2018年9月25日火曜日

トランプ大統領の“切り札”か…中国、北朝鮮の「隠し資産」丸裸 米国、世界の“制金権”握る「無血戦争」のシナリオとは? ―【私の論評】米対中国貿易戦争は単なる警告であり、前哨戦に過ぎない!本命は本格的な金融制裁(゚д゚)!

トランプ大統領の“切り札”か…中国、北朝鮮の「隠し資産」丸裸 米国、世界の“制金権”握る「無血戦争」のシナリオとは? 

国際投資アナリスト大原浩氏

 貿易で中国の習近平国家主席と、非核化で北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と対峙(たいじ)するトランプ米大統領は、独裁国家の権力者がひれ伏す切り札を握っている-。こう指摘するのは金融市場に詳しい国際投資アナリストの大原浩氏だ。連邦捜査局(FBI)や中央情報局(CIA)の監視網を背景にした米国の「金融支配」により、独裁者の隠し資産は丸裸にされるという。「無血戦争」のシナリオとは-。

 相変わらず米中貿易戦争が話題になっているが、その議論の中で抜け落ちているのが「貿易戦争」は本当の殺し合いをする戦争の一部であるということである。

 現在、米国の徴兵制は制度そのものは存続しているが、議員の息子が徴兵され、ベトナム反戦運動が激化したこともあって停止している。

 その米国が、自国の若者の血を大量に流す戦争を長期間続行するのは、世論対策も含めて簡単ではない問題である。北朝鮮や中国などの独裁国家は、そうした事情を見透かしているフシがある。

 しかし米国は、どのような国も太刀打ちできない最新兵器に裏打ちされた強大な軍事力だけではなく、血を流さない戦争=「無血戦争」においても圧倒的な強さを持っている。

 いわゆる購買力の高い「消費者」の立場から「売り手」である中国を締め上げる「貿易戦争」もその一つだし、本当の戦争で言えば「海上封鎖」に相当するような「経済制裁」も、ボディーブローのようにじわじわ効いてくる効果的な戦略だといえる。

中国への攻勢を強めるトランプ大統領

 しかし、「無血戦争」における米国最大の武器は「金融」だ。世界の資金の流れを支配しているのは米国であり、戦争用語の「制空権」ならぬ「制金権」を米国が握っているというわけだ。

 例えば、経済制裁の一環として、北朝鮮やイランの高官の口座を凍結したというようなニュースを聞くとき、「どうやって口座を調べたのだろう」という疑問を持たないだろうか?

 このような人物が本名で海外に口座を開くとは考えにくく、当然偽名やトンネル会社などを使用する。しかし、そのような偽装をしても、FBIやCIAは、口座間の資金の流れを解析して、本当の口座の持ち主をすぐに特定できる。

 この基本技術は、筆者が執行パートナーを務めるシンクタンク「人間経済科学研究所」の有地浩・代表パートナーが30年ほど前にFBIで研修を受けたときにはすでに実用化されていた。

 その後、テロ対策、マネー・ロンダリング対策で銀行口座開設や送金の際の本人確認が非常に厳しくなったのは読者もよくご存じだと思うが、これは米国の指示によるものだ。日本だけではなく世界的な現象なのである。

 少なくとも米国の同盟国・親密国においては、どのような偽装をしても米国の監視の目からは逃れられないということである。以前スイスのプライベートバンクの匿名性が攻撃され、口座情報が丸裸にされたのも、この戦略と関係がある。

 そして、北朝鮮や中国など、米国と敵対している国々のほとんどが、汚職で蓄財した個人資産を自国に保管しておくには適さない。いつ国家が転覆するかわからないためで、米国やその同盟国・親密国の口座に保管をするしかないというわけだ。

 米国と敵対する国々の指導者の目的は、国民の幸福ではなく、個人の蓄財と権力の拡大であるから、彼らの(海外口座の)個人資産を締め上げれば簡単に米国にひれ伏す。

習近平国家主席、金正恩氏(右から)は全面降伏するのか

 孫子は「戦わずして勝つ」ことを最良の戦略としているが、まさに金融を中心とした「無血戦争」で、連勝を続けているトランプ氏は、そういう意味では歴代まれに見る策士の才能を持つ、もしくは優秀な策士のブレーンを持つ大統領なのかもしれない。

 そして、中間選挙でのトランプ氏の行く末がどうなろうと、長年準備されてきた「対中無血戦争」は、中国が全面降伏するまで延々と続くだろう。

 ■大原浩(おおはら・ひろし) 人間経済科学研究所執行パートナーで国際投資アナリスト。仏クレディ・リヨネ銀行などで金融の現場に携わる。夕刊フジで「バフェットの次を行く投資術」(木曜掲載)を連載中。

【私の論評】米対中国貿易戦争は単なる警告であり、前哨戦に過ぎない!本命は本格的な金融制裁(゚д゚)!

米国では、ドラゴンスレイヤー(対中国強硬派)ですら、中国と軍事衝突するのは現実的ではないとしています。となると、米国はこれからも、さらに貿易戦争を拡大していくことになります。実際、後もう少しで拡大できなくなる程度に拡大しています。

ただし、貿易戦争は米国にとっては、景気減速を招くこともめったにないです。米国の1930年の悪名高いスムート・ホーリー法による高い関税でさえ、大恐慌にせいぜい少し影響した程度です。中国も打撃を受けますが、それで現在の中共(中国という国という意味ではなく中国共産党という意味)が崩壊するほどのものにはならないことでしょう。


一方、国際的な金融混乱が経済への下押し圧力を強めた例には事欠かないです。大恐慌をはじめ、約10年前のリーマン・ブラザーズ破綻に至るまでそうです。

こうした危機は通常、民間セクターの暴走(リスクの高い国家や住宅購入者への過剰な融資など)を発端としています。ところが、触媒の役目を果たすのはどこかの政府の政策であることが多いです。

フランス政府による金の備蓄が大恐慌につながったたほか、米連邦準備制度理事会(FRB)のポール・ボルカー議長(当時)の徹底したインフレ抑制策が1980年代の中南米債務危機をもたらした例などがあります。

米政府はかねて、外国の危機を抑えることは米国の長期的な国益になるとみなしてきました。1982年と1995年にはメキシコに支援の手を差し伸べ、1997年にはアジア通貨危機を封じ込めるために国際通貨基金(IMF)と協力しました。2008年には住宅ローンによる金融危機の打撃を受けた国々の銀行を下支えするため、FRBが各国の中央銀行を支援しました。

米国が故意に経済的苦痛を与えるとき、それは戦略地政学的な理由によるのが普通です。そして可能な限り、同盟各国と協調して行動します。

最近では、ドル中心の銀行システムから北朝鮮とイランを締め出すことにより、両国に大きな打撃を与えています。ロシアによるウクライナ侵攻や米選挙への介入、英国在住のロシア元スパイとその娘の毒殺未遂などを受け、米欧が課した経済制裁はロシア経済に大きな混乱をもたらしています。

ここまで大きな制裁でなくても、米国は民間銀行にさえ金融制裁を課することがあります。マカオのバンコ・デルタ・アジア(匯業銀行)という銀行は、2005年9月、北朝鮮の資金洗浄に関与していることが発覚し、米国との送金契約が消滅、破綻危機に陥り国有化されました。

バンコ・デルタ・アジアのアジア本社

また、フランス最大の銀行であるBNPパリバは、2014年6月米国の制裁対象国との取引を理由に、1兆円近い制裁金支払いと為替関連取引の1年間の禁止を命じられ、大打撃を受けました。

米国にとっては、以前から金融は他国に対して制裁をするときにかなり有力でしかも手慣れたツールなのです。

超大国といわれるアメリカの一番の強さは、金融支配にあります。現在の世界の金融体制は、ブレトン・ウッズ体制に端を発します。これは、第二次世界大戦末期の1944年にアメリカのブレトン・ウッズで連合国通貨金融会議が開かれ、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)の設立が決定されたものです。

当時、世界の金の80%近くがアメリカに集中しており、アメリカは膨大な金保有国でした。その金と交換できるドルを基軸通貨とし、他国の通貨価値をドルと連動させるという仕組みで、金・ドル本位制ともいわれます。

その後のベトナム戦争で、アメリカは戦費調達のために膨大な国債を発行し、戦争後は巨額の財政赤字に苦しみました。そして71年、当時のリチャード・ニクソン大統領によって金とドルの兌換停止が宣言され、ブレトン・ウッズ体制は終わりを告げました。いわゆるニクソン・ショックです。しかし、その後も世界の金融市場におけるアメリカの支配体制は続いています。

今も世界の債権の約60%はドル建てであり、当たり前ですが、ドルで借りたものはドルで返さなければならないです。つまり、各国の金融機関にとって、ドルが手に入らなくなるということは破綻を意味するわけです。

ドル支配体制においてドルが手に入らなければ、石油や天然ガスなど資源取引の決済もできなくなります。国によっては、国家破綻の危機に直面することにもなりかねないです。

世界各国、特に先進国の中で、食料や資源を100%自給できている国は少ないです。そうして、中国の食料自給率は85%以下といわれており、アメリカから穀物を買えない事態になれば、13億の人民は飢餓に苦しむことになります。

だからこそ、中国はドル支配体制からの脱却を目指し、人民元の国際化を進めていました。IMFの特別引出権(SDR)の構成通貨入りも、そういった流れの中で推し進められたものだ。今年10月以降、人民元はSDRの5番目の構成通貨として採用される見込みであることが報道されたが、仮にSDR入りしても、ドル決済を禁じられてしまえば中国経済は破綻に追い込まれることになる。

資源を買うことができなければ、軍艦を出動させたり、戦闘機を離陸させることもできなくなり、これまでの「中国は今後も発展していく」という幻想は根底から覆されることになります。そして、その段階においても対立が融和しない場合、アメリカは金融制裁をさらに強めることになるでしょう。

ソ連が崩壊した直後のロシアでは、経済が低迷し哨戒機を飛ばす燃料にも事欠いた時期があった
写真はロシアの対潜哨戒機ツポレフ142M3

いわゆるバブルマネーによって、中国経済は本来の実力以上に大きく見られていますが、バブルが崩壊し、同時にアメリカが前述のような金融制裁を強めたら、どうなるでしょうか。当然、一気にこれまでの体制が瓦解し、中国は奈落の底に落ちることになります。

そうした構造をよくわかっているため、中国はアメリカのドル支配から抜け出そうとしていたわけです。アジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(BRICS銀行)の創設を主導し、さまざまな二国間投資を推進することによって、アメリカに頼らない体制をつくりたがっていました。

その動きを必死に妨害しているのが日米であり、同時にインドやASEAN(東南アジア諸国連合)の各国も日米に連動するかたちで自国の権益を守ろうとしています。欧州の国々も中国に対する警戒心を強めています。

そういった世界の流れをみると、貿易戦争では米中対立には決着はつかないでしょうが、次の段階では金融戦争に入り、この段階では中国に軍配が上がる可能性はきわめて低いと言わざるを得ません。

その時に中国に残されている道は2つだけです。1つ目は、知的財産権を尊重する体制を整えることです。それは、口で言うのは容易ですが、実際はそんなに簡単なことではありません。

まずは、中国は民主化、政治と経済の分離、法治国家化を実現するために、徹底した構造改革を実行しなければなりません。これが実現できなければ、知的財産権など尊重できません。しかしこれを実行すれば、中共は統治の正当性を失い崩壊することになります。

もう1つの道は、厳しい金融制裁を課せられても、そのまま今の体制を保つことです。そうなると、経済はかなり弱体化し、現在のロシアなみ(韓国と同等の東京都のGDPより若干少ない程度)になってしまうことでしょう。

そうなると、中国は他国に対する影響力を失い、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家になり果てることになります。

これは、トランプ政権のみならず、ポストトランプでも米国議会が主導して実行され続けるでしょう。

米国の対中国貿易戦争は単なる中国に対する警告であり、前哨戦に過ぎないです。本命は本格的な金融制裁なのです。

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2018年9月24日月曜日

モルディブ大統領選で野党候補勝利、親中の現職敗れる 「中国依存」転換へ―【私の論評】モルディブでも意味不明な投資をする中国に未来はない(゚д゚)!


