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2020年4月5日日曜日

米国「コロナ爆発的拡大」背景にある政治的事情―【私の論評】日本の「クラスター戦略チーム」は、「FUKUSHIMA50」に匹敵する国難を救う英雄だ、彼らに感謝し支援しよう(゚д゚)!

米国「コロナ爆発的拡大」背景にある政治的事情
両党の認識の齟齬が初動の遅れを招いた

アメリカで新型コロナウイルス対策の初動が遅れた理由は

2月29日、ワシントン州でコロナウイルス(COVID-19)によるアメリカ初の死亡例が公表された。それ以降、このウイルスはアメリカ各州に広がり、感染者21万人以上、死者は5000人近くに上る。

 3月13日には国家非常事態宣言が出され、多数の商店やレストランが閉鎖された。また、さらなるウイルス感染拡大のリスクを最小限にとどめるため、一部の知事や市長は住民に自宅待機を求める「ロックダウン(都市封鎖)」を発令した。

3月初旬には共和党、民主党で認識に大きな違い

 3月のはじめ、アメリカで「あなたの地域におけるコロナウイルスの感染拡大についてどの程度心配しているか」と質問したところ、共和党員の40%以上は「まったく心配していない」と答えたのに対し、民主党員で同じ答えは5%未満と、35%の開きがあった。

 しかし3週間後の3月21日になると、共和党員による同回答は40%から18%にまで急激に減少し、民主党員の回答も5%から2%に下落した。3月はじめにおける共和党員と民主党員の間の35%というこの差は、政党間の分断を反映したものと言える。

 しかしながら、このように3週間で両党の差が35%から16%に縮まったということは、この危機に対し両党の認識が近づいているということなのかもしれない。とは言え、共和党員と民主党員の間で脅威の認識にこのような乖離が生じるのはなぜなのだろうか。

 1つめの理由として、指導者たちが国民に向けて相反するメッセージを発していたということがある。アメリカの情報機関は、1月初めには中国でコロナウイルスの感染が拡大していること、そしてそれが世界的パンデミックにつながりうることをドナルド・トランプ大統領に説明していたが、大統領がその問題を真剣に受け止め、国家非常事態宣言が必要であるとの結論に至るまでには1カ月以上かかった。2月27日になっても、トランプ大統領は「今は15人だが、この15人も数日以内にほぼゼロになるだろう」と力説していたのである。

 同じ頃、国立アレルギー・感染症研究所所長のアンソニー・フォーシは、「来週、あるいは2、3週間のうちに、われわれは地域のあちらこちらで多数の症例を目にすることになるだろう」と警告していた。そしてその後まもなく、民主党の州知事であるカリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事やニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事などは、それぞれの州でロックダウンを発令し、不要不急の企業活動の休止や住民の自宅待機を促した。

 2つめの理由として、情報源の二極化がある。調査によると、共和党員のテレビ視聴者に人気のFOXニュースと、民主党員の多くが視聴するMSNBCでは、コロナウイルスについての報道がまったく異なっており、保守陣営の中には、民主党が意図的に「11月の大統領再選にダメージを与えようとコロナウイルスの感染拡大を「でっちあげ」ているのだ」と非難する者すらいる。

 また、共和党のSNSユーザーの多くは、主に保守系情報源を利用し、民主党SNSユーザーの多くが主に進歩系情報源を利用しているために、両者は互いに異なった、ときとして互いに理解不能な世界を作り出しているのである。

地理的な事情も影響した

 3つめの理由として、地理的な政治要因がある。東海岸および西海岸の高人口密度地域(ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス、シアトル)や、アメリカ中西部の大都市(シカゴ、デトロイト)は、特に感染者が多い場所である。そしてこれらは民主党が強い地域でもある。

 これに対し、感染者数が比較的少ない中西部や南部は共和党の牙城である。従って、共和党員の間でコロナウイルスに対する危機感が弱いのは、彼らの生活圏が大都市に比べて感染拡大による影響が少ない地域だからということも考えられるのである。

 コロナウイルスに対する危機認識は共和党員と民主党員の間で収束しつつあるが、この危機に対するトランプ政権の対応については、依然として党派間で意見が両極端に分かれている。

