2026年9月27日日曜日

石油危機から半世紀、日本は石油依存を減らした――それでも残るエネルギー安全保障の穴


 まとめ
  • 日本は石油危機後、石油依存を大幅に下げ、電源分散、省エネルギー、LNGの世界的調達網、LPGの供給先転換を進めてきた。日本の半世紀を単純な「中東依存の失敗」と見るのは正しくない。
  • 一方、中東は現在も原油だけでなく、石油製品、ナフサ、化学品、アルミニウムなど、日本の産業を支える重要物資の供給地である。したがってホルムズ問題は、原油価格だけではなく供給網全体の問題として見る必要がある。
  • 次の課題は中東依存率を機械的に下げることではない。備蓄、代替調達、原子力、LNG、国内電源、海運、基礎素材の調達分散を組み合わせ、一つの供給源が止まっても日本経済を止めない「日本版エネルギードミナンス」を構築することである。

1973年の第一次石油危機から半世紀以上が過ぎた。現在のホルムズ海峡をめぐる危機を見ると、日本が輸入する原油の9割以上が同海峡を経由しているという数字が目につく。しかし、この数字だけを見て「日本は石油危機から何も学ばなかった」と考えるのは正しくない。

実際、日本はこの半世紀で石油への依存そのものを大幅に減らしてきた。発電では石油火力を主役から降ろし、LNG、原子力、石炭、再生可能エネルギーなどへ電源を分散した。産業界では省エネルギーが進み、LNGでは世界各地から調達する巨大な供給網を築いた。LPGでも中東依存を大幅に引き下げている。

つまり、石油危機後の日本のエネルギー政策は、少なくとも「石油一本足打法から脱する」という点では相当程度成功した。

では、なぜ現在のホルムズ危機がこれほど重要なのか。

理由は単純である。石油への依存は下がっても、日本が中東から調達する重要物資がなくなったわけではないからだ。原油だけでなく、石油製品、ナフサなどの石油化学原料、アルミニウムを含む非鉄金属、有機化合物など、日本の産業を支える物資が中東から入っている。

したがって、今回考えるべき問題は「日本はまだ石油に依存している」という話ではない。

石油依存をかなり減らした日本が、それでも残る中東との供給網を、危機のときにも止めないために何をすべきか。

ここが本稿の中心である。

1️⃣日本は石油危機から相当程度、学んできた

1973年10月、第四次中東戦争を契機として産油国による供給制限や価格引き上げが進み、原油価格が急騰した。当時の日本は一次エネルギー供給の75.5%を石油に依存しており、物価高騰や物不足が社会を直撃した。第一次石油危機が日本のエネルギー政策を根本から変えた経緯は、資源エネルギー庁「日本のエネルギー、150年の歴史」に整理されている。

日本がその後に行ったのは、単なる原油輸入先の変更ではない。石油そのものへの依存を減らし、原子力、天然ガス、石炭などへエネルギー源を分散するとともに、省エネルギーを進めた。

石油危機後、日本のエネルギー構成は大きく多様化 AI生成画像 クリックすると拡大します
その成果は明確である。一次エネルギー国内供給に占める石油の割合は、1973年度の75.5%から2024年度には34.5%まで低下した。資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」で確認できるように、日本経済全体で見れば石油依存度は石油危機当時の半分以下になっている。

発電では変化がさらに大きい。2023年度の発電電力量を見ると、LNG32.9%、石炭28.3%、新エネルギー等15.3%、原子力8.5%、水力7.6%に対し、石油等は7.4%である。資源エネルギー庁「エネルギー動向2025年6月版」が示すように、発電を石油に大きく依存していた時代から、複数の電源を組み合わせる構造へ移行した。

産業部門でも省エネルギーが進んだ。第一次石油危機以降、日本の製造業は生産を伸ばしながらエネルギー効率を改善してきた。背景には設備の効率化に加え、素材型産業から加工組立型産業への産業構造の変化もある。資源エネルギー庁「部門別エネルギー消費の動向」を見ると、日本は「別の石油を探す」だけではなく、そもそも同じ経済活動に必要なエネルギー量を減らしてきたことが分かる。

LNGとLPGも重要である。日本は国内に巨大な天然ガス田を持たない。それでも海外権益、長期契約、LNGタンカー、商社、受入基地、貯蔵・再ガス化設備を組み合わせ、世界各地から天然ガスを調達する巨大な仕組みを築いた。以前このブログで「日本はLNG帝国となった」と書いたのは、この構造を指している。

