2021年5月15日土曜日

【日本の解き方】経済成長のカギ握るワクチン接種状況 高齢者の接種が順調に進めば4~6月期GDPの追い風に―【私の論評】マスコミは森叩きのホップで成功したが、ワクチン叩きのステップ、オリンピック叩きのジャンプでコケて8月にはお通夜状態に(゚д゚)!

【日本の解き方】経済成長のカギ握るワクチン接種状況 高齢者の接種が順調に進めば4~6月期GDPの追い風に



 5月18日に1~3月期国内総生産(GDP)速報値が公表される。緊急事態宣言の影響はどの程度になるのか。そして3度目の宣言が延長されたことによる4~6月期への打撃はどの程度大きくなると考えられるだろうか。

 1~3月期GDPについては、既に終わっているので予想しやすい。1月からの緊急事態宣言の影響で前期比年率5%減程度となるというのが多くの民間エコノミストの予想だ。

 4~6月期については、まだ半分以上残っているので、現段階では予想が難しい。3、4月の時点では多くの民間エコノミストがV字回復するとみていて、前期比年率5%増程度とする予想が多かった。

 しかし、連休前に緊急事態宣言が出され、5月末まで延長されることになったので、4~6月期も前期比年率で若干のマイナス成長になる可能性も排除できない。

 当面の課題は、緊急事態宣言を5月末で解除できるかどうかだ。これは新規感染者数の予測次第で大きく結論が左右される。新規感染者数自体の予測は、これまでのデータもあり、予測者によりそれほど大きな違いはないが、ワクチン接種状況によりブレが大きくなる。日本では本格的なワクチン接種が4月から始まったばかりなので、今後接種がどのように行われるかや、その効果について不透明な部分もあるためだ。

 効果についてはある程度分かるが、どのように接種率が高まるかを見込むのは簡単ではない。政府は7月末までに約86%の自治体で65歳以上高齢者(約3600万人)の接種が完了すると見込んでいる。

 海外の例をみると、高齢者のワクチン接種が終われば医療崩壊という最悪の事態はなくなり、ある程度の経済活動はできる。その意味で、まさに高齢者のワクチン接種がカギになる。

 日本でワクチン接種がうまくいくのか懸念されている主要な問題はワクチンの打ち手不足だ。

 菅義偉首相の訪米により海外からの供給にはメドがたったが、看護師不足は事実だった。

 ところが、本コラムで指摘したが、政府は4月26日に歯科医師にもワクチン接種を認めるという超法規措置を出した。

 これはほとんど報じられていないので、民間予測の前提にも盛り込まれていない。しかし、実際には、超法規的措置は思わぬ効果を呼んでおり、看護師協会にも好影響を与えているようだ。看護師の供給が潜在看護師の職場復帰を容易にする政府の措置の効果と相まって実際にはかなり増えそうだ。

 となると、緊急事態宣言の動向も変わってくる。ワクチン接種がうまくいかないという前提では、7月にまた感染者数が増加することが予測され、5月末の解除は難しく、長期再延長というストーリーになるが、接種がうまく進めば5月末解除、または短期の再延期ですむこともあり得るだろう。

 前述したように4~6月期GDPがどうなるかもワクチン接種状況に依存するので、現段階で確たることは言い難いが、幾分の明るい兆しもある。もっとも30兆円以上のGDPギャップは残っており、対策は必要だ。 (内閣官房参与・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】マスコミは森叩きのホップで成功したが、ワクチン叩きのステップ五輪叩きのジャンプでコケて8月にはお通夜状態に(゚д゚)!

厚労省が4月26日に日本医師会へ歯科医医師によるワクチン接種への協力を求める通知を出していまずが、これは実は、かつてない超法規的措置です。そもそも、ワクチンを注射できるのは、医師法によって医師と看護師しかできないと定められています。

しかし、歯科医もできるとしたのです。これは、上の記事にもあるように、超法規的措置です。これは、現行の法律では、医師法違反ということになります。過去にもインフルエンザやその他の病気でワクチンを集団接種することはありましたが、このような超法規的措置は過去に一度あったきりです。

ポリオ生ワクチン(経口式)の接種をうける子どもたち(1961年)

それは、1960年(昭和35年)のポリオ大流行時にソ連やカナダから超法規的措置で生ワクチンを緊急輸入し、大流行を終息させた誇るべき先例です。

超法規的措置とは、法治国家において、法令が想定していない緊急事態などの場合に、法令に規定されていない非常の措置を行うことを言います。国家緊急権とはやや異なる概念です。

戦後日本において行われた事例は、上記を含めて以下に述べる事例も「超法規的措置」というより「超実定法的措置」が適切な表現となされ、憲法に反する行政権の行使ではなく、違憲ではないとされています(第183回通常国会衆議院内閣答弁書)。

戦後の日本においては、ポリオの生ワクチン輸入を除いては、日本赤軍が人質を取り獄中のメンバー釈放を要求した日本赤軍事件(クアラルンプール事件とダッカ日航機ハイジャック事件)があります。その結果、獄中にいる11人のメンバーが釈放されました。

ダッカハイジャック事件 開放されたよど号の乗客たち

ダッカ事件では、犯人グループの要求に応じた際に時の内閣総理大臣・福田赳夫が「人命は地球より重い」と述べました。この措置に対し、一部諸外国から「(日本から諸外国への電化製品や日本車などの輸出が急増していたことを受けて)日本はテロリズムまで輸出するのか」などと非難を受けたといわれています。

ただし、当時は欧米各国においても、テロリストの要求を受け入れて、身柄拘束中のテロリストを釈放することが通常であり(例、PFLP旅客機同時ハイジャック事件ハーグ事件、ルフトハンザ航空615便事件などを参照)、日本政府のみがテロに対して弱腰であったわけではありませんでした。1970年代後半は、このような無謀な要求をするテロに対処するために、世界各国で対テロ特殊部隊の創設が進められるようになりました。

さて、話をワクチンに戻します。いまでこそ、ポリオ(小児まひ)は、日本で自然発生はなく、世界でもパキスタンとアフガニスタンの2カ国以外では根絶されました。しかし約60年前、1960年の日本では大流行し、報告されただけでも5000例以上に達しました。ポリオウイルスは運動神経を冒し、一生残る手足のまひを引き起こすこともあります。ポリオが大流行した当時、幼い子供を持つ親たちの不安はさぞや大きかったことでしょう。

既に当時、海外ではポリオワクチンは実用化されていましたが、日本では開発途上で供給量はきわめて不足していました。国策としてワクチンの国産を目指すのは間違っていませんでしたが、対策が遅れていたという一面があったのは否定できませんでした。大流行の翌年、1961年にも流行の兆しがあった時点で、世論にも押され、ソビエト連邦から緊急にワクチンを輸入しました。

海外で実績があるワクチンであっても国内で使用するには、本来は承認の手続きが必要ですが、当時の古井喜実厚生大臣は「責任はすべて私にある」と言って、超法規的措置をとったそうです。1300万人分のワクチンが輸入され、日本全国で接種され、流行はおさまりました。以降、グラフに示すように、日本ではポリオの報告件数は急速に減少しました。



このようなことは、前例を踏襲するのが通例となっている官僚にはできない意思決定です。菅総理大臣が意思決定したからこその、超法規的措置です。 これと同じ考え方をすれば、実は薬剤師もワクチンを打てるし、獣医も打てるということになります。

まだ通達は出していませんが、本当は法改正しなければこれはできないことです。しかし、法改正をまともに行っていては、とても間に合わないことがはっきりしたので、超法規的措置を発令したということです。

法律に従って人の命を諦めるか、法律を無視しても人の命を守るかという究極の選択としてみれば、4月26日の超法規的措置は理解できます。

このような超法規的措置は先にも述べたように過去にはありません。これは、政府が本気で7月末までに約86%の自治体で65歳以上高齢者(約3600万人)の接種が完了させるつもりであることを示していると考えられます。

それにしても、60年前の、生コロナ緊急輸入の超法規的措置や、クアラルンプール事件とダッカ日航機ハイジャック事件での超法規的措置に関しては報道したのに、なぜマスコミは今回の超法規的措置を報道しないのでしょうか。

日本では、「超法規的措置」は滅多にあるものではありません、今回も含めて戦後三回しかなかった大事件です。

報道するのが当たり前であり、しないのはかなり異常です。これは、私の類推ですが、クアラルンプール事件とダッカ日航機ハイジャック事件での超法規的措置に関しては、時の政権を弱腰であると、批判することができたので報道したのでしょう。

ポリオワクチンに関しては、当時の国民の大きな関心事であり、これを報道しないなどということは、常識的に全く考えられなかったのでしょう。

しかし、それは現在でも同じです。コロナワクチンに関しては、今の国民の大きな関心事です。

それでもなお、報道しないというのは、マスコミはこれを現政権のプラスになると考え、プラスになることは、報道の自由という権利を行使して、報道しなかったのでしょう。

このブログでは、以前からマスコミの最終目標は、森叩きのホップワクチン叩きのステップオリンピック叩きのジャンプで、菅政権を退陣に追い込むことだと指摘してきましたが、今回の超法規的措置報道のスルーは、この通りに動いていることの証左であるといえると思います。

特に、ワクチン叩きや、オリンピック叩きに関しては、それがうまくいっても、失敗しても叩く腹だったのでしょうが、現状ではオリンピック開催阻止と、ワクチン接種の遅れを徹底的に叩く方向に定まったようです。

しかし、実際には、オリンピック開催中止はよほどのことがなければ、ありえないでしょう。小池知事は中止するかもしれないなどという噂がながれていますが、小池知事が中止するというなら、政府はIOCへの賠償金は、東京都が負担せよということになるでしょう。

そうなると、東京都は財源がかなり豊富であるにもかかわらず、コロナ病床を増やさなかったほどドケチな小池知事は中止に固執することはできなくなります。結局五輪は開催されるのです。

実際に日本国内では、様々な国際大会なども開催されています。五輪だけが例外になることはほとんど考えられません。

さらに、コロナワクチン接種は現在まで、日本の感染者数や死亡者がかなり低いということから、世界的にみてワクチン接種が遅れていましたが、これは、感染者数や死者数がかなり多いところから、接種を始べるべきという防疫上の常識から考えて当然だったといえます。

しかし、超法規的な措置までとって、政府は本気で接種の拡大をはかろうとしています。7月に入れば、状況はかなり改善されることになります。

8月に入れば、8日にはオリンピックは他の国際スポーツ大会と同じく、さしたる混乱もなく閉会し、その後はコロナ死者数はかなり減り、9月あたりには、誰の目から見ても、コロナの収束は近くなるでしょう。そのときには、マスコミは嫌々ながら、コロナが収束に近づいたことを報道するでしょうが、特にテレビのワイドショーはお通夜のような雰囲気になるでしょう。

そうして、その頃に解散総選挙が行われることになるでしょう。その後しばらく、野党もマスコミもお通夜状態のショックから立ち直れないことになるでしょう。

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2021年5月14日金曜日

経済制裁に「資源の呪い」、上向かぬロシア経済―【私の論評】日米・EUは対露経済制裁でロシア経済を疲弊させ、プーチンを退陣に追い込め(゚д゚)!

