2019年10月17日木曜日

トランプは大差で再選される──最も当たる調査会社が予測―【私の論評】現時点で、トランプの再選はないと、どや顔で語るのは最悪(゚д゚)!

トランプは大差で再選される──最も当たる調査会社が予測
Historically Accurate Forecast Predicts Trump Win in 2020 
ニューズ・ウィーク

フロリダ州オーランドの選挙集会で再選への出馬表明をしたトランプ大統領夫妻(6月18日)

<1980年の大統領選以来、一度しか予測を外したことのないムーディーズ・アナリティカがトランプ勝利を予測する背景は>

2020年米大統領選挙をめぐる世論調査で、ドナルド・トランプ大統領は現在のところ、民主党の複数の有力候補に遅れをとっている。だが、正確さで定評のある大統領選予測モデルを擁する調査会社ムーディーズ・アナリティクスは、トランプが大差で勝つと予測している。

同社は、1980年以降すべての大統領選で勝者を的中させてきた。唯一外れたのは、トランプとヒラリー・クリントンが対決した2016年の大統領選だけ。もっともこの時は、他の予測もほとんどがクリントンの勝利を予測した。トランプ勝利を予測できたほうが例外的だ。

赤がトランプ(共和党)が勝つと予想される州、そして青が民主党が勝つと予想される州。
    ムーディーズ・アナリティクスは、トランプが激戦州を制すると予想

ムーディーズ・アナリティクスのマーク・ザンディ、ダン・ホワイト、バーナード・イェーボスの3人は、「2016年大統領選で予測が初めて失敗した理由の一つは、想定外の人々が投票に出かけたことだった」と書いている。

「我が社のモデルは、候補者がどの政党の支持者かという以外の個人属性を考慮していなかった。つまりトランプとクリントンの得票は、それぞれの所属政党の支持者の動向で決まると思っていたが、そうではなかった」

ムーディーズは、経済面で3つのモデルを使って予測を立てているが、いずれのケースでも、2020年の大統領選でトランプは少なくとも全部で538人の選挙人中289人を獲得する見通しだという。

市場の評価は今一つだが

3つのモデルのうち1つ目の「財布」モデルでは、経済についての3つの変数を重視している。ガソリン価格、住宅価格、個人所得の3つだ。いずれも、価格の変動が財布の中味に直結する。好調な米経済を背景に、トランプがいちばん大差で勝つのはこのモデルで、351人という圧倒的な選挙人を獲得する。

「有権者が主として自分の懐具合に基づいて投票した場合、トランプが圧勝するだろう」とムーディーズ・アナリティクスのリポートは書く。

2つめは「株式市場」モデルで、これがトランプにとっては最も厳しい。ここで重視するのは、スタンダード&プアーズ(S&P)500社株価指数とそこに組み込まれている優良企業500社の収益動向だ。米企業と株式市場は今、主にトランプの貿易政策をめぐる不透明感から悪影響を受けている。だからトランプに厳しくなるが、それでも、現時点ではまだトランプが勝つという予測になっている。

最後の「失業率」モデルでは、現在の低失業率が来年半ばごろまで続くという見通しを背景に、トランプの楽勝を予測する。

ムーディーズ・アナリティクスは、前回の大統領選では予測を外したものの、同社が2016年にトランプの大統領在任中の経済状況について行った予測は、おおむね現実になっている。

<参考記事>嘘つき大統領トランプがアメリカの民主主義を打ち砕く
<参考記事>民主党予備選で着実に支持を上げるエリザベス・ウォーレ

2016年、ムーディーズ・アナリティクスはトランプ政権下の経済について以下のように予測した。

「トランプの経済政策は、米国経済の孤立化を深める結果になるだろう。国際貿易と移民は大幅に減少する。貿易と移民の減少に伴い、外国からの直接投資も減少するだろう」

「この分析のもとになった経済モデルや根本的な仮定の正確さに若干の変動があったとしても、トランプの経済政策の影響に関しては、次の4つの基本的な結論が得られる。1) 米国経済の国際性が低下する結果になる。2) 政府の赤字と負債が増加する。3) きわめて高収入の世帯が主に恩恵を受ける。4) 米国経済が弱体化し、雇用が減少して失業率が上昇する」

もっとも、2020年の大統領選についてもまた外れる可能性はあると、ムーディーズ・アナリティカは警告する。トランプの経済政策には「詳細が欠けているため、定量化には複雑さが伴う」という。

「トランプという候補が過去の例からあまりにも逸脱しているために、モデルがうまく機能しない可能性もある」とザンディは述べる。「結局、モデル化できない原動力に結果を左右されていた、ということになるかもしれない」

【私の論評】現時点で、トランプの再選はないと、どや顔で語るのは最悪(゚д゚)!
米国のトランプ大統領は、日米メディアや、日米リベラル左翼からは史上最も人気のない大統領と思われているようです。政権はスタッフの入れ替わりが激しく、主要な政策を進めるのにも苦労しています。それでも、トランプ大統領が2020年に再選される可能性は高そうです。

トランプ大統領

ギャラップが4月17~30日世論調査では、トランプ大統領の支持率は約45%でした。これはオバマ前大統領の同時期の支持率とほとんど変わらず、前大統領は2012年に再選されています。

2011年4月中旬にオバマ前大統領が再選を目指すと発表した直後、その支持率は43%から45%あたりを推移していました —— まさにトランプ大統領のう4月の水準と同じです。

なお、ギャラップによると1995年4月中旬に支持率が46%だったクリントン元大統領も、再選を果たしています。

トランプ大統領には現職大統領として、資金集めの面で有利です。民主党候補には2月から3月にかけて数多くが名乗りを上げていて、立候補者の間で資金が割れてしまっています。

トランプ大統領は2019年の第1四半期に3000万ドルを集め、総額約4000万の現金が手元にあります。一方、民主党内の候補者としては、資金集めでリードしている民主党のバーニー・サンダース上院議員が第1四半期に集めたのは1820万ドル、カマラ・ハリス上院議員は1200万ドルでした。

同時に、有権者はトランプ大統領の経済政策を圧倒的に支持しているようです。これも再選を目指すトランプ大統領にとっては良いサインです。

直近のデータは、4月時点では、アメリカの雇用市場は依然として好調で、賃金も上昇していました。9月の米雇用統計は非農業部門の雇用者数が緩やかな伸びを示しました。これは製造業の軟調さが経済全体に広がっている兆しを示している可能性がある一方で、雇用の伸び鈍化は予想の範囲内で基本的には労働市場は健全であることが単に示されただけかもしれないと受け止められています。

消費マインドも4月には不況以来、最も高い水準に近いことを示していました。8月の米小売売上高で、前月比0.4%増と、市場予想の0.2%を上回る大幅な伸びとなりました。これらを見る限り、米中冷戦によね製造業のマインド悪化が雇用や賃金、個人消費など、人々のおサイフや消費行動にまで波及している様子は伺えないです。そうして過去のデータを見ると、経済が好調だと大統領の再選の可能性が高まることも分かっています。ただし、そのつながりは近年、弱まっているようです。

CNNが3月中旬に実施した世論調査で、アメリカ人の71%は経済がうまくいっていると回答。これは2001年以来、最も高い数字です。

同調査では、回答者の過半数(51%)がトランプ大統領の経済政策を支持しています。これは調査会社「リアル・クリア・ポリティクス」が出した各社の世論調査(トランプ大統領の経済政策への支持)の平均値、51.5%とほぼ同じです。

さらに、ジョージタウン・インスティテュート・オブ・ポリティクス・アンド・パブリック・サービス(Georgetown Institute of Politics and Public Service)が3月下旬から4月上旬にかけて実施した「バトルグラウンド・ポール(Battleground Poll)」調査では、2020年の大統領選で投票する「可能性が高い」と見られる登録有権者の58%が、トランプ大統領が経済のためにやってきた仕事を支持すると回答しています。

同調査ではまた、回答者の55%がトランプ大統領を全体として支持しないと答え、57%がアメリカは誤った方向へ向かっていると答えています。しかし、共和党支持者の間でトランプ大統領を支持する有権者は依然として多く、その74%が米国は正しい方向へ進んでいると答えました。

そして、ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が2月に実施した調査では、米国人にとって最大の課題は経済の強化と考えられていることが分かりました。ただし、調査によってはヘルスケアといった別の課題が経済よりも上位にきています。

再選に向けて、トランプ大統領の経済政策に対するプラスの評価がどれだけのアドバンテージになっているかは分からないが、マイナスになることはないようです。

さらに、今回の、ムーディーズ・アナリティカの分析によっても、トランプ大統領の勝利が予測されています。

さらに、このブログでも解説したように、米国では最初から禁じ手とわかっている「弾劾」を今回だけではなく、過去にも画策して結局失敗した民主党は、相当追い詰められているとみべきです。その記事のリンクを以下に掲載しておきます。
民主党へのしっぺ返しもあるトランプ弾劾調査―【私の論評】トランプ弾劾は不可能、禁じ手を複数回繰り出す民主党は相当追い詰められている(゚д゚)!
リチャード・ニクソン氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事では、米国では民主的手続きで選ばれた大統領を弾劾することについては、党派を問わず反対する人も多いにもかかわらず、民主党は複数回にわたってトランプ大統領を弾劾しようとしており、これは民主党が大統領選ではよほど窮地に立たされている見るべきであるとの結論を下しました。

この予想や、今年はじめの複数の調査会社の調査結果や、今回のムーディーズ・アナリティカの調査においても、トランプ大統領が大統領選で大差で再選されると予測しているわけですから、よほどのことがない限り、トランプ氏が再選されるとみて間違いないのではないでしょうか。

ただし、選挙は水ものですから、最後の最後までどうなるかはわかりはしません。ただし、現時点で、トランプは弾劾されるとか、トランプの再選はないと、さしたる裏付けもないにもかかわらず、日米のテレビや新聞の情報だけで判断して、どや顔で語るのはやめておいたほうが良いと思います。

はっきりいいますが、そのようなことをすれば、馬鹿と思われるだけでなく、信用を失います。

【関連記事】

民主党へのしっぺ返しもあるトランプ弾劾調査―【私の論評】トランプ弾劾は不可能、禁じ手を複数回繰り出す民主党は相当追い詰められている(゚д゚)!





2019年10月16日水曜日

対中を意識した日EUのパートナーシップ強化―【私の論表】現在日本が世界の自由貿易をリードしている(゚д゚)!

