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2020年1月17日金曜日

プーチン院政への布石か 経済低迷のロシア、政治経験ゼロのミシュースチンが首相に―【私の論評】プーチン院政は、将来の中国との本格的な対峙に備えるため(゚д゚)!


   ロシア下院は16日、内閣総辞職したメドベージェフ首相の後任としてプーチン大統領が指名した
   ミシュースチン連邦税務局長官(左)を賛成多数で承認した。2017年4月撮影

ロシア下院は16日、内閣総辞職したメドベージェフ首相の後任としてプーチン大統領が指名したミシュスチン連邦税務局長官(53)を賛成多数で承認した。これを受けプーチン氏はミシュスチン氏を正式に首相に任命した。

投票結果は、賛成383票、棄権41票。反対票はなかった。

ミシュスチン氏は連邦税務局のトップを務めた経験があるが、政治経験はほとんどない。首相に抜てきされるまで知名度は低かった。同氏は近く新内閣の組閣人事を発表すると明らかにした。

プーチン氏は15日、首相を含む政府の要職選定の権限を議会下院に移管することなどを柱とした「政治制度の大幅な改革」を表明、議会の権限強化に向け憲法改正を提案した。

新首相の任命を含め、今回の一連の改革は20年来政治を支配してきたプーチン氏が2024年の任期満了後も影響力を保持するための布石とみられる。

こうした中、ロシアの有力紙コメルサントは16日、プーチン氏の改革を「1月革命」と評した上で、今後さらに多くの変革が続くとの見通しを示した。

突然の内閣総辞職からわずか1日で新首相が誕生したことで、プーチン氏は、数年にわたる緊縮財政措置や年金受給年齢の引き上げなどに対する国民の不満に耳を傾けているということをアピールできる。

欧米諸国による制裁や原油価格の下落で国内経済が低迷するなか、国民の批判の矛先は2012年から首相を務めていたメドベージェフ氏に向かっていた。

実質賃金はここ5年下落し続け、政権支持率も落ち込む中、プーチン氏の支持率にも影響が出るとの懸念が浮上していたと専門家は分析する。

【私の論評】プーチン院政は、将来の中国との本格的な対峙に備えるため(゚д゚)!

プーチンは何のために、院政をするのでしょうか。それは、外交は全くの素人であり実績のないミシュースチン氏を首相に据えたとということで、予測することができると思います。

1966年生まれのミシュスチン氏はシステム工学を学んだ後、経済学の分野で博士号を取得した。税制改革には手堅い実績のある人物です。

プーチン氏は国内政治に関しては、ミスチュスチン氏にまかせて、様々な改革を実現させようとしているのです。さらに、ミスチュチン氏は仮に改革に失敗したとしても、面倒な後ろ盾等もなく、容易に取り替えが聞く人物でもあるのでしょう。

そうして、プーチンは院政を敷いて、自らは国際政治を主に担当しようとしているとみて間違いないでしょう。その国際政治の最優先順位は無論隣国の中国でしょう。

はやい話が、将来本格化する中国との対峙に備えて、それに取り組みやすい最善の体制を築いたのです。

中露の関係は、現在まるでロシアが中国の属国であるかのような状況になっています。これについては、以前このブログにも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
中国の属国へと陥りつつあるロシア―【私の論評】ロシアの中国に対する憤怒のマグマは蓄積される一方であり、いずれ、中国に向かって大きく噴出する(゚д゚)!

詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 エリツィンは、プーチンを改革者であると考えて後継者に選び、自分の家族を訴追などから守ってくれることを期待した。
 プーチンは、後者の役割は義理堅く果たしたが、ユーラシア主義者として欧米に対抗する路線をとった。そういう経緯で、プーチンは必然的に中国に近づいた。それが今の中露の蜜月関係につながっている。 
 しかし、プーチン後は、この蜜月関係が続く可能性よりも、ロシアの指導者が欧米重視主義者になり、この蜜月は続かない可能性の方が高いと思われる。 
 プーチン政権の上記のような傾向にもかかわらず、中露間にくさびを打つという人がいるが、プーチンがいる限り、そういうことを試みてもうまくいかないだろう。北方領土で日本が妥協して、中露間にくさびを打つことを語る人もいたが、ピント外れである。

 7月27日付の英エコノミスト誌は、ロシアが中国の属国になってきていると指摘している。その指摘は正しい。ロシアがそれから脱したいと思う日は来るだろう。そうなったときには、ロシアとの関係を考える時であろう。
プーチンはロシアがこのまま中国の属国になってしまうことを、潔しとはしていないはずです。 ただし、中国はつい最近人口が14億人を超えましたが、ロシアの人口は1億4千万人に過ぎません。経済に関しては、現在のロシアは東京都なみのGDPしかありません。

だからこそ、ロシアは中国に対する不満はあるものの、属国的地位に甘んずるしかないのです。そうして、プーチン自身も自分の目の黒いうちは、この状況は変わらないと考えていたでしょう。

しかし、昨年あたりからこの状況は大きく変わってきました。そうです。米国による対中国冷戦が過激さを増してきたのです。もはや米国内では、トランプ政権等とは別にして、米国議会が超党派で中国に対峙する体制を固めています。だから、トランプ氏が大統領をいずれ辞任したとしても、米国の中国に対する姿勢は変わりません。

プーチン(左)と習近平(右)

そうして、どうやら米国は中国が現在の中国共産党独裁体制を変えるか、それができなければ他国に影響力を行使できないように、徹底的に中国の経済を破壊しようとしているようです。そうして、これは最早貿易戦争の域を超えて、価値観の対立にまでなっています。

中国は独裁体制をおそらく変えられないでしょう。なぜなら、それを実行すれば、中共は統治の正当性を失い、崩壊するからです。となると、米国は中共が経済的に衰え他国に影響力が行使できない程に中国の経済を破壊するまで、制裁を続けるでしょう。

こうした状況をみたプーチン氏は、自分の目が黒いうち(短くてここ数年、長くて10年くらい)に、ロシアが中国の属国的地位から脱する見込みがでてきたと判断したに違いありません。そうして、ロシアがうまく立ち回ることによって、中共の崩壊を加速することも視野に入れているに違いありません。

だかこそ、自らは中国との対峙に専念し、国内政治は信頼できる人物にまかせ、自らは他国に伍して中国の崩壊に際して、ロシアの権益を最大限に拡張すべきとの結論に至ったのでしょう。

さて、中国がある程度経済的にも疲弊した頃には、かつての中ソ対立のように、中露の対立が激しくなってくると予想されます。

その時がまさに、日本にとっては北方領土交渉がやりやすくなるのです。戦後70年以上が過ぎた今、世界でもっとも危険な国は中国です。この唯物論・無神論を国是とした軍事独裁国家を封じ込めるためには、ロシアは日米と平和条約を結び、協力しなければならなくなります。そうでないと、ロシアは中国の属国とみなされ中国の道連れにされるかもしれません。

北方領土

それはプーチンとしては、是が非でも避けたいところでしょう。日米とも手を結び、中国の属国的地位からの脱却を望むに違いありません。

その時こそが、まさに北方領土が我が国に返還される可能性が最大限に高まるのです。我が国としても、今後のロシアの動きに最大限に注意を払い、その機会を逃すべきではありません。

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2019年8月27日火曜日

米国に対峙する中ロ提携強化は本物か?―【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!


岡崎研究所

 7月23日、中国とロシアは日本海と東シナ海で空軍共同軍事演習を行い、韓国と日本の防空体制を試した。この際、韓国空軍が、同国が不法占拠している竹島(韓国名:独島)の領空をロシア軍機が侵犯したとして300発以上の警告射撃を行ったことで、日本でも大きなニュースとなった。


 この中ロ空軍共同演習を契機に、中ロの提携強化に注目が集まった。米国の論壇では、米国防省の掲げる「米国の主敵は中国とロシア」というラインに沿ったものが多く見られた。例えば、米バード大学のWalter Russell Mead教授が7月29日付でウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿した論説‘Why Russia and China Are Joining Forces’は、今回の共同演習について「この数年強化されてきた中ロ間の提携の一例に過ぎない」と指摘するとともに、「世界の秩序を乱しているのはトランプよりも、中ロの2大国が力を増し、IT技術の進歩を悪用しつつ、自らの影響力を世界中で拡大しようとしていることにある」と言っている。

 現実の米ロ関係はどうか。7月2日の中距離核戦力全廃条約(INF条約)失効にもかかわらず、現在、トランプ大統領はロシアへの宥和的姿勢を徐々に強化しつつあるように見える。これまで「トランプはロシアと"ぐる"になって、大統領選で勝利した」ことを証明しようとしてきた民主党の作戦が、モラー特別捜査官の議会証言で最終的に破綻したことも一因であろう。

 ベネズエラでの米ロ対立がすっかり影を潜めた一方、米国はなぜか「ロシア産原油」の輸入を急増させている。米国がマドゥーロ政権制裁のために、ベネズエラ原油の輸入を停止したこととの関連が疑われる。更に、米国はイランに対するロシアの影響力を活用しようとしており、6月24日にはエルサレムでボルトン大統領安全保障問題特別補佐官とパトルシェフ・ロシア国家安全保障会議書記が、ネタニヤフ・イスラエル首相及び同首相の安全保障問題担当補佐官を含めて三者会談している。

 プーチンの側も、対米関係の好転を願っているものと思われる。西側の制裁はロシアに直接の大きな作用を及ぼしているわけではないが、長期的には先端技術及び資金の流入縮小を通じて、ロシアの経済に深刻なダメージを与える。制裁で沈んだ経済成長率は2018年上昇傾向を示したが(2.3%)、本年の第1四半期には1.2%に沈む等、再び停滞傾向を強めている。対米関係を何とかしない限り、ロシアはお先真っ暗である。従って、米ロ関係には、改善に向かう潜在的要因が存在していると見られる。

 中ロ関係については、必ずしも連携が強化する一方というわけではなく、関係が進んでいる面もあれば、競り合っている面もある。進んでいると見せかけて、実際には中身がないものも多い。中身があるのは、ロシアの中国への原油と天然ガスの輸出である。他方、「両国間貿易の決済ではドルではなく、双方の通貨を使おう」ということは長年叫ばれ、6月5日には協定も署名されたが、実効は上がっていないものと見られる。

 中ロの競合は、第一に中央アジアに見られる。例えばタジキスタンで中国が共同軍事演習を繰り返しているような例である。経済力を欠くロシアにとっては、防衛面での支援は対中央アジア外交の重要な手段であるのに(タジキスタンにはロシア軍1個師団が常駐)、中国がこれを侵食しつつある。

 東アジアでも中ロが必ずしも足並みをそろえていない例がある。ロシアは、中国とは微妙な関係にあるベトナムに潜水艦を売却したし、南シナ海を睥睨するカムラン湾の基地には軍艦を時々寄港させている。ロシア海軍が日本の海上自衛隊と合同訓練をすることもあるし、米国主宰のRIMPAC演習に参加したこともある(2012年)。つまり、ロシアは、中国を絶対的な提携相手としているわけはない。そして極東におけるロシアの戦力は、原子力潜水艦を除けば大したものではない。従って、「中ロ連携強化」には、こちらが過剰反応する必要はない。

 中ロ関係強化は自己目的ではなく、ロシアと中国が対米関係で用いる脅し道具という側面が強い。中ロのいずれかが対米関係改善に成功すると、しばらくお蔵入りになるものである。今後、米ロ関係が好転するようなことがあれば、ロシアにとって中国の重要性は低下する。ただし、極東部の脆弱性をよく心得ているロシアは、中国と敵対することは避けようとするだろう。ロシアを引き込んで対中牽制に使う、という論もあるが、なかなか成り立ちがたいと思われる。

【私の論評】米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのは時期尚早(゚д゚)!