 3月初め、アメリカで「コロナウイルス発生に対する米国政府の現在の対応にどの程度満足しているか」という調査を行なったところ、共和党員では50%が「完全に満足している」と答え、「全く満足していない」と答えたのはわずか4%であった。

 これに対し、民主党の回答者のうち「全く満足していない」と答えたのは61%、「完全に満足している」と答えたのはわずか3%であった。3月21日の調査では、民主党員は64%が「全く満足していない」と答え、「完全に満足している」と答えたのはわずか2%。共和党員の回答者のうち、「完全に満足している」と答えたのは46%、「全く満足していない」と答えたのは5%だった。

 つまり、共和党員の間で危機認識が高まりはしたものの、トランプ政権のコロナウイルス危機への対応についての評価には、党派間の溝が依然として存在するのである。しかし、こうした党派間の分断にもかかわらず、党派的ないざこざの後、コロナウイルスによる経済的損害の緩和に向けた2兆ドルの法案を、3月25日に上院で可決できたことは心強い。

 おそらくこれは、誤魔化しが効く政治的危機とは対照的に、具体的に死者がでている現実的な危機的状況においては、党派の主義主張よりも事実が勝るということを示しているのではないだろうか。

統一的対応の欠如は中国の存在感を高めることに

 つい最近までは、トランプ大統領が3月24日に「4月12日のイースターまでに経済活動を再開したい」という意向を示したことをめぐり、新たな論争が勃発し始めた。大統領は、「ちょうどいい時期だし、ちょうどいいタイミングだと思った」のだという。

 しかし、公衆衛生の専門家から「その期限はあまりにも時期尚早であり、コロナウイルスの克服という見地から見て悲惨な結末につながる」と非難されたため、3月29日、大統領はこの目標を撤回した。

 世界的パンデミックの中心地はこの2カ月間で中国からイタリアへと移動し、そして今やアメリカがその中心地である。トランプ政権は、「武漢ウイルス」や「チャイナウイルス」などとレッテルを貼り、中国がパンデミックの発生源であると非難しているが、国内における両党派の対立や世界におけるアメリカの統一的な対応の欠如は、最終的には中国の存在感を高めることにつながる可能性が高い。なぜなら、現実はさておき、中国には国内における危機の克服と他国に対する支援の両面で明確な戦略があったからである。

 国内だけでなく、世界においても、党派間の対立を克服し、科学、エビデンス、透明性、そして真実に基づくリーダーシップをアメリカが発揮できるようになることを期待したい。

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【私の論評】日本の「クラスター戦略チーム」は、「FUKUSHIMA50」に匹敵する国難を救う英雄だ、彼らに感謝し支援しよう(゚д゚)!

米国では、経済対策は電光石火のごとく、挙党一致で動き、素早い対応がみられました。

トランプ米大統領は先月27日、中国ウイルスの感染拡大を受けた2兆ドル(約220兆円:GDPの10%)の経済対策法案に署名し、同法は成立しました。トランプ氏はまた、米自動車大手ゼネラル・モーターズに人工呼吸器を製造するよう命令しました。

与野党は1週間に及んだ攻防の末に同法案を支持し、法案は大統領が署名する数時間前に下院で可決されていました。経済対策では平均的な4人家族に最大3400ドル(約37万4000円)を給付します。

トランプ大統領は「民主党議員と共和党議員が協力し、米国を第一に考えてくれたことに感謝したい」と述べました。

トランプ氏はまた、国防生産法を発動し、人工呼吸器の迅速な製造をGMに命じました。人工呼吸器は新型コロナウイルス感染症の重症患者の生命維持に必要ですが、不足しています。

さらに、このブログでも掲載したように、米連邦準備制度理事会(FRB)は先月3日、金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)を定例会合の17、18日を待たずに緊急開催し、政策金利0・5%の引き下げを行いました。

このように、財政・金融政策では、米国は申し分のない対策を行っています。日本も見習うべきです。そのため、上で述べているように、防疫体制に問題があったにしても、一旦武漢ウイルスの蔓延が終息すれば、米国経済は比較的短期に回復する可能性が大きいです。

