経済の開きがあまりにも大きすぎるため、さらにロシアは人口密度の低い極東において直接中国と国境を直接接しているという特殊事情もあるため、ロシアが中国に従属しているように見えるだけです。

しかし、プーチンは強いロシアを目指しており、文在寅のように自ら中国に従属しようなどという考えは毛頭ありません。

その実、ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方です。これはいずれ、中国に向かって大きく噴出します。

その時こそが、日本の北方領土交渉を有利に進められる絶好のタイミングなのです。また、米国が最終的に中国を追い詰めるタイミングでもあるのです。

【関連記事】

2019年7月22日月曜日

ロシアからの武器購入で自らの立場を複雑にするトルコ―【私の論評】日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいる(゚д゚)!

岡崎研究所

 米国の外交・軍当局はまたもやトランプ大統領に梯子を外されたらしい。

トルコ国旗柄のビキニ

 6月29日、G20サミットに参加するために大阪を訪れていたトルコのエルドアン大統領は、米国のトランプ大統領と会談した。その会談の前、および同日の記者会見でトランプ大統領が述べたことを要約すれば、次の通りとなる。すなわち、「状況は複雑である。エルドアン大統領はパトリオット・ミサイルを買おうとした。ところがオバマ政権は売ろうとしなかった。そこで彼はS-400を買った。多額のカネを払った。買った後になって米国はパトリオットはどうだと言い出した。手遅れである。彼には最早どうしようもない。商売はそういう風には進まない。その間、エルドアン大統領は100機以上のF-35を買った。とてつもない額のカネを払った。ところが、S-400とは両立し得ないと言われている。しかし、エルドアンは不公正に扱われて来たのだ。状況は大混乱である(It’s a mess)。しかし、エルドアン大統領のせいではない。問題であることは確かだが、(制裁を発動するのかと問われて)別の解決策を模索している(We’re looking at different solutions)。エルドアン大統領はタフな男だが、自分は巧くやっている」。

 大阪G20サミットより前の6月26日、ブラッセルでNATO国防相会議が開催された。米国防長官代行に就任したばかりのマーク・エスパーは、その機会に、S-400とF-35は両立し得ず、トルコが双方を持つことは認め得ないとトルコの国防相に警告したばかりであった。

 エルドアン大統領は、S-400の購入について米国が制裁を課すことはないとの保証をトランプ大統領から得たと主張している。トランプ大統領の発言振りに照らせば、エルドアン大統領がそう主張しても不思議ではない。これではS-400の配備は止められない。トランプは別の解決策と言うが、何を考えているのかは分からない。トランプ大統領は問題の責任はオバマ政権にあるとしているが、その辺りの事情は詳らかにしていない。

 いずれにせよ、問題は三つある。一つは、トルコに S-400が配備された状況で米国はどう対応するかの問題である。そういう状況でF-35の引渡しを米国議会が認めるとは思われない。議会が制裁発動に動くことも十分あり得ることであろう。

 二つ目は、NATOとしてどう対応するかの問題である。加盟国にロシア製の兵器が導入されるという異常事態に対し、米国だけの措置で事足りるということにはなり得ないであろう。行き過ぎの措置に走って、ロシアのプーチン大統領を喜ばせるだけに終わるのはよろしくないが、同盟の原則に沿って筋を通す必要がある。仮に、トランプ大統領が、その流儀によって責任をオバマ政権に押し付け、問題を糊塗しようとするのであれば、欧州の同盟国の胆力が試されることとなろう。

 最後三つ目の問題は、トルコ自身の立ち位置の問題である。そもそも、この複雑なトルコの立ち位置には、シリア問題とクルド問題、さらにはISISが絡んでいる。もともとトルコは、シリアの反アサド政権ということでは、米国やフランス等NATO諸国と同じ側にある。その意味では、アサド政権を支持、支援しているロシアやイランとは立場を異にする。しかし、ISISに対する掃討作戦で、米国がクルド勢力を支援しているのに対し、エルドアン政権はクルドに対して厳しい態度を取っている。エルドアンがクルドを攻撃する際には、シリアやロシアの協力も必要となる。7月13日、トルコのアカル国防相は、米国のエスパー国防長官代行と電話で協議し、S-400やシリア問題を話し合ったが、トルコのS-400導入の意思は固かったようだ。アジアと欧州の間に位置するトルコは、東西の懸け橋とも言われるが、不安定なシリア、イラク、イランとも国境を接し、それら諸国にまたがって住むクルド民族問題も抱え、地政学的に複雑である。トランプ政権が、いかに交渉して、NATOの同盟国らしくトルコに振舞ってもらうかは、至難の業となりそうである。

【私の論評】日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいる(゚д゚)!

米国は先に、トルコがS400の導入を開始したのを受け、最新鋭ステルス戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除すると発表しました。F35計画からのトルコの排除は、2020年3月末までに完了します。


チャブシオール外相はテレビ局TGRTの番組で「米国が制裁を科した場合、我々は必要な報復措置を取る。インジルリク空軍基地に関する措置が講じられるかもしれない。これは脅迫やおどしではない。こうした状況では自然なものだ」と述べました。

また外相は「トルコは独自の武器製造に真剣に取り組んでいる。我々は独自の戦闘機の製造を望んでいる。だがF35は新技術であるため、同計画のパートナーとなり、14億ドルを支払った。しかし、すべてが悪いシナリオに従って進んでおり、我々にF35は与えられない。つまりトルコの最も自然な権利は、我々が行ったように、S400を購入して不足を補うことだ。我々は自分たちの利益のためにもっぱら行動し、他の代わりを探す」と述べた。

先にトルコのアカル国防相は、米国の戦闘機F35の多国間共同開発計画からトルコを排除することで、NATO(北大西洋条約機構)の南部方面は弱体化するとの見方を表しました。

今月18日、ホワイトハウスは、F35開発計画からトルコを排除すると発表しました。 

トルコのNATO加盟は1952年。東西冷戦が激しさを増す中で南下政策を志向するソ連を封じ込める米欧諸国の狙いが背景にありました。ソ連崩壊で冷戦は終結しましたが、後継国ロシアのプーチン政権は米欧との関係が冷え込む中、トルコを切り崩す手を打ってきました。

2015年に起きたトルコ軍によるロシア戦闘機撃墜事件の後、プーチン氏は1年とたたぬうちにトルコとの関係を修復。ロシアは18年、トルコ南部アックユで同国初の原発建設に着手したほか、両国を結ぶ天然ガスパイプラインの黒海海底部への敷設も完了しました。

ロシアが資源に乏しいトルコに取り入る狙いは鮮明で、S400の供与と重ね合わると、「兵器とエネルギー」をセットで売り込み自陣に招き寄せるロシアの典型的な手法といえます。

他方、NATOにとりトルコは中東を見渡す前線基地の役割を果たしてきました。南部のインジルリク空軍基地には米軍が駐留し、シリア内戦でイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)に空爆を行う拠点となりました。アフガニスタン駐留米軍の後方支援拠点としても使われています。

トルコはトランプ政権が軍事、経済面から圧力を加えるイスラム教シーア派大国のイランに加え、シーア派人口が国内最大のイラク、内戦が続くシリアと国境を接しており、地政学的にも重要な位置にあります。近年は関係がぎくしゃくしているとはいえ、欧州からみれば「安定の防波堤」ともいうべき存在です。

エルドアン政権はイスラム色の濃い政策を打ち出していますが、もともとは世俗主義がトルコ建国以来の国是で欧米の価値観に一定の理解を示してきました。トルコの「NATO離れ」は計り知れぬ激震となる恐れがあります。

トルコと米国とロシアの関係、きな臭さがでてきました。こういうときにこそ、トルコは親日国ということから、日本のできることがあるのではないかと思います。

トルコと日本の間では歴史の中で様々な関わりがありましたが、今回はその中から特に有名な出来事を4つピックアップしてトルコと日本が絆を深めた理由をご紹介したいと思います。

①親日の始まり「エルトゥールル号遭難事件」

1890年日本からの帰途、強風にあおられたエルトゥールル号は紀伊大島の樫野崎に連なる岩礁に激突し、機関部が浸水してしまい水蒸気爆発を起こします。そのとき600名もの人が海に投げ出されたそうです。

エルトゥール号

生存者は数十メートルの断崖を這い上り灯台守に遭難を知らせ助けを求めました。通報を受けた大島村(現在の串本町)の住民は総出で救助と介抱に当ります。台風で大島村の住民も漁に出られずに蓄えが僅かだったのにもかかわらず、非常食や衣類を提供し献身的に救護を務めました。

この事件は死亡・行方不明者587名という大惨事でしたが、大島村の住民たちのおかげで69名の方が生還することができました。

②日露戦争の日本海海戦の勝利

大国ロシアに、当時開国をして50年ほどしか経っていないアジアの小さな新進国の日本が勝てるわけがないというのが世界各国の見方でした。しかし、その予想を覆し東郷平八郎率いる連合艦隊がロシア・バルチック艦隊を撃沈し、海戦史上最も圧倒的とされる一方的な勝利を掴みとります。これに歓喜したのは日本だけでなくトルコもそうでした。

ロシアに近いトルコは常にロシアからの脅威に曝されていましたが、強国に敵うわけもなく八方ふさがりのような状態でした。
そこに舞い込んできたのが日本の勝利の報、トルコは政治的な面はもちろん、アジアの国が大国に打ち勝つという快挙に感銘を受けました。

また、この戦いにおいて捕虜になったロシア兵たちを手厚く介抱し、更には自国での軍法会議を恐れたロシア士官を日本に留まらせる自由を与えるなど、戦時国際法を徹底した日本の姿勢は世界から賞賛を受けました。

③トルコ共和国は明治維新に倣って改革を行った

日本が大国ロシアに勝利した最たるきっかけとなったのが明治維新です。日本海海戦後、アジア諸国には「アジア人も西洋の模倣をすれば世界と戦える」という考えを浸透させました。

トルコも明治維新に倣って改革を行います。トルコ共和国・建国の父、初代大統領ケマル・アタテュルクは、明治天皇をこよなく崇拝し、陛下の写真を自分の机に飾っていたという逸話もあります。
④イラン・イラク戦争時のトルコからの恩返し

イラン・イラク戦争中の1985年3月、大統領サダム・フセインは「今から40時間後をタイムリミットとしてこれ以降終戦までの間イラン上空を飛ぶ航空機は軍用機であろうと民間航空機であろうといかなる国の機体であろうとすべて撃墜する」という布告をしました。

世界各国は自国民を救出するために救援機を出し自国へと退避させましたが、日本政府だけ素早い決定ができなかったた為に216名の日本人が空港に取り残されてしまいました。
イラン大使館の大使は日頃から親交のあったトルコ大使館の大使に窮状を訴えます。トルコは即座にトルコ航空をイランに派遣し、タイムリミット僅かの1時間15分前にトルコ領空へ216名の日本人全てを退避させました。

この良好な両国の関係は今もかわりません。東京オリンピック誘致が決まる直前、安倍総理は次のようにトルコによびかけています。

「もしトルコが五輪を射止めることに成功すれば、私は世界で一番最初にお祝いを申し上げたい。しかし、もし日本が五輪を射止めることに成功したら、どうかエルドアン首相、世界で一番最初に祝っていただきたい」。

安倍総理の呼びかけに応え、いち早く
 祝福してくれたトルコのエルドアン首相 

ロシアについては以前このブログで掲載したように、今やGDPは韓国並みにすぎません、日本で言えば東京都と同レベルです。とはいいながら、ロシアは旧ソ連の核兵器や軍事技術を継承していることから、決して侮れるような相手ではありません。

ただ一ついえるのは、経済的に脆弱なロシアにできることは限られています。それを考慮するとトルコは米国の同盟国であったほうがより良いことだと思います。

東南アジア、インドなどには現在でも米国に敵対的な勢力は多く、米国インド太平洋戦略を実現するにおいて、安倍首相は米国とインド太平洋地域の仲介者として大きな働きをしました。

私は、トルコに対しても、このような仲介ができるのではないかと期待しています。というより、現在日本はトルコと米を仲介する絶好の位置にいると言っても過言ではないと思います。

【関連記事】

2019年7月12日金曜日

レームダック化するプーチン―【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!