2017年5月14~15日に、中国が推進している現代版シルクロード経済圏構想である「一帯一路」の国際会議が中国の首都・北京で開催されました。同会議には、全世界の計130カ国の1500人、そして29カ国の首脳が参加しました。
「一帯一路」は中国が長い年月をかけて推進してきたものですが、このような会議が行われるのはこの時が初めてであり、中国は大国の威信をかけてこの会議に臨みました。この会議は、中国の当時の外交政策の成否のメルクマールとなり、また今後の「一帯一路」の発展を展望するうえでも重要な一歩とみなされていたのです。
そのため、中国の同会議に対する思い入れは極めて強く、参加国との連帯を強めていくために手を尽くし、そして、自由貿易の重要性を盛り込んだ首脳会合の共同声明も採択されました。
そして、同会議ではやはり中露関係の緊密さが顕著に見られました。米国でロシアによるサイバー攻撃とそれによる影響やドナルド・トランプ政権関係者とロシアの関係が米国政治の焦点となっていた中で、米露関係が冷戦後最低レベルに落ち込んだとすら言われる中、米国への対抗軸で共通の利害関係を持つ中国とロシアが関係を緊密にするのは自然な流れでした。
また、中露は、中国が推進する「一帯一路」構想とロシアが主導し、旧ソ連の5カ国が参加する「ユーラシア経済連合」の連携協定を2015年に結び、「一帯一路」の成功が中露両国にとって有益であると国民にも訴えつつ関係深化を進めてきました。
会議においても、ロシアのウラディーミル・プーチン大統領は一番の賓客として扱われ、スピーチの機会も習近平国家主席の次に設けられました。プーチンはその場を利用し、ロシアが主導している「ユーラシア経済同盟(EEU)」と「一帯一路」の類似点を強調し、中露の計画は相互補完関係にあるとした上で、これらのメガプロジェクトに代表されるユーラシア統合を「未来に向けた文明的プロジェクト」だと述べました。
ユーラシア経済同盟の加盟国

そして、ロシアは「一帯一路」との連携をさらに進め、ポジティブな成果を出す必要に迫られていました。特に、2014年後半からの原油安やウクライナ危機によって欧米が発動している対露経済制裁によって、ロシアのみならず、ロシアと深い経済関係を持つ旧ソ連諸国の多くが経済的ダメージを受けていることも重要な背景でした。
たとえば、ユーラシア経済連合の域内貿易額が、昨年には2014年と比して30%も減少したことは、その一例でした。旧ソ連諸国の経済パフォーマンスに当面期待できず、ユーラシア経済同盟加盟国の間でも失望感が広がっている状況では、数年前と比べれば随分勢いは衰えたとはいえ、まだまだ力がある中国経済による好影響を期待するほかなく、また巨大経済圏構想の可能性を見せつけることで、大国としての存在感も示すことができたのです。
そして、会議の期間中、中露間の大型プロジェクトが多数成立しました。

まず、中露両国がロシア極東及び中国北東部の開発支援のために、総額100億人民元(約145億ドル)の共同地域開発協力投資ファンドを設立するという計画が発表されました。

加えて、ロシア石油最大手ロスネフチと中国石油天然ガス集団(CNPC)は両者間の協力の効率化向上を目指すための合同調整委員会の設立に関する取り決めに調印したことが発表されました。

また、ロシア天然ガス最大手ガスプロムのミレル社長とCNPCの王会長は、地下ガス貯蔵、電気産業、道路インフラなどの分野での協力深化に関する文書に調印しました。

このように、中露関係のプロジェクトは、地域発展を目指すものやエネルギー関連の協力強化が主軸となっており、経済規模も大きいものでした。

その一方で、両国のメガプロジェクトの連携に関し、ロシアの期待が裏切られているのもまた事実でした。

前述の通り、プーチンは度々中露のメガプロジェクトの連携が有益であると国内外に訴え続けてきましたが、実際のところ、プーチンが本気でそう思っているとは考えづらいです。

プーチンの連携を高く評価する発言の背景には、むしろ、連携からの恩恵が少ない現実への批判を避けるためだとも考えられます。実は、ロシア側が「一帯一路」との連携に期待していたものと実態はかけ離れており、プーチンをはじめとした当局やオリガルヒ(財閥)の懐疑心は強まっていると言われていました。

そのような疑念を高めているのが、「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携を象徴するプロジェクトとして発足したモスクワ・カザン高速鉄道計画におけるロシアの失望でした。



この鉄道計画は、いずれモスクワと北京が鉄道で結ばれるとされる高速鉄道の基礎となるとされ、最初の了解覚書では、同鉄道はシベリア地域を通るとされていました。しかし、のちに同鉄道の線路はロシアのほとんどの地域を通過せず、カザフスタンの首都アスタナから新疆を通過して、所要時間が3分の2になるように変えられたのです。中露協力のモデル計画とされていたプロジェクトの結果がこのような惨憺たるものであることは、ロシアにとって大きな痛手でした。

しかも、これのみならず、中国と欧州を結ぶインフラの多くはロシアを全く通らず、中央アジアと南コーカサス地域を通過しており、ロシアは陸運の利益を得られないのです。さらに、そもそも陸路よりも海路での運輸の方が50%以上安価になるため、所要時間は陸路の方が早くなるとはいえ、経済合理性の観点から、中国・欧州間の貨物輸送で陸路経由が占める割合は1%以下となっています。このことから、ロシアが陸の現代版「シルクロード」計画から得られる利益はほとんど想定できないのです。

このような状況に鑑み、ロシアの研究者の中には、「一帯一路」構想は達成指標がないが故に、中国が軽微なものも含むあらゆる結果を「一帯一路」の成果として喧伝していることから、「一帯一路」そのものの意味に疑問を呈するものもいます。「一帯一路」がそもそも大した成果が上がっていないものなら、「ユーラシア経済連合」との連携で良い成果が出ないのは当たり前だという議論です。

確かに、「一帯一路」の経済パフォーマンスは決して良いとはいえないです。たとえば、中国の投資家は融資するプロジェクトをかなり選り好みして決めるため、実際の融資額は期待を下回っており、2017年には中国の「一帯一路」」関係の投資額は、3年ぶりに減少しました。

そして、中国の投資家からすると、ロシアが提案するプロジェクトはあまり魅力的に感じられず、結果、対露投資のパフォーマンスは悪くなるのです。そのため、ロシアの専門家の中には、ロシアが主導する「ユーラシア経済連合」は素晴らしいが、中国が自国の経済利益のみを考慮する利己的な行動をとるが故に、連携においてはロシアの実入りが小さいのだという議論を提示するものもいます。

さらにロシアの重要な「勢力圏」であり、中国が経済的に台頭してくるまではロシアが政治・経済の影響力を独占的に維持してきた中央アジア諸国が、ロシアよりむしろ中国との関係を深めていることもまたロシアにとっては許容しがたい問題です。

「一帯一路」の国際会議でも、中国と中央アジアの関係強化は顕著に見られました。習主席はカザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタンの各国首脳と会談し、中央アジア諸国との関係強化を強調しました。

これら会談の中で、例えば、カザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、カザフスタン鉄道がカザフスタンと中国の国境にあるコルゴスの輸送拠点の49%を譲り受けるという合意に調印しました。

これはカザフスタンが重要物流拠点として高い戦略性を持つと見なされるようになったことの証左です。また、ウズベキスタンのミルジヨエフ大統領も中国との経済関係の強化を強く求めており、当時の会談では最大200億ドルの協力協定も締結しました。

中国は、ウズベキスタン東部のフェルガナ盆地と、残りのウズベキスタンを結ぶ最初の唯一の鉄道に対する共同出資をすることを約束しました。この連携は中国製品を中央アジアに輸出するために極めて重要です。

その鉄道が完成した現在、中国は戦略的に1億7500万ドル相当の高速道路プロジェクトにも取り組んでいます。

このように中国とロシアの「一帯一路」と「ユーラシア経済連合」の連携への期待は高いとはいえ、実際にはあまり良い結果が出ておらず、また、地域覇権を維持したいロシアにとっては中国の勢力拡張は決して望ましくない状況です。

米国への対抗軸という揺るがない共通利益を持っていることを背景に、中露関係が緊密であることは間違いないとはいえ、両国のメガプロジェクトにおける連携は、ロシアの期待とそれに応えていない中国という図式、ロシアの「勢力圏」に迫る中国の影響力など、両国関係の判断も単純ではありません。

プーチンと習近平

ただし、旧ソ連の核兵器と、軍事技術を継承しているということで決して侮ることはできないのですが、経済力が落ちているロシア(GDPは、東京都や韓国と同程度)は中国に対して強気に出られないというのが実情です。

このままだと、ロシアの中国に対する不満は高まるばかりです。現在、米国の対中国冷戦により、中国は経済的に弱りつつあります。

現状では、経済的にかなり中国に差をつけられたことと、ロシアは極東で中国と国境を接していること、しかもかなり長距離わたって接していることと、ロシアよりも中国のほうが圧倒的に人口が多く、特にロシア極東の中国との国境ではそれが顕著です。そうして、中ロ国境を多くの中国人が越境しているという特殊事情があるので、米国やEUから制裁を受けている現状で、中国と対立するのは得策ではないと考えているようですが、中国経済がかなり疲弊したときには、確実に中国と対立することになるでしょう。

米国が、ロシアを引き込んで対中牽制しようとするのはまだ早すぎます。ただし、中国が経済的に疲弊した場合は、その限りではありません。その時、ロシアは対中国という観点から米国の有力なパートナーとなるかもしれません。

先日はこのブログで、長期的にはロシアの憤怒のマグマが蓄積して、いずれそのマグマはは中国に向かって吹き出すという趣旨の内容を掲載しました。「ユーラシア経済連合」のからみで、ロシアは中国に憤りを感じていることから、やはり短期的にも、中露提携強化ということはないとみておいたほうが良いと思います。これは、みせかけだけのものでしょう。ただし、いまのところは、まだロシアは中国と本格的に、対立するつもりはないとみておくべきです。

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2019年7月15日月曜日

「合意なき離脱」へ突き進む英国―【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

「合意なき離脱」へ突き進む英国

次期保守党党首確実のジョンソン氏の甘い見込み

岡崎研究所

 メイ英首相の保守党党首辞任に伴う、同党党首選挙は、6月20日の保守党議員による5回目の投票の結果、ボリス・ジョンソン前外相:160票、ジェレミー・ハント外相:77票、マイケル・ゴーブ環境相:75票となり、ジョンソンとハントの戦いとなった。16万人の保守党員による郵便投票により、7月22日の週に新たな党首が決まることになる。ジョンソンは、同棲中との恋人との喧嘩沙汰で警察が呼ばれるなど、様々な問題を提起されて資質を問われているが、保守党員の間での圧倒的優位は揺るぎないようであり、ジョンソンの勝利は確実と見られる。

1月16日、議事堂の外では各人の主張に応じた旗が振られた。

 そのジョンソンが、6月24日夜のBBCのインタビュー番組に出演してBrexitについて語っている。6月18日のTalk Radio における1つの発言とあわせて、6つの発言の要旨を紹介する。

1. 鍵となるのは、離脱協定の使える部分を取り出して使うことである。アイルランド国境の問題には10月31日以降の移行期間において取り組む必要がある。

2. 移行期間を得るためには、EUとの何等かの合意が必要であり、その合意を目標とする。

3. EUは英国と新たなディールを交渉しようとするであろう。何故なら、欧州議会には有難くもないBrexit党の議員がいる。彼等は我々を追い出したいのだ。清算金が欲しいというインセンティブがある。勿論、英国には離脱してWTOの条件に戻る用意があるが、そのこともインセンティブとなる。

4. 我々は、10月31日に離脱する用意をしつつある。何事があろうと。必死でやる。何事があろうと。(Talk Radioにて)

5. 「no-deal Brexit(合意なき離脱)」で下院の承認を得ることが出来ると思っている。与野党ともやり遂げなければ選挙区で致命的しっぺ返しに直面することを理解していると思う。

6. 人々は英国政治の背中にとりついた巨大な「夢魔」を熊手で取り除いて欲しいと渇望していると思う。彼等は我々がこの国のために何かとてつもなく素晴らしいことをやり遂げることを欲している。

 ジョンソンの言っていることの核心部分は、離脱協定を解体して、都合の良い部分は都合の良いように料理しよう、ということである。交渉には清算金を梃に使いたいらしい。アイルランド国境の問題は、離脱後に移行期間を設けてそこに先送りしたいらしいが、一方的な要求である。そもそもEUは離脱協定の再交渉はしないと言っている。6月21日のEU27の首脳会議でもこのことを確認している。

 こういうことでは、入口で衝突してEUとの交渉は成立しないのではないかと思われる。ジョンソンは新たな交渉チームを組織する必要があろうが、引き受け手があるのかも疑問である。下院は「合意なき離脱」を否認するのかも知れないが、下院がどう動こうとEUとの間に合意が成立しなければ、自然と「合意なき離脱」となる。事態は、間違いなくその方向に進んでいる。

【私の論評】英国がEUから離脱するのも、米国が中国と対峙するのも必然である(゚д゚)!

