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2019年1月29日火曜日

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ―【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ

保釈された孟晩舟

 米司法省は28日、米国の要請でカナダ当局が逮捕した中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)をニューヨークの連邦大陪審が起訴したと発表した。同省は起訴を受け、孟被告の身柄引き渡しをカナダ当局に正式要請すると表明。カナダ公共放送は同日、同国の司法省が米政府から正式要請を受け取ったと報道した。米中両政府は30、31日にワシントンで閣僚級貿易協議を予定しており、米中関係のさらなる緊迫は確実だ。

 起訴状によると孟被告は、米政府による対イラン独自制裁に違反し、イランにある華為の関連会社「スカイコム」を通じてイランと商取引を展開。また、一連の制裁違反を隠蔽(いんぺい)するため、2007年ごろから米金融機関に虚偽の説明をしたとして詐欺などの罪に問われている。スカイコムと中国の華為本社、同社の米関連会社も起訴された。

 孟被告は昨年12月にカナダ当局に逮捕され、現在は保釈されている。米国とカナダの間で取り決められている引き渡し要請の期限は今月30日で、米国の正式要請を受けてカナダの裁判所が可否を判断する。

 司法省はまた、華為が米携帯電話大手「Tモバイル」からスマートフォンの品質試験を行うロボットの技術を盗み出した罪で、ワシントン州シアトルの連邦大陪審が華為の関連会社2社を起訴したと発表した。

 このロボットは「タッピー」と呼ばれ、人間の指を模した装置でスマホ画面の反応などを測定する。華為はTモバイルと業務提携していた14年ごろ、自社の社員を同社に潜入させ、ロボットの写真を無断で撮影したほか、指状の装置部分をひそかに取り外して盗み出そうとした。

 ロス商務長官はこの日、司法省で行われた記者会見で「嘘やいんちき、窃盗は適切な企業の成長戦略ではない」と強く批判。レイ連邦捜査局(FBI)長官も同じ記者会見で「米国の法を破り、司法妨害をし、米国の安全保障を危険にさらす企業をFBIは決して許さない」と強調した。

【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

昨年4月16日、米国は、中国通信大手ZTEに対して、制裁違反を理由として、7年間の米国内販売禁止と米国企業によるソフトウェアとハードウェアの販売を禁じる命令を出しました。

これにより、スマートフォン北米市場でシェア4位だったZTEは事実上の事業停止状態に追い込まれました。現在、通信業界では次世代規格である5Gの規格決定と基地局などインフラ整備のテストと準備が始まっていますが、この処置によりZTEは次世代規格に加われなくなりました。

基本的に、現在のスマートフォンは米国企業が持つ特許なしには製造できません。なぜなら、現在のスマートフォンは、グーグルのアンドロイドもしくはアップルのiOSなしでは成立しないからです。また、通信チップもクアルコムやインテルなどがその中核を占めており、チップ供給なしではスマートフォンを生産することは不可能なのです。

そして、米国は中国の最大手通信機器企業であるファーウェイにもその捜査の手を伸ばしていました。ファーウェイは中国人民軍の工兵部隊出身者が創業者であり、中国政府や中国人民軍とかかわりの深い企業です。



実際に、2012年10月、米連邦議会下院の諜報委員会 は、ファーウェイとZTE社の製品について、中国人民解放軍や中国共産党公安部門と癒着し、スパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラの構築を行っている疑いが強いとする調査結果を発表し、両社の製品を合衆国政府の調達品から排除し、民間企業でも取引の自粛を求める勧告を出していました。

この二社は昨年、米国の制裁対象になりました。実はこれに先立ち、昨年3月7日、米国財務省は、シンガポールに本社を置く半導体企業であるブロードコムによるクワルコム買収に懸念を示す声明を出していました。

ブロードコム、クワルコムともに通信チップの有力企業であり、ブロードコムはもともと米国企業であるが、華僑資本などによる買収により二大本社体制をとっている企業です。財務省はその理由を安全保障上の理由としている。