しかし、防疫体制には問題がありすぎました。

米国では、一月下旬に国内最初の感染者がワシントン州で確認されました。これを受けて、地域の感染症専門家とその研究チームがインフルエンザ検査を転用して、コロナウイルス検査を実施する方法を提言し、何度も連邦政府に協力を求めたが拒否され続けて何週間も経ってしまいました。彼らは二月下旬に入って、これ以上は待てないと政府の承認なしにウイルス検査の実施を敢行しました。

ところが、この研究チームは独自の検査を即時ストップすることを求められたのです。

連邦政府が彼らの要請を拒否し、検査を中止させた理由は、この研究チームの研究対象がインフルエンザであり、それをコロナウイルスに変えての検査の転用は許可できないということと、医療行為に直接関わる許可を得ていないということでした。つまり、研究倫理に関する規制を優先した結果、感染状況を早期に把握することに失敗してしまったのです。

また、ほかの専門家も二月中旬頃から初動の重要性、検査の重要性を訴え続けていたのですが、米国は中国からの入国禁止措置で稼いだ時間を事実上、無駄にしてしまいました。民間の研究機関が独自に検査を開発できるようにしようという声もあったのですが、米国食品医薬品局(FDA)がそれを許可することはありませんでした。

日本では、感染蔓延当初、感染症対策には優れた機関であると見なされていた、CDCに至っては、独自検査の開発にこだわった結果、最初に開発された検査キットが失敗作でした。

米国疾病予防センター(CDC)

現在では、トランプ大統領もCDCも、国内で感染が広がった原因は広範な検査を早期実施することに失敗したせいであるということを認めています。

いかに柔軟に規制を緩和し柔軟に対応できるかが、緊急事態における国家の対応力を左右するといえるでしょう。

日本では、米国に比較すると現状では、感染者も死者も少ない状況です。なぜそうなったかとえば、何と言っても「クラスター戦略」つまり「感染の連鎖を見える形にして、その先への感染を抑え込む」という方法論が成功したためです。

この方法論を主唱して実戦の指揮を事実上取っているのが、東北大学の押谷仁教授と、北海道大学の西浦博教授と言われています。

ここ数週間は、孤発例(こはつれい)つまり感染経路をたどれない陽性患者が多く発見され、特に東京では感染拡大の懸念が高まっています。ですが、こうした状況においても厚生労働省のクラスター対策班は、コツコツとクラスターの「見える化」つまり感染者の濃厚接触者のフォローと、感染経路のさかのぼりといった調査を続けています。

その結果として、例えば中国との往来などを原因とした「第1波」の中では、

▼ダイヤモンド・プリンセス下船者からのクラスター発生の阻止
▼武漢からのチャーター機での帰国者からのクラスター発生の阻止
▼東京の屋形船クラスター
▼愛知のクラスター
▼和歌山のクラスター
▼北海道における北見と札幌のクラスター
▼大阪におけるライブハウスのクラスター

などは、感染経路を「見える化」すると同時に、更に感染の連鎖が続くことをほぼ抑え込んでいます。

一方で、3月中旬以降始まった「第2波」においても、多くのクラスターが続々見つかっています。例えば、京都の大学にしても、東京の繁華街にしても、最初は「孤発例」だったのが、クラスター対策班の努力で連鎖が発見できており、「第1波」と同じように封じ込めを目指した努力がされているのです。

もちろん、このアプローチには限界があります。クラスターをたどれない「孤発例」がどんどん増えていく一方で、全く「見える化」されない形で、大きなクラスターができていき、ある日突然その中から多数の重症者が病院に殺到する、つまり欧米で現在起きているような「感染爆発」が起こる可能性はゼロではありません。

しかしながら、「第2波」についても、何とか追跡ができつつあるという状況だと考えられます。4月1日から2日にかけて明らかとなった、大阪のショーパブにしても、北九州と福岡にしても、まだ油断できない状況ですが、仮にクラスターの全体像が「見える化」できれば感染の連鎖は抑え込むことは可能なはずです。

一方で、「接触の削減」については欧米ほどではないものの、一斉休校や外出自粛などの対策が強化されつつあります。これは、相当数あると思われる「見えない感染者」からの感染拡大を低減するには、必要な対策です。日本でも、一旦「クラスターが追えない」というフェーズに入ってしまうと、欧米のような事態に陥る可能性はゼロではないからです。

