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2018年11月20日火曜日

日産ゴーン逮捕で日米英による「フランス切り捨て」加速か…マクロン大統領への報復―【私の論評】ゴーンの逮捕劇は、米国による対中冷戦Ⅱと無関係ではない(゚д゚)!

日産ゴーン逮捕で日米英による「フランス切り捨て」加速か…マクロン大統領への報復

渡邉哲也/経済評論

工場を見学するカルロス・ゴーン(一番手前) 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

カリスマ経営者から容疑者へ――ルノー・日産自動車・三菱自動車工業の会長を兼務するカルロス・ゴーン容疑者と日産代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者の逮捕が株式市場に動揺を与えている。昨日、ルノー株は一時、前日比15%安まで急落し、日産と三菱自も夜間取引で終値の8%安まで下落した。

 周知の通り、ルノーはフランス政府が15%の株式を保有しており、そのルノーが日産に43.4%出資、日産がルノーに15%出資という構図になっている。ゴーン容疑者の逮捕を受けて、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が「フランス政府はルノーの株主として、ルノーと日産の提携関係の安定性を注意深く見守っていく」と述べるなど、国際的に余波が広がっている状況だ。

 そもそも、フランス政府が支援することで経営を立て直したルノーに対して、日産側は連合関係の見直しを求めていたが、フランス側が拒否し、政府がルノーの筆頭株主になったという経緯がある。3社連合の関係見直しが叫ばれるなか、つい先日も、アニエス・パニエルナシェ経済・財務副大臣が「フランス政府が持つルノー株を売る計画はない」と語っており、フランスとしては自国の生産拠点を拡大する意向を示していた。

記者会見に臨む日産西川広人社長

 しかし、急転直下の逮捕劇で事態は大きく動いたといえる。今回の不正発覚は内部通報によるものであり、日産はすぐにプレスリリースを発表した上、西川広人社長が記者会見を開いて経緯を説明した。この流れを見る限り、今回の件は裏で相当な時間をかけて動いていたのだろう。逮捕容疑である金融商品取引法違反のほかに特別背任罪と脱税の疑いも指摘されており、有罪となれば実刑という見方も強い。

 本来、有価証券報告書の虚偽記載は日産という企業全体の責任が問われる問題でもあるが、検察当局との司法取引も取り沙汰されており、企業としての責任は限定的になるとみられる。また、これを機に連合関係の見直しが進む可能性が高く、日産は再び“日の丸資本”となるかもしれない。

 フランスに反発する日米英のメリット

 そもそも、日米は「国家が企業を支援するのはフェアではない」というスタンスだ。それは日米首脳会談やアジア太平洋経済協力(APEC)などでも繰り返し確認されていることであり、たとえば、9月の日米首脳会談後に発表された共同声明には、以下のような文言がある。

9月の日米首脳会談

 「日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく」

 これは主に中国を想定したものではあるが、必ずしも中国のみが対象というわけではなく、フランスのルノーも該当するということだろう。政府が筆頭株主である企業が提携関係にある他国の企業を支配しようという動きは、この文言に該当するのだと思われる。

 仮に日産が日の丸資本に戻れば、欧州連合(EU)離脱の渦中で開発と生産の拠点があるイギリスとしては、「フランスよりこっちにおいで」という話がしやすいし、製造業を復権させたいアメリカにとっても同様にメリットがある。特に、マイク・ペンス副大統領の出身母体であるラストベルトにとって日本企業の誘致は必須であるため、日産と三菱自の生産工場の拡大などは願ったり叶ったりだ。また、フォード・モーターやゼネラルモーターズ(GM)も提携先を探しており、その選択肢としてもいい候補となるだろう。

 つまり、日産のリスタートを機に、日米英としてはウィンウィンの関係を構築できるわけだ。そして、その裏にはフランスへの反発がある。

 米国を敵視するマクロンへの“報復”も?

