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2019年7月9日火曜日

際限なきチキンゲームに、イラン、相次ぐ核合意破り―【私の論評】チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えている(゚д゚)!

際限なきチキンゲームに、イラン、相次ぐ核合意破り

イランは核合意で定められた低濃縮ウランの貯蔵上限や濃縮制限を相次いで破り、座して米制裁に甘んじることのない意思を鮮明にした。対立するトランプ大統領は「気を付けろ」と脅しまがいの捨て台詞を吐き、軍事的緊張の高まりで原油価格も上昇した。両者が突っ張り合いの姿勢を強めるチキンゲームはどこに向かおうとしているのか。

ウラン濃縮度引き上げを発表 するイラン政府高官

「瀬戸際戦術」の賭け

 イランが米国やイスラエルからの軍事攻撃を受ける危険を承知の上で、核合意を破る「瀬戸際戦術」という賭けに出た理由は明らかだ。このまま制裁を受け続ければ、イランの経済が悪化し、国家が破綻しかねないからである。最大の収入源である原油の輸出は現在、日量30万バレルまで急減、イランが核合意にこぎつけた2015年の3分の1のレベルまで落ち込んでいる。

 この結果、野菜の値段が5割も上がるなど物価の高騰、失業率の増加、通貨リアルの下落という3重苦は深まる一方。穏健派のロウハニ大統領に対する風当たりは高まり、とりわけ革命防衛隊や宗教勢力などの保守強硬派は「経済が好転するどころか悪化したのは元々核合意が失敗だったからだ」との批判を強めている。

 このため、イランは核合意の当事者である英独仏に対し、米国からの制裁による経済的な損失を補うシステムづくりを要求。欧州3カ国は米制裁をう回する「貿易取引支援機関」(INSTEX)を設立、このほど稼働した。しかし、欧州の企業は米制裁のとばっちりを受けることを恐れ、このシステムはうまくいかないとの見方が一般的。なによりも、INSTEXでは数億円ほどしか補填できないと見られており、イランが求める数千億円規模とは程遠い。

 こうした中、イランが強硬な措置に踏み切ったのは米国の制裁には屈しないという断固たる姿勢を内外に示すとともに、3カ国に対して核合意維持のため、米国を恐れず、経済的損失を補填する有効な手立てをさらに考えるよう迫ったものだ。米国の離脱で“半死状態”にある核合意が完全に崩壊すれば、イランが本格的な核開発に走り、結果として中東が不安定化し、欧州にとって好ましくない状況が生まれるという理屈だが、一種の脅しである。

 しかし、こうしたイランの「瀬戸際戦術」は危険な綱渡りであり、自らの首をさらに絞めかねない。3カ国はイランの合意破りに懸念を表明し、合意の枠内にとどまるよう要求したが、トランプ政権から制裁を加えられたイランへの同情論も消えつつある。3カ国がイランを見限り、米国の圧力路線に同調すれば、イランの孤立は一段と深まるだろう。

 マクロン仏大統領はこのほど、ロウハニ大統領と電話で会談し、全当事者による対話再開に向けた条件を15日までに探ることで合意したが、「これが最後のチャンス」(専門家)かもしれない。10日には、イランの核開発をめぐって国際原子力機関(IAEA)が会合を開催することになっており、イラン危機の行方を占う上でこの1週間が大きなヤマになるだろう。

核爆弾製造までの時間

 イランの合意破りは7月1日と7日に明らかになった。まず1日、イランは核合意で定められた低濃縮ウランの貯蔵上限300キロを超えたことを公表、さらに7日には「3.67%以下」に設定されていたウラン濃縮度上限をこの日のうちに超過させることを発表した。

 核分裂反応を示すウラン235は自然界にあるウランにはわずか0・7%しか含まれていない。この235の比率を高め、濃縮度90%になったものが核爆弾に使用できる。原子炉用は濃縮度5%、医療用アイソトープは濃縮度20%とされる。イランは今回、無制限の濃縮を明らかにしたものの、実際には5%程度までの濃縮に留めると見られている。段階的に要求をつり上げる余地を残すことと、米国やイスラエルからの軍事攻撃を回避するためだ。