野党モルディブ民主党(MDP)のソリ候補

インド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブの大統領選で、選挙管理委員会は24日、インドなどとのバランス外交を目指す野党モルディブ民主党(MDP)のソリ候補(54)が過半数を獲得したと明らかにした。親中派の現職ヤミーン大統領(59)は敗れた。アジアと中東を結ぶ海上交通路(シーレーン)の要衝、モルディブで進んだ中国依存政策が転換されることになる。

 選管によると、ソリ氏は有効投票数の58.3%を獲得した。ソリ氏は「人々は変化と平和、正義を求めた」と、勝利を宣言した。

 ヤミーン氏は2013年の就任後、中国から巨大経済圏構想「一帯一路」を通じた支援を受け、首都マレに2億ドル(約225億円)を投じた「中国モルディブ友好大橋」を建設するなどインフラ整備を次々と推進。野党幹部や最高裁判事を拘束する強権政治も展開し、国内外から反発を招いていた。

 ソリ氏は、中国に依存する外交政策の見直しや民主的な政治を訴え、支持拡大につなげた。MDPは隣国インドとの連携を重視しており、ソリ新政権は現政権で亀裂が走った対印関係の修復に乗り出す見通しだ。中国支援の事業の見直しも視野に入れるが、着工済みプロジェクトも多く、作業は難航が予想される。

 中国の海洋進出を警戒するインドは選挙結果について「民主主義の勝利」とのコメントを発表。選挙の不正を懸念していた米国も歓迎する声明を発表した。

【私の論評】モルディブでも意味不明な投資をする中国に未来はない(゚д゚)!

ブログ冒頭の記事によると「ソリ候補(54)が過半数を獲得したと明らかにした」としていますが、当選したのかそうでないのか、あるいは当確なのかなにやらはっきりしません。

ニュースサイトMihaaruによると、過半数を獲得したとは、472の投票箱のうち446を開票した段階での暫定結果で、得票率はソリ氏がヤミーン氏を16.6%上回っているそうです。

ヤミーン氏

ソリ氏は首都マレで記者団に対し「国民は変化、平和、公正を求めている。ヤミーン大統領に、国民の意思を受け止め、憲法に従い円滑な権力移行を始めるよう要請する」と述べました。

有権者が投票所で長い列を作ったため、モルディブの選挙管理委員会は投票時間を3時間延長しました。

ヤミーン氏が率いるモルディブ進歩党(PPM)の幹部はロイターに対し、同氏が高い支持を集める地域からの投票結果はまだ公表されていないと述べました。

同氏のメディア担当者はソリ氏の勝利宣言に関するコメントを控えました。

選挙管理委員会は憲法規定に従い、9月30日までに公式結果を発表するとしています。

とはいえ、よほどのことがない限り、ソリ氏の当選は間違いないようです。

米国とインドは平和的に行われた選挙を歓迎すると表明。ソリ氏率いる野党連合が勝利した可能性が高いとしています。

野党幹部によると、少なくとも5人の野党支持者が「有権者に影響を与えた」として拘束され、警察が22日夜に「違法行為を阻止」するため主要野党のオフィスを強制捜索したといいます。

欧州連合(EU)と国連の団体を含む大半の選挙監視団体は、モルディブ政府から選挙監視要請を受けたものの、選挙監視を行えば、不正投票があった場合でもヤミーン氏再選への支持に利用されかねないとして、要請を断りました。

ただ選挙を監視した団体の一つ、トランスペアレンシー・モルディブは、投票は当初円滑に行われ、ソリ氏が勝利する見通しだとし、「すべての当事者に平和的な権力移行を促す環境の維持を求める」としました。

モルディブを巡っては、従来のパートナー国であるインドと、ヤミーン氏のインフラ関連の取り組みを支援してきた中国との間で対立がみられています。西側諸国では中国の影響力拡大への懸念が広がりました。

ヤミーン氏は2月、同国初の民主選挙で選ばれたナシード元大統領ら野党関係者9人に対する有罪判決を無効とする最高裁の判断を受け入れず、非常事態宣言を発令。政治的な混乱が続いています。

モルディブの状況については、以前もこのブログに掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
「中国が土地を収奪している」 モルディブの野党指導者、対中批判強める 中国の手法は「債務のわな」―【私の論評】アジア諸国を「一帯一路」という妄想の犠牲にするな(゚д゚)!
記者会見する野党指導者のモハメド・ナシード前大統領=1月22日、スリランカのコロンボ

この記事は今年の1月のものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、以下に一部を引用します。
 政治的混乱が続くインド洋の島嶼(とうしょ)国モルディブで、野党指導者が「中国によって土地が収奪されている」と批判を強めている。不透明な土地取引が行われ、投資には高額の金利が課されているとの主張だ。中国に傾斜するヤミーン大統領を批判する思惑もあるが、強引な中国の手法に警戒感を示した格好だ。 
野党指導者のナシード元大統領は、AP通信やインド英字紙タイムズ・オブ・インディアなどとのインタビューで、「中国のモルディブでのプロジェクトは土地の収奪だ」などと主張している。
政権側を批判するスローガンを叫ぶ野党の支持者たち=4日、モルディブの首都マレ
 ナシード氏によると、中国はモルディブで既に17の島々の権利を取得しているが、どれも手続きは不透明だという。中国は取得した島に約4千万ドル(約43億円)を投資すると約束しているが、ナシード氏側は「高金利であり、いずれモルディブ側は返済に窮する」と主張している。 
 野党側が念頭に置くのが、スリランカ南部ハンバントタ港の事例だ。中国の出資で港湾設備が建設されたが、スリランカは巨額の金利返済に苦しみ、最終的に昨年末に99年間の長期リースの形で中国側に明け渡すことになった。援助を受けていたはずが奪い取られた格好だ。ナシード氏は中国の手法は「債務のわなだ」と主張。憲法を改正して、外国人への土地販売を容認したヤミーン氏についても批判している。
政権側を批判するスローガンを叫ぶ野党の支持者たち=4日、モルディブの首都マレ
 最高裁の政治犯釈放命令に端を発したモルディブの混乱をめぐっては、ヤミーン氏は5日に発令した15日間の非常事態宣言をさらに30日間延長することを決定。ヤミーン氏側は、中国に特使を派遣して支持を訴えており、ここでも両国の蜜月の関係がうかがえる。一方、ナシード氏側はインドに援助を求めており、与野党の対立は深まる一方だ。

・・・・・・・〈一部略〉・・・・・・

しかし、ここの土地を収奪する中国にはそれなりの意図があります。それは、無論一帯一路と多いに関係しています。

「一帯一路」とは、(1)支那西部から中央アジアを経由してヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、(2)支那沿岸部から東南アジア、インド、アラビア半島の沿岸部、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)の二つの地域で、交通インフラ整備、貿易促進、資金の往来を促進していく構想です。夢のような構想ですが、中国は「本気」であり、具体的な目標を高速鉄道の建設に置いています。 
実際に、中国浙江省義烏と英ロンドンを結ぶ国際定期貨物列車の運行が、始まっています。支那が掲げる現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一環で、支メディアによると、両国間の直通貨物列車は初めて。支那は欧州との経済関係強化のため、中央アジアを通じた鉄道物流の充実を図っています。 
 中国は「一対一路」で「経済スーパーパワー外交」を展開するつもりのようです。中国の成長果実を周辺国にもシェアすることによって、周辺国との経済圏を構築し、善隣関係を強めることがねらいですが、同時に、過剰投資に悩む国内産業の新たな市場開拓、対外投資の拡大、約4兆ドルの外貨準備の運用多角化といった中国自身の経済的な思惑も込められています。
「一帯一路」を言い出したのは習近平・国家主席であり、彼の権力確立に伴って、この構想にも勢いをつけようとしています。私自身は、この構想は最初から失敗すると思っています。
なぜなら、世界航路や陸路などのインフラ整備はもうすでに出来上がっていて、われわれはそのインフラによってすでに貿易を行っています。そうして、このインフラは各国政府や民間機企業が、長年にわたり競争をしつつ切磋琢磨してつくりあげてきたものであり、さらに現在でも改良・改善が加えられています。 
今更中国が後から割って入って、最初から計画してつくりだすにしても、現在までにつくりあげられてきたインフラにまさるものを中国が中心になってつくりあげることはほとんど不可能だからです。 
中国としては、過去の国内のインフラ整備による経済成長が忘れることができず、その夢をもう一度海外で実現したいのでしょうが、国内において、共産党中央政府の鶴の一声で、何でも自由にできましたが、外国ではそういうわけにはいきません。
そもそも、一帯一路は、中国の余剰労働力を利用して、外貨獲得をしようというものであり、これがとてもうまくいくとは思えないです。

というのも、こういうブロジェクトはある程度国が成熟し経済成長も数%のような国が、経済成長率が十数%以上のような国に投資すると収益率がかなり高くなります。しかし、中国のように成長率の高い国が投資したとしても、収益率はかなり低くなります。

