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2018年1月24日水曜日

原子力潜水艦が尖閣接続水域に侵入、追尾許す中国の失態―【私の論評】今回の事件の真相は、中国原潜の敗走(゚д゚)!

原子力潜水艦が尖閣接続水域に侵入、追尾許す中国の失態

東シナ海公海上で中国国旗を掲げて航行する潜水艦=12日午後
 2018年の幕が明けて間もない1月11日、尖閣諸島沖の接続水域に中国人民解放軍(以下、解放軍)に所属すると思われる原子力潜水艦が侵入したというニュースが日本列島を駆け巡った。

 駆け巡ったというのは、久しぶりのキーワードのそろったニュースで、メディアが張り切っていることが伝わってきたからだ。

 当初、国際面で展開される程度かなと考えていたら、一面トップのニュースとなったので、少し驚いた。

 それほど大騒ぎする話なのかな、というのが私の第一印象だった。

 というのも中国はもとより経済力に見合った海洋への進出を公言していて、宮古沖や津軽海峡を通って西太平洋に向かうことを恒常的に行うとしていた。つまり、日本のメディアが大騒ぎするほとんどの行為を、中国は隠してもいなければ、むしろ国内では「昨年、中国の太平洋への進出はこんなに進みました」と個別事例を挙げて誇っている。

 そして残念ながら空も海も通過が無害通航であれば日本として、それを妨げることもできない。

 そのため当初、私はこれも海洋進出のための一つのデモンストレーションではないかと考えた。

 紛らわしかったのは潜水艦だけではなく海上で中国海軍の軍艦も同時に接続水域へと侵入したこと。

 実は、日本は2015年の秋以降からとくに尖閣諸島への軍艦の接近ということに神経質になってきていた。これは別名「27度線問題」とも呼ばれているが、要するに中国海軍の“南下”にどう対処すべきか--つまり自衛隊をどう向き合わせるのかという課題--を突きつけられる極めて難しい問題であるからだ。

 つまり、後者であれば単に西太平洋への意思ではなくなるので深刻さは一気にエスカレートすることは避けられない。

 だが、その後の中国側の対応からも軍艦は、原潜をとらえて動いた自衛隊艦の動きを追尾したものとみられ、今回の問題はやはり潜水艦をメインにとらえて間違いないと考えた。

 だとすれば、なおさら日本が大騒ぎする話ではない。むしろ焦らなければならないのは中国だろう。

 そもそも原潜の脅威のほとんどは姿の見えない点にある。どこから攻撃してくるのか分からない存在だからこそ敵にとっての脅威になる。

 その原潜が自ら正体をさらして国旗まで掲げたのだから、ありがたい話であろう。写真1枚撮られるだけで、どれだけの情報が流出するかしれないのに、しっかり追尾までされてしまった。

 こんな中国の失態について、「習近平の指示だ」などと堂々書いている記事もあったが、それならば米軍は習近平に感謝状を贈るべきだろう。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

【私の論評】今回の事件の真相は、中国原潜の敗走(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事、理解しにくい面があります。特に、軍事面にあまり詳しくない方にとってはそうでしょう。なぜなら、確信的なことをはっきり言わないからです。

中国の潜水艦は日本の海上自衛隊に追尾され、お手上げになってしまったということです。挙句の果てには日本の海上自衛隊に潜水艦撃沈のシミレーション訓練に使われた可能性もあります。

それどころか、潜水艦、航空機、艦船などによって利用され、いろいろな場面で何度か撃沈シミレーションで撃沈されたかもしれません。潜水艦だ、航空機だけ、艦船だけ、あるいは潜水艦と航空機の組み合わせや、他の組み合わせ、あるいは全部の組み合わせなど幾通りものシミレーション訓練が行われたかもしれません。

潜水艦のソナー


しかも、下手をすると中国側にもわかるように、模擬魚雷、模擬爆雷などから、最近では漁船でも魚群探知機としても用いられるソナーで音波を発信させ、ソナーが潜水艦にあたりそれが反射して、海自側で確認したときに撃沈シミレーションで撃沈と判定したかもしれません。



潜水艦の場合、何らかの方式で、強烈なソナーを当てられると、乗組員全員がその音を聴くことができる場合もあります。直接聞けるだけあって、その恐怖は尋常なものではありません。何しろ、敵側の強烈なソナーの音響が響き渡るということは、自分たちは補足されていて、その次には魚雷や爆雷その他で攻撃され撃沈されることもありえるからです。(ただし、このあたりは、どの国でも極秘事項なので憶測の域を超えません)

