2019年5月3日金曜日

マレーシアに続け、を何より怖れる中国―【私の論評】債務のわな逃れ中国に勝ったマハティール(゚д゚)!


軌道修正迫られる一帯一路、舞台裏はいよいよ複雑怪奇に

中国・北京で、大経済圏構想「一帯一路」の国際会議閉幕後に記者会見する習近平国家主席
 (2019年4月27日撮影)

「大勝利」から一転、「債務の罠」に転落――。

 米メディアの一部は、マレーシアのマハティール首相が、2件の一帯一路関連プロジェクトを継続決定したことで、同首相に対する評価をわずか1週間の間に一変させた。

 また日本のメディアも、昨年8月、マハティール首相が中国訪問時に習近平国家主席や李克強首相との会談の際に「新植民地主義は望まない」と世界のメディアを前に非難したにもかかわらず、ここにきて中国との融和を図る姿勢に戸惑いを隠さない。

 2つの一帯一路関連プロジェクトとは、1つは、南シナ海とマラッカ海峡を結ぶ一帯一路の生命線「東海岸鉄道計画」で、もう1つは、首都クアラルンプールで展開する大規模都市再開発計画「バンダル・マレーシア」だ。

 どちらも中国にとっては、一帯一路の最重要プロジェクトの一部。マレーシアにとっては、親中のナジブ前政権時代に談合密約で、契約完了済の事業。

 工事も開始されていて、バンダル・マレーシアは、いくつかの傘下プロジェクトがほぼ建設完了の案件。両者とも再交渉は極めて不可能とされてきた。

 日本ではあまり知られていないが、バンダル・マレーシア計画は中止前、日本企業も入札に参加していたクアラルンプールとシンガポールを結ぶ高速鉄道計画(HSR)を含んでいる。

(今回、バンダル計画全体の継続は決定したが、日本との激しい争奪戦があるHSRについては延期されたままだ)

 今回のマレーシアでの一帯一路の事業復活は、国家存続の命運と習国家主席の面子という2重縛りで一帯一路の生命線を是が非でも保守しなければならない中国と、親中のナジブ前政権以降、最大の貿易相手国に躍り出た中国との経済貿易、外交関係を維持したいマレーシアの双方の利害が一致した結果だった。

 また、マレーシアから見れば、前政権から引き継いだ1兆リンギに及ぶ債務を抱え、中止すれば多額の賠償金が発生する事態に陥るのを防ぐ意味もあった。

 一方、中国の対応も米国などからの「債務の罠」批判を受けて軌道修正せざるを得なくなっている。

 4月27日に終了した第2回一帯一路の国際フォーラムで、習近平国家主席が「国際ルールや持続可能性に配慮する」と表明したことはその意味で象徴的な出来事だった。

 一方、中国は融和策を標榜しながらも、陰で強権を継続していくと見る向きもあるが、そう単純にはいかないだろう。

 一帯一路の中国による融資額がパキスタンに次ぎ、アジアで2番目に多いマレーシアで、中止が公式に明らかになっている事業の復活は今のところ2つだけ。中国の事業関係者は次のように明かす。

 「マレーシアでのプロジェクト数は40以上ある。一帯一路事業の基幹プロジェクトであるガス・石油パイプライン関連事業の大型プロジェクトや、我々中国や日本などが受注を狙うクアラルンプールーシンガポール間の高速鉄道(HSR)は、いまだ、中止されたままだ」

 「中小のプロジェクトでは滞っている案件がいくつもあり、マレーシアとの交渉全般の成果が表れるのは、これからだ」

 上記の石油パイプライン事業は、昨年7月、東海岸鉄道計画(ECRL)と同時に、事業中止が発表されたが、現在も中断されたままだ。

 この事業は、中国石油天然気集団(CNPC)の子会社「中国石油パイプライン」〈CPBP)が主導する2つのパイプライン事業(マレー半島とマレーシア東部のボルネオ島)。

 マレーシア政府関係者によると、プロジェクトが10%強しか進行していないのに、「総工費の90%が既に中国側に支払われており、今後、政府間交渉でその資金の返還を求めていく」という。

 同事業にマレーシアの国益はなく、同パイプライン事業の廃止も視野に入れているともいう。さらに、同事業にはマレーシア政府系投資会社「1MDB」の不正とも深く関わっている。

 世界6か国で訴追、捜査が進む国際的不正公金横領事件の1MDBでは、ナジブ前首相、家族や関係者らが、約45億ドルにも上る公的資金を横領したと見られ、ナジブ氏やロスマ夫人、関係者らの公判も始まった。

 同パイプライン事業は、「この45億ドルの行方と密接な関係をもっていて、1MDBの巨額負債救済目的で、1MDB(当時、財務省)所有の土地買収に流用されたとのではと捜査が進められている」(与党幹部)。

 マレーシア政府筋によると、国際的マネーロンダリング事件に揺れる1MDBに利益をもたらすために、談合取引の間で中国の政府銀行からの融資が一部賄賂として流れ、利用された疑いがあり、捜査が続いているという。

 マレーシアではすでに、1MDB傘下の発電所の全株式約99億リンギを、中国の原子力大手、中国広核集団に売却。しかも、中国広核集団は、1MDB負債の一部の60億リンギも肩代わりした。

 ナジブ前首相は借金返済のため、「発電所は外資上限49%」というマレーシアの外資認可規制を無視し、違法に中国企業に100%で身売りしてしまった。

 こうした不正への加担がもっと表に出てくれば、中国の一帯一路事業全体への悪影響は避けられない。中国が強気の姿勢を貫けないアキレス腱がここにある。

 マハティール首相もそれを分かっていて「借入額や融資率軽減の交渉を引き続き行う」と明言している。

 こうした状況で中国にとって厄介なのは、「第2、第3のマハティール」の出現だろう。

 「マハティール首相の成功を目の当たりした国が、同様に硬軟巧みに再交渉を模索し、一帯一路の計画が中止になったり、遅れることを警戒しなければならないだろう」。中国のある政治学者はこう話す。

 実際、インドネシアのジャカルターバンドン間の高速鉄道は用地取得などで3年以上工事が遅れていたが、昨年ようやくスタート。

 同事業の融資条件は4月の大統領選争点にもなった。インドネシア政府筋は「中国はライバル日本への対抗意識が強い。融資軽減を求めた結果、2%の低融資で決着した」と内情を明かす。

 また、マハティール氏を尊敬し、4月中旬、米タイム誌の「世界で最も影響力のある人物」に同氏とともに選ばれたパキスタンのカーン首相は、親中の前政権が契約済の一帯一路事業見直しを進めている。

 中国にとっては第2のマハティール首相になりかねない存在だ。

 昨年の訪中で中国を絶賛する演説を披露したが、今年に入ると一帯一路の目玉事業「中パ経済回廊(CPEC)」の発電所の建設計画中止を表明している。

 中国経済との関係を強めるASEAN(東南アジア諸国)も、一帯一路の動きが拡大する一方で、例えば中国資本によるミャンマーでのダム建設で大規模な反対デモが起きている。

 今回の一帯一路国際フォーラムを取材していて、実際どこまで実施されるかは別として、中国自身がリスク回避に動こうとする気配が感じられた。

 習近平国家主席は「融資金利を下げるため、国際開発金融機関や参加国の金融機関の参加を歓迎する」と言明。

 中国企業の落札を融資条件にする「ひもつき融資」は、OECD(経済協力機構)が制限しており、国際的ルール順守表明により、米国などからの非難回避を図った格好だ。

 また、習近平国家主席のこの発言には、別の意味もあるという見方が有力だ。つまり、中国以外の銀行による支援がなければ、一帯一路事業がもはや成立しにくくなっているというわけだ。

 世界のインフラ建設業界で通用する通貨は「ドル」で、中国の経済成長が鈍化、経常収支で赤字を強いられる状況では、中国政府がドルを無制限に供給することは不可能だからである。

 一方、多国籍の銀行が参入し、一帯一路の資金調達がグローバル化すれば、より透明性と公平性が求められる。その場合、中国の銀行や建設企業は、プロジェクトの契約を失っていくかもしれない。

 それは、一帯一路が進むほど「脱中国化」が図られることを意味する。

 これまでの中国の融資金利は6%前後と高く、マハティール首相がECRLの事業をボイコットした原因の一つだった。

 ECRL再開に漕ぎ着けた今、中国の国家威信を懸けて事業復活と受注を狙っているのがHSRだ。


 中国はG7のイタリアを一帯一路に取り込むことに成功したが、先進国・シンガポールを走り、日本も受注に躍起なHSRを獲得させることは、「先進国の仲間入り」を内外に示す絶好の機会になるからだ。

 プロジェクトの中止前、筆者が取材した中国政府関係者は異口同音に「中国政府の威信にかけ、是が非でも、勝たなければならない」と繰り返していた。

 「ライバルの日本に勝てることを世界に知らしめる」

 そうした焦りが中国にはあったのだろう。その足元をマハティール首相はしっかり見ていた。

 同首相は最近になって「長距離ならまだしも、今のような短距離(クアラルンプール~シンガポール間)では必要ない。やるなら、一気にタイまで延長させる方がいい」と廃止もちらつかせつつ、日本や欧州との競争を促すような発言で真意を煙に巻く。

 中国を懐柔策でたしなめるマハティール首相、融和策で対抗する中国。一帯一路を舞台に、小国と大国の国益を駆けた攻防は、表舞台からは想像もつかない熾烈な戦いが裏で繰り広げられている。

(取材・文 末永 恵)

【私の論評】債務のわな逃れ中国に勝利したマハティール(゚д゚)!