対中を意識した日EUのパートナーシップ強化

岡崎研究所

 安倍総理大臣は9月27日、ユンケル欧州委員会委員長の招きに応じ、ブリュッセルで開催された「欧州連結性フォーラム」に出席、基調講演を行ったほか、両首脳は『持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ』と題する文書に署名した。まず、同文書の総論に当たる、第2パラグラフと第3パラグラフを以下の通り紹介する。


 日本とEUは,デジタル,運輸,エネルギー及び人的交流を含むあらゆる次元における連結性に,二国間及び多国間で共に取り組む意図を有する。パートナーのニーズと需要を十分に考慮し,かつその財政能力及び債務持続可能性に最大限留意して,日本とEUは,特に西バルカン,東欧,中央アジア,インド太平洋及びアフリカ地域において,第三国パートナーとの連結性及び質の高いインフラに関するそれぞれの協力の相乗効果と補完性を確保し,活動を協調させるよう努める。
 日本とEUは,開放性,透明性,包摂性,連結性に関する投資家及び産業を含む関係者のために対等な競争条件を促進するために共働することを構想する。双方はまた,自由で,開放的で,ルールに基づく,公正で,無差別かつ予測可能な,地域的及び国際的な貿易・投資,透明性のある調達慣行,債務持続可能性と高い水準の経済,財政及び金融,社会及び環境上の持続可能性の確保を促進する意図を有する。この文脈に関連して,日本とEUは,質の高いインフラ投資に関するG20原則の支持を歓迎し,これらの原則を適用し促進する。双方は,2019年4月の首脳宣言で合意されたパリ協定の完全かつ効果的な実施に対するコミットメントを想起する。
出典:外務省HP 安倍総理の「欧州連結性フォーラム」出席
 上記文書は、2018年10月18-19日のアジア欧州会合(ASEM)、2019年4月25日の日EU定期首脳協議、2019年6月28-29日のG20大阪サミットにおける文書を踏まえたもので、日EU間の戦略的パートナーシップ強化の文脈の中に位置付けられる。
 一読して明らかな通り、対中国を念頭に置いたものであることは確実であろう。文書で挙げられている具体的な地名のうち、西バルカン、東欧は、欧州において中国が一帯一路を通じて影響力を強化している地域であり、アフリカでも中国が経済援助により影響力増大を図っており、インド太平洋地域は言うまでもなく対中戦略において最重点の地域である。また、自由、開放的、ルールに基づく、公正、無差別かつ予測可能、透明性、債務持続可能性、といった語は、既存の国際秩序からの中国の逸脱を牽制する常套的キーワードである。
 EUでは、欧州委員会メンバーが11月から新メンバーに代わり、フォン・デア・ライエン前ドイツ国防相がユンケル委員長の後継の新委員長となる。フォン・デア・ライエン氏は、次期欧州委員会を「持続可能な政策にコミットする地政学的な委員会」と位置づけ、自己主張を強める中国との関係を定義することを目指している。彼女が掲げる「地政学的委員会」の旗がどれだけ本物か、注目されるところである。
フォンデアライエン(左)と10月末に退任するユンケル

 日本と欧州のインド太平洋における戦略的協力は日EUの枠組みだけでなく、二国間や様々な多国間の取り組みがあり得る。その例として、EUの最主要国の一つであるフランスとの「日仏包括的海洋対話」を紹介しておきたい。9月20日に同対話の第1回会合が仏領ニューカレドニアで開催された。外務省の発表によれば、本年6月の日仏首脳会談の際に作成された『日仏ロードマップ(2019~2023)』に基づき、インド太平洋地域における日仏パートナーシップ及び(1)航行の自由・海洋安全保障、(2)気候変動・環境・生物多様性、(3)質の高いインフラの3つの柱に係る協力を進める、という。海上保安庁と仏海洋総局間での海洋情報の共有・交換、日仏の艦船が共同活動を行う際の協力、日仏を含む共同演習(本年5月には日仏米豪共同訓練「ラ・ペルーズ」が行われるなどしている)の機会の追求、インド太平洋地域沿岸国における能力構築に係る日仏協力の検討、などが具体的課題として挙がっている由である。なお、ニューカレドニアは南太平洋にあるフランスの海外領土である。開催時期は、偶然とはいえ、ソロモン諸島とキリバスが国交を台湾から中国に切り替え、中国の太平洋島嶼国への浸透を見せつけたタイミングに一致する。日仏協力の必要性をより強く想起させたことと推測される。
【私の論表】現在日本が世界の自由貿易をリードしている(゚д゚)!
「持続可能な連結性及び質の高いインフラに関する日EUパートナーシップ」について、以下にプレスリリースされた内容を掲載します。

日EUパートナーシップの文書に調印する安倍総理大臣(左)とユンケル欧州委員会委員長(右)

Brussels, 27/09/2019 - 09:50, UNIQUE ID: 190927_2
Press releases

<日本外務省仮訳>
1. 2018年10月18-19日のアジア欧州会合(ASEM)、2019年4月25日の日 EU 定期首脳協議及び2019年6月28-29日のG20 大阪サミットにおける文書を想起し、日本とEUとは、共有する価値としての持続可能性、質の高いインフラ及び対等な競争条件がもたらす利益に対する確信に基づく連結性パートナーシップを確立するとのコミットメントを確認する。 
2. 日本とEUは、デジタル、運輸、エネルギー及び人的交流を含むあらゆる次元における連結性に、二国間及び多国間で共に取り組む意図を有する。パートナーのニーズと需要を十分に考慮し、かつその財政能力及び債務持続可能性に最大限留意して、日本とEUは、特に西バルカン、東欧、中央アジア、インド太平洋及びアフリカ(注)地域において、第三国パートナーとの連結性及び質の高いインフラに関するそれぞれの協力の相乗効果と補完性を確保し、活動を協調させるよう努める。 
3. 日本とEUは、開放性、透明性、包摂性、連結性に関する投資家及び産業を含む関係者のために対等な競争条件を促進するために共働することを構想する。双方はまた、自由で、開放的で、ルールに基づく、公正で、無差別かつ予測可能な、地域的及び国際的な貿易・投資、透明性のある調達慣行、債務持続可能性と高い水準の経済、財政及び金融、社会及び環境上の持続可能性の確保を促進する意図を有する。この文脈に関連して、日本とEUは、質の高いインフラ投資に関するG20 原則の支持を歓迎し、これらの原則を適用し促進する。双方は、2019年4月の首脳宣言で合意されたパリ協定の完全かつ効果的な実施に対するコミットメントを想起する。 
4. ルールに基づく連結性を世界的に促進するとのコミットメントに鑑み、双方は、G7、G20、経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、国際通貨基金(IMF)、欧州復興開発銀行、アジア開発銀行(ADB)といった国際的な場を含む国際及び地域機関と協力する意図を有する。双方はまた、21 世紀における自由で、開かれた、ルールに基づく公正な貿易及び投資のための高い水準のルールのモデルである日・EU 経済連携協定の達成の観点から、規制に関する協力を、また、革新的な技術を高めるための政策協調を推進する。双方は、持続可能な開発のための2030アジェンダの実施に対する持続可能な連結性の積極的な貢献を強調し、投資を刺激する環境作りのためにパートナー国を支援する用意があることを想起する。 
5. 日本とEUは、民間投資を活発化させるために手段やツールを動員する重要性を認識し、あり得べき共同事業等を通じて、民間部門の関与も得て、持続可能な連結性のための資金供給を促進するために協力する意図を有する。この関連で、双方は、国際協力機構(JICA)と欧州投資銀行(EIB)との了解覚書を歓迎する。同覚書は、両機関間の緊密な協力を強化し、開発途上国における民間部門資金の需要に応える投資を促進することが期待される。双方は、この目的のために、国際協力銀行(JBIC)とEIBとの間、日本貿易保険(NEXI)とEIB との間を含む既存の協力取決め及び覚書の下での協力を促進していく意図を有する。適当な場合には日欧産業協力センターが関与する。 
6. 日本とEUは、開発途上国において、デジタル及びデータ・インフラ、政策及び規制枠組み等を通じて、包摂的な成長及び持続可能な開発の力強い実現手段として、デジタル連結性の強化に協力する。日本とEUは、デジタル経済の発展は、開かれ、自由で、安定した、利用しやすい、相互運用性のある、信頼性の高い、安全なサイバー空間と、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:大阪でG20首脳が宣言したもの)に依拠することを強調する。2019年1月に採択された双方の十分性認定といったこれまでの協力に支えられ、日本とEUは、互いの規制枠組みを尊重しつつ、データ・セキュリティ及びプライバシーに関する信頼を強化する目的を含め、DFFTの概念を更に精査し、促進し、運用化するために共に取り組む意図を有する。日本とEUはまた、「大阪トラック」の下、デジタル経済に関する大阪宣言に定められたとおり、国際的な政策討議、特に電子商取引の貿易関連の側面に関するWTOにおける国際的なルール作りを進めるために共に取り組む意図を有する。日本とEUは、人工知能(AI)、クラウド、量子コンピュータ及びブロックチェーンを含むイノベーションを加速する政策を引き続き促進する意図を再確認する。 
7. 日本とEUは、規制枠組み同士のより深化した協力及び相乗効果、運輸回廊の相互接続及び運輸の安全性とセキュリティの強化を通じて、持続可能な運輸の連結性を強化するために引き続き共に取り組む。既存の日・EU運輸ハイレベル協議は、あらゆる輸送手段及び横断的な課題に関与し協力する枠組みを提供する。 
8. 双方は、水素及び燃料電池、電力市場の規制並びに液化天然ガスの世界市場といった分野において引き続き協力し、既存の日・EUエネルギー対話に基づく持続可能なエネルギー連結性を引き続き支持する。双方は、低炭素エネルギーシステムへの転換を促進するため、地域的及びグローバルなエネルギー市場及びエネルギー・イノベーションを強化する観点から、持続可能なエネルギー・インフラへの投資について議論する意図を有する。 
9. 日本とEUは、高等教育及び研究分野における機関間の国際的な人的交流を拡大するため共に取り組む。この文脈で、双方は、第 1 回日 EU 教育・文化・スポーツ政策対話での共同声明に基づく日・EU共同修士課程プログラムの立ち上げ及び科学技術協力合同委員会を通じた取組を歓迎する。 
10. 連結性パートナーシップの枠組みにおける協力は、可能な場合には、既存の対話及び協力枠組みを通じて、とりわけ日・EU間の戦略的パートナーシップ協定及び経済連携協定の文脈において行われる。定期的に行う進捗状況のレビューは、日・EU戦略的パートナーシップ協定の下に設置された合同委員会によって行われる。さらに、日・EUハイレベル産業・貿易・経済対話は、連結性パートナーシップの下での戦略的議論の場として機能し得る。連結性パートナーシップは、日・EUのいずれに対しても国際法又は国内法上の法的拘束力のある権利又は義務を創設すること意図するものではない。 
(注:TICAD 並びに持続可能な投資及び雇用に関するアフリカ

同文書は、EUが締結する初めての連結性(コネクティビティ)に関する文書となります。それは、二者間だけでなく第三国や多国間の場において、連結性の全ての分野で実務的な協力を推進するという意思の政治的な表明です。

重点テーマは、デジタル、輸送、エネルギー、人的交流で、また両者が恩恵を享受できるように優先的に展開する地域(西バルカン、東欧、中央アジア、アジア太平洋、アフリカ)のバランスにも配慮しています。

日本とEUは持続可能な連結性と質の高いインフラへのコミットメントとして、投資家と企業のために連携して、公開性、透明性、公平な競争環境を担保します。双方は債務の持続可能性や経済・財政・金融・社会・環境の持続可能性を担保するために協力します。 また、パリ協定の全面的かつ実効的な実施に向けて取り組みます(2019年4月の首脳会合の合意事項)。

