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2019年9月22日日曜日

韓国・文政権「通貨スワップ」を日本に哀願 背景にウォンの脆弱さ…専門家「日本なら締結して当然と思っているのかもしれない」―【私の論評】本当は、韓国に対して生 殺 与 奪の権を持つ日本(゚д゚)!


17年8月に「通貨スワップ」に関して発言した麻生財務大臣

戦後最悪ともいわれる日韓関係のなか、文在寅(ムン・ジェイン)政権から日本との「通貨交換(スワップ)協定」の再開を渇望する声が出ている。「反日」に走り、日本製品や日本への旅行の「ボイコット」を放置しているというのに、なぜ厚かましくも日本とのスワップ再開にこだわるのか。専門家は、通貨ウォンの脆弱(ぜいじゃく)さという切迫した事情が背景にあると指摘する。

 韓国のCBSは12日、殷成洙(ウン・ソンス)金融委員長が、日本との通貨スワップ再開を希望する意思を明らかにしたと報じた。金融危機が発生した場合に外貨の流動性が保障されるほか、国家の信頼度が向上の狙いとして、人事聴聞会で「日本と新たに締結したほうがいい」と発言したという。

 通貨スワップ協定は、貿易決済や為替介入などに必要な外貨が不足した場合、外貨と自国通貨を交換し合う仕組み。経済危機の際の外貨不足に対応できる。

 1990年代後半に韓国が国際通貨基金(IMF)に救済されるなどアジア通貨危機が起きたことから、日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓が参加する「チェンマイ・イニシアチブ」を主導。2001年に韓国との通貨スワップを締結した。

 11年に700億ドル(約7兆5000億円)規模まで融通枠を拡大したが12年に李明博(イ・ミョンバク)大統領(当時)が島根県・竹島に上陸するなど日韓関係の悪化を受けて規模が縮小。朴槿恵(パク・クネ)政権当時の15年、日本側の忠告にもかかわらず韓国側が一方的に破棄した。16年にいったん協議再開が決まったが、同年末に釜山(プサン)の日本総領事館前に設置された慰安婦像を韓国が撤去できず、協議は中断した。

 その後も韓国側からは何度も“ラブコール”が送られている。韓国の経済団体「全国経済人連合会(全経連)」の代表団が18年に訪日した際、自民党の二階俊博幹事長らを表敬訪問し、通貨スワップの再開をもちかけた。延世大のキム・ジョンシク教授は、今年3月の中央日報に「日本との通貨スワップを拡大することも検討する必要がある」と述べている。

 韓国が日本との通貨スワップ再開を熱望する理由について、ジャーナリストの須田慎一郎氏は「韓国の場合、ウォン建ての国債を発行してもリスクがあるため、投資家に信用されていない。急激なウォン安に備えてドル資金を確保するためにも通貨スワップ協定を結んでおきたい」と解説する。

 韓国銀行(中央銀行)の発表によれば、8月末時点での外貨準備高は約4014億ドル(約43兆4000億円)ある。リスクに備えているようにもみえるが、須田氏は「いったんウォンの買い支えを行えば外貨準備は急激に減少し、通貨危機ともなれば“瞬間蒸発”する恐れがある」と指摘する。

 日本側にとっては、韓国を助ける要素が強い通貨スワップだが、逆ギレして協定を打ち切った韓国から、勝手に再開をもちかけられている形だ。

 麻生太郎副総理兼財務相は17年8月の時点で、韓国との通貨スワップ協定について「信頼関係で成り立ってますので、約束した話を守られないと貸した金も返ってこない可能性もある」と突き放している。

徴用工裁判の原告

 現状もいうまでもなく、いわゆる「元徴用工」訴訟で国際法を無視した異常判決や軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄など問題山積で、通貨スワップ協定を再び締結できる状態にはほど遠い。

 米国との通貨スワップ協定も終了しており、再契約の見通しは立っていない状態だ。前出の須田氏はこう語った。

 「日本なら締結して当然と厚かましく思っているのかもしれない。通貨スワップは韓国への救済に等しいが、まるで韓国は『デフォルト(債務不履行)になってもいいのか?』と自らを人質に取り、日本の道連れも辞さずと脅しているようだ」

【私の論評】本当は、韓国に対して生 殺 与 奪の権を持つ日本(゚д゚)!

