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2019年3月1日金曜日

決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・―【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!

決裂すべくして決裂した米朝首脳会談だが・・・

日本は過度の対米依存から脱却して自立すべし

ベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談で、休憩中に散歩するトランプ大統領(右)と
北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長(左、2019年2月28日撮影)

2月27日・28日に米首脳会談が行われましたが、結果はドナルド・トランプ大統領が適切な決断を行ったと評価したいと思います。

首脳会談前には、トランプ大統領が成果を急ぐあまり、北朝鮮に過度の譲歩をするのではないかと多くの関係者が懸念を抱いていました。

しかし、トランプ大統領が金正恩労働党委員長の要求する「経済制裁の完全解除」を拒絶して、会談は破談となりました。

トランプ大統領は、合意に至らなかった理由について、次のように説明していますが、極めてまともな理由づけです。

「北朝鮮は制裁の完全な解除を求めたが、納得できない」

「北朝鮮は寧辺の核施設について非核化措置を打ち出したが、その施設だけでは十分ではない」

「国連との連携、ロシア、中国、その他の国々との関係もある。韓国も日本も非常に重要だ。我々が築いた信頼を壊したくない」

今回の結果を受けて一番失望しているのは金正恩委員長でしょう。彼は最小限の譲歩(寧辺の核施設について非核化措置、ミサイルの発射はしない)を提示し、最大限の成果(制裁の完全な解除)を求めすぎました。

金委員長は、トランプ大統領を甘く見過ぎて、理不尽な「経済制裁の完全解除」を要求したのは愚かな行為であり、世界の舞台で取り返しのつかない恥をかいてしまいました。

私は、今回の首脳会談の決裂は日本にとって最悪の状況が回避されて良かったと思います。一方で、朝鮮半島をめぐる環境は依然として予断を許しません。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、首脳会談開始日である27日に「日本がやるべきことは、徹底した謝罪と賠償をすることだけだ」と非常に無礼な反日的な主張をしています。

また、韓国は朝鮮半島の諸問題の交渉から日本を廃除し、朝鮮半島に反日の南北連邦国家を目指しています。我が国は自らを取り巻く厳しい状況を深刻に認識することが大切です。

そして、過度に米国に依存する姿勢を改め、自らの問題は自らが解決していくという当たり前の独立国家になるために、国を挙げて全力で取り組む必要があります。

トランプ大統領の発言に多くが懸念表明

27日の首脳会談の滑り出しをみて、「非核化交渉ではなく、単なる政治ショーに終わるのではないか」と懸念する人は多かったと思います。

27日会談当初のトランプ大統領と金正恩労働党委員長の発言には危いものを感じました。

トランプ大統領は「1回目の首脳会談は大成功だった。今回も1回目と同等以上に素晴らしいものになることを期待している」と発言し、金委員長は、「誰もが歓迎する素晴らしい結果が得られる自信があるし、そのために最善を尽くす」と述べました。

しかし、トランプ政権内のスタッフを含めて多くの専門家は、「1回目の首脳会談は失敗だった」と認めていて、トランプ大統領の自己評価の高さが際立っていました。

また、金委員長が発言した「誰もが歓迎する素晴らしい結果」など存在しません。 例えば、日本が歓迎する素晴らしい結果とは、北朝鮮が即座に核ミサイル・化学生物兵器及びその関連施設を廃棄し、拉致問題が解決されることです。

金委員長が日本が歓迎するような結果をもたらすわけがありません。

北朝鮮は核ミサイルを放棄しない

まず金委員長が核ミサイルを放棄することはないことを再認識すべきです。

金委員長は、核ミサイルの保有が自らの体制を維持する最も有効な手段であると確信しています。北朝鮮にとって核ミサイルの保有は国家戦略の骨幹であり、それを放棄すると北朝鮮の戦略は崩壊すると思っています。

一部のメディアは、金委員長の年頭の辞を引用し、「北朝鮮は核開発と経済建設の並進路線から経済建設一本の路線に移行した」と報道していますが、それを信じることはできません。

北朝鮮は、あくまでも核開発と経済建設の並進路線を今後も追求していくと認識し、対処すべきなのです。

一方で、トランプ大統領が自国のインテリジェンスを重視しない姿勢は問題だと思います。

トランプ氏は、「北朝鮮は脅威でない」と発言しましたが、米国の情報関係者や第一線指揮官の認識は正反対です。

彼らは、北朝鮮の核は脅威であり、その非核化に疑問を表明しています。

例えば、米国のインテリジェンス・コミュニティを統括するダニエル・コーツ国家情報長官は1月29日、上院の公聴会で次のように指摘しています。

「北朝鮮は、核兵器やその生産能力を完全には放棄しないであろう。北朝鮮の指導者たちは、体制存続のために核兵器が重要だと認識しているからだ。北朝鮮では非核化とは矛盾する活動が観測されている」