 だが、濃縮度の上限を取り払ったからといってすぐに核爆弾が製造できるわけではない。専門家らによると、核爆弾1個を製造するためには低濃縮ウランが1200キロも必要になるという。現状で、イランが生産できる低濃縮ウランは1日1キロほど。つまり、これだけでも核爆弾保有には数年かかるという計算になる。

 核合意はそもそも、イランが合意を破って核開発に乗り出しても1年はかかるというスパンで設計された。1年あれば、核施設を軍事的に攻撃する時間や経済的に締め上げて、イランの核開発を阻止できるという思惑だった。現実には核爆弾製造にはこれ以上の時間が必要になるということだ。

打つ手乏しいトランプ

 トランプ大統領は1日の低濃縮ウランが上限を突破したという発表に対し「イランは火遊びをしている」と非難、その後「手痛いしっぺ返しを食らうだろう」「気を付けろ」などと軍事行動を仄めかしてきた。実際、6月20日の米無人偵察機の撃墜事件では、いったんはイランへの限定攻撃を承認し、攻撃10分前に撤回するという緊急事態も起きている。

 ペルシャ湾では、米国がイラン革命防衛隊の仕業とするタンカー攻撃も発生しており、いつ軍事的な衝突事件が起きてもおかしくない状態が続いている。しかし、トランプ大統領が望んでいるのはあくまでも限定的な攻撃だ。数カ所を攻撃し、「イラン側を沈黙させ、大人しくさせる」(ベイルート筋)ことが狙いで、全面戦争は全く望んでいないだろう。

 だが、大統領が限定的と想定して攻撃しても、イラン側は全面攻撃とみて報復する可能性がある。そうなれば、ペルシャ湾から地中海に至る一帯に戦線が拡大しかねない。湾岸にある米軍基地やイランの宿敵サウジアラビアやイスラエルなども巻き込んだ戦争になる恐れがあるということだ。

 特に米国が気にしているのは中東各地に広がるイラン支援の武装勢力や民兵の動きだ。米紙によると、5月14日のサウジのパイプラインへの無人機攻撃は当初、イランが支援しているとされるイエメンの武装勢力フーシ派による犯行と見られていたが、米国の最近の調査で無人機はイラクから発進したドローンであることが分かった。

 イラクのイラン配下の民兵による無人機攻撃と見られるが、中東各地には、こうしたイラン支援の武装勢力がおり、米国や米同盟国への攻撃がいつでも可能であることをパイプライン攻撃は示している。

 トランプ氏が全面戦争を望んでいないのは再選に向けた選挙が来年に迫り、米兵をつぎ込む戦争は支持を得ないと見極めているからだ。かといって追加制裁をしようにもほとんどやりつくしており、事実上打つ手がないジレンマ状況。「夏季シーズンに何かが起きる」(専門家)というチキンゲームの行方はどうなるのだろうか。

【私の論評】チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えている(゚д゚)!

米国は昨年のイラン核合意から離脱後、対イラン制裁を復活し、「史上最強」レベルに高めてきました。

主要産業の石油部門などへの制裁効果は大きいとされていますが、対話に向けてイランが譲歩する姿勢は見えません。

トランプ政権は昨年5月の離脱表明後、新たなイラン政策を発表。「ウラン濃縮の完全停止」や「中東地域でのテロ活動支援停止」など12項目を突きつけ、40年近く敵対してきたイランに「完全屈服」を求めました。

米国が特に標的としたのがイラン革命防衛隊です。最高指導部直属で、傘下企業は国内の通信関連市場をほぼ独占し、石油化学で3分の1、金融で15~20%のシェアを有するとされます。核・ミサイル開発やテロ支援の資金源とみて、外国の国家機関の一部として初めて「テロ組織」に指定しました。

イラン革命防衛隊の本質は中国人民解放軍と同じく「武装商社」である

石油部門などに対しては昨年11月に制裁を再開。猶予措置も今年5月に撤廃し全面禁輸に踏み切りました。ロイター通信によるとイラン産原油の輸出は昨年5月の日量240万バレルから今年6月に日量30万バレルに減少。同月には、米無人偵察機の撃墜など「敵意ある行為に最終的な責任がある」として最高指導者ハメネイ師を制裁対象に追加しています。

