2020年10月19日月曜日

中国、輸出管理法が成立 12月施行 米の禁輸措置に対抗可能 日本企業にも影響―【私の論評】日本企業を含む先進国の企業は、中国で研究開発はできなくなった(゚д゚)!

 中国、輸出管理法が成立 12月施行 米の禁輸措置に対抗可能 日本企業にも影響



 中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会は17日、ハイテク製品の輸出管理を強化する輸出管理法案を可決、同法が成立した。12月1日に施行する。国家の安全を損ねると判断した海外企業をリスト化し、輸出を禁止できるようにする。中国国営中央テレビが伝えた。

  米国が通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)など中国企業への禁輸措置を強める中、同様の対抗措置が可能となる。中央テレビなどによると、中国からの輸入品を加工して第三国に輸出する企業も制裁対象になるため、実際に中国が米国企業をリストに載せれば、米中対立が激化するだけでなく、中国からモノを輸入する日本企業にも大きな影響を与えかねない。

  成立した輸出管理法では、管理を強化する技術や品目を定めた上で、中国の輸出企業に対し、最終的な顧客企業や使い道に関する証明書の提出を求める。その上で当局が「国家の安全への影響」などの観点から輸出許可を判断する。また、「国家の安全に危害を及ぼす恐れがある」などと判断した具体的な顧客企業を特定し、リスト化。制裁措置として輸出を禁止・制限する。

  米国は昨年5月以降、安全保障や外交利益に反する事業者を記す「エンティティーリスト」にファーウェイを登録。その後も中国企業を記載し続けている。こうした動きを念頭に、同法では「いかなる国や地域でも、輸出規制を乱用して中国の安全と利益を害する場合、対等の措置をとることができる」と明記した。 

 米国への対抗措置では、中国商務省が今年9月、国家の安全や中国企業の利益を損ねる「信頼できない企業」をリスト化し、輸出入や投資などを禁止・制限する新制度を公表、即日施行している。ただ、今回の輸出管理法では、中国の技術や製品を使用・輸入する最終的な顧客企業だけではなく、中国から輸入した原材料などを加工し、部品などの中間財を外国企業に「再輸出」する企業も含まれる。米国の対中制裁に同調した企業なども制裁の対象になるとの懸念も出ており、日本や世界各国の企業に打撃を与える可能性がある。【小倉祥徳】

【私の論評】日本企業を含む先進国の企業は、中国で研究開発はできなくなった(゚д゚)!

輸出管理法に関しては、今回突然できたものではありません。中国は2017年6月に輸出管理法の草案を公表しました。

日本の産業界は、当時施行されれば貿易・投資環境が著しく阻害されると警戒し、安全保障貿易情報センターや日本貿易会、経団連などが、憂慮する意見書を中国政府に提出しました。具体的には、どんな事態が懸念されたのでしょうか。

輸出管理法は安全保障などの観点で輸出を規制するものです。海外に流出した先端技術や製品の不当な兵器転用は許されないとされました。日本を含む各国にも輸出管理制度があり、法整備自体は当然の責務です。

            日本にも輸出管理制度がある

問題は、他国とは異なる憂慮すべき内容を含み、多数の外国企業に広範な規制をかけようとしている点にありました。

例えば、中国当局が指定する規制品目を一定以上使った製品について、日本などから第三国へと輸出する際に中国政府の許可を求めるという「再輸出規制」が盛り込まれていました。

中国から輸入した部材を日本国内で加工し、アジアや欧米に輸出するケースを考えればわかりやすいです。これを中国の許可制にするというのです。

日本の輸出管理制度に屋上屋を架すようなものです。これを口実に中国当局が日本の生産現場への立ち入りを求めたり、その際に技術が中国に流れたりしないかと、産業界が心配するのも無理はありませんでした。


上のポイントなどをみている限りでは、表面上、日本で言う外為法に似てはいますが、その実国外の組織や個人も法的責任追及の対象との規定、或いは国家等に報復措置をとることも可能な条文も記載してあります。「再輸出規制」「みなし輸出規制」については曖昧なままです。更に問題はその運用、「輸出管理リスト」や「規制リスト(エンティティリスト)」の中身を注視する必要あります。

これについては、以下のサイトが参考になります。


加藤勝信官房長官は19日午前の記者会見で、中国政府が安全保障の観点から輸出管理を厳しくする輸出管理法が12月1日から施行されることに関し「現時点で法律に基づき、どのような運用がなされるかは明らかではない。政府としては、日本企業の経済活動に影響を与える可能性を含め、高い関心を持っている」と述べました。 

19日記者会見する加藤官房長官

その上で「同法に基づく国家の安全利益を理由とする規制対象品目の範囲、域外適用の可能性など、今後の運用を注視していく」とも語りました。

以下に中国の輸出管理法施行にともなう留意点を掲載します。

留意点〉
 
(1)施行日が本年 12 月 1 日となったため、対応を急ぐ必要 

○準備期間を十分確保するよう意見書では要請してきたが、結局、公布から 1 か 月半足らずでの施行となったため、対応準備を急ぐ必要。 
○規制対象となる管理品目や、下記規則がそれまでに公表されるはずだが、直前にな る可能性も。 

(2)輸出・投資環境の激変であり、経済活動の大前提が崩れる可能性 

○これまで規制がなく自由に輸出ができていた多くの製品・技術(ワッセナー品目や 独自品目)が輸出許可対象となる点だけでも激変。 
○これに、再輸出規制、みなし輸出規制が加われば、中国を製造加工拠点、研究拠点 とする貿易・投資の大前提が崩れる可能性。

 (3)輸出管理法は、「信頼できないエンティティ・リスト」「輸出禁止・輸出制限技術リ スト」と一体で捉える必要

 ○既に 8~9 月に施行されている「信頼できないエンティティ・リスト」「輸出禁止・ 輸出制限技術リスト」は、根拠法は異なるものの、輸出管理法と密接に絡んでお り、一体ものとして捉える必要(下位規則でそれらも反映される可能性)。 ※ 両リストについては、以下の CISTEC 解説資料を参照。 
◎中国における「信頼できないエンティティ・リスト」、「輸出禁止・輸出制限技術 リスト」の施行について(2020.9.23) https://www.cistec.or.jp/service/uschina/30-20200923.pdf 

(4)踏み絵・股裂き局面に直面するおそれ 
 
○本来、中国輸出管理法草案は、ワッセナー合意に準拠する国際的義務の履行が主な 趣旨だったはずだが、米中緊張を反映して、国家安全法制、報復手段の整備の色彩が色濃くなった。
 ○米国の Entity List や制裁により取引停止した場合、新たに規定された報復条項や 輸出禁止先リスト掲載、「信頼できないエンティティ・リスト」掲載等によって、 制裁を受ける可能性。 

(5)国家安全、競争優位性の観点から対抗的、制裁的、エコノミック・ステイトクラフ ト的運用がなされる懸念

 ○中国と日本、米国間で安全保障上の利害は必ずしも一致していないため、政治的、 軍事的摩擦、緊張が高まれば、日本向け輸出や最終需要者が問題とされる可能性 
○輸出許可申請時に技術開示要求や、審査期間が見通せなくなる可能性 
○外国企業が中国内で共同開発した技術が輸出できなくなる可能性 

(6)国家安全法制が外商投資促進策をオーバライドしつつあり、対中ビジネスの態様に 応じた課題・リスクの抽出と対応の検討が必要

 ○2014 年以降、国家安全法制が次々と整備され、国家安全法、国家情報法、サイバーセ キュリティ法等、外商投資促進策とは相反する規制が打ち出され影響を及ぼすことと なった。

 ○今年に入って、香港国家安全維持法(中国本土にも適用)、「信頼できないエンティテ ィリスト」制度、国家安全法制的条項や域外適用がある中国輸出管理法など、外国企 業を著しく不安、不安定にさせる動きが目立っている。7 月に公表されたデータセキ ュリティ法草案もまた、域外適用による責任追及が強調されており、対中ビジネスに 大きな影響を与え得る。

 ○今回の中国輸出管理法の当初草案が 2017 年 6 月に公開されて以降、日米欧産業界が連 名で総意として、懸念点に関する照会、規制内容の明確化、異質な制度の削除と国際 的制度運用への準拠等を繰り返し訴えてきたが、ほとんど顧みられることがないまま に成立し、施行されようとしている。提起してきた懸念は、いずれも中国の貿易・投 資環境に著しい影響を及ぼすものであり、外商投資促進の方向性と相容れないものも 少なくない。これらの中国側の反応をみると、国家安全法制整備のドライブが外商投 資促進策をオーバーライドしつつあることを感じざるを得ない。

 ○一連の国際情勢や中国側の姿勢等を踏まえて、各企業がそれぞれの対中ビジネスの態 様に応じて、課題とリスクの抽出と、今後の短期的、中長期的対応を検討することが 必要と思われる。


留意点をさらにざっくりと簡潔にまとめておくと、日本企業は11月中に、中国で開発している技術と技術者を日本に戻す必要があります。 12月1日の輸出管理法の施行により、技術者が日本に帰ってこられなくなる可能性が高いです。 もう、日本をはじめとする先進国の企業は、中国では研究開発はできません。

それにしても、中国はさらに米国が、中国に対してドル元交換禁止や、中国所有の米国債の無効化などの措置をさらに実行しやすくしたようです。恐ろしくないのでしょうか。

再び、毛沢東時代の経済に戻るのは怖くないのでしょうか。そうなれば、さすがに共産党幹部も富裕層も、習近平政権を支持しなくなるでしょう。

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2020年10月18日日曜日

ヒラリーの悪夢、再び…? 米国「女性大統領候補」を待ち受ける「イバラの道」―【私の論評】バイデンが大統領になり職務を遂行できなくなくなった場合、ハリスが大統領になる!その時米国はどうなるのか(゚д゚)!

 ヒラリーの悪夢、再び…? 米国「女性大統領候補」を待ち受ける「イバラの道」


全米デビューしたカマラ・ハリス上院議員

 カマラ・ハリス上院議員が、全米デビューした。10月7日夜(日本時間8日午前)のTVディベートだ。民主党副大統領候補のカマラ・ハリスは、初の女性大統領への第一歩を順調に踏み出したのだろうか。 【写真】2020年、実は日本が「世界最高の国ランキング3位」になっていた…!  アメリカの大統領選挙2020はいよいよ大詰め。投票日は11月3日に迫っている。9月29日にはトランプVSバイデンの大統領候補同士のディベート(一回目)が行なわれ、泥仕合に終わった。トランプが不規則発言を連発し、討論にならなかった。

  そのあとトランプのコロナ感染が判明し、入院。でもすぐ退院し、タフなところをアピールしている。ディベートの二回目(10月15日)は中止になった。三回目(10月22日)が行なわれるか、不透明だ。

  カマラ・ハリスVSマイク・ペンスの副大統領候補対決は、前週のトランプVSバイデンよりましだった。少なくとも、討論のかたちになっていた。

  会場は、ユタ州ソルトレーク・シティ、司会は、USAトゥデーのスーザン・ペイジ氏。ハリスはステージの左側、ペンスは右側に離れて着席し、アクリル板が両者を隔てている。

  全部で90分。コロナ/副大統領の役目/経済/気候変動/中国/最高裁/人種と正義/大統領選挙、の8つのテーマについて、双方2分ずつ発言。そのあと討論を交わす、という流れだ。

          副大統領! 私が話してるんですけど

 ハリスは厳しい検察官のイメージがあった。そこで、笑みを絶やさず、ソフトな印象を与える作戦をとった。今回初めて、ハリスが話すところを、じっくり観ることになった有権者も多いだろう。おだやかだが、しっかりした語り口だ。

  ペンスが話の途中に割り込むと、「副大統領! 私が話してるんですけど」と切り返した。  おおむね好印象を与えたようで、CNNの事後調査では、ハリス59%・対・ペンス38%と、優勢の数字が出た。ただしこの調査は、CNNの視聴者に電話をかけたもの。もともと民主党寄りなので、割り引いて考える必要がある。

  カマラ・ハリスは父がジャマイカ、母がインドの出身。アメリカでは黒人になる。法律を学び、カリフォルニア州で検事をつとめて、州司法長官に当選。そのあと上院議員になった。

 2019年、民主党大統領候補の予備選に立候補し、いい線だったが脱落。バイデンに指名されて副大統領候補の座を射止めた。

  ジョー・バイデンは77歳、トランプより高齢だ。かりに当選しても、二期目に出ない可能性が高い。では4年後、民主党の大統領候補は誰か。副大統領のカマラ・ハリスが、最有力なのは間違いない。というわけで今回、副大統領候補のハリスは、将来の大統領として大丈夫かもチェックされている。

  「女性で黒人」は、やはりハンデである。ちょっとどうも、と思う有権者がそれなりにまだいるのだ。ハリス候補はそれを、乗り越えられるか。

  黒人にも、いろいろある。ボストンで、ある黒人の教会を訪れたら、自分たちはカリブ海の出身だと言っていた。ボストンは港なので、カリブ海からその昔、港湾労働者が移住して住み着き、コミュニティをつくって教会に集まっている。自分たちは奴隷でなく、自由民としてこの国に来たのだ、というニュアンスだ。アフリカ系の黒人が聞いたら、コチンと来るかもしれない。 

 ハリス候補はジャマイカの血をひき、アフリカ系黒人でない。インド系でもある。彼女はわれわれの代表だ、と人びとが思うかどうか、微妙なところがある。

ペンスのスピーチは菅官房長官の記者会見のよう

 では、両候補のスピーチの出来ばえはどうだったか。『パワースピーチ入門』を7月に出したばかりで、政治家のスピーチに関心のある私は、耳をそばだてて、ディベートの応酬に注目した。