今回の、日欧パートナーシップの基礎となったのは、やはり今年2月1日に発効した日欧EPAです

これは、日本とEUヨーロッパ連合による経済連携協定のことです。これにより世界の貿易のおよそ4割、人口では6億人を超える巨大な自由貿易圏が誕生しました。工業製品からチーズ、ワインといった食品まで、大半の貿易品目の関税が撤廃。例えば毛皮にかかっている最大20%の関税も最終的に0%になり、安く輸入できるようになる。

わずか5年ぐらい前までは、日欧EPAは締結は不可能と考えられていました。世界の自由貿易の歴史を振り返ると1996年にWTPO(世界貿易機関)ができました。これは、加盟国により、自由貿易に関するルールを皆で作りましょうという趣旨で設置されました。

ところが、2000年に入ってから中国をWTPO入れてしまったのが間違いの元でした。ほとんどの場合中国が悪いのですが、中国には中国のロジックがあり、そうすると加盟国全体で自由貿易のコンセンサスできなくなってしまったのです。これには、さらにロシアが2012年に加入し追い打ちをかけました。

本来自由貿易は、参加国の全員一致、満場一致をしてルールを決めるべきものです。米国に都合の良いルール、中国に都合の良いルール、ロシアに都合の良いルールなどがあってはなりません。

世界の常識からかけ離れた、ロジックで動く、中国とロシアがWTPOに加入したため、世界共通のルールが簡単にはできなくなってしまったのです。

そうなると自由貿易を旨とする国々は、中国やロシアを覗いて個別国同士ののEPAを作るしかなくなってしまったのです。そのなかでいちばん大きな協定の一つが、日EUのEPAだったわけです。

ところがEU側は、以前はあまりその気がはなかったのです。ところが、最近、これが急速に動き出したのです。

もともとヨーロッパは日欧EPAの他にも、優先順位の高いものががあったのですが、米国のトランプ大統領が「アメリカファースト」等と主張し、自由貿易のことを重視しなくなったように見えたため、米国とEUの単独のEPA協定だけでは、危機を感じるようになったのです。無論、その根底には、ルールを守らない中国やロシアの問題があったのも事実です。

トランプ米大統領

EUと日本の大きな関心事は、農業です。この農業の問題がネックになってなかなか日欧EPA議論は困難だったのですが、背に腹は代えらなくなったのです。トランプ大統領が存在する以上、米欧EPAの他に、日欧でもEPA協定を結び、それで自由貿易のシステムを維持しなくてはならないと考えるようになったのです。

日本もEUも、国内の農業を保護していかないと、将来、不測の事態が起こったときに大きなダメージになることがありえます。日本は守るべきところは守っています。

そのため、日欧EPAでは、米についてはまだ対象には入っていません。麦や乳製品については、セーフガードを確保していますから、完全に自由化しているわけではありません。ソフト系のチーズは関税割り当てにしているし、数量はある程度国内と両立するような形にしています。いろいろ工夫はしているわけです。

EUとしては本来は、全面開放を狙っていたのですが、EUにとっては米国とのEPAだけでは不安なため、まずは日本とEPA締結すること方が優先したということです。そのため、この交渉がうまくまとまったのです。

このように、日本とヨーロッパの思惑がやっと一致して、協定に向かって動くことができたのです。これが2017年です。そうして、今年の2月に発効したのです。

日本は自由貿易で最も伸びる国のひとつですから、こういう形で貿易のルール作りの主導権を握っていくということは大事です。

そうして、こうした日欧の貿易協定の脅威ともなり得る、中国に対して日欧は貿易以外でもパートナーシップ強化して、対抗していこうとしているのです。

さらに、日本は米国が抜けたTPPも、発効にこぎつけました。現在日本が世界の自由貿易をリードしていると言っても良い状況になりました。この面で日本はこれからも引き続き努力していくべきです。

【関連記事】

中国との競争に欠かせない米欧日協力―【私の論評】米国ができるのは、日欧と協力して中国経済の弱体化を早めること(゚д゚)!

2019年10月15日火曜日

消費税12%への増税は数年内に来る! 海外の“反緊縮”の流れ無視して世論誘導を図る「総動員体制」―【私の論評】仰天電撃解散で、菅内閣樹立!安倍総理は財務大臣となり財務省改革を(゚д゚)!

消費税12%への増税は数年内に来る! 海外の“反緊縮”の流れ無視して世論誘導を図る「総動員体制」

悲願の増税を果たした財務省。これで打ち止めではないのか

  10月から消費税率が10%に引き上げられたが、財務省はこれで満足するはずもない。次の引き上げは、どのような形やタイミングを狙ってくるのか。

 これまでの消費税の歴史は、1989年4月に3%で創設され、97年4月に5%に、2014年4月に8%、そして19年10月に10%となった。30年間で3回、計7%の消費増税である。次は12%への増税を数年のうちに狙ってくるだろう。

 安倍晋三首相は消費税率について「今後10年は上げる必要はない」と述べたが、首相退陣後5年もたてば、その発言の効力はなくなるので、財務省は気にしていないだろう。

 10年くらいのスパンで考えると、自公政権は1度や2度は必ず弱くなり、その間に政権交代もあり得るかもしれない。そのときが財務省の狙い目である。政権運営に不慣れなところをつき、民主党時代の与野党合意による消費増税と同じ夢をもう一度と願っているだろう。

 現在のような長期政権も財務省にとっては増税の狙い目だ。政権運営のためには、財務省の予算作成能力は欠くことのできないものだからだ。

 財務省はマスコミや経済界に対してアメとムチを持っており、その能力を侮ることはできない。安倍政権は、経済産業省の官僚をうまく使うことで財務省の官僚に取り込まれないようにしてきたが、財務省は安倍首相の盟友である麻生太郎財務相を取り込んで、1つの政権下で2回という消費増税を成し遂げた。

 短期政権が続くと、財務省もかなり困るだろう。しかし、今回、軽減税率によってマスコミの頂点に立つ新聞を取り込んだので、マスコミをフル稼働し財政再建・財政緊縮(増税)キャンペーンを続けるだろう。

 財政再建・財政緊縮(増税)の思想は、成功した経営者と親和性があるので、一定の社会的な理解を得やすいだろう。

 ただし、海外では、過度な緊縮思想による経済運営は危険だとの意見が多くなっている。財務省お得意の論法は、「海外ではこうなっている」という事例を用いて世論を誘導することだが、おそらく海外での思想の変化には言及せず、欧州では消費税の税率が20%以上と高くなっていることを強調するだろう。

 そこでは、欧州以外では10%程度の国が多いという事実や、欧州の場合、国土が小さく、国を超えた人の移動が比較的自由なために、所得税では十分に対応できないので、結果として消費税に頼らざるを得ないという事実は無視される。

 こうした財務省の論法のおかしな点が報じられることは少ない。一般的なマスコミで重用されている学者、エコノミストや経済評論家は、税に関する知識などで財務省に依存している人も多いので要注意だ。

 筆者は既存のマスコミへの露出度合は大きくないが、ネット社会では引き続き指摘していくつもりだ。

 しかしながら、財務省は今後、軽減税率を新聞から書籍やネットメディアにも拡大してまでも、こうした自由な言論を抑えてくる恐れもゼロでない。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

【私の論評】仰天電撃解散で、菅内閣樹立!安倍総理は財務大臣となり財務省改革を(゚д゚)!

ブログ冒頭の、高橋洋一の記事で「欧州以外では10%程度の国が多いという事実や、欧州の場合、国土が小さく、国を超えた人の移動が比較的自由なために、所得税では十分に対応できないので、結果として消費税に頼らざるを得ないという事実」ということが言われています。

これは、事実ですが、さらにEUと日本の違いがあります。それは、EUでは低所得層に対する支援が行き届いているということがあります。

このことを無視して「ヨーロッパの先進国に比べれば日本の消費税はまだ全然安い」消費税推進派の人たちは、よくこう言います。というより、このことを最大の武器にしてきました。

消費税の最大の欠点は、「低所得者ほど負担が大きくなる」ということです。年収200万円の人は、年収のほとんどを消費に使うので、年収に対する消費税の負担割合は、限りなく10%に近くなります。


一方、年収1億円の人はそのすべてを消費に回すことはあまりありません。2割を消費に回すだけで十分に豊かな生活ができます。2000万円の消費に対する消費税は200万円です。

そうすると年収1億円に対する消費税の負担割合は、2%に過ぎません。つまり、年収200万円の人からは年収の10%を徴収し、年収1億円の人からは年収の2%しか徴収しないのが、消費税なのです。このように間接税というのは、低所得者ほど打撃が大きいのです。

EUの先進国は、間接税の税率は高いですが、低所得者に対する配慮が行き届いています。EUでは、低所得者に対して様々な補助制度があります。

英国では生活保護を含めた低所得者の支援額はGDPの4%程度です。フランス、ドイツも2%程度あります。が、日本では0.4%程度なのです。当然、低所得者の生活状況はまったく違ってきます。

日本では、低所得者の所得援助というと「生活保護」くらいしかありません。しかも、その生活保護のハードルが高く、本当に生活に困っている人でもなかなか受けられるものではありません。

日本では、生活保護基準以下で暮らしている人たちのうちで、実際に生活保護を受けている人がどのくらいいるかという「生活保護捕捉率」は、だいたい20~30%程度とされています。

生活保護というと不正受給ばかりが取り沙汰されますが、本当は「生活保護の不受給」の方がはるかに大きな問題なのです。英国、フランス、ドイツなどの先進国では、要保護世帯の70~80%が所得支援を受けているとされています。

EUの先進国では、片親の家庭が、現金給付、食費補助、住宅給付、健康保険給付、給食給付などを受けられる制度が普通にあります。また失業者のいる家庭には、失業扶助制度というものがあり、失業保険が切れた人や、失業保険に加入していなかった人の生活費が補助されるのです。この制度は、英国、フランス、ドイツ、スペイン、スウェーデンなどが採用しています。

たとえばドイツでは、失業手当と生活保護が連動しており、失業手当をもらえる期間は最長18か月だけれど、もしそれでも職が見つからなければ、社会扶助(生活保護のようなもの)が受けられるようになっているのです。

他の先進諸国でも、失業手当の支給が切れてもなお職が得られない者は、失業手当とは切り離した政府からの給付が受けられるような制度を持っています。

また貧困老人に対するケアも充実しています。たとえばドイツでは年金額が低い(もしくはもらえない)老人に対しては、社会扶助という形でケアされることになっています。

フランスでも、年金がもらえないような高齢者には、平均賃金の3割の所得を保障する制度があり、イギリスにも同様の制度があります。

さらに住宅支援も充実しています。フランスでは全世帯の23%が国から住宅の補助を受けています。その額は、1兆8千億円です。またイギリスでも全世帯の18%が住宅補助を受けています。その額、2兆6千億円です。 日本では、住宅支援は公営住宅くらいしかなく、その数も全世帯の4%に過ぎません。支出される国の費用は、わずか2000~3000億円程度です。先進諸国の1~2割に過ぎないのです。

またヨーロッパ諸国では、軽減税率も細やかな配慮があります。日本でも、今回2019年10月の増税からは、軽減税率が適用されることになっています。が、軽減税率と言っても8%に据え置かれるだけですから、たった2%の軽減しかないのです。