 かねてマクロン大統領は、中国、ロシアに加えてアメリカを敵対視する動きを見せている。第1次世界大戦終結100年の記念式典では、ドナルド・トランプ大統領らが出席するなか、「ナショナリズムは愛国心への裏切りだ」などと自国の利益優先主義を痛烈に批判した。また、欧州独自の防衛体制と安全保障の一貫として「欧州軍」の創設をうたっているが、これには北大西洋条約機構(NATO)を率いる立場のトランプ大統領が「侮辱的な話だ」と反発するなど、大きな国際問題になっている。

 そのように、アメリカを敵国扱いするマクロン大統領に対する“報復”として、今後は“フランス切り捨て”が始まると言ったら言い過ぎだろうか。

 いずれにせよ、大物経営者の逮捕という事態はショックではあるが、日本としてはチャンスにもなり得るわけだ。ルノーとの関係見直しを踏まえた財政的支援などを含め、適切な対応が待たれる。

(文=渡邉哲也/経済評論家)

【私の論評】ゴーンの逮捕劇は、米国による対中冷戦Ⅱと無関係ではない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事にもでてきた、9月の日米首脳会談後に発表された共同声明を以下に再掲します。
 日米両国は、第三国の非市場志向型の政策や慣行から日米両国の企業と労働者をより良く守るための協力を強化する。したがって我々は、WTO改革、電子商取引の議論を促進するとともに、知的財産の収奪、強制的技術移転、貿易歪曲的な産業補助金、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処するため、日米、また日米欧三極の協力を通じて、緊密に作業していく。
これを簡単にわかりやすくざっくり、解釈すると
“どこの国”とは言わないが、日本、米国、以外の“とある国”が、国家ぐるみで市場経済を無視した強引な手段を使って不公正な行いをしている。それに対抗するために、日本は米国に協力しろ。
ということです。

確かに、どこの国とは言っていませんが、「日米以外の第三国」、「知的財産の収奪」、「国有企業によって 創り出される歪曲化」

こういうキーワードを拾っていくと該当する国は一つしかありません。そう中国です。ただし、「国有企業」ということでは、当然ながらフランスも含まれていると考えるべきです。

また、これと符合するように米Newsweekの記事では米国商務長官が、先に締結された新しい北米自由貿易協定に中国との貿易協定締結を阻止する「毒薬条項(ポイズンピル)」が盛り込まれており、日本や欧州連合(EU:当然フランスも含まれる可能性がある)などとの貿易協定にも取り入れる可能性がある、と述べています。

敢えてツッコミを入れるとすれば、「“可能性がある”も何も既に共同声明に盛り込まれてるではないか」と指摘したいところですが、それはさておき、この「毒薬条項」が日米共同声明に盛り込まれたということは何を意味するのでしょうか。

それは、米国の「対中冷戦Ⅱに本気で取り組むし、国有企業に関しては、フランスにも問題がある、フランス等にも制裁するかもしれないから、日本も協力しろよ」という強い決意に対し、日本政府は「分かりましたー! 米国に全力でついていきます!!」と宣言したということです。つまり、国を挙げて中国との貿易戦争と、国有企業によって創り出される歪曲化及び過剰生産を含む不公正な貿易慣行に対処すると宣言したわけです。

いわゆる主要メディアでは今回の日米首脳会談について、物品貿易協定(TAG)の話に終始していましたが、こちらの方がよほど大きなトピックかもしれません。

日本政府、特に安倍首相は「共通の価値観」を有する同盟国として、米国との友好関係を重視してきました。そして、その共通の価値観とは、いわゆる「民主主義」、「自由」、「平等」、「公正」というような言葉に代表される価値観です。

そのような価値観に従うのであれば、本来中国が不公正な手法で経済を活性化させ、市場を席巻することは容認しがたいということです。特に「自由」といった場合、多くの人は勘違いすることもあるのですが、「自由」には責任が伴うものであり、その責任を中国は果たしていません。

