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2019年7月15日月曜日

「合意なき離脱」へ突き進む英国―【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

「合意なき離脱」へ突き進む英国

次期保守党党首確実のジョンソン氏の甘い見込み

岡崎研究所

 メイ英首相の保守党党首辞任に伴う、同党党首選挙は、6月20日の保守党議員による5回目の投票の結果、ボリス・ジョンソン前外相:160票、ジェレミー・ハント外相:77票、マイケル・ゴーブ環境相:75票となり、ジョンソンとハントの戦いとなった。16万人の保守党員による郵便投票により、7月22日の週に新たな党首が決まることになる。ジョンソンは、同棲中との恋人との喧嘩沙汰で警察が呼ばれるなど、様々な問題を提起されて資質を問われているが、保守党員の間での圧倒的優位は揺るぎないようであり、ジョンソンの勝利は確実と見られる。

1月16日、議事堂の外では各人の主張に応じた旗が振られた。

 そのジョンソンが、6月24日夜のBBCのインタビュー番組に出演してBrexitについて語っている。6月18日のTalk Radio における1つの発言とあわせて、6つの発言の要旨を紹介する。

1. 鍵となるのは、離脱協定の使える部分を取り出して使うことである。アイルランド国境の問題には10月31日以降の移行期間において取り組む必要がある。

2. 移行期間を得るためには、EUとの何等かの合意が必要であり、その合意を目標とする。

3. EUは英国と新たなディールを交渉しようとするであろう。何故なら、欧州議会には有難くもないBrexit党の議員がいる。彼等は我々を追い出したいのだ。清算金が欲しいというインセンティブがある。勿論、英国には離脱してWTOの条件に戻る用意があるが、そのこともインセンティブとなる。

4. 我々は、10月31日に離脱する用意をしつつある。何事があろうと。必死でやる。何事があろうと。(Talk Radioにて)

5. 「no-deal Brexit(合意なき離脱)」で下院の承認を得ることが出来ると思っている。与野党ともやり遂げなければ選挙区で致命的しっぺ返しに直面することを理解していると思う。

6. 人々は英国政治の背中にとりついた巨大な「夢魔」を熊手で取り除いて欲しいと渇望していると思う。彼等は我々がこの国のために何かとてつもなく素晴らしいことをやり遂げることを欲している。

 ジョンソンの言っていることの核心部分は、離脱協定を解体して、都合の良い部分は都合の良いように料理しよう、ということである。交渉には清算金を梃に使いたいらしい。アイルランド国境の問題は、離脱後に移行期間を設けてそこに先送りしたいらしいが、一方的な要求である。そもそもEUは離脱協定の再交渉はしないと言っている。6月21日のEU27の首脳会議でもこのことを確認している。

 こういうことでは、入口で衝突してEUとの交渉は成立しないのではないかと思われる。ジョンソンは新たな交渉チームを組織する必要があろうが、引き受け手があるのかも疑問である。下院は「合意なき離脱」を否認するのかも知れないが、下院がどう動こうとEUとの間に合意が成立しなければ、自然と「合意なき離脱」となる。事態は、間違いなくその方向に進んでいる。

【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

英国が合意なき離脱をした場合、一時的には経済が相当落ち込むことが見込まれています。にもかかわらず、なぜ英国はEUを離脱するのでしょうか。すくなくとも、なぜ国民投票で離脱が決まったのでしょうか。

英国のEU離脱の要因としては多くの理由があることは否定できないですが、よく移民の問題が主要な要因として取り上げられます。これは表面的には正しいのですが、より根底にある問題を見過ごすべきではないです。

英国の社会法制度が欧州大陸の国々のそれとはそもそも相容れないのではないでしょうか。特にEU諸国からの移民問題は、その根底にある社会法制度の違いという問題が一つの形で顕在化したのに過ぎないのではないでしょうか。

社会法制度の違いとは、簡単に言うと、大陸法の国と英米法の国の制度が異なるということです。ドイツ、フランスをはじめとする欧州の大陸国家は大陸法(シヴィル・ロー)の国であり、英国は英米法(コモン・ロー)の国です。

