2024年4月8日月曜日

【中国VSブラジルの貿易論争】経済悪化の中国が世界に及ぼす影響とは?―【私の論評】デフレ圧力と貯蓄率からみる中国の世界経済への影響、長期では吉、中短期で凶か

【中国VSブラジルの貿易論争】経済悪化の中国が世界に及ぼす影響とは?

岡崎研究所

まとめ
  • ブラジル政府は、国内産業界からの要請を受け、中国製品のダンピング疑惑について、鉄鋼、化学品、タイヤなど10件以上の調査を開始した。
  • 中国は不動産セクターの減速と内需低迷による生産過剰に悩み、安価な製品を大量に輸出しているため、各国が対抗措置を取り始めている。
  • ブラジルにとって中国は最大の貿易相手国であり、中国からの輸入増加は国内産業保護の観点から課題となっているが、中国は大量の原料を輸入しており、両国の経済関係は密接不可分である。
  • ブラジルはG20議長国であり、来年にはBRICS首脳会議とCOP30が開催される予定で、中国との関係強化を重視するルーラ政権にとって、この反ダンピング問題は大きな課題となっている。
  • 一方で、中国のブラジル向け直接投資は低下傾向にあり、外国投資家にとってブラジルが魅力的な選択肢になりつつある。日本からの首相訪問も検討されており、日本とブラジルの関係強化が期待されている。
ブラジル・ルーラ大統領

 ブラジルは、中国製品に対する反ダンピング調査を開始した。ブラジル産業省は、国内の産業界からの要請を受け、鉄鋼、化学品、タイヤなど10件以上の分野で、中国製品のダンピング疑惑について調査を開始した。この措置は、世界第2位の経済大国である中国が直面する経済的課題を背景としたものだと位置付けられている。

 具体的には、中国の不動産セクター減速と内需低迷により生産過剰に悩んでいる状況の中、中国企業が安価な製品を大量に輸出することで、各国の国内産業に悪影響を及ぼしていることが指摘されている。このため、ブラジルをはじめとする各国が対抗措置を取り始めているのが現状だ。

 ブラジルにとって中国は最大の貿易相手国となっており、中国からの輸入増加が国内産業の保護という観点から大きな課題となっている。一方で、中国は大豆や鉄鉱石など、ブラジルからの原料輸入を大量に行っており、両国の経済関係は密接不可分である。そのため、ブラジル政府は、中国との良好な関係を維持しつつ、国内産業の保護を図るジレンマに直面している。

 特に、今年G20議長国を務めるブラジルでは、来年にBRICS首脳会議とCOP30の開催が予定されており、中国との関係強化を重視するルーラ政権にとって、この反ダンピング問題は大きな懸案事項となっている。一方で、中国のブラジル向け直接投資は低下傾向にあり、ブラジルが外国投資家にとって魅力的な選択肢になりつつあるとの指摘もある。

 こうした中、安倍首相以来10年ぶりの現役総理のブラジル訪問が検討されている。中国に対抗する経済的絆の強化や、安全保障分野での協力強化など、日本とブラジルの関係強化が期待されている。ブラジルは中国との関係と国内産業保護の狭間で、難しい舵取りを迫られている状況にある。

 この記事は、元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧ください。

【私の論評】デフレ圧力と貯蓄率からみる中国の世界経済への影響、長期では吉、中短期で凶か

まとめ
  • コロナ禍以降、世界的な高インフレに苦しんでいた先進国経済にとって、中国からの低価格の輸入品増加は一時的にはデフレ圧力によるインフレの緩和として歓迎された
  • 特に、米国では40年ぶりの高インフレに見舞われ、中国からの安価な輸入品流入は米国消費者物価の上昇を抑制し、一定の歓迎ムードがあった
  • 中国の景気減速が先進国のインフレ対策に追い風を与え、世界のマクロ経済の状況を変える可能性がある
  • 中国の貯蓄率低下の傾向が続くと見られ、長期需要不足の状況が解消される可能性がある一方、短期・中期においては自国産業の空洞化や競争力低下の懸念がある
  • 中国の経済運営と各国の政策対応が世界経済の調和的な成長に重要であり、中国のダンピング等に対する適切な対応が必要である。
コロナ禍以降、世界的な高インフレに苦しんでいた先進国経済にとって、中国からの低価格の輸入品増加は一時的にはデフレ圧力によるインフレの緩和として歓迎される側面がありました。

特に、米国では40年ぶりの高インフレに見舞われ、連邦準備制度(FRB)が金利引き上げに踏み切るなど、物価高抑制に苦慮していました。そうした中で、中国からの安価な輸入品流入は、米国消費者物価の上昇を抑制する効果があり、一定の歓迎ムードがあったと指摘できます。これについては、このブログでも解説したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の景気減速が米FRBのインフレ対策の追い風に―【私の論評】中国長期経済停滞で、世界の「長期需要不足」は終焉?米FRBのインフレ対策の追い風はその前兆か(゚д゚)!
FRBジェローム・パウエル議長

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えました。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきました。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しません。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