 盤石のように見られがちなプーチン大統領ではあるが、同氏への支持の低下は、かなり目立つようになってきている。特に、青年層のプーチンへ離れが著しいという指摘がある。ワシントンに本部を置き、海外のロシア人達にリベラルな情報を伝達している、Free Russia Foundationによれば、プーチンの全国平均支持率は60%以上だが、この10年間で青年層(17-25歳)における支持率は急激に低下して19年1月現在32%となっている。

プーチン大統領

 一般の理解に反して、ロシアは実は「若い国」である。平均寿命が低い(男性では67歳強)ために、34才以下の者が実に人口の43%を占めている。うち3000万は20歳以上の世代Yと呼ばれ(米国のミレニアルに相当)、1500万が10代の世代Z、そして1800万が10歳以下である 。彼らは一般的に政党等、既存の制度を信じておらず、65%はマスコミも信じていない。そして反米主義に染まっておらず、世代Yの者の70%強は物質的豊かさを重視して、49%の者が「西側の先進国のようになりたい」と考えている 。

 青年層は多くの国で、高年齢層よりリベラルな傾向を有するが、ロシアでは選挙における若年層の投票率は低く、他方プーチンに傾倒する高年齢層の投票率は高いので、これまでプーチンは安泰であった。またロシアでは労働人口の実に3分の1以上が公務員・準公務員であるので、安楽なポストを求める青年は、「青年親衛隊」等、当局の組織する保守的青年運動に加わってきた。

 しかし、プーチン離れを見せるのは、今や青年層に限らない。2018年6月、政府が年金受給年齢を5年「後倒し」にする法律を採択、プーチンがこれに署名したことで、彼のトータルの支持率は20%程度落ちて60%台前半を低迷することとなっている。そして2000年以降、世界原油価格の高騰を背景に「世界的指導者」と標榜されるまでに上がったプーチンの星も、2008年以降は原油価格低迷を背景に迷走を始めようとしている。実質可処分所得は既に6年続けて下降している。

 これまでロシア政治の流れを言い当てたことで有名なモスクワ国際関係大学のヴァレリー・ソロヴェイ教授は最近、マスコミで「1990年のように、国民は官僚達に苛立ちを感じている。自分たちの所得が上がっている時には見逃してきたのだが、今では官僚達の上から目線の発言、腐敗の全てが怒りの対象となる。問題発言はSNSで直ちに拡散される」 、あるいは「年金改革等で、国民の堪忍袋の緒は切れ、国民はプーチンに怒りを感じて攻撃的になり始めている。1989年と同様、何かを根本的に変えないと駄目なのだ、今の体制は必然ではない、変えていいのだ、という意識が広がっている・・・変化が始まった」 と言っている。つまり1989年のゴルバチョフ末期、国民が共産党の統治に不信感を抱き、「国の富を牛耳る共産党を倒せば自分達の生活は良くなるだろう」と思い始めた時期を思わせる、というのである。

 また、プーチンの力が衰えているために、「利権確保をめざして『万人の万人に対する仁義なき闘争』が始まろうとしている。大衆の不満を利用する者が増えるので、集会、デモの類が増えるだろう」と予測する向きもあり、事実諸方でライバルを陥れての逮捕が起きている他、集会の類が増えている。

 こうした中、クレムリンによる社会統制力は落ちている。6月7日には、警察幹部の汚職を摘発した記者が、当局に「麻薬所持」をでっちあげられて逮捕されたが、6月10日には大手三紙を筆頭に(1面トップに同じ仕様の記事を掲載)全国の多数メディアが彼の釈放を要求、遂にはプーチン自身が介入して記者は釈放され、彼の逮捕を仕組んだ警察幹部2名は解任された。これは、ペレストロイカ末期、マスコミが世直しに向けて大きな発言権を持っていた時期を想起させるものである。

 そして9月には統一地方選が行われるが、与党の「統一」は党員の腐敗、無能、保守体質で社会の支持を失っているため、16の改選知事のうち6個所では当局の候補は無所属で立候補する 。既に地方の市レベルでは、無所属新人が選ばれる例が増えている。

 つまり、青年のプーチン離れや新思考は、問題の一角でしかない。「プーチンのレームダック化」こそ、今の最大の問題であるように思われる。

【私の論評】日本は韓国で練習し、ロシアに本格的"Economic Statecraft"を実行し北方領土を奪い返せ(゚д゚)!

第二次世界大戦のあと、ソビエト連邦(ソ連)は米国と競合する世界の超大国となりました。

しかし、1990年代初めにソ連が崩壊し、ロシアは経済改革を迫られました。その後、数十年にわたってさまざまな経済的苦労を経験してきました。

現在のロシアはもはや超大国とはいえなくなりました、通貨の変動、人口の減少、原油や天然ガスにさまざまな面で依存する経済に直面しています。これでは、プーチンがレームダック化するのも無理はないです。

ロシア経済に関するショッキングな事実を紹介します。

1.ロシアのGDPは東京都を若干下回る

東京のロシア人によるメイドカフェ
現在のロシアのGDPは、東京都を若干下回る程度であり、韓国と東京都はほぼ同じですから、韓国を若干下回る程度です。これに関してはこのブログで何度か解説してきましたが、あの大国とみられるロシアのGDPはこの程度であり、米中はもとより、日本にもはるかに及びません。
人口に関しては、1億4千万人程度であり、あの広い国土からするとかなり少ないです。ちなみに、日本は1億2千万人程度です。ちなみに、中国は14億に近づきつつあります。
2.ロシアでは、人口が毎日700人ずつ減っている
アメリカのジェームズタウン財団の「ユーラシア・デイリー・モニター」によると、ロシアの人口は1日あたり約700人、1年に25万人以上減っています。 
ムルマンスクといった一部の都市ではソ連崩壊以来、人口が30%以上減少しています。
3.ロシアの対外債務は国内総生産の29%
ロシアには4600億ドル(約51兆5000億円)以上の外貨準備があるものの、その対外債務は国内総生産(GDP)の29%にも及びます、輸入カバー率は15.9カ月だ。ちなみに、日本の対外純資産額は世界一です。無論、対外債務などありません。
4. ソ連崩壊の前後10年間で、ロシアの経済生産は45%減少
1989年から1998年の間にロシアの経済生産は45%減少しました。2000年まで、ロシアのGDP(国内総生産)はソ連崩壊前の水準の30%から50%の間で推移していました。
5. 原油と天然ガスがロシアの輸出の59%を占める
ロシア経済は天然資源に大きく依存しています。ロイターによると、2018年のロシアの原油生産量(バレル/日量)は史上最高の1116万バレルでした。 
世界銀行によると2017年、原油と天然ガスはロシアの輸出の59%、財政収入の25%を占めました。天然資源に大きく経済が依存すると、天然資源の価格のその時々の上下に、財政収入がかなり左右されることになります。
6. ロシア人の13%以上が貧困状態にある
プーチン大統領は2018年の年次教書演説の中で、現在、人口の13%以上を占めるロシアの貧困層を半減させると誓いました。 
アイリッシュ・タイムズ(Irish Times)によると、ロシアの公的な統計は1930万人以上が貧困線以下の生活を送っていることを示しています。
それでも、ロシアの貧困率はソ連崩壊直後の約35%から大きく低下しています。
7.ロシアには、ビリオネアが70人以上いる
ロシアの経済格差は大きいです。 首都モスクワはたびたび世界で最も多くのビリオネアが住む都市に名を連ねていて、ロシア全体では70人以上のビリオネアがいます。その多くは1990年代にその財を築きました。
新興財閥「オリガルヒ」はロシア政府に対して大きな影響力を持ち、西側諸国にも投資し始めています。ビリオネアで、NBAのブルックリン・ネッツのオーナーでもあるミハイル・プロホロフ(Mikhail Prokhorov)氏もその1人です。
先にも述べたようにロシアのGDPは現状では韓国と同程度ですが、ビリオネアの数では、ロシアは70人台、韓国は30人台です。 圧倒的にロシアのほうが多いです。
8.ロシアの通貨ルーブルの価値は、この10年で半分になった
ロシア経済は2014年から2017年の経済危機で大きな打撃を受け、ルーブルの価値は半分になりました。
9. ロシアの平均月給は670ドル
日米などの先進国に比較するとGDPの低いロシアだが、その平均月給は4万2413ルーブル、つまり670ドル(約7万5000円)です。 
2016年の437ドルから50%近く増えています。
10. ロシアの家具市場の20%をイケアが占めている
スウェーデン発のイケア(Ikea)がロシア1号店を首都モスクワにオープンしたのは2000年でした。その後、同社モスクワにもう2店舗出店し、ロシア全体では14店舗を展開しています。
イケアは現在、ロシアの家具市場の20%を占めています
11.ロシアのクリミア併合から5年、膨らみ続けるコスト
プーチン大統領がウクライナのクリミアを併合して5年たつが、ロシアが支払うコストは膨らみ続けています

ロシアのクリミア併合は依然として大半の国が認めず、ロシアを処罰するため米欧が主導して制裁など幅広い措置を打ち出しています。一方、ロシアは新たな発電所や本土とクリミアを結ぶ大橋への巨額の投資など、クリミアを自国経済に統合しようと躍起です。ところが、主要輸出品である原油の価格低下ですでに打撃を被っていたロシアと同国市民は、外国投資の落ち込みと上がらない賃金という痛みも強いられています。最近の調査によると、クリミア併合への市民の強い支持は失われつつあります。
ロシア経済には良いことがほとんどないようです。これはどうしてかといえば、やはりプーチノミクスの大失敗によるものです。

91年のソ連崩壊以来、ロシアが恐れてきたのは、NATOが旧ソ連諸国をのみ込み国境に迫ること。そして欧米がロシア国内の格差につけ込んで、反政府運動をあおることでした。それがウクライナやシリア、今度はベネズエラで攻勢に出た背景にあります。

