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2019年1月19日土曜日

TPP「拡大」打ち出して米国と中国を牽制―【私の論評】世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいる(゚д゚)!

TPP「拡大」打ち出して米国と中国を牽制


TPP協定発効記念式典で各国の関係者と談笑する安倍晋三首相
(中央右)と茂木敏充経済再生担当相(同左)=19日午後、首相官邸

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加11カ国が19日、新規加盟の拡大を目指すことで一致したのは、米中による貿易戦争が激化する中で、世界経済の先行きに不透明感が強まっているからだ。広い分野の関税撤廃と高水準のルールを共有する“仲間”を増やすことで、米国の保護主義的な動きや中国の不公正な貿易慣行を牽制(けんせい)する狙いだ。(大柳聡庸)

 現在、新規加盟に最も近いとされるのがタイ。近隣のベトナムに比べ農産品分野などで競争力が低下することに危機感を抱いているからだ。タイの加盟申請は総選挙後になるとみられる。2月末と想定されていた総選挙は延期の公算が大きいが、早ければ今年前半にも新規加盟に向けた交渉が始まる可能性がある。3月に欧州連合(EU)からの脱退を予定する英国も加盟に強い意欲を示す。

 TPPを離脱した米国の産品は関税が下がらず輸出競争力が低下するため、TPPに復帰を促す契機になる可能性がある。閣僚級会合で議長を務めた茂木敏充経済再生担当相は19日の記者会見で、「多くの国・地域の参加を期待している。米国も同様だ」と述べた。

 また、TPPは知的財産権の保護で模倣品などに対する厳格な規律をもうけるなど、高水準のルールを定めており、不公正な貿易慣行を続ける中国に対する抑止効果も期待できる。

 米中の貿易戦争は、中国による知財侵害に対し、米国が追加関税といった保護主義的な動きで対抗したのがきっかけだ。

 安倍晋三首相は会合で「不満が保護主義への誘惑を生み出し、国と国との間に激しい対立を生み出すが、私たちは時計の針を決して逆戻りさせてはならない」と述べ、米中の貿易戦争を念頭に、自由貿易体制の重要性を訴えた。

【私の論評】世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいる(゚д゚)!

TPP=環太平洋パートナーシップ協定の発効後、初めて参加11か国の閣僚らが集まり、本日加盟国の拡大に向け共同声明を発表しました。

環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)をめぐっては、冒頭の記事にあるインドネシアやタイだけではなく、台湾、コロンビアといった国や地域が新規加盟に関心を示しています。「TPPは世界とアジア太平洋地域の経済・貿易の発展に重要な意義を持つ」(台湾)などと、新規メンバーの早期受け入れを求める声も上がっています。

中でも注目されるのが、3月末に欧州連合(EU)からの離脱を控える英国です。離脱後は、米国などEU以外の国々との貿易関係の強化が急務となりますが、メイ英政権は各国との自由貿易協定(FTA)締結に加え、TPPへの加盟に意欲を見せています。

英国メイ首相

フォックス国際貿易相は先月30日のTPP発効に際し、「(英国が)TPPに参加すれば、カナダや日本のような古くからの友人との強い経済的な結びつきを固めることになるだろう」とする声明を出しました。今月10日の日英首脳会談で安倍晋三首相は、英国がTPPに加盟意欲を示していることを歓迎しています。

加盟希望国に共通しているのは、巨大な経済圏内に入ることによる輸出拡大など経済的な恩恵への期待感です。また、TPPの枠内で新たな国際ルールの整備が進めば、自国が取り残されるという警戒感もあります。

一方、TPP加入の積極論と慎重論がせめぎ合っている国もあります。

「TPP参加で板挟みにある韓国」

韓国の英字紙、コリア・タイムズ(電子版)は今月上旬、同国でTPP参加の可否が割れていると報じました。

TPPに入らないことで加盟国と比べて貿易面で不利な立場に置かれる恐れがある一方、加盟すれば関税の引き下げで自動車など日本製品との激しい競争に国産製品がさらされるとの懸念を指摘。そのため韓国政府は「取引に積極的に参加すべきかどうか迷っている」のが現状だといいます。

TPPの最大の意義は、米国の保護主義的な動きや中国の不公正な貿易慣行を牽制(けんせい)できる可能性が大きいことです。これに関しては、以前のこのブロクにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
TPP12月30日発効 世界GDPの13%経済圏誕生へ―【私の論評】最終的にはTPPのルールを世界のルールに(゚д゚)!
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 トランプ大統領が「TPPは正しい考え方ではなく、我々は貿易でTPP以上の成果を得られる」とTPPを否定する理由は、関税自主権を行使して、中国などとの貿易不均衡を是正したいからです。昨年のアメリカの対中貿易赤字は3470億ドル(約40兆円)。これを関税などによって解消しようというのが、米国の対中貿易戦争です。 
「弱いアメリカ」がTPP参加国とともに中国経済に対抗する方針から、「強いアメリカ」として二国間交渉で中国に臨む方針に変わったということのようです。そうして、米国は実際に対中国貿易戦争を開始しました。これは、もうトランプ政権による貿易戦争の次元から、超党派の米国議会による経済冷戦の次元にまで高まっています。
昨年1月23日、トランプ米大統領は選挙公約通り、TPPからの正式離脱に関する大統領令に署名した

おそらく、中国の体制が変わるまで、かなり長い間、米国は対中国制裁をやめないどころか、あらゆる手段を講じて、中国を追い詰めるでしょう。 
中国は、アメリカを抜いて世界の覇権を握ることを目指していますが、まだ米国と全面対決できるほどの力はありません。 
米国が問題視している国際貿易機関(WTO)で規定されていない、知的財産権や技術移転要求については、日本は米国に協調できます。その手段として考えられるのがTPPの活用です。米国が中国に対して懸念していることのすべてはTPP協定でカバーしています。 
タイ、インドネシア、台湾、英国、コロンビアなどを加入させてTPPが拡大し、また米国がTPPに復帰するなら、TPPは巨大な自由貿易圏を形成することになります。そうなると、中国もTPPに参加せざるを得なくなります。その時、中国に知的財産権や投資についての高度な規定を課すことができます。努力すべきはTPP参加国の拡大です。 
ただし、中国はTPPに加入するということになれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という構造改革を実施しなければなりません。これを実行しなければ、TPPには加入できません。 
この構造改革を実施することになれば、中国共産党は、統治の正当性を失うことになるでしょう。それは中共の崩壊を意味します。 
最悪、米国や中国がTPPに参加しない場合でも、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。 
TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国も反対できないでしょう。 
この段階まで来ると、中国は中共を解体してもTPP協定を含むWTOに入るか、中共を解体せず新WTOにも入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国が待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。
米国が中国に対して懸念していることの全てはTPP協定がカバーしています。これは、当然米国も理解しているでしょう。だから、TPPから脱退したトランプも、良い条件が得られるならという留保を付けたにせよ、TPPに復帰してもよいという発言をしたのでしょう。

タイ、インドネシア、韓国、台湾、イギリス、コロンビア等を加入させてTPPが拡大し、また、米国がTPPに復帰して来るなら、TPPは巨大な自由貿易圏を形成することになります。そうなると、中国もTPPに参加せざるを得なくなるか、参加せず(参加することは中国社会の構造改革をすることを意味する)に米国の制裁を受け続け経済的にかなり弱体化し他国に対する影響力を失うことになります。

農地の視察をする習近平(中央)

いずれにせよ、TPP「拡大」は、米国と中国を牽制するだけではなく、混沌とする世界に新たな秩序をもたらし、世界を救うことにつながることになります。

このTPPを日本という軍事的・経済的覇権によらない国が旗振り役を務めたということが大きいです。

最早世界は、軍事・経済的覇権によって振り回され続けることに倦んでいるのだと思います。ここに、日本が世界でリーダーシップを発揮できる好機が訪れたともいえます。

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2019年1月9日水曜日

欧州の混乱とトランプの米国第一主義、世界は混迷の時代へ―【私の論評】TPP11が世界を変える一里塚となる(゚д゚)!

岡崎研究所 

 12月13日付のProject Syndicateのサイトで、米外交問題評議会のリチャード・ハース会長が、欧州の混乱について、米国の助けが当てにできない以上、欧州は自力で対処する他ないと述べているので、以下に紹介する。

ポーランドの画家、ズジスワフ・ベクシンスキー(1929年 - 2005年、享年75歳)の作品 タイトルなし

 欧州が混乱している。パリの一部は炎上し、英国は、Brexit に疲労し分断されている。イタリアは、EUの予算ルールに抵抗する厄介な左派・右派連立政権である。ドイツは政治的再編と格闘している。ハンガリーとポーランドは非自由主義的政権を擁している。

 フランスと欧州中の極右が、第二次大戦後の政治的秩序を脅かすために経済的・文化的ポピュリズムを利用している。イタリアの左右ポピュリスト連立はまさにそれである。英国とEUとの関係は、亀裂が入ったままであろう。一方、プーチンがウクライナ等への攻撃で満足するか、全く定かではない。さらに、不平等、暴力、気候変動が悪化している世界にあって、移民による圧力は増大するだろう。グローバルな競争が強まり、多くの職を奪う新技術が 生まれている世界において、経済的再編は不可避であろう。

 欧州の民主主義、繁栄、平和の将来は、不確実になってきている。こうした展開は、単一の理由では説明できない。フランスのデモは新税を拒否する左派のポピュリズムである。これは、欧州中で極右の台頭を促している要因とは異なる。EUはあまりに官僚的でエリートによる指導が続き過ぎた。一方、ロシアによる新たな侵略は、プーチンが更なる行動で失うものはないと判断したことを反映しているのかもしれない。    

 欧州は、民主国家の最大の集合体である。20世紀、欧州大陸の秩序崩壊のコストが一度ならず示された。欧州の混乱を説明できる理由は一つではないのだから、答えも一つではない。しかし、助けになる政策は存在する。安全保障、人権、経済的競争力とバランスの取れた包括的な移民戦略は、そうした政策の一つである。どれだけのお金が必要かに焦点を当てた防衛政策は、欧州の安全保障を強化する。さらに、NATOとウクライナの防衛強化により、抑止力を高めるべきである。欧州がロシアの天然ガスから離れること、すなわちノルドストリーム2計画を止めることは、意味がある。そして、グローバル化とオートメーション化で職が失われる労働者を再訓練することが必要である。

 これらの政策課題の多くは、米国の関与と支援があれば有益である。米国が EUを敵視しNATOをタダ乗りするものと見るのを止めれば、助けになる。欧州には、ロシアの侵略抑止、グローバルな貿易・投資の枠組みへの西側の利益に沿った形での中国の取り込み、気候変動の軽減、サイ バー空間のルール作り等について米国と協働する用意のある国々がある。しかし、こうしたアプローチは、近い将来トランプからは出てきそうにない。欧州は、自力で混乱と戦うしかない。

出典:Richard N. Haass,‘Europe in Disarray’,(Project Syndicate, December 13, 2018)
https://www.project-syndicate.org/commentary/growing-threats-to-europe-democracy-security-by-richard-n--haass-2018-12