一方、イギリス、フランスなどでは、軽減税率が細かく設定され、食料品や生活必需品は極端に税率が低いなどの配慮がされています。イギリス、フランスの付加価値税の軽減税率は次の通りです。
●英国の付加価値税の税率・標準税率20%
・軽減税率5%  家庭用燃料・電力の供給、高齢者・低所得者を対象とした暖房設備防犯用品等、チャイルドシート、避妊用品など
・軽減税率0% 食料品(贅沢品以外)、上下水道、出版物(書籍・新聞・雑誌)、運賃、処方に基づく医薬品、医療用品、 子ども用の衣料・靴、女性用衛生用品など

●フランスの付加価値税の税率
・標準税率20%
・軽減税率10% 惣菜、レストランの食事、宿泊費、旅費、博物館などの入場料
・軽減税率5.5% 水、非アルコール飲料、食品(菓子、チョコレート、マーガリン、キャビアを除く)、書籍、演劇やコンサート料金、映画館入場料
・軽減税率2.1% 演劇やコンサートの初演(140回目まで)、処方のある医薬品、雑誌や新聞
・非課税  医療、学校教育、印紙や郵便切手
ただし、私自身は、軽減税率には反対です。このような複雑なことをせず、減税、給付金、補助金などで対応すべきと思います。

とはいいながら、このように、軽減税率も含めてEU諸国は低所得者に手厚い配慮をした上での「高い消費税」なのです。しかし、日本では低所得者の配慮などほとんど行わないまま、名ばかりの軽減税率はあるものの、複雑で混乱を生じさせているだけです。

そうして、消費税をガンガン上げています。 最近、国際機関から「日本の貧困率、貧富の格差は先進国で最悪のレベル」という発表が時々されます。それは、こういう日本のお粗末な政策が数値としてはっきり示されているのです。

「日本の場合は深刻な少子高齢化社会になっているので、イギリス、フランス、ドイツなどとは状況が違う」と思っている人もいるでしょう。ところが、実は少子化という現象は、日本だけのものではありません。むしろ、欧米の方が先に少子化になっていたのです。日本の少子化というのは1970年代後半から始まりました。一方、欧米では1970年代前半から少子化が始まっていました。

そして1975年くらいまでは、欧米の方が日本よりも出生率は低かったのです。つまり、40年以上前から少子高齢化というのは、先進国共通の悩みだったのです。

ところが、この40年の間、欧米諸国は子育て環境を整えることなどで、少子化の進行を食い止めてきました。1970年代の出生率のレベルを維持してきたのです。だから、日本ほど深刻な少子高齢化にはなっていません。

一方、日本では、待機児童問題が20年以上も解決されないなど、少子化対策をまったくおざなりにしてきました。そのために、1970年代から出生率はどんどん下がり続け、現在、深刻な少子高齢化社会となっているのです(下グラフ参照)。これを見ても、日本の経済政策がいかに愚かだったかわかるはずです。



そんなところに、安倍政権が出現して、いっときは3本の矢の政策を打ち出し、増税も二度も先送りして、日本経済は随分回復しました。特に、雇用はかなり改善しまた。しかし、14年の8%増税に続き、今年10月には10%増税が実行されてしまいしました。

これでは、また日本はデフレだった頃の昔の日本に戻ることになってしまいます。 こういう愚かな日本の政治状況を、何の改革もせずに、ただただ消費税を上げるだけでは、日本は完全に壊れてしまうはずです。

それを財務省は実行しようとしているのです。そのような財務省の暴走はいずれ誰かが止めなければなりません。

今後、日本がデフレに舞い戻り、経済がかなり悪化した場合には、内閣支持率が下がり、今後の選挙では議席数をかなり減らし、安倍総理の念願である改憲どころではなくなるかもしれません。

このままだと、安倍政権は、民主党よりはましな政権として、そうして安倍総理は消費税を二度増税した総理として歴史に刻まれることになってしまいます。そうして、政権は完璧にレームダックになってしまうでしょう。

では、今後安倍政権はどうすべきなのでしょうか。一つのシナリオを考えてみます。

安倍首相が消費税の5%への減税を宣言します。さらには、 軽減税率の適用をやめ、低所得層への補助金・給付金制度を打ち出します。そうして、総辞職。電撃的に自民党総裁選を行い、一気に菅内閣を樹立。

菅官房長官が総理に?

そうして、その後の組閣で、麻生氏は財務大臣以外の大臣となり、安倍総理は、財務大臣に就任して、本格的な財務省改革を行うことを宣言するのです。

人心一新、過去の増税の単なる延期等ではなく財務省改革、景気回復までの政策を公約に総選挙を断行するのです。そうすれば大勝もありえます。ここまでやるシナリオなら多くの支持を集めることができるでしょう。経済も良くなり、憲法改正もできます。安倍晋三氏は偉大な宰相として、歴史に名を留めることになるでしょう。

【関連記事】

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ―【私の論評】令和年間は緊縮財政を捨て、公共投資に力を入れよ、現状ではそれが国富を高めることになる(゚д゚)!


2019年10月14日月曜日

【東アジアの動乱と日本の針路】日米関係は本当に順調なのか? 「日本は中国に対して甘すぎる」米国の不満が爆発すれば―【私の論評】安倍外交は、戦略と戦術で分けてみよ(゚д゚)!


安倍首相(左)と、トランプ大統領の個人的関係は良好だが…

日米両政府は7日(日本時間8日)、新貿易協定に正式署名した。表面上、日米関係は順調なように見える。だが、本当にそうだろうか。

 米国は、チャイナ(中国)の政治的、経済的脅威を深刻に認識している。ドナルド・トランプ政権だけでなく、野党・民主党も中国には厳しい態度で迫っている。

 チベットやウイグルでは、人権無視の強圧政策が継続している。特に、ウイグルでは100万人以上のウイグル人が強制収容所に収監されている。香港民主化運動は説明するまでもない。米国は「経済」と「人権」で中国を追い込んでいる。

 トランプ大統領と、安倍晋三首相では「中国の脅威」の認識について、大きな隔たりがある。日本の認識は、甘いと言わざるを得ない。

 実は日本こそ、知的所有権の窃盗などで、中国に経済制裁を発動してもおかしくないが、その動きはない。経済界には「トランプ氏が保護主義政策を振り回して、わが国は迷惑している」といった発言をするリーダーまでいるほどだ。

 最近では、日本は、中東・ホルムズ海峡の安全確保に向けた米主導の「有志連合」構想への参加を表明していない。トランプ政権や米軍からすれば、日本は中国にあまりに妥協的で、フラストレーションがたまっている。安倍首相とトランプ氏の個人的関係だけに依存していると、日本が制裁を受けることもあり得るのだ。

 それでは、米国の対中政策は継続するのか?

 これは、トランプ氏の大統領再選にかかっている。再選されれば、中国が根を上げるまで、米国は制裁を続けるだろう。

 筆者は現時点で、トランプ再選の可能性は7割以上とみている。民主党の大統領候補がみんな小物で、急進左翼色が濃厚なのである。中産階級の支持を幅広く集められるスター性のある候補者がいない。

 民主党は最近、「ウクライナ疑惑」なるものを持ち出して、トランプ氏の弾劾プロセスを開始した。この成功の可能性は、ほとんどゼロ%である。ロシアゲートの二番煎じの茶番劇である。

 トランプ氏が、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領に、ジョー・バイデン前米副大統領の息子のスキャンダル調査を依頼した。これは、バイデン氏が副大統領時代、息子のハンター氏がウクライナの天然ガス企業の重役に就任していた問題である。

 以前から、これは「ウクライナ政府による、バイデン氏への贈賄に当たるのではないか」との疑惑が持たれていた。バイデン氏は現時点で、民主党予備選の有力候補であり、この真相が明らかになると、民主党は壊滅的な打撃を受ける。それを阻止しようと、「窮鼠猫を噛む」で弾劾を言い出したと分析している。

 トランプ氏によるウクライナへの捜査依頼は合法的な行動であり、弾劾の開始はむしろ、民主党が窮地に陥っていることの表れである。=おわり

 ■藤井厳喜(ふじい・げんき) 国際政治学者。1952年、東京都生まれ。早大政経学部卒業後、米ハーバード大学大学院で政治学博士課程を修了。ハーバード大学国際問題研究所・日米関係プログラム研究員などを経て帰国。テレビやラジオで活躍する一方、銀行や証券会社の顧問などを務める。著書・共著に『国境ある経済の復活』(徳間書店)、『米中「冷戦」から「熱戦」』(ワック)など多数。

藤井厳喜氏

【私の論評】安倍外交は、戦略と戦術で分けてみよ(゚д゚)!

日本は、中国に対して甘すぎるという指摘は、冒頭の記事の藤井厳喜氏だけではなく、産経新聞のワシントン駐在客員特派員である、古森義久氏も同じようなことを主張しています。その記事のリンクを以下に掲載します。
【古森義久のあめりかノート】危うい安倍首相の対中観
古森義久氏
詳細は、この記事をご覧いただくものとして、この記事より結論部分を以下に引用します。
 安倍政権が中国に対して唱える「競合から協力へ」という標語や中国の「一帯一路」構想への間接協力はトランプ政権の政策とは正反対である。同政権は中国を米国主導の既成の国際秩序を崩そうとする危険な挑戦者と位置づけ、「協力から競合へ」と主張する。「一帯一路」も習政権の覇権的な野望として排する。 
 トランプ政権は今月にはウイグル民族の弾圧にかかわる中国政府高官の訪米を拒む措置を発表した。安倍政権の「交流拡大」とは完全な逆行である。
 安倍政権のこうした対中融和姿勢にはトランプ政権の関係者からすでに抗議が発せられた。同政権の国務省引き継ぎの中核となったクリスチアン・フィトン氏は最近の論文で警告していた。 
 「米国が中国の無法な膨張を抑える対決姿勢を強めたときに日本が中国に融和的な接近をすることは日米同盟やトランプ政権への大きな害となる」

 現在は米研究機関「ナショナル・インタレスト・センター」上級研究員のフィトン氏はこう述べて、このままだと「安倍首相はトランプ大統領の友人ではなくなる」とか「米国は日本製自動車への関税を高める」という最悪シナリオをも示すのだった。(ワシントン駐在客員特派員)
第2次安倍晋三政権が発足して早くも7年近くがたちました。ちまたには多くの「安倍外交論」がります。上記の藤井厳喜氏、古森義久の記事もそれらの一つです。これらは、安倍総理の対中国外交を危惧するという内容です。

私としては、外交、それも多元的な外交という面から見れば、また違った見方ができるのではないかと思います。

外交には3つの側面があります。第1は、国民感情や国内の権力闘争とは一線を画し、純粋に国際政治・経済・軍事上の利益を最大化する知的活動。第2はこれとは逆に、国内政治上の一手段として権力者が権力基盤を維持するために行う対外活動です。どちらを重視するかで評価は大きく変わります。

第3は、過去10年間で始まった国際的な政治潮流の変質です。グローバリズムと国際協調に代わって自国第一主義と排外差別主義が復活し、1930年代のような「勢いと偶然と判断ミス」による政治判断がまかり通っています。これら3つの側面に配慮しない外交政策はいずれも成功しないでしょう。

