2024年4月28日日曜日

比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」―【私の論評】国家間の密約 - 歴史的事例と外交上の難しさ

比、中国との合意否定 「大統領承認せず無効」

まとめ
  • フィリピンと中国の間で、南シナ海のアユンギン礁をめぐる密約の存在をめぐって対立が深まっている。
  • 中国側は密約の存在を主張、フィリピン側は否定。真相は不明確で、両国の関係悪化が懸念されてる
フイリピン マルコス大統領

 フィリピン国家安全保障会議のマラヤ次長は27日の声明で、中国との間で南シナ海アユンギン礁の緊張激化を防ぐための取り決めがあったとする中国側の主張を否定した。

 「どんな了解事項も大統領の承認がなければ効力を持たない」と強調。合意は存在せず、フィリピンが合意を破棄したとの中国側の主張は不当だと反論した。

  フィリピンのドゥテルテ前大統領は、同礁の軍拠点の老朽艦に補修資材を持ち込まず現状を維持するとの密約の存在を示唆。在フィリピン中国大使館はマルコス現政権下でも「今年初めに双方が『新たなモデル』で合意していた」と発表していた。

【私の論評】国家間の密約 - 歴史的事例と外交上の難しさ

まとめ
  • 中国が一方的に密約内容を暴露したり、新政権発足後も従来の取り決めを主張するのは外交の基本的なルールから逸脱しており、大きな問題がある。
  • 歴史上、国家間で密約が結ばれた可能性のある有名な事例が複数存在する。公文書や証言から密約の存在が確実視されている。
  • 日本でも、米国との間で領土問題など重要案件について密約があった疑惑がある。
  • 原則として密約は避けるべきだが、安全保障上の理由や一時的な政治的配慮があれば、密約が存在する余地はある。ただし条件があり、濫用は危険。
  • 左翼メディアは密約問題をセンセーショナルに報じ、自らを正義の旗手と振る舞うが、外交には不快な妥協も伴う。強迫観念は交渉を損なう恐れがある。
中国の言動には大きな問題があると指摘せざるを得ません。まず、密約がある場合、それを一方的に公表すべきではありません。相手国の同意なしに密約内容を暴露することは、信頼関係を損ない、外交上の大問題となります。

仮に過去に密約があったとしても、新政権発足後は従来の取り決めを一方的に主張するのは不適切です。新政権との間で改めて協議を行い、合意内容を再確認するプロセスが必要です。

さらに、領有権問題をめぐり、中国が自国の主張を一方的に押し付ける姿勢は、平和的解決を阻害します。建設的な対話と、互いの立場を尊重する姿勢が欠かせません。

つまり、密約の有無に関わらず、中国の一連の言動は外交の基本的なルールから逸脱しており、非常識な面があります。情報が限られる中で明確には言えませんが、少なくとも中国の対応には大きな問題があると考えられます。

外交上の密約 AI生成画像

歴史上、国家間で密約が結ばれた可能性のある例はいくつか存在します。以下にいくつか事例を挙げます。これは、公文書や複数の人による証言などによって、密約の存在が確実視されたものです。

1. イギリスとエジプトのシュエル・シャイク協定(1954年):
   イギリスとエジプトの間で、エジプトの独立を認める代わりに、スエズ運河の管理権をイギリスからエジプトに移譲することが合意されました。この協定はエジプトの主権回復に重要な役割を果たしました。
2. ソ連とキューバの秘密的な軍事協力(1960年代):
   キューバ革命後、ソ連とキューバは軍事的な協力を行い、キューバに対するアメリカの脅威に対抗しました。この密約は冷戦時代の緊張関係の一環であり、世界的な注目を浴びました。
3. フランスとイスラエルのシナイ半島占領密約(1956年):
   スエズ危機の際、フランスとイスラエルは共同でエジプトのシナイ半島を占領しました。この密約は、エジプトとの戦争において両国の協力を確保するために結ばれました。
これらの事例は、国家間の密約が歴史的な文脈でどのように影響を及ぼしたかを示しています。

