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2020年6月18日木曜日

トランプ大統領「ウイグル人権法案」署名 中国反発必至の情勢— 【私の論評】「ウイグル人権法」は中共が主張するような内政干渉ではないし、国際法に違反でもなく前例もある!(◎_◎;)

トランプ大統領「ウイグル人権法案」署名 中国反発必至の情勢

トランプ米大統領=17日、ホワイトハウス

アメリカのトランプ大統領は、中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名し、法律が成立しました。

「ウイグル人権法」は、中国の新疆ウイグル自治区で、大勢のウイグル族の人たちが不当に拘束されているとして、アメリカ政府に対しウイグル族の人権侵害に関わった中国の当局者に制裁を科すよう求める内容で、先にアメリカ議会の上下両院で可決されていました。

これについて、トランプ大統領は17日、法案に署名し、「ウイグル人権法」が成立しました。

トランプ大統領を巡っては、元側近のボルトン前大統領補佐官が近く出版予定の著書のなかで中国の習近平国家主席に対し、ウイグル族を拘束する施設の建設を容認した疑いがあると記すなど中国国内の人権問題を軽視する姿勢が明らかになり、関心を集めています。

一方、アメリカでは新型コロナウイルスの感染拡大で中国への反発が広がっていて、トランプ大統領は、このところ秋の大統領選挙に向けて強硬姿勢を示しています。

ウイグル人権法について、中国政府は法律が成立すれば対抗措置を取る可能性を示唆していて、反発を強めるのは必至の情勢です。

中国外務省「内政干渉で強い憤慨」

アメリカのトランプ大統領が中国でウイグル族への人権侵害があるとして、これに関わった中国の当局者に制裁を科す「ウイグル人権法案」に署名したことについて、中国外務省は、声明を発表し「このいわゆる法案は、中国政府の新疆ウイグル自治区への政策に悪質な攻撃をし、中国の内政に乱暴に干渉するものだ。中国政府は強い憤慨と断固とした反対を表明する」と激しく反発しました。

そして、「アメリカが直ちに間違いを正すよう再度忠告する。さもなければ中国は必ず反撃し、生じるすべての結果はアメリカが完全に負わなければならない」として対抗措置を取ることも辞さない考えを示しました。


【私の論評】「ウイグル人権法」は中共が主張するような内政干渉ではないし、国際法に違反でもなく前例もある!(◎_◎;)

中国ではウイグルの建物や街が廃墟化され、文化、言語、信仰が破壊され、男性は収容所に送り込まれて労働させ、女性は中国男と強制結婚させらています。

民族浄化した末にウイグル文化園なるものを作り出して「文化の保存に尽力」とプロパガンダを打っています。このような悲惨な状況に終止符を打つためにも、ウイグル人権法の成立が待望されていました。

     両親が投獄され路上生活者となった男の子。寒さで凍死してしまった…
     中国によるウイグル族迫害をなぜマスゴミは報道しないのか?

トランプ氏がウイグル人権法案に署名。これで弾圧に関わった中国当局者の資産凍結やビザ発給停止が可能になります。180日以内に共産党幹部を含む関わった人物リスト作成 入国禁止、資産凍結、世界中の銀行口座廃止されます。習近平によるウイグル族に対する指示文書がリークされているので、習近平も対象になる可能性もあります。

トランプ大統領は、ハワイでの米中外相会議の会議中に、ウイグル人権法に署名成立させました。これは、無論意図的なことと考えられます。

中国外交トップが米国領ハワイへ出向いて会談しにへ行ったのはそもそも、習政権が追い詰められていることの証拠だと言えますが、会談の最中、トランプ大統領がウイグル人権法に署名、G7が香港国家安全法を「懸念」 する声明を出し、さらに中国を追い詰めたと言えます。

習近平の面子も、共産党の面子も丸潰れです。もう米国は中国の面子など気にせず、できるだけ潰して、恥をかかせ、意図的に怒らせ平静さを失わせ、徹底的に中国共産党を追い詰めようとしているようです。

日頃、人種差別や人権を叫ぶ文化人や芸能人が中国相手となると途端に大人しくなるの異常です。野党議員も声を上げるべきです。なぜ彼らは中国の人権弾圧とは闘わないのでしょうか。