韓国への対応策として、「通貨スワップ」の交渉をしないというのは、かなり効き目のある対応策です。これに限らず、金融に関しては、韓国と日本との間では、信用力に雲泥の差がありますし、日本が韓国の命運を握っているといっても過言ではありません。

上の記事で、隅田氏は「韓国の場合、ウォン建ての国債を発行してもリスクがあるため、投資家に信用されていない。急激なウォン安に備えてドル資金を確保するためにも通貨スワップ協定を結んでおきたい」と解説しています。

これは、どういうことかとえば、そもそも韓国の通貨ウォンは国際通貨(ハードカレンシー)ではないし、韓国の政府系銀行は財務状況も健全ではなく、信用度は低いということです。

ウォンはドルや円とは異なり、国際通貨ではない

そこで、日本は韓国の銀行が発行する『信用状』(=貿易用の小切手)を日本の銀行が保証する枠を与え、間接的に支援しています。もし、こうした支援を打ち切ることになれば、韓国はとんでもないことになります。

貿易をしても、その決済ができないということになります。あくまで、韓国への「優遇措置」を取り消すだけでそうなります。

韓国ウォンは国際通貨ではないので、日米などのハードカレンシー国と為替取引ができなくなれば、そもそも、貿易ができなくなります。

昨年、米国は北朝鮮絡みで韓国の銀行に警告、ドルの直接送金ができなくなりました。日本のメガバンクが金融保証をやめれば、韓国は貿易ができなくなります。

それどころか、日本の大物政治家が一言「韓国向けの債券には注視することが必要だ」と口先介入するだけでも、韓国側はドルの調達ができにくくなるでしょう。

輸出依存度(GDPの40%近くを占める)が高い国だけに、輸出も簡単ではなくなり、貿易赤字は増え、通貨ウォンは売られて、価値が下落することになります。

これが現実となれば、韓国の金融面でのリスクは高まりかねないです。1997年の「アジア通貨危機」の再現も考えられます。このときに、通貨スワップは韓国にとって、強力な助っ人となるでしょうが、日本としては、再度締結することはないでしょう。

韓国に対しては、対韓輸出管理体制の強化のようなモノよりカネのほうが韓国への打撃が大きく、日本国内関係者への誤爆が少ないです。日本政府は韓国に対して、まだ強力な金融のカードを温存していると言って良い状況です。

日韓関係は、韓国が派手大騒ぎをして、いかにも主導権を握っているように見せかけたいのでしょうが、実際には主導権は日本にあるのです。このようなことを文在寅は、知った上でもなお、日本に対していちゃもんをつけ続けているわけです。日本もなめられたものです。

文在寅

しかし、日本政府は100件余りの報復カードを準備したともいわれています。現在は、やっとその1つを、しかもかなり軽いものを出しているに過ぎません。今後、段階的なカードがまだまだ準備されているということです。

 この金融カードは、かなり強力なものですが、それ以外にも日本は韓国に対して、通商農・水産物の輸入制限(農林水産省)、戦略物資の輸出制限(防衛省)、短期就職ビザの制限(法務省)、送金制限(財務省)があります。

他にも、韓国のカントリーリスクを高めるという方法もありました。これは、以前このブログで説明したので、ここでは述べません。

韓国政府の対応によっては、日本政府は、強力な経済報復に出ることが可能です。

いつまで、韓国が反日で騒ぎ回って、何も具体的な行動をしなでいられるか、見ものです。

【関連記事】

文在寅の報復は「日本に影響ナシ」どころか「韓国に大打撃」の可能性―【私の論評】断交前に韓国のカントリーリスクを高める価値は十分ある(゚д゚)!

2017年8月21日月曜日

日本を完全雇用・適度なインフレに導く、極めて効果的な方法があった―【私の論評】数字を見ればわかる、未だ緊縮財政で脆弱なわが国経済(゚д゚)!

いまこそ財政支出の「ダメ押し」が必要だ

 消費増税すべき、だと…?

内閣府が14日に発表した2017年4~6月期GDPは年率4.0%増、プラスは6四半期連続となった。名目GDPの成長率も年率4.6%と好調だった。名目は2四半期ぶりにプラスになった。

これに対して日経新聞は、「4%成長は追い風参考記録だ」というの社説を出した( http://www.nikkei.com/article/DGXKZO20027630W7A810C1EA1000/)。社説では「1.0%未満とされる日本経済の潜在成長率を大きく上回った」としたうえで、「成長率を大きく押し上げたのは、個人消費と設備投資という民間需要の2本柱だ」という。

そして、「2016年度補正予算の執行が本格化し、公共投資が成長に寄与した面も見逃せない」と書いていた。公共投資は主役扱いでない、ということのようだ。最後に、記事は「政府は労働市場や規制緩和などの構造改革の手を緩めてはならない」と締めくくっている。

GDP速報の公表後、筆者のところに、これだけ内需が伸びているのだから、秋の補正では経済対策は不要であり、この流れのなかで消費増税もやらなければいけない、という声が聞こえてきた。そこで、