また、米インド太平洋軍司令官フィリップ・デイビッドソン海軍大将は2月12日、上院軍事委員会で次のように指摘しています。

「北朝鮮が、すべての核兵器とその製造能力を放棄する可能性は低いと考えている。北朝鮮が現在も米国と国際社会に与えている脅威を警戒し続けなければいけない」

25年間騙し続けてきた北朝鮮

北朝鮮は、核と弾道ミサイルの開発に関して、25年以上にわたって西側諸国を騙し続けてきました。北朝鮮は、核兵器の開発中止を約束しても、その合意をすべて反故にしてきました。

北朝鮮にとって核兵器と弾道ミサイルは、体制を維持していくために不可欠なものと認識しています。

北朝鮮と長年交渉してきた外交官によりますと、「北朝鮮と締結する合意文書に関しては一点の疑義もないように細心の注意を払わなければいけない。そうしないと、核放棄の約束は簡単に反故にされる」そうです。

2018年6月12日に実施された第1回米朝首脳会談の大きな問題点は、首脳会談までに両国で徹底的に詰めるべき核およびミサイル関連施設のリストや非核化のための具体的な工程表などを詰めていなかったことです。

第2回米朝首脳会談も同じ状況になっていました。米朝間においていまだに、「何をもって非核化というか」についてのコンセンサスができていないという驚くべき報道さえあります。

第2回の首脳会談も担当者間での調整不足は明らかでした。今回の会談では、金委員長が「制裁の完全な解除」という愚かな主張をしたために、米国からの譲歩は回避できたとも言えます。

北朝鮮は、今後とも「北朝鮮の非核化ではなく朝鮮半島の非核化」「段階的な非核化」を主張し続けていくことでしょう。

これらは、過去25年間の北朝鮮の常套句であり、米国などが騙されてきた主張です。

今後の米朝交渉では担当者レベルで徹底した議論と合意の形成に努力すべきです。それをしないで、首脳会談に任せるというのは避けるべきでしょう。

変化するトランプ政権の交渉姿勢

27日、記者団に「朝鮮半島の非核化を求める姿勢を後退させるのか」と問われると、トランプ氏は短く「ノー」とだけ答えました。

しかし、トランプ政権の北朝鮮に対する交渉姿勢はどんどん後退していました。かつては、「すべての選択肢はテーブルの上にある」「最大限の圧力」を合言葉にしていました。

北朝鮮に対しては、この「力を背景とした交渉しか効果がない」という経験則から判断して妥当な交渉姿勢でした。

ところが、この交渉姿勢はどんどん後退していきました。

2018年6月12日以前にトランプ政権が使用していた「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID: Complete Verifiable Irreversible Denuclearization)」というキャッチフレーズは死語になりました。

その後にCVIDを放棄し、CVIDの「完全と不可逆的」の部分を削除し、グレードを下げたFFVD(Final Fully Verified Denuclearization)という用語を昨年後半から使い始めました。

FFVDは「最終的かつ十分に検証された非核化」という意味ですが、このFFVDは昨年までは使われていましたが、第2回米朝首脳会談を前にしてあまり使われなくなっていました。

そして、トランプ大統領やマイク・ポンペイオ国務長官は、「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」とまで発言するようになりました。

米国の対北朝鮮対応の変化が結果として、金正恩委員長の「制裁の完全排除」という過剰な要求の原因になったのかもしれません。

北朝鮮への対処法では、韓国の金大中元大統領の太陽政策は有名です。この太陽政策の起源は、旅人の外套を脱がせるのに北風が有効か太陽が有効かをテーマとしたイソップ物語です。

金大中の太陽政策は北朝鮮には通用しませんでした。

トランプ政権の交渉姿勢の後退は、北風から太陽への変化と比喩する人がいますが、太陽政策の失敗は「北朝鮮との交渉においては太陽政策による融和は通用しない」ことを明示しています。

米国の北朝鮮への対応は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」に戻るべきではないでしょうか。

トランプ大統領が主張していた「北朝鮮に対する最大限の圧力」は、2017年12月がピークでした。日本の軍事専門家の一部も「2017年12月、米軍の北朝鮮攻撃」説を唱えていました。