こうした米国の強硬姿勢を中国外務省の耿爽(こうそう)報道官は8日の記者会見で「危機の根源だ」と批判。イランが核合意の規定を超える濃縮度のウラン製造に着手すると表明したことに対して「遺憾」の意を表明しました。

ブログ冒頭の記事では、イランと米国のチキンレースが始まったとしていますが、果たしてそうでしょうか。イランによる制裁破りで、米国はいつでもイランを金融制裁の対象に出来ます。

一般にはあまり知られていないですが、貿易に代表される国際取引の多くは米国の通貨であるドルを介して行われています。そのため、国際取引の多くはドルを使わないと成立せず、従って国際取引の多くは米国政府やFRB(連邦準備制度)の監視を免れません。

そして米国政府やFRBは、「ドル利用禁止」等の経済制裁を通じて「望ましくない取引」を止めることができます。以下、現行の国際決済システムを概観し、米国政府やFRBの国際取引における影響力を確認します。


国債決済におけるドルを中心とするハブ構造

上図は貿易など国際決済の様子を簡略化した概念図です。ごく一般的な国際決済の例を挙げます。例えばロシアのケチャップ会社がトルコの農業企業からトマトを輸入するとしよます。

ロシアのケチャップ会社からトルコの農業企業への支払いがドルで決済される場合、代金はルーブルからドルに交換された後、ロシアのケチャップ会社の取引金融機関からトルコの農業企業の取引金融機関へと支払われます(その後、トルコの農業企業がドルをリラに交換して受け取る場合もあります)。

その際、国際資金決済には「カバー」と言われる仕組みがあり、決済を行なう金融機関どうしが通常は決済通貨の母国(ドルの場合、米国)にある金融機関に有する口座を介して決済資金の付け替えが行われています。

すなわちドル決済の場合、「ロシアのケチャップ会社の取引金融機関が在米金融機関に持つ口座」から「トルコの農業企業の取引金融機関が在米金融機関に持つ口座」に支払われることになります。トルコ・ロシア間の取引でありながら、決済は在米金融機関の間で行われているのです。

読者の中には「なぜルーブルを(ドルを介さず)直接リラに交換しないのか」といった疑問をもたれる方もいるでしょう。しかしルーブルからリラへの直接交換は、「ルーブル⇒ドル⇒リラ」という間接交換と比較した場合、容易ではないのです。

これは通貨に対する需給の問題です。「ルーブル⇒リラ」という直接交換が成立するためには、その反対取引となる「リラ⇒ルーブル」取引も必要となります。つまり、「ルーブル⇒リラ」あるいは「リラ⇒ルーブル」の取引が成立するためには、双方向の取引が常時相当の規模で行われているような、厚みのある「リラ・ルーブル間の外国為替取引市場」が必要なのです。そしてそのような市場が存在しない場合、上図で示したように、リラとルーブルはドルを介して決済されることになります

このように多くの国際決済は実は「ドルを介して」行われています。そして多くの場合、ドルを介した取引のほうが、マイナー通貨間の直接交換よりも、手数料が少なく済む場合が多いです。なぜならドルが絡む外国為替市場では相当額の取引が行われているため、「ドル以外の通貨⇒ドル」「ドル⇒ドル以外の通貨」2つの取引の手数料を合わせても直接交換した際の手数料を下回るからです。このような手数料の安さも「ドルを介した国際決済」の優位性のひとつです。

そして政治的に重要なのは、この「ドルを介した国際決済」というのが、上図に示したとおり米国内の決済システムを通じて行われていることです。米国政府やFRBは、米国内の銀行・金融機関の取引を厳しく管理・監督しています。従って、「ドルを介した国際決済」は米国内の決済システムを通じて全て米国政府やFRBの知るところとなっています。

そして米国政府やFRBが望ましくないと判断した取引は、「ドル利用禁止」といった手段を使って差し止められることになります。つまり「ドル利用禁止」とは事実上「貿易禁止」と同じ意味を持つのです。

