政府は防衛費増額について、2023年度の一時的な財源確保策として、新型コロナ対策で厚労省所管の独立行政法人に積み上がった剰余金や外国為替介入に備えて管理している特別会計の剰余金の転用案の活用が浮上したと報じられている。
一方で安定財源として増税策も年末に向け議論し、赤字国債の一種である「つなぎ国債」で、増税実施までの財源不足を穴埋めすることを視野に入れると報じられている。
この問題の経緯をまとめておこう。今年2月に、ロシアによるウクライナ侵攻があり、世界情勢が緊迫した。一方、中国の習近平体制は台湾統一を公言しており、場合によっては武力行使の可能性も排除していない。
台湾有事となれば、日本有事になる。自民党内の保守勢力から日本の防衛力強化が主張され、7月の参院選で自民党は「5年以内でGDP比2%」を公約とした。ただし、そのときには財源論はなかった。安倍元首相が主張していた「防衛国債」が有力視されていたからだ。
ところが安倍元首相が暗殺されると、財務省は官邸に有識者会議を作った。そこで財源問題が議論され、増税の方向性が出されている。
そこで、来2023年度予算にも防衛費増額の方向性が出てくるので、冒頭のように岸田政権は11月29日、23年度予算への検討を始めた。
さすがに財務省も抵抗できなくなった
予算作りの一般論として、新規予算があるときには、(1)他の歳出カット、(2)建設国債対象、(3)その他収入(埋蔵金)、(4)自然増収、(5)増税で対応する必要がある。
検討される順番は、それぞれの番号通りだ。
(1)は言うは易く行うは難し。カットされる省庁の反発が強いし財源として巨額なものは出にくい。
(2)の建設国債対象経費にできれば、有力な選択肢だ。これは、安倍元首相が生前に主張していた「防衛国債」である。財政法第4条第1項ただし書きでは、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については国債発行を認めている。一般会計予算総則で海上保安庁の船舶建造費が公共事業費として認められているので、海上保安庁の巡視船は建設国債で作られている。
同じように防衛省予算を一般会計予算総則で規定するというのも有力案だ。実は、かつて人工衛星も建設国債の対象経費だった。人工衛星は衛星を打ち上げるのはロケットだが、爆弾を乗せればミサイルだ。この前例を踏襲すれば、ミサイルを国債発行対象経費とするのも、できない話ではない。
(3)その他収入増というのが、筆者がかねてから主張していた埋蔵金である。特に外為特会(外国為替資金特別会計)では円安による儲け「評価益」があるのでこれを使わない手はない。
筆者のところに多くの与野党議員が問い合わせて来たので、これまでの小泉政権以来の経緯、その際財務省の問題となっていた法解釈などを忌憚なく話をさせてもらった。そして、本コラムでもそれらを公開してきた。
いくら岸田首相に否定させたところで、さすがに財務省も抵抗できなくなったのだろう。とうとう検討せざるを得なくなった。
すべては岸田首相にかかっている
ただし、狡猾な財務省はダメージコントロールも上手く、最小限度のダメージに止めるだろう。各紙の報道では、外為特会「剰余金」や外為特会「余剰金」などと書かれている。会計知識のあやふやなマスコミなので仕方ないが、どのような概念であり、筆者のいうところの「評価益」とは違う。
今の為替水準だと、少なくともとも30兆円程度の「評価益」があるが、剰余金だと、財務省が会計操作を行った後であるので、評価益そのものが剰余金になるわけではない。いずれにしても、筆者から見れば少なくとも30兆円くらい捻出できるが、複数年でその半分くらいになれば御の字だろう。
(4)自然増収は、もっとも真っ当な方法だ。来年度を見れば、円安でGDP増なので、法人税、所得税はかなり増収になる。その後も経済成長すれは、名目成長を4%程度にできれば、その自然増収で防衛費増をかなり賄える。もっとも、財務省は成長はあてにならないとこの議論には乗らないだろう。
(2)と組み合わせれば、建設国債の償還年数は60年なので、今の防衛費増に対して、自然増収が0.1兆円程度あれば十分なので、(2)ができるのならば、増税を考える必要はない。
(5)増税は、最後の手だが、財務省はこれが本命だ。いきなり増税とはせずに、「つなぎ国債」で当面泳いで、特別会計を設置するなどして増税に結びつけるのが、財務省の戦略だろう。東日本大震災のときに、復興費用を復興増税に持っていたときのやりかただ。
いずれにしても、実質的に(2)建設国債対象、(3)その他収入(埋蔵金)がポイントで、当面これで決着が付けば、(5)増税とは政治的にはならない。かつて小泉政権の時、埋蔵金が多額にあったので、小泉首相は自分の在任期間中は増税しないと言わざるを得なかった。
いま、サッカーワールドカップで国民は盛り上がっているが、それにたとえると、(2)は右サイドからの攻めであり、(3)は左サイドからの攻めだ。ただし、財務省からは強烈なディフェンスがあり、これら(2)と(3)をできるかぎり少額にして、(5)に持っていこうとしている。
いずれにしても防衛費増額は2023年度予算で方向性を出す必要があり、年末の予算編成の重要事項だ。支持率が低下して政権運営がままならない岸田政権はどのような道筋を描けるか。
髙橋 洋一(経済学者)
【私の論評】防衛費は当面国債で歳出カットで対応と新聞報道されれば、財務省勝利!逆転には岸田退陣でまともな政権が必要(゚д゚)!
