2024年4月1日月曜日

<独自>日米首脳「安保5条尖閣に適用」を再確認へ 共同声明、中国を牽制―【私の論評】地政学的リスクへの対応と安全保障強化:尖閣安保適用と岸田首相の国内対応

<独自>日米首脳「安保5条尖閣に適用」を再確認へ 共同声明、中国を牽制

まとめ
  • 日米首脳会談の共同声明に「日米安保条約第5条が尖閣諸島に適用される」と明記し、米国の対日本防衛義務を再確認する
  • 中国の軍事的影響力拡大とその威圧的行動を牽制し、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する
  • 北朝鮮による拉致問題の「即時解決」を目指すことを盛り込む
  • 人工知能や半導体など先端技術分野での日米協力を強化する
  • 有事における米軍と自衛隊の一体的運用体制の構築を図り、フィリピンとの3カ国での安全保障面での連携も強化する

バイデン大統領と岸田首相

 4月10日に米ワシントンで行われる日米首脳会談では、共同声明に「日米安全保障条約第5条が尖閣諸島に適用される」と明記する。日米は、その最終調整に入っている。これは、中国海警局船舶による尖閣諸島周辺での領海侵入が続く中、米国が核を含む米軍の能力で日本を防衛する姿勢を打ち出す狙いがある。バイデン大統領は武力や威圧による現状変更に反対する考えを示し、東・南シナ海での中国の威圧的行動への懸念を表明する方針だ。さらに共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調し、武力行使による台湾統一を排除しない習近平政権に自制を促す。

 また、北朝鮮による拉致問題について「即時解決」を目指すことが盛り込まれる見通しだ。人工知能や半導体など先端技術分野での協力強化についても言及される方向にある。首脳会談では、有事における米軍と自衛隊の一体的運用を可能にする「統合司令部」設置に向けた連携体制の強化も協議する。米軍の指揮系統の見直しを含め、両軍の運用の一体性を高める。

 さらに11日には、フィリピンのマルコス大統領を交えた3カ国首脳会談を開催し、自衛隊と米比両軍の連携強化について議論する予定である。今回は9年ぶりに日本の首相が国賓待遇で招かれる重要な会談となる。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】地政学的リスクへの対応と安全保障強化:尖閣安保適用と岸田首相の国内対応

まとめ
  • 中国公船による尖閣諸島周辺での領海侵入が繰り返される中、中国の一方的な現状変更を牽制し、インド太平洋におけるルール基盤の秩序を維持するため、日米が共同で尖閣に安全保障条約を適用することを明確化すべき。
  • 地理的に台湾に近接する尖閣諸島は、中国が台湾への武力行使で統一を図った場合の戦略的要衝となり得る。そのため、日米は尖閣への安保適用を、台湾有事における同盟国防衛の布石ともしている可能性がある。
  • プーチンがウクライナ侵攻を決意した背景には、バイデン大統領の「米軍をウクライナに派遣しない」発言があり、明確な関与表明がなかったことが一因との指摘がある。この教訓から、米国は尖閣問題への明確な関与を示し、中国の現状変更を未然に抑止しようとしている。
  • 「力による平和」しか理解しない指導者に対しては、経済制裁や軍事行動の選択肢を示し続ける必要がある。
  • 国内で中露の「力による平和」に同調する動きがあれば、安全保障上の重大な脅威となる。そのため、警戒を強め、メディアを通じた国民への広報、関係者への警告・制裁、公安当局による取り締まりの検討、反対勢力への支援打ち切り、資金供与監視体制の整備など、毅然とした対処が求められる。
尖閣諸島