経済制裁に「資源の呪い」、上向かぬロシア経済

岡崎研究所

 アンダース・アスルンド(大西洋評議会シニアフェロー)が、4月22日付のProject Syndicateに、「ロシアの下を向く経済」との論説を寄せ、ロシア経済がいかに良くないかを解説している。


 ロシア経済は、2014年以来、実質成長ゼロである。プーチンは、経済停滞の責任を、「外部の力」、すなわち世界的な石油価格などに負わせているが、不健全な経済政策と西側の制裁は彼自身以外の誰の過ちでもない。

 2008年ー2013年と2014年ー2019年では、1年の外国直接投資の平均流入はGDPの3.1%からGDP の1.4%に減少した。(2014年のロシアによるクリミア併合に対する西側の制裁も影響しているのだろう。)

 4月21日、プーチンは年次演説で「マクロ経済の安定とインフレーションの封じ込めは確実に達成される」と約束した。しかし、マクロ経済の安定はそれ自身目的ではなく、継続的な成長のための手段であって、経済政策の目的は、市民の福祉を最大化することである。しかしプーチンの明示的目的は、彼の独裁的権力を最大化することである。

 米国の制裁によるコストは見た目より大きい。ロシアがドルでの取引ができないことは、その投資機会を厳しく制約し、その成長を阻害する。プーチンとその極端な緊縮政策のおかげで、ロシアの生活水準は最近の7年間で11%低下した。

 上記アスルンドの論説は、ロシア経済の苦境を数字の面で裏付けるとともに、プーチンが自らの行動により招いた西側からの制裁、保守的な経済政策、腐敗などにその原因を求めている。的を射た論説であるが、石油価格の低迷も大きい影響を与えている。

 ロシアのGDPは、IMF統計で今は韓国以下で、世界第11位である。日本の3分の1にもならない。プーチンの治政下、ロシアは衰退してきたと何度も指摘してきたが、そのことは今や誰の目にも明らかになっている。

 石油価格は脱炭素化の中、今後は低くなっていくことが確実である。石油依存経済からの脱却はロシアでも言われているが、うまくいっていない。国際政治の用語で「資源の呪い」という言葉があるが、資源国は資源頼りになり、製造業を発展させられないことを言うが、ロシアはその典型である。

 さらに、プーチンのマクロ経済の安定とインフレ封じ込めへのこだわりがある。これが健全財政政策につながっている。今世界では、金融の緩和、財政出動による景気刺激策が主流であるが、プーチンは保守的でそういう政策を採用していない。そもそもプーチンはエリツィンの後継者としてあらわれたが、エリツィン時代はマクロ経済は安定せず、インフレはひどかった。プーチンは石油価格の上昇にも支えられ、エリツィン時代の混乱を抑え、安定の時代を作り出し、それ故に国民の支持も得た。彼がマクロ経済の安定とインフレ封じ込めを言うのはその成功体験による。

 しかし時代は変わるのであって、時代の要請には気を配り、変えるべきものは変えなければならないが、それが出来ていない気がする。それに、対西側対決路線は経済的には制裁などの不利をもたらしている。

 プーチンは2036年まで政権の座にとどまれることになっているが、時代に合わない指導者になっており、とても2036年まで務められるとは思えない。そうすることはロシアにとってよい結果をもたらさないと思われる。

【私の論評】日米・EUは対露経済制裁でロシア経済を疲弊させ、プーチンを退陣に追い込め(゚д゚)!

ロシア連邦統計局が1月1日発表した同国の20年GDP(国内総生産)・速報値は前年比3.1%減となりました。新型コロナのパンデミック(感染症の世界的大流行)による国内経済への悪影響やロシア産原油への需要低下、原油価格の急低下が影響し、11年ぶりの大幅減少となりました。

ただ、市場予想の3.7%減やロシア経済発展省の予想(3.9%減)ほどは落ち込みませんでした。また、スペインの11.0%減、フランスの8.4%減、ドイツの5.0%減など、欧州各国に比べると下落幅は抑えられました。

強気にみえるプーチンだがマクロ経済についてはかなり疎いようだ

20年GDPがマイナスとなったのは、主に、ホテルやレストランなどの観光業や運輸業、文化・スポーツ・レジャー業などでの大幅な落ち込みが要因です。また、産油国であるロシアにとって、GDPに占めるウエートが高い原油輸出が昨年3月初めの原油価格の急低下で減少したことも響きました。

主な内訳は製造業が前年比横ばいとなった一方で、鉱業は同10.2%減、運輸・倉庫業も同10.3%減、ホテル・レストラン業は同24.1%減、文化・スポーツ・レジャー業も同11.4%減と、大きく落ち込んだ。また、支出面から見たGDPのうち、個人消費は同8.6%減、輸出は同5.1%減でした。
 
経済発展省は、21年のロシア経済の見通しについて、4-9月期は前年比で伸びが急低下したあと、10-12月期に前年比7.4%増と急回復し、21年全体で同3.3%増になると予想しています。ちなみに、パンデミック前の20年1-3月期は同1.6%増でした。

以前から述べているように、韓国やロシアの経済は東京都よりも多少大きいくらいです。確かに東京都の経済は都市としては大きいですが、これが独立して国になり、軍備を整えたにしても、できることは限られています。

ただ、以前からも述べているように、ロシアはソ連の軍事・宇宙・核開発技術の継承者でるため、決して侮ることはできませんが、それにしても、我々日本人はロシアを等身大でみていく必要があります。


先日も、このブロクで述べたように、ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるといえます。

そうして、社会の安定が続くためにも、ロシア経済は成長の持続可能性を高めていく必要があります。 ロシア経済が今後10年で活力を取り戻すためには、引き続き資源国として歩み続けるにせよ、産業構造の多角 化を図るにせよ、外資の一段の導入が不可欠です。

そのためには、ビジネス環境の一段の整備に努めると同 時に、やはり欧米との関係改善も大きな課題となるはずでした。

産業政策と外交政策を両立させるためには、政治の安定が必要条件になります。つまるところ、プーチン政権から権 力がスムーズに移行されるかどうかが、今後のロシア経済のカギを握ることになるはずです。となると、ロシア経済の回復は絶望的とみるべきでしょう。

昨年のロシア経済は新型コロナウイルスのパンデミックの影響で深刻な景気減速に見舞われたが、後半以降は底入れしてきた。国内の新規感染者数は昨年末を境に頭打ちするも、死亡者数は拡大が続くなど依然事態収束にほど遠い状況にあります。政府はワクチン接種を呼び掛けるも足下では目標を下回るなか、プーチン大統領は秋の集団免疫獲得に向けて国民に積極的な接種を呼び掛けていますが、その実現は依然見通せません。

欧米諸国との関係が急速に悪化するなか、その一因となっているナワリヌイ氏の処遇を巡っては全土に抗議デモが広がりをみせる一方、欧米の制裁強化懸念に対してプーチン大統領は強硬姿勢を示すなどけん制しています。

収監中のナワリヌイ氏

他方、金融市場では欧米との関係悪化がルーブル相場の重石となるなか、中銀は先月利上げ実施に追い込まれました。さらに、ロシアの財政政策の基本は、自立した国家運営を確保するため、均衡財政を維持することを目的としているようです。景気回復が道半ばのなかでの金融引き締めは景気に冷や水を浴びせるのは確実です。

緊縮財政は経済の低成長につながることは必至です。プーチン大統領は18年、景気対策をうたい約27兆ルーブル規模の国家事業計画を打ち出したものの、その進捗は既に「不透明な状況に陥っています。ロシア政府が緊縮財政に動けば、推進は一層困難になります。

このブログでも述べているように、コロナ禍等による景気の落ち込みにおいて、政府が実施すべきは、大規模な積極財政と、金融緩和です。世界の多くの国々で、そのような政策を実行する中で、ロシアだけがそうではないとすれば、ロシア経済は確実に落ち込みます。

プーチン大統領の強気姿勢が凶と出るのは間違いありません。

現状では、EUや日米は、経済安保で経済が落ち込みつつあるロシアをさらに、締め上げるという行き方が、最も妥当であると考えられます。その先に、ロシア経済のさらなる弱体化、プーチンの退陣、そうして西側のパートナーになりうるロシアがみえてくることになります。

そのときになってはじめて、日本はロシアとまともに北方領土交渉ができるようになるでしょう。

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2021年5月13日木曜日

台湾を見殺し?バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な本性―【私の論評】バイデンが中国に融和的になっても、中国は台湾に武力侵攻できない(゚д゚)!