その様は「俺様をなめんじゃねえ」と酔って管を巻くロシア人にそっくのようです。口ではすごんでも、経済力という足元が危ないからです。いまプーチン政権の頭には、2つの相反する方針がせめぎ合っているようです。

ロシアの酔っ払い

プーチンはこの2年ほど、折に触れて「第4次産業革命」に言及。IoT(モノのインターネット)や人工知能(AI)といった技術革新による産業構造の変化から脱落すれば、「ロシアは後進国たることを運命付けられる」と語っています。

しかし役人が実行する政策は、ソ連さながらの締め付けやアフリカへの傭兵派遣といった対外進出ばかりが目立ちます。第4次産業革命の基盤となるネットには、中国並みの規制を目指す始末です。3月10日には首都モスクワで、ネット規制法案に反対する市民約1万人が抗議の声を上げました。

最近では汚職摘発を名目とした国会議員や元大臣の拘束が相次いでいます。検事総長が議場に踏み込み、議員の不逮捕特権剝奪をその場で強要したり、深夜に公安当局が元大臣の自宅に踏み込んだり、エリートの間では疑念と恐怖が芽生えています。

24年のプーチン退陣を前に、検察や公安を利用しての権力・利権闘争が既に始まっているのではないでしょうか。自分から仕掛けないとやられてしまうのではないか、という懸念です。こうしてロシアは頭で「先に進まなければ」と分かっていても、ソ連の記憶が染み付いた手足は後ろに進んでしまう「統合失調」にあるわようです。

プーチン時代は当初、政権発足時から最大で5倍に跳ね上がった原油価格に助けられ、GDPが6倍以上にもなる驚異の成長を達成。ところが08年の世界金融危機で原油価格が暴落して以降、成長力も息が切れました。

プーチンの経済政策「プーチノミクス」は、「天然資源収益を国家の手に集中し、計画的に投資に向ける」という、彼の97年の博士論文そのものです。大統領就任後は石油・天然ガス部門を国家の手に集中したのですが、肝心の投資について青写真が描き切れていません。ビジネスを運営できるスタッフが不足するなど、近代化の条件を欠いているからです。

GDPは14年のクリミア併合で欧米の制裁を招いて以降、実質マイナス成長が続きました。17年にやっとプラスに回復しましたが、統計操作が疑われるなど、停滞は明らかです。政府は中国に倣って、地方の道路網整備などインフラ投資で成長を実現しようとしています。しかし独占体質の強いロシア経済では、資材価格の高騰とインフレを招くだけでしょう。

プーチノミクスは賞味期限が来たようです。遠いベネズエラで、米国と子供じみた力比べをしている余裕はないです。4月21日のウクライナ大統領選の決選投票で政権が代わったたクリミア問題で落としどころを探る好機ともなるでしょう。

現在のロシアは今のままではますます疲弊するだけで、将来的には、日本との北方領土問題も含めて欧米との関係を改善し、第4次産業革命に邁進しなければならないはずです。

現在の状況は、米国は対中冷戦を継続中であり、中国もロシアのように弱体化しつつあります。これがある点を超えると、ロシアにとって中国は現在とは違い与し易い相手になるはずです。

現状は、プーチンはなるべく中国を刺激しないようにしていますが、中国が弱れば、中露の仲は以前のように悪化することになるでしょう。

そのときは、中露国境紛争が再燃するでしょう。現状のロシアは経済は弱体化していますが、そうはいっても旧ソ連の核兵器や軍事技術を警鐘しており、決して侮れないです。

そのロシアが、弱体化した中国と再び戦火をまみえるようになったときこそ、日本のチャンスです。その時こそ、北方領土交渉を有利にすすめることができるのです。

日本としては、何らかのメリットを提供した上で、今度はそれを取り下げるようなことを繰り替し、"Economic Statecraft(経済的な国策)"の手法を駆使してロシアと交渉すべきです。

"Ecomomic Statecraft(経済的な国策)"とは、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求するものです。これは、武器は用いないものの、実質的な戦争です。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!
核弾頭を搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事にも掲載したように、日本は核兵器などとは異なり"Economic Statecraft (以下ESと略す)"は日常的に使える手段であることを念頭におき、これを使う前提で外交を考えるべきです。

幸いなことに、この記事を書いた時点では、実施されていないかった、日本による対韓“輸出管理強化”が発動され、韓国経済に大打撃を与えそうです。そうして、すでにこの元凶となった文政権へ韓国内から不満が噴出しています。

これは、まさにESが実際に功を奏する事例となりそうです。この記事でも、主張したように、日本は対露外交を視野に入れ、韓国でESの練習を行うべきと思います。これにより、韓国を屈服させることができなければ、対ロシアに対してもとてもうまくいくとは思えません。

再び中露国境紛争などで、中露の対立が深まったときに、日本がロシアに対してESを発動すれば、ロシアは弱り目に祟り目という状況に追い込まれます。

その時に、日本の要求は通りやすくなります。さらに、制裁するだけではなく、ロシア経済にとって良いような項目でディールをすれば、ロシアが北方領土を返還する可能性は高まります。返還しなければ、ますます制裁を強くするようにすれば良いです。

日本としては、ESだけではなく、軍事力も強化すべきでしょう。また、米国など同盟国、順同盟国との関係も強化すべきでしょう。

このようにしてから、ESを本格的に発動するのと、そうではないのとでは雲泥の差があります。ESをうまく使いこなす国には、当然のことながらまずは経済力が強くなければならないとともに、ある程度の軍事力もなければなりません。

【関連記事】


2019年3月7日木曜日

日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」―【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

日本の「安全保障環境」は大丈夫? ロシア“核魚雷”開発、中国膨らむ国防費、韓国は… 軍事ジャーナリスト「中朝だけに目を奪われていては危険」



 日本の安全保障環境が急速に厳しくなっている。中国の2019年の国防費は前年実績比7・5%増と、日本の防衛予算の約4倍まで膨れ、「反日」の文在寅(ムン・ジェイン)大統領率いる韓国の国防費も日本とほぼ肩を並べた。ロシアは今春、広島に投下された原爆の100倍を優に超える威力(最大2メガトン)の核弾頭を搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」を就役させる。「今そこにある危機」に目を向けるべきだが、わが国の国会では、厚労省の統計不正問題や、桜田義孝五輪担当相の適性問題が最大の焦点になっている。これで、国民の生命と安全を守れるのか。

 「海洋強国を建設する」

 中国の第13期全国人民代表大会(全人代=国会)第2回会議が5日、北京の人民大会堂で開幕した。李克強首相は政府活動報告で、こう宣言した。

 中国の国防費は、経済減速が続くなか、前年実績比7・5%増の1兆1898億7600万元(約19兆8000億円)と突出している。日本の防衛予算案(2019年度)は総額は5兆2986億円だけに、3・7倍の規模となっている。

 具体的には、中国海軍は今年、初の国産空母を就役させる予定で、2隻目の国産空母の建造も進めている。東・南シナ海での軍事的拡張を進め、沖縄・尖閣諸島周辺海域に連日のように侵入している。宇宙空間の軍事的支配ももくろみ、現在の米国のミサイル防衛(MD)では撃墜不可能とされる戦略兵器「極超音速飛翔(ひしょう)体」の開発も急いでいる。

 まさに、日本の「安全保障上の脅威」と言って間違いない。

 国会議長による「天皇陛下への謝罪要求」や、海上自衛隊哨戒機への危険極まるレーダー照射など、常軌を逸した「反日」姿勢を示している韓国も要注意だ。

 韓国の19年度予算案の国防費は約4兆7000億円で、日本の防衛予算と遜色がなく、このままでは日本を抜き去りそうだという。文大統領は「一日も早く、親日残滓を清算すべきだ」と公言し、「南北統一」を悲願としているが、これが大問題だ。

 先月末の米朝首脳会談でも、北朝鮮は「核・ミサイル」の完全廃棄を進める気はなかった。同国は、日本全土を射程に入れる中距離弾道ミサイル「ノドン」を数百発配備している。もし、南北統一となれば、朝鮮半島に「核を持った反日朝鮮国家」ができるのだ。

 これは「国家存亡の危機」といえる。

 ウラジーミル・プーチン大統領率いるロシアも油断できない。

 同国国防省は先月末、核弾頭が搭載可能な新型原子力魚雷「ポセイドン」の発射実験の映像を初公開した。全長10メートル以上で、深度1000メートルまで潜航し、最高速度は70ノット(=時速約130キロ)。航続距離は1万キロに達するという専門家の分析もある。

 プーチン氏は先月20日、「試験には成功した。航続距離は無制限だ!」と演説し、今春に1番艦を就役予定と表明した。海に囲まれた日本や、同盟国・米国への脅威であることは確実だ。

 軍事ジャーナリストで評論家の潮匡人氏は「中国の国防費増強は『対米国』や『台湾侵攻』を念頭に置き、日本を含む周辺諸国への国益の最大化を目指している。韓国も建前上、『対北朝鮮』で国防費を伸ばしているが、内訳をみれば『対日脅威』を潜在的に想定している。ロシアの核魚雷は日米の脅威だ。旧ソ連時代からの戦略は変わっていない。中朝だけに目を奪われていては危険だ」と分析する。

 わが国が、こうした「安全保障上の危機」に直面していながら、現在開会中の通常国会の審議には緊張感はみられない。

 5日の参院予算委員会では、厚労省の統計不正問題や、桜田五輪担当相の適性問題が集中的に取り上げられた。安全保障に関しては、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる県民投票が取り上げられたが、日本の防衛力をチェックする視点や、沖縄の地政学的重要性を説くような質問はなかった。

 政治評論家の伊藤達美氏は「政治家は、国民に対し、安全保障環境の厳しい現実を丁寧に説明すべきだ。国会では今こそ、大所高所からの建設的議論が必要だ。ところが、立憲民主党などの左派野党はひどい。安倍晋三首相の批判ばかり。小学生でもできるレベルの質問だ。『空想的平和主義』からは卒業すべきだ」と指摘した。

 国会で、日本を守るための審議は聞かれないのか。

 前出の潮氏も「中国や韓国、ロシアは本気で軍備拡張を進めているのに、政治家やメディアは周辺諸国の脅威を直視していない。国民も理解できない。このままでは、防衛予算だけでなく『国防意識の差』も開くことは間違いない。恐ろしい未来が待っている」と語った。

【私の論評】日本は韓国をeconomic statecraft(経済的な国策)の練習台にせよ(゚д゚)!