 欧州が混乱しているのは事実である。その要因はいろいろあるが、その中でも移民問題の影響が大きい。EUを指導してきたメルケルの地位を危うくしたのは移民問題であった。Brexitの要因の一つも移民問題であった。欧州諸国での極右の台頭の背景にも反移民の世論があった。

 移民問題が発生したのは、シリアの内戦、リビアの政治的混乱など、主として中東、北アフリカの政治、社会の混乱のためであり、欧州の責任ではないが、それが欧州に混乱をもたらした大きな要因であったことは間違いない。

 ハースは、フランスの最近の混乱をもたらしたのは新税を拒否する左派のポピュリズムであると言っている。イエロー・ベスト運動の暴徒化は、経済的困窮を訴える労働者、市民に一部の過激派が便乗して起こされたものである。マクロンの譲歩で小康状態にあるが、強く要求すれば政府が譲歩するという前例を作ってしまったようなものであり、今後再び運動が活発化する恐れがある。

フランスのデモ

 英国はBrexitで動きが取れないが、Brexitがどのような結果に終わろうと、英国の混乱は続くだろう。 ハンガリーやポーランドは、かつてソ連圏にあったこともあり、民主主義の定着には時間がかかるであろう。

 ハースは欧州の混乱の事態は好転すると考えるべきではないと言っているが、その通りだろう。 欧州の混乱とトランプのアメリカ第一主義が同時に起きていることが問題である。 民主主義、自由貿易体制、法の秩序といった戦後世界秩序を担ってきたのは、米国と欧州であった。米国はトランプの下、最早そのような担い手の責任を負い続けることに関心が無いようであり、欧州は混乱が続き、責任の一端を担うことが困難になっている。

 これまで世界は覇権国が秩序を保ってきた。第一次大戦までは英国の主導するパックス・ブリタニカであり、第二次大戦以降は米国の主導するパックス・アメリカーナであった。トランプは米国が世界を主導することを止め、欧州が米国を補完出来なくなった。

 世界は混迷の時代に入ったと見なければならないかもしれない。 このような状況の下で、日本は何をなすべきかを真剣に考えなければならない。取りあえず経済面で、TPP の実施、日欧経済連携の強化、ASEANなどとの協力強化等を図るなど、戦後日本が裨益してきた世界秩序を少しでも支えるようリーダーシップを発揮すべきだろう。

【私の論評】TPP11が世界を変える一里塚となる(゚д゚)!

私は、現行の世界経済秩序は、国際金融が主導する弱肉強食型の原始資本主義であると考えており、こうした考え方の基盤には更に、“覇権主義=Hegemonyがあり、力の有る者が人間界の標準を作り、波及させ、その下で世の中を安定させていくほうが世の中は相対的に安定化するという意識があり、現行の世界はこうした意識の下で動いていると見ています。

つまり、力のある人=強者が弱者をリードするというような世界の構築を選好しているものと思われ、そしてその中で、強者になりたいという欲を持つ人の間で対立が出てくると、その過渡期では世界は大混乱する可能性が高まる、そして現在の世界は正にそうした時期へと突入していこうとしていると考えています

そして、このような「国際金融が主導する弱肉強食型の原始資本主義」を生む背景として覇権主義では、普通、強者となるリーダーたちは,「人々が生きていく為に必要なものをコントロールしようとします。つまり、水、食糧、原材料、エネルギー資源のコントロール権拡大に走るのです。

そうして、貨幣経済の下、これらを経済的に支配する通貨によって、更に強く支配するのです。ここに国際金融の大きな役割があり、現在、その力が強大化してきていると考えます。

そうしてまた、こうした意識の下で、強者が,このような世界を守るために作った法と制度・仕組みの下では、平和裏には強者の立場は決して揺るがないのです。

即ち、これに逆らおうとする者が、強者の作った法や制度、仕組みによって「違法」や「不法」などと判断されれば、法令遵守の違反ともなるのです。現行のビジネス社会がComplianceを殊更に強調するのもこうしたことが背景にあると私は見ます。

しかし、弱者の中に本能がふつふつと芽生え、強者に対して反発してこようとすると、究極は自らが強者となるしかないと、究極の力である武力を以って立ち上がるのです。

これをまた、既存の強者は、武力を以って押さえようとするのです。

従って、既存の強者は、自らが強者であるうちに、万一の際に備えて、“軍事力”を強化、その結果として、上述したような国際金融によって束ねられた、水、食糧、原材料、エネルギーの世界を、軍によってコントロールされる軍事力によって、護衛できれば世界は安定するとの意識の中で現行の世界を運営していこうとするのです。

しかしまた現行の世界では、それに対する反発の動きもまた、顕在化してきています。私達は今、そうした世界の中で生きてきているのではないかというと私は考えます。

そして、こうした世界情勢を最近になり、更に深めている背景には、2017年、アメリカ合衆国にトランプ大統領率いるトランプ政権が登場したことから、昨年は米中の対立が本格化、顕在化しました。
昨年暮イラクを電撃訪問したトランプ大統領

2019年は、この「米中対立の行方」に加えて、BREXITをはじめとする、ドイツやフランス、イタリアの不安に見られる欧州情勢の先行き、イランやシリア問題を背景とする中東情勢の不安定などが既に懸念され、国際金融市場も昨年末より不穏なスタートとなっています。

さて日本としては、こうした混迷の世界の中で、北朝鮮の核・ミサイル・拉致問題は、包括的解決を進めなければならない課題です。拉致問題だけに脚光を当てるのは、かえって拉致問題の解決も難しくしてしまうでしょう。拉致問題と併せ北朝鮮の非核化に向けて役割を果たしていくべきですが、しかし、そのような動きはまだ見えないです。
ロシアとの関係についても危うさが存在します。
安倍首相とプーチン大統領との会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約を締結する方針が確認されました。
ところが、ロシア側は、北方領土は戦争によって合法的に取得されたことを日本は認めるべきだとか、同宣言では主権の引き渡しとは言っておらず引き渡しの条件は交渉事項だとか、どんどん交渉のハードルを上げる発言をしています。
政府は4島の帰属の問題を解決して平和条約を結ぶという従来の方針に変わりはないと説明しますが、2島を対象として交渉を進める結果になれば、日本国内の強い反発が出ると予想されます。
中国との関係については、ここ1年、雰囲気は改善し、安倍首相の訪中により大きく前進したようにもみえます。
米中関係が対立の度を深める結果、習近平国家主席は日本との関係改善にかじを切ったようですが、日本は米中関係の推移に流されないような明確なビジョンを持って中国との関係を考える必要があります。
中国が将来も、対日関係改善の姿勢を維持するのかどうか、不透明な面があるなかでは、抑止力として日米同盟関係は今後とも極めて重要です。
対中関与を弱めつつ、中国を変えていく努力は必要ですが、過去の経緯と、中国国内の体制が根本的に何かわっておらす、これでは中国は変われないし、変わるつもりもないのは、はっきりしています。
日本としては、「TPP11」の拡大をはかり、この地域における自由貿易の拡大やルールの尊重に日本が旗を振っていくことが、米中との関係でも望ましいです。そうして、いずれは、トランプ大統領もしくは次の大統領のときに米国にもTPPに復帰してもらうのです。
これは、覇権主義によらない最初の貿易協定になるかもしれません。なぜなら、当初言い出したのは米国ですが、その後米国は抜け出し、その後日本が旗振り役となり、TPP11の発効にまでこぎつけました。
TPP11の署名式に集まった11カ国の首脳や閣僚(3月8日、サンティアゴ)

これに米国が加入し、独裁国家である中国、ロシア、北朝鮮そうして韓国が入らない状態で運用し、域内を繁栄させるのです。
そうして、この繁栄をみてこれらの独裁国家がTPPに加入したいと考えるようになったときが、チャンス到来です。
これらの独裁国家が、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をするように迫るのです。どうしてもできないというのなら、まずは自由貿易ができる程度にはこれらをすすめてもらうのです。
それができれば、いずれこれらの国々も構造転換をして、民主化、政治と経済の分離、法治国家化をすすめるようになると考えらます。なぜなら、それ以外に、国を本当に富ませる手段はないからです。日本をはじめとする先進国が歩んできた道です。中国は例外であるようにみえましたが、そうではないことが、米中冷戦で明らかになりつつあります。
そうして、いずれTPPを世界共通の貿易協定にまで高めるのです。そのためには、覇権主義によるルールづくりではなく、あくまで世界中の国々が自由な取引をするためのルールづくりとするのです。そうなれば、世界は変わるでしょう。
むろん、貿易だけで世界が変わるわけではないです、しかし、それを一里塚として、いずれは、他の分野にまで覇権主義に基づくルールづくりに変わるものを構築していくのです。

そのときはじめて国際金融が主導する弱肉強食型の原始資本主義が終焉し覇権主義も終焉するのです。

私は現在のように世界が混沌とするときは、世界が次のシステムや規範を求めているときなのだと思います。人々はもう古い社会や政治システムには何の期待もしていないし、希望も持っていません。にもかかわらず、新しい世界の次のシステムや規範が示されないから、世界は混沌とするのです。
こうした時こそ、我々は、真理を求めて考え、すべきことを粛々としていかなければならないのです。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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2019年1月5日土曜日

中国は「月の裏側」の着陸探査で世界をリードする―【私の論評】中国が、ジオン公国妄想を夢見て月面の裏の探査活動を続けるなら日米にとって歓迎すべきこと(゚д゚)!


地球の前を横切るの「裏の顔」を、NASAの宇宙
天気観測衛星「DSCOVR(ディスカヴァー)」が捉えた様子

世界で初めての裏側への着陸を目指していた中国の無人月探査機「嫦娥4号」が、着陸に成功したと発表された。これから探査ミッションが本格化することになるが、中国の最終的な目標は、将来の有人宇宙探査に利用する月面基地の建設にある。まだ知られざる月の裏側の探索において、中国が世界をリードし始めた。

月の裏側は、実は「ダークサイド」ではない。それがわかっているのは月面車だけでなく、月を周回するアポロのカプセルに搭乗した人間たちも多くの写真を撮ってきたからだ。しかし、間もなくわれわれは、これまで地球から詳しく観測することができなかった月の裏面を見られるようになるだろう。

それは、12月8日に打ち上げられた中国の月探査機「嫦娥4号」のおかげだ。嫦娥4号は、四川省にある西昌衛星発射センターから、「長征3号B」ロケットによって打ち上げられた[編註:記事初出は2018年12月だが、「嫦娥4号」は1月3日夜に月の裏側に到着したことが発表された]。

ランダー(着陸船)と月面車を搭載したこの月探査機は、地球に最も近く忠実に寄り添ってくれる仲間である月の、まだ誰も足を(あるいはタイヤを)踏み入れたことのない裏側に着陸する初めての探査機となる。月面車が周囲を巡回し、月の表面や、表面に近い層を調査することになるのだ。

嫦娥4号は、27日間にわたって探検に挑戦する予定だ。月面に着陸する宇宙船としては、13年の「嫦娥3号」に続いて中国で2機目となる。嫦娥3号の月面着陸は、1976年に月面に着陸してサンプルリターンのミッションを果たしたソ連の「ルナ24号」以来だった。

最終目標は月面基地の建設

今回のミッションの目的は各種の実験を行うことだが、中国の最終的な計画は、将来の有人宇宙探査に利用するための月面基地の建設だ。ただし中国国家航天局(CNSA)は、今回のミッションがその実現に向けた計画を先導するものであるかどうかについては明らかにしていない。