上の記事は、情報量は多いのですが、何やらあまりはっきりしない内容でした。私自身は、結局のところマハティールは中国に勝利したと思います。国対国の関係では、どちらか一方が完璧な勝利を収めるということはないし、ましてやマレーシアのような小国が中国という大国に勝てたのですから、マハティールは、大勝利したといえると思います。

老獪なマハティールは中国に勝利した

マハティールは中国との取引にあたり、あえてスリランカやパキスタン、フィリピンが取らなかった行動を取りました。中国政府を交渉テーブルに引き戻し、同国がマレーシアで進めてきたプロジェクトのコスト削減を実現したのです。

中国は先ごろ、同国が投資し、同国の業者が工事を請け負うマレーシア東海岸鉄道(ECRL)の建設費用を3割以上減額することに合意しました。これは、マレーシアのマハティール・モハマド首相にとって大きな勝利です。

マハティール首相は昨年行われた選挙で、中国の投資によって進められている国内の事業が自国より中国の利益になっていると主張。再交渉することを公約に掲げていました。

ECRL建設計画は、中国がグローバル化の新たな章を書き加え、自国にとって地政学的に重要な政策を推進するため、世界各地で進めている何十件ものインフラ整備事業の一つです。

公共政策コンサルタント英アクセス・パートナーシップの国際公共政策担当マネージャーは、中国には政治的・軍事的な野心があるとして、次のように述べています。

「中国の習近平国家主席は、東南アジアからアフリカまでを結ぶ広域経済圏構想“一帯一路”を通じて各国に自国の力を示すことにより、“中国の偉大な再生”を実現しようとしている」

「こうした中国の政治的・経済的な努力と南シナ海やアフリカ大陸における軍事力の増強は、いずれも世界の安全保障上、米国にとってますます大きな課題になっている」

中国が各国で請け負うインフラ事業の多くで抱える問題は、採算が合わないことです。中国がコストを膨れ上がらせ、各国に多額の債務を負わせているためです。この問題は、特にスリランカを苦しめています。

米誌「カレント・ヒストリー」4月号に掲載された記事の中で筆者らは、「中国が手掛けたいくつかのインフラ事業は、スリランカに恩恵をもたらした。だが、その他は同国を債務のわなに陥れた白い象(使い道がないのに維持費が高くつく無用の長物)だ」と指摘しています

それらには、深海港であるハンバントタ港やコロンボ・ポートシティ、マッタラ・ラジャパクサ国際空港などの建設プロジェクトが含まれます。

「法外な費用で進められたプロジェクトにより、スリランカは80億ドル(約8950億円、国の債務総額のおよそ10%に相当)という借金を抱えることになった。この金額は、スリランカが日本とインドに対して負っている債務の総額に近い。中国からの借り入れがほとんど収入をもたらさない疑わしいプロジェクトに使われたことに、多くの人がいら立っている」

「こうした状況は、中国が戦略的に重要な位置にある各国(ジブチやモルディブなどを含む)を債務のわなに陥れ、主要なインフラ施設を支配しているとの批判の声を高まらせてきた」

カレント・ヒストリーの表紙

マハティール首相が避けようとしてきたのが、この債務のわなです。首相は昨年8月にECRLプロジェクトの中止を発表。中国を交渉のテーブルに引き戻し、そして勝利したのです。

フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領とパキスタンのイムラン・カーン首相が大胆にもマハティールと同じ行動を取り、スリランカと同じ運命をたどることから自国を救おうとすることはあるでしょうか。

それは、まだ分からないですが、マハティールのやり方が良い手本になるのは確かです。小国であっても、様々な分析を行い、緻密な戦略を実行すれば、大国にも勝てるという良い事例になることでしょう。そうして、マハティールの姿勢は日本にも大いに参考になります。

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2019年5月2日木曜日

【日本の解き方】令和にデフレ脱却できるのか…最大の課題は消費税と財務省! 健全な経済感覚を持つべきだ―【私の論評】安倍総理はなぜ財務省に面と向かって逆らえないのか?

【日本の解き方】令和にデフレ脱却できるのか…最大の課題は消費税と財務省! 健全な経済感覚を持つべきだ




 「令和」の時代を迎えた。平成から持ち越したデフレから完全脱却はできるのか。平成の時代に大蔵省から改編した財務省という組織は、どうあるべきなのか。

 平成時代の財務省は年々ひどくなっていった。1989年4月の消費税3%創設はまだよかった。同時に物品税を廃止しているので実質的にあまり増税にならなかった。導入のタイミングも、景気はまだ悪くなかったので、ダメージは少なかった。

 97年4月の5%への消費増税はひどかった。これは政権運営に不慣れな村山富市政権を利用して、大蔵省(当時)の強い意向で導入された。そして、この増税は、平成のデフレ経済を決定的にし、景気は後退した。しかし、大蔵省は景気が後退したことこそ認めたものの、原因は消費増税ではなく、アジア危機のせいであると説明し、今日に至っている。

 14年4月の8%への消費増税はさらにひどいものだった。これも政権運営に不慣れだった民主党政権時代に導入した。民主党政権は当初、消費増税しないと公約していたが、財務省はこれを覆して野田佳彦政権時代に消費増税法案を成立させた。

 景気判断でもひどいことをした。景気判断の基礎資料である内閣府の景気動向指数をみると、消費増税によって景気後退になったのは素人目にも分かるはずだが、財務省はいまだに景気後退を認めていない。消費増税以外の原因を見つけられないので、景気後退そのものを認めないという戦術とも考えられる。

 こうした話は公の場で議論されることはまずない。というのは、財務省は消費増税シンパを各方面に作っているからだ。

 一つは財界である。消費増税は社会保障のためだと財務省は説明している。社会保障財源が問題ならば、本来であれば社会保険料を引き上げるのが筋だ。しかし、社会保険料は労使折半なので、引き上げると経営者側の負担も出てくる。そこで、財界は社会保険料の引き上げには消極的になる傾向が強い。そこで財務省は、法人税減税という「おまけ」をつけて、財界を籠絡した形だ。

 次に学会である。政府審議会委員への登用、その後は企業の非常勤社外役員への推薦などで、学者に便益を与えている。

 最後はマスコミだ。新聞への軽減税率はこれほど分かりやすいアメはない。日刊新聞紙法による現経営陣の擁護、新聞再販での保護などのほか、各種のリーク情報提供もあり、大半のマスコミは財務省をまともに批判できない。

 財界、学会、マスコミが財務省の庇護(ひご)者となるなかで、10月の消費増税を予定通りに実施するつもりだ。

 令和の時代にデフレ脱却できるかどうかの鍵は、消費増税をするかどうかにかかっている。これは日本経済最大の課題だ。

 そこでは、財務省が健全なマクロ経済感覚を持つかどうかにかかっている。財務省は、平成時代の景気判断や消費税に関する説明について猛省し、財政状況や社会保障状況、マクロ経済状況も、予断なく国民に説明しないといけない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】安倍総理はなぜ財務省に面と向かって逆らえないのか?

なぜ冒頭の記事のようなことがわかっていながら、安倍総理など財務省に逆らえないのでしょうか。それは、財務省は、政治家にとって恐ろしい存在だからです。それは安倍総理とて例外ではありません。

安倍総理はデフレ脱却への期待感から高い支持率を得てきましたが、消費税の10%への再引き上げでさらに景気が悪化すれば、支持率が急落する危険が高いことを感じているはずです。インターネット番組に出演した萩生田氏は、今年10月に予定される消費税増税を凍結する可能性にふれ、おまけに衆院解散の可能性すらにおわせました。

政治家の誰もが、まるで判を押したように、「財政再建のためには消費税増税が必要です」などという、わかりきったウソを述べます。政治家だけではありません。マスコミもそうです。

高橋洋一(元大蔵官僚)のような、気骨のある人間だけが、ネット上で財務省のウソを暴き立てているのです。ただし、高橋洋一氏は、元大蔵官僚だったので、大蔵省のすみからすみまで、裏の裏まで知っています。さらには、まだ表に出していない隠し玉もあると思います。

財務官僚が高橋洋一氏が目障りになった場合には、何らかの報復をする可能性もありますが、隠し玉があるかもしれないということで、大きな報復は受けないですんでいるという面もあると思います。

それにしても、財務省を怒らせると、いったい何がそんなに恐ろしいのでしょうか。財務省の意向に簡単に逆らえないのは、国民より財務官僚の信頼を失うことのほうが怖いからかもしれません。安倍首相は12年前の第1次政権でその怖さを身をもって経験しました。

当初は小泉政権から引き継いだ圧倒的多数を背景に公務員改革を進め、財務省の天下り先に大鉈を振るって政府機関の統廃合に取り組みました。ところが、半年経たないうちにその威勢は消し飛びました。

閣僚のスキャンダルや消えた年金問題がリークされ、支持率が落ち目になると、財務省は全くいうことを聞かなくなったのです。そうなると内閣はひとたまりもないです。

官邸は閣議の際に大臣たちが総理に挨拶もしない“学級崩壊”状態に陥りました。あの時のトラウマがあるから、安倍総理は政権に返り咲くと政府系金融機関のトップに財務省OBの天下りを認めることで7年前の償いをせざるをえなかったようです。

12年前安倍第一次内閣は崩壊

やはり12年前、安倍首相は新聞の宅配制度を支える「特殊指定(地域や読者による異なる定価設定や値引きを原則禁止する仕組み)」見直しに積極的だった竹島一彦・公正取引委員長を留任させました。その人事でさらなる窮地に陥ったのです。

財務省と宅配を維持したい大手紙側は竹島氏に交代してもらう方針で話がついていました。ところが、安倍総理が留任させたことから、財務省は『安倍政権は宅配潰しに積極的だ』と煽り、それまで親安倍だった読売などのメディアとの関係が冷え込んだのです。

財務省の天下り先を潰しただけで、それだけの報復を受けたのです。その後、自民党から政権を奪い、「総予算の組み替え」で財務省の聖域である予算編成権に手をつけようとした民主党政権の悲惨な末路を見せつけられたのです。

最近の事例では、獣医学部新設のときの文科省の抵抗をみれば、わかりやすいでしょう。あの事件の実態は、獣医学部新設を渋る文科省に対し、官邸主導で押しまくって認可させたという、ただそれだ出来事です。

これに怒った文科省は、腐敗官僚の前川を筆頭に、マスコミに嘘を垂れ流し、安倍内閣打倒に燃えるマスゴミがこれを最大限に利用して、ウソ記事のキャンペーンを大々的に行ったのです。

腐敗官僚前川

ただし、文科省とマスゴミのウソを見抜く人が結構いたため、安倍内閣の支持率はほぼ330~40%を保ち、選挙にも圧勝して、文科省とマスゴミの企みは脆くも崩れました。

しかし、安倍首相は、あのとき冷や汗をかいたに違いありません。三流の弱小官庁で知られる文科省ですら、あのくらいの抵抗し、猛然と牙をむくのだ。これが最強官庁の財務省なら、どうなるか、想像に難くないです。

現在ではすっかり忘れ去られてしまったようになりましたが、以前、テレ朝の女性記者が財務官僚のセクハラ発言を音声データにとって、週刊誌にタレこんだという事件が起こりました。

あのとき、マスゴミでは財務官僚のセクハラ発言ばかりに焦点が当たっていたようですが、実は問題の本質はそこにはありません。

あの問題の本質は、女性記者を介してマスコミに情報をリークしていたのが、財務省の主計局長だったということです。なんと、財務省の中枢が、安倍内閣のディすりネタをマスゴミに売り渡していたのです。

財務省は、政治の裏の裏まで知り尽くしています。ネタはいくらでもあります。ときの内閣が意に従わないと、ちょっとしたスキャンダルをリークして、内閣を窮地に陥れるくらいのことは平気でするのです。

こういうときの、省庁とマスコミのスクラムは固いようです。省庁と全マスコミが束になってかかられたら、これに対抗できる内閣など、そうはないでしょう。

安倍内閣は、いったんは見事にこれを凌いだのですが、そう何度も同じようなリスクを冒すつもりはないでしょう。

これは別に安倍首相に限った話ではなく、与野党を問わず、他の政治家も同様です。財務省の意向に逆らいそれが財務省に不利になりそうであると財務官僚がみなせば、個人に対してもそのようなことをするようです。だから、エコノミストなどの識者もなかなか財務省の意向に逆らえないのです。