この国際政治・軍事環境の大転換期に発足したのが第2次安倍政権でした。目指した外交政策は2006~07年の第1期と大きく変わっていないです。具体的には、日米韓の同盟・準同盟を基軸に、台頭する中国を牽制し、ロシアとの関係改善を計りつつ、東南アジア、欧州、中東との関係を維持することです。

第2期に安倍外交が花開いたのは、首相の個人的能力もさることながら、安倍外交の基本政策がより多くの国民に支持され始めたことが大きいです。

転機は12年の尖閣諸島をめぐる日中衝突でした。当時の中国のかたくなな姿勢に直面し、国民はより強いリーダー、より毅然とした対外政策を求めたのだろう。各主要国に対する個別の安倍外交はどうでしょうか。

まずは日米関係ですが、日米同盟関係が今ほど円滑であった時期は記憶にないです。東アジアで中国の台頭に直面しながら、付き合い方の難しいバラク・オバマ、ドナルド・トランプ両政権と良好な関係を巧みに保ちつつ、日米連携の維持・拡大をリードした功績は素直に評価すべきです。

続いて中国です。安倍政権の対中政策は戦略的でブレていません。政権発足直後こそ日中関係はギクシャクしましたが、14年以降徐々に中国が日本に歩み寄るようになりました。しかし、日中関係はしょせん米中関係の従属変数です。米中関係が悪化した今、安倍外交は巧みに対中関係の戦術的改善を進めています。

勿論、これで中国が歴史、靖国や尖閣問題で実質的に譲歩するとは到底思えないです。米中関係が険悪であり続ける限り、中国は対日関係を維持せざるを得ないです。

しかし日本がこれを公式に言えば中国の面子が潰れることになります。日中関係は双方の智恵の勝負となるでしょう。

そうして、中国にとって日本は潜在的敵対国であり、尖閣や歴史問題での戦略的対日譲歩はあり得ないです。現在の対日秋波は日本からの対中投資を維持しつつ日米同盟関係に楔くさびを打つための戦術でしかありません。

一方、日本にとっても中国の潜在的脅威は今後も続く戦略問題です。であれば、現時点で日本に可能なことは対日政策を戦術的に軟化させた中国から、経済分野で可能な限り譲歩を引き出すことでしょう。

現在日中間で進んでいるのはあくまで戦術的な関係改善にすぎません。こう考えれば、欧米と普遍的価値を共有する日本が、藤井氏や、古森氏が強く反対する安倍首相が「軍事や経済などで強国路線を突き進む中国に手を貸す選択している」とまではいえないと思います。外交は、戦術と戦略とにわけて考える必要もあるのです。

安全保証のセキュリティーダイヤモンドを構想した、安倍総理が戦術的に一旦中国に歩み寄っているようにみえるからといって、戦略は変わっていないのです。

朝鮮半島は日本にとって鬼門です。元徴用工の訴訟や秘密情報保護協定(GSOMIA)問題での韓国の強硬姿勢は想定外でした。残念ながら、北朝鮮との拉致問題も解決の糸口を見いだせないでいます。南北朝鮮については、外交の国際的側面と国内政治的側面のバランスの維持が非常に難しいです。

さらに困難なのが、東アジアでのいわゆる歴史問題の扱いです。安倍外交の基本姿勢は確かなものですが、国際的利益と国内的政治配慮のどちらを優先するかは微妙です。13年の靖国参拝では後者を優先し、15年の戦後70年談話では前者を優先しています。

米国でも、特に知日派は日本外交の、こうした戦術面、戦略面は理解していることでしょう。

尖閣は長期戦略では中国の確信的利益である(尖閣に中国の軍事施設が設営された場合の想像図)

最後にロシアに触れます。北方領土をめぐる日ロ首脳交渉は、日本国内への配慮というより、米中ロ間のバランス変化を踏まえた戦略的な一手です。残念ながら今回ロシアは米ロ関係の悪化を受け、中国の戦略的脅威よりも米国に対する中ロ連携を重視しました。日ロ関係の再活性化は容易ではなです。ただし、このブログでも何度か掲載した通り、米国の対中冷戦が進化して、中国が弱体化したときには、日露関係の再活性化が期待できます。

過去7年弱の安倍外交は、不確実性が高まる東アジアで日本の国益と存在感を高めることにおおむね成功しました。懸念材料は、日韓関係悪化に伴い従来の日米韓3国の連携が失われる可能性です。今後日本が米国と共に韓国をどこまで引き留めるのか。これが安倍外交8年目の課題です。

本日韓国のチョ・グク法相は14日、法相を即日辞任すると表明した。チョ氏の妻ら親族の疑惑について検察が捜査を進めており、チョ氏は「これ以上、私の家族のことで文在寅(ムン・ジェイン)大統領や政府に負担をかけてはならないと判断した」と辞任の理由を説明した。今後、文在虎政権はレームダック化する可能性があり、そうなると、日本としは、交渉がしやすくなる可能性がでてきまた。

【関連記事】

2019年10月13日日曜日

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ―【私の論評】令和年間は緊縮財政を捨て、公共投資に力を入れよ、現状ではそれが国富を高めることになる(゚д゚)!

自然災害大国ニッポン、災害で壊れたインフラ「そのまま放置」のワケ
もとは私たちのお金なのに…

財務省に気をつかって…

9月11日に発足した第4次安倍晋三第2次改造内閣の基本方針に、「国土強靭化」という文言が躍った。

「まず何よりも、『閣僚全員が復興大臣である』との意識を共有し、熊本地震、東日本大震災からの復興、そして福島の再生を、更に加速する。全国各地で相次ぐ自然災害に対して、被災地の復旧・復興に全力を尽くす」という。

千葉県を襲った台風15号など、自然災害による被害は枚挙に暇がない。

台風19号により一部結界した千曲川の堤防
'18年には「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」が閣議決定され、国土交通省の'20年度概算要求は7兆円を超えた。だが、どうも国交省には財務省に対して及び腰なところがある。

まず、財務省は引き続き緊縮財政一本槍で、'25年度の国・地方を合わせたPB(基礎的財政収支)の黒字化目標を譲らない。「国土強靭化」の軸はインフラ整備になるが、PB黒字化の前でこうした事業は悪者扱いになる。

インフラ整備は建設国債を財源とすることが一般的だ。赤字国債とは異なり、ただ使われるものではなく、長期的視点では社会に有用な資産を残すものだ。ところが、バランスシートの上では、建設国債もただの「借金」のような扱いになる。あくまで財務省の理屈では、インフラ整備のための建設国債発行はできるだけ避けたいのだ。

とはいえ、これだけの災害が頻繁に起こっているのだから、国交省もより強気で臨むべきなのだが、どこか財務省に遠慮がちだ。その一例が、国債マイナス金利という絶好の環境をうまく生かしていないことだ。

マイナス金利下では、国は国債を発行すればするだけ儲かる理屈だ。国債調達資金を塩漬けしてもいいが、インフラ投資にまわすのが現状では最上ではないだろうか。

国交省内には、公共投資の採択基準がある。公共投資による社会便益が費用を上回っていることが条件だ。これは先進国ではどこでも採用されている基準で、社会便益をB、費用をCとすれば、B/Cが1を超えるものが採用という数式だ。

ただし、これを計算するうえで、現在の価値と将来予測される価値を調整するために、「社会的割引率」が用いられる。詳しい説明は省くが、この割引率(4%が一般的)を適用すると、よほど計画性のない公共事業でないかぎり、B/Cは1を超える。計算上はだいたいのインフラ整備が採用されるのだ。

向こう4~5年は超低金利が続くと予想されている。それにもかかわらず、国交省は割引率を見直すことなく、一方で公共投資を「自主規制」し、財務省の緊縮財政に協力する格好になっている。国土強靭化に熱心な政治家や関係団体も、国交省役人が財務省の走狗となり、社会的に必要な投資を制限していることに気づかない。

防災のためのインフラ整備は待った無しだ。南海トラフ地震や首都直下型地震が、今後30年間で起こる確率は7割以上だという。これらに備えるうえで、マイナス金利環境は絶好のタイミングだ。

人命のかかった防災対策で財務省が緊縮を突き通す道理はなく、国交省も財務省に気を遣っている場合ではない。秋の臨時国会では両省がどのような態度を取るのか、注視する必要がある。

『週刊現代』2019年10月5日号より

【私の論評】令和年間は緊縮財政を捨て、公共投資に力を入れよ、現状ではそれが国富を高めることになる(゚д゚)!

こちらは、札幌市ですので、台風が直撃することもなく、今回の台風による被害はありませんでした。このブログの読者の方々は、全国にいらっしゃいますので、被害に遭われた方々もいらっしゃると思います。

被害に遭われた方々に、まずはお見舞い申し上げます。一日も早く復興されますことをお祈り申し上げます。
さて、振り返りますと「平成」(1989~2019年)は、“災害の時代”だったといえるのではないでしょうか。

10名以上の死者・行方不明者を出した主な自然災害だけに絞っても、その発生数は15件に上ります(下表)。


単純計算では、2年に1度は何らかの自然災害が発生し、10名以上の死者・行方不明者が出ていることになります。この数字を多いと見るか、少ないと見るかは、人によって判断が分かれるところかもしれないです。

全国の交通事故による死者数を見ると、毎年減少傾向にはあるものの、それでも3,500人以上に上ります。死者数だけを比べれば、交通事故死のほうがよほど深刻だといえるからです。

ただし、自然災害では、人が死ぬという人的な被害だけにとどまらず、建築物やインフラなどが破壊されるという物的な被害も発生します。その経済被害は、莫大な額に上ります。

東日本大震災の被害総額は16兆円以上(内閣府試算)、西日本豪雨では1兆円以上(国土交通省試算)にもなります。福岡県の年間GDPが19兆円ほど(16年県民経済計算)なので、2つの災害の経済被害は、福岡県経済が消滅するのと同等だといえます。

自然災害は国民の命を奪い、国民の経済力―ひいては国力までも根こそぎ奪います。平たくいえば、自然災害によって国民は死に、生き残った者は貧しくなるのです。
「激甚災害」に指定された九州北部豪雨(福岡県朝倉市など)による被害総額は、2,000億円(福岡県試算)近くに上りました。東日本大震災や阪神・淡路大震災(内閣府試算で約10兆円)に比べるとさすがにケタが違うのですが、ローカルな被害総額としては甚大なものです。

とはいえ、「2,000億円の被害が出た」と嘆いてばかりいても仕方がないです。取り戻さなければいけないのです。それが、災害からの復旧・復興の最も重要な中身の1つです。

復旧・復興には、被害総額と同等かそれ以上の投資が必要になります。阪神・淡路大震災には16兆円以上、東日本大震災には35兆円以上の復興関連予算がこれまでに投じられました。

「予算は国家の意思を示す」という言葉があります。国の予算を見れば、その国が何をしたいのかが見えるという意味を含んでいます。ときの首相が「内閣を挙げて復興に取り組む」などと宣言するのは単にパフォーマンスであって、実際に費用を予算に盛り込むことこそが、真の意思表示に当たります。

何をもって復興完了とするか定かではないですが、被災自治体などが策定した復興計画などが完了すれば、一応「復興は終わった」とみなすことができるようです。

それでいきますと、阪神・淡路大震災の場合は10年後の2005年度に復興が完了、東日本大震災も10年後の20年度に復興が完了する予定ということになります。九州北部豪雨の復興計画は、5年後の22年度中が目標年次です。