日本は安倍晋三首相の下で、安全保障面での国際的な存在感の向上のためにさまざまな取り組みを行ってきました。2012年に発足した安倍政権はそれまで続いていた防衛費の減少を止め、安全保障に関する官僚組織を再構築し、安全保障関連の政策や方針に大きな変化をもたらしてきました。
このような変化がある一方で、日本が安全保障上改善する余地のある重要な点が存在します。その最たるものが、経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する「economic statecraft(経済的な国策)」です。欧米などでは認識され、政策に応用されていますが、現時点では日本にない概念であり、日本語に直訳するのは難しいです。ブログ冒頭の記事でも、その点につては掲載されていません。
ロシアの新型原子力魚雷「ポセイドン」は確かに日本等にとって脅威です。しかし、だからといって、ロシアが「ポセイドン」をあちこち発射して、世界を我がものにしたり、世界を自分の従わせることができるかといえば、そうではありません。

このような兵器はたとえば、ロシアが他国から核攻撃されたとか、されそうになったという最終局面でしか使えません。しかも、使えば自国も確実に核で報復されかなり破壊されることになります。

そのような兵器は確かに抑止力になりますが、通常の戦いでは、あまり役に立ちません。しかし、economic statecraftは日常的に使える手段です。そうして、これは米中や日本などある程度経済規模が大きな国が使うとかなり効果を期待できます。

逆に、ロシアや韓国など(ともにGDPは東京都と同程度)経済規模の小さな国では、あまり効果がありません。
中国やロシアは多用し始めている
各国政府、特に中国やロシアなどは、このようなeconomic statecraftを多用し始めています。たとえば、他国が自国の意向に反する政策をとった場合に、見せしめとして輸入に制限をかけます。あるいは、経済的に脆弱な国に対して、ODAや国営企業の投資をテコに一方的な依存関係を作り出すことで援助受入国を「借金漬け」状態にし、自国の意向に沿わない政策を取らせにくくする、といった政策です。

米国がこうした経済外交をeconomic statecraftと定義し、米国としてもこれに対抗するeconomic statecraft戦略を描くべきである、という議論がオバマ政権末期から安全保障政策専門家の間で高まっていることが、トランプ大統領のニュースに埋もれて日本では認識されてきませんでした。
economic statecraftの道具と目的は以下の表で示す通りです。

日本語に翻訳すると、貿易制限、金融制裁、投資制限、金銭的制裁です。

年初には安全保障分野で著名な米国シンクタンクである戦略国際問題研究所(CSIS)が、米国は「中国の挑戦」に対抗するにはより洗練されたeconomic statecraftを用いる必要性があると提案したのに加え、ほかのシンクタンクもこのような政策の具体案を構想し始めています。

これらの分析において重要なポイントは、米国がeconomic statecraft戦略を展開するうえで同盟国や友好国との連携の重要性を強調していることで、世界の経済規模で第3位にある日本との連携が極めて重要になることは間違いないです。しかし、日本でeconomic statecraftの観点から米国と連携していかれる十分な構想と体制が整っているとは必ずしも言えません。

就任から5年、安倍政権は日本の安全保障政策の本質的な変革を進めてきました。政府は国家安全保障会議(NSC)を設立することで安全保障政策の意思決定過程を再編成し、首相官邸に権限を集約しました。NSCは日本初の国家安全保障戦略を生み出し、その戦略を政策へと落とし込む「防衛計画の大綱」と「中期防衛力整備計画」を発表しました。

また、「特定機密の保護に関する法律」を通過させ、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈変更をし、平和安全法制を作成しました。米国との同盟関係を強化したほか、オーストラリア、韓国、インド、英国といった友好国との安全保障関係を深め、他のインド太平洋地域の国家と防衛協力も強化。さらに、「防衛装備移転三原則」と「開発協力大綱」を閣議決定しました。そして政府は、宇宙とサイバー空間の側面を含む国家安全保障戦略を打ち出しました。

このような目まぐるしい変化の中には、経済的な手段をもって戦略的に地政学的な国益を追及するeconomic statecraftの視点が抜け落ちています。近代化以来、国家権力の経済基盤を重要視してきた日本が、安全保障戦略の中で具体的な経済戦略を描き切れていないことは意外な事実であると言えるでしょう。
日本も安全保障戦略では「経済」を意識しているが

近年の日本における安全保障政策上の変化において、経済的な側面がまったく強調されていないわけではありません。日本の国家安全保障戦略には、「経済」または「経済的」という文言が57回述べられているのに加え、宇宙・サイバー空間における経済的重要性が強調されています。また、「開発協力大綱」と「防衛装備移転三原則」は、日本経済の活性化に寄与すべきであると言及しています。

さらに、2013年の「日本再興戦略」では、積極的にODAを用いて世界規模のインフラプロジェクトや医療市場において日本が大きな割合を占めるよう呼びかけています。それにより「新興国の成長を取り込み、日本経済の活性化につながる」ようにさせ、「ODAを活用した中小企業等の海外展開支援」をするとしています。

また、日本は北朝鮮に対する制裁措置の適用を積極的に支持してきた国の1つです。ただ、その実行相手は敵対的な関係にある国家や国際的な協議によって合意された経済制裁相手でしかなく、日本の意向に沿わない政策をとられたからといって、特定企業や特定品目を対象とした経済制裁などの発動を行うことは決してありませんでした。

しかし、今後は米国も含めて、自国の意向に沿った政策がとられるか否かによってピンポイントでの経済制裁を繰り出し合う経済戦争時代であると他国が認識している環境において、日本も能動的なeconomic statecraft 戦略を描いておくことは不可欠でしょう。

では、具体的に日本政府はどうするべきか。まず、経済的に関与・拡大をすべき領域の特定と優先順位付けを行う戦略を策定すると同時に、その戦略を実行するにあたって民間企業との連携が必要な場合は、発生するリスクを政府が負うような仕組みとするべきです。

たとえば、政府は特定のODAプロジェクトがより大きな戦略的な構想の中でどのような位置づけにあるかを明示すべきでしょう。現在政府は個別のプロジェクトに出資しており、民間部門はこれが利益を生むという理由から受け入れています。

しかし、たとえばODAを通じてロシアの病院設立に出資することで善意は買えるかもしれないですが、本来このような戦略はより大きな日露関係の発展に寄与しなければならないです。民間企業は日本政府の意図を理解し、このような取り組みを企業戦略に取り込んで行くには、全体的な日露関係の改善という文脈だけでなく、日本政府とどのように協力することでロシアの国家医療戦略と政策に影響を与えられるかというビジョンが必要となります。

ただし、日本も最近では実質的なeconomic statecraftを実行しています。2019年の初めから日本はロシア産石油の買入量を一気に40.5%削減しました。また液化天然ガス(LNG)の輸入も前年同時期比で7.6%減少しました。一方で米国の炭化水素の輸入は急増。石油は328%、LNGは36.1%増加しています。

これは、一方ではアジアのエネルギー市場でのシェア拡大を望む米国と、もう一方にはロシアの領土問題への不変の姿勢に否定的に反応し、交渉姿勢を強めようとする日本の試みがあると考えられます。
日本は昨年も1月から9月にかけての時期にロシア産石油の輸入量を減らしていました。ところが両国間での平和条約の議論が始まるやいなや状況は変化しはじめ、11月には日本はロシアの石油の購入を急増させました。そして現在は、交渉の行方が不透明になりはじめたことから、ロシア産エネルギーの日本の輸入量は再び減少し始めているのです。
これは、一方では米国との同盟関係を強化し、他方では北方領土問題に消極的なロシアに対して制裁を課すという、economic statecraftです。

日本は昨年12月、ノルウェーから約4年ぶりに液化天然ガス(LNG)6万3200トンを輸入

新技術の重要性が高まっている

このeconomic statecraftには技術的な側面も含まれています。ハドソン研究所のアーサー・ハーマン分析官は「最近まで従来の防衛セクターには存在しなかった技術やシステムが、多くの場合、民間のハイテク技術を防衛上のニーズに合わせることで、将来の軍事システム開発と展開を目的とする国防省の『第三の相殺戦略』に導入されるようになった」と強調しています。米国の「第三の相殺戦略」とは、米国の国防予算の制限や技術的優位性の相対的喪失を「相殺」する戦略です。この技術面での中核的な要素としては、無人システム、ロボット工学、小型化、人工知能(AI)、ビッグデータなどが含まれます。

2014年に発足した「米国防衛革新イニシアティブ」は、国防総省が従来依存してきた組織や団体とは異なる、外部の民間技術力を活用することを目的として掲げています。この中には他国家も含まれており、これらのさまざまな分野で最先端の技術を持つ日本はこの試みにおいて主要なパートナーとなり得ます。

日本政府も、今後の国家経済と安全保障の健全性のためには新技術の重要性が高まっていることを認識しています。たとえば、上述した米国防衛革新イニシアティブの論理は日本の防衛省の文書からも見て取れます。

2014年に防衛省が出した「防衛生産・技術基盤戦略」では、「外部から防衛技術に適用できる優れた民生先進技術(潜在的シーズ)を適切に取り込んでいく必要がある」と指摘。そのためには「民生最新技術の調査範囲を拡大」し、情報共有や共同研究といった国際協力を促進するとしています。日米は幅広い分野の技術研究をしていることからも、これは更なる日米協力が考えられる分野でしょう。

日本は近隣の競争国におくれを取らず、米国やその同盟国・パートナーと歩調を合わせるためには、economic statecraftと呼ばれる幅広いアプローチを受け入れる必要があります。この考えは、新たな米国「国家軍事戦略」にも明示的に表れています。この文書には「中国は近隣諸国を脅かすために略奪的な経済手法を用いる戦略的競争相手である……中国は軍事近代化や、他国への工作活動、略奪的経済手法を用いて、インド太平洋地域を自国にとって有利になるように秩序の再構築を行おうとしている」とあります。

このような中国の考え方は、さまざまな政策から見て取ることができます。たとえば、「中国製造2025」計画は独自のイノベーションを奨励する政策をとることで、中国市場が海外企業にとって不利になるような計画となっています。また、米国製ミサイル防衛システムを受け入れようとする韓国を懲らしめるために、韓国行き団体旅行を禁止する事例も生じています。さらに、中国は政治危機の最中に日本へのレアアース輸出を禁じたことは記憶に新しいです。

単にこれらの政策を非難するのではなく、他国の政府もこのような手法を用いるべきであると考える専門家やアナリストが増えています。日本もこのような他国のeconomic statecraftに晒された際に、どのように日本として、あるいは同盟国・友好国と協力して対応して行くかについて本格的に考え、戦略の一部に取り込んで行く必要があるのではないでしょうか。

企業やビジネスも新概念を理解すべきだ

このような新たな安全保障環境においては、いくつかの新しい対応が必要とされています。

まず、日本は安全保障に対してより広い視野をとるeconomic statecraft戦略の構築を検討すべきです。この戦略は国力を包括的に捉え、貿易・投資・経済制裁・サイバー・経済援助(ODA)・金融政策・エネルギー政策・技術協力といった経済的なアプローチを含めるべきです。また、重視され始めてきたサイバー空間における脅威やパンデミックのような健康への被害、環境問題など、今なお進化・拡大し続ける安全保障上の脅威に対処するツールの性質と価値に対する柔軟な判断が求められます。

次に、日本は安全保障戦略におけるeconomic statecraft機能の強化に向けて、国家安全保障局内に「国家安全保障経済政策会議」を設置することが考えられます。米国では国家安全保障会議(NSC)と国家経済会議(NEC)が別々に存在していますが、安全保障と経済をきれいに分けることができなくなっている時代において、日本でも国家安全保障会議とは別の経済組織を作ることは必ずしも好ましくないです。国家安全保障経済政策会議は、戦略策定とその実施に限らず、安全保障に関する意思決定の最前線においてeconomic statecraftが考慮されるように努めなければならないです。