だから、誰もが「増税反対」などというようなことは、口をつぐんでしまうのです。野党は増税には反対しているようではありますが、それは財務省からみれば、何の障害にもならないので、無視しているだけです。そもそも、野党のほとんどが、国民生活や経済理論などとは無関係に、倒閣の一環として増税反対を利用しているだけです。

上の記事で、「令和の時代にデフレ脱却できるかどうかの鍵は、消費増税をするかどうかにかかっている。これは日本経済最大の課題だ。そこでは、財務省が健全なマクロ経済感覚を持つかどうかにかかっている」としていますが、私自身は財務省が健全なマクロ経済感覚を持つことはできないと思います。

安倍総理としては、直前まで「増税凍結」などおくびにもださずに、時期がくれば、「増税凍結」を選挙の公約として、参院選もしくはこのブログで以前から掲載しているように衆参同時選挙を戦うと思います。そうして、勝利すれば、さすがに財務省もこれには抗えないでしょう。安倍総理は実際過去には、二度この手で、増税を延期してきました。三度目の正直も大いにあり得ると思います。

しかし、これには財務省ま様々なキャンペーンで対抗してくるでしょう。では、どうしたら良いのかということになりますが、財務省に直接働きかけるということは難しいです。ただし、直接質問して、その矛盾をつくということはできるとは思います。実際に、「質問者2」というハンドルネームの人がそれを実行しています。

ただし、それにはある程度経済的な知識が必要ですし、時間にある程度余裕がないとなかなかできません。それは、できる人がやれば良いと思います。

それ以外にも多くの人ができることがあります。それは、新聞などのメディアを購読しないことです。テレビなども、見ないことです。それによって、マスコミの力を弱めるのです。さらに、財務省やメディアが間違った報道をした場合、その間違いを晒すのです。

田中秀臣氏 本人のtwitterより

自力で晒すことができない場合は、高橋洋一氏や田中秀臣氏などのまともな経済学者等の考えをSNSなどで拡散するのです。彼らは、財務省がトンデモないことを発表すると、すぐにそれに対する批判をSNS等で展開しています。これを意図して意識して拡散するのは、造作もないことです。

これは、すでに多く行われているのですが、これは効き目があります。実際「もりかけ」も先程の述べたテレ朝の女性記者のタレコミも、結局は安倍内閣を窮地に陥れることはできませんでした。これには、SNSが大きな役割を果たしていると思います。

私は、このようなことが、SNSのない数十年前に起こっていた場合、かなり深刻な問題になったのではないかと思います。

なるべく多くの人が、SNSなどで拡散すれば、財務省もマスコミもなかなか動きがとれなくなると思います。

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2019年5月1日水曜日

新天皇がご即位 令和幕開け―【私の論評】即位に関する儀式は本日だけではなく、約1年にわたってさまざまな儀式・行事が行われる(゚д゚)!


「退位礼正殿の儀」に向かわれる新天皇、皇后両陛下=30日午後,皇居・半蔵門

皇太子さまは1日、第126代天皇に即位された。30年余り続いた「平成」が終わり、「令和」に同日改元された。平成時代の天皇陛下は4月30日で譲位し、上皇となられた。天皇の譲位は江戸時代の光格天皇以来202年ぶりで、憲政史上初めて。天皇陛下は59歳で、戦後生まれの初の天皇となられた。陛下は5月1日、皇居・宮殿で皇位継承に伴う国事行為「剣璽等承継(けんじとうしょうけい)の儀」と「即位後朝見(ちょうけん)の儀」に臨まれる。

 皇太子妃雅子さまと皇后さまは、それぞれ皇后、上皇后となられた。秋篠宮さまは皇位継承順位1位の皇嗣(こうし)として、皇太子の役割を担われる。長男の悠仁さまが継承順位2位となられた。85歳の上皇さまは、これまで担ってきたほぼすべての公務を陛下に引き継がれた。

 上皇さまは4月30日午後5時、皇居・宮殿「松の間」で「退位礼正殿の儀」(退位の礼)に臨まれた。退位の礼では、歴代天皇に伝わる三種の神器のうち、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)の複製品と八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、公務で使われる天皇の印「御璽(ぎょじ)」、国の印章「国璽(こくじ)」を、側近が「案(あん)」と呼ばれる台の上に安置。安倍晋三首相は自然災害などで困難に直面した際、常に国民に寄り添われてきた上皇さまに「明日への勇気と希望を与えてくださいました」と述べた。上皇さまは国民に「心から感謝します」と改めて謝意を示された。

退位の礼には上皇后さまが陪席されたほか、天皇、皇后両陛下、秋篠宮ご夫妻をはじめ、女性を含む成年皇族方がご参列。安倍首相と閣僚のほか、衆参両院の正副議長、都道府県知事の代表と配偶者ら約290人も出席した。

 剣と勾玉などは5月1日午前0時をもって陛下に引き継がれた。陛下は1日午前に宮殿で行われる「剣璽等承継の儀」に臨み、続く「即位後朝見の儀」で、三権の長らと面会して天皇として最初のお言葉を述べ、即位を告げられる。

 今回の譲位は、平成29年6月に成立した、上皇さま一代限りで認める皇室典範特例法に基づいて行われた。

【私の論評】即位に関する儀式は本日だけではなく、約1年にわたってさまざまな儀式・行事が行われる(゚д゚)!
改元や、平成天皇のご譲位、令和天皇のご即位など、王室のある英国などは別にして、諸外国ではないことなので、海外で日本の即位がどのように受け止められているのかは興味深いです。実際どのように報道されていたのか、以下に掲載します。

英国 BBC

イギリスBBC放送のワールドニュースの見出しは、
Japan's new Emperor Naruhito succeeds father Akihito
”日本の新なるひと天皇が父あきひとを継いだ

日本では、天皇陛下とか皇太子さまと等と報道されていますし、名前は漢字で書かれているので、なんというお名前なのか多くの国民があまり馴染みがないですが、英語圏では、名前が報道されます。日本に興味のある海外の人のほうが日本人よりも名前を知っているかもしれないです。

天皇については、
The emperor in Japan holds no political power but serves as a national symbol.
” 日本の天皇は、政治的権力を持たず、国の象徴としての役割を果たす"と紹介しています。

その後、「儀式はいつ行われるのか」とか、「新天皇について我々が知っていること」とか「天皇家の家系図」などが紹介され、「日本の君主制はなぜ重要なのか」という内容にも踏み込んでいます。

米国 ニューヨークタイムズ
Emperor Akihito Abdicates, and a New Era Arrives in Japan
あきひと天皇が退位、そして新しい時代が始まる

5/1日本時間朝の時点でニューヨークタイムズに載っている記事は、昨日の退位式の模様のものです。

式典の写真と、まだ愛子さまが赤ちゃんの頃の新天皇家族の写真が掲載されています。記事では、主に新旧天皇の個人的な考え方について言及しています。

日本では、新聞は、天皇を個人として扱わず、個人として扱うのは週刊誌であるように思考えられているようです。このあたりが、日本と米国の違いのようです。

フランス ルモンド

今朝のルモンドのサイトには日本に関する記事が国際ページの中に2つありました。

ひとつは、
Au Japon, il n’y a pas de débat sur les fonctions de l’empereur
”日本では、天皇制について議論はない

もうひとつは
Quel bilan pour Akihito, l’empereur du Japon qui a abdiqué après trente ans de règne ?
”30年の治世を経て退位した天皇あきひとはどうなるのか"というものでした。

どちらも読者の質問に答えるという形で記事を展開しています。中では第2次世界大戦のことや天皇の行動や意見が日本社会に与える影響、宗教としての神道についても書かれています。

フランスでの日本の天皇は象徴とはいいながら、政治に結びついていると受け止めらているようです。英語でもフランス語でも天皇と皇帝は同じ単語。確かに、皇帝等と言われたら、日本語でも権力者であると受け止められるかもしれません。

中国 中国新聞網
日本德仁天皇5月1日即位,开启“令和”时代
”日本の徳仁天皇は5月1日に即位し、「令和」時代を迎えた"中国の新聞は令和が入っています。元号が見出しに入ったのは中国だけです。今ではもう中国で元号は使われていないのですが、漢字で表記されることもあり、なんとなく多くの人に馴染みがあるようです。記事の中には平成も昭和も出てきます。そうして、令和の意味についても述べられています。

そしてこの縁起のいい日に、多くの婚姻届けが出され、結婚式が行われる予定になっていることを紹介しています。これはほかの国の新聞にはない視点です。

また、新宿アルタのモニターに前天皇陛下が映し出されている街の様子の写真が採用されています。

安倍首相の発言も紹介されていて、日本が直面する社会問題についても触れています。

この記事がほかの国の記事と比べて日本の報道と一番近い内容が書かれていたと思います。日本に暮らした経験があり、日本語もよくわか記者が書いているのでしょう。中国は近くの国であるということがわかります。

ちなみに、中国は韓国などとは違い、天皇を直接批判することはないようです。それどころか、中国の高官などが天皇陛下に謁見すると、その高官の中国での権威が高まるようです。

これについては、他の国でも似たようなところがあります。なぜなら、天皇は英語ではEmpero(皇帝)ですが、現在でEmperorが存在する国は日本しかないわけですから、日本で首相と面談するよりも、天皇陛下に謁見するほうが、はるかに権威が高いものとみなされるのは当然といえば当然です。

特に現中国は過去の古代の中国とは完璧に断絶されていて、歴史が70年くらいの国ですから、格式とか権威にはこだわりがあるようです。


各国読者の天皇に対する興味は国によって違うようです。そのため、国によって報道の仕方に違いがでてくるのでしょう。英国の報道がいちばんニュースらしいものでした。基本的な知識をきっちり押さえたうえで、書いているいるという印象を受けました。また、どの国の新聞も天皇の名前を載せています。日本ではこのようなことは、ほとんどありません。

米国人は天皇陛下個人に興味があるようです。フランスでは政治に興味があり、中国では国民の暮らしに興味があるという印象を受けました。

このあと即位関連の儀式の模様も世界で報道されるでしょう。これは日本人でも一生に何度立ち会えるものではないため、その珍しさに興味があることでしょう。

昨日、前天皇陛下は最後の儀式である「退位礼正殿の儀」にのぞまれ天皇を退位され、本日、令和の時代を迎えました。午前には「剣璽等承継(けんじとうしょうけい)の儀」「即位後朝見の儀」が行われ、新天皇が即位されたことを初めて国民にお示しになられました。