ちなみに、10万人を超える死者を出した関東大震災(1923年)では、発災から6年で復興事業が完了。7年後の1930年3月に帝都復興の勅語が出されています。

時間や場所、規模などが異なる災害を単純比較することはできないですが、平成の復興はスピーディーとはいえないようです。なぜ復旧に時間がかかるのかだが、単純に「国力が低いから」と考えて差し支えないと思われます。国力には、政治力、財政力、行政力を始め、危機管理能力なども含まれます。

緊縮に凝り固まった財務省

出典:国土交通省

「国力の低さ」の一例は、「公共投資額」の低さに見て取れます。上表は、1989年度から2018年度までの「平成の御世」の公共投資の推移を示すもので、しばしば引用される有名なグラフです。

これを見る限り、平成初期の投資額は増加傾向にあり、98年にピークの14.9兆円に達しました。その後は減少が続き、10年度以降は、ピークの3分の1である5兆円程度で推移しています。

なお10年度は東日本大震災が発生した年ですが、それ以降、基本的に投資を増やしていません。前半に阪神・淡路大震災、後半に東日本大震災を経験しながらも、平成年間を通して、公共投資を減らし続けてきたわけです。平成は、「災害の時代」であるとともに、「公共投資削減の時代」でもあったといえます。

日本政府は、自然災害が多発し、復旧復興や災害対策が必要なのにも関わらず、元手となる投資額を減らし続けてきたわけです。なぜ政府は、このような不可解なことをするのでしょうか。たとえば、財務省の財政制度等審議会の資料のなかに、こういう文言があります。

「公共事業については、『量』で評価する時代は終わり、選択と集中の下、より少ない費用で最大限の効果が発揮されているかという『質』の面での評価が重要な時代になっている」。

「人口減少社会の本格的な到来も踏まえれば、予算の総額を増やすということではなく、引き続き総額の抑制に取り組むなかで、日本の成長力を高める事業と防災・減災・老朽化対策への重点化・効率化を進めていく必要がある」。

この文章からは、「とにかく予算は減らす。メリットのある事業しかやらない」という強いメッセージが伝わってきます。防災関連はやらないとはいえないが、「重点化・効率化」という“クギ”を刺しています。

一見もっともらしいようにも思えますが、「本当に大事な事業で、かつ効率的にならなければ予算はつけないよ」という意図が見え隠れしています。

財務省のこうした意見は、「緊縮財政」の考え方に基づいています。財政規律(プライマリーバランス)を遵守し、いわゆる国の借金を増やさない(減らす)という政策的立場です。

この立場の是非について、このブログでは全く間違いであることをこのブログで過去に訴えてきました。それにしても、緊縮財政という明確な政策意図の下、公共投資額が減らされ続けてきたことは、多くの国民が知っておく必要があるでしょう。

「令和」を災害の時代にするな

自然災害は、前兆があれば予測はできるのですが、あらかじめ「いつ」「どこで」発生するかを予想することはできないです。そのため、災害対策は基本的に事後対応になります。今にも崩れそうな崖、ちょっと雨が降ったら溢水しそうな河川などは、予防保全的に対策を講じる必要があります。

上の記事にもあるように、政府は昨年、「防災・減災、国土強靭化のための3か年緊急対策」として、人命とインフラを守るため、3年間で7兆円を投じることを決めました。何もしないよりはマシですが、事業効果は限定的だと言わざるを得ないです。

日本全国をカバーするには、事業規模が小さすぎるからです。かつての政府には「10年間で200兆円」を投資する「国土強靭化」の構想があったのですが、新たな政策は投資額比率にして約8.5%に過ぎないです。「インフラなどの機能維持」に成り果ててしまった感があります。

緊縮財政が続く限り、令和の御世でも、このような対症療法的な“行きあたりばったりな”災害対策は続いていくでしょう。それは「災害の時代」を繰り返すリスクを孕み続けていることを意味します。そのような状況下で起こった自然災害は「天災」ではなく、もはや「人災」といえるのではないでしょうか。

旧民主党、ならびにそこから派生した野党の議員などは、民主党が政権与党だった時代に「コンクリートから人」などというキャッチフレーズで、公共工事をどんどん減らしたという経緯があります。その象徴が八ッ場ダムだったともいえます。

八ッ場ダムは群馬と利根川流域の人々を救った

台風19号による河川の氾濫が相次ぐ中、国が来春の運用開始を目指し、10月1日に貯水試験を始めたばかりの八ッ場(やんば)ダムに称賛の声があがっています。

利根川水系の最上流にある八ッ場ダムは、2016年6月14日からコンクリート打設を開始し、2019年6月12日に打設完了式を開催。また、2019年10月1日には試験湛水(たんすい)が開始されたばかりでした。

本体工事がほぼ完成した群馬県長野原町の八ツ場ダム=6月12日午前9時48分

国土交通省関東地方整備局の速報によると、13日午前5時現在の水位は標高573.2メートルとなり、満水時の水位(標高583メートル)まで10メートルほどに迫ったそうです。台風によるダムの被害は確認されていません。

周辺では11日未明から13日朝までに累計347ミリの雨が降り、山間部から流れ込んだ水でダム湖の水位は約54メートルも上昇しました。水没予定地に残された鉄橋も11日時点では見えていましたが、完全に水の底に沈みました。

もし、八ッ場ダムがなかったら、群馬県が終わっていたという声もあがっています。ネット上には以下のような声が上がっていました。
「無駄な治水事業など無い」「民主党政権のままだったら下流は今頃大洪水か」「これで助かった命はたくさんあるんだろうな。現場の方、大変お疲れ様でした」
旧民主党政権が実施したパフォーマンス的事業仕分けのようなものは、百害あって一理なしといえると思います。

旧民主党の議員だった人たちは、巨大な投資をどう思っているのでしょうか。これは、私の推測ですが、ひよっとすると、巨大ダムなどに巨大な投資をすると、投資した資金はこの世から消えてしまうと思っているのではないでしょうか。

このブログの読者であれば、よもやそのような人はいないと思いますが、そんなことはありません。このような巨大なインフラ投資は、工事をすることにより、工事を請け負う会社にお金が入り、多くの人々に賃金がわたり、また政府に税金が戻ってきます。

さらには、こうした巨大インフラ工事をしたことにより地域がより安全となり、利根川水系付近にはさらに多くの人々が集まり、それまでなかった新たな事業機会が増えることになります。地域の人々がその機会を獲得して、様々な事業を展開すれば、これらの地域に新たな富が創造されることになります。

そうなると、政府が投資をしたよりもはるかに大きな富が創造され、政府も投資したよりも、さらに大きな富を税金として回収できることになります。

このようなインフラ投資を徹底して行って急速な経済発展をしたのが最近までの中国です。ただし、最近では国内のインフラ投資はほぼ一巡して、めぼしい投資先が亡くなっているのも事実です。そのため、中国政府は「一帯一路」というプロジェクトで、海外でも投資をして儲けようとしています。

「一帯一路」はこのブログでも過去に説明したように、中国政府の思惑通りにうまくいくことはないでしょうが、いずれにせよ、インフラ投資は条件を満たせば地域や政府を潤すのは事実です。習近平など現状の日本が国内に巨大インフラ投資案件がかなりあることを知れば、羨ましく思うことでしょう。そうして、単に羨ましがっているだけではなく、民間会社などを通じて北海道の土地を買い漁ったりしているようです。

昔の政治家など、マクロ経済政策に疎くて、経済対策というと公共工事によるインフラ投資だと思いこんでいる人も大勢いました。

しかし、このようなごうつくばりの政治屋たちが、利権を貪り、あまり必要もないような公共工事を行い過ぎたため、日本ではこれに対する批判が高まりました。

確かに無駄な工事などはする必要はないですが、社会便益をB、費用をCとすれば、B/Cが1を超えるもののみ採用するという方式を取り続けていれば、何も不都合は起きなかったのに、1を超えるものまで実施してこなかったというのが今日の姿です。

さらには、上にもあるように、国債マイナス金利という絶好の環境を活かしていないというのも問題です。国債はなせか、将来世代へのつけを回すものとして、忌み嫌われるようになりましたが、本来は自然災害などのときに、自然災害にあった世代だけではなく、インフラ投資の恩恵にあずかる将来世代にも応分に負担してもらい、世代間の公平を期して導入されたものです。

これも勘違いしている愚かな議員が大勢います。旧民主党の議員などは、馬渕氏や金子洋一氏などを覗いて、全員がそうです。自民党にも大勢いますが、若手で小泉進次郎などその典型例だと思います。

国債がマイナス金利であるという、絶好のタイミングを捉え、ゼロ金利になる程度までは、国債をどんどん発行し、それを財源として、令和年間は、公共投資を強力に推進すべきです。

【関連記事】

財務省がいまひっそり仕掛ける「10月の消費増税」へのヤバい裏工作―【私の論評】下卑た財務官僚はすでに10%超増税、年金減額、その他大緊縮路線に向けて動いている(゚д゚)!

2019年10月12日土曜日

民主党へのしっぺ返しもあるトランプ弾劾調査―【私の論評】トランプ弾劾は不可能、禁じ手を複数回繰り出す民主党は相当追い詰められている(゚д゚)!


 9月27日、ウクライナ疑惑をきっかけに、ペロシ下院議長(民主党)がトランプ大統領弾劾調査の開始を発表した。大統領にとってこれまで以上に事態は深刻ではあるが、民主党にとっても来年の選挙で大きなしっぺ返しが来る恐れがある。 

トランプ大統領

 今までにも、モラー特別検察官による調査をはじめ、民主党の特にプログレッシブが弾劾を求める材料はあったが、ペロシ下院議長がそれをどうにか抑えてきた。しかし、トランプ大統領がウクライナのゼレンスキー大統領に対し、 議会が既に承認していた同国への軍事資金援助を遅らせ、引き換えにバイデン前副大統領の息子に絡む疑惑調査を依頼したとの内部告発をきっかけに下院議長も弾劾調査に踏み切らざるを得なくなった。

 軍や国家防衛、インテリジェンス歴のある民主党新人下院議員7名が9月23日付ワシントン・ポスト紙に投稿し、世界に安定をもたらし、アメリカの国家安全保障のために議会が割り当てた予算を大統領が個人の利益のために利用したのであれば、国家の安全を脅かし、汚職の罪は非常に重いことになり、弾劾に値すると論じたのも影響を与えた。

 弾劾訴追は、下院の単純過半数で可決となるが、上院での弾劾裁判での有罪判決には2/3が必要であり、共和党が多数の上院では現状当然不可能である。 

 ペロシ議長がこれまで弾劾調査に踏み切らなかったのは、弾劾訴追が無駄な努力となるだけでなく、来年の選挙での民主党へのしっぺ返しを恐れたためである。クリントン大統領は弾劾された史上二人目の大統領だが、下院で共和党が弾劾を可決し、上院がそれを否決した後、大統領への支持率が大きく伸びただけでなく、1998年の中間選挙で民主党が大躍進した。

