- 熊本で最大震度7を観測した地震は、国土強靱化が成長戦略の前提であることを改めて突きつけた。
- 高市政権の17戦略分野を成功させるには、道路、港湾、電力、通信、上下水道を一体で強化しなければならない。
- 野党がすべきなのは審議拒否ではない。国会で予算と優先順位を問い、我が国を災害に強い国へ変える政策競争である。
前文 犠牲となられた方々に、心より哀悼の意を表する
7月28日午後4時27分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で最大震度7を観測した。その後、嘉島町の商業施設などで死者が確認され、負傷者や安否不明者も出ている。犠牲となられた方々に心より哀悼の意を表するとともに、ご遺族、被災された皆様に深くお見舞い申し上げる。被害の全容はいまだ明らかではなく、救助活動も続いている。まずは人命救助、負傷者の治療、避難場所の確保、電気、水道、通信、道路などの復旧を最優先しなければならない。(FNNプライムオンライン)
高市総理は地震発生直後、関係省庁に対し、被害状況の早急な把握、自治体との緊密な連携、人命第一の救命・救助、国民への適時的確な情報提供を指示した。政府、自衛隊、警察、消防、海上保安庁、自治体、医療関係者には、なお総力を挙げて被災地を支えていただきたい。(内閣官房)
そのうえで、今回の地震は我が国に、改めて重い現実を突きつけた。日本は地震、津波、台風、豪雨、洪水、土砂災害、豪雪、火山噴火が、いつ、どこで発生しても不思議ではない自然災害大国である。
その我が国で、道路、橋、港湾、空港、鉄道、上下水道、電力、通信といった基盤が脆弱なまま、半導体やAI、防衛、医薬品などの戦略産業を育成すると唱えても、計画は砂上の楼閣となる。
国土が強くなければ、産業も強くならない。
減災と国土強靱化は、数ある成長政策の1項目ではない。すべての産業政策、国民生活、国家安全保障を成立させる土台である。
1️⃣国土強靱化なくして成長戦略は成り立たない
高市政権は7月21日、「日本成長戦略」を閣議決定した。AI・半導体、防衛産業、航空・宇宙、造船、量子、創薬・先端医療、資源・エネルギー安全保障など17の戦略分野を定め、官民投資を促す方針を示している。
ここで決定主体を正確に区別しておきたい。「日本成長戦略」そのものは閣議決定である。一方、「戦略17分野における主要な製品・技術等の官民投資ロードマップ」は、日本成長戦略本部の決定である。内閣官房の「日本成長戦略本部/日本成長戦略会議」にも、この違いが明記されている。
戦略17分野では、政策支援を重点化する主要な製品や技術が示され、2040年度までに官民合わせて累計370兆円を超える投資を見込んでいる。この数字は政府支出だけを意味するものではなく、民間投資を含む官民投資の目標である。したがって、370兆円がそのまま国の財政支出になるわけではない。
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長く続いた緊縮財政と産業空洞化から脱却し、政府の先行投資によって民間投資を呼び込む。その方向は正しい。我が国には、政府は何もせず市場に任せればよいと言っている余裕はない。半導体、医薬品、エネルギー、防衛装備、重要部素材の供給力を国内に再構築し、国民生活と安全保障を支える国家資産を形成しなければならない。
だが、巨大な半導体工場を建てても、地震で道路や港湾が寸断されれば、原材料も製品も運べない。データセンターを増設しても、発電設備や送電網が被災すれば動かない。医薬品工場を国内へ戻しても、水道や物流が停止すれば、必要な薬を病院へ届けられない。造船所、防衛関連工場、製油所、燃料基地も同様である。
工場の建物だけを耐震化すれば済む話ではない。工場へ通じる道路、橋、港湾、電力網、通信網、上下水道、燃料供給網まで含め、地域全体を強くしなければならない。産業拠点を造るとは、建物を1つ建てることではない。災害時にも生産と物流を維持し、停止しても短期間で復旧できる地域基盤を整えることである。
災害が起きるたびに「想定外だった」と繰り返し、後から復旧費を計上するだけでは遅い。災害前に壊れにくくし、被災しても機能を完全には停止させず、停止した場合も迅速に復旧させる。それが減災であり、国土強靱化である。
自然災害そのものをなくすことはできない。しかし、死者や負傷者を減らし、孤立集落、停電、断水、通信障害、物流停止、産業停止を抑えることはできる。被害が起きてから支出する復旧費だけを「必要な財政」と考えるのではなく、被害を未然に抑える公共投資を、国家の先行投資として位置づけなければならない。