  まずペンス候補。先週トランプが行儀が悪くて評判を落したのを挽回しようと、冷静にそつなくやりとりを進めた。大きな減点なし、である。でも地味で、面白みに欠ける。なんとなく、菅官房長官の記者会見を思わせる。

  そして、じっくり聞いてみると、司会の質問をはぐらかし、正面から答えないケースが多い。ハリス候補から、民主党の左派っぽい発言を引き出して、立ち位置をぐらつかせようともした。

  ハリス候補は、まだ試運転の段階だ。政策をよく煮詰め、パンチラインをつぎつぎ繰り出すにはほど遠い。先週のバイデン候補の発言と、合わないと思えるところもある(グリーン・ニューディールなど)。外交は苦手なようで、中国は敵か味方かと聞かれたが、答えに説得力がない。

  それでも全米デビューは、うまく行った。注目の集まった大舞台を、落ち着いてやりとげた。ハリス候補は元気で、華がある。頭はよいので、政策はこれから勉強し、スタッフとチームを組めばよいだろう。

11月3日の選挙への影響は

 今回の副大統領候補ディベートは、11月3日の選挙のゆくえにどう影響するか。

  トランプは感染のあと、支持率をなお下げた。バイデンに10ポイント程度、差をつけられている。ふつうなら民主党圧勝だが、まだ予断を許さない。バイデン陣営には熱気がなく、しぶしぶ支持している有権者が多い。コアな支持層を固めているトランプをあなどれない。

  今回のディベートは、バイデン有利の流れを、なお確かにしたろう。ペンスはトランプのマイナスを取り返そうとよくやったが、逆転するには決め手を欠いた。

  ハリス候補は、2024年の女性大統領誕生に向けて、一歩近づいたのか。たしかに一歩は近づいた。選挙戦終盤の注目の討論会で、有権者にまずまずの印象を残したからだ。だが、この先はまだ長い。そして厳しい。 

 つぎの一歩は、大統領選でトランプを破ること。ここで負けては、話にならない。

  そのつぎの一歩は、副大統領として、しっかり仕事をし、有権者によい印象と信頼感を与えること。4年間は長丁場だ。よく勉強し、経験を積み、失敗しても取り返す技量と精神力が必要になる。

ヒラリー・クリントン

 オバマ政権のヒラリーは、だいたい同じ位置にあった。国務長官をつとめ、それなりに仕事もしたが、メイル問題でケチをつけた。権力の中枢にいるうち、清新なイメージが崩れて行った。同じパターンになってはいけない。

  副大統領は、決まった仕事がない。バイデンに、仕事を分けてもらわないといけない。でも、手足となる部下がいない。見せ場をつくり、成果もみせるのは、ハードルが高い。 

 そのつぎの一歩は、2024年に、バイデンが出馬しないと決めるかどうかだ。ハリスは、年だから辞めなさい、とも言えないし、辞めないで、とも言えない。そこをしくじると微妙なことになる。

  さらにつぎの一歩は、民主党の予備選で、ぶっちぎりの好位置につけること。2020年のバイデンは、元副大統領なのに、それなりに苦しんだ。サンダースやウォレンやブティジェッジやハリスなど対立候補の票が割れたので、救われたかたちだ。

  2024年に、民主党が一枚岩になって、ハリスを推すかどうか。民主党の指名を受けられるか、である。

  そして最後の一歩は、共和党の対立候補を破って、大統領に当選すること。気の遠くなるようなタフな戦いが、これからハリスを待っている。

アメリカで大統領になることの難しさ

 アメリカで大統領になることの、何がむずかしいのか。

  大きな政府/小さな政府。リベラル/保守。平等/自由。政治理念の対立軸をめぐり、共和党と民主党が争うのが、アメリカの政治だった。

  ところが、アメリカ社会の分断が進んだ。宗教右派という岩盤支持層を掘り起こせば、当選できることを発見し、共和党を乗っ取ったのが、トランプ大統領だ。社会主義路線でそれに対抗するのが、サンダース候補やウォレン候補のリベラル左派だ。

  リベラル中道や、保守中道が、ふたたび多数派を形成することができるのか。ハリス候補は、リベラル中道に軸足を置く。保守中道やリベラル左派、宗教右派が立ちはだかる。 

 SNSのフェイクニュースやQアノンの陰謀論を信じる有権者も、無視できない人数になっている。古典的なグラスルーツ(草の根)の政党組織は、ガタガタになっている。 

 これを立て直して、アメリカの再生をはかること。新しい理念を示すこと。カマラ・ハリス候補が直面する課題は、とてつもない難題なのである。

橋爪 大三郎(社会学者)

【私の論評】バイデンが大統領になり職務を遂行できなくなくなった場合、ハリスが大統領になる!その時米国はどうなるのか(゚д゚)!

ハリス氏の父はジャマイカ生まれ、母はインド生まれで、先祖を辿ればアフリカと南アジアにルーツを持ちます。ただしバイデン陣営内に異論もあり、すんなりとは決まったわけではありません。

最大の問題は、ハリス氏が公開の場でバイデン氏に人種偏見があるかのような言いがかりを付けながら、明確に反省ないし謝罪の弁を述べていないことであす。「なのになぜ、バイデン氏から和解の手を差し伸べねばならないのか」が不満点としてくすぶっていたののです。

バイデン氏には、黒人一般の感受性や判断力を見下していると疑われかねない失言が多いです。つい最近も「黒人社会―顕著な例外はあるが―と違って中南米系社会は非常に多様性のある社会」と発言して釈明に追われたばかりでした。

ハリス氏は、第1回民主党大統領候補討論会(2019年6月26日)の場で、フロントランナーのバイデン氏に打撃を与えようと、まさにその人種問題で無謀な攻撃を仕掛け、瞬間的に支持率を上げたものの、結果的に自ら墓穴を掘った格好で、早々に大統領レースから脱落しました。

ハリス氏が取り上げたのは、1970~80年代に、リベラル・エリートが推進した「強制バス通学」でした。白人学生の一部を黒人地区の公立学校へ、黒人学生の一部を白人地区の公立学校へ通わせるもので、ハリス氏は自身が「それを経験した少女」だったと切り出しました。

ハリス氏は、バイデン氏がこの政策に消極的で、自分を含む差別される側の痛みに鈍感だったと、怒りに震えるかのような演技を交えて追及し、虚を突かれたバイデン氏は「連邦による強制に反対しただけで、地方レベルの実施には賛成だった」と防戦に追われました。

しかし、この政策は、当時黒人の間でも評判が悪いものでした。朝の道路は混雑します。通学に1時間前後掛かる場合も珍しくなく、選別された生徒は親も含めてその分早く起きねばならなりませせんでした。早朝の1時間の差は大きいです。近所の幼馴染らと離れた学校生活を送ることにもなりました。校内では少数派として疎外感を覚える場面も多かったのてす。

この政策を発想し、推進したいわゆるリベラル・エリートたちは、自らの子弟は、措置の対象外である私立学校に通わせる例も多く、一層庶民の憤懣を買いました。結局、先鋭な対立と大混乱を招いた挙句、廃止に近い修正措置を取る地域が続出することになりました。

討論会の後、ハリス氏はメディアから逆に追及を受けました。「あなたが大統領になったら強制バス通学を復活させるのか」と問われて、「それは手段の一つで大事なのは目的」などと誤魔化していたものの、結局「連邦レベルでやることには反対」と答えざるを得なくなりました。要するにバイデン氏の答と同じです。ハリス氏が以後、この話題に触れることはありませんでした。

感情的にバイデン氏に絡んだことで、「クール・ビューティ」のイメージを自ら壊し、「動じない雰囲気の彼女ならトランプ大統領と堂々とやり合えるのでは」という期待も、大舞台における一世一代の演技がぶざまに破綻したことでしぼみました。

トランプ氏はいち早く、「彼女はそれほどタフじゃない。簡単につぶせる」と豪語していましたが、それを実証した形となりました。

ハリス氏が民主党の大統領候補を目指していた昨年11月の世論調査では黒人からの支持率は5%で、バイデンの43%に遠く及ばない4位にすぎませんでした。

ハリス氏は検察官出身です。訴訟のプロでありながら、最高裁まで争われ全米を揺るがした「強制バス通学」問題の歴史にうといと見られたことで、法律の専門家としての能力にも疑問符が付きました。共和党はこの辺りを徹底的に突くことになるでしょう。

ハリス氏は大統領選に向けて昨年、著書を出しました(Kamara Harris, The Truths We Hold, 2019)。その中で、性的マイノリティー(LGBTQ)の権利拡大を何よりの業績と誇るのですが、外交安保分野についてはほとんど記述がなく、その後の言動に照らしても全くの未知数です。

特に、中国に関して目立った発言がなく、香港、ウイグルに関する数次の制裁法案に何ら積極的に関与していない点は、「今の時期」の副大統領として適性に大きな疑問を感じさせます。

上院議員1期目ながらハリス氏が知名度を上げたのは、何か独自の政策提案によるのではなく、もっぱら人事承認公聴会における追及ぶりが、リベラル・メディアによって盛んに「クールでタフ」と喧伝されたことによります。

しかし中身を見ると、ブレット・カバノー最高裁判事(当時は指名者)に対する根拠が薄い「性暴行疑惑」の追及など、保守派から見れば、思わせ振りで嫌味なものばかりです。超党派で賛辞を贈られるような発言は、これまでのところありません。

副大統領候補の討論会において、ハリスは「米国の多くの製造業が奪われました。貿易戦争で敗れたからです。同盟国のリーダー達は習近平をトランプよりも尊敬すると言っている」と語っていました。 

しかし、コロナ前迄は米国は好景気になっていて、特に雇用はかなり改善していました。同盟国のリーダーで習近平を尊敬すると発言している者は存在せず、 習近平を尊敬すると表明したのは、反米国やアフリカの一部の国の指導者たちです。これでは、経済にもも、世界情勢にも疎いと言われても仕方ありません。

さらにハリスは「中国との貿易戦争について、あの戦争は負けたんですよね?」と マイク・ペンス副大統領と質問し、これにペンス副大統領は「負けた?バイデンは戦うことすらしなかった。中国共産党を何十年も応援してきた人物だ」と語っています。国際情勢に関しては、ハリス氏は誰からの話を聞きかじって理解しているというようにしか見受けられません。

これに関しては、討論会の次の日の北海道新聞に以下のような記事がでていました。


冒頭の記事においては、ハリスが大統領になるのは難しいとしていますが、もしバイデン氏が大統領になったとしたら、副大統領候補のカマラ・ハリス氏は、バイデンは任期中に亡くなる可能性は低いとはいえないし、さらには、認知症などの病気で職務を遂行できなくなる可能性も高いです。その場合、ハリスが大統領になります。

そうなれば、一体どうなるのか、これを不安に感じる人は、共和党支持者はもとより、民主党支持者にも多いのではないかと思います。一方トランプ氏が、何らかの都合で大統領の職務を果たせなかった場合には、ペンス氏が大統領になるわけです。安定性ということでは、ハリス氏を圧倒的に上回っていると思います。これが、最終的に大統領選にどのように影響するのかみものです。

私は、バイデン氏のハリス氏と同じように有名ではなくても良いので、もっと安定感のある人物を副大統領に指名してほしかったです。米国の人口は3億二千万です。日本の3倍以上もあるのですから、探せばもっと安定感のある人物が見つかったと思います。

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2020年10月17日土曜日

【日本の解き方】日中韓首脳会談「元徴用工問題で措置を講じない限り出席しない」菅政権でも緩めない対韓路線 韓国・文政権は“日本叩き”で人気取り…約束守らぬ国と交渉できない―【私の論評】菅総理の韓国に対する、激怒の限界を超えさせたのは文在寅(゚д゚)!