経営学の大家ドラッカーは「自由」について以下のように述べています。
 自由とは楽しいものではない。幸福、安心、平和、進歩のいずれでもない。それは選択の責任である。権利ではなく義務である。真の自由は何かからの自由ではない。それでは特権にすぎない。 
 自由とは、行なうことと行なわないこと、ある方法で行なうことと他の方法で行なうこと、ある信条を持つことと逆の信条を持つことからの選択である。楽しいどころか重荷である。それは、自らの行動と社会の行動にかかわる選択の責任である。
共同声明に用いられらている「自由」とは無論ドラッカーの言う「自由」に近いものです。何もかも手前勝手な中国の振る舞いを許容する言葉ではありません。

今回の宣言で米国は、名指しこそしていませんが、どう考えても中国は市場の公平さを歪ませ、貿易の不均衡を生むとし、それに対抗する措置を日米欧で協力して行っていく方針を打ち出したのです。無論、フランスによる私企業の国有企業化による歪みについても、意識しています。

当然中国はこれに対し、自らの経済政策の正当性と、日米の措置が自由貿易の理想に反するものだと批判するでしょう。フランスも当然そうすることでしょう。

中国のビルの壁にかかれている「社会主義核心価値観」

日本や米国、そして欧州諸国のグローバリズム的な政策により、多くの企業が中国との関わりを昔より大きくしています。

中国産の商品が世界を席巻しているという面だけではなく、中国の人件費の高騰から今では東南アジア諸国などに工場が移りつつあるものの、多くの民間企業が中国国内に工場を留めたまま。そしてその膨大な人口に裏付けされた巨大な市場に多くの企業が前のめりに進出をしているのが現状です。

そのような中で政府はその方針をグローバリズム的政策から反グローバリズム的な政策へと転換すると明言したのです。これは、日本にとっても中国が市場の公平さを歪ませ、貿易の不均衡を生み、明らかに日本にとって不利益であることと、米国は日本の最大の同盟国でもあるからです。

そうして、フランスの国営企業であるルノーと日本の日産は提携関係あることから、日本は非市場志向型の政策の被当事者であるといえるわけです。

民間企業の多くはこれから中国政府、フランス政府と日米の新たな方針の狭間で揺れ動くことになるでしょう。

このような重大な方針転換を日本政府は「外務省HP」において公表したりしているものの、その重要性を知ってか知らずか日本のメディアは、一切報じません。そのためもあるのでしょうか、今回のカルロス・ゴーン氏逮捕劇に関しては、多くの当事者が表面的にしかとらえていないようです。

今回の事件の背後には、ブログ冒頭の記事で渡辺氏が主張するように、マクロン大統領への報復の一環として、日産ゴーン逮捕で日米英による「フランス切り捨て」加速している側面があることをあまり理解していないようです。

安倍総理塗膜論大統領

日米からみれば、仮にも自由主義陣営フランスによる私企業の国有企業化による歪みは、中国の無法な振る舞いを助長するようなものであり、許容できるようなものではないです。

ところが、米国がペンス副大統領の演説にもあるように、冷戦Ⅱに本気で取り組むことをはっきり主張したにもかかわらず、安倍総理の訪中に嬉々として、随行し日中友好にほくそえんでいるような財界人や、それを手配した政治家などが存在しているわけですから、これを理解できないのは、むりからぬところなのかもしれません。

安倍総理としては、訪中に積極的に日本の財界人を随行させたわけではなく、自民党の有力政治家が随行を手配したので、無下にもできず、許容しただけでしょう。共同声明ではっきりと、宣言した事柄に背くことはできないでしょう。要するに、中国とは自己責任で商売しろということです。

ここではっきり断言しておきます。今回のカルロス・ゴーン氏逮捕は、表面上は冷戦Ⅱとは無関係のようにもみえますが、これははっきりと何らかの関係があります。そうして、これからも日本国内でこのようなことは十分にあり得ます。

日中友好でぬか喜びしていると、ある日突然カルロス・ゴーン氏のような目にあう経営者がでてくるかもしれません。

あるいは、日中友好ということで善行をしたつもりが、中国に対して米国の高度技術や、日本の高度技術を提供して、中国に利益をもたらしたという理由で、米国から制裁を受ける企業がでてくるかもしれません。

国際的に活動する企業や人は今後、この点に配慮しなければ、それこそ第二のカルロス・ゴーンになる可能性もあります。

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