両者の違いを一言でまとめると、大陸法国家では成文法が法体系の根幹をなし、裁判官は成文法のみに縛られます。一方、英米法国家では不文法(成文化されていない法)が存在し、裁判官は成文法、不文法を踏まえて自分の判断を下します。

コモンローとシビルローでは歴史も体型も全く異なる

現在の裁判官は過去の裁判官が下した判断(判例)に拘束されます。大陸法では書かれたもの(成文法)が重要で、英米法では歴史的経緯(判例の積み重ね)を重視するともいえます。

最近の研究で明らかになってきたように、国内社会法制度の違いはそれぞれが選好する国際協力の在り方の違いにも反映されます。大陸法国家は条約を好みます。そして条約の締結とともに国内法を条約と整合的になるように改正します。

一方、英米法国家は条約より「ソフト」な国際宣言のようなものを好みます。英米法国家には不文法が存在するので、条約を締結しても大陸国家のように成文法を改正して整合性をはかるということができないからです。

しかし興味深いのは、国際宣言は大陸国家では無視されることが多いです(成文法の改正に至らないことが多い)が、英米法国家においては各々の裁判官が国際宣言を勘案するという意味で、結果的に履行される度合いが高いことです。不文法や国際宣言の良し悪しの話でなく、国内制度と国際制度の整合性が問題なのです。

法体系およびそれによって生じた社会法制度の違いは英国と欧州大陸国家の協力を困難にしています。少なくとも今までの欧州統合は英国に大きなストレスがかかる構造となっていました。

例えば欧州司法裁判所は基本的に大陸法的アプローチをとっています。大陸法国家は欧州司法裁判所の判決に合うように国内成文法を改正することで整合性を確保できます。

英国は紙に書かれたルールに基づいて下された欧州司法裁判所の判断と、不文法をも踏まえた国内裁判所の判断の間の整合性をとることが、大陸法国家よりも困難であることは容易に想像がつきます。

人の能力評価の方法についても英米法国家と大陸法国家では大きく異なります。大陸法国家では筆記試験で人の能力を計ります。例えば大学入学のための厳格な筆記試験が存在する場合が多いです。

そして試験をパスした後はエリートとして扱われ、よほどのことがない限り卒業できます。一方、英米法国家では大学入学のための筆記試験は不在であるか軽視され、高校時代の成績や推薦状がものをいいます。しかし入学後は卒業までサバイバル・レースが続きます。「成文法―筆記試験」、「過去の判例の蓄積―過去の経歴・経過重視」と見事に対応しているのです。

ここで国際協力の要素を入れると話はどのようになるでしょうか。入学のための筆記試験が国際交流の大きなハードルになりそうなことは容易に想像がつきます。直観的な例をあげるならば、大陸法国家出身者(例えばフランス人)が英米法国家(例えば英国)の大学に合格する方が、英国人がフランスの大学に合格するより容易であるということです。ただしこれは英国の大学に入学したフランス人が無事に学位を取得できるのかという問題とは別です。

一般的に、大陸法国家では専門職業(例えば技術士等)に就くには、難関の筆記試験に合格する必要がある場合が多いです。そして合格者が少ないので、合格後の労働市場における競争はそれほど熾烈ではありません。

一方英米法国家では、大学卒業後見習いで専門職に就き(筆記試験が不在である場合も多い)、経験を積み、学会で発表し、有名な先輩専門職の推薦状をもらい、審査を受けた後、専門職となる。

見習いとして働き始めることはそれほど難しくないですが、その後のサバイバル競争で生き残るのが難しいです。上述の大学入学の例同様、大陸法国家出身者が見習いの専門職として英米法国家で働き始める方が、英米法国家出身者が大陸法国家で専門職として働きはじめるよりも容易だということになります。

これは、弁護士の実数にも大きな影響を与えています。英国には、国民一人あたり694人の弁護士が存在します。フランスは、2461人に一人です。米国に至っては、320人に一人です。そのためもあってか、英米は訴訟社会ともいわれています。

米国ドラマ"フレイキング・バッド"に登場した悪徳弁護士ソウル・グッドマン

話をもう一歩移民問題に戻します。あなたがレストランにおける給仕のマネージャー格を採用しようとしたとします。二人から応募があり、一人は大卒ですがウエイトレスの経験は1年、もう一人は高卒ですがウエイトレスとしての経験を5年有していたとします。