このように、「ドルを介した国際決済」という制度を通じて、米国政府やFRBは世界全体の取引を監視し、必要に応じて望ましくない取引を止める権力を有しています。尚、米国の財務省には金融犯罪を担当する次官(Under Secretary of the Treasury for Terrorism and Financial Intelligence=テロリズム金融犯罪情報分析担当次官)が存在しますが、対ロ制裁でよく名前が挙がるOFAC(米国財務省外国資産管理室)は正にこの次官が管轄しています。

以上、「ドル利用禁止」が持つ意味の大きさを説明しました。一方、最近は中国経済の台頭、米国経済の停滞、米国による経済制裁の多用を受けて、いわゆる「ドル離れ」が進むといった論調が多くみられます。

確かにドル決済の強みである市場の厚みは米国経済の大きさによるもので、米国経済が衰退すればこの相対的優位は長期的には揺らぐかもしれないです。しかし、ドル決済を支えているのは市場の厚みだけでなく、ドルを決済する米国内決済システムの安定性や利便性、透明性による部分も大きいです。このように一定の厚み・安定性・利便性・透明性を併せ持つ市場が、米国以外に新たに出現するとは中期的には考えにくいです。

実際、IMFが1969年に国際準備資産としてSDR(Special Drawing Rights:特別引出権)を創設して50年近く経過しますが、決済手段として使えないSDRの普及は極めて限定的です。米国経済そのものの先行きは別にして、ドル決済の優位性と、そこから得られる情報を通じた米国経済制裁の優位性は、当面揺るがないと考えるのが自然です。

このままイランが制裁破りをすれば、米国は武力行使の以前の段階で、種々の金融制裁を実施し、さらに最終的には米国の「ドル使用禁止」という切り札により、イランが崩壊して終わることになります。

これは、中国、北朝鮮とて同じことです。ドル決済ができなければ、お手上げになります。古代ですら、イランは海外との取引をしていたはずです。そのイランが、現代では海外と取引がほとんどできなくなれば、古代以前の石器時代に戻るしかなくなります。勝負は最初から決まっています。

古代からのイランの輸出品「ペルシャ絨毯」

ただし、米国が一足飛びにイランに対して本格的な金融制裁をしてしまえば、イラン側も必死になり、それこそ破れかぶれで、テロ攻撃、イスラエル攻撃などを実施することも考えられます。だから、米国としてはそれをする前の様子見をしているというところでしょう。イランはイランで、どこまで制裁破りをすれば、米国がどのような挙動に出るのか見極めるために、いろいろ実施しているというところでしょう。

現状の制裁でも、時間が経てば、イランはかなり疲弊します。そこで、最後の手段として本格的金融制裁をするかしないかを決定するでしょう。これは、中国に対しても全く同じです。チキンゲームの最終段階は米イラン双方とも最初から見えているのです。

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2018年10月13日土曜日

【田村秀男のお金は知っている】相次ぐ謎の要人拘束は習主席の悪あがき? 米との貿易戦争で窮地に追い込まれた中国―【私の論評】要人拘束でドルを吐き出させるも限界!金融戦争では中国に微塵も勝ち目なし(゚д゚)!

【田村秀男のお金は知っている】相次ぐ謎の要人拘束は習主席の悪あがき? 米との貿易戦争で窮地に追い込まれた中国

范氷氷(ファン・ビンビン) 写真はブログ管理人挿入 以下同じ

 中国では要人の行方不明、拘束、さらには引退劇が相次いでいる。謎だらけのようだが、拙論は米中貿易戦争で追い込まれた習近平政権の悪あがきだとみる。

 ここ数カ月間で行方をくらましていた多くの要人のうち、何人かの消息が最近判明した。注目度ナンバーワンが、人気女優の范氷氷(ファン・ビンビン)氏(37)で、今月3日、脱税などの罪を認め、追徴金など8億8300万元(約146億円)を支払うことで赦免された。

 中国のネット情報によれば、彼女は北京市内などに保有する約40軒の超豪華マンションを売却して支払いに充当する。「カネで刑務所行きを免れるとは許せない」との批判がネットで渦巻いている。

 中国政府は7日、国際刑事警察機構(ICPO、インターポール)の孟宏偉総裁の身柄を拘束していると発表した。中国の公安省(警察)次官でもある孟氏は、ICPO本部があるフランスのリヨンから中国に向けて9月25日に出発した後、行方不明となっていた(10月8日付の英BBCニュースから)。

