まとめ
- トランプ大統領が日本と中国の通貨安誘導を批判し、不公正な貿易条件を是正するために追加関税を課す可能性を示唆したこと。
- 関税を簡単かつ効率的な解決策と位置づけ、発言後に円買い・ドル売りが進み円相場が上昇したこと。
トランプ米大統領は3日の記者会見で、日本や中国が通貨安を誘導していると批判し、これによる不公正な貿易を是正するために関税を活用すると述べた。日本からの輸入品にも追加関税を課す可能性を示唆し、関税が「簡単かつ効率的で公正さを生む」と強調。
中国の習近平国家主席や日本の首脳に通貨安をやめるよう伝えたと明かし、必要なら商務長官に指示して関税を引き上げると語った。この発言を受け、ニューヨーク外国為替市場では円買い・ドル売りが進み、円相場が1円以上上昇した。
【私の論評】トランプの相互関税が日本を直撃!消費税撤廃で米国製品輸入増か、関税戦争で景気後退か?
まとめ
- トランプ前大統領は「相互関税」導入を指示し、日本の消費税を非関税障壁と問題視した。
- 日本の消費税撤廃はGDPを3~5%押し上げ、米国からの輸入増加につながる可能性がある。
- しかし、輸入増加が米国製品に集中するとは限らないが期待はできる。
- 一方、米国の対日関税引き上げは、日本経済に打撃を与え、米国の輸出や供給網にも悪影響を及ぼす。
- 石破政権は迷わず消費税を撤廃し、日本経済の復活を図るべきである。
2025年2月14日、NHKや日本経済新聞が報じたところによると、トランプ大統領は「相互関税」の導入を指示する文書に署名した。これは、貿易相手国が米国製品に課す関税や規制と同等の関税を課すという方針である。その中で、日本の消費税が非関税障壁として問題視された。ホワイトハウス高官は「日本の関税は比較的低いものの、構造的な障壁が高い」と指摘した。トランプ氏はEUの付加価値税(VAT)を例に挙げ、「関税と本質的に同じ」と主張しており、同じ論理が日本の消費税にも適用される可能性がある。
日本の消費税撤廃が景気を刺激し、米国からの輸入を増やすか、それとも米国が日本製品に関税を課し、日本の景気が悪化することで米国製品の売上が落ちるのか。どちらのシナリオも経済理論上、成立しうる。
まず、日本の消費税撤廃の影響を考える。日本で消費税が撤廃されれば、消費者の可処分所得が増え、購買意欲が高まる。2025年3月時点で日本の消費税率は10%。これがゼロになれば、家計の実質的な購買力は大きく向上する。2014年に消費税が5%から8%に引き上げられた際、個人消費が落ち込み、GDP成長率がマイナスに転じた。逆に、消費税を撤廃すれば、内閣府の試算によるとGDPは3~5%押し上げられる可能性がある。
景気が回復すれば輸入需要も増し、米国産の農産物やエネルギー、工業製品の需要が拡大するかもしれない。日本は米国農産物の主要輸出先であり、年間約150億ドルを輸入している。消費税撤廃で日本の消費が活性化すれば、米国の農家にとっても追い風となる。結果として、米国の対日貿易赤字(2024年で約600億ドル)も縮小する可能性がある。
しかし、輸入増加が米国製品に集中するとは限らない。為替レートや中国、EUとの競争が影響し、米国製品が割高なら効果は限定的だ。さらに、日本の消費税は国家歳入の約20%(2024年で約22兆円)を占めている。撤廃による財政赤字の拡大が景気回復の足を引っ張るリスクも無視できない。2019年の消費税10%引き上げ時、政府は財政健全化を理由に増税を正当化した。今度はその逆の議論が巻き起こるだろう。
日本の消費税撤廃が景気を刺激し、米国からの輸入を増やすか、それとも米国が日本製品に関税を課し、日本の景気が悪化することで米国製品の売上が落ちるのか。どちらのシナリオも経済理論上、成立しうる。
まず、日本の消費税撤廃の影響を考える。日本で消費税が撤廃されれば、消費者の可処分所得が増え、購買意欲が高まる。2025年3月時点で日本の消費税率は10%。これがゼロになれば、家計の実質的な購買力は大きく向上する。2014年に消費税が5%から8%に引き上げられた際、個人消費が落ち込み、GDP成長率がマイナスに転じた。逆に、消費税を撤廃すれば、内閣府の試算によるとGDPは3~5%押し上げられる可能性がある。