LPGではさらに大きな転換が起きた。資源エネルギー庁「エネルギー動向2025年6月版」によれば、LPガス輸入の中東依存度は2011年度の86.6%から2023年度には4.7%まで低下した。北米からの調達拡大によって、供給源を大きく組み替えたのである。

この半世紀を振り返れば、日本は石油危機から何も学ばなかったどころか、石油依存の低減、電源の分散、省エネルギー、LNG・LPGの調達多角化を着実に進めてきた。

それでも弱点は残った。

その最大のものが原油である。石油危機後、原油の中東依存度は1987年度に67.9%まで低下したが、その後再び上昇した。中国や東南アジアの産油国で国内需要が増え、日本への輸出余力が減ったことや、ロシア産原油の減少、中東の圧倒的な供給力などが重なったためである。資源エネルギー庁「原油の輸入先と中東依存度の推移」

したがって、現在の状況を正確に表現するならこうなる。

日本は石油依存そのものを大幅に下げることには成功した。しかし、なお必要とする原油については、中東への集中が再び進んだ。

2️⃣中東リスクは原油だけを見ても分からない

ここで視野を一段広げる必要がある。日本の石油依存度が低下したからといって、中東の重要性まで同じ割合で低下したわけではない。

2025年の日本の中東からの輸入を見ると、原油・粗油が圧倒的に大きい。しかし、それだけではない。石油製品、LNG、非鉄金属、有機化合物なども輸入している。JETRO「中東リスクと物流――日本と中東の貿易とホルムズ海峡封鎖の影響」によれば、日本の中東からの輸入はエネルギーを中心としながらも、その周辺に産業用素材の供給網が広がっている。

中東からは原油だけでなく、ナフサやアルミなど基礎素材も入る AI生成画像 クリックすると拡大します
その一つがナフサである。ナフサはプラスチックや化学製品の基礎原料であり、供給が滞れば影響は燃料価格だけにとどまらない。包装材、化学繊維、塗料、樹脂など、製造業の川下まで波及する。

2026年3月、経済産業省は中東情勢を受け、ナフサについても米国や南米などからの代替調達、国内精製、在庫活用によって供給を確保する方針を示した。経済産業省「2026年3月17日大臣記者会見」

アルミニウムも見落とせない。湾岸諸国は安価なエネルギーを背景に大規模なアルミ精錬産業を育ててきた。例えばUAEからの日本の輸入では、原油・石油製品が中心である一方、非鉄金属も一定の比重を占める。JETRO「アラブ首長国連邦の貿易投資年報」を見ると、日本にとってUAEは単なる産油国ではなく、基礎素材の供給国でもある。

サウジアラビアからも同様に、鉱物性燃料だけでなく、化学製品、有機化合物、非鉄金属を輸入している。JETRO「サウジアラビアの貿易投資年報」

ここから見えてくるのは、ホルムズ海峡の問題が「ガソリンが高くなるか」という話だけではないということだ。

原油が止まれば燃料に影響する。ナフサが止まれば化学製品に影響する。アルミニウムなどの素材輸送が滞れば、自動車、建材、電線、電子機器などへ影響が広がる。

ただし、ここから「中東から買うのをやめるべきだ」という結論を出すのも適切ではない。中東産原油には価格や供給量の面で合理性があり、湾岸のアルミ産業にも競争力がある。平時に経済合理性の高い供給源を利用することそのものは問題ではない。

本当に重要なのは、止まったときに代替できるかどうかである。

2026年の中東危機では、高市政権は国家備蓄などで時間を確保しながら、米国、中南米、アジア太平洋、中央アジア、アフリカ、カナダなどへ原油の調達先を広げた。6月11日の中東情勢に関する関係閣僚会議では、6月の代替調達量が必要量の約8割まで拡大し、7月には通常時に近い量をホルムズ海峡外から調達できる見通しが示された。

この事実は重要である。原油のホルムズ依存が高くても、備蓄、商社、海運、外交、製油所の対応力を組み合わせれば、危機時に供給ルートを切り替えることができる。

したがって、エネルギー安全保障を「中東依存率が何%か」だけで評価するのは不十分である。

平時の依存率より、有事の代替能力の方が重要なのである。

3️⃣依存率を下げるより、「止められない国」をつくる

ここまで整理すると、日本が次に目指すべき方向は明確になる。

それは、中東依存を数字合わせで引き下げることではない。中東との経済関係には大きな合理性がある。必要なのは、その合理性を利用しながら、一つの地域や航路に問題が起きても日本経済が止まらない体制をつくることである。