橋を補修し、緊急輸送路を多重化し、河川や堤防を強化する。港湾を耐震化し、老朽化した上下水道を更新し、電力と通信の経路を複線化する。病院、学校、庁舎、避難所を災害時にも使用できるようにする。
これらは単なる土木事業ではない。国民の生命と暮らしを守り、企業の生産継続能力を高め、地域の供給力を維持する国家資産形成である。
2️⃣高市政権の国土強靱化は前進だが、規模と実行力を検証せよ
政府は2025年6月、第1次国土強靱化実施中期計画を閣議決定した。この計画は2026年度から2030年度までを対象とし、「推進が特に必要となる施策」の事業規模として、5年間でおおむね20兆円強を目途としている。計画の本文、概要、個別施策は、内閣官房の「第1次国土強靱化実施中期計画」で確認できる。
ここでも決定主体を混同してはならない。第1次国土強靱化実施中期計画は閣議決定である。一方、毎年度の施策や進捗を示す国土強靱化年次計画は、内閣総理大臣を本部長とする国土強靱化推進本部が決定する。2026年の年次計画を含む資料は、内閣官房の「国土強靱化基本計画・年次計画」に掲載されている。
国土強靱化を毎年の補正予算だけに頼らず、複数年度の計画として進めることには大きな意味がある。資材価格と人件費が上昇し、建設業の人手不足も深刻化する中、企業や自治体が技術者、作業員、重機、資材を確保するには、将来の発注量を見通せなければならない。年度末に工事を集中させる単年度主義も改める必要があり、その意味で実施中期計画は明らかな前進である。
しかし、5年間で20兆円強が十分かどうかは、厳しく検証しなければならない。対象は道路や橋だけではない。河川、砂防、港湾、空港、鉄道、上下水道、学校、病院、庁舎、避難施設、発電設備、送電網、通信設備など、全国に膨大な社会基盤が存在する。その多くは高度経済成長期以降に整備され、同時期に老朽化を迎えている。
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また、「20兆円強」は国の一般会計から直接支出される金額だけを指すものではない。政府資料上の事業規模には、財政投融資の活用や民間事業者による事業も含まれる。この考え方は、先行する「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」でも明記されている。
したがって、20兆円という名目額だけを見て十分だと判断することはできない。問われるべきは、実際にどれだけの施設を、いつまでに強化できるのかである。物価上昇によって工事単価が上がれば、予算額が増えても整備量は増えない。計画を掲げても、技術者や施工企業が不足すれば工事は進まない。
必要なのは、どこを、なぜ、どの順序で守るのかという明確な優先順位である。どの道路を災害時の緊急輸送路として強化するのか。どの橋を優先して架け替えるのか。どの港湾を広域物流の代替拠点とするのか。どの地域で電力網、通信網、上下水道を多重化するのか。産業政策、安全保障政策、地域政策を一体として判断しなければならない。
特に、半導体、造船、防衛、エネルギー、医薬品など、国家の存続に関わる産業の集積地域では、工場と周辺インフラを一体的に強靱化すべきである。工場への補助金だけを支出し、その工場につながる道路、港湾、電力、水道が脆弱なままでは、政策として片手落ちである。
高市政権には、17分野の成長戦略と国土強靱化計画を別々に扱うのではなく、1つの国家投資戦略として統合することを求めたい。産業を育てる場所と、守るべきインフラを重ね合わせ、災害時にも国民生活と生産活動を維持できる国土へと再設計すべきである。
3️⃣野党は審議拒否ではなく、国土強靱化の具体論を問え
今回の成長戦略には、野党が追及すべき問題がいくらでもある。17分野のうち何を最優先するのか。官民370兆円超という投資目標は、どのような前提で積み上げられたのか。政府支出と民間投資は、どのように区別されているのか。工場や研究施設を誘致する地域の道路、港湾、電力、通信、上下水道は、大規模災害に耐えられるのか。
支援を受けた企業に、国内生産、国内雇用、技術保全をどこまで求めるのか。中国をはじめとする国外への技術流出を、どう防ぐのか。災害によって供給網の一部が止まった際、代替生産と代替輸送をどう確保するのか。これらを政府に問うことこそ、本来の野党の仕事である。
ところが、6月末から7月上旬にかけ、野党は衆議院議員定数削減法案や副首都関連法案の審議入りに反発し、衆参両院で審議を拒否した。与党側の委員長が質疑を進めようとしても、野党委員が欠席し、審議時間だけを消化する「空回し」が行われた。経緯は、テレビ朝日の「与党は審議強行、野党は2日連続欠席」や、関西テレビの「野党は全面審議拒否で対抗」で確認できる。
