2025年3月7日金曜日

米国は対ロシア制裁強化も辞さず、和平につながるなら-ベッセント氏―【私の論評】米国がロシアとイランを締め上げる制裁の本質、ウクライナのためだけではない

米国は対ロシア制裁強化も辞さず、和平につながるなら-ベッセント氏

まとめ
  • ロシア制裁、「最大限の効果もたらすべく積極的に活用される」
  • 対イラン制裁も強化、石油セクターを「シャットダウン」へ-長官

ベッセント米財務長官

ベッセント米財務長官は6日、ウクライナ停戦のためならロシア産エネルギーへの追加制裁も検討すると述べた。ニューヨークの講演で、トランプ大統領の指示に基づき対ロシア制裁を積極活用すると話し、停戦交渉での影響力増を期待。バイデン前政権の制裁躊躇を批判し、イランへの制裁強化も表明、石油セクターを「シャットダウン」して再び破産させると語った。

原題:US Won’t Hesitate on Russia and Iran Sanctions, Bessent Says (1)(抜粋)

【私の論評】米国がロシアとイランを締め上げる制裁の本質、ウクライナのためだけではない

まとめ
  • 制裁の概要: 米国はロシアとイランに制裁を課す。ロシアは2022年のウクライナ侵攻以来、エネルギーや軍事産業が対象。2025年1月、250の個人・団体が追加された。イランは核開発やロシア支援で、2025年2月に石油産業が締め上げられた。
  • 背景: イランは2024年9月の国連報告でロシアへのミサイル供与が発覚。2024年米選挙介入疑惑も制裁理由。トランプ政権はイラン石油をゼロに近づける計画だ。
  • 継続性: ロシアへの制裁は2025年3月7日時点で継続。トランプは和平次第で緩和を示唆。イランは新制裁で石油輸出を潰す方向だ。
  • 誤解の否定: 「ウクライナばかり厳しい」は誤り。2025年2月、インド・UAEとイラン石油摘発。ロシアとの和平論もあるが、裏切りリスクで単純ではない。
  • 本質: 制裁は軍事力疲弊が目的。2025年3月IMFはロシア成長を報告するが、2024年12月国防総省は兵器開発遅れを指摘。イランも勢力削減が狙いだ。

米国によるロシア制裁(sanctions)は、ウクライナ戦争のためだけではない

米国がロシアとイランに突きつける制裁は、ただの経済圧力ではない。そこには国際政治のドロドロした力学が渦巻いている。まずはロシアだ。2022年、ウクライナに軍を突っ込んで以来、アメリカは容赦なく締め上げてきた。狙いは明確だ。エネルギー、金融、軍事産業をズタズタにして、ロシアの息の根を止めること。石油やガスの輸出を絞り、北極や深海での新プロジェクトを潰す。

2025年1月、米国務省がぶち上げた発表では、軍事産業を支える250もの個人や団体が新たに制裁の標的となった。中国経由の裏ルートまで叩き潰す気満々である。これぞ、ロシアの戦争マシンをぶっ壊し、同盟国と手を組むアメリカのしたたかな一手だ。

次にイランだ。これは1979年の大使館占拠からずっとアメリカとケンカ状態だ。最近では、核開発、ロシアへの武器支援、中東でのテロ資金ばらまきが制裁の火種である。2025年2月25日、米国務省がイランの石油・石油化学産業に絡む16の団体や船を新たに締め上げ、「最大圧力」をまたぶちかました。

なぜか。イランがロシアに弾道ミサイルを渡している証拠が暴露されたからだ。2024年9月、国連で公開された報告書がそれを白日の下に晒した。イラン製ミサイルがウクライナ戦場で火を噴いてるなんて、ゾッとする話だ。さらには、2024年の米大統領選に介入した疑惑で、イラン革命防衛隊(IRGC)の連中も制裁の網に引っかかった。圧力は全方位だ。


この制裁は、続くのだろうか? 新たな一撃はあるのか? 答えは簡単ではない。ロシアを見ろ。バイデン時代に作った制裁の鉄の枠は、2025年3月7日時点で未だ残っている。1月20日にトランプ政権が船出した今も、ウクライナ戦争がくすぶっている限り、方針は揺るがないだろう。