 【日本の解き方】日中韓首脳会談「元徴用工問題で措置を講じない限り出席しない」菅政権でも緩めない対韓路線 韓国・文政権は“日本叩き”で人気取り…約束守らぬ国と交渉できない 

「元徴用工」どうなる日本企業の資産現金化


菅総理

 政府は韓国で開かれる次回の日中韓首脳会談に関し、いわゆる元徴用工問題で受け入れ可能な措置を講じない限り、菅義偉首相は出席しないとの立場を韓国に伝えたという。元徴用工訴訟問題や半導体素材の対韓輸出管理強化などについて、菅政権は今後、どのようなスタンスで臨むのか。

 菅首相は、官房長官時代に数々の韓国案件を手掛けていた。その一例は、慰安婦問題に関する2015年12月の日韓合意だった。これは朴槿恵(パク・クネ)政権の時だったが、文在寅(ムン・ジェイン)政権も、韓国政府の継続性の面から合意を維持しないとおかしい。しかし、18年1月、韓国は国内事情から日韓合意を反故(ほご)にした。

 さらに18年10月には、韓国の最高裁にあたる大法院が新日本製鉄(現日本製鉄)に対し損害賠償を命じた。

 これについて文政権は、賠償の肩代わりなどの法的措置をとらずに大法院の損害賠償命令を放置し、1965年の日韓請求権協定を反故にする暴挙に出てきた。

 2019年1月、日本は日韓請求権協定に基づく韓国との協議を求めたが、韓国はこれに応じなかった。そのため、日本は5月、韓国に対し同協定に基づく仲裁付託を通告し仲裁手続きを進めた。しかし、韓国はこれにも全く応じないで、結果として同協定を無視した状態が継続している。

 これは、明確な国際法違反であり、日韓関係の基本原則をゆがめるもので、ここまでくると、とても韓国とはまともな話し合いはできない。

 日韓関係は、戦後最悪といわれるが、前政権が結んだいくつもの日韓合意を簡単に反故にする文政権と話し合いをする余地はない。仮に合意に達したとしても、後継の政権で反故にされる可能性が高いので、日本としても文政権と交渉する関係を持つことはないだろう。

 以上見てきたように、17年5月に文政権になってから、日韓関係は悪化の一途であるが、それは文政権の仕掛けたことが原因だ。例えば、18年12月、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP-1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射する事件もあった。

 こうした一連の文政権による不誠実な対応を菅首相は、官房長官として対処してきた。当然であるが、毅然(きぜん)とした対応だったので、首相になってからもそれがぶれるとは考えにくい。

 一方、文政権も支持率が低迷しており、打開策は日本叩きか、北朝鮮と関係改善の二択だとの見方もある。

 ただ、北朝鮮としてはトランプ米大統領と直接のパイプができたので、韓国の仲介は「余計なお世話」であり、韓国主導で関係を改善できる環境にはない。ということは、日本叩きをするしか方法がないので、文大統領が菅首相と対話しようとする状況にもない。

 このような事情は菅首相も当然把握しているので、元徴用工や輸出管理の問題で手を緩めることはないと思われる。当分の間、日韓関係は改善の兆しは見えず、冷え込んだままだろう。(内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】菅総理の韓国に対する、激怒の限界を超えさせたのは文在寅(゚д゚)!

上の高橋洋一氏の記事を裏付けるようなことがすでに起こっています。菅総理大臣は10月13日、自民党の役員会で、18日から4日間の日程でベトナムとインドネシアを訪問することを明らかにしました。菅総理が外国を訪問するのは就任後はじめてとなります。 そうして、韓国は素通りです。

菅総理は電話では韓国をはじめとして様々な国々と会談しています。この電話会談の順番が興味深いところがあります。 たとえば米国の前にオーストラリアとしていました。 韓国の後に中国とするという具合でした。

中国の王毅氏は、菅政権ができてすぐに日本に来たかったようですが、来づらい理由もあったたようです。それは、インド太平洋戦略にもとづいた日米豪印の外相会談を日本で開催されたということです。

これは安倍前首相が提唱したもので、日本に敬意を表して日本で実施ことになったのだと考えられます。日本に様々な国の外相が来たので、王毅氏としては、来日しずらくなったようです。

四カ国外相会議の直後に来れば、中国は何を言われるかわかりませんので。そこで距離を置いている間に尖閣に侵入したのです。そういう意味では中国は理解しやすい国です。菅総理のやり方は興味深いです。韓国が元徴用工問題で受け入れ可能な措置をしない限り、日中韓首脳会談には行かないようです。

今年(2020年)は韓国が議長国で12月にも日中韓首脳会議にはするということでしたが、菅総理は、徴用工の件で、資産の差し押さえと売却をやめるということでもなければ、行かないでしょう。 そもそも、菅総理は韓国が日本企業の資産現金化を行う場合には報復を行うと再三言及していることも紹介しています。

海自の航空機に対してのレーダー照射等の一連の問題が発生したときも、菅氏は官房長官をやっていましたから、当然のことながら細部にいたるまで時系列で覚えているでしょう。この件については、未だに韓国側から謝罪はありません。

安倍政権は「嫌韓」一色だったと国内外では見られがちでが、必ずしもそうとはいえないです。 

たとえば、2015年末に締結された慰安婦合意のときがそうでした。 

2014年慰安婦合意の時の安倍総理(当時)

韓国サイドから“極右政治家”と見なされていた安倍首相は、ソウルにまで乗り込み朴槿恵大統領(当時)と日韓首脳会談を行い、慰安婦合意への下交渉を行ったのです。 

日韓首脳会談の成果が結実する形で、2015年12月28日・日韓外相会談で日韓合意が発表される。慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したのです。 

岸田文雄外相(当時) は「慰安婦問題は、当時の軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり日本政府は責任を痛感している」と謝罪の気持ちを表明していました。

慰安婦合意は、韓国のテレビキャスターが速報を見て絶句してしまうほどの衝撃のニュースでした。ある意味で反日に慣れきっていた韓国側も、驚愕するほどの外交成果だったといえます。

もし安倍氏が巷で言われている“極右政治家”であれば慰安婦合意を成し得ようとは思わなかったはずですし、岸田氏のコメントを「良し」とはしなかったはずです。

こうして見てみると、安倍政権は決して嫌韓一辺倒ではなかったということが理解できます。私自身は、安倍晋三氏は現実主義的な人だと思います。

このとき、官房長官だった当時の菅総理は慰安婦の基金に関する折衝を担当していました。菅官房長官(当時)は李丙ギ(イ・ビョンギ)大統領秘書室長(朴槿恵政権時)とともに調整にあたっていましたが、文政権になってこの合意が一方的に覆されたばかりか、李丙ギ氏が文政権下で逮捕されてしまいました。

イ・ビョンギ氏

李氏が文政権で逮捕拘束され、慰安婦合意が紙切れとなった際、菅氏が激怒したという事実は日本の政界では広く知られています。菅氏は李氏が刑務所に送られると、手紙を書くなどして李氏を慰めたといいます。

菅首相は『文藝春秋』の最近のインタビューで「日韓両政府は2015年末、慰安婦問題の『最終的かつ不可逆な解決』で合意した。韓国側が合意を覆す可能性もゼロではなかった。もっとも、これほど早く関係がおかしくなるとは思わなかった」と述べました。慰安婦合意が紙切れになった後、菅氏の韓国を見る目が大きく変わったことは間違いないでしょう。

この一連の出来事で受けた失望感、文政権への不信が菅総理の対韓姿勢に強く反映されているのは当然のことです。そうしてこれらを文政権がすべて反故にしたということに菅総理は心底憤慨していると思います。韓国は、過去の経緯を踏まえて対応しなければ、菅総理もまともに対応できないのは当然のことです。

文在寅

この時に安倍晋三氏とともに、味わった苦い思い出を菅総理は一生忘れないでしょう。総理は、韓国が何らかの形で折れて、向こうのほうからまともな条件を出せば対応はするでしょうが、そうでなければ、表面的には無視し続け韓国との接触は避け、裏では韓国が何かをすれば、すかさず何らかの対抗措置をとることになるでしょう。そうするように仕向けたのは韓国であり、文在寅です。

こうした菅氏を怖いと感じる、日本の官僚、野党、マスコミ関係者もいるでしょうが、そう感じるのにはそれなりの理由があると思います。どれだけ、彼らが韓国のように安倍総理や安倍政権をコケにしてきたか、菅総理はそれを逐一細部まで知っているのです。だから怖いのです。

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2020年10月16日金曜日

モンロー主義を改めて示す、初のIDB米国人総裁選出―【私の論評】中南米にも浸透する中国に対抗する米国(゚д゚)!

 モンロー主義を改めて示す、初のIDB米国人総裁選出

岡崎研究所

クラベルカロネ氏

 創設以来南米出身者が占めてきた米州開発銀行(IDB)総裁の座にトランプ政権の高官(米国家安全保障会議のクラベルカロネ上級部長)が選出された。9月12日に行われたIDB総裁選挙では、加盟国48か国中、域内加盟国23か国を含む30か国がクラベルカロネを支持し、出資比率においても圧勝したといえる。

 当初、「総裁はラテンアメリカ出身者」という不文律を破ったことに対する反発は強く、元コスタリカ大統領など有力候補もいたにもかかわらず、ブラジルやコロンビアが米国支持を表明するなどラテンアメリカ諸国の足並みは乱れ、投票延期論も支持を得られず、結局対立候補も辞退する結果となった。

 トランプ再選の可能性を考慮すれば、この段階で米国と事を構えることは得策でないとの判断もあったのであろう。

 9月17日付の英Economist誌は、このモンロー主義が戻ってきたような事態は弱い分裂した南米の敗北を意味する、と評している。ただ、同記事は、今回のIDB総裁選挙の事例をもってモンロー主義の復活を改めて認識しているようであるが、いささか焦点がぼけているようにも感じられる。トランプには、選挙戦中からモンロー主義的傾向があり、2018年11月の国連総会演説でもそのような立場を明らかにしており、同時期のボルトンの「暴政のトロイカ」演説でも確認されていたことである。

 IDB総裁人事に関する米国の強硬な対応の背景には、ラテンアメリカ地域に対する中国の影響力拡大への懸念がある。昨年3月に中国で開催される予定であったIDB総会が開催1週間前にキャンセルされたが、その理由は中国がベネズエラのグアイド暫定大統領の代表の出席を認めない方針を変えなかったことにあった。

 国際機関の会議の開催地は事務局を通じて調整されるのが通常なので、このような事態は予想できたにもかかわらず中国での開催を進めたモレノ総裁に対し米国が不信感を持ったことは想像に難くない。後任者に中国に宥和的な人物を排除し、IDBを中国に対抗する手段として効果的に活用するには、米国人を総裁に据えるしかないと判断したのであろう。

 冷戦時代には、ラテンアメリカ諸国は西側陣営に組み込まれ、米国が積極的な介入を行った歴史がある。経済的ライバルでもある中国は東西冷戦期のソ連よりはるかに手強いのであるから、米中冷戦時代にモンロー主義が復活するのは自然の成り行きであるともいえよう。従って、仮にバイデンが大統領となったとしても直ちにクラベルカロネが退任することにはならず、加盟国の立場から総裁をコントロールしようとすることになる可能性もあるのではないかと思われる。

 急速に存在感が高まっている中国の経済支援には「債務の罠」的な問題もあり、支援対象国も政治的に偏りが見られるであろう。IDBの新型コロナ対策や経済支援の観点から、より適正で譲許性の高い資金供給を行う役割は、ラテンアメリカ諸国にとっても重要である。新総裁が域内諸国との融和にも努め、そのような自覚をもって取り組むことを期待したい。

【私の論評】中南米にも浸透する中国に対抗する米国(゚д゚)!

米州開発銀行本部(米ワシントン)

米州開発銀行(IDB)は中南米・カリブ(LAC)加盟諸国の経済・社会発展に貢献することを目的として、1959年に設立されました。IDBの活動を補完しLAC加盟諸国の民間企業に対する投融資を通じて域内経済の発展に寄与することを目的とする米州投資公社(IIC)、民間投資を促進するため技術協力や零細・中小企業育成等を行うため設立された多数国間投資基金(MIF)と合わせて、米州開発銀行グループと呼びます。

初のIDB米国人総裁選出の背景にあるのは中国の存在です。中南米は米国の「裏庭」とも呼ばれてきましたが、近年は貿易や投融資で中国が影響力を強めてききました。仮に、中国と関係が近い国から総裁が選ばれれば、IDBでの米国の力が下がる可能性があると警戒したと見られます。

中国はIDBに2009年に加盟しました。IDBは19年3月に中国・成都で年次総会を開く予定をたて、米国が反対して延期したこともあります。

60年に業務を始めたIDBは中南米の経済発展を支援してきました。05年から総裁を務めるコロンビア出身のモレノ氏の任期は9月末で満了します。

ラテンアメリカは地理的に米国に近く、歴史的に米国の影響範囲内にあります。ラテンアメリカでは20世紀半ばに共産主義が横行し、社会主義政権がいくつか誕生しましたが、米国に脅威をもたらすほどにはなりませんでした。

しかし近年ラテンアメリカに広がる中国共産党の浸透は、米国にとって深刻な脅威です。中国共産党は中国の市場、投資、軍事援助に依存する国家の政策を左右し、米国と対立させることも可能です。

     トランプ政権初期のラテン・アメリカ政策は「米国第一」で
     敵・味方を峻別 中露の影響力増大に懸念もあがっていた

中国共産党が建設した運河、港湾、鉄道、通信インフラは、すべてグローバルな覇者となるために将来利用する重要な道具なのです。

 一方 米国の対中南米関与は、トランプ大統領による、ブラジル、メキシコ、コロンビアなど 特定の国との個別外交に留まっています。その結果、中南米諸国の間で分断が引き起こさ れています。

例えばOECDへの加盟支持を巡って、米国がアルゼンチンからブラジルに鞍替 えしたことによって両国の分断を招きました。米州開発銀行(IDB)の総裁選挙でも、中南米諸国の分断が顕著となりました。

先にも掲載したように、 トランプ政権は、これまで中南米諸国出身者が務めてきた同ポストにトランプ政権高官を擁立しまし た。域内28カ国のうち、ブラジルやコロンビアを含む23カ国が米候補を支持した一方で、 アルゼンチンなど5カ国はコロナ禍を理由に総裁選の延期を主張し、分断された中南米 諸国は対抗馬の擁立に至りませんでした。

クラベルカロネ新総裁は、IDBの融資拡大によっ て中国の域内進出の動きを阻むと発言している。 一方で中国は、米国がもたらした中南米諸国の分断化の隙間を埋めつつあります。中国外相 はメキシコ外相と共に7月22日、新型コロナウイルス対応を巡る中国と中南米諸国のビ デオ会議を開催し、アルゼンチン、チリ、コロンビアを含む域内13カ国の外相が参加し ました。

中国政府は、自国で開発されたワクチンを中南米諸国が入手しやすくなるよう10億 ドルの融資を提供する計画を発表し、域内諸国との友好な関係構築を印象付けました。 中国は二国間でも、マスクや医薬品の供与、ワクチン開発協力によって影響力を拡大しています。