台湾を見殺し?バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な本性

                台湾海軍の軍事演習

(北村 淳:軍事社会学者)
 
 台湾国防部によると、本年(2021年)4月だけで中国軍航空機による台湾の防空識別圏への侵入は107ソーティー(Sortie:作戦機1機による1任務1回の出撃)を数えた。本年1月から4月では283ソーティーにのぼっており、すでに昨年の75%に達している。

  【写真】台湾空軍の戦闘機。アメリカ義勇航空隊「フライング・タイガース」の塗装が施されている。 

 中国軍機による台湾ADIZ(防空識別圏)侵入は主として対潜哨戒機による南西部のバシー海峡上空方面に集中している。これは、アメリカ海軍潜水艦が西太平洋から南シナ海に侵入する際にはバシー海峡海中を通過するため、中国側はバシー海峡での対潜能力を向上させるため頻繁に同空域に対潜哨戒機を接近させていると考えられる。 

 ただし、最近はH-6Kミサイル爆撃機ならびに戦闘攻撃機のADIZ侵入回数が増加している。バシー海峡を通航する米海軍水上艦を対艦超音速巡航ミサイルで攻撃するデモンストレーションを実施し、米海軍を牽制しているものと思われる。

 ■ 台湾に対する疲弊作戦

  もちろん、中国軍機の執拗な台湾ADIZ侵入は、一義的には台湾への軍事的威嚇とりわけ台湾空軍への疲弊作戦ということができる。これは東シナ海方面で航空自衛隊に対して継続しているものと同じで、長期にわたってADIZ侵入や接近を執拗に繰り返し、台湾軍戦闘機や自衛隊戦闘機にスクランブルを強い続けることにより、台湾空軍と航空自衛隊のパイロット、整備要員、そして機体を疲弊させる作戦である。そうした疲弊作戦は、空中戦のような戦闘ではない以上、何といっても手持ちの航空機の数が決め手となる。

 そして、中国側は新鋭戦闘機だけでなく旧式戦闘機でも台湾機を誘い出すことが可能である。また、高速の戦闘機に限らず、低速の哨戒機や、場合によっては低速非武装の輸送機でも、台湾や日本の戦闘機を誘い出すには十分だ。反対に、台湾側は数に限りのある戦闘機を発進させなければならず、加速度的に疲弊してしまうのである。

  ちなみに、中国空軍はおよそ700機の近代的戦闘機とおよそ450機の旧式戦闘機、50機程度の戦闘爆撃機、120機のミサイル爆撃機、およそ50機の各種警戒機を運用している。また中国海軍は144機の近代的戦闘機、120機の戦闘攻撃機、およそ50機の旧式戦闘機、30機のミサイル爆撃機、それにおよそ40機の各種哨戒機を運用中だ。これに対して台湾空軍は新旧合わせてわずか250機の戦闘機で立ち向かうことになる。 

■ 徐々に現れ始めた「中国に融和的」な本性 

 中国軍が台湾ADIZへの侵入を急増させたのは、トランプ政権が台湾への武器輸出促進や政府高官の訪問といった露骨な「親台湾・反中国」政策を推進したことへの対応である。  そして、バイデン政権が今のところトランプ政権の対中強硬姿勢を継承しているのを威嚇するように、中国はADIZ侵入をはじめとする台湾への軍事的威圧を強化し続けている。そのため、「米中軍事衝突が勃発しかねない」といった論調も現れ始めている。

 ところが、対中強硬派の米海軍関係者たちがかねてより危惧していたとおり、バイデン政権の対中軍事姿勢が徐々に「中国に融和的」な本性を現し始めた。  バイデン政権の対中軍事政策の司令塔であるインド太平洋調整官、カート・キャンベル氏は先週、「万が一にも中国が台湾を軍事攻撃した場合、アメリカが中国と干戈(かんか)を交えてでも台湾を防衛するか否かに関して、バイデン政権が明確な立場を示すことは差し控えるべきである。そのような行動は『アメリカの国益を深刻に損なう』からだ」と述べた。

  キャンベル調整官は、オバマ政権時代に南シナ海問題を巡って中国に妥協的な政策をとった張本人として対中強硬派から「目の敵」にされていた。そのキャンベル氏が、アメリカは台湾を巡って明確な立場を示すべきではなく、かつてのように(トランプ時代以前のように)戦略的に曖昧な立場を継続することが肝要である、と主張しているのだ。

  要するに、トランプ政権のように台湾を軍事的に支援し、反中姿勢を露骨に示してしまうと、中国の台湾への軍事的強硬姿勢を加速させてしまい、やがては米中軍事対決に至るおそれがある。それはアメリカにとって最悪の事態である。したがって、アメリカとしては中国と台湾を巡ってうやむやな立場を取り続けることによって、「曖昧な安定」という現状維持を継続させるべきである、というわけだ。

 このように、バイデン政権発足後、これまではトランプの親台湾政策をあたかも踏襲するポーズを保持してきたが、かつての曖昧戦略への回帰修正が開始されたようである。

  その結果、これまで米海軍が頻繁に実施していた台湾海峡通航や南シナ海でのFONOP(公海航行自由原則維持のための作戦)は偶発的軍事衝突を引き起こしかねないという理由で徐々に減らされるか、あるいは実質的に軍事的価値のない作戦に制限される可能性が高い。

  もちろん、キャンベル調整官やバイデン政権にとって、尖閣諸島の日本主権を支持するための東シナ海での中国への軍事的圧力などは論外ということになる。

北村 淳

【私の論評】バイデンが中国に融和的になっても、中国は台湾に武力侵攻できない(゚д゚)!

上の記事のような見方は、複数の識者がしています。たとえば、古森 義久氏(産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)も、昨日冒頭の記事と同じ、JBプレスに以下の記事を掲載しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
やはり「トランプ路線継承」ではなかったバイデン政権の対中政策
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 バイデン政権の大統領副補佐官(国家安全保障担当)、インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏は5月4日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」がニューヨークで主催した、大企業代表たちが出席するシンポジウム形式の会議で演説した。

  キャンベル氏は、バイデン政権の対中・対アジア政策立案の中枢にいる人物である。演説の内容は、やはり対中政策が主体となった。

  キャンベル氏はバイデン政権の中国へのアプローチについて、「オバマ政権の対中協力という努力と、トランプ政権の“中国に対抗”という強硬路線の、両方からの借用だと特徴づけられる」と述べた。バイデン政権の高官が、同政権の対中政策の一部がオバマ政権の政策からの借用であることを認めたのだ。

  キャンベル氏はこの演説で対中政策に関して以下のような骨子を述べた。 

 ・バイデン政権の対中政策は、オバマ大統領トランプ大統領のそれぞれの中国に対する政策要素の混合である。両方の政策の合成だともいえる。

  ・オバマ、トランプ両政権のそれぞれの中国へのアプロ―チには英知が含まれているが、同時にそれぞれに矛盾も存在した。私たちバイデン政権としては、中国と共通の懸念を抱く課題について、中国と協力できる領域への関心を高めている。

 ・バイデン政権は、中国に対して「攻勢的」と「防御的」の両方の措置をとっていくだろう。中国との競合では、テクノロジー分野への投資を強め、中国で活動する米国企業への中国側からの侵害を防ぐ手段もとることになるだろう。 
       バイデン政権の大統領副補佐官(国家安全保障担当)、
       インド太平洋調整官のカート・キャンベル氏

このような状況になることは、このブログではすでに随分前から予測していました。その記事のリンクを以下に掲載します。

バイデン政権、対中強硬派のキャンベル氏を起用―【私の論評】対中国強硬派といわれるカート・キャンベル氏の降伏文書で、透けて見えたバイデンの腰砕け中国政策(゚д゚)!

 この記事にも、掲載したように、キャンベル氏は今年の1月に、中国への降伏宣言ともいえる内容の論文を公表しています。この記事より、一部を引用します。詳細は、是非この記事をご覧になってください。

"

そもそもキャンベル氏の主張そのものにも疑問符がつきます。キャンベル氏は、「How Can America Shore Up Asian Order ~ A Strategy for Balance and Legitimacy」と題した外交論文を1月12日にForeign Affairs(オンライン)誌に掲載しましたた。そうしてこの論文は、率直に言って中国への降伏宣言ともいえる内容だと思います。

同論文は、19世紀の勢力均衡と欧州の協調を論じたヘンリー・キッシンジャーの博士論文を引用して、アジアの秩序を形成するためには、以下が必要であると主張しています。(詳細は、この記事を御覧ください)

①バランス(勢力均衡)の修復

②レジティマシー(正統性)の回復

③連携(コアリション)の促進が重要

そうして、多くの人々がすでに指摘していることですが、同論文で「インド太平洋」という言葉は度々使われるものの、「自由で開かれたインド太平洋」は一度も引用されていないのです。

キャンベル氏の任命により、バイデン政権は、オバマ政権下での消極外交路線に回帰するのは目に見えています。米国が、対中国戦略において、他国と足並みを揃えるだけでは誰も前に出なないというか、出られません。

トランプ氏の外交政策は強引過ぎた面はあったものの、単独でも中国と対立する姿勢は、一定のリーダーシップと存在感を見せていました。キャンベル氏が論文で見せる弱腰あるいは護送船団姿勢では中国とはまともに戦えません。

アジアの新秩序は米国が他国と協調するような姿勢では樹立できません。米国がまず先頭にたたなければ、難しいです。
"
 
このような予測をたてていたので、私自身は、バイデン政権が見せ始めた「中国に融和的」な姿勢を見せ始めたことには、あまり驚きはしません。

冒頭の記事のタイトルには「台湾を見殺し」という、刺激的な文言がありますが、バイデン政権が中国に融和的な姿勢をみせたとしても、さすがに台湾海峡の現状変更までは許すことはないと考えられます。

ドナルド・トランプ政権が米中関係を逆転させて以来、バイデン政権も『台湾重視』の基調は踏襲しているようです。ただしバイデン政権は、台湾海峡での軍事的紛争を望まず現状を維持を望んでいるようではあります。


特に、中国が勝手に中間線をずらしたり、ましてや台湾に武力侵攻を許すようなことはしないでしょう。バイデン政権がこれを許したにしても、米国議会は共和党は無論のこと、多数の民主党議員も黙ってはいないでしょう。超党派で新たな立法をしたり、様々な働きかけをして、バイデンの尻を叩くでしょう。

台湾海峡の中間線とは、台湾海峡で中国大陸と台湾本島の中間点を結ぶ線です。米国と台湾の米華相互防衛条約締結時(1955~79年)の58年に米軍が台湾防衛のために引いた「デービス線」に由来し、中台双方の軍は平時には越えないとされています。