以前にもこのブログの記事で主張したように、防衛費に関して、岸田首相は、財務省や財務大臣の意向を聞きすぎているように思われます。財務省が防衛費の増額に反対するのは当たり前です。そのようなことはわかりきっているので、英国では戦争中の戦略会議などには、財務大臣は出席させないそうです。
現在日本は戦争中ではありませんが、それにしても今年は年末までに防衛三文書の書き換えを行う時期であり、岸田総理は、財務省などの防衛費に関する主張などは、話半分に聞いて留めるべきです。そうでないと、判断を誤ります。
財務相や現在の官邸サイドは、防衛費増を増税の方向に持っていこうとしているようです。
有識者会議などでも増税の話ばかりが出てきて、具体的には東日本大震災の復興増税のようなスキームでどうか、というような話も出ています。
ただ、この有識者会議は内閣官房の有識者会議です。内閣官房は、間違いなく財務省の仕切りです。財務省のひも付きの有識者会議であることは、政府・与党のなかではわかってしまっています。
特に大反発しているのは自民党サイドで、増税など容認できるわけがないということでまとまっています。防衛3文書の議論と税制改正の議論が並行して進んでいたので、官邸が増税というところで結論付けてしまい、自民党税調に回されてしまえば、自民党税調の宮沢洋一会長は財務省のひも付きですから、そこで増税を決められてしまうのではないかという相当な危機感があったようです。
税調は、反対しそうなところの議論を迂回し、増税に賛成するところばかりに諮り、「皆さんに諮りました」という形に増税を強力に推進していこうというのが見え見えでしたから、自民党が怒るのも当然です。
増税の議論は、政権や首相に相当なパワーがなければ党内の反対を押さえつけられませんし、世論の協力も得られません。ここに関して言えば、岸田政権が弱体化していて良かったかもしれません。
ただ、不思議なのは、このような重要なことが報道で出てこないのでしょうか。特に新聞では、自民党のなかでかなり激しい議論が行われていることがほとんど報道されません。8%税率で軽減税率の恩恵を受けているというのが原因かもしれませんが、こういう議論が封印されているのは異常です。
増税に関しては、与党からも反対の話が出ていますし、野党も国民民主党などはいろいろな形で提言しています。そういうことも大きくは扱われません。政局絡みで「国民民主党が連立に入るのか」などという話ばかりが伝えられています。
この狙いは、野党の分断にあるのかもしれません。国民民主党の玉木代表は密室政治を否定しており、国対政治の否定論者なのです。国対政治とは、日本の国会において与野党の国会対策委員長同士が本来の議論の場である国会の本会議や委員会(理事会を含む)をさしおいて、円滑な国会運営を図る為に裏面での話し合いを行って国会運営の実権を握る事をさす言葉です。
それにもかかわらず密室に集ってこれが行われています。国対においての話し合いです、議事録が残りませんん。それをいいことに与野党が馴れ合い、そこでいろいろなことを決めていくのです。
内閣支持率が下がり、求心力がなくなってくると、すぐに連立組み替えのような話が出てくるものです。自民党は非常にしたたかな政党で、連立を組んだ相手をどんどん吸収していき、それによって延命を図ることを得意技としてきた政党です。現状でも、そういうことも考えているのかもしれません。
ただ、確かに国民民主党は、予算案や補正予算案には賛成しましたが、これは是々非々の形の表れだと考えるべきではないでしょうか。ただし、国民民主は、補正予算や被害者救済法で賛成なのですでに「与党」ともいえなくないです。
代表の玉木氏も私から見るとなぜ民主党に入ったのか不思議なくらいでした。岸田政権としても、公明党だけより牽制ができることから、国民民主の与党入りは願ったり叶ったりではないかと思います。
財源についてもオープンな形で国会で議論が出てくれば、そしてそれが報道されればと思います。しかし、なかなかそうなりません。それこそ敵基地攻撃能力なども、必要最小限という文言でいいのかどうか、もっと検討すべきです。維新の青柳議員などは質問に立っていたのですけれども、あまり報じられませんでした。
元々日本維新の会や国民民主党などは、何でも与党に反対ということではなく、是々非々の政党です。立憲民主党などの、何でも反対しているわりには国対政治を用いて密室で物事を決めていくという不透明な政治よりも、オープンな場で議論していくことが必要です。
現在はっきりしているのは、防衛費は当面国債で歳出カットで対応という新聞報道がされれば、建設国債と埋蔵金を封じた財務省が増税含みのつなぎ赤字国債で前半1点リードとみて良いでしょう。これを逆転するには岸田首相退陣でまともな政権が必要となるでしょう。
当然、財務省に屈した、岸田総理に多数の自民党議員は激怒し、政局が大きく動くことになります。増税以外で決着すれば、自民党保守派の勝ちで、政局は動かない可能性が高いです。防衛増税は、それだけ、自民党の保守派の怒りを買ったのは間違いないです。
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