もうすでに日本政府得意の「誠に遺憾」がこの世界で通用しないのは明らかになっています。日本もこの問題に関して腹をくくるべき時が来たようです。

中国外務省の華春瑩報道局長は10日の記者会見で、中国による香港への国家安全法導入方針に対して安倍晋三首相が先進7カ国(G7)による共同声明の発表を目指していると述べたことについて、「日本側に重大な懸念を表明した」と語り、日本政府に抗議したと明らかにしました。

中国外務省の華春瑩報道局長
華氏は、国家安全法の導入に関して「完全に中国内政に属し、いかなる外国も干渉する権利はない」と主張し、香港問題をめぐる国際社会の批判に反発しました。

安倍晋三首相は、G7で香港だけではなく、ウイグル問題も含めた、中共の人権侵害についても、G7で共同発表を実現して、日本の存在感を増すべきです。

中共は、人権に関わることで。米国などが何か行動を起こすと、その度に「内政干渉」として退けようとしてきました。しかし、それは中共の思い違いです。

世界には大小190余りの国があります。力の強い国、弱い国、豊かな国、貧しい国と様々です。これらの国が集まっているのが国際社会です。そこでは国同士が守らなければならない「きまり」があります。

それが国際法です。第二次世界大戦後にできた国際連合(国連)では、様々な国であっても、それぞれ独立して、互いに平等であること、自国のことはほかの国に干渉されないでその国が決めることを、すべての国連加盟国が守るべき原則として定めました。

この原則のために国際連合は、はじめのうちは、「内政干渉になる」ということを主張する国があったために、特定の国の人権問題に口出しできませんでした。これが変るきっかけになったのが、南アフリカの人種差別問題とパレスチナでの人権問題でした。

その後、いろいろの国の人権問題の現地調査などが行われるようになるにつれて、「特定の国の人権問題は、その国の内政問題ではあっても、国際社会の関心事でもあり国際連合がこれに関わることをさまたげられない」という考えが広く受け入れられるようになったのです。

この考えは、1993年オーストリアのウィーンで開かれた世界人権会議で採択されたウィーン宣言および行動計画で、「すべての人権の伸長及び保護は国際社会の正当な関心事項である。」と文書で確認されました。

今では特定の国の人権問題について意見を述べたり批判したりすることを「内政干渉である」と主張する国はありません。むしろ、そのような国は、自国に人権問題は存在しない、その国をおとしめるために嘘の情報を流していると、人権問題があるのを否定することにやっきになるのです。

国際連合は現在、世界の人権問題について積極的に討議し、調査し、報告を公表しています。簡潔にいえば、人権侵害の情報が根拠のある確かなものである限り、他国の人権に懸念を表明したり批判することは内政干渉とは考えられません。

さらに、今回のように米国が「ウイグル人権法」を定め、弾圧に関わった中国当局者の資産凍結やビザ発給停止することも、国際法的に見れば合法です。すでにこのようなことは、「ウイグル人権法」に比べれば、規模は遥かに小さいですが、「マグニツキー法」により、ロシアに対して実施されています。

「マグニツキー法」とは、ロシア人弁護士だったセルゲイ・マグニツキー氏が顧問をしていた英国人投資家が、ロシア国営企業の大規模不正を暴露した際に、代理人として逮捕されたマグニツキー氏が投資家に不利な証言を迫られたもののそれを拒否した結果、一年以上拘留されながら暴力を受け続け、結局2009年に獄中死したことに端を発します。

セルゲイ・マグニツキー氏 享年37歳

この事件には、ロシアの官僚たちも多数関わっていました。そのゴロツキ官僚たちが、マグニッキー氏を逮捕させ、勾留したのです。米国投資家らの運動により、「弁護士の死とロシアにおける人権侵害に関わった全ての者に制裁を科す」として2012年に成立したのが同法です。

人権侵害を行なった者への制裁の内容は、ビザ発給禁止や資産凍結などです。同法は、ロシアにとって極めて厄介である一方、自由や民主主義を標榜する米国にとっては、ロシア側に改善が見られない以上、その撤回は国家の威信をかけてできないのです。