さらに、日本政府は民間企業と緊密に連携し、企業やビジネスに対してeconomic statecraftに関する考えを促し、奨励することが不可欠です。日本企業は、日本の国益を追求する上で経済ツールが果たす役割に対する理解がなく、また、この視点から戦略的に考える能力も持っていません。

日本企業は、サイバーセキュリティのベストプラクティスを導入・設計することから情報保護に関する政策に至るまで、安全保障と経済が重なる分野におけるニーズに敏感でなければならないです。日本政府や企業は新たに動き始めたeconomic statecraftを反映した戦略と実践の双方において、新しい考え方を受け入れることが必要不可欠なのです。
格好の練習台韓国
最近の韓国はの日本に対する姿勢は、許容し難いところがあります。このブログでは、過去において解説したように、韓国と断交しても、日本が被る被害は軽微ですが、韓国は甚大な悪影響を被ることになります。
日本軽視を続ける文在寅韓国大統領

日本としては、韓国に単純に制裁を課すというのでなく、長期的な戦略を持ってeconomic statecraftを発動するのです。韓国は断交したとしても、日本にはあまり悪影響はないので、格好な練習台になります。さらには、米国などの同盟国も、これに対してはあまり反対したり批判したりすることはないでしょう。
無論、単純に断交するだけというのではなく、韓国がある程度変われば、TPPへの加入とか、ODAなども実行することも視野に入れた包括的なものにすべきと思います。変わらなければ、台湾に対して手厚い支援を行うなどのことも視野にいれるべきです。
こうして、韓国などに実行してみて、失敗したところはきちんとフィードバックして日本独自のeconomic statecraftの実施方法を確立した後に、本格的に北朝鮮、中国、ロシアにも適用していくべきと思います。
【関連記事】
対ロ交渉、長期化色濃く=北方領土の溝埋まらず―【私の論評】北方領土は今は、返ってこなくても良い(゚д゚)!
これはもうゲーム・オーバーだ! 文大統領会見で日韓は新たなフェーズに―【私の論評】このままでは、行き着く先は国交断絶で韓国は疲弊(゚д゚)!

2018年10月20日土曜日

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達―NYタイムズ―【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い(゚д゚)!

米、中距離核全廃条約から離脱へ=ロシア違反と批判、来週伝達―NYタイムズ

トランプ米大統領(写真左)とプーチン・ロシア大統領。米紙ニューヨーク・タイムズは
19日、トランプ米政権が冷戦時代に旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)
全廃条約から離脱する見通しだと報じた

 米紙ニューヨーク・タイムズは19日、トランプ米政権が冷戦時代に旧ソ連との間で結ばれた中距離核戦力(INF)全廃条約から離脱する見通しだと報じた。

 ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が来週、ロシアを訪問し、プーチン大統領に米国の方針を伝えるという。

 同紙によれば、トランプ大統領が近く、条約離脱を正式に決定する。同政権が主要な核軍縮条約から脱退するのは初めて。米国の条約離脱が、米ロ両国と中国を巻き込んだ新たな軍拡競争につながる恐れもある。

握手するゴルバチョフ・ソ連書記長(左)とレーガン大統領(右)(ともに当時)

 1987年にレーガン大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長(ともに当時)の間で調印されたINF全廃条約は、米国と旧ソ連が保有する射程500~5500キロの地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃を定めた。ただ、米国は近年、ロシアが条約に違反して中距離核戦力の開発を進めていると批判してきた。 

【私の論評】米の条約離脱は、ロシア牽制というより中国牽制の意味合いが強い(゚д゚)!

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版、2017.11.16)は、米国防省が中距離核戦力(INF)全廃条約(以下、「INF条約」)で禁止されている中距離ミサイルの再開発を検討していると報じました。

冒頭の記事にもあるように、1987年に米ソ間で調印されたINF条約は、両国の中距離(射程500~5500キロ)地上発射型弾道ミサイルと巡航ミサイルの全廃を定めました。

しかし近年、ロシアが条約に違反して中距離核ミサイルの開発を進めているとの疑惑が深まる一方で、米国だけが条約を遵守しているのは不公平だとして米側の不満の声が高まっていました。

米当局者によると、米国は数週間前、ロシアが条約を順守しないようであれば、新たな中距離ミサイルの研究開発を進める意向をロシア側に伝えたといいます。

しかし、問題の所在は、米国とロシアの間にとどまりません。というのも、INF条約は米露(締結時はソ連)間の条約で、中国には適用されないからです。

その中国は、平成29年版「防衛白書」によると、「DF-4」、「DF-21」などの中距離核ミサイルを160基保有しています。

中国のDF-21

他方、米国は、地上発射型弾道・巡航ミサイルの全廃に加えて、バラク・オバマ大統領の「核のない世界」の方針を受け、INF条約の対象外である核搭載海上発射型巡航ミサイル「トマホーク」を2010年の「核態勢見直し(NPR)」で退役させました。

その結果、米国には海中発射型(TLAM-N)と空中発射型(AGM-86B)の巡航ミサイル「トマホーク」がかろうじて残っただけになりました。

そのため、アジア太平洋地域では中国の「アクセス(接近)阻止/エリア(領域)拒否(A2/AD)」戦略によって中距離核ミサイルの寡占状態が出来上がり、米国による同盟国・友好国に対する核の地域抑止(「核の傘」)に大きな綻びが生じているのではないかとの懸念が増大していました。

ロシアの戦略爆撃機T-160「ブラック・ジャック」

ロシアは、国際的地位の確保および米国との核戦力バランスの維持とともに、通常戦力の劣勢を補う意味でも核戦力を重視してきました。

戦略核戦力については、米国に匹敵する規模の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)および長距離爆撃機(Tu-95「ベア」、Tu-160「ブラックジャック」)を保有し、核戦力部隊の即応態勢を維持しています。

問題の中距離核戦力については、米国とのINF条約に基づき1991年までに廃棄し、翌年に艦艇配備の戦術核も各艦隊から撤去して陸上に保管しましたが、その他の多岐にわたる核戦力を依然として保有しています。

こうしたなか、2014年7月、米国政府は、ロシアがINF条約に違反する地上発射型巡航ミサイル(GLCM)を保有していると結論づけました。

米政府当局者に「SSC-8」と呼ばれる同ミサイルは、2個大隊を保有し、ロシア南東部アストラハン州のカプスチン・ヤルなどに配備されていると指摘されていました。

この件について、米政府は、たびたびロシア政府に対し異議申立てを行ってきた。

しかし、ロシア政府が否定しているため、米国はその対抗措置として、新たな中距離ミサイルの研究開発を進める意向をロシア側に伝え、そのうえで、ロシアが条約を順守すれば、開発を断念すると伝達したのです。

中国H-6(Tu-16)爆撃機

一方、中国は、核戦力および弾道ミサイル戦力について、1950年代半ば頃から独自開発を続けており、抑止力の維持、通常戦力の補完そして国際社会における発言力の確保を企図しているものとみられている。

中国は、ICBM、SLBM、H-6(Tu-16)爆撃機のほか、INF条約に拘束されないため、中距離弾道ミサイル(IRBM / MRBM)を保有し、さらに大量の短距離弾道ミサイル(SRBM)といった各種類・各射程の弾道ミサイルを配備している。

わが国を含むアジア太平洋地域を射程に収める中距離弾道ミサイルについては、発射台つき車両(TEL)に搭載され移動して運用される固体燃料推進方式の「DF-21」や「DF-26」があり、これらのミサイルは、通常・核両方の弾頭を搭載することが可能です。

また、中国はDF-21を基にした命中精度の高い通常弾頭の弾道ミサイルを保有しており、空母などの洋上の艦艇を攻撃するための通常弾頭の対艦弾道ミサイル(ASBM)「DF-21D」を配備しています。

さらに、射程がグアムを収めるDF-26は、DF-21Dを基に開発された「第2世代ASBM」とされており、移動目標を攻撃することもできるとみられています。

これらの中距離弾道ミサイルは、中国周辺地域への他国の軍事力の接近・展開を阻止し、当該地域での軍事活動を拒否する「A2/AD」戦略を成り立たせるための重要な手段です。

米国のINF廃棄と相まって、アジア太平洋地域に中国の核ミサイルの寡占状態を作り上げることができるため、米国による同盟国・友好国に対する核の地域抑止(「核の傘」)に大きな綻びが生じているのではないかとの懸念が増大していました。

中国の中距離弾道ミサイルは日本を各地を狙っている
クリックすると拡大します

このように、中距離核ミサイル、すなわち戦域核ミサイルについては、米国と中国(および北朝鮮)との間に非対称状態を生じています。

米国の核による地域抑止の低下についての懸念は、第1列島線域内の同盟国・友好国のみならず、米国の要人の間でも公然と指摘されるようになっていました。

日本側の意向も、様々なチャネルを通じて米側に伝えられており、米国政府もINF条約の「くびき」について十分認識しているとみられました。

これまで、米国の核戦略は、主としてロシアを対象に策定されてきましたが、21世紀の世界における安全保障の最大の課題は中国であり、今後はロシアのみならず、中国を睨んだ核戦略および核戦力の強化に目を向けなければならないです。

米国政府がINF条約違反と結論づけたロシアによる中距離核ミサイルの開発ならびに中国による大量の中距離核ミサイル保有を考えれば、米国には、同条約の破棄あ踏み切り、懸念される地域核抑止の信憑性と信頼性を回復しようとするでしょぅ。



この際、同条約の無効化に伴い、米国は短距離・中距離核ミサイルの配備について、わが国を含む第1列島線域内の関係国(日本、韓国、台湾、ベトナム)に打診してくる可能性もあります。

打診とは、わが国を含む第1列島線域内の関係諸国に、核を配備すること等の打診ということです。日本としても、どのようにすればわが国の核抑止力を高めることができるか、その在り方について真剣に検討すべき段階に入っています。ただただ、核を忌避したとしても、中国の中距離核弾道弾がなくなることはありません。

日本では、北朝鮮の核ばかりが注目されて、なせが中国の核兵器についてはほとんど問題にもされず、報道もされませんが、現在でも中国の中距離弾道弾は日本の大都市全部に狙いをつけています。

以上のことを考慮すると、今回の米国による中距離核全廃条約から離脱は、対ロシアというよりは、対中国に重きをおいた措置であると考えられます。

いまのままの状況であれば、中国は対中国経済冷戦を挑む米国を牽制するため、日本をはじめとする第1列島線域内の国々に対して、核攻撃の構えをみせ、脅すということも考えられます。今回の措置ははそれを予め防止するという意味があるのです。

【関連記事】

「Gray War(灰色戦争)」に入った米国と中国―【私の論評】現状が続けば中共は崩壊し、米国は世界唯一の超大国の座を維持することに(゚д゚)!

米中対立激化 「米国の能力見せつける」米海軍、台湾海峡で大演習へ 経済だけでなく軍事でも中国封じ込め―【私の論評】日本はまずは国会で悪魔中国の実体を暴くことから始めよ(゚д゚)!