<GDP速報。これで消費増税(が必要)とかいっている人もいるが。これはZ(財務省)のささやきだろう。ただ16年の2次補正が効いたとしか読めないぞ。要するに緊縮しなければ成長するという当たり前の話だろう。だから秋の補正でも(経済対策をやれ)ということだ>

とツイートした(https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/897284790029754368 なお、書き損じなどを修正)。その際、以下の表も添付した。


改めてGDP速報(http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/gaiyou/pdf/main_1.pdf)をみたら、公共投資が大幅に伸びて、その結果、消費と設備投資への波及効果があったのだと筆者は思った。これが、普通の見方だろう。

ところが、日経新聞は社説のように、公共投資が伸びて、それが波及したことを前に出さないように書いている。おそらく財務省関係からささやかれていた話に従うかのように、記事や社説を書いたのだろう。そこには、「秋の補正での経済対策は不要である」という財務省の意図が滲み出ている。

そうした空気は、政府内にもあるようだ。茂木敏充経済再生担当相は、記者会見で今回のGDP速報について「率直にいい数字だと思っている」との認識を示し、「内需主導の経済成長が続くように万全の対応をしていきたい」と強調した。一方で、「現段階で具体的に新たな経済対策は想定していない」とも語った。

はたして茂木経済再生担当相の認識・方針は正しいのか。それを考えるために、今回のGDP速報について詳しく見てみよう。

 「完全雇用」と早合点してはいけない

需要項目別に見ると、民間消費3.7%、民間住宅6.0%、民間設備投資9.9%等で民間需要5.3%。政府消費1.3%、公共事業21.9%で公的需要5.1%。民間と公的を合わせた国内需要は5.2%だった。一方、輸出▲1.9%、輸入5.6%であったので、外需のマイナスを内需でカバーした形である。

公共事業の伸びが大きかったのは、16年度第2次補正予算に盛り込んだ経済対策が寄与したからだ。今回のGDP速報は、適切な補正予算によって、個人消費が牽引され、内需主導の望ましい経済成長が可能になったことを示している。

総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期比▲0.4%だった。1-3月期には▲0.8%であったので、改善の方向であるが、依然としてデフレから完全に脱却したわけでないことが明らかだ。

これを指摘しても、茂木経済再生担当相や日経新聞は、日本経済の潜在成長率が低いことを主張して、現時点で経済対策は不要であるというだろう。

ちなみに、内閣府は、2017年1-3月期GDP2次速報後のGDPギャップ(潜在GDPと実際のGDPの乖離)を+0.1%としている。今回のGDP速報では、さらにプラス幅が拡大するはずだ。プラスということは、需要超過なので、これで有効需要をさらに増やす経済対策は不要、というロジックである。

日経新聞も、潜在GDP成長率は「1.0%未満」と社説に書いているので、すでに「需要超過」という内閣府と同じ意見を有しているのだろう。というか、このあたりの話になると、マスコミでは自分で検証できないので、役所のいいなりである。

さて、GDPギャップについては、重要な経済データなので、内閣府だけではなく日銀でも算出しており、GDPギャップは実際のGDP(国内総生産)と潜在GDPの差の、潜在GDPに対する比率と定義されている。

問題なのは、潜在GDPである。一般的には、経済の過去のトレンドから見て平均的な水準で、資本や労働力などの生産要素を投入した時に実現可能なGDPとされているが、GDPギャップの大きさについては、前提となるデータや推計方法によって結果が大きく異なるため、相当の幅をもって見る必要がある。このことはGDPを推計している内閣府や日銀でも注意事項として認識されている。

内閣府の数字は0.1%となっているが、この結果をもって、「GDPギャップがないからすでに完全雇用だ」「経済対策は必要ない」と早合点はできない。潜在GDPについて、これまでの実現GDPをベースに算出するが、その結果、これまで完全雇用が実現されていないような水準に引きずられて、完全雇用水準から過小評価になる傾向があるからだ。

つまり、潜在GDPは必ずしも完全雇用を意味していないのだ。その理由を簡単に言えば、まだインフレ率が上がっていない以上、失業率はまだ下がる余地があり、インフレ目標達成とさらなる失業率の低下を進めるために、経済対策の余地はあるということだ。

ただしGDPギャップについては、その変化はおおいに参考になる。内閣府のデータは公表されている(http://www5.cao.go.jp/keizai3/getsurei/getsurei-index.html)ので、それを活用してみよう。それを使って、完全雇用水準からどの程度、過小評価になっているのか考えてみよう。

 構造失業率は2%程度

まず、失業率とインフレ率の関係(フィリップス曲線)を整理しておこう。それを仔細に見ていくと、ちょっと違った姿が見える。失業率とインフレ率は、逆相関になっているが、実は、両者の間に、GDPギャップが介在している。