当時ロシアは、グアンタナモ湾とアブグレイブに関与した11人のビザ発給を停止して、報復措置に出ました。しかし、ロシアに入国を拒否されても困ることはほとんどないので、これは報復としては弱いものでした。なお、米国人がロシアに資産を蓄えることなどは、滅多にないことなので、無論資産凍結などはやりようもありませんでした。

中共は、中国は「ウイグル人権法」に必ず反撃するとしていますが、「マグニッキー法」に報復したロシアのように、ほとんど何もできない可能性のほうが大きいです。

まずは、米中冷戦たけなわの現在、米国から中国に入国できなくなることは、さほど困ることはありません。いまは、コロナ禍もあり、そもそも行き来はできないし、将来的にも行けなくなること事態に関してさほど困ることないでしょう。

そうして、そもそも米国人大多数が、中国に資産を蓄えるなどの習慣はないし、中国の人民元は、事実上中国のドル保有が信用の裏付けとなっていることからも、中国が米国人の資産凍結などできません。

中共ができることとしては、中国国内にある米国企業や米国人に対する嫌がらせでしょうが、そんなことをすれば、ますます多くの企業が中国から逃げ出すことになるだけで、それは、中国の損失になるだけです。

中共は、ロシアと同じく、米国に報復するための有効な手立てはありません。それどころか、中共がウイグル弾圧をやめなければ、「マグニツキー法」に似たような法律が他の多くの先進国でも作られように、他の先進国でも「ウイグル人権法」に似たように法律が施行されることになるかもしれません。

日本も「誠に遺憾」と表明するばかりではなく、日本版「ウイグル人権法」を検討して、成立させるべきです。

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2018年5月24日木曜日

日大悪質タックル問題 醜聞にまみれた米名門大の「前例」―【私の論評】我が国では大学スポーツという巨大資源をガバナンスの範疇から外し腐らせている(゚д゚)!


日大選手の記者会見  写真はブログ管理人挿入

日大アメフト部の悪質タックル問題、2つの会見を経た後も釈然としない思いが残った。立教大学体育会野球部に所属していた過去があり、現在も立教大学非常勤講師として、「スポーツビジネス論~メジャーリーグ1兆円ビジネス」の教鞭を執るスポーツジャーナリストの古内義明氏が指摘する。

* * *

 5月22日に日本記者クラブで、日本大学アメリカンフットボール部の当該選手の会見を見て、胸が痛くなった。日本中が注目し、社会問題となる中、彼は身分を証し、自分の言葉で謝罪する決断をしなければならなかった。会見場には日大アメリカンフットボール部はおろか、日大の関係者の同席もない中で、20歳の若者一人が350人を超えるメディアの前に立つような状況に、なぜ追い込まれてしまったのか、大学スポーツに関わる身として、激しい憤りを感じざるを得なかった。

 コンタクトスポーツの世界において、彼が行った故意によるラフプレイは許されるものでは決してない。しかし、彼が発した「事実を明らかにすることが、償いの第一歩」という真摯な態度は関西学院大学アメリカンフットボール部のクオーターバックの選手とそのご家族、そして関係者の方々に届いていたと信じたい。

 私はアメリカの大学院に進み、スポーツ経営学の修士課程で学ぶ中で、全米大学体育会協会(NCAA)の存在意義、そして、カレッジスポーツの関係者と話す機会に幾度となく恵まれた。その経験から今回の問題で、真っ先にNCAAの歴史に汚点を残したペンシルベニア州立大学のスキャンダルを思い出した。

ペンシルベニア州立大学アメリカンフットボール部の監督だったジョー・パターノ

 ペンシルベニア州立大学アメリカンフットボール部は「ビッグ10カンファレンス」に所属する強豪であり、2度の全米チャンピオンに輝く名門校だ。陣頭指揮を執るジョー・パターノ監督は46年間もサイドラインに立ち続けたカリスマ的な名将であり、カレッジフットボールの殿堂入りも果たしている。