しかし、2018年に入りトランプ大統領は「北朝鮮に対する最大限の圧力という言葉を使いたくない」とまで発言するようになり、第1回の米朝首脳会談後の記者会見では「米韓共同訓練の中止や在韓米軍の撤退」にまで言及しました。

我が国の保守の一部には、「第2回米朝首脳会談で北朝鮮が非核化を確約しなければ、トランプ大統領は躊躇なく北朝鮮を攻撃する」と主張する人がいますが、どうでしょうか。

戦争を開始するためには大統領の強烈な意志と周到な軍事作戦準備が必要です。現在の米国には両方とも欠けています。トランプ大統領には、今後とも冷静な判断を継続してもらいたいと思います。

日本にとって厳しい状況は続く

第1回の米朝首脳会談では、「核を含む大量破壊兵器とミサイル開発に関する完全で正確なリストを提出すること」が米朝間で合意されましたが、北朝鮮はそれを実行しませんでした。

この北朝鮮の頑なな姿勢が今後も変わることはないでしょう。北朝鮮は、核ミサイルの全廃を拒否し、その大部分の温存を追求するでしょう。

トランプ大統領の「米国民が安全であればよい、核実験や弾道ミサイルの発射がなければ、北朝鮮の非核化を急がない」と発言することは、米国の国益を考えればむげに非難できません。まさに、アメリカ・ファーストの考えに則った主張です。

しかし、この米国中心の発想は、日本の国益に真っ向から対立します。

なぜなら、北朝鮮の核兵器や短距離・中距離弾道ミサイルは温存されることになり、日本にとっての脅威はなくなりません。

米国の国益は日本の国益とは違うという当たり前のことを再認識すべきです。トランプ大統領が日本のために特段のことをしてくれると期待する方が甘いのです。


結言

私は、安全保障を専門としていますが、重要なことは「最悪の事態を想定し、それに十分に備え対応すること」だと思っています。

今回の首脳会談の結末は、日本にとって厳しいもので、「北朝鮮の核兵器、弾道ミサイル、化学兵器、生物兵器が残ったままになり、拉致問題も解決しない」状態です。真剣に、この厳しい事態に対処しなければいけません。

また、我が国では2020年に東京オリンピックがあり、サイバー攻撃、テロ攻撃、首都直下地震などの自然災害が予想される複合事態にも備えなければいけません。

一方、トランプ大統領にとって、米朝首脳会談後、米中の貿易戦争(覇権争い)をいかなる形で収めていくのかが最大の課題です。

この件でも米中首脳会談で決着を図ろうとしています。今回の米朝首脳会談による決着の問題点を踏まえた、適切な対応を期待したいと思います。

また、米国では2020年に大統領選挙があり、トランプ大統領の再選が取り沙汰されていますが、彼は現在、米国内において難しい状況にあります。

2018年の中間選挙において民主党が下院の過半数を確保したことにより、予算の決定権を民主党に握られ、下院の全委員会の委員長を民主党が握ることにより、厳しい政権運営を余儀なくされています。

また、トランプ大統領は複数の疑惑を追及されています。2016年大統領選挙を巡るロシアとの共謀疑惑(いわゆるロシアゲート)、その疑惑を捜査するFBIなどに対する大統領の捜査妨害疑惑、その他のスキャンダルです。

この疑惑の捜査結果いかんによっては2020年の大統領選挙における再選が危うくなることもあるでしょう。

いずれにしろ、民主主義国家において選挙は不可避です。その選挙に勝利するために対外政策への対応を誤るケースが過去に多々ありましたから、適切に対応してもらいたいと思います。

【私の論評】今回の正恩の大敗北は、トランプ大統領を見くびりすぎたこと(゚д゚)!

北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は「制裁解除」ありきでトランプ米大統領とのハノイでの2回目の会談に臨んだようです。

しかも十分な実務者協議なしにトランプ氏の決断に全てを委ねる賭けに出たことが裏目に出ました。今回の会談失敗は、金氏にとって最高指導者就任以来の重大危機ともいえそうです。

「非核化の準備ができているのか」。28日の会談の合間、米記者団からこう問われると、金氏は「そのような意思がなければここに来なかった」と答えました。

「具体的措置を取る決心は」との質問には「今、話している」と応じました。これに対し、トランプ氏が下したのは「北朝鮮は準備ができていなかった」として合意を見送る結論でした。