例えば、GDPギャップがマイナスで大きいと物価が下がり、失業率が大きくなる。逆にGDPギャップがプラスで大きいと物価が上がり、失業率が小さくなる。

下の図1は、2000年以降四半期ベースで見たGDPギャップとインフレ率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸にインフレ率(消費者物価総合対前年比)をとっている。GDPギャップは半年後(2四半期後)のインフレ率とかなりの相関関係がある。


ここで、GDPギャップとインフレ率の関係から、「2%インフレ」にするために必要なGDPギャップ水準を算出してみると、+4.5%程度である。

それを埋め合わせるためには、有効需要25兆円程度が必要になる。1単位の財政出動による需要創出効果を示す財政乗数が、内閣府のいう1.2程度としても、この有効需要を作るための財政出動は20兆円程度である。

また、この財政出動はGDPギャップを縮小させるので、インフレ率の上昇とともに、これ以上は下げられない「構造失業率」まで失業率の低下をもたらすはずだ、

下の図2は2000年以降の、四半期ベースで見たGDPギャップと失業率の関係である。左軸にGDPギャップ率、右軸に失業率をとっている。図をわかりやすくするために、左軸は反転させて表示しているが、GDPギャップはやはり半年後(2四半期後)の失業率とも、かなりの逆相関関係がある。


GDPギャップと失業率の関係式から見た、GDPギャップ+4.5%程度に対応する失業率は2%半ば程度である。筆者は、2016年5月30日付け本コラム(「消費増税延期は断固正しい! そのメリットをどこよりも分かりやすく解説しよう」 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48779)において、これ以上下げられないとされる構造失業率を2%半ばと推計している。

一般的に、構造失業率の推計には、UV分析と潜在GDPによる分析の二通りがある。昨年の本コラムでは前者のUV分析を使ったが、今回は後者である。

いずれにしても、二つの異なる分析によっても、日本の構造失業率が2%半ばと同じになっているのは興味深いことだ。数学の問題では、二つ以上の別の解法により解けば、その命題はより正しいとされるが、経済学でも別の二つの方法で同じ結果であれば、よりもっともらしいといえるだろう。

 デフレ論者は否定するだろうが…

以上の分析を総合すると、構造失業率は2%半ば程度であろうとともに、それに対応するインフレ率はインフレ目標の2%である。その状態は完全雇用なので、内閣府の潜在GDPは4.5%程度過小評価になっている。

であれば、現実のGDPをその「完全雇用水準」まで引き上げるためには、有効需要25兆円、財政出動に換算して20兆円規模となる。逆にいえば、そこまでGDPを高めれば、インフレ目標2%を達成し、同時にこれ以上下げられない構造失業率2%半ばを達成することになる。この意味で、適度なインフレの下で、回避できない失業を除いて完全雇用を実現する合理的な政策となる。

さて、本題に戻ろう。今回のGDP速報結果を分析すれば、公共事業に支えられて、民間需要が誘発された形である。ここで、すでに民間需要に火がついたと勘違いして、経済対策の手を緩めれば、元の木阿弥になるだろう。というのは、現在は実際には完全雇用にほど遠い状態であり、賃金上昇に本格的な火のついていない状態だからだ。

実際、安倍政権下について考えれば2013年度は公共事業が活発で経済も良かった。しかし、2014年度以降公共事業が低調だった。消費増税の影響も相まって、緊縮財政傾向になり、GDP成長率は今一歩だった。

現時点で財政問題は気にする必要はない。これは、2015年12月28日付け本コラム(「日本の借金1000兆円」はやっぱりウソでした~それどころか… http://gendai.ismedia.jp/articles/-/47156)などで繰り返してきたので、読者ならばおわかりだろう。

むしろ国債市場では国債「玉不足」が言われている状況だ。今の低金利時代に、将来投資を行い、同時に、インフレ目標2%、構造失業率2%半ばを達成するのが正しい経済政策である。そうすれば、民間需要に本当の火がつくだろうし、過去20年間以上苦しんだデフレ経済からも本当に脱出できるだろう。

このように書くと、デフレ論者から、「金融政策だけではインフレ目標が達成できなくなったから、また別の手を出してきた」という批判が出てくるだろう。それは違う。上にも書いたが、2014年度以降は消費増税の影響もあり、緊縮財政だったので、それが金融政策の足をひっぱってきた。だから、それを改めよという話をしているのだ。

デフレ論者は消費増税・緊縮財政指向なので、彼らの主張が日本経済のためにならないのは、改めていうまでもない。

【私の論評】数字を見ればわかる、未だ緊縮財政で脆弱なわが国経済(゚д゚)!