英国が合意なき離脱をした場合、一時的には経済が相当落ち込むことが見込まれています。にもかかわらず、なぜ英国はEUを離脱するのでしょうか。すくなくとも、なぜ国民投票で離脱が決まったのでしょうか。

英国のEU離脱の要因としては多くの理由があることは否定できないですが、よく移民の問題が主要な要因として取り上げられます。これは表面的には正しいのですが、より根底にある問題を見過ごすべきではないです。

英国の社会法制度が欧州大陸の国々のそれとはそもそも相容れないのではないでしょうか。特にEU諸国からの移民問題は、その根底にある社会法制度の違いという問題が一つの形で顕在化したのに過ぎないのではないでしょうか。

社会法制度の違いとは、簡単に言うと、大陸法の国と英米法の国の制度が異なるということです。ドイツ、フランスをはじめとする欧州の大陸国家は大陸法(シヴィル・ロー)の国であり、英国は英米法(コモン・ロー)の国です。

両者の違いを一言でまとめると、大陸法国家では成文法が法体系の根幹をなし、裁判官は成文法のみに縛られます。一方、英米法国家では不文法(成文化されていない法)が存在し、裁判官は成文法、不文法を踏まえて自分の判断を下します。

コモンローとシビルローでは歴史も体型も全く異なる

現在の裁判官は過去の裁判官が下した判断(判例)に拘束されます。大陸法では書かれたもの(成文法)が重要で、英米法では歴史的経緯(判例の積み重ね)を重視するともいえます。

最近の研究で明らかになってきたように、国内社会法制度の違いはそれぞれが選好する国際協力の在り方の違いにも反映されます。大陸法国家は条約を好みます。そして条約の締結とともに国内法を条約と整合的になるように改正します。

一方、英米法国家は条約より「ソフト」な国際宣言のようなものを好みます。英米法国家には不文法が存在するので、条約を締結しても大陸国家のように成文法を改正して整合性をはかるということができないからです。

しかし興味深いのは、国際宣言は大陸国家では無視されることが多いです(成文法の改正に至らないことが多い)が、英米法国家においては各々の裁判官が国際宣言を勘案するという意味で、結果的に履行される度合いが高いことです。不文法や国際宣言の良し悪しの話でなく、国内制度と国際制度の整合性が問題なのです。

法体系およびそれによって生じた社会法制度の違いは英国と欧州大陸国家の協力を困難にしています。少なくとも今までの欧州統合は英国に大きなストレスがかかる構造となっていました。

例えば欧州司法裁判所は基本的に大陸法的アプローチをとっています。大陸法国家は欧州司法裁判所の判決に合うように国内成文法を改正することで整合性を確保できます。

英国は紙に書かれたルールに基づいて下された欧州司法裁判所の判断と、不文法をも踏まえた国内裁判所の判断の間の整合性をとることが、大陸法国家よりも困難であることは容易に想像がつきます。

人の能力評価の方法についても英米法国家と大陸法国家では大きく異なります。大陸法国家では筆記試験で人の能力を計ります。例えば大学入学のための厳格な筆記試験が存在する場合が多いです。

そして試験をパスした後はエリートとして扱われ、よほどのことがない限り卒業できます。一方、英米法国家では大学入学のための筆記試験は不在であるか軽視され、高校時代の成績や推薦状がものをいいます。しかし入学後は卒業までサバイバル・レースが続きます。「成文法―筆記試験」、「過去の判例の蓄積―過去の経歴・経過重視」と見事に対応しているのです。

ここで国際協力の要素を入れると話はどのようになるでしょうか。入学のための筆記試験が国際交流の大きなハードルになりそうなことは容易に想像がつきます。直観的な例をあげるならば、大陸法国家出身者(例えばフランス人)が英米法国家(例えば英国)の大学に合格する方が、英国人がフランスの大学に合格するより容易であるということです。ただしこれは英国の大学に入学したフランス人が無事に学位を取得できるのかという問題とは別です。

一般的に、大陸法国家では専門職業(例えば技術士等)に就くには、難関の筆記試験に合格する必要がある場合が多いです。そして合格者が少ないので、合格後の労働市場における競争はそれほど熾烈ではありません。

一方英米法国家では、大学卒業後見習いで専門職に就き(筆記試験が不在である場合も多い)、経験を積み、学会で発表し、有名な先輩専門職の推薦状をもらい、審査を受けた後、専門職となる。

見習いとして働き始めることはそれほど難しくないですが、その後のサバイバル競争で生き残るのが難しいです。上述の大学入学の例同様、大陸法国家出身者が見習いの専門職として英米法国家で働き始める方が、英米法国家出身者が大陸法国家で専門職として働きはじめるよりも容易だということになります。

これは、弁護士の実数にも大きな影響を与えています。英国には、国民一人あたり694人の弁護士が存在します。フランスは、2461人に一人です。米国に至っては、320人に一人です。そのためもあってか、英米は訴訟社会ともいわれています。

米国ドラマ"フレイキング・バッド"に登場した悪徳弁護士ソウル・グッドマン

話をもう一歩移民問題に戻します。あなたがレストランにおける給仕のマネージャー格を採用しようとしたとします。二人から応募があり、一人は大卒ですがウエイトレスの経験は1年、もう一人は高卒ですがウエイトレスとしての経験を5年有していたとします。

他の要件が全く一緒ならどちらを選ぶでしょうか。大陸法国家では前者、英米法国家では後者が採用される傾向が強いです。大陸法国家では候補者が大学入試に合格した能力の持ち主であるということを評価し、英米法国家ではウエイトレスとしてのより長い経歴を評価するのです。

欧州大陸国家と英国とで社会・労働市場が完全に分かれていれば問題は生じないです。しかし両者が統合し始めたらどうでしょうか。ここで重要なのは、経験は後から追加的に積むことができるが、試験を受けなおすことは極めて困難であるという事実です。

結果的に、例えば、フランス人がロンドンのレストランで働く方が、英国人がパリのレストランで働くより容易であるということになります。上述の大学入学の例と同じです。ロンドンのレストランで働くのはフランス人かもしれないし、ポーランド人かもしれないですか、根底にある問題は、英米法国家(英国)の社会法制度が大陸法国家のものよりもオープンで柔軟的あるということです。

大陸法国家では社会のあらゆるところに門番(ゲート・キーパー)が存在し、入り口段階で規制しようとします。そして筆記試験やその類似物としての学位(入試を突破した証)が門番の役割を果たすことが多いです。

英米法国家では入り口には門番はおらず、とりあえず門の中には入れます(その後に熾烈な競争があります)。英国と欧州大陸国家の間で欧州統合のストレスの感じ方が違う根源的な理由はこの社会法制度の違いではないでしょうか。

英米法社会の強みはオープンであることとそれに付随する競争の存在ですが、これは外国人による参入が容易であることを意味します。職を追われた英国人は職を得た、例えばポーランド人が長い間仕事を続けられたか(サバイバルできたか)には関心示さず、職を追われた事実から外国人を敵視してしまいます。一方、英国人が大陸法国家においてウエイトレスの職を見つけるのは相対的に困難です。

英国のEU離脱を移民等の表面的な問題としてとらえるのでは、根底にある本質を見過ごすことになりかねないです。背景にある社会法制度のズレを看過してはならないです。オープン、筆記試験の軽視、経歴・経緯重視、競争重視、という英米法国家が有する従来の強みが、もしかすると現在国際協力の場において弱みになっているのかもしれないです。英国がその伝統である開かれた社会法制度を維持できなくなっているということに他ならないです。

このようなことから、英国がEUから離脱するのは当然といば当然なのかもしれません。EU 内の国々では経済の内容が大きくことなります。しかし、社会制度の違いという問題は経済の内容よりもさらに、埋めがたい溝です。

やはり、イギリスは短期的には経済的に大きな問題を抱えることになりますが、長期的にはEUから離脱すべきなのでしょう。問題はどのようにハードランディングを避けるかということです。

そうして、この問題は先進国と中国の関係にもあてはまります。中国が経済的に発展すれば、そのうち中国も他の先進国と同じようになるだろうと、先進国は考えていましたが、これはことごとく裏切られました。

中国と先進国の差異は、英国と大陸との違いよりはるかに大きいです。先進国では、英国とフランスのように、コモンローとシビルローの違いはありますが、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という面でみれば、互いに似通っています。そうして、これが先進国の共通の理念となっています。

この面では、EU諸国も、英国も互いに理解することができ、ある程度の歩み寄りも可能でしょう。

しかし、中国には民主化、政治と経済の分離、法治国家などという概念はありません。だからこそ、中国は海外からの資金で、国内インフラを整備することにより、経済を発展させても、結局社会構造は何も変わらなかったのです。

しかし、その中国が経済力を軍事力を拡大させ、世界の秩序を自分たちの都合の良いように作り変えようとしました。オバマ政権までの米国は戦略的忍耐などとして、これに対して何も手を打ちませんでした。


しかし、トランプ大統領になってからは、これに対峙しています。世界中の社会が中国の都合の良いように、作り変えられてしまっては、先進国の人々にとってはこの世の闇になるからです。発展途上国の人々も今のままだと中国に搾取されるだけの存在になり、闇から抜け出すことは不可能ということになります。

このようにみると、英国がEUから離脱するのも、米国が中国に対峙するのも必然であるということができます。

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2019年4月26日金曜日

戦争への道も拓くトランプのイラン革命防衛隊「テロ組織」指定―【私の論評】トランプ政権はイランと事を構える気は毛頭ない。最優先は中国との対決(゚д゚)!