一方でこのミッションは、国際的な月探査科学界で複雑な感情をあおる可能性がある。12年にパリ地球物理研究所のマルク・ウィチョレックは欧州宇宙機関(ESA)に対して、月の裏側を探査する「Farside Explorer」計画を主張したが却下された。

セントルイス・ワシントン大学のブラッド・ジョリフも、17年に「MoonRise」と呼ばれるミッションを米航空宇宙局(NASA)向けに提案したが、残念ながら採用されなかった。

「NASAとESAが選択しなかったミッションを中国の研究者たちが実現することについては、嬉しさ半分悔しさ半分という思い、あるいはもっと強い感情があるかもしれません」と語るのは、テネシー大学地球惑星科学科のブラッド・トムソンだ。

月面の巨大クレーターに着陸

軌道上を回る人工衛星からの遠距離観測によると、月の裏側の表面は表側よりもはるかに古いもので、衝突クレーターの数も多く、地殻も厚い。表側と裏側で状況が異なる理由は謎だ。嫦娥4号の月面車によって、何らかの手がかりが見つかる可能性がある。

ブラウン大学の地質科学教授ジェームズ・ヘッドは、「ランダーによるミッションが行われるたびに、多くの新しい驚きが生まれます。月のどの部分を訪れても、何らかの新しい、根本的なことを学ぶことができます」と話す。

前回のミッション(嫦娥3号)で13年12月に月面に軟着陸した「玉兔号」は、予定されていた3カ月よりもはるかに長い31カ月間にわたってデータを送り続けた。16年7月31日に稼働を停止したが、月の表側に永遠に留まることになっている。

嫦娥4号は、直径180kmのクレーター「フォン・カルマン」の内側に着陸する予定とされていた。ESAの月探査用技術試験衛星「スマート1」のミッションを率いた科学者バーナード・フォーイングによると、このクレーターは、直径2,500km、深さ12kmという巨大クレーター「南極エイトケン盆地」にあるという。

この巨大クレーターは月面上で最も古い地形で、太陽系全体でこれまでに知られている最も大きな衝突クレーターのひとつだ。南極エイトケン盆地をつくった衝撃によって「月の地殻が剥ぎ取られ上部マントル物質がむき出しになった可能性があります。岩や土といった鉱物的特徴と共にです」とフォーイングは説明する。

月面車は、可視光と近赤外光の画像分光計を使って、月表面の鉱物組成の測定を試みる計画だ。

ジャガイモなどの栽培実験も実施

多分野にわたる航空宇宙科学のコンサルティング会社であるスペース・エクスプロレーション・エンジニアリングの最高経営責任者(CEO)マイク・ロウクスによると、南極エイトケン盆地には、クレーター内に永久に影になる部分があるとする説もあるという。「そうした地域には氷が堆積している可能性があり、そうだとすれば月面基地には非常に便利です。そのような氷の堆積する場所が特定されたら、その近くに月面基地が置かれる可能性は高くなります」

作業はそれだけではない。ミッションの目的の詳細を説明する論文によると、ほかにも月面の地図の作成や、地中探知レーダーを使った表面に近い層の厚さや形状の測定などで、小さな月面車は大忙しだ。月の形成から間もないころのプロセスを理解するために、月面から100mほど内部の画像化も試みることになっている。

嫦娥4号には、ジャガイモとシロイヌナズナの種も積み込まれた。地球の6分の1とされる月面の低重力下で、温度と湿度が調節された密閉環境で育つことができるかどうかを調べるためだ。有効であることがわかれば、人類による宇宙探査の出発点として、月に基地を建設することにつながるかもしれない。

低周波での電波天文学の実験も行われる予定だ。地球では、電離層や人工的な無線周波数、オーロラからの放射ノイズといった干渉があるが、月の裏面ではこうしたものは遮断されている。

地球との通信は中継衛星経由

嫦娥4号には、低周波受信機が搭載されている。18年5月に中国によって打ち上げられ、現在は月の周囲を回っている通信中継衛星「鵲橋」にも受信機が1台搭載されている。さらに、鵲橋から月の軌道上に発射された超小型衛星にも、3台目の受信機が搭載されている(4台目を搭載していたもうひとつの超小型衛星は、地球との連絡がとれなくなっている)。

太陽の電波バーストや、ほかの惑星のオーロラ、最初の星の形成につながる原始の水素ガスなどから発生する信号を検出することが目的だ。

月の裏側が地球のほうを向くことは決してないため、月面車と直接通信することは不可能だ。月面車は、鵲橋を中継局として使う必要があるが、これがミッションの重大な部分だとブラウン大学のヘッドは述べる。

「アポロ計画の最中に、わたしたちは裏側での着陸について話し合いました」とヘッドは述べる(有力候補に挙がったのは「ツィオルコフスキー」クレーターだった)。「しかし、当時は通信を中継できるものがなかったうえ、コミュニケーションのチェーンがどうしても複雑になり、それはあまりにも安全性が低いと考えられました」
「中国のリードは明らか」

中国が月の調査を行うのは最近のことではない。中国の月の女神にちなんで名付けられた「嫦娥計画」は、2000年代初期に始まった。CNSAが「嫦娥1号」と「嫦娥2号」を打ち上げたのは、それぞれ07年と10年だ。

「月の裏側の探査について中国がリードしているのは明らかです」とヘッドは話す。「わたしたちは中国が今後、裏側からのサンプルリターンのミッション、特に南極エイトケン盆地からのサンプルリターンによって、調査をさらに進めてくれることを期待しています」

【私の論評】中国が、ジオン公国妄想を夢見て月面の裏の探査活動を続けるなら日米にとって歓迎すべきこと(゚д゚)!

宇宙空間で制御不能となり、世界の少なからぬ人たちを心配させた中国の軌道上実験モジュール「天宮1号」は、昨年4月2日午前9時すぎ(日本時間)、南太平洋上で大気圏に再突入し、すべて燃えつきたと発表されました。大惨事は回避され、ほっとしている方もいらっしゃたと思います。

「天宮1号」は、昨年南太平洋上で大気圏に再突入し、すべて燃えつきた

しかし、本当に懸念すべきなのはこれからかもしれません。「天宮1号」は宇宙空間での宇宙船とのドッキングをテストするための、いわば"宇宙実験室"でした。いったいなぜそんな実験をする必要があるでしょうか。

そこを掘り下げていくと、中国の戦慄すべき宇宙開発への野望が見えてきます。そうして、今回は月の裏側の探査をはじめました。地球からは絶対に見えない前人未到の領域で、中国は何を狙っているのでしょうか。

まずは、なぜ月の裏側が地球から見えないのかを簡単に説明します。月が地球の周りをくるりと1回、公転する間に、月自身もちょうど1回、自転します。そのため、月はいつも同じ面(表側)を地球に向けることになります。これは偶然ではありません。

裏側より少し重い表側がつねに地球の重力に引っぱられているので、「起き上がり小法師」が自然に立ち上がるように、表側が自然と地球を向くのです。木星の4つのガリレオ衛星や、火星の2つの衛星(フォボスとダイモス)も、同じ面を惑星に向けています。

さて、この地球からは見えない、月の裏側ですが、過去にも観測された事例はあります。最初に月の裏側を観測したのは旧ソ連のルナ3号で1959年のことでした。そのため月の裏側は、ロシアの偉人にちなんだ地名がたくさんついています。

その後も、月の周回軌道に入った探査機の多くが月の裏側を観測しています。日本の大型月周回衛星「かぐや」も、月の裏側を含んだ全球(つまり月の地表すべて)を観測して、詳細な地形図や重力異常図をつくりました。

月の表側にはおなじみの、ウサギが餅をついているような黒い模様があります。これは月の火山活動で溶岩が流れた跡で、「海」と呼ばれています。しかし裏側には、この海がほとんどありません。つまり表のほうが裏よりも火山活動が激しかったのです。

また、表に比べて裏のほうが、地殻が厚いらしいこともわかっていますが、なぜ表と裏で地下構造が異なっているのかは、よくわかっていません。地球もできたての時期は場所によって地下構造が異なっていたかもしれませんが、地球は初期の地殻がプレートテクトニクスによって失われているので、月の研究が、地球の初期地殻を知る手がかりとなるかもしれません。

次に、月裏側への着陸の難易度などについ説明します。月の裏側には、地球の電波が直接届きません。しかし現代の無人探査機は基本的に自動操縦なので、着陸そのものは月の裏側でもさほど難しいことではありません。

ただし、少し難しいのは、観測したデータを地球に送るときです。普通は月周回衛星を同時に打ち上げて、中継させます。月の裏側で探査機から衛星にデータを転送して、さらに衛星が表側から地球に転送するのです。

しかし、中国はさらに高度な技術を使っています。月の裏側の上空に、中継局を飛ばしています。地球と月の周辺にはラグランジュポイントといって、重力がつりあうため一定の場所で止まっていられるポイントが5つ存在します。そのうち、月の裏側にある「L2」に中継局を飛ばして、途切らせることなくつねに電波を中継しようというわけです。

ラグランジュポイント。中心の黄色い円が地球、
右の青く小さい円が月、地球から見て月の裏側に「L2」がある


では、中国はなぜ、このように裏面着陸に力を入れているかを説明します。月の裏側以外にも、科学的に興味のある場所はたくさんあります。しかし中国は、単なる科学探査としてだけでなく、L2に電波中継システムをつくるという技術開発を重要視しているのです。

1回の探査だけなら、周回衛星に中継させたほうがローコストでできますが、中国は長い年月での月開発を視野に入れて、インフラ技術の整備を着々と進めているのです。

いずれは、L2に有人宇宙ステーションをつくるはずです。4月2日に落下した「天宮1号」によるドッキング実験も、宇宙ステーション建設のためだったのです。世界で最もまじめに月に取り組んでいる国、それがいまの中国です。

話は少し飛びますが、L2とは、アニメ作品「機動戦士ガンダム」で、ジオン公国がつくられたスペースコロニー群「サイド3」のある場所です。

アニメ作品「機動戦士ガンダム」で、ジオン公国がつくられたスペースコロニー群「サイド3」のある場所

そうして、中国はこれを実現するつもりかもしれません。近い将来、中国の宇宙ステーションに1億人以上が移り住んでコロニーとなり、中国がL2にジオン公国をつくるということもありえるかもしれません。

L2は月の裏側との通信のためにはどの国も使いたい場所ですから、中国一国が独占するということはないでしょう。でも巨大なコロニーができたら、それが国家のようなものになることはあるかもしれません。

中国が今回月裏側の着陸に成功したことにより、学術面、軍事面、資源の面などの観点から様々な収穫がありました。

中国はこれまで月について、科学的な成果では一歩遅れをとっていました。欧米や日本は月の石や隕石を使った宇宙物質研究の蓄積があるので、探査データを科学的成果に結びつけるアイデアが豊富なのに対し、中国は探査ができても、データをうまく科学成果に結びつけられませんでした。

しかし裏側の岩石の詳細なデータがとれれば、間違いなく新しい科学的発見につながるでしょう。

軍事面では、いますぐ直接に私たちの脅威になる要素はないです。ただ、L2に有人宇宙ステーションがつくられれば、国際宇宙ステーションに代わる新しい国際宇宙秩序の中核施設となる可能性はありますね。