その原型は、すでにLNGで作っている。日本は国内に大規模な天然ガス資源を持たなくても、海外権益、長期契約、LNGタンカー、受入基地、商社、金融を組み合わせ、世界からエネルギーを確保する能力を築いた。LPGでも供給源を大きく転換した。

この能力を原油、電力、基礎素材まで広げるべきである。

LNG、原子力、地熱などを組み合わせる日本版エネルギードミナンス AI生成画像
原油については、中東産を利用しながら、北米、中南米、中央アジアなどの調達ルートも維持する。備蓄、タンカー、海上保険、港湾、製油所を一つの供給網として考え、危機時には速やかに切り替えられるようにする。

ナフサなど石油化学原料についても、複数の供給先を確保し、国内精製能力と在庫を維持する。アルミニウムなどの基礎素材については、調達先の分散だけでなく、国内リサイクルの拡大も重要になる。

電力では、安全性を大前提に原子力を最大限活用し、次世代革新炉を育てる。地熱、水力など国内で確保できる電源も重要である。LNG火力は調整力と安定供給の面で引き続き役割を持つ。省エネルギーも、CO2削減策というだけではなく、外国から買わなければならない資源の量を減らす安全保障政策として考えるべきだ。

高市政権も2026年8月26日のGX実行会議で、中東危機を受け、原油・ナフサの調達先多角化、石油関連製品の供給体制強化、安全性を前提とした原子力の最大限活用、次世代革新炉、次世代地熱などを組み合わせ、エネルギー需給構造を強靱化する方針を示している。

本稿でいう「脱・脱炭素」とは、CO2削減技術を否定することではない。脱炭素そのものを政策の最上位目的に置き、そこからエネルギー政策すべてを逆算する発想から脱するという意味である。

最上位に置くべきなのは、国民生活と産業に必要なエネルギーを、安定的に、十分な量を、許容可能な価格で供給できるかどうかである。その条件を満たしながらCO2も減らせるなら、それに越したことはない。

日本版エネルギードミナンスとは、米国のように大量の石油や天然ガスを自国で産出することではない。

一つの国、一つの地域、一つの航路、一種類のエネルギー源が止まっても、別の選択肢へ切り替えられる国家能力を持つことである。

さらに今回の中東危機は、対象をエネルギーだけに限定することもできないと示した。原油、ナフサ、化学品、アルミニウムなどは、日本の製造業の中で連続した供給網を形成している。

したがって、日本が目指すべきものを一言で表すなら、

「エネルギーと基礎素材を止められない国」

ということになる。

結語 日本は石油危機の次の段階へ進むべきだ

第一次石油危機から半世紀、日本は石油への依存を大幅に下げた。発電では石油火力を縮小し、LNG、原子力、石炭、水力、再生可能エネルギーへ分散した。産業では省エネルギーを進め、LNGでは世界規模の調達網を構築し、LPGでは中東依存を大きく減らした。

石油危機の教訓の多くは、すでに日本のエネルギー構造に反映されている。

それでも中東は重要である。原油だけでなく、石油製品、ナフサ、化学品、アルミニウムなど、日本の産業を支える物資が中東から入っているからだ。

だから問題は、「中東依存をなくすべきか」ではない。

経済合理性の高い中東との取引を続けながら、そこに何か起きても日本経済が止まらない能力を持てるかどうかである。

平時には合理的な供給源を利用する。有事には備蓄で時間を稼ぎ、別の国、別の航路へ切り替える。長期的には原子力、LNG、地熱、水力、省エネルギーなどによって海外資源への依存そのものを抑える。さらにナフサやアルミニウムなどの重要素材についても、供給先の分散と国内能力の強化を進める。

第一次石油危機の本当の教訓は、「石油を使うな」ではなかった。

一つの資源、一つの地域、一つの航路が止まっただけで、国全体が止まる構造を作るな、ということである。

日本は石油依存を減らすところまでは、相当程度やってきた。

次に必要なのは、エネルギーと基礎素材を含む供給網全体を、危機に強いものへ変えることだ。

日本に必要なエネルギードミナンスとは、外国を資源で支配することではない。

外国の事情だけで、日本の経済と国民生活が支配されないだけの選択肢を持つことである。

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