誤解されがちのようですが、この2つの儀式では仰々しいことは行われず、極めてシンプルな内容で、それぞれ数分から10分ほどで終了しました。

『剣璽等承継の儀』は、宮殿のなかで一番格式の高い正殿『松の間』で行われます。よくテレビのニュース番組などで、ピカピカに光った板張りの大きな部屋でモーニング姿の新首相が天皇陛下から信任を受ける儀式の模様が流れますが、そこで使われている部屋といえば、わかりやすいかもしれません。

儀式では新天皇が侍従長より三種の神器と、天皇と日本国家の印鑑である国璽(こくじ)と御璽(ぎょじ)を受け取り、承継されました。三種の神器という言葉はよく使われますが、正式には天皇の継承権を保持される方だけが保有を許される“神物”という意味で、この儀式では三種のうちで八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)と草薙の剣(くさなぎのつるぎ)のみが継承されました。ちなみに草薙の剣の実物は熱田神社に置かれているため、『形代』、いわゆる複製品が使用されました。

「剣璽等承継の儀」に臨まれる新天皇陛下=皇居・宮殿「松の間」2019年5月1日午前10時32分

「即位後朝見の儀」は、新天皇が三権の長、つまり首相、衆参両院の議長、最高裁判所長官にお会いになられ、即位後としては初めてのおことばを述べられました。そのほかにも、皇族方、閣僚や地方自治体の長なども参列しますが、前日に天皇を退位された上皇と上皇后は出席されませんでした。

「即位後朝見の儀」でお言葉を述べられる新天皇陛下=1日午前、皇居・宮殿「松の間」

新天皇即位に関する儀式は本日だけではなく、約1年にわたってさまざまな儀式・行事が行われます。たとえば、3日後の5月4日には一般参賀、10月22日には祝賀御列の儀、いわゆるパレードが行われ、さらに10~11月にかけて複数日にわたり、国内外から多くの代表者を集めた祝宴や晩餐会が行われます。

平成天皇即位のときの祝賀御列の儀

注目の儀式はやはりパレードでしょう。新天皇はモーニング、そして新皇后の雅子さまは華やかなロングドレスとティアラをお召しになられて、参道に集まった人々に笑顔で手をお振りになられ、日本全体が大きな祝福ムードに包まれるでしょう。

このほかには、大嘗祭も注目されます。新天皇が国民の安寧と五穀豊穣を祈念される祭礼で、皇位継承に伴い一世に一度しか行われない重要な儀式です。儀式のなかで行われる事柄や決まり事が非常に多く、平成の大嘗祭は午後6時半から始まり約9時間もかかりました。

平成の大嘗祭

今回も11月14日の夕方ごろから翌日未明にかけて行われる予定です。ちなみにこの大嘗祭は、実は具体的にどのようなことが行われているのかは秘密となっており、内容がほとんど知られていないことでも有名で、儀式が執り行われる大嘗宮は27億円かけてつくられますが、終わるとすぐに撤去されてしまいます。

代替わりという“国家的行事”だけに、私たち国民にとっても一生のうちで何度も立ち会うことのできない貴重な体験となりそうです。

このような儀式が1000年を超えて継承されてきたということに、畏敬の念を覚えます。

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2019年4月30日火曜日

「脱原発」は世界の流れに逆行する―【私の論評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い(゚д゚)!

「脱原発」は世界の流れに逆行する

メディアが報じない欧米・アジアの大半が「原発推進」という現実

フランス中部のサン・ローラン・ヌーアンにある、サンローラン・デ・ゾー原子力発電所
  (2015年4月20日撮影、資料写真)

2018年9月12日の日本経済新聞電子版は「世界の原発発電、30年に10%以上減少 IAEA報告」という見出しの記事を報じた。

 この見出しだけを見ると、IAEA(国際原子力機関)でさえ「脱原発」を予測しており、まさに脱原発は世界の流れなのだ、と多くの読者は思い込んでしまうだろう。

メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないこと

 だが、記事本文を読むと、前段で「17年に392ギガワットだった発電容量は、最も低く見積もった場合で30年に352ギガワットまで減少すると予測」と書いているものの、後段では「最も大きく見積もった場合、原子力発電の発電容量は30年に511ギガワットに拡大するとみている」と書いている。

 要するに、IAEAの予測は、「30年までに、最低だと10%以上減少、最高だと30%以上増加」なのである。

 記事本文の全体ではバランスは取れているようだが、見出しには読者を脱原発へと誘導する恣意性を感じる。多くのマスコミ報道にはそうした傾向がある。

 バイアスのかかったマスコミ報道に踊らされないためには、個人が「メディアリテラシー」を高める必要がある。筆者は今年3月、東京・八重洲ブックセンターで開かれた西澤真理子氏の出版講演会を聴きに行ってきた。リスクコミュニケ―ションの専門コンサルタントである西澤氏は、福島第一原発(1F)事故後の2011年9月から福島県の浜通りに入り、現地で放射能に関する様々な誤解の除去に努めた人物だ。

「メディアリテラシーとはメデイアを安易に信用しないことである」

 西澤氏は講演会で歯切れよくこう語った。「メデイアリテラシー」とは、一般的には「メディアが報じる情報を主体的に読み解き、理解する能力」とされるが、さらに踏み込んで「メディアを安易に信用するな」というのである。

 というのも、「日本人はメディアに接すると、なんと7割の人が信じてしまう。ドイツは4割、米国は2割しか信じない」(西澤氏)という日本人固有の性向があるからだろう。偏向報道であっても、メディアでいったん報じられれば、それをそのまま信用しやすい性向が私たち日本人にはある。

 確かに、フィンランドの原子力施設をほんのちょっと見学してきただけで、「まだ原発を進めていかなきゃいかんという勢力がいて、これに任せてはならない」と叫び始めた小泉純一郎元首相の思い付きの言説が報じられると、その後の世論調査で約6割が原発反対(=潜在的な原発ゼロ支持)といったレポートが出てくるのが日本だ。これもその性向のせいなのかもしれない。

 原子力との付き合い方を考える上でも、まずは事実を正確に把握することは何よりも大切だ。以下では、小泉元首相も誤解ないし曲解している「脱原発は世界の流れ」であるはずの海外諸国の現況を紹介しておきたい。これらは、国内メディアで報じられることがほとんどない。

脱原発は世界の流れではない

 現在も原発を利用しており、将来的にも利用しようとしている国は、米国・フランス・中国・ロシア・インド・カナダ・英国など19カ国ある。

 現在は原発を利用していないが、将来は利用しようという国は、イスラエル・インドネシア・エジプト・サウジアラビア・タイ・トルコ・ポーランド・ヨルダン・UAEなど14カ国に上る。

 そして、現在は原発を利用しようとしているが、将来は利用を止めようとしている国は、韓国(2080年閉鎖見込み)、ドイツ(2022年閉鎖予定)、ベルギー(2025年閉鎖予定)、台湾(2025年閉鎖予定)、スイス(閉鎖時期未定)の4カ国・1地域。韓国の駐日大使館員は、米朝首脳会談の行方を勝手に楽観視しているのか、ロシアの天然ガスを北朝鮮経由パイプラインの敷設を通じて韓国に導入する予定だと公言している。

 さらに現在も将来も原発を利用しない国はイタリア(1990年閉鎖済み)、オーストリア、オーストラリアの3カ国。

 この他に、スタンスを明らかにしていない国が多数ある。

 下記に掲載した資料を見れば、原発ゼロの国や、原発ゼロを目指している国がいかに少ないか、よく分かるだろう。脱原発は「世界の流れ」にはなっていないのだ。


原発輸出に熱心なロシア

 少し長くなるが、主な諸外国の実情に触れておきたい。これは筆者が駐日の各国外交官・大使館員から聴取した話などをまとめたものだ。

<米国>
 米国のエネルギー自給率は約9割(2017年)。コスト合理性あるシェールガスや石炭を保有する一方で、原子力や再エネも進めている。トランプ大統領自身の原子力に対する関心の度合いは不明だが、側近である安全保障の専門家たち原子力推進の牽引役を担っているのは間違いない。

 近年、新型原子炉である小型モジュール原子炉(SMR)に注力し始めている。現行の大型原子炉は、1基当たりのコストが高く、建設期間が6~7年と長いので資金調達面でリスクがあるからだ。

 GE日立が進める小型モジュール炉「BWRX」(30万kW)については、低コストを理由として英国が関心を寄せている。

 また、NRCは「NEXIP」(Nuclear Energy × Innovation Promotion)と称して、次世代の原子力技術開発の検討を進めている。ビル・ゲイツ氏が出資する原子力企業テラパワー社も前向きで、日本にも秋波を送っているようだ。

<ロシア>
 ロシアは、ロシア型加圧水型原子炉「VVER」(110万kW級)を携えた「原発輸出ビジネス」を展開している。その技術水準は相当高く、国際的な評価も高い。フィンランド・オルキルオト原発4号機に係る受注を受けたという情報もある。

 ロシアは、原発を導入した当初から、核燃料サイクルの完結と高速炉の開発を積極的に進めてきており、世界的にも突出して高い技術を有している。現在、BN-600(60万kW)とBN-800(88万kW)の2基の高速炉が稼働実績を重ねてきており、大型商用炉BN-1200(120万kW)の建設も計画されている。

<中国>
 中国では18年に、AP1000(三門1号)とEPR(台山1号)の最新2タイプの原発が竣工しており、国産第3世代炉である華龍1号が建設中である。中国は、今や原子力技術も先進的であり、日本としても学ぶべき国となっている。中国国務院は、原発に関して、2020年の運転中設備容量を5800万kW、建設中設備容量を3000万kW以上とする目標を掲げている。

 フランス・オラノ社が、フランス国内のラ・アーグ再処理工場とメロックスMOX燃料加工工場をモデルとして、年間処理能力800トンという再処理・リサイクル工場を中国に建設するプロジェクトを進めている。このように、中国は核燃料サイクルにも本腰を入れ始めている一方で、天然ガスを豪州やカタールから輸入し、今後は米国からも輸入していく予定であるなど、エネルギー多様化にも注力している。

<インド>
 インドでは22基の原発(大半が国産の22万kWの小型重水炉PHWR)が稼働しているが、電源比率は3%程度に過ぎない。そして、慢性的な電力不足を補うために、大規模な原発拡大を計画中で、2024年までに発電能力を3倍に増やすとしている。しかしその実現はかなり厳しいと言える。

 現時点では新たに7基が建設中。内訳は国産の重水炉4基(カルクラパー原発、ラジャスタン原発に各2基。1基当たり70万kW以上)、ロシア製の軽水炉VVERをクダンクラム原発に2基(1基は完成済み)、国産の高速増殖炉原型炉をカルパッカム原発に1基となっている。

 それでも計画の達成には程遠いのだが、原発による発電比率が低いのは、インドが原子力供給国グループ(NSG)に加盟できていないことが大きな原因になっている。NSGとは、核兵器開発への技術転用が可能な原子力関連資機材の流通規制を目的とする国際的枠組みで、現在48カ国が加盟しているが、インドは含まれていない。そのためインドは、長らく原発に関する資材や機材の輸入が出来ない状況にあったが、2008年になってNSGのガイドラインが修正され、インドに対する関連品目の供給がようやく認められるようになったという経緯がある。