 一部省略

中国の経済の停滞が続けば、「長期需要不足」の時代は終わるのではないでしょうか。そうなれば、今後は、財政拡張や金融緩和を相当大胆に行えば、従来のように、景気加熱やインフレが起きやすくなることを意味します。 
中国経済の減速は、世界の各国のマクロ経済の状況が一昔前に戻ることを意味するかもしれません。そうなれば、「長期需要不足」、「長期停滞」は過去のものとなり、多くの国々で、経済政策が実施しやすくなるかもしれません。米国での中国の景気減速が米FRBのインフレ対策の追い風となっている事実は、その魁なのかもしれません。 
現在まで、世界の各国のマクロ経済状況は、緊縮財政を行えば、経済が後退する一方で、金融緩和や積極財政をするかしないかというのが常道となりつつあったのが(これを全く認識していないのが財務省と旧タイプの日銀官僚)、一昔前のように、経済が落ち込めば、金融緩和をし、積極財政を行い、景気が加熱すれば、金融引締をし、緊縮財政をするというように、比較的簡単にコントロールできるようになるのではないでしょうか。
長期的にはこのようなことがいえるかもしれません。中国の経済低迷が続けば、過剰貯蓄もなくなる可能性が高いからです。以下に、日本、米国、EU、中国の貯蓄率推移の一覧表を掲載します。

IMF資料に基づく 主要国・地域 貯蓄率推移比較表 2015年~2022年

 日本米国EU中国
貯蓄率前年比貯蓄率前年比貯蓄率前年比貯蓄率前年比
201517.8-7.8-12.9-43.8-
201618.1+0.37.2-0.613.1+0.242.2-1.6
201718.5+0.46.8-0.413.3+0.241.7-0.5
201818.2-0.36.1-0.713.1-0.243.8+2.1
201917.9-0.36-0.112.9-0.242.2-1.6
202020.6+2.713.6+7.617.1+4.250.2+7.9
202120.1-0.510.3-3.315.4-1.746.4-3.8
202219.8-0.39.4-0.914.9-0.544.3-2.1
2015-202218.5+2.08.6+1.613.5+2.043.5+0.5

中国の貯蓄率はもともとかなり高いことがわかります。ただ、最近の経済の低迷で貯蓄の取り崩しが始まっているものとみられ、その傾向は2016年あたりから続いていますが、2020年はコロナ禍の影響で、貯蓄率が高まったものとみられます。

中国の貯蓄率低下の傾向はさらに続くと見られますので、 世界の「長期需要不足」「長期停滞」の状況はいずれ解消される可能性があります。

しかし、ブラジルの事例が示すように、中国からの低価格輸出が継続すると、ブラジルの産業保護の観点から問題が生じてきます。つまり、一時的な物価抑制効果はあるものの、中期的には自国産業の空洞化や競争力低下を招く恐れがあるのです。

ブラジルは、鉄鋼や化学品、タイヤなどの分野で中国製品のダンピングが懸念されており、国内産業保護の観点から反ダンピング調査に乗り出しました。これは、安価な中国製品の輸入増加が、ブラジル経済に悪影響を及ぼし始めているという前兆だと捉えることができます。

先進国各国も、同様の事態に直面する可能性があります。一時的な物価抑制効果はあるものの、中期的には、中国の生産過剰と低価格輸出が、自国経済の健全な発展を阻害する要因になりかねないのです。

中国が、自国の経済の低迷を回復するため、過去もそうであったように、さらに大量の在庫をかかえている製品を低価格で輸出したり、それだけにとどまらずさらに低価格の製品を大量に製造して世界中に低価格で売るようになった場合世界はどうなるでしょう。

その場合、世界経済全体の健全な成長を阻害し、様々な問題を引き起こすことが危惧されます。各国が適切な政策対応を取らない限り、大きな混乱を招く可能性が高いと言えるでしょう。

結局のところ、世界経済の調和的な成長のためには、中国経済の適切な運営と、各国の適切な政策対応が重要となってくると考えられます。中国の生産能力管理と、各国の産業保護と自由貿易のバランスを取ることが課題になると言えるでしょう。

経済運営には疎いと言われる習近平

中国共産党政府が、ダンピング等をやめない場合は、関税引き上げ措置にとどまらず、一時的にデカップリングやデリスキリングなどの措置も、やむを得ない場合も生じてくるかもしれません。日本としても、中国の動向をみつつ、対中政策を考えていく必要があります。

特に、安易な金融引締や、緊縮財政などは中国や韓国等を利するだけになります。過去の日本は、過度の金融引締、緊縮で極度のデフレに陥り、超円高となり、たとえば日本で部品を組み立て製品に輸出するよりも、中国・韓国等で組み立てたほうが低価格という異常な状況を生み出しました。

その結果おおいに中国や韓国を助け、日本の国際競争力は低下し、国内では産業の空洞化をもたらし、中韓にぬるま湯に浸かったかのような経済状況をもたらしたことを忘れるべきではありません。

【関連記事】

中国のデフレを西側諸国が歓迎する理由―【私の論評】来年は中国のデフレと資源・エネルギー価格の低下で、日本に再びデフレ圧力が!


まだ新型肺炎の真実を隠す中国、このままでは14億人の貧困層を抱える大きいだけの国になる=鈴木傾城―【私の論評】中進国の罠にはまり込んだ中国は、図体が大きなだけの凡庸な独裁国家になるが依然獰猛(゚д゚)!

中国、崩壊への警戒感高まる…共産党独裁体制が“寿命”、米国を敵に回し経済停滞が鮮明―【私の論表】中国崩壊で、世界経済は良くなる可能性のほうが高い(゚д゚)!

0 件のコメント:

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか?―【私の論評】シギント(信号諜報)の重要性と日米台の宇宙からの監視能力 - 中国の脅威に備えるべき課題

時代遅れの偵察衛星システムで日本は隣国からのミサイル攻撃を防げるのか? ■ 江崎 道朗   茂田 忠良 書籍『シギント 最強のインテリジェンス』より まとめ 日本が「反撃能力」の保有を決定したが、具体的にどの武器をどう使うかが曖昧 トマホーク巡航ミサイル購入、国産ミサイル射程延伸...