戦争への道も拓くトランプのイラン革命防衛隊「テロ組織」指定

岡崎研究所

 4月8日、米トランプ政権はイランの革命防衛隊を「テロ組織」に指定した。それに関するホワイトハウスの発表の概要は次の通り。

    ソ連の軍事技術や核を継承すロシアだが、そのGDPは東京都を下回り
    もはや米国と直接退治することはできないだろう。

 トランプ政権は、イランのグローバルなテロ活動に対抗すべく、イスラム革命防衛隊(IRGC)を 海外テロ組織に指定した。

 政権は、イランの支援を受けた世界中のテロに向けてより広範な対処の一環として、この前例のない措置を執る。

 政権のこの行動は、イランへの金融的圧力とイランの孤立化を高め、イランの体制がテロ活動に利用し得るリソースを奪うことになる。

 この措置は、IRGCが世界中のテロに資金を与えるべくダミー企業を運営していることを、他国の政府、民間部門に知らしめることになる。

 この措置は、米国が他国の政府組織を海外テロ組織に指定した初のケースである。指定は、イランの体制によるテロの利用がいかなる他国によるものとも根本的に異なるということを、強く示すことになる。

 イランの体制は、テロを「外交手段」の中心的道具として用い、IRGCにグローバルなテロ活動を指揮させたり実行させたりしている。

 IRGCは、テロ組織に資金、装備、訓練、兵站の支援を与えている。傘下のクッズ部隊を通じて、多くの国におけるテロ計画に関与している。

 イランの体制は、世界でも第一のテロ支援国家であり、ヒズボラ、ハマス、パレスチナ・イスラム聖戦などのテロ組織を支援するのに毎年10億ドル近くを費やしている。

参考:‘President Donald J. Trump Is Holding the Iranian Regime Accountable for Its Global Campaign of Terrorism’(White House, April 8, 2019)
https://www.whitehouse.gov/briefings-statements/president-donald-j-trump-holding-iranian-regime-accountable-global-campaign-terrorism/

 今回のIRGCのテロ組織指定は、イラン核合意からの脱退をはじめとする、トランプ政権の対イラン強硬策の一環、またイスラエルの総選挙直前に発表していることを考えると、ネタニヤフ首相への支援が目的と思われる。しかし、IRGCをテロ組織に指定したことで何が達成できるのか、はっきりしない。上記ホワイトハウス発表を読んでも、よく分からない。

 トランプ政権自身も認めている通り、他国の政府機関(IRGCはイランの政府機関)をテロ組織に指定するのは異例のことである。テロ組織指定制度は、国の組織全体を指定する趣旨で作られたものではない。IRGC傘下のクッズ部隊は既に2007年にテロ組織に指定されている。この指定制度をIRGCに適用すること自体大きな問題である。IRGCは正規軍であって、非正規軍ではない。イランは徴兵制であるから、IRGCには、徴兵された人が大勢いる。これを全体としてテロ組織に指定することは、イラン人であるからという理由でテロ指定するに等しい。それに、IRGCは参加希望者の多い軍種である。その一部司令官とか部隊とかを指定するのとは話が違う。

 今回の指定には、イラン側が早速反発し、直ちに、米国をテロ支援国家、米中央軍(CENTCOM)をテロ集団とみなす、と発表した。米イラン対立は当然強まるであろうし、シーア派の民兵組織等に米軍への攻撃の「大義名分」を与えることにもなる。

 エルサレムをイスラエルの首都と認めて大使館を移転し、ゴラン高原をイスラエルの領土と認めるといった、トランプ政権の一連のイスラエル寄りの行動は、イランに、パレスチナ人とアラブ人の唯一の擁護者であるとの姿勢をとることを可能にさせてしまっている。トランプ政権が肩入れしているネタニヤフがイスラエルの総選挙で勝利し続投が決まり、ネタニヤフの冒険主義も懸念される。

 トランプ政権の中東における行動は、地域の混乱をもたらすとともに、その強硬な対イランのレトリックにも拘わらず、イランの地域における勢力伸長をかえって助けている。フィナンシャル・タイムズ紙のガードナーは、4月9日付けの記事‘Trump’s move on Iran’s Revolutionary Guard raises the temperature’で、「前例のないIRGCのテロ組織指定はイランに何の経済圧力もかけない。これはイランとの緊張を解決するためのもう一つの道を閉ざす。全てのドアが閉ざされ、外交が不可能になれば、戦争が本質的に不可避になる。」と指摘している。その通りであろう。
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トランプ大統領は8日の声明で「米国務省が主導するこの前例のない措置は、イランがテロ支援国家だというだけでなく、IRGCが国政の手段として積極的に資金調達し、テロを助長していることを認識してのことだ」と述べました。

トランプ大統領はさらに、今回の措置はイランに対する圧力の「範囲と規模を大幅に拡大」する狙いがあると付け加えました。

国務省によると、IRGCのテロ組織指定は今月15日に発効しました。

イラン強硬派のマイク・ポンペオ米国務長官とジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)はいずれも今回の決定を支持しています。一方で、全ての米政府高官が支持したわけではありません。

ポンペオとボルトン

ポンペオ国務長官は8日、記者団に対し、アメリカは今後もイランに対し「普通の国家のように振舞う」よう制裁と圧力を続けると述べ、アメリカの同盟国に同様の措置をとるよう求めました。

「イランの指導者たちは革命家ではない。国民にはより良いものを得る権利がある。指導者たちは日和見主義者だ」

国務長官はその後のツイートで、「我々はイラン国民が自由を取り戻すため支援しなければならない」と付け加えました。

ボルトン大統領補佐官は、IRGCのテロリスト指定は「正当」だとツイートしました。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長を含む国防総省の一部高官は、米軍の安全性について懸念を示したといいます。

米軍幹部は、今回の指定がイラン経済に大きな影響を与えず、中東に駐留する米軍への暴力を引き起こす可能性があると警告しました。米中央情報局(CIA)も反対していたと報じられています。

イラン国営のイラン・ニュースネットワーク(IRINN)によると、最高安全保障委員会(SNSC)は、ジャヴァド・ザリフ外相が対応を求める書簡をハッサン・ロウハニ大統領に提出した後、アメリカ中央軍(Centcom) をテロ組織に指定すると発表しました。

中央軍は国防総省の下部組織で、特にアフガニスタン、イラク、イラン、パキスタン、シリアなどの地域における米政府の安全保障上の利益を監督しています。

2015年のIRGC集会に出席したイランのハッサン・ロウハニ大統領(左)

トランプ政権がIRGCのテロ組織への指定を検討していることが報じられた後、イランは対抗措置を取ると警告していました。

国営イラン通信(IRNA)によると、イランの国会議員290人のうち255人が署名した声明では「我々はIRGCに対するいかなる措置にも、対抗措置で応じるだろう」と強調しました。

一方、9日に総選挙を控えるイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、アメリカの措置への支持を表明するツイートをしました。

中国の習近平国家主席は今月20日、訪中したイランのラリジャニ国会議長と会談し、国際情勢にかかわらず、イランと親密な関係を築きたい意向に変わりはないことを伝えました。

ラリジャニ国会議長と会談した習近平

中国外務省が21日公表した文書によると、習主席は議長に対し、中国とイランは長年にわたり友好関係をはぐくみ、相互の信頼を築いてきたと発言。「国際社会や地域の情勢がどう変わろうと、イランと包括的かつ戦略的なパートナーシップを築くという中国の決意は変わらない」と述べました。

習主席はまた、中国とイランは戦略的な信頼関係をさらに深め、中核的な利益と主要な懸念について互いに支援し続けるべきとの考えを示しました。

さらに、中東地域を安定と発展に向かわせるため、国際社会と当事国は協力すべきと主張。「中国は地域の平和と安定の維持に向けてイランが建設的な役割を果たすのを支援するとともに、地域の問題において緊密に連絡を取り、協調する用意がある」と述べました。

ラリジャニ氏とともに、イランのザンギャネ石油相、ザリフ外相も中国を訪問。19日には外相会談が行われました。

中国はイランなど中東産の石油に大きく依存する一方、中東地域の紛争あるいは外交面で中国が役割を担うことはこれまでほとんどありませんでした。しかし、最近は特にアラブ諸国における存在感を強めようと動いています。

21日からはイランと長年にわたり中東の覇権争いを続けるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が中国を訪問します。

トランプ政権はイランを孤立させ、国際社会から排除することを望んでいます。今回の決定でも、それがまた強調されたわけですが、実際にIRGCの活動に重大な影響を及ぼすことはなさそうです。

IRGCが中東地域の内外のあらゆる破壊行為に関与していると、このことに異議を唱える西側諸国の専門家はほとんどいないです。

しかし米国務省や国防総省の一部高官を含む大勢は、今回の措置について、ただ裏目に出て終わるだけではないかと懸念しているようです。

IRGCや関連組織が、イラクなどで勢力が脆弱(ぜいじゃく)な米軍やその他の標的に対して、何らかの行動を起こすことにつながる可能性があるのではないかと、専門家は心配しているのです。

トランプ政権はイランとの対立をひたすら激化したい意向で、今回の措置はその意思表示です。ただ、激化した対立はいつか、あからさまな軍事衝突に発展するのではないかという懸念もあります。

中東情勢というと、トランプ大統領による米軍のシリア電撃撤退発表は、米政府高官らも驚く突然の決定でした。その背景には、シリアをめぐって「大統領とエルドアン・トルコ大統領の思惑の一致」(ベイルート筋)という“裏取引”が浮かび上がってきました。この余波で、当時のマティス国防長官が辞任したのは記憶に新しいです。

トランプとしては、エルドアン大統領のトルコをアサド政権の拮抗勢力とみなし、トルコを支援することで、アサド政権を牽制する腹であるとみています。

そうして、これは中国との対峙に力を入れるためであると解釈しました。であれば、今回なぜ革命防衛隊を 海外テロ組織に指定したのでしょうか。

私は、これにより、トランプ政権はイランと厳しく対峙して、挙げ句の果てに本格的戦争にまでエスカレートさせる意図はないと思います。

これも表向きとは異なり、中国との対峙に専念するためのトランプ政権の布石の一つではないかと思います。

米政府はイランの「イスラム革命防衛隊(IRGC)」のテロ組織指定に関し、第三国の政府や企業・非政府組織(NGO)がIRGCと接触した場合に自動的に米の制裁対象となる事態を回避するため、例外規定を設けた。現役の米当局者3人と元当局者3人の話で明らかになっています。

例外規定によって、イラクなどの諸国の当局者がIRGCと接触した場合に必ずしも米国の査証(ビザ)発給は拒否されないことになります。例外規定については、国務省の報道官がロイターの質問に答える形で説明しました。

IRGCはイランの精鋭部隊で国内の企業活動にも深く関わっています。例外規定によって、イランで事業を行う第三国の企業の幹部らやシリア北部、イラク、イエメンで活動する人道支援団体は米制裁の対象になることを恐れずに活動が継続できるようになります。

ただ、米政府は、米国が指定した外国のテロ組織(FTO)に「物質的な支援」を提供した外国政府、企業、NGOのいかなる個人にも制裁を科す権利を留保することを明確にしています。

ポンペオ国務長官は今月15日にIRGCを正式にテロ組織に指定。IRGCやその傘下企業と取引する第三国の企業や個人だけでなく、隣国のイラクとシリアに駐在する米外交官や米軍当局者などの間にも混乱が生じました。シリアやイラクでIRGCと協力関係にある人々と接触することが可能かどうかが当初は明確ではなかったからです。

米国務省の近東および南・中央アジア両局は、テロ組織指定の前に共同でポンペオ長官にメモを送り、その影響について懸念を表明しましたが、却下されたと2人の米当局者が匿名を条件に語っています。

議会筋によると、国防総省と国土安全保障省も反対していたのですが、決定を覆すには至りませんでした。

国務省の報道官はIRGCと接触した場合、同盟国はどのような影響を受けるのかとの質問に対し、「一般的に、IRGC当局者と対話するだけではテロ活動にはならない」と回答。

「最終目的は、他の諸国や民間団体にIRGCとの取引をやめさせることだ」と述べたましたが、標的とする国名や団体名は明らかにしませんでした。

このような措置をとるくらいですから、米国はイランと本格的に対峙して、戦争も辞さないということではないと考えられくます。

私としては、米国は中国との対峙を最優先にし、イランとの対峙を二の次にして中東情勢が米国に不利になるようなことがないように、革命防衛隊をテロ組織に認定することで、イランを牽制したのだと思います。

当面イランが不穏な動きを見せた場合、金融制裁などを強化し、それでもイランが不穏な動きを止めない場合は、国境を接するトルコへの支援を強化して、イランを牽制する腹であると思います。

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2019年4月3日水曜日

次世代の米国の安全保障を担うのは海軍なのか―【私の論評】米軍はインド太平洋地域を重視しており、海軍を中心に中国に対峙しようとしている(゚д゚)!