確かに、「年率実質4%成長」という数字は、「良い数字」であることは間違いありません。そして、実質成長が6期連続のプラスなのも、それが11年ぶりであることも、事実です。

しかし、それら数字についての「解釈」は、いずれも著しく「不適切」であるとしか言いようがありません。

なぜなら、「いい数字」もある一方で、日本経済が未だにデフレであることを明確に示す「わるい数字」も存在しているからです。

ついては以下、現状の経済状況がいかなるものなのかを、客観的視点から確認してみることにしましょう。

まず、上記の報道における「景気が良い!」という論調の根拠はいずれも「実質成長率」(前期比)に基づくのですが、景気判断は下記のような多様な尺度を参照せねばなりません。
・実質成長率(前期比、対年前年度比)
・名目成長率(前期比、対年前年度比)
・デフレータ変化率(前期比、対年前年度比)
こういった尺度が全て良好になったときはじめて、本格的な成長軌道にのったと判断できるのです。それはまさに、健康診断の時の「血液検査」と同じようなもの。健康な人は全ての尺度が「良好」なのです。不健康な人は、これらの内、複数の尺度が「不健全」なのです。

さて、その視点で、今回公表された各数値を確認しますと以下となっています。
・実質成長率———–前期比年率3.9%——前年比2.1%
・名目成長率———–前期比年率4.6%——前年比1.7%
・デフレータ変化率—–前期比0.2%———-前年比-0.4%
ご覧の様に、成長率は「前期比」に比べれば随分と「景気の良い数字」なのですが(実質、名目共に年率4%前後以上)前期比でみれば、たいしてよい数字とは言えません。

何よりも深刻なのは、デフレータ(物価)がほとんど改善していないという点(前期比の増加率0.2%という数字は到底力強い上昇とは言えません)です。むしろ「前年比」で見れば「マイナス」の状況にあります。

そもそも、実質成長3%と名目成長4%(つまり、デフレータ1%増)を目指している我が国政府の基準を踏まえれば、これら数字は以下の様に判定することもできるでしょう。
・実質成長率     前期比年率3.9%(○)  前年比2.1%(△)
・名目成長率     前期比年率4.6%(○)  前年比1.7%(△)
・デフレータ変化率  前期比0.2%  (×)  前年比-0.4%(×)
これでは、「景気は良好!」とは決して言えません。

つまり、「前期比」の年率「実質」成長率だけを見て、「かなりよい景気だ、だから、もう対策は不要だ!」というマスコミ論調は、まさに「木を見て森を見ず」というか、「森の中の一本の木だけを見て、森どころか隣の木すら見ていない」、極めて愚かな論調に過ぎません。

確かに、今回は、実質成長が「6期連続」で、かつ、それが「11年ぶりだ」なのではありますが、だからといってこれだけで、すぐに、今景気は良いという判断にはなりません。

なぜなら、「実質成長率」は、「デフレが加速してデフレータ(物価)が下落」すれば、上昇するものだからです。つまり、「実質成長率は、デフレの深刻さの尺度」にすらなり得るのです!

実際、下記グラフからも明白なとおり、消費増税以降、デフレータは下降し続け、今やマイナス領域を推移しています(黄色)。


これこそ、「6期連続、実質成長率がプラス」となった理由です。実際、このグラフに示した「名目成長率」(前年比・青線)は、今期こそ、僅かに上昇傾向を見せていますが、ここ最近、ゼロ近辺を推移しているということ、つまり、「成長していない」事を示しています!

日本経済は、本格的な好景気状況からはほど遠い状況にあるのです。

とはいえ、「今期」は、少なくとも「前期比」で見れば、デフレータ、名目成長率、実質成長率が全てプラスという、(他の国なら当たり前の)「正常」な数字も、久々に一部において見られたわけですが、これがなぜもたらされたのかをしっかり認識する必要があります。さもなければ、誤診に基づいて間違った治療を施すヤブ医者のように、日本経済を完全に治癒する(=デフレ完全脱却させる)ことが不可能となるからです。

その一部の理由は、「公共投資は5.1%増-補正予算の効果でプラスに寄与」というものです。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2017-08-13/OUAL466S972801

つまり、ちょうど一年前の昨年夏に調整した、アベノミクスにおける「大型景気対策」の効果がようやく効き始めた、と言うのが、「今期」における一部良好な数字の原因だったのです。この事を踏まえれば、この景気回復基調を確実なものにするためにはやはり、政府の経済対策の当面の継続が必要であることが見えてきます。