資源の面では、現在のところ、裏にしかない物質というのはとくに見つかっていませんが、裏側に関して優位に立てば、資源採掘でも中国が有利になるでしょう。また「場所」も資源と考えれば、地球の反射光や電波にさらされない月の裏側は、深宇宙の天体観測に最適な場所となります。
今回の月の裏側着陸の成功によって、しばらくは、月の裏側と常時通信ができるのは中国だけ、という状態になるでしょう。他国が月の裏側を探査・開発するときは、中国の通信設備に依存するようになるかもしれません。

機動戦士ガンダムに登場するシャア・アズナブル

しかし、L2に宇宙ステーションを設置する構想はアメリカやロシアなどにもあり、いつまでも中国に独占させることにはならないでしょう。ただし、現在のロシアのGDPは東京都を若干下回る程度なので、一国だけではむりかもしません。

宇宙開発においては、中国が重力天体への着陸やローバー(天体探査用の探査車)の運用も成功させているのに対して、日本はいま計画中の「SLIM」が成功してやっと重力天体への着陸技術を得ることになります。現時点では、大きく遅れていると言わざるをえません。

また、中国は30年間使用可能な原子力電池を探査車に搭載しているので、2週間も続く極寒の夜の間も、機器が低温で壊れないよう温めることができます。昨年10月には嫦娥3号から発進した月探査車「玉兎号」が684日稼働し、月面の稼働日数最長記録を更新しました。

ところが日本は放射性物質に対して厳しい国なので、原子力電池を使うという選択肢が最初からないのです。これは宇宙探査において非常に不利な条件となっています。

さらに気になるのは、宇宙探査についての日本の考え方です。日本はどうしても、低予算で最大の成果をあげようとして、特色のある探査をしようとします。自動車産業にたとえると、フェラーリやランボルギーニのようなスーパーカーで勝負しようとするメーカーのようです。しかし自動車大国になったのは、地味でもきちんと役に立つ大衆車をつくるメーカーがある国です。

科学探査だけなら日本の戦略もアリなのですが、本当に宇宙で活躍できる国になるためには、宇宙開発の基盤技術を着実に育てていく戦略が重要です。そういう意味で、重力天体の着陸実証をするSLIM計画や、H-IIIロケットの開発は大変重要で、ぜひ成功させなくてはなりません。
世界の宇宙開発トップを走っていた中国が、さらに前進しています。アメリカは月上空の宇宙ステーション「深宇宙ゲートウェイ」の構築を検討していますが、実現するのは早くても2025年になりそうです。

日本は中国に大きく遅れをとっていましたが、アメリカの「深宇宙ゲートウェイ」への参加を表明し、SLIM計画やインドと共同の月極域探査計画が現実味を帯びてくるなど、ようやく国内に「月への風」が吹きはじめています。「かぐや」で得た優位を保てるか、ここが踏ん張りどころです。

ここまでは、宇宙開発に関してのみ掲載してきましたが、ご存知のように現在は、米国による対中冷戦が激化しています。

これにより、中国は経済的にも窮地に追い込まれつつあります。これについては、このブログでも過去に何度も掲載してきていますし、他のメディアでもかなり報道されています。

昨日のブログでは、以下のような内容を掲載しました。
中国の習近平国家主席は昨年12月14日に開かれた政治局会議で、反腐敗との戦いに「圧勝を収めた」と宣言しました。2012年の共産党大会後に同運動が始まって以来の「勝利宣言」となりました。 
同発言について、貿易問題に端を発した米中対立が先鋭化するなか、中国共産党政権は執政の危機にさらされ、「内部の団結」を優先させた、と専門家は分析しています。
要するに、米国の制裁に対抗するため、「内部の団結」を優先し、反腐敗の戦いは二の次にするということです。

私自身は、今すぐに利益を産まず、ここしばらくは長期にわたって資金を要する、宇宙開発は「腐敗撲滅」と同様に二の次にされる可能性があると思っています。

もし、そうしなかったとすれば、米国は喜ぶべきです。なぜなら、金食い虫の宇宙開発は、中国の経済をさらに疲弊させるだけであって、何の益も中国にもたらさないからです。

かつてのソ連の崩壊の大きな要因として、通常の軍拡、通常の宇宙開発、先の2つにまたがる戦略ミサイル防衛構想(スターウォーズ計画)への対抗がありました。

これらの実施にはいずれも途方もないほどの天文学的な資金を要しました。これらへの投資でソ連経済は疲弊し崩壊しました。

ジオン公国の国旗

中国が、ジオン公国を夢見て月面の裏の探査活動を続けるなら、さらに経済的に疲弊し、中共の崩壊が早まることになります。これは、日米にとって歓迎すべきことです。

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2018年11月1日木曜日

米国で相次ぐ値上げ、消費者の慣れに便乗―【私の論評】デフレを20年放置した日本は、世界で特異中の特異!「井の中の蛙」になるな、世界から学べ(゚д゚)!。

米国で相次ぐ値上げ、消費者の慣れに便乗

航空会社や食品メーカーがコスト増を顧客へ転嫁 ビッグマックやコーラも

 米経済にとっては微妙な時期だ。失業率は過去数十年で最低の水準にあり、経済成長は力強い。インフレ率は米連邦準備制度理事会(FRB)の目標である2%に近いが、労働力不足と関税問題がエスカレートすれば、物価上昇への圧力が加わりかねない。一方で輸入品の価格を下げるドル高など他の要因は、そうした圧力を弱める可能性がある。どこかの段階で、物価高は経済成長の勢いを弱める。投資家はインフレが勢いを増すことでFRBの利上げが加速するのではないかと懸念している。

 クラッカーの「リッツ」などで知られる菓子大手モンデリーズ・インターナショナルは、来年に北米で値上げに踏み切る予定だ。ディルク・バン・デ・プットCEOは29日のインタビューで、北米の消費者と小売業者が以前よりも値上げに寛容だと述べた。

 企業はさまざま形のコスト上昇に直面している。モンデリーズによると、一部のクッキーやクラッカーを値上げするのは、材料と輸送費の上昇を受けた措置だ。航空会社が支払うジェット燃料の価格は1年前から約40%上昇している。9月のトラック輸送コストは前年同月比7%上昇したが、これは業者が人件費の上昇分を転嫁したためだ。労働省が31日発表したところによると、7-9月期の民間部門賃金は前年同期比3.1%上昇し、2008年以来の伸びを示した。

 米メーカーが支払うアルミニウムの価格は1年前から8%上昇、鉄鋼の価格は38%上昇している。トランプ政権が課した関税が反映されているためだ。中国からの輸入品2000億ドル相当に対する10%の関税が9月に導入され、該当品を購入する企業を圧迫している。

 皮革製品メーカーのスティーブマデンは今週、中国から輸入するハンドバッグなどの製品を値上げすると発表し、関税を避けるため他国に生産移転する計画を明らかにした。自社店舗では中国製品の価格が10%上昇するケースもあるという。

 グラント・ソーントンのチーフエコノミスト、ダイアン・スウォンク氏は「こうした状況はみな物価の上昇を示している。1-3月期(第1四半期)にはインフレ率が上がるかもしれない」と述べた。



 消費者が値上げに慣れつつあることを感じ取り、利益を増やすために値上げする企業もある。アルミ部品大手アーコニックは、関税で全般に価格が上昇するなか、圧延アルミ製品の営業利益率が値上げによって拡大したと述べた。アップルはこのほど発表した「MacBook Air(マックブック・エア)」と「iPad Pro(アイパッド・プロ)」の新製品の価格をそれぞれ20%、25%引き上げた。

 コカ・コーラや航空大手などの企業は、値上げしても需要に衰えはないと話している。デルタ航空、ジェットブルー航空、アメリカン航空グループはいずれも燃料費上昇をカバーするために運賃などを引き上げている。

 大手以外の一部航空会社は、値上げで顧客が減るリスクは冒せないと話す。格安航空のアレジアント・トラベルは、自社の顧客が大手の顧客よりも値上げに敏感だと述べた。同社はコスト削減のため、オフピークのフライトを減らしている。

 一部の飲食チェーンは、値上げしながらもセットメニューなどで顧客を取り込もうとしている。マクドナルドの7-9月期の米既存店売上高が前年同期比2.4%増加したのは、ハンバーガーの値上げが大きかった。高級ハンバーガーのハビット・レストランは5月下旬に3.9%の値上げをした。7-9月期の売上高は予想を上回ったが、これは値上げによるところが大きい。客足は3.4%減少した。

 食品メーカーは今年、市場シェアにこだわるスーパーやネット食料品店の反対を受けて値上げに苦労していた。利益拡大のために他の手段に乗り出すメーカーもある。

 ハーシーは来年商品の包装を変えて単価を引き上げる計画を発表した。ケロッグはワッフルにチョコレート味を追加し、同様の商品より12%高い価格をつけた。ケヒレーンCEOは「単純に定価を引き上げる時代は終わった。それは消費需要の減退につながる」と述べた。

 ハーシーのミシェル・バックCEOは先週のインタビューで、消費支出と経済成長がなお好調なため、小売業者は以前より値上げに積極的だと述べた。

 シカゴのシェリル・キングさん(50)は、2人の子供のために買うグルテンフリーやオーガニックの商品を中心に、一部の食品が小幅に値上がりしていることに気づいた。だが自身も医師の夫も買う商品は変えていない。「特売やクーポンは利用するが、私たちは大丈夫だ。そこまで節約に気を遣っているわけではない」と話している。

【私の論評】デフレを20年放置した日本は、世界で特異中の特異!「井の中の蛙」になるな、世界から学べ(゚д゚)!。
米国の値上げの状況は上記のような状況です。では日本はどのような状況かといえば、それを端的に示すのが、現在、香港や中国を中心にアジアで話題になっているの沖縄での以下のニュースです。

中国人のみ料金10倍 宮古島・砂山ビーチのレンタル業者 市から注意され看板撤去

世界を旅していると、度々直面するものに「外国人料金」というものがあります。現地の人とは別に、観光客で訪れる外国人向けに設定された料金のことです。

レストランから世界遺産まで、様々な場所で様々な外国人料金が存在しますが、要は「あなた方、外国人は海外旅行が出来るくらいのお金持ちなのだから、たくさんお金を払ってください」というものなのでしょう。

以下に代表的なものをあげます
・タージマハル(インド) 
 外国人 1,000ルピー(約1,100円)
 現地人 40ルピー(約68円)

・ペトラ遺跡 (ヨルダン)
 外国人 50ディナール(約7,800円)
 現地人 1ディナール(約156円) 
・アンコールワット (カンボジア)
 外国人 37ドル(約4,033円)
 現地人 無料
国の豊かさの差異や収入格差で致し方ない面もあるのでしょうが、それにしても数字だけ見ると現地の人との何十倍もの差が生じています。

冒頭の中国人観光客の話に戻りますが、2万円というのは(業者の意図は本来の外国人料金の意味合いとは違うようですが)価格の設定上、途上国が外国人向けに提示する料金と同じなのです。

