2024年4月29日月曜日

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?―【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?

江崎 道朗 茂田 忠良

書籍『シギント 最強のインテリジェンス』より

まとめ
  • 日本が「反撃能力」の保有を決定したが、具体的にどの武器をどう使うかが曖昧
  • トマホーク巡航ミサイル購入、国産ミサイル射程延伸、超音速ミサイル開発などが計画されるが、撃つ対象が不明
  • 静止衛星や無人機の導入は示されたものの、ミサイル監視・追跡能力で米中に大きく遅れ
  • 米国は従来の警戒衛星から多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへ移行中
  • 中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を進め、日本の体制は大きく後れを取る恐れ

 2022年12月、日本政府は防衛力の大幅な強化を盛り込んだ新たな「安全保障の基本方針」を示した。中でも大きな転換となったのが、これまでの専守防衛の考え方から、一定の「反撃能力」の保有を容認したことである。

 近年、中国、ロシア、北朝鮮などが次々とミサイル戦力を増強し、日本列島が射程に入る事態となった。これに対し日本はミサイル防衛システムを整備してきたが、相手側の能力の向上に追いつかなくなってきた。そこで、ミサイル防衛に加え、一定の「反撃」によって相手の武力攻撃を抑止するため、長距離の精密打撃能力やミサイル能力の強化を打ち出した。

 具体的には、アメリカ製トマホーク巡航ミサイルの購入、国産の地対艦ミサイルの射程延伸、さらには超音速ミサイル開発などが示された。しかし、こうした武器をどのように運用し、いったいどこを攻撃目標とするのかについては不明確なままとなっている。

 一方で、静止衛星の打ち上げや無人偵察機の運用計画が記されているものの、ミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがある。米国は従来の早期警戒衛星から、多数の小型低軌道衛星によるミサイル追跡システムへと移行を進めており、中国も大規模な偵察衛星群や通信衛星網の整備を計画している。

 このように日本の防衛態勢は大きく転換したものの、具体的な武器の性能や運用、それを支えるインテリジェンス能力の面で、不明確な点が多く残されている。今後は米国との緊密な連携を図りつつ、より実効的な計画の策定が求められよう。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたいかたは元記事をご覧になってください。

【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

まとめ

  • シギント(信号情報)は諜報活動の中で最も重要な手段の一つである。
  • 潜水艦などの探知・監視には、ソナー信号やレーダー波などのシギント活動が不可欠。
  • 日本は海洋におけるシギント能力は高いが、宇宙からのミサイル監視・追跡能力は不足している。
  • 中国はミサイル監視・追跡能力の向上に注力しているが、その実態は不透明である。
  • 日米台はミサイル監視・追跡における中国の動向を注視しつつ、宇宙におけるシギント能力の強化が課題。
インテリジェンス(諜報)活動には大まかに分類して、シギント、ヒューミント、オシントがあることはこのブログでも解説しました。その記事のリンクを以下に掲載します。
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ただこの記事をはじめとして、このブログに掲載してきた諜報活動は、どちらかというシギントは軽視しがちでした。どちらかというと、オシント(公開資料にもとづく諜報活動)に重きをおいたものでした。それは、インターネットなどの発達により、いまやオシントは諜報・防諜活動に従事していない、素人でも簡単にできるようになったきたということがあるからです。

それに、諜報活動というとテレビや映画ではヒューミント(人による諜報活動)が目立ちますが、諜報活動の大部分は、現実には地味な公開資料の分析によるオシントが大部分を占めるからです。

しかしそうしたこととは別に、シギントは昔から今にいたるまで、最強の諜報活動といえます。ただし、シギントは素人が個人で行えるものではなく、国家による関与が不可欠ともいえます。そのため、一般の人にはあまり知られていないというのが実情です。

まずは、シギントについて詳しく説明します。

シギント(SIGINT)とは、Signal Intelligenceの略で、電波信号から情報を収集する諜報活動のことを指します。主な手法は以下の通りです。

1.コムイント(COMINT)

相手の通信内容を盗聴・解読することで情報を収集するもの。有線通信や無線通信の電波を捕捉し、復号化して内容を解析します。

2.エリントインテリジェンス(ELINT)

電子機器が放射する電磁波のパラメータ(周波数、強度、変調様式など)から、その機器の性能や機能、運用態様などを解析し情報を収集するもの。レーダー探知機やジャミング装置の性能評価などに用いられます。

3.フィジントインテリジェンス(FISINT)

 原子力施設や化学施設から放出される特定の粒子線や化学物質を検知して、その施設の活動状況を監視するためのインテリジェンス活動。

シギントには、地上施設に加え、艦船や航空機、さらには静止軌道や低軌道の偵察衛星からの電波収集能力が不可欠です。収集した情報は、通信解読や電子機器の性能分析、施設の活動状況把握などに活用されます。