衝突も?「米中貿易戦争」拡大で軍事的緊張避けられず 米露首脳会談で中国を牽制 ―【私の論評】米中貿易戦争は、国際秩序の天下分け目の大戦の始まり(゚д゚)!

【瀕死の習中国】トランプ氏の戦略は「同盟関係の組み替え」か… すべては“中国を追い込む”ため―【私の論評】中国成敗を最優先課題にした決断力こそ企業経営者出身のトランプ氏の真骨頂(゚д゚)!

中国がこれまでの国際秩序を塗り替えると表明―【私の論評】中華思想に突き動かされる中国に先進国は振り回されるべきではない(゚д゚)!

2018年7月22日日曜日

米ロ首脳会談 − 「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」プーチン大統領が発言―【私の論評】トランプ氏を馬鹿であると報道し続ける日米のマスコミは、自身が馬鹿であると気づいていない?

米ロ首脳会談 − 「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」プーチン大統領が発言

大紀元日本

フィンランドのヘルシンキで16日に開かれた米ロ首脳会談。会談後の共同会見

フィンランドのヘルシンキで16日に開かれた米ロ首脳会談後の共同会見で、プーチン大統領は、米国出身のビジネスマンがロシアで稼いだ資金の一部を、ヒラリー・クリントン側に寄付していたと発言した。

プーチン大統領は、記者団が2016年米大統領選のロシア介入疑惑について質問したところ、米検察が疑わしいと思っている人物の捜査を、ロシアに要請できると述べた。「ロシアの検察庁と捜査当局の代表は、捜査結果を米国に提出する」と付け加えた。

さらに踏み込んで、情報共有のため、選挙介入疑惑を調査するロバート・モラー特別検察官を含む米国の代表者が取り調べに参加できるようにするとした。

プーチン大統領の例える「疑わしい人物」とは、首脳会談前、米検察が大統領選介入の疑いで起訴した12人のロシア情報当局者を指すとみられる。

しかし、プーチン大統領は、疑わしい人物の「よく知られた一例」として、大手投資企業エルミタージュ・キャピタル創業者でCEOのビル・ブラウダー氏を名指しした。ロシアの裁判で、ブラウダー氏は脱税の罪で有罪判決が下っている。

ブラウダー氏はロシアで1996年にエルミタージュ社を創業し、一時は外資系企業でロシア国内トップの資産を保有した。2005年、ロシア国家安全機密に違反したとして、ブラウダー氏は入国を禁じられた。

プーチン大統領は会見で、「ブラウダー氏のパートナーは違法にロシアで50億ドルを稼ぎ、米国に送金した。しかし、ロシアにも米国にも税金を払っていない。彼らは4億ドルをヒラリー・クリントン氏の選挙活動資金として渡した」と述べた。

国際マグニツキー法を成立させた事案に絡むビジネスマン
米国出身で現在は英国籍のブラウダー氏は、プーチン大統領批判を繰り返してきた。このたびの名指し批判に対しても、英タイム誌に17日掲載の文書で反論している。ヒラリー氏への献金について「非常にばかげている、妄想だ」と強く否定した。

またブラウダー氏は、米ロ会談では、米検察が起訴したロシア情報当局者12人と、自分を交換することを求めているとの推察を示した。「しかし、私はすでに英国籍だ。もしプーチン大統領は私をとらえたいならば、テリーザ・メイ首相に言えばいい」と書いた。

19日、ホワイトハウスはトランプ大統領の話として、12人のロシア情報当局者に対するロシアからの取り調べは許可しないと述べた。

英国在住のブラウダー氏は、ロシアにおける脱税で2009年に裁判で懲役9年を言い渡された。同氏のかつての弁護士セルゲイ・マグニツキー氏も同様に脱税で起訴された。マグニツキー弁護士は留置所内で心不全のため死亡した。

マグニツキー弁護士は、ロシア当局内の2.3億ドルの巨額横領事件を指摘していた。弁護士の急死をロシア当局の口封じだと疑う米オバマ政権は、ロシア当局者に対して制裁を科す法案「国際マグニツキー法」を2012年、可決させた。

しかし、ロシアの国営メディア・スプートニク2017年8月によると、米諜報当局の高官は、ブラウダー氏の虚構に基づいて法案が可決したと認識していると報じた。報道によると、謎のハッカー集団が米国務省情報調査局のロシア担当責任者ロバート・オットー氏のメールをハッキングしたところ、オットー氏は、マグニツキー弁護士が告発した横領事件には、明白な証拠がないとつづっていたという。

【私の論評】トランプ氏を馬鹿であると報道し続ける日米のマスコミは、自身が馬鹿であると気づいていない?

このニュースそのうち、国内のメディアが報道すると思っていたのですが、とうとうどこも報道しなかったので取り上げることにしました。プーチン大統領が、米国出身のビジネスマンがロシアで稼いだ資金の一部を、ヒラリー・クリントン側に寄付していたと発言したということ自体は事実です。

この発言は、ブログ冒頭の記事にもあるように、2016年の米大統領選に介入した疑いで米連邦大陪審がロシア連邦軍参謀本部情報局(GRU)の情報部員12人を起訴したことについての質問に対し、プーチン大統領が答えた中で触れたものでした。

ブラウダー氏はロシアでの成功の裏話を暴露する本を出版するなどロシアの不正を告発して、プーチン大統領の怒りを買ったと言われ、同氏の顧問弁護士が逮捕されて獄中死する事件も起きました。

プーチン大統領が米国のロシア疑惑に反論する上でブラウダー氏を引き合いに出したのは、同氏のプーチン政権に対する批判をかわすことと、ロシア情報部員を訴追した米国の情報部員の公平性に疑念を抱かせる狙いがあったと考えられます。

大手投資企業エルミタージュ・キャピタル創業者でCEOのビル・ブラウダー氏

プーチン大統領は、この問題が記者会見で問われることを予想して反論を準備していたのでしょうが、それ以上に「ヒラリーへロシアから4億ドルの寄付」それも「米情報部員が民主党に橋渡し」という爆弾発言に思えました。

ところがである。この爆弾発言は、未だに米国のマスコミには全く扱われていません。米マスコミは、「フェイク(偽)・ニュース」とボツにしたつもりなのかもしれませんが、それにしても、いやしくもロシアの首脳の発言です。

この発言を無視して、今回の首脳会談のトランプ大統領を「ロシアにすり寄った」と批判するだけの米国の大半のマスコミは、はたして報道の公平性を貫いているか首をかしげざるを得ないです。

日本の大手マスコミも米国のマスコミに右にならえで、この件については報道しません。ドナルド・トランプ大統領の「ロシア・ゲート問題」は、すでに実体がないことが明らかになったこともあまり報道されていません。

米国では、昨年からヒラリー・クリントン氏の疑惑が持ち上がっていました。この件も、日本ではほとんど報道されていません。

ヒラリー・クリントン

オバマ政権でヒラリー・クリントン氏が国務長官だった当時、カナダの「ウラニウム・ワン」という企業を、ロシア政府の原子力機関「ロサトム」が買収しました。「ウラニウム・ワン」は、米国のウラン鉱脈の5分の1を保有しており、買収には米国政府の許可が必要でした。

ヒラリー氏はこの買収を積極的に推進し、「ウラニウム・ワン」はロシア政府の傘下企業となった。さすがに共和党保守派は当時、「この売却が米国の国家安全保障を大きく毀損(きそん)する」とオバマ政権を批判したが、企業買収は完了してしまいました。

米国の世界戦略における最大のライバルであるロシアにウラン鉱脈を売り渡すことは、誰が考えても米国の安全保障を損なう。ロシアのプーチン大統領は、世界のウラン・マーケットで独占的な地位を確立するために、この買収を行ったのです。

この件に絡んで、「クリントン財団」は何と、「ウラニウム・ワン」買収の関係者から総額1億4500万ドル(約165億2850万円)にも及ぶ献金を受け取っていました。同財団は慈善団体ですが、事実上のクリントン・ファミリーの“財布同様の存在”です。

しかも、「ウラニウム・ワン」の売却交渉が行われている最中(=ヒラリー国務長官時代)、ビル・クリントン元大統領は、ロシアの政府系投資銀行に招かれて講演を行い、1回の講演で50万ドル(約5700万円)もの謝礼を受け取りました。これは通常の彼の講演謝礼の2倍の金額です。

ビル・クリントン元大統領
また、ロシア政府系のウラン企業のトップは実名を明かさず、クリントン財団に総額235万ドル(約2億6700万円)の献金をしていました。

これらは、「反トランプ派」の代表的メディアであるニューヨーク・タイムズも、事実関係を認めています。

クリントン夫妻の「ロシア・ゲート問題」は今後、さらに追及されて、米民主党やリベラル系メディアに壊滅的打撃を与え、ヒラリー氏が逮捕される可能性もささやかれていました。

今回は、さらにプーチン大統領から、「ロシアからヒラリーに4億ドル寄付」という爆弾発言があったわけです。

以上事実から、日本のマスコミも報道の公平性を貫いているとはいえません。以前もこのブログに掲載したように、米国においてはマスコミのほぼ90%程度をリベラルが牛耳っています。そのため、10%の保守が何かを報道したとしても、その声はかき消されてきました。

ただし、実際には保守系のトランプ氏が大統領になったことからもわかるように、少なくとも米国の人口の半分は保守系の人々によって占められているはずです。しかし、現実にはこれらの人々の声のほとんどがかき消されてきたわけです。

トランプ氏が大統領になって以来、これは少しは改善される傾向にはありますが、まだまだです。日本のマスコミは、このような事情を斟酌して報道すべきですが、そうではなく、こと米国情勢に関しては、米国のマスコミの報道を垂れ流すばかりです。

日米のマスコミには、トランプは馬鹿だという報道を繰り返し行なってきたので、今更馬鹿は馬鹿であり続けるように報道するしかなくなってしまったのかもしれません。しかし、そのような報道をするマスコミ自身が馬鹿であることを気づいていないようです。

【関連記事】


2018年4月12日木曜日

バルト3国侵攻を視野に入れたロシア―【私の論評】北海道は既に中露両国の脅威にさらされている(゚д゚)!

バルト3国侵攻を視野に入れたロシア

対応急ぐNATO、危機はアジアにも、問われる日本の防衛態勢

欧州で高まるロシアの脅威:次はバルト3国か?