北は、ヨンビョンだけではなく、いろいろな地点に核施設(プルトニウム工場や濃縮ウラニウム工場、加えて核弾頭作りの工場など)を保有しています。米は衛星写真などを通して、かなりの率で把握している模様です。


28日の会談でも、トランプがヨンビョン以外での濃縮ウラニウムのことを少し話しただけで金正恩が腰を抜かすほど驚いたともいわれています。米国はここ数年で北朝鮮内部の状況をかなり把握しているものとみられます。

これに加えて連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)の監視網を背景にした米国の「金融支配」により、独裁者の隠し資産は丸裸にできます。

そうして、北朝鮮や中国など、米国と敵対している国々のほとんどが、汚職で蓄財した個人資産を自国に保管しておくには適さないです。いつ国家が転覆するかわからないためで、米国やその同盟国・親密国の口座に保管をするしかありません。

米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福ではなく、個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締め上げれば簡単に米国にひれ伏すことになります。

中央日報の報道によると、金正恩氏の海外資産は約30億〜50億ドル(約3300億〜5500億円)と言われています。

金正恩の外交力はどの国の誰にもまして素晴らしいものを持っていると考えられてもいたようですが、今回の結果を見て、あまりにも相手方を十分に値踏みできていないことが明らかになったと思います。

今後どうなっていくのでしょうか。金正恩にとっては、前が何も見えなくなったような状態にあるのではないかと思います。正恩は相当の自信をもってハノイにやってきたはずです。65時間も列車に乗ってやってきたのです。しかもその一挙手一投足を北の住民に知らせる格好でした。

今回こそ、ビッグディールに成功して、北の制裁を解き、お前たちにも楽をさせてやるぞとかなり意気込んでハノイにやってきたはずです。金氏は2月27日のトランプ氏との再会直後には「不信と誤解の敵対的な古い慣行が行く道を阻もうとしたが、それらを打ち壊してハノイに来た」と強調しました。金氏が「古い」と切り捨てたのが、北朝鮮による全ての核物質や核兵器、核施設のリスト申告に基づく非核化から進めるという本来、米側が描いていた方式です。

金氏は1月の新年の辞で「米国が一方的に何かを強要しようとし、制裁と圧迫に出るなら新たな道を模索せざるを得なくなる」と警告し、あくまで制裁解除ありきの交渉を米側に迫りました。同時に「人民生活の向上」を第一目標に掲げており、経済を圧迫する制裁は体制の将来を左右しかねない死活問題でした。

一方で、米側が求める実務者協議には応じようとせず、議題の本格協議に入ったときには会談まで1週間を切っていました。金氏はその2日後の2月23日に専用列車で平壌をたたちました。非核化と制裁に関わる重大事項はトップ同士の直談判で決めるとのメッセージでしたた。ところが、トランプ氏は会談本番で首を縦に振らなったのです。

北朝鮮は金氏の今回の長期外遊を政権高官の寄稿文などで「大長征」と持ち上げて国内向けにも大宣伝し、成果に対する住民らの期待をあおりました。28日には、両首脳の初日の会談で「全世界の関心と期待に即して包括的で画期的な結果を導き出すため、意見が交わされた」とメディアで大々的に報じていました。

米側に制裁の撤回を突き付けた新年の辞は最高指導者の公約といえ、金氏にとって制裁問題での譲歩は難しいです。金氏は退路を断つ交渉戦術で自らを窮地に追い込んだ形となりました。

金正恩体制は、恐怖政治で国民の動向を統制し、社会主義の体裁を取り繕っています。しかし実のところ、同国の計画経済はすでに崩壊しており、なし崩し的な資本主義化が進行しています。貧富の差が拡大し、良い意味でも悪い意味でも「自由」の拡大が始まっています。

それを後押ししてきたのは、実は金正恩氏自身でもあるのです。市場に対する統制を緩めたり強めたりを繰り返した父の故金正日総書記と異なり、金正恩氏は放任主義を続けてきました。この間、「トンジュ(金主)」と呼ばれる新興富裕層の存在感はいっそう大きなものとなり、彼らなしでは北朝鮮の経済は成り立たなくなっているのです。

平壌市内のトンジュ向けのカフェで

北朝鮮で民主化が起きるなら、虐げられた民衆が暴政を倒す「革命」として実現する可能性が高いと多く人がしんじてきたようです。政治犯収容所などにおける現在進行形の人権侵害を止めるには、それしか方法がないからです。