 そのため原発拡大計画を目指すインドに対して、ロシア、フランス、米国は大型軽水炉の建設を目論んでいる。今年3月には、米国からインドに向けて原発6基を輸出することで合意したと、両国政府が発表している。

原子力技術が空洞化した英国

<英国>
 英国は、北海油田の枯渇を見据えて、エネルギーの安全確保・安定供給・コスト低減による経済成長・低炭素を目指している。以前、石炭の電源比率は20%を占めていたが、今は7%にまで低減、将来的に全廃する予定になっている。原発は、2030年までに既設プラントは全て閉鎖するが、その代替として新設プラントにより電源比率30%を確保していく方針だ。

 こうした努力もあって2050年までにCO2などの温室効果ガス(GHG)を80%削減するための法律が制定されているが、すでに37%削減を達成している。電力業界では温室効果ガスの62%削減を推進し、輸送部門でEV(電気自動車)化を進める方針だ。「クリーン成長戦略」を掲げて、低炭素産業での雇用を拡大し、再エネのコスト低減も進めている。エネルギー関係の投資の半分は、安定供給・低コスト・低炭素に資する原子力に振り向けるという。

 英国はかつて原子力技術先進国だったが、長きにわたって原発新設を行ってこなかった結果、国内の原子力技術が空洞化してしまった。新設するヒンクリーポイントC原発は、フランスEDF(電力公社)によって進められることになったが、工事は順調に進んでいるようだ。

 現在、原発は15基が稼働し、電源比率は2割強。原発新設だけでなく、廃炉や放射性廃棄物・バックエンド対策も年20億ポンドを投じて進めている。特に、セラフィールドではクリーンアップ(汚染除去)に取り組んでおり、地層処分も進めている。

 日立製作所が取り組んでいたホライズン社の原発計画は延期になったが、中国がアプローチを始めているとの情報がある。また、英国のロールスロイスが小型モジュール原子炉(SMR)に関心を寄せており、小型炉で英国の原発技術の再興を目指している。カナダもSMRには前向きである。

<フランス>
 フランスは資源小国であり、エネルギー輸入量を減らすために原発を積極的に利用している。原発比率は7割に上っており、周辺諸国に原発電気の輸出も行っている。それでも、エネルギー自給率は50~55%程度というのが現状だ。

 原発は安価かつ安定な電源で、安全保障水準の向上や低炭素化にも資する。EU(欧州連合)内ではもちろんのこと、世界的にも電力コスト負担は最も低い国の一つである。特に、再エネを推進する隣国ドイツと比べても、それは一目瞭然だ。

 フランスでは、使用済み核燃料は、放射性廃棄物ではなく、「再利用率95%のリサイクル資源」と考えられている。日本と同様に、使用済み核燃料をMOX燃料に転換して利用する方向で進んでいる。

 フランス国内の原発は、19カ所・58基が稼働している。最新のものは第四世代の欧州加圧水型炉(EPR)で、フラマンビル3号(156万kW)として建設中だ。

 原発の運営主体には、EDF(電力公社)、日本からの投資も受けているオラノ社やフラマトム社、CEA(原子力庁)、ASN(原子力安全機関)、IRSN(放射線防護原子力安全研究所)、ANDRA(放射性廃棄物管理機関)などがある。福島第一原発事故後の対応として、32の追加安全基準を導入し、避難基準も新設した。

 直近の電源構成は、原子力7割、水力1割、再エネ1割、化石燃料1割となっており、今後さらに低炭素化を進めようとしている。原発に関しては投資額の大きさがネックになっているが、再エネはコストが低下しつつある。石炭・石油は今後数十年でゼロ化する予定だ。

 2025年までに原発比率50%・再エネ比率30~40%とする方針を2015年に宣言したが、2018年11月になって原発比率50%とする目標年を2025年から2035年に後ろ倒しした。原発比率が低下するのは古い原発を閉鎖するからで、新設も行うので全体の設備容量は変わらない見通し。

 フランス国内世論は、原発を受け入れることを極めて重要視している。原発の地元住民への情報公開を目的としたCLI(地方情報委員会)というものがある。様々な社会の構成員で組織され、対話や討論を促す。フランス国民は原発推進を評価しており、その便益・利益も広く理解を得られている。

2022年までの「脱原発」を決めたドイツだが・・・

<ドイツ>
 ドイツでは、再生可能エネルギーの導入を進めてきた。だが、不安定な再エネ(風力・太陽光)を補完する電源として火力発電の稼働が必要であるため、温室効果ガス排出量がなかなか減少しない。またドイツ北部に大量に導入された風力発電施設から、電力大消費地であるドイツ南部を結ぶ送電線の整備が、住民の反対があって捗っていないという問題に直面も直面している。

 2020年までに温室効果ガスを40%削減し、CO2フリー電源を50%にする計画だが、2050年までに温室効果ガスを80%削減するのは困難な見通しだ。また現在の電源構成で再エネ14%、原子力12%となっているところを、2022年までに「脱原発」を実現する予定。

ドイツ南部オブリハイムで、廃炉作業が進められる原子力発電所、2014年7月1日

 ただ、この突然の政治的決定により、電子力発電を行ってきたエネルギー会社は莫大な経済的損失を被ることになる。その損失に対する補償の規定を整備しようとしてはいるが、実際にそれが実現するか予断を許さない状況になっている。脱原発に大きく舵を切り注目を集めたドイツだが、実現の見通しはかなり険しくなっていると言えるだろう。

<東欧4カ国(チェコ・スロバキア・ポーランド・ハンガリー)>
 この4カ国は、どの原子炉が最適か、どのような資金調達方法が適切かについて、IEAに検討を依頼するなど、原発導入に向けて取り組んでいる。

 こうした動きの背景には、この4カ国がロシアの天然ガス依存に危機感を強めている一方、CO2排出量増大に繋がる石炭火力を削減するようEUから圧力を受けているという事情がある。ポーランドは、高温ガス炉についても関心を寄せている。

世界の大半は「脱原発」ではなく「原発推進」

<サウジアラビア>
 サウジアラビアでは、8基の原発新設が予定されている。米国・中国・ロシア・フランス・韓国の5カ国が受注を目指している。米国はウェスチングハウス社の受注を目指しているが、「カショギ事件」の影響がどう出るか。ロシアの原発輸出も相当進展している模様。

<アセアン>
 フィリピンでは、ロシアの原発新設が進んでいる。インドネシア・タイ・カンボジアでは、中国が原発ビジネスを進めている。

――ここまで見てきたように、世界の大半の国々は「脱原発」どころか、「原発推進」だ。上記の国々の中で唯一、脱原発に取り組んでいるドイツもかなり混乱している。

 そうした中で日本の姿は、福島第一原発の事故以来、原発についてまるで「思考停止状態」に陥っているかのように見える。

 世界の潮流に逆行しながら、未来のエネルギー戦略を正しく描けるのだろうか。次回は日本の現状と、今後取るべき方策について詳しく述べてみたい。

【私の論評】「脱原発の先進国ドイツを見習え」という考えの大間違い(゚д゚)!

冒頭の記事では、「脱原発に取り組んでいるドイツもかなり混乱」としていますが、ではどのような混乱ぶりなのか、より詳細に以下に掲載します。

『FOCUS』誌の最新号によると、INSA研究所が3月19日と20日に行ったアンケート調査の結果、回答者の44.6%が、原発の稼働年数延長に賛成を表明したといいいます。一方、3分の1の人は反対。22%が「わからない」だそうです。

あれほど自分たちの脱原発計画を礼賛していたドイツ人が、今になって「稼働延長」だの、「わからない」だのと言っているとすれば、ひどい様変わりです。

ドイツは、福島第1の原発事故の後、2022年ですべての原発を停止すると決めました。多くの日本人が手放しで賞賛したメルケル首相の「脱原発」政策です。脱原発政策自体はシュレーダー前首相の時からありましたが、それをメルケル首相が急激に早めました。

さらに彼らは今、空気を汚す褐炭による火力発電もやめ、その上、2038年には石炭火力まで全部廃止するという急進的な計画に向かって突き進んでいます。

ドイツは石炭をベースとして成り立ってきた産業国なので、石炭と褐炭の火力発電がなくなれば、炭田、発電所、そして、その関連事業の林立する地域で膨大な失業者が発生して、ドイツ全体を不景気の奈落に落とすことは目に見えています。だから、石炭・褐炭火力の廃止を決めたは良いのですが、いったい、それをどうやって実行するかは検討中のままで、なかなか結論が出ません。

その上、さらに困るのは、原発と石炭・褐炭火力のすべてが無くなれば、電力の安全供給が崩れることです。原発を止めると決めた段階でさえ、すでにそれを警告していた人や機関は多くあったにもかかわらず、主要メディアはその警告を無視し続けました。その代わりに、「自然エネルギーでドイツの電気は100%大丈夫!」という緑の党や、一部の学者や、環境保護団体の主張ばかりが報道されてきたのです。

しかし、いくら何でも、2022年というリミットが近づいてくると、そんな夢物語ばかりでは済ませられなくなってきました。

いうまでもなく、太陽光や風力といった再エネ電気は天候に左右されるので、供給が不安定です。再エネ派は、「余った電気を蓄電しておけば問題なし」というが、採算の面でも、技術の面でも、まだ、それができないから困っているのです。

大々的な蓄電方法が完成しない限り、石炭と風力以外にたいした資源を持たない産業大国ドイツが、再エネだけで電気需要を賄えないことは、少し考えれば中学生でもわかります。いくら送電線が繋がっているとはいえ、産業国の動脈である電気を、他国からの輸入に依存するわけにはいかないです。

つまり、原発と石炭・褐炭火力が本当になくなれば、頼りになるのはガスしかなく、その重要性は、将来ますます高まるわけですが、建設が遅々として進まないのです。なぜかというと、ガス火力発電所を建設しても、今の状態では、これまた採算が合わないからです。揚水発電所も同じです。

採算の合わない理由は要するに、再エネが増えすぎたせいです。再エネで発電した電気は、法律により、優先的に電力系統に入ることになっているので、太陽が照り、風が順調に吹くと、系統が満杯となります。系統が満杯になると、大停電の危険が高まるので、火力など他の発電施設が発電を絞って調整しなければならないのです。

それでも電気が余れば、捨て値で外国に流します。それを緑の党などは、「ドイツが再エネ電気の輸出国になった」と喧伝していますが、赤字分は国民の電気代に乗せられています。要するに、ドイツの電力供給の現実は、時々刻々と変化する需要に合わせて計画的に発電することが叶わず、火力の発電量も、結局、お天気任せという状態なのです。