以上は外国の事例ですが、日本の例も以下に挙げておきます。これも、後に公文書や複数人の証言によって密約の存在が確実視されたものです。

1. 吉田茂による占領の終結指揮権密約(1952年と1954年):
 吉田茂首相は、日本の占領終結に向けてアメリカとの交渉を行いました。この密約により、日本は占領終結の指揮権をアメリカに委譲しました。
2. 岸信介による親米体制の確立密約(1960年):
 岸信介首相は、日米同盟を強化するためにアメリカとの合意を結びました。この密約により、日本はアメリカの軍事的指導を受けることを約束しました。
3. 佐藤栄作による沖縄返還密約(1969年):
佐藤栄作首相は、沖縄の返還に向けてアメリカと交渉しました。この密約により、沖縄の返還と引き換えに日本はアメリカの核兵器を受け入れることを了承しました。
これらの事例は、日本とアメリカの外交関係において、公には明らかにされていなかった合意や密約が存在したことを示しています。

国家間で法的拘束力のある正式な合意以外に、秘密の"密約"を結ぶことは一般的ではありません。ただし、一概に合法/違法と判断するのは適切ではありません。状況によってはグレーな部分も存在するからです。

確かに透明性の観点から、原則として密約は避けるべきでしょう。公開された正式の合意が

望ましい形です。しかし、以下のような例外的な状況が考えられます。
  • 機密保持が求められる安全保障上の理由がある場合
  • 合意内容を一時的に秘匿する必要がある政治的配慮から
  • 交渉の過程で一時的に密約し、後に正式な合意に置き換える場合
つまり、完全な透明性が困難な一時的段階において、密約が存在する余地はあり得るということです。

ただし、そうした密約であっても、以下の条件は満たす必要があります。
  • 法的根拠や正当な理由がある
  •  一方的でなく相互の同意が前提
  •  一定期間後には公開し説明責任を果たす
極秘の密約は濫用の危険性がありますが、状況次第では必要不可欠なケースもあり得ます。そのため、一括りにすべてを退けるべきではなく、個別の事例ごとに判断することが賢明です。

佐藤栄作総理大臣

一方、当時毎日新聞記者西山太吉は、日米間の「密約」を報道し、1972年の外務省機密漏洩事件で有罪が確定しました。彼は沖縄返還協定に際し、公式発表ではアメリカ合衆国が地権者に対する土地原状回復費400万米ドルを支払うとされていましたが、実際には日本国政府が肩代わりしてアメリカ合衆国に支払うという密約を報じました。

この報道により、日米間の秘密的な合意が明るみに出たことで、社会的な議論が巻き起こりました。西山太吉は今年2月24日に心不全のため亡くなり、享年91歳でした。ただし西山氏を巡っては、同省の女性事務官と男女関係を持った上で機密文書を漏洩させたとして、東京高裁が「正当な取材活動の範囲を逸脱する」と断じた経緯もあります。にもかかわらず、これを日本の報道機関は、英雄のように持て囃す傾向がみられました。


秘密主義と透明性は、国際外交において密接に関連しています。政府は国民や同盟国に対して透明性を保つことが大切ですが、国益や安全保障を守るためには、慎重さや情報の秘匿も必要です。

ここでは、秘密取引の倫理について議論するつもりはありません。私は、保守派として、世界は複雑な場所であり、指導者が国の利益を守るために厳しい選択を迫られることもあることを理解しています。

しかし、言いたいのは、左派メディアや彼らのヒーローたちは、このような事件をセンセーショナルに報じ、自分たちを真実と正義の闘士として描くのが好きだということです。外交には、しばしば不愉快な相手との交渉や妥協が含まれることを忘れてはなりません。

左派メディアの強迫観念は、交渉の立場を損ない、国際舞台での我々の立場を弱める可能性があります。したがって、透明性の原則を尊重すると同時に、慎重さが必要な場合もあることを認識しなければなりません。

理想的な世界では、すべての合意が公開できるし、そうしなければならないかもしれませんが、現実の世界では、国際関係の複雑さに対処し、国の安全を確保するためには、時には秘密主義も必要です。

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