2025年3月8日土曜日

中国、カナダの農産物・食品に報復関税 最大100%―【私の論評】中国vs加 関税戦争の裏側:中国が圧倒的に不利に陥る中、日本の使命とは

 中国、カナダの農産物・食品に報復関税 最大100%

まとめ

  • 中国は、カナダが中国製電気自動車(EV)や鉄鋼・アルミニウム製品に輸入関税を課したことへの報復として、3月20日からカナダ産の菜種油、油かす、エンドウ豆に100%、水産物と豚肉に25%の関税を適用すると発表した。
  • カナダは昨年、中国からのEVに100%、鉄鋼とアルミニウムに25%の関税を課す方針を示しており、中国商務省はこれを「WTOルールに違反する保護主義的かつ差別的な措置」と批判している。

対立する王 毅とトルドー AI生成画像

中国は8日、カナダの農産物や食品の一部に関税をかけると発表した。カナダが中国の電気自動車(EV)や鉄鋼・アルミニウム製品に輸入関税を適用したことへの報復とみられる。

商務省によると、カナダ産の菜種油、油かす、エンドウ豆に3月20日から100%の関税を適用。水産物と豚肉に25%の関税をかけるとした。

カナダは昨年、中国から輸入するEVに対し100%の関税を課すと発表した。中国製の鉄鋼とアルミニウムについても25%の関税を課す方針を示した。

商務省は今回、声明で、カナダの対中関税について「世界貿易機関(WTO)のルールに著しく違反し、典型的な保護主義行為であり、中国の正当な権利と利益を著しく害する差別的措置だ」などと批判した。

【私の論評】中国vs加 関税戦争の裏側:中国が圧倒的に不利に陥る中、日本の使命とは

まとめ
  • 中国とカナダの関税合戦は、2025年3月8日に中国がカナダ産農産物に高関税を課したことから始まり、カナダの2024年8月の中国製EVなどへの関税への報復だ。米中貿易戦争の影響で、カナダは米国と連携し、中国はカナダを叩いて米国を牽制している。
  • 米国は2025年3月4日にカナダなどに25%の関税を課し、関税戦争が拡大。カナダは両国から圧力を受け、農産物輸出が危機に。中国は固定相場制で為替調整ができず不利だ。
  • ポール・クルーグマンは、関税が短期で産業を助けるが長期で市場を歪めると警告。米国とカナダは為替でカバー可能だが、固定相場制の中国は直撃を受け、輸出依存経済が苦境に。
  • 中国は政府介入や内需拡大を試みるが、長期的効果は薄く、内需拡大も体制上難しい。CPTPPは関税削減とルールで注目され、日本主導で11カ国、2024年に英国も参加。
  • RCEPは2022年発効で市場は大きいが、自由化が浅くCPTPPに劣る。中国はCPTPPに入れず不利。日本はCPTPPを推進し、自由貿易で米国による関税戦争のバカバカしさ、中国の現体制の弱さを示すべきだ。

カナダ アルバータ州の広大な菜種畑

中国とカナダの関税合戦は、2025年3月8日に中国がカナダ産の菜種油やエンドウ豆に100%、水産物や豚肉に25%の関税をぶちかましたことから火蓋が切られた。きっかけは、カナダが2024年8月に中国製EVや鉄鋼、アルミニウムに高関税を叩きつけたことへの報復である。カナダは中国の過剰生産が自国産業を潰すと焦り、米国とタッグを組んだ形だ。中国は「WTOを無視した保護主義」とブチ切れ、カナダ経済を締め上げるべく菜種油を狙い撃ちしたのだ。両国の因縁は深く、2018年のファーウェイ事件で冷え切った関係が、ついに爆発したのである。

このバトルは、米中貿易戦争の余波である。カナダは米国の舎弟として中国にケンカを売り、中国はカナダを叩いて米国に「舐めるな」と警告している可能性がある。一方、米国は2025年3月4日にカナダやメキシコに25%の関税をぶち込み、「貿易赤字とフェンタニルをぶっ潰す」とトランプが吠えた。すると中国もすぐカナダに報復関税をぶつけ、連鎖反応で関税戦争が燃え上がったのだ。カナダは両巨人に挟まれ、農産物輸出が崖っぷちである。米国の関税は移民問題が主因だが、カナダが中国に喧嘩を売った裏には米国の影があり、中国との対立をドロ沼にしているのだ。

タリフマン(関税男)を自認するトランプ大統領

関税の話を前に書いたことがあるが、経済への打撃は為替変動で和らぐ場合があるのだ。関税で輸入品が値上がりすると物価が跳ね上がり、消費者は安い代替品に走る。だが購買力が落ちて経済が失速する危険もある。ドルが強まれば米国輸出は苦しくなるのだ。ノーベル賞のポール・クルーグマンは「関税は短期で国内産業を儲けさせるが、長期的には市場がガタガタになる」と警告する。

為替が動けば輸出国の通貨が下がり、競争力が戻って均衡が取れると彼は言うのだ。だが、これは変動相場制の国だけの話である。中国のような固定相場制では為替が動かず、緩和の余地はないのだ。だからこそ、米中加の関税戦争は中国に不利である。米国とカナダは為替で多少カバーできるが、中国は関税の直撃をモロに食らうのだ。

中国は輸出で食っている国である。その割には、WTOの貿易ルールなど無視しているくせに、カナダがそれを守らないになどと批判している。片腹痛いとはこのことだ。米国やカナダからの関税で輸出が死ねば、経済はさらにガタつくしかない。長引けば苦しい立場に追い込まれるのだ。政府の介入や内需拡大で誤魔化せるかもしれないが、短期の小細工にすぎない。長期で介入し続けるのは無理である。内需を増やしたいが、民主化も、法治国家化も、政治と経済の分離すらされていない今の体制では難しい。中国はジリ貧である。

イギリスが加盟して12カ国になったCPTPP

そんな中、貿易協定のCPTPPが熱い視線を浴びている。関税で貿易が困難になれば、加盟国間の関税を廃止し、安定したルールを提供するCPTPPは輝いて見えるのだ。日本主導でカナダも含む11カ国が動き、2024年12月には英国も仲間入りした。知的財産や電子商取引までカバーする本格的で先進的である。米中が殴り合う中、「米国抜き」の経済圏としてアジア太平洋を仕切る可能性があるのだ。

中国や韓国、台湾も興味津々だが、中国は厳しい加入条件に跳ね返されるだろう。地政学的に見ても、関税戦争がエスカレートすれば、米国以外の国々がCPTPPで結束を固める流れが加速するだろう。

対する中国が実質的な旗振り役の貿易協定RCEPは2022年に発効し、15カ国の巨大市場を誇るが、自由化が中途半端である。関税削減は緩く、ルールも甘いのだ。市場は巨大だが、深みがない。CPTPPの方が関税戦争で頼りになる選択肢である。特に貿易に命をかける国にはたまらない魅力だ。だが、成果は政治と情勢次第である。中国はCPTPPに入れず、RCEPでも勝てない。固定相場制の足枷もあり、関税戦争では完全に不利なのだ。

日本はCPTPPの旗を振って仲間を増やし、厳しいルールで自由貿易を推進すべきだ。日本も含めた加盟国全体を豊かにし、関税戦争のバカバカしさと、中国のような手前勝手な国の不利な状況を世界に見せつけるのだ。それでこそ、日本の存在感が世界中に響くことになる。日本が動かなければ、誰が動く。自由貿易の旗を掲げて、米中の鼻を明かすのが日本の使命である。

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