ただ、中国側は公式に認めておらず、中台間の「暗黙の了解」として運用されてきました。台湾の国防部は北緯27度、東経122度と北緯23度、東経118度を結ぶ直線と定めています。

中国側は、この中間線を超えることもありますが、台湾は無論のこと、米国もこの中間線を中国が勝手にずらすことは認めないでしょう。具体的には、中国がこの中間線を超えるような行為をすれば、米台もこれを超えて、中国側に入る行動をして、中国を牽制することになります。

さらに、米国はQUADに参加しています。たとえバイデンが中国に融和的な態度をとったにしても、QUADがある限り、米国は台湾危機を見過ごすことはできないでしょう。

日本では、2016年に施行された安保関連法において台湾危機を「日本の存立が脅かされる明白な危険」と見ることができる「存立危機事態」という判断が下されれば、限定的集団的自衛権を行使できる道を開いてあります。自衛隊が集団的自衛権を行使する初の事例が台湾有事になり得ます。

特に、日本単独では、この判断は難しいかもしれませんが、QUADに加盟していることから、他の加盟国から要請があれば、前向きに検討し、場合によっては「集団的自衛権」を行使することになるでしょう。

具体的には、台湾有事には、日本は潜水艦隊を台湾付近に派遣して、情報収集にあたり、米国を含むQUAD諸国に情報提供をすることになるでしょう。無論、その過程で、中国軍を攻撃する可能性もないとは言い切れません。

日本の潜水艦は静寂(ステルス)性に優れていることから、中国軍はこれを発見できません。日本の潜水艦隊は、中国に発見されることなく、中国軍の動きを把握して、原子力を用いるという構造上によりステルス性には劣る米軍の原潜に協力すれば、米軍の攻撃力が驚異的に高い原潜が、中国軍に大打撃を与えることになります。

1997年から就役するアメリカ海軍有する世界最強の攻撃型原子力潜水艦シーウルフ級

無論中国も、超音速ミサイルなどで挑んでくるでしょうが、どんなに優れたミサイルでも、発見できない敵に対しては無効です。ここが中国の致命的弱点です。

ちなみに、日米それに豪も対潜哨戒能力が中国に比べて、非常に高いので、中国の潜水艦はすぐに日米豪に発見されてしまい、事実上行動できなくなります。行動すれば、すぐに発見され、撃沈されてしまいます。となると、中国の空母の護衛艦はすぐに撃沈されることになります。潜水艦も、護衛艦も役にたたないてのですから、当然のことながら空母も無効にできます。

仮に、中国軍が台湾に侵攻したとしても、日米の潜水艦隊がこれを包囲して、中国軍の補給を絶てば、中国軍はお手上げになります。

実際には、中国が台湾に侵攻すると発表したとたん、中国の軍港は、日米の潜水艦隊に包囲され、一歩も軍港の外にでれなくなるのではないかと思います。一歩でも出れば、撃沈されることを覚悟しなければならなくなります。

さらに、台湾は小さな国ではありますが、軍事力も整えています。最近では、通常型の潜水艦を開発し、5隻の潜水艦隊で台湾を守備する計画をたてています。

専門家の中には、これに成功すれば、台湾は今後数十年にわたって、中国の侵入を防ぐことができるだろうとしています。無論、これは開発中ですから、今すぐ役にたつというわけではありません。

さらには、日本の潜水艦と同等か、そこまでいかなくても、中国に発見できないくらいの静寂(ステルス)性を確保することが条件でしょう。台湾の技術水準からすれば、日本等の国々が支援すれば、十分可能でしょう。

ただし、すぐに役立つものもあります。それは、台湾が開発し実戦配備している、巡航ミサイルや対空ミサイルです。

台湾の巡航ミサイルは、中国の2/3を射程におさめているといわれています。これは無論、北京にも到達しますし、陸上や海上の攻撃目標を攻撃できます。あの三峡ダムにも到達します。台湾が、三峡ダムに対して巡航ミサイルで飽和攻撃を行えば、これを破壊することができるかもしれません。そうなれば、中国の2/3は水没するともいわれています。

さらに、中国の航空機はステルス性が低く、最新のものでさえ、肝心のステルス性は、米軍でいえば、第1世代のそれと同程度とされています。そうなると、中国が台湾に侵攻目的で航空機を派遣した場合、台湾が装備している対空ミサイルで多数撃墜されることになります。

台湾が単独で中国と戦ったにしても、中国側はかなりの損失を被ることになります。それに、QUADが加勢すれば、中国は台湾に侵攻することはできないでしょう。

中国は軍事力では、台湾に侵攻はできないのです。ただし、軍事力等で台湾に圧力をかけまくれば、台湾のほうから折れてくるかもしれないということで、台湾付近で大きな軍事演習をしたり、中間線を超えて艦艇や航空機を巡航させているのでしょう。

ただ、台湾にはその気は全くないようで、中国の試みは徒労に終わる可能性が高いです。


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2021年5月12日水曜日

「一帯一路」を自国から締め出した豪州―【私の論評】一帯一路で中国は大失敗するが、脆弱な国や地域を大混乱に陥れる可能性が高いことに豪州は気づいた(゚д゚)!


 ASPI(オーストラリア戦略政策研究所)のマイケル・シューブリッジ防衛・戦略・国家安保担当部長が、外国関係法に基づき豪州の国全体としての外交政策が首尾一貫したものに整えられたことを評価する論説を、4月23日付のASPIのStrategistに書いている。


 昨年12月、豪州議会において外国関係法が成立した。外国関係法とは言うが、中国の浸透を阻止するための法律である。この法律は、概括的に言えば、州および特別地域、地方自治体、公立大学が外国の諸機関と結ぶ取極めについて、これら取極めを豪州の国益および外交政策との整合性の観点から外務大臣の承認に係らしめるものとして、既に締結された取極めについてもこの基準に反すると判断されれば廃棄する権限を外務大臣に与えるものである。この法律に基づき、4月21日、ペイン外相は、ビクトリア州政府が締結した4つの取極めを廃棄することを決定した。そのうちの2つは2018年及び2019年に締結されたいずれも「一帯一路」プロジェクトに係わる中国の国家発展改革委員会との取極めである。他の2つはイラン及びシリアとの取極めである。

 豪外務省には 1,000を超える取極めが報告されている由であるが、同外相は1つの取極めを承認したこと、残りについては審査を続けるが大多数には何ら影響はないとの見通しを述べた。

 外国関係法の標的がビクトリア州の「一帯一路」に係わる取極めにあることは当初から明らかだったようである。大学については議論があったが、留学生や資金を中国に依存する大学が多く、孔子学院を誘致している大学もあることに懸念があった。結論的には対象となる大学間の取極めは相手の大学に十分な自立性がない場合に限定することで大学も対象に含めることとされた。

 以上の事態の展開の大きな背景は、豪州国内で強まっている中国の豪州国内への干渉に対する懸念と嫌悪であることは指摘するまでもない。

ASPI(オーストラリア戦略政策研究所)

 ASPIの論説が、今回の決定を国の首尾一貫した政策を整えるものであり、主要な政策変更だと評価していることは頷ける。豪州の中国との関係は最悪の状態にあるが、それにもかかわらず、あるいはそれが故に、この政策変更に踏み切ったことは評価に値しよう。キャンベラの中国大使館は「一帯一路」に関する取極めが廃棄されたことに不快感と反対を表明し、中国に対する非合理的で挑発的な行動だと非難している。

 ASPIの論説は、豪州のそれとは対照的なものとして、ニュージーランドの中国との関係及び4月19日のマフタ外相の「龍とタニファ」と題する演説に言及している。この演説は、中国との関係が如何に大切であるかを強調するものであり、そこには中国の悪行を非難する言葉あるいは豪州のような友邦を支持する言葉は一言もない。「人権のような問題は一貫性があり国にとらわれない方法でアプローチされるべきである」と述べているが、ウイグル族への虐待は非難するが、中国を名指しはしないという意味であろうか。

 4月22日、ウエリントンでペイン外相と会談した後の共同記者会見で、「ファイブ・アイズ」を中国に対する意見表明の場として使うことについて問われて、マフタ外相は、「ファイブ・アイズは安全保障とインテリジェンスの枠組みである。特定の問題について、例えば人権の分野で、連合を作るために常に最初の寄港地としてファイブ・アイズを持ち出す必要はない」と述べた。豪州が耐え忍んでいるような中国の経済的ボイコットにあえば、ニュージーランドはひとたまりもないと彼女は思っているのであろう。そのために、「ファイブ・アイズ」はインテリジェンス共有の枠組みであり、政策調整の場ではないとの理屈を述べている。「ファイブ・アイズ」(昨年、香港について共同声明を出したことがあるが、その際、中国は激越に反発した)を持ち出して嫌がるニュージーランドを巻き込む必要はなかろうが、ニュージーランドは中国との抜き差しならない関係に陥ることの危険性は認識している要があろう。

【私の論評】一帯一路で中国は大失敗するが、脆弱な国や地域を大混乱に陥れる可能性が高いことに豪州は気づいた(゚д゚)!

日本と異なり豪州は連邦制をとります。地方政府の権限が強いとはいえ、重要なのは「国防上の問題」です。地方自治体が金目当てに中国とやりたい放題で良いわけがありません。

クアッドもそうだが、オーストラリアが、米国と英国、カナダ、ニュージーランドの英語圏4カ国とつくる機密情報共有の枠組み「ファイブアイズ」も、オーストラリアがこんな状態ではその名が泣こうというものです。機密情報がダダ漏れになるところでした。

しかし、豪州は何とか踏みとどまる方向に動き出したようです。

ここで気を付けねばならないのは、日本も他人事ではないということです。

先日もこのブログに掲載したように、愚かな中国共産党政権は、他国の地方から中央を包囲する「毛沢東戦略」を実践し、その毒牙は日本の地方にも向けられているからです。

微笑みながら相手国の土地やインフラ施設の乗っ取りを狙う「チャーム・オフェンシブ(微笑み攻勢)」がそれです。姉妹都市や文化交流を装った日本の地方自治体への働きかけは彼らの常套手段であり、最も得意とする浸透工作でもあるようです。中国は、かつての西欧列強の植民地経営を一帯一路で実現し、大儲けをするつもりのようです。

中国共産党は、先日も述べたように、大きな勘違いをしています。かつて、西欧列強が行った植民活動は、ほんの一部の例外を除いて惨めな失敗をしています。その結果、ほとんど全部の西欧列挙が20世紀には植民地を手放しました。植民地経営は西欧列強を潤わせるどころか、経済的な負担を敷いていたというのが実情でした。

中国が、土地やインフラ施設の乗っ取りをはかり、それに成功したとしても、かつての西洋列強が失敗したように、それで儲かることはほとんどないのです。これについては、このブログでも以前述べたことがあります。その記事のリンクを掲載します。
【日本の解き方】中国が狙う「一帯一路」の罠 参加国から富を吸い上げ…自国の経済停滞を脱却する魂胆も―【私の論評】国際投資の常識すら認識しない中国は、儲けるどころか世界各地で地域紛争を誘発しかねない(゚д゚)!