特に今日では、ミサイル発射の電磁波パラメータからその性能を推定したり、指揮統制通信の盗聴で発射の有無を察知したりと、シギントは世界各国の軍事行動の把握に欠かせない重要な手段となっています。

このブログには良く掲載している、対潜水艦戦(ASW:Anti Submarine Warefare)における潜水艦探知能力もシギントの一環と言えます。

潜水艦は水中を航行するため、視覚的な探知が困難です。そのため、潜水艦から発せられる種々の「信号」を捕捉・解析してその存在や活動を探知することがASWの重要な手段となります。

南シナ海でASWの訓練をする海自

具体的には、以下のような手法がシギントとして活用されています。 

  • ソナー(SONAR)信号の捕捉・解析 潜水艦が運用するソナーの能動的な送波や受波音を監視し、潜航姿勢を推定する。
  • レーダー信号の捕捉(RADINT) 潜水艦のレーダーの電波を捕捉し、浮上時の活動を探知する。
  • 電磁信号の捕捉(COMINT) 潜水艦の通信電文の盗聴や、プロペラ回転に伴う極超短波の捕捉など。
  • 放射線/化学物質の検知(FISINT) 原子力潜水艦から漏れる放射線や化学物質を検知する。
  • 測量情報収集 潜水艦に搭載された測量装置を使って、水深や海底地形、海流などのデータを収集できます。この情報は潜水艦の運用や海上交通路の把握に役立ちます。
  • 艦船/施設監視 潜水艦の望遠鏡や撮影装置を使って、対岸の軍事施設や艦船の動向を監視できます。水上からは監視しにくい箇所の情報収集が可能です。

こうしたシギント活動によって潜水艦の存在や行動を察知し、対潜作戦に活用することができます。したがって、対潜哨戒はシギントの重要な一部と言えるでしょう。

これ以外にも、潜水艦には特殊諜報活動が 上陸したスパイの潜入/離脱、無人機の投入、海底設置型センサーの布設/回収など、秘匿性の高い特殊な諜報活動にも使われます。

このブログにも何度か掲載してきたように、日本の潜水艦はステルス性(静寂性)が高いことは、さらには日本の対潜哨戒能力が高いため、潜水艦や対潜初回活動等による、海洋におけるシギント能力はかなり高いといえます。

これにより、日本は中国に対して海戦面ではかなり有利であり、仮に日中戦争になったとしても、中国が日本に大部隊を送り込むことは困難であり、仮にそうすればすぐに発見され、撃沈されることになります。

そのため、日本は独立を維持できるでしょうが、このブログでも何度かのべてきたように、日本国内が中国のミサイルによって大きく破壊される可能性は高いです。

それは、台湾も同じことです。このブログでのべてきたように、第二次世界大戦中に米軍が、台湾上陸作戦をしなかったことでも明らかなように、台湾の急峻な地形、平坦な地域であっても、河川や湾が複雑に入り組んだ地形てあり、上陸地点が限られてしまうという事実は、天然の要塞と言っても良い状況であり、これを侵攻するのは難しいです。

しかし、台湾も対中戦争になれば、国土の大部分を破壊されることを免れることは難しいでしょう。

その背景には、上の記事にもあるように、日台はミサイル監視・追跡能力の面では、米中に大きく遅れをとっている恐れがあるからです。

ミサイルの監視を行う米国の衛星の想像図

先に述べたように、日本の海洋におけるシギント能力はかなり高く、台湾も潜水艦を時前で建造するなど、海洋でのシギント能力をたかめつつありますが、宇宙におけるシギント能力は高いとはいえません。これを高めていくべきです。

ただし、未だ中国の宇宙でのシギント能力が高いという確たる事実は発見されていません。中国の軍事技術の主な入手先は主にロシアですが、そのロシアのウクライナでの苦戦ぶりをみれば、ロシアはミサイル監視・追跡に関する基盤的な能力は持っているものの、作戦で要求される高度な能力までは未だ備えていないように見受けられます。宇宙でのシギント能力は、さほど高いとはいえないようです。

ただし、中国は近年、ミサイル監視・追跡能力の強化に注力しています。

その取り組みとしては、偵察衛星の大量打ち上げによる宇宙資産の増強、新型の大型レーダーシステムの運用開始、海上・航空機からの監視能力の拡充などが挙げられます。

このように監視・追跡体制の整備が進められている一方で、その具体的な性能や実効性については不透明な部分が多く残されています。中国が米国を上回る"かなり高い"ミサイル監視・追跡能力を備えているかどうかを確たる根拠に基づいて評価することは現時点では困難です。

監視・追跡分野における能力向上の兆しはみられるものの、その程度を断じるには情報が不足しており、引き続き動向を注視していく必要があるでしょう。

日米台としては、中国の動向を注視しつつも、宇宙でのシギント能力を高めていくことが大きな課題といえます。

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