 2011年、その名将の右腕のアシスタントコーチだったジェリー・サンダスキーが15年間に渡り、8人の少年に性的虐待をしていたことが発覚し、全米を震撼させた。大学理事会の対応は迅速だった。事の重大性に鑑みて、元FBI長官のルイス・フリー氏を長とする外部委員会を設置し、調査を依頼。出来上がった報告書によると、「パターノ監督が事件の隠蔽工作を積極的に指揮していた」という衝撃的な事実が明らかになった。

ジェリー・サンダスキー(手前の赤い囚人服の男)

 パターノ監督はシーズン終了後の辞任を表明していたが、大学理事会はそれを許さず、伝説的な名将は解任された。と同時に、学長、副学長、体育局長という大学の要職も解任したのだ。さらに、10万6572人を収容するビーバー・スタジアムの前に立つパターノ監督の銅像も重機によって撤去された。

 統括団体となるNCAAの制裁措置は関係者の予想を上回る徹底したものだった。まずは、パターノ監督が「不祥事を知り得た時点」までさかのぼって、それ以降に記録した111勝は抹消された。これにより409勝の通算勝ち星は298勝となり、「歴代最多勝利監督」という栄誉も剥奪された。また制裁金として、当時のレートで約48億円という巨額の罰金の支払いを命じ、4年間に渡ってプレーオフ進出禁止と毎年10人分の奨学金停止も通達された。

 同校のあるペンシルベニア州のステートカレッジは4万人という小さな町であり、ペンシルベニア州立大学フットボール部はおらが町の誇りだった。スキャンダルが与えた経済的損失はもちろんのこと、何よりも名門校が受けたイメージダウンは避けられないものとなった。それでも、ペンシルベニア州立大学は高等教育機関として、ゼロからの出発を選んだ。監督はもちろんのこと、大学トップをも解任して、自らの襟を正す決断をしたのだ。

 だからこそ、今回の日本大学とアメリカンフットボール部の対応、そして世論との間にこそ大きな「乖離」があると言わざるを得ない。

立教大学第一食堂

 立教大学では「RIKKYO ATHLETE HANDBOOK」を作成し、体育会51部56団体に所属する2400人のすべての部員に配布している。この中には、立教大学の体育会活動を支える考え方をまとめた「立教大学体育会憲章」が掲載され、体育会学生であることの心構えが記載されている。学生は内容を習熟することで、スポーツ活動と学業を両立させる文武両道の精神のもとに、人間性を養うことがうたわれている。

 その憲章の中にある第7条(監督・コーチとの関係)では、「体育会各部の監督・コーチ(以下「指導者」という。)」は、体育会員に技術を指導し、スポーツを理解せしめ、その心身の健全なる育成を行う」(原文ママ)とある。指導者とは技術指導はもちろんのこと、学生に対してルールに基づいたスポーツの本質を教えることで、社会のためになる人間形成が求められている。

 23日夜になって日本大学アメリカンフットボール部の内田正人前監督と井上奨コーチがようやく会見を開いた。だが、該当選手の会見と、内田前監督や井上コーチの会見を聞き比べると、やはり何か釈然としない。また、2人の指導者が質問に対して、的確な回答をせず、どこか他人事であり、全て保身に走る内容という印象が残った。結果、該当選手か、指導者のどちらかが嘘をついていると言わざるを得ない歯切れの悪さが残る会見となった。

 今回の一連の問題で、大学は誰のためにあるのか、指導者は誰を守るのか、という本質論が浮き彫りになった。学生スポーツに関わる大人が、「選手に対して、自分の息子、娘のように考えられるか、どうか」。いま、その姿勢そのものが問われているような気がしてならない。

 【PROFILE】古内義明(ふるうち・よしあき)/立教大学法学部卒、同時に体育会野球部出身。ニューヨーク市立大学大学院修士課程スポーツ経営学修。立教大学では、「スポーツビジネス論~メジャーの1兆円ビジネス」の教鞭を執る。1995年の野茂英雄以降、これまで二千試合を取材するスポーツジャーナリスト。著書に、『メジャーの流儀~イチローのヒット1本が615万円もする理由』(大和書房)など、これまで14冊のメジャー書籍を執筆。(株)マスターズスポーツマネジメント代表取締役、テレビやラジオで高校野球からメジャーリーグ、スポーツビジネスまで多角的に比較・分析している。

【私の論評】我が国では大学スポーツという巨大資源をガバナンスの範疇から外し腐らせている(゚д゚)!