 欧州でロシアの脅威が高まっている。

 欧州は冷戦後、久しく平穏を保ってきたが、2014年3月のロシアによるクリミア半島併合とウクライナ東部への軍事介入によって情勢が一挙に緊迫化した。ウクライナ東部での戦闘は今でも続いている。

図表・写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 これらの戦いは、「ハイブリッド戦」と呼ばれ、「力による現状変更」と指摘される侵略行動である。

 ロシアの次のターゲットは、(北から)エストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国の奪還ではないかと懸念されている。

 バルト3国は、1940年からソ連が崩壊する1991年までソ連領であった。これら3カ国は、1991年9月にソ連から独立した後、2004年に北大西洋条約機構(NATO)と欧州連合(EU)にそれぞれ加盟した。

 1989年まで続いた冷戦時代には、NATO軍とワルシャワ条約機構(WPO)軍は東西ドイツ国境を挟んで対峙していた。

 ドイツの東隣に在るポーランドは、すでに1999年3月、NATOに加盟(EU加盟は2004年5月)しており、いわゆる「NATOの東方拡大」にともなって、現在では、バルト3国とポーランドが冷戦時のドイツに相当する「最前線」に位置している。

 これらのNATOの動きにも対抗するかのように、ロシアは、クリミア半島併合以降、軍事活動を劇的に活発化させている。

 ロシアは、2017年9月、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ウクライナなどでの国境付近で「ザパド(西方)2017」と呼ばれる、冷戦期以来、最大規模の軍事演習を行った。

 ロシア陸軍の演習はますます頻繁になっており、バルト3国に対する攻撃準備の一環ではないかとの観測が強まっている。


 また、ロシアは、バルト海での軍事活動を活発化させている。同海は、NATOとロシアの激しい神経戦の主要舞台となっており、ロシア軍機による「特異飛行(異常接近)」などによる飛行・航行妨害が、偶発的な衝突を引き起こす危険性を高めかねないとして懸念されている。

 それ以外にも、ロシア軍によるサイバー攻撃、情報操作、他国への脅迫などが頻発している。

 最近では、英国で、ロシアの元スパイの男性とその娘が神経剤で襲撃される事件が発生した。英国のテリーザ・メイ首相は、犯行に使われた毒物が旧ソ連で軍用として開発された神経剤「ノビチョク」(Novichok)」と特定されたと明言した。

3月4日に襲撃された元スパイのセルゲイ・スクリパリ氏と娘のユリア氏

 また、ボリス・ジョンソン外相は、「英国の街頭、欧州の街頭で、第2次世界大戦後初となる神経剤使用を指示したのは、彼(ウラジーミル・プーチン大統領)の決定である可能性が圧倒的に高いと、我々は考えている」と述べた。

 NATO欧州連合軍のフィリップ・ブリードラブ最高司令官(米空軍大将、2013.5~ 2016.5)は、在任間、ロシアは今後何をするか分からないと述べ、「過去数十年、欧州の安全保障の基盤となってきたルールや原則を、ロシアは根こそぎひっくり返そうとしている」と警鐘を鳴らしている。

ポストモダンの思想に支配された欧州の油断

 冷戦が終わって間もなく、米国ではフランシス・フクヤマの『歴史の終わり』(渡部昇一訳、三笠書房、1992年)が発表された。


 社会主義陣営が瓦解し自由・民主主義陣営が戦いの最終勝利者となったいま、もはや本質的に「対立や紛争を基調とする歴史」は終わったという主張であった。

 それと符合するように、欧州でも英国外交官であるロバート・クーパーの『国家の崩壊』(北沢格訳 、日本経済新聞社 、2008年)に代表される脱近代(ポストモダン)の思想が現れた。

 マーストリヒト条約の調印によるEUの進展とグローバル化の動きがそれを後押し、日本を含めた欧米先進国において持てはやされた。

 脱近代の思想とは、

(1)国家対立、民族紛争などを、またそもそも国民国家とか国家主権という概念を近代(モダン)世界のものとみなし

(2)グローバル化が進み、近代を乗り越えた今日の脱近代の時代においては、国家とか主権という観念そのものが過去のものとなり

(3)リアリストが唱えた国家や軍を中心とした伝統的な安全保障システムも過去のものになった。

 これからの国際関係は、道徳が重要で、国際問題は話し合いや国際法に従って解決でき、国際司法裁判所などの国際機関が画期的な意味をもつ、というものである。

 そのような風潮を背景に、冷戦後、欧州の多くの国では、国家による大規模な侵攻の脅威は消滅したと認識されてきた。

 顧みれば、これに類するリベラルな理想主義型の世界観や思想は、第1次大戦や第2次大戦後など、過去に幾度となく現われた。

 しかしNATOは、2014年2月以降のウクライナ情勢の緊迫化を受け、ロシアによる力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」に対応すべく、既存の戦略の再検討や新たなコンセプト立案の必要に迫られている。

 冷戦後の一時的な平和の到来が、人類が繰り返してきた歴史の現実から目を遠ざけてしまったのであろうか。「油断大敵」である。

 欧州の国防費や兵力は、冷戦の終結以降、ロシアがクリミア半島を併合するまでの数十年にわたり減少傾向が続いたが、最近になって大きな変化が生じている。

 そのためNATOは、脆弱なバルト3国がNATOに加盟した年から行ってきたバルト上空監視ミッションの規模を拡大し、即応性行動計画(RAP)に基づき、東部の同盟国におけるプレゼンスを継続するため、バルト3国及びポーランドに4個大隊をローテーション展開している。

 また、既存の多国籍部隊であるNATO即応部隊(NRF)の即応力を強化し、2~3日以内に出動が可能な高度即応統合任務部隊(VJTF)を創設した。

 それでもなお、ジェームス・マティス米国防長官は、ロシアの脅威増大に伴う同盟国の戦闘態勢は不十分であるとして、NATOに対し

(1)意志決定を速め
(2)軍の移動能力を高めるとともに
(3)迅速な実戦配備を確実にするよう求めている。

 これに呼応して、EUは、共通外交・安全保障政策(CFSP)および共通安全保障・防衛政策(CSDP)のもと、安全保障分野における取組を強化しつつある。

 部隊や兵器の域内移動能力を高めることを主眼にした軍事版「シェンゲン」と呼ばれる行動計画を作成し、部隊・兵器輸送に関連する道路や橋、鉄道といったインフラ整備と規制・事務手続きの簡略化などについて必要な基準をまとめ、事業の優先順をきめて実施する手筈を整えている。

 欧州では、NATOとEUが連携し、政治・外交、経済、軍事、警察・刑事司法などが一体となってロシアの脅威に備える対処能力を高めようと動き出した。

改めて問われる日本の防衛態勢

 NATOの貧弱とされる軍備態勢の問題は、日本にも当てはまる問題であり、等閑視することは許されない。

 昨年12月に公表された米国の「国家安全保障戦略」(NSS2017)では、中国とロシアを力による「現状変更勢力」、すなわち「米国の価値や利益とは正反対の世界への転換を図る勢力」として名指しで非難し、米国に挑戦し、安全や繁栄を脅かそうとしている「ライバル強国」であると明示した。

 そしてNSS2017を受けて2018年1月に公表された「国防戦略」(NDS2018)において、中国は 「軍事力の増強・近代化を追求し、近いうちにインド太平洋地域で覇権を築くことを目指している」とし、「将来的には地球規模での優位を確立し、米国に取って代わろうとしている」と指摘した。

 他方、ロシアは「周辺国の国境を侵犯したり、経済や外交などの政策決定に影響を及ぼしたりしている」と批判し、核戦力の拡大や近代化に対する警戒感を顕にした。

 前述のとおり、NATOはロシアの力を背景とした現状変更や、いわゆる「ハイブリッド戦」による挑戦に直面している。

 それと対称的に、アジア太平洋地域で中国が仕かけている「サラミスライス戦術」や「キャベツ戦術」に「三戦」を交えた「グレーゾーンの戦い」に対して、我が国は課題とされる領域警備の問題を解決できたのであろうか?

 中国の弾道ミサイルの飽和攻撃によって自衛隊・在日米軍基地は作戦当初に破壊され機能マヒに陥る恐れがあるが、その代替として全国の民間飛行場などを基地として直ちに使えるような仕組みが作られているのか?

 同時に、民間人の避難のための輸送手段や施設、水・食料、医薬品などは準備できているのか?

 有事に錯綜する自衛隊と民間の陸海空輸送について、一元的に統制する組織があるのか?

 自衛隊の部隊を南西諸島へ緊急輸送する船舶や航空機は確保できるのか?

 はたまた、全国の橋や道路などのインフラは戦車を搭載した特大型運搬車(戦車運搬車)など重装備の規格に適し、輸送に耐えることができるのか?

 防衛産業には戦闘で急速に損耗する自衛隊の装備を急速生産できる体制が維持されているのか?

 装備だけでなく、自衛隊が一定期間を戦うために必要な弾薬・ミサイルなどは十分に備蓄されているのか?

 以上例示したのは、日本の防衛に必要なほんの一部であるが、いずれもしっかりした態勢が整っていなければならない重要な事柄である。

 今、欧州で高まるロシアの脅威に対して、NATOそしてEUは、立ち遅れを認めながらも、必死でその脅威を抑止し阻止しようと、実際に戦うことを前提とした態勢作りに着手している。

 では、インド太平洋地域において、中国の脅威に曝されている日本はどうしなければならないか?

 言うまでもなく、NATO・EUと同じように、中国の覇権的拡大に対応できる防衛態勢を整備することが急務であるが、前述のとおり、そのための課題は広範多岐にわたり、また時間のかかる難しい問題が残されていると指摘しなければならない。

 国を挙げ一体的に戦える態勢を作り上げない限り、紛争を抑止し阻止することは難しいのである。

【私の論評】北海道は既に中露両国の脅威にさらされている(゚д゚)!

ブログ冒頭のような記事にある脱近代(ポスト・モダン)の思想は一時もてはやされたのは事実ですが、それはほんの一時のことでした。

世界は依然として、国民国家に「神に変わらぬ忠誠」を誓っています。インターネット時代だの、グローバリゼーションだの言われる昨今においても、世界、その中でもとりわけヨーロッパを見るとEUとは言いながらも各国の「國體」はしぶとく生き残り、ソ連の崩壊以降、昔の國體が次々に復活しています。

ピーター・ドラッカーは「この200年を見るかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている」(『ネクスト・ソサエティ』、ダイヤモンド社、上田惇生訳 2002年5月発行)と書いています。

以下に、『ネクスト・ソサエティ』からそのまま引用します。
最初にこれ(注:国民国家の崩壊)を言ったのがカントだった。南北戦争勃発の直前、1860年の穏健派も、サムター砦で最初の銃声が轟くまでそう考えていた。オーストリアハンガリー帝国の自由主義者たちも、最後の瞬間まで、分裂するには経済的な結びつきが強すぎると考えていた。明らかに、ミハイル・ゴルバチョフも同じように考えていた。 
しかし、この200年をみるかぎり、政治的な情熱と国民国家の政治が、経済的な合理性と衝突したときには、必ず政治的な情熱と国民国家のほうが勝利してきている。
そして英語圏の場合、90年前どころか、500年前に書かれた文章であっても国民国家を説く偉人らの書籍は、現在も誰もがほぼそのまま読んで理解することができ、歴史上の偉人が現在でもすぐそばにいるのです。

国民国家を崩壊し、自らの版図におさめようという中国やロシアの試みは、こうした国民国家の信奉者からは大反撃を受けることになるでしょう。ただし、NATOが油断していたのは事実です。