しかも、再エネ電気の氾濫で、電気の市場値段は恒常的に押し下げられていますし、当然、火力発電の総量は減っています。だから、とくに、原価の高い天然ガスは、稼働しても絶対に赤字となるため動かせないのです。こんな状態で、新規の投資が進まないのは当然です。

稼働する石炭化学発電所。昨年9月ゲルゼンキルヒェン

4月1日に、BDEW(Bundesverband der Energie- und Wasserwirtschaft = エネルギーと水経済のドイツ連合)が、現在、建設予定の2万キロワット以上の発電施設のリストを公表しました。それによれば、進行中のプロジェクトは60以上あります。すべて、将来の電力の安定供給のためのものです。

その中で、実際に建設中のものが10ヵ所。そのうち4つが天然ガスで計57万2000kW、5ヵ所がウィンドパークで計152万8000kW、残りが、なんと、石炭火力発電所で105万2000kWもあります。石炭による発電を2038年に止めると決めたのは最近のこととはいえ、これはどうなるのでしょうか。

一方、まだ建設に取り掛かっていないプロジェクトはというと、ガス火力の19ヵ所が計画中で、8ヵ所が許可申請中、3ヵ所が認可済み。ウィンドパークは、認可済みが17プロジェクト。バイオマスは2プロジェクトが計画中。揚水発電プロジェクトは、計画中が1つで、申請中が2つ。そして、石炭とバイオマスと水素のコンビ型発電所が1カ所、申請中となっています。

しかし、BDEWのCEOシュテファン・カプフェラー氏によれば、「ドイツの市場は目下のところ、必要な発電所を建設するための条件を満たしていない」。送電線建設も、電力の安定供給も、電力系統を支えるための運営資金も、すべてがドイツのエネルギー政策の不手際の下で滞ったままなのです。

そして、「ドイツはそれを知りながら、何の対策を施すことなく、遅くとも2023年にやってくる安定供給の崩壊に向かって歩んでいる」そうです。

結局、国民が負担を強いられる

しかし、現実問題として、EUのCO2規制はどんどん厳しくなります。2018年12月のポーランドのCOP(気候変動会議)において、EUは2030年までに、1990年比でCO2を40%削減という意欲的な目標を掲げました。

ドイツは2020年までのCO2削減目標は、すでに達成できないことがわかっているのですが、この2030年の目標は絶対に守れると見栄を切っています。しかし、それが達成できるかどうかは、まさにCO2の排出の少ない発電所を十分な数、新設できるかどうかにかかっています。そうでなくては、カプフェラー氏のいう通り、安定供給が崩壊し、産業が大打撃を受けます。

BDEWの試算では、石炭火力を2030年に本当に止めるなら、その時点で再エネの発電量を全体の65%まで引き上げる必要があります。

再エネの中で頼りになるのは、太陽光ではなく、ドイツ北部、あるいはバルト海、北海などの洋上風力なので、それを南の工業地帯に運んでくる送電線も早急に建設しなければならないはずです。ところが、現在、主要な超高圧送電線は、各地で巻き起こっている住民の反対運動で、そのルートさえ定まっていない状況です。

ドイツ北海での風力発電

しかも、それと並行して、風の吹かない時や、太陽の吹かない時にすぐに立ち上げられる「お天気任せではない発電所」、つまり、ガス火力発電所の増設も必要です。

ただ、ガス火力は最終的に、お天気任せの再エネのバックアップという立場であり続けることから、待機時間が多く、儲からないです。そこで建設の費用にも、その後の待機費にも、莫大な補助金が注ぎ込まれることになるでしょう。それらは税金ではなく、すべて電気代に乗せられている「再エネ賦課金」で賄われることになるのです。

結局、国民は、再エネにもガスにも多額の負担を強いられることになるのです。

ちなみに「再エネ賦課金」は、日本の電気代にもきちんと乗せられています。再エネの買取費用もここから出ているので、将来、再エネ施設が増えれば増えるほど、「再エネ賦課金」も増えていくことになります。電力系統は、日照時間の多い日はすでに満杯になっています。ドイツの話は、対岸の火事ではありません。

かつて緑の党は、エネルギー転換による電気代の増加は、国民にとって月にアイスクリーム1個分の負担でしかないといいましたが、今やドイツの電気代は天井知らずで、EU国で1番高くなってしまいました。しかも、まだまだ上がる予定です。

ドイツ国民の間では、「脱原発」決定当時の感動はすでに雲散霧消しています。これからさらに真実が明らかになるにつれ、なぜ、あのような話を丸ごと信じてしまったのかと、夢から覚める国民はますます増えるでしょう。

欧米・アジアの大半が「原発推進」という現実と、2022年までの「脱原発」を決めたドイツが大混乱している現実を考え合わせると、脱原発などと大声で絶対善であかのように単純に主張するのはいかがなものなのかと思ってしまいます。脱原発はそのように軽々しく論じることができるものではないです。

人間は常にプラス=ベネフィット(利益)とマイナス=リスク(危険性)を考えあわせながら、現実的な判断をしてきました。原子力をやるリスクとやらないリスクがありますが、国家、社会レベルで考えたとき、ある程度のリスクがあっても、それを相殺するだけのプラスがあると思われるときには、それを実行する理性的な判断力が求められるのです。

私自身は、当面まともな代替エネルギーが出現するまでは、原発を維持するのが日本の進むべき道だと思います。それまでは、完璧な脱原発などとんでもありません。

怖いから、嫌いだから、ということだけで原発ゼロにしてしまったら、日本はどうなるでしょうか。信頼できる安定的な電気が失われると、日本は沈没してしまいます。そのようなことは、事故があるからといって、日本では自動車を使わないことにしてしまえば、どうなるかを考えあわせるとすぐにわかると思います。

ちなみに、日本国内で、事故を起こさないために、自動車の運用をすべて停止したとしたら、どうなることでしょう。日本が自動車の運用をやめても、他国はそのようなことは絶対にしません。

そうなれば、いくら通信インフラが整っていたとしても、それに物流が追いつかず我々は、江戸時代のような生活を強いられることになります。とても、まともに経済発展などできません。それだけならまだしも、現在助かるような疾病でも多くの人々が亡くなることになります。

明治維新になってはじめて、政府が日本人の平均寿命の統計をとったときの日本人の平均寿命は何歳だったかご存知ですか?実は、38歳だつたのです。新生児の死亡率の高さも平均寿命の短さに寄与していますが、それにしても信じられないような短さです。脱原発をしてしまえば、このようなことも起こり得るのです。

東日本大震災の、事故後、原発の安全性はどこまで向上したでしょうか。 世界で最も厳しい新規制基準を作ったのが、極めて高い独立性と権限を持つ原子力規制委員会と原子力規制庁です。津波防護壁の設置と建屋の防水化、電源車や可搬式ポンプ・移動式ポンプ車などの配備、過酷事故への備えも万全です。福島事故の再来があっても、必ず防ぐことができます。

その上で、現在のような不安定な再生エネルーギーではなく、新たなエネルギー源がでてくる時期を待つべきです。こんなことを言うと楽天的といわれるかもしれませんが、100年前の都市の最大の環境問題は何だったか皆さんご存知ですか?

100年前というと、一部の都市などでは、大気汚染などもで初めていましたが、最大の環境問題は馬糞の処理でした。なにせ、馬が最大の交通機関であった時代です。この問題など、もう随分前から、すべての都市で解消されています。

100年後には、原発など過去の遺物になっているかもしれません。ただし、100年後そうであるからといって、現状で単純に脱原発を推進するというのは無責任というものだと思います。

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2019年4月29日月曜日

【日本の解き方】失敗続きだった平成の日銀、バブル潰し実体経済も潰す 黒田体制で大転換も道半ば…―【私の論評】日銀の平成年間の過ちを繰り返させないように、令和ではまず日銀法を改正すべき(゚д゚)!



異次元緩和で雇用を好転させた黒田総裁だが、インフレ目標達成は道半ばだ

平成の時代、金融政策をつかさどる日銀は、バブル崩壊や日銀法改正、リーマン・ショックなどを経て、現在の黒田東彦(はるひこ)総裁体制で大きく政策転換した。

 平成はバブル絶頂期で始まった。1989年(平成元年)1月の日経平均株価は3万円台でスタートし、年末には3万8915円まで上昇、これがピークだった。

 まもなくバブルは崩壊したが、その前後において、日銀はひどかった。それは、もし現在のような「2%のインフレ目標」があったら、という思考実験をしてみれば分かる。当時はインフレ率が高くなっていなかったので、金融引き締めは不要だったはずだ。

 それなのに、「平成の鬼平」とマスコミから持ち上げられた当時の三重野康総裁は、「バブル潰し」と称して、不必要で、しかも実体経済に悪影響を及ぼす金融引き締めを行った。それは、バブルを潰すばかりか、実体経済も潰した。しかも、日銀官僚は間違わないという無謬性(むびゅうせい)神話があるために、この金融引き締めは正しいものとして、その後も引き締め基調が継続した。それが、平成デフレの引き金でもあった。

三重野康氏

 90年代半ばから、いわゆるデフレ経済に日本は陥った。見た目の名目金利は低水準だったので、多くの人は金融引き締めを意識しなかったのだが、インフレ率がマイナスになるとは、古今東西を見ても前例がほぼ皆無だった。名目金利は低くても、インフレ率がマイナスなので、実質金利は高く、経済成長は望めない状態だった。

 そうしたなか、1997年(平成9年)、日銀法が全面改正された。金融引き締めが若干改善したのは、小泉純一郎政権での2001年3月から福井俊彦総裁の下で量的緩和政策が実施されてからだった。しかし、06年3月にデフレ脱却を待たずに量的緩和が終了する。その後、日本では景気が下り坂の中で、08年9月リーマン・ショックが起こった。



 ここで、白川方明(まさあき)総裁率いる民主党政権下の日銀は、痛恨の政策ミスをしてしまった。大きな経済ショックへの対応策は、まず大胆な金融緩和だ。欧米の中央銀行は猛烈な金融緩和を行い、通貨量も大きく増加した。これに対し、日銀は動かず、円は猛烈に高くなった。リーマン・ショックでは日本は欧米に比べて直接の大きなダメージを受けなかったにもかかわらず、この円の「独歩高」が日本経済を低迷させた。

 12年12月に第2次安倍晋三政権が発足した。13年3月、黒田総裁体制になり、ようやく本格的な金融緩和が実施された。雇用の回復は驚異的であり、当初の想定どおりだ。14年の消費増税がなければインフレ目標2%もとっくに達成していただろう。

 しかし、16年9月からイールドカーブコントロール(長短金利操作)を導入したことで、以前と比べると緩和の後退となっている。このため、インフレ目標2%は達成できていない。デフレからも完全脱却とは言い難く、今一歩の状況だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】日銀の平成年間の過ちを繰り返させないように、令和ではまず日銀法を改正すべき(゚д゚)!