習近平

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分のみを引用します。
一帯一路は、中所得国の罠に陥ったアジアや中東、アフリカの途上国を相手にせざるを得ないのですが、それらに投資しても儲かることはありません。少なくとも、中国より経済発展している国や地域に投資すれば良いのでしょうが、そもそもそのような国や地域は中国の助けをあまり必要としません。

仮に、中所得国を借金漬けにしたあげく、闇金まがいの取り立ても辞さないようにしたとしても、元々富がないのですから、そこから簒奪できる利益はわずかです。これは、どう考えても成功しようにありません。

ただ、中国が借金をかたに、弱小国の社会を自分の都合の良いように作り変える危険性は否定できません。そうなると、それらの国々の社会は不安定化することになり、地域紛争などに繋がる可能性はあります。

そのため、米国が対抗する方針を打ち出しているのは良いことです。無論米国は、これで儲けるのではなく、中国の影響力を排除するのが狙いです。いくらバイデンであっても、習近平ほど愚かではありません。
かつての、西洋列強が植民地経営に失敗した理由は単純です。結局のところ、自国よりも経済かなり成長している国や地域に投資をすれば、儲かるのですが、そうでなければ、結局損をするだけなのです。

それどころか、独立運動などの鎮圧のために金食い虫の軍隊を大量に派遣したりすれば、大損するだけなのです。さらには、植民地のインフラが乏しければ、当然のことながら、インフラにも手をかけなければならなくなるのです。それどころか、場合によっては、植民地の人々に水・食糧を提供しなけばならないことすらあったのです。

豪州は、先進国ではありますが、中国よりはるかに経済成長しているといえるでしょうか。無論、豪州全体ではなく、地域的にみれば成長している地域もあるでしょうから、そこに投資をして、金を生み出すインフラを取り上げるなどすれば、儲かるでしょう。

しかし、豪州でも、このように経済発展をしている地域においては、そもそも中国の手助けなどいらないでしょう。だとすれば、豪州でも中国は、経済成長していないところに投資をすることになり、やはり失敗する確率が高いでしょう。

この状況は、日本でも変わりないでしょう。この十数年、北海道は経済的には色めき立っています。

特に2018年、冷え込んでいた日中関係をよそに、中国ナンバー2(李克強首相)が北海道の地を踏んだという事実は重いもので、かの国の北海道接近はより確実となりました。「経済進出と世論工作の両面で、北海道に沖縄と同格の重みをもたせている」(在北京の共産党関係者)ということが証明されたかっこうです。

現在、道内で外資によって買収された林地は2725ヘクタール(2019年、道庁調べ)。ただし、これらは申告ベースなので実際はケタが一つ違うはずです。

農地の買収も方々で進んでいます。中国とかかわりの深い日本法人K社(本社・兵庫県)の子会社E社(北海道むかわ町)が400ヘクタールを買収(2012年当時は1170ヘクタールを所有)していますが、解(げ)せないことに、当法人は用途不明の広大な土地を複数の地点に寝かせたままにしたり、個人に転売したりしています。「いったいどこから、何の目的で資金が調達されているのか」「国家的なセクターからの調達なのでは……」と地元のJC理事らは訝しがります。

これらの森林や農地の買い占めによって、中国が大きな利益を得るということはないでしょう。。日本そのものが、あまり経済成長していないし、北海道が急速に成長しているということもありません。無論一部の施設などは、例外となる可能性はあります

しかし、だからとって、これを許容するには問題が大きすぎます。上でも述べたように、中国が借金をかたに、弱小国の社会を自分の都合の良いように作り変える危険性は否定できないからです。そうなると、それらの国々の社会は不安定化することになり、地域紛争などに繋がる可能性はあるからです。

北海道の国土の中国による買収が進むこうしたエリアでは外国人従業員が増え、ガバナンスへの波及も無視できなくなっています。トマム地区の外国人比率は、50.5%(2019年7月末)。とうとう半数を超えました。地元の女性と結婚するなど、何組かのカップルも誕生しています。

トマムリゾートのザ・タワー

外国人参政権こそまだですが、日本に住んで、その市町村に住民票があれば、外国人でも事実上、政治に参加できるようになりました。「住民投票条例」と「自治基本条例」のためです。

あらかじめ投票方法や有資格者を条例で定め、請求要件さえ満たせばいつでも、どんな些細なことでも実施できるというもので、市町村体位で独自に制定されています。外国人にも投票権が保証されるケースがあり、地方行政に直接参加できるわけです。

北海道内ですでにこうした条例を定めている自治体は、芦別市、北広島市、増毛(ましけ)町、稚内市、安平(あびら)町、むかわ町、猿払(さるふつ)村、美幌町、遠軽(えんがる)町の9自治体で、2015年以降は、新たに北見市、苫小牧市、占冠村が続きました。この2市1村は、いずれも外国人に対して、居住期間など条件付きで投票権を認めています。

これら12の自治体はある意味、地雷を抱えているといえます。条例を根拠に、多数派の居住者(外国人)が首長のリコールを成立させることもできるとなると地方自治が将来、多数派に牛耳られることもあり得ます。そうした懸念を道議会に忠告したのが米国総領事館だったというところに、行政機構の弛緩が窺えます。

やはり、人口という数の力は厳然とした力であり、武力にも匹敵します。

かつて「北海道人口1千万人戦略」という構想が話題になったことがありました。国交省と道開発局が主催する講演会(2005年)において発表されたもので、北海道チャイナワークの張相律代表が提唱しました。

当時は荒唐無稽なプランという受け止め方でしたが、昨今の北海道を見ていると、単なる個人の思いつきレベルではなかったことがわかってきます。「1千万人のうち200万人が中国移民」というのがポイントでした。

5人に1人が中国移民、という「戦略」が14年前に提唱されていたのです。そして土地が次々と買収され、実際に人数も増えています。このことが何を意味するのか、少なくとも政治家や官僚は警戒心を持つべきです。

結局、中国は西欧列強がかつて植民地を手放したように、外国の土地やインフラを手放すことになるでしょう。

しかし、注意しなければならないのは、西欧列強が世界中に植民地を持って、それは手放すまでの間には、相当長い時間がかかったことや、植民地と宗主国の間に相当の軋轢を生じましたし、地域が不安定化したことです。

日本も、西欧列強と同じ道を歩もうとしましたが、その日本も結局植民地経営で富を得ることはありませんでした。たとえば、朝鮮半島には、莫大な投資をしましたが、ご存知のように何ら実りの大きいことはありませんでした。

かつての西欧列強がそうだったように、一帯一路や、豪州、日本への投資に結局中国は失敗するでしょう。これは、過去の歴史を真摯に学べば誰にでも理解できます。そのことを、愚かな習近平は理解していないようです。失敗に失敗を繰り返し、その果にどうしようもなくなってから気がつく可能性が高いです。

西欧列強は、自国では民主主義を実施していましたが、植民地人に対して宗主国と同じような権利を認めることはありませんでした。日本だけが例外だったかもしれません。日本が朝鮮半島を統治したときに、韓国の道議会議員の80%が朝鮮人でした。警察官も朝鮮人が多かったのです。

しかし、中国は全体主義国家であり、植民先の国民に対して自国と同じ権利を認めたとしても、植民地は大変なことになります。それどころか、植民地は中国以下の劣悪な社会環境になることでしょう。

このような中国が世界中で、地域を不安定化させ、特に市民社会が脆弱な国や、地域で、大問題を引き起こす可能性が大きいことを、豪州は気づいたのです。日本の政治家や官僚は警戒心を持ち、豪州のやり方を参考にすべきです。

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2021年5月11日火曜日

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中国の2020年総人口は14.1億人、「一人っ子政策」導入以来最低の伸び

 中国が11日に発表した2020年の総人口は、1970年代後半に「一人っ子政策」が導入されて以来、最低の伸びとなった。人口減少を回避するため、当局は出生数の増加に向けた対応を迫られそうだ。

中国春節

     中国が発表した2020年の国勢調査によると、総人口は14億1000万人で、前回調査(2010年)時の13億4000万人から5.38%増加した。10年前の伸び率は5.84%増だった。

 中国は2016年、人口を2020年までに約14億2000万人にする目標を掲げていたが、この目標をわずかに下回ったことになる。

 中国国営メディアはこのところ、今後数年で人口が減少に転じる可能性があるとの見方を伝えている。国連は中国本土の人口が2030年にピークに達し、その後減少に転じると予測している。

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は4月下旬、状況に詳しい複数の関係者の話として、中国の人口が2020年に前年比で減少したと報道。中国国家統計局は、2020年の人口は増加したとの1行の声明文を発表したが、いつに比べて増えたかは明らかにしなかった。

 経済力の強化を目指す中国では、以前から人口問題に対する懸念が浮上している。

 中国政府は2016年に一人っ子政策を廃止し、二人っ子政策を導入した。

 国家統計局の寧吉哲局長は11日、国内人口は今後ピークに達するが、時期は不明だと発言。高齢化が進み、出生数が減少しているため、政府は人口動態に関連するさまざまなリスクに積極的に対応していくと述べた。