しかし、北朝鮮の体制はそれほどやわではありません。民衆が本気で権力に歯向かう兆候を見せたら、当局はすぐさま残忍に弾圧してしまうだろうことを、歴史が証明しています。

その一方、北朝鮮の体制は「利権」の浸食にめっぽう弱いです。北朝鮮社会では、当局の各部門が持つ大小様々な権限が利権化しています。北朝鮮経済は、利権の集合体であると言っても過言ではないほどで、その仕組みは「ワイロ」という名の潤滑油で回っています。軍隊の中にすら、同じような仕組みが存在するほどです。

ただ、国際社会による経済制裁に頭を抑えられているため、その仕組みはなかなか大きく成長することができませんでした。しかし、ここで制裁が緩和されたらどうなるでしょうか。

韓国や中国から流れ込む投資は、北朝鮮の経済の成長を促し、同国の人々が見たこともないような巨大な利権を生み出すでしょう。また、利権の数自体も爆発的に増え、利害関係の錯綜も複雑さを増します。もはや、ひとりの独裁者の権力の下に、すべての利害を従えることなど不可能になるのです。

そして、無数の利害関係を最大公約数的に調整する多数決の仕組み、つまりは民主主義が必要になるわけです。

いずれにしても、北朝鮮経済のなし崩し的な資本主義化の流れは止まらないです。あの国は遅かれ早かれ、上述したような道を辿ることになります。

北朝鮮の経済・社会はかわりつつあるということです。今回の首脳会談の失敗により、制裁がさらに継続されることは明らかになりました。これから、経済がさら先細りしていけば、トンジュたちの中にも不満を持つものが現れることでしょう。

2017年2月にマレーシアで殺害された北朝鮮の金正男(キム・ジョンナム)氏の息子・ハンソル氏ら家族3人をマカオから安全な場所に移したとする団体「千里馬民防衛(チョンリマミンバンウィ)」は1日、同国の金正恩体制を転覆させるため、「臨時政府」の発足をウェブサイトで表明し、北朝鮮を脱出した人々や世界各国に共闘を呼び掛けました。同時に、団体名を「自由朝鮮(チャユチョソン)」に変更しました。

同団体がウェブサイトで発表した「自由朝鮮のための宣言文」の全文は以下のリンクからご覧になれます。



さて、このような動きが活発になれば、金正恩とて安穏とはしておられません。今や、金正恩でさえ、これらトンジュを完璧に自分の意のままにあつかうことはできなくなっています。

今回の首脳会談の失敗は、トランプ大統領にはほとんど悪影響はないでしょうが、金正恩にとっては、かなり悪影響がでる可能性が大きいです。またしばらく粛清の嵐が吹き荒れるかもしれないです。そうなると、ますます制裁がエスカレートするというような悪循環に至る可能性も十分にあります。

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2019年1月29日火曜日

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ―【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

米、ファーウェイ副会長起訴 身柄引き渡し正式要請へ

保釈された孟晩舟

 米司法省は28日、米国の要請でカナダ当局が逮捕した中国通信機器大手「華為技術(ファーウェイ)」の孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)をニューヨークの連邦大陪審が起訴したと発表した。同省は起訴を受け、孟被告の身柄引き渡しをカナダ当局に正式要請すると表明。カナダ公共放送は同日、同国の司法省が米政府から正式要請を受け取ったと報道した。米中両政府は30、31日にワシントンで閣僚級貿易協議を予定しており、米中関係のさらなる緊迫は確実だ。

 起訴状によると孟被告は、米政府による対イラン独自制裁に違反し、イランにある華為の関連会社「スカイコム」を通じてイランと商取引を展開。また、一連の制裁違反を隠蔽(いんぺい)するため、2007年ごろから米金融機関に虚偽の説明をしたとして詐欺などの罪に問われている。スカイコムと中国の華為本社、同社の米関連会社も起訴された。

 孟被告は昨年12月にカナダ当局に逮捕され、現在は保釈されている。米国とカナダの間で取り決められている引き渡し要請の期限は今月30日で、米国の正式要請を受けてカナダの裁判所が可否を判断する。

 司法省はまた、華為が米携帯電話大手「Tモバイル」からスマートフォンの品質試験を行うロボットの技術を盗み出した罪で、ワシントン州シアトルの連邦大陪審が華為の関連会社2社を起訴したと発表した。

 このロボットは「タッピー」と呼ばれ、人間の指を模した装置でスマホ画面の反応などを測定する。華為はTモバイルと業務提携していた14年ごろ、自社の社員を同社に潜入させ、ロボットの写真を無断で撮影したほか、指状の装置部分をひそかに取り外して盗み出そうとした。

 ロス商務長官はこの日、司法省で行われた記者会見で「嘘やいんちき、窃盗は適切な企業の成長戦略ではない」と強く批判。レイ連邦捜査局(FBI)長官も同じ記者会見で「米国の法を破り、司法妨害をし、米国の安全保障を危険にさらす企業をFBIは決して許さない」と強調した。

【私の論評】米中の閣僚級通商協議は決裂するのが確実か?