次世代の米国の安全保障を担うのは海軍なのか

岡崎研究所

米国は、中東で顕著なように、陸上軍による対外介入を大きく縮小しようとしている。こうした中、どこが米国の安全保障を担う中心となるか、議論が出て来るのは自然である。これに関して、ユーラシア・グループ専務理事のロバート・カプランは、「次世代の米国の安全保障は海軍が支配的地位を占めるだろう」と題する論説を3月13日付でワシントン・ポスト紙に書いている。以下に、論説から注目点をいくつか抜き出してみる。

米海軍

・米国は、ブッシュ(父)大統領による1991年のクウェート解放から始まった、中東における陸上の介入の時代を終わらせようとしている。それは繰り返されるべきでない。

・地上軍による介入をしないということは孤立主義を意味しない。米国は、地球の広大な地域に力を投射すべきである。世界中に常時力を投影できる海軍は、米国の主要な戦略手段である。ここで海軍とは海、空、ミサイルのあらゆる側面を含む。海軍は空軍の支援を受け、泥沼に陥ることなく関与し、圧倒的な影響を与えることができる。

・もし例えばイランと中東でもう一度戦争をするとなれば、米国は海軍、空軍、サイバー司令部、それにミサイルと衛星の展開を重視するだろう。中国との戦争は主として海軍とサイバーだろう。ハイテク戦争の性質と技術で地球が小さくなることから、ミサイル、大気圏の力、海軍のプラットフォームの抽象的な領域が生まれ、その世界では紛争は一つの危機圏から他の危機圏に容易に移り得る。

・地上軍の展開は、ロシアのバルト3国併合や北朝鮮の崩壊など、最も重要な国益が関わっている場合に限られることになろう。政治のみならず軍事でもトランプ以前の時代に戻ることはできない。海軍の世紀がやってくる。それはグローバル化がコンテナ船の航行の安全にかかっている時代である。とはいえ、海軍の世紀が平和的であるとも言えない。

参考:Robert D. Kaplan,‘The coming era of U.S. security policy will be dominated by the Navy’(Washington Post, March 13, 2019)
https://www.washingtonpost.com/opinions/2019/03/13/coming-era-us-security-policy-will-be-dominated-by-navy/

論説は、米国が中東における地上軍の介入の時代を終わらせようとしている、と述べている。そして地上軍による介入に代わるものは、海軍による力の投射であるという。海軍の世紀がやってくるとまで言っている。

 地上軍による介入が原則行われなくなるのはその通りだろう。米国はイラクとアフガニスタンで大々的な介入を行い、多大な犠牲を払ったが、それに見合う成果は上げていない。地上軍による介入が割に合わないのは、レジーム・チェンジの後の国造り、治安の維持が極めて困難で、介入の対象となった国が自力で対処できないからである。アフガニスタンがそのいい例だろう。アフガニスタンでは、政府を辛うじて維持していくのに依然として米軍の駐留を必要としている。アラブの春でチュニジアを除いて民主化に成功しなかったのは、独裁者を排除した後の国を管理する能力が無かったためである。

 地上軍の介入の時代が終わるのは別に中東に限らない。しかし、これまでの米国の地上軍による介入の最たるものが、イラク、アフガンと中東であったこと、中東地域は不安定で米国の介入が望まれるような事態が発生しやすいことから中東が特記されている。

 地上軍による介入に代わるものは海軍による力の投射とされるが、論説も指摘しているように、厳密に海軍だけというのではない。空軍、ミサイル、サイバー、宇宙などが含まれる。要するに地上軍以外ということである。これらはいずれもハイテク関連で機動性に富んでいる。論説は中国との戦争は主として海軍とサイバーだろうと言っているが、今後とも大国間の全面戦争は考えられないのではないだろうか。

 なお、中東ではイランに注意を要する。今トランプ政権はイランを厳しく非難し、イラン包囲網を作ろうとしている。トランプ政権がイランを攻撃するのではないかとの憶測が飛び交っている。イスラエルがイランの脅威を盛んにトランプ政権に吹き込んでいる事情もあり、トランプ政権にイラン攻撃をけしかけているのではないかと推測される。もし万一戦争になった場合には、米国の地上軍の派遣は考えられない。海、空軍による空爆、ミサイル攻撃、サイバー攻撃などが行われることになるのだろう。仮にイランとの戦争が始まれば、どこまでエスカレートするか予測がつかない。

【私の論評】米軍はインド太平洋地域を重視しており、海軍を中心に中国に対峙しようとしている(゚д゚)!

実質的に、次世代の米国の安全保障を担うのは海軍というのは、確かなようです。なぜなら、米国最大の米インド太平洋軍(米太平洋軍から昨年改称)の司令官が引き続き海軍となったことによって裏付けられているからです。

米軍の統合軍は全部で九つあります。地域が割り当てられているのは、6つの統合軍であり、以下に地域別の統合軍の名称と、担当する地域を示した地図を掲載します。



それぞれに司令官がおり、作戦上は、大統領、そして国防長官に次ぐ地位になります。大統領は米軍の最高司令官であり、それを国防長官が支えます。

統合参謀本部は、米国においては作戦上の指揮権を持っていません。米国の統合参謀本部は大統領と国防長官に助言をする立場です。

統合軍の司令官を動かすことができるのは大統領と国防長官だけです。それだけ大きな権限が統合軍の司令官には与えられているのです。

米軍といえば、多くの日本人にとって、陸軍、海軍、空軍、海兵隊というのが普通のイメージであり、実際にそうなのですが、戦闘においてはそれぞれが独自に作戦を行うわけではありません。各軍が必要に応じて連携し、統合作戦を担わなくてはならないのです。それを担うのが統合軍です。

九つの統合軍のうち、六つが地域別になっており、三つが機能別になっています。機能別の統合軍は、戦略軍、特殊作戦軍、輸送軍です。戦略軍は核兵器やミサイル、そして宇宙を管轄し、隷下にはサイバー軍も有しています。特殊作戦軍は文字通り特殊作戦を担います。輸送軍は米軍の人員・物資を輸送することを専門にしています。

地域別の統合軍は、北米を管轄する北方軍、中南米を担当する南方軍、中東を担当する中央軍、アフリカを担当するアフリカ軍、欧州を担当する欧州軍、そしてインド太平洋軍です。

こうした地域分割は国連その他の機関によって米軍に委任されているものではなく、いわば勝手に米国政府が世界を分割し、それぞれの地域における米国の権益を守るために軍を置いていることになります。

インド太平洋軍は九つの統合軍のうちで最大規模であり、地球の表面積で見ても52%という広大な地域を担当します。米国西海岸の映画産業の拠点ハリウッドから、インドの映画産業の拠点ボリウッドまで、北極熊から南極ペンギンまでが担当地域なのです。

ところが、一昨年11月に、米海軍が過去70年にわたって手にしてきた米太平洋軍司令官のポストが、米海軍太平洋艦隊艦艇が立て続けに重大事故を引き起こしてしまったことの影響により、アメリカ空軍の手に移りそうな状況に直面していました。

太平洋軍時代のハリー・ハリス氏

その後、現在米太平洋空軍司令官を務めているテレンス・オショネシー空軍大将が、前米太平洋軍司令官ハリー・ハリス海軍大将の後任の最有力候補でした。しかし、「伝統ある重要ポスト」を失いたくない米海軍側、とりわけ米海軍の擁護者である故ジョン・マケイン上院議員らの強力な巻き返し工作が功を奏して、米海軍はなんとか米太平洋軍司令官のポストを失わずにすむことになりました。

米太平洋艦隊所属の軍艦がたて続けに民間船との衝突事故を起こし、多数の死者まで出すという醜態を晒すこととなったアメリカ海軍ではありましたが、結局のところは、人望が高かった太平洋艦隊司令官スウィフト海軍大将をはじめ、米太平洋艦隊の幹部たちを更迭することで、事態の収束がはかられ、「米太平洋軍司令官のポストを海軍から取り上げられてしまう」というアメリカ海軍にとっては極めて重い「お灸を据えられる」措置までには立ち至らなかったのです。

トランプ政権により韓国大使となったハリス提督の後任として、2018年5月30日に米太平洋軍から名称変更された米インド太平洋軍の司令官に、前米艦隊総軍司令官のフィリップ・デイビッドソン海軍大将が指名されました(米艦隊総軍:かつては米大西洋艦隊司令官と兼務されるポストでたが、現在は米艦隊総軍に統合された。直属の部隊は第2艦隊です。ちなみに米太平洋艦隊直属の部隊は第7艦隊と第3艦隊です)。

もっとも、行政府であるトランプ政権や海軍をはじめとする軍部が賛同していても、日本と違ってシビリアンコントロールの原則が正常に機能している米国では、連邦議会の承認がなければ政権によって指名されても自動的に司令官のポストに就くことはないです。一昨年4月26日、連邦議会上院はデイビッドソン大将の指名を承認しました。

先に述べたように、担当領域が広大なだけでなく、米インド太平洋軍司令官は、米国にとっては依然として油断のならない北朝鮮や、北朝鮮の比ではない軍事的外交的脅威となっている中国に最前線で向き合わなければならないのです。

太平洋軍からインド太平洋軍へと名称変更をしなければならなくなった最大の要因は、太平洋郡時代に中国海洋戦力が飛躍的に強力となってしまったという現実があるからです。

中国海洋戦力は、中国本土の「前庭」に横たわっている東シナ海や南シナ海で軍事的優先を拡大しているだけでなく、中国本土からはるかに離れたインド洋へもその影響力を及ぼしつつあるからです。

とりわけ、中国は、トランプ政権が一昨年末から昨年の1月に公表した「国家安全保障戦略」「国家防衛戦力」などで明確に打ち出した「大国間角逐」という国際情勢認識の最大の仮想敵国と名指しされています。

また、ロシア領土(とその上空)は米太平洋軍の担当区域外である(米ヨーロッパ軍の担当)が、ロシア太平洋艦隊が日常的に活動するオホーツク海や北太平洋それに西太平洋は米インド太平洋軍の責任領域です。

要するに米インド太平洋軍司令官は、トランプ政権の軍事外交政策の根底をなす「大国間角逐」の相手方である中国とロシアのそれぞれと直面しているのです。そのため、世界を六つの担当エリアに分割してそれぞれに設置されている米統合軍司令官のなかでも、米インド太平洋軍司令官は極めて重要なポストと考えられています。

それだけではありません。米インド太平洋軍の担当地域には、日本、韓国、フィリピンそれにオーストラリアなどの同盟国や、米国にとっては軍事的に支援し続ける義務がある台湾、それに中国に対抗するためにも友好関係を維持すべきベトナムやインドといった軍事的、外交的あるいは経済的に重要な「味方」も数多く存在しています。

つまり、米国だけで危険極まりない強力な仮想敵である中国に立ち向かうのでなく、同盟国や友好国を活用して「大国間角逐」に打ち勝つことこそが米国にとっての良策なのです。

そのため、米インド太平洋軍司令官には、とりわけ現状では、軍事的指導者としての資質に加えて、外交官的役割をも果たせる資質が強く求められています。実際にデイビッドソン氏は米連邦議会上院公聴会で次のように述べています。

「中国には、(米国政府内の)あらゆる部署が協力し合い一丸となって立ち向かう必要を痛切に感じております。そのために(米インド太平洋軍)は国務省とも密接に協働するつもりです。……それに加えて、これは極めて重要なのですが、われわれ(米インド太平洋軍)は同盟諸国や友好諸国と連携して中国に対処していかなければならないのです」

この公聴会に先だって、指名承認のための基礎資料としてデイビッドソン大将は連邦議会からの「インド太平洋軍司令官に任命された場合に実施すべきであると考えるインド太平洋軍の政策や戦略に関する質問」に対する回答書を提出しました(50ページにわたる、詳細な質疑回答書は公開されています)。

現米インド太平洋軍司令官の

当然のことながら、次期太平洋軍司令官として、トランプ政権が打ち出した安全保障戦略や国防戦略と整合したインド太平洋軍の戦略をどのようにして実施していくのか?という国防戦略レベルの質疑応答から、軍事的リーダーとしてだけでなく外交的役割をも担う米インド太平洋軍司令官として国務省はじめ様々な政府機関や連邦議会などとどのような関係を構築していくのかに関する詳細な方針、それに責任地域内でインド太平洋軍が直面している軍事的、外交的、経済的諸問題のそれぞれに対してどのような方針で対処していくつもりなのか?に対する具体的対応策まで、質疑応答は多岐にわたっています。

デイビッドソン大将が連邦議会に対して公式に陳述した以上、それらの回答内容は、米インド太平洋軍司令官として着実に実施していく義務が生ずるのは当然です。要するに、今後重大な地政学的変動が生じないかぎり、上記「質疑回答書」は、少なくともデイビッドソン大将が指揮を執る期間中は、米井戸太平洋軍の基本路線なのです。

そのデイビッドソン次期米インド太平洋軍司令官の対中国戦略、対北朝鮮戦略、そして日米同盟に関する所見などの詳細については稿を改めなければ紹介できないが、デイビッドソン海軍大将が陳述した米インド太平洋軍司令官にとっての最優先責務とは次のようなものです。
1:米国の領域を防衛する
2:米インド太平洋軍担当領域での米軍戦力を再調整する
3:同盟諸国や友好諸国との二国間関係や多国間協力を強化発展させる
4:多様な脅威に対処するために米政府内そして同盟国の軍事部門以外の諸部門との協力を推進する
われわれは、日本を含むアジア太平洋の安定を考える際、在日米軍だけではなく、日本ではあまり知名度が高くはない、インド太平洋軍全体に対する理解を深める必要があります。

在日米軍司令部のある横田の向こうにあるのは、国防総省のあるワシントンDCだけではない。その間にあるハワイ(インド太平洋軍の司令部がある)にも注目しなくてはならないです。

インド太平洋軍が統合軍で最大であること、その司令長官が海軍出身であるということから、私達は、米軍はインド太平洋地域を重視しており、海軍を中心に中国に対峙しようとしていることを前提にものを考えなければならないのです。

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2019年3月2日土曜日

韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 ―【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!