景気が回復すれば輸入需要も増し、米国産の農産物やエネルギー、工業製品の需要が拡大するかもしれない。日本は米国農産物の主要輸出先であり、年間約150億ドルを輸入している。消費税撤廃で日本の消費が活性化すれば、米国の農家にとっても追い風となる。結果として、米国の対日貿易赤字(2024年で約600億ドル)も縮小する可能性がある。
しかし、輸入増加が米国製品に集中するとは限らない。為替レートや中国、EUとの競争が影響し、米国製品が割高なら効果は限定的だ。さらに、日本の消費税は国家歳入の約20%(2024年で約22兆円)を占めている。撤廃による財政赤字の拡大が景気回復の足を引っ張るリスクも無視できない。2019年の消費税10%引き上げ時、政府は財政健全化を理由に増税を正当化した。今度はその逆の議論が巻き起こるだろう。
一方、米国が日本製品に高関税を課した場合、日本経済は深刻な打撃を受ける。日本の輸出産業はGDPの15~20%を占め、米国は最大の輸出先の一つだ(2024年時点で約20%)。日本経済新聞の試算では、米国が25%の追加関税を課した場合、日本の対米輸出が年間約5兆円減少し、GDP成長率は0.8~1%低下するとされる。
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1980年5月10日、米ミシガン州で日本の乗用車にハンマーを振るう自動車工場をレイオフ(一時解雇)された男性。 |
1980年代の貿易摩擦の際、米国は日本車の輸入を制限し、日本の自動車メーカーは苦境に立たされた。しかし、現地生産を増やすことで対応した歴史がある。だが、今回は関税が広範囲に及ぶ可能性があり、日本全体の景気後退が避けられない。そうなれば、日本の消費が冷え込み、米国からの輸入、特に高価格帯の消費財や資本財の売上が落ちる。2020年のコロナ禍でも、日本の消費が低迷し、米国産農産物の輸入が一時的に減少した例がある。
さらに、日本が報復関税を検討する可能性もある。2025年2月の報道では、日本政府がその準備を進めているとの情報がある。そうなれば、米国の輸出産業は二重の打撃を受ける。日本からの部品供給が滞れば、米国のサプライチェーンにも混乱が生じる。2021年の半導体不足の際、米国の自動車生産が遅延した事例を思い出せば、その影響の深刻さは明らかだ。
短期的には関税の引き上げが米国の歳入を増やし、国内産業を保護する効果があるかもしれない。しかし、日本経済の悪化が波及すれば、米国の輸出減少や供給網の混乱を招き、長期的にはマイナスの影響が避けられない。
日本の長期停滞の原因は金融政策の失敗にある。1990年代以降、日本銀行はマネタリーベースを十分に拡大せず、デフレ期待を払拭できなかった。2023年にインフレ率が一時2%を超えたが、これはエネルギー価格上昇などのコストプッシュ型であり、需要拡大によるインフレではなかった。
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日銀植田総裁 |
FRBは2021年、大規模な金融緩和を実施し、インフレ率を一時10%近くまで押し上げた。これにより消費と投資が刺激され、米国のGDP成長を支えた。しかし、日本銀行の慎重な姿勢が続いた結果、日本では同様の効果が見られなかった。
ユーロ圏では、ECBがマイナス金利政策と資産購入を進め、インフレを回復させた。中国は為替介入と信用統制で通貨安を維持しつつ、インフラ投資で内需を補完している。これらの国と比較すると、日本の金融政策の停滞が際立つ。
総合的に見れば、日本の消費税撤廃による景気刺激が、米国からの輸入増加につながる可能性が高い。関税の引き上げは短期的な効果しかなく、日本経済の縮小が米国にも跳ね返るリスクがある。伊藤忠総研の試算では、関税戦争がエスカレートすれば、米国のGDP成長率は0.5~1%低下する可能性がある。
石破政権は迷うことなく消費税を撤廃すべきだ。トランプ大統領のように、ドラスティックな政策も厭わない相手には、こちらもそれ相当の政策をすべきだ。それに、財政再建などという言い訳で国民を苦しめるべきではない。日本経済の復活には、思い切った決断が必要なのだ。
先日も当ブログに掲載したように、安全保障面では、海自護衛艦台湾海峡初の単独通過という政治決断をした石破首相だが、経済面では同様なドラスティックな決断ができるのだろうか。
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