2023年8月17日木曜日

中国のデフレ圧力、欧米中銀にとって朗報=PIMCO―【私の論評】中国の長期デフレにより、世界のマクロ・バランスが元に戻る可能性がでてきた(゚д゚)!

中国のデフレ圧力、欧米中銀にとって朗報=PIMCO

中国のデフレ圧力  AI生成画像

 中国のデフレ圧力が世界市場に波及する可能性があると、米大手債券運用会社パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は分析した。中国経済の悪化は、中国国内のインフレを緩やかにし、中国製品が供給される市場でもインフレ鈍化が進む可能性があると指摘している。

 PIMCOのエコノミスト兼マネジング・ディレクター、ティファニー・ワイルディング氏は、「中国におけるデフレの持続は先進国市場に波及する可能性が高い。人民元安と在庫・売上高比率の上昇により、中国製品の海外価格が下落するからだ。先進国の中銀はこのような展開を歓迎するだろう」と述べている。また、「通常の遅れを考えると、デフレの波及は世界の消費者市場に影響を与え始めたばかりであり、今後数四半期にわたって値下げが加速する可能性が高い」としている。

 中国にとって、デフレ圧力がさらに強まるリスクは今後数カ月の政府の政策にかかっている。内需拡大に向けた十分な財政刺激策はインフレを再加速させるかもしれないが、政策措置の遅れや不十分さは下降スパイラルにつながる可能性があるとした。

 中国国家統計局が今月9日に発表した7月の消費者物価指数(CPI)は前年比0.3%下落し、2021年2月以来2年5カ月ぶりにマイナスとなった。長引く不動産不況や輸出入の減少で中国経済が減速する中、デフレ圧力が強まっているという懸念を助長する内容となった。

 一方、オックスフォード・エコノミクスは16日付のメモで、中国の2023年国内総生産(GDP)成長率予測をコンセンサスを下回る5.1%に引き下げた。「デフレ、低調な貿易、ローン需要の急減、不動産セクターの麻痺がリスク選好度を低下させる」とした。

 この記事は元記事の要約です。詳細を知りたい方は、元記事をご覧になってください。

【私の論評】中国の長期デフレにより、世界のマクロバランスが元に戻る可能性がでてきた(゚д゚)!

上の記事は、ロイターのものですが、ブルームバークも似たような趣旨の記事を掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国経済の苦境、世界の物価抑制を支援も-悪いことばかりではないか

この記事の要約を以下に掲載します。

中国の物価下落は、短期的には世界市場にプラスの影響をもたらす可能性があると、投資マネジャーらは分析しています。中国は世界最大の製造国であり、同国の物価下落は、原材料や製品の価格を下押しし、インフレを抑制する効果をもたらすと考えられます。また、中国の経済成長が鈍化すれば、商品の輸入需要が減少し、原油価格の下落につながる可能性があります。

しかし、中国の物価下落は、長期的には世界市場にマイナスの影響をもたらす可能性があります。中国の経済成長が鈍化すれば、世界の経済成長も鈍化すると予想されます。また、中国の債務問題が深刻化すれば、世界金融市場に混乱を引き起こす可能性があります。

中国の経済動向は、今後の世界経済の行方を左右する重要な要素の一つです。投資家は、中国の経済動向を注視し、適切な投資判断を行う必要があります。
中国のデフレが中国製品を輸入する国々でインフレを抑制する効果があるというのは間違いないでしょう。

このブログでも、このようなことはすでに掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の景気減速が米FRBのインフレ対策の追い風に―【私の論評】中国長期経済停滞で、世界の「長期需要不足」は終焉?米FRBのインフレ対策の追い風はその前兆か(゚д゚)!
FRBジェローム・パウエル議長

この記事より、一部を引用します。
中国経済は 2023 年に予想以上に減速している。成長予測は引き下げられ、インフレ率は低下している。

中国の景気減速は世界経済と市場に悪影響を及ぼしている。 一次産品の価格は下落しており、商品の需要は減少している。 現状では、世界的にインフレの軌道修正が課題となっている。