反対に、対策の結果として、孤発例が減少していき、「見えないクラスター」の存在する可能性が消えていく、その上で「見える化」されたクラスターを全部「潰す」ことができれば、感染の暫定的な収束に持っていくことは可能です。これが現在の日本の状況だと考えられます。

感染爆発が起こってしまった米国等においては、もうすでに「クラスター戦略」は有効ではありません。だから、米国等の国々が日本のやり方を踏襲することはできません。残念なことです。ただし、感染者数が比較的少ない中西部や南部ではまだ有効かもしれません。

私は、「クラスター戦略」を主唱して実戦の指揮を事実上取っている東北大学の押谷仁教授と、北海道大学の西浦博教授および、彼らをサポートするおそらく、少人数のチームの人々に多くの人々が感謝とともに、協力すべきと思います。以降これらの人々を「クラスター戦略チーム」と呼びます。

この「クラスター戦略チーム」どのくらいの人数なのかは、わかりませんが、おそらく米国のCDCと比較すれば、本当に少ない人数だと思います。

無論私達の大部分は、感染症の専門家ではないので、彼らを直接サポートすることはできません。しかし、彼らに対して協力にサポートすることはできます。

それは、私達自身がなるべく感染しないようにすることです。これから、感染者がどんどん増えていけば、ましてや指数関数的に増えれば、さすがに「クラスター戦略チーム」もクラスターを追跡するのは不可能になります。

そうならないように、少しでも感染を減らして、彼らがクラスターを追跡できるように、時間的な余裕を提供するのです。

私は、彼らの献身的な地味な努力は、人々の目に見えないところで実施されているので、多くの人が意識していないようですが、彼らは、一人でも多くの人々の命を助けたいという使命感に突き動かされているのだと思います。

彼らの努力がなければ、今頃日本は、他国のようにすでに爆発的な感染で多くの人々が亡くなっていたでしょう。

私は、彼らの貢献を見て、歴史上のある言葉を思い出しました。それは、第二次高い大戦中の英国が、ドイツと空の戦い「バトル・オブ・ブリテン」を戦った最中のチャーチルの演説です。
人類の歴史の中で、かくも少ない人が、かくも多数の人を守ったことはない。— イギリス首相ウィンストン・チャーチル、1940年8月20日 下院スピーチ

バトル・オブ・ブリテンの期間中、ドイツ軍は絶え間なく沿岸沿いの飛行場や工場を爆撃した。

日本では、大昔から国難に至ると、必ずといって良いほど、英雄が出てきて国難が回避されてきました。

近いところでは、あの福島原発事故において、我が身の危険も顧みず、原発事故に立ち向かった「FUKUSHIMA50」です。これは、最近映画化されたので、多くの人達が知っていることでしょう。 たった50人があの未曾有の災害に立ち向かったのです。


私は、「クラスター戦略チーム」も日本の国難を救う英雄だと思います。

彼らの努力を無にしないため、各自治体や国の感染症対策への要望や、これから出されるであろう緊急事態宣言により、さらなる要望がでてくると思いますが、私達はそれによる、不自由や不便等は甘んじて受け、「クラスター戦略チーム」を応援しようではありませんか。

そうして、政府としては、せっかく「クラスター戦略チーム」が多くの人々を救ったにしても、その後の経済がなかなか回復しなければ、とんでもないことになりかねないですから、米国に匹敵するような経済対策を実行していただきたいものです。

そうして、忘れてならないのは、現場の医療関係者です。彼らがいなければ、感染者を救うことはできません。彼らも英雄なのです。

現在実施している施策は、第一段として、第二段、第三段と、効果のある経済対策を実施していただきたいです。それでもだめなら、10段でも20段でも実行していただきたいです。それに日銀も、異次元の緩和の姿勢に戻るべきです。

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2019年9月24日火曜日

過去の石油危機に匹敵する原油生産停止・サウジ攻撃の本当の意味―【私の論評】石油危機+増税でも日本政府にはどうにでもできる夢のような大財源がある(゚д゚)!