ブラジルでは現在、中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)が最終 治験段階で最も進んでおり、サンパウロ州知事によると早ければ12月中に実用化し、 2021年2月末までに6,000万回分の投与が可能とります。

ボルソナーロ大統領の息子エドゥ アルド下院議員は3月、新型コロナウイルスの感染拡大を中国の陰謀だとSNS上で発言。 これに対し副大統領や下院議長が批判した他、現地主要紙も否定的に取り上げるなど、 世論は中国に肯定的な動きを見せています。

米州開発銀行(IDB)新総裁クラベル カロネ氏は来月1日付で総裁(任期5年)に就任することが決まる一方、同氏はすでに1期しか務めな い方針を明らかにしており、異例の形でIDBの運営が行われることになるります。

他方、同氏はこれまでア ジアに生産拠点を構える米企業に対して、米国や中南米、カリブ地域への移転を促す『米州への回帰』 を促すイニシアティブを主張してきたほか、その実現に向けて企業に対する融資を強化する考えをみせ てきましたが、今後はIDBがそうした政策の『旗振り役』となることも予想されます。

 昨年6月G20での米トランプ、ブラジル ボアソナロ両大統領の会談


また、米トランプ政 権がIDB総裁人事に触手を伸ばした背景には、上述のようにIDBを通じて中国が中南米諸国に対す る影響力を強めてきた上、中国とブラジルが加盟する新開発銀行(NDB:いわゆるBRICS銀行)、 多数の中南米諸国が加盟するアジアインフラ投資銀行(AIIB)などを通じて中南米諸国への支援を 活発化させてきたことが影響しています。

こうしたなか、米トランプ政権としてはIDBに資源を集中さ せることで中南米諸国への影響力を強化させることを狙ったとみられる一方、11 月に米国では次期大統 領選が予定されており、仮にトランプ大統領が再選を果たせなかった場合にトランプ大統領との距離が 極めて近しいクラベルカロネ次期総裁の立場が如何なる状況になるかは見通せません。

その意味では、中 南米諸国に対する米国の『トランプ流外交』は一段と強まることで同地での米中対立の激化が予想され る一方、その行く末については大統領選の行方がカギを握る展開が続くでしょう。

これ以上のことは、大統領選挙次第ということで、大統領選挙が終了した段階で、また論じてみようと思います。

ただ一ついえるのは、中国共産党は世界中で浸透工作をしていますが、それには莫大な経費と時間がかかります。このようなことは、永遠には続けられないでしょう。旧ソ連も世界中で存在感を増そうとして、浸透しましたが、米国も似たようなことをしていましたが、結局経済的にも軍事的にもはるかにまさる米国に敗北しました。

それを考えると、やはり米国の最優先順位はやはり、現在では中国でありアジアということに変わりはないでしょう。米国としては、中国の脅威が中南米でこれ以上高まらないように対処するということになるでしょう。積極的に中南米に強力に関与することにはならないでしょう。これは、次に誰が大統領になろうと変わることはないでしょう。

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2020年10月15日木曜日

日本のメディアが絶対に報道しないジョー・バイデン米民主党大統領候補の恐るべき正体(立沢賢一)―【私の論評】日本は次期米大統領が誰になって転んでもただで起きるべきではない(゚д゚)!

日本のメディアが絶対に報道しないジョー・バイデン米民主党大統領候補の恐るべき正体(立沢賢一)

トランプ大統領

アメリカのメディアの大半が「反トランプ派」

本年11月に行われる米国大統領選挙はメデイアの影響を強烈に受けます。

米国において、ワシントンポスト紙やニューヨークタイムズ紙などの新聞や、CNN、NBC、ABC、CBSなどのテレビを中心とするメインストリート・メディアは、全て反トランプ派のメディアです。

トランプ大統領に好意的なメディアはオーストラリアのメディア王・ルパート・マードックが設立したFOXテレビくらいです。

日本を含めた海外のメディアは米国のメインストリーム・メディアの翻訳バージョンのニュースばかりを配信していますから、かなり反トランプの色彩が濃い、偏見に満ち溢れた情報が日本では大量に流れていると言って良いでしょう。

その辺に関しては私が過去に配信したYouTube動画をご視聴頂ければ理解が深まると思います。

因みに、監視機関「メディア・リサーチ・センター(Media Research Center)」のプロジェクトである「ニュースバスターズ(NewsBusters)」は6月1日~7月31日までのABC、CBS、NBCによる夕方のニュースを分析しました。その結果、トランプ大統領に関する報道時間は512分で、バイデン候補の58分の9倍でした。

同センターの分析によりますと、大統領に対する評価的陳述の668件のうち634件つまり95%が否定的で、これに対してバイデン候補は12件のうち4件が否定的でした。

これはトランプ大統領のネガテイブな報道はバイデンの158倍以上という事実をあらわしていますが、流石にやり過ぎ感満載と言うべきでしょう。

トランプ大統領が6/22にオクラホマ州で開催した集会では、トランプ大統領から槍玉にあげられているtiktokのユーザーが、この集会に欠席する前提で、大量のチケットをオンラインで予約し、実際の参加者を減らしていたことがわかっています。

因みに、この集会には100万件以上もの参加申し込みがありましたが、上述のような意図的なキャンセルがあったおかげで、実際には19,000人しか参加しなかったのです。

それ故に、SNSが今年の大統領選における大切な武器の1つであるのは間違いないと言えるのです。

蛇足ですが、日本で皆さんがもし総理大臣だとして、一つのテレビ局以外の全てのメデイアが皆さんの足を引っ張る報道しかしないとしたら、それはフェアなメディアのあり方だと思われますか?

トランプ大統領は億万長者です。どちらかと言えば、米国の中産階級よりも、グローバリストに遥かに近い立場にあるにもかかわらず、何故グローバリストを敵にまわして大統領になり続けるのでしょうか?

トランプ大統領がそんなことをしなくても裕福に暮らしていける身分にあるにも関わらず、人生最期の時間を、本来自分とはあまり関係ない中産階級の人たちの生活を良くするために使おうという意味はどこにあるのでしょうか?

なぜ「初期の認知症」のバイデン氏が民主党の大統領候補になったのか

バイデン候補は77歳。米国のZogbyの調査によれば、米国の有権者の実に55%が「バイデンは初期の認知症である」と感じているようで、若者になるとその比率は60%を超えています。

若くて有能な人材で豊富なはずの米国で1973年から47年間も議員生活をして別段実績を出して来なかった老人政治家が、何故このタイミングで米国大統領候補になったのでしょう?

バイデン候補以外の候補者は社会主義派のバーニー・サンダース、エリザベス・ウォーレン、億万長者のマイケル・ブルムバーグ、LGBTのピート・ブティジェッジ、中道・穏健派ですが無名のエイミー・クロプシャーでした。

しかし、2016年のヒラリークリントンの時のように、別格な候補者は居ませんでした。従いまして、結果的には、消去法で候補者を選ぶことになったようです。

黒人とのハーフであるオバマ元大統領や初の女性大統領候補のヒラリークリントンの様に民主党はこれまで話題性のある候補者を選出していることから、LGBT代表のピート・ブティジェッジを当初は押していました。

ところがまだLGBTの大統領を選出するには時代が早かったようで、ブティジェッジ氏は票を伸ばせず撃沈しました。続くバーニー・サンダースとエリザベス・ウォーレンは社会主義思想が強すぎてやはり同様に無理と判断しました。ウォール街出身のマイケル・ブルムバーグは知名度もあり、個人資産が全米トップ11にランクする富豪ですので、資産を使って大統領になることが期待されましたが、出馬表明が遅すぎたため撤退しました。

結果、残ったのがバイデンなのです。

メディアは当初、バイデン候補をけなしていましたが、急遽、持ち上げまくるようになり、現在に至っています。

日本のメディアが絶対に書かないバイデン候補の正体

バイデン候補は、いわゆる「叩けば埃が出る」ような人だと言われています。

バイデン候補だけでなく、息子のハンター・バイデンも灰色の人物であり、要するにバイデン一家は問題一家だとも言えるのです。

それではどのような灰色の事案がバイデン候補の周りに見られるのかをここで紹介します。

1) バイデン候補の息子ハンターが、国防総省の定める「戦略的競争相手」である中国の企業に、積極的に投資していることが注目されていました。

バイデン候補は、息子ハンターが上海の未公開株投資会社BHRパートナーズの取締役を辞任したと発表しましたが、専門家の分析によれば、ハンターはまだ420万ドルの資産を保有しています。

2) バイデン候補が副大統領時代に、ハンターがウクライナエネルギー企業プリスマ社の取締役として2014-2019年に毎月5万ドルの給与を受けていました。

3) 倫理を監視するNPO団体・国家法律政策センター(National Legal and Policy Center、NLPC)は5月21日、教育省へ文書を提出したと発表しました。

NLPCは、バイデン・センターが過去3年間で「中国から受け取っている7000万ドル以上の資金のうち、2200万ドルは匿名」であり、情報の開示と全面的な調査を要求しています。

バイデン・センターとは、ペンシルベニア大学にバイデン氏が創設した公共政策提言組織です。公的記録によりますと、バイデン・センターは開設以来、中国から多額の寄付を受けていて、2018年の1件の寄付は「匿名」からで、総額1450万ドルでした。

ハンター・バイデン氏

4) バイデン候補自身の複数のセクハラ疑惑

などなどです。

「スキャンダルのデパート」バイデン候補がなぜ大統領候補になるのか?

バイデン候補が大統領選挙で勝利した場合、彼は米中貿易摩擦縮小、TPP導入、学生ローン負担減少、オバマケア継続、再生可能エネルギー需要増加、国境廃止による米国への移民増加、中国の通信機器大手・ファーウェイへの制裁解除、イラン制裁解除、公共投資減少などを推進すると表明しています。

まさに、トランプ大統領が強力に進めた政策の多くが反転することになります。

また、議会の反対もありますから可能かどうかはわかりませんが、バイデン候補は中国への経済制裁を解除する意向も口にしています。

つまり、彼が大統領になれば、グローバリスト(無国籍企業の宝庫であるシリコンバレーや国際金融資本家のるつぼであるウォール街やその他大企業群)は皆、恩恵を受けることができるのです。

ですから、バイデン候補はこうした利益受益者たちから凄まじい金額の選挙資金を受けていると言われています。

その証拠にバイデン候補はテレビCMに2億2000万ドル、デジタル広告に6000万ドルの予算をあてていると表明しています。

一方、トランプは現職の大統領にも拘らず、僅か1億4700万ドルに過ぎません。その額はバイデン候補の半分程度に過ぎないのです。

11月の米国大統領選はグローバリストとナショナリストとの戦争

11月の米国大統領選はバイデン候補の後ろ盾となって国境を無くそうとしているグローバリストVS豊かになれない米国中産階級の支持を得たトランプ大統領をはじめとするナショナリストの戦いです。

そして、万が一、バイデン候補が勝利した暁には、米国はグローバリストの餌食となり米国衰退のスピードが急速になると言われています。

それでもトランプ大統領が勝利する?

バイデン候補はほぼ1年近くのあいだ、全国的な世論調査でトランプ大統領に対してずっとリードしつづけてきました。

ここ最近ではバイデン候補の支持率は50%前後で、トランプ大統領に10ポイントもの差をつけることもありました。

しかし、これはメディアによってかなり歪められた結果であるとも考えられます。

投票日までまだ1カ月以上ありますが、メディアが正しい情報を報道していない中、果たして米国民に正しい決断が出来るのかが問題です。

これに関しては、以前私はYoutubeの動画を配信しましたので是非、ご視聴ください。



現在、多くの方々がバイデン候補の当選を予測しているようですが、私はトランプ大統領が再選すると確信しています。

そうでなければ、グローバリストの餌食となった米国民の未来は間違いなく暗黒化するからです。

たとえ多くのメディアに大多数の米国民が騙されているとしても、彼らは本能的にバイデン候補を大統領にしてはいけないと分かっている、と私は信じています。

日本のメディアによって情報統制されている皆さんには嘘のように聴こえるかも知れませんが、トランプ大統領は米国民にとって一筋の希望の光なのです。

立沢賢一(たつざわ・けんいち)

元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。

Youtube https://www.youtube.com/channel/UCgflC7hIggSJnEZH4FMTxGQ/

投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic

【私の論評】日本は次期米大統領が誰になっても、転んでもただで起きるべきではない(゚д゚)!

米国大統領選において日本のメディアのほとんどは、常に民主党のジョー・バイデンのリードが伝えられています。

米国のテレビ局は、バイデン派とトランプ派にはっきりと分かれて報道し、中立という立場はないようです。

冒頭の記事にもあり、私がこのブログも以前から掲載してきたように、米国のメディアのうち大手新聞は全部がリベラル派で、バイデン推しです。大手テレビ局は、foxTVのみが、保守派であとは全部がリベラル派です。

日本のテレビ局のすべてはリベラル派で、新聞は産経新聞だけが保守派であとはすべてがリベラル派です。そのためもあってか、日本のメディアを観ていると、トランプ大統領がいかにも悪辣な人物に思えてくる偏向報道ぶりです。

米国のテレビ局のように露骨ではないですが、バイデンに好意的です。

さて、問題の対中政策ですが、多くの識者が、たとえバイデンが勝ち民主党政権になっても、対中強硬策は変わらないと予想しています。

確かに、中国はアメリカの覇権に挑戦しているわけなので、それを跳ね返すのは超党派の方針のはずです。しかし、本当にそうでしょうか?