ちなみにモルディブの経済成長をみてみます。以下のグラフをご覧ください。


過去においては、26%と驚異的な成長をした年もあるようですが、最近ではそうでもないようです。2017年は4.8%、2018年は 5.0%(予測)です。

中国のGDPはあてになりませんが、一応は、2017年は6.9%、2018年は 6.56%(予測)です。中国のGDPなどの経済統計はデタラメだといわれていますが、仮にこれが本当だとすれば、中国によるモルディブ投資はかなり収益率が低いものであると言わざるを得ません。

仮に本当の中国成長率は低いとしても、モルディブが有力な投資先であるとは到底いえません。いずれにせよ、収益率は最初から相当低いと言わざるをえないです。

こういう国に、投資して中国企業に受注させ、中国人労働者を送り込んで工事をするという姑息なことをしたとしても、そもそも収益率がかなり低いので、外貨を獲得するなどということできません。

そこで、中国が考えだしたのは、当該国を一対一路で援助をしていたはずが、巨額の借金を抱えさせた上でインフラも奪うという方式です。

こうした手法は「債務のわな」と批判されています。3月にはティラーソン米国務長官(当時)も、一帯一路の参加国が、完成したインフラを中国側に譲渡する事態に対し、「主権の一部を放棄しないで済むよう(事業契約を)注意深く検討すべきだ」と呼び掛けました。

米シンクタンク「世界開発センター」は今年3月、一帯一路参加各国の債務についての調査結果を公表した。返済能力や債務の中国への依存度などについて、IMFのデータなどから検証しています。

債務にリスクがある国とされたのが、ジブチ、キルギス、ラオス、モルディブ、モンゴル、モンテネグロ、タジキスタン、パキスタンの8カ国です。


報告によると、東アフリカのジブチは対外債務が2年間でGDPの50%から85%に増加した。大半の債権を抱えるのは中国です。東南アジアのラオスでは、最大67億ドル(7327億円)に達する鉄道プロジェクトが国のGDPのほぼ半分を占め、債務返済が難しくなる可能性を指摘しました。

中央アジアのタジキスタンでは、IMFと世界銀行が債務について「リスクが高い」と評価しているが、今後もさらなるインフラ投資が行われるといいます。

調査で「最大のリスクを負っている」と指摘されたのが、パキスタンです。一帯一路関連プロジェクトである中国・パキスタン経済回廊(CPEC)に基づいて、インフラ整備が進行中で、中国から約620億ドル(6兆7800億円)の融資が見込まれています。調査は「高い金利が、パキスタンのリスクとなる」と警告しました。

さて、このような中、モルディブ大統領選で野党候補勝利し、親中の現職敗れる 「中国依存」転換されるというのは当然といえば当然です。

しかし、それにしても理解できないのは中国の挙動です。このような最初から儲からないことがわかりきっている投資をして、さらに投資先の国に債務を負わせ、最後にインフラを取り上げるなどのことをするのですが、それで何になるというのでしょう。

たとえば、「中国モルディブ友好大橋」を取り上げたとして、それが何になるというのでしょうか。考えてみてください、そもそも借金を返せないような国のインフラを取り上げて、何になります。

当然のことながら、そこからは富はほとんど生まれません。無論かなり経済成長をしている国であれば、そんなことはないでしょうが、であれば簡単に借金を返すことができるはずです。

巨大な橋を自分のものにしてしまえば、一見儲かったようにもみえますが、その橋ができたことによって、地域が繁栄すれば良いですが、そうでなければ、橋をメンテするのにかえって金がかかるだけになります。

土地でいえば、極端なことをいえば、中国のやり方はあまり高くもない土地に大枚をはたいてインフラを設置し、最終的にインフラをとりあげるというものですが、そもそもあまり高くもない土地に設置したインフラは富を生み出すのでしょうか。もちろん生み出す可能性がある場合もありますが、それは当該地域が急速に経済発展することが前提です。

もし儲かるというのであれば、他の国々も似たようなことをしているはずです。他国どこもやらないようなことを中国は「一帯一路」という美名をつけて、結局他国から富を収奪しようとしてるようですが、とても収奪できそうにもありません。

中国はまともに植民地経営をしたことがないので、その実体を知らないのかもしれません。かつての先進国による植民地経営も実体はほとんど儲かりませんでした、結局金食い虫的な存在になってしまったので、先進国は植民地を手放したのです。

余剰労働力をなんとかしようとしてるのかもしれませんが、それにしてもこんなやり方が長続きするとも思えません。そもそも、中国は自国内に豊富な内需が期待できそうな国ですし多くの先進国はそれに期待していました。

しかし当の中国はその潜在可能性を最大限に活用するでもなく、「一帯一路」で海外に投資をするという摩訶不思議なことをしています。何やら、経済合理性のみを考えても、中国のやり方は意味不明です。こういう意味不明なことをやる国には、未来はないと考えるのが当たり前でしょう。

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2018年9月23日日曜日

【古森義久のあめりかノート】中国の「統一戦線工作」が浮き彫りに―【私の論評】米国ではトランプ大統領が中共の化けの皮を剥がしはじめた!日本もこれに続け(゚д゚)!

【古森義久のあめりかノート】中国の「統一戦線工作」が浮き彫りに

「これまで考えられなかったことが実際に考えられる状態となりました」

最近の米国の中国への政策や態度の変化を評して日系米国人学者のトシ・ヨシハラ氏が語った。米海軍大学教授として長年、米中関係を研究してきた専門家である。そのとおりだと実感した。

写真はブログ管理人挿入 以下同じ

最近のワシントンでは官と民、保守とリベラルを問わず、中国との対決がコンセンサスとなってきた。トランプ政権の強固な立場は昨年末に出た「国家安全保障戦略」で明示された。要するに中国は米国だけでなく米国主導の国際秩序の侵食を目指すから断固、抑えねばならないという骨子である。年来の対中関与政策の逆転だった。

ワシントンではいま中国に関して「統一戦線」という用語が頻繁に語られる。中国共産党の「統一戦線工作部」という意味である。本来、共産党が主敵を倒すために第三の勢力に正体をも隠して浸透し連合組織を作ろうとする工作部門だった。

「習近平政権は米国の対中態度を変えようと統一戦線方式を取り始めました。多様な組織を使い、米国の官民に多方向から働きかけるのです」

米国政府の国務省や国家情報会議で長年、中国問題を担当してきたロバート・サター・ジョージワシントン大学教授が説明した。

ロバート・サター・ジョージワシントン大学教授

そんな統一戦線方式とも呼べる中国側の対米工作の特定部分がワシントンの半官半民のシンクタンク「ウィルソン・センター」から9月上旬に学術研究の報告書として発表された。米国全体の対中姿勢が激変したからこそ堂々と出たような内容だった。

「米国の主要大学は長年、中国政府工作員によって中国に関する教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた」

こんなショッキングな総括だった。1年以上をかけたという調査はコロンビア、ジョージタウン、ハーバードなど全米25の主要大学を対象としていた。アジアや中国関連の学術部門の教職員約180人からの聞き取りが主体だった。結論は以下の要旨だった。

・中国政府の意を受けた在米中国外交官や留学生は事実上の工作員として米国の各大学に圧力をかけ、教科の内容などを変えさせてきた。

・各大学での中国の人権弾圧、台湾、チベット自治区、新(しん)疆(きょう)ウイグル自治区などに関する講義や研究の内容に対してとくに圧力をかけてきた。

・その工作は抗議、威嚇、報復、懐柔など多様で、米側大学への中国との交流打ち切りや個々の学者への中国入国拒否などを武器として使う。

この報告の作成の中心となった若手の女性米国人学者、アナスタシャ・ロイドダムジャノビク氏はこうした工作の結果、米国の大学や学者が中国の反発を恐れて「自己検閲」をすることの危険をとくに強調していた。

こうした実態は実は前から知られてきた。だがそれが公式の調査報告として集大成されて発表されることが、これまでなら考えられなかったのだ。

いまの米国の対中態度の歴史的な変化の反映だといえよう。さて、わが日本でのこのあたりの実情はどうだろうか。(ワシントン駐在客員特派員)

【私の論評】米国ではトランプ大統領が中共の化けの皮を剥がしはじめた!日本もこれに続け(゚д゚)!

トランプ大統領就任後、米国は40年間続けてきた対中宥和(ゆうわ)政策を転換させました。経済が発展すれば中国は民主化するという考え方は誤りであり、逆に米国や他の自由主義諸国が中国共産党の成長に寄与する結果になったと結論付けました。そのためトランプ政権は対中強硬路線を取り、中国共産党政権に対する貿易戦争を開始しました。

米国は知的財産権や産業技術の保護にも力を注ぎ始めました。外国資本による米国企業の買収を安全保障の観点から審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限を強化する法案が近日、議会を通過しましたが、中国共産党を念頭に置いているのは明らかです。

この「外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)」と呼ばれる法案により、米国の安全保障を脅かす可能性のある投資や買収を未然に阻止することが可能となります。

今日、アメリカは中国共産党政権が長年行なってきた統一戦線工作の手法と、それに関わる中国政府組織を暴露しています。これは中国共産党が続けてきた「硝煙のない戦争」に対する反撃であり、中国共産党の真の姿を暴く意味を持ちます。

また、トランプ政権が米国および世界各国を率いて中国共産党政権に対して反撃を開始し、貿易や統一戦線工作などの分野において「硝煙のない戦争」を始めたと言えます。


ブログ冒頭の報告書はその名称を『中国共産党の海外における統一戦線工作』と題するものであり、米国議会の「米中経済安全審査委員会(USCC)」において、8月24日に公表されたものです。

統一戦線工作は世界各国に対する「最も国家転覆的で、最も反民主主義的な浸透工作だ」と指摘しています。そのうえで、「中国共産党は統一戦線工作の範囲を海外まで広げ、外国政府や現地の華人に影響を与えることにより、北京政府に利する結果を得ようとしている」とし、「(中国共産党による統一戦線工作の)目的はアメリカ人を転向させ、アメリカ政府とアメリカ社会の利益に反対するように仕向けることだ」としています。

中国の人権問題に関心を示す他国に対し、中国共産党政権は「内政干渉」のレッテルを貼りつけました。ところがふたを開けてみれば、中国共産党政権は各種統一戦線工作を通して他国に対する内政干渉を行い、他国民を洗脳し民主主義体制と自由主義社会の転覆を目論(もくろ)んでいました。このような中国共産党政権は間違いなく世界最大にして最も陰険な脅威です。

中国共産党の統一戦線工作の特徴として「3つのD」、すなわち偽装(Disguise)・欺瞞(Deceive)・堕落(Deteriorate)が挙げられる。
1. 偽装(Disguise):中国共産党の官僚やスパイは偽装工作に長け、様々な肩書を使い分ける。こうして彼らはうまく他国に浸透し、各業界と関係を構築しパイプを作る。 
スパイ容疑で拘禁されたエドワード・チーリャン・リン米軍少佐

