2022年10月25日火曜日

英保守党内の分断深刻 総選挙へ結束課題 スナク新党首―【私の論評】新首相になっても安定しない英国の保守党内政局(゚д゚)!

 英保守党内の分断深刻 総選挙へ結束課題 スナク新党首



 辞任を表明したトラス英首相の後任として与党保守党の新党首に決まったスナク元財務相にとって、最大の使命は遅くとも2年余り先に行われる総選挙での勝利だ。

 そのためには自身の出馬表明でも触れた党の結束が必須だが、党首選の過程で明らかになったのは党内の深刻な分断だった。

 今回の党首選でジョンソン前首相を担ぐ動きがあったのも、カリスマ性があり前回総選挙で党を大勝に導いた「勝てる党首」に期待してのことだ。だが、スキャンダル辞任から間がない再登板の動きに、反ジョンソン派は激しく反発。ジョンソン氏は出馬断念に追い込まれた。

 ジョンソン氏は声明で「党が団結しなければ効果的な統治はできないため、それ(出馬)は正しいことではないとの結論に至った」と出馬断念の理由を説明した。だが、選挙戦を回避しても団結を実現するのは容易でない。

 そもそもジョンソン政権は、スナク氏の財務相辞任を機に一気に崩壊に追い込まれた。スナク氏をジョンソン氏退陣の引き金を引いた「戦犯」と見る議員には、スナク氏に対する反感が依然として根強い。ジョンソン氏が党首選でモーダント氏に連合を持ち掛けたともいわれる。

 トラス氏の辞任は、大型減税を柱とする経済対策が市場の混乱を招いたためだが、重要閣僚の辞任や下院採決での党上層部によるパワハラ疑惑など、党内の混乱が直接のきっかけだった。スナク氏が早期に党内融和を実現できなければ、支持率ではるか前を行く野党労働党の背中は遠のくばかりだ。 

【私の論評】新首相になっても安定しない英国の保守党内政局(゚д゚)!

このブログでは、トラス首相の辞任は、経済政策がどうのこうのということよりも、政治的な動きがトラス氏を追い込んだというのが正しい見方であると主張しました。また、トラス辞任劇の裏側も新首相が決まってから、しばらくすれば表に出てくるであろうことも主張しました。

上の記事は、まさにそれを示していると思います。これからも、英保守党内の内輪話が出てくると思います。8月に保守党の代表選があったとき、最後にトラス氏とリシ・スナク氏の2人が戦っていました。しかし、保守党内ではジョンソン前首相を含めると、誰が最も良いかと問われたら圧倒的にジョンソン氏に人気がありました。

ジョンソン氏は6月に保守党内での信任投票でも信任されましたし、さらには2019年12月の総選挙でも圧勝していました。

ボリス・ジョンソン氏

スナク氏の人気は元々は保守党内では低かったのです。なぜなら、スナク元財務大臣は、ジョンソン政権の下でいち早く閣僚を辞任し、その後の政権崩壊のきっかけをつくった裏切り者という印象が強まったことや、財務相として国民の生活が非常に苦しい状況で数十年ぶりの規模の増税案を提示したからです。

そもそもジョンソン氏を引き摺り下ろす必要がなかったのではないかという不満が強いのです。

一方で、ジョンソン氏は既に完全に信頼は失われていました。それなのに、まだ数ヵ月しか経っていない状況でもう1回ジョンソン氏が出てくるのはおかしいのではないかという意見が国民の間にも保守党の間にもあります。どちらが勝っても、かなりしこりが残る結果になるとみらていました。

保守党所属議員らの多くは恐らく、保守党には経済運営能力がないと判断されて2025年までに実施される総選挙で敗北するのを懸念し、スナク氏を党首に選んだのでしょう。

しかし党内右派はスナク氏の増税路線を好ましく思っていませんし、党内のリベラル寄りの勢力はスナク氏が英国の貿易活動の妨げになった欧州連合(EU)離脱を支持したことで不信感を持っています。

一方英国はEU からの安い労働力を絶たれることにより、生産性低迷という長期的課題と、エネルギー料金高騰に伴う生活費危機という大きな問題に直面しています。そうなるとスナク氏と市場の蜜月関係が一段落してしまえば、同氏は議会と国民の支持を確保し続けるのが難しくなるでしょう。

日本の物価は3%上昇ぐらいですが、英国経済は物価が9%ぐらいまで上がっていて日本よりもはるかに大変な生活苦が国民を襲っています。トラスの減税策は、決して完璧な間違いとまでは言えないと思います。

8月の消費者物価指数世界比較 クリックすると拡大します

スナク氏は財政を思いっきり締めると言われています。国民生活が物価高で疲弊しているなかで財政を締めた場合、国民が生活がどんどん苦しくなるなります。

財政を引き締めたとしても、海外由来のエネルギーや資源価格の高騰を直接抑えることにはつながらず、国民の不満は高まり、2年後の総選挙には勝てないという声が、保守党内で巻き起こり、そうなると、スナク氏も減税策を取らざるを得ない状況に追い込まれる可能性もあります。


英国物価推移 クリックすると拡大します

通貨安であることが、英国経済を助けていることは間違いありません。自国通貨安はしばしば「近隣窮乏化策」とも言われますが、逆にいえば自国経済は良くなることを意味しているからです。スナク氏がこれに気が付き通貨安を活用する方向に舵を切れば、今後英国経済も政局も安定するかもしれません。

しかし、そうはせずに、緊縮財政を続ければ国民生活はますます苦しくなります。すぐに減税策に走れば、スナク氏の経済政策は間違いだったことを認めることになります。いずれに転んでも、保守党内の政局が動けば、トラス氏のように辞任せざるを得ない状況に追い込まれるかもしれません。

日本でも、安倍総理がお亡くなりになってから財務真理教が様々な場面でせり出してきており、防衛増税や年金の支払期間の延長など、緊縮財政を実行しようとしています。日本でも、岸田政権が緊縮に動けば、英国のように党内政局が動き、不安定化の要因になります。

今後英国の政治は不安定化するのは間違いないようです。

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