中国からの旅行客の1人当たりの支出額は、15年のデータで28万3000円と言われています。ビーチパラソルが2万円でも、普通に払う中国人も少なくないのでしょう。無論、ビーチパラソルなどは複数人で使用するものなので、1人当たりのコストはもっと下がるわけです。


出展:日本政府観光局(JNTO) weblio英会話 For School and Business

日本人の10倍の値段を設定しても、料金を払える中国人観光客がいるという現実があるわけです。私自身は、心のどこかで、日本は少なくともサービス業などの表面的な部分は先進国でおもてなしの国とみなされており、経済が悪化したとはいえ、国民一人あたりGDPは未だ上位の部類で、外国人料金などは無縁の国だと思っていました。

しかし、今回の沖縄のことで、外国人料金を設定せざるを得なくなるかもしれなかった日本の未来を少しだけ垣間見たような気がしました。

初任給40万円のファーウェイ

中国の通信大手・華為技術(ファーウェイ)の日本法人が大卒で月給約40万円、院卒で43万円で新卒募集をかけたのが日本で話題になっています。

ファーウェイの初任給月40万円が話題「普通に就職したい」「優秀な人は流れていっちゃう」

一般的な日本の企業の大卒初任給の平均は19万8000円なので、倍以上の給与額です。

一部のメディアはファーウェイの初任給について「日本の技術の獲得のために、初任給を高く設定している」と非難しています。ただし8月にトランプ米大統領が国防権限法にサインし、ファーウェイとZTE(中興通信)の製品の米政府機関での利用を禁止しました。4月に米国市場から締め出される“死刑宣告”を受けていたZTEに続き、ファーウェイも標的となりました。

それも時間の問題でした。すでに、米中経済安全保障調査委員会(USCC)が技術系コンサルのインテロス・ソリューションズに依頼したレポートでは、「米国の安全保障を脅かす中国ICT企業」として、ファーウェイの存在が指摘されていたからです。

このような状況にあるため、企業自体がどのようになるかもわからないので、この初任給の高さは、危険手当という意味もあるかもしれません。

しかし、日本の外から見れば、こんなことがニュースになること自体、「日本の常識が世界基準から遅れている」と言わざるを得ないところがあるかもしれません。

同じアジアでも香港やシンガポールも、それなりの地元の有名大学に出ていれば、初任給で30万以上を超える企業は多く存在します。日本にはおそらく存在しません。

ファーウェイの給与水準が特段高いのわけではありません。これが世界基準なのです。それに対して日本の大卒初任給は20年以上、変わっていません。ただし、今後は変わってく可能性はあります。ただし、多くの人々の頭の中ではそうはなっていないようです。

もうすでに現状人件費の安い日本人労働者が、とんでもない外国のブラック企業に買い叩かれる時代になっていたのです。

人件費だけではありません。日本の不動産も格安なので、香港や中国では、毎日のように日本の不動産に関するセミナーが開催され人気を集めています。

時々海外にでかけると、いくつかの日本の物価は、香港やシンガポール、上海、北京、ソウルに比べると安いと感じることが良くあります。

ついこの間まで、自分たちより下だと思っていた国に、企業も人材も土地も買われている日本なのです。しかも不幸なのことに、多くの日本人にはそのような認識がまったくないようです。未だにアジアの王様気分でいる日本。

最近変化の兆しは見えつつありますが、未だに多くの人が低賃金、長時間残業を「やりがい」や「精神論」で乗り切ろうとしています。今のままだと、優秀な若い日本人の人材が出稼ぎのごとく、給与の高い海外に流れるのは目に見えています。ただし、日本では安倍政権になってから、金融緩和に転じたので、雇用状況が格段に良くなり、雇用自体はかなり良くなりました。

最近は賃金もあがりつつありますが、まだ本格的ではありません。現状の金融緩和が続けば、賃金もあがっていくことになると思います。ただし、緩やかなデフレでは、1〜2年では数%に過ぎず、20年〜30年で倍になるという感じです。現在の日本人はこの感覚をほとんど忘れています。

何しろ、過去20年もデフレが続いたせいで、現在40歳未満の人はデフレの時代しか知らないし、60歳以上の人はインフレの時代に育ち、自分たちの将来が大体決まる頃もデフレではなかったので、デフレ時代の本当酷さを認識している人は少ないです。

長期間インフレが続き、それが人々の心にどのような影響をもたらすのかを知っているというか、本当に理解している人はさらに少ないです。デフレ状態にあるよりも、こちらのほうがよほど、ハッピーであることを理解する人は本当に少ないです。

そうです、日本では諸外国に比較すると、相対的に緩やかなインフレの時代を知っている人口は少ないのです。



長期にわたって、デフレだった日本は、今や世界的にみて物価の安い国になってしまっていたのです。気づいていないのは本当に日本人だけかもしれません。

それは、特に最近ひしひしと感じています。最近では、消費税増税の悪影響もある中で、日銀が物価目標をなかなか達成できないなどとしながらも、金融緩和策は続けているので、値上げ圧力があるのは間違いないです。

こうした中で、中小企業の閉鎖が目立ってきているのです。今朝は、テレビでマグロ専門店が、仕入れ価格が高くなったので、それを販売価格に転嫁できずに、閉店するという報道がされていました。

これはどうしたことでしょうか。日本だけが、物価が安い国というとを知っていたとしたら、このマグロ専門店の店主も考えを変えたかもしれません。マグロ専門店の店主がこれを知っていれば、値上げして様子をみるくらいのことはしたかもしれません。しかし、あまりに長い間デフレに順応してしまったため、そのような柔軟な考えになれないのです。

今の若い人たちにはできれば、今すぐにでも海外に出て欲しいです。これは、日本の将来が危ういというからではありません。

「世界から日本はどう見られてるのか?」「今の日本の立ち位置は?」「世界のスタンダードは?」そうして、長期のデフレが他国と比較して、どのように日本に悪影響を及ぼしたのか。

そういったものを肌で感じて、学んで、そしてそれを日本に還元しなければ、この国に未来はないかもしれません。

こうした肌感覚は、日本国内にいるだけでは絶対に学べないところがあります。ただし、日本の金融政策と、外国の金融緩和政策の違いについて、頭にいれておかないと、ただ海外に闇雲に出かけて物価を比較したところで、本質は何見えこないと思います。

逆に、海外に出る時間的、金銭的に余裕のない人も、頭を働かせて、日本と他国の金融政策の違いを頭に入れた上で、できれば英文でインターネットの記事を読んで、世界の状況をみれば、日本だけが特異であることがよくわかります。

なお、最近はGoogle翻訳が、格段に良くなったので、Googleで日本語に翻訳すると、かなり良い翻訳になっているので、読みやすいです。とはいっても、やはり英語がある程度わかっていないと、翻訳を通じても良くわからないこともあります。やはり、英語はある程度理解すべきです。そうして、世界ではそれが常識です。

官僚の誤謬と政治家の頭の悪さで、結局20年もデフレを放置しておいた国など、古今東西日本しかありません。

世界から謙虚に学べば、また日本は世界で戦える国になると思います。「井の中の蛙」にはなるべきではありません。世界から学ぶべきです。

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2018年10月9日火曜日

謎深まるICPO総裁の拘束 刃物の絵文字の意味は… 「権力闘争が絡んでいることは間違いない」―【私の論評】習近平一派は、もし失脚すればICPO総裁に地の果てまで追い詰められることを恐れたか?

謎深まるICPO総裁の拘束 刃物の絵文字の意味は… 「権力闘争が絡んでいることは間違いない」

孟宏偉氏

国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の孟宏偉(もう・こうい)総裁が先月25日から行方不明になっていた問題で、中国公安省幹部らが出席した会議で、孟氏が国家監察委員会に収賄容疑などで調べられていると報告された。ただ、中国共産党の血みどろの権力闘争や、有力財界人の不審死などが背景にあるとの見方もあり、専門家は「さらなる大物失脚につながる可能性もある」との見方を示す。

 ICPOは7日、孟氏の辞表を受理したと発表。即時の辞任で、2020年までの残りの任期を務める次期総裁を11月の総会で選ぶという。

 AP通信などによると、リヨンに残った妻が同日に会見を開き、9月25日から孟氏と連絡が取れなくなったと説明した。通信アプリを通じて孟氏から「身の危険」を知らせようとしたとみられる刃物の絵文字のメッセージを受け取ったと明らかにした。妻によると「私の電話を待って」とのメッセージの後、刃物の絵文字が送られてきたとされている。

通信アプリを通じて孟氏から妻へ「身の危険」を知らせようとしたとみられる刃物の絵文字

 孟氏の拘束の背景について「権力闘争が絡んでいることは間違いない」とみるのは中国問題に詳しい評論家の宮崎正弘氏。孟氏は04年に公安相だった周永康・元政治局常務委員に抜擢され、14年まで公安省次官を務めた。

 江沢民派の周氏は、習近平指導部が進める反腐敗闘争で汚職により摘発され、無期懲役となった。その後も側近の高官が相次いで失脚するなか、孟氏は海警局局長や中国人初のICPO総裁など要職を経験した。

無期懲役の判決が下された周永康氏(中国中央テレビから提供された映像からの静止画像、
2015年6月11日)従来は真っ黒だった髪が真っ白になっており、多くの人が衝撃を受けた

 宮崎氏は「孟氏はICPOでも海外逃亡した中国人を多く摘発した実績を持っていたが、“燃えかす”(江沢民派の残党)を排除する狙いと考えられる」と解説する。

 もう一つの焦点が、今年7月に中国海南省の大手航空会社、海航集団の王健会長が視察先のフランスで転落死したこととの関連だ。同社は習主席の盟友、王岐山国家副主席の親族と密接な関係があるとの指摘もある。

 中国事情に詳しい評論家の石平氏は「本部がフランスにあるICPOの総裁を務める孟氏は、王氏の死亡や王岐山氏との関係について何らかの秘密を知り得た可能性もある」とみる。

 孟氏の事件が、今後の中国国内での政局に大きな影響を及ぼす可能性もあるという。

 前出の宮崎氏は「現時点では確かなことはいえないが、秋に控える党中央委員会への対策、または習氏の経済的な失策で反対派の動きを抑えるためかもしれない」と話す。

 「米国の反政府系の中国語の新聞は『第2の王立軍事件』と報じている。12年に重慶市副市長だった王氏が米総領事館に駆け込み、国家機密を米国に提供したことで、同市トップだった薄煕来氏が失脚したといわれている。孟氏もフランス当局との交流が激しくなり、中国側の情報を提供していたのではないかという話もある。今後、さらなる大物失脚につながるかもしれない」と宮崎氏は語る。

 闇は深そうだ。

【私の論評】習近平一派は、もし失脚すればICPO総裁に地の果てまで追い詰められることを恐れたか?