 国民の弾劾への支持は充分でない。9月18日発表のポリティコ/モーニング・ コンサルト世論調査によれば、議会が弾劾調査を開始することへの賛成はわずか37%で、半分が反対である。アメリカ人は、法を非常に重視するので、法に基づいて選出された大統領を裁く、それも議会が裁くことに強い抵抗がある。いずれの党が多数を占めようと国民の議会に対する信頼が常に低いことも影響しているだろう。

 民主党支持者では数字は全く違う。次の民主党大統領予備選で票を投じるとしている有権者の68%が弾劾調査を支持し、反対はわずか20%である。この数字とウクライナ疑惑を考慮すれば、民主党指導層は弾劾調査に踏み切らざるを得なかっただろう。

 トランプ大統領の支持率は相変わらず低く、個人として嫌う率は51%と歴代大統領の中で一番高い。また、NBC/WSJ調査によれば、 トランプ大統領が再選されることに、回答者の半分がとても嫌と答えた。

 ウクライナ疑惑が発覚し、民主党指導層だけでなく、米政治の専門家たちの多くも、大統領が民主主義統治のルールを破壊し、国の安全保障を危険にさらした可能性を議会が調査する責務を遂行せざるを得ないと判断しだした。疑惑が真実であれば、他国を選挙でのライバルに泥を塗る画策に加担させるために、大統領は議会が承認した軍事・安全保障予算を利用したことになるばかりでなく、アメリカへの信頼を失墜させ、さらにはこうした 行為は以後大統領あるいは国が他国に脅される理由ともなる。上記の軍やインテリジェンス経験者である民主党下院議員7名の投稿はそれを明確に表現したと言える。

 ホワイトハウスは民主党やメディアからの圧力を受け、トランプ大統領のゼレンスキー大統領との会話記録を公開したが、これはあくまでホワイトハウスがまとめた要約でしかなく、大統領の会話記録として慣例である発言を全てそのまま記録したものではない。

 26日に明らかになった内部告発文によれば、トランプ大統領が米大統領の権力を利用し、ウクライナ大統領に圧力をかけ、米大統領選挙でのライバルに関する調査を強要することで選挙に介入させようとした。さらには、ホワイトハウスの上級官僚たちが会話記録の全容を隠すために、通常使われるサーバーからホワイトハウス外からアクセスできないサーバー に移すという隠匿行為があったと述べている。

 一方、弾劾調査はトランプ大統領の望むところ、という見方もある。混乱や怒りを招き対立を深めるのはトランプの手法であり、トランプ大統領は地盤固めのために弾劾調査を利用するだろう。親トランプ派の民主党攻撃は既に激しいものになっている。

 今後、どれだけ冷静に法にのっとった議論を展開できるかは、ペロシ議長の腕の見せ所だが、票決がどうであれ弾劾調査に対する民主党の姿勢が来年の選挙の行方に大きく影響するだろう。

【私の論評】トランプ弾劾は不可能、禁じ手を複数回繰り出す民主党は相当追い詰められている(゚д゚)!

米国では下院では過半数の賛成があれば、弾劾裁判を始められますが、最終的な評決は上院の3分の2が必要です。米国上院は共和党が与党ですから、20人程度の上院議員が寝返らないと、3分の2は取れません。

そのようなことは、現在の共和党の議員たちにできるわけなどありません。ニクソン大統領のウォーターゲート事件がありましたが、あのときニクソン氏は、弾劾されそうになったため自ら辞任しました。

リチャード・ニクソン氏

なぜ弾劾されそうになったかと言うと、当時の共和党の議員が彼を見捨てたからです。そこで、これはもう万事休すだということで辞任したのです。

しかし、いまの共和党の議員がトランプ氏を見捨てる等といえば、どうなるでしょうか。当時のニクソン氏と比較すれば、圧倒的に高い支持率のトランプ氏、それに発信力、粘り強さ、執着心、これを考えたら難しいです。

下手に弾劾に賛成してトランプ陣営を寝返りでもしようものなら、自らの支持者に離反されるおそれがあり政治生命を失ってしまう可能性すらあります。

そうすると共和党の議員の寝返りを考えている議員も、二の足を踏んで、20人も簡単に寝返ることはないでしょう。だから、弾劾などできません。裁判はできたとしても、弾劾にはならないということです。

そうなると、民主党支持者は「民主党は何をやっているのだ」となるでしょう。民主党はまさににルビコン川を渡ってしまい、難しい状況陥ってしまいました。大統領の弾劾は米国においては、禁じ手といっても良いくらいの手段なので、民主党支持者の中にもこれに反対する人も多いです、これではトランプ氏が辞任となることはないです。

大統領選も間近ということで、民主党も代表争いをやっています。この最中に、ウクライナ問題で、まさに火中でもあるバイデンさんや息子さんが、何やら怪しいことをやったのではないかという嫌疑がかかってしまったということです。

トランプ大統領は、中国にも捜査しろと依頼しています。頼む相手が間違っているのではないかとも思われますが、もしかすると中国も実施するかもしれません。そうなると、バイデン氏がさらに泥に塗れという事態も想定されます。
現状では、民主党の支持率も落ちていて、ウォーレン氏という方がかなり盛り上がって来ています。上り調子の背景には、相次いで打ち出す大胆な政策があります。

富裕税の導入、「アマゾン解体」、学生ローン帳消しなどで、穏健派からは実現性を疑問視する声も根強いです。ところが、ウォーレン氏は7月末の討論会で「『できない』と言うために、なぜわざわざ大統領を目指すのか理解できない」と切り返し、喝采を浴びました。


確かに、彼女の方が他の穏健派の候補者よりは、新しい感じもしますが、しかし彼女は根っからのリベラルですから、はたして民主党をどれだけまとめられるか疑問符がつきます。

民主的な選挙で選ばれた大統領を政治的な動機で糾弾し解任しようとする弾劾措置への反発は、米国民の間で従来から根強いものがありました。だからこそ民主党のペロシ議員は、昨年11月の中間選挙前も、「ロシア疑惑」が高まったそれ以前の時期でも、弾劾への動きには一貫して反対してきたのです。

もしも今回の弾劾措置に対してトランプ大統領が上院の支持を得て勝利を宣言したとき、同大統領への支持がさらに高まり、民主党への支持が減るというシナリオは十分に考えられます。

さらにもっと確実な見方として、今回の「ウクライナ疑惑」を理由とする弾劾手続きが、民主党側の大統領選の先頭走者であるバイデン氏への支持を大きく減らすことも予想されます。



バイデン氏には、オバマ政権の副大統領だったとき自分の息子の疑惑に関連して、ウクライナ政府に圧力をかけたという情報が流れています。トランプ氏への「ウクライナ疑惑」への調査に関連して、その疑惑が改めて浮上してしまう危険性があります。だからこそ今回の弾劾に関しては、「バイデン氏を大統領選から追い落とすための陰謀」という説も流れているくらいです。

やはり、民主党は最初から禁じ手とわかっている「弾劾」を今回だけではなく過去にも画策して結局失敗しており、相当追い詰められているとみべきです。

次の大統領選挙は、民主党にとってそんなに簡単ことではありません。そうなると、やはり余程のことがない限りトランプ氏が勝つ可能性がかなり高まったと見るべきでしょう。

【関連記事】

ロシア疑惑捜査、“灰色”決着か、モラー報告書、新たな訴追なし―【私の論評】実体なき疑惑という点でよく似た米国の「ロシア疑惑」と日本の「もりかけ問題」(゚д゚)!

トランプ大統領、対中関税25%に引き上げ表明 中国は協議取りやめと一部報道―【私の論評】大統領選を意識したツイートか?


2019年10月11日金曜日

日本の景気後退が「すでに始まっている可能性が高い」十分な根拠―【私の論評】実は日本政府には、簡単に効果のある経済対策を実行できる余地が十分にある(゚д゚)!

景気動向指数は「悪化判断」へ


10月7日に公表された8月分の景気動向指数(一致CI)は、前月から0.4ポイント低下し、内閣府による景気判断は「下げ止まり」から、再び「悪化」に下方修正されました。景気動向指数は複数の経済指標によって作成されますが、日本の景気変動を最も的確に示す指標の1つです。

内閣府の判断が悪化に転じたことは、日本が景気後退に至っている可能性が高いことを意味します。この判断は景気動向指数から機械的に決まりますが、政府の意図などとは関係なく、日本経済がいわゆる後退局面に近い状況にあることを客観的に示しています。

一方、景気動向指数の構成項目の多くは、製造業の生産活動の変動を反映するため、必ずしも経済全体の動向を表していない可能性もあります。春先から持ち直している個人消費、そして企業の景況判断を示す日銀短観の業況判断DIの水準などを踏まえると、「すでに景気後退に陥っていると判断するのは早計」との見方もできます。

また、今回は8月分の指数ですから、家電、日用品などにおいて増税前の駆け込み消費が9月に現れた影響で景気動向指数が持ち直し、来月には景気判断が上方修正される可能性が残ります。

はたして、日本の景気はすでに景気後退局面に入っているのか、いないのか。筆者が「すでに入っている」と考える理由を解説します。

消費増税後の景況感の焦点

この先の景気動向指数について考えるうえでの問題は、消費増税後の10~12月以降の景気情勢です。筆者は、消費増税によって10~12月は個人消費が大きく減速し、GDP(国内総生産)成長率はマイナス成長に至る、とみています。

仮に9月に景気動向指数が一時的に持ち直したとしても、10月以降も景気動向指数の低下は続くと予想します。そうであれば、約1年前の2018年10月頃をピークに、すでに景気後退が始まっていたと認定される、とみています。

消費増税の悪影響に加えて、海外経済の減速が長期化することも日本経済の成長下押しになると考えます。米中の経済紛争は、関税引き上げに加えて、一部企業の禁輸などにも広がりつつあります。

すでに、2018年12月から世界貿易量は前年比でマイナスに落ち込み、その後も停滞が続いています。貿易停滞を受けて、国内需要がしっかりしている米国を含めて、世界的に製造業の景況感悪化が広がっています。

広がる米中摩擦の波紋

そして、2018年から続く米中による関税引き上げの対象範囲は、2019年に広がっています。関税引き上げに伴う米中間の貿易や経済活動への悪影響はこれから本格化するとみられ、製造業の生産調整は長期化するでしょう。

製造業の生産調整を長期化させるのは、米中関税引き上げだけではありません。グローバル展開する米中の企業にとって、経済合理性に基づかない通商政策などの不確実性が極めて高いため、企業は設備投資抑制を強めているとみられます。設備投資需要の減少が製造業の売り上げ・生産を下押しする経路が今後明確になる、と筆者は予想しています。

確かに一部、アジアの半導体セクターなどに生産調整終了の兆しがみられます。しかし、貿易活動全体への下押しが続くため、景気底入れの期待は裏切られる可能性が高いとみています。

米国経済については、明るい動きもみられます。米連邦準備制度理事会(FRB)が2019年7月から利下げに転じる中で、調整していた住宅投資が回復に転じました。さらに、インフラ投資など政府による歳出拡大が2019年から明確になり、これらが米国経済の成長を支えしています。