そこまではしなくても、日本の海自は、中国の潜水艦の位置を示しつつ、何らかの方法で退去するように中国の潜水艦の艦長対し、警告を出したのは間違いないでしょう。

無論、中国の潜水艦はそのような警告に従うつもりはないので、様々な回避行動をとったのでしょうが、その都度探知され、どう頑張っても回避できないことがわかり、パニックに陥り精も根も尽き果ててどうしようもなくなって、浮上して中国の旗を掲げたのでしょう。こうすれば、少なくとも撃沈されることはありません。

039型潜水艦の発令所内部
対潜作戦で、潜水艦が浮上して国旗を掲げることは相手に、こっちは攻撃性がないことを告げていることを意味します。つまり、相手の艦隊により強制送還されること認めていることになります。中国の潜水艦は、ここまで追い詰められたということです。

これは機密事項ですから、日本政府が表に出すことはないでしょうが、これによって、中国の原潜は日本の海上自衛隊に対して手も足もでないことが、前から認識されていたのですが、それがはっきりと白日の下にさらされたということです。

軍事的に、潜水艦のステルス性が非常に重要視されているため、中国国内では潜水艦の公海での浮上・国旗掲げの理由をめぐって、推測が飛び交いました。

小野寺五典・防衛相は15日、中国の潜水艦は「商級」と呼ばれる093型原子力潜水艦だとの分析結果を発表しました。中国海軍の新型の攻撃型原潜で、全長110メートル、水中での排水量は6100トン、最大速力は30ノット。また、射程の長い巡航ミサイルを搭載可能だといいます。そうして、これは戦略型原潜ではなく攻撃型原潜です。

093型原子力潜水艦
海外中国語メディアは、「商級」原潜の浮上・国旗掲げは、日本に対して主権を主張しようとした狙いがあるほか、日本海上自衛隊の対潜作戦でやむ得ず浮上し、身元を明かしたのではないかと分析しました。日本の琉球諸島は、米軍のアジア太平洋地域におけるいわゆる中国がいうところの、第1列島線に位置し日米の軍事重要拠点であり、両軍の対潜戦力が非常に強いといわれています。

今回のような出来事は、過去にもありました。それは、漢級原子力潜水艦領海侵犯事件と呼ばれるものです。2004年(平成16年)11月10日に発生した中国人民解放軍海軍の漢型原子力潜水艦が石垣島周辺海域を領海侵犯した事件です。日本政府は、海上自衛隊創設以来2度目となる海上警備行動を発令しました。

中国海軍の改良型漢級原子力潜水艦
日本は、潜水艦を完璧にマークすることには成功したものの、海上警備行動発令のタイミングが遅れ、潜航したまま30分も領海侵犯されながら、その間必要な対処が出来なかったことが問題になりました。

事前に、海上保安庁単独では対応できない水中航行する潜水艦と判明していたにもかかわらず、国土交通省と防衛庁との間の調整と政治決断に時間がかかり過ぎたためです。本件の経過を受け、潜水艦のように明らかに海上保安庁では対応不能な不審船事案に関しては、最初から海上自衛隊が対処するよう運用が改められました。

また、当初より漢級原子力潜水艦とわかっていても最終的な音紋特定に時間がかかり、正式に抗議したのは事件の数日後になったことから、情報確定の困難さ、有事体制発動遅延の可能性が浮き彫りになりました。

しかし、この時の反省から今回は、海上自衛隊が適切に対応したどころが、その対応ぶりがあまりに迅速だったため中国の潜水艦は、浮上して国旗を掲げて航行し、敗走したということです。中国側は、さぞ肝をつぶしたことでしょう。

日米に追いつけ追い越せとばかりに、装備の近代化に血道をあげる中国海軍ですが、近年は空母を就役させたり、"チャイニーズ・イージス"の異名を取る旅洋Ⅱ型駆逐艦を運用するなど、その陣容は近代海軍そのものようにもみえます。

052C型駆逐艦(ルヤンII型/旅洋II型)
ただし、まだまだ中国の海軍力は、日米のには10年以上遅れています。多くの艦艇が、その実は"どんがら"ともいわれています。どんがらとは、外見は立派でも中身はスカスカという意味です。水上艦艇同士の戦いでは日米の敵ではありません。