このブログでは、今回の「悪質タックル事件」に関して、統治(ガバナンス)の問題を指摘してきました。しかし、テレビや新聞の報道などでは、この統治の問題については全く指摘されていません。

米国では、20世紀初頭にアメフト競技による死亡・傷害事故が絶えませんでした。憂慮したセオドア・ルーズベルト大統領は、ガバナンス(組織の統治)を強化するために大学スポーツの連合体であるブログ冒頭の記事にもでてくる、NCAA(全米大学体育協会)の設立を主導しました。

日本の大学の場合、ガバナンスが弱いようです。関東学連でも強豪校が力を持ち、OBの影響力もあるので公平に対応するのは難しいようです。今はアメフト部員の入試や就職でも競技歴がものをいうが、規制らしい規制もなく、恣意的に行われてきたところがあります。

一部の大学スポーツは名誉のため、母校のため、監督の地位保全のためなど『悪しき勝利至上主義』になってしまっています。監督は口頭では指示していないと言っても、スポーツの世界には『無言の指示』『雰囲気の指示』も往々にしてあるようです。

関東学連にも、内田監督への抗議や批判を含む問い合わせが殺到、外部からの電話やメールに応対しきれずサーバーの限度を超えるほどの事態もあったといいます。ネット上では「協会が日大を除名するしかない」「連盟は日本大学を除名処分にするくらいの強硬な姿勢で望むべきだ」との声も挙がっています。

過去のブログではガバナンス(組織の統治)についてドラッカーの定義について以下のようにまとめました。
ガバナンスとは、当該組織が社会のために意味ある決定と方向付けを行うことである。組織のエネルギーを結集することである。問題を浮かびあがらせることである。選択を提示することである。 
統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺する。しかも、決定のための機関に実行させても、貧弱な実行しかできない。それらの機関は、実行に焦点を合わせていない。体制がそうなっていない。そもそも関心が薄い。
また、統治の正当性については、以下のようにまとめました。
社会においてリーダー的な階層にあるということは、本来の機能を果たすだけではすまないということである。成果をあげるだけでは不十分である。正統性が要求される。社会から、正統なものとしてその存在を是認されなければならない。
そのような正統性の根拠は一つしかない。すなわち、人の強みを生かすことである。これが組織なるものの特質である。したがって、マネジメントの権限の基盤となるものである。 
今回の事件においては、すでにこのブログでも述べてきたように、まずは日大側の統治の問題があります。そもそも、内田監督が、人事権を有する常務理事を兼任していることが、非常に問題です。

統治と実行を両立させようとすれば、統治の能力が麻痺するからです。内田監督を常務理事と兼任させている日大という組織は、統治能力が麻痺しているのではないでしょうか。そうだとすると、スポーツ関係だけではなく、他の分野でも様々な問題があるのかもしれません。

実際、この事件が発生してから、今日までの日大の対応ぶりをみると、統治能力が麻痺しているとしかいいようがありません。もし、内田監督が人事権を有するる常務理事を兼任していなければ、かなり大学側としても対応がしやすく、もっと早期に様々な対応ができ、あまり傷口を広げることなく、事件に対応できたと思います。

テレビや、新聞などでは、「危機管理能力」ということが繰り返しいわれていますが、そもそも、実行部門の「危機管理能力」が高かったにしても、統治機能が麻痺していれば、まともな対応などできるはずもありません。

【NCAAファイナルフォー】180の国や地域でテレビ放映されるビッグイベント

次に、日本には、全米大学体育協会(ぜんべいだいがくたいいくきょうかい、略称:NCAA, National Collegiate Athletic Association の略)という組織がないということも問題です。

この協会は主に、大学のスポーツクラブ間の連絡調整、管理など、さまざまな運営支援などを行っています。本部はインディアナ州インディアナポリスに設置されており、協会が運営する競技会の種目は、アメリカンフットボール、バスケットボール、野球、アイスホッケー、テニス、ゴルフ、陸上競技、アマチュアレスリングなど多彩です。