孟宏偉氏

 フランス・リヨンに本部のあるICPOのトップを拘束するという異常ぶりに、世界があぜんとしているが、習政権にはそんな国際的反響などに構っていられない事情がある。

 孟氏は隠然とした影響力を持つ江沢民元党総書記・国家主席派に属するといわれる。習氏が追及する党長老たちの巨額資金の対外持ち出しに関与していると疑われたのだろう。

 9月10日頃には、ネット・ビジネスで大規模な流通革命を起こした中国を代表する民営企業、アリババ集団の馬雲(ジャック・マー)氏が来年9月に会長を退任するという衝撃的なニュースが世界を駆け巡った。巨万の富を築いた本人は後継者も指名し、あとは大学教授として後進の育成にあたると言い、もっともらしいが、真に受けてはいけない。馬氏もまた、巨額の金融資産を海外でも築き上げている。

Forbes氏の表紙を飾った馬雲氏
 
 女優の范氏の資産も中国国内の超豪華マンションだけというはずはない。海外に莫大(ばくだい)な資産を配置しているに違いない。

 范氏、馬氏に限らず、中国の大富豪、実力者たちがよく使う資産逃避ルートは必ずといってよいほど、香港経由である。香港こそはICPOによるマネーロンダリング(資金洗浄)の最大の監視ポイントである。孟氏がその職権を利用して、要人たちの資金逃れを手助けしていたと習政権が疑っているかもしれない。このシナリオからすれば、孟氏を拘束する目的はただ一つ、中国からの資金逃避ルートを暴き、遮断することだろう。

 習政権はトランプ米政権による貿易制裁を受け、苦境にさらされている。株価の急落に歯止めがかからないばかりではない。制裁関税に伴う輸出競争力減を補うために人民元安が不可避だが、資本逃避が加速する。それを止める最後の手段は何か。答えは上記の「事件」にあるはずだ。(産経新聞特別記者・田村秀男)

【私の論評】要人拘束でドルを吐き出させるも限界!金融戦争では中国に微塵も勝ち目なし(゚д゚)!

米中貿易戦争悪化に伴い人民元相場が急落しました。その原因はキャピタルフライトであると予想され、これに対応する形で中国当局は国有銀行に通貨防衛のための為替介入をさせました。

「貿易戦争悪化」→「中国の輸出の冷え込み」→「企業業績悪化」→「株価下落→海外投資家の離脱」→「人民元売りドル買い」という負の連鎖が起きているわけです。

また、これに連動する形での国内勢の動きもあるのでしょう。中国政府は2015年の中国株式バブル崩壊以降、外貨規制を強化し、国内からのドルの持ち出しを厳しく規制しました。

個人の両替規制を年間5万元(83万円程度)に制限し、破ったものに対して制裁を課すようにしました。企業に対しても、基本届け出制にして、500万ドル以上の取引に関しては、より厳しい審査を課すことにしました。

これにより、一旦は収まったかに見えた人民元に対する不安が、再び市場を襲っているのです。中国の対外債務は1兆7,106億ドル(2017年末)、それに対して外貨準備高が3兆1106億ドル(2018年5月末)。

外貨準備とは、自国通貨売りなどに備え、外貨が不足したときに使う保険のようなもので、これがなくなると、通貨危機が発生します。そのため、対外債務に合わせた額が必要とされます。中国の場合、表面的な数字だけを見れば、対外債務の2倍近い外貨準備があるので、全く問題がないように見えます。

ところが、実は中国の場合、外貨準備の質がわからず、実際に使える額が全く見えないのです。日本の場合、外貨準備のほぼすべてが米国債で構成され、保有者は政府と日銀であるため、全額を為替介入などに利用することができます。

それに対して、中国の場合、米国債は1,2兆ドル程度しかなく、国有銀行保有分が含まれています。基本的に、外貨準備というのは外貨をいくら持っているかであり、それが借金であろうとも外貨である限り、外貨準備にカウントされます。中国の場合は、国有銀行保有分の多くが海外からの借り入れが原資であると思われ、信用不安の際には一気に失われる可能性があります。