バイデンは中国が知的財産を盗んでいることは認めていますが、現在の対中関税は撤廃し、WHOにも復帰すると言っています。それでいて、どうやって中国の攻勢を止めるのか具体策は述べません。この点では、トランプ氏とは対照的です。

「中国は態度を改めなければならない」等とは言うのですが、一体どうやって改めさせるのか、よくわかりません。本人も自分で何を言っているのか、本当にわかっているのか定かでない印象は、SNSの動画を見ても十分わかります。

これではトランプ嫌いやバイデン推しの人たちも心配になるわけです。確かに米国においては中国の脅威については、超党派で理解されているようではあります。

しかし、ここで問題なのは、その脅威にどう対処するかです。ひとつの考え方が、中国に関与しながらも望ましい方向へ誘導することです。

一方、トランプ政権が推進しているのが、デカップリグです。つまり、中国と関わらないようにするという政策です。

最近、ポンペイオ国務長官が『クリーンネットワーク』という構想を発表しました。通信ネットワークから中国企業を徹底的に排除するという政策です。

ファーウェイなど中国企業による情報の抜き取りリスクを考えれば当然の措置ですが、まさにデカップリング政策です。

バイデンは、中国のリスクを理解していると言いながら、中国に関与しながらも望ましい方向へ誘導する立場(エンゲージメント派)のようです。

このブログにも掲載したように、2018年に習近平が「米国を頂点とする現在の世国際秩序を中国が塗り替えていく」と公表して以来、米国では天安門事件以降のエンゲージメント政策が完全に失敗したという前提に立って、現在の対中強硬策があるのですが、どうもバイデンは、時計の針を2年前に戻してしまおうと考えているようです。

エンゲージメント派というと体裁は良いですが、一言で言ってしまえば、中国市場で散々金儲けに励みながら、中国が豊かになって行けば自分たちと同じような自由主義的な資本主義に移行し、自分たちに脅威を与えることはないだろうと勝手に楽観視していただけです。それが完璧に間違いであったことは、すでに白日の下に晒されたと言って良いです。

サイレント・インベージョンの著者であるクライブ・ハミルトン教授は、マレイキ・オールバーグ氏との共著『Hidden Hand (隠れた手)』で、バイデンについて以下のように記述しています。

クライブ・ハミルトン教授

●2019年5月、ジョー・バイデンは、中国がアメリカにとって戦略的脅威であるという考えを嘲笑することで、民主党の大統領候補の他の全ての候補者とは一線を画した。

●バイデンは長年、中国に対してソフトなアプローチを採用していた。

●2013年12月にバイデン副大統領が中国を公式訪問した際には、息子のハンターがエアフォース2に搭乗していた。

●バイデンが中国の指導者とソフトな外交をしている間、息子のハンターは別の種類の会議をしていた。

●そして、渡航から 2 週間も経たないうちに、2013年6月にジョン・ケリーの継嗣子を含む他の2人の実業家と一緒に設立したハンターの会社は、プライベート・エクイティの経験が乏しいにもかかわらず、中国政府が運営する中国銀行を筆頭株主とするファンドBHRパートナーズを開設するための契約を最終決定した。
バイデンセンターについては、冒頭の記事にも掲載されています。これがバイデンとその息子のチャイナ・エンゲージメントです。バイデンはこれらを失いたくないのかもしれません。そうであれば、バイデンこそ自由主義諸国にとって最大のリスクになり得ます。

では今後、日本はどうしたら良いのでしょうか。仮に最悪バイデンが大統領になったとしても、米国議会や司法当局は、ほとんどが反エンゲージメント派です。日本は、相対的自立度を高めながらも、米国議会との連携を強め、さらに豪印との連携を強めていくべきです。

先日もこのブログに掲載したように、日米豪印外相が日本で会合を開催しました。マイク・ポンペオ米国務長官は10月6日、中国共産党政権に対抗するため、米国・日本・オーストラリア・インドによる4カ国安保対話(Quad、クアッド)を公式化し、拡大する意思を示しました。連携を深めていくことが重要です。

この対話は元々は安倍元総理大臣が呼びかけたものです。そうして米国は、これに他国も加えて将来的にはアジア版NATOにしていく構想もあります。

バイデンが何かの間違いで大統領になった場合は、日本が旗振り役となって、アジア版NATOを推進していくべきです。日本は、米国が抜けたTPPも推進して成立させたこともあります。日本ならきっとできます。

バイデンが大統領になれば、おそらく最初に言い出した米国は、TPPに再加入することが予想されます。これが、バイデンが大統領になったときの唯一の良い点かもしれません。ただし、トランプが大統領になった場合は、日本は米国を再度TPPに加入させるべく努力し、そうさせるべきです。

中国は今のままでは、TPPに加盟することはできません。これに参加するには、中国は体制を変えなければならず、それを実行すれば、中国共産党は統治の正当性を失い崩壊する恐れもあるからです。

中国が加入できないTPPは、経済的に中国を囲い込むことにもなります。これをトランプ大統領に理解させべきです。

トランプが大統領になってしばくらくしてから、米国は日本に対して過大な要求をしなくなりました。従来の米国は、理不尽ともいえるような過大な要求をしたこともありましたが、それは影を潜めました。

トランプ大統領も、中国が国際秩序を塗り替えると表明する前までは、時には過大・理不尽とも思える要求をしましたが、結局それはことごとく実現されませんでした。それは、米国にとっては中国という米国が中心となって構築してきた国際秩序を塗り替えようとするとんでもないことを考える国がでてきたことと、やはり安倍前総理大臣の力が大きいです。

国際ルールに沿った形で、自由貿易を推進し、紛争などに介入することもなく世界平和に貢献してきた日本は国際秩序を塗り替えようとまでは考えていないのは明白です。中国のように米国を毀損することなどあり得ず、むしろ米国にとって最も頼りになる同盟国です。

安倍総理(当時)とトランプ大統領

安倍前総理が築いた太いパイプもあり、そのことをトランプ氏はやっと理解できたようです。ここで、バイデンが大統領になり時計の針を2年前に戻ってしまえば、バイデン政権が中国に対しては現在よりは寛容になり、日本対しては、しばらく影を潜めていた過大で理不尽な要求をしてくる可能性が大です。

現状を考えると、日本にとっては、いや世界にとってバイデンよりもトランプのほうが良いです。しかし、米メディアはトランプ氏を「狂ったピエロ」のように報道し、日本のメディアも右に習えです。

しかし、たとえバイデンが大統領になったとしても、日本は米国議会、豪、印と結束して、これをはねのけ、バイデンがデカップリングを進めざるを得ないようにすべきです。

トランプが大統領になって、中国への制裁が一段落すれば、また日本に対する過大で理不尽な要求がでてくるようになるかもしれません。しかし、それに対しても菅政権が安倍政権のレガシーを引き継ぎ、たくみに対処し、米国との良い関係をさらに強くしていくべきです。

日本は、誰が次期大統領になって転んでもただで起きるべきではありません。

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米台国交回復決議案可決、国民党の「変節」と「赤狩り」時代の到来―【私の論評】日本は具体的な対中国経済安全保障政策をリスト化することから始めよ(゚д゚)!

米台国交回復決議案可決、国民党の「変節」と「赤狩り」時代の到来

立花 聡 (エリス・コンサルティング代表・法学博士)

 驚いた。『米台国交回復を推進する』『中国共産党に対抗するよう米国の援助を求める』という2本の決議案が10月6日、台湾立法院(議会)本会議に提出され、全会一致で可決された。驚いたのは、法案そのものでなく、筋金入りの親中党派とされていた最大野党、国民党から提出されたことである。国民党は従来の親中立場を放棄し、与党民進党と足並みを揃えるだけでなく、蔡英文政権に対し米国との外交関係回復を「積極的に推進」するよう求めたのである。何があったのだろうか。


「反中」の「中」とは?

 「反中」が世界的潮流になったのである。

 米国の大手世論調査専門機関ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が10月6日に発表した世界規模の世論調査報告によると、多くの先進国における反中感情は近年ますます強まり、この1年で歴代最悪を記録した。

 同調査によると、反中感情を持つ14か国とその割合は、高い順番から日本(86%)、スウェーデン(85%)、豪州(81%)、デンマーク・韓国(75%)、英国(74%)、米国・カナダ・オランダ(73%)、ドイツ・ベルギー(71%)、フランス(70%)、スペイン(63%)、イタリア(62%)となっている。また、米国、英国、ドイツ、フランス、スウェーデン、イタリア、韓国、豪州、カナダの9か国の反中感情は、同機関が調査を始めてからの15年間で、過去最悪となった。



 中国に対して好感をもたない、否定的で、あるいは「反中」。では、その「中国」とは何を指しているのか。我々が普段使っている言葉の定義をしっかり規定することが大変重要だ。ピュー社の調査結果をみると、日本が世界一の「反中」国家になっている。漢字を使い、中国と同じ文化源流をもつ日本人がまさかそうした文化的意味で中国を否定しているとは思えない。

 しかも、同じ中華文化を共有している台湾や香港、その他の華人文化圏に対して、日本人が決して否定的ではないし、むしろ相互の好感度が高い。だとすれば、唯一の説明として、日本人が反感を抱いているのは、中国人・華人でもなければ、広義的な文化圏の意味における中国や中華でもなく、中国本土を支配している中国共産党にほかならない。さらに、「近年反中感情が強まり、過去1年で歴代最悪を記録した」ということも、中国共産党政権の内外政策や国際社会における姿勢の変化に由来したものではないかと思われる。

 ここのところ、米国の対中姿勢に明らかな変化があるとすれば、その1つは称呼だ。「中国」や「中国人民」と切り離して「CCP(中国共産党)」という名を使って批判している。ポンペオ米国務長官は7月23日、カリフォルニア州のリチャード・ニクソン図書館で行われた演説の中で、「中国共産党の最大の嘘は、それが14億の中国人民を代表していることだ」と指摘した。それはそうだ。いくら与党であっても自民党すなわち日本という人はいない。だから、「中国」と「中国共産党」をしっかり区別する必要がある。

 つまり、「反中国共産党」が世界的潮流になったのである。そんな中で米国の民主党も共和党と足並みを揃えて、対中強硬姿勢に徹している。それだけでなく、時には両党がお互いにどちらが中国にきつく当たれるかを競い合いさえしている。「反中国共産党」が米国内においてはすでに超党派の「コモンセンス」になっているわけだ。

 一方、台湾では、対中強硬路線を持つ与党・民主進歩党(民進党)と親中派で最大野党の国民党という二大政党が戦ってきた。世界が急激に変わるなか、台湾のこの政治構図が奇異でさえある。今年1月の台湾総統選で、国民党の公認候補として出馬し、現職の蔡英文総統に大敗した韓国瑜・高雄市長は後日、リコール(罷免)投票で職を追われた。反中に大きく傾いた台湾国内の民意に答えられずに、国民党は大やけどしてきた。

韓国瑜

悪臭を放つ沼に生まれた「親中派」

 中国共産党に中国大陸から追い出された国民党はなぜ、親中なのか。

 戦後の国共内戦で毛沢東率いる中国共産党に敗れて1949年に台湾へ移った蒋介石は反共だった。当時の国民党は、中国共産党を匪賊扱いで「共匪」と呼んで、大陸反攻を国是とする反共政党だった。大陸反攻を国是としたのも、台湾はあくまでも仮住まいでいずれ中国大陸を奪還し、正統政権として全土支配する意志があったからだ。蒋経国総統時代になっても、中国共産党とは「接触しない、交渉しない、妥協しない」という「三不政策」が基本方針であった。

 蒋介石がその著作『蘇俄在中国(ソ連が中国にあり)』に警告を発した。「共産党と交渉するいかなる政治家も国家も、自ら墓穴を掘るも同然。……交渉はいつまでも結果が出ず、引き伸ばし戦術は共産党の一種の作戦方法だ」。「三不政策」だけでなく、昨今トランプの「対話をしない」「棲み分けする」、つまり米中デカップリング政策も、共産党を知り尽くした蒋介石の理論を土台にしている。

 変化が生じ始めたのは80年代後半。台湾と大陸の通商・経済交流が徐々に拡大していく。国民党と共産党のイデオロギーにおける本質的な相違を棚上げして経済的利益を先行させた。その結果、経済の中国依存が進み、中国大陸をなくして台湾は生きて行けない段階にまで至ったのである。これは何も台湾に限った話ではなく、日本も欧米も同様といえる。

 問題は、「中国依存」の恩恵が広く全国民に行き渡らなかったことである。中国共産党政権の「統一戦線」は決して、相手国の一般国民を対象にしているわけではない。政財界のいわゆるキーパーソンを味方につける手法が取られるため、結果的に一部の特権階層が利益を手にしただけで、全体的国益が軽視・無視されてきたのである。

 トランプ政権の下では、「ドレイン・ザ・スワンプ」という標語が打ち出された。「スワンプ」とは、悪臭を放つ沼のことだ。腐敗した穢い黄濁な泥水が溜まっている。その中に蛭やトカゲや毒蛇がうじゃうじゃにょろにょろと這い回って棲息している。そこで排水溝やバキュームカーのような排水設備(ドレイン)を用いて汚水を抜き取り、排出させることだ。