韓国・文大統領大誤算!米朝決裂で韓国『三・一』に冷や水で… 政権の求心力低下は確実 識者「米は韓国にも締め付け強める」 

米朝決裂であてのはずれた文在寅

 米朝首脳会談の決裂を受け、北朝鮮と韓国が窮地に追い込まれた。ドナルド・トランプ米大統領が、北朝鮮の「見せかけの非核化」方針を見透かして席を蹴ったため、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が熱望した経済制裁解除や、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「三・一運動」100周年に合わせて期待した南北共同事業の再開は水泡に帰したのだ。正恩氏の国内権威は失墜し、「米朝の仲介役」を自任した文氏の求心力も低下する。危機を脱して、好機を得たともいえる日米両国。今後の展開次第では、南北朝鮮は「地獄」を見ることになりかねない。

 「国連安全保障理事会決議に基づく制裁の一部を解除すれば、寧辺(ニョンビョン)の核施設を永久に廃棄すると提案したが、米側が応じなかった」

 北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相は1日未明、ベトナムの首都ハノイで緊急記者会見し、こう説明した。



 北朝鮮の閣僚による異例の記者会見は、決裂した米朝首脳会談後、トランプ氏が「北朝鮮は経済制裁の全面解除を要求してきた」と明かしたことへの反論だった。会談失敗の責任を、正恩氏からトランプ政権になすりつけようとしていることがうかがえた。

 会見に同席した崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は「部分的な解除さえ難しいとする米側の反応をみて、(正恩氏が)交渉への意欲を少し失ったのではないかと感じた」と語り、国内外に向けて、最高権力者の威信を守ろうと必死の様子だった。

 今回の米朝首脳会談で、北朝鮮は「米国と合意可能」とみていた。

 正恩氏のベトナム訪問を、同国メディアに出発時点から報じさせていたうえ、朝鮮中央通信は2月28日、正恩氏が「今回の会談でみんなが喜ぶ立派な結果が出るだろう、最善を尽くすという意義深い言葉を述べた」と伝えていた。

 ところが、その期待はあえなく消えた。

 トランプ氏が非核化に向けた具体的措置を求めたのに対し、正恩氏が経済制裁の全面解除を迫ったため、トランプ氏は当初予定していた共同合意文書への署名を見送り、会談を終了した。

 首脳会談の決裂に伴い、正恩氏は何の見返りも得られないまま、帰国することになった。

 国際社会による制裁で、北朝鮮は相当追い詰められている。2月には国連に食糧支援を要請するほどの困窮ぶりだ。国内で正恩氏への不満が高まっているとの情報もある。

 正恩氏の外交的失敗で制裁が維持されたため、最高権力者としての権威失墜は避けられそうにないのだ。

 今回の会談結果に、米朝の「仲介役」を自任していた韓国・文政権も狼狽(ろうばい)している。

 韓国・聯合ニュースが2月28日に《朝鮮半島情勢「視界ゼロ」 米朝首脳会談が「制裁」問題で決裂》という見出しで伝えたことからも、韓国政府の焦りが感じられる。

 同ニュースは別の記事で、「韓国政府の当局者は戸惑いを隠せずにいる。今回の会談が成功すれば、合意に対北朝鮮制裁緩和に関する内容が盛り込まれ、制裁が足かせとなっている南北経済協力に転機が訪れると期待していたためだ」と指摘した。

そもそも、米朝首脳会談は、文大統領が「北朝鮮には非核化の意思がある」と確約したため、米国も乗り出した。

 トランプ政権は、文政権の異常な「反日行動」や、左翼主義的な態度に不信感を抱えていたが、北朝鮮とのパイプ役として一定の節度を保ちながら対応してきた。

 今回の首脳会談決裂を受け、仲介役である文政権の責任も問われかねない。国内的にも、北朝鮮問題で支持率を保っていたため、求心力低下は確実だ。

 対照的に、日本は土壇場で危機を脱する結果となった。

 トランプ政権は当初、ICBM(大陸間弾道ミサイル)の廃棄で妥協するとの見方があり、その場合、日本を射程におさめる中距離弾道ミサイル「ノドン」などが残るとみられていたからだ。

 日本政府としては「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という方向で米国と調整してきた。会談決裂で「御の字」なのだ。

 日本の悲願である拉致問題についても、トランプ氏は今回、正恩氏に2回提起したという。安倍晋三首相は今回の結果を評価し、「トランプ氏の決断を全面的に支持する」と述べた。

 米国政治に詳しい福井県立大学の島田洋一教授は「今回のトランプ氏の決断は、米国の保守派からも評価され始めている。一方、正恩氏は、トランプ氏をうまくだませると思っていたようだが、土壇場での逆転で、手ぶらで帰ることになった。トランプ政権は『制裁の抜け穴をふさぐ』という意味で、北朝鮮への圧力を強化し、同時に文政権にも締め付けを強めていくだろう」と話した。

【私の論評】米国にとって現状維持は、中国と対峙するには好都合(゚д゚)!

冒頭の記事では、"日本政府としては「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という方向で米国と調整してきた。会談決裂で「御の字」なのだ"とありますが、これは米政府としても「御の字」であったと思います。


No deal is better than a bad deal

北朝鮮は、外見は中国を後ろ盾にしてはいますが、その実中国の干渉されることをかなり嫌っています。金正男の暗殺や、叔父で後見役、張成沢氏の粛清はその現れです。

韓国は、中国に従属する姿勢を前からみせていましたが、米国が中国に冷戦を挑んでいる現在もその姿勢は変えていません。

この状態で、北朝鮮が核をあっさり全部手放ばなすことになれば、朝鮮半島全体が中国の覇権の及ぶ地域となることは明らかです。これは、米国にとってみれば、最悪です。そうして、38度線が、対馬になる日本にとっても最悪です。

もし今回北朝鮮が米国の言うとおりに、全面的な核廃棄を合意した場合、米国は、米国の管理のもとに北朝鮮手放させるつもりだった思います。まずは、米国に到達するICBMを廃棄させ、冷戦で中国が弱った頃合いをみはからい、中距離を廃棄させ、最終的に中国が体制を変えるか、他国に影響を及ぼせないくらいに経済が弱体化すれば、短距離も廃棄させたかもしれません。

しかし、これを米国が北朝鮮に実施させた場合、多くの国々から非難されることになったことでしょう。特に、日本は危機にさらされ続けるということで日米関係は悪くなったかもしれません。さらに、多くの先進国から米国が北朝鮮の言いなりになっていると印象を持たれかなり非難されることになったかもしれません。

しかし、今回の交渉決裂により、悪いのは北朝鮮ということになりました。米国は、他国から非難されることなく、北朝鮮の意思で北の核を温存させ、中国の朝鮮半島への浸透を防ぐことに成功したのです。まさに、「バッド・ディール(悪い合意)よりは、ノー・ディール(無合意)の方が良い」という結果になったのです。

しかし、今回の会議にボルトンが同行したということ自体が、今回の交渉が最初からノー・ディールになる可能性が高かったと見るべきです。

ボルトンはトランプ政権に参加する以前の昨年2月、米ウォールストリート・ジャーナル紙に「北朝鮮への先制攻撃に関する法的検証」という意見記事を投稿しました。「bomb them(爆撃しろ)」の異名を取るボルトンが交渉テーブルに着いた以上、トランプがより強硬になったとしても不思議ではないです。

ハノイでの米朝会談2日目、突然ボルトン(左端)が
着席したときから、外交専門家たちは不安を募らせていた

第2回米朝会談の結果に一部の専門家たちはひどく失望しているようですが、あまり悲観的な見方に傾くことはないと思います。トランプと金正恩は交渉テーブルからは去りましたが、両国の交渉をつなぐ橋を完璧に壊したわけではありません。

米朝両国にとってもこの交渉を崩壊させない方が有益です。今後数週間~数カ月の焦点は、米朝両国が過去8カ月間維持してきた均衡を引き続き維持できるか、そして今後の交渉で米朝間の溝を埋めて非核化を進展させることができるかです。

米国にとってはこの均衡を維持できれば、中国に対峙している現状では、悪くはない状況です。中国にとっては最悪でしょう。米国の最大の課題は中国つぶし、北朝鮮はその従属関数でしかないのです。

米国にとっては、韓国も従属関数でしかありません。韓国が、今後中国に従属する姿勢を強めなければ、放置するでしょうし、そうでなければ、締め付けることになるでしょう。

そうして、そもそも米国の対中冷戦によって、中国が体制を変えたり、あるいは、他国に影響を及ぼせないほど弱体化すれば、北朝鮮問題というより朝鮮半島問題はだまっていても自ずと解決することになるでしょう。ただし、それには少なくとも10年、長ければ20年くらいかかるかもしれません。

その間北朝鮮が、制裁に耐え続けることができれば、今のまま均衡が保たれるでしょうが、それはかなりあやしいです。

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2018年6月26日火曜日

早くも中国征伐へ舵を切った米国 日本には中国、北朝鮮、反日化する韓国と対峙する覚悟が必要に―【私の論評】米国が北朝鮮に軍事攻撃をする可能は未だ捨てきれない(゚д゚)!