まずは、冒頭の記事の最後のほうにある、実質的緩和の後退ともなったイールドカーブコントローについて説明します。

イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)は、2016年9月の日銀金融政策決定会合で日銀が新たに導入した政策枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の柱のひとつです。

2016年1月から始めた短期金利のマイナス金利政策に加え、10年物国債の金利が概ねゼロ%程度で推移するように買入れを行うことで短期から長期までの金利全体の動きをコントロールすることです。

日銀は指定する利回りで国債買入れを行う指値オペレーションを新たに導入するとともに、固定金利の資金供給オペレーションの期間を1年から10年に延長することによりイールドカーブ・コントロールを推進します。

イールド・カーブコントロールなどせずに、インフレ目標2%になるまで、強力に量的緩和を進めれば、短期間で達成できたのでしょうが、こうしたコントロールをしてしまったため、実質的に緩和の後退となり、いつまでも達成できない状況になったといえるでしょう。

さて、その日銀ですが、令和に入ってからはどのような金融政策を行うのてしょうか。

日本銀行は25日の金融政策決定会合後の公表文で、金融政策の指針である「フォワードガイダンス」を修正し、大規模金融緩和による超低金利を「少なくとも令和2(2020)年春頃まで」続ける方針を示しました。

また、金融緩和の副作用軽減のため金融機関が日銀からお金を借りる際に差し出す担保の基準緩和などで円滑な資金供給や市場機能の確保を可能にします。

金融政策決定会合に出席するため、日銀本店に入る黒田総裁=25日午前

国内景気を下支えするため、短期金利をマイナス0・1%、長期金利を0%程度に誘導する現行の金融緩和策は維持します。国内景気の基調判断は前回3月の決定会合での見方を維持し、海外経済減速の影響を受けながらも「穏やかな拡大を続ける」と説明しました。

併せて公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では新たに示した令和3(2021)年度の物価上昇率見通しを1・6%とし、2%の物価上昇目標の達成がさらに遅れるとの見立てを示しました。実質国内総生産(GDP)成長率見通しは1・2%としました。

フォワードガイダンスでは、2%目標の達成が後ずれすることを受け、「消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間」維持するとしていた金融政策の実施時期を明確化した形です。

また、副作用の緩和措置では、日銀が保有する上場投資信託(ETF)を市場参加者に一時的に貸し付ける制度の導入も検討します。

黒田東彦(はるひこ)総裁は25日午後に記者会見を開き、フォワードガイダンス見直しの狙いや、経済、物価の見通しについて詳しく説明しました。

日銀は16年9月に、生鮮食品を除く消費者物価上昇率が安定的に2%の物価目標を超えるまで、マネタリーベース(銀行が日本銀行に預ける当座預金と日銀券発行額の合計額、金融政策の度合いを示す指標の一つ)の拡大方針を続ける「オーバーシュート型コミットメント」を導入しています。

このコミットメントから考えれば、21年度でさえ物価上昇率は2%に及ばないのだから、20年春頃どころか21年度も、いまの超金融緩和政策を維持継続するのは当然です。

2%目標の達成にメドが全く立たない以上、市場にとって今回のフォワードガイダンスの「明確化」はなんら驚きではありませんでした。

これによる市場の無反応は、日銀も予想していたと思います。効果はないにもかかわらず、なぜ日銀はフォワードガイダンスの明確化に踏み切らなければならなかったのでしょうか。

FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを休止、また償還後の国債再購入額を減らすバランスシートの縮小も停止しました。ECB(欧州中央銀行)も年内の利上げを断念しました。
世界経済の不透明感が強まるなか欧米中銀が路線修正を模索し始めるなか、日銀が何らかの政策対応をしないことで、円高などのリスクが高まる懸念がありました。

とはいえ、マイナス金利の深掘りは、金融機関からすれば収益を圧迫するという副作用があるとみられることになるでしょう。25日の記者会見で黒田東彦総裁は、この副作用を否定していましたが、国民生活より、銀行を重視する日銀の姿勢からすれば、言葉通りに受け取る向きはほとんどいないでしょう。

しかし、これは金融機関の儲けがなくなると、金融資本市場がうまく回らないという市場関係者の思い込み(自己保身)に過ぎないものです。

実際には、日銀が金融機関から「この金利水準では儲からないから何とかしてくれ」と常日頃、愚痴を聞かされているので、それを「副作用」と表現しているだけです。日銀としては金融機関のために金融政策を行うとは言えない建前があるので、市場機能の問題を前面に出して「副作用」を説明してきました。こうした複雑な背景があるので、一般の人には日銀が何を言っているのか理解できないと思います。

金融関係者は、実質的に縮小している国債買い入れ額を再び増やせば、長期金利の低下を招く。これも金融機関の経営にマイナスに作用するとみているのでしょう。

取り得る手段としては、ETF(上場投資信託)買入額の増額ですが、これは、今後、景気が後退期に入った際や、円高が進行した際の手段としてとっておきたいのが本音なのでしょう。

結局、超低金利政策の継続期間の明示しか日銀が取り得る手段はなかったのです。

今回のフォワードガイダンスの「明確化」と市場の無反応は、金融機関の意向を重視する日銀としては、物価目標達成に向けた日銀の手詰まり感を改めて浮き彫りにしたと言えるでしょう。

日銀が金融機関を重視するのは、金融政策を行う主体であるとともに、金融機関の監督という準行政的な機能もあるからです。前者をマネタリー、後者をプルーデンスといいます。

実は、日銀内の仕事としてはマネタリーの部分はごくわずかで、多くは「銀行の中の銀行」として金融機関との各種取引を通じたプルーデンスです。プルーデンスは「日銀官僚」が天下るときにも有用であるため、日銀マンの行動に金融機関重視がビルトインされているとみたほうが良いでしょう。

銀行の収益悪化は、人工知能(AI)対応が遅れたという構造的な側面もあり、必ずしも低金利だけが原因とはいえないです。

プルーデンス重視が、マネタリーに悪影響を与えては本末転倒です。マネタリーではマクロの物価と雇用だけをみていればよく、ミクロの金融機関経営は考慮されるべきではないです。

それにしても、このままでは令和に入っても、物価目標の目処がたたないことになってしまいそうです。

令和年間は、日銀法の改正をして、日本における中央銀行の独立性を世界標準のものとして欲しいものです。

ちなみに、中央銀行の独立性とは、日本では日本国の金融政策は中央銀行が政府など他から影響を受けず中央銀行が独立して行うものと解釈されているようですが、これは世界標準からみれば、全くの間違いです。

中央銀行の独立性とは、日本国の金融政策は政府が目標を定め、この目標を達成するために日銀は専門家的立場から、目標を達成するための方法を他から独立して選ぶことがきるというものです。

日銀の独立性を世界標準にすれば、日銀がプルーデンスを重視するため、まともな金融政策が実後できず、手詰まりになるということもないかもしれません。

日銀の独立性を世界標準にするのは、日銀法を変えるだけでできます。政府は、日銀法を一日もはやく改正すべきです。そうでないと、令和年間も平成年間と同じく、日銀が金融政策を間違い続けることになりかねません。

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2019年4月28日日曜日

米、WTO抗議の日本を全面支持 首脳会談で首相が謝意 改革連携で一致―【私の論評】日本は、TPP協定の規定をWTOに採用させるべき(゚д゚)!

米、WTO抗議の日本を全面支持 首脳会談で首相が謝意 改革連携で一致

夕食会を前に記念殺意するトランプ大統領とメラニア婦人(右側)、安倍首相と昭恵夫人=26日、
ワシントンのホワイトハウス

 ジュネーブで開かれた世界貿易機関(WTO)の紛争処理機関の会合で、韓国による福島など8県産水産物輸入禁止措置をめぐってWTOの上級委員会で主張が退けられ、抗議した日本の立場について、米国が全面的に支持していたことが分かった。安倍晋三首相は26日午後(日本時間27日午前)、米ワシントンで行った日米首脳会談でトランプ大統領に謝意を伝えた。両首脳はWTO改革で日米が連携していく方針も申し合わせた。

 複数の政府関係者によると、韓国のほか米国、中国など164の加盟国・地域が参加した26日のWTOの非公式会合で、米国の代表が「日本は科学的根拠に基づき、韓国の措置がWTO協定に非整合的であることを示している」と指摘した。その上で「上級委員会が実質的な理由なく判断を覆したのは遺憾だ」と述べたという。

12日、水産物輸入禁止措置を巡り、WTOで韓国勝訴の判断が出たことを喜ぶ市民団体=2019年
4月12日 ソウル

 会合で、伊原純一駐ジュネーブ国際機関政府代表部大使は「被災地の復興の努力に水を差す。極めて残念だ」などと抗議していた。

 WTOのあり方をめぐっては、首相は米国に先立ち訪問したベルギーで「産業で大きな変化が起こっているが、WTOは変化に追いついていない」と批判していた。上級委員会に関し「議論を避ける形で結論が出たり、結論が出るまでに時間がかかりすぎる」とも語り、6月に大阪市で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)でWTO改革を議論する意向を示した。

◇WTO訴訟をめぐる経緯

 東京電力福島第1原発事故後、韓国が福島など8県産水産物の輸入を禁止していることに対し、日本政府は2015年8月、不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴した。1審に当たる紛争処理小委員会(パネル)は昨年2月、禁輸は「不当な差別」と認めて是正を勧告したが、上級委員会は今月11日、1審の判断を破棄する報告書を出し、日本側の「逆転敗訴」が確定した。

【私の論評】日本は、TPP協定の規定をWTOに採用させるべき(゚д゚)!
4月12日、WTOの紛争解決上級委員会は、日本国政府が、放射能汚染を理由に課してきた韓国政府による日本産水産物の輸入規制を不服として訴えた件について、日本国側の主張を認めた小委員会の判決を取り消す決定を下しました。


WTOの紛争解決の仕組みでは、上級委員会が最終審となりますので、現行の制度では同決定を覆すことはできないのですが、この一件から今日のWTO、否、国際経済について議論すべき幾つかの論点が見えて来るようにも思えます。
第一の論点は、言わずもがな、WTOの紛争解決メカニズムの不備です。現代国家において採用されている三審制、あるいは、二審制の司法制度では、仮に上級審において下級審の裁判過程における不備が問題とされた場合には、同訴訟は下級審に差し戻されます。

つまり、差し戻しを受けた下級審において改めて同案件は審理され、判断が下されるのです。この場合、前判決が維持されるケースもあれば、逆の判断に至るケースもあります。ところが、現行のWTOのパネル方式の仕組みでは、差し戻しの制度が設けられておらず、下級審における不備はイコール判決の取り消しを意味してしまいます。

これでは、たとえ‘原告側’の言い分が正当であり、また、多大な被害や損害が生じていても救済の道が閉ざされているに等しく、司法面においてWTOは制度改革を要すると言わざるを得ないのです。