昨年4月16日、米国は、中国通信大手ZTEに対して、制裁違反を理由として、7年間の米国内販売禁止と米国企業によるソフトウェアとハードウェアの販売を禁じる命令を出しました。

これにより、スマートフォン北米市場でシェア4位だったZTEは事実上の事業停止状態に追い込まれました。現在、通信業界では次世代規格である5Gの規格決定と基地局などインフラ整備のテストと準備が始まっていますが、この処置によりZTEは次世代規格に加われなくなりました。

基本的に、現在のスマートフォンは米国企業が持つ特許なしには製造できません。なぜなら、現在のスマートフォンは、グーグルのアンドロイドもしくはアップルのiOSなしでは成立しないからです。また、通信チップもクアルコムやインテルなどがその中核を占めており、チップ供給なしではスマートフォンを生産することは不可能なのです。

そして、米国は中国の最大手通信機器企業であるファーウェイにもその捜査の手を伸ばしていました。ファーウェイは中国人民軍の工兵部隊出身者が創業者であり、中国政府や中国人民軍とかかわりの深い企業です。



実際に、2012年10月、米連邦議会下院の諜報委員会 は、ファーウェイとZTE社の製品について、中国人民解放軍や中国共産党公安部門と癒着し、スパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラの構築を行っている疑いが強いとする調査結果を発表し、両社の製品を合衆国政府の調達品から排除し、民間企業でも取引の自粛を求める勧告を出していました。

この二社は昨年、米国の制裁対象になりました。実はこれに先立ち、昨年3月7日、米国財務省は、シンガポールに本社を置く半導体企業であるブロードコムによるクワルコム買収に懸念を示す声明を出していました。

ブロードコム、クワルコムともに通信チップの有力企業であり、ブロードコムはもともと米国企業であるが、華僑資本などによる買収により二大本社体制をとっている企業です。財務省はその理由を安全保障上の理由としている。

安全保障を考えた場合、通信は非常に重要な意味を持つ技術であり、これを他国に奪われることは非常に危険といってよいです。だからこそ、今回の処分となったといえます。

また、これは米国の反撃の始まりに過ぎないものでした。米国は中国への経済制裁をかけるにあたり、安全保障と知的財産権を大きな要素として挙げています。現在、米国が覇権国家の地位を維持できるのは、豊富な知的財産権とそれを前提にしたルール作りをできるからです。

当然、これを害するもの、それも不正な方法で害するものが出てくれば、相手が対抗できる存在になる前に潰すのが王道であり、今ならそれが可能です。

中国は他国企業の技術移転と技術を持つ多数の企業の買収により、一気に技術レベルを上げています。そして、このままでは世界の技術的主導権を握られる恐れすらあるわけです。

しかし、現在の中国は物を生産できても、その規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造までは出来ないです。つまり、米国にとって、中国を潰すには今しかないのです。

規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造まで、手がけるようになり、さらにそれを世界中に販売する力を持てば、これは米国でもなかなか潰すことはできません。

そうした中で、ファーウェイの孟晩舟(もう・ばんしゅう)副会長兼最高財務責任者(CFO)が昨年カナダ当局により逮捕され、さらに本日はニューヨークの連邦大陪審が孟氏を起訴しました。

米国最高裁

起訴を受け、首都ワシントンで30日から始まる米中の閣僚級通商協議は難航しそうです。中国の劉鶴副首相は米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表ら米高官と会談します。

米国側は中国に対して技術移転強要の中止や知的財産権の保護を求めています。一方、中国側はトランプ米政権に対して輸入関税の撤廃を求めています。

米国と中国の当局者は孟副会長の起訴を通商協議と切り離す意向を示しています。しかし米司法省が断固とした態度に出た以上、この問題を素通りするのは難しいでしょう。

さらに、米国議会の動きもあります。そもそも、米議会は7年も前から、中国を警戒してきました。米国議会の政策諮問機関の「米中経済安保調査委員会」は2012年2月15日日、公聴会を開き、中国の大手国有企業の対米活動について論議をしました。議員から、透明性を欠いたまま、政府の意向を体現しようとする国有企業の実態が報告され、最新軍事技術の流出の可能性も含め、警戒論が相次ぎました。