早くも中国征伐へ舵を切った米国 日本には中国、北朝鮮、反日化する韓国と対峙する覚悟が必要に




1 史上初の米朝会談

 6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談は、敵視する国同士のトップが直接会談するという歴史上稀なものであった。

6月12日に開催された中朝首脳会談 写真・図表はブログ管理人挿入 以下同じ

 日本や米国をはじめ大半の評価は、中国・北朝鮮が勝って高笑いする一方、ドナルド・トランプ大統領は詰めを欠いた政治ショーを演じ、曖昧な決着で終わってしまい、将来に禍根を残したというものであろう。

 筆者も4月号の雑誌「Voice(ボイス)」において、北朝鮮が核を放棄するはずはなく、直接会談でトランプ大統領はこれを見極め、いずれちゃぶ台返しをするだろうと予想した。

 しかしトランプ大統領が苦しい記者会見をやっている姿とスカスカの合意文書を見せられた。

 一方、金正恩が北朝鮮に到着するや否や、「段階的に見返りを受けながら朝鮮半島の核を廃絶していく」ことを共通認識とし「体制の安全の保障を得た」と言うに至って、トランプ大統領は完敗したと感じた。

 また、筆者は昨年6月に中国を訪問し安全保障に関する議論をしてきたが、その時中国側の要人は朝鮮半島問題については「米朝が直接話し合い、北朝鮮は核とミサイル発射を凍結し、米国は米韓合同演習を凍結する、ダブルフリーズが必要」と述べていた。

 まさにその通りになってしまったと感じ、中朝のクリンチ作戦で、トランプ大統領の退場を待つ策略が功を奏したと失望せざるを得なかった。

 米朝会談前に筆者は、昨年暮れに北朝鮮を米国が殲滅することは「金の斧」、次に会談を破談にし、北朝鮮を殲滅することが「銀の斧」、米国ペースで会談が進めば「銅の斧」、そして北朝鮮ペースで進めば「鉄くずの斧」であると指摘していた。

 この前提は、北朝鮮対処は「前哨戦」であり「本丸は中国」だということで、いかに早く対中国シフトができるかが評価要素であった。前述の評価からすれば、結果は最悪の「鉄くずの斧」になってしまったということだ。

 一方、もしこれらの評価が正しく、朝鮮半島が平和に向かっていると感じているなら、それは大きな間違いであろう。

 平和に向かっていると言うのは中国の見解だ。よりによって韓国はこの時期に、米韓合同軍事演習(以下、「米韓演習」)は中止しても竹島防衛訓練は実施し、また、慰安婦問題を蒸し返している。

韓国軍は18日から2日間竹島防衛訓練を実施

 文在寅大統領に代表されるように大多数が親北・左翼になってしまった韓国は、いずれ反日、反米、親中勢力として中国にのみ込まれていくだろう。

 10年先を見れば、しぼむトランプ大統領と米国を後目に、核を放棄しない北朝鮮といよいよ軍事的覇権を拡大する中国が合体して、否応なく日本は最前線に立たされることになる。

 このまま行けば、より厳しい状況が、早く出現するということだ。

 それへの備えと覚悟を訴える論調は日本にはほとんどない。核をも装備した自主防衛議論が出てきてもおかしくないのに皆無である。日本にとって安全保障とは他人事で、米国の責任だと思っているのだろう。

2 合点がいかない会談後の流れ

 さて前置きが長くなったが、このたびの米朝首脳会談の流れは実に不可解である。

 まず会談の開催をトランプ大統領がキャンセルした時の金正恩の驚きと、面子を重んじる北朝鮮が醜態をさらして会談を懇願したことは実に不可解だ。金正恩にはこの時期トランプ大統領に話さなければならない何か重大なことがあったのだろう。

 また、あの厳しい米国の訴訟社会で生き残り、不動産王と言われたトランプ大統領が、あんなスカスカの文章を容認するだろうか。記者会見を独りで実施したが、何を言われても平気で金正恩を持ち上げた。

 そして、金正恩は帰国後すぐさま勝利宣言だ。トランプ大統領にとっては、ICBM(大陸間弾道ミサイル)によって自国の安全が脅威に晒される北朝鮮問題は喫緊の課題である。

 とても米韓演習を中止するなどあり得ないし、中国を相手に貿易戦争などできるはずもない。なぜなら米国と北朝鮮は水と油ほど考え方が違うことから、いずれ米朝は決裂し軍事行動へと発展することは間違いないだろうと考えるのが普通だ。

 しかし、トランプ大統領は、米韓演習の中止を命じ、韓国に駐留する米軍も本国に戻したいと本音を漏らしてしまった。さらに、その後の主要スタッフの発言は、にわかに信じられないものがある。

 まず、韓国大使に任命された対中・対北朝鮮強硬派のハリー・ハリス前太平洋軍司令官は、米朝首脳会談で状況が劇的に変化したとして「北朝鮮が交渉に真剣かを見極めるため、米韓演習を『一時』中止すべきだ」「多くの米軍幹部が朝鮮半島より深刻な脅威となる中国への対処に資源を振り向けるべきだと考え始めている」と述べている。

 さらにジェームス・マティス国防長官は米海軍大学の講演で「中国は他国に属国になるよう求め、自国の権威主義体制を国際舞台に広げようとしている」「既存の国際秩序の変更が中国の宿願であり、他国を借金漬けにする侵略的経済活動を続け(一帯一路)南シナ海を軍事化している」「我々が中国に関与し、中国がどう選ぶかが大切」と述べている。

 また、マイク・ポンペオ国務長官は中国を訪問して、南シナ海での軍事拠点化に言及し「他国の主権を脅かし、地域の安定を損ねている」と指摘し、マティス国防長官と同じように、眼前の脅威だとしていた北朝鮮問題には一切触れていない。

 中国は北朝鮮の後ろ盾として影響力を行使することと引き換えに、貿易摩擦の緩和を狙ったが、米朝首脳会談の3日後には米国は中国への制裁関税を発表し、さらに追加制裁にも発展している。

 この裏には対中強硬派のピーター・ナバロ通商製造業政策局長の発言力の復活がある。

 これら一連の動きは、今年1月に発表された米国防戦略が指摘した「中国は地球規模で米国の主導的地位にとって代わろうとしている」「米国が最も重点を置くべきはテロではなく大国間競争だ」とし、中国を「主敵」としたその戦略の発動であり、いよいよ「本丸」への攻撃をまず経済から始めたということだ。

 しかし、そのような大転換をするには、北朝鮮が本当に安全保障上の脅威にならないという確信がなければできないであろう。

 それならば、北朝鮮に対する押さえは何か。その1つは、ハリー・ハリス氏の駐韓国大使への配置である。

 恐らくトランプ大統領は、ハリス氏を最も信頼できる右腕として、韓国、北朝鮮、中国北部戦区の目付役とし、情勢判断を委ねたのだろう。彼が危ないと判断したら、トランプ大統領はすぐさま北朝鮮壊滅の準備にかかるだろう。

 一般的に自衛隊・米軍とも人事異動は2~3年なので、1年あるいは1年半で主要な幹部の半分は変わる。そのため米韓演習の中止期間は1年が限界であろう。特に今は太平洋正面の米軍の主要指揮官が交代しているので、動く時ではない。

 トランプ大統領も、「対話が中断すればすぐに演習を開始できる」と警告している。ポンペオ国務長官は、2年半以内に完全な非核化ができると言っているが、それでは次の大統領選挙には間に合わないし、軍事行動の再起動には問題がある。

 トランプ大統領がABCテレビのインタビューに答えて、「1年後に私は間違っていたかもしれないと言うかもしれない」と発言した意味は、軍事行動を起こすかどうかの見極めは、1年以内だということであろう。

 もう1つのカギは、近々ポンペオ国務長官と死神と恐れられるジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が北朝鮮に入り、米朝間の非核化に向けた詳細な協議を行うことだ。

 「死神」を受け入れる北朝鮮には並々ならぬ決意があるのだろう。

 ポンペオ国務長官は中国の動きも念頭に「北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を要求すると述べ、北朝鮮との協議の場では核計画の全容を数週間以内に申告するよう求め、検証のため米国以外の関係国からも専門家を呼ぶとしている。

 そして非核化の中に核だけではなく、生物・化学兵器やミサイルなどを含めたと説明している。

 もし北朝鮮が公約通り、非核化に向けて目に見える形で具体的行動をとらなければ、1年以内、早ければ今年の暮れには北朝鮮に対する見切りをつけるだろう。そういう意味で、米国の軍事的選択肢はなくなってはいない。

 このように経緯をたどると、米国は北朝鮮問題は解決済みとし、すでに対中国へとシフトしたと見るしかない。なぜなのか。よほどの確信がなければそんな行動に出ることは無謀であり、ここまでの説明でもまだ不十分だろう。

 結局、米朝首脳会談では、文書化されていない重要な約束事があるのではないかという疑念が湧く。

 事実、ポンペオ国務長官は6月23日の米MSNBCテレビのインタビューの答え、金正恩は「完全な非核化をする用意がある」と発言した。

 12日の米朝共同声明に明記されなかった米朝間の取り決めに関し、詳細を明らかにしなかったものの、「合意した多数の原則があり、双方がレッドラインを認識している」とも述べている。

 そもそもトランプ大統領は従来の大統領と異なり、言ったことはやる男だ。

 もし、米国が北朝鮮の後ろ盾になってやると言い、金正恩一族の「体制の安全を保証」するから核を廃棄し、民主化でなくとも開国し、少しでも繁栄する国家に近づく気はないかと囁かれたらどうだろうか。

 危険だがトランプ大統領にとっては独裁者たる金正恩が生きている方が、はるかに体制変換は容易である。

 一方、金正恩にとっては、昨年来の米国による北朝鮮殲滅の意思と能力をいやと言うほど見せつけられた。本当に核兵器まで使うかもしれないという米国大統領を金正恩のみならず、我々も目にしていることを忘れてはいけない。

 中国の習近平国家主席が米国を訪問中にシリアをミサイル攻撃したことは、中国のみならず、北朝鮮にとっても大きな恐怖であったはずだ。

 抑止とは、実際に敵に勝てる意思と能力、すなわち、勝てる戦略と切り札となる装備と予算の裏づけがあって初めて有効になるものだ。従って、米国が北朝鮮を殲滅する意思と能力を見せつけた「金の斧」は無駄ではなかった。

 金正恩は戦わずして負けを認めたのだろう。どうせ負ける戦争で殺されるより、シンガポールで見た繁栄の一端を実現することに生き残りを賭けることは悪くないと思ったのかもしれない。

 金正恩は、一応核保有国になったことにより米国大統領を会談に引きずり出したことで、その時が来たと考えたとしてもおかしくはない。

 いずれにしても、北朝鮮は少し時間をもらい、体面を保ちながら核や化学・生物兵器を滞りなく廃絶に持っていく賭けに出たのかもしれない。

3 北朝鮮の後ろ盾は中国か、米国か

 このような見立てをしている論調はほとんどないが、何人かの論者が筆者と似た意見を持っているようだ。

 それぞれアプローチと観点は違うかもしれないが、この見方であれば合点がいく。平たく言えば、「米朝は握った」のである。

 その時に問題となるのが、中国の逆襲と北朝鮮内部の反乱である。

 まず、そんな北朝鮮の動きを中国は容認するのだろうか。答えはイエスである。

(1)そのような謀反の兆候を見て、中国は北朝鮮に対して軍事行動を起こさないだろうか。起こせないだろう。

 なぜなら、米国を悪者にしようと平和勢力のように振る舞ってきた中国にとって、米国に先駆けて軍事行動を起こすデメリットは計り知れない。そのうえ、米国の経済制裁のもう1つの意味は、中国に軍事行動を起こさせない匕首(ブログ管理人注:ひしゅ、あいくちのこと)だからである。

(2)そもそも中国は北朝鮮を憎悪している。昨年の筆者の中国訪問における要人との対話では、「北朝鮮との同盟は変質した」と述べた。

 さらに、北朝鮮の核兵器は中国にも向けられているのではないかとの問いには「平壌を壊滅しなければならない」と吐き捨てるように語っていた。

 中国にとって核兵器などがない北朝鮮の方がむしろ望ましい姿なのである。核の廃棄を進めながら、米国の朝鮮半島からの撤退に結びつけばもっと有難い。

(3)たとえ北朝鮮が米国の経済支援などを受けても、地続きの中国の方が改革・開放の名の下に経済的な浸透が容易である。

 北朝鮮も改革・開放を隠れ蓑にする可能性がある。まして左傾化し反日・反米になりつつある韓国は御しやすく、習主席の方がトランプ大統領よりも長く政権に居続けられることから、いずれ朝鮮半島は中国の傘下に入るだろう、とほくそ笑んでいることだろう。

 もう1つは北朝鮮の内部の問題である。

 これは、体制変換を感じ取った親中派の軍部などが金一族を抹殺することや、自由を得てきた国民がルーマニアやリビアのように独裁者を抹殺することであり、この2つの可能性は大きいかもしれない。