ただし、これ以外にも、「個人消費や設備投資など内需が堅調」という点も、事実です。今期は消費も投資も双方、おおよそ6000億円(名目値)ずつ前期から拡大しています。

この消費と投資の回復は一体なぜもたらされたのか──その根拠は、下記のグラフから読み取ることができます。


このグラフは、日本経済を構成する「四主体」の内の三つ、「民間」「政府」「海外」の「貯蓄態度」を示すもの(日銀資金循環統計から)。

この「貯蓄率」という数字は「貯蓄額の対GDP比」ですから、各主体が「ケチ」になって「金づかい」が悪くなって貯金ばかりするようになると「上がり」ます。一方、各主体が「豪気」になって「金づかい」が良く(=荒く)なると、は「下がり」ます。

ご覧のように「民間」の貯蓄率は、この1年ほど「下落」してきています。これは、民間企業が「ケチ」な態度から「豪気」な態度にシフトし始めた事を意味しています。

別の言い方をすると、「内部留保する傾向を弱めてきている」という事を意味します。つまり、民間企業が、儲けたオカネを貯金する(=内部留保する)のでなく、消費や投資に使うようになってきたということを示しているのです。これこそ、「今期の消費と投資の拡大」を意味する統計値です。

では、なぜ、民間が貯蓄率を減らし、投資や消費を拡大し始めたのでしょうか。それは、海外の貯蓄率が下がってきた」という点に求められます。

ご覧の様に、この3年ほど、海外の貯蓄率は下落し続けています。これはつまり、外国人が日本で使うカネの量が、過去三年の間、増えてきた事を意味します。これは要するに、(相対的に)「輸出が増えてきた」ということを反映したもの。実際、ここ最近景気の良い企業の多くが、「輸出企業」だったのです。

http://datazoo.jp/w/%E8%BC%B8%E5%87%BA/32830318

さて、これらのデータを全て踏まえると、我が国のここ最近の経済動向は、次のようなものだ、という「実態」が見えてきます。
①ここ2,3年間、外需が伸びてきた事を受けて、外需関連企業の収益が改善した、 
②その影響を受け、ここにきてようやく、民間企業がトータルとして「内部留保」を縮小させ、消費と投資を拡大しはじめる程に景気が改善してきた。 
③これを受けて、ようやく(物価の力強い上昇は達成されていないものの──)「名目GDP」も上向き始めた──。
つまり、今の「よい数字」を導いた基本的な原因は「外需」だったわけであり、それがここにきてようやく、民間企業の力強い成長に結びついてきた、と言う次第です。

さて、この実情を踏まえれば、確かに、(金融緩和→円安→外需拡大をもたらした)アベノミクスは着実に、一定成功していることが見て取れるのですが、それと同時に、未だ、我が国経済の「成長の兆し」はとても確実で安定的なものだとは言えない、という姿も同時にくっきりと見えてきます。なぜなら我が国の現時点の成長の兆しは、「外需頼み」のものに過ぎず、したがって、極めて不安定なものと言わざるを得ないからです。

つまり今後、例えば朝鮮半島の緊張の高まりを受けて世界経済の成長が鈍化して外需が冷え込んだり、あるいは、円高で輸出企業が厳しくなったり、あるいは、石油価格が高騰したりすれば、この好景気への僅かな兆しも、瞬く間に失われ、完全デフレ状態に舞い戻ってしまうことになる、という事が危惧されるのです。

そうなる前に一刻も早く、デフレを終わらせ、「外需頼み」で回復し始めた日本経済を、力強い確実な成長軌道に乗せるべく、徹底的な景気対策を図る必要があります。

そもそも、我が国政府は、消費増税以降、徹底的な「緊縮」政策を、ここ数年継続させていた、という事実を忘れてはなりません。改めて先に紹介したグラフの「青線」をご覧ください。

これは政府の貯蓄率。ご覧の様に、我が国政府は、貯蓄率を「拡大させ続けて」いるのです。

これはつまり、増税をして緊縮財政にして、カネをマーケットから吸い上げ続けている、という事を示しています。すなわち我が国政府は、外需が改善してきているのを良いことに、自分だけカネをため込んで、マーケットで使わず、景気の足を引っ張り続けている、と言うことです。

この緊縮的な態度を辞めない限り、デフレ脱却なぞ、絶対にあり得ません。

デフレを完全脱却させるために、外需と一緒に、政府もまた、貯蓄率を引き下げ、民間がさらにさらに投資と消費を拡大できる状況を作らねばならないのです。

アベノミクスの成功、すなわち、デフレ完全脱却は、確実に私達に近づいてきています。そのチャンスを手にするか否かを決めるのは、もちろん、政治の判断です。

我が国内閣の、客観的な情報に基づく理性的判断を、心から祈念したいと思います。

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2015年2月18日水曜日

【イスラム国】残虐行為の裏には“処刑の教科書"― 【私の論評】残虐の限りを尽くすのは、何故? 統治の正当性や軍事力が脆弱であるため、余裕がなく切羽詰まっているからこそだ(゚д゚)!