小山 堅 (日本エネルギー経済研究所・首席研究員)

攻撃を受けたサウジアラビアの石油精製施設。20日公開された

9月14日、サウジアラビア東部のアブカイク及びクライスにある石油生産・出荷基地に対して、無人機(ドローン)攻撃が行われ、関連施設に重大な被害が発生した。イエメンの武装勢力フーシ派による攻撃とされるが、イランの関与も指摘され、詳細はいまだ不明である。

 この攻撃で、日量570万バレル(B/D)の生産が停止した。直近(8月)時点でのサウジアラビアの石油生産量の約6割に匹敵する供給が失われ、世界全体の石油生産の約6%の供給が停止したことになる。

石油生産の心臓部への攻撃

 攻撃を受けたアブカイク・クライス共に、サウジアラビアの石油生産にとって極めて重要であるが、特にアブカイクは世界最大の原油関連施設が集積しており、まさにサウジアラビアの石油生産の心臓部であるといってもよい。

 サウジアラビアの主要油田から集められた原油は、いわゆる「前処理」を行うことで成分・性状を調整し、原油精製設備で処理・精製できる品質に調整され、出荷される。その中心施設がアブカイクにあることから、同国の石油供給施設・インフラの中でも際立った重要性を有している。当然、その重要性から厳重な警備の下に置かれ、セキュリティが確保されてきた。

 攻撃直後に行われたフーシ派報道官の発表では、今回のドローン攻撃は2015年以来続くサウジアラビア等によるイエメン・フーシ派への攻撃に対する「反撃」として実施されたものであり、サウジアラビアの攻撃や包囲が続き限り、反撃も続くとされた。ただし、その後、フーシ派はサウジアラビアへの攻撃を停止する、と発表している。

 なお、フーシ派によるドローン攻撃は、8月にもサウジアラビアの主要油田、シュアイバ油田に対して行われ、イエメンからの長距離攻撃の実施で関係者の注目を集めていた。今回、厳重な警備をかい潜って、ドローンによる攻撃がサウジアラビアの石油生産の心臓部に打撃を与えたことで改めて世界に衝撃が走った。

 今回のサウジへの攻撃の詳細や背景等については、その後、情報収集や分析が進められ徐々に解明が進みつつあるが、未だ不明確な点も多々残っている。関連施設に重大な被害を与えた正確な攻撃は、ドローンだけでなく、巡航ミサイルによる攻撃もあった、との見方も示され、その「証拠」とされるミサイルやドローンの残骸などもサウジ側によって公開された。フーシ派が攻撃を実施したと自ら表明しているものの、攻撃を受けた方向等の分析などから、イランの関与を強く指摘する意見が米国やサウジアラビアから相次いで示されている。

 米国・ポンペオ国務長官は、攻撃の直後から「攻撃がイエメンから実行された証拠はない」と述べイランの関与を示唆した。その後も、米国・サウジアラビアから、イランが直接関与した、あるいは背後にいた、等のイラン関与説が繰り返し唱えられる状況となっている。ポンペオ国務長官はイランによる攻撃を指摘し、サウジアラビアに対する「戦争行為」であると非難した。

 トランプ大統領はイランとの戦争を望んでいないとの姿勢を崩していないが、同時に、20日にはサウジアラビアやUAEへの米軍の増派を決定し、イラン中央銀行に対する新たな経済制裁を発表した。

 イラン側は、自らの関与を真っ向から否定しているが、米国等による非難と厳しい姿勢の強化を受けて、もしイランに攻撃が行われれば、「全面戦争」になる、との強硬な姿勢も示している。こうして、今回の攻撃を受けて、中東情勢の流動化と混迷が更に進み、地政学リスクが大きく高まる状況となっている。

 今回の攻撃で、570万B/Dに達する石油供給が停止したが、発生した火災等は沈下し、事態は一応の安定を取り戻した。こうした中、世界の関心は生産・供給停止がどの程度続くのか、に向いている。

 17日には、サウジアラビアのアブドゥルアジズ・エネルギー大臣が、復旧作業を進めることで9月中には攻撃前の生産・出荷状況に戻る、との見通しを発表した。サウジアラビアの石油市場における重要性とレピュテーションを守るためにも必至の復旧作業が進められることになり、政府責任者が示した復旧の目途は市場を落ち着かせる点において重要な意味を持つ。

 ただし、被害の大きさと復旧作業の規模等から、実際に完全復旧が9月中に実現できるのかどうか、まだ予断は許されないとの見方も一部の市場関係者の間にはある。現時点では予断を持つことなく、復旧作業の進捗状況と、供給回復の推移を見守っていく必要があろう。