ただ、製造業の業績悪化が非製造業や労働市場に及ぶ兆しもみられており、今後、米国経済は2%を下回る成長率に減速するとみています。

2020年にかけて中国次第の状況に

世界経済の減速が続く中で、経済成長を下支えする各国の金融・財政政策の役割は2020年にかけて高まります。

先に説明した通り、米国では金融・財政政策いずれも成長押し上げに作用しています。一方、中国では2018年末からの政策効果が明確に現れておらず、これが2019年の世界経済減速の最大の要因と筆者は考えています。

ただ、中国については、中央銀行による利下げ余地はかなり大きく、政治判断次第ですが、大規模な財政政策の発動が想定できます。2020年にかけての世界経済は、中国をはじめ成長率停滞に直面する各国で、成長率を押し上げる政策が行われるかどうかが、先行きを左右するでしょう。

米国以外では各国の政策対応が限定的にとどまると筆者は想定しており、経済成長率の減速は長引くと警戒しています。

改めて日本の状況を分析する

こうした観点で日本経済をみると、慎重にならざるを得ません。2018年後半からすでに日本は景気後退局面に入った可能性が高い、と筆者は判断していますが、この主たる要因は世界経済の減速です。

さらに2018年夏場に日本銀行が長期金利の上昇を容認する、引き締め方向への政策転換ミスも要因として挙げられます。日銀が引き締めを始めたことが日本の景気後退を招くパターンが、繰り返されたのかもしれません。

追い討ちをかけるように2019年10月から消費増税が始まり、財政政策が再び緊縮方向に明確に転じました。増税対策は行われていますが、ネットでは2、3兆円規模で恒常的な家計所得の目減りが起きており、これを補う政策対応は実現していません。

景気後退リスクが高まる中で安倍政権が増税判断に踏み出したのは、日銀が金融緩和を引き締め方向に動いたのと同様に、政策判断ミスと言えるでしょう。

先に説明したように世界経済減速に対して、多くの国が金融・財政政策により対応している中で、日本では金融・財政政策が双方ともに緊縮的に作用すれば、景気停滞が続くのはやむをえません。

今後、安倍政権の経済政策が大きく変わり、増税負担を上回るインパクトで、家計所得全体を押し上げる対応が実現すれば、米国同様に底堅い経済成長が実現するかもしれません。ただ、こうした財政政策の発動は期待できないと筆者は考えています。

<文:シニアエコノミスト 村上尚己>

【私の論評】実は日本政府には、簡単に効果のある経済対策を実行できる余地が十分にある(゚д゚)!

景気動向指数(一致CI)は、春先に一旦「悪化」となったのですが、その後、生産の一時的な反発もあって「下げ止まり」となっていました。しかし、指標が改定され、いま見直すと、一致CIは「下げ止まり」の条件を満たしておらず、「悪化」が続いていたことが分かりました。

これは、冒頭の記事で村上氏が指摘しているように、日本の景気がこの春までにすでに「景気後退」に入っていた可能性を示し、それが今なお続いていることになります。

政府は景気動向指数の落ち込み幅が小さいとして、景気後退ではないと言いたいようです。

しかし、景気先行指数は2017年11月の102.9から足元の91.7に11.2ポイント低下し、一致CIも2017年12月の105.3から今年8月の99.3まで6ポイント低下しています。

前回の景気後退となった2012年3月から2012年11月の間では、一致CIは97.1から91.2に5.9ポイントの低下となっていました。

現在の一致CIの低下幅はこれを上回ります。前回が民主党政権だったから「景気後退」と認定し、現在は自公の安倍政権だから「後退」ではない、というのであれば、あまりに恣意的すぎます。

景気悪化の主役は輸出の不振で、これが生産や投資の一部に波及していますが、その中でGDP(国内総生産)の半分以上を占める個人消費にも負担となる消費税の引き上げを強行しました。

景気認識とともに、消費税の影響についても政府の認識に甘さが伺えます。

消費増税、最後に駆け込み

西村経済再生大臣は8日、「一部の家電で9月に駆け込みが見られたものの、全体でみると前回に比べると駆け込みは大きくない。消費税引き上げ後の食料品、日用品の売り上げは1−6日の間で前年比1.1%減で、前回引き上げ時の19%減に比べて影響が小さい」と述べました。

しかし、駆け込みは当初少なかったとしても、消費税引き上げ間際、特に9月最後の週末には結構、家族総出の買い出しも見られました。

大手百貨店の売り上げは9月に宝飾品や高額品を中心に2桁の増加となったと言い、スーパーでも最後の週末にはビールなどの酒類やトイレット・ペーパーなど、カートいっぱいに詰め込んで買う姿が見られました。

家電などは買い替えサイクルの影響もありますが、需要・購買力の面から駆け込みができなかった面があります。

そもそも食料品については軽減税率が適用されたので、この面では駆け込みも反落もありません。半面、日用品についてはできる範囲で最後に駆け込んだと見られます。

ポイント還元に混乱

政府が消費税対策として胸を張るポイント還元については、随所で混乱が見られます。

そもそも、街を歩いても「5%ポイント還元」の赤いポスターを張ってあるお店があまりありません。

「5%ポイント還元」の赤いポスターを張ってあるお店

なんでも、全国200万の中小店舗のうち、ポイント還元を実施している店は50万店にすぎず、今申請中のお店を入れても80万店にすぎないと言います。

その中で、赤いポスターを張ってあるスーパーで買い物をしてみたのですが、キャッシュレスの支払い手段はクレジット・カードだけで、スマホ決済もパスモなども使えません。

そのクレジットも、VISAやマスターが使えず、間もなくJCBが使えるようになるといっていましたが、ほとんどの人が現金決済をしていました。唯一使えると言われたクレジット・カードで支払いましたが、明細にはどこにも5%のポイントの表示がありません。カスタマーサービスの人に聞いてみても、初めての試みで、どのように還元されるのかわからないと困惑気味でした。

カードの請求書が来た時によく見てみないと、本当に還元されるのかわかりません。

値引きと便乗値上げ
イートインと持ち帰りで税率を区別したり、同じ店の中に複数の税率の商品があってレジが対応できない店もあります。

中には手書きのレシートを用意して却って手間暇がかかるケースや、複数税率に対応できないとして、8%一本にして実質値下げで店が負担するケースも少なくありません。NHKの受信料も消費税は8%のままで、実質2%の値下げとなります。

その反面、消費税率の引き上げに伴う「便乗値上げ」も見られます。

ある公営図書館に併設されるレストランでは、先月まで税込み750円だったランチが800円になり、680円のメニューが720円に上がりました。他のメニューも同様に値上がりしていますが、どう見ても消費税の引き上げ分2%を大幅に超えた値上げです。

10月になってさすがに客足は鈍っています。

最悪の環境で消費増税

今回の消費税引き上げ、実施のタイミングもやり方も多くの問題を露呈しています。

政府は「緩やかな景気回復」といっても、内閣府の景気動向指数が今年の春以降、「景気後退」の可能性を警告される中で決断し、実行してしまいました。

タイミングとしては最悪の時期で、輸出の弱さに個人消費まで落ち込めば、「緩やかな回復」は通用しなくなります。

しかも、消費税の影響を緩和したいとは言え、複雑にしてしまったため、企業のコスト負担を高め、それでも対応が間に合わなくて混乱するケースが見られます。

さらに消費者の間にもキャッシュレス決済に抵抗のない人・手段を持つ人と、セキュリティの不安からスマホ決済に躊躇して現金払いで高くつく人、家も車も買う予定がなく「減税」と無縁な人など、負担の度合いは人さまざまで、不公平感も伴います。

目立った事前の「駆け込み」的な消費の盛り上がりは見られなくても、精一杯駆け込んだ可能性も否定できません。

その場合、10月以降の消費が低迷し、景気の悪化が進む可能性がありますが、その時に、政府はどんな手を打つのでしょうか。

経済対策はいくらでもある

日本政府のできる経済対策はいくらでもあります。それに関しては、このブログでも掲載したことがあります。その記事のリンクを以下に掲載します。
残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)! 
この記事では、高橋洋一氏の経済対策を掲載しています。それは、金利がマイナスになっている国債の現状を逆手にとり、財務省がゼロ金利になるまで、国債を無制限に発行して、経済対策につかうというものです。詳細はこの記事をご覧いただくものとして、この記事より一部を引用します。
財務省がゼロ金利までの無制限国債発行を行うと、日銀が今やっている金融政策とも相乗効果が出てくる。 
日銀は、イールドカーブコントロールといい、長期金利がゼロになるように国債買入を行っている。ただし最近の日銀の国債購入は、異次元緩和が始まった当初の年間80兆円ベースから、30兆円ベースまで落ち込んでいる。これは、市場の国債が品不足であるからだ。このため、金融緩和圧力は高くない。
ここで、財務省がゼロ金利まで国債無制限発行に乗り出せば、日銀の金融緩和効果はさらに高められる。しかも、得た財源で景気対策を行えば、まさに財政・金融一体政策となり、目先の消費増税ショックを回避できる可能性も出てくる。しかも、金利正常化で金融機関支援にもなる。 
逆にいえば、こうした「美味しい」金利環境を財務省が見過ごし、金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であることの証明といえる。
これは、考えてみれば、当たり前といえば当たり前です。国債とは政府が政府外から借金をする手段ですが、その金利がマイナスというのですから、そのマイナスの分は国債を発行した政府の儲けということになります。

こんなのは、小学生でもわかる理屈です。このような美味しい、対策を行わない手はありません。これで対策を行いつつ、消費税もいずれ5%にでも戻すというような政策を行えば、 消費増税ショックを回避できる可能性はかなり高まります。

国債を発行する行為は、難しいものではありません。財務省は何の苦もなくすぐにできることです。

これを財源として、軽減税率などやめて、わかりやすい給付金制度にするとか、さらに消費税が駄目というのなら、他の税金を下げることにより、消費税増税のショックなど簡単に回避できる可能性はかなり高いです。

もし、これから先景気がかなり落ちても、財務省が金利ゼロまでの無制限国債発行を行わないとすれば、それは彼らが増税しか頭にない「無能官庁」であり、財務官僚は「無能官僚」と烙印を押されても仕方ないです。

金子原二郎参院予算委員長

それにしても、本日の参院予算委員会では、いつもどおりで、与野党ともに、審議の内容は予算以外のものがほとんどでした。本当に情けない限りです。一体日本の政治家は、現状を認識する能力があるのでしょうか。本当に困ったものです。

【関連記事】

池上彰さんへ、消費増税について議論しませんか 政府の主張を代弁?財政危機あおる解説に疑問 ―【私の論評】野党は、臨時国会を「三点セット」(関電、あいちトリエンナーレ、NHK)で終わらせるな(゚д゚)!

残り3週間!「消費増税で日本沈没」を防ぐ仰天の経済政策がこれだ―【私の論評】消費税増税は財務省の日本国民に対する重大な背信行為(゚д゚)!


米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念―【私の論評】日本への警鐘:アイデンティティ政治とビバリーヒルズ左翼の台頭に見る危機

  米、反イスラエル学生デモ拡大 バイデン氏、再選へ影響懸念 まとめ 全米の大学で、イスラエルによるパレスチナ自治区ガザ攻撃を非難するデモが拡大している。 デモはニューヨークのコロンビア大から始まり、ワシントンにも波及しており、バイデン大統領の支持基盤である若者の離反が懸念される...