そこで中国は、「潜水艦戦力の拡充」に活路を求めているとされてきました。中国が尖閣上空を含む空域に防空識別圏を設定してみせたのも、"鉄クズ"と揶揄(やゆ)された空母を就役させてみせたのも、すべて潜水艦部隊を守るためです。

水上艦艇では日米に敵(かな)わない中国は、潜水艦を"決戦兵器"と考えているようです。その虎の子の潜水艦を守るためには、空と海上をわがものとしなければなりません。尖閣周辺で、領空、領海侵犯が頻発していますが、その下には、必ず潜水艦が潜んでいると考えて間違いありません。

中国海軍は、原子力潜水艦(原潜)と通常動力型潜水艦の2種類の潜水艦を70隻近く保有しています。ただし、なかには旧式で使い物にならない明(ミン)型などが多く含まれているとされ、近代艦と呼べるのは、半数程度というのが実情です。

対して、海自の保有する潜水艦総数は20隻(練習艦を除く)です。中国は現状、数にものを言わせた"飽和攻撃"ができる点が有利です。わが国が警戒するべき"質"を備えた中国の潜水艦は、ロシアから購入したキロ型と、これまたロシアの技術を利用した今回接続水域に入った商(シャン)型(原潜)くらいです。

潜水艦に関する情報を公開すると、その能力が判明してしまうことが多いので、公に報じられることは滅多にありません。しかし、その実中国海軍の潜水艦はしばしば日本領海を侵犯しています。尖閣周辺はもちろん、南沙諸島、房総沖の日本海溝周辺にも頻繁に出没しています。

海自および米軍は、こうした中国潜水艦の動向を逐一、捕捉しているといいます。中国の原潜はとにかく音がデカく、静粛(せいしゅく)性(静けさ)が命の潜水艦にあって、ドラを叩きながら水中を進むようなものです。

潜水艦の位置を特定するには、スクリューやエンジンの雑音を用います。海自は艦種ごとに異なる雑音のデータ(「音紋(おんもん)」という)を日夜収集しているといいます。

潜水艦からも音紋データは収集できますが、空には、P-3C哨戒機やSH- 60K哨戒ヘリが、敵潜水艦が海中に息を殺して潜もうと、空から音波を収集するソノブイを海中に投下、さらには磁気測定機を用いて即座に居場所を特定します。海自の対潜哨戒能力は世界一とされていますから、中国の潜水艦は生きた心地がしないでしょう。

SH- 60K哨戒ヘリ
自衛隊の潜水艦部隊は、2週間から、最大3か月程度の演習を繰り返します。演習とはいえ、重要な水上航路に潜み、絶えず情報収集を行っています。潜水艦の"ホットスポット"は、冷戦時代だとソ連太平洋艦隊の潜水艦や水上艦艇が通過する宗谷、津軽、対馬海峡。現在だと、中国対策で豊後水道や浦賀水道に目を光らせなければなりません。その他、作戦海域は東シナ海全域、台湾海峡、フィリピン沖のバシー海峡にまで及びます。


海自の潜水艦基地は横須賀(神奈川)と呉(広島)の2か所です。各国潜水艦が最も激しく蠢動(しゅんどう)しているのは、水深200メートル前後だと言われています。対潜戦は先手必勝、一撃必沈が大原則です。海中で息を潜め、敵艦の動きを察知し、先に魚雷を打ち込むことが唯一の勝機です。

中国のキロ型や商型は、海自の誇る「そうりゅう」型に肉薄する能力を持つとされますが、今回の接続水域に侵入した商型とみられる原潜が、旗を掲げて航行したということは、海自の前に白旗をあげたのと同じです。

これは中国への大きな牽制(けんせい)になったはずです。我々の知らない海中では、日中両国の"鉄鯨(てつげい)"が絶えず睨み合っているのです。

そうして、我が国の対潜哨戒能力や、潜水艦の能力は今のところ中国を大幅に上回ってはいますが、それでも中国側が必至に近代化に邁進していることからすれば、この優位性もいつまで保てるかわかりません。それに、上の地図をみても作戦領域はかなり広いです。やはり、予算を強化して、これから先も優位を保てるようにすべきでしょう。

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2016年8月3日水曜日

これぞ海上自衛隊の「秘中の秘」 中国軍が最も忌み嫌う音響測定艦「ひびき」「はりま」の知られざる活動とは―【私の論評】その目的は南シナ海を中国原潜の聖域にさせないこと(゚д゚)!