中国経済の減速は、米国連邦準備制度理事会とそのジェローム・パウエル議長にとって救いとなっている。

今のところ、中国経済の減速により、米国を含む世界全体のインフレ圧力が低下している。しかし、中国の政策担当者が成長刺激を決定すれば、状況は変わる可能性がある。
結局、米国は7月に0.25%の利上げを実施していますが、これは十分予期されたサプライズなしの利上げでした。中国のデフレによって、この利上げはかなりタイミング的に遅めになったのは間違いないです。中国のデフレがされに深化すれば、今度は利下げも視野に入ってくる可能性があります。

このように、直近の中国のデフレは、インフレ傾向の欧米はもとより、日本にとっても朗報といえます。

ただ中国の景気低迷は、日本や欧米などにとってそれ以上の朗報をもたらす可能性があります。

それは、上の引用記事でも述べました。その部分を以下に引用します。
1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰が、世界全体のマクロ・バランスを大きく変えました。

各国経済のマクロ・バランスにおける「貯蓄過剰」とは、国内需要に対する供給の過剰を意味します。実際、中国などにおいてはこれまで、生産や所得の高い伸びに国内需要の伸びが追いつかないために、結果としてより多くの貯蓄が経常収支黒字となって海外に流出してきました。

このように、供給側の制約が世界的にますます緩くなってくれば、世界需要がよほど急速に拡大しない限り、供給の天井には達しません。供給制約の現れとしての高インフレや高金利が近年の先進諸国ではほとんど生じなくなったのは、そのためです。

この「長期需要不足」の世界は、ローレンス・サマーズが「長期停滞論」で描き出した世界にきわめて近いです。その世界では、財政拡張や金融緩和を相当に大胆に行っても、景気過熱やインフレは起きにくいのです。
ローレンス・サマーズ
 というよりもむしろ、財政や金融の支えがない限り、十分な経済成長を維持することができず、ひとたびその支えを外してしまえば、経済はたちまち需要不足による「停滞」に陥ってしまうのです。それが、供給の天井が低かった古い時代には必要とされていた緊縮が現在はむしろ災いとなり、逆に、その担い手が右派であれ左派であれ、世界各国で反緊縮が必要とされる理由になってきました。

まさしく、現在中国のデフレは、インフレ傾向の欧米中銀にとって、朗報となっているのです。そうして、このブログでも何度か指摘した通り、現在の中国は国際金融のトリレンマによって、独立した金融政策を実施できない状況になっているため、中国は今後長きにわたって、景気が回復する見込みはありません。

そうなると、1990年代末から顕在化し始めた中国に代表される新興諸国の貯蓄過剰により変わってしまった世界全体のマクロ・バランスが元に戻る可能性がでてきたといえます。

ただし、戻ったとしても、中国のいわゆる貯蓄過剰が是正されなければ、中国の景気が回復すれば、元の木阿弥に戻ってしまうことになります。そうならないように、各国政府は中国に内需の拡大を促すことを要求すべきでしょう。

中国の内需拡大 AI生成画像

米国のGDPに占める個人消費は約70%台です。日欧は60%台です。中国は30%台です。中国には、内需を拡大できる余地がかなりあります。内需を拡大する方法はいくらでもありますが、一時的ではなく永続的にするためには、やはり民主化、政治と経済の分離、法治国家化は避けて通れません。

内需に関しては、いずれの国でも内需は能力限度内でなるべく大きくすべきです。内需の大きい国は自国内で経済を回していくことがしやすいです。そのため、世界経済の変化の影響を受けにくいです。無論、能力を超えて内需を拡大しようとしても、それは返って悪影響を及ぼすだけです。

これが、現代の中国の状況です。内需が伸びるような政策を打ったうえで、その内需に応えるために、国内産業が様々な物資やサービスを提供するようにすれば良いものを、中国はその逆をやりました。貯蓄過剰は、物資やサービスの供給過剰をもたらし、経済が悪化して、デフレが深化しつつあります。また、世界経済にも、「長期需要不足」、「長期停滞」をもたらしてきたのです。

中国の内需拡大を実現することが、中国にとっても、世界にとっても良いことなのですが、中共が体制を変えることは期待できません。ただ中国が現在の体制を変えないなら、中国の経済は低迷し続けることになり、やはり世界全体のマクロ・バランスが元に戻る可能性は否定できない状況になってきたといえます。

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