【イスラム国】残虐行為の裏には“処刑の教科書" 


ネット上に公開されている“処刑の教科書”

リビアでキリスト教の一派、コプト教徒のエジプト人21人を一斉に斬首する映像をインターネットに公開したイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」。イスラム過激派に伝わる“テロの教典”に基づいて殺戮を繰り返す彼らだが、その戦略が逆効果になっている可能性がある。エスカレートする残虐行為で、「イスラム諸国の反発を招き、逆に追い詰められつつある」(専門家)というのだ。(夕刊フジ

地中海沿岸とみられる浜辺で一斉に21人ものエジプト人を虐殺したイスラム国。怒りに震えるエジプト軍は16日、このテロ集団の軍事訓練施設や武器庫など複数の拠点を空爆、報復措置をとった。エジプトはこれまで米国が主導する対イスラム国への軍事作戦に参加していなかったが、堪忍袋の緒が切れた格好だ。

「イスラム国」が公開したコプト教徒の処刑映像

イスラム国は13日までに、クルド人部隊の兵士17人を檻(おり)に入れて市中を引き回す映像も公開。兵士が入れられた檻は、ヨルダン軍のパイロットが火あぶりにされたものと酷似しており、英紙デーリー・メールは、「全員を焼殺する可能性がある」などと報じている。

火あぶりに首斬り、引き回し。行為を激化させるイスラム国だが、無軌道にもみえる行動の背景に、イスラム過激派の間で知られる「野蛮の作法」という指南書の存在が指摘されている。

中東情勢に詳しい世界平和研究所の松本太・主任研究員は「2004年にアブ・バクル・ナージと名乗る人物がネット上に投稿したもので、イスラム過激派が目指すべき戦略を提示している。そこでは、イスラム諸国で民族的・宗教的な復讐心や暴力を恒常的に作り出すことの必要性が説かれている」と解説する。

軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「これまでイスラム過激派にシンパシーを抱くムスリムも一部にいたが、イスラム国の登場で、そうしたシンパも離れた。特にムスリム社会でタブー視される火刑への反発が大きい。過激派と一般のムスリムの間には決定的な断絶が生まれ、イスラム国は影響力を急速に失っている」と語る。

エジプトやヨルダンが報復攻撃に出るなど周辺国の包囲網が強化される一方で、最高指導者とされるアブバクル・バグダーディ容疑者をはじめとする組織中枢の結束も危うくなっている。

松本氏は「イスラム国はフセイン政権下のイラク・バアス党に所属していたスンニ派のイラク人が中心となって築き上げた組織。中枢を古参のイラク人幹部が牛耳っていて、サウジアラビアや西アフリカ諸国、チェチェンなどから入ってきた新勢力と緊張関係にある。緊張が高まれば、組織が内部崩壊する可能性もある」と話す。

非道なテロ集団は自壊への道を歩んでいる。

【私の論評】残虐の限りを尽くすのは、何故? 統治の正当性や軍事力が脆弱であるため、余裕がなく切羽詰まっているからこそだ(゚д゚)!

テロ組織「イスラム国」には、「野蛮の作法」という指南書があるそうですが、それにしてもこのような残虐の限りを尽くすには、それなりの理由があると思います。

上の記事でも示されている通り、2つに集約されます。

一つ目は、イスラム諸国で民族的・宗教的な復讐心や暴力を恒常的に作り出すことの必要性からです。

二つ目は、これまでイスラム過激派にシンパシーを抱くムスリムも一部にいたが、イスラム国の登場で、そうしたシンパも離れたからです。

もし、このテロリストグループに余裕があれば、いくら「野蛮の作法」という指南書があったにしても、実際にこれを適用するようなことはしないと思います。

テロ組織「イスラム国」の統治
もともと、残虐の限りを尽くすのは、自分たちの脆弱な統治能力を恐怖によって、補完し安定継続させるためのものです。以下に、現状のテロ組織「イスラム国」の統治方式のあらましを掲載します。


テロ組織「イスラム国」は、イラクとシリアにまたがる地域で勢力を拡大するイスラム教スンニ派の過激派組織。国際テロ組織アルカイダ系組織などから派生し、2013年にシリア内戦に本格参戦した「イラク・レバント・イスラム国」(ISIL)が14年6月に「イスラム国」に改称、イスラム教教義に厳格に従った国家樹立を宣言しました。アルカイダは2月に関係を断絶する声明を発表しています。