これぞ海上自衛隊の「秘中の秘」 中国軍が最も忌み嫌う音響測定艦「ひびき」「はりま」の知られざる活動とは

外国潜水艦の音紋を収集する音響測定艦「ひびき」
秘密が多い自衛隊装備の中でも、二重三重のベールに包まれているのが海上自衛隊の音響測定艦「ひびき」と「はりま」だ。同じ呉基地(広島県)を母港とする艦艇の乗組員も「どこで何をやっているのか詳しく分からない」と口をそろえる。

音響測定艦が戦っている“敵”はロシアや中国など外国軍潜水艦の音だ。

潜水艦のスクリュー音はそれぞれに特徴があり、あらかじめその特徴を把握していれば、どこの国のどのような型の潜水艦が航行しているのかを特定する決め手となる。警察官が犯人を追い詰めるため指紋を重視しているのと同じように、自衛隊は各国潜水艦の「音紋」をデータベース化している。

音響測定艦はこの音紋を収集している。空から潜水艦の動きを監視する哨戒機や、海中に潜む潜水艦が相手方潜水艦のスクリュー音を探知し、集積されたデータをもとに船の身元を特定する。

自衛隊が平成3年と4年に「ひびき」と「はりま」を相次いで就役させた背景には、冷戦時代末期にソ連が技術開発を進め、潜水艦が発する音が静かになったことがある。潜水艦の最大の強みは、敵に気づかれず攻撃を加える能力。ソ連潜水艦の位置を正確に把握することが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)などの無力化につながる。

音響測定艦「はりま」
 潜水艦を発見・追尾する対潜水艦戦を得意とする海自にとって、音響測定艦は不可欠な存在となっている。その音響測定艦の能力を知られることは将来の対潜戦を不利にしかねないため、海自内でも秘中の秘となっているのだ。

乗員約40人の「ひびき」は全長67メートル、幅29・9メートル。艦尾から水中に投入する曳航(えいこう)式ソナー・SURTASSで広範囲に耳を澄ませ、海自艦が集めた音紋データは米軍と共有しているとみられる。2隻の船をつないだような船体は「双胴型」と呼ばれ、自衛隊艦船としては初めて採用された。この船体により、嵐の中でも安定的に航行できる。

音響測定艦は冷戦終結後もロシア潜水艦の音紋を集め続けているほか、潜水艦能力の増強を続ける中国も主なターゲットとなった。25年5月に沖縄県久米島周辺の接続海域で中国の元級潜水艦などが航行した際は、米海軍の音響測定艦インペッカブルとともに「ひびき」も投入した。これに対し、中国側は日米の動きを妨害するため水上艦を展開し、音響測定艦を追尾したとされる。

米海軍の音響測定艦インペッカブル
 21年3月には中国・海南島南方沖で航行していたインペッカブルが中国のトロール漁船5隻に包囲された。同年5月にも音響測定艦ビクトリアスが黄海の公海上で中国漁船から航路妨害を受けた。

有事の際、西太平洋における米軍の行動の自由を奪うことを目標とした中国の「接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略」の中で、潜水艦は中核的な役割を果たす。それだけに、中国にとって日米の音響測定艦の存在は天敵ともいえる。

【私の論評】その目的は南シナ海を中国原潜の聖域にさせないこと(゚д゚)!

まずは、音響測定艦に関して、さらに説明を加えることとします。

音響測定艦(おんきょうそくていかん)は、現代の軍艦の一種。音響測定艦は、海上自衛隊の呼称であり、アメリカ海軍では海洋監視艦(Ocean Surveillance Ship)と呼びます。武装はほとんど施されていませんが、長大な曳航聴音アレイシステムを搭載し、それによる潜水艦の探知を目的とします。聴音システムは探索曳航アレイシステム・SURTASS(Survellance Towed Array Sonar System,サータス)とも呼ばれます。 探知距離は、旧式原子力潜水艦で約100km程度と言われています。