 そうすると、いよいよ穢い沼底に棲息していた蛭やトカゲや毒蛇が姿を現し、これらを太陽の日差しに当てて天日干しにして日光消毒を行い、すべて殺してしまうということだ。泥沼の傍で、トランプがバキュームカーで泥水を抜き取っているという政治風刺画がある。チャイナマネーによって汚染されたワシントンやウォール街の既得権益層にトランプがターゲットを絞った。

 皮肉にも、自由民主主義国家の政財界が社会主義独裁国家によって汚染された。それは社会主義や共産主義に赤化されるのではなく、資本主義制度下で増殖・変異した「唯物的」な拝金主義ウイルスが巧妙に利用されたのである。このメカニズムは長きにわたりグローバリゼーションという大義名分の下で温存されてきた。誰もが気付かなかった。気付こうとしなかった。気付いても口に出して言えなかった。

日台連携、「赤狩り」時代の先を見据えて

 台湾でも、「ドレイン・ザ・スワンプ」キャンペーンの機運が高まっている。そこで、親中本家の国民党はこのままいけば、政権奪取が夢のまた夢だけでなく、そのうち泥水を抜き取られた沼底から蛭やトカゲが姿を現し、「赤狩り」に遭遇したところで、党が沈没しかねない。そうした危機感に駆られて、この際、思い切って方向転換しようと決心したのではないだろうか――親共から反共へと180度の方向転換。

 とはいっても、国民党内は決して一枚岩ではない。既得権益層がおとなしくこの大転換についていけるのか。ぶつぶつ文句を言いながらも、いざ議決になれば、賛成票を投じざるを得なかった。『米台国交回復を推進する』『中国共産党に対抗するよう米国の援助を求める』という2本の決議案が全会一致で可決されたことは、まさに「ドレイン・ザ・スワンプ」キャンペーン、つまり「赤狩り」時代の到来を意味する。

 国民党にとってはすべて悪い話ではない。なんといっても台湾に中華民国を移し、根を下ろしたときからの本流与党であり、豊富な「人」「財」の資源をもっている。基本的な立場を「反中国共産党」に切り替えたところで、むしろ重荷を下ろしての原点回帰といえる。ここからは民進党との戦いを本格化させ、政権奪還に挑むわけだ。

 いや、それだけではない。

 米台国交回復は決して机上の空論ではない。拙稿『米台国交樹立も視野に、トランプ対中闘争の5つのシナリオ』『米台国交樹立の落とし所、台湾海峡戦争になるのか?』にも書いたとおり、トランプは本気で検討しているはずだ。米台国交が回復すれば、中国共産党政権が発狂する。

 様々なシナリオが描かれるなか、「反中国共産党」の潮流が勢いを増し、その先に中国共産党政権の崩壊・交替があるかもしれない。そうなれば、蒋介石が夢見ていた「大陸反攻」が単なる夢ではなくなり、実現する可能性が出てくる。いざ大陸に民主主義の政体ができた時点で、国民党が民主主義国家運営のノウハウや豊富な党内人材を生かせば、与党としての貫禄を世界中に見せつける。そうした可能性も出てくる。

 目先の利益よりも長期的利益に着目し、より大きなビジョンを掲げる。実は日本も同じ状況に置かれている。中国共産党に取り込まれて商売上の利益を得てきた既得権益層には、その利益が白であれ、グレーであれ、あるいは黒であれ、いよいよリセットする時がやってきた。原点に立ち返り、日本国家の長期的利益を見据えて、台湾とも連携しながら、新たな一歩を踏み出そうではないか。

【私の論評】日本は具体的な対中国経済安全保障政策をリスト化することから始めよ(゚д゚)!

冒頭の記事にもある米世論調査大手ピュー・リサーチ・センターは5月12日、台湾で初めて行われた世論調査結果を発表しています。それによると、蔡英文政権下の台湾において、米国と中国に対する考えでは、米国を肯定的に捉える動きが高まっています。

台湾と米国の経済関係の緊密化については「支持する」が85%と高く、「支持しない」は11%にとどまりました。 政治的に緊密な関係を築く上でも、80%が米国との関係強化を支持しています。

いっぽう、共産党政権の中国との関係では、36%が緊密化を「支持する」としましたが、60%が「支持しない」と答えました。

調査は、2020年2月の総統選挙を控えた2019年10月16日から11月30日にかけて台湾で実施したもので、回答者は成人の1562人。

調査によると、政治的な所属に関わらず、回答者の68%が台米関係の強化を望んでいます。政権与党・民進党の支持者の大多数は、 米国との政治・経済関係の緊密化を支持していました。民進党支持者の中には、中国との関係強化を望む人は非常に少ない結果となりました。

いっぽう、親中派である国民党の支持者の多くは、米国および中国の双方との政治・経済関係の接近を支持し、両岸関係を肯定的に見ていました。調査では、台湾人か中国人かをめぐる自認についても質問しています。回答者の68%が「台湾人のみ」、28%が「台湾人と中国人の両方」、4%だけが「中国人のみ」と答えました。

台湾人や中国人に関する自認の質問では、民進党支持者および18~29歳の若年層が、「台湾人」と答えた人の割合はそれぞれ92%、83%と非常に高かい結果となりました。「台湾人」と回答した人のうち、中国本土を好ましいと考える人は23%でした。

この調査は、世界的に前例のない経済および社会的な悪影響をもたらした中共ウイルス(新型コロナウイルス)蔓延前に行われたもので、2020年5月の世論を必ずしも反映していません。

これらの台湾の自認に関する調査は、コロナ危機発生以降に行われた世論調査の結果が、台湾の民間シンクタンク・台湾民意基金会から2月24日に発表されています。

それによると、自分を「台湾人」と答えた人が83%に上り、同基金会の1991年以降の調査で最高となりました。同基金会は、ウイルス流行で中国に対する不信感が増し、台湾人意識の上昇を後押ししていると分析しました。「中国人」との回答は5%、「台湾人でも中国人でもある」は6%で、いずれも最低だったといいます。

この結果をみれば、国民党の「変節」もうなずけるというものです。いつまでも、親中的政党と国民からみなされれば、崩壊するしかありません。

韓国瑜を応援した国未薫陶支持者

では、日本ではどうなのでしょうか。上にもあるように、最近のピュー・リサーチ・センターにる調査では日本が世界で一番中国に対して否定的な感情を持っている人が85%と最大です。

そうして、これはおそらく上の記事にあるように、日本人の中国共産党に対する否定的な感情と見て良いでしょう。

中国共産党の悪逆非道ぶりはとどまるところを知りません。9月25、26両日、北京で極めて重要かつ深刻な会議が開かれ、中国共産党による少数民族の基本的人権の弾圧を擁護、是認する議論が恥じることなく展開されました。

ウイグル自治区に関する重要会議「中央新疆工作座談会」が6年ぶりに開催されたのです。中国メディアなどによると、出席した共産党最高指導部の前で、習主席は次のように述べたといいます。

「共産党の統治政策は完全に正しく、長期間にわたって必ず堅持すべきだ」「イスラム教の中国化を堅持せよ」「中華民族共同体の意識を心の奥底に根付かせよ」

これは現在、世界中で非難されている中国政府による「基本的人権の弾圧」を擁護する発言だといって良いものてす。中国政府の人権弾圧については、英国のドミニク・ラーブ外相が「おぞましく、甚だしい」と非難し、多くのヨーロッパ諸国がこれに同調しました。習氏は「人権の先生はいらない」と嘯(うそぶ)いてみせましたが、世界の中で人権を無視する中国は孤立しつつあります。

習氏の言葉の中で注目すべきは「イスラム教の中国化」「中華民族共同体の意識」との2つでしょう。

「イスラム教の中国化」とは、一体何を意味するのでしょうか。本来、イスラム教は世俗的な国家を超越した信仰の共同体を重視します。イスラム教の論理に基づけば、国家は人間がつくり上げたものに過ぎないからです。

ところが、習氏はイスラム教を中国化せよと主張します。これは要するに、国家、とりわけ中国共産党に盲目的に従属するイスラム教へと変化せよとのメッセージに他ならず、敬虔(けいけん)なイスラム教徒にとっては到底受け入れることのできない命令でしょう。そもそもマルクスが「宗教は阿片(アヘン)」と断じたように共産主義と宗教とは水と油の関係にあります。

「中華民族共同体」における、「中華民族」の概念にも注意を要します。

ここで漢民族と説いていないところが肝要です。「中華民族」は「漢民族」よりも大きな概念であり、「漢民族」以外の民族も包摂する概念なのです。

では、どの民族が、いかなる理由で「中華民族」に包摂されるのでしょうか。その点が非常に曖昧模糊(もこ)としています。重要なのは自分たちが「中華民族」との意識を有していなくとも、共産党政府が「中華民族」であると断ずれば、中華民族に包摂されてしまう危険性を孕(はら)んでいるという点です。「中華民族」の名の下に民族浄化、文化破壊が是認されてしまう可能性が否定できないことが何とも恐ろしいところです。

「自由」と「民主主義」「基本的人権」を守る諸国の一翼を担う日本は、国際社会と連携しつつ、こうした中国の人権を無視した暴虐な姿勢を厳しく批判しつつ、それだけではなく具体的に行動を起こすべきです。

目先の経済的利益に惑わされ、大局を見失うようなことがあってはなりません。先のピュー・リサーチ・センターの調査にもあるように、日本では中国(共産党)に対して、否定的な見方をしています。

政府としても、これを無視するわけにはいかないでしょう。対中政策は、米国に追随した形で、日本でも厳しくなりつつあります。たとえば、留学生ビザの審査厳格化や、警視庁では、外事部門 19年ぶり再編 北朝鮮や中国の担当部署拡充されました。

それでもまだ甘いところがあります。政府は民意を汲み取るという観点からも、さらに厳しい政策を実施すべきです。

特に日本は経済安全保障に力を入れるべきです。経済安全保障(英語ではEconomic Statecraft)とは「経済ツールを活用して地政学的国益を追求する手段」のことです。具体的には「貿易政策」「投資政策」「経済制裁」「サイバー」「経済援助」「財政・金融政策」「エネルギー政策」などがあります。経済安全保障と聞くと経済制裁を思い浮かべる人も多いと思いますが、実際にはより広い概念を示しています。

米国の経済安全保障戦略構想はオバマ政権から本格化しましたが、その前から下地はあります。米国は冷戦終結後に「NEC(National Economic Council)」という経済制裁に特化した組織を創設しました。経済制裁の重要なポイントは「どこの誰に対して制裁を課すのか?」ということです。

例えば最近では、米国が中国に対し、対ロシア制裁に違反したとして、中国共産党中央軍事委員会で装備調達を担う装備発展部と、その高官1人を米独自の制裁対象に指定しました。これもNECが前々からどこの誰に対して経済制裁を課すのが最も有効なのかを日々分析しているからこそ為せる技です。今後、NECも中国に対抗するべく、経済制裁以外の経済安全保障の分野もさらに組織を強化する予定です。

米国では国防権限法(National Defense Authorization Act)があります。この法律は米国の国防予算の大枠を決めるために議会が毎年通す法律です。2019会計年度の国防権限法では国防権限法839条に米国政府が取引を禁じる中国企業5社の社名(ファーウェイ、ZTE、ハイテラ、ハイクビジョン、ダーファ)がダイレクトに明記されました。

これによって、米国政府機関は中国5社のサーバー、ルーター、スマートフォンなどの機器の購入、取得、利用契約が禁止されました。さらに今後、米国政府は他の中国企業からの調達も禁止するだけでなく、「中国で製造された製品」の利用を禁止まで幅広く検討していると言われています。新型コロナウイルス感染症の影響で、米国でもサプライチェーンの国内回帰を促進しており、この流れを加速させる可能性が高いと考えられます。

日本では今年4月、NSC(国家安全保障会議)に経済班が創設され、経済安全保障戦略への取り組みを始めました。つまり、日本の経済安全保障戦略はやっと始まったばかりです。(経済班は2020年4月1日から経済産業省出身の審議官と総務、外務、財務、警察の各省庁出身の参事官ら約20人体制で始動しています)なお、内閣サイバーセキュリティセンターは、国内の官庁と重要インフラのサイバー攻撃への対応力向上を主としており、経済安全保障という意味合いでは限定的です。

セキュリティ・クリアランス制度(SC制度)の導入など、経済安全保障を抜本的に強化する必要があります。

日本は米国程大きな経済ではありませんが、それでも世界では中国の次の3番目です。(実際には中国のGDPはデタラメで、実際の中国のGDPはドイツ以下とする専門家もいます)
これだけの経済力をを有していれば、中国に対する制裁もかなりのことができるはずです。

日本は、中国共産党の価値観はとても受け入れられません、その価値観の変容を迫るような、巧妙で中国共産党にとっては、痛いところをつかれるような制裁を一日もはやく発動すべきです。

米国・ワシントンDCで昨年3月に設立された民間団体「現在の危険に関する委員会:中国(CPDC)」は5月27日、中国による香港弾圧に対抗するために、12項目に上る対中制裁リストをまとめ、ドナルド・トランプ政権と米議会に提出しています。

この委員会は昨年10月4日公開コラムでも紹介したが、トランプ大統領の首席戦略官だったスティーブ・バノン氏やジェームズ・ウールジー元中央情報局(CIA)長官らが中心になって創設し、いまも政権に強い影響力を持っています。(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67597)。

委員会が公表した「香港市民の自由のために立つ」と題した声明は、次のような制裁リストを掲げている(http://presentdangerchina.org/wp-content/uploads/2020/05/CPDC-Stand-With-Freedom-for-Hong-Kong-Statement-527209.pdf)。
1、香港はすでに高度な自治を失った。マイク・ポンペオ国務長官は1992年米・香港政策法と2019年香港人権・民主主義法に基づいて、香港に与えた貿易上の「最恵国待遇」を取り消すべきだ。