大学体育協会としては世界でも最大規模で、一部の競技ではリーグ戦がテレビ中継されるなど人気が高く、協会の権威や発言力は非常に高いものとなっています。そうして、この協会が、大学スポーツのガバナンスも担っているのです。

このような大学スポーツの統治を担う組織がないということも非常に問題です。以下に現状の日本の大学のスポーツの現状を掲載しておきます。

筑波大学が各スポーツ部(体育会)を一元的にマネジメントする「アスレチックデパートメント」(AD)を設置する方針を発表しました。昨年8月1日付で設置準備室が発足。室長には米大手スポーツ用品メーカー、アンダーアーマー(UA)の日本総代理店「ドーム」(東京・江東)の安田秀一会長兼最高経営責任者(CEO)が客員教授となって就任ましした。現在は各スポーツ部、チームに任されている安全対策や会計管理、コンプライアンス(法令順守)を、新たにADの管理下で強化する狙いがあります。

地味なニュースであまり注目はされていませんが、これは日本の学生スポーツが抱える根本的な問題を変革する画期的な試みだと思います。大学スポーツに関して最近、日本版NCAA(全米大学体育協会)という言葉をしばしば聞くようになりましたが、各大学でのADの設置はその実現のための前提となるはずです。

ADとは日本語では大学の体育局と呼ぶのが適当かもしれません。もっとも日本で体育局を設置している大学などほとんどありません。学生スポーツは大学が管理するものではなく、学生の自主的な活動として存在しています。各大学のスポーツ部は通常は任意団体であり、運営は学生やOBに任されている。大学側は部長を置くことはあっても、監督やコーチを選ぶ人事権を持たないし、活動資金を一部補助することがあっても会計報告などは受けません。

日本ではこのやり方がスポーツのあるべき姿のようにも感じるむきもあるようですが、実はさまざまな問題をはらんでいます。

一般的に大学のスポーツ部の運営費は現役部員からの部費がベースです。人気があってブランド力の高い一部のチームは、独自にスポーツ用品メーカーなどからユニホームや用具の提供を受け、リーグからの収益の分配やスポンサー料も入ってきますが、ほとんどのスポーツ部の活動資金は乏しいです。任意団体では赤字を繰り越すこともできないから、足りなくなれば結局、現役部員の負担を増やすことになります。

そんな状況では格闘技やアメリカンフットボール、ラグビーなど深刻な事故の起きやすい競技でも、その防止策にお金をかける余裕はありません。監督やコーチはほとんどのケースで大学と雇用関係のないOBが引き受け、十分な報酬が支払われることもありません。同時に厳格な会計管理が必要ないため、指導者らによる資金の私物化といった不祥事もしばしば起きます。ガバナンス(組織の統治)が効かず、リスク管理のシステムもないのが日本の大学スポーツの実態です。

少子化で学生数が減少する時代を迎え、大学にとって人気のあるスポーツ部は志願者をひき付ける重要なツールになってきました。一方で、スポーツ部で選手や監督の不祥事や練習中の事故など起きれば、大学のブランドは傷つき、イメージダウンとなります。

大学側がスポーツ部を教育を提供する各学部と同様の経営資源と考え、リスクを管理してその価値を最大化しようとするのは当然の流れです。

しかし、実際はその方向には進んではいません。伝統校になるほど学校による管理を学生やOBたちは嫌がります。大学側にもスポーツに新たに投資できるほどの財政的な余裕はありません。先の筑波大の挑戦は民間企業のドームの支援を受けて初めて可能になったものです。

ドームの本社オフィス 世界でもっとも「情報共有・伝達・意思決定」の速いオフィスを実現

ドームは日本のスポーツの産業化を会社の戦略として掲げています。スポーツ用品メーカーの成長にはスポーツ産業の健全な発展が不可欠というわけです。そのターゲットとなるのが大学スポーツ。筑波大のほか、関東学院大、近畿大などと包括的連携に関するパートナーシップを締結、スポーツによって大学のブランド力を向上させて収益につなげる取り組みを始めています。