2. 欺瞞(Deceive):関係を構築したのち、中国共産党のスパイらは各国の政治、商業、軍隊、学術界などのキーパーソンを取り込む。名誉や利益、ハニートラップを駆使してキーパーソンを買収もしくはコントロールし、中国共産党にとって有利となるような言論を発表させる。同時に、中国共産党にとって不利となるような言論や政策を阻止させ、共産党にとって好ましくない人物を妨害する。このような工作を行うスパイらは、時には違法行為も厭(いと)わない。 
元FBIスミスは2003年四月、中国系アメリカ人の女性実業家カトリーナ・レアンに
機密資料を渡していたとしてFBIの同僚に逮捕された

3. 堕落(Deteriorate):統一戦線工作の「トロイの木馬」による浸透が奏功した後、スパイらは継続的に様々な不道徳的な手段を活用して買収工作を行い、さらに多くのインフルエンサー(影響者)を取り込む。 
取り込まれた人物らには中国共産党の利益となる言論を広げさせ、中国共産党が当該国で勢力を拡大できるような政策を制定させる。こうしてその国は政治や経済面において中国共産党にバックドアを開き、ますます堕落し、弱体化する。こうして中国共産党はその国における影響力をますます増大させ、ついには支配する目的を達成することができる。


米国の腐りきった歴史学会を語る米歴史学者ジェーソン・モーガン氏

中国共産党が相手国の立法に影響を与えることができない場合でも、世論を操作して市民社会に波風を立てることができます。例えば、中国共産党が社会の基本的価値観と乖離(かいり)した一部の者を扇動し、一般人から嫌悪される過激な手段で争いを起こすことにより、社会の分断を狙います。

または日常的に混乱や衝突を引き起こすことにより、「社会が自由すぎるのではないか」という感情を国民に植え付け、政府の権力増大を支持させます。この手法でも社会の左翼化と国家転覆の目的を果たすことが可能です。

この報告書は、中国共産党が長年アメリカの政治界と学術界に対し浸透工作を行い、アメリカのエリートが中国共産党のために声を発するように仕向けたと指摘しています。

アメリカ前政権の不作為で怠慢な態度と異なり、トランプ政権は中国共産党の「敵をもって敵を制する」作戦を暴露し、アメリカ国民に警鐘を鳴らしました。

中国共産党の脅威は東アジアや激安商品に潜んでいるのではなく、アメリカ社会の隅々まで浸透しているのです。政治界、軍隊、学術界、商業界、教育界など、中国共産党に浸透されていない部分はなく、その手段は極めて卑劣です。


米国内では日本を貶める工作も進めらている。その目的は日米を離反させること

米国では「大先生」と呼ばれた中国関連の学者や専門家が、会話の中で中国共産党統治下の中国を称賛していました。中国の将来はバラ色だと言う彼らは、書籍を出版し共産中国の素晴らしさを宣伝しました。しかし彼らは「中国と中国共産党は別物」であり、「中国国民は中国共産党員と同じではない」という基本中の基本すら理解していないようです。

後でわかったことですが、それらの「大先生」はみな中国国内で何らかの教育活動に従事し、中国政府から利益供与を受け、多くの肩書や賞をもらっていました。

事実、中国共産党の「敵をもって敵を制する」策略の目的は、徐々にアメリカ社会に浸透することであり、アメリカが中国共産党に対し警戒を解くよう仕向けるためです。同時にアメリカ内部で勢力を持つ社会主義者やリベラル派などの左翼勢力と連携し、アメリカを蝕(むしば)みます。そして米国の政権を奪い取り、最終的には完全に左傾化させ、社会主義国とすることが最終目的です。もし米国が社会主義国となれば、万事休すです。

「中国共産党の統一戦線行動は米国に対する重大な挑戦であるにもかかわらず、簡単に説明できる問題ではない。なぜなら中国共産党と中国は分割できないものだと中国共産党が頑なに主張してきたからだ。」

長年、中国共産党は「中国は中国共産党と同一の存在だ」というイメージを意図的に形作ってきましたた。そのため多くの中国人と外国人は「中国と中国共産党は別物である」ということを忘れてしまいました。そのため、中国共産党の統一戦線工作を封じ込めるための政策が、ポリティカル・コレクトの名のもとに「人種差別」「国家蔑視」と批判されてきました。

米国政府はすでにこれを警戒し始めました。今年5月、航空会社の「台湾」表記の問題について、ホワイトハウスの報道官は「中国共産党が」圧力をかけたと非難しました。

今年7月に行われた安全保障フォーラム「アスペン・セキュリティ・フォーラム(ASF)」では、中央情報局(CIA)東アジア部のマイケル・コリンズ氏が中国と中国共産党とを区別すべきだと強調しました。

そうしなければ、中国共産党を批判する言論が「反中国」「反中国人」であると誤解されるからです。「客観的に言えば、私たちは中国や中国国民、中国の発展を脅威とみなしているわけではない」とコリンズ氏は言います。「私たちが心配するのは中国共産党の向かう方向だ。中国共産党が達成しようとしている目標、および彼らが目的達成のためにますます高圧的な手段を用いていることを懸念している」

米国は度々「中国と中国共産党は別物である」と強調してきました。これはトランプ政権が、中国共産党が長年刷り込んできた誤った認識を見破ったことを意味します。中国共産党は長年「中国と中国共産党は同一の存在だ」とする嘘偽りを発信し続け、中国国民を欺き、全世界を騙しました。トランプ政権によってこの化けの皮がいま、はがされつつあります。

正確に言えば、中国共産党は西洋から来た悪霊(共産主義は元々西洋から生まれた思想)のような政権であり、中国伝統文化とは相入れない存在です。中国は中国共産党政権に寄生されたのであり、中国国民は不幸にも中国共産党政権の奴隷となってしまったのです。

米国メデイアが中国に浸透されていることを考えると、
米国メディアのトランプ報道は真に受けることはできない

メディアは中国共産党の統一戦線工作における重要な対象です。報告書によると、オーストラリアとニュージーランドのメディアに対する買収工作が最も進んでおり、オーストラリアの中国語メディアの95%近くは中国共産党政権に買収されています。

ジェームズタウン基金(The Jamestown Foundation)が2001年に行なった調査でも、アメリカでは少なくとも「星島日報」「世界日報」「明報」「僑報」などが中国共産党による直接的・間接的コントロールを受けていることが分かりましたて。

CIAのコリンズ氏もメディア買収に対し懸念を示しました。「私は彼ら(中国共産党)が選挙を操作するのではないかと懸念している。これは政治干渉である。ほかにもメディアに対する干渉、経済に対する干渉などなど。彼らが私たちの思想をも干渉するのではないかという懸念もある」

アメリカのメディアに対する中国共産党の浸透の度合いを調査した研究はまだないですが、トランプ大統領に対するアメリカ左翼メディアの猛烈な攻撃の背後には、中国共産党の姿が見え隠れています。

中国の各種不道徳な行為を暴くトランプ政権

中国共産党は長年外国に対して統一戦線工作を仕掛けてきましたが、中国共産党はこれを決して公にしてきませんでした。いま、米国政府は公式報告書で中国共産党の統一戦線工作を系統的に暴露し、その化けの皮をはがしています。同時にこれは、他国を転覆しようと画策する中国共産党の不道徳な国際戦略に対し、米国が照準を向けたことをも意味します。

過去数十年に渡り、中国共産党は不公平な貿易によって自身の経済規模を拡充してきました。また、非合法的な技術の取得による自身の先端科学産業を発展させてきました。そして非人道的な低賃金・人権無視の戦略を用いて外資企業を誘致しました。

その極みとして、不道徳的な統一戦線工作を通して外国の世論や政策を操り、もって他国の政権や民主主義社会の転覆を目論んだのです。

中国共産党の正体を暴いた同報告書はトランプ政権の大きな実績です。中国共産党の各種不道徳な行為は、トランプ政権によって次々と暴露され始めています。これからも、さらに中国の異形のおぞましい姿が次々に晒されていくと思います。

なお、この『中国共産党の海外における統一戦線工作』に書かれていことは、以前から知られていることです。多くの筋からそのような内容は、多くの人々に知られていました。その一旦は、このブログにも過去にも数多く掲載しています。

とはいいながら、このような内容が、米国議会の「米中経済安全審査委員会(USCC)」において、8月24日に『中国共産党の海外における統一戦線工作』という報告書によって正式に公表されたという事実は大きいです。

これで、中国に対して面と向かって擁護する人は少なくとも米国ではいなくなりました。そうして、これはトランプ大統領ならび米国議会が中共との対立もじさないという並々ならぬ決意を示すものです。

そうして、このような中国の統一戦線工作は無論米国にだけではなく、日本を含む他の先進国にも様々な工作をかけています。

日本も、米国のように中国の化けの皮を剥がし、白日のもとに晒すべきです。

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2018年9月22日土曜日

【日本の解き方】二度あることは三度ある!? 消費増税「スキップ」あるか 改憲とデフレ脱却の切り札に―【私の論評】安倍総理は増税を再延期を公約として参院選になだれ込む(゚д゚)!

【日本の解き方】二度あることは三度ある!? 消費増税「スキップ」あるか 改憲とデフレ脱却の切り札に

総裁選後はじめて官邸に入る安倍総理

自民党総裁選で安倍晋三首相が3選されたが、憲法改正やアベノミクスの今後など、残る首相在任期間中の課題は少なくない。

 憲法改正の手続きは、国会が改正案を示し、最終的には国民が投票で決めるが、まず衆参両院の憲法審査会に国会議員が憲法改正原案を提出するところから始まる。まだ、安倍政権はスタートにも立っていない。

 今回の総裁選を受けて、憲法改正について自民党内での意見集約が進むだろう。安倍首相は国会議員から多くの支持を受けているので、争点はいつ、憲法改正原案を自民党として国会に提出できるかである。

 仮に提出できれば、衆参両院において憲法審査会での可決、本会議において総議員の3分の2以上の可決があってから、憲法改正を国会が発議でき、国民投票にかけられる。国民投票では賛成過半数によって、ようやく憲法改正ができる。

 このように憲法改正では、衆参両院の3分の2と国民投票による過半数という普通の法律にはない高いハードルが待っている。

 安倍政権は、この憲法改正のスケジュールをどう考えているのだろうか。最短でいけば、総裁選後、自民党内で憲法改正原案をもんで来年の通常国会に提出し、衆参3分の2で国民投票案を可決して、その半年後に国民投票というスケジュールだ。来年には改元もあるので、新しい時代に新しい憲法という流れだ。自公は衆参ともに3分の2をとっているので、参院選前に国民投票案を可決しやすいという環境を生かせる。

 しかし、これは公明党がどう出てくるかが問題になる。もし「参院選前にはやめてくれ」となるとスケジュールは崩れ、来年7月の参院選で自公で3分の2を維持しなければ、憲法改正は遠のく。

 となると、来年の通常国会を諦め、参院選で再び勝利を目指していくのか。そのためには、来年10月に予定されている消費増税をぶっ飛ばすのが政治だ。

 もちろん、来年10月の増税はすでに法律があり、準備作業に入っている。財務省は、システム対応が行われているので、来年になってからの消費増税のスキップは社会混乱を招くと主張するはずだ。

 ただし、実務を考えると、来年春に増税スキップを打ち出せばギリギリ間に合うだろう。そうした公約で参院選に突入すればいい、と筆者は考えている。

 これは、アベノミクスの課題対応にもなり、一石二鳥である。というのは、消費増税スキップはデフレ完全脱却の切り札になるからだ。

 来年10月の消費増税の悪影響をなくすためには、バブル景気並みの良い環境と、かなりの規模の減税を含む財政措置が必要だが、消費増税をスキップすればそうした措置も不要で、デフレ完全脱却への近道になる。

 安倍政権は、これまで2回も消費増税をスキップした。二度あることは三度あっても不思議ではない。確かに、安倍首相は来年10月の消費増税を明言しているが、来年7月の参院選の前に「君子豹変す」となっても筆者は驚かない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍総理は増税を再延期を公約として参院選になだれ込む(゚д゚)!