2、中国は国際金融取引に国際銀行間通信協会(SWIFT)システムを利用している。中国は法を守らない。トランプ大統領は直ちに中国のSWIFT利用を停止するよう指示すべきだ。 
3、中国企業は米証券市場で優遇扱いされている。トランプ政権は、優遇扱いの根拠になっている米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)と中国証券監督管理委員会(CSRC)が交わした2013年5月の覚書(MOU)について、30日以内にその効力を停止すべきだ。

4、上記の覚書が無効化されたときには、米国資本市場で資金調達している中国企業は上場を廃止されるべきだ。

5、米国資本市場から追放された中国企業は、米国の上場投資信託(ETF)ポートフォリオに含めてはならない。

6、中国政府が信用を裏打ちしている国債などの債券を販売、購入してはならない。

7、中国共産党が所有もしくは関係する金融機関は、米国の証券関係法及び規則、会計基準を遵守していない。したがって、彼らは米国資本市場で取引してはならない。

8、米国年金ファンドがそのポートフォリオに中国企業を含めないように、米労働省はガイドラインを改定すべきだ。

9、中国国民の自由な情報アクセスを促進するために、中国共産党の「グレート・ファイアウォール」と呼ばれる装置を打破すべきだ。

10、香港市民を弾圧した中共の責任者と団体は制裁されるべきだ。

11、中共による宗教的または民族的な少数者、政治犯の虐殺や、彼らが被害者になった臓器移植の事実を特定する努力をすべきだ。

12、中共の次の攻撃目標になる可能性が高い台湾市民を守るために、あらゆる手段が講じられるべきだ。

このリストはほとんどが米政府による経済安全保障政策と言って良いものです。まずは、日本もこのような具体的なリストを作成することからはじめるべきです。 

ただ、批判したり、「〇〇は遺憾だ」と表明してみても、現実は何も変わらないのです。具体的な行動をすべきです。

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2020年10月13日火曜日

ノーベル経済学賞に米大学の2人 「電波オークション」で貢献―【私の論評】電波オークションは、テレビ局にとっても、政府にとっても打ち出の小槌ではなくなった(゚д゚)!

 ノーベル経済学賞に米大学の2人 「電波オークション」で貢献


ポール・ミルグロム氏(写真左)とロバート・ウィルソン氏=米スタンフォード大ホームページより

ことしのノーベル経済学賞に、電波の周波数の割り当てなどに使われるオークションの研究や実用化に大きく貢献したアメリカ・スタンフォード大学の2人の研究者が選ばれました。

スウェーデンの王立科学アカデミーは、日本時間の12日午後7時前、ことしのノーベル経済学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、いずれもアメリカのスタンフォード大学の、ポール・ミルグロム氏、それに、ロバート・ウィルソン氏の2人です。

オークションの研究や実用化に大きく貢献したことが理由で、王立科学アカデミーは、「電波の周波数の割り当てなど、従来の方法では売ることが難しかったモノやサービスに使われる新たなオークションの制度設計を行い、世界中の納税者などの利益につながった」としています。

2人の研究成果は、1990年代のアメリカで、それまでは政府の認可手続きが必要だった電波の利用免許について、より高い金額を示した事業者に割り当てる、「電波オークション」の制度設計に役立てられました。

電波の周波数は地域や帯域によってさまざまで、事業者ごとに必要な種類や数も異なりますが、多くの周波数と買い手から、オークションによって、最適な組み合わせを導き出せるようになったということです。

電波オークションは手続きの透明性や効率性を高めるとして、現在までに世界各国で実施されているほか、日本でも一時、検討されるなど、大きな影響を与えました。
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ウィルソン氏「環境分野への適用も可能だと思う」

ノーベル経済学賞の受賞が決まったロバート・ウィルソン氏は電話での会見に臨み、「とてもうれしいニュースでした」と喜びを語りました。

また、「環境への適用も可能だと思います」と述べ、自身の研究成果が温室効果ガスの排出権など、さまざまな分野に応用できるという認識を示しました。

そして、最後にオークションで買ったものは何かと問われたのに対し、いったんは「私自身はオークションに参加したことはありません」と答えましたが、その後、「妻に指摘されましたが、インターネットでスキーのブーツを買いました。あれはオークションですね」と話し、会場の笑いを誘っていました。

慶應義塾大学 坂井教授「理論を実用化のレベルに」

ことしのノーベル経済学賞に電波の周波数の割り当てなどに使われるオークションの研究や実用化に大きく貢献したアメリカ・スタンフォード大学の2人の研究者が選ばれたことについて、ノーベル経済学賞に詳しい慶應義塾大学の坂井豊貴教授は、「『理論』を『実用化』のレベルまで育て上げ、実際にアメリカの電波オークションにも活用されるほどの影響力を及ぼした」と述べ、経済学によって社会の課題を解決しようという姿勢が評価されたと指摘しました。

一方で、ノーベル経済学賞に日本人が一度も選ばれていない ことについて坂井教授は、マクロ経済学の研究で世界的に知られるアメリカ・プリンストン大学教授の清滝信宏さん(65)を引き続き有力候補として挙げたうえで、「今後に期待したい」と述べました。

【私の論評】電波オークションは、テレビ局にとっても、政府にとっても打ち出の小槌ではなくなった!(◎_◎;)

冒頭の記事にもでてくる、「電波オークション」とは電波の周波数の一定期間の利用権を競争入札で決める方式で、経済協力開発機構(OECD)加盟国の米国や英国、フランス、ドイツなど先進国で実施されています。

日本では原則、総務省が審査して選ぶ比較審査方式が採用されていますが、旧民主党政権時代もオークション導入は検討されています。平成24年3月には導入を閣議決定し、関連法案を国会に提出したのですが、当時野党だった自民党の反対などで審議されずに廃案となりました。



総務省によると、27年度の電波利用料金の収入は総額約747億円。主な通信事業者やテレビ局の電波利用負担額は、NTTドコモ約201億円▽KDDI約131億円▽ソフトバンク約165億円▽NHK約21億円▽日本テレビ約5億円▽TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京約4億円-などとなっています。

同制度を導入している米国では、2014年11月から翌15年1月までに実施されたオークションで、3つの周波数帯が計約5兆円で落札されたといいます。日本でも制度の導入で競売によって収入額の増加が予想されています。関係者によると、民主党政権時代の議論では、毎年平均で数千億円の収入になると推計し、増えた収入は政府の財源とすることを想定していたそうです。

今回のノーベル経済学賞した二人の経済学者の研究は、電波の周波数の割り当てなどに使われるオークションの実用化に大きく貢献したものです。

日本では、総務省の認可を受けた場合にしかテレビ放送事業はできません。「放送法」によって免許制度になっているわけなのですが、このことがテレビ局を既得権まみれにしています。

日本では電波オークションが行われないために、電波の権利のほとんどを、既存のメディアが取ってしまっています。たとえば、地上波のテレビ局が、CS放送でもBS放送でも3つも4つチャンネルを持ってしまっているのもそのためです。

電波オークションをしないために利権がそのままになり、テレビ局はその恩典に与っています。テレビ局は「電波利用料を取られている」と主張するのですが、その額は数十億円程度といったところです。

もしオークションにかければ、現在のテレビ局が支払うべき電波利用料は2000億円から3000億円は下らないでしょう。現在のテレビ局は、100分の1、数十分の1の費用で特権を手にしているのです。

つまり、テレビ局からすると、絶対に電波オークションは避けたいわけです。そのために、放送法・放送政策を管轄する総務省に働きかけることになります。

その総務省も、実際は電波オークションを実施すれば、その分収入があるのは分かっているはずです。それをしないのは、テレビ局は新規参入を防いで既得権を守るため、総務省は「ある目的」のために、互いに協力関係を結んでいるからです。

そこで出てくるのが「放送法」だ。昨今、政治によるメディアへの介入を問題視するニュースがよく流れているので、ご存じの方も多いだろう。話題の中心になるのが、放送法の4条。放送法4条とは以下の様な条文だ。

放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
 一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
 二  政治的に公平であること。
 三  報道は事実をまげないですること。
 四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

これを根拠に、政府側は「放送法を守り、政治的に公平な報道を心がけよ」と言い、さらに電波法76条に基づく「停波」もあり得るというわけです。

一方で、いわゆるリベラル派の人々は、放送法4条は「倫理規範だ」としています。つまり、単なる道徳上の努力義務しかない、と反論をしているのです。

しかし、世界ではそんな議論をしている国はありません。このようなくだらない議論をするのではなく、市場原理に任せ、自由競争をすれば良いだけの話だったのです。

今から15年くらい前であれば、電波オークションによって放送局が自由に参入して競争が起これば、新しい業者が参入してイノベーションも起こったかもしれません。質の高い報道や番組が生まれるたはずです。おかしなことを言っていたら人気がなくなるし、人気があれば視聴者を獲得しスポンサーも付くはずでした。そうやって放送局が淘汰されれば、放送法など必要性が無くなったかもしれませ。

電波オークションが実施されるとと一番困るのは既存の放送局でした。そのため、必死になって電波オークションが行われないように世論を誘導していました。そのためでしょうか、ほとんどの民放が今回のノーベル学賞の研究 が「電波オークション」に利用されていることを報道しません。

総務省はこうした事情を知っているので、「放送法」をチラつかせます。「テレビの利権を守ってやっているのだから、放送法を守れよ」というわけです。それはテレビ局も重々承知というわけで、マスコミは総務省と持ちつ 持たれつの関係になっているのです。

当時もし地上波で「実は電波利用料は数十億しか払ってないけど、本当は3000億円払わなければいけないですよね」などと言おうものなら、テレビ局の人間はみんな真っ青になって、番組はその場で終わって放送事故状態になったかもしれません。

テレビでコメンテーターをしているジャーナリスト等も、その利権の恩恵に与っているので大きな声で指摘しなかったのです。電波オークションをすれば、もちろん巨大な資本が参入しきたでしょう。国内企業をはじめ、外国資本にも新規参入したいという企業はたくさんありました。

既存のテレビ局は巨大な社屋やスタジオを所有していますが、これだけ映像技術が進歩している現在では、放送のための費用はそこまでかか らなくなりました。今では、インターネット上で自由に放送しているメディアがたくさんあるのだからそれは明らかです。中には、スマホだけでYouTubeやPodcastで、放送をしている人もいるくらいです。画質や音質等を問わなければ、現在では誰もが放送できるといっても過言ではありません。

しかし、現在では既存の放送局の権利を電波オークションで競り落とすと考えれば費用は膨大に思えますが、電波だけではなくインターネットを含めて考えれば、放送局そのものは何百局あってもかまわないのですから、新規参入者を増やせば費用は数百億円もかかるものではなくなりました。

資本力がある企業が有利かもしれませんが、技術が進歩しているために放送をする費用そのものはたいしたものでないのですから、放送局数を増やせば誰にでも門は開かれるようになりつつあります。

多様な放送が可能になれば、どのような局が入ってきても関係がないです。今は地上波キー局の数局だけが支配しているので、それぞれのテレビ局が異常なまでに影響力を強めています。影響力が強いから放送法を守れという議論にもなります。しかし放送局が何百もの数になれば影響力も分散され、全体で公平になります。そのほうが、健全な報道が期待できるでしょう。

加藤勝信官房長官は本日の記者会見で、菅義偉政権で周波数帯の利用権を競争入札にかける「電波オークション」を実施する可能性について「導入した各国のさまざまな課題も踏まえ、総務省においてオークション制度そのものを引き続き検討していくことが適当と考えている」と述べました。

同時に、オークション制度に関し「電波の割り当て手続きの透明性や迅速性の確保につながるなどのメリットがある一方、落札額の高騰により設備投資の遅延や事業運営に支障が生じる恐れがあるなど、デメリットも指摘されている」とも指摘しました。

ただし、先程指摘した通り、放送局自体の数を増やすことを前提とした場合、現在ではでは落札額が高騰することはありません。

そもそも、日本ではテレビでもラジオでもあまりにも放送局が少なすぎです。米国などで、テレビやラジオを視聴した経験のある人は、そもそもテレビのチャンネル数が段違い多いことに驚かれたことでしょう。

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米国のテレビには日本ではありえない程の数のチャンネルがある

たとえばニューヨークでは、ケーブルも含め、多数のチャンネルがあります。おそらく、数百はあるのではないでしょうか。ラジオ局もかなりです。2004年6月度、FCC(連邦通信委員会)は、AM局は4771局、商業FM局は6218局、および教育的FM放送局は2497局を認可しています。

あるラジオ局の司会者が居眠りをしてしまい、2時間ほど放送が中断になったのですが、誰も気づかなかったという笑い話のような話もあるくらいです。

このような状況を日本と比較すると、日本はいかに放送業界への参入障壁が高く、それによる一般ユーザーが不利益を被っていたかがわかります。多くの事業者がテレビ等の放送業界に参入したいと思ってもなかなかできないし、その結果多くの国民は、面白くないテレビをみなければならないという不利益を被っていたのです。

ただし、現在では状況が変わってきました。ネットの技術進歩で地上波の価値はかなり下がっています。15年くらい前に地上波TVがオークションに応じていれば地上波TVは既割当分を高値で売れたかもしれません。しかし、現在ではそのようなことはあり得ません。