 なお、サウジアラビアでの大規模生産停止を受けて、その直後から市場安定化のために様々な動きや取り組みが始まった。サウジアラビア自身は、停止した生産・供給を補うため、復旧を急ぐとともに保有する在庫等を活用すると表明した。米国・トランプ大統領は、必要に応じて、戦略石油備蓄(SPR)の活用を考える姿勢を明らかにした。

 国際石油市場の安定に責務を有する国際エネルギー機関(IEA)も、今後の推移に留意する必要があることを示しつつ、現在の国際石油市場には十分な在庫・備蓄量があることを示唆し、冷静な対応の重要性を示している。

予断を許さない価格の動き

 サウジアラビアの重要石油施設への攻撃実施と、その結果として石油供給の大規模喪失の発生という事象は、国際石油市場にとって衝撃的な事象であった。サウジアラビアでの供給支障発生は週末14日に発生したが、週明け16日には欧米市場で原油価格が急騰した。欧州市場では、指標原油ブレントの価格は、前週末から一気に12ドル(19%)上昇し、一時は1バレル71.95ドルまで急騰した(終値:69.02ドル)。

 また、米国WTIも、同じく15%上昇し、一時63.38ドルとなった(終値:62.90ドル)。8月以降の原油市場を動かす主な材料は世界経済リスクであり、米中貿易戦争の帰趨であった。そのため上値は重く、ブレントで60ドル前後、WTIで54~55ドルを中心とした相場展開が続いてきたが、今回の供給停止とリスク感の高まりを受け、油価が一気に上昇したのである。

 しかし、9月末までの復旧の見通しが示されたことで市場は落ち着きを取り戻し、9月23日時点でブレントは64ドル台、WTIは58ドル台まで根戻ししている。

供給停止、3つのポイント

 今後を占うためにも、今回の供給停止がなぜ大きなインパクトを持ったのかを理解することが重要であり、それは以下の3つのポイントにまとめることが出来る。

 第1に、実際に供給支障が発生したという点が重要である。6月以降のホルムズ海峡近傍でのタンカー攻撃や、米国ドローン撃墜事件で地政学リスクは著しく高まったものの、石油供給への実際の影響は発生し無かった。今回は、地政学リスクが現実に、直接的に石油供給の支障をもたらした点を市場は見逃さないだろう。

 第2には、サウジアラビアという、世界の石油供給の中心地において、大規模な供給支障が発生した点である。サウジアラビアは世界最大の石油輸出国であり、まさに石油供給の重心である。石油供給を守るため、設備の警備やセキュリティ確保が最優先となっていたが、そのサウジで攻撃を受けて生産が停止した。しかも、その数量が570万B/Dと、かつての石油危機や湾岸戦争・イラク戦争で市場から失われた量と比較しても少なからぬ量であり、まさに大規模供給喪失といえる。

 第3には、やはり攻撃を受け、供給停止したのがサウジアラビアである点が重要である。サウジアラビアこそが、最も重要な供給「余力」を有する産油国で、市場安定化のための「ラストリゾート」ともいえる存在で、そこが襲われた点が大きい。他の産油国での生産が低下した時、サウジアラビアが頼みの綱となるが、サウジアラビアの生産が大規模に失われる場合、誰もそれをリプレースできない存在なのである。
復旧は計画通り進むのか?

 こうした点を考えると、今後の展開は、まず第1には、サウジアラビアが示した復旧計画が予定通り順調に進むかどうか、に左右される。復旧が順調に進み、市場への供給が予定通り9月中には元に戻ることになれば、原油価格は、攻撃前の水準に戻る可能性が高い。

 他方、何らかの理由で、復旧が予定より遅れる場合、その遅れの度合いによっては需給逼迫への懸念や先行きへの警戒から原油価格の変動帯が上振れする可能性も十分にありうる。9月末から10月頃にかけての復旧状況に世界の関係者が注目することになる。

 第2には、今回の事象を受けて、イランを巡る緊張がどのように展開するか、が最大の注目点となる。サウジアラビアの石油供給が実際に狙われ、供給支障が発生したという事態を受けて、今後の展開が次の石油供給支障を再び引き起こす可能性があるのか、に向くことになる。今回の事件で高まった緊張関係が新たな地政学リスクとして、中東の石油供給を不安定化させるかどうかが最大の注目点であり、その展開次第では国際石油市場が一気に不安定化する可能性も決して否定はできない。