日米が尖閣諸島に日米安全保障条約第5条を適用されることを明確にすることの背景には、複数の地政学的な意図が考えられます。

1. 中国の現状変更の抑止
中国公船による尖閣諸島周辺での領海侵入が繰り返されており、中国が実効支配を試みているとの懸念が高まっています。日米が共同で尖閣に安保条約を適用することで、中国の一方的な現状変更を牽制し、インド太平洋地域におけるルール基盤の秩序を維持しようとしています。
2. 台湾有事への備え
尖閣諸島は台湾に地理的に近接しており、戦略的要衝となりうる重要性を持ちます。中国が台湾に武力行使して統一を試みた場合、日米は尖閣から台湾を守る布石としても、安保適用を位置づけている可能性があります。中国が有事の際に尖閣を攻撃すれば、自動的に日米同盟の武力行使が正当化されるためです。
3. ウクライナ情勢の教訓
プーチン政権はウクライナ侵攻前、バイデン大統領が「米軍をウクライナに派遣しない」と表明したことから、一定の侵攻リスクを冒せると判断した可能性があります。つまり米国の明確な関与表明がなかったことが、ある程度のプーチンの駄目押しになったとの指摘があります。
この教訓を踏まえ、米国は中国の一方的現状変更を未然に抑止するため、尖閣問題への明確な関与を明示する狙いがあります。共同声明への明記は、中国が武力で尖閣を侵略すれば自動的に日米同盟の武力行使が正当化されることを意味しています。
さらに、尖閣への安保適用は、将来の台湾有事における日米の関与の布石にもなり得ます。中国が台湾に武力行使すれば尖閣の防衛が問題となり、そこから日米同盟の軍事介入へとつながるリスクがあるためです。

つまり、米国はウクライナ情勢の教訓から、中国の現状変更を未然に抑止するためのメッセージ発信と、台湾有事への将来の関与の布石として、尖閣への安保適用を位置づけていると考えられます。主眼は中国への抑止力ですが、状況次第では実際の軍事行動に発展する可能性も織り込んでいる可能性があります。

プーチンや習近平のような指導者は、基本的に「力」こそが平和維持の最終的な担保だと考えている可能性が高いです。そのため、米国の「弱さ」を示す譲歩的な姿勢は、かえって自国の行動を正当化し、さらなる現状変更を許容するシグナルと受け取られかねません。

力による平和 AI生成画像

一方で、米国国がしっかりとした「力の姿勢」を示し続ける場合、プーチンや習氏らは冷静に自国の能力の限界を認識し、リスクのある軍事的選択は避ける合理的判断に至る公算が高まります。なぜなら、「力」しか理解できないこうした指導者にとって、相手の明確な「力の投射能力」こそが、自国の行動を抑制する最大の要因になるからです。

具体的には、バイデン政権が以下のような「力の姿勢」を示し続けることが重要になります。
  • 経済制裁などの「報復措置」の選択肢を常に維持示す
  • 同盟国との連携を強化し、集団的抑止力を高める
  • 必要に応じて軍事行動の選択肢も排除しない姿勢を崩さない
  • 中露の一方的現状変更の試みに対する「レッドライン」を明確に設定する
このように、絶えず「力の投射能力」を示し続けることで、プーチンや習氏らに対する「抑止力」を高められます。そうすれば、結果として彼らが軍事的モラトリアムを選び、現状維持の路線をとる可能性が高まると考えられます。

つまり、「力による平和」を理解する指導者に対しては、バイデン政権自らが「力の外交」に徹し、臆さずに自国の軍事的選択肢を維持示すことが何より重要なのです。そうした「力の姿勢」こそが、結果として「平和的解決」に寄与する最善の方策となり得るのです。

岸田首相も、プーチンや習近平のような「力による平和」を重んじる指導者に対して、以下の「力の姿勢」を貫くべきです。

1. 自衛隊の防衛能力の強化を着実に進める
尖閣諸島や津軽海峡における中国公船の挑発的行動に対し、自衛隊の監視・警戒活動を一層強化し、自らの領土・領海を力強く守る姿勢を示し続けることが重要です。
2. 米国をはじめとする同盟国との連携を一層緊密化
日米同盟の絆を一層強固にすると同時に、NATO諸国、QUAD枠組み国家等との安全保障面での連携を深め、集団的抑止力を高めていくべきです。
3. 中国の一方的な現状変更に対する「レッドライン」を明確化
尖閣問題や台湾有事といった重大事態における対応方針を予め明確化し、必要に応じて自衛隊の派遣も辞さない決意を内外に示す必要があります。
4. 経済安全保障の観点から対中牽制力を高める
半導体や希少資源等において対中依存度を下げ、経済制裁の選択肢を温存する。先端技術の流出防止等の懸命な対応も重要です。
5. 国民の危機意識を高め、防衛増強への理解を醸成
日本国民の安全保障意識を高め、防衛費増額等の抑止力強化に向けた施策への支持を広げていくことが不可欠です。
このように、日本も「力による平和」への備えとして、断固たる「力の姿勢」を貫き、中国による一方的現状変更を未然に抑止することが何より重要となります。そうした姿勢を内外に示し続けることこそが、結果的に地域の平和維持につながるということを、岸田首相は肝に銘じるべきでしょう。