イスラム国の最高指導部はバグダディ指導者と2人の元将校で構成され、イラクとシリアに分けて戦闘や支配地域の統治などを総括。最高指導部の下には10人前後からなる評議会を設置し、集団指導体制を敷いています。

評議会メンバーは戦闘や戦闘員の勧誘、広報など部門別の責任者を兼ね「内閣」のような役割を持っています。全てイラク人で、元将校のほか政治・行政の経験を持つフセイン政権与党バース党の元党員もいます。さらに支配地域を区分けして十数人の「知事」を置いています。

フセイン政権の残党がイスラム国と結びついたのは、イラク戦争後に政府軍が解体され、バース党幹部が公職から追放されたためです。フセイン元大統領は自身と同じイスラム教スンニ派を重用していたのですが、新政権への移行は人口の約6割を占めるシーア派が主導。不満を募らせた元政権幹部が、スンニ派のイスラム国に流れる土壌ができたのです。

その一人が、バグダディ指導者の「右腕」だった元将校のハッジ・バクル氏です。バグダディ指導者は10年に前指導者が米軍に殺害された後、イスラム国の前身組織を率いました。この時、バグダディ氏を推挙したのが、軍事・情報部門を率いていたバクル氏で、組織内のライバルを暗殺し、バグダディ指導者が権力基盤を固めるのに貢献しました。

「ナンバー2」の地位を獲得すると、12年に本格化したシリア内戦への介入や、新国家建設計画を主導しました。対立組織にスパイを送り、戦闘員の取り込みを図るなど組織拡大のキーパーソンでした。バクル氏は昨年1月の戦闘で死亡し、現在は側近で同じ元将校のアブ・アリ・アンバリ氏が後を継いでいます。さらにシリアとイラクの管轄を分担するため、別の元将校が指導部に加わっています。

それにしても、このような統治方式を採用したとしても、彼らの統治にも、ある程度正当性があれば、統治能力の脆弱性を補完するにしても、その補完はわずかのものですみますが、あまり正当性がない上に、最近ではかえて反発をかって、正当性がさらに薄れつつあります。だから、さらに残虐性を極めることになっているのです。

統治の正当性の脆弱性に加えて、テロ組織「イスラム国」には、さらに脆弱な面があります。それは、彼らの軍事力です。

そもそも、彼らの有する軍事力は、他の中東地域にみられる民兵に毛が生えたようなものです。民兵は、軍隊ではありません。彼らは、短期間で養成された素人の集まりであり、とても、現代の組織化され、高度に知識化された軍隊には刃が立ちません。しかも、彼らが拠点としているのは、ベトナムのようなジャングルではなく、砂漠です。これでは、早晩限界がくることは、最初からわかりきっています。

それに関しては、評論家の古谷経衡氏が非常にわかりやすい記事を書いていますので、その記事のURLを以下に掲載します。
所謂「イスラム国」の壊滅は案外早いかもしれない
詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この中で、古谷氏は以下のようにテロ組織「イスラム国」の軍事力を看破しています。

古谷経衡氏
テロ組織「イスラム国」は、3個師団相当の地上戦力を持っていることから数の上だけからみれば、決して侮れない存在としています。しかし、イスラム国の戦車は、まともに運用されておらず、単なる宣伝のための戦車になってしまっていること、さらに、保有する100機のミグ戦闘機もただの飾りでこれも運用することができない状況でです。戦闘機や、戦車などは、機体・車輛そのものよりも運用ノウハウが重要であり、彼らにはそのノウハウがないことを示しました。そうして、数の多い民兵でしかない、所謂「イスラム国」の軍事力の実力を示しました。

宣伝のための戦車

その上で、以下のように結論づけています。
 所謂「イスラム国」には、有志連合の空爆や、(万が一の)地上侵攻に対抗する軍事力は無い。アフガニスタンと違って、所謂「イスラム国」の支配地域は遮蔽物や山岳の少ない砂漠地帯なので、いざ西側の地上部隊が包囲すれば総崩れとなり、掃討戦は容易に行われるだろう。 
 所謂「イスラム国」を過大評価し、「近代の終わりを告げた」とか「今後も世界中の若者が続々とイスラム国へ向かう」だのという人もいるが、軍事的な見地からすれば少々お門違いの見識のように思う。 
 所謂「イスラム国」の壊滅は、案外早いかもしれない。
統治の正当性が低く、軍事力も脆弱であるため、テロ組織「イスラム国」の壊滅は、意外と近いと彼ら自身も考えているからこそ、さらに残虐の限りを尽くしているのです。

私は、そう思います。皆さんは、どう思われますか?

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