上の記事中国内の権力闘争の一端を垣間見せる事件だと思います。さて、孟宏偉の中国当局による身柄の拘束と、孟氏自身がICPOに辞表を提出したということで、2020年までの残りの任期を務める次期総裁を11月の総会で選ぶということですが、この事自体は世界にとって良いことのなのか悪いことなのかという問題を考えてみたいと思います。

無論権力闘争で個人の身柄を拘束するなど、とんでもないことですが、それは別においておくとして、ICPOの総裁が中国人でなくなるということ自体は、世界にとっては良いことかもしれません。

ICPOは2016年11月、インドネシア・バリ島で開いた年次総会で、中国公安省の孟宏偉次官(63)を新総裁に選出しました。中国人が総裁に就くのは初めてでした。

「ICPOは、反体制派や批判者を迫害する権威主義体制の政府に、国際的な逃亡者に関するデータベースの使用を許可するという歴史を有するようになった」

米紙ニューヨーク・タイムズの社説(2016 年12月4日、電子版)は、共産党による一党独裁の国の治安当局者が、ICPOのトップに就くことへの皮肉から始めました。

ICPO本部(リヨン)

■国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)■ 1956年に発足。フランスに本部を置き、加盟する警察の国際的な捜査協力を促進し、国際犯罪の防止や解決に向けた活動を支援している。

■孟宏偉氏■ 中国ハルビン生まれ、北京大卒。沿岸警備を担当する中国海警局、公安省などを経て、11月、国際刑事警察機構総裁。

社説は、中国やロシアがこれまで海外逃亡者に関するICPOのデータベースを乱用してきたと指摘。本来、そのシステムは、テロリストと疑われる人物へのビザ発給を未然に防ぐといった国際的な連携のためのものであるはずが、中国によって「ジャーナリストや民主活動家、人権活動家を罰するために使われてきた」としました。

その上で社説は、孟氏の総裁就任で「あらゆる人権侵害を控えるだけでなく、人権の保護を積極的に推進するというICPOの公約が、どれだけ守られるかということに疑問が生じている」と論じました。

米紙ワシントン・ポストの社説(2016年11月19日、電子版)は、ICPOが「反体制派や人権活動家、記者、ビジネスマンを含む政敵を追跡するために組織を利用する、ロシアや中国といった抑圧的な体制の国々のしもべとなってきた、と近年、厳しく批判されてきた」と指摘しました。ICPO憲章は「『世界人権宣言』の精神に基づき、すべての刑事警察間における最大限の相互協力を推進する」ことや「政治的、軍事的、宗教的な干渉はしてはならない」と唱っています。しかし、実際は有名無実化しているというわけです。

特に問題となっているのが、「赤手配書」の「悪用」です。ICPOは、加盟国の警察に対し、引渡しなどを目的に、加盟国に対して被疑者の身柄の拘束を求める「赤手配書」を発布できますが、近年、この赤手配書の数が急増しています。

ワシントン・ポスト社説は、赤手配書について調査した英国のNGOの見解として「国境を越えて活動家やジャーナリストを迫害する政治的な道具として赤手配書を使うのは、加盟国にとってたわいもないことだ」と伝えました。

2016年1月23日北京の税関が国際逮捕手配書(赤手配書)で密輸容疑者を逮捕しているところ

社説は、高まる批判に対しICPOが改革に着手したことに触れ、「孟氏が抑圧体制の中国での経験からどのような考え方を持ち込もうとも、ICPOの改革努力にブレーキをかけてはならない。改革を加速させるべきだ」と訴えました。

ただ、中国は2014年、ICPOに100枚の赤手配書を発布させています。孟氏が仮に総裁を辞任していなかったとして、ワシントン・ポスト紙の主張に沿うような組織運営を行っていたか、その後はどうなったか定かでありません。

米政府系放送局ラジオ自由アジアの記事(2016年11月11日、電子版)によると、孟氏のICPO総裁就任について、亡命ウイグル人組織を束ねる「世界ウイグル会議」の報道官は、「中国の法執行機関は中国共産党に奉仕し、ICPOを長年、異なる意見を持つ者や海外のウイグル人のリーダーを追跡するために用いてきた」「海外に安息の地を求めるウイグル人たちに恐ろしい結果をもたらすかもしれない」と語りました。

以上のような事実から、中国人がICPOの総裁であるということは世界にとって良いことではないということは明らかです。

ということは、習近平政権は期せずして、世界に貢献したということです。何と素晴らしいことではありませんか。

それにしても、中共は異形であることが理解できる記事だと思います。普通の国なら、ICPOの総裁になった人物をいくら政敵であるからといって、権力闘争で辞任させるような真似はしないでしょう。少なくとも、任期中には務め上げさせるのが普通でしょう。

こんなことをすれば、それこそ中共の面子が丸つぶれです。中共の面子とは、この程度のものというか、われわれの面子、体面などとは随分違うようです。それに、中国としては、ICPOの政治利用もできなくなるのです。彼らにとっては、権力闘争のほうがはるかに重要なのです。

これから、世界は中共の配下の中国籍の人間を国際機関のリーダーになど据えるべきではありません。こんなことをいうと、国籍差別のように聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。

たとえば、アフリカなどの独裁国の国籍のものであっても、国際機関のリーダーにしても良いと思います。なぜなら、そのような場合であっても、中国のようにあからさまに政治利用されることはないからです。

しかし、中国は違います。中国の場合は、中共が任意で、戦時であろうが、平時であろうが「国防動員法」により、学生や一般人民はおろか国際機関のリーダーでも誰でも、地球上のどこの国にいようと、中共の手先として利用できるのです。そんな国の国籍のものを国際機関のリーダーにすべきではないです。

さて、ICPOの総裁は、おそらく中国人ではなくなると思われますが、では他に中国籍の国際機関の長は何人いるか調べてみました。

今のところ以下の四人です。

世界保健機関(WHO)事務局長の陳馮富珍(マーガレット・チャン)氏、国連工業開発機関(UNIDO)事務局長の李勇(リー・ヨン)氏、国際電気通信連合(ITU)の事務総局長に趙厚麟(ジャオ・ホウリン)氏、国際民間航空機関(ICAO)の事務局長柳芳氏。

世界保健機関(WHO)事務局長 陳馮富珍(マーガレット・チャン)氏

これに、今回辞任した孟宏偉を加えると、いっとき5人もの国際機関の長が中国籍だったということです。

これは、今までの世界は中共の恐ろしさを認識していかなったということだと思います。中国はみかけは繕っていますがその実、民主化、政治と経済の分離、法治国家化がなされておらず、とてもまともな国とはいえません。

にもかかわらず、まともな国のように扱うべきではありません。異常な国は異常な国として扱うべきです。対中国貿易戦争を始めたトランプ米大統領はまさしく中国をそのように扱っています。我が国もそうすべきです。

そうして、私は今回の孟宏偉氏の失脚は単なる表面上の権力闘争だけではないと思います。もし習近平自身も含む、習近平派の人間が最悪失脚などして、国外逃亡などした場合、孟宏偉がICPO総裁であったとすれば、地の果てまで追い詰められる可能性は否定できません。そのようなことを防ぐために、はやめに芽を摘んだというのが、今回の事件の要因の一つではないかと思います。

さらに、中共の力がなかなか及ばない外国では、ICPOのほうがはるかに犯罪に関する調査能力は高く、それこそ海外での習近平派の一派や家族などの犯罪や不正行為や醜聞などの情報が収集され、それこそ、権力闘争に用いられる可能性も恐れたのではないかと思います。

もし、習近平体制が絶対のものであり、習近平が生きている限りこの体制が続くという確信が習近平にあれば、孟宏偉氏など絶対に裏切らないように因果を含めて泳がせて、政治利用した方が良いはずです。

しかし、習近平は現在の体制にそれほどの確信を抱くことはできないのでしょう。特に、最近のトランプ大統領による対中国攻勢が強まってからは、そうなのだと思います。さらに、孟宏偉氏がトランプ政権に習近平派の海外での犯罪の情報を提供することすらあり得ます。

だからこそ、トランプ大統領の対中国攻勢が苛烈になったこの時期に、孟宏偉氏を拘束したと考えられます。

もし、ICPO総裁が孟宏偉氏ではなく、習近平派の人間であれば、このようなことはしなかったでしょうし、トランプ政権による対中国攻勢がもっと緩やかなもであれば、孟宏偉氏の拘束自体がなかったかもしれません。

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2018年9月25日火曜日

トランプ大統領の“切り札”か…中国、北朝鮮の「隠し資産」丸裸 米国、世界の“制金権”握る「無血戦争」のシナリオとは? ―【私の論評】米対中国貿易戦争は単なる警告であり、前哨戦に過ぎない!本命は本格的な金融制裁(゚д゚)!

トランプ大統領の“切り札”か…中国、北朝鮮の「隠し資産」丸裸 米国、世界の“制金権”握る「無血戦争」のシナリオとは? 

国際投資アナリスト大原浩氏

 貿易で中国の習近平国家主席と、非核化で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と対峙(たいじ)するトランプ米大統領は、独裁国家の権力者がひれ伏す切り札を握っている-。こう指摘するのは金融市場に詳しい国際投資アナリストの大原浩氏だ。連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)の監視網を背景にした米国の「金融支配」により、独裁者の隠し資産は丸裸にされるという。「無血戦争」のシナリオとは-。

 相変わらず米中貿易戦争が話題になっているが、その議論の中で抜け落ちているのが「貿易戦争」は本当の殺し合いをする戦争の一部であるということである。

 現在、米国の徴兵制は制度そのものは存続しているが、議員の息子が徴兵され、ベトナム反戦運動が激化したこともあって停止している。

 その米国が、自国の若者の血を大量に流す戦争を長期間続行するのは、世論対策も含めて簡単ではない問題である。北朝鮮や中国などの独裁国家は、そうした事情を見透かしているフシがある。

 しかし米国は、どのような国も太刀打ちできない最新兵器に裏打ちされた強大な軍事力だけではなく、血を流さない戦争=「無血戦争」においても圧倒的な強さを持っている。

 いわゆる購買力の高い「消費者」の立場から「売り手」である中国を締め上げる「貿易戦争」もその一つだし、本当の戦争で言えば「海上封鎖」に相当するような「経済制裁」も、ボディーブローのようにじわじわ効いてくる効果的な戦略だといえる。

中国への攻勢を強めるトランプ大統領

 しかし、「無血戦争」における米国最大の武器は「金融」だ。世界の資金の流れを支配しているのは米国であり、戦争用語の「制空権」ならぬ「制金権」を米国が握っているというわけだ。

 例えば、経済制裁の一環として、北朝鮮やイランの高官の口座を凍結したというようなニュースを聞くとき、「どうやって口座を調べたのだろう」という疑問を持たないだろうか?

 このような人物が本名で海外に口座を開くとは考えにくく、当然偽名やトンネル会社などを使用する。しかし、そのような偽装をしても、FBIやCIAは、口座間の資金の流れを解析して、本当の口座の持ち主をすぐに特定できる。

 この基本技術は、筆者が執行パートナーを務めるシンクタンク「人間経済科学研究所」の有地浩・代表パートナーが30年ほど前にFBIで研修を受けたときにはすでに実用化されていた。

 その後、テロ対策、マネー・ロンダリング対策で銀行口座開設や送金の際の本人確認が非常に厳しくなったのは読者もよくご存じだと思うが、これは米国の指示によるものだ。日本だけではなく世界的な現象なのである。

 少なくとも米国の同盟国・親密国においては、どのような偽装をしても米国の監視の目からは逃れられないということである。以前スイスのプライベートバンクの匿名性が攻撃され、口座情報が丸裸にされたのも、この戦略と関係がある。

 そして、北朝鮮や中国など、米国と敵対している国々のほとんどが、汚職で蓄財した個人資産を自国に保管しておくには適さない。いつ国家が転覆するかわからないためで、米国やその同盟国・親密国の口座に保管をするしかないというわけだ。

 米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福ではなく、個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締め上げれば簡単に米国にひれ伏す。

習近平国家主席、金正恩氏(右から)は全面降伏するのか

 孫子は「戦わずして勝つ」ことを最良の戦略としているが、まさに金融を中心とした「無血戦争」で、連勝を続けているトランプ氏は、そういう意味では歴代まれに見る策士の才能を持つ、もしくは優秀な策士のブレーンを持つ大統領なのかもしれない。

 そして、中間選挙でのトランプ氏の行く末がどうなろうと、長年準備されてきた「対中無血戦争」は、中国が全面降伏するまで延々と続くだろう。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】米対中国貿易戦争は単なる警告であり、前哨戦に過ぎない!本命は本格的な金融制裁(゚д゚)!