野党側は、高市総理が出席する予算委員会の集中審議と党首討論を求める一方、定数削減法案と副首都関連法案の成立断念を国会正常化の条件とした。国会審議が止まっていた当時の状況については、テレビ朝日の「終盤国会、審議ストップ」が詳しい。
しかし、総理の出席要求や特定法案への反対が、他の法案や委員会まで一括して止める理由になるわけではない。衆議院選挙で大勝した政権には、国民から与えられた政策実行の正統性がある。多数を得た与党が法案を提出し、審議を進め、最終的に採決することは、議会制民主主義の通常の手続きである。
野党には政府を批判し、資料を要求し、法案の欠陥を明らかにし、修正案や対案を提出する権利がある。参議院で多数を形成できるなら、法案を否決し、修正を迫ることもできる。それが国会である。
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だが、自ら審議の場を離れ、他の政策まで止めることは、政府を監視する行為ではない。国民が政策の中身を知り、その是非を判断する機会まで奪う行為である。
その後、高市総理が出席する党首討論は7月15日に開かれた。開催自体は、衆議院の「第221回国会・国家基本政策委員会合同審査会」および「会議録」で確認できる。
総理が国会で答弁する機会は、最終的には設けられたのである。それでも、その実現まで他の審議を止めた野党の手法が妥当だったことにはならない。
審議を拒否している間にも、インフラは老朽化する。橋は傷み、水道管は腐食し、道路の地下では空洞化が進む。地震も台風も、国会の日程闘争が終わるのを待ってはくれない。
熊本で震度7の地震が発生した今、野党は自らに問うべきである。委員会を止めることが、被災地の救援につながるのか。審議拒否が、老朽インフラの更新を1日でも早めるのか。政権への抵抗を演出することが、次の災害による犠牲を減らすのか。
答えは明らかである。何も生み出さない。
政府案に問題があると思うなら、国会に出て追及すればよい。予算が足りないと思うなら、増額案を示せばよい。優先順位が間違っていると思うなら、具体的な代案を提出すればよい。原発再稼働に反対するなら、災害時にも病院、上下水道、通信設備、半導体工場へ安定して電力を供給できる現実的な代替案を示すべきである。
それができないまま審議拒否を繰り返す野党は、政府を監視しているのではない。自らの政策能力の欠如を、日程闘争によって覆い隠しているにすぎない。
結論 強い国土が、強い産業をつくる
今回の地震は、我が国が自然災害から逃れられない国であることを改めて示した。だからこそ、我が国は災害に屈しない国をつくらなければならない。
災害を完全に防ぐことはできない。しかし、道路と橋を強くし、電力と通信を多重化し、上下水道を更新し、港湾、病院、学校、避難施設を強靱化することで、被害は減らせる。救援と復旧に要する時間も短くできる。国民生活への打撃と産業停止を最小限に抑えることも可能である。
国土強靱化は、成長戦略に後から付け足す政策ではない。実際、政府の17の戦略分野にも「防災・国土強靱化」が含まれている。しかし、本来は17分野の1つにとどめるべきものではない。AIも、半導体も、造船も、防衛産業も、医薬品も、エネルギーも、強い国土の上でしか育たない。
高市政権が本気で我が国を再び「造れる国」にしようとするなら、17の戦略分野と国土強靱化を一体化しなければならない。政府は、第1次国土強靱化実施中期計画を着実に実行するとともに、資材価格、人件費、施工能力、インフラの老朽化、巨大地震の危険を踏まえ、必要ならば事業規模を拡大すべきである。
国債発行を当然の前提として、国民の生命と供給力を守るために必要な投資をためらってはならない。
将来世代に残してはならないのは、国債ではない。
崩れかけた橋、破裂する水道管、寸断される道路、停電する病院、使用不能となる港湾である。
耐震化された道路、更新された水道、強い港湾、多重化された電力と通信は、将来世代に残る国家資産である。それは災害時だけでなく、平時の国民生活、企業活動、地域経済を支え続ける。
そして野党は、審議拒否によって政権の足を引っ張るのではなく、国土強靱化をさらに前へ進める政策競争に参加すべきである。それができないのであれば、少なくとも国民が選挙で選んだ政権の政策実行を、日程闘争によって妨害すべきではない。
審議拒否する暇があるなら、国土を守れ。
強い国土なくして、強い産業はない。強い産業なくして、我が国の繁栄も安全もない。
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