 2010年以前の6回の公式な人口統計(初回は1953年)では、人口は一貫して2桁の伸びを示していた。

 今回の国勢調査では、若者の人口が予想外に増加した。14歳以下が占める割合は、2020年が17.95%。2010年は16.6%だった。

 2016ー19年の年間の出生率は、2016年を除いておおむね低下している。同局長によると、2020年の出生数は1200万人、出生率は1.3だった。

 北京のシンクタンク「全球化智庫」の人口統計学専門家は「出生数が急減していることは確かだ。さまざまなデータがそれを示している」と指摘。

全球化智庫の2020年報

 「中国が出生数の急減に直面していることは、国勢調査の公表がなくても分かる」とし、2020年の人口が減少しなかったとしても「2021年か2022年、もしくは非常に近い時期に」人口が減少するとの見方を示した。

 中国では、特に1990年以降に生まれた都市部の夫婦の間で、子供をもうけるよりも、自由やキャリアを重視する傾向が強い。

 人口が多い大都市で生活費が上昇していることも、出生数を抑制する要因となっている。

 政府系シンクタンクの2005年の報告書によると、普通の世帯で子供1人を育てるには49万元(7万4838ドル)かかったが、地元メディアによると、2020年は199万元と、4倍に上昇している。

上海の保険会社に勤務する26歳の既婚女性は「私の年齢の女性が子供を産めば、自分のキャリアに破滅的な影響が出る。また、(上海の)養育費も高すぎる」と語った。

【私の論評】民主化が期待できないこれから先の中国は、「少子高齢化」と「中進国の罠」に阻まれ、先細りしていくだけ(゚д゚)!

世の中には、不思議な人がいて、人口が減るとデフレになって経済が落ち込むと信じている人もいるようです。

これは、あきらかな間違いです。考えてみてください、人口がどんどん減っていったとして、それに対して中央銀行が何もしなければどうなりますか?無論インフレです。何しろ、人が減って、通貨流通量はそのままなのですから、当然のことながらインフレになります。

通常はそうならないように、中央銀行は、人口が減りつつあれば、通貨流通量を減らします。政府は、緊縮財政をします。それでインフレにはなりません。

インフレ、デフレは純粋に通貨の流通量の問題であって、人口増・人口減は直接関係はありません。生産能力以上に通貨が増えれば、インフレになり、通貨が減ればデフレになります。

そうして国全体のGDPを伸ばすには、方法が2つあります。それは人口を増やすこと、もう一つは個人あたりのGDPを増やすことです。両方ができれば、さらにGDPは伸びます。さらに、中央銀行が、通貨量の管理を行えば、デフレにもインフレにもならず、経済が順調に伸びます。

ただし、国民経済といった場合は、一人あたりのGDP(=一人あたりの所得)で見るのが正しい見方です。いくら国全体で経済が伸びても、一人あたりの所得が伸びなければ、意味がないからです。特に先進国ではそのような見方をすべきでしょう。

そうはいっても、軍事力の観点などからみると、一人あたりのGDPが多少他国よりも少なくとも、人口が大きく国全体のGDPが他国よりも大きければ、軍事費を相対的に大きくできます。

その他、政府主導の公共事業なども相対的に大きくできます。ここ10年の中国がまさにそうで、毎年かなりの勢いで軍事費を伸ばし、国内のインフラ投資や一帯一路など政府による大事業を展開してきました。

過去20年の中国は、まさに人口が増えるのと、一人あたりのGDPが増え、経済が急激に経済が伸びてきました。

ただし、最近ではそれにも陰りが見えてきました。まずは、上の記事にもある通り、人口の伸びが止まったことです。

中国の老人

さらに、中国では海外移住する人たちが、この10年間で加速しています。1978年以来、累計1000万人以上の人が移住。これは北京のシンクタンクの調べによる数字です。

現在中国には、3億5千万人のミドルクラス消費者と10億人のその予備軍がいますが、彼らが目指すのは海外不動産を買うこと(中国では土地は政府の所有であり、不動産所有が認められていないため)。

最も上流の、超富裕層となると、究極の目的はグリーンカードや永住ビザの取得です。中国ではでは、海外に居住できるスキームに投資したい人が後を絶たないです。このように海外に移住する人は全体から比べれば、数が少ないとはいえ、何しろ富裕層ですから、経済に悪影響を与えないわけはありません。

さらに、追い打ちをかけているのが、このブログでも過去に何度か述べているように、中国が中進国の罠にはまりつつあることです。中進国の罠とは、発展途上国が一定の中所得までは経済発展するのですが、その後は成長が鈍化し、なかなか高所得になれないという経験則です。ここで、中所得の国とは、一人あたりGDPが3000~10000ドル(日本円では所得が年間で30万円〜100万円)あたりの国をいうことが多いです。

この中進国の罠を破って、発展途上国から先進国になったのは、日本だけです。先進国から、発展途上国になったのはアルゼンチンだけです。例外は、日本から多大な経済支援を受けた韓国や、エジプトなどの産油国などだけです。中国だけが、この罠から逃れられる見込みはありません。

中進国の罠については、このブログで何度か解説したことがあります。その最近のものを以下に掲載します。
対中同盟の旗印に民主主義を掲げるのは難しい―【私の論評】実は民主化こそが、真の経済発展の鍵であることを中国をはじめとする発展途上国は認識すべき(゚д゚)!


詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中国は中進国の罠に間違いなくはまり込みつつあるのは確かです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に結論部分の一部を引用します。

「民主化」それに続く「政治と経済の分離」「法治国家化」が行われなければ、多数の中間層が生まれることもなく、今日の中国のように、いくら政府が音頭をとって巨額の投資をして、イノベーションをうながしたとしても、それは地域的にも、階層的にも、点のイノベーションにしかなりえず、一部の富裕層が豊かになるだけです。

そうして、あらゆる地域、あらゆる階層(特に多数の低所得層と数少ない中間層)の社会に非合理、非効率が温存され、旧態依然とした社会が残り、経済発展できないのです。

先進国が、故なく先進国になったのではなくそれにはまず「民主化」をすすめ、その後「政治と経済の分離」「法治国家化」をすすめたからこそ、先進国になったのであり、そうしなければ、「中進国の罠」からに阻まれ、先進国になることはなかったのです。

日本では、生産年齢人口が1995年、総人口も2011年から減少し、従属人口比率が高まる局面、すなわち働く人よりも支えられる人が多くなる状況で「人口オーナス」が常態化しています。中国でも少子高齢化が政府の大きな負担となりつつあります。

文革などで伝統文化が破壊されたことから、家族で高齢者を扶養する風習がなくなり、政府が主体となって介護サービスを提供する状態になっているのは日本と似ているところがあります。

中国の社会保障費(介護を含まず)は国家歳出の2割以上を占め、その伸びは国防費を上回っていますが、実態に比べて財政の投入量ははるかに少ないです。このような事情から、「中国経済も2015年に人口オーナス時代に突入したのではないか」との懸念がすでに出ています。

日本の場合は、民主化が達成さているので、人口オーナスが常態化していますが、それでも様々なイノベーションが可能で、この問題を解決できる可能性が十分あります。

しかし、民主化されていない中国では、たとえ政府が音頭をとって、少子高齢化問題に対するイノベーションを起こそうと思っても、それは点のイノベーションに過ぎす、あらゆる地域、あらゆる階層において不合理・非効率が温存され、少子高齢などの問題を解決することは困難を極めることでしょう。

民主化が期待できない、これから先の中国は、少子高齢化と、中進国の罠に阻まれて、先細りしていくだけです。

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2021年5月10日月曜日

ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い―【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

ロシアが演習でウクライナを「恫喝」した狙い

岡崎研究所

 ロシア軍がウクライナとの国境地帯に集結し、ウクライナとロシアとの緊張が高まっていた。戦車、軍用機、海軍艦艇とともにロシア軍兵士約10万人が展開し、米国とNATOはこれを厳しく非難していた。


 この展開についてロシア側は、部隊は演習をしているのであり、誰に対する脅威でもない、と言ってきた。4月23日、ロシアのショイグ国防相は、演習は終わったとして部隊に撤収を命じた。ただし、ショイグは、NATOの年次欧州防衛演習(東欧諸国で6月まで行われている演習)で不利な状況が出て来た場合にすぐ対応できるようにロシアの全部隊は即応体制にとどまるべきである、とも述べている。

 ウクライナのゼレンスキー大統領の補佐官の一人は、撤退が正確に何を意味するのか確かではないと注意喚起した。彼は「撤退は歓迎されるが、最近の数か月と過去数年の前例のないロシア軍の増強を見ると、撤退声明が何を意味するのかはっきりしない、まだこの件がどう展開するか、予見するのは難しい」と述べている。

 とはいえ、緊張は緩和されつつあると見てよいだろう。歓迎できる展開である。

 ロシアがどうして撤収に踏み切ったのかについては、4月13日にバイデン大統領が欧州のどこかで米ロ首脳会談を開くことを提案し、ウクライナ問題も話し合うことを電話でプーチン大統領に提案したことが大きな役割を果たしたという説が多い。おそらく、その通りなのだろう。

 4月22日、ロシアが2014年に一方的に併合を宣言したウクライナ南部クリミア半島で、
 軍用ヘリコプターから軍事演習を視察するショイグ国防相

 ロシアの今回の演習は、ウクライナ領内に侵攻する能力を誇示し、ウクライナを恫喝することを目的にしていた。

 プーチンに敬意を示していたトランプと違い、バイデンはロシアに厳しく、クリミア併合についても認めていないし、今後も認めるつもりはないと明言している。これを受け、ウクライナのゼレンスキー大統領もクリミア奪還を言うなどしている。今回の演習はそういうことも考慮したうえで、バイデン政権を試すものであったと思われる。

 今後の米ロ首脳会談がどういう話し合いになるのかが注目されるが、プーチンもバイデンも基本的な立場を変えるとは思われない。この問題は米ロ間で意見が異なる問題として残っていくことになろう。

 ロシアとウクライナの関係は、こういう演習騒ぎや東部ウクライナでの紛争の激化を受けて、どんどん悪くなっていくだろうと思われる。プーチンの支持率を80%以上に押し上げたクリミア併合は、ロシアとウクライナ関係に大きな懸案として残るだろう。

 なお、1994年に米英露は、ウクライナが非核兵器国となることの見返りに国境の尊重などをいわゆるブダペスト合意で約束した。この合意は政治的なものであるが、ロシアにより破られた。

【私の論評】現状では、EU・日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が最も妥当か(゚д゚)!