来年の10月に消費税を10%にした場合、経済が相当落ち込むことは想像に難くないです。なにしろ、今度はかなり消費税が計算しやすくなります。1000円のものを購入すれば、消費税は100円です。1万円なら千円です。10万円なら1万円です。かなり計算が苦手の人でも、すぐに正確に計算できます。これは、かなり消費に悪影響を与えることになるでしょう。

10%への消費税増税が日本経済にかなり悪影響を与えることや、現状では消費税をあげる必要など全くないことはこのブログで何度も掲載してきて、いまさら再度似たようなことを掲載するのも何やら倦怠感すら覚えてしまうほどなので、それは本日はやめておきます。

その変わり目先を変えた変わった見方を掲載しようと思います。それは、産経新聞特別記者の田村秀男氏の記事です。以下にその記事のリンクを掲載します。
【田村秀男のお金は知っている】自民総裁選に物申す、「消費税増税中止」の議論を
この記事は、9月15日のものです。詳細は、この記事をご覧いただくものとして、以下にグラフと、一部を引用します。

グラフは10年前のリーマン・ショック前後からの家計消費動向である。リーマン後、急速に落ち込み、アベノミクス開始後に急回復したが、増税で台無しだ。最近になって持ち直す兆しが見えるが、3%の税率上げ幅分を差し引くと、消費水準は10年前を大きく下回る。 
安倍首相は来年の再増税について「自動車とか、住宅とかの耐久財の消費を喚起する、あるいは商店街等々の売り上げに悪い影響がないように、きめ細やかな対応をしていきたい」と述べたが、小手先の対応に腐心するよりも、すっぱりと中止を宣言すべきではないか。 
石破氏は「経済の7割は個人消費が支えている。個人が豊かにならなければ消費は増えない」と一見もっともらしく語るが、所得がわずかに増えたところで、消費税増税で年間8兆円以上も家計からカネを吸い上げ、内需を抑圧しておいて、どうやって賃金が上がると言うのだろうか。他方で「地方創生」を最重要目標に据えるが、飼料代が増税分だけ負担増になるのに、卵1個の出荷価格の1円上げすらままならぬ地方の養鶏家の苦境にどう応えるのか。 
消費税と自然災害は無関係とみなす向きもあるだろうが、天災はすなわち人災である。人災とは政策の無為または失敗を意味する。国土の安全は治山治水インフラ、それを維持、運営するコミュニティーと組織・機構が整備されなければならない。支えるのはカネである。 
財務官僚が政治家やメディアに浸透させてきた「財源がない」という呪文こそは、国土保全に対する危機意識をマヒさせ、インフラ投資を妨げてきた。「財政健全化」を名目にした消費税増税によって、デフレを呼び込み、税収を減らして財政収支を悪化させ、さらに投資を削減するという悪循環を招いた。「備えあれば憂い無し」という常識が失せたのだ。 
もとより、国家の政策とは、安倍首相が強調するように「政治主導」で決まる。家計簿式に単純な収支計算によって国家予算の配分を決める財務官僚にまかせる従来の方式では大規模で長期にわたる資金を動員する国土安全化計画を遂行できるはずはない。 
多発性の災害までが加わった「国難」に対処する手始めは、消費税増税の中止など緊縮財政思考の廃棄とすべきではないか。
石破氏は経済の7割は個人消費が支えていると言っていますが、これは日本のGDPに占める個人消費の割合が六十数パーセントであることを示しているのだと思います。

増税すると、個人消費が低迷して結局GDPの成長率が落ちてしまうということです。そのことをこのグラフは良く示していると思います。

このグラフ各年は、4月始まりで3月終わりとなっているのでしょう。2014年の4月から、消費税の3%分を差し引いた家計消費はどんどん下がっています、17年でも元の水準に戻っていません。これは、各家庭が増税前よりも消費を減らしているということです。

8%増税で、これだけ消費が低迷しているわけですから、10%増税などしたらとんでもないことになります。

このようなことは、安倍総理はしっかりと自覚していると思います。というより、財務省はもとより、増税推進派の官僚や政治家、マスコミなどは全く信用しておらず、根強い不信感を抱いていると思います。



現状では、安倍首相と菅官房長官が財務省に包囲されてしまい、消費増税阻止のハードルが高くなっているという説が有力のようですが、これは増税派の願望かもしれません。

しかし、それを一応事実であるとして仮定すると、財務省は国民からの文書改ざん、トップのセクハラ疑惑での辞任、パワハラ的構造などでの批判など一切影響をうけずに自分たちの思いのままに政治を攻略していることになります。

さすがの財務省もここまで強くはないと思います。私は、安倍総理は総裁選の前後は無論のこと、後になってもしばらくは増税の再延長などには意図して意識して全く触れないようにしているのではないかと思っています。

なぜなら、そうすれば、財務省や大多数の議員、マスコミ、識者らの増税賛成派に警戒心を与え、増税推進のための大キャンペーンをはられて、それこそ2013年の8%増税決定のときのようになってしまうことを恐れているのではないかと思います。

私としては、やはり憲法改正の国民投票を成功させるため、高橋洋一氏もブログ冒頭の記事で主張しているように、増税の先送りを後押しに利用すべきだと思います。最近は改憲派が増えてきたとはいっても、依然護憲派の力も大きいです。何より、マスコミが護憲派の後押しをするということが大きいです。

改憲派の人でも、いざ国民投票となって、投票するということになれば、おそらくその時にはマスコミが徹底してかつてないほどの巨大な護憲大キャンペーンをすることでしょうから、それに押されて一時的にも護憲のほうに回る人も増える可能性が大です。

そんな時に、消費税10%引き上げをすでにしてしまっていたとすれば、それに伴う駆け込み需要・反動減を抑えるための大型景気対策を実施したとしても世論の不興は避けられないです。憲法改正の国民投票で過半数の賛成票を集めるためには増税の再々延期をすべきです。

そうして、護憲派を強力につなぎとめ、デフレからの完全脱却と、改憲も成功させるのです。そうして、それは安倍総理にとっても良いことです。もし、増税をそのまま強行してしまえば、再び個人消費が今度は8%増税のときよりもさらに低迷して、日本はデフレに舞い戻ります。そうなれば安倍政権は改憲どころか、安倍おろしの嵐が吹き荒れ、政権の座から追われることにもなりかねません。

そんなことは、当の安倍総理が絶対に避けることでしょう。最近、文部科学省の戸谷一夫事務次官が汚職事件の責任を取って辞任し、前任の前川喜平氏と2代続けて事務方トップが不祥事により途中で辞める事態になっています。

辞任した文部科学省の戸谷一夫事務次官

さて、先程の述べたように、財務省は国民からの文書改ざん、トップのセクハラ疑惑での辞任、パワハラ的構造などで批判を浴びています。確かに、佐川国税庁長官が辞任したり、次官は辞任したりはしていますが、まだこれでは甘いと言わざるを得ません。

私は、来年の4月あたりに、さらなる財務省の悪事が露見して、先の文部省人事よりもさらに厳しい人事が行われ、事務次官辞任はもとより、かなりの人数が辞任などに追い込まれたりで、財務省を骨抜きにした後に安倍総理は、増税スキップを打ち出し、それを公約としてで参院選に突入するのではないかと睨んでいます。

財務省に言いたいです、「首を洗って待て」と。一国の総理を甘く見るととんでもないことになります。一国の総理をなめているということは、多くの国民をなめていることでもあります。ふざけるなと言いたいです。

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2018年9月21日金曜日

北方領土問題は今度こそ動くのか 「2島返還論」のタブーを解禁するとき―【私の論評】GDPが東京都より若干小さい小国ロシアを文字通り小国にすれば、北方領土はすぐ返還される(゚д゚)!