米国では、ドラゴンスレイヤー(対中国強硬派)ですら、中国と軍事衝突するのは現実的ではないとしています。となると、米国はこれからも、さらに貿易戦争を拡大していくことになります。実際、後もう少しで拡大できなくなる程度に拡大しています。

ただし、貿易戦争は米国にとっては、景気減速を招くこともめったにないです。米国の1930年の悪名高いスムート・ホーリー法による高い関税でさえ、大恐慌にせいぜい少し影響した程度です。中国も打撃を受けますが、それで現在の中共(中国という国という意味ではなく中国共産党という意味)が崩壊するほどのものにはならないことでしょう。


一方、国際的な金融混乱が経済への下押し圧力を強めた例には事欠かないです。大恐慌をはじめ、約10年前のリーマン・ブラザーズ破綻に至るまでそうです。

こうした危機は通常、民間セクターの暴走(リスクの高い国家や住宅購入者への過剰な融資など)を発端としています。ところが、触媒の役目を果たすのはどこかの政府の政策であることが多いです。

フランス政府による金の備蓄が大恐慌につながったたほか、米連邦準備制度理事会(FRB)のポール・ボルカー議長(当時)の徹底したインフレ抑制策が1980年代の中南米債務危機をもたらした例などがあります。

米政府はかねて、外国の危機を抑えることは米国の長期的な国益になるとみなしてきました。1982年と1995年にはメキシコに支援の手を差し伸べ、1997年にはアジア通貨危機を封じ込めるために国際通貨基金(IMF)と協力しました。2008年には住宅ローンによる金融危機の打撃を受けた国々の銀行を下支えするため、FRBが各国の中央銀行を支援しました。

米国が故意に経済的苦痛を与えるとき、それは戦略地政学的な理由によるのが普通です。そして可能な限り、同盟各国と協調して行動します。

最近では、ドル中心の銀行システムから北朝鮮とイランを締め出すことにより、両国に大きな打撃を与えています。ロシアによるウクライナ侵攻や米選挙への介入、英国在住のロシア元スパイとその娘の毒殺未遂などを受け、米欧が課した経済制裁はロシア経済に大きな混乱をもたらしています。

ここまで大きな制裁でなくても、米国は民間銀行にさえ金融制裁を課することがあります。マカオのバンコ・デルタ・アジア(匯業銀行)という銀行は、2005年9月、北朝鮮の資金洗浄に関与していることが発覚し、米国との送金契約が消滅、破綻危機に陥り国有化されました。

バンコ・デルタ・アジアのアジア本社

また、フランス最大の銀行であるBNPパリバは、2014年6月米国の制裁対象国との取引を理由に、1兆円近い制裁金支払いと為替関連取引の1年間の禁止を命じられ、大打撃を受けました。

米国にとっては、以前から金融は他国に対して制裁をするときにかなり有力でしかも手慣れたツールなのです。

超大国といわれるアメリカの一番の強さは、金融支配にあります。現在の世界の金融体制は、ブレトン・ウッズ体制に端を発します。これは、第二次世界大戦末期の1944年にアメリカのブレトン・ウッズで連合国通貨金融会議が開かれ、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)の設立が決定されたものです。

当時、世界の金の80%近くがアメリカに集中しており、アメリカは膨大な金保有国でした。その金と交換できるドルを基軸通貨とし、他国の通貨価値をドルと連動させるという仕組みで、金・ドル本位制ともいわれます。

その後のベトナム戦争で、アメリカは戦費調達のために膨大な国債を発行し、戦争後は巨額の財政赤字に苦しみました。そして71年、当時のリチャード・ニクソン大統領によって金とドルの兌換停止が宣言され、ブレトン・ウッズ体制は終わりを告げました。いわゆるニクソン・ショックです。しかし、その後も世界の金融市場におけるアメリカの支配体制は続いています。

今も世界の債権の約60%はドル建てであり、当たり前ですが、ドルで借りたものはドルで返さなければならないです。つまり、各国の金融機関にとって、ドルが手に入らなくなるということは破綻を意味するわけです。

ドル支配体制においてドルが手に入らなければ、石油や天然ガスなど資源取引の決済もできなくなります。国によっては、国家破綻の危機に直面することにもなりかねないです。

世界各国、特に先進国の中で、食料や資源を100%自給できている国は少ないです。そうして、中国の食料自給率は85%以下といわれており、アメリカから穀物を買えない事態になれば、13億の人民は飢餓に苦しむことになります。

だからこそ、中国はドル支配体制からの脱却を目指し、人民元の国際化を進めていました。IMFの特別引出権(SDR)の構成通貨入りも、そういった流れの中で推し進められたものだ。今年10月以降、人民元はSDRの5番目の構成通貨として採用される見込みであることが報道されたが、仮にSDR入りしても、ドル決済を禁じられてしまえば中国経済は破綻に追い込まれることになる。

資源を買うことができなければ、軍艦を出動させたり、戦闘機を離陸させることもできなくなり、これまでの「中国は今後も発展していく」という幻想は根底から覆されることになります。そして、その段階においても対立が融和しない場合、アメリカは金融制裁をさらに強めることになるでしょう。

ソ連が崩壊した直後のロシアでは、経済が低迷し哨戒機を飛ばす燃料にも事欠いた時期があった
写真はロシアの対潜哨戒機ツポレフ142M3

いわゆるバブルマネーによって、中国経済は本来の実力以上に大きく見られていますが、バブルが崩壊し、同時にアメリカが前述のような金融制裁を強めたら、どうなるでしょうか。当然、一気にこれまでの体制が瓦解し、中国は奈落の底に落ちることになります。

そうした構造をよくわかっているため、中国はアメリカのドル支配から抜け出そうとしていたわけです。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(BRICS銀行)の創設を主導し、さまざまな二国間投資を推進することによって、アメリカに頼らない体制をつくりたがっていました。

その動きを必死に妨害しているのが日米であり、同時にインドやASEAN(東南アジア諸国連合)の各国も日米に連動するかたちで自国の権益を守ろうとしています。欧州の国々も中国に対する警戒心を強めています。

そういった世界の流れをみると、貿易戦争では米中対立には決着はつかないでしょうが、次の段階では金融戦争に入り、この段階では中国に軍配が上がる可能性はきわめて低いと言わざるを得ません。

その時に中国に残されている道は2つだけです。1つ目は、知的財産権を尊重する体制を整えることです。それは、口で言うのは容易ですが、実際はそんなに簡単なことではありません。

まずは、中国は民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現するために、徹底した構造改革を実行しなければなりません。これが実現できなければ、知的財産権など尊重できません。しかしこれを実行すれば、中共は統治の正当性を失い崩壊することになります。

もう1つの道は、厳しい金融制裁を課せられても、そのまま今の体制を保つことです。そうなると、経済はかなり弱体化し、現在のロシアなみ(韓国と同等の東京都のGDPより若干少ない程度)になってしまうことでしょう。

そうなると、中国は他国に対する影響力を失い、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家になり果てることになります。

これは、トランプ政権のみならず、ポストトランプでも米国議会が主導して実行され続けるでしょう。

米国の対中国貿易戦争は単なる中国に対する警告であり、前哨戦に過ぎないです。本命は本格的な金融制裁なのです。

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2018年9月20日木曜日

中国メーカーの日本工場で「なりすましMADE IN JAPAN」が横行か?”静かな侵略”で就労移民が押し寄せる―【私の論評】中国の悪しきグローバリズムが、世界をナショナリズムに回帰させる(゚д゚)!

中国メーカーの日本工場で「なりすましMADE IN JAPAN」が横行か?”静かな侵略”で就労移民が押し寄せる

漫画家 / 評論家 孫向文


 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。

  近年、日本のブランドのメーカーはコスト削減のために中国に工場を移設してきました。その結果、中国人作業員の手によって日本産の品質は低下。「日本ブランド」が実は「中国製」と何ら変わりがないという、口コミの風評被害が発生し、その価値は著しく下がってしまいました。


 前述のケースとは逆に、中国メーカーが日本で工場を開設して「日本製」と記載する事態が横行しているのです。無論、この中国メーカーの商品の開発と製造は中国人です。

 記事によれば、中国人消費者の間で「日本製」が大人気のため、中国メーカーはブランド価値を上げるために、日本に工場を移設しているのです。上海にある『慎興』というメーカーは、日本の工場で月に5万本の歯ブラシを製造し、それを中国に「輸入」しています。同社の社長は「我が社の商品は日本国内で生産しているため、正真正銘の日本製だ」と、「日本製」を看板にしています。

 日本政府のデータ(2017年3月まで)でも、中国内に本社を持ち、日本で支社を設立する中国メーカーは49軒、5年前の5倍になっているのです。

 ■中国企業の日本進出は「日本の就業率」を引き上げる? 答えはNO!