実は、下のグラフご覧いただくと、おわかりになるように、中国の外貨準備の減少は2017年初頭に底を打っています。しかし、外貨準備のトレンドは2014年後半以降は下向きであり、対外負債は増加し続けています。


対外負債は2017年9月時点で外貨準備高の1.6倍、そうして対外負債の一部が外貨準備高に流用されているのです。

つまり、中国という国は外部からの借金なしには(対外負債を増加させなければ)、習近平の目論見どおりに国を回すことができない状況になっていました。

ちなみに、中国の対外債務1兆7106億ドルの内、1兆ドル程度が短期の債務とされており、一気に返さなくてはいけなくなる可能性もあるのです。そして、中国の外貨準備の内、米国債は1兆2000億ドル程度(米国財務省)しかなく、ドルだけで見ればその差額は2000億ドル程度しかないのです。実際には他国資産をドルに換えることができるので、それ以上の規模になるのですが、その中身が全くわからないのです。

そして、最近の通貨防衛の介入も非常にイレギュラーな形で行われました。それは中央銀行ではなく、国有銀行がNDF市場(ドル建てデリバティブ)でドル先物を買い、ほぼ同額を現物市場に流す形で行われたのです。

これは中央銀行が自由に使える外貨準備を持っていないことの傍証であるといえます。そして、これを続ける限り、外貨準備が失われ続け、通貨危機のリスクは上がってゆくことになります。

為替介入でも、自国通貨売り外貨買いの介入(通貨安)であれば、自国通貨は自由に手に入るため、何の問題もないですが、通貨防衛のための介入は、他国の通貨を必要とするため限界があります。

人民元とドルの場合は、上の円を元とみたてて理解してください

さらに、為替介入で自国通貨高をするにしても、自国内で自国通貨を際限なしに多くすれば、インフレになるので、いつまでも続けることはできません。そのため、通貨戦争なる概念は本当は虚構です。いくら自国の通過防衛をしたとしても、それでハイパーインフレにでもなってしまえば、本末転倒です。

そして、中国がこの状況から抜け出すには、基礎的条件の改善(対米貿易の拡大など)や通貨スワップによる他国の通貨保証が必要になるわけですが、現在の米中の状況からすれば非常に厳しいです。

それ以外の方法としては、人民元を完全に自由化し、為替介入をせず、人民元を温存するという方法がありますが、この場合、人民元は暴落し、外貨建て債務を持つ企業などの破綻と輸入品の高騰によるインフレと国内の混乱が待っているでしょう。

しかし、国が破たんするよりはその方が痛みは少ないのでしょう。米中貿易戦争、次のステージは金融戦争であり、これは米国が圧倒的に有利な戦いです。

このような状況ですから、習近平としては現在国内にあるドルは一銭たりとも海外に逃避させたくはないですし、海外に逃避したドルも一銭でも自分たちの手元に呼び返したいのです。

だからこそ、ドルを海外に逃避させた人物やさせそうな人物はすぐにでも身柄を拘束して、ドルを吐き出させて自分たち中共のものにするという悪あがきにでた のです。今後も、要人の身柄拘束は続くでしょう。ただし、それにも限界はあります。

これが、基軸通貨国であれば、金がなくなれば、お金を刷り増せば良いだけの話ですが、中国は、米国のお金ドルを勝手に刷り増すことはできないです。為替介入や、一対一路などの海外でのプロジェクトを実行するためにはドルは必要不可欠です。

それに、国際的な元の信用は、中国が米国債権やドルそのものを大量に抱えていたから、創造されてきたのであって、ドルなし中国の人民元は、このままだと紙切れになるおそれもあります。

この状況では、中国がいくら頑張ったとしても、米国には金融戦争では勝つことはできないことは最初からわかりきっています。巷では貿易戦争で騒いでいますが、貿易戦争自体は米中にとって、あまり悪影響はなく、中国が米国に屈するにはいたらないでしょう。

ただし、金融戦争になれば話が違ってきます。ドルを自分で必要なだけ刷り増すことができるし米国は世界の金融を握っているといっても過言ではありません。米国のほうが圧倒的に有利です。中国は屈する以外に道はありません。

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