ナヴァリヌイに対する毒殺未遂、その帰国直後の拘束、執行猶予判決の実刑化、ナヴァリヌイ釈放要求デモに対する取り締まりなど、ロシアの現状は西側のパートナーになりうる国ではなく、西側との対決を選んだ国であるといえます。

3月月初めEUの外交責任者であるジョセップ・ボレルがモスクワを訪問しましたが、セルゲイ・ラブロフ外相から非礼とも受け止められる扱いを受け、ほうほうの体でブリュッセルに戻りました。

ジョセップ・ボレル

そうして同月22日に開かれたEU外相理事会は予想通りロシアに新たな制裁を科すことを決めました。ロシアのラブロフ外相はボレルに恥をかかせるために共同記者会見を利用したとしか考えられないです。

その上、ボレルがモスクワ訪問中にEU3か国(ドイツ、ポーランド、スウェーデン)の外交官追放措置を、ボレルに事前に通報することなく突然発表しました。このようなロシアの振る舞いはEU=ロシア関係を今後難しいものにしていくでしょう。

EUの中では、バルト諸国やポーランドなど東側の国がロシアに厳しく、独仏伊西など西側の国がロシアに甘いという分裂がありますが、今後、東側諸国の意見がより強く反映した政策になっていく可能性が強いです。ドイツ、スウェーデン、ポーランドは自国の外交官追放に対し、ロシアの外交官を追放する措置をすぐにとりました。

プーチンのロシアは、国際法を無視するという点で、習近平の中国と同じです。中ロは最近ますます共同戦線をはっています。プーチン政権は、改正憲法で、憲法は国際法より上位の法であると勝手に規定し、ロシアをならずもの国家にしています。

こういうロシアの変化は、当然、日ロ関係にも影響を与えます。メドヴェージェフは改正憲法でロシアの領土を譲渡してはならないことになったので、日ロ間の領土交渉は終わったとの趣旨の発言をしています。

このような政権を相手に条約を結んでも意味がありません。ロシアとの外交関係のあり方を真剣に再考すべきです。日ソ共同宣言に違反するロシアの言動は厳しくとがめ、覚悟を持って、本当のロシアに日本も対峙していくべきです。

プーチン

プーチンはネオスターリン主義者であり、プーチンとの関係で日ロの諸問題を話し合いで進展させることはほぼ不可能です。プーチンは2036年まで政権の座に居られることに改正憲法でなっていますが、ロシア国内での反プーチンのデモなどを見ると、そういうことにはならないでしょう。ポスト・プーチンをにらんで、対ロ外交は考えていかざるを得ないでしょう。

ただし、このブログにも度々掲載しているように、ロシアのGDPはいまや日本の1/5であり、東京都とほぼ同じです。東京都がいくら軍事力を強化したにしても、限界があるのと同じく、現状のロシアは、米国抜きのNATOとも本格的に対峙することはできないでしょう。

とはいいながら、ロシアは旧ソ連の核や軍事技術を継承する国であり、侮ることはできませんが、それにしても限界は見えています。

ウクライナのゼレンスキー大統領の補佐官の一人は、ウクライナ付近のロシア軍の撤退が正確に何を意味するのか確かではないと注意喚起したといいますが、その意味するところは、大規模な演習にはとてつもなく大きな費用がかかるので、いつまでも続けることはできないということを意味しているのだと思います。

国内最大規模の実弾射撃訓練「富士総合火力演習」(2014年)でさえも、2時間で使った弾薬約44トンは約3・5億円相当です。燃料費の約3000万円を合わせて約4億円です。ロシアの実施する、大演習だとまさに天文学的な費用がかかるものと考えられます。

富士総合火力演習


1991年12月、ソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が崩壊しました。2021年はそれから30年が経過したメモリアルイヤ ーです。連邦を構成した15の共和国はその後、いわゆる体制転換を経て現在に至っています。ウクライナもその一つです。 

 ソ連の後継国家であるロシアの経済は、この30年で10年ごとに危機と繁栄、停滞と紆余曲折を経てきました。この 間、課題であった原油依存からの脱却はあまり進みませんでした。

さらに原油価格の低迷に加えて、2014年のクリミ ア危機以降は欧米から経済制裁を受けており、経済は苦境にあえいでいます。 

 他方で、ロシア社会は近年、所得格差の是正などに成功したことなどから安定を強めています。とはいえそうした安 定は2000年代の繁栄の10年期の貯金を切り崩して実現した安定でもあります。

社会の安定が続くためにも、ロシア経済は成長の持続可能性を高めていく必要があります。 ロシア経済が今後10年で活力を取り戻すためには、引き続き資源国として歩み続けるにせよ、産業構造の多角 化を図るにせよ、外資の一段の導入が不可欠です。

そのためには、ビジネス環境の一段の整備に努めると同 時に、やはり欧米との関係改善も大きな課題となるはずでした。 

 産業政策と外交政策を両立させるためには、政治の安定が必要条件になります。つまるところ、プーチン政権から権 力がスムーズに移行されるかどうかが、今後のロシア経済のカギを握ることになるはずです。となると、ロシア経済の回復は絶望的とみるべきでしょう。

現状では、EUや日米は、経済安保でロシアを締め上げるという行き方が、最も妥当であると考えられます。その先に、プーチンの退陣、そうして西側のパートナーになりうるロシアがみえてくることになります。


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2021年5月9日日曜日

スペイン、非常事態を解除 対コロナ、国内移動自由に―【私の論評】感染者数はスペインよりも、日本のほうがはるかに少ないという事実をどうみるべきか(゚д゚)!

スペイン、非常事態を解除 対コロナ、国内移動自由に

スペインのビーチ

 スペイン政府は9日、新型コロナウイルス対策で昨年10月下旬に全土に再宣言した非常事態を約半年ぶりに解除した。流行は抑制傾向にあるが、各自治州間の移動が原則自由となることで、専門家は感染の再増加の恐れもあると指摘。規制は各州ばらばらとなり、一部は夜間外出禁止を継続する。 

 スペインでは昨年11月に流行「第2波」のピークがあった後、年末年始に一時的に移動規制を緩めたことなどで第2波を上回る「第3波」が到来した。公共放送によると、今月7日発表の1日当たり新規感染者は約8200人。感染状況には地域差も大きい。

【私の論評】感染者数はスペインよりも、日本のほうがはるかに少ないという事実をどうみるべきか(゚д゚)!

スペインでは、上の記事のように、今月7日発表の1日当たり新規感染者は約8200人だそうですが、日本は本日はね7,249人の感染者が出たそうです。1周間平均では、5,188人だそうです。これだと、日本とスペインの感染者数はあまり違いがないようにも思えます。


ここで、思考が止まってしまう人は、何かを見過ごしています。そうです、人口です、日本の人口は1億2千万人です。スペインの人口は何人なのでしょうか?


2019年の人口は、4694万人です。これは、日本の1/4です。そうであれば、今月7日発表の1日当たり新規感染者は約8200人という数字を日本と正確に比較するには、4倍しなければなりません。4倍すると、32,800人です。

これは、5月8日の感染者数7,249、7日間の平均5,128と比較しても格段に多いのです。にもかかわらず、スペインでは非常事態宣言を取り消し、日本では一部の地域が非常事態宣言をされているのです。

このように正確に海外と日本のコロナ感染状況を比較すれば、日本がさほどでないことはすぐにわかります。

マスコミは、このような正確な国際比較をしないばかりか、比較するにしても、今年のはじめと現在の比較という、誤解を招きやすい比較をしています。以下に大阪の感染者数の推移の約1年分を掲載します。


大阪では、昨年の5月28日(第一波)のときには、1782人の感染者が出ていました。最近は、かなり感染者が増えてきたように報道されていますが、その実数は今日で、1021人です。

昨年の5月のほうが、はるかに多いです。この傾向は、東京や他の地域でも似たりよったりです。マスコミは、このことをほとんど報道しないため、一年前をすっかり忘れている人も多いようです。

昨年の5月に医療崩壊の危機が起こりそうになり、その後第2波、第3波も起こったわけですから、大阪はなんとかこれに対処できなかったのでしょうか。

本来ならば、少なくとも昨年の第1波くらいの想定をして、病床や医療スタッフを増やすべきでした。無論すぐには増やせませんが、昨年の5月のような状況を想定しておけば、その後1年以上もの期間があったわけですから、準備できたはずです。

いや「お金がかかる」という人もいるかもしれませんが、政府は世界的にみても、かなりの財政支出をして、コロナの財政的な措置は世界的にみてトップクラスでした。

さらに、政府は地方自治体がコロナ対策のために、自由につかえる「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」を準備していました。これを使えば、時間的にも、経済的にも、今頃は十分に対応できたはずです。無論医療スタッフも準備できた可能性が大きいです。

にもかかわらず、この交付金は足りなくなることもなく、全部使われることもなく余っているというのですから、驚きです。

この交付金は、イカのモニュメント(写真下)で一時有名になりました。石川県能登町越坂(おっさか)の観光交流施設「イカの駅つくモール」で、町が制作した巨大なイカのモニュメントが完成しました。設置を巡っては財源に新型コロナウイルス感染症対策の国の地方創生臨時交付金約二千五百万円を充てることに疑問の声もありました。


その後、この町には、このモニュメントを見に来る人が増えたといいます。だから、それなりに効果はあったのかもしれません。私自身は、この町の状況については、良くは知りません。人口は1.8千人くらいです。

この町では、コロナ対策よりは、こうしたモニュメントを設置することのほうが、良いことなのかもしれません。

それはともかく、この交付金は先にも述べたように、各自治体がコロナ対策に自由に使えるというそうですから、無論この資金を用いてコロナ対策もできるのです。それが余っているというのですから、どういうことかといいたくなります。

これで、コロナ対策の不備をで政府を突き上げることには、かなり無理があると思います。何しろ、政府は直接各自治体のコロナ対策に関わっているわけではなく、その主体は、地方自治体なのです。これは、何も大阪だけにあてはまることではありません。全国の自治体、特に今頃医療崩壊の危機を言う自治体にあてはまることです。このような状態で、自衛隊などに支援を要請するのは全くの筋違いです。

高橋洋一氏は、以上のような状況をツイートしたり、様々な媒体で記事として書いたり、動画で配信していました。

これに対して、一部SNS等で批判が巻き起こっています。本当に他人や政府の足引っ張ることが快感で生き甲斐にしている層は、一定数存在しているようです。

特に、こういう人には中高年に多いようです。それは、最近まで社会的地位により周りが与太話でも拝聴してくれたからかもしれません。現状では、ネット民が『いいね』してくれるのでそれが生きる喜びになっているようです。

そうして、そういう中高年層には、『自分の意見』が『皆の意見』と思い込んでいる人も多いようです。自分たちが、特異な醜い少数派に過ぎないことを自覚していないようです。

晩節を汚すとは、まさにこのことです。自分は、こうはなりたくないです。


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2021年5月8日土曜日

池江璃花子“五輪辞退”求める声受け長文ツイート「選手個人に当てるのはとても苦しいです」―【私の論評】東京五輪開催は、コロナ後の世界の希望となる(゚д゚)!