米下院情報特別委員会は2012年10月8日、中国の大手通信機器企業の活動が米国の国家安全保障への脅威になるとする調査報告書を発表、これら企業は中国共産党や人民解放軍と密接につながり、対米スパイ工作にまでかかわるなどと指摘しました。

当時問題視された中国企業は、米市場でも製品などが広く流通している「華為技術」と「中興通訊(ZTE)」。報告書ではまず、両社の中国の党、政府、軍との特別な関係を挙げ、それぞれ社内に共産党委員会が存在し、企業全体が同党の意思で動くとしました。

このようにファーウェイは米国側からは7年も前から超党派でスパイ工作の疑惑を指摘されていたのです。

米国議会

さらに、米議会の超党派議員は今月16日、華為技術(ファーウェイ)や中興通訊(ZTE)を含む中国の通信機器関連企業が、米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、米国の半導体やその他の部品の販売を禁止する法案を提出しました。

法案を提出したのは共和党のトム・コットン上院議員とマイク・ギャラハー下院議員のほか、民主党のクリス・バン・ホーレン上院議員とルーベン・ガレゴ下院議員。

同法案は米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反する中国の通信機器企業に対する米国の部品の輸出を大統領が禁止することを要求するもので、ファーウェイとZTEを名指ししています。

コットン議員は声明で「ファーウェイは事実上、中国共産党の情報収集機関だ」と指摘。「ファーウェイのような中国の通信機器メーカーが米国の制裁措置、もしくは輸出制限措置に違反した場合、死刑に値する措置を受ける必要がある」としました。

このように、司法も議会もファーウェイに対しては、かなり厳しい見方をし、断固とした態度に出た以上、トランプ政権はこの問題は素通りできないです。

通商協議はおそらく決裂し、トランプ大統領がさほど間を置かずに怒りのツイートを発することでしょう。実際、昨年5月には共同声明で中国が米農産物やエネルギーの輸入拡大に合意し、知財権の重要性を認めたにもかかわらず、数日後にトランプ大統領はこの枠組みを拒否していました

これでは、30日から始まる米中の閣僚級通商協議は決裂するのが最初から決まっているようなものです。そうして、米国の対中冷戦は次の次元に入っていくのは確実です。

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2018年4月21日土曜日

北朝鮮が核実験場を廃棄、ICBM発射中止 党中央委総会で決定―【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!


20日、平壌で開かれた朝鮮労働党の中央委員会総会で挙手する金正恩党委員長

 北朝鮮は20日、朝鮮労働党の中央委員会総会を開き、21日から核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を中止し、北東部、豊渓里の核実験場を廃棄すると決定した。朝鮮中央通信が21日、報じた。南北首脳会談や米朝首脳会談を前に、核開発を優先してきたこれまでの路線を大きく転換させた形だ。

 中央委総会は、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長出席の下、「経済建設と核戦力建設の並進路線の偉大な勝利を宣言することについて」と題した決定書を満場一致で採択した。

 決定書で、核実験中止は「世界的な核軍縮に向けた重要な過程」で、北朝鮮は「核実験の全面中止のための国際的な努力に合流する」と表明。「わが国に対する核の威嚇がない限り、核兵器を絶対に使用せず、核兵器や核技術を移転しない」と強調した。実験場廃棄は核実験中止の「透明性を担保するため」とした。

6月初旬にも開催が見込まれる米朝会談に向けた条件整備といえるが、核保有国としての立場は取り下げておらず、「完全な非核化」には言及しなかった。完全な核廃棄を求めるトランプ米政権との非核化交渉は難航も予想される。

 金委員長は、朝鮮半島の緊張緩和と平和に向け、「劇的な変化」が現れているとした上で、核やミサイル開発の進展で「核戦力の兵器化の完結が検証された」と強調。「もはやいかなる核実験や中長距離・大陸間弾道ロケット(ミサイル)試射も必要なくなり、核実験場も使命を終えた」と述べた。

 総会では、これまで掲げてきた並進路線は貫徹されたとし、党と国家を挙げて経済建設に総力を集中する新たな路線も決定した。

 韓国大統領府は21日、「非核化に向けた意味のある進展だ」と今回の決定を歓迎するコメントを発表した。

【私の論評】米朝首脳会談は決裂するか、最初から開催されない可能性が高まった(゚д゚)!