また、国内でロシアや中国の「力による平和」に同調する動きがある場合、岸田首相は毅然とした対応をすべきです。
  • 具体的には、そうした動きを警戒し、情報収集と監視を強化する。
  • メディアを通じて国民に対し、その動きの問題点を明確に説明し、正しい認識を促す。
  • 関係者に対し、警告や制裁措置をとる用意があることを示す。
  • 必要に応じて、反社会勢力への対応と同様、公安当局による取り締まりの検討も視野に入れる。
  • 中露寄りの動きに与さない企業や団体への支援を強化する。
  • 議員資産公開など、中露からの不適切な資金供与を監視するしくみを整備する。
中露による「力の平和」に同調する日本国内の動きは、日本の安全保障上の重大な脅威となりかねません。このため、岸田首相はそうした動きに対し毅然とした姿勢で対処し、必要に応じて法的措置も辞さない強い決意を内外に示す必要があります。これは日本の主権と国益を守る上で避けて通れない課題です。

プーチンと習近平

岸田首相が、ウクライナ戦争開始直前のバイデン大統領のような中途半端な姿勢に終始すれば、政権の継続は極めて困難になるでしょう。なぜなら、中国や北朝鮮の脅威が現実味を帯びる中で、首相自らが強い姿勢を示さず、防衛力の増強に消極的であれば、国民の安全保障への不安は高まり、政権に対する支持が揺らぐからです。

さらに、野党から「国益を守れない」と徹底した批判を浴びるでしょう。加えて、自民党内の保守層からも反発が起こり得ます。そして何より、このような姿勢が続けば、日米同盟関係への疑念を招き、ひいては世論から「国益を守れない政権」とのバッシングを受けかねません。

結果として、国内外から批判が高まり、支持基盤が次第に失われていく恐れがあるのです。だからこそ、岸田首相は断固たる「力の姿勢」を貫き通す必要があると言えます。

自民党内には、仮に政権への支持率が下がった場合でも、次の選挙では勝利できるという楽観論がある節があります。その根拠として挙げられているのが、野党に「力の姿勢」が徹底的に欠けていることです。

野党は伝統的に非武装中立路線を標榜し、防衛力増強への取り組みに消極的でした。その結果、有事の際の具体的な対応策を示すことができず、国民の安全保障への不安を払しょくできていません。無論、野党の中に保守派も存在し、政党単位でも日本保守党などの例外もあるのですが、これらは残念ながら現状ではまだ大きな勢力にはなっていません。

一方の自民党は、一貫して同盟国との連携や防衛力増強を掲げてきました。中国や北朝鮮の脅威に対して、野党に比べ、より力強い姿勢と対応策を示してきた経緯があります。

このため、国民の間には「野党には国を守る決意と能力がない」との根強い認識が存在します。多くの有権者が、いざというときに国を守れるのは今のところ自民党しかないと考えがちなのです。

つまり、自民党内の一部には、野党の「力の姿勢」の希薄さゆえに、自身の支持率が下がっても、最終的には国民の支持を得て勝利できるとの期待があるわけです。

ただし、安全保障をめぐる有権者の意識は確実に変化しています。今や国民は「力の姿勢」を政権に強く求めるようになっています。この現実を踏まえれば、野党の力不足を過度に期待するのは賢明とは言えません。自民党自身が、そうして岸田首相自身が、確固たる「力の姿勢」を貫き、国民の期待に応える必要があります。

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