池江璃花子“五輪辞退”求める声受け長文ツイート「選手個人に当てるのはとても苦しいです」

最近の池江璃花子さん

 競泳の東京五輪代表に内定した池江璃花子(20=ルネサンス)が7日、自身のツイッターを更新。新型コロナウイルス感染拡大の収束が見えない状況の中、自身のSNSに五輪出場辞退や五輪開催反対に賛同を求める声が寄せられていることについて、意見を述べた。

 池江は「いつも応援ありがとうございます」と書き出し、「Instagramのダイレクトメッセージ、Twitterのリプライに『辞退してほしい』『反対に声をあげてほしい』などのコメントが寄せられている事を知りました」と様々な意見がSNSに寄せられていることを明かした。

   そして「もちろん、私たちアスリートオリンピックに出るため、ずっと頑張ってきました」と前置きし、「ですが、今このコロナ禍でオリンピックの中止を求める声が多いことは仕方なく、当然の事だと思っています」と五輪中止を求める声に理解も。「私も、他の選手もきっとオリンピックがあってもなくても、決まったことは受け入れ、やるならもちろん全力で、ないなら次に向けて、頑張るだけだと思っています」とアスリートとして率直な気持ちを記した。

池江は2019年2月に白血病を公表。闘病生活を経て、20年8月に実戦復帰すると、今年4月の日本選手権では4冠を達成し、16年リオデジャネイロ五輪に続く2大会連続の五輪切符を手にした。五輪本番では、女子400メートルリレーと女子400メートルメドレーリレーに出場予定で、女子100メートル自由形など個人種目に出場する可能性もある。

闘病中の池江璃花子さん

  「1年延期されたオリンピックは私のような選手であれば、ラッキーでもあり、逆に絶望してしまう選手もいます。持病を持ってる私も、開催され無くても今、目の前にある重症化リスクに日々不安な生活も送っています」と自身も不安と隣り合わせの日々を送っていることを明かした池江。そして「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいてる方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています。オリンピックについて、良いメッセージもあれば、正直、今日は非常に心を痛めたメッセージもありました。この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」と思いを吐露した。
 
 そして「長くなってしまいましたが、わたしに限らず、頑張っている選手をどんな状況になっても暖かく見守っていてほしいなと思います」とつづり、5連続投稿による長文のメッセージを締めくくった。

【私の論評】東京五輪開催は、コロナ後の世界の希望となる(゚д゚)!

このブログでは、つい最近「オリンピックの政治利用は厳に慎むべき」という内容を掲載しました。なぜそのよう内容を掲載したかといえば、最近のマスコミはまるで、五輪中止が規定路線でもあるかのような報道していたからです。

現在東京オリンピック不参加を申し入れてきている国は、北朝鮮だけです。北朝鮮は、医療がかなり遅れていて、重症患者が出れば実質対応できません。この国が不参加を申し入れるのは当然のことです。

ただ、北朝鮮以外の多くの国々が、オリンピック不参加を申し入れてきているとか、多くの国々の選手が不参加表明をしているというのなら別ですが、そうではないのに、オリンピック開催中止を叫ぶのは、政治利用以外には考えられないからです。

以下に池江璃花子さんのツイートを掲載します。


池江璃花子選手に対する、「反対の声をあげてほしい」というツイートはこうした政治利用の流れから来ているのではないかと思います。無論、政治利用する主体が直接ツイートしているとは限りませんが、そうした流れに感化された人がツイートしているということは十分に考えられることと思います。

池江さんご本人に「五輪辞退を求める」といった趣旨の投稿をした人たちは、有名アスリートを自分の政治的要求の広告塔にしようとしたか、あるいは無意識にその流れに乗った時点で、見下げ果てた下衆の極みだと思います。

大病を患っても東京五輪を見据えて諦めずに努力してきた池江璃花子選手に五輪辞退しろだの反対しろだのと迫る連中には人面獣心という言葉を送りたいです。

五輪開催の有無について意見があれば決定権のあるIOCや、また開催国、開催都市である国や東京都に向けるべきです。最もやってはいけないのはアスリートにその矛先を向けることです。

発言切り取りで森喜朗氏を辞任させ、コロナワクチンで執拗に危機を煽り、五輪中止を執拗に迫り、池江璃花子選手にまで辞退を迫る人々が存在するのは、実に嘆かわしいことです。

最近では、人としての情や常識が欠如した勢力が仕掛ける#付きのツイデモ等の異常な“煽り運動”は珍しくもなくなりました。こういう流れに簡単に乗って、碌でもないことをしでかす人たちは、自分が政治利用されているという考えなど一つもないのかもしれません。早く気づいて欲しいものです。

都内で行われる東京オリンピック・パラリンピックのテスト大会は緊急事態宣言が延長される今月末までに7つの大会が予定されていて、大会組織委員会によりますと、いずれの大会も無観客で予定どおり実施するということです。

具体的には、新体操、陸上、パラ陸上、スケートボード、バスケットボールの3x3、自転車BMXフリースタイル、射撃の7つで、このうち、9日に国立競技場で行われる陸上のテスト大会は当初、観客を入れる計画でしたが、無観客とすることがすでに決まっています。

それ以外の6つの大会は、もともと観客を入れずに行われる計画で、組織委員会によりますと、いずれも感染対策を取ったうえで予定どおり実施するということです。

このブログにも掲載したように、先日は札幌で東京オリンピックのテストとしてハーフマラソンが実施されました。何の混乱もなく、実施されました。オリンピックに一歩近づいたといえます。

「札幌チャレンジハーフマラソン」の女子で、1時間8分28秒をマークして優勝した一山麻緒

都内で行われる東京オリンピック・パラリンビックのテスト大会が成功すれば、さらに一歩近づくわけです。

竹田恒泰氏は以下のようなツイートしています。
そうしてChamge.orgで署名活動を行っています。竹田氏は、Change.orgで以下のように語っています。
 昨年の1月や2月は、世界的な警戒状態にあったにもかかわらず、政府の対策が後手に回ったため、毎月200万人を越える外国人を受け入れ、しかも、その筆頭が、コロナの震源地である中国からの観光客でした。中国人観光客から多少の感染は見られましたが、その後も日本では米国、欧州、インドに見られるような規模の感染爆発は回避しました。これだけ対策が万全な状態で最大9万人程度の選手と関係者を短期間受け入れたところで、感染爆発が起きるとは到底考えられません。

 そもそも、東京五輪中止を要求する意見は、科学的根拠に基づいていません。むしろ、三蜜を避けることで、クラスターを回避できることは科学的根拠により明らかになっていることです。テニスやゴルフなどは、コロナ禍でも世界大会が開催されています。必要な対策を講じれば東京五輪も開催可能なのです。

こうも述べています。

 東京五輪が開催されれば、きっと多くの日本人の心に乗る名場面が生まれることでしょう。ひきこもり生活が長引き、多くの日本人が疲れを感じています。自殺者数が高止まりしていることも見過ごすことはできません。ともすれば、芸術やスポーツは「不要不急」でくくられてしまいがちですが、テレビを通じた東京五輪の観戦は、多くの日本人に希望と勇気を与えるでしょう。それは、必ず、コロナ禍を乗り切る一助になるはずです。そしてそれは、日本だけでなく、東京五輪を楽しみにしている世界中の人々にとっても同じことなのです。

私も、そう思います。昨年の1月や2月は、世界的な警戒状態にあったにもかかわらず、毎月200万人を越える外国人を受け入れてしまったことは、確かに政府の不手際でした。このときに、速やかに外国人をシャットアウトしていれば、現在の日本の感染状況は台湾並になったと考えられます。

ちなみに、台湾は自ら早めにシャットアウトしたということと、一昨年の8月から、中国が中国人の台湾旅行を禁じたという幸運も重なっています。これは、意外と知られていません。

しかし、その後の感染状況を他国と比較すると、日本は桁違いに少ないですし、死者数もかなり少ないです。

このブログに過去にも掲載しましたが、今回の第4波も他国との比較においては、さざなみ程度です。

そのような中で、五輪中止を規定事実であるかのように語るのは間違いだと思います。ましてや、アスリートに個人攻撃するなど考えられません。このような方々は、マスコミなどのコロナ禍報道などで煽られて、脅威を抱いているのでしょう。

しかし、一時の感情や脅威で、何事にもネガティブに対応するようになってしまえば、それは長く尾を引くことになりかねません。

私自身は、コロナ禍の収束は目前にせまっており、昨日も述べたように、今回の新型コロナウイルスによる病も、既存のコロナウイルスによる風邪症状に近いものになる可能性も大きいです。そうして、五輪開催で、日本の閉塞感に満ちた現状が大きく変わると期待しています。

そうして、これは世界中の人々を勇気づけることになるでしょう。

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