「2島返還論」のタブーを解禁するとき

北方領土の国後島を訪問したロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領
(当時、2010年11月1日撮影、資料写真)

 自民党総裁選挙で、安倍首相が3選された。3期目に積み残した課題は多いが、その1つは北方領土問題だ。9月12日にウラジオストクで開かれた東方経済フォーラムで、ロシアのプーチン大統領は、突然「前提条件なしで年末までに平和条約を結ぼう」と提案したが、安倍首相はその場では答えなかった。

 これについて総裁選挙では、石破茂氏が「領土交渉が振り出しに戻った」と批判したのに対して、安倍首相は「ロシアはいろんな変化球を投げてくるが、ただ恐れていてはだめだ」と否定的ではなかった。1956年の日ソ共同宣言から動かなかった北方領土問題は、今度は動くのだろうか。

北方領土は「日本固有の領土」か

 多くの日本人は「歯舞・色丹・国後・択捉の北方4島は日本固有の領土だ」という政府見解を信じているだろうが、問題はそれほど自明ではない。歴史的には、この4島に日本人が住んでいたことは事実だが、国境線は動いた。

 外務省ホームページによると、1855年、日魯通好条約で、択捉島とウルップ島の間の国境が確認された。1875年の樺太千島交換条約では、千島列島をロシアから譲り受ける代わりに樺太全島を放棄したが、1905年のポーツマス条約では日本が南樺太を譲り受けた。

 1945年2月のヤルタ会談で南樺太と千島列島をソ連の領土にするという密約が結ばれたが、これには法的根拠がない。1945年7月のポツダム宣言では、日本の主権が「本州、北海道、九州及び四国並びに連合国の決定する諸島」に限定されると規定したが、この宣言にソ連は署名していない。

 日ソ中立条約に違反して1945年8月に参戦したソ連は、北方4島を武力で占領したが、その後も日本とは平和条約を結んでいない。1951年のサンフランシスコ平和条約で日本は「千島列島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄」したが、この条約にソ連は参加していない。

 1956年の日ソ交渉では、領土問題について日ソ間で意見が一致する見通しが立たないため、戦争状態の終了と外交関係の回復を定めた日ソ共同宣言を締結した。このとき「歯舞群島及び色丹島は平和条約の締結後、日本に引き渡す」と明記されたが、国後・択捉については何も決まっていない。いつまでも日ロ関係を混乱させている北方領土問題とは、この2島の問題に過ぎないのだ。

2島返還論という「変化球」

 プーチン大統領の提案は「平和条約を結んでから領土問題を話し合おう」というものだが、2島を「平和条約の締結後、日本に引き渡す」という約束を実行するなら検討に値する。彼は「いま思いついた」と言ったが、このように重要な問題について思いつきで発言するとは考えにくい。おそらく日ロの事務レベルでは合意できなかったので、彼の独断で提案したのだろう。

 その真意は分からないが、最近のロシア経済の苦境から推定すると、平和条約を結んで経済を回復しようということかもしれない。ロシアはずっと「クリル諸島(千島列島)はすべてロシアの領土だ」と主張しており、クリル諸島には北方4島がすべて含まれているので、歯舞・色丹を返還するだけでも彼らにとっては譲歩だ。

 だが日本政府の定義では、4島は千島列島に含まれないので、2島だけ返還すると「固有の領土」である国後・択捉を放棄することになる。2島返還論は外務省がずっと否定してきたもので、自民党も反対してきた。ところが今回、自民党でも右派と見られていた安倍首相が、これに前向きともとれる態度を取ったのは意外だ。

 日本政府が4島返還の原則を変えない限り平和条約は締結できないが、国後・択捉を返還されても日本人が移住することは困難で、経済的メリットはほとんどない。割り切って考えると、安全保障と2島の領有権のどっちが重要かというバランスの問題だろう。

「4島か2島か」より大事な問題

 2島返還論は、この62年間タブーだった。「それは戦後のドサクサにまぎれてソ連が不法占拠した主権侵害を事後承認するものだ」という主張は、筋論としては正しいが、それが日本政府の一貫した方針だったわけではない。

 サンフランシスコ条約で「千島列島」の領有権を放棄したとき、国会で吉田茂首相は南千島(国後・択捉)は千島列島に含まれると答弁した。日本も一時は、2島返還で平和条約を結ぼうとしたという説もある。

 2016年の日ロ首脳会談のときプーチン大統領は、1956年の日ソ交渉のとき、アメリカのダレス国務長官が重光外相に「もし日本がアメリカの利益を損なうようなこと(2島返還)をすれば、沖縄は完全にアメリカの一部となる」と述べたと記者会見で語った。つまりアメリカは2島返還で平和条約を結ばないよう、日本に圧力をかけたというのだ。

 これが「ダレスの恫喝」といわれる話で、プーチン大統領がそれを引き合いに出したのは、「日本も本当は2島返還を考えていた」と言いたいのだろうが、そういうアメリカ政府の方針は外交文書で確認できない。そういう経緯があったとしても、2島返還を正当化する根拠にはならない。

 それより大事な問題は、もし歯舞・色丹が返還されたら、そこに自衛隊や米軍の基地を設置するのかということだ。これはロシアにとっては脅威になるが、日本にとっては2島返還でも基地を置くことができれば重要な意味がある。領土問題は国家主権の問題であるとともに、日米同盟の問題である。

 原則論としては、4島返還が正しい。ここで日本が妥協すると、今後ロシアとの外交交渉でなめられるという懸念もあるだろう。だが日本とロシアのような大国間で平和条約が締結されていない状況は異常であり、安全保障の上で問題がある。

 平和条約では領土を確定するので、そこに2島返還を書けばいい。かつて日ソ中立条約を破って参戦したロシア人だから約束を守らないかもしれないという不信感もあるが、そういうことを言い出したら外交交渉はできない。このへんは外交テクニックの問題だろう。むしろ障害は、これまで固く2島返還を拒否してきた外務省にある。

 北方領土は、プーチン大統領と信頼関係を築いた長期政権の安倍首相にしか解決できない厄介な問題だ。そろそろタブーは解禁し、2島返還論を議論してもいいのではないか。

【私の論評】GDPが東京都より若干小さい小国ロシアを文字通り小国にすれば、北方領土はすぐ返還される(゚д゚)!

上の記事を書かいた方、なぜロシアがあそこまで北方領土の返還を渋るのかその理由がわかっていないようです。それがわかり、それに対象する方法を実行すれば、意外と北方四島はすんなりと返ってくるかもしれません。

ロシアがかたくなに北方領土返還を拒む理由筆頭は、軍事的理由を挙げることができます。

ロシアの核戦略上、北方領土が接するオホーツク海が極めて重要な位置を占めているのだ。これが、北方領土返還を嫌がる隠された理由です。

オホーツク海に潜むロシア太平洋艦隊所属の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN)は、米本土を核攻撃できます。ロシアにしてみれば、北方領土、とりわけ、オホーツク海に面する択捉島、国後島の2島を日本に返還することは、ロシアの戦略原潜の安全にとってマイナスになってしまうのです。これが北方領土問題をややこしくしているのです。
 
この問題は冷戦時代に遡ることらができます。SSBNは、潜水艦の特性から海面下に潜むことができ、核戦争の最後まで生き残りを図ることができます。

そのため、冷戦時には、米ソ戦の決をつけるべく両国は相手国が最終的な核攻撃を行うか、この残存を梃子に戦争終結交渉に持ち込むかするだろうとみていました。まさに、最終的な核攻撃の前に、SSBNは、最後の切り札の役割を担うと考えられていたのです。
 
ソ連の海軍戦略は、このSSBNの安全確保を最重要の柱として組み立てられました。この作戦構想は、その区域には何ものも入れない、いわゆる『聖域化(たとえばオホーツク海の聖域化)』であり、専門用語では『海洋要塞戦略』と呼ばれました。

極東においても『海洋要塞戦略』の登場により、オホーツク海およびその周辺海域が、核戦略上の中核地域となるに至ったのです。

地上戦に敗れるようなことがあっても、SSBNの安全が確保されるかぎり、第二次大戦のドイツや日本のように無条件降伏を押し付けられることはない。そのような要求には『相互自殺』の脅しをもって応えることができるからです。

ソ連のアメリカに対する核戦略上の「最後の切り札」が、オホーツク海に潜む戦略原潜(SSBN)だったのです。そして、ソ連が崩壊してロシアになった今でも、この構図は基本的に変わりません。だからこそ、ロシアは今でも北方領土を返還することを渋るのです。

このあたりを認識した上で、産経新聞の論説副委員長・榊原智が四島返還の決め手について現実的な提案をしています。その記事のリンクを以下に掲載します。
【風を読む】四島返還の決め手はこれだ 論説副委員長・榊原智
北海道・根室半島の納沙布岬(左下)沖に浮かぶ
北方領土の歯舞群島=2016年12月、北海道根室市

この記事比較的短いので全文以下に引用します。
 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が22回目の会談をしたが、北方領土問題の進展はなかった。それどころかプーチン氏は、領土問題棚上げの平和条約締結という身勝手な提案をする始末である。 
 中立条約を破って侵攻し、不法占拠を続ける旧ソ連・ロシアが悪いに決まっているが、憤っているだけでは始まらない。そこで北方四島返還につながる秘策の一端を披露してみたい。 
 戦後日本の対露交渉上の問題点を、安倍政権も抱え込んでいる。ロシアにとっての北方領土の軍事的価値を十分に意識せず、その価値を突き崩す努力をしてこなかったという点だ。 
 ロシア人は日本人の想像以上に軍事を重視する。北方四島の広さの93%を占める択捉、国後両島はオホーツク海に面しており、この海にはロシアの核ミサイル搭載原子力潜水艦(SSBN、戦略原潜)が潜んでいる。北欧のバレンツ海に配備された戦略原潜と並ぶ、対米核攻撃用の虎の子だ。 
 米国がロシアに先制核攻撃をしても戦略原潜は生き残って米本土に報復核攻撃を行う。この死活的に重要な戦略原潜があればこそ、ロシアは米国の核攻撃を抑止でき、最悪でも無条件降伏を免れると考え、自国を米中両国と並ぶ「大国」と見なすこともできる。 
 択捉、国後両島の返還が実現すれば自衛隊や米軍がオホーツク海で潜水艦狩りをしやすくなる。日本がそれはしない、北方領土に基地も置かないという約束を持ちかけても、自国の国防の根幹と世界的地位に関わるためロシアは決して同意することはないだろう。 
 では、日本はどうすべきか。防衛省自衛隊の知見を対露外交に取り込むべきだ。知恵を絞って先端の科学技術で自衛隊の能力を高め、有事には北方領土を利用せずともオホーツク海に潜むロシアの戦略原潜とそこから発射される核ミサイルを迅速に無力化できる態勢を黙って整えればいい。これは専守防衛に反しない。共同経済活動よりも有効な返還促進策であり、対露交渉が進むこと請け合いだ。
これは、かなり現実的です。 確かに、有事には北方領土を利用せずともオホーツク海に潜むロシアの戦略原潜とそこから発射される核ミサイルを迅速に無力化できる態勢を整えれば、ロシアが北方領土にこだわる理由はないし、これと北欧のバレンツ海に配備された戦略原潜も無効化できようになれば、ロシアは名実ともに小国になり果てるからです。

ロシアが小国というと、怪訝に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、現在のロシアは経済的にみても、科学技術や国の体制や人口をみてもとても大国とはいえません。小国と呼ぶのがふさわしいです。

なぜなら、まずはGDPは日本の東京都よりも若干小さいです。韓国と東京都はだいたい同じくらいのGDPです。現在のロシアのGDPはなんと韓国よりも若干小さなくらいの規模なのです。

そうして、産業構造は過渡に石油や天然ガスに頼る状況であり、その他は軍事技術は別にして、さしたる技術などありません。その意味ではまさしく発展途上国と言っても良いくらいです。

さらに、人口は1億4千万人であり、日本の1億2千万人より若干多いくらいです。あの広大な領土にこの人口です。これは、中国には遠く及ばないですし、インドにも及びませんし、米国にも及びません。