 弊所の分析によれば、原油価格が15ドル上昇すると、日本経済の成長率は0.2%下押しされる。日本のような石油輸入国にとって、国際石油市場の安定は、エネルギー安全保障及び経済運営全体にとって極めて大きな意味を持つ。そして、日本のみならず、世界全体にとって、エネルギー安定供給の意味は大きい。今後の中東情勢と原油価格の動向、国際エネルギー市場の安定の先行きを注視していく必要がある。

【私の論評】石油危機+増税でも日本政府にはどうにでもできる夢のような大財源がある(゚д゚)!

日本は国内産油量が殆ど存在しないため、海外からの原油調達に障害が発生すると、直ちにその影響を受けることになります。

2018年度のデータだと、日本の輸入している原油は88.3%が中東からきていますが、サウジアラビアが38.2%と圧倒的なシェアを有しています。次いでアラブ首長国連邦(UAE)の25.4%、カタールの8.0%などが続きますが、ほぼ全量を輸入に頼る原油の、最大調達先で大規模な供給障害が発生しているのです。


現時点では、原油が足りなくなるといった最悪の事態が想定されている訳ではありません。サウジアラビアは国内備蓄の出荷を進める予定であり、輸出障害は一時的との見方もあります。

また、仮に輸出障害が発生しても、石油輸出国機構(OPEC)の他加盟国やロシア、更には米国などの増産対応も可能な状態にあります。更には、日本も含む各国はこうした有事に備えて石油備蓄制度を採用しており、日本の場合だと国家備蓄と民間備蓄を合わせて消費量の230日分を超える備蓄が用意されています。

現状は、各国共に備蓄在庫の放出は必要ないと判断して、監視体制に留めていますが、サウジアラビアの供給障害が深刻化した場合には、国際エネルギー機関(IEA)主導で備蓄在庫の協調放出が行われる余地も残しています。

一方、より身近な影響は原油価格の高騰がガソリンや灯油価格の押し上げ要因につながる可能性があることです。レギュラーガソリン小売価格の全国平均は、昨年10月29日時点の1リットル=160.0円をピークに、直近の今年9月9日時点では143.0円まで値下がりしています。

世界経済の減速で原油調達コストが値下がりする中、秋の行楽シーズンには140円程度まで値下がりする可能性も浮上していましたが、逆に値上がりが警戒される状況になっています。

仮に、原油相場の急騰が一時的なものに留まれば、ガソリン価格には殆ど影響が生じない可能性もあります。ただ、原油高が数週間単位で続いた場合には、150円台まで値上がりが進む可能性があります。

灯油についても、店頭価格の全国平均は昨年10月29日時点の18リットル(ポリタンク1本)=1,797円が、直近の9月9日時点では1,619円まで値下がりし、今年の冬の暖房コストは抑制される見通しでした。しかし、こちらも1,600円台後半から1,700円水準まで値上がりする可能性が浮上しています。

また、ジェット燃料価格の値上がりが進めば航空機チケットのサーチャージ料金、重油価格の値上がりが進めばハウス栽培の野菜価格、更には電力料金などにも値上がり圧力が発生する可能性があります。日本経済に対するマイナスの影響も大きく、株価や円相場など資産価格への影響にも注目する必要があります。


こうした原油高に対する生活防衛策のツールは、必ずしも多くないです。世界経済も容易に対処できる問題ではなく、だからこそ世界は原油価格の高騰に慌てています。安全資産である金価格が瞬間的に急伸したのも、中東の地政学環境の不安定化を警戒しただけではなく、経済活動へのダメージを警戒した結果です。

長期的には、供給サイドに多くの不確実性を抱えた石油に依存しない生活が答えになりますが、脱石油化が簡単に実現しないことには、メリットを相殺するデメリットの存在があります。

例えば、電気自動車は航続可能距離や充電時間、価格などに多くの問題を抱えています。暖房用器具も、現状では石油と電気で同じ性能を確保することは難しいです。千葉県の大規模停電で露呈したように、石油から電気への依存が最適な答えなのかも分からないです。