政府としても、今となっから「電 波オークション」をしたとしても、2014年時の米国のように、収益を得ることはできないでしょう。

政府、テレビ局ともに時期を逸したと言えます。もはや、電波オークションは、テレビ局にとっても、政府にとっても打ち出の小槌ではなくなりました。

私は、最近テレビが全く面白くないです。視聴していて不愉快になることすらあります。いや、あまりのくだらなさに、倦怠感すら感じます。それでも、仕方なしに見ていることもありますが、最近は、YouTube,AmebaTV、Amazon Prime Video等を視聴する機会が多くなりました。

インターネットが台頭しつつある15年前に、こうしたことは十分予見できたはずです。このことを予見できないテレビ局は、今後ますます衰退していくことでしょう。

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学術会議任命見送り問題

日曜報道 THE PRIMEに出演した甘利氏(一番左)

 自民党の甘利明税制調査会長が、11日のフジテレビ番組「日曜報道 THE PRIME」に出演し、菅義偉首相が新会員候補6人の任命を見送った「日本学術会議」が日本の防衛研究にブレーキをかけてきたことを問題視した。これに対し、立憲民主党の今井雅人衆院議員は反論した。

 「学術会議は、防衛省の研究に対し(学者は)参加すべきではないというが、いまや軍事と民間のデュアルース(両用)で、境目はなくなってきている。インターネットも、もとは軍事研究から始まったものだ」

 甘利氏はこう語り、学術会議が2017年、軍事目的の研究に反対する立場から発表した「軍事的安全保障研究に関する声明」を指摘した。

 そのうえで、甘利氏は「中国が学者らを好待遇で引っ張り、研究や知識を全部、吸い取ろうとするのを、世界が警戒している。科学技術に関するある公的機関からは『日本の研究者も十数人参加している』とはっきりと言われた。学術会議は、中国の科学技術協会と相互協力の覚書を結んでいるが、中国は『軍民融合』政策を取る。学術会議が防衛省の研究に『参加すべきではない』とするなら、『(日本の研究者は中国の研究に)参加すべきではない』と言うべきだ」と強調した。

 一方、今井議員は「学術会議は、戦争に科学を使われたことの反省から成り立っている。その精神は尊重すべきで、(軍事研究には)抑制的にならなければいけない」といい、「(任命に関する国会答弁の)解釈を変えるなら、きちっと手続きを踏まなきゃいけない」と指摘した。

 これに、甘利氏は「任命責任はあるのに、選ぶ権限はないなんてあり得ない」と強調した。

【私の論評】日本学術会議の人事問題の本質は「第二次中央省庁再編」への布石(゚д゚)!

日本学術会議は15年に、中国科学技術協会と協力覚書を署名しています。つまり中国の軍事発展のために海外の専門家を呼び寄せる『千人計画』には協力しているとみて良いです。日本国内では軍事研究を禁じておきながら、中国の軍事研究には協力するという、非常に倒錯した組織です。

米国では「千人計画」に参加者が逮捕されている

左派野党やメディアは、任命されなかった6人が「安全保障関連法や特定秘密保護法などに反対した人物」として、あたかも菅首相が意にそぐわない人物を排除したとの批判を展開しています。

しかし、任命された99人の中にも安全保障関連法や特定秘密保護法に反対していた学者は大勢います。6人の任命見送りは、別の理由と考えるべきです。これを詳細に発表すると、この六人の名誉を著しく毀損することになりかねません。

そのようなことは、人事を実施する側からは絶対にできません。これは、公表しないのが常識です。これは、多くの組織を見ていれば、誰にでも理解できると思います。

マスコミなどでも、当然のことながら実施している入社試験で合否の理由など絶対に言いません。無論、普通の企業でも、人事の内容は公表しません。これは、どのような組織の人事にもあてはまることです。学術会議の人事だけが特別であるとの認識は間違いです。

今回の騒動で、国民は日本学術会議がどのような組織であるかを理解したでしょう。当然、民営化を含めた行政改革の対象です。

ドラッカー

経営学大家ドラッカー氏は人事について以下のように述べています。

あらゆる組織において人事は、その組織のマネジメントがどの程度有能か、どのような価値観を持っているか、仕事にどれだけ真剣に取り組んでいるかを白日の下にさらします。人事とその基準、さらにはその動機まで、いかに隠そうとしても知られることになります。それは際立って明らかです。

人は、他の者がどのように報われるかを見て、自らの態度と行動を決めます。仕事よりも追従のうまい者が昇進するのであれば、組織そのものが、業績の上がらない追従の世界となります。これまた、日本学術会議はその典型です。

公正な人事のために全力を尽くさないトップマネジメントは、組織の業績を損なうリスクを冒しているだけではない。組織そのものへの敬意を損なう危険を冒しています。過去の政府は、日本学術会議の人事に事実上関与しなかったので、時を経るごとに日本学術会議という組織自体が腐敗していったのだと思います。

マネジメントは、人事に時間を取られますし。そうでなければならないです。人事ほど長く影響し、かつ元に戻すことの難しいものはないからです。ところがあらゆる組織において昇進、異動のいずれにせよ、実態はまったくお粗末です。日本学術会議はその典型です。

だがドラッカーは、我慢してはならないと言います。
人事に完全無欠はありえないが、限りなく10割に近づけることはできる。人事こそもっともよく知られた分野だからである。(『チェンジ・リーダーの条件』)
だからこそ、菅総理はあえて6人の任命を見送り、人事に一石を投じたのでしょう。

ドラッカーは人事の手順のついて以下のように語っています。
人事に関する手順は、多くはない。しかも簡単である。仕事の内容を考える、候補者を複数用意する、実績から強みを知る、一緒に働いたことのある者に聞く、仕事の内容を理解させる。(『プロフェッショナルの原点』)
第一は、仕事の内容を徹底的に検討することです。仕事の求めるものが明らかでなくては、人事は失敗して当然です。しかも、同じポストでも、要求される仕事は、時とともに変わっていきます。仕事が変われば、求められる人材も異なるものとなります。

第二は、候補者を複数用意することです。人事において重要なことは、適材適所です。ありがたいことに、人間は多種多様です。したがって、適所に適材を持ってくるには、候補者は複数用意しておかなければならないです。異なる仕事は異なる人材を要求します。

第三は、候補者それぞれの強みを知ることです。それぞれの強みをそれぞれの実績から知らなければならないです。その強みは、仕事が求めているものであるかをチェックします。何事かを成し遂げられるのは、強みによってです。

第四は、一緒に働いたことのある者から、直接話を聞くことです。しかも数人から聞かなければなりません。人は人の評価において客観的にはなれないことを知らなければならないです。それぞれの人が、それぞれの人に、それぞれの印象を持つのです。

第五は、このようにして人事に万全を尽くした後において行なうべきことです。すなわち、本人に仕事の内容を理解させることです。仕事の内容を理解したことを確認することなく、人事の失敗を本人のせいにしてはならないのです。

具体的には、何が求められていると思うかを聞きます。3ヵ月後にはそれを書き出させるのです。新しいポストの要求するものを考えさせないことが、昇進人事の最大の失敗の原因です。ドラッカーは、「新しい仕事が新しいやり方を要求しているということは、ほとんどの者にとって、自明の理ではない」といいます。
追従や立ち回りのうまい者が昇進するのであれば、組織そのものが業績のあがらない追従の世界となる。人事に全力を尽くさないトップは、業績を損なうリスクを冒すだけでなく、組織そのものへの敬意を損なう。(『プロフェッショナルの原点』)
人事とは、これだけ手間がかかり、時間のかかるもので、しかもゆるがせにはできないものです。そもそも、日本学術会議の人事を菅総理が行うなどということは不可能です。今回の6名の任命見送りも、菅総理がいずれかの官僚に条件などを提示したうえで不適任者を選択するように指示をした結果ではないかと思います。

菅総理にとって重要なのは、閣僚人事と、各省庁の幹部官僚の人事です。特に閣僚人事はかなりの時間を割いて実行したでしょう。各省庁の幹部人事に関してもある程度の時間を割いて確認したでしょう。そうして、菅総理にとって、人事に関与するのはこれくらいが限界でしょう。

であれば、そもそも、日本学術会議は政府の機関とするのではなく、政府外の機関とすべきです。政府はもとより、菅総理がありとあらゆることに直接関与することなど、不可能です。もし、菅総理が日本学術会議の人事を実際に行い、その結果6人の不採用を決めているなどと思っている学者がいたとしたら、よほど自信と自意識のかたまりのような人だと思います。そもそも、これは政府の重要な仕事ではありません。

ドラッカー氏は政府の役割を指摘しています。これは、以前のブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
菅政権の政策シナリオを完全予想!改革を実現するために最も必要なこととは?―【私の論評】菅総理の政策は、継続と改革!半端な政治家・官僚・マスコミには理解できない(゚д゚)!

菅総理

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事からドラッカーが述べた政府の役割に関する部分のみを引用します。

"

政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。社会のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。(ドラッカー名著集(7)『断絶の時代』)

この政府の役割をドラッカーは統治と名づけ、実行とは両立しないと喝破しました。「統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い」というのです。

しかし、ここで企業の経験が役に立ちます。企業は、これまでほぼ半世紀にわたって、統治と実行の両立に取り組んできました。その結果、両者は分離しなければならないということを知りました。現在の上場企業等は、両者が分離されているのが普通です。たとえば、財務部と経理部は分離されているのが普通です。

そもそも、民間企業では、財務省(統治部門)と国税局(純然たる実行部門)一つの組織であることなどありえません。それだけ、現在の政府の組織は旧態依然のままなのです。

企業において、統治と実行の分離は、トップマネジメントの弱体化を意味するものではありませんでした。その意図は、トップマネジメントを強化することにありました。

実行は現場ごとの目的の下にそれぞれの現場に任せ、トップが決定と方向付けに専念できるようにします。この企業で得られた原則を国に適用するなら、実行の任に当たる者は、政府以外の組織でなければならないことになります。

政府の仕事について、これほど簡単な原則はありません。しかし、これは、これまでの政治理論の下に政府が行ってきた仕事とは大いに異なります。

これまでの理論では、政府は唯一無二の絶対の存在でした。しかも、社会の外の存在でした。ところが、この原則の下においては、政府は社会の中の存在とならなければならないのです。ただし、中心的な存在とならなければならないのです。

おまけに今日では、不得手な実行を政府に任せられるほどの財政的な余裕はありません。時間の余裕も人手の余裕もありません。それは、日本も同じことです。

この300年間、政治理論と社会理論は分離されてきた。しかしここで、この半世紀に組織について学んだことを、政府と社会に適用することになれば、この二つの理論が再び合体する。一方において、企業、大学、病院など非政府の組織が、成果を上げるための機関となる。他方において、政府が、社会の諸目的を決定するための機関となる。そして多様な組織の指揮者となる。(『断絶の時代』)

 政府の役割は、社会のために意味ある決定と方向付けを行うことなのですから、日本でいえば、最終的には各省庁の仕事は政府の外に置かなければならないのです。

"

 無論、各省庁にも統治に関わる部分がありますから、それは内閣府などに取り込み、内閣府などは、政府の機関とし、他の省庁実行部分はすべて政府の外に配置すべきなのです。

このような文脈からしても、元々日本学術会議は政府の外に設置すべきなのです。

無論菅総理が、各省庁をすべて政府の外に置こうと考えているかどうかは、わかりません。それに仮に、そう考えていたとしてもすぐにはできることではありません。しかし、現在の政府をいまのままにしておくということは、望ましくないと考えているようではあります。

菅首相は「デジタル庁新設問題」を契機に「第二次中央省庁再編」を考えているようであり、今回の日本学術会議の人事がらみに関することも、その一環であり、前触れであると考えられます。

いずれにしても、まずは政府内の「統治」の部分と「実行」の部分ははっきり分ける方向ですすめるべきでしょう。それができない限り「デジタル庁」を設置しても、無意味です。

各省庁の古い体質を残したまま、デジタル化したとしても、大きな成果は得られないでしょう。

極端なことをいえば、当初は物理的な文書や判子を用いてでも良いので、まずは当面の「統治」と「実行」を分離するグランドデザインを描くべきでしょう。

そうして、グランド・デザインを基本にするにしても、今ある各省設置法を全て束ねて政府事務法として一本化し、各省の事務分担は政令で決めれば良いです。こうした枠組みを作れば、その時の政権の判断で省庁再編を柔軟に行えますし、デシタル化もスムーズに進むでしょう。

なぜ、このようなことをいうかといえば、それは「統治」と「実行」が分離されたある優良企業を実際に訪問して、その効率の良さに驚いたことがあるからです。

たとえば、その会社では決算書等の作成は、入社したての新人の仕事になっています。なぜそのようなことができるかといえば、決算書作成のマニュアルが整備されていて、それにはどの部署から必要な資料が入手できるか記載されており、それに基づきどのように決算書を作成すれば良いのか明示されているので、それが可能になるのです。

しかも、デジタル化された現在では、会社の端末を操作することで、その資料のほとんどが集められるようになっています。

その前提として、組織の「統治」部門と「実行」部門がはっきり分離されているということがありました。そうではない企業では、結局何度も決算書を作成して慣れている人が年度末にねじり鉢巻で、端末があるにもかかわらず、結局鉛筆をなめなめ作成しているというのが実情のようです。

さらに、どの部署がどの資料を作成するかなどのグランドデザインは、明確に定められているものの、時々の変化に対応するためその他は柔軟に対応できるように、社内の規程や規則が定められており、実際に柔軟に対応しているようでした。

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