 日本人が中国で工場を開設すると、中国人を雇用し、中国の経済が活性化され、売り上げのほとんどが「中国のGDP」になっています。これが逆転した今、中国が日本で工場を開設しても日本人を雇用し、結果、日本の経済を活性化することになるのでは? と思う人もいるでしょう。

 しかし、中国メーカーの日本工場は日本人をほとんど雇用しません。雇用するのは在日中国人ばかりです。理由は、社内で中国語を喋ると仕事の効率が高くなり、さらに中国人の人件費は日本人より安くて済むからです。

 旧知の在日中国人の社長に取材したところ、さらに「恐ろしい手口」を明かしてくれました。

 「中国企業の日本工場は、だいたい従業員の9割が在日中国人。特に多いのは留学生のアルバイトなんです。彼らは卒業時に”留学ビザ”が切れると帰国しないといけないので、そのままアルバイトから正社員にして”就労ビザ”に変更させます。そうして、次は日本での”永住権”、最終的には”日本国籍”を取得を狙っていく。こうして中国企業は日本に工場を置くことで、数百人の中国移民を誘致する惨状になっているのです」

 日本では600万円投資すると、外国人であっても会社を作れます。これは国際基準と比較しても非常に低い敷居です。そこに中国企業が目をつけ、日本の土地と資源を利用し、「なりすまし日本製」(中身は完全に中国人の手による中国製のチャイナクオリティの商品)を濫造し、まるで商業詐欺のような商品が横行しています。今後も中国メーカーが日本に大量進出するようならば、「日本製」というブランド価値にも風評被害が及びかねません。

 ■アフリカを蝕む、中国マネーの甘い罠

 中国の投資進出は日本国内だけではありません。たとえばアフリカでも中共とコネのある企業がインフラ整備などで大量進出しています。しかし、中国企業はほとんどアフリカ諸国の国民を雇用しません。中国人の従業員をアフリカに大量に派遣し、現地で住み込みの経済活動をさせているのです。

 今年の8月に習近平主席がアフリカ諸国を訪問し、さらに600億ドルの「返済不要の融資」をアフリカに注ぎ込みました。「返済不要」と聞くと、アフリカにとって大きな得ではないかと思いますが、そんなに美味しい話ではありません。中国が腹黒い国家であることは私が散々述べてきたので、これまでのコラムをお読みになった方は十分、ご存知かと思います。

 ※アフリカ日本協議会からの引用

 <中国企業の進出に伴って、中国人が大挙してやってくることを否定的に語られることもある。大勢の中国人が、食料供給が十分にないところで野生生物を食べるケースが多々発生し、野生生物の食用需要がさらに高まっているという。>

 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/africa-now/no93/top4.html

 ※中国語記事

 「アフリカに進出する中国企業は中国人しか雇用しません、アフリカの鉱産物とエネルギーを狙う」

 http://technews.tw/2017/11/02/china-investment-in-africa/

  中国「一帯一路」専門の情報サイトによると、「アフリカで採集した豊富な鉱産物資源を中国に送る、世界工場を維持する製造業にとって重宝です」

 http://silkroad.news.cn/2018/0116/79740.shtml

 現在、アフリカ諸国ではこのトリックを見破り、各地に反中デモが発生しています。このように明らかに他国の資源略奪、経済と人口の侵略に反発するのは、アフリカ人の当然の反応でしょう。

 ■「静かな侵略」を食い止める、シンプルな方法とは?

 このような企業による他国進出は中国によるものだけではありません。

 私は、仕事関係で韓国人が経営する出版業者にも接触したことがあります。その社内の雇用状況を聞くと「100%在日韓国人」であり、日本の取引先に対しても、打ち合わせでは「社長が韓国語のできる日本人」か、「日本語通訳できる韓国人と同行しないといけない」という条件をつきつけていました。その会社は今も韓国人労働者を大量に雇用しています。

 日本の土地と資源を利用しながら、多くの移民を送り込もうとする「静かな侵略」。日本が長年にわたり築き上げてきた、日本製ブランドさえも食い物にしようとしています。これを食い止める方法はないのか、私も考えてみました。

 答えは簡単、中国人企業が日本で工場を設立した場合、「従業員の9割以上は純日本人(帰化人除く)ではなければ営業免許を降ろさない」という条件を追加すれば良いのです。左派層から「人種差別だ!」の批判が殺到するでしょう。今の親中派だらけの自民党政権には、このような「非武力による日本侵略」の対応を期待できません。

孫向文
1983年生まれ、漫画家、評論家。中華人民共和国浙江省杭州市出身。『本当にあった愉快な話』(竹書房)にて「日本に潜む!!中国の危ない話」、 隔月刊『ジャパニズム』(青林堂)にて「大和撫子が行く」を連載中。近著『日本人に帰化したい!!』(青林堂)が好評発売中。そのほか『週刊文春』にて実録中国猛毒食品「僕らだって怖い!」を掲載し、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』にて「中国超監視社会」に出演。

【私の論評】中国の悪しきグローバリズムが、世界をナショナリズムに回帰させる(゚д゚)!

貿易戦争で追い詰められる習近平

米中貿易戦争で、トランプ大統領は中国経済の息の根を止めようとしているのでしょうか。制裁関税第3弾の発動を正式に決めましたが、中国側が報復すれば残りの全輸入品にも25%の追加関税を課すとあらためてぶち上げました。

対中制裁に関しては有言実行のトランプ氏だけに、今回も脅しでは済むとは思えません。日本など外資系企業が生産拠点を移すなど「脱・中国」の動きは止まらず、習近平政権の地盤が大きく崩れつつあります。

中国はこの対中制裁に対して、あくまで受けて立つようです。日本など外資系企業にとって、中国に生産拠点を置くメリットがなくなりつつあります。

そのためか、米国の対中追加関税第1弾と第2弾を受け、三菱電機は8月に、中国で生産し米国に輸出していた工作機械の生産を国内に移しました。コマツは建設機械の部品生産の一部を中国から日本やメキシコに振り分けています。

ダイキン工業は米国で製造する空調機の一部部品を中国から賄っていますが、調達先の変更などを検討中です。東芝機械も10月に自動車向け部品などを製造する射出成型機の生産の一部を上海工場からタイと国内の本社工場に移す計画です。

ユニクロを展開するファーストリテイリングも、米国への供給をベトナムなど中国以外の拠点に切り替えることを検討しています。

これは、日本企業だけではありません。ブルームバーグは、米国のファッション各社が中国の代替地としてカンボジアやベトナムなど東南アジアに生産拠点を広げていると指摘しています。

米国ファッション産業協会の調査に参加した企業の67%が、今後2年で中国での生産量や生産額を減らすとの見通しを示したといいます。「次に買うブランド物のハンドバッグには『メイド・イン・チャイナ』のラベルは付いていないかもしれない」とも報じました。

中国から徹底する企業が相次いでいる

これは、外資系企業だけでなく、中国の民間企業にとっても同じです。拠点を中国以外に移す企業も増えるでしょう。その拠点の中には当然ながら、日本も含まれます。そうなると、孫向文氏がブログ冒頭の記事で指摘している、中国メーカーが日本で工場を開設して「日本製」と記載して販売するということがさらに横行することが考えられます。

それどころか、日本に本社を設置して、日本企業であることにして、その実中国で製造した製品を世界中に販売するということも十分考えられます。

そうして、これは何も日本だけではなく、米国やカナダ、オーストラリア、EUなどの先進諸国でも同様の危機があるものと考えられます。

他国の法律がどうなっているかどうかは、わかりませんが規制がなければ、当該国においてほとんど中国人が製造して、当外国製品であることにして販売するとか、本社を当該国に設置して、中国で製造した製品を当該国の製品として世界中に販売という事例もあるのではないでしょうか。

国営新華社通信は昨年、「世界の偽物(偽ブランド、コピー商品)の8割は中国とした欧州報告書の真相は如何に?」と題する記事を配信しました。

それによると、欧州刑事警察機構(ユーロポール)と欧州連合知的財産庁は、全世界の偽物の8割は、中国内地または香港の出自であるとレポートしたそうです。中国が商標権や知的財産権を侵害しているのは周知の事実であり、だからこそトランプ政権は対中国貿易戦争を展開しているのです。

このような中国ですから、貿易戦争により状況が変われば、中国人は海外に工場を移し、安い労働力であり言葉が通じて使いやすい中国人で製造した製品を当該国の製品として世界中に売りさばくなどということを平気ですることでしょう。

これに対して、米国をはじめとする先進国はいずれ手を打たなければならないことになると思います。日本とてその例外ではありません。

ブログ冒頭の記事で、孫向文氏は、中国人企業が日本で工場を設立した場合、「従業員の9割以上は純日本人(帰化人除く)ではなければ営業免許を降ろさない」という条件を追加すれば良いとしています。

それも一つの方法でしょう。私はこれも方法の一つだと思いますが、そういう条件がでてくれば中国人は変幻自在でこの規制を網の目を抜ける方法をすぐに考えてしまうのではないかと思います。

私は、これにプラスして、財務省に日本国内て製造する中国企業に対して一定の条件を満たさなければ所得税や、法人税を「増税」する方法を考えさせ、実行させると良いと思います。

何が何でも、省益だけを考え、引退後の天下り先で超リッチなハッピーライフを送ることを第一に考え、国民生活など無視して、とにかく増税しようとばかり考えてきた財務官僚が、これによってはじめて日本国民のため役に立つことができ、さらに彼らの増税DNAを満足させることもできるわけですから、これは一石二鳥です。

日本経済の悪化の諸悪の根源は財務省にあることは随分周知されるようになってきたが・・・・・

彼らなら、過去の増税でつちかってきた手法によって、ほとんどの国民にその実体を知られることもなく、マスコミからも糾弾されるどころか味方につけて中国企業に対して今度は、正当な理由により増税して彼らに塗炭の苦しみを与えることも不可能ではありません。(ブログ管理人注:これって半分ジョークですから、まともに受け取らないでください、とはいいながら半分は本気です😁)

さて、儲かりさえすれば、国境を超えてでも何でもするという中国の悪しきグローバリズムは、世界中で警戒心を招いています。

このブログでは、世界は自由貿易をしながらもナショナリズムに復帰するであろうと主張してきました。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
【米中貿易摩擦】手詰まり中国 時間稼ぎ トップ会談で「休戦」狙う―【私の論評】中国のミンスキー・モーメントが世界のナショナリズム回帰への先鞭をつける(゚д゚)!
トランプ大統領

"
2017年4月27日に行った外交演説でドナルド・トランプ大統領は、以下のように述べています。
我々は最早グローバリズムという誤ったイデオロギーによって国家を破壊し、米国の国民をその犠牲者としてはならない。国民国家こそ幸福と調和の真の基礎を成すものである。私は国際的組織というものを信用していない。
これはナショナリズムという言葉こそ使わなかったものの、まさしくアンチ・グローバリズムであり、国家の再建を意味するものです。また、米・英・中・露は、タックスヘイブンを潰そうとしていることも、猛威を振る舞った金融グローバリズムを崩壊させるものとなるでしょう。

これからは、世界の国々は自由貿易をしつつも、ナショナリズムの時代になっていくことでしょう。勿論、急に何もかもが変わっていくわけではないはずですが、徐々に変わっていくことになるでしょう。

私は、中国のポスト・ミンスキー・モーメント(ブログ管理人注:中国でミンスキー・モーメントが起こった後)がその先鞭をつけるものではないかと思います。

トランプの戦いは、まさに悪い面でのグローバリズムの申し子でもある中国を潰しナショナリズムに復帰した世界を再構築することなのです。
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トランプ大統領は、もし中国企業がうまい抜け道を使って、米国内で中国人を用いて製品を製造し、それを世界中に米国製としてばらまくようなことがあれば、これ対して鉄槌を下すのは明らかです。

悪しきグローバリズムに対しては、現在は米国トラン政権が先頭にたって戦っていますが、これには他の先進国も追随することでしょう。日本も当然追随します。

こうした動きに最初は抵抗する人もいるでしょうが、ブログ冒頭の記事のようなことをはじめとして悪辣な中国のやり口が人々に周知されるにつれて、抵抗はなくなり、世界はナショナリズムに回帰することでしょう。

グローバリズムは理想ではありますが、それには今の世界には徹底的に欠けているものがあります。それは、世界全体を統治する機構です。

それに似たようなものはすでにあります。それはEUや国連です。しかし、EUもなかなかうまく行っていないし、国連もまともに機能してはいないというのが実情です。EUや国連ですら、うまくいかないのであれば今後世界は、たとえ中国が崩壊したとしても、いつまた悪しきグローバリズムが復活するかは保証の限りではないので、やはり自由貿易をしつつも国民国家を主体とするナショナリズムに回帰することでしょう。

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