天然ガスも石油を代替するのは容易ではないです。原油価格が急騰したから、慌てて対策を考えるような問題ではありません。

サウジアラビアの供給トラブルは、完全復旧までに数週間から数か月が見込まれるなど、まだ今後の復旧の目途もたっていない状況にあります。現状では、早急にサウジアラビアの原油供給体制が正常化することを期待する以外に、有効な生活防衛策はないのかもしれないです。

原油価格が15ドル上昇すると、日本経済の成長率は0.2%下押しされることと、早急にサウジアラビアの原油供給体制が正常化することを期待する以外に、有効な生活防衛策がないということであれば、これは政府が何らかの対応をするしかないです。

これについては、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、高橋洋一氏がは、現状金利がマイナスの国債を大量に発行すべきことを主張している部分のみを以下に引用します。
「金利がゼロになるまで無制限に国債を発行し、何も事業をしない」というだけでもいいのだ。 
例えば、10年国債金利は▲0・3%程度だ。これは、100兆円発行すると、年間金利負担なしで、しかも103兆円の収入があることを意味する。マイナス金利というのは、毎年金利を払うのではなく「もらえる」わけで、0.3%の10年分の3兆円を発行者の国は「もらえる」のだ。 
ここで、「100兆円を国庫に入れて使わず、3兆円だけ使う」とすればいい。もちろん、国債を発行すれば若干金利も高くなり、このような「錬金術」が永遠に続けられるわけではないが、少なくとも金利がゼロになるまで、国としてコストゼロ、リスクゼロで財源作りができる。
10月から増税であり、しかもサウジアラビアの件があったわけですから、財務省は大量に国債を発行し、経済政策のための財源とすれば良いのです。

それにしても、本来このようなことは別に高橋氏でなくても、誰もが気づくはずの理屈です。これは、どういうことかといえば、たとえば銀行からお金を借りるときの金利がマイナスになれば、お金を借りれば、利子を払うのではなく、逆にマイナス分の金利でもうかるということです。国債も政府が政府以外からお金を借りる手段であり、同じことです。

そうなれば、普通なら、多くの人は何の躊躇もなく、銀行からお金を借りるのではないでしょうか。もしそうなら、私も相当銀行からお金を借りると思います。個人だけでなく、企業なども大量に借りることになるでしょう。これは、子供でもわかる簡単な理屈です。これを理解するのに、難しい経済理論など必要ありません。

そうして、何も事業をせずとも、元金だけ返せば、マイナス金利分が儲けになるということです。このような夢のような世界があるでしょうか。しかし、これは現実なのです。

このような状況であれば、本来は増税せずとも、大量に国債を発行すれば、政府は大儲けでき、その大儲けで豊富な財源を元手にして、社会福祉でも、国土強靭化でも何でもできるはずです。

この機会を逃さず、政府は大量に国債を発行して、原油価格の高騰等に備えていただきたいものです。何か悪影響がでれば、ただちに対策を打てるだけの財源は国債発行ですぐに確保できるはずです。

10月4日からの臨時国会では、やるべきことが山のようにあります。国際経済の不安定要因への対処として、大型の景気対策が避けられないでしょう。

さらに、昨今の自然災害が頻発する中、インフラの脆弱性が露見しています。現下のマイナス金利環境をインフラ投資のためにもに生かしてほしいものです。

国交省の内規では、インフラ投資のコスト・ベネフィット分析で将来割引率を4%にしています。ところが、これはマイナス金利時代には誤った値です。

市場金利を割引率に用いればほぼすべてのインフラ投資が採択可能になり、一方でマイナス金利環境では、建設国債の発行に制限を課す理由はないです。こうしてマイナス金利環境を活用すれば、いまは積年のインフラ投資不足を一気に挽回できるチャンスです。

同時に、軽減税率導入に伴う不合理は、長い目で見ても日本経済のためにならないです。すっきりと簡単な税制にすべきです。

現在消費増税を止めること(税法改正等)はもう出来ないですが、財政出動や減税等(消費税以外の税金の減税)により消費増税の悪影響を除くことは臨時国会でまだ出来るはずです。こうした点について、野党はしっかりと政府を追及すべきです。それができないようでは、野党に存在価値はないです。

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