第二の論点は、自由貿易の推進機構として設立されたはずのWTOが、国家の輸出入規制に対して寛容な態度に転じた点です。米国のトランプ政権は、グローバリズムの原動力となってきたWTOに対しては脱退を示唆するほどに批判的でしたが、今般に見られるWTOの判決は、加盟国による貿易制限に対して好意的なのです。

上級委員会の説明によれば、第一の論点で述べたように、韓国側の規制を容認した理由は第一審である小委員会の判決手続きにありますが、仮に、自由貿易の推進を最優先とするならば、小委員会の手続き上の問題点を指摘しつつも自らが判断して然るべきです。

そうして、第三の論点は、農水産物分野における貿易規制の是非です。実のところ、韓国政府による放射能汚染を理由とした日本産水産物の輸入規制は、日本国民にとりましては、必ずしもマイナスではありません。

国民の生命に関わる食糧安全保障、並びに、国民生活と直結する農水産物の市場価格といった側面からしますと、輸出の拡大は、マイナス方向に働く傾向にあるからです。GATT時代におけるケネディ・ラウンドにあって、農産物も工業製品と等しく自由化の対象となったものの、完全なる自由化には農業の壊滅や食糧依存体質の深刻化といったリスクがあります(食糧輸入が途絶えた途端、国民は飢餓状態に…)。

日本国政府も、WTOの交渉に際しては常々高関税率を維持すべく苦心惨憺をしていますが、穀物輸出国以外の諸国にとりましては、自国の存亡にも関わるいわば‘防衛線’なのです。

こうした農産物の特殊性からすると、WTOにおける‘農産物も例外扱いせず’の姿勢が現状に適しているのか疑問なところです。むしろ、方向を転換して農産物を例外化し、自国優先の原則を認めた方が、よほど、世界は安定化するかもしれないのです。

以上に幾つかの主要な論点を述べてきましたが、WTOもまた、自由貿易原理主義的な従来の方針を見直さざるを得ない局面に至っているのかもしれません。貿易とは人々を豊かにこそすれ、食糧不安や経済的な危機を招く元凶となってはならないと思うのです。

さて、WTOは上でも述べたように、明らかに大きな欠点があります。私は、WTOは、日米が主導しつつ新たなものにつくりかえていくべきものと思います。特に、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けるべきと思います。

TPPというと、現状の中国は入りたくても入れません。中国はTPPに加入するということになれば、民主化、政治と経済の分離、法治国家化という構造改革を実施しなければなりません。これを実行しなければ、TPPには加入できません。

この構造改革を実施することになれば、中国共産党は、統治の正当性を失うことになるでしょう。それは中共の崩壊を意味します。

米国や中国がTPPに参加しない場合でも、1993年以降の世界貿易の変化を反映したTPP協定の規定をWTOに採用するように働き掛けることができます。これには、EUも賛成するでしょう。

TPPのルールを世界のルールにするのです。単なる先進国だけの提案ではなく、アジア太平洋地域の途上国も合意したTPPの協定をWTOに持ち込むことには中国も反対できないでしょう。

TPPのルールが世界の貿易ルートとなれば、中国は中共を解体してもTPP協定を含む新WTOに入るか、中共を解体せず新WTOにも入らず、内にこもることになります。内にこもった場合は、中国が待つ将来は、図体が大きいだけのアジアの凡庸な独裁国家に成り果てることになります。その時には他国に対する影響力はほとんどなくなっているでしょう。

いずれにせよ、TPPは加盟国だけではなく世界にとって、有用な協定になる可能性が高まってきたのは事実です。

ライトハイザーUSTR代表は12日、世界貿易機関(WTO)の指針は「時代遅れ」との認識を示しました。 ライトハイザー代表は、中国の台頭やインターネットの進化など、状況が変化しているにも関わらず、WTOがなお1990年代初期の指針に基づき運営されており、「時代遅れ」と指摘。

米国はこうした問題に対処するため、WTOの改革に向け取り組んでいると語りました。 また、米国が引き続き中国との貿易ルール改善に向け取り組んでいるとしたほか、貿易問題を巡り日本や英国などと進展していきたいとの考えを示しました。

米国には、このような考え方があるわけですから、日本がWTOを改革のため、TPP協定の規定をWTOに採用するように働きかければ、元々オバマ大統領時代に、米国がTPPを推進しようとしたわけですから、これに対して米国も賛同せざるを得ないと思います。



TPP協定の規定をWTOが採用することを決めた場合、トランプ大統領がTPPに入らないとする根拠は薄弱になります。

そうなると、米国はTPPに入る可能性もでてくることになります。日本としては、米国とともにTPP協定の規定をWTOに採用するように努力すべきと思います。TPPが加盟国だけではなく米国を含む世界にとって、有用な協定になるように日本は努力すべきです。

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2019年4月27日土曜日

日米首脳、蜜月“2時間”会談 米韓“2分”との差が浮き彫りに… トランプ氏、5月訪日決断のウラ―【私の論評】会談の背後に消費税問題あり(゚д゚)!


握手する安倍首相(左)とトランプ米大統領=26日、ワシントンのホワイトハウス

安倍晋三首相は26日午後(日本時間27日早朝)、ドナルド・トランプ米大統領とワシントンのホワイトハウスで会談した。北朝鮮の非核化や拉致問題、日米同盟の深化、貿易問題など、2時間近く、相当突っ込んだやりとりをしたという。トップ同士の会談がわずか2分程度だった、トランプ氏と、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領との首脳会談(11日)とは、明らかに次元が違うようだ。

 安倍首相「令和時代の最初の国賓として、トランプ氏ご夫妻をお迎えできることを大変うれしく思う」

 トランプ氏「非常に素晴らしいことで名誉だ。本当に楽しみにしている」

 両首脳による10回目の会談は、打ち解けた雰囲気のなか、両国や世界の懸案事項について、一つ一つ確認する場となった。

 「北朝鮮の非核化」については、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が25日に行った露朝首脳会談の結果を踏まえながら、「国際社会が一致して『北朝鮮の非核化』に取り組むことが重要」(安倍首相)との認識を確認した。今後の非核化プロセスについて、綿密に議論したという。北朝鮮への経済制裁は継続する。

 拉致問題については、安倍首相が、トランプ氏が2月の米朝首脳再会談で、正恩氏に問題を提起したことに謝意を伝えた。トランプ氏は「(解決に向けて)全面的に協力する」と明言した。

 日米貿易交渉については、安倍首相が「ともにウィンウィンとなる交渉を進めよう。必ずその結論を出すことができる」と伝え、トランプ氏と早期に合意を目指すことで一致したという。

 トランプ氏は、新天皇即位の重要性について、安倍首相から「(米国の国民的行事であるプロフットボールNFL王者決定戦スーパーボウルの)約百倍大事だ」と説明され、5月の訪日を決断したと語った。

 安倍首相は「日米同盟はかつてないほど強固だ。そのことを世界に力強く示す機会にしたい」と述べた。

 トランプ氏は、訪日時の相撲観戦について、「ずっと興味深いと感じてきた。優勝者にトロフィーを渡す」と興奮気味に語ったという。

 この日は、メラニア大統領夫人の誕生日で、安倍首相は昭恵夫人とともに誕生日会に出席し、翌27日にはワシントン近郊のゴルフ場でトランプ氏と一緒にプレーする。

【私の論評】会談の背後に消費税問題あり(゚д゚)!

トランプ氏はすでに5月と6月の訪日が決まっているので、今回の会談は、3カ月連続の日米首脳会談の一番最初の会談です。この異例の連続会談の裏に何があるのでしょうか。北朝鮮問題や日米通商協議がテーマと報じられたましたが、果たしてそれだけなのでしょうか。

私は、消費税引き上げ問題が絡んでいるのではないかと睨んでいます。今年10月に予定されている消費増税について、安倍晋三首相の側近でもある自民党の萩生田幹事長代行が「景況感次第で延期もあり得る」と言及し、波紋を呼んだことは先日もこのブログに掲載しました。


大阪12区、沖縄3区の衆院補欠選挙で2敗した自民党が、夏の参院選に向けて立て直しに動き始める中、3回目の「消費増税延期」というカードを切る可能性が指摘されています。その場合、衆参同日選挙が現実味を帯びます。

その決断を左右する大きな要素がトランプ米大統領の出方です。安倍首相はトランプ氏から直接、大詰めを迎えている米中貿易協議の見通しと、トランプ氏自身の増税に関する考えを聞いたうえで、増税延期を決断するかもしれないです。

決断まではいかなくても、消費税凍結あるいは見送りの有力な根拠を得た可能性が大だと思います。

日本から海外に輸出する場合、輸出企業は仕入れ時に支払った消費税の還付を受けるため、消費税がかからないです。トランプ政権はこれが輸出企業への補助金にあたり、不公平だと批判してきました。4月に行われた日米貿易交渉でも、この問題が取り上げられたと報道されています。

さらに、昨年は減税などを実施し、経済面で成果をあげたトランプ大統領からみれば、10%への増税は、恐るべきアイデアであり、最悪の選択としかみえないはずです。日本経済は成長していない上にさらに増税すれば、経済成長を取り戻すことはできなくなると感じているはずです。



トランプ政権と良好な関係を持つ安倍政権が、成長政策とは真逆の方向に進もうとしていることを残念に思っているでしょうし。日本政府が今すべきことは、消費税の増税ではなく、減税であると感じているでしょう。

外交では、トランプ大統領は安倍総理を頼りにしていますし、実際インド太平洋における安倍外交は米国をかなり助けたところがあります。インド太平洋地域には、米国の覇権を嫌う国々も多くあります。

おそらく、米国単独ではインド太平洋での中国への対峙はなかなかうまくいなかったでしょう。トランプ氏は、日本の安倍総理の橋渡しに感謝していると思います。




その安倍総理が、国内で消費増税をしようとしていることを残念に思うことでしょう。米中貿易戦争の激化、イギリスのEU離脱に伴う欧州経済の悪化など、経済運営の舵取りが難しくなる中で、今回の日米首脳会談において、トランプ氏本人の口から消費増税を批判された可能性もあります。

無論、トランプ大統領としては、安倍政権が消費増税で国民からの支持を失いレームダック化することを恐れていると思います。そうなれば、今後の中国との対決にも悪影響が出ることを懸念しているでしょう。

そうして、安倍総理自身も、6月には大阪でG20(主要20カ国・地域)首脳会議を控えています。そこでホストを務める日本の首相としても、自ら増税を決めて世界経済のリスク要因を増やすわけにはいきません。となれば、10月の消費税増税はかなり難しくなります。

安倍首相は、不安定化する景気と米国からの「圧力」、参院選に向けた自民党・政権の支持率を見極めつつ、「決断」を迫られる局面を迎えています。そうして、私としては是非とも消費税凍結を決断をして衆参同時選挙を実施していただきたいです。

そうすることにより、日米関係はさらに良好になり、国内では安倍総理は念願の憲法改正をやりやすくなります。さらに安倍総裁の四選も可能性も十分でてくるものと思います。

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