これでは、とてもロシアを大国などとよぶわけにはいきませんが、ただし上の記事にもあように、米国がロシアに先制核攻撃をしても戦略原潜は生き残って米本土に報復核攻撃を行います。この死活的に重要な戦略原潜があればこそ、ロシアは米国の核攻撃を抑止でき、最悪でも無条件降伏を免れると考え、自国を米中両国と並ぶ「大国」と見なすことができているのです。

このことだけが、かろうじて現在にのロシアが「大国」扱いされるわけですが、それを除けば、ロシアの実体は小国と呼ぶにふさわしいです。

ロシアの戦略原潜

そうして、ロシアの原潜の潜むバレンツ海とオホーツク海の聖域を完璧に無効化してしまえば、ロシアは名実ともに小国になるわけです。そうなれば、経済大国日本が交渉すれば、ロシアは4島返還にも応ずることでしょう。

そのような状況になれば、なんといっても一番の脅威は中国です。ロシアは世界でもっとも長く中国と国境を接している国でもあります。中国もロシアのように一人あたりのGDPでは米国はおろか日本にも及ばないですが、それでも人口が13億79百万人と桁違いに多いです。

さらに、最近では経済力を伸ばし軍事力も伸ばしています。現在のロシアにとって、最大の軍事的な脅威は、中国です。

今のところは、ロシアは「大国」扱いで、中国がロシアの領土等に対して野心を抱いたにしても、かなり簡単に屈服させることができます。しかし、将来はどうなるかはわかりません。現状でも、ロシアと中国の国境があいまいになり、多数の中国人がロシア領に越境して、様々な活動や事業を実施しています。この状況は国境溶解として、このブログでも以前紹介したことがあります。

日日中国の脅威が増しつつあるロシアでは、いずれ中ロ関係を大事にするより、日米英同盟に接近することも十分考えらます。

さて、ロシアのオホーツク海の戦略原潜の聖域無効化する方法ですが、これについては榊原智氏も明らかにはしていません。

まず最初に考えられるのが、潜水艦です。南シナ化では、すでに日米の潜水艦がチョークポイントに潜み、中国の原潜等の監視にあたるほか、訓練なども行い、中国の喉元にあいくちを突きつけたような状況にあることこのブロクでも解説しました。

このように、日米がオホーツク海に多数の潜水艦艦を配置するというやり方もあると思います。ただし、中国は未だに南シナ海を中国の戦略原潜の聖域には未だしていません、というか出来ない状態にあります。

未だ中国が聖域化していない海域に、日米が潜水艦を配置したとしても、軍事的な対立は起こりにくいですが、すでにロシアが聖域化しているところに日米が潜水艦隊を常駐させるようなことをすれば、軍事的な緊張が極度に高まることになります。ただし、ロシアの対潜哨戒能力は日米と比較してかなり低いですし、ロシアの経済規模からすれば、これに対応することは限られています。実際に潜水艦を配置されてしまうと、ロシアは太刀打ちできなく亡くなるのは事実です。

これに変わる方法はないかと考えてみましたが、あります。それについては、以前もこのブログで紹介したことがあります。その記事のリンクを掲載します。
潜水艦の時代は終わる? 英国議会報告書が警告―【私の論評】水中ドローンが海戦を根底から覆す(゚д゚)!
海上自衛隊の潜水艦「そうりゅう」

 これまでの「対潜水艦戦」(以下、ASW)は、少数の艦艇および有人機によって実行されていた。これらの仕事は、広大な荒野で逃亡者を探す少人数の警察のようなものだった。最も可能性の高い逃走ルートや隠れ家に戦力を集中させて、幸運を祈るだけであった。
 
 しかし、安価な無人機の登場によって、逃亡者の逃走は不可能になる。一人ひとりの探知能力は低いものの何千人もの応援が警察の側につき、隅から隅まで全域を探索するようになるからだ。 
 小型偵察ドローンが米軍を中心に増加している。精密攻撃が可能な小型無人機もイスラエルなどで登場してきている。
 しかも最近の米国防総省は、大量の小型ドローンを「群れ」として使う研究を進めている。例えば、米海軍は「コヨーテ小型偵察無人機」というASW対応の小型無人機を開発した。コヨーテ小型偵察無人機は哨戒機から投下されるや飛行形態に変形し、熱センサーで水温を測定し、風速・圧力などの様々なデータを収集可能する。 
 そもそも偵察機を飛ばす必要はなくなるかもしれない。米海軍が開発した小型水上無人機「フリマ―」は、今までASWの主力であったソノブイ(対潜水艦用音響捜索機器)の代替になる可能性がある。
 また、やはり米海軍が開発した「セイル・ア・プレーン」は、飛行機であると同時に偵察時は水上で帆を使って帆走し、太陽発電と波力発電で充電できる偵察機である。
 水中グライダー式の小型無人機もある(水中グライダーは推進機を持たず、浮力を調整することで水中を上下しながら移動する)。大阪大学の有馬正和教授が開発した「ALEX」は低コストの水中グライダーである。有馬教授は、1000ものALEXのような無人機の群れで構成される巨大な共同ネットワークで海洋研究調査を行うことを提唱している。
このような空中、海上、水中のドローンを開発して、 自衛隊の能力を高め、有事には北方領土を利用せずともオホーツク海に潜むロシアの戦略原潜とそこから発射される核ミサイルを迅速に無力化できる態勢を整えるのです。

分解したシーグライダー(水中ドローンの一種) ワシントン大学応用物理研究室が、
地球温暖化による氷河の変化を観察するため開発したもの  軍事転用もすすみつつある

無論最初は潜水艦等とドローンの混成であっても良いと思います。聖域から比較的離れたところに日米潜水艦隊が潜み、多数のドローンが隠密裏に聖域を常時監視し、何かあればすぐにドローンが潜水艦に連絡し、潜水艦や艦艇、航空機がすぐに攻撃をするという方式でも良いと思います。

ただし、将来は監視から攻撃までドローンがすべて行うという方式が望ましいと思います。これによって、ロシアの潜水艦は誰から攻撃されているかも、いつ攻撃されたのかもわからないうちに、海の藻屑と消えているような方式が望ましいと思います。

監視型、攻撃型のドローンを数百から数千もオホーツク海のロシアの戦略原潜の聖域に常時設置して、普段から哨戒任務にあたらせ、もしものことがあればすぐに原潜とミサイルを攻撃して無力化できるようにするのです。

そうして、実際にオホーツク海で多数のドローンを用いた演習をして、ロシア側にみせつけるのです。

これは、「はやぶさ」で惑星探査ができる技術力を持つ日本ならば、短期間のうちにできるはずです。

これにより、ロシアを文字通り小国化することができます。小国化したロシアは、日米と対立するよりは、日米に接近し、中国の脅威を払拭したいと考えるに違いありません。そのときに、日本がロシアと北方領土交渉すれば、かなり有利に交渉できるのは間違いありませんし、おそらく北方四島は日本に返還されるでしょう。

しかし、こうしたことをしないで、返還交渉をしたとしても、二島返還ですら相当難しいと思います。今こそ、発想の転換が必要です。

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2018年9月20日木曜日

中国メーカーの日本工場で「なりすましMADE IN JAPAN」が横行か?”静かな侵略”で就労移民が押し寄せる―【私の論評】中国の悪しきグローバリズムが、世界をナショナリズムに回帰させる(゚д゚)!

中国メーカーの日本工場で「なりすましMADE IN JAPAN」が横行か?”静かな侵略”で就労移民が押し寄せる

漫画家 / 評論家 孫向文


 こんにちは、中国人漫画家の孫向文です。

  近年、日本のブランドのメーカーはコスト削減のために中国に工場を移設してきました。その結果、中国人作業員の手によって日本産の品質は低下。「日本ブランド」が実は「中国製」と何ら変わりがないという、口コミの風評被害が発生し、その価値は著しく下がってしまいました。


 前述のケースとは逆に、中国メーカーが日本で工場を開設して「日本製」と記載する事態が横行しているのです。無論、この中国メーカーの商品の開発と製造は中国人です。

 記事によれば、中国人消費者の間で「日本製」が大人気のため、中国メーカーはブランド価値を上げるために、日本に工場を移設しているのです。上海にある『慎興』というメーカーは、日本の工場で月に5万本の歯ブラシを製造し、それを中国に「輸入」しています。同社の社長は「我が社の商品は日本国内で生産しているため、正真正銘の日本製だ」と、「日本製」を看板にしています。

 日本政府のデータ(2017年3月まで)でも、中国内に本社を持ち、日本で支社を設立する中国メーカーは49軒、5年前の5倍になっているのです。

 ■中国企業の日本進出は「日本の就業率」を引き上げる? 答えはNO!

 日本人が中国で工場を開設すると、中国人を雇用し、中国の経済が活性化され、売り上げのほとんどが「中国のGDP」になっています。これが逆転した今、中国が日本で工場を開設しても日本人を雇用し、結果、日本の経済を活性化することになるのでは? と思う人もいるでしょう。

 しかし、中国メーカーの日本工場は日本人をほとんど雇用しません。雇用するのは在日中国人ばかりです。理由は、社内で中国語を喋ると仕事の効率が高くなり、さらに中国人の人件費は日本人より安くて済むからです。

 旧知の在日中国人の社長に取材したところ、さらに「恐ろしい手口」を明かしてくれました。

 「中国企業の日本工場は、だいたい従業員の9割が在日中国人。特に多いのは留学生のアルバイトなんです。彼らは卒業時に”留学ビザ”が切れると帰国しないといけないので、そのままアルバイトから正社員にして”就労ビザ”に変更させます。そうして、次は日本での”永住権”、最終的には”日本国籍”を取得を狙っていく。こうして中国企業は日本に工場を置くことで、数百人の中国移民を誘致する惨状になっているのです」

 日本では600万円投資すると、外国人であっても会社を作れます。これは国際基準と比較しても非常に低い敷居です。そこに中国企業が目をつけ、日本の土地と資源を利用し、「なりすまし日本製」(中身は完全に中国人の手による中国製のチャイナクオリティの商品)を濫造し、まるで商業詐欺のような商品が横行しています。今後も中国メーカーが日本に大量進出するようならば、「日本製」というブランド価値にも風評被害が及びかねません。

 ■アフリカを蝕む、中国マネーの甘い罠

 中国の投資進出は日本国内だけではありません。たとえばアフリカでも中共とコネのある企業がインフラ整備などで大量進出しています。しかし、中国企業はほとんどアフリカ諸国の国民を雇用しません。中国人の従業員をアフリカに大量に派遣し、現地で住み込みの経済活動をさせているのです。

 今年の8月に習近平主席がアフリカ諸国を訪問し、さらに600億ドルの「返済不要の融資」をアフリカに注ぎ込みました。「返済不要」と聞くと、アフリカにとって大きな得ではないかと思いますが、そんなに美味しい話ではありません。中国が腹黒い国家であることは私が散々述べてきたので、これまでのコラムをお読みになった方は十分、ご存知かと思います。

 ※アフリカ日本協議会からの引用

 <中国企業の進出に伴って、中国人が大挙してやってくることを否定的に語られることもある。大勢の中国人が、食料供給が十分にないところで野生生物を食べるケースが多々発生し、野生生物の食用需要がさらに高まっているという。>

 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/africa-now/no93/top4.html

 ※中国語記事

 「アフリカに進出する中国企業は中国人しか雇用しません、アフリカの鉱産物とエネルギーを狙う」

 http://technews.tw/2017/11/02/china-investment-in-africa/

  中国「一帯一路」専門の情報サイトによると、「アフリカで採集した豊富な鉱産物資源を中国に送る、世界工場を維持する製造業にとって重宝です」

 http://silkroad.news.cn/2018/0116/79740.shtml

 現在、アフリカ諸国ではこのトリックを見破り、各地に反中デモが発生しています。このように明らかに他国の資源略奪、経済と人口の侵略に反発するのは、アフリカ人の当然の反応でしょう。

 ■「静かな侵略」を食い止める、シンプルな方法とは?