金委員長は20日の党中央委員会総会では、以下のような“勝利宣言”もしています。
「国家核戦力建設という歴史的大業を5年に満たず達成したのは、並進路線の偉大な勝利だ」
核開発と経済建設を同時に進める「並進路線」は2013年の中央委総会で打ち出され、金正恩体制の政策の柱をなしてきた。昨年10月の前回会議でも、金委員長は、並進路線の貫徹と国家核戦力建設の完遂を鼓舞していました。

昨年開催された第7回朝鮮労働党大会
金委員長は昨年11月の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射を受け、「国家核戦力の完成」を宣言。今回、持ち出したのは「核戦力兵器化の完結」が検証され、もはや核実験やミサイル試射は必要なくなったとの論理です。

廃棄を決めた豊渓里の核実験場は6回にわたって核実験が繰り返されてきました。昨年9月の実験以降は、余波とみられる地震が複数回観測され、これ以上の実験には耐えられないとの分析がありました。早晩廃棄は不可避だったとみられます。

5月18日に撮影された、北朝鮮・豊渓里にある核実験場の衛星写真。
新たに建設が始まったとみられる建物が写っている

完全履行されれば、貿易額の9割を失うという制裁の中、経済政策への集中も避けられない選択でした。

核実験場の廃棄まで宣言したことで、27日に迫った韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳会談の条件は整えられたといえます。

一方で、核保有国として「核軍縮」に臨む姿勢を示しており、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を迫るトランプ政権との溝が埋まったわけではありません。

金委員長は3月、中国の習近平国家主席との会談で、米韓の「段階的で歩調を合わせた措置」が必要だと主張し、今回も既存の核燃料やミサイルの廃棄には踏み込んでいません。

以上のことを総合的に判断すると、朝鮮労働党の中央委員会総会での核に関する決定は簡単にまとめてしまうと、以下のように解釈できます。
① 核の兵器化が完結した現在、検証はすでに終了している。当面は、もう実験の必要はない。 
② 従って発射実験は不要。核実験場も閉鎖する。
①は事実上の核の実戦配置宣言と受け取ることができます。

現状のマスコミ報道等をみていると、①を見て恐怖とショックに陥るということもなく、
②を見て胸を撫で下ろしているように見えます。

今の日本のメディアには、北朝鮮の声明の背景を理解できる能力がないようです。このようなメディアの報道や識者の意見のみを聴いていると、北朝鮮の現実が見えなくなってしまいます。

皆さんも、マスコミ報道などて、②の部分だけを聴いて、少しでも安心してしまうようであれば、かなりマスコミ報道に毒されていると認識すべきと思います。

米国は、北朝鮮の核放棄方式についてリビア方式以外は許容しないでしょう。リビア方式の非核化とは、大量破壊兵器開発計画を推進していたリビアの独裁者カダフィ大佐が当時、自国の開発計画を破棄(非核化)した後、制裁解除、経済支援などの恩恵を得るという米英らの提案を受け入れた内容です。

非核化が先ず先行し、その後に制裁の解除などを得るというやり方です。金正恩氏が主張する同時進行でも「行動対行動」原則でもありません。

問題は、核開発計画を放棄したカダフィ大佐は最終的には政権の存続を失ってしまったという事実です。カダフィは結局新政府軍に殺害されました。

新政府軍の兵士に拘束された瞬間のカダフィ大佐(左)。リビアTVが放送

金正恩氏はカダフィ大佐の二の舞を演じることを絶対避けたいでしょう。だから、北側は「段階的、同時的な措置」に拘ります。換言すれば、核兵器を保有しない北朝鮮の独裁政権は遅かれ早かれカダフィ政権と同じ運命になるという恐れがあるのです。

しかし、それはトランプ大統領のあずかり知らないことです。米国は北朝鮮が、核兵器を放棄するかわりに、制裁解除、経済支援を受けられるようになっても、カダフィのような運命をたどるというのなら、それは金正恩のせいであって、米国や他の同盟国とは全く関係ないという立場です。実際そうです。

北朝鮮国内で、金正恩がどのような運命をたどるかなど、私達にとっては直接関係ありません。それはあくまで、金正恩の都合であって、我々は、北の核の脅威を取り除き、拉致被害者を取り戻したいだけです。

私の感触では、これでさらに米朝首脳会談は決裂するか、そもそも最初から開催されない可能性が高まったと思います。それに続く日朝会談も同じ運命をたどるかもしれません。

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