 一挙に昔の北朝鮮に戻る危険性は否定できない。従って、軍事行動の準備は続けなければならない。まさに激動の朝鮮半島である。

4 対中に舵を切った米国、日本はどうする

 このような激動の中で、日本の政治は国内の些細な問題に囚われ、また、とても自由主義国家とは言えない経済政策の推進で、米国や世界の信用を失いつつあることに気づいていない。

 特に中国の「一帯一路」への協力は、トランプ大統領やインド・アジア地域の国々にとって裏切り行為でしかない。

 米国が台湾にも近づき、本気で中国征伐に乗り出したのに、中国の支援に回るとは利敵行為もはなはだしいとトランプ大統領は怒っているだろう。

 日本は中国の離間の計、すなわち日米の分断に自ら協力している。

 その怒りは、韓国と日本が核廃絶のお金を払うだろうという言葉に表れているし、日本に対する制裁関税の解除が遅れているのも、一緒に中国に立ち向かうこともなく、自らを守り切る防衛費も負担しないで笑って済ませようとする日本に対する皮肉であろう。

 米国の中国に対する制裁関税は、知的所有権への侵害に対するものである以上、日本も制裁に参加すべきではないだろうか。また、韓国からの米軍の撤退の希望は本心だろうし、止められない流れとなるであろう。

 米国は、中国に立ち向かうときには、日本は対馬が最前線になることを自覚し、少なくとも自らを守り切り、米国とともに中国に勝てる戦略の下に一緒に戦う覚悟を固め、行動することを期待しているはずだ。

 そうでなければ、やがて日本からも撤収するかもしれない。米軍が、未来永劫駐留すると考えるのではなく、日本を守るために米軍を引き止め、戦わせることを考えることがこれからは必要である。

 北朝鮮のミサイルにすら太刀打ちできない自らを恥じることなく、平和の配当を求め防衛費を削減しようとすることがあるならば自殺行為である。

 いずれにしても、朝鮮半島情勢は一気に流動化し、北朝鮮が米国と中国のどちらに振れようと、中・長期的視点からは日本にとって安全保障上、最も厳しい情勢になることは間違いない。日本は正念場に立たされたのである。

 そして、今年策定される新防衛大綱が手抜きであれば、日本の将来はないだろう。

 日本に求められることは、

(1)本気の対中作戦を考えた「脅威対抗の防衛力」への転換である。

 すなわち、防衛の必要性から、勝てる戦略(共著「日本と中国、もし戦わば」SB新書、中国の潜水艦を含む艦艇を沈め、国土・国民を真に守り切れる装備、態勢、米国を含むインド・アジア・太平洋戦略を提言)と切り札となり、ゲームチェンジャーとなる装備の開発・装備化、そして裏づけとなる十分な予算の配当が必要である。

(2)軍事は最悪に備えることが必要である。このため、アチソンラインが復活することを前提に、南西諸島防衛を手本として五島列島、対馬、隠岐、佐渡島、北海道へ至る防衛線を再構築する必要がある。

1950年1月12日、アメリカのトルーマン政権のディーン・アチソン国務長官が、「アメリカは、
フィリピン・沖縄・日本・アリューシャン列島のラインの軍事防衛に責任を持つ。それ以外の地域は
責任を持たない」と発言しました。これをアチソンラインといいます。

 トランプ大統領の、力による平和、力を背景とした外交の効果を理解し、また、日本の力のない外交では北朝鮮すら動かすことができない惨めさを理解したうえで、日本は自らの責任と自覚の下に、敢然と中国に立ち向かう日米同盟へと転換させることが喫緊の課題である。

【私の論評】米国が北朝鮮に軍事攻撃をする可能は未だ捨てきれない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事については、賛同できるところもあるのですが、そうではない部分もあります。特に、日本の外交に関して、安倍総理の外交努力を完璧に無視しているところには、全く賛同しかねます。

米国は以前から、アジア太平洋方面では二つの大きな脅威に直面していました。短期的には北朝鮮。長期的には中国です。これは、このブログにも何度か掲載してきましたし、現在の米国を考える上では、前提としなければならないことです。

そうして北朝鮮と異なり、中国は圧倒的な経済力を持っていて、いくら脅威であっても中国と直接紛争することはなかなかできないというのが米国の認識のようです。中国はすでに数百発のミサイルを日本列島に向けて発射できるよう準備を済ませており、そのミサイルに核爆弾も搭載可能です。

米国からすれば、本命は中国であり、北朝鮮問題などその前哨戦に過ぎないのです。このブログでも何度か掲載してきたように、トランプ大統領は、金正恩が米国の対中国戦略の駒として動く限りは、北の存続を許すでしょうが、そうでなければ、さらに制裁を強化したり、場合によっては軍事オプションも用いて、北を崩壊させることでしょう。その決断は、ブログ冒頭の記事のように、1年以内になることでしょう。

トランプ政権は発足当初は、中国の軍事的経済的台頭を抑えるため、ロシアと組もうとしたようですが、結局ロシアとの関係改善は進まず、次善の策としてASEAN諸国やインドと組もうとしました。ところが、中国側に先を越されてしまいました。

中国は2014年11月から、一帯一路構想により「シルクロード経済ベルト」と、「二十一世紀海上シルクロード」を構築すべく、アジア諸国に対して徹底的な経済支援を実施しています。

この「買収」工作のため、ASEAN諸国の多くはなかなか「中国批判」を口にしないようになってきていました。ただし、最近ではマレーシアにマハティール政権が登場し、一帯一路の事業から撤退することを表明するなど、中国への警戒心が高まっています。

もともとASEAN諸国は、米国のヘッジファンドなどの投資家によって振り回されてきた過去があるため、米国に悪いイメージがありました。インドも独立以来、非同盟といって米国ともソ連とも同盟を結ばずに独自の道を歩んできたため、米国とは関係が良いわけでもありませんでした。

そうして、昨年1月に発足したトランプ大統領は、国務省幹部と仲が悪いです。そのため国務省の主要人事でさえなかなか決まらず、アメリカ外交は余り機能しない状況が続きました。

そもそもトランプ大統領自身が国際政治の分野で友達が少なく、途方に暮れていたトランプ政権の対アジア戦略を支えてきたのが、なんと安倍首相なのです。

安倍首相は選挙勝利し、民主党から自民党ぺの政権交代が決まった2012年の暮に、「セキュリティ(安全保障)・ダイアモンド構想」を発表しています。これは、中国の脅威を念頭に、日米同盟を広げて東南アジアやオーストラリア、インドに至るまでの連携網を構築しようというものです。



この構想に基づいて安倍首相はこの6年近く「地球儀を俯瞰する外交」と称して世界中を奔走してきました。特にASEAN諸国やインドとの外交を押し進め経済のみならず、安全保障面での関係強化を図ってきました。

この安倍首相の活躍のおかげで、トランプ政権とASEAN諸国、インドとの関係改善も進んでいるといっても過言ではありません。トランプ政権単独ではなかなかできないことてした。

インド太平洋地域で果たすべきアメリカの役割が不明確になっているなかで、代って日本がこの地域でより大きな役割を果たすようになってきています。特にアメリカは昔からインドとの関係は複雑で微妙な面がありますが、安倍外交がインドと米国との関係を強化することに貢献したのは間違いありません。

ブログ冒頭の記事では、「一帯一路」への協力は米国への裏切りなどとしていますが、安倍総理は「個別案件に対応したい」と言っただけであり、「一帯一路に協力する」と言ったわけではありません。

おそらくリップサービスの域を超えていないと思います。そうして、安倍総理は、このリップサービスにより、「一帯一路」に関する情報を中国から仕入れようとしたのでしょう。中国としては、喉から口が出るほど日本の協力を欲しがっているので、これに関しては、静観しているようです。

そもそも、「セキュリティ・ダイヤモンド構想」を発表したその本人が、本気で「一対一路」に協力するなどということは考えにくいです。そうして、その後安倍総理の口からは、「一帯一路」に関する具体的発言は出ていません。


それどころか、特に南シナ海問題が起こってから、日本は経済協力を通じてフィリピンやベトナムへの関与を強め、巡視船の供与などによって法の支配を広げていこうとしてきました。こうした状況をを米国側からみれば、今や日本はアジア太平洋の安全保障の要となっていると認識しているといっても過言ではないのです。

インド太平洋地域の安定と平和を守るために現在のような戦略的な安倍外交がなくてはならないと、米国その中でも軍関係者は認識しているのです。

日本は過去には「アメリカの言いなり」「対米従属だ」と批判されてきたのですが、今や安倍首相の対アジア外交にアメリカが便乗してきているのです。

そうはいっても課題もあります。それは、ブログ冒頭の記事でも、指摘されているように、日本の防衛体制の不備、特に防衛費の不足です。

米国は仮に北朝鮮が東京にミサイル攻撃を行えば、必ず激しい対応を行うことでしょう。中国の侵略部隊が九州に上陸するようなことがあっても同じように対応することでしょう。。

しかし、北朝鮮のミサイルが五十マイルの沖合に落下した場合や、日本の田舎の住民のいない場所に落ちた場合はどうでしょうか。あるいは、中国の漁民が尖閣に上陸して退去を拒否し、中国海軍がすぐ近くで日本に干渉するなと警告するようなことがあったとしたら、どうなるでしょう。このようなぎりぎりの問題でも、日本は米国に武力の行使を含めて徹底的な支援を期待できるでしょうか。

こうした微妙な問題について日米首脳はしっかりと詰めておかないと、中国にしてやられることもあり得ます。

それでなくともアメリカの政治家の大半は、極東の「島」のために米中が戦争をすることなどあり得ないと考えていることでしょう。日本の領土は、米軍などに頼らず、日本がしっかりと守るべきだと考えていることでしょう。

防衛に対する本気度は予算でわかります。なぜなら、予算は国家の意思だからです。いくら政府が何をやります、あれをやりますといっても、肝心要の予算がつけられなければ、何もできません。


トランプ政権は北朝鮮有事を念頭に昨年は、18年度予算を前年比で約7兆円増の68兆円に増やす防衛予算を国会に提出、昨年7月27日、可決しました。防衛予算を大幅に増額することで「このまま核開発を進めるならば北朝鮮を全面攻撃するぞ」と、その本気度を示しましたのです。

ところが日本は昨年、政府が閣議決定した2018年度予算案の防衛関係費は、米軍再編経費を含む総額で過去最大とはいいなが、前年比で数千億円増やしただけの5兆1911億円に過ぎませんでした。


ミサイル防衛体制も尖閣防衛体制もさほど強化していません。このため、「日本は本気で自国を守るつもりがあるのか」と不信感を抱く米軍幹部も存在するくらいです。

日本は防衛費をもっと増やすことで米国の完全な支援の見込みを増やし、米国と日本のすべての軍隊の間で協力関係を向上することができるはずです。

日米同盟こそがアジアの平和を守る最大の公共財なのです。その公共財を守るためには、憲法改正だけでなく、防衛費をせめて先進国並みのGDP比2%、つまり10兆円規模に増やすことが必要ではないでしょうか。

私は、北朝鮮が中国側について米国に反旗を翻すということもあり得ると思っています。あるいは、米国と中国を手玉にとって、二股外交をするという可能性もあります。いずれにしても、米国が中国に対して、現状の貿易戦争などから、金融制裁などへと制裁を強化しても習近平が翻意しなけば、米国は中国に対する見せしめのために、北朝鮮に対して無慈悲な軍事攻撃加えることもあり得ると思っています。

私は、トランプ大統領やその取り巻きのドラゴンスレイヤー(対中国強硬派)たちは、本気で全く価値観が異なり、なおかつその価値観を寸分たりとも変えるつもりのない現中国の体制を崩し、米国への脅威を取り除こうと考えていると思います。

ブログ冒頭の記事には、賛同できない部分もありましたが、日本には中国、北朝鮮、反日化する韓国と対峙する覚悟が必要になることだけは、確かです。

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