これは日本版NCAAに向けての第一歩といえるのでしょう。本家のNCAAは約1200大学が関係する巨大組織で、アメフト、バスケットの試合の放映権料を中心に収入は年間1000億円を超えるとされます。これをモデルにスポーツ庁は日本版NCAAとなる統括組織を今年度には創設したいとしていすま。とはいえ、実際に各大学やチーム、リーグ、大会などがどう関わるのでしょうか。華やかなイメージは先行しても、具体的な姿は見えていません。

大学の統治下にないスポーツ部がばらばらに活動している日本の現状では、大学や競技を横断する統括組織を作ったところで機能しないでしょう。米国のNCAAではADがあるのが当たり前です。過度なビジネス化への批判もありますが、学業との両立に配慮して、練習時間の上限や一定以上の成績を収めなければ試合に出場できないことなどが各校共通のルールで定められていまする。「単位より、順位。」という宣伝ポスターが物議を醸した日本の学生スポーツでは考えられないことです。

ドームの安田CEOは「NCAAは各大学の意志の集合体」と言います。しかし、筑波大でもADによる統治をすべてのスポーツ部が了承しているわけではなく、サッカー部などとの個別の交渉はこれから始まります。ドームがほかに業務提携している他の大学では、筑波大のように一歩踏み出した動きはまだみられません。

日本版NCAAに関して、本家のようなスポーツ市場の誕生を期待する声がありますが、それははるかに先の夢物語です。まずはその価値を認めてスポーツ部を自らの責任でマネジメントしようとする大学が続々と登場し、ADの設置が日本の大学の常識となることが前提になります。大学スポーツ改革は10年や20年はかかる大変な作業になることでしょう。 

いずれにせよ、大学側がスポーツを学生の自主的な活動として、積極的にはかかわらないし、統治の範疇からも外すようなことが続けば、今回のような事件はこれからも起こり続けることでしょう。今の日本では、残念ながら、日本大学だけが例外ということではありません。

大学だけではなくNCAAのような団体が、大学スポーツ全体をまともに統治すれば、大学スポーツ自体が富を生み出す強力な資源ともなり得るのです。そうして、富を生み出すだけではなく、社会の中での大学スポーツの価値を高め、社会に貢献することもできるのです。無論それ以前に大学側が、積極的に大学スポーツを資源とみれば、大学スポーツの転機ともなり得ることでしょう。

多くの大学がそのような見方をするようになり、今や独立行政法人となった大学自体も大学スポーツを資源として活用するようになれば、いずれ日本版NCAAも可能になるかもしれません。そうして、この日本版NCAAが、成果をあげるだけではなく、人の強みを生かすことを基盤とすれば、日本社会から、正統なものとしてその存在を是認され、日本の大学スポーツを劇的に変えることになるでしょう。

そうして、日本版NCAAに関しては、最初からビッグビジネスなどを目指すのではなく、まずは日本の大学スポーツを統治する機構として発足させるというのが正しいあり方だと思います。

米国のNCAAの原型もそのような形でスタートしています。そうして、統治機構はさほど大きな組織でなくても、成果は十分あげられるのです。実際に、エリザベス朝のイギリス政府は、各省に数人の人間が割り当てられていただけでした。

それが、あの植民地を含めた広大な大帝国を統治したのです。他のことはほとんどせず、統治に集中したからこそ、それが可能になったのです。統治のみに集中するなら、日本版NCAAも意外とはやく設立することができ、大きな成果をあげることができるかもしれません。

各大学の「アスレチックデパートメント」(AD)も、当初は統治だけに専念をすれば、かなり成果をあげられると思います。そうして、その後もADは統治と実行を厳密にわけて実行していくべきです。これが曖昧になれば、また不祥事が起こることになります。これは、日本版NCAAも同じことです。大組織の不祥事は、統治と実行が曖昧になったときに発生するのが常です。

日本の大学スポーツが日本という国柄も考慮しつつ、一元的に統治されるようになったその暁には、今回のような事件は、現在の私達が、戦国時代を振り返るような過去のものとなるかもしれません。とにかく、大学スポーツという資源を活用しないままの日本で、大学スポーツが統治の対象から外れていると現状は何がなんでも是正しなければなりません。

そのような時代が本当に来ることを願ってやみません。
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