冷戦期において、西側各国におけるソ連海軍の潜水艦の脅威は切実なものであした。潜水艦探知のために、海洋の各所にSOSUSシステムと呼ばれる固定聴音システムを整備したのでしたが、SOSUSが整備できない地区向けや機動的な潜水艦の探知のために特に聴音システムに優れた艦を整備することが検討されました。

このために開発されたのが、音響測定艦です。艦体は小型・低速ではあるのですが、静粛性に優れ、艦尾には曳航アレイを海中に投入するための設備を持ちます。静粛性と安定性を求めたために、アメリカ海軍のビクトリアス級音響測定艦やインペカブル級音響測定艦、海上自衛隊のひびき型音響測定艦は双胴のSWATH船型となっています。

中国の音響測定艦「北調991」
最初の音響測定艦はアメリカ海軍のストルワート級音響測定艦であり、1984年に就役しています。SURTASSは展張時、搭載艦の運動に制限を与えてしまうため、より簡易化したTACTASS(タックタス:戦術用タス)が巡洋艦、駆逐艦(海上自衛隊の護衛艦に相当)に装備されています。

10kt(ノット)以下で運用できるものの、艦に運動制限を加え、探知についても概略探知方位と虚像が同時に探知され、さらに艦首尾方向は不感域になるなど、用兵者には倦厭される探知ソースではあります。しかし1CZ(Convergence Zone、収束帯)域、2CZ域での探知能力は、外洋においては評価されるべきものでしょう。

最新型のアメリカ駆逐艦アーレイバーク級ではTACTASSが搭載されておらず、沿岸侵攻を第一目標とするアメリカ海軍の思想が現されています。なお潜水艦に搭載されているTACTASSはSTASS(サブマリンタス)と呼ばれますが、性能的にはTACTASSと同様です。STASSの特徴は、STASSを展張した際、聴音捜索と同時に、潜水艦が自身の放射雑音レベルの測定に用いる点にあります。

SURTASSはパッシブを基本とした曳航聴音アレイシステムであり、約2kmのワイヤーによって長さ数百mのハイドロフォンシステムを曳航するというものです。1990年代以降は、潜水艦の静粛化にともない、一部の艦にはハイドロフォンとは別に曳航式の低周波高出力アクティブソナー(Low Frequency Active, LFA)を装備している艦も出てきています。

また、海上自衛隊では東芝機械ココム違反事件によりクローズアップされた、ソビエト連邦海軍の原子力潜水艦の静粛性向上対策として、アメリカの技術指導の下、ひびき型音響測定艦2隻を建造しました。これにより、平時からソ連潜水艦の音響データ収集の向上を図るものでした。ただし、後に東芝機械のココム違反は、事件とソ連原潜の静粛性にまったく因果関係がないことが明らかとなっています。

音響測定艦は、パッシブソナーによる潜水艦の音紋採集が任務ですが、1990年代以降、アメリカ海軍に所属する音響測定艦が低周波高出力アクティブソナーを稼動させるたびにクジラやイルカが大量に座礁するという事件が多発しており、環境保護団体による非難が出ていました。これは、アクティブソナーの大音響が海棲哺乳類の感覚に打撃を与えているためだといわれています。そのために、アメリカ海軍においては、低周波高出力アクティブソナーの使用海域を制限しています。

また、冷戦終了後、潜水艦の脅威が減少したためにアメリカ海軍では音響測定艦の一部を別任務に転用しています。これはSURTASSシステムを降ろし、対空レーダーを増備、麻薬密輸組織の監視に使用するものです。主にカリブ海からメキシコ湾岸にかけて展開しています。また、民間人が乗り込むようになり、地球環境の観測にも使用され、地殻変動により発生する極低周波の観測など地学研究の機材としても利用されています。

さて、2012年辺りから、米軍の音響測定艦が日本の港に寄港している姿が、よく見られるようになりました。

米軍音響測定艦3隻が並んだ米海軍佐世保基地の立神岸壁(手前から
インペッカブル、エイブル、エフェクティブ)(2012年11月30日撮影)
沖縄のホワイトビーチに、2隻の音響測定艦が並んだ(2010年9月2日)
米軍が新鋭艦としてしは6隻程度しか保有していない音響測定艦を、佐世保に3隻同時寄港、あるいはホワイトビーチに2隻同時寄港させているということからは、米軍の意図が透けて見えてきます。