 このような企業による他国進出は中国によるものだけではありません。

 私は、仕事関係で韓国人が経営する出版業者にも接触したことがあります。その社内の雇用状況を聞くと「100%在日韓国人」であり、日本の取引先に対しても、打ち合わせでは「社長が韓国語のできる日本人」か、「日本語通訳できる韓国人と同行しないといけない」という条件をつきつけていました。その会社は今も韓国人労働者を大量に雇用しています。

 日本の土地と資源を利用しながら、多くの移民を送り込もうとする「静かな侵略」。日本が長年にわたり築き上げてきた、日本製ブランドさえも食い物にしようとしています。これを食い止める方法はないのか、私も考えてみました。

 答えは簡単、中国人企業が日本で工場を設立した場合、「従業員の9割以上は純日本人(帰化人除く)ではなければ営業免許を降ろさない」という条件を追加すれば良いのです。左派層から「人種差別だ!」の批判が殺到するでしょう。今の親中派だらけの自民党政権には、このような「非武力による日本侵略」の対応を期待できません。

孫向文
1983年生まれ、漫画家、評論家。中華人民共和国浙江省杭州市出身。『本当にあった愉快な話』(竹書房)にて「日本に潜む!!中国の危ない話」、 隔月刊『ジャパニズム』(青林堂)にて「大和撫子が行く」を連載中。近著『日本人に帰化したい!!』(青林堂)が好評発売中。そのほか『週刊文春』にて実録中国猛毒食品「僕らだって怖い!」を掲載し、TBSテレビ『新・情報7daysニュースキャスター』にて「中国超監視社会」に出演。

【私の論評】中国の悪しきグローバリズムが、世界をナショナリズムに回帰させる(゚д゚)!

貿易戦争で追い詰められる習近平

米中貿易戦争で、トランプ大統領は中国経済の息の根を止めようとしているのでしょうか。制裁関税第3弾の発動を正式に決めましたが、中国側が報復すれば残りの全輸入品にも25%の追加関税を課すとあらためてぶち上げました。

対中制裁に関しては有言実行のトランプ氏だけに、今回も脅しでは済むとは思えません。日本など外資系企業が生産拠点を移すなど「脱・中国」の動きは止まらず、習近平政権の地盤が大きく崩れつつあります。

中国はこの対中制裁に対して、あくまで受けて立つようです。日本など外資系企業にとって、中国に生産拠点を置くメリットがなくなりつつあります。

そのためか、米国の対中追加関税第1弾と第2弾を受け、三菱電機は8月に、中国で生産し米国に輸出していた工作機械の生産を国内に移しました。コマツは建設機械の部品生産の一部を中国から日本やメキシコに振り分けています。

ダイキン工業は米国で製造する空調機の一部部品を中国から賄っていますが、調達先の変更などを検討中です。東芝機械も10月に自動車向け部品などを製造する射出成型機の生産の一部を上海工場からタイと国内の本社工場に移す計画です。

ユニクロを展開するファーストリテイリングも、米国への供給をベトナムなど中国以外の拠点に切り替えることを検討しています。

これは、日本企業だけではありません。ブルームバーグは、米国のファッション各社が中国の代替地としてカンボジアやベトナムなど東南アジアに生産拠点を広げていると指摘しています。

米国ファッション産業協会の調査に参加した企業の67%が、今後2年で中国での生産量や生産額を減らすとの見通しを示したといいます。「次に買うブランド物のハンドバッグには『メイド・イン・チャイナ』のラベルは付いていないかもしれない」とも報じました。

中国から徹底する企業が相次いでいる

これは、外資系企業だけでなく、中国の民間企業にとっても同じです。拠点を中国以外に移す企業も増えるでしょう。その拠点の中には当然ながら、日本も含まれます。そうなると、孫向文氏がブログ冒頭の記事で指摘している、中国メーカーが日本で工場を開設して「日本製」と記載して販売するということがさらに横行することが考えられます。

それどころか、日本に本社を設置して、日本企業であることにして、その実中国で製造した製品を世界中に販売するということも十分考えられます。

そうして、これは何も日本だけではなく、米国やカナダ、オーストラリア、EUなどの先進諸国でも同様の危機があるものと考えられます。

他国の法律がどうなっているかどうかは、わかりませんが規制がなければ、当該国においてほとんど中国人が製造して、当外国製品であることにして販売するとか、本社を当該国に設置して、中国で製造した製品を当該国の製品として世界中に販売という事例もあるのではないでしょうか。

国営新華社通信は昨年、「世界の偽物(偽ブランド、コピー商品)の8割は中国とした欧州報告書の真相は如何に?」と題する記事を配信しました。

それによると、欧州刑事警察機構(ユーロポール)と欧州連合知的財産庁は、全世界の偽物の8割は、中国内地または香港の出自であるとレポートしたそうです。中国が商標権や知的財産権を侵害しているのは周知の事実であり、だからこそトランプ政権は対中国貿易戦争を展開しているのです。

このような中国ですから、貿易戦争により状況が変われば、中国人は海外に工場を移し、安い労働力であり言葉が通じて使いやすい中国人で製造した製品を当該国の製品として世界中に売りさばくなどということを平気ですることでしょう。

これに対して、米国をはじめとする先進国はいずれ手を打たなければならないことになると思います。日本とてその例外ではありません。

ブログ冒頭の記事で、孫向文氏は、中国人企業が日本で工場を設立した場合、「従業員の9割以上は純日本人(帰化人除く)ではなければ営業免許を降ろさない」という条件を追加すれば良いとしています。

それも一つの方法でしょう。私はこれも方法の一つだと思いますが、そういう条件がでてくれば中国人は変幻自在でこの規制を網の目を抜ける方法をすぐに考えてしまうのではないかと思います。

私は、これにプラスして、財務省に日本国内て製造する中国企業に対して一定の条件を満たさなければ所得税や、法人税を「増税」する方法を考えさせ、実行させると良いと思います。

何が何でも、省益だけを考え、引退後の天下り先で超リッチなハッピーライフを送ることを第一に考え、国民生活など無視して、とにかく増税しようとばかり考えてきた財務官僚が、これによってはじめて日本国民のため役に立つことができ、さらに彼らの増税DNAを満足させることもできるわけですから、これは一石二鳥です。

日本経済の悪化の諸悪の根源は財務省にあることは随分周知されるようになってきたが・・・・・

彼らなら、過去の増税でつちかってきた手法によって、ほとんどの国民にその実体を知られることもなく、マスコミからも糾弾されるどころか味方につけて中国企業に対して今度は、正当な理由により増税して彼らに塗炭の苦しみを与えることも不可能ではありません。(ブログ管理人注:これって半分ジョークですから、まともに受け取らないでください、とはいいながら半分は本気です😁)

さて、儲かりさえすれば、国境を超えてでも何でもするという中国の悪しきグローバリズムは、世界中で警戒心を招いています。

このブログでは、世界は自由貿易をしながらもナショナリズムに復帰するであろうと主張してきました。その典型的な記事のリンクを以下に掲載します。
【米中貿易摩擦】手詰まり中国 時間稼ぎ トップ会談で「休戦」狙う―【私の論評】中国のミンスキー・モーメントが世界のナショナリズム回帰への先鞭をつける(゚д゚)!
トランプ大統領

"
2017年4月27日に行った外交演説でドナルド・トランプ大統領は、以下のように述べています。
我々は最早グローバリズムという誤ったイデオロギーによって国家を破壊し、米国の国民をその犠牲者としてはならない。国民国家こそ幸福と調和の真の基礎を成すものである。私は国際的組織というものを信用していない。
これはナショナリズムという言葉こそ使わなかったものの、まさしくアンチ・グローバリズムであり、国家の再建を意味するものです。また、米・英・中・露は、タックスヘイブンを潰そうとしていることも、猛威を振る舞った金融グローバリズムを崩壊させるものとなるでしょう。

これからは、世界の国々は自由貿易をしつつも、ナショナリズムの時代になっていくことでしょう。勿論、急に何もかもが変わっていくわけではないはずですが、徐々に変わっていくことになるでしょう。

私は、中国のポスト・ミンスキー・モーメント(ブログ管理人注:中国でミンスキー・モーメントが起こった後)がその先鞭をつけるものではないかと思います。

トランプの戦いは、まさに悪い面でのグローバリズムの申し子でもある中国を潰しナショナリズムに復帰した世界を再構築することなのです。
"
トランプ大統領は、もし中国企業がうまい抜け道を使って、米国内で中国人を用いて製品を製造し、それを世界中に米国製としてばらまくようなことがあれば、これ対して鉄槌を下すのは明らかです。

悪しきグローバリズムに対しては、現在は米国トラン政権が先頭にたって戦っていますが、これには他の先進国も追随することでしょう。日本も当然追随します。

こうした動きに最初は抵抗する人もいるでしょうが、ブログ冒頭の記事のようなことをはじめとして悪辣な中国のやり口が人々に周知されるにつれて、抵抗はなくなり、世界はナショナリズムに回帰することでしょう。

グローバリズムは理想ではありますが、それには今の世界には徹底的に欠けているものがあります。それは、世界全体を統治する機構です。

それに似たようなものはすでにあります。それはEUや国連です。しかし、EUもなかなかうまく行っていないし、国連もまともに機能してはいないというのが実情です。EUや国連ですら、うまくいかないのであれば今後世界は、たとえ中国が崩壊したとしても、いつまた悪しきグローバリズムが復活するかは保証の限りではないので、やはり自由貿易をしつつも国民国家を主体とするナショナリズムに回帰することでしょう。

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