安全保障を考えた場合、通信は非常に重要な意味を持つ技術であり、これを他国に奪われることは非常に危険といってよいです。だからこそ、今回の処分となったといえます。

また、これは米国の反撃の始まりに過ぎないものでした。米国は中国への経済制裁をかけるにあたり、安全保障と知的財産権を大きな要素として挙げています。現在、米国が覇権国家の地位を維持できるのは、豊富な知的財産権とそれを前提にしたルール作りをできるからです。

当然、これを害するもの、それも不正な方法で害するものが出てくれば、相手が対抗できる存在になる前に潰すのが王道であり、今ならそれが可能です。

中国は他国企業の技術移転と技術を持つ多数の企業の買収により、一気に技術レベルを上げています。そして、このままでは世界の技術的主導権を握られる恐れすらあるわけです。

しかし、現在の中国は物を生産できても、その規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造までは出来ないです。つまり、米国にとって、中国を潰すには今しかないのです。

規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造まで、手がけるようになり、さらにそれを世界中に販売する力を持てば、これは米国でもなかなか潰すことはできません。

そうした中で、ファーウェイの孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)が昨年カナダ当局により逮捕され、さらに本日はニューヨークの連邦大陪審が孟氏を起訴しました。

米国最高裁

起訴を受け、首都ワシントンで30日から始まる米中の閣僚級通商協議は難航しそうです。中国の劉鶴副首相は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表ら米高官と会談します。

米国側は中国に対して技術移転強要の中止や知的財産権の保護を求めています。一方、中国側はトランプ米政権に対して輸入関税の撤廃を求めています。

米国と中国の当局者は孟副会長の起訴を通商協議と切り離す意向を示しています。しかし米司法省が断固とした態度に出た以上、この問題を素通りするのは難しいでしょう。

さらに、米国議会の動きもあります。そもそも、米議会は7年も前から、中国を警戒してきました。米国議会の政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」は2012年2月15日日、公聴会を開き、中国の大手国有企業の対米活動について論議をしました。議員から、透明性を欠いたまま、政府の意向を体現しようとする国有企業の実態が報告され、最新軍事技術の流出の可能性も含め、警戒論が相次ぎました。

米下院情報特別委員会は2012年10月8日、中国の大手通信機器企業の活動が米国の国家安全保障への脅威になるとする調査報告書を発表、これら企業は中国共産党や人民解放軍と密接につながり、対米スパイ工作にまでかかわるなどと指摘しました。

当時問題視された中国企業は、米市場でも製品などが広く流通している「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」。報告書ではまず、両社の中国の党、政府、軍との特別な関係を挙げ、それぞれ社内に共産党委員会が存在し、企業全体が同党の意思で動くとしました。

このようにファーウェイは米国側からは7年も前から超党派でスパイ工作の疑惑を指摘されていたのです。

米国議会

さらに、米議会の超党派議員は今月16日、華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)を含む中国の通信機器関連企業が、米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、米国の半導体やその他の部品の販売を禁止する法案を提出しました。

法案を提出したのは共和党のトム・コットン上院議員とマイク・ギャラハー下院議員のほか、民主党のクリス・バン・ホーレン上院議員とルーベン・ガレゴ下院議員。

同法案は米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反する中国の通信機器企業に対する米国の部品の輸出を大統領が禁止することを要求するもので、ファーウェイとZTEを名指ししています。

コットン議員は声明で「ファーウェイは事実上、中国共産党の情報収集機関だ」と指摘。「ファーウェイのような中国の通信機器メーカーが米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、死刑に値する措置を受ける必要がある」としました。

このように、司法も議会もファーウェイに対しては、かなり厳しい見方をし、断固とした態度に出た以上、トランプ政権はこの問題は素通りできないです。

通商協議はおそらく決裂し、トランプ大統領がさほど間を置かずに怒りのツイートを発することでしょう。実際、昨年5月には共同声明で中国が米農産物やエネルギーの輸入拡大に合意し、知財権の重要性を認めたにもかかわらず、数日後にトランプ大統領はこの枠組みを拒否していました

これでは、30日から始まる米中の閣僚級通商協議は決裂するのが最初から決まっているようなものです。そうして、米国の対中冷戦は次の次元に入っていくのは確実です。

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