中国・ロシアによる自由主義の世界秩序に対する挑戦に関しては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
支那とロシアが崩壊させる自由主義の世界秩序―【私の論評】世界は戦後レジームの崩壊に向かって動いている(゚д゚)!
ロバート・ケーガン氏
この記事は、昨年の2017年2月のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部引用します。
 世界に国際秩序の崩壊と地域戦争の勃発という2つの重大な危機が迫っている。 
 米国は、第2次大戦後の70余年で最大と言えるこれらの危機を招いた責任と指導力を問われている。米国民がドナルド・トランプ氏という異端の人物を大統領に選んだ背景には、こうした世界の危機への認識があった──。 
 このような危機感に満ちた国際情勢の分析を米国の戦略専門家が発表し、ワシントンの政策担当者や研究者の間で論議の波紋を広げている。

 この警告を発したのは、ワシントンの民主党系の大手研究機関「ブルッキングス研究所」上級研究員のロバート・ケーガン氏である。
ケーガン氏のこの論文の要約を以下に掲載します。
・世界は第2次世界大戦の終結から現在まで、基本的には「自由主義的世界秩序」に支えられてきた。この秩序は民主主義、自由、人権、法の統治、自由経済などを基盤とし、米国の主導で構築され運営されてきた。 
・しかしこの世界秩序は、ソ連崩壊から25年経った今、支那とロシアという二大強国の挑戦により崩壊の危機を迎えるにいたった。 
・支那は南シナ海、東シナ海へと膨張し、東アジア全体に覇権を確立して、同地域の他の諸国を隷属化しようしている。ロシアはクリミア併合に象徴されるように旧ソ連時代の版図の復活に向かっている。両国はその目的のために軍事力の行使を選択肢に入れている。 
・支那とロシアの軍事的な脅威や攻撃を防いできたのは、米国と同盟諸国が一体化した強大な軍事力による抑止だった 
・だが、近年は米国の抑止力が弱くなってきた。とくにオバマ政権は対外的な力を行使しないと宣言し、国防費の大幅削減で米軍の規模や能力はすっかり縮小してしまった。 
・その結果、いまの世界は支那やロシアが軍事力を行使する危険性がかつてなく高まってきた。武力行使による膨張や現状破壊を止めるには、軍事的対応で抑止することを事前に宣言するしかない。
トランプ政権は米軍の再増強や「力による平和」策を宣言しながらも、世界における超大国としての指導的立場や、安全保障面での中心的役割を復活させることには難色をみせています。

しかしケーガン氏は、世界の危機への対策としては、米国が世界におけるリーダーシップを再び発揮することだといいます。

ケーガン氏は、今回の大統領選で米国民がトランプ氏を選んだのは、オバマ政権の消極的政策のために世界の危機が高まったという認識を抱き、オバマ路線とは異なる政治家を求めたからだとみています。トランプ大統領は、まさに非常事態だからこそ生まれた大統領だということでしょう。

そうして、日本人として認識すべきことは、自由主義の世界秩序に対する挑戦する国である、中国とロシアが、両方とも日本の隣国であるということです。

中国に対する脅威に関しては、不十分とはいいながら、尖閣諸島での問題から大多数の国民から認識されて、はっきりと認識されるようになりました。

しかし、ロシアの脅威はあまり認識されていないようです。中国の脅威というと、沖縄の脅威であるように、ロシアの脅威というと具体的には日本ではロシアに一番近い北海道の脅威ということになります。

中国による北海道の脅威は、まだあまり多くの人々に認識されていませんが、それでもロシアの脅威よりは明らかになっていることがあります。

たとえば、中国の北海道に対する間接侵略があります。すでに、中国は数千ヘクタールを超えた土地の買収を北海道で実施しています。さらに、中国は北海道の海岸線の土地を買い占めようとしていることも明るみに出ています。

北海道の市町村では、中国友好都市協定を結ぶところも多いです。しかし、中国が北海道の海岸線の土地を買い占めようとするにはその背景があります。

ヨーロッパからロシアの北極海沿岸を通って東アジアに至る「北極海航路」。最近までその一部がロシアの国内航路として利用されるだけでしたが、近年の地球温暖化により北極海の氷が減少し、航海の難しさが軽減されたため、ヨーロッパ・東アジア間の海上輸送におけるスエズ運河航路の代替ルートとして注目されるようになりました。

中国がこの北極海航路を効率良く利用するためには、津軽海峡を超え、釧路と苫小牧等を北極航路の補給基地として利用することができればかなりやりやすくなります。中国としては、日本に土地買収企業を送り込み、北海道の市町村と友好協定を結び、いずれ北極海航路への基地化をすすめるという目論見があると思われます。

さらに、北海道には、アイヌ問題があります。アイヌ利権というものがあります。アイヌ人であるなしは関係なく、自分がアイヌ人であると主張して認定を受ければ、その利権を享受することができるそうです。

そのため、利権に群がる左翼系の人々も多いと聞き及んでいます。これら利権に群がる左翼系の人々は、アイヌ自治共和国など設立した場合どうなるでしょうか。

無論、この自治共和国では外務大臣、総理大臣を定め、中国との友好条約を結ぶということも考えられます。そうなると、北海道在留の中国人を守るという名目で、人民解放軍を送り込むということも考えられます。

このようなことは、空想に過ぎないと考える方もいらっしゃるかもしれません。これは、現実起こっていることです。チベット、ウイグル、トルキスタンこれらは、元々独立国でしたが、それこそ現在の北海道や沖縄のように間接侵略を受けた後に、人民解放軍が進駐してきて、中国の自治区になってしまました。

このように、人民解放軍が、北海道に進駐する可能性もなきにしもあらずです。無論、いきなりではなく、土地買収に続き、正規軍ではない民兵を送り込み、準備をすすめ、いずれ人民解放軍を送り込むというハイブリッド戦を仕掛けてくる可能性が高いです。

現在の日本は、それを阻止できるのでしょうか。沖縄だけではなく、北海道も危ない状況にあります。北海道知事や、市町村長はそのことを理解しているのでしょうか。

そうして、これは中国の脅威です。ロシアによる北海道への間接侵略については、まだ明らかにはなっていませんが、それでもすでに明らかになっていることはあります。

2014年8月、ロシア海軍はそれまでにない大規模な訓練を実施し、日本周辺の極東太平洋地域で敵前上陸作戦を含む軍事訓練を展開しました。その後もロシアは大規模な演習を繰り返しています。

ロシアのミサイル駆逐艦ワリャーグ

ロシアがアジア極東の海軍力を増強し、日本とアメリカにとって新たな脅威になっています。プーチン大統領はアジア極東戦略を強化する重要な要素として日本との対決を明確にしているだけでなく、北方領土を日本に奪われないために海軍力を強化しています。

アメリカ海軍専門家によると、プーチン大統領は今後、最新の原子力空母や潜水艦、戦車上陸用舟艇などを増強しウラジオストクに集結させます。またフランスから最新鋭のミストラル型強襲上陸用空母を4隻購入する計画をたていました、そのうちの二隻をウラジオストクに配備することをすでに決めました。

プーチン大統領はウラジオストクだけでなく、かつて日本領であった南樺太のユジノサハリンスクの海軍と空軍基地を増強しています。さらに北方の千島列島先端にも太平洋艦隊のための海軍基地と空軍基地を作っているだけでなく、後方支援基地としてロシア本土沿岸地域に、数カ所の海軍基地と空軍基地を建造していることをアメリカ軍が確認しています。

ウラジオストクから樺太、千島列島さらには、ベーリング海峡、ロシアの沿岸のロシア太平洋艦隊の基地が強化されたり、新たに作られたりすれば、日本にとって大きな脅威になります。とりわけ注目されるのはウラジオストクに配備される、ミストラル型揚陸艦を中心とする上陸用集団の強化です。

ミストラリ型揚陸艦

ロシアがウラジオストクを中心としてロシア太平洋艦隊を強化しているのは、軍事的に見るとアメリカの力の後退によって生じる力の真空をうめようとしているからです。この動きの背後には中国の軍事力拡大に対する警戒がりますが、基本的には日本を敵視し、北方領土を返さないという決意の表明です。

現在の日本の人々が留意すべきは、こうした状況のもとで西太平洋から後退しつつあったアメリカが、トランプ大統領の登場により、ようやく再びアジアに関心を持ち本当の意味での抑止力を行使することを目指すようになりましたが、中露に本当に対抗できるようになるには、10年くらいはかかるかもしれないということです。

そのアメリカの後を襲うべく、経済力をつけた中国が軍事力を拡大しているのですが、資源を中心に伸ばしつつあるロシア経済と軍事力の拡大は、中国のそれを上回る勢いです。しかもロシアはもともと軍事的に強い国だということを忘れるべきではありません。

中国は旧ソビエトが建造した古い空母を買い入れ、アメリカの技術を盗んでステルス戦闘機を作ったりレーダーを開発したりしていますが一部、衛星技術で成功しているだけで、アメリカの専門家は中国の軍事力を高くは評価していません。

しかし、日本の国際戦略、外務省の外交、国民の憲法論争などを見ていると、その殆どが、いわば「張り子の虎」である中国の軍事的脅威に関心を奪われているようです。中国の脅威は軍事的に脅威というよりハイブリット戦の脅威といえます。それに対して、ロシアの軍事的に脅威は「張り子の虎」ではなく、現実の脅威です。

集団的自衛権にしても、中国の脅威とそれに対応する東南アジアの動きに呼応するものに過ぎないようです。真に日本の安全を図ろうとするならば、もう一つの強力な敵、プーチン大統領のロシアがもたらす危機に対処する戦略を、ただちに構築しなければならないです。

ロシアは日本に対してはハイブリット戦略をとりにくいです。なぜなら、ロシア人と日本人とは人種的に異なり、容易に見分けがつくからです。さらに、言語的にもロシア語は、日本国内ではほとんど通じません。

さらに北海道には、現在のロシアの領土からの引揚者も多く、終戦直前のロシアの卑劣な参戦やその後の多数の将兵をシベリア送りにした非道についても知られているので、ロシアに親和的な人は少ないからです。特に高齢者はそうです。

このようなことから、日本に対して、中国のようないわば人民解放軍投入の前の準備としてのハイブリット戦略はとるのは難しいです。当然のことながら、日本に対しては軍事力で対抗するものと考えられます。さらに、北海道に接するオホーツク海は未だにロシア戦略原潜の聖域であることを忘れるべきではありません。

中国があれだけ南シナ海にこだわるのは、聖域にしうる水深の深い海域が中国の近くにない中国が、水深の深い南シナ海を中国原潜の聖域にしたいからです。ロシアはすでにオホーツク海を聖域としているわけですから、ここを容易に手放すはずもなく、今後はさらにこの地域の拠点を拡大していくことでしょう。

いずれにせよ、日本としては、北海道は既に中露の脅威にさらされていることを認識したうえで、安全保証を考えなければならないということです。



比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」―【私の論評】国家間の密約 - 歴史的事例と外交上の難しさ

比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」 まとめ フィリピンと中国の間で、南シナ海のアユンギン礁をめぐる密約の存在をめぐって対立が深まっている。 中国側は密約の存在を主張、フィリピン側は否定。真相は不明確で、両国の関係悪化が懸念されてる フイリピン マルコス大統領  フィリピ...