だが、トランプは一筋縄ではいかない。「ロシアが和平交渉に乗るなら、制裁を緩める余地もある」と、2025年2月20日のブルームバーグで口にした。3月4日のロイター報道では、ホワイトハウスが条件付きで緩和をチラつかせてるという話しもある。実際、2024年末にはトランプ陣営がウクライナと接触し、停戦の糸口を探ってたらしい。制裁は外交の切り札だ。

イランはどうだ。トランプは核合意(JCPOA)をゴミ箱に叩き込んで、「最大圧力」をガンガン進める気だ。ベッセント財務長官が吼えた。「イランの石油をシャットダウンする。計画はもう動いてる」。石油輸出をゼロ近くまで絞り、経済を再び破産させる魂胆だ。2025年2月の制裁強化はその第一歩。

2020年、トランプがイランの石油を日量50万バレル以下に叩き落とした再現を狙ってるって、専門家も騒いでる。ロシアとの軍事タッグをぶち壊す意味でも、新たな制裁がどんどん追加される可能性は大きい。

2025年1月、ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)での討論会(注: CSISと推定。公式記録は未確認で、他の可能性もあり得る)で、専門家が叫んだ。「イランの石油マネーを断てば、ロシア支援も終わる」。アメリカの政策屋もその線に乗り気だ。

最近は、「アメリカはウクライナにばかり厳しい」などという声があるが、その見立ては間違っている。ロシアやイランの締め上げは、ウクライナ支援と肩を並べて進んでいる。ロシアに遠回しにプレッシャーをかけるイラン制裁は続いている。2025年2月、インドやUAEと組んでイラン石油の裏輸出を摘発した動きは、それが続いている証だ。アメリカは世界の安全保障を睨んだ多面作戦を繰り出しているのだ。

トランプ政権の安全保障チームには、こんな声もある。「ロシアと握ってでも、欧州のグダグダ戦争を終わらせよう。欧州の安保は欧州人に押し付けろ」。2025年2月、ヘリテージ財団の報告書がそう吠えた。「ロシアとのケンカを緩めて、中国に集中すべきだ」。しかし、米国が中国とバチバチやってる最中にロシアに裏切られたらどうする?

 2014年のクリミア併合で、西側との約束を平気でぶち壊したロシアだぞ。トランプだって、2024年選挙戦で「ロシアは信用ならん。しかし交渉で押さえ込む」とハッキリ言った。対ロシア戦略は単純ではない。トランプは和平模索と中国牽制の二刀流で、制裁の緩急を巧みに操るだろう。

ロシアが併合したウクライナ南部クリミア半島セバストポリの街頭に掲げられた、プーチン露大統領のポスター

何にせよ、単純で薄っぺらい見方では、この本質は掴めない。ロシア制裁がウクライナのためだけだけなどという見方は噴飯ものだ。2025年3月のIMF報告では、ロシア経済が制裁下で2.1%成長だとぬかしてる。効果がない? こういう連中は、大きな戦争を遂行するための戦争経済においては、GDPが伸びるという経験則を知らないようだ。米国の本当の狙いは、GDPがどうのこうのという前に、ロシアの軍事力をジワジワ疲弊させることだ。

2024年12月、国防総省が「ロシアの軍事予算が圧迫され、新兵器が遅れている」と暴露した。イラン制裁も同じだ。経済的締め付けなどは表層に過ぎない。本当の狙いは、中東でのイランの勢力を削ぎ、ロシアとの連携を断つことだ。2025年2月、シリアでイラン支援の民兵が後退したニュースがそれを証明してる。

表向きの経済数字や外交の甘言に騙されず、裏の戦略と、長期の視点で見るべきだ。ロシアとイランへの制裁は、両国の経済と軍事力を削ぐため続いている。トランプ政権でもその流れは変わらない。ロシアは和平交渉で緩む隙があるが、イランは石油と軍事支援への新制裁でガチガチに締め上げられる公算大だ。

ウクライナや中東の動き次第で、どうなるかまだ流動的だ。ロシアが停戦飲めばある程度、制裁が軽くなるかもしれないし、イランが核を加速させればさらに制裁はきつくなるだろう。しかし、米国がロシアと握って中国と対峙するなどとう単純な見方だけでは、現実を見誤ることになるだろう。

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