佐世保やホワイトビーチでは、乗員の休息と補給を行っていると見られています。つまり、佐世保や沖縄に近い海域において、これらの艦艇が重点的なパトロールを行っているということです。

北朝鮮の潜水艦は、質も量も非常に乏しいため、これら音響観測艦の目標は、中国の潜水艦であると言えると思います。

つまり、米海軍は、世界各国の潜水艦の動静に払う関心の半分以上を、対中国に向けているということです。

しかも、この潜水艦に対する対中シフトは、近年になって急激に強化されたものです。
定着した音響測定艦と測量艦」(リムピース12年1月26日)

以下に少し古い資料を掲載します。

特殊艦艇の佐世保への寄港状況 同記事より転載
少し字が潰れてしまっていますが、紺色の線は音響測定艦、ピンクは測量艦、緑は弾道ミサイル駆逐艦です。
佐世保への音響測定艦の寄港回数・停泊日数  同記事より転載

海底地形等、地誌データと呼べる資料は、以前から継続して調査がされている反面、潜水艦の動静を探る音響測定艦は、2009年あたりから急激に日本近海で活動していることが分かります。

これらリムピースの記事は、米海軍の中国潜水艦に対する脅威認識と衝突の可能性に関する認識が、ここ数年で急激に高まっていることを示す明確なデータです。

そうして、米軍のこのような動きに呼応して、日本の音響測定艦も日々、中国の潜水艦の動向を探っているに違いありません。

なぜ、そのようなことをするかといえば、やはり以前このブログでも掲載したように、南シナ海を中国の戦略型原潜の聖域にしたくないからです。

中国による、南シナ海の戦略型原潜の聖域化については以前にもこのブログで掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の膨張路線は止まらないが国際社会から強い逆風 南シナ海のハーグ裁定―【私の論評】通常戦力で勝ち目のない中国は、南シナ海に戦術核を配備する(゚д゚)!
中国によるスプラトリー諸島にあるファイアリー・
クロス礁の完成した飛行場(昨年9月20日撮影)

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、中国の南シナ海の環礁を埋め立て、軍事基地化する目的は、結局のところ、南シナ海の深い海に、中国のSLBM(潜水艦発射型弾道弾)を配備した戦略型原潜を他国に知られることなく、潜ませることにあります。

ここから、西太平洋に抜けると、さらにアメリカ本土に近くなり、アメリカ全土が中国のSLBMの射程距離内に収まります。

潜水艦で深いところに潜行すれば、他国に悟られることなく、核による先制攻撃や、報復攻撃をすることができます。これを戦略原潜の聖域化と呼びます。

米国にとっての本当の脅威は中国による南シナ海の支配そのものではなく、南シナ海の聖域化なのです。

これに対する対抗措置が、米軍による、音響測定戦による中国戦略原潜の探査なのです。日本にとっても聖域化は脅威であり、これに対する対抗措置として、日本も音響探査戦を運用し、中国の原潜の動向を探っているのです。

目に見える、中国による南シナ海の埋め立てや、米軍による南シナ海への艦艇覇権は、氷山の一角にすぎません。本当の中国の狙いは、南シナ海の聖域化であり、米国や日本の狙いはその阻止です。

中国の潜水艦は、工作技術が日本よりはるかに劣っているので、通常型であろうが、原潜であろうが、まるでドラム缶をドンドン叩きながら、水中を進んでいるようなものです。ですから、日米ともに、中国の潜水艦の動向は、かなり詳しく把握しているものと思われます。日米は、役割分担をして共同して中国の原潜の動向の詳細を把握していることでしょう。おそらく、中国の原潜の行動は丸裸にされているものと推測します。

中国の原潜が不穏な動きをすれば、それはすぐに発見されて、米軍はすぐに対抗措置をとるでしょう。それとは対照的に、日本の特に「そうりゅう型」潜水艦は、かなり音が小さいため、中国の音響測定艦ではなかなか発見できないといのが実情です。これには、中国海軍はなす術が無いです。実戦となれば、海の藻屑と消えるのみです。

日米の協力によって、中国による南シナ海の聖域化は是が非でもやめさせなければなりません。そのための、対抗措置が日米による音響測定艦による探査なのです。

多くの人は、日米が中国の南シナ海での埋め立ての暴挙を許してしまったことを非難するかもしれません。しかし、日米は今でも中国の真の意図を挫いていましす。これからも、挫き続けることでしょう。

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