他の要件が全く一緒ならどちらを選ぶでしょうか。大陸法国家では前者、英米法国家では後者が採用される傾向が強いです。大陸法国家では候補者が大学入試に合格した能力の持ち主であるということを評価し、英米法国家ではウエイトレスとしてのより長い経歴を評価するのです。

欧州大陸国家と英国とで社会・労働市場が完全に分かれていれば問題は生じないです。しかし両者が統合し始めたらどうでしょうか。ここで重要なのは、経験は後から追加的に積むことができるが、試験を受けなおすことは極めて困難であるという事実です。

結果的に、例えば、フランス人がロンドンのレストランで働く方が、英国人がパリのレストランで働くより容易であるということになります。上述の大学入学の例と同じです。ロンドンのレストランで働くのはフランス人かもしれないし、ポーランド人かもしれないですか、根底にある問題は、英米法国家(英国)の社会法制度が大陸法国家のものよりもオープンで柔軟的あるということです。

大陸法国家では社会のあらゆるところに門番(ゲート・キーパー)が存在し、入り口段階で規制しようとします。そして筆記試験やその類似物としての学位(入試を突破した証)が門番の役割を果たすことが多いです。

英米法国家では入り口には門番はおらず、とりあえず門の中には入れます(その後に熾烈な競争があります)。英国と欧州大陸国家の間で欧州統合のストレスの感じ方が違う根源的な理由はこの社会法制度の違いではないでしょうか。

英米法社会の強みはオープンであることとそれに付随する競争の存在ですが、これは外国人による参入が容易であることを意味します。職を追われた英国人は職を得た、例えばポーランド人が長い間仕事を続けられたか(サバイバルできたか)には関心示さず、職を追われた事実から外国人を敵視してしまいます。一方、英国人が大陸法国家においてウエイトレスの職を見つけるのは相対的に困難です。

英国のEU離脱を移民等の表面的な問題としてとらえるのでは、根底にある本質を見過ごすことになりかねないです。背景にある社会法制度のズレを看過してはならないです。オープン、筆記試験の軽視、経歴・経緯重視、競争重視、という英米法国家が有する従来の強みが、もしかすると現在国際協力の場において弱みになっているのかもしれないです。英国がその伝統である開かれた社会法制度を維持できなくなっているということに他ならないです。

このようなことから、英国がEUから離脱するのは当然といば当然なのかもしれません。EU 内の国々では経済の内容が大きくことなります。しかし、社会制度の違いという問題は経済の内容よりもさらに、埋めがたい溝です。

やはり、イギリスは短期的には経済的に大きな問題を抱えることになりますが、長期的にはEUから離脱すべきなのでしょう。問題はどのようにハードランディングを避けるかということです。

そうして、この問題は先進国と中国の関係にもあてはまります。中国が経済的に発展すれば、そのうち中国も他の先進国と同じようになるだろうと、先進国は考えていましたが、これはことごとく裏切られました。

中国と先進国の差異は、英国と大陸との違いよりはるかに大きいです。先進国では、英国とフランスのように、コモンローとシビルローの違いはありますが、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という面でみれば、互いに似通っています。そうして、これが先進国の共通の理念となっています。

この面では、EU諸国も、英国も互いに理解することができ、ある程度の歩み寄りも可能でしょう。

しかし、中国には民主化、政治と経済の分離、法治国家などという概念はありません。だからこそ、中国は海外からの資金で、国内インフラを整備することにより、経済を発展させても、結局社会構造は何も変わらなかったのです。

しかし、その中国が経済力を軍事力を拡大させ、世界の秩序を自分たちの都合の良いように作り変えようとしました。オバマ政権までの米国は戦略的忍耐などとして、これに対して何も手を打ちませんでした。


しかし、トランプ大統領になってからは、これに対峙しています。世界中の社会が中国の都合の良いように、作り変えられてしまっては、先進国の人々にとってはこの世の闇になるからです。発展途上国の人々も今のままだと中国に搾取されるだけの存在になり、闇から抜け出すことは不可能ということになります。

このようにみると、英国がEUから離脱